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平成 19 年(2007 年)10 月 16 日 ~高成長続く

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平成 19 年(2007 年)10 月 16 日 ~高成長続く
平成 19 年(2007 年)10 月 16 日
~高成長続く共産党大会前の中国経済~
1.経済動向
(1)容易に顕在化しない引き締め効果
金融引き締めならびに投資抑制策が強化されたにもかかわらず、投資動向は
依然として衰える気配がみられない。1~8 月の都市部の固定資産投資(投資全
体の 8 割以上を占める)は前年比+26.7%と高水準を続けており、なかでも、不
動産投資の伸びが目立つ(同+32.0%、第 1 図)。
第 1 図:投資と貸出の推移
(%)
7.5
(前年比、%)
60
50
40
投資(累積ベース)
うち不動産投資(累積ベース)
貸出残高
貸出金利(1年、右目盛)
7.0
6.5
30
6.0
20
5.5
10
5.0
04
05
06
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
07
(年)
こうした状況を踏まえ、人民銀行(中央銀行)は 9 月 14 日、3 カ月連続の利
上げに踏み切った(預金・貸出基準金利ともに上げ幅は 0.27%、翌日実施)。
利上げは、2004 年 1 回、2006 年 2 回にとどまっていたが、本年はこれで 5 回目
となり、人民銀行の焦燥感が窺われる。もっとも、1 年物貸出金利は利上げ局
面に入ってから合計で 2%近く引き上げられ、7.29%に達するとはいえ、実体
経済が二桁成長を続けるなかでは中立水準には程遠い。ここからみても、金融
引き締め効果を顕在化させるのは容易でない。
9 月 27 日には、人民銀行、銀行業監督管理委員会が連名で不動産融資に関わ
る新たな規制を打ち出した。頭金比率を、2 軒目以降の住宅ローンについては
1
30%から 40%に、商業用物件については 40%から 50%に、それぞれ引き上げ、
貸出金利はともに基準金利の 1.1 倍以上とした。また、住宅価格の再評価に伴
う追加融資を禁止、買占め行為などが認められる開発業者に対する融資も禁止
した。しかし、不動産投資ならびに価格の抑制効果は限定的との声が少なくな
い。
さらに、人民銀行は、10 月 13 日には本年 8 回目となる預金準備率引き上げを
発表した(25 日実施、12.5→13%)。
従来、引き締め効果が十分現れなかった背景には、地方政府幹部が高成長に
より、中央政府からの評価を高めようとする慣習が指摘されている。胡錦濤政
権は前江沢民政権時代の高成長路線から持続可能な安定成長路線への転換を掲
げ、省エネルギーや環境保護の重要性を強調しているものの、評価基準を改め
るまでには踏み込んでいないとみられる。
10 月 15 日から 5 年に 1 度の最重要会議である共産党大会が開催され、前回に
政権交代した胡錦濤政権は 2 期目に入り、それだけ政権基盤も固まっている。
しかし、地方政府の評価基準を高成長から省エネルギーや環境保護などに切り
替えた場合の景気失速のリスクも軽視できないだけに、どこまで路線転換が実
現するのか注意深くみる必要がある。
(2)インフレ対策の拡充
足元では物価上昇も目立っている。8 月の消費者物価上昇率は前年比 6.5%と、
96 年末以来ほぼ 11 年振りの高水準に達した。食料品価格が 18.2%と高騰して
いることが主因で(第 2 図)、非食料品価格の上昇率は 0.9%にとどまる。国
際価格の上昇やバイオ燃料向け需要の拡大などを背景とした穀物価格の上昇が
肉・卵・食用油などの価格上昇に波及したものとみられる。特に、豚肉につい
ては伝染病の流行などの要因も加わったことから、価格がほぼ倍増し、国民の
不満を掻き立てている。
第 2 図:食料品価格の推移
(前年比、%)
60
食料品(100)
50
肉類(21.4)
40
卵(2.7)
30
20
野菜(10.5)
10
穀類(9.2)
0
魚介類(7.2)
-10
果物(7.8)
-20
03
04
05
06
(注)()内は食料品価格に占めるシェア
(資料) CEIC等より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2
07
(年)
これに対し、9 月 19 日、国家発展改革委員会など政府 6 部門は合同で物価安
定に関する通知を公表し、原則として、年内は政府管理下にある石油、電気、
運賃などの価格を凍結するとした。また、21 日にも国家発展改革委員会を含む
政府 8 部門合同の通知が公表され、年内のインフレ対策として、政府備蓄のと
うもろこしや豚肉の放出、8 月から導入されている都市部の低所得層に対する
補助の臨時引き上げ(従来の 1 人当たり月額 15 元に対し、10~12 月は 10 元増
額し 25 元)などが盛り込まれた。
(3)輸出抑制品目を中心に輸出減速
8 月の輸出は前年比+22.7%と前月に比べ 10%以上伸び率が低下した。政府は
これを、6 月以降、輸出関税の導入、輸出時の付加価値税還付率の引き下げ、
加工貿易における制限品目の拡大など輸出抑制策を強化してきた成果と評価し
ている。
確かに、品目別の輸出動向をみると、第 3 図の通り、エネルギー多消費型、
高汚染型産業の製品である鉄鋼・非鉄金属ならびに労働集約型製品である繊
維・アパレル、履物・家具・玩具など、主たる輸出抑制品目の減速が目立つ。
一方で、ほとんど規制対象に含まれていない機械・電気機器の輸出の伸びは
30%近い水準を維持している。
第 3 図:品目別輸出伸び率
(前年比、%)
120
100
80
全体
60
機械・電気機器
40
繊維・アパレル
20
履物・家具・玩具
0
鉄鋼・非鉄金属
-20
-40
03
04
05
06
07
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
3 月同様、駆け込み的な輸出の反動に過ぎないとの見方もあったが、9 月も輸
出は同+22.8%にとどまった。しかし、8、9 月ともに輸出の伸びが大幅減速し
たとはいえ、輸入の伸びはさらに低く、貿易黒字の拡大基調に変化がなかった
点は注意を要する。投資抑制を主眼とする引き締め策が、これまでの生産能力
拡大に伴う輸入代替の進展とも相まって、皮肉にも輸入抑制に強く影響してい
る側面があり、貿易不均衡是正を一段と難しくしている。
3
2.金融情勢
(1)人民元相場
人民元の対ドル相場の上昇ペースは依然として緩やかである。月間上昇率を
みると、1 日の対ドル変動幅が 0.3%から 0.5%へと拡大された 5 月には 0.74%
と過去最高水準に達したが、その後は 0.4~0.5%程度の上昇にとどまった(第
4 図)。
第 4 図:人民元の対ドル相場の推移
(人民元/ドル)
7.50
7.55
5月
1月
0.74
0.48%
%
2月
0.36%
5月
0.74%
4月
0.40%
3月
0.16%
6月
0.44%
8月
0.44%
7月
0.51%
9月
0.49%
7.60
7.65
7.70
対ドル相場の日中変動幅拡大
7.75
7.80
7.85
07/1
2
3
4
5
6
(注) 内の%は矢印で示された期間の対ドル上昇率
(資料)CEIC等より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
7
8
9
10
(年/月)
これに対し、米議会における人民元問題への関心は一時的とはいえ若干薄ま
っている感がある。6 月には、中国をターゲットにした為替相場監視改革法案
が議会に提出され、議会の夏季休会前にかけて成立への動きが盛り上がってい
た。しかし、休会明け後の議会の関心はサブプライム問題などに集中している
ようである。
もっとも、対中赤字が拡大している EU でも、人民元相場上昇を求める声は
強まっており、10 月 19 日開催予定の G7 で参加国に働きかけるという動きもあ
り、海外からの圧力は依然として根強い。
(2)外貨準備運用機関の創設
9 月 29 日、中国の外貨準備を運用するための機関として、中国投資有限責任
公司(CIC)が正式に発足した。財政部が特別国債の発行により 1 兆 5,500 億元
を調達して、外貨準備 2,000 億ドルを買い取り、資本金として CIC に注入する
形を取り、会長には元財政部副部長である楼継偉・国務院副秘書長が就任した。
巨額の資本流入に伴い、中国の外貨準備は急増し、2006 年 2 月には日本を抜
いて世界第 1 位の外貨準備保有国に躍り出た(第 5 図)。さらに、2007 年 8 月
4
末現在では外貨準備高は 1.4 兆ドルにまで膨らんだ。こうしたなか、米国債を
中心としたローリスク・ローリターンの運用にとどまらず、シンガポールの政
府系ファンドを参考に、一層の有効活用を志向する動きである。
第 5 図:中国と日本の外貨準備
(億ドル)
16,000
14,000
12,000
中国
10,000
日本
8,000
6,000
4,000
2,000
0
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
(年)
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
CIC の創設は早くも内外に波紋を広げている。正式発足に先行して、2007 年
5 月には、米大手投資会社ブラックストーングループに 30 億ドル出資すること
が発表され、ハイリスク・ハイリターン運用への取り組みが早くも明示された。
しかし、足元のサブプライムローン問題に伴う米株式市況の悪化もあり、巨額
の評価損を抱えたとの報道もある。
また、CIC の創設は、政府系投資ファンド全般に対する関心を高める結果と
なり、ヘッジファンドに比べても低いといわれる運用の透明性向上に向けての
圧力強化を求める声が強まりつつある。
なお、CIC の資本金調達に伴う 1 兆 5,500 億元の特別国債の発行により吸収
し得る流動性の規模は、預金準備率引き上げの 10 回分に相当するだけに、大き
な引き締め効果が期待されていた。しかし、金融資本市場への影響を考慮して、
結局、分割発行となり、第 1 回として 6,000 億元の特別国債を国有銀行が引き
受けた後、人民銀行が買い入れるという形が取られた。今後も市場への配慮か
ら、さほどドラスチックな資金吸収が行われるとは考えにくい。
(3)株価動向
中国の株価は、株式市場改革の進展が好感されたことを契機に 2006 年以降急
騰してきた(第 6 図)。こうしたなか、当局は株式市場の過熱対策として、金
融引き締めを強化するとともに、大手国有企業の上場を促している。
5
第 6 図:株価動向(上海総合)
(90年12月19日=100)
2006年
130.4%
6,000
2007年~現在
約120%
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
06/1
3
5
7
9
11
07/1
(注) 内の%は矢印で示された期間の株価変動率
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
3
5
7
9
(年/月)
四大国有商業銀行のうち中国銀行、工商銀行は昨年上場を果たしたが、これ
に続いて、9 月 25 日には建設銀行も上場、調達額は 580 億元(77 億ドル)と工
商銀行を抜いて史上最高額に達した。さらに、10 月 9 日には、石炭最大手であ
る中国神華能源が上場、調達額は 666 億元(89 億ドル)と建設銀行を上回った。
今後も大手石油会社、中国石油天然ガスによる 500 億元規模の上場が予定され
ている。
こうした優良企業の上場が需給緩和を通じて、株式市場の安定成長につなが
るのか、インフレ下で貯蓄から投資に傾斜しつつある家計の関心を惹き付け、
一段の過熱を呼ぶのか注視する必要があろう。
照会先:経済調査室 (次長 佐久間) TEL:03-3240-3204
E-mail:[email protected]
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