Comments
Description
Transcript
生前贈与で妻の老後の生計を考える 現経営者からの相談
Q18 生前贈与で 妻の老後の生計を考える (現経営者からの相談) 事業承継計画を立てている経営者です。今回は“生前贈与”のこと で後日相談に参りたいと思います。事業については長男にバトン タッチする方向性は明確で、株式についても、顧問税理士の指導 のもと、計画的に譲渡しているところです。他に子供はおりませ んが、気になるのは妻(60 歳)のことです。自宅も事業用資産の 土地の隣に建っており、他に多く の財産もありません。妻と息子の 嫁との関係がずっと円満な保証 もないため、とても気になってい るところです。果たして、今のま ま、計画的に株式を移転していっ てよいのか悩んでいます。 「書面相談」- 来所希望 - (金属加工業 62 歳) 相談者の本音のつぶやき 息子の嫁と妻は、このまま、うまくいくのかなあ。 自宅については、遺言で明確にした方がよいかな。 私がいなくなった後の妻の老後の生活が心配。 このまま株式を移転していいのか不安になってきた。 どのように自分の意思を伝えておけばよいのだろう。 110 あらかわ事業承継相談室 老後の生活資金 西相談員 顧問税理士に株式の譲渡について指導を受けながら事業承継計画 を進めているという方が、相談に来るそうです。 東 主 任 今回の相談は、現社長と奥さんが、安 心して老後の生活をどう設計するかが テーマだね。 まず、会社における奥様はどのような 地位で、また仕事の内容がどのような ものかを確認しなくてはね。 そのうえで、役員もしくは社員、またはまったく関与していない のかによって、回答が分かれることになるよ。 西相談員 どのように回答が分かれるのですか ? 東 主 任 例えば、そこのホワイトボードをご覧ください。 老後の生活の検討 1. 役員の場合 ──保険等を利用した本人への退職金の支給の検討 2. 社 員の場合 ──過去の厚生年金等の加入状況などを考慮して対策を 考える 3. ま ったく関与していない場合 ──不動産収入等の老後の生活資金が 確保できるようにする 4. 現社長の生命保険金の状況。保険金額、受取人等の確認 5. 上記 1と 2 と 3 を並列的に検討する といったことです。 111 Q18 西相談員 わかりました。それと息子さんを後 継者として決めているのだから、株 式の譲渡については、顧問の税理士 先生の指導のもと、そのまま計画的 に続けることも大事だと思います。 東 主 任 そのとおりだね。老後の生活の面で は、自宅を、奥様に確実に移転させ ようとするなら「遺言書」によって、確実にするのがよいね。 ご相談者には、この点を伝え、安心してもらいたいと思います。 嫁と姑の関係を考慮した財産の分割 西相談員 それから、嫁と姑の将来の関係なんて予想がつきませんが、どの ように財産を分割をしていったらよろしいのでしょうか。 東 主 任 まず、その場合の考え方だけど、ホワイトボードに整理して書い てみよう。 (第 1 案)今回の相談ケースは、これまでの奥様の功労として報 いる方法を相談されているのだから…… 個人資産と事業用資産とを出来る限り分 けて考える。 個人資産は奥様に、株式並びに事業 に必要な資産は会社と息子さんに、 これを基本方針とする。お子様は他 にいないということなので、株式は 100% 息子さんに移転させる。 株式に関しては「経営はお前に任せ る。お母さんには、配当金を小遣い 112 あらかわ事業承継相談室 として渡し、楽にしてやれ」という父親の愛と願いを息子さん夫 婦に伝える。 (第 2 案)として、株式を奥様に相続して、その後息子さんに買 い取ってもらう方法も検討する。できれば公正証書遺言にするの がよいと思う。⇒付録5を参照してください。 財産の分割 1 案 2 案 個人資産と事業用資産とを出来る限り分ける ①個人資産→妻 ②株式→息子さん 事業用資産→会社 ①株式を妻に相続 ②その後息子さんが買取り 所 長 西君。東君のホワイトボードを参考に纏めてみてくれ。 長年連れ添った奥様の老後をご心配されるのは当然だと思う。や はり経済的な安定が一番だと思うが、ご主人が健康で長生きをす ることも奥さん孝行の大切な要素だということを忘れないように アドバイスをすることだ。 113 Q18 ○○ 株 式 会 社 ○○ ○ 様 前略 平成 23 年○月○日、あらかわ事業承継相談室に文書でご相談をい ただきました。 ○○様のご相談内容について検討をしましたので回答をいたします。 参考の一つにしていただければ幸いです。 ─────(中略)───── 最後にポイントを整理します。 ポイント ◦老後の公的年金、生命保険、退職金を活用した老後の生活設計を 立てる。 ◦個人の資産と事業用資産とを出来る限り分けて考える。 ◦個人の資産は奥様に、株式並びに事業に必要な資産は会社と息 子さんに、これを基本方針として検討する。 以上をご検討のうえ、ご来所をお願いいたします。 草々 平成 23/ ○○ / ○○ あらかわ事業承継相談室 114 あらかわ事業承継相談室 あらかわ事業 承継相談室 115 コ ラ ム 公正証書遺言 公正証書は、法律の専門家である公証人が公証人法・民法などの法律に従っ て作成する公文書です。法律で公正証書等の作成が求められている法律行為 もあります。 公正証書は一般の人には、あまり馴染がなく、いきなり遺言を公正証書で 作れと言われても戸惑われます。 公正証書にして遺言を作成する理由は何だと思われますか。 公正証書にしないで遺言者みずからが、遺言書を書く形式の遺言書を「自 筆証書遺言」といいます。 本屋の店頭にも、「遺言キット」なるものも出回っています。 自筆証書遺言の形式(書き方)は法律で厳格に定められていますが、この キットに従って記入するだけで失敗なく、自筆証書遺言を書きあげることが できるようです。費用を安くあげたい方は自筆証書遺言がよいということに なります。 遺言は一生に何回書いてもよいのですが(最後に書いたものが遺言となり ます)、普通は一生に一度の出来事なのかもしれません。 前に述べたとおり、形式が厳格に決まっておりますので、自筆証書遺言は、 不備のある場合が多く、例えば、病気中の作成は、手が震えて筆跡が変わる こともあって、遺言者本人が書いたかどうかがわかりませんから、遺言の効 力について争いがでたりします。 それなら、健康な時に書けばよいと思われるかもしれませんが、これが、 なかなかできません。元気で日常の普段の生活に追われている時は、なかな か遺言を書く気にならないのが人情だと思われます。 自筆証書遺言の場合、タイプライター、ワープロで書いたものは、無効と なります。 116 Co l u m n 加筆、削除、変更の訂正をした場合は遺言書の該当箇所にその旨を付記し、 これに署名押印しなければ、変更の効力も認められません。 お気付きのとおり、こういった形式の文書の作成は、普通の職業の人は、日 常、めったにやるものではありません。 また、自筆証書遺言は、遺言者がなくなった後、家庭裁判所に届け出て、検 認手続をすることも必要となります。この検認手続をしなかったり、勝手に自 筆証書遺言を開封したりしますと、5 万円以下の過料の対象となります。 また、確かな人に預けないと紛失、隠匿、改変の危険性も高いものとなります。 検認手続がいらない死因贈与という方法もとることができますが、これは、 “私が死んだら贈与する”という契約になるところが、遺言者が単独でする遺 言と違うところです。したがって、死因贈与契約を締結するためには、贈与を 受ける人が、受諾をする必要があります。 これに対して、公正証書遺言は原本が公証人の手元に保管されるので、紛失・ 改ざん・盗難などの心配はいりませんし、面倒な家庭裁判所の検認手続がいら ないという点も見逃せません。遺言者には公正証書遺言の「正本」 が渡されます。 公正証書遺言は、遺言の中で自筆証書遺言や※秘密証書遺言(= ほとんど利 用されていません。)に比べ一番安全といえます。 公正証書で書類を作るという一番の理由はこの安全性です。 もっとも、長所だけではありません。例えば、手続は面倒です。公証人への 依頼費用もかかるし、証人 2 人以上の立ち合いが必要ですので、遺言の内容 を立ち会った証人たちに知られてしまうという欠点もあります。 公正証書遺言は、遺言者の生存中は、本人以外は閲覧できないという特徴が あります。 費用はどの程度かかるのかというコスト面の話ですが、これは公正証書遺言 を作成するときの目的財産の価格に応じて異なります(大雑把にいえば 5 〜 10 万円程度)。 詳しくは公証人のホームページで見られますから確認してください。 117