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プレーヤースキルとリーダーシップの視点で 自律型人材を育成する
解 説 1 プレーヤースキルとリーダーシップの視点で 自律型人材を育成する シェイク 代表取締役社長 吉田 実( よ し だ み の る ) 大阪大学卒。住友商事株式会社に入社し、営業・新規事業立ち上げに携る。2003 年シェイク入社。営業責任者(人 材育成事業の立上げ) 、ファシリテーターを経て、2009 年代表取締役社長に就任。新入社員から若手・中堅社員、 管理職層まで 20,000 人以上を育成。20~30 代中心のリーダーシップ開発の専門家として、多数のメディアで活躍。 著書『「新・ぶら下がり社員」症候群』 (東洋経済新報社) 。 ポイント ❶ 今年の新入社員は、「マジメな優等生」、「積極的フォロワー」、「鈍感さ」、「マニュアル探し傾向」が強く、 一言でまとめると、「言われたら俊敏、言われないと鈍感」。 ❷「プレーヤースキル」を求める現場と、「リーダーシップ」を求める人材開発部門のズレにより、枠にはまった新 入社員になっていく。 ❸ 自律型人材を育成するには、「プレーヤースキル育成」と「リーダーシップ開発」を分けて考え、短期的には「プ レーヤースキル育成」を、中長期には「リーダーシップ開発」の視点を入れて育成していく。 自律型人材育成で大事な 主体性とは何か たときにキーワードになるのが 「主体性」 である。 「主 体性」とは、 「自分の意志・判断で行動しようとする 態度」 (大辞泉)とある。 先日、企業の人事担当者から興味深い話を聞いた。 新入社員研修で往々にしてみられるのが、人事担 新入社員が職場に配属になったあと、上司から「今 当者が新入社員に「主体性」の重要性を伝え、受講 年の新入社員は主体性が低い」という意見があった。 者が「主体的に行動することは重要である」とノー その新入社員は、研修時のグループワークでは積極 トにメモをしている姿である。ところが、その後「何 的に発言し、研修運営も進んで手伝うなど、主体性 か質問はありますか?」とたずねても、誰も質問を を発揮していた。不思議に思った人事担当者が、新 しない。メモはしたが、主体的に行動することはで 入社員に直接事情を聞いてみると、次のように答え きないのだ。では、新入社員がどんどん挙手をした たという。 なら、主体性が発揮されているといえるのだろうか。 「研修のときは主体的に行動しろと言われていま そもそも、主体的に行動しろといわれてした行動は した。 しかし職場ではそのように言われていません」 。 「受身的」であり、主体的ではない。指示されたか 若手人材育成のあるべき姿として、 「自律型人材」 ら挙手をしているのであって、 「自分の意志・判断で を掲げる企業は多い。 「自ら考えて行動し、やりきる 行動しようとする態度」ではないのである。 人材」である。これは、変化が激しい時代において 私自身、今年の新入社員に対して感じたのが「し 当然の流れである。そして、自律型人材育成を考え つけられた主体性」である。一見、主体性を発揮し 8 企業と人材 2015年9月号 解説1 ているようにみえるものの、それは、しつけられた いない。そのため現場では、成果を出すための道筋 姿であり、本人が自分の意志で行動しようとしてい を自分で考えることができず、立ち止まってしまう。 るわけではない。これでは冒頭のエピソードのよう に、現場で主体性を発揮できないということが起き てしまうのである。なぜ、このようなことが起きて 職場と人事のあるべき姿のずれと 育成ニーズの違い しまうのだろうか。まずは、今年の新入社員にみら このような新入社員に対して、どのような育成を れた特徴から整理したい。 していくべきか悩んでいる人事担当者は多い。ただ、 今年の新入社員の特徴は 「言われないと鈍感」 新入社員の育成手法を考える前に重要なことは、そ もそもどのような人材を育成すべきなのかを明確に することである。先の事例のように、研修で育成し 今年、シェイクでは約 8,000 人に対して新入社員 ようとした主体性が、職場では発揮されないといっ 研修を実施した。われわれがとらえた新入社員の傾 たことが起きている原因を考えることが必要なので 向を一言でまとめると、 「言われたら俊敏、言われな ある。これまで上記のような問題を抱えている企業 いと鈍感」である。2015 年度新入社員は、情報化社 をたくさんみてきたが、往々にしてあるのが、職場 会、SNS、デフレといった環境のなかで育ってきて が新入社員に求めるあるべき姿と、経営や人事部が おり、クリックひとつですぐに答えを出せる世界に 求めるあるべき姿がずれていることである。 いる。また、SNS などの“目に見えない関係”に慣 職場では、少しでも早く戦力となり、成果を出せ れており、他世代に比べ対面交流の機会が少ないと るようにするための育成に注力をする。そのために いう特徴がある。 は、 「マナー」 、 「仕事の進め方」 、 「ホウレンソウ」 、 「時 もう少し具体的にみてみると、以下の4つの傾向 間を守る」 、 「電話応対ができる」 、 「素早く行動する」 に整理できる。 といった教育に重点が置かれる。これらの行動がで ①言われたことはすぐ対応“マジメな優等生” きないと、顧客の前に出ることはもとより、職場の 今年の新入社員は「真面目」 、 「素直」が特徴であ 人との協働もできない。ここでは新入社員の独自性 る。物事に真摯に取り組み、言われたこと、フィー よりも、 「まず、言われたことをやる」ことが求めら ドバックされた点は、素早く対応することができる。 れる。新入社員に求められているのは、 「プレーヤー その背景には、自分の評価を気にする傾向がある。 スキル」なのである。 ②自分は先頭を走らない “ 積極的フォロワー” 一方で、経営や人事部が求める新入社員のあるべ チームに貢献しようという思いはある一方で、自分 き姿とは、どのようなものだろうか。それは、変化 からリーダーシップを発揮することには消極的である。 の激しい時代において、人から言われたことを実行 ③相手の感情を読みとれない“鈍感さ” するだけでなく、自ら問題意識をもち、課題を発見 言葉の裏の感情や期待を深く思考し、それらをと して、その解決に向けて周りの人を巻き込みながら らえて動くのが苦手な傾向がある。指示される前に 行動していく姿である。いわゆる、 「言われる前にや 先回りして行動することができない。 る」 、 「指示されていないことをやる」ことを期待さ ④まずは教えてください“マニュアル探し傾向” れているのである。そのためには、自分の強みを活 まずはネットで情報を探し、解を導くことが身に かしながら、自分なりの意見をもち発信していくこ ついているため、やり方を考えることが鍛えられて とや、新人らしい独自性や発想が求められるのであ 企業と人材 2015年9月号 9 特集 学びを活かす新入社員教育 る。ここで新入社員に求めているのは、 「リーダー ここでは、これらを多くの企業にあてはまるよう シップ」なのである。自ら考えて、周囲に影響を与 に一般化した場合、どのように育成体系を構築して えながら実行していく力は、リーダーシップ開発に いけばよいのかを、 具体的に考えていきたい。 大きく、 ほかならない。 「内定者時期」 、 「入社時研修時期」 、 「職場配属後」 しかし、いざ新入社員が職場に配属となり、 「指示 の3段階に分けて考えていく(図表1)。 されていないこと」を実行し出したらどうなるか。 ①内定者時期 職場では、 「まずは、指示どおりに動く」ように指導 この時期には、プレーヤースキルよりも、将来、 されることになる。 リーダーシップを発揮できる人材になるための準備 このとき新入社員が感じるのは、 「矛盾」である。 に注力すべきである。それは、 「軸づくり」 、 「自己効 人事が求めるものと、職場が求めるものが違うこと 力感の醸成」 、 「関係づくり」である。 を感じて、自分の行動に制約をかけていく。とくに 「軸づくり」とは、入社後、迷ったときや悩んだと いまの新入社員はリスクに対して敏感で、失敗をお きに立ち戻ることができる 「軸」 をつくることである。 それる傾向にあるため、職場で“怒られる”リスク 軸となるものは、大きくは「働く目的」と「価値観」 を感じたら、 「言われたことをやっておくほうが安全」 がある。 と感じ、枠にはまった人材になっていくだろう。 「自分は何のために働くのか」 、 「なぜ、この会社に 職場の先輩社員にも、主体性が重要であることを 入ったのか」を深く考えて、働く目的として言語化 わかっている人は多い。しかし実際には、主体性を しておく。お金のためや出会った人に惹かれたと 発揮しているロールモデルがいなかったり、主体的 いった入社動機もあるが、もっと深く考えていくと、 な行動に対するポジティブなフィードバックが得ら 社会や人に対する貢献や、自社だからこそ実現でき れなかったりすることで、主体的な行動を後押しし ることなどがみえてくる。このような軸を原点とし ない職場になっている場合が多いのだ。 て、しっかりと言語化しておく。入社後は、現場で いま求められる 新入社員の育成方法 の仕事に対する不安などが大きくなりがちなため、 長期的なことや根本的なことを深く内省して言語化 するのは、内定時期のほうが望ましい。 私自身、これまで「自律型人材」の育成に数多く また、リーダーシップを発揮していくために、自 携わってきたが、たとえば、 「迅速に仕事を進める」 分の価値観を自覚しておくことも欠かせない。これ ということと、 「得た情報を自ら職場の人に発信する」 までの学生時代を振り返り、自分が培ってきた価値 ということは、大きく違う。 「自律型人材」の育成が 観を言語化しておくことは、社会人生活を送るうえ 重要なのは間違いないが、大事なことは、 「自律型人 での原動力になる。実際には、仕事をしていくなか 材」という言葉で終わらせずに、より分解して考え でこの軸は磨かれていくものだが、内定時期に言語 ることである。 化しておくと、困難な状況や理不尽に感じることも 具体的には、 「プレーヤースキル育成」 と 「リーダー 多い社会人生活を乗り越えていくための「折れない シップ開発」 を分けて考えることだ。 いうまでもなく、 自分づくり」に役に立つ。 どちらも必要な力であるが、短期的には「プレーヤー 「自己効力感の醸成」は、 「やったらできる」とい スキル育成」が求められ、中長期視点に立ったとき う感覚である。社会人になって伸びていく人は、こ には、 「リーダーシップ開発」が欠かせない。 の自己効力感をもっている人が多い。学生時代だか 10 企業と人材 2015年9月号 解説1 修時期には、まずは会社の 図表1 段階ごとの育成体系構築 経営理念の理解をはじめと 内定者時期 入社時研修時期 職場配属後 軸づくり 「働く」ことを体感させる 相互理解の促進 自己効力感の醸成 関係づくり リーダーシップ開発の準備 する会社理解や仕事理解を 促すと同時に、現場で関係 「かわいがられる新人」にする 「教え与える」のコントロール よい習慣をもたせる 職場全体で育成 プレーヤースキルの土台固め プレーヤースキルの育成 リーダーシップ開発の布石 リーダーシップ開発の視点 者に迷惑をかけることなく、 スムーズに仕事に取り組む ことができるよう準備する。 研修実施にあたっておさえ ておきたいポイントは、以 下の3つである。 らこそできることにチャレンジして、自分の枠を広 1つ目は、 「働く」ということを体で感じさせるこ げながら、 「挑戦して、努力をしたら成し遂げること とである。 「成果を出すことが大事だ」 、 「仕事には、 ができる」という成功体験を積んでおくことが望ま 真剣に取り組まなければならない」といったことを しい。とくに、自分の想いをもとに何かを企画し、 いくら教えても、それだけでは意識や行動は変わら 人を巻き込む経験を積んでおくと、あとで大きな違 ない。それではあまり意味がない。ポイントは「体感」 いとなってくる。 「自分の意見・主張・存在には意味 させることである。 「働く」とはどういうことかを体 がある」といったように、自分自身を承認できる人 感するためには、本気の経験が必要だ。 材となるためには、 「やったらできる」という感覚を よくみられるのが、体感型のシミュレーション形 実感値としてもっていることが重要である。 式の研修を実施しているものである。しかし、就職 「関係づくり」とは、同期同士の関係性の強化であ 活動時期からグループワークや体感型のセミナーに る。入社後、苦しいときに最も重要になるのが、本 慣れている新入社員は、単なるゲームのようにとら 音で話せる同期の存在である。最近、新入社員研修 えてしまい、答え探しをしてしまう。大切なのは、 を実施していて感じるのは、同期同士でも本音で話 本気で取り組ませることで、実際の仕事の厳しさや していないことである。掘り下げて聞いてみると、 真剣に仕事に向き合って成果を出す面白さを、経験 人と表面的な関係構築はできるが、本音で話すとい させることである。この経験は、その後の仕事をす う経験をしてきていない人が多いことがわかる。社 るうえでの原体験となってくる。 会人になってたくましく成長していくには、苦しい 2つ目は、 「かわいがられる新人」にすることだ。 経験を乗り越えていくことが必要だが、そのために 職場の上司や先輩が、教えてあげたい、成長させた は本音で話せる仲間となる同期との関係づくりに力 いと思える新人であれば、職場で成長をし続けてい を入れたい。 く。新入社員の特徴の1つとして、相手の感情を読 ②入社時研修時期 み取れない鈍感さがあるが、まずは、相手の期待や 入社時研修の時期に必要なことは、会社へのロイ 感情を素直に聞くことができる新人になることだ。 ヤリティやコミットメントを上げると同時に、プレー そして、教えてもらったことに対して、素直に感謝 ヤースキルの土台を固めることである。新入社員は、 するスタンスを醸成していくことである。このよう 企業で働くことへの期待と同時に、仕事や上司に対 な新入社員を育成するためには、新入社員と人事担 して大きな不安を抱えている。したがって、導入研 当者、新入社員と職場の社員との接点を増やし、新 企業と人材 2015年9月号 11 特集 学びを活かす新入社員教育 入社員から質問をさせるとよいだろう。 が気をつけるポイントについてまとめたい。これか 3つ目は、よい習慣をもたせることである。 らの時代を生き抜く新入社員を育てるにあたって重 G-PDCA サイクル(目的・目標[GOAL]を踏まえ 要なポイントを一言でいうと、 「健全なもがき」の経 た PDCA)やホウレンソウ、読書などさまざまな習 験をさせることだ。健全なというのは、他責的な意 慣があるが、そのなかでもとくに身につけさせたい 識で会社批判や上司批判を繰り返し、モチベーショ のが、 「振り返り」の習慣である。 「何ができたのか、 ンを落とすようなもがきではなく、 「基準値の高い仕 何ができなかったのか。それはなぜか、どのように 事を任されたが、期待どおりにできない」といった 活かすか」といったことを日・週・月単位で振り返 もがきである。このような経験が人を成長させる。 る時間をもつことを習慣化すると、その後の人生に 最近は、メンタル問題やジェネレーションギャップ 大きな影響をもたらす。とくに、自己効力感が低く の問題などもあり、どの程度、新入社員に踏み込ん 自信がもてない人は、日々の仕事においてできない でいいのか悩んでいる上司や先輩も多い。新入社員 ことばかりに目がいってモチベーションを落とす傾 をお客さま扱いしてしまい、深く踏み込むことがで 向が強いため、振り返りでできたことをしっかりと きず、 「おっかなびっくり」状態のかかわりになって 考えることが重要である。振り返りを習慣化するこ しまうケースである。しかしこのような状況では、 とは難しいが、実践してみてその効果を自らつかむ 新入社員に対して適切な成長機会は提供できない。 と身についていく。 そこで、職場において気をつけたいポイントは以 導入研修は、職場で働く準備をするためのプレー 下の3つである。まず1つ目、最も大切なのは「相 ヤースキルの育成が中心にはなるものの、リーダー 互理解」を促すこと。新入社員に対して「ゆとり」 、 シップ開発に向けた布石は打っておきたい。内定時 「受身」というレッテルを貼らず、生きてきた背景 期に考えた「軸」の再確認をすると同時に、同期同 や想いに耳を傾けることである。 「何をしたいのか」 、 士の関係強化は欠かせないが、これに加えて、 「小さ 「なぜ、この会社に入ったのか」 、 「大切にしている なリーダーシップの成功体験」を積める機会をつく 価値観は何か」 、 「どのようなことに興味関心がある るとよい。 「自分が働きかけて、周囲にプラスの影響 のか」 。それらについて、よい・悪いの判断をするの を与えることができた」という成功体験を早く積め ではなく、 「違い」を知り、受け止めることである。 ると、リーダーシップが一部のリーダーだけに必要 ダイバーシティマネジメントが重要になっている なものではないことがわかってくるからだ。 が、国籍や性別によるダイバーシティに加えて、ジェ ③職場配属後 ネレーションによるダイバーシティがあることを受 職場配属後の育成において重要なことは、 「プレー け入れることだ。多様性の1つとして若手社員のあ ヤースキル育成」に加えて、 「リーダーシップ開発」 り方を尊重し、理解する。この場合、上司や先輩も の視点をもっておくことである。この視点が抜け落 自己開示することを通じて、相互に背景や想いを共 ちている職場は、人を「作業者」として育てている 有することが前提となる。両者の関係の質が低いと だけである。中堅社員になったとたんに、 「リーダー 踏み込んだ指導ができず、表面的なコミュニケー シップ」が大切であるといわれるケースが多いが、 ションに終始せざるを得ない。そのような状態は、 リーダーシップは早期からの開発が重要であり、そ メンタル不全などを引き起こす原因にもなってくる。 の有効性は立証されている 2つ目のポイントは、新入社員の状況によって、 (注) 。 職場育成について、上司や先輩(OJT トレーナー) 12 企業と人材 2015年9月号 「教え与える」をコントロールすることである。 「育 解説1 図表2 1対1対 N の OJT 推進 職場全体に育成風土が醸成される、②多様な学びを 育成担当者のみが責任を抱え込まないよう上司やメン バーが支援することを促す 得ることで新入社員の早期の成長が期待できる、③ 育成責任者 育成担当者がすべてを抱え込まなくてもよくなり、 リスクを軽減できる、といったメリットがある。 これからの新入社員育成では 「型からはみ出す」ことも重要 新人 最後に1つ質問をしたい。皆さんの企業では、な 育成指導者 部署メンバー (支援者) ぜ新入社員を採用しているのか。優秀な中途社員を 採用することができれば、そのほうが経営効率が高 成する」=「教え与える」ということではない。も いともいえるだろう。いま一度、育成や成果が出る ちろん、マナーができていなければ教えることは必 までに時間がかかる新入社員を、あえて採用・教育 要だし、仕事の進め方も教える必要がある。いまの している原点をみつめ直すことが大切だ。そのとき 新入社員はやり方や答えを求める傾向があり、それ に、自社の「育成すべき人材像」を明確にすること を教えずにやらせてみても、理不尽さを感じてモチ は欠かせない。それは、経営理念や企業戦略に基づ ベーションを落とすことがよくあるからだ。 くものであり、企業ごとに設定されるべきものであ しかし、育成初期においては、適度に「教え与える」 る。将来の人材像から逆算して人材育成を考えるこ ことが大事ではあるものの、 「与え続ける」ことは育 とが重要であり、 大前提であることは間違いないのだ。 成ではない。むしろ、教え与えずに、どのような経 私は、これまで数百社の人材育成に携わってきた 験を積ませるかを考えることが、上司や先輩の役割 が、入社5年後の人材の成長度合いが、会社によっ である。生ぬるい環境で与えられた仕事をそつなく て大きく違っていることに驚く。若いうちから仕事 こなし続けている人に、リーダーシップは身につか を任され、苦労を乗り越えながら経験を積んできた ない。困難な状況や、感情が揺さ振られるような経 社員と、与えられた仕事をそつなくこなし続けてき 験を乗り越えていくことで、人は成長していく。そ た社員では、成長度合いが大きく異なるのだ。 こで大事なのは、 「手応え」である。小さな成功体験 これからの人材育成を考えると、 「型にはめる」こ と言い換えてもいい。 “自分でやってみたら、 やれた” とに重きを置く育成から、 「型からはみ出す」ことに という「手応え」を得る経験を積むことが、成長に 重きを置く育成に変えていく必要があるだろう。誰 結びつくのである。 でもできる仕事は機械に置き換えられ、ノンコア業 3つ目のポイントは、職場全体で育成することで 務としてアウトソーシングの対象となる。変化が激 ある。これまでは、OJT トレーナーと新入社員の「1 しい時代だからこそ、 変化を導ける 「リーダーシップ」 対1」の育成が一般的であったが、 「1対1対 N」 を発揮できる社員の存在はますます重要になってく の育成を心がけるとよい(図表2)。 「N」とは職場の る。新入社員研修を設計するうえで、このような観 社員である。 「1対1対 N」の育成では、OJT トレー 点から検討することが重要になっている。 ナーは新入社員の育成担当者という位置づけから、 職場における新入社員育成プロジェクトのリーダー という位置づけになってくる。こうすることで、① (注) Harvard Business Review「We Wait Too Long to Train Our Leaders」Jack Zenger(DECEMBER 17, 2012) 企業と人材 2015年9月号 13