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アジアにおける特区制度
5 特集 アジア各国の経済特区制度の概要と現状を紹介 アジアにおける特区制度 ―税制を中心として 簗瀬正人◉ 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 監修/岡田至康◉ 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース顧問 Ⅰ の税制は重要事項であるため,一般に,経済 アジアにおける 経済特区制度と 優遇税制の概要 特区の設置と優遇税制の適用は不可分の関係 となっている。 なお,外国資本誘致による技術移転及び産 業育成という所期の目的が達成された中国に 多くの新興国が存在する東アジア及び東南 おいては,経済特区に進出した外資企業に対 アジア地域において,1970年頃から各国政府 する全般的優遇税制を廃止し,研究開発等特 は先進国資本の導入及び先進国からの技術移 定事業に対する優遇税制への移行が生じてい 転による自国の経済発展,並びに自国産業の る。 育成を目的として,優遇税制を有する経済特 アジア各国における経済特区制度の概要及 区を設置し,外国資本誘致の経済政策が採ら び納税のしやすさをまとめると次のとおりで れている。外国企業の投資意思決定上,現地 ある。 国名 中国 経済特区名称 優遇税制 (1) 納税のしやすさ ・先進技術導入 ・輸出拡大 (外資誘致) ・企業所得税減免及び軽減税率 (2008年改正にて原則廃止,2012年終了) ・関税,付加価値税(VAT)免除 121位 インドネシア ・経済統合開発地域 ・保税地区 ・自由貿易地域 ・経済発展 ・輸出促進 ・産業育成 ・所得控除 ・VAT免除 ・輸入諸税免除 130位 フィリピン ・特別経済区 ・外資誘致 ・雇用創出 ・法人税減免 ・VAT免除 135位 マレーシア ・自由地域 ・国際金融地区 ・奨励地区 ・産業育成 ・法人税減免 28位 ベトナム ・奨励投資地域 ・特別奨励投資地域 ・経済区 ・ハイテクパーク ・輸出加工区 ・工業団地 ・地域発展 ・産業育成 ・法人税減免 ・VAT免除 ・特別売上税免除 ・輸出入関税免除 52 ・経済特区 ・経済技術開発区 ・沿海経済開発区 ・保税区 ・輸出加工区 目的 151位 ZEIKEN-2012.7 (No.164) 特集 ・特別経済区域 ・電子ハードウェア技 術パーク ・ソフトウェア技術パ ーク ・工業団地 ・輸出拡大 ・産業育成 ・法人税減免 ・関税,VAT免除 147位 タイ ・自由地域 ・投資開発区 ・産業育成 ・法人所得税減免 ・輸入諸税減免 ・VAT免除 97位 韓国 ・外国人投資地域 ・経済自由区域 ・企業都市 ・済州島開発区 ・外資誘致 (大規模投資) ・都市開発 ・法人税減免 44位 台湾 ・自由貿易港 ・国際空港パーク ・輸出加工区 ・サイエンスパーク ・貿易自由化 ・国際競争力強化 ・産業育成 ・関税・貨物税・営業税免除 67位 香港 経済特区無し ー ー 3位 シンガポール 経済特区無し ー ー 4位 税制における特区制度の現状と展望 インド れ,外国投資企業・外国企業所得税の減免及 Ⅱ 優遇税制の現状 び軽減税率を柱とする優遇税制が適用されて アジア各国の経済特区と いたが,所期の目的である自国産業の育成及 び技術移転が概ね達成できたと判断された段 ⅰ)中国 階で,経済特別区域に進出する外資企業に対 中国では,1978年の対外経済開放政策に基 す る 優 遇 税 制 の 適 用 は 終 了(2008年 廃 止, づき, 外資誘致(先進技術導入及び輸出拡大) 2012年経過措置期間終了)し,現在の優遇税 を目的として1980年代に“経済特区”(1980 制は,研究開発活動等特定事業を対象とする 年) , “経済技術開発区” (1984年)及び“沿 優遇税制に移行されている。また,2012年に 海経済開放区” (1985年)等の優遇税制が適 中西部(開発)地区に対する優遇税制が新た 用される経済特別区域が中国全土に設置さ に制定された。 ①経済特別区域の概要と優遇税制 名称・設立時期 地域名 目的 外資優遇税制 ※外資企業所得税標準税率30% 経済特区: 5 ヶ所 (1980年当初 4 ヶ所) 深圳,珠海,汕頭,厦門, 先進技術の導入 海南島 輸出拡大 軽減税率: 一般企業15%,輸出企業10% 経済技術開発区:35ヶ所 (1984年当初14ヶ所) 大連,天津,青島,上海, 先進技術の導入 武漢,重慶,広州,他(中 国全土の地区) 軽減税率: 生産型企業15%,輸出企業10% 沿海経済開放区: 3 ヶ所 (1985年当初) 華東長江三角州,華南珠 江三角州,(福建省)閩 南厦漳泉三角州 (華東・華南地域の市) 輸出拡大 軽減税率: 生産型企業24% 金融貿易 輸出加工区 保税区 軽減税率: 生産型企業15%,輸出企業10% 上海浦東新区 (1990年建設開始) 上海浦東地区 高新技術開発区:52ヶ所 (1991年当初27ヶ所) 瀋陽,北京,済南,南京, 産業のハイテク化 杭州,成都,武漢,他(中 国全土の地区) ZEIKEN-2012.7 (No.164) 軽減税率: 生産型企業15%,輸出企業10% 53 保税区:15ヶ所 外高橋,天津港,福田(深 圳)保税区,他 輸出加工区:62ヶ所 北京,蘇州,昆山,松江 (上海),成都,深圳,他 (中国全土の地区) 中西部(開発)地区 軽減税率: 生産型企業15%,輸出企業10% 関税,VATの免除 弾力的外貨決済(厳格な外為規制) 輸出拡大 軽減税率: 生産型企業15%,輸出企業10% 山西省,吉林省,安徽省, 内陸部の開発(経済発展) 軽減税率: 湖南省,四川省,陝西省, 生産型企業15%,輸出企業10% 他(内陸部) ②外資企業全般に対する旧優遇税制 の企業所得税改正及び増値税改正により営業 奨励事業等に従事する外資企業全般に対し 税の優遇税制を除き基本的に廃止された て次の優遇税制が適用されていたが,2008年 税種目 (制定期間) (2012年度までの経過措置あり)。 外資企業所得税 源泉税 (1991年~ 2008年) (外資企業所得税法) 営業税 (1994年~) 関税・輸入増値税 (1994年~ 2008年) 1 )減税・免税措置 生産型企業に対しては, 国外配当に対する免 奨励技術ライセンスロイヤルティー及 2 年 間 免 税 3 年 間 半 減 税措置 び技術サービス料に対する免税措置 税措置 ※地方企業所得税の免税 権限は地方政府帰属 奨励事業用輸入設備 機器の関税及び輸入 増値税免税措置 ※設備仕入増値税の 仕入控除は不可 2 )税額還付 適用無し ソフトウェア産業に 対する還付制度(仕 入控除制限対応) 適用無し 適用無し 剰余金再投資に対して納 適用無し 税額40%を出資者に還付 (再投資還付制度) 3 )所得控除 増加技術研究費控除 適用無し ⅱ)インドネシア り,2007年 4 月26日付法律第25号(投資法) ①経済特区制度の概要 により現在の奨励業種が定められた。また, イ ン ド ネ シ ア で は, 経 済 統 合 開 発 地 域 FTZは,バタム島は島全体が保税区,ビン (KAPET)といった地域別優遇措置と保税 タン島は工業団地が保税地区などとされてい 地区の優遇措置があり,国内各地に自由貿易 たのを,税務規則の整合性を図るために自由 地 域(FTZ) が 設 置 さ れ て い る。2000年 4 貿易地域としてまとめられたもので,シンガ 月 7 日付大統領令第20号によりKAPETにお ポールの製造子会社が多く進出している。 ける税制面での取り扱いは保税地区並みとな 特区名称 経済統合開発地域(KAPET) 目的 経済発展のため 関連法 2007年 4 月26日付法律第25号(投資法) 保税地区(KB) その最終製品が主に輸出に向 輸出促進のため けられる,輸入物品または関 税地区内の他の場所から調達 された物品を,加工もしくは 組付のために在庫するために 指定された地域 2007年 4 月26日付法律第25号(投資法) 自由貿易地域(FTZ) バタム島,ビンタン島,カリ 国内及び輸出産業の発 2000年 9 月 1 日 付 法 律 代 用 政 令 第 1 号 ムン島 展を促進するため (2000年第36号法律)/2007年法律代用政 令第 1 号(2007年第44号法律) 54 地域名 14ヶ所 ZEIKEN-2012.7 (No.164) 特集 ②経済特区における優遇税制の概要 特区名称 保税地区(KB) 自由貿易地域(FTZ) 法人税 輸出志向の製造会 社からの要請に基 づき財務省が付与 する保税ステータ ス企業 - FTZに入る物品と FTZ内の会社間で 引き渡される物品 - 関税 付加価値税 高級品売上税 生産活動に関係 する資本財等に 係る付加価値税 の免除 生産活動に関係 する資本財等に 係る高級品売上 税の免除 資本財等に係る 生産活動に関係 生産活動に関係 輸入関税の延期 する資本財等の する資本財等に 輸入時前払税金 係る付加価値税 の免除 の免除 生産活動に関係 する資本財等に 係る高級品売上 税の免除 免除 免除 免除 免除 保税地区に関しては,これまで50%相当の な法律であるオムニバス投資法(共和国法第 国内での販売を認める規則があったが,2011 226号)が発効し,投資に関する奨励措置が 年 9 月 6 日 付 財 務 省 規 則 第147号 に よ り, 規定された。また,1995年 2 月24日に特別経 2012年以降の保税ライセンスの更新後は国内 済区法(共和国法第7916号)が発効し,輸出 への販売が25%に制限された。しかしながら, 加工区及び特別経済区に関する多くの奨励措 本規則は,反対が強く,2014年まで適用は延 置が規定された。現在,フィリピンにおける 期されている。 優遇措置は「業種を基準として付与される優 遇措置」,「特定地区での事業に対する優遇措 ⅲ)フィリピン 置」,「企業形態を基準として付与される優遇 ①経済特区制度の概要 措置」に区分され,法人税及び関税等の優遇 フィリピンでは,1987年8月13日に優遇措 措置が付与されている。 置を伴う外国及び内国の投資に関する基本的 特区名称 PEZA特別経済区 地域名 目的 関連法 フィリピン経済区庁(PEZA)が 産業を都市以外の地域 共和国法第7916号(PEZA法)(1995 開発,運営,管理を行っているエ に誘致し,そこでの雇 年 2 月24日発効) コゾーン 用の創出 スービック特別経済・自由港区 オロンガボ市 (SBF) クラーク特別経済区(CSEZ) ZEIKEN-2012.7 (No.164) アンヘレス市 スービック特別経済区 行政令(EO)第675号(2007年11月 への投資の促進及び雇 28日発効) 用の創出 共 和 国 法 第7227号(1992年 3 月13 日発効) クラーク特別経済区へ 行政令(EO)第675号(2007年11月 の投資の促進及び雇用 28日発効) の創出 55 税制における特区制度の現状と展望 経済統合開発地域 (KAPET) 前払税金 (第22条) ・国税総局(DGT) ・投資総額の30 資本財等に係る 生産活動に直接 による承認 %相当の所得控 輸入関税の延期 関係する資本財 ・雇用促進,イン 除 等の輸入時前払 フラ開発,地域発 ・税務上の加速 税金の免除 展,自然保護,研 度減価償却 究開発などの促進 ・欠損金の繰越 に寄与する事業が 期間の延長(最 対象 長10年間) ・支払配当に係 る源泉税の軽減 要件 ②経済特区における優遇税制の概要 特区名称 要件 PEZA特別経済区 PEZA(フィリピン経済 区庁)登録企業 法人税 関税 付加価値税 免除 免除 スービック特別経 スービック湾自由港登録 総所得の 5 %相当額の納付のみ(国内販売が総所得の 済・自由港区 企業 30%以下の場合に限る) (SBF) 免除 免除 クラーク特別経済 クラーク特別経済区登録 総所得の 5 %相当額の納付のみ(国内販売が総所得の 区(CSEZ) 企業 30%以下の場合に限る) 免除 免除 ・商業生産開始後, 4 年~ 6 年間(最長 8 年間)の 法人税免除 ・免除期間終了後は総所得の 5 %相当額の納付のみ 上記の他,オーロラ特別経済区,カガヤン 別々に管理する必要がある。また,優遇措置 特別経済区(ルソン島),ザンボアン特別経 の適用を受けるには,監督庁への定期的な書 済区(ミンダナオ島)等の特区が存在し,そ 類提出が求められる。 れぞれの地域への投資の促進及び雇用創出を 目的として,法人税等の優遇措置が設けられ ⅳ)マレーシア ている。 ①経済特区制度の概要 また,PEZAによると,2012年 2 月末時点 マ レ ー シ ア で は,1986年 投 資 促 進 法 における主要国のPEZA登録企業数は,日本 (Promotion of Investment Act, 1986),1967 632社,韓国275社,アメリカ262社,イギリ 年所得税法,関税法,1972年販売税法,1976 ス54社,台湾53社,中国50社,オーストラリ 年物品税法,1990年自由地域法などが制定さ ア48社,香港29社等であり,ほとんどの企業 れ,製造業,農業,観光業その他奨励業種を で上記の優遇措置を享受している。PEZA登 対象とした優遇措置が付与されている。経済 録企業の場合,優遇措置の対象となる適格プ 特区制度に類似した制度として,「 5 奨励地 ロジェクトはプロジェクト単位で承認される 区制度」と第10次 5 カ年計画で導入された「首 ため,理屈上,同一会社内において,適格プ 都クアラルンプールの国際金融地区制度」の ロジェクトと非適格プロジェクトとが共存す 二つがある。 ることがあり得る。その場合,適用される税 制が異なることになるため,帳簿を分けて 特区名称 自由地域(FZ) 地域名 財務省が認定した特別の地域 マルチメディア・スーパー・コ クアラルンプール近郊 リドー(MSC) クアラルンプール国際金融地区 クアラルンプール (KLIFD) 5奨励地区 56 目的 輸出の促進 関連法 自由地域法(1990年制定) 国際的な観点からの, 投資促進法(1986年制定,10年 情報産業の育成支援 間有効) クアラルンプールの銀 2012年度予算案(未施行) 行金融及び関連サービ スの国際的ハブ化 イスカンダール開発地区(IDR),北部 地域の発展 コリドー開発地域(NCER),東部コ リドー開発地域(ECER) ,サラワク 再生エネルギーコリドー(SCORE), サバ開発コリドー(SDC) 所得税法/投資促進法 ZEIKEN-2012.7 (No.164) 特集 ②経済特区における優遇税制の概要 要件(*) 輸出企業 法人税 - 関税 免除 マルチメディア・ マレーシア政府に ・ 5 年または10年 マルチメディア関 スーパー・コリド よ り 認 定 さ れ た 間の法定所得100 連機器の輸入関税 ー(MSC) MSC企業 %免税 免除 ・ 5 年以内の適格 資本支出に係る 100%投資控除 クアラルンプール KLIFDステータス 10年間の100%免 国 際 金 融 地 区 企業 税 (KLIFD) 5奨励地区 - 各ステータス取得 パイオニア・ステ 機械設備等に係る (2) 企業 ータス ま た は 輸入税免除 (3) と同 投資控除 様の優遇 物品税 免除 売上税 免除 サービス税 免除 その他 - - - - - - - ローン契約 などの印紙 税免除 - - - 機械設備等 に係る売上 税免除 (*)上記優遇措置の適用対象企業については,最低資本金等の各種の要件が定められている。 ⅴ)ベトナム に進出する企業」に対し,優遇措置が付与さ ①経済特区制度の概要 れている。このうち,「奨励投資地域に進出 ベトナムでは,2006年 7 月 1 日に施行され する企業」に対する優遇措置が特区制度に相 た共通投資法及び統一企業法により,外国資 当するものと考えられるが,奨励投資地域は 本による投資,国内資本による投資にかかわ 国内全土に多数設定されている。 らず, 「奨励投資分野」及び「奨励投資地域 特区名称 奨励投資地域 54地域 地域名 特別奨励投資地域 54地域 目的 関連法 社会経済状況が困窮して 法人税法施行細則,政令(2009年 1 月 1 日) いる地域への投資促進 /輸出入関税法施行細則,政令(2010年10 月 1 日) 社会経済状況が特に困窮 法人税法施行細則政令(2009年 1 月 1 日) している地域への投資促 /輸出入関税施行細則,政令(2010年10月 進 1 日) 経済区(国境ゲート経済区 29地域(国境ゲート経済区は 戦略的地域への投資促進 を含む) 11地域) 法人税法施行細則,政令(2009年 1 月 1 日) /通達(2009年 1 月 1 日)/国境ゲート経 済区に対する財務政策に関する決定(2009 年 5 月 1 日) ハイテクパーク サイゴン・ハイテクパーク,ク ハイテクノロジーの投資 法人税法施行細則,政令(2009年 1 月 1 日) アンチュン・ハイテクパーク, 促進 ホアラック・ハイテクパーク 輸出加工区 タントアン輸出加工区,リンチ 投資家への産業基盤及び 法人税法施行細則,政令/輸入関税法施行 細 則, 政 令(2010年10月 1 日 )/付 加 価 ュン輸出加工区,ハイフォン96 環境整備 輸出加工区等 値税法(2009年 1 月 1 日) 工業団地 ハノイ市14 ヶ所,ホーチミン 投資家への産業基盤及び 法人税法施行細則,政令 市19 ヶ所,ハイフォン市 7 ヶ 環境整備 所,ダナン市 5 ヶ所 ZEIKEN-2012.7 (No.164) 57 税制における特区制度の現状と展望 特区名称 自由地域(FZ) ②経済特区における優遇税制の概要 特区名称 付加価値税 特別売上税 奨励地域における新 ・優遇税率(20%)適用(10 特定の固定資産につき 規投資プロジェクト 年間) 免除 など ・新規企業は 2 年間の免除 及び 4 年間の50%減税 - - 特別奨励投資地域 特別奨励投資地域に ・優遇税率(10%)適用(15 特定の固定資産につき おける新規投資プロ 年間) 免除 ジェクトなど ・新規企業は 4 年間の免除 及び 9 年間の50%減税 - - 国境ゲート経済区の非 課税区域内で使用され る輸入品及び非課税区 域からの輸出品につき 免除 国境ゲート経済 区の非課税区域 内で生産消費さ れる物品・サー ビスにつき免除 国境ゲート経済 区の非課税区域 内で生産消費さ れる物品につき 免除 - - - 奨励投資地域 要件 法人税 輸入関税 経済区(国境ゲー 経済区における新規 ・優遇税率(10%)適用(15 ト経済区を含む) 投資プロジェクトな 年間) ど ・新規企業は 4 年間の免除 及び 9 年間の50%減税 ハイテクパーク 輸出加工区 ハイテクパークにお ・優遇税率(10%)適用(15 ける新規投資プロジ 年間) ェクトなど ・新規企業は 4 年間の免除 及び 9 年間の50%減税 輸出品,輸出加工区 内で使用される輸入 品など - 工業団地 輸出品,同区内で使用 外国または他の される輸入品などにつ 非関税地域との き免除 物品販売・サー ビスにつき免除 - - - - - 上記のうち,工業団地入居を条件とする法 ある。経済区についても特定の経済区に対す 人税の優遇措置は,2009年 1 月 1 日から撤廃 る個別のガイドラインが存在するため詳細に されている。また,ベトナムのWTO加盟時 ついては該当ガイドラインを確認する必要が のコミットメントにより,輸出加工企業など, ある。 特定の輸出比率を満たすことを条件として享 受していた法人税の優遇措置は2011年末をも ⅵ)インド って撤廃されている。これらの企業は2012年 ①経済特区制度の概要 以降,輸出比率以外の条件を満たしているこ インドでは,内資・外資を問わず,インフ とによる優遇措置を選択し,税務当局に通知 ラ開発,電力開発・送電,再生可能エネルギ の上適用することになる。 ー,科学研究開発などの分野に対する投資に また,奨励投資分野への投資については, ついて優遇措置が設けられているが,特別経 法人税優遇措置の適用対象にかかる規定が明 済区域(SEZ)を開発する企業及び入居する 確でないことから,税務調査時に適用対象外 企業にも法人税減免などの優遇措置が適用さ とされ,優遇措置の適用が否認されることも れている。 特区名称 特別経済区域(SEZ) 電子ハードウェア技術パー ク(EHTP)/ソ フ ト ウ ェ ア技術パーク(STP) 58 地域名 目的 関連法 アーンドラ・ブラデーシュ州,マハー 輸出企業に対して国際的競 2005年特別経済区域法(SEZ法) ラーシュトラ州などに583 ヶ所 争力のある円滑な環境を提 及び2006年SEZ規則 供するため - 電子機器産業の輸出強化及 び効率的な電子部品並びに IT産業の発展のため - ZEIKEN-2012.7 (No.164) 特集 工業団地 ウッタラカンド,ヒマチャルプラデシ ュ,北東部の州(シッキム州を含む) - - 特区 要件 法人税 特 別 経 済 区 域 SEZ入居企業または ・100%税額控除(10年間) (SEZ) SEZ開発業者 ・配当分配税(DDT)免除 ・最低代替税(MAT)免除(※) 関税 物品税 中央売上税 サービス税 免除 免除 免除 免除 電子ハードウェ ITを使ったコールセ ・輸出所得の 5 年間100%所 資本財の輸入 国内調達につ 国内調達時に ア 技 術 パ ー ク ンター,データ処理, 得控除(次の 5 年間は50%) につき免除 き免除 は償還 (EHTP) 医療記録など輸出指 ・MATの免除(※)など 向サービス - ソフトウェア技 ITを使ったコールセ ・輸出所得の 5 年間100%所 資本財の輸入 国内調達につ 国内調達時に 術パーク(STP) ンター,データ処理, 得控除(次の 5 年間は50%) につき免除 き免除 は償還 医療記録など輸出指 ・MATの免除(※)など 向サービス - 工業団地 一定の要件を満たし ・100%税額控除(10年間) た工業団地開発業者 一定の場合に 払戻 免除 免除 - ※最低代替税(MAT)免除は2011 ー 2012会計年度より廃止され,現行では18.5%のMAT及び付加税が課税されている。 ⅶ)タイ 用促進に寄与する投資奨励対象業種に対して ①経済特区制度の概要 税制及び税制以外の特典を付与しているが, タイでは,主に,1997年に制定された投資 産業の地方分散,地方産業の振興,所得格差 奨 励 法(Investment Promotion Act) 及 び の解消を目的として,1987年以降,全国を三 1991年・2001年の同法の改訂に含まれている つのゾーンに分け,首都圏から遠ざかるに従 ガイドラインに基づいて,内外の投資家に対 って,厚い特典を付与している。また,タイ工 し,奨励業種に対する投資を促進するための 業団地公社法(Industrial Estate Authority 優遇措置が設けられている。優遇措置の適用 Act)に基づき,タイ工業団地公社(IEAT) の詳細はタイ投資委員会(BOI)により規定 が実施運営する優遇制度がある。 されている。BOIは,タイの産業高度化,雇 特区 地域名 目的 関連法 IEATフ リ ー ゾ ー 工業事業,サービス事業等に寄与する事業に使用さ 工業団地を使用する タイ工業団地公社法(2008年 1 月 ン れるゾーン 企業の競争力強化 8 日) BOIゾーン 1 )バンコク首都圏 6 県(バンコク,サムットプラ 奨励業種に対する投 投資奨励法(Investment Promotion カーンなど) 資促進 Act) 2 )首都圏周辺11県(アユタヤ,チャチューンなど) ・ プーケット 3 )低所得とインフラの開発度が低い残りの58県 ②経済特区における優遇税制の概要 特区 要件 IEATフ リ ー ゾ ー 工業事業,サービ ン ス事業等に寄与す る事業に使用され る物品 ZEIKEN-2012.7 (No.164) 法人税 - 輸出税 関税 付加価値税 物品税 生産用機械,設 生産用機械,設 生産用機械,設 生産用機械,設 備等に係る免税 備等に係る免税 備等に係る免税 備等に係る免税 59 税制における特区制度の現状と展望 ②経済特区における優遇税制の概要 BOIゾーン 第 1 ゾーン 第 2 ゾーン 第 3 ゾーン BOIの判断による BOIの判断による BOIの判断による 投 資 資 本 が1,000万 バーツ以上かつ事業 開始から 2 年以内に ISO9000認 証 を 受 け,工業団地内等に 所在する場合に 3 年 間の免除 投 資 資 本 が1,000万 バーツ以上かつ事業 開始から 2 年以内に ISO9000認証を受け た場合に 3 年間(工 業団地内等に所在す る場合は 7 年間)の 免除 ・ 投 資 資 本 が1,000 万バーツ以上かつ事 業開始から 2 年以内 にISO9000認証を受 けた場合または工業 団地内等に所在する 場合は 8 年間の免除 ・免除期間後 5 年間 は50%軽減 優遇措置によって受けられる特典の内容が - - - ・BOIが 認 可 す る機械に係る 50%減税 ・輸出用資材等 の免税( 1 年間) ・BOIが 認 可 す る機械に係る免 除 ま た は50 % 減税 ・輸出用資材等 の免税( 1 年間) ・BOIが 認 可 す る機械に係る免 除 ・輸出用資材等 の免税( 5 年間) - - - - - - なければならなくなる場合もある。 異なり,また,特典にはさまざまな条件が付 されているため,将来を見据えた上で事業に ⅷ)韓国 適した恩典を慎重に選択する必要がある。 ①経済特区制度の概要 BOIの税務恩典を受けている製造業について 韓国では,外国人投資企業について,租税 言えば,在庫の管理,機械装置の管理が毎年 特例制限法及び外国人投資促進法の規定によ のBOI監査を通じてレポートする義務を負う り,法人税減免等の優遇措置が設けられてい ため,この管理を徹底しないと輸入関税の免 る。立地支援としては,外国人投資地域,経 除枠が無くなることもあり得る。また,輸入 済自由区域,自由貿易地域に分けられるが, 関税の免除を受けた機械装置,在庫の廃棄に 産業団地内の特定地域または別の立地を確保 ついて歳入局だけでなく,BOIの許認可が必 し,外国人投資に必要な環境を提供している。 要となり,条件によっては輸入関税を納付し 特区名称 外国人投資地域 地域名 目的 団 地 型18ヶ 所, 個 別 型27ヶ 外国人による投資の誘致 所 関連法 外国人投資促進法,租税特例制限法及び同 法施行令 経済自由区域 仁川,釜山・鎮海など 6 ヶ所 外国人による投資の誘致 経済自由区域の指定及び運営に関する法律 自由貿易地域 産業団地型 4 ヶ所,空港・港 製造及び物流を営む企業を入 自由貿易地域の指定及び運営に関する法律 湾型 5 ヶ所 居させ,相互連携によるシナ /租税特例制限法 ジー効果を生み出すことを目 的に指定する特別区域 企業都市 済州投資振興地区開発者 済州島 60 外国人による投資の誘致 租税特例制限法及び同法施行令 済州特別自治道の設置及び国際自由都市造 成のための特別法 ZEIKEN-2012.7 (No.164) 特集 ②経済特区における優遇税制の概要 特区 要件 法人税 関税 付加価値税 業種ごとに定められた投資金額等の指定基準を満た ・ 団 地 型 は 3 年 間100%, 資本財につき 個別型は資本 し,外国人投資地域内で新しく施設を設置する場合 その後 2 年間は50%減免 3 年間免除 財につき減免 ・ 個 別 型 は 5 年 間100%, その後 2 年間50%減免 経済自由区域 経済自由区域の入居企業または開発事業施行者で, 5 年間100%,その後 2 年 資本財につき 資本財につき 製造,観光,物流業に限り,一定の基準を満たす場 間50%減免 3 年間免除 3 年間免除 合(企業都市への入居企業についても適用) 自由貿易地域 輸出を主な目的とする製造業を営む企業,輸出入取 5 年間100%,その後 2 年 免除 引を主な目的とする卸売業を営む企業など 間50%減免 企業都市 企業都市の入居企業または開発事業施行者で,一定 5 年間100%,その後 2 年 資本財につき 資本財につき の基準を満たす場合 間50%減免 3 年間免除 3 年間免除 ゼロ税率 済州投資振興地区 済州投資振興地区の開発事業施行者に該当する外国 5 年間100%,その後 2 年 資本財につき 資本財につき 開発者 人投資企業が営む事業 間50%減免 3 年間免除 3 年間免除 ⅸ)台湾 が規定されている。また,下記以外にも農業 ①経済特区制度の概要 ハイテクパーク,環境テクノロジーパークと 台湾には以下のような経済特区が設けられ いった経済特区が設けられており,税制優遇 ており,それぞれの法律において,優遇措置 が付与されている。 特区名称 地域名 目的 設立の条件 関連法 自由貿易港 5 ヶ所(基隆港,台北 グローバル・ロジスティク 自由貿易区において許可を得て貿 自由貿易港区設置管理 港, 台 中 港, 高 雄 港, スの経営方式の発展,貿易 易,倉庫,物流,コンテナ(物品) 条例(2003年制定) 桃園空港) の自由化・国際化の推進, 集散,海外への積替,国内への積 国際競争力の強化 替,請負輸送,通関代行,組立, 再生,梱包,整備,加工,製造, 展示,保守または技術サービスな どの業務に従事する事業 国際空港パーク 台 湾 桃 園 国 際 空 港 な 国際競争力の強化のための 国際空港パーク内の事業者に保 国際空港パーク発展条 ど,空港の専用区と隣 国際空港パークの発展 管・加工を委託した貨物の販売(国 例(2010年 5 月 1 日 接する自由貿易港区 内販売について一定の制限あり) 施行) 輸出加工区 台中港,高雄港,小港 ワンストップサービス等に 貿易業,倉庫,中継輸送業のみ参 輸出加工区設置管理条 空港に隣接 よる輸出促進 入可 例 サイエンスパーク 技術発展 科学技術工業のみ参入可 科学工業園区設置管理 条例 ②経済特区における優遇税制の概要 対象取引 営利事業 所得税 関税 貨物税 (物品税) 営業税 その他 国外からの輸入原料・国 外輸入燃料,材料,半製 品,機械設備 - 免除 免除 免除 酒タバコ税,タバコ健康福利 付加税,貿易推進サービス費, 商港サービス費の免除 物品/労働力の国外輸出, 課税地域から購入した原 材料,燃料,材料,半製 品,機械設備 - - - ゼロ税率 - 外国の営利事業で国際空 港パーク内の自由貿易港 区で貨物の搬入及び簡易 な加工を行い,国内・国 外に販売した貨物 免除 - - 免除 - 特区名称 自由貿易港 国際空港パーク ZEIKEN-2012.7 (No.164) 61 税制における特区制度の現状と展望 外国人投資地域 加工輸出区 サイエンスパーク Ⅲ 国外からの輸入原料・国 外輸入燃料,材料,半製 品,機械設備 - 免除 免除 免除 - 物品/労働力の国外輸出, 課税地域から購入した原 材料,燃料,材料,半製 品,機械設備 - - - 免除 - にあり,経済特区の設置に当たっては,優遇 税制の制定権限を有する中央政府の積極的関 総括 与が重要であり,この点,東アジア及び東南 アジア各国の中央政府は,経済特区の設置を 東アジア及び東南アジアでは,上述のよう 国家政策として位置付け,積極的に関与して に中国等の新興国に加え,先進国とされる韓 いるものと解される。 国,台湾に至るまで,殆どの国が外国資本の これらの国においては,旧来より税務上各 誘致及び先進技術の導入のために,経済特別 種の投資奨励策を講じてきているが,とりわ 地域を設置し,優遇税制を整備,供与してお け近時における社会環境の変化やインフラ整 り,所期の目的である自国経済の発展を達成 備,更には資本や労働力の流動性の高まりと しているといえる。なお,香港,シンガポー ともに,租税政策のもつ意義がより重要な要 ルは,ともに一般的な投資環境が既に良好な 素となっているといえよう。 ことから,他国におけるような経済特区は特 なお,当然のことながら,外国資本誘致に 段設置されていない。 よる技術移転及び産業育成という所期の目的 外国資本の誘致及び先進技術の導入を推進 が達成された場合には,中国における優遇税 するに当たっては,経済活動の効率性及び政 制の改正事例のように,経済特区進出の外資 府管理の有効性の観点からは,一定地域に投 企業全般に対する優遇税制から研究開発等の 資を集約させる経済特区の制定が有効であ 特定事業(ハイテク産業の育成)に対する優 り,一方,外国資本の誘致に当たっては,優 遇税制への移行が生じている。これは,全般 遇税制の供与が有効であると思われる。経済 的な産業育成からハイテク産業の育成への国 特区の設置と優遇税制の適用は不可分の関係 家政策の重点の移行によるものと解される。 〔脚注〕 * * * ( 1 )Paying Tax 2012(PwC調 査 報 告 書:http://www.pwc. com/gx/en/paying-taxes/download-order.jhtml): 世 界 銀 行,国際金融公社(IFC)およびプライスウォーターハウ 業その他の商工業)を対象として付与されている優遇措置。 生産開始日から原則として 5 年間の法定所得の70%免税及 び免税所得から分配された配当金の免税となる。 スクーパース(PwC)の国際的指標分析グループによる世 ( 3 ) 投 資 控 除(Investment Tax Allowance:ITA):1986年 界183ヶ国の「納税のしやすさ」を測定し順位付けした報告 投資促進法で規定された奨励事業を営むかまたは奨励製品 書。モデル企業が,調査対象国で負担する税金費用及び税 を生産する会社(製造業,食品加工業,農業,ホテル業, 務申告・納付に関する事務負担を対象とし,主要な税金(法 観光業その他の商工業)を対象として付与された優遇措置。 人所得税,雇用関連税と負担金,消費税)の納付に要する 承認日から 5 年間に行った適格資本的支出の60%相当額を 時間,及び納税の回数を調査比較。 各年度の法定所得の70%まで控除(未使用分は繰越)でき, ( 2 )パイオニア・ステータス(Pioneer Status):1986年投資 促進法で規定された奨励事業を営むかまたは奨励製品を生 免税所得から分配された配当金については免税となる(パ イオニア・ステータスとの選択適用)。 産する会社(製造業,食品加工業,農業,ホテル業,観光 62 ZEIKEN-2012.7 (No.164)