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JIA MAGAZINE Vol.276

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JIA MAGAZINE Vol.276
JIA
1991 年 4 月 16 日第三種郵便物認可 2012 年 1 月 15 日発行 毎月 1 回発行 通巻 276 号
MAGAZINE
276 JANUARY 2012
建築家
architects
プロポーザル方式を考える⑥
●特集 逗子市 平井竜一市長に聞く
●支部便り
北陸支部・近畿支部
JIA建築家賠償責任保険
〈最近の事故事例から〉
建物の概要
・ 完成後の用途 住宅 ・ 構 造 RC 2 階建
・ 工事費用 3000 万円
事故の概要
・ 竣工後3ヵ月
・ 床暖房がされているリビングルーム、廊下の床材が変色・変形・捲れから欠損も発生した。
事故の原因
・ 設計時、床暖房に適合する床材を選択したが、接着剤については床暖房に対応しないも
のを選択した。その後の調査で、床材料・接着剤共に床暖房に適さない材料であること
が判明。
・ 選択した床材・接着剤が床暖房に対応できると思い込み、当初から適合性のチェックを
怠った。
またその後メーカー等に床暖房への適合性を再確認せずに発注・納品し、施工を指示した。
・ 一方、メーカー・施工者も床材・接着剤の適合性をチェックせずにそれぞれ納品、施工
した。
支払保険金
・ 157 万円 ・ 損害額 495 万円(床材の変色・変形・欠損部分についての張替・補修)
・補修費総額のうち設計者の責任を 1/3 とする。メーカー・施工者として、本来なすべき
過程におけるチェックを怠ったために、相応の責任が発生すると考えられる。
■《保険金計算式》
495 万円(損害額)× 1/3(設計者責任割合)× 95%
(縮小支払割合)= 157 万円
建築家 の た め の 保 険
201 2 年 度「 ケ ン バイ」更改・新規募集開始
高度な専門職業人である建築家の職能を側面から補完する保険制度です。加入資格は JIA 会員資格を
有する代表者、または所員がいる建築設計事務所です。
(毎年 4 月 1 日更改)
2月中旬より、今年度の新規募集に向けてパンフレット、加入申込書一式を、未加入会員事務所宛に
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E-mail:[email protected]
【引受保険会社】株式会社損害保険ジャパン 営業開発2部2課
JIA
MAGAZINE
Cover Story
建築家
a r c h i t e c t s
©2011 Google, Image ©2011 Geo Eye
浮珠寺(ベトナム)
ホーチミン市内のサイゴン河から支流の
Vam Thuat 川を上って行くと突然、眼前
に船がこちらに向かって進んでくる。よく
見てみるとそれは 300 年ほど前に川の中
に建てられた浮珠寺(Phu Chau Temple)
である。七福神が乗り込んだ宝船をモチー
フにして、まるで船の如く浮いていて水の
流れを見ていると厳かに走っているように
も見える。島全体は約 2,500㎡、寺の面積
は 550㎡ほどである。
上陸して境内を巡れば寺院は連続する 3 つ
の建築棟からなる。建築の内部、外部とも
信者から寄進された高級な食器などの陶器
を砕いたものが全面に貼られていて、青を
基調にした光がその上部を覆う円錐形のコ
イル状の線香群からの白煙の中をチンダル
現象のように堂内に降り注ぐさまは、例え
ようもなく美しい。
南側に作られた門から入るが、手前が仏教
寺であり堂の中央に蓮の花に乗った仏陀が
鎮座し、両側の壁には様々なご馳走を手に
した美しい観音・天女たちが描かれている。
中央の寺院は祈りの部屋で全体は桃の花で
飾られて、その奥の院は中国の五行思想の
五元素である金、水、火、土、木(その説
によれば万物はこれら五元素からなると言
われる。
日本では木火土金水とも呼ばれる)
を象徴する木象が祀られた五行聖国の祠で
ある。
全体に共通する装飾は龍と不死鳥である
が、龍は中国に伝わった際、インドの水の
神ナーガの類が中国語に訳されたものと言
われ航海を護る海の神様としてのみなら
ず、自然災害や疫病・戦争・盗賊から人々
を護る神様でもあった。古来、漁に出る際
に祈りを捧げ無事に戻ってはまた祈りを捧
げるといった具合に、漁民にとって深い信
仰の対象だった。
3 棟の横に並ぶように優しい女神のように
ま そ
微笑む媽祖が祀られた堂も作られていて女
性、子供たちをも守っている。島へはそん
なに距離は離れてはいないが船で渡る以外
方法は無い。それでもこの近くに住む人々
にとってこの島は、彼らの心の拠り所であ
り頻繁に訪れ、大量のコイル状線香がいつ
も天井から吊られ煙が絶えることはない。
(撮影:古市徹雄)
C O N T E N T S 276
JANUARY 2012
002《新年のごあいさつ》
2012 年、具体的な一歩を
日本建築家協会会長 芦原太郎
特集
プロポーザル方式を考える⑥
003 逗子市 平井竜一市長に聞く
市民・行政・建築家の高い意識で これからの建築をつくる
—プロポーザル方式を活用した逗子市の 2 つの事例—
011 国土交通省の官庁営繕事業における
プロポーザル方式の概要について
松尾 徹(国土交通省)
013 特別寄稿
設計入札は日本の恥である
出江 寛(建築家)
015 支部便り
北陸支部
015
中村好文氏による建築文化講演会/「とやまデザイン講座 2011」
016
JIAいしかわ建築大賞 —創設から現在まで—
近畿支部
018
JIA 近畿支部と KIA 釜山建築家会との交流
021 JIA 第 3 代会長 林 昌二氏ご逝去
022 2011 年度「日本建築家協会優秀建築選 100 作品」
024 JIA NEWS
024
025
理事会報告/本部便り/ JIA 建築家大会 2012 横浜 開催決定!
新規入会承認者/編集後記
J
JIA MAGAZINE 276
I
A
The Japan Institute of Architects
JIA-kan,2-3-18 Jingumae,Shibuya-ku,
Tokyo 150-0001 Japan
JANUARY 2012 ●
001
《新年のごあいさつ》
2012 年、具体的な一歩を
日本建築家協会会長 芦原太郎
皆さん、新年明けましておめでとうございます。
昨年春の災害で私達は安心、安全な環境の大切さを思い知らされ、さらに建築が人々の日常生活
を支える環境構成要素として社会・文化的資産であることに気付いた方も多かったと思います。
その後災害復旧・復興に追われ、また風評被害に悩まされる中で、秋にはなんとか UIA 東京大
会を皆様のお力添えを頂き開催することができました。
大変な年を乗り越えて、経済優先の 20 世紀型社会システムから 21 世紀型の持続可能な新しい社
会システムへ移行する将来の方向は見えてきました。
まさに社会の大きな変革期を迎えている 2012 年の本年は、建築家として具体的な一歩を踏み出
す時です。
UIA 大会を締めくくった UIA2011 東京大会宣言には、Beyond the Disasters〈災害を乗り越え〉
Through the Solidarity〈連帯を通して〉
Towards the Sustainability〈持続可能な未来へ〉のメッ
セージが盛り込まれています。
ブータンのジグメ・ティンレー首相は GNH〈国民総幸福量〉を提唱し、GNPを目指した 20 世紀
型資本主義 からのパラダイムシフトを示し、経済成長は必ずしも人々に幸せをもたらすものでな
いことを明らかにしてくれました。
またサステナビリティとは地球環境的観点のみならず、仕事や経済活動等の社会的サステナビリ
ティや人々の生活や歴史の継続性といった文化的サステナビリティをも含めて3つの観点から捉え
ていくことが示されました。
UIA2011 東京大会は建築五会フェデレーションによる最初の大きな成果ともいえます。
五会は〈建築・まちづくり宣言〉を行い、建築が人々の生活を支える社会・文化的資産であるこ
とと、専門家としての責任を担い連帯して持続可能な環境づくりに貢献していく決意を示しました。
この宣言に盛り込まれた考えのもとに、次世代建築生産社会システムの構築に向け建築基本法の
制定や建築基準法・建築士法改正の議論が開始されています。
日本建築家協会は JIA 建築家宣言で公益寄与と公益保護を表明して、定款改定のもとに公益社団
法人に向けて手続きを進めています。
本年は支部や地域会の役割を具体的に整理して組織再編を行い、災害復興をはじめとした地域で
の公益活動の拡大に向けて会員の力を合わせていきたいと思います。
また建築家の業務環境はますます厳しいものになってきていますので、建築家の生き残りをかけ
て具体的な業務環境改善活動を展開します。
地域の環境づくりや維持・運用に貢献するコミュニティアーキテクトの実績を作ること、またそ
の一般化に努め、まちづくり協議会〈JIA・CABE〉の制度化や推進活動を進めていきます。
また、近隣のアジアに向けて積極的に進出するクロスボーダーアーキテクトの支援に向けて JIA
の国際戦略を見直します。
さらに、JIA 建築家のブランド構築に向けて会員各位の活動を通して社会の信頼を積み上げて
JIA ブランドとして顕在化させていければと思います。
政治は混迷し明るい日本の未来は見えてきませんが、経済成長に限界があるのならば徳のある凛
とした国家を目指して貰いたいものです。
そんな時だからこそ、建築家が職能倫理のもとに次世代に持続可能な社会・文化的資産としての
環境づくりに貢献していかなければと思います。
江戸時代に日本を訪れた外国人が街並みや自然の美しさに感動し、人々の礼節や文化の質を称賛
したように、専門家として連帯して 2050 年の日本に凛とした社会を作っていこうではありませんか。
002
●
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012
特集●プロポーザル方式を考える
こ定をした、革新的な神奈川県逗子市の事例を何度か取り上げてきました。他の自治体でも少しず
れまでシリーズ特集「プロポーザル方式を考える」を進めてきた中で、実績を問わずに設計者選
つこのような動きが広がりつつあります。
今回は逗子市平井竜一市長にお話をうかがいました。また同時に、2 つのプロポーザル事例の設計者で
ある伊藤寛さんと柳澤潤さん、プロポーザル実施に協力したJIA 神奈川の森岡茂夫さん、逗子市緑政
課の森川課長も交えてご意見を交換していただきました。市民、行政、建築家それぞれの高い意識が
(
『JIA MAGAZINE』編集長 古市徹雄)
この成功事例を生み出したことが窺えます。
市民・行政・建築家の高い意識で
これからの建築をつくる
—— プロポーザル方式を活用した逗子市の 2 つの事例 ——
[出席者]
平井竜一(逗子市長)
伊藤 寛(第一運動公園設計者 伊藤寛アトリエ)
柳澤 潤(大谷戸会館設計者 コンテンポラリーズ)
森岡茂夫(JIA 神奈川相談役 アルフィ建築デザイン)
森川和義(逗子市環境都市部緑政課長)
❻
———
[司会]
古市徹雄(
『JIA MAGAZINE』編集長)
■事例の概要
逗子市第一運動公園再整備
古市●最初に、第一運動公園のコンペ当選者伊藤さんと
大谷戸会館の当選者柳澤さんから概要の説明をお願いし
ます。
伊藤●逗子市で一番大きな公園である第一運動公園の再
整備計画です。そこに建物として 2,000m2 ほどの体験学
習施設の設計と、プールのリニューアル、公園全体の再
整備、バリアフリー化、防災拠点としての整備、自然エ
ネルギーの利用などを盛り込んだコンペが立ち上がりま
平井竜一市長
れ、私は「可能です。」と答えました。私たちの案は、平
ジェクトの中で体験学習施設が児童館としても機能する
屋で公園全体にわたって蛇が這っていくような形ですの
よう求められました。とても大きなプロジェクトです。
で、どんな風に位置が変わっても成立するという許容力
審査委員長は飯田善彦先生でした。私たちがコンペに
がありました。市民と協働してやっていく能力があるか、
応募する時に重要視するのは、審査委員がどなたかとい
そして計画案に許容力があるかがとても大事だったのだ
うことがありますが、飯田先生は視野がたいへん広く行
と思います。2010 年 6 月コンペに当選し、契約後基本設
きわたっている建築家ですし、
「よし、頑張ろう」という
計を 2011 年の春までに終わらせました。今は実施設計
気持ちになりました。その他の審査委員の顔ぶれは、ラ
を進めています。
ンドスケープ・アーキテクトの関東学院大学の中津秀之
基本設計をまとめるに当たり、子育てのお母さんたち、
先生、そして逗子市環境都市部長、福祉部長、市民協働
中高生、スポーツ関係、障がいを持ったかたたち、高齢
部担当部長です。
者、防災ボランティアなどの 15 団体の代表者や行政の
プレゼンテーションは A3 図面 2 枚で、文章だけでは
部長クラスが加わった検討委員会を 6 回重ねました。
なく、具体的な提案も求められました。あとは、どの
応募案 77 案のうち、1 次で 7 案に絞られ、公開プレゼン
■事例の概要
逗子市地域活動センター小坪大谷戸会館
テーションが行われました。柳澤さんも二次審査に進ん
柳澤●鎌倉に近い小坪という港町にあるふれあい活動セ
だんです。審査委員からの質問の中で大きなポイントは、
ンターと呼ばれる公民館のような 200m2 ほどの規模の建
ように設計の体制を組むかという書類も提出しました。
こ つぼ
市民と協働して仕事を進めることがちゃんとできるかど
物のプロポーザルが、2011 年 6 月に実施されました。神
うかでした。私たちの提案の中にある体育館のような大
奈川在住の一級建築士なら誰でも申し込めるという、非
きなスペースを、
「市民の要望で他の場所にもっていって
常に自由度の高いプロポーザルコンペで、その条件は第
ほしいといわれたら、できますか?」という質問も出さ
一運動公園も同じでした。
JIA MAGAZINE 276
逗子市 平井竜一市長に聞く
した。逗子としては児童館建設の要望もあり、このプロ
JANUARY 2012 ●
003
プロジェクト名
逗子市第一運動公園再整備
基本計画策定及び基本設計業務
逗子市地域活動センター小坪大谷戸会館
基本設計及び実施設計業務
主催
逗子市環境都市部緑政課
逗子市市民協働部市民協働課
応募資格
⑴神奈川県に 1 級建築士事務所の登録をしている者
⑵応募者は、第 2 次審査までに、逗子市競争入札参加資格者名簿に登録されていること。または、第 2
次審査までに、逗子市競争入札参加資格者名簿登録をするために必要な書類を全て揃え提出できる者
であること。なお、登録のない応募者は、契約までに登録手続きをすること
⑶応募者は、参加意思表明書の提出期限(提出期限の末日)から契約締結までの全期間にわたって、次に
掲げる要件を全て満たす者であること
ア 逗子市一般競争入札参加停止及び指名停止等措置基準に基づく停止措置を受けていないこと
イ 本市の入札参加制限を受けていないこと
スケジュール
プロポーザルコン
平成 22 年 5 月 12 日
ペ実施の公表
平成 23 年 4 月 20 日
提案書の受付期限
平成 22 年 6 月 7 日
平成 23 年 5 月 26 日
第 1 次審査
平成 22 年 6 月 11 日
平成 23 年 6 月 7 日
公開プレゼンテー
シ ョ ン 及 び 第 2 次 平成 22 年 6 月 19 日
審査
審査員
平成 23 年 6 月 18 日
審 査
委員長 : 飯田善彦氏(横浜国立大学大学院建築都市 ・ 審査会議の構成員
スクール教授)
逗子市市民協働部担当部長、経営企画部長、福
委 員 : 中津秀之氏(関東学院大学工学部建築学科准
祉部長、環境都市部長
教授)、逗子市市民協働部担当部長、福祉部長、・ 審査会議アドバイザー
環境都市部長
杉本洋文氏(東海大学教授 ㈱計画・環境建築代表)
第 1 次審査(書類審
審査委員会において参加表明書と提案書を審査し入賞者を 5 者程度決定。なお、審査委員会は非公開
査)審査方法
第 2 次審査
審査方法
第 1 次審査で選考された候補者による公開プレゼンテーション及びヒアリングを実施し、最優秀者及び次
点を選定。
(プレゼンテーション 15 分、ヒアリング 15 分)プレゼンテーション後の審査委員会は非公開
提出書類
・応募者概要書
・応募者概要書
・提案書(様式は自由。A3 横片面 2 枚以内。審査時 ・提案書(様式は自由。A3 横片面 1 枚)
には 2 枚を横並びに並べる)
参加意思表明
85 者
69 者
提案書提出
77 者
63 者
第一次審査入賞者
7名
6名
最優秀者
㈲伊藤寛アトリエ
㈱コンテンポラリーズ
次点
㈲鈴木アトリエ
プラス プロスペクトコッテージ一級建築士事務所
伊藤さんと同様に、私たちは審査委員長が誰かという
というお話でした。当時私
ことがとても大事で、東海大学で木造を専門にされてい
は JIA 神奈川の代表をして
る杉本洋文さんがアドバイザーで入っておられ、あとは
いまして、私と山本理顕さ
逗子市の福祉部、環境都市部、市民協働部、経営企画部
んが呼ばれて、どのように
のかたたちが審査されました。第一運動公園とのちがい
関与させていただけばよい
は、非常に規模が小さいことと、現在既存の古い建物が
のか、まず最初に森川課長
建っていて、その建て替えのプロポーザルということで
のところにお邪魔しました。
した。
市民参加型の設計者選定
63 案提出があったうち、6 案に絞られた中には伊藤さ
にはいろんな形があります
んも入っていらして、最終的に私たち事務所が選ばれま
が、国土交通省が推奨しているのはプロポーザル方式で、
した。2011 年 6 月の公開プレゼンテーションを経て、そ
それを一度提案させていただきたいと市長にお会いした
の後市民と 3 回ほどワークショップをしました。地域の
のが始まりです。
皆さんが、やはり実際に使われるので、とても情熱的で
森川●もともとプロポーザルでいきたいという市長の要
森岡茂夫
す。15 名~ 20 名ほどのワークショップで、こう使った
望がありましたので準備をしていましたが、逗子で建築
方が良いのではないかという議論を 3 回ほど終えて、基
のプロポーザルは初めての試みで、デザインコンペの経
本設計も終わり実施設計に入っている段階です。
験しかなかったのです。その中で事務的にどう進めてい
くのか皆目見当もつきませんでしたが、JIAが主催する
004
●
■ JIA 主催のプロポーザルになったきっかけ
プロポーザルコンペというご提案がありました。
古市● JIAが関与したきっかけを教えてください。
森岡●設計者選定に関しては、われわれの JIAをはじめ
森岡●はじめにお話があったのは逗子市在住の建築家長
建築士会、事務所協会、BCSと一緒に、国土交通省と
島孝一さんからで、平井市長が市民参加型の建築を作り
どうあるべきか、まずは入札をやめるべきだという話し
たいとおっしゃっているので、JIAとして関われないか
合いを進めていました。実際に JIAがサポートをしたの
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012
その能力に長けた人は若い人の中にもいるはずですから、
本理顕さんが当選した横須賀美術館は QBSでやりました。
森岡さんから実績主義を外す条件でと提示されたとき、
しかし、QBSは同種の建物を数年以内に経験していなけ
それはどうぞ、と即答したのです。
ればなりません。
古市●実績主義ですね。
■審査委員の重要さ
森岡●そうなんです。そうすると小さな事務所はなかな
平井●伊藤さん、柳澤さんもおっしゃっていましたが、
か参加できなくなってしまいますので、もっと開かれた
コンペやプロポーザルが成功するには審査委員をどなた
コンペにするために、逗子では足切りがないプロポーザ
にお願いするかが大きいと実感しました。その結果、も
ルを提案させていただきました。
のすごく豊かな能力をお持ちの方々が、77 案、63 案の応
ご存知の通り、国土交通省のマニュアルにプロポーザ
募作の中から選ばれたということは、私自身も大変良い
ルには図版は提出してはいけないとありますが、やはり
体験をさせていただきました。
市民や行政のかたが言葉だけで判断するのは難しいだろ
古市●よく市の幹部のかたなどから「若い人には心配で
頼めない」という意見が聞かれますが、そこは審査委員
の眼力だと思うんです。その意味で人を選ぶという項目
■実績を問わないプロポーザル方式
があっても理解できます。この人だったら間違いなく仕
古市●通常のプロポーザルでは、具体的な案は提出して
事をしてくれるという意味を込めて、今回のお二人も選
はいけなく実績が重視されます。
ばれたと思います。
柳澤●今回のプロポーザルの条件としては、神奈川県の
平井●実績や規模は、グループを組めば、これだけの発
事務所に限定したということぐらいでしょうか。
達した社会においてはいかようにもできますしね。
森岡●森川課長にいくつか提案させていただいたのは、
古市●多数の応募があった実感はいかがでしたか?
公開制と公平性が大事だということですね。また誰もが
森川●森岡さんから神奈川
参加できるといっても、公共建築というものは地域経済
県内の事務所だけでいいの
の活性という目的もあると思いますので、全国の建築士
ではとお話があった時、そ
が参加できるのではなく、神奈川県の建築士に絞ること
れで実際応募があるのだろ
を提案しました。これは平井市長からも「地域密着型の
うかと心配でしたが、蓋を
産業であるべきだ。地域産業の育成という点からもいい
開けてみて驚きました。
だろう」という言葉をいただきました。
古市●これが過去の実績を
古市● 3 月の東日本大震災の後も、地元の建築家が活躍
重んじた条件だとこうはい
しています。今は地域の実情・気候風土に通じたコミュ
かなかったでしょう。しか
ニティアーキテクトが必要とされている時代ですし、地
も審査委員がしっかりしていたので、応募してみようと
域密着型というのは良いと思いますね。
いう人も増えたのではないでしょうか。
森川●それに加えて、このプロポーザルの最大の特徴は
森岡●審査委員も神奈川県下の著名な建築家からお選び
実績を問わなかったということですね。私たち行政は実
しようということはお互いに話し合いました。平井市長
績がないかたにはなかなか頼みにくい状況ですが、森岡
のお考えを具現化できるのは飯田善彦さんが適任だと
❻
——
うということで図版を提出してもらうことにしました。
特集●プロポーザル 方 式 を 考 え る
は横須賀市の高校の体育館がはじまりです。それから山
森川緑政課長
さんから実績を問うと大手の設計事務所かコンサルに
思ってご推薦しました。
なってしまって、なかなか若手が応募できなくなってし
森川●飯田先生も中津先生もすばらしかったです。お話
まうというお話を聞きまして、実績を外し、若い方たち
をうかがってもさすがだなあと感じ入りました。
に公共建築物の設計に携わっていただきたいととても強
く感じました。そこで入札参加についても資格がなくて
■プロポーザルの意義
も応募できるようにしました。
平井●私がなぜプロポザールコンペにこだわったかとい
古市●やはり実績のある設計者は行政にとって安心感が
うのは、私自身の過去の経験が影響しています。議員を
あります。しかし、それが今は必要以上に重視され過ぎ
やっている間、逗子市でいくつかの施設が建設されてき
てひとつの弊害になっています。数多くの実績がなくて
ましたが、その中で一番大きいものは、文化プラザとい
もきちんとした仕事のできる人はたくさんいると思いま
う建物です。これは、文化ホールと図書館、市民交流セ
す。
ンター、地下には温水プール、そして小学校からなる一
平井●私はサラリーマン時代に、商業施設の企画設計の
大複合施設です。基本構想は市民参加でずっとつくって
会社にいたものですから、そこで、建築や設計者のあり
きましたが、それに基づいて、設計者がデザインコンペ
かたや街との関わりかたに対して自分なりに思い入れが
でプランを出してそれを選ぶという形でした。そのとき
あって、設計者のすばらしい能力や個性というのは、規
は設計者とのコミュニケーションが当初想定されておら
模の大小を問わないと思っています。そして、設計者に
ず、すでにデザインができ上がってから後付けで意見を
はコンサルタントもお願いしたいので、設計者の豊かな
聞く形になってしまい、やはり消化不良だったのです。
発想や、そこにある思想、施主の思いをどうやって共有
案の定、市民からは図書館、学校それぞれの施設に対し
できるか、というところで人を選ぶべきだと思います。
て議論が百出して結構紛糾しました。そのときに、市民
誰がトップに立って采配を振るうかが問題であって、
と設計者がコミュニケーションをしながらつくっていく
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012 ●
005
プロセスが絶対に必要だと感じたのです。
森岡さんから、今はこういう時代ですよとアドバイスを
同じコンペでも最初から、市民、設計者、関係者が
いただきました。それで、いったんは RC 造と市民にも
ちゃんとコミュニケーションをとらないと、決して良い
説明していたものを軌道修正して木造にしました。そし
ものにはならない、良いものが仮にできたとしても、使
てアドバイザーに木造の専門家である杉本先生をご紹介
う人の満足度や関わったという思い入れなどが、施設の
いただきまして、ほとんどサービス価格で引き受けてく
中に宿らないと思いました。
ださったんです。プロポーザルという手法を成功させて、
もちろん今までなかった施設ができましたから皆感謝
全国に広めるためのトライアルとして逗子をとらえてく
していますが、大谷戸会館などのように、自分たちがど
ださったのだと思います。
う使いたいのか、それによってどう地域が豊かになるか
というような住民の中のやり取りがあるのとないのとで
■「人+案」で選ぶことが重要
は、全然施設の生き方がちがうんです。そういう経験を
古市●プロポーザル方式で、我々が今問題としている
経て、設計者を選ぶということは、図面を買うのとは全
のは、実績主義と同時に「案を選ぶのではない、人を選
然ちがって、私たちのこの街に対する思いや、利用する
ぶ」と明記してあることです。もちろん当選したあとに
市民の思い、その時の生活スタイルなどについて、市民、
変更があったとしても、その場所において案を出すとい
行政、設計者三者が相まって、またはぶつかり合って考
うことは建築家にとって非常に大事なことです。ところ
えて初めて良いものができるのだと、私はずっとそう
が、現行方式は案は考慮しないというスタンスなのです。
思っていました。
そういいながらも実際には案を出させますし、そういう
だから、設計者を選ぶときは間違いなくプロポーザル
意味では矛盾しています。
コンペですし、それも市民とコミュニケーションをして
平井●もちろん「人」を選んでいますが、出された「案」
いろんなことに柔軟に対応しながら、なおかつ市民の意
はとても大切です。案に込められた設計者としてのフィ
見を収斂していける、ある種のコミュニケーターとして
ロソフィーや技術があって、初めて良い悪いを判断する
の能力をもった人を選びたいのです。
ことが大事で、その案の範囲で柔軟に動くことはあると
しても、やはり案というものがなければ設計者との関係
■ JIAの協力が必要
は成り立たないと思います。
平井●けれども、行政にはプロポーザルコンペのノウハ
今回 2 つの事例を経験してつくづく思うのは、第一運
ウがありません。どういう設計者を選べば良いか、それ
動公園も大谷戸会館もこれはプロポーザル方式ならでは
にはどういったコンペをやれば良いのかががわからない。
の案が出てきて、私たちにはないとても豊かな発想を
選考委員の先生の人選のノウハウもありません。そこで
提示してくれたということです。新鮮な「気づき」があ
JIA 神奈川の森岡さんと長島孝一さんに相談に乗ってい
りました。設計者はやっぱりすごいなあと思いましたね。
ただいたのです。募集の際の基準のありかた、選考する
そしてそれを市民も受け止めて参加してきたわけです。
先生の人選、それらも全面的に JIA 神奈川が協力してく
伊藤●私たち設計者はそれぞれのノウハウや人それぞれ
れて、一流の先生にお願いすることができました。
の人格がありますが、それに逗子という場所との出会い
古市●実は、JIAで行政・民間にかかわらず気軽に相談
が加わって「案」ができてきます。それはいつも同じと
できるコンペの相談窓口のようなコンペセンターを作り
は限らず、いい案ができるときもありますが、そうでな
い時だってあります。ですから「人」はまず重要ですが
たいと思っているのです。
森川●われわれには全然つながりがないものですから、
「案」があることは大事だと思います。
審査委員をどなたにお願いするかが一番気になっていま
柳澤●「案ではなくて、人を選ぶ」というならば、われ
した。そこがとくに JIAのアドバイスをありがたく思っ
われ設計者にすると、
「じゃあ何のために案を出すのか」
たところです。
ということになるんです。今回も「もっと自分たちで自
平井●第一運動公園は逗子の中でも 10 億円規模のビッ
由にしたい」と言う市民のかたもいて、そうなってしま
グプロジェクトですし、それなりに手間暇をかけて考
うとプロポーザルの意味そのものが問われることになっ
えてきました。ところが大谷戸会館は 200m ですから、
てしまいます。せめて「案を尊重しながら人を選ぶ」と
4,000 万円から 5,000 万円の規模です。だからここにど
いうような一文が入るだけで全然違ってくると思うので
こまで手間暇をかけられるか私もたいへん悩みました。
す。それで、われわれのプロポーザルのためにかけたエ
もちろん公共建築であれば、どの規模のものも市民との
ネルギーや案も救われるのではないでしょうか。
2
関係を含めてそういう手間暇をかけることが理想です。
006
●
しかし、予算やスケジュールの制約があって、大谷戸会
■プロポーザルの成功を左右する前準備
館はどうしようということになったのです。そんなとき、
古市●今回のケースではプロポーザルを実施する前に、
森岡さんが全面的に協力して下さったので、比較的短期
市の方でもある程度内容を詰められていたと思います。
間でもプロポーザル方式でできたわけです。
しかし、プロポーザルによっては、設計条件がほとんど
また、大谷戸会館は当初安全性とか耐震性とかいろい
決まっていなくて、案を出しようもないというケースも
ろな面で考えて RC 造を想定していました。ところが、2
ありますので、コンペをやる前に、行政である程度企画
年ぐらい前から、国でも木造を推奨している流れがあっ
を詰めていただかないと難しいかと思います。
て、それは行政にもまだ浸透していないんです。それも
平井●今回は 2 つの建物ともコンペ前の準備期間は結構
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JANUARY 2012
駐輪場
カフェ
多目的室
流水プール
乳幼児プレイルーム
25mプール
簡易防音室
医務室
プール管理施設
駐車場
更衣室
ラウンジ
体験学習施設管理諸室
特集●プロポーザル 方 式 を 考 え る
東側道路
テニスコート
多目的ホール
開かれた交流の場
逗子の街並の骨格を形づくる山と谷戸の縮図として、起伏のある緑の大地を新たに創出します。
その起伏をもつランドスケープに対し、生涯学習施設を
6つのブロックに分けて配置し、貫く一本の道を計画することによって、内部外部を流動的に利用することのできる変化に富んだ交流の場を提案します。
N
体験学習施設
プール管理施設
カフェ
プール管理施設
多目的室(防音)52㎡
乳幼児プレイルーム 96㎡
医務室 32㎡
倉庫
倉庫
倉庫
電気機械室
室外機置き場
スロープ
管理諸室 100㎡
道広場を介して、子供広場やジャブジャブ池、
プールを流動的につ
なぐことにより、内部と外部を一体的に利用することができます。
また、営業期間外のプールは、
フットサルやバスケットのミニコート
といったスポーツの場として使用したり、生涯施設の屋外の多目的
室として使用することで、
より流動的で積極的な関係を喚起します。
カフェ 80㎡
ジャブジャブ池
水道水を循環させる
△
トイレ
+7.0
+7.0
カフェを介した交流
+7.0
屋外テラス
+5.5
25mプール
ラウンジ
多目的室 150㎡
ドッグラン
プール用トイレ
幼児用プール
入口
入口
消毒シャワー
更衣室
多目的室や子供用遊具があるエリアにカフェを計画し、市民活動
の様子、子供たちの遊ぶ様子、
プールの賑わいなどを感じる事の
できる場をつくります。
また、近隣住居エリアからも近いところへ
配置し、地域住民も気軽に利用できるように、既存樹木を生かし
た緑豊かな落着いた空間とします。屋外テラスを設けることで、内
部にとどまらず外部にも開かれた場となります。
屋外テラス
倉庫
室外機置き場
室内トイレ
駐車場
IN
多目的ホールを介した交流
給湯
高さを要する多目的ホールを1. 5m地下に埋め、ボリュームの圧迫
感を抑えると共に屋内スペースからの視線高さと屋内のグラウンド
レベルを近づけることで、多目的ホールからの視線をあまり気にせ
ずドッグランを楽しめたり、多目的ホールを気軽に外から観戦でき
たりといった関係をつくりだします。
プール機械室
経済性 平屋の施設を回廊で繋ぐというシンプルな構成で、地盤・基礎工事も重装備にならず、各棟
は小規模建築対応で建設出来きます。分棟ゆえに必要に即した使用が可能で、
ランニング
コストの削減に寄与できます。軒が出るデザインなので建物の維持管理の上でも有利で
す。
デザインと経済性を両立させた提案です。
配置平面図 S=1:1000
多目的室
25mプール
更衣室
管理諸室
多目的ホール
ジャブジャブ池
乳幼児プレイルーム
駐車場
1500
多目的ホール
冷暖房機械室
設備トレンチ
6500
流水プール
OUT
6700
屋外テラス
❻
——
・地産木材の利用 木材を主体とした構造としますが、開放性を確保する為に部分的に鉄
骨造、
コンクリート造の混構造とします。木材は可能な限り地産木材とします。憩いの場とな
る道広場の床仕上げは木のフローリングとします。
カフェからの眺め
水辺エリアでの交流
室内化可能な道広場
道広場
流水プール
構造
カフェ
各施設をつなぐ一本の道は、同時に広場でもあります。
敷地いっぱいに引き伸ばされたこの道広場は、外部空間と対話し
ながらさまざまな居場所をもたらし、
自由にくつろいだり、親同士
や異世代の自然な語らいの場となります。
入口
△
室内化可能な道広場
多目的ホール 680㎡
CO2の排出削減など環境負荷の低減に配慮し,自然エネルギーの有効活用を図ります。
ま
たこれらは、災害時の代替エネルギーとして利用します。
また、CASBEEの Sランクを目指し
た建物とします。
・太陽光発電の採用 屋根の一部を、飛行機の翼のフラップのように角度を持たせ、太陽
光発電パネルを設置します。
また、諸室へ光をとりこんだり日除けとしても利用します。
・雨水利用 建物ピットに雨水を貯留し、中水として、屋外の散水用や災害時の非常用水と
しての利用を計ります。
・冷暖房負荷の低減 建物断熱性能は次世代省エネルギー基準に従い、換気機器は濃度
によるCO2外気導入制御を採用します。室内化可能な道広場の温度設定は外気と居室の
中間程度とし、冷暖房負荷の低減を計ります。
・省電力化 照明器具はLEDや高効率照明器具を採用し、省電力化を図ります。
・空調方式 多目的ホールは、ランニングコスト、イニシャルコストの面より地中熱利用の空気式床輻射
冷暖房方式を検討します。それ以外の諸室は個別のヒートポンプ式冷暖房方式とします。
屋外機は外から見えにくい場所に設置し、道広場下を設備用ピットとして利用します。
水辺エリア
道広場での交流
機械室
身障者用更衣室+トイレ
プール管理室 84㎡
設備
道広場
入口
3000
20000
多目的ホール断面図
地域住民への配慮
・騒音や圧迫の軽減
大きなヴォリュームの多目的ホールを、
アリーナ、
テニスコートから
連続する敷地西に配置し、
また駐車場を線路側に計画することで、
住居エリアへの騒音や圧迫をおさえます。
災害時の対応
・道広場をインフラとして利用
ブロック分けされた棟を、
それぞれ拠点として活用し、
それらをス
ムーズにつなぐインフラとしてフラットな道広場が機能します。
・内部と外部の流動性を生かした避難者の収容
芝が植えられた外部空間は避難者の収容時に利用でき、加えて道
広場と流動的に行き来できることで、避難者への物資の供給や移
動を図ります。敷地いっぱいに引きのばされた道広場は、広範囲に
わたって外部に面することができ、効果を発します。
2
■逗子市第一運動公園 応募案
ありました。第一運動公園の児童館機能については 5、6
などの制約はありますが、こうしてワークショップや検
年前から中高生を集めてそこで委員会を組織して、その
討委員会で議論を重ねて、皆がそれぞれの立場の違いを
中高生たちに他市の児童館に現地視察に行ってもらい、
共有しながら、ひとつのものに収斂していったというプ
自分たちの新しい施設でどういうことをしたいか、どう
ロセスを経験して、参加する市民も勉強して、設計者の
いう機能と施設が逗子にあったらいいかをずっと積み上
経験と知恵が徐々に皆のなかに浸透していったという体
げていったのです。児童館は公園には作れないので、最
験をすることは大変貴重な時間でしたので、満足度は高
終的に体験学習施設になりました。公園施設の範囲の中
いと受け止めています。
で、これだったら実現できるというものを国交省ともや
柳澤●検討委員会はそれぞれの専門職の方々が集まって
りとりして、その後スポーツ、防災など、いろんな分野
行うものと、それとは別に市民ワークショップは必要だ
の人を集めた委員会を作ったのです。
と思います。それは単にガス抜きのために要望を聞くと
ですから、それぞれが個々に託す夢を何年間かかけて
いうワークショップではなく、設計者と市民の座談会で
積み上げていって、それをどう具現化するかというとこ
も良いと思うんです。そうすることで、何が好きで何が
ろまで来て、いよいよプロポーザルになったわけです。
嫌いなのかというようなその地域のメンタリティーがわ
古市●市である程度要望を詰めて、それに対して設計者
かるんですね。
の思想が入る、さらにそれをベースにもういちど市民と
大谷戸会館の場合はワークショップでしたが、それは
一緒に検討する、これは理想的な進め方だと思います。
結局設計に生きるんですね。これをやってしまったらア
ウトだとか、これを提案すれば逆にいいのかというよう
■市民参加の方法
な。これは一般市民にしかわからないことで、専門職の
伊藤●設計においては過程がとても大事です。いろいろ
かたの考えとはちょっとちがいます。ですから、この 2
な立場の人が要望を述べることで、いろいろな人がこの
つを並行してやればもっと良くなると思います。
建築に関わるんだということを、我々設計者だけでなく
伊藤● 1 か月 1 回 2 時間程
市民も実感できますし、そうした手続きを経ることで建
度の市民を交えた委員会で
築は皆の共有のものになっていきます。第一運動公園で
は、実質的には皆さん一言、
は、それらの過程をきちんと積み重ねることができたと
二言ぐらいしか発言できな
思います。設計者を選んだあとの市民協働の体制も私は
いことになり、その席で合
とても大事だと思います。
意を得て前に進めることは
古市●市民の反応はいかがでしょうか。
かなりむずかしいと思いま
平井●参加された市民は、自分の意見を熱意をもって伝
した。そこで緑政課の森川
えることができて良かったと思います。当然予算や面積
さんにも相談しまして、早
伊藤 寛
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JANUARY 2012 ●
007
■逗子市地域活動センター小坪大谷戸会館 応募案
い時期に各委員のかたに 2 時間ずつくらいインタビュー
とりでも多くの市民が来てくれると、その後のワーク
をさせてもらい、それぞれの考えをまず理解することか
ショップがずいぶん変わると思いました。
ら始めました。
平井●ちょっと先を見据えて地域、社会、街とどういう
それをどう調整するかはわれわれの仕事です。ワーク
関わり合いをもつか、そのための拠点としてこの施設が
ショップでもインタビューでも良いし、とにかくそうい
どうあるべきかということを考えていくことが大事です
う機会をつくることが個人的な信頼にもつながりますし、
よね。最初にこちらから、地域でこういう施設を運営し
お互いを知る意味でも非常に大切だと思います。
てほしいというテーゼを投げかけると、それに呼応して
平井●大谷戸会館は、今までの貸し館としての運営の仕
くれる人と、それは……という人と、いろいろな価値観
方で良いのではないかという人と、もっと市民が運営に
のせめぎ合いがあります。でも将来はこうあるべきだと
関わってオープンカフェのようなものもある新しい地域
いうところに行政も粘り強く働きかけながら地域のいろ
の拠点となるようにしたいという人とがいて、市民同士
んな思いを受け止めて一緒に作っていこうという動きを
の価値観のぶつかり合いもあるのですが、何とかまと
作りつつ、そこに良い設計者のサジェスチョンがあって
まってきているという感じもします。そういう意味でも
コミュニケーションが深まるというのが理想ですよね。
間に立つ設計者の力量が問われて、たいへんでした。
森岡●大きくとらえると、それは東北での復興の問題に
柳澤●最後のワークショップの時に森岡さんが来て下さ
も関わっているような気がします。平常時から市民がま
いましたが、意見のぶつかり合いがすさまじかったです。
ちづくりに参加するという訓練を積んでいないと、大災
また、審査の公開プレゼンテーションに施設を実際に
害時にはじめて市民参加型のプランを作ろうとしてもな
使われる市民のかたたちが来られたことが、とても大き
かなかできるものではありません。大手のコンサルが絵
かったのです。プレゼンテーションを見た人が、
「設計者
を描いて、公共建築を作って市民に納得してもらうとい
はこういうことを考えているのだから、そこのところは
う手続きがあちらこちらで進んでいますが、そういうこ
動かせませんよ、これで考
とではなくて普段から市民自身がまちづくりに参加する
えましょうよ」と他の人に
という試みが大切だと思います。
言って下さり、公開プレゼ
柳澤 潤
008
●
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012
ンテーションで設計者の考
■市長の理解が必要
えを皆さんに知っていただ
古市●プロポーザルの成功には、行政の首長さんがどれ
く意味は非常にあると思い
だけ建築や文化に理解を示されるかも、非常に大きな要
ました。公開プレゼンテー
素だと思います。市長がかつて施設の企画的なことをさ
ションはだいたい建築の関
れていたという経験はとても大きいですね。
係 者 が 来 る の で す が、 ひ
森岡●逗子市のプロポーザルが成功した一番の要因は、
ていらしたところにあると思います。そしてわれわれも
とえば第一運動公園でも大谷戸会館でも、10 年後に建て
それに共鳴して、ひとつの手段としてプロポーザルを提
るのでは違うものができるかもしれない。でも今はこう
案させていただきました。ともすれば、プロポーザル自
いう自分たちの暮らしと、こういう地域にしたいという
体が目的化されてしまうケースもありますが、まちづく
思いがあって、それが形作られている。ただし、できれ
りの一環としての手段としてやられていることが素晴ら
ば今ではなく 5 年ぐらい先を見て議論したいですね。
しいと思います。
その将来のビジョンを示すのは市長であり、豊かなア
平井●あと、私がこだわったのは設計者と直にやること
イデアを提示するのは設計者であるわけですが、参加す
です。伊藤さんとも柳澤さんともそうです。他にも市営
る人はなかなか想像できずに、
「そんなことを言われて
住宅やプールの計画が進んでいますが、その設計者とも
も」だとか「何言われているのかわからない」というよ
同様で、私なりのプロジェクトに対する思いや考えを直
うな議論はたくさんあるんです。
「今まではこうやって
接コミュニケーションしています。伊藤さんとは基本計
きたんだから」という既成価値や既成概念を変えたくな
画の時点で、
「私はこう思う」というお話をさせていただ
い部分が人には往々にしてありますが、今は時代が変わ
いて、それも取り入れていただきました。市民ともそう
り、人の価値観も変わりつつあります。グローバリズム
ですし、私とも考え方を共有して進めていきたいという
の中でどう生きていくか、世界の中で日本人がどう生き
ことは、自分なりにこだわっているところです。
ていくかということも問われていますので、そこを市長
森川●市長は大きな模型の前で、伊藤さんと何度もやり
や建築家がどう先取りして新しい社会像、価値観を問題
とりされていましたね。
提起して、市民に理解してもらうかが重要だと思います。
伊藤●平井市長は、われわれもここの部分はまだ煮詰
古市●建築家は単に建物をつくるだけではなくて、そこ
まっていないなあというところを瞬時にして見抜くんで
に未来のライフスタイルまでを提案していく職業ですよ
す。首長さんと計画の上で議論できるということは、と
ね。
てもうれしいことですし、首長さんの意思を確認できる
平井●もし、その際たとえば自然環境を意識したものに
という意味でも重要です。
したいという条件が加わった時、伊藤さんのところにそ
古市●首長さんの思い入れがあると、現場もやはり引き
のようなスタッフがいなくても、伊藤さんのもつネット
締まります。それは極めて重要なことだと思います。
ワークで誰かとジョイントするという広がりもあります。
❻
——
メージはそのときどきの地域の状況によって変動し、た
特集●プロポーザル 方 式 を 考 え る
平井市長がまちづくりに対するビジョンをきちんと持っ
私たち市民が知らない、プロでないとわからない知識は
■建築家の役割
たくさんありますので、小さい事務所であってもそうい
平井●私は以前シンポジウムに呼ばれた時に、建築家が
うネットワークを駆使して、日本中にいるいろんなノウ
もっと街を語れ、とお話ししたのです。この建物をつ
ハウをもった人たちと一緒にやることで、時代性精神性
くったのは誰かというのは普通は市民にはわかりません
などのこちらのニーズに応えていってもらえる可能性は
が、まちづくりの議論は、今どこの市でも市民の間に広
たくさんあると思います。
がりつつあります。しかしそこに建築家の存在がどこま
古市●大きな事務所ですと、建築設計部門だけではなく
であるかというと、意外にないんですね。逗子は長島孝
構造や設備のセクションがあって全部の部門を擁してい
一さんという一流の建築家が在住されていて、いろいろ
ますが、小さい事務所の場合はケースバイケースでそれ
なご意見をくださいます。それは理想論だと思う場合も
ぞれの専門分野をどの人に頼んで一緒に組もうかといっ
ありますが、理想を語るのが建築家だと思うんです。建
たフォーメーションやチームを考えていきます。それぞ
築家が受注者としてではなく、一市民でもありプロでも
れのスペシャリストを集めて最高のチームをつくろうと
ありという立場でどう地域と関わるかが必要でしょうし、
していきます。
それによって行政も変わってくると思います。一歩先ん
ですから、どんどん要望を出していただいて、その要
じている自治体はたくさんありますので、良い事例を啓
望が高ければ高いほど、環境や景観にふさわしいものが
発していく役割が建築家にも求められるのではないで
生まれてくる可能性が高いと思います。
しょうか。そういう方が関わると街は変わると思います。
平井●その際、市長が最終的に指揮者(コンダクター)と
古市●今回のプロポーザルで選ばれた、たいへんユニー
しての役割を果たすことが理想です。そこがうまくいく
クな施設ができることで市民が「建築は設計思想によっ
と全体を統括できると思います。
て大きく変わってくるもので頑張れば頑張るほど楽し
古市●コンダクターあるいはプロデューサーである市長
く・面白い」という意識を少しでも持っていただければ
は企画を作って予算から指示を出していき、実働部隊で
成功だと思います。
あるチームのディレクターである建築家は与えられた条
平井●高度経済成長以降の社会のあり方のなかで、バブ
件の中で現実的に現場でものをつくっていく、そういう
ルの崩壊、経済不況、大震災など、大きく意識が変わっ
関係ですね。
ていますし揺らいでいます。この中で、社会や地域に
我々の次の生き方や豊かな暮らしを、建築という切り口
■若い建築家を育てるためにも
でどう提示するかがとても重要です。では、果たしてど
古市●今後、プロポーザル実施の予定はございますか。
ういう街にしたいの?ということを行政もそこに参加す
平井●基本は公の施設であれば、トイレであってもプロ
る市民もイメージすることが必要です。もちろんそのイ
ポーザルにするべきだと思いますが、ただ、いかにノウ
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JANUARY 2012 ●
009
ハウを蓄積して、リーズナブルなコストでやれるかです。
平井●第一運動公園も大谷戸会館も住民にはたいへんハ
ある一定期間市民とやりとりをすることは、スケジュー
イレベルなことを求めています。作ったあとにどうここ
リングさえしっかりできていれば可能だと思います。た
に関わって、拠点を活用してそれをプラスαの効果をも
だし行政の場合、ときどき国としての政策方針で交付金
たらすか、これは使う人、運営する人、つまり市民にも
が出る場合もありまして、短期間で竣工しなければなら
問われているわけです。これだけのものを作っても活用
ないというような、外からの制約条件で時間が限られて
できるか、廃れてしまうか、それはある意味コミュニ
しまうものもあります。しかし、できる限りはやってい
ティの力が問われていると思います。また、そういう設
きたいと思っています。
計をお願いしたのです。
古市●トイレなどはぜひやっていただきたいですね。実
は若い人にとって、公共建築の実績を作っていく上では
■逗子の事例をモデルケースに
一番やりやすいものなんですね。建築家はあまり建物の
平井●逗子市の場合は人口が 5 万 8 千人ですし、市役所
大きさにはこだわらず、どんなに小さいものでも心血を
もコンパクトです。市長の目が行き届くのには最適なサ
注ぎます。また、設計条件にコスト条件を付けるといっ
イズかもしれません。自治体の規模は大都市から小さな
たことも可能かと思いますので、このような機会を数多
町村まで入れればさまざまです。したがってその規模や
く作ることが、若者に対しての希望につながりますし、
地域性によっていろいろなあり方があるのだと思います。
日本の力になっていくとも思います。
おそらく人口が 20 万~ 30 万の都市であれば、市長とい
伊藤● 2 ~ 3,000 万円くらいの小さな建築で良いですか
うよりも行政職員の能力や思い、時代を見る目が必要に
ら、できるだけこのようなコンペを実施していただきた
なってくるでしょう。
いと思います。私が実際やってみて思ったのは、市民と
古市●全国の例をみましても、大きな自治体だとフィロ
話をするこのような機会をもって、自分たちも社会のた
ソフィーがなかなか見えてこないような気がします。東
めになることをしたくて設計の世界に入ったと実感でき
京都も都庁舎や東京国際フォーラム以来大きなコンペは
ますし、意識も新たになります。市民も建築をちゃんと
やっていません。むしろ逗子市の方が活発にやられてい
考えている設計者と協働することで意識が変わってくる
て、また最適な規模なのかもしれません。
と思います。建物の規模は大きくても小さくても良いん
逗子市の場合は、平井市長がたいへんご理解がある、
です。建築の総合的なクオリティを上げるためにも、こ
市民と事前に十分な協議が行われていたなど、良い条件
のような機会を作っていただくことはとても大事で、ぜ
が揃っていまして、とても良い例として他の自治体にも
ひ逗子市発祥で広がっていけばとお願いしたいです。
アピールできますね。
平井●ぜひこれを全国に広めていただきたいと思います。
森岡●私も設計者選定に関しては、JIAの中で長く関
わってきましたが、逗子市で実施させていただいたのは
■真の成功事例とするために
かなり理想に近い設計者選定だったと思います。
柳澤●私はプローザル方式がこれからどんどん発達して
平井●やはり首長、市民、職員が活発なところでないと
いって良いと思いますが、でき上がったあと市民がどの
なかなかうまくいきませんから、全国で成功しそうな条
ように使うか、取り組み方や運営の仕方にどう関わって
件が揃っているところから JIAが働きかけてまず始めて
いくかまでいって初めて、プロポーザルの成功例となり
いったら良いのではないでしょうか。それで成功事例が
得るのではないでしょうか。ですから 5 年後 10 年後ま
増えていくと、行政は先例があるとそれに倣っていきま
で設計者が関わっていけるような仕組みを作ることがで
すから。まずは関東からでも良いですが、仕掛けていっ
きればと思います。
た方が良いですよ。
できた時点ではきれいだし、珍しいから皆が利用しま
古市●事前に行政がきちっとプログラムを組んで、条件
すが、本当にそのコミュニティが成熟しないと結局建築
をあまり付けずにプロポーザルを行い、それを審査委員
も生きないので、設計者として関わっていきたいですね。
がきちんと選ぶというのは逗子モデルといってもいい理
古市●それは設計者の方から、メンテナンスの提案をし
想的なケースです。これを全国にもアピールしていきた
たり、どのような使い方をされたいかを議論したり、方
いと思います。
法はいろいろあるのではないでしょうか。そういうこと
今日は本当に長時間、ありがとうございました。
をケースバイケースで提案されて、そこで年間で具体的
にどのくらいの予算をかけられるのか市の方で判断して
いただければたいへんうまくいくのではないでしょうか。
010
●
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012
(2011 年 12 月 5 日 逗子市庁舎にて)
特集●プロポーザル 方 式 を 考 え る
国土交通省は「建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方式及び総合評価落札方式の運用
ガイドライン」を平成 23 年 6 月に改定しました。建築におけるプロポーザル方式等の評価方法につ
いては、技術者の経験年数の評価を行わないことや技術者の実績は1件のみを評価するなど、より
技術提案を重視する内容となっています。
本稿では、建築の主な改定内容について、担当者に紹介していただきました。
国土交通省の
官庁営繕事業における
プロポーザル方式の概要について
❻
——
松尾 徹(国土交通省大臣官房官庁営繕部整備課課長補佐)
1
はじめに
国土交通省の官庁営繕事業に係る設計業務においては、
新築や増築の設計を中心に、原則、プロポーザル方式に
は行わない)としています。
2
運用ガイドラインの改定について
より設計者の選定を行っています。
「建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方
以下に、通常のプロポーザル方式の手続きにおける各
式及び総合評価落札方式の運用ガイドライン」
(以下「運
段階での評価項目等を示します。
用ガイドライン」)については、
「設計コンサルタント業
務等成果の向上に関する懇談会」
(座長:小澤一雅東京
①技術提案書の提出者の選定段階
大学大学院工学系研究科教授)において平成 21 年 3 月に
近年、プロポーザル方式の参加者を公募して行うケー
とりまとめられました。
スが多くなっています。その場合、まず参加表明者を対
その後、運用ガイドラインの実施状況及び「調査・設
象に、評価基準に基づき参加表明書の審査を行い、技術
計等分野における品質確保に関する懇談会」
(座長:小
提案書の提出者を 5 者程度選定し、技術提案書の提出を
澤一雅教授)における検討事項等を踏まえて平成 23 年 6
依頼します。
月に運用ガイドラインを改定しました。
【評価項目】
◦資格
◦技術力(業務実績、業務成績)
運用ガイドラインは、土木と建築を対象としています
が、本稿では建築関係の主な改定内容を紹介します。
運 用 ガ イ ド ラ イ ン は、 国 土 交 通 省 の ホ ー ム ペ ー
ジ( http://www.mlit.go.jp/tec/nyuusatu/keiyaku/
201106/110630guideline.pdf)に 掲 載 し て い ま す の で、
②技術提案書の特定段階
プロポーザルへの参加にあたって参考としていただけれ
技術提案書について、評価基準に基づき、技術的に最
ばと思います。
適なものを特定します。技術提案書等の特定にあたって
なお、プロポーザルにあたっての具体的な条件、テー
は、原則として配置予定技術者に技術提案書の内容につ
マ、評価基準等は、個々の業務内容に応じて設定されま
いてヒアリングを実施します。
すので、公示文や説明書をよく確認して下さい。
【評価項目】
◦資格
◦技術力(業務実績、業務成績、CPD)
◦業務実施方針及び手法(業務の理解度及び取
組意欲、業務の実施方針、評価テーマに対
する技術提案)
建設コンサルタント業務等における
プロポーザル方式及び総合評価落札方式の
運用ガイドライン
選定段階・特定段階における評価基準の決定、選定・
特定は、地方整備局等に設置された建設コンサルタント
選定委員会において行います。
プロポーザル方式の手続き終了後は、特定された者と
予定価格の範囲内で契約を行います。
なお、選定段階・特定段階ともに、資格及び技術力の
評価は、技術者を対象とした評価(建築士事務所の評価
平成 23 年6月
調査・設計等分野における品質確保に関する懇談会
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012 ●
011
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※ 1 国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する法律(平成 19 年法律第 56 号)
※ 2 耐震改修実施設計、大規模な改修実施設計等で、提案を反映して仕様を確定する必要がある実施設計
※ 3 ※ 2 以外の実施設計
※ 4 設計競技方式については上図によらないものとする
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※本発注方式事例は、業務内容と発注方式の関係を模式的に示したもので、
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標準的な業務内容に応じた発注方式事例【建築】
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発注量を示したものではない。
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3 建築関係の主な改定内容
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技術提案及び業務成績を重視し、以下の見直しを行い
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ました。
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①評価項目及び評価のウエイト
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「技術者の経験年数」を評価しないこととした。
・技術提案等の配点割合を高くした。
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・担当技術者を評価しないこととした。
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②同種または類似業務の実績の評価方法
・実績は 1 件のみ評価することとした。
(従前は、最
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大 3 件を評価し、件数が多いほど高評価としていた)
・契約履行が完了した実績を評価することとした。
(従
前は、施設が完成していることが条件であった)
・主任担当技術者及び担当技術者として携わった実績
の評価を高くすることとした。
(携わった立場での
評価の差を小さくした)
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プロポーザル方式
(建築)における技術評価の基本的な考え方
※ガイドラインより抜粋(一部、本稿用に加工)
・類似業務の評価を高くすることとした。
(同種業務
と類似業務の評価の差を小さくした)
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4
その他の改定内容(建築・土木共通)
・標準的な業務内容に応じた発注方式事例について、
概念図(建築は平成 23 年 4 月 1 日より適用)を掲載
しました。
③成績評定の評価対象
・国土交通省官庁営繕部、各地方整備局営繕部、北海
●
JIA MAGAZINE 276
の一部を総合評価落札方式で実施するものであり、
道開発局営繕部及び内閣府沖縄総合事務局営繕課実
プロポーザル方式の対象業務の範囲は変わっていま
施の成績を評価することとした。
(今後、業務成績
せん)
を相互利用する機関を追加して評価していく予定)
012
(建築においては、従前の価格競争方式の対象業務
JANUARY 2012
特集●プロポーザル 方 式 を 考 え る
特別寄稿
設計入札は日本の恥である
出江 寛(建築家)
前号(『JIA MAGAZINE』275 号)で、特集「プロポーザル方式を考える」に対する特別寄稿として
出江寛氏の「あと数年で建築家は亡びる(JIAが JIAでなくなる時)」を掲載しました。出江氏に
執筆していただいた原稿の後半部分には、設計入札制度の問題点についてのお考えもありまし
(
『JIA MAGAZINE』編集長 古市徹雄)
た。その部分を後編として掲載いたします。
した「南蒲田 2 丁目第 2 団地」の新築基本設計で、アイ
日本文化を貶める設計入札をいつまで放置しておくのか
エムエー都市建築研究所(東京都目黒区)が受注した。
建築設計とは美学・哲学・技術の結晶である。設計図
所管の東京都都市整備局は、今夏に複数の改善策を打
は物でもないし単純な労務の積み重ねでできるものでも
ち出したことで業界側の自制を促す狙いもあったが、あ
ない。会計法の入札制度は、本来 “ 物品の購入 ”や “ 役
らためて発注手続きの制度改革に注力する方針だ。
務の提供 ”を対象としているのであり、
「建築設計」に入
行き過ぎた安値受注に歯止めを掛けるため都が今夏に
札制度を適用するのは全く理不尽なことなのである。
固めた対策の内容は、
しかも、設計入札というやり方は設計者を談合という
・プロポーザルを導入する
「犯罪」と設計業界全体を貶める「ダンピング」を生み出
・総合評価を導入する
す最悪の社会システムであり、同時に、設計において最
・最低制限価格を設定する
も重要なデザイン、芸術、技術といった創造性を退化さ
・特命随意契約を廃止する
せるものである。入札システムが生み出す退屈な建築は
・管理技術者の配置・実績の要件化
都市景観を著しく劣化させることになり、そして「談合」
・基本・実施設計を一括発注する
や「ダンピング」が結果的に国民の不利益を招くことに
このうち、管理技術者の配置・実績の要件化は、14 日
なる。
に公告した足立区と江東区の団地の新築基本設計から全
建築設計は、多くの知識とインスピレーションと経験
対象案件に適用する。
に基づいた知的文化活動で、大変な手間と時間のかかる
基本・実施設計の一括発注も 17 日に公告した江戸川
作業であり、建築は、民間のものであれ、公共のもので
区の団地の同種業務など一部案件で適用を始めた。
あれ、社会と文化、都市環境に多大な影響を与えるもの
その他の取り組みは来年度から実施する。」
である。日本の文化資産である建築を安けりゃ何でもい
❻
——
■“怒れ!”
(2011 年 10 月 26 日付『日刊建設工業新聞』の掲載記事より)
いという考え方に支配されているようでは、いつまで
経っても日本は文化国家とはいえない。先進諸外国には
■ JIAの恥
何処にも見当たらない恥じるべき制度である。
この新聞記事を読み、私は怒りを通り越して情けなく
最近、実際に起こったバカげた話を一つしよう。
なった。なぜなら、1 円で契約した設計者が JIAの会員で
あるからだ。2004 年に某組織事務所が予定価格 3,600 万
■東京都/ついに出た !! 1円契約
(『日刊建設工業新聞』2011.10.26)
「東京都が発注する都営住宅の建築基本設計で著しい低
円のところを 8,366 円という安値で落札したダンピング
問題で、JIAでは入札制度を重く問題視し、反対をして
いたにもかかわらず、このようなことが再度起きたこと
価格受注が相次いでいる問題で、ついに契約額が「1 円」
が本当に情けない。
という超安値受注が起きた。
1 円の入札者の某設計事務所・代表 Y 氏は、1 円で都市
都営住宅の建築設計では、基本設計を受託すれば、そ
や建築をつくる研究をしているのでしょうか。Yさん、1
れに続く実施設計を特命随意契約で受託できるため、基
円では絶対に都市や建築はできませんよ。
本設計を安値で獲得し、実施設計で元を取るという業者
実施設計の報酬があるからといって、建築にとって最
が少なくない。昨年 10 月に指名型から公募型の見積も
も大切な基本設計を貴方は軽んじ過ぎである。1 円や 10
り合わせに変更した後は特に低価格化が進行。
円で受注するという精神では、決して美しい建築や街づ
本年度に入り、1,000 円で契約した案件が相次いだほ
くりはできません。また、設計業界全体を貶める最低の
か、9 月から今月にかけて 10 円で契約した案件が 2 件発
行為です。1 円や 10 円で仕事をやろうという事務所はも
生していた。都は今夏、複数の改善策を打ち出し業界側
う、設計事務所をお辞めになったらどうですか。こんな
の自制を促してきたが、対策の効果が出るにはまだしば
倫理観のない人間は即刻 JIAから出て行って欲しい。建
らく時間がかかりそうだ。
築家の風上にも置けない存在である。武士は食わねど高
「1 円契約」案件は 24 日に公募見積もり合わせを実施
楊枝で、どんなに苦しくてもこんな倫理観のないことは
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012 ●
013
おやめなさい。
わらず、確認申請の煩雑化、定期講習の義務化、罰則の
JIAはこの問題をどうするつもりだろうか。ぜひ回答
強化等々、義務と責任ばかり重くなっている。建築瑕疵
をお聞きしたい。厳しい対処をお願いします。
に対する責任をとるべく、賠償責任保険に加入しようと
しても、適切な設計監理報酬が得られていないために高
■東京都/ 1 円契約(たこ焼 1 個 20 円より安い)
度な保険に入ることもできないのが現状である。
アハハ…
そして東京都にも怒りがこみ上げてくる。記事の中で
■重要事項による設計料の実効性を高める
「昨年(2010 年)10 月に指名型から公募型に変更した後は
以前、設計料の実効性を上げるため、重要事項説明を
特に低価格化が進行した。」とあるが、なぜ公募型にし
確認申請時に添付することは可能かどうかを大阪府に相
た時点で、最低金額の設定を条件にしなかったのだろう
談をしたが「業務報酬は建築士法であり、確認申請は建
か。東京都は、指名型が良いように見せるために、一度
築基準法であるため、建築士法で決められた内容を建築
公募型にすることで低価格化する公募型入札制度を否定
基準法でチェックすることはできない」との見解であっ
しようとしたのではないだろうかと、疑いたくなる。な
た。
ぜなら、指名型は役所の都合のいい設計事務所を指名し、
それならば、建築士法で業務報酬をチェックして確認
その中で受注してくれることが一番楽に進むからである。
申請時に添付すればよい。我々にとって重要事項説明の
また、2011 年夏に安値受注の歯止めの対策を固めたに
中で一番大切なのは「設計契約金(報酬)」である。1 円や
もかかわらず、9 月には 2 件も 10 円で入札した設計事務
10 円のように誰が考えても非常識な設計料を重要事項
所に発注をしている。東京都は「来年度から対策を実施
と言えるのだろうか。
する」とあるが、こんな非常識な業務報酬で決定するよ
重要事項というのなら、その契約金が国の定めた設計
うな入札制度なんかはすぐにやめるのが東京都の正義で
報酬基準に合っているのか、または建築士法で設計料の
はないだろうか。1 円や 10 円の非常識な値段で入札する
最低基準を設け、少なくともその最低基準をクリアして
者はその場で失格とすべきである。たこ焼き 1 個ですら
いるかを建築士法でチェックし、クリアしたものを確認
20 円はするだろう。立派な大学を卒業されているお役
申請に添付する。設計料の最低基準は、先に記したよう
所の方々なら、法で定められた最低賃金も守れない入札
に、2012 年度に東京都が設定する最低制限価格を参考に
額を提示した設計事務所を排除するのは常識ではないか。
して決めればよい。この法制化が進めば、我々の設計料
情けないことだ。
の実効性は高まる。
前号のプロポ改革意見でも書いたが、繰り返して言い
設計報酬基準で定められた設計料をいただくことで、
たい。
高度な賠償責任保険の加入率も上がり、国民も我々も安
「グロピウスが原点で “ 箱物 ”が始まり、お役所では、
心でき、建築家に対しての信頼が高まるだろう。
建築を “ 箱物、箱物 ”と貶めて呼ぶようになった。
現在、重要事項説明が義務化されている。重要事項と
建築家は入札という自己を貶める行為は絶対にしては
いうのなら、我々設計者に義務と責任ばかりを押し付け
いけない。入札に参加する事務所は、
「箱物事務所」と呼
るだけではなく、国も責任を持って法的に説明内容を
ぶべきである。残念なことに JIAにも「箱物事務所」に
チェックし、実効性のあるものにする義務がある。今の
所属する者がいることが本当に嘆かわしい。入札に参加
国の制度に憤りを感じる。
する JIA 会員はすぐに除名すべきだ。
韓国や台湾では着工時に契約書の添付が義務化されて
建築設計は物ではないのだ。会計法は “ 物品 ”を対象
いる。何故日本ではできないのだろうか。研究すべきで
としているのであり、
「建築設計」は物品ではない。
「建築
ある。
設計」を「物」扱いしていること自体が全く理不尽であ
全ての設計者のために JIAは、設計報酬の実効性を確
る。 “ 建築 ”が会計法に蹂躪されている間は「物品」とし
実なものにするため、他の四会と共同し、国交省に働き
ての価値にしか見られない。我々はこの入札制度を絶対
かけてほしい。
に撤廃し、そして、公共建築は実績主義のプロポーザル
や QBSではなく、公平なコンペティションやエスキー
ス(簡易)コンペとし、当選者に国の定めた設計報酬を支
払うべきだ。」
■義務と責任ばかり重い理不尽な設計料
国交省は設計報酬基準・告示 1206 号を見直し、設計
報酬基準は UPに改善されたが、問題なのはそれを正し
く得られる法改正が伴っていないことだ(医療の世界は診
察料として必ず支払われる法体系ができている)。実際新し
い基準で設計料を計算したところで、法制化されていな
いため、実効性がなく今までと何ら変わらない。絵に描
いた餅である。
そして、設計料はまともに貰えていない現状にもかか
014
●
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012
出江 寛(いずえ かん)
1931 年京都生まれ
前日本建築家協会会長
京都大学施設部、竹中工務店設計副部長を経て出江建築事務所開設
支部便り
北陸支部
福井地域会
中村好文氏による建築文化講演会
氏のユニークな暮らし方や建築の考え方を知る
2011 年 12 月 3 日㈯、福井県立図書館において、地域会におけ
る冬の恒例になっている、夏休み児童絵画コンクールの優秀作品
その他七輪を使った料理や、手作りの燻製ハムの話など、氏の
表彰式と、建築文化講演会が開催され、約 200 名ほどの参加があ
生活の一端を垣間見ることのできる前半でした。
りました。
後半は北海道のニセコにある若いパン屋さんの話で、パン屋さん
夏休み児童絵画コンクールは今回で 10 回目を迎え、福井県内
からの設計依頼の手紙に始まり、その建設についての内容でした。
の小学生から 300 を超える応募があり、会員一同による厳正な審
起工式における餅まきならぬパン撒き、神棚に供えられた鏡餅
査によってそのなかから 15 点の優秀作品を選定し(通常は 10 点
風のパンや、天井が高く、上からのやわらかい光が差し込むチャ
程度のところ、今年は力作が多く 15 点となる)表彰するものです。
ペルのような工房があり、その火入れ式の時のリュートを弾いて
つづいて中村好文氏の講演会が行われました。講演は 2 部に分
のお祝いの様子がありました。
かれていて、前半は中村氏の浅間山麓にある氏とその仲間による
一流のフランス料理店で腕を磨いたシェフでもあるご主人によ
手作りの山荘と、そこでの過ごし方についての内容でした。20 坪
る、フランスパン(ブールのようなもの)のやわらかい中身をく
足らずの山荘でソファーを改造したり、さまざまな配置を工夫し
り抜いた部分でつくったサンドイッチや、サラダなどおいしそう
て 15 人程の仲間が寝る様子が紹介されました。
な料理がたくさん出てきました。
また別棟になっている 1 坪足らずの浴室、これは半分が五右衛
この講演は中村氏のふだんの生活、仲間と一緒に行われる製作
門風呂で半分が脱衣室兼、氏の書斎兼寝室でした。書斎は掘りご
過程、風景を紹介することにより、その建築に対
たつになっていて、床下は五右衛門風呂を温めるための釜場と
する考え方を浮き彫りにするといった、とてもユ
なって、床暖式の暖をとれる仕組みです。そこには浅間山や街へ
ニークな建築講演でした。
のすばらしく眺望の効く窓が開けられていました。
五十嵐清人(福井地域会代表)
富山地域会
「とやまデザイン講座 2011」
建築の安全性と省エネルギーをテーマに 5 回連続で実施
東日本大震災は、日本がこれまで経験したことのない地震でし
例に構造をわかりやすく話
た。このことで構造と環境は大きくクローズアップされることに
していただきました。
なり、建築の安全性と省エネルギーは我々建築に従事するものに
とって欠かすことのできない課題となりました。このようなこと
「とやま
から JIA 富山地域会では、経験豊かな講師陣をお招きし、
デザイン講座 2011」と題して 5 回の連続講座を開催することにし
第3回「究極の省エネ社会における住まいのあり方- Forward
to 1985 運動とからめて-」
講師:野池政宏氏(住まいと環境社代表/岐阜県立森林文化アカ
デミー非常勤講師)
ました。講座は構造が 3 回、環境が 2 回で、会員だけでなく会員
豊かで人間的な暮らしができる究極の省エネルギー社会の創出
外からも広く募集し、受講者が受入れやすいように建築のデザイ
を目指す「Forward to 1985 運動」のきっかけや活動への思いを
ンと結び付けながら行うことにしました。定員 40 名のところ 80
熱く語っていただきました。そして、パッシブデザインを定量的
名近くの参加者があり、県外からも来ていただいています。これ
に項目を立てて具体的に解説していただきました。
まで開催した 4 回の講座内容を簡単にご紹介します。
第4回「なんじょう ほうぼう日記」
第 1 回「ナチュラル・サスティナブル-生きる建築のすがた-」
講師 名和研二氏(なわけんジム|すわ製作所/構造家)
講師:彦根アンドレア氏(彦根建築設計事務所/建築家)
違った視点で建築構造計画をしていきたい、とお話が始まり、
ご自身の生い立ちや、作品の工夫、苦労などを交ぜながら「自
鋼管杭をそのまま上部でフレーム接続した例、江田島の資源活用
然・設備・建築」をやさしく和やかに解説していただきました。
でできた大きなコンクリートブロックを採用して積み上げた例、
最後に、
「どうやって直せばいいのかの方法もわからない自然を、
木材を一般的な構造材として考えた例など、土地の状況、使用す
これ以上壊さないでほしい」という少女のスピーチ映像で講演は
る材料に応じた建築構造を考えていると話されました。
終了しました。
第2回「建築の組成」
講師:大野博史氏(オーノ JAPAN /構造家)
受講者の皆さんはとても熱心で、メモを取っておられる方が多
くみられました。この後、第 5 回として構造家の佐藤淳氏をお招
今年度「日本構造デザイン賞」を受賞された氏は、意匠設計者
きし、テーマ「多様な素材による多様な形態を並列に見る」と題
の思いに最大限に応えるため基本設計の段階から入るが、そのこ
してお話をしていただく予定になっております
とで設計者は構造の考え方がより身に付き、建物の創造性がより
が、最後まで充実した講座になるよう努めてい
膨らむと語られました。建物が遊具になっている「ふじようちえ
きたいと思っております。
ん増築棟」や、森のリビングともいえる「森のピロティ」などを
大野博和(富山地域会代表)
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012 ●
015
支部便り
北陸支部
石川地域会
JIAいしかわ建築大賞 —創設から現在まで—
■いしかわ建築大賞の創設 —透明性公開性を重視する—
選考委員を設けて選考時が公開されずにクローズして決められて
JIAいしかわ建築大賞は、私が地域会代表幹事を務めていた時
いく賞とは異なるもので、会員同士の透明な議論・投票でオープ
創設しました。当時石川では(現在も変わりありませんが)石川
ンに決める賞です。この賞を通じて、会員が「時代が求める優れ
建築賞、金沢都市美賞等数々の建築賞がありました。応募者とし
た建築デザインとは何か」について考察し研鑽し、さらには市民
て共通して感じていたことは、選考過程が明らかではないという
へ「優れた建築とはどのようなものであり、それを選んだ価値観
ことでした。もちろん各主催団体内部では公明正大に審査されて
とは何か」をアピールしています。毎年行われて
いると思いますが、応募する側にそのことがわかる仕組みになっ
いる「いしかわ建築大賞」、会員の刺激になって
ていないと感じていました。そういうことから透明性公開性を重
いますし、市民に少しずつ浸透しています。
視した、既存のものとは全く違った建築賞を JIAで制定したいと
木田智滋(石川地域会 事業Ⅲ委員)
考え、1 年間議論を重ねました。その結果、創設趣旨を全うでき
る案を 2 案に絞りました。ひとつは著名な建築家に審査を依頼し、
■ 2 年目の挑戦 —
「市民賞」の創設—
その方の建築観で選定していただくというもの、もうひとつは会
JIAに入会して突然、事業Ⅲ
員全員で優れた作品を選定しようというものでした。その中で前
の委員長となり、
「JIAいしかわ
者は JIAの他支部においても実施されていることもあり新しさが
建 築 大 賞」
(以 下「建 築 大 賞」
)
感じられないことから、会員みんなで選ぶという極めてユニーク
の 2 年目をとりまとめることに
な賞の制定に落ち着きました。
なりました。最初の委員会にて
地域の建築家がプロの目で見て最も感動を与えた建築に賞を与
西川北陸支部長に「建築大賞」
え、社会にアピールしていくことを目的にしており、審査も全
を創設した、1 年目にかけた思
て公開にしています。会員の投票による一次審査で 3 点にしぼり、
いをうかがいました。既成の賞
それらの作品の現地見学会を経て最終審査を行います。最終審査
に対して不満に思ってらっしゃ
では設計者が自らプレゼンテーションを行い会員全員で地域の建
るのは、選考における透明性が
築を論じます。審査過程を通してみんなで建築を語ることがこの
確立されていないことと受け取
賞のもう一つの大きな特徴です。
りました。それが、
「会員が会員
今まで 4 回の実施を経て運営上の問題もたくさ
を選ぶ」という、ユニークな賞
んあることを実感していますが、そういった問題
につながっているのです。
点を改善しながら、更なる発展を目指していきた
緻密な要項は踏襲し、支部長
いと思います。
西川英治(北陸支部支部長)
第 2 回大賞・市民賞
「長池の家」谷重義行
の透明性の確立への思いと、地
域への建築文化の浸透をめざし
■本賞の特徴 —会員全員が審査する—
て、2 年目の挑戦として、審査
本賞の大きな目的は、会員の建築設
と表彰式を公開にして、市民に
計への研鑽と、市民への建築家の職能
開かれたイベントにしていくこ
や発想・価値観を広めることにありま
とになりました。公開審査・表
す。特徴としては、会員が設計した建
彰式は、2009 年 11 月 23 日に金
築を会員全員で審査していくものです。
沢 21 世紀美術館ホールにて行
第 2 回賛助会賞
「清川町の家」安田 均
プロセスは決められた様式で設計者が
われました。大勢の市民が参加
応募図書を提出し、一次審査、現地審
され、満席の盛況となりました。
査、全会員の議論会、二次審査を経て
公開審査会は会員が受賞す
大賞を決めていきます。一次審査では、
る「建築大賞」の審査過程を市
デザイン性・社会性・技術面等の基準
民に体験していただくもので
で投票し上位 3 作品を決め、次にそれ
す。それだけでは参加感がうす
ら作品の現地審査
第 1 回大賞
「箔座ひかり藏」水野一郎
最終審査会
く、市民も最終審査の 3 作品に
を経て、全会員に
投票してもらう「市民賞」を設けました。集客のために始めたこ
よる考察・議論を
の「市民賞」も「建築大賞」に並ぶ賞として、2011 年の 4 回目まで
交わし、最終の二
発展してきています。2 年目の挑戦のシンボルと
次審査の投票にて
しての「市民賞」の創設を担当委員長として自負
賞が決定されます。
している次第です。
このプロセスは、
多くの他の建築賞
松本 大(石川地域会 事業Ⅲ委員)
等で行われている
016
●
JIA MAGAZINE 276
第 1 回賛助会賞「北金沢の古民家再生」赤坂 攻
JANUARY 2012
■臨場感 —市民賞に公開開票を導入—
投票率の向上です。応募の少なさは
公開審査の会場に来ていただいた市民の方々にも建築大賞への
委員の「声かけ運動」でなんとか賄っ
投票をしていただこうと、第 2 回より発足した「市民賞」は、第 3
ても、会員の投票が少なくては「会員
回ではさらに臨場感を持たせるため、
「公開開票」となりました。
が選ぶ賞」の意味がありません。その
ために応募様式から見直し、ホーム
ページでの応募作品の公開や匿名性
を守りつつ、メール・FAXでの投票
方法も検討しました。
本年度の公開審査会・表彰式の
案内チラシ
もうひとつは社会
へ大きく開くため
公開プレゼンテーション
公開開票
の「市民賞」の充実
です。当初、市民に
近い感覚で選ぶこと
を目的に賛助企業の
方々が参加する「賛
助会員賞」を設けま
第 4 回大賞 「本宮保育園」谷重義行
し た。2 年 目 か ら は
さらに、最終審査を
公開審査として、そ
の場で参加された
第 3 回大賞・市民賞 「加賀市立湖北小学校」長村峰行
市民の方が選ぶ「市
民賞」を創りました。
会場では対象 3 作品から 1 作
今年は「賛助会員も
品を選定する緊張感が、会員、
大切な会員」という
準会員はもとより、一般の方々
北陸支部のスタンス
にも伝わり、開票では 1 票 1 票
から、賛助会員も準会員同様に大賞の選出に加わってもらい「賛
読み上げられるたびにどよめき
助会員賞」を取り止めました。
第 4 回市民賞 「白帆台の家」戸井建一郎
が起こるほど、参加しているこ
とが肌で感じられる開票となり
ま し た。 そ の 結 果、 会 員、 準
会員の選定した「いしかわ建築
大賞」受賞作品とは異なる作品
第 3 回賛助会賞・市民賞
「笠舞本町の家」谷重義行
が選ばれ、設計
のプロと一般の
公開プレゼンテーション
作品公開(金沢駅地下広場)
方々との意識の違いが鮮明に表れる結果となりま
「市民賞」は、広く社会に対して、JIAの活動と「いしかわ建築
した。
大賞」の目的と意義を伝えるために全ての応募作品を公開し、審
安田 均(石川地域会 事業Ⅲ委員)
査会を開催し、市民の皆さんの投票により決定するものと明確に
■4年目の試行 —より定着し充実した賞を目指す—
位置付けました。審査基準も市民の皆さんに最も刺激と感動と
石川地域会には事業を推進する 3 つの委員会があります。2011
興味を与えた建築として、公開審査会では応募者全員にプレゼン
年から「いしかわ建築大賞」を担当する「事業Ⅲ委員会」に自主的
テーションをお願いしました。さらに作品公開をホームページだ
に参加しました。その理由は「賞創設の意義、賞の目的」に疑問
けではなく、試験的に金沢駅もてなしドームやデパート通路、中
があるのではなく、他の事業委員会に比べて社会に開くという観
心商店街空き店舗などを無償利用して行いました。それに加え、
点と催事としての盛り上がりに欠けているからです。なんとか楽
金沢 21 世紀美術館の集客力もあり、公開審査会には大勢の市民
しくできないものかと参加しました。
の皆さんに参加していただき、盛り上げることができました。
毎年、作品募集・告知・一次投票・最終審査・結果公開に対し
賞の公平性・公開性など、どこまでできたかの評価は将来に任
て、委員会では委員のいろいろな意見をもとに協議、運営してい
せるとして、今後も会員・委員会で切磋琢磨して
ます。JIAでの新しい自主的な賞ということで、試行錯誤を繰り
素晴らしい「JIAいしかわ建築大賞」となることを
返し立派な賞に発達していくことは大切なことだと思います。
目指します。
さて、2011 年の委員会では 2 つの方針を立てました。ひとつは
清水 純(石川地域会 事業Ⅲ委員)
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012 ●
017
支部便り
近畿支部
JIA 近畿支部とKIA 釜山建築家会との交流
3 年 3ヵ月を迎えた交流の歩み
■釜山建築家会からの呼び掛けがきっかけに
韓国建築家協会(KIA)の釜山支部である釜山建築家会と JIA 近
畿支部との国際交流は、2008 年 10 月 28 日の調印式から数えてこ
の 1 月で 3 年 3 ヵ月を迎えている。その間、回を重ねるごとに交
流の中身は進化してきたが、その過程で「継続は力である」こと、
「人あっての交流である」ことを実感させられている。その意味で、
我々以上の熱意を持って継続的に取り組んでこられた釜山建築家
会の皆さんに敬意を表したい。
そもそもこの交流は釜山建築家会からの呼び掛けでスタートし
た。その当時の許会長、申副会長を中心にした釜山建築家会の執
2011 年釜山国際建築文化祭 開会式
行部は、今でもほとんど変わっておらず、さらに日本語が堪能な
したものの優秀賞を受賞した。またその際に今後の交流事業のあ
田氏が国際委員長から副会長になられたことで、交流の要として
り方に対する意見交換を行い、形式的・儀礼的な交流は最小限に
の役割を強化されている。一方近畿支部では、調印時点の支部長
抑え実のある交流に重点を置くこと、言葉の壁が大きく不完全燃
は吉羽氏で私はその後任であるが、国際委員長も庄野氏から荒谷
焼のきらいのあったデザイントークをしばらく中止することが決
氏に代わっている。しかし両氏には国際委員会委員として、その
められた。 後の交流の場でも重要な役割を担っていただいている。
その結果 2011 年には、日本でワークショップを、韓国で釜山
建築大展コンペと日韓作品パネル展を行うことになった。釜山
■ワークショップとデザイントークの交互開催からスタート
[architecture]に接頭語「Re」を付け、語尾の「r」
建築大展では、
具体的交流は、ワークショップとデザイントークとを、日韓交
を大文字にした造語「RearchitectuRe」という、より抽象度の高
互に開催することから始められた。ワークショップは日韓それぞ
いテーマが設定され、参加 2 年目にして日本の学生が大賞を受賞
れの若手の建築家と建築系大学院生 10 人の計 20 人が、日韓 2 人
した。その応募作品は、第 2 回日韓作品パネル展と併せ釜山国際
ずつ 4 人から成る混成チームを結成し、5チームそれぞれで案を
建築文化祭で展示されている。また大阪で行ったワークショップ
まとめ発表するものである。またデザイントークは近畿支部で長
では、まさに事業の企画検討が始まろうとしている大阪港中央突
らく続けている企画の国際バージョンで、実績のある建築家によ
堤を対象にした「WATER FRONT SPACE」というテーマを設定
る自作のプレゼンテーションを、複数のコメンテーターが批評し
し、当事者である大阪市港湾局臨海地域活性化室長にも審査に参
議論するものである。
加していただいた。言葉の壁をものともせず短時間でまとめられ
2009 年には「町家が残る地域の活性化」をテーマにしたワーク
た提案は、室長を驚嘆させたようである。
ショップを京都で行い、釜山では釜山国際建築文化祭の 1 行事と
して、日本からも発表者とコメンテーターが参加する形のデザイ
■交流の今後と新たな課題
ントークを行っている。
このような交流を通して痛感するのは、先行する日本から韓国
2010 年には、韓国から発表者とコメンテーターを招いたデ
が学ぶという状況がとっくに終わりを遂げ、相互が対等な関係の
ザイントークと日韓作品パネル展を大阪で開催し、釜山では
中で学び合う状況が確実に育っていることである。さらに言えば、
(地域コミュニティを持続できる密集
「HARMONY PROJECT」
建築を都市戦略の重要な要素として捉え、釜山広域市と設計者、
市街地の再生)というテーマでワークショップを開催した。その
設計団体、施工会社や材料メーカーが一体になって取り組む釜山
成果は釜山国際建築文化祭で展示され、その際に私も「朝鮮白磁
国際建築文化祭は、市民の関心も高く、ぜひとも日本が学びたい
の美につながる日本の建築デザイン潮流」と題した講演の機会を
もののひとつである。一歩先を進む行政と建築界の連携に尊敬と
得ている。さらにこの年から釜山建築大展(毎年開催されてきた
羨望の念を禁じえない。
アイディアコンペ)に
また韓国語の話せる日本人建築家を育てることも急務である。
近畿支部が共同企画
国際交流においては、十全でない言語コミュニケーションをカ
の 形 で 加 わ り、 日 本
バーする両者の熱意が、より親密な関係を演出することは疑うべ
からもコンペに参加
くもないが、正確なコミュニケーションが求められる場面での通
できる国際コンペの
訳が、日本に留学経験のある韓国の人達に頼っている状態は正常
体制を整えた。
「Space
とは思えない。建築を目指す日本の若者が実務を通して韓国で学
+」という課題に対し
び、日韓のかけ橋になってくれる状況をつくり
日 本 か ら も 21 人 が 応
たいと願っている。
募し、2 名が公開最終
選考に残り、大賞は逸
018
●
JIA MAGAZINE 276
ワークショップ プレゼンテーション
JANUARY 2012
小島 孜(近畿支部支部長)
大きな意義のある交流を継続していきたい
—2011 年度のイベントを終えて—
2008 年度に JIA 近畿支部と KIA 釜山建築家会の国際交流が始
まり、2009 年の秋にその交流イベントのひとつであったデザイン
トークで釜山国際建築文化祭に招待されたのがきっかけで私はこ
の日韓交流に関わらせていただいています。以後いくつかの交流
イベントに参加する機会を経て、現在近畿支部の国際委員会委員
長として今度は企画の方に携わっています。本年度の両国の交流
について以下に報告します。
釜山建築大展 表彰式
■釜山建築大展
2011 年で 27 回目となるこのアイデアコンペは、釜山では出展
らしいことだと思う。とりわけ 27 年
者にとってその長い歴史と共に非常に大きな意味をもつコンペと
目となるこの長い歴史の中で、日本か
なっている。主催者である韓国建築家協会釜山建築家会と釜山広
らの案を受け入れて 2 年目に佐野案が
域市のご意向として、今後このコンペを国際的なものへと発展さ
大賞を取ったことには意味がある。釜
せていくために 2010 年度から日本からも参加させていただいて
山にとっては大きな刺激となっただろ
いる。
うし、今後日本からの応募者がますま
2011 年度はその審査委員の 1 人として私も関わらせていただ
す増えていくことだろう。その先には
いた。審査は 3 段階に分けて行われた。234 点を超える応募があ
アジアという広い舞台への展望もある。
り、第 1 次審査では厳正なる審査の結果 122 点にまで絞り込まれ
いずれはアジアの学生がこの釜山建築
た。第 2 次審査は釜山建築家会によって行われ、最終的に上位 9
大展を通して交流が深まっていくこと
点の入選案を第 3 次審査となる公開審査によって出展者がプレゼ
を期待したい。
ンテーションをすることになった。この第 3 次審査では入選者に
入選案の模型とパネル
は改めて模型や大判パネルの提出が求められる。会場には 9 案の
■日韓作品パネル展
パネルや模型が所狭しと並べられ、それらの案ひとつひとつを
釜山では毎年釜山国際建築文化祭が催され、その中の様々なイ
じっくり見ていくと、難関をくぐり抜けて来ただけに力作ぞろい
ベントのひとつに日韓作品パネル展がある。各々の近作を中心と
となっていた。
したパネル展示である。釜山建築家会と近畿支部との交流が始
公開プレゼンテーションでは、彼ら独自のテーマの探り方など
まって以来、この日韓作品パネル展も 2011 年で 3 回目となる。
大変興味深いものがあった。
「RearchitectuRe」という課題に対し、
毎年その両国の展示から感じさせられるのはその建物の規模に
既存のストックを生かして何かを構築するというテーマを持った
ついてだ。韓国側のパネルにはアトリエ系事務所でも公共的な建
ものが多かったように思うが、そのテーマに対するそれぞれの提
築や民間の中規模から大規模なものが多くを占める。対して日本
案は多種多様なものだった。最終的には審査の中でも満場一致で
側のパネルではアトリエ系事務所からは個人住宅のような小規模
日本からの佐野案が大賞となった。佐野案にはアゴラという広場
なものがほとんどで、大きなものはラージファームに占められる。
の概念から導き出されたアルゴリズムに抜群の説得力があり、そ
この辺りは両国それぞれの住宅事情や市場の問題も大きく関係し
の発展性において大きな可能性を感じさせるものであった。その
ているのだろう。日本でも長きにわたり議論されているテーマで
他の案にも歴史になぞらえていくもの、時間軸に沿って未来へと
もある。文化が違えば当然社会に向けて発せられる建築家のメッ
向けていくもの、映画という文化(釜山には釜山国際映画祭広場
セージも異なる。それぞれの作風やデザインについても興味深い
がある)に着目するものなど、それぞれの案に魅力があった。そ
が、展示の内容からそういった両国の文化が感じ取れることが面
の中でも日本からの杉中案は一つの住宅が増改築を繰り返してい
白い。
くというミクロな視点か
ら集落を考えていくとい
う主旨のものであったが、
その計画の緻密さには目
を見張るものがあった。
このように上位 9 案の
中に 2 案、またそこから
漏れたものの、奨励賞・
佳作に 3 案の日本からの
案が入ったことは素晴
公開プレゼンテーション
パネル展
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012 ●
019
支部便り
近畿支部
■日韓ワークショップ
らも大阪市港湾局臨海
日韓ワークショップも釜山建築家会と近畿支部との交流が始
地域活性化室長を含め
まってからのイベントである。第 1 回目は京都、第 2 回目は釜山
た2名の計4名の審査
と続き、第 3 回目となる今年度は大阪の港湾地域の開発をテーマ
員に向けて発表された。
にワークショップを行った。
各チームとも現状を
日韓両国から 40 歳以下の各 10 名ずつ合計 20 名の参加で、両国
理解した上での提案が
2 名ずつの 4 名 1チームの 5チーム編成である。
印象的であった。共通
テーマを「WATER FRONT SPACE」とし、具体的な課題敷地
していたのは、新たな
設定としては、大阪港の大阪中央突堤とし、課題設定の企画段階
商業施設はいらない、
から大阪市港湾局臨海地域活性化室の協力を得ることができた。
という考え方であった。厳正なる審査
現在大阪の港湾地域は倉庫や産業をメインとした利用のされ方が
場所のコンテクストを読み解いて広場を提案する案、隣接する海
ほとんどで、インフラ整備の停滞もあって海遊館などの一部の商
に着目した案、既存の倉庫をコンバージョンして再利用する案、
業施設以外に市民を誘致する施設に乏しい。そういった現状を踏
新たな建築をつくる案、大きな軒下空間をつくる案など、人が集
まえて大阪市港湾局の希望もあり、この場所に市民を誘致するよ
うという根源的な目的に対して向けられた提案がなされた。
うな商業の在り方を課題とした。とはいっても単純に商業施設を
今回の課題地のように行政が手をこまねいている問題はまだ多
作るだけではこれまでと変わらない。あくまでも現状を前提とし
くある。そこに建築家の提案力は決して無力ではないと信じたい。
たリアリティのある提案が求められた。
釜山ではこのワークショップと釜山広域市との連携が密接にある。
初日は全員で顔合わせの
それは提案内容によっては実際の都市計画において前向きに検討
後にチームごとにまとまっ
しようとする姿勢があるからだ。
て現地調査に赴き、その状
日本においてもそういった行政との連携を深め、若い建築家の
況を把握することに努め
柔軟な考え方が都市開発に良い影響をもたらしていくことを期待
た。初日夜には懇親会が設
する。このワークショップが今後もその一端を担うように継続さ
けられ、参加者全員が心を
せていきたい。
通わせ次の日から始まる共
また、それぞれの提案は短時間にもかかわらず、その場所の歴
同作業についての準備を整
えることができたように思
ワークショップ 現地調査
史から人々を誘致するための考察まで含めてしっかりと検討され
ており、内容の濃いものとなっていた。この素晴らしい結果は参
う。2011 年は例年以上にやる気のあるメンバーが多く、その初日
加者が言葉の壁を越えてきちんと議論を交わすことができたこと
の夜から会議を始めるチームもいた。結果的にそれに触発されて、
を示していて、提案内容といった成果品はもとより、ここにも大
ほとんどのチームがその夜遅くから設計についての議論を始め出
きな国際交流のワークショップの目的がある。言葉の壁を越えて
していた。
の議論はもどかしい場面も多々あるだろうが伝えようとする意志
スケジュールは、2 日目から設計を初めて 4 日目昼からのプレ
の大切さをそれ以上に感じるはずだ。そこで真の交流が生まれ、
ゼンテーションとなる。3 日目はプレゼンテーションに向けての
それは参加者にとってもかけがえのない仲間意識が芽生える。実
資料や模型作りにほとんどの時間が費やされるので実質設計内容
は第 1 回目の京都で行われたワークショップでは私もメンバーと
をまとめるのは 2 日目で決まる。この時に深い議論がなされ、そ
して参加し、その時の体験は貴重なものとなっている。その時だ
れがプランの出来に大きく反映される。
けに限らず、その後も Facebookなどでお互いの近況を話し合う
ワークショップは大阪工業大学の研修センターで行われ、作業
など交流が続いており、ここで得られた友情も多い。
から宿泊、発表までを一つの場所でまとめることができ、参加者
このワークショップは近畿・釜山と交互で行われており、次年
にとっても時間を有効に使えたであろう。
度は釜山での開催となる。日本の若い建築家は率先して応募して
4 日目の朝には初日きれいだった机周りもスケッチや模型材料
いただきたいと思う。
の切れ端などで散らかり、
活気に溢れてその後のプ
日韓交流のイベントはまだ始まったばかりでまだまだ発展途上
レゼンテーションを期待
にある。しかしながら毎年その内容の密度が上がっていることを
させる雰囲気が各チーム
実感する。同時に問題も多く見えつつある。これからも引き続き
から感じ取れた。
試行錯誤を繰り返しながら両国にとって良き交
昼過ぎから始まったプ
流となるよう継続させていきたいと思っている。
レ ゼ ン テ ー シ ョ ン で は、
韓国側から 2 名、日本側か
020
●
JIA MAGAZINE 276
チームでの設計作業も佳境に
JANUARY 2012
荒谷省午(近畿支部国際委員長)
自ら手がけた銀座・三愛ドリームセンターを背景に
JIA第 3 代会長 林 昌二氏ご逝去
林昌二氏が 2011 年 11 月 30 日に、東京都内で逝去された。享年 83 歳。
1928 年生まれ、1953 年東京工業大学卒業。同年、日建設計に入社し、1971 年には
ポーラ五反田ビルで日本建築学会作品賞を受賞。代表作にパレスサイドビルディング
(66 年)、中野サンプラザ(73 年)
、新宿 NS ビル(82 年)などがある。1980 年に日建設
計副社長に就任し、のち名誉顧問。日本建築家協会会長などを歴任した。妻は建築家
の故・林雅子さん。
追悼文
社団法人日本建築家協会(JIA)会長 芦原
太郎
をされるとともに、JIAが創設した建築家資格制度(登録建築家)
の原型となる欧米の資格制度の紹介、建築家の地位向上のための
林昌二先生の突然の訃報に驚いています。
建築士法改正への努力、そして、設計競技方法の改善への運動を
林先生は、1990 年 5 月から 2 年間、社団法人日本建築家協会
積極的に進められました。
(JIA)の第 3 代会長の重責を担われました。当時、日建設計とい
建築家の国際交流の面においても大きな貢献をされました。
う大手組織設計事務所の副社長職と兼務されており、そのご苦労
JIAの「建築家国際交流基金」創設の中心メンバーとして、国際活
は計り知れないものがあったと思います。
動の経済基盤を確実な形に残されました。また、昨年秋開催した
林先生自身、日本を代表する建築家としても、素晴らしい作品
「UIA2011 東京大会」は大成功のうちに終了しましたが、これは
を残されました。中でも東京竹橋の「パレスサイドビル」は日本
林先生が JIA 会長時代、1991 年にカナダモントリオールでの UIA
のモダニズム建築を代表するものです。そのほか、
「ポーラ五反田
総会で日本での開催を立候補されたことがそもそもの始まりです。
ビル」、
「新宿 NS ビル」をはじめ、設計された数々の著名な建築は、
建築家の長年の夢でもあった東京大会を見届けられたかのような
歳月を経ても、今なお人々とともに生き続けています。
林先生のご逝去でした。
組織事務所の経営に関しても、卓越した経営能力とアイデアで、
後に続く私たち建築家は、林先生の遺志を受け継ぎ、若者が進
組織事務所の設計の質を高め、東京地区での経営基盤を確立し、
んで建築設計界を志すことができるよう環境整備を図り、建築設
さらに国際的総合設計事務所に発展させた経営手腕にも目を見張
計界をますます発展させることに力を合わせて邁進していきたい
るものがあります。
と思います。
私たちの JIAの会長としては、建築家の職能確立に向けて、文
私たちに楽しくも厳しい建築家人生を示していただいた林先生、
字通り私たちの先頭に立って活躍してくださいました。JIAの設
奥様の雅子さんとご一緒に安らかにおやすみください。
立間もない時代、組織や運営のあり方をはじめ、JIAの基礎固め
元 JIA 会長 大宇根
弘司
(『日刊建設通信新聞』
(2011 年 12 月 8 日付)に掲載したものを一部修正)
い関心を払われた。健康保険組合が千駄ヶ谷に移る機をとらえ建
林さんの訃報を聞いて、また一人先導者を失ったかという感想
築家協会が表通りに移ることを強く主張された。それが今の JIA
が頭を過った。
館を実現する大きな力となったのである。市民に見えるところに
建築家(協会)はややもすれば実態を離れて理想を追い、社会
顔を出す、そのためには道路に面した今レストランの入っている
の評価を忘れて自己主張に走りがちであったように思う。そうい
ところを展示場にし、図書資料を揃えようと言われ、しばらくは
う中にあって林さんは冷静にかつ客観的に建築家のあるべき姿を
その方針のもとに運営されたのである。
見つめ、私達をリードしようと努力された。
それまでお手伝い程度にかかわっていた私が日本建築家協会に
日本建築家協会の会長に就任された 1990 年の事業計画の冒頭
微力ながら本格的に取り込まれるようになったのは林さんに依る。
に士法改正と 1206 号の推進を掲げている。国際社会との関連に
林さんの会長2年目に私は鬼頭梓さんたちに引っ張り出されて理
おいて資格をとらえると同時に「市民の立場を理解し、地域社会
事に就任したところ、林さんが直接私の事務所に見えて副会長を
との結びつきを強める日常活動に力を入れ、また建築審議会・建
やれと言うのである。言うまでもなくお断りしたが林さんは打ち
築設計懇談会等を通じて行政当局・他団体との合意形成に努め
合わせテーブルに座ったまま、引き受けるまでここを去らないか
る」とある。市民・地域社会の理解を得、行政・他団体との協力
らよろしくと言って無言を続けられ、私は根負けをした。何の力
なくしては資格も報酬問題も先が開けないことの認識がここには
もない私は大して役に立てなかったのが申し訳なく悔しくもある。
ある。当たり前と言う人が今ではいるかもしれないが、それまで
レンガで建築をつくってこられた林さんに私もレンガに取り
の流れの中にあってこれは開明的なことであったと私は思う。そ
組んでいることを話したところ「レンガは裏切るよ、気をつけた
ういう流れの中で UIA 大会の東京開催を謳い、AIAと職能協定を
方がいい」と冷ややかに反応された。シニカルで手厳しい方でも
結び、先進諸国に建築家制度の調査団を派遣し、裏づけとしての
あった。
国際協力基金を設けられたのである。
林さんの多大な功績に感謝し、御冥福をお祈りします。
また建築家協会の根拠地としての建築家会館のありようにも強
2011 年 12 月 9 日
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012 ●
021
2011 年度「日本建築家協会優秀建築選 100 作品」
「日本建築大賞」
「日本建築家協会賞」
「日本建築家協会優秀建築選」2011 に、231 作品のご応募をいただきました。
審査委員/石堂 威、斎藤公男、三宅理一の3氏による選考を行い、2011 年度日本建築家協会優秀建築選 100 作品が選出されました。
なお、今年も「日本建築大賞・日本建築家協会賞公開審査」が 2 月 5 日㈰に開催され、日本建築大賞1作品と日本建築家協会賞数作品が
決定します。
作品名
氏名(事務所名)
支部
作品名
氏名(事務所名)
支部
帝塚山のセミコートハウス
横内敏人
(横内敏人建築設計事務所)
近畿
Stephan Jaklitsch
MARC JACOBS
(JAKLITSCH/GARDNER
関東甲信越
FLAGSHIP BUILDING,
ARCHITECTS PC)、Benjamin
TOKYO
Warner(cdi)、吉川博行(cdi)
森を奔る回廊
手島浩之
(都市建築設計集団 /uapp)
東北
御用蔵(御用醤油醸造所)
泉野出町の家—N 邸
吉島 衛(吉島衛建築研究室)
北陸
大江 匡
(プランテック総合計画事務所)
関東甲信越
エデンフィールド
家原英生(Y 設計室)
九州
上の原の家
沖縄県警察
運転免許センター
有吉 匡(梓設計)
根路銘安弘(根路銘設計)
関東甲信越
鮫島病院
蓑田満康
(一級建築士事務所 みのだ設計)
九州
野生司義光、伊東俊之
(野生司環境設計)
関東甲信越
豊洲フロント
狩野大和、国府田道夫、髙橋洋介
(三菱地所設計)
関東甲信越
墨田区総合体育館
竹林正彦(日本設計)
関東甲信越
二子玉川ライズ
仁科和久(アール・アイ・エー)
関東甲信越
zig zag gallery
三沢 護(建楽設計)
関東甲信越
東急キャピトルタワー
KYORAKU BUILDING
川崎拓二(日本設計)
東海
山下孝夫(東急設計コンサルタン
ト)、鈴木 裕(観光企画設計社)、
関東甲信越
隈 研吾(隈研吾建築都市設計事
務所)
早稲田大学 11 号館
水越英一郎(山下設計)
関東甲信越
五角筒の家
甘利享一(甘利享一建築設計舎)
関東甲信越
川上恵一(かわかみ建築設計室)
関東甲信越
社会福祉法人 龍岡会
青葉ヒルズ
浅井裕雄(裕建築計画)
東海
長岡造形大学
第 3アトリエ棟
篠崎 淳、東 正典、佐藤真紀
(日本設計)
関東甲信越
山形村の民家再生
鷹ノ巣の二世帯住宅
納屋 学、納屋 新
(納谷建築設計事務所)
関東甲信越
海光の家
岡田哲史、陶器浩一
関東甲信越
(千葉大学大学院+滋賀県立大学)
霞が関コモンゲート・
中央合同庁舎第 7 号館
山田幸夫、高野直樹、藤沢 進、
小川成洋、谷口強志、関 朋一
関東甲信越
(久米設計)
NTT 東日本研修センタ
5 号館
石川 静
(NTT ファシリティーズ 建築事
関東甲信越
業部 都市建築設計部 建築デザイ
ン部門)
Looptecture 福良/福良
港津波防災ステーション
遠藤秀平(神戸大学大学院)
TSR building
伊藤潤一(伊藤潤一建築都市設計
関東甲信越
事務所)、徐 光(JSD)
forest bath
生田京子(名城大学)
東海
尾関勝之(尾関建築設計事務所)
近畿
3331 ARTS CHIYODA
佐藤慎也(日本大学)、古澤大輔(メ
関東甲信越
ジロスタジオ一級建築士事務所)
軽井沢の RESORT
VILLAGE
柴田知彦、柴田いづみ(柴田知彦・
柴田いづみ+ SKM 設計計画事務 関東甲信越
所)
Earth, Wind &
Sunshine
彦根 明(彦根建築設計事務所) 関東甲信越
室町東三井ビルディング
神林 徹、岩崎 創(日本設計)
関東甲信越
團 紀彦(團紀彦建築設計事務所)
bird house
Silent House
塩塚隆生(塩塚隆生アトリエ)
九州
カマン・カレホユック
考古学博物館
能勢修治(石本建築事務所)
近畿
Piccolo Teatro
伊藤 寛(伊藤寛アトリエ)
関東甲信越
南アルプス市消防本部・
地域防災交流センター
小林一文(石本建築事務所)
関東甲信越
録 museum
中村拓志(NAP 建築設計事務所) 関東甲信越
大川の家
竹原義二(無有建築工房/大阪市
近畿
立大学大学院)
庄司 寛
関東甲信越
(合同会社 庄司寛建築設計事務所)
吉祥寺南町の家
福島市飯坂温泉「旧堀切邸」 鈴木勇人(鈴木設計)
池田賢一(池田設計)
関東甲信越
千葉 学(千葉学建築計画事務所)
諫早市こどもの城
東京国際空港貨物合同庁舎
平和台の民家
STAIRCASE
下呂交流会館
祐天寺の連結住棟
022
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JIA MAGAZINE 276
東北
丸目明寛、町慎一郎、戸内広太郎
関東甲信越
(久米設計)
阿部 勤(アルテック)
関東甲信越
大河内学、郷田桃代
関東甲信越
(インタースペース・アーキテクツ)
松本成樹、近藤 崇(日本設計) 関東甲信越
北山 恒
(architecture WORKSHOP)
JANUARY 2012
関東甲信越
深沢の家
宮本佳明
(宮本佳明建築設計事務所)
坂本 昭
(坂本昭・設計工房 CASA)
近畿
近畿
伊那市 創造館
沖村陽一(環境計画)
関東甲信越
INBETWEEN HOUSE
筒井康二(筒井康二建築研究所)
関東甲信越
千里の家
岩田章吾
(岩田章吾建築設計事務所)
近畿
流星庵
杉本洋文
(東海大学/計画・環境建築)
関東甲信越
道の駅「よしおか温泉」
宮崎 浩(プランツアソシエイツ) 関東甲信越
作品名
昭和学院 伊藤記念ホール
東工大蔵前会館
Tokyo Tech Front
日本経済新聞社
東京本社ビル
氏名(事務所名)
木谷靖孫、飯島敦義、刀禰尚子
(日建設計)
支部
関東甲信越
坂本一成(アトリエ・アンド・ア
イ坂本一成研究室)、杉山俊一(日 関東甲信越
建設計)
中村光男、櫻井 潔、村尾忠彦
(日建設計)
関東甲信越
野村不動産新横浜ビル
山梨知彦、坂本隆之(日建設計)
関東甲信越
ホキ美術館
山梨知彦、中本太郎、鈴木 隆、
関東甲信越
矢野雅規(日建設計)
森のすみか /nest
前田圭介(UID)
鳴海雅人、高野洋平
(佐藤総合計画)
岡崎市図書館交流プラザ
りぶら
鳴海雅人(佐藤総合計画)
十勝トテッポ工房
鈴木 理(鈴木理アトリエ)
妙蓮寺の店舗併用住宅—
〈内〉と〈外〉の間 XVIII
入江正之
(早稲田大学術院建築学科)
中国
関東甲信越
関東甲信越
北海道
関東甲信越
鳥谷部隆、加藤 隆、桑原義彦
日本生命札幌ビル (久米設計)
noasis3, 4(ノアシス3.4)
関東甲信越
九州歴史資料館
関東甲信越
HHH
あさひミレニアムシティ
第I期
GR230
猪苗代町体験交流館
「学びいな」
日本大学理工学部
船橋キャンパス
新サークル棟
Steel Truss
安東 直、野原啓司(久米設計)
堀場 弘+工藤和美/シーラカン
スK&H
関東甲信越
(シーラカンスケイアンドエイチ)
青島裕之(青島裕之建築設計室)
関東甲信越
長楽寺 納骨堂
山本良介(山本良介アトリエ)
近畿
石田眼科
プリズミックハウス
鈴木裕幸、田中康達
(三菱地所設計)
近畿
今村雅樹(日本大学 / 今村雅樹アー
キテクツ)、今川憲英(東京電機 関東甲信越
大学 /TIS & PARTNERS)
矢作昌生
(矢作昌生建築設計事務所)
九州
東京国際空港国際線地区
旅客ターミナルビル
鮫島和典(梓設計)、鶴田英二(梓
設計)、光井 純(ペリ クラーク 関東甲信越
ペリ アーキテクツ ジャパン)
玉田工業事務所棟
リノベーション
松本 大(松本大建築設計事務所) 北陸
慈眼山 成願寺
石橋利彦、徳川宣子
(石橋徳川建築設計所)
関東甲信越
南海ターミナルビル
再生計画
大江 匡
(プランテック総合計画事務所)
関東甲信越
明治神宮外苑研修棟
中本太郎、矢野雅規(日建設計)
山古志闘牛場リニューアル
山下秀之(長岡造形大学建築・環
北陸
境デザイン学科 教授)
LIFT
黒崎 敏
(APOLLO 一級建築士事務所)
関東甲信越
関東甲信越
龍谷大学 龍谷ミュージアム 赤木 隆、下坂浩和(日建設計) 近畿
降井繁蔵、二宮 彰(日建設計)
近畿
北海道
沖縄科学技術大学院大学
岡本 隆(日建設計)
近畿
関東甲信越
紀陽銀行 田辺支店
渡辺豪秀、喜多主税(日建設計)
近畿
京都府医師会館
勝山太郎(日建設計)
近畿
山中新太郎(日本大学理工学部)、
関東甲信越
鈴木俊作(協立建築設計事務所)
木村博昭
(木村博昭+ Ks Architects)
横河 健(横河設計工房)
東本願寺 真宗本廟
御影堂 改修
井口 浩(井口浩フィフス・ワー
関東甲信越
ルド・アーキテクツ)
前川尚治
(コウド一級建築士事務所)
支部
杉浦邸/
多面体 岐阜ひるがの
日本輸送機株式会社 本館
近藤彰宏(日建設計)
氏名(事務所名)
関東甲信越
関東甲信越
盛岡赤十字病院
緩和ケア病棟
岩国市庁舎
作品名
保坂 猛
本郷台キリスト教会
チャーチスクール・保育園 (保坂猛建築都市設計事務所)
近畿
長岡市立和島小学校
後藤哲男(長岡造形大学 後藤設
計室・アーキシップ帆)、佐藤 関東甲信越
守(後藤設計室・アーキシップ帆)
東京大学数物連携
宇宙研究機構棟
大野秀敏(東京大学大学院 新領域
創成科学研究科)、青島裕之(青
関東甲信越
島裕之建築設計室)、池田 匠(渡
辺佐文建築設計事務所
佐賀市立小中一貫校北山校
竹下輝和(九州大学大学院 人間環
九州
境学研究院都市・建築学部門)
石神井公園ふるさと文化館
武田有左(山下設計[嘱託])
北庭の家
三宅正浩(y + M design office) 近畿
國學院大學 3号館
朝田志郎(日建設計)
関東甲信越
東急虎ノ門ビル
堀越英嗣
(堀越英嗣 ARCHITECT5)
佐野 勤
(東急設計コンサルタント)
関東甲信越
住友不動産
ラ・トゥール代官山
中本太郎(日建設計)
村山市総合文化複合施設・
甑葉プラザ
高宮眞介(計画・設計工房)
大貫東彦(日総建)
関東甲信越
三谷 徹(千葉大学園芸学研究科)
関東甲信越
豊島美術館
西澤立衛
(西澤立衛建築設計事務所)
関東甲信越
門前仲町の住宅
納屋 学、納屋 新
(納谷建築設計事務所)
関東甲信越
関東甲信越
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012 ●
023
JIA NEWS
理事会報告
■ 2011 年 12 月 22 日 第 196 回理事会 議事速報
●日 時:2011 年 12 月 22 日㈭ 13 時 30 分〜 18 時 00 分
●場 所:建築家会館 1 階大ホール
【審議事項】 1.
専務理事等選考委員会の会長の答申通り、理事会で筒井信也専務
理事の引続き継続就任が決議された。
2.
滞納、あるいは所在不明等で資格喪失状態の会員 12 名の資格喪
失が決議された。
【報告事項】
1. 設計施工一貫契約の三春町問題について、芦原会長から該当会員
に注意勧告があった旨報告された。
2. 2012 年度 JIA 横浜大会の開催趣旨等が報告された。なお、2012 年
は、JIA 創設 25 周年にあたる。
3. 2012 年 6 月を目途とする新公益法人対応のため、会員・会費規定、
支部・地域会規定の制定・改訂のため設置された規定類制定特別
委員会の活動方針、スケジュール概要等が報告された。
4. 資格制度の認定申請時に提出する「勤務先業態報告書」はあくま
でも任意のアンケートであることの再確認と周知徹底の報告が
あった。
5. 総務委員会の主要な活動報告が説明された。
1) 本部と関東甲信越支部の事務所を、現行の JIA 館 4 階に 6 月
早々に統合するレイアウト案が提示された。
2) 支部事務局改革の一環として支部へのアンケート結果を現
在分析中、3 月に報告を予定。
3) 規則細則を制定・改訂する担当部署等の変更について報告
があった。
4) 本年度会費収入状況、決算見込み、及びキャッシュフロー
予測が説明された。
中国建築学会との友好協定提携の早期契約をしたい旨の報告が
6.
あった。
7. 中村高淑理事からの辞任届を芦原会長が受理した旨の報告があっ
た。これにより 2012 年早々に補欠選挙が見込まれる。なお、辞
任理由を巡ってオブザーバーからの理事会への質疑があった。
8. UIA 大会は、海外からの登録者が想定の倍近くとなり、収支もマ
イナスを免れた旨の報告があった。
9. 今年度より委託開始した会計事務所を、今年度決算を含め本部事
務局が継続契約する旨の報告があった。
10. 東京都で 1 円入札等があり、JIAが担当者と改善協議を進めてい
る旨の報告があった。
11. 支部長会議の議事録を、この会の理事会より理事会に添付提出す
ることとなった。
本部便り
●優秀建築選公開審査のお知らせ
2011 年度の JIAを代表する作品となる日本建築大賞、日本建築家協
会賞を選定する優秀建築選公開審査が 2012 年 2 月 5 日に建築家会館に
知活動の一環として日刊建設通信新聞が主催してきた連続公開シンポ
て開催されます。
—UIA2011 東京大会を終えて—というテーマのもと、小倉善明
日 時:2012 年 2 月 5 日㈰ 13:00 ~ 17:45
JOB 会長、岩村和夫 UIA 元副会長、古谷誠章 JOB 学術部会長、建築
五会の会長が参加しました。
冒頭、JOB 小倉会長は大会開催にオールジャパンで臨み成功を収
めたことへの感謝を述べ、大会の成果を未来につないでいきたいと挨
拶しました。
JIAからは芦原会長が参加し、
「建築界の将来は?その具体的シナリ
オを描こう」をテーマとしたパネルディスカッションに出席しました。
場 所:建築家会館 1 階大ホール
候補作品:
Looptecture 福良/福良港津波防災ステーション
遠藤秀平(神戸大学大学院)
諫早市こどもの城
池田賢一(池田設計)、千葉 学(千葉学建築計画事務所)
ジウム「DESIGN2050—東京・日本・地球。そして建設—」が開催さ
れ、同連続シンポジウムの最終回を迎えました。
森のすみか/ nest
前田圭介(UID)
山梨知彦、中本太郎、鈴木 隆、矢野雅規(日建設計)
●建築家会館創業 50 周年の感謝の夕べ
12 月 22 日、 株 式 会 社 建
築家会館は同年 6 月に創業
50 周年を迎えたことを記
念 し、JIA 館 1 階 建 築 家 ク
豊島美術館
ラブで記念行事を行いまし
西澤立衛(西澤立衛建築設計事務所)
た。
公開審査終了後には、新人賞、25 年賞、環境建築賞の受賞作品発表
これには当日理事会のた
杉浦邸/多面体 岐阜ひるがの
横河 健(横河設計工房)
ホキ美術館
会が開催されます。
め集合していた JIA 理事も
●連続公開シンポジウム
12 月 20 日、文化シャッター BX ホールにて、UIA2011 東京大会周
参加し、記念すべき節目を
JIA 建築家大会 2012 横浜 開催決定!
テーマ:「共に超える」
会 期:2012 年 11 月 29 日㈭、30 日㈮、12 月 1 日㈯
会 場:神奈川県民ホール、BankART Studio NYK 等
「Beyond Disasters, through Solidarity, towards Sustainability 」
のメッセージを掲げ、UIA2011 東京大会(第 24 回世界建築会議)は 2011
年秋に世界中から 5,000 名以上の参加者が集って開催された。
今から 1 年後の 2012 年 11 月末、全国の日本建築家協会(JIA)会員が
横浜に集い、建築並びに建築家が担うべき社会的役割について一般市民
024
●
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012
慶賀しました。
と共に考え、共に育むために議論の場を設け、社会へ示す機会として
JIA 全国大会を開催する。東日本大震災により見直された新たなパラダ
イム(価値観)に基づき、日本文化の再興が求められている。震災から 1
年を経た 2012 年度は多くの復興計画の立ち上げが進むことだろう。今
から 1 年後の大会開催を見据え、復興の在り方について、安全、安心と
いうハードな復興計画に加え、未来に残すべき記憶と文化の大切さを一
般市民と共に考えていく。被災した東日本地方に限らず将来の大災害が
予想される全ての地域において、共にこの時代を超えていく道筋を探る
大会とする。3.11 後の時代に相応しく、また新公益社団法人として活動
していく新生 JIA 全国大会の規範となる大会運営を目指していく。
■新規入会承認者 承認日:2011 年 12 月 22 日
関東甲信越支部
関東甲信越支部
関東甲信越支部
関東甲信越支部
関東甲信越支部
関東甲信越支部
関東甲信越支部
関東甲信越支部
関東甲信越支部
関東甲信越支部
[海外]
アメリカ
東京都
東京都
東京都
東京都
東京都
東京都
東京都
東京都
神奈川県
新潟県
町慎一郎
㈱久米設計
髙橋洋介
㈱三菱地所設計
Ojuok Dick George Olango ATELIERS OLANGO 建築設計事務所
秋山邦雄
㈱歴史環境計画研究所
刀禰尚子
㈱日建設計 東京本社
飯島敦義
㈱日建設計 東京本社
菊池嘉明
野村不動産㈱一級建築士事務所
戸内広太郎 ㈱久米設計
中川エリカ ㈲オンデザインパートナーズ
中野一敏
ナカノデザイン一級建築士事務所
Stephan Jaklistch Jaklitsch/Gardner Architects PC
編集後記
『JIA MAGAZINE』
編集長
古市徹雄
新年が明けました。昨年は、大地震・津波・原発の放射能拡散問題等大変な
被災に見舞われましたが、まだまだ復興へは遠い道のりだと思います。今年の
最大の課題が復興であるのは言うまでもありません。そういうなかで、東北地
方などの建築家の活躍のニュースが入ってきます。地元に根付いた建築家が地
元の現状に真摯に応え感謝されている話は、まさにコミュニティ・アーキテク
トの理想の姿です。
昨年夏には電力危機が首都圏を襲い、大きな会社から個人住宅まで節電を懸
命に行いました。繁華街なども夜、直後は暗く感じましたが、慣れてみれば今
までいかに無駄に電気を過剰消費していたかを思い知らされました。省エネの
効果が広く実感として理解され、その意味で日本は大きなノウハウを得たよう
な気がします。世界からも大きく注目されています。
「プロポーザル方式を考える」もいいペースができてきました。今月号では
発注者側の逗子市長にお話を伺いました。市の将来、市民への奉仕を真剣に考
え、熱心にコンペを推進してこられたお姿に感動しました。
国土交通省も、今月号に掲載されているようにプロポーザルの在り方を真剣
に前向きにとらえ様々にご努力されているようです。
まだまだ建築家を取り巻く状況は厳しいものがありますが、一歩ずつ前進し
ていきたいと思います。本年も宜しくお願いします。
■ JIA 支部一覧
■北海道支部
〒 060-0061
北海道札幌市中央区南 1 条西 8 丁目 14-3 札幌第 2 スカイビル 5F
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TEL 092-761-5267 FAX 092-752-2378
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〒 900-0014
沖縄県那覇市松尾 1-12-8 松尾ハウス 6F
TEL 098-941-1064 FAX 098-941-1079
URL http://www.jia-okinawa.org/
JIA MAGAZINE 2012 年 1 月号
通巻 276 号
2012 年 1 月 15 日発行(毎月 1 回発行)
販売価格 500 円(本体 477 円 , 消費税 23 円)
会員の購読料は会費に含まれます。
発行人 / 筒井信也
編集長 / 古市徹雄
編集・制作 / 南風舎
発行所 社団法人 日本建築家協会(JIA)
〒 150-0001
東京都渋谷区神宮前 2-3-18 JIA 館
TEL03-3408-7125
FAX03-3408-7129
© 社団法人 日本建築家協会
6 月 15 日は建築家の日
http://www.jia.or.jp
J
I
A
The Japan Institute of Architects
JIA-kan,2-3-18 Jingumae,Shibuya-ku,
Tokyo 150-0001 Japan
JIA MAGAZINE 276
JANUARY 2012 ●
025
2012
1
I
建築家 architects
J
A
The Japan Institute of Architects
JIA-kan,2-3-18 Jingumae,Shibuya-ku,
Tokyo 150-0001 Japan
JIA
2011年度 優秀建築選 公開審査会
日 時:2012 年 2 月 5 日㈰ 13:00 〜 17:45
次 第:挨拶・経過報告
プレゼンテーション
審査
発表
審査委員講評
プレス発表 17:45 〜 18:15
会 場 : 建築家会館 1 階大ホール
(渋谷区神宮前 2-3-16)
入 場 料: 無料
CPD 単位: 5
審 査 委 員 : 石堂 威(都市建築編集研究所)
斎藤公男(日本大学理工学部)
三宅理一(藤女子大学)
候補作品
撮影:西川公朗
Looptecture 福良/
福良港津波防災ステーション
遠藤秀平(神戸大学大学院)
撮影:上田宏
諫早市こどもの城
池田賢一(池田設計)
千葉 学(千葉学建築計画事務所)
森のすみか/ nest
前田圭介(UID)
撮影:Nacasa & Partners Inc.
撮影:Office of Ryue Nishizawa
ホキ美術館
豊島美術館
横河 健(横河設計工房)
山梨知彦・中本太郎・鈴木 隆・矢野雅規
(日建設計)
西澤立衛(西澤立衛建築設計事務所)
276
vol.
杉浦邸/多面体 岐阜ひるがの
2012 年 1 月 15 日発行(毎月 1 回発行)通巻 276 号 1991 年 4 月 16 日第三種郵便物認可 社団法人 日本建築家協会(JIA)〒 150-0001 東京都渋谷区神宮前 2-3-18 JIA 館
発行人 筒井信也 編集長 古市徹雄 編集・制作 南風舎 販売価格 500 円(本体価格 477 円、消費税 23 円)会員の購読料は会費に含まれます
審査が本年も開催されます。公開審査という独特の緊張感の中、日本建築家
協会においてその年を代表する作品である日本建築大賞 1 点と、日本建築家
協会賞数点がこの日決定されます。
MAGAZINE
2005 年の賞創設から毎年恒例の行事となっております、優秀建築選の公開
Fly UP