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最終報告書 - 佐賀大学スマイルルーム ホーム
文部科学省 専門職大学院等教育推進プログラム(平成 19、20 年度) 発達障害と心身症への支援に強い教員の養成 ~文化教育学部・医学部附属病院連携による臨床教育実習導入とカリキュラム開発~ 最終報告書 佐賀大学 平成21年3月 目 次 1. 最終年度報告書の発行にあたって ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2. 本プロジェクトの目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3. 本報告書の構成、取組経緯、及び謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第1部 取組を振返って 4. 臨床教育実習の取り組み概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5. 臨床教育実習と臨床教育演習の結合 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6. 臨床教育実習における学生の成長と評価 ・・・・・・・・・・・・・・・ 7. 発達障害児支援における連携の模索 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8. 臨床教育実習フォーラムの報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第2部 臨床教育実習の報告 9. 平成19年度実習報告 9-1 社会性に課題を抱える児童への支援 (Aチーム) ・・・・・・・・・ 9-2 書字の困難さと不注意のある児童への支援(Bチーム)・・・・・・ 9-3 言語表現と四則演算に課題のある小4女児への支援 (Cチーム) ・ 9-4 不登校傾向の中学生への支援 (Dチーム)・・・・・・・・・・・ 10.平成20年度実習報告 10-1 書字困難など学習に困難のある児童の支援 (Aチーム)・・・・・ 10-2 感情理解とコントロール及び 基礎学力の習得に困難のある男児への支援 (Bチーム) ・ 10-3 言語面と行動面に課題のある小1児童への支援 (Cチーム) ・・・ 10-4 社会性に課題のある中学生への支援 (Dチーム)・・・・・・・・ 第3部 資料集 資料A.臨床教育実習フォーラム(案内紙とフォーラム当日の写真) ・・・ 資料B.臨書教育実習の概要(英文) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 資料C.スマイルルームのしおり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 資料D.スマイルルーム通信 資料E.新聞記事 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 臨床教育実習推進委員会委員 及び 教育プロジェクト支援室員 ・・・・・・・ 編集後記 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.平成 19 年度専門職大学院等 GP 最終年度報告書の発行にあたって 佐賀大学文化教育学部長 上野 景三 文部科学省「平成 19 年度専門職大学院等教育推進プログラム」に本学の取組(「発 達障害と心身症への支援に強い教員の養成―文化教育学部・医学部附属病院連携によ る臨床教育実習導入とカリキュラム開発―」)が選定されて以来、実習に係る教育学・ 教育心理学講座、教育実践総合センターの教員だけでなく、学部をあげてこの事業を 推進して参りました。昨年度の活動報告書に続き、最終報告書をまとめました。 本GPは、佐賀大学医学部、文化教育学部附属特別支援学校、佐賀県教育委員会と の連携・協力のもとで取り組まれるという全国的にも注目される GP でありました。 それだけに責任もあり、関係者のご協力なしには進まなかった取り組みです。まずは、 医学部や佐賀県教育委員会をはじめとする関係機関の皆様に御礼申し上げます。また、 ご理解と協力いただいた子どもたちと保護者の皆様、支援児在籍校への連絡や調整で お力添えいただきました佐賀市教育委員会、 (旧)久保田町教育委員会、多久市教育委 員会の皆様、実習生への指導やアドバイスで多大なご尽力をいただいた支援児在籍校 の先生方、保護者の立場から多くのご意見をいただいた親の会の皆様に厚く御礼申し 上げます。 12 月上旬の GP フォーラムでは、インクルージョン教育の先進国であるカナダより ウィニペグ市教育委員会のマクゲイ先生を講師としてお招きし、公開研修会を開きま した。そして、カナダのマニトバ大学のルトビィア先生からは、インクルージョン教 育を進めるにあっての教員養成の在り方についてご講演いただいきました。これらの 研修会や講演会を通して、今後の特別支援教育と教員養成の在り方について、大きな 示唆を得ることができことも本 GP の大きな成果でした。 この取り組みは、教育現場の喫緊の課題に応える形で始められました。平成 14 年 10 月、文部科学省は、通常の学校で学んでいる、学習障害、注意欠陥・多動性障害、 高機能自閉症などの発達障害のある小中学生(その可能性も含む)は 6.3%、との調査 結果を公表しました。実に 40 人学級で 2~3 人という割合です。また、不登校の児童 生徒の数も減る傾向を見せていません。そこで、平成 19 年度より、特殊教育体制から 特別支援教育体制へ転換し、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校にお いても障害のある児童生徒への指導が明示されましたが、佐賀県内だけでなく全国的 にも、発達障害や心身症のある幼児児童生徒に対して高い支援力をもつ教員はまだ少 ないと言わざるをえない現状があります。本取組は、佐賀大学として、教員養成の立 場から少しでもこの課題の解決に資することができるようにと願って取り組んで参り ました。 発達障害などのある児童生徒への支援力の養成が求められている現在、この取組が 多くの教員養成系学部・大学・大学院の参考となれば幸です。 臨床教育実習の方法を分かりやすく解説するため、DVD を本報告書の付録につけて いますので、本文の内容と合わせましてご覧に頂きますようお願い申し上げます。 また、本実習を受講した学生の感想文も載せています。実習を通しての彼らの成長 が皆様に少しでも伝われば幸に存じます。 この事業の継続と発展を今後も図っていく所存ですので、今後ともご指導、ご鞭撻 賜りますよう、どうぞよろしくお願いも仕上げます。 平成 21 年 3 月 2.本プロジェクトの目的 はじめに 「障がいは欠陥ではい。その子に『特別な教育的ニーズ』があることを意味してい る。」このような障がいのとらえ方は、1994 年のユネスコとスペイン政府共催による「特 別なニーズ教育に関する世界会議」で採択された「サマランカ声明」により広く受け 入れられるようになった。日本でも、平成 19 年度より特殊教育が特別支援教育へと移 行するにともない、障がいのある子も、それのない子も同じ学校、同じ教室で必要な 支援を受けつつ、共に学び共に過ごすことのできる教育、つまりインクルージョン教 育(共生教育)の実現が目指されている。 この教育が日本において真の実現をみるまでには、まだ数年の歳月が必要であろう。 また、これまでの特殊教育の歴史や遺産を活かす途も探らなければならない。しかし、 「日本型インクルージョン教育」のあり方を模索する中で、教員養成系学部・大学・大 学院が今すぐに着手しなければならないことは、障がいについての専門的な知識と指 導力をもった教員を多数学校に輩出することではないのか、その中でも学生教育の内 容と方法が未確立で、かつ、社会的にも対応が急がれる発達障害と心身症(不登校) に焦点を絞るべきではないか、との問題意識から佐賀大学文化教育学部は医学部附属 病院との連携を基軸に、臨床教育実習という新しい取り組みを開始した。 この実習を進める中で、意識するようになったのがカナダの教員養成系大学院にお ける“SERT”(Special Educational Resource Teacher:各学校に勤務する支援の ための専門教員)の養成であった。2008 年 10 月に視察訪問したカナダ・ウィニペグ市 の小学校には 6 名の“SERT”の資格を有する教員が勤務していた。同校には、様々 な障がいのある子どもたちが学んでいたが、この教員は、その異なる「特別な教育的 ニーズ」に合わせて、IEP(個別の教育支援計画)を策定し、そして、指導のための「個 別の指導計画」を作成することを職務としていた。また、具体的な指導の在り方につ いて担任教員やアシスタントティーチャーと協議し、助言していた。特別支援教育の 時代において、日本の学校にますます必要となるのは、学校自身が高い支援力をもつ ことである。本プロジェエクトは、教員養成の立場から、この目的の実現を目指すも のである。 “SERT”は、マニトバ大学の教員養成系大学院で養成されており、本学文化教 育学部及び教育学研究科のカリキュラム再編の参考となるものと考えている。詳しく は、本報告書第1部の「8.臨床教育実習フォーラムの報告」の記念講演要旨をお読み いただきたい。本稿では、これからの教育における臨床教育実習の意味ついて述べる こととする。 1)特殊教育から特別支援教育へ 平成 15 年 3 月、文部科学省に設けられた特別支援教育の在り方に関する調査研究協 力者会議は、「今後の特別支援教育の在り方(最終報告)」を公表した。その中で、障 がいの種類や程度に応じて、特別の場所で指導を行う特殊教育から、障がいのある児 童生徒1人ひとりの教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う特別支援教育への 転換を図ることが明記されたことは周知の通りである。 それまでの特殊教育は、盲学校、聾学校、養護学校(知的障害、肢体不自由、病弱) などの特殊教育諸学校と、小・中学校に設置されていた特殊学級及び通級指導教室で 行われていた。このような中、先に触れた最終報告で、通常の学校で学んでいる、学 習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症などの知的な遅れ のない発達障害のある小・中学生(その可能性も含む)は 6.3%、との調査結果も公表 された。40 人学級で 2~3 人という割合である。これらの障がいのある児童生徒への対 応が課題であるとされた。 中央教育審議会は、平成 17 年 12 月、最終報告を受けて、 「特別支援教育を推進する ための制度の在り方について」(答申)を取りまとめ、翌平成 18 年 6 月、学校教育法 が改正され、平成 19 年 4 月より、特殊教育は特別支援教育へと移行した。これにより、 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校の通常の学級においても、発達障 害のある子どもたちを含めて、障がいにより特別な支援を必要とする子どもたちの教 育的ニーズに応じた教育を行うことが明示された。 2)教員養成系学部・大学院の新しい使命 一 方 、 平 成 18 年 7 月 、 中 央 教 育 審 議 会 は 「 今後の教員養成・免許制度の在り方 について」(答申)を公表した。「LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)や高 機能自閉症等の子どもへの適切な支援」が学校教育の新たな課題として位置づけられ た。また、 「全教員に共通に求められる基礎的・基本的な資質能力を確保するとともに、 積極的に各人の得意分野づくりや個性の伸長を図ることが大切」であるとされている。 答申も述べているように、学校教育の課題は複雑・多様化している。教員養成系学 部・大学院は、 「教員に共通に求められる基礎的・基本的な資質能力」を形成するとと もに、複雑・多様化する学校の課題に対して専門的な知識や対応・指導スキルをもっ た教員を数多く輩出することが必要である。そして、発達障害のある子どもたちや心 のケアの必要な子どもたちへの指導や対応の面でも、 「すべての教員が発達障害を含む 障害のある児童生徒への適切な支援ができる状況ではない」という現状を踏まえて、 「理論と実践を組み合わせたボリュームのある教員養成カリキュラム」を創ることが 求められている。 臨床教育実習は、発達障害や心身症のある児童生徒を対象に、医学・心理・教育の 諸側面からの判断のもと、学生が「個別の指導計画」を作成し、実際に指導する実践 的なプログラムである。実習を通して得られた知見をもとに、学部と大学院の関連科 目の内容の見直しを進め、さらに、実習に関する評価法の開発を目指すものである。 そしてこの取り組みは、平成 20 年 1 月に公表された学習指導要領の改正に関する中教 審答申で述べられている、 「すべての教師の特別支援教育に対する理解と一定程度の専 門性を定着させるため、教員養成段階における特別支援教育に関する内容の充実を図 ることなどの施策を推進する」との方針に沿うものと考えている。 臨床教育実習への取り組み方、そしてその有効性等については、第1部をお読みい ただきたい。また、本実習について紹介した DVD を付録として貼付している。この報 告書が、全国の教員養成系学部・大学・大学院等での教育に少しでも参考となれば幸 である。また、多数のご意見、ご感想をお願い申し上げる次第である。 臨床教育実習はまだ緒に着いたばかりであり、まだ多くの課題がある。その1つひ とつを解決しながらその充実を今後も図っていく所存である。 【大事にしていること】 特別支援教育に取り組む際、知識やスキルの習得は必要である。しかし、子ど もたちの行動の理由を理解し、気持ちを大切にすることが一番大事である。障害 があるにせよ、それは森の中の一本の木のようなものではないだろうか。その子 の全体としての姿(「その子像」)を、つまり、森全体の広さと深さを常に視野 におくよう学生にも求めている。 3.本報告書の構成、取組経緯、及び謝辞 【報告書の構成について】 本報告書の第1部では、まず、臨床教育実習の取り組み概要を紹介して後、2 年間の GP 事業を通して得られた知見や課題について述べている。下記の通りである。 ○学生指導方法に関する「臨床教育実習と臨床教育演習の結合」 ○本実習を通しての学生の成長と取組自体の評価に関する「臨床教育実習における 学生の成長と評価」 ○教員養成系学部と医学部や関係団体との連携に関する「発達障害児支援における 連携の模索」 2008 年 12 月に開催した「臨床教育実習フォーラム」(平成 19 年度専門職大学院等 GP フォーラム)と公開研修会の概要についても第1部で紹介している。 第2部は、平成 19、20 年度実習生による活動報告である。支援児の状況、それを踏 まえて設定した目標、採用した指導内容と方法、指導の結果と考察、そして、支援児 への係わりやチーム支援という実習形態の中で感じた実習生自身の感想も載せている。 是非お読みいただきたい。 第3部は資料集である。臨床教育実習の英文概要の他、12 月フォーラムの様子を伝 える写真等を載せている。 また、付録として、臨床教育実習の取り組み方について解説した DVD「臨床教育実習 の紹介」を添付している。是非ご覧いただきたい。 【謝辞】 関係団体として、臨床教育実習にご協力いただいた佐賀県教育委員会、佐賀市教育 委員会、 (旧)久保田町教育委員会、多久市教育委員会の皆様、支援児在籍校 7 校の校 長先生初め先生方、佐賀・筑後地区LD・ADHD およびその周辺児・者親の会「夢気球」、 佐賀県LDとその周辺児・者の会「元気塾」親の会の皆様、そして、臨床教育実習に 支援児として参加していただいた 8 名の子どもたちと親御さん方に心より御礼申し上 げます。親御さん方には、子どもたちの送り迎えにご苦労をおかけしました。ありが とうございました。8 名の子どもたちが、1回も休むことなくスマイルルームに通った ことを一番うれしく思いました。スマイルルームでの経験や学生との出会いが、この 子たちの良き思い出となることを何よりも願っています。 平成 19 年 6 月に文部科学省へ GP 申請書を提出する際、下記の機関・団体に意見書 の提出をお願いしました。最終報告書を発行するにあたり、心より御礼申し上げる次 第です。 佐賀県教育委員会 様 佐賀市教育委員会 様 佐賀県特別支援学校長会 様 佐賀県小中学校校長会 様 佐賀市小中学校長会 様 佐賀県高等学校長協会 様 佐賀県PTA連合会 様 佐賀県高等学校PTA連合会 様 佐賀・筑後地区LD・ADHD およびその周辺児・者親の会「夢気球」様 佐賀県LDとその周辺児・者の会「元気塾」親の会 様 【平成 19 年度 取組の経緯 (平成 19 年 5 月~20 年 3 月)】 鳥栖・基山地区校長会にて臨床教育実習について説明 5 月 14 日 (月) 5 月 28 日 (月) 第1回 臨床教育実習推進委員会 6月1日 (金) 臨床教育実習第1回説明会(大学院生対象) 6月6日 (水) 臨床教育実習第2回説明会(学部学生対象) 7月9日 (月) 第2回 臨床教育実習推進委員会 支援児在籍校となった場合の協力依頼を行った。 平成 19 年度臨床教育実習計画会議 7 月 20 日 (金) 佐賀県教育委員会、市町教育委員会、支援児在籍校、親の会の臨床教育実 習関係団体の他、文化教育学部と附属特別支援学校の教員の参加のもと、 臨床教育実習の目的、計画等を説明し、意見交換を行った。 7 月 31 日 (火) 臨床教育実習 支援児講座 第1日目 8月1日 (水) 臨床教育実習 支援児講座 第2日目 8月9日 (木) 「平成 19 年度専門職大学院等教育推進プログラム」への選定公表 9 月 27 日 (木) 第3回 臨床教育実習推進委員会 臨床教育実習キックオフ会議 臨床教育実習開始を直前に控え、大学院生、実習指導教員、そして、3年次 10 月 3 日 (水) 教育実習(9 月)を終えた3年生が一同に会し、目的、計画等について再確 認、調整すると共に、チームとして支えあいつつ、常に行動を共にすることを確 認した。 第1回スマイルルーム指導 10 月 6 日 (土) 「スマイルルーム開き」を行った。長谷川照学長が、その挨拶の中で、「自分の 得意なことを見つけて欲しい」と支援児に激励のことばを贈った。 10 月 13 日 (土) 第2回スマイルルーム指導 10 月 20 日 (土) 第3回スマイルルーム指導 10 月 27 日 (土) 第4回スマイルルーム指導 第1回共同カンファレンス 関係団体、文化教育学部、附属特別支援学校教員の参加のもと開催した。 11 月1日 (木) 以後、支援チームだけの合同カンファレンス(支援チーム合同カンファレンス) として開催し、2月に関係団体等を招いて「臨床教育実習(大学施設実習)報 告会」(第4回共同カンファレンス相当)を開催することとなった。 11 月 10 日 (土) 第5回スマイルルーム指導 11 月 17 日 (土) 第6回スマイルルーム指導 11 月 24 日 (土) 第7回スマイルルーム指導 11 月 28 日 (水 ~ ~ カナダ・ウィニペグ市のマニトバ大学(佐賀大学協力校)と同市特別支援教育 センターを視察訪問。 12 月 2 日 日) 12 月 1 日 (土) 第8回スマイルルーム指導 12 月 6 日 (木) 支援チーム合同カンファレンス(第2回共同カンファレンス相当) 12 月 8 日 (土) 第9回スマイルルーム指導 12 月 15 日 (土) 第 10 回スマイルルーム指導 1月 12 日 (土) 第 11 回スマイルルーム指導 1 月 19 日 (土) 第 12 回スマイルルーム指導 <臨床教育実習(大学施設実習)最終回> 1 月 22 日 (木) 支援チーム合同カンファレンス(第3回共同カンファレンス相当) 1 月 29,30 火水 鹿児島大学にて取組説明と学生への講義(ゲストスピーカー派遣依頼) 2月9日 (土) 大学 GP 合同フォーラム(パシフィコ横浜、横浜市)でポスター発表 平成 19 年度佐賀県特別支援学級設置学校長協会会員研修会で報告 2 月 19 日 (火) 特別支援教育に関する施策動向と臨床教育実習の目的や成果について説 明した。 臨床教育実習(大学施設実習)報告会 (第4回共同カンファレンス相当) 関係団体の他、文化教育学部、医学部、附属特別支援学校教員の参加のも 2 月 22 日 (金) と、各チームが「支援児の状況」「長期目標」「個別の指導計画」「指導の実際」 「指導の結果」「今後の支援児在籍校でのサポートの目的」について、報告し、 意見交換を行った。 2 月 25 日 (月) 平成 19 年度教員養成事業報告会 第 4 回臨床教育実習推進委員会を拡大し開催した。 上野一彦氏(日本 LD 学会長、東京学芸大学教授)講演会 3月9日 (日) 「発達障害のある子どもたちへの理解と支援―新しい特別支援教育展開のな かで―」 3月9日 (日) 鹿児島大学 GP フォーラムシンポジウムで取組報告 3 月 18 日 (火) 京都教育大学より GP 視察 取組説明と意見交換 3 月 19 日 (水) 平成 19 年度第1回臨床教育実習連携・外部評価委員会 3 月末日 平成19年度活動報告書(本書)の発行 【平成 20 年度 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 月 11 月 取組の経緯 (平成 20 年 4 月~21 年 3 月)】 8 火 入学式 研究科オリエンテーション 11 金 前期開講 24 木 平成 20 年度第 1 回臨床教育実習推進委員会(年度計画説明) 7 水 29 木 支援チーム合同カンファレンス(H19 実習生) 18 時~19 時 プレイルーム 31 土 穴井千鶴先生(久留米大学) 支援児講座 10 時~16 時 プレイルーム 2 月 藤田一郎先生(佐賀大学医学部) 支援児講座 10 時 20 分~11 時 50 分 9 月 松尾宗明先生(佐賀大学医学部) 支援児講座 10 時 20 分~11 時 50 分 11 水 25 水 木附京子先生(佐賀整肢学園) 支援児講座 12 時 50 分~14 時 20 分 30 月 第 2 回臨床教育実習推進委員会(計画会議に向けて) 4 金 平成 20 年度臨床教育実習計画会議 28 月 前期試験(~8/1) 2 土 内田康芳先生(附属特別支援学校) 支援児講座 10 時~12 時 2 土 5 火 夏季休業(~9/30) 29 金 支援チーム合同カンファレンス(H19 実習生)、文教大会議室、16 時~ 8 月 22 月 第 3 回臨床教育実習推進委員会(実習開始を控えて) 1 水 後期開講 2 木 臨床教育実習キックオフ会議 放課後,17:50~20:00,プレイルーム 4 土 第1回スマイルルーム指導 11 土 第2回スマイルルーム指導 18 土 第3回スマイルルーム指導 19 日 ~ ~ 24 金 25 土 30 木 8 土 平成 20 年度臨床教育実習説明会(学部、大学院)、12時~12 時半、教育実践 総合センタープレイルーム 梶原紳一先生(佐賀県教育委員会教育政策課特別支援教育担当)支援児講 座、10 時 20 分~11 時 50 分 16 時半から、プレイルーム 支援児在籍校の担任の先生とチームとの進め方検討会の開催を予定 13 時~ 15 時 「臨床教育実習(学校実習)」報告会、平成 19 年度第 2 回連携・外部評価委員 会 「スマイルルーム開き」 カナダ・ウィニペグ市のマニトバ大学、小学校、高等学校及びリッチモンド市教育 委員会へ視察訪問 第4回スマイルルーム指導 岡山県議会子ども応援特別委員会 視察訪問 第 1 回支援チーム合同カンファレンス 第5回スマイルルーム指導 12 月 1月 2月 3月 15 土 第6回スマイルルーム指導 22 土 第7回スマイルルーム指導 29 土 第8回スマイルルーム指導 4 木 第2回支援チーム合同カンファレンス 6 土 臨床教育実習フォーラム(専門職大学院等 GP フォーラム)関連 公開研修会 7 日 臨床教育実習フォーラム(専門職大学院等 GP フォーラム) 13 土 第9回スマイルルーム指導 20 土 第 10 回スマイルルーム指導 25 木 冬休み(~1/7) 10 土 第 11 回スマイルルーム指導 12・ 月・ 13 火 24 土 第 12 回スマイルルーム指導 30 金 第3回支援チーム合同カンファレンス 4 水 後期定期試験(~2/10) 15 日 20 金 21 土 27 金 8 日 鹿児島大学専門職大学院等GPフォーラム参加(シンポジウム 指定討論者) 17 火 「教職実践演習(試行)」「大学院教育実習」「臨床教育実習」合同報告会 24 火 卒業・終了式 末 - GP 最終年度報告書(本書)の発送 GP合同フォーラム(横浜)参加 「スマイルルーム修了式」 九州・山口地区自閉症研究協議会第 33 回佐賀大会のワークショップで臨床教 育実習の概要と実習の実際の報告 臨床教育実習(大学施設実習)報告会、平成 20 年度第1回連携・外部評価委員 会 大分大学教育福祉科学部教育臨床研究会主催「第一回教育臨床研究会」参加 平成 20 年度教員養成 GP 事業報告会(第 4 回臨床教育実習推進委員会を拡 大して開催) 第1部 取り組みを振返って 4.臨床教育実習の取り組み概要 (付録 DVD 参照) 園田貴章 1)取組の背景 (1)佐賀大学のビジョンとしての本取組 旧佐賀大学と旧佐賀医科大学は、平成 15 年 10 月に統合した。本取組は、佐賀大学 中期計画「医文理融合型の学際的教育課程の創造」を実現するものである。また、同 中期計画「学士と修士のカリキュラムの連続の実現」を受けて策定された教育学研究 科の平成 19 年度計画「教育実習を中核とした学部・大学院を通した教育」の具体化を 図るものである。さらに、佐賀大学における今後の教育、研究等の方針を定めた「佐 賀大学中長期ビジョン」 (平成 20 年1月)において、 「発達障害と心身症への支援に強 い教員養成」を教員養成課程の特長とすることになった。 (2)文化教育学部と医学部附属病院との連携 平成 17 年度に、文化教育学部と医学部の教員により「佐賀大学発達障害支援・研究 プロジェクト」が立上げられ、それ以後心理検査や心理・教育相談において密接な連 携を進めてきた。また、医学部附属病院でカンファレンスを月1回行ってきた。その 議論で、 「学校で発達障害や心身症のある児童生徒に対応、指導できる教員の養成が急 務である」 「療育体制や学校での指導体制が整っていなければ、診断は家族を不安に陥 れるだけである」との意見交換が何度も行われる中、この取組の骨格が形成された。 (3)教員養成アンケートの結果 平成 18 年6月、佐賀大学文化教育学部は佐賀県教育委員会との連携・協力事業の1 つとして、佐賀県の小、中、高校、特殊教育諸学校の校長と教諭を対象にアンケート 調査を行った。校長、教諭とも半数以上が「発達障害(その可能性)のある児童生徒 への対応・指導」を、その約 4 割が「不登校の児童生徒への対応・指導」を学校の教 育課題として上げた。地域の学校の教育課題の解決に貢献するためにも、本取組の推 進が必要であるとの認識に至った。(「佐賀大学文化教育学部及び教育学研究科での教 員養成の在り方についてのアンケート報告書」、平成 19 年3月) 2)臨床教育実習の目標と実施方法 (1)臨床教育実習の目標 本取組は、 「発達障害と心身症への支援に強い教員」を養成するため、臨床教育実習 をコアとする学部・大学院連携カリキュラムの開発を目指している。その要である臨 床教育実習の目標は次の4つである。 ①実践に基づいたより深い理解力の形成 講義・演習で習得した、障害や精神的疾患についての理論的な知識をふまえ、様々 な状態を示す児童生徒に直接接することにより、具体的でより深い理解を図る。 ②特別な教育的ニーズのある児童生徒に対する対応力と指導力の向上 医学的判断、行動観察・心理検査の結果に基づき「個別の指導計画」 (目標・指導法・ 評価法等により構成)を作成し、根拠に基づいて対応、指導できる能力を養成する。 ③チームワーク力の形成 支援の必要な児童生徒にチームとして対応、指導することを常に求め、自制・協力・ 創造の精神を培い、教員としての連携力を養成する。 ④特別支援教育コーディネート力の形成 保護者や学校関係者や福祉・医療等の関係機関と連絡調整を図りつつ、 「個別の教育 支援計画」を作成し、一貫した教育的支援を行うためのコーディネート力を養成する。 (2)臨床教育実習の実施方法 ①支援児の抽出方法 医学部附属病院を受診した児童生徒の中から、医学部と文化教育学部の教員の検討 によって支援児を抽出した後、保護者と在籍校に協力を依頼している。支援児の数は 現在4名である。 ②履修方法と対象 履修は選択制である。学部3年生は、9月に附属学校で1ヵ月間行われる3年次教 育実習終了後にこの実習を受ける。 履修対象は、文化教育学部の障害児教育選修、教育心理学選修、教育学選修の3年 生以上、教育学研究科学校教育専攻1年生の他、特別支援学校教諭免許状の取得を目 指す学生や実習履修希望者である。 ③実習の形態 本実 習 は、 支 援児 を 大 学に 招 いて指導する「臨床教育実習(大 学施設実習 )」( 以下、 大学施設 実習と言う。)と実習生が支援児 在籍校 に出 向い て、 担 任教諭 に 協力し 、ま た指 導を 受 けつつ サ ポート にあ たる 「臨 床 教育実 習 (学校実習 )」( 以下、 学校実習 と言う。)の二段階構 成で あ る。 大学施設実習では、 「個別の指 導計画 」の 作成 力と そ れに基 づ 図4-1 臨床教育実習の全体像 く指導力を養成する。個々の支援児の教育的ニーズにあった個別・小グループ指導を 行い、支援児の学習力や社会適応力の成長を図ることが目的である。学校実習では、 実習生が大学施設実習で担当した支援児の在籍校に出向き、個別・小グループ指導に より支援児が習得した学習力や社会適応力を、支援児自らが在籍校で発揮できるよう、 支援する力を養うことを目的としている。 支援児の教育的ニーズを軸に「来訪方式」と「派遣方式」を有機的に連結したこと がこの実習の特色である。 大学施設実習は 10 月から翌年1月までの期間中の土曜日、計 12 回。1回の指導時 間は 2 時間である。「先生といっしょに」は個別・小グループ指導の時間であり、「み んなといっしょに」は全体活動の時間である。 「自由時間」は、支援児にとって“お楽 しみの時間”であり、また、行動観察の時間として設けている。 大学施設実習は文化教育学部附属特別支援 学校で行っている。支援児が笑顔で過ごすこ とができるよう、その“場”を「佐賀大学ス マイルルーム」と名付けた。 「どの子も笑顔で 通える学校にもっとしていきたい」という願 いも込めている。 学校実習は、4 月から 7 月の期間であり、 ■はじめの会 (10分) ■先生と いっしょに (45分) ■自由時間 (15分) ■みんなと いっしょに(40分) ■おわりの会 (10分) 図4-2 スマイルルームの時間割 支援児在籍校との協議の上、実習生が学校に出向く曜日や時間と内容を決めている。 週2日程度である。 3)学生教育の実際 (1)知識理解教育 臨床教育実習を学生が履修するにあたり、知識理解教育が十分に行われるよう、障 害児教育、教育心理学、教育学の担当教員が、後のページの「6.臨床教育実習におけ る学生の成長と評価」に示す「実習生自己評価リスト」 (試行版)の各項目を参考に担 当科目で指導するよう協力を求めた。なお、この評価リストは、本実習で身につける ことができる能力等を学生に予め示すものでもある。 また、医学部、附属特別支援学校、他大学、療育機関、佐賀県教育委員会から特別 講師を招いて支援児講座を開き、文化教育学部の教員だけでは対応できない内容やよ り専門的な内容を聴講させた。その内容を「レクチャー・ライブラリー」に収め、 e-Learning を通して、学内のパソコンから学生がいつでも視聴できるようにした。 表4-1 平成 20 年度支援児講座の開講講座 講師名 所属 穴井千鶴 久留米大学比較文化研究所 (継続) (臨床心理士) 藤田一郎 (新規) 松尾宗明 (新規) 梶原紳一 (新規) 日時 講座タイトル 5 月 31 日(土) 行動改善スキルの理論と実際 佐賀大学医学部小児科 6 月2日(月) 小児心身症診療・家族療法 佐賀大学医学部付属病院小児科 6 月 9 日(月) 佐賀県教育委員会教育政策課 6 月 11 日(水) 木附京子 佐賀整肢学園こども発達医療セ (新規) ンター小児科 内田康芳 佐賀大学文化教育学部附属特別 (継続) 支援学校小学部主事 発達障害の医学的診断と医療からの アプローチ 佐賀県における特別支援教育の現状 と今後の課題 6 月 25 日(水) ADHD のペアレントトレーニング 8 月 2 日(土) 個別の教育支援計画の理論と実際 (2)実習中の指導 ①チーム担当教員の指導のもとでのチーム支援 支援児4名を、チーム 担当教員4名のもと、学 部学生と大学院生が4 チームに分かれて指導 した。指導が終わる度に チームごとに臨床教育 演習の時間を設け、指導 を振り返り、次の計画を 練った。そして、4回の 指導終了後全チームが 一堂に会して「支援チー ム合同カンファンレス」 を開き担当支援児への 図4-3 大学施設実習での指導プロセス 指導の結果を報告し、意 見交換を行った。大学施設実習中、合同カンファレンスを3回開いた。そして、大学 施設実習終了後の2月、佐賀県教育委員会、佐賀市教育委員会、支援児在籍校、親の 会の関係団体の参加のもと報告会を開催した。 学校実習は、支援児の教育的ニーズに基づき、在籍校で個別指導を継続したり、授 業に参加して、サポートを行ったりした。この期間中も、臨床教育演習を行っており、 合同カンファレンスも2回開催した。 平成 19、20 年度の臨床教育実習生の内訳を表4-2、4-3に示す。 表4-2 平成 19 年度臨床教育実習生の内訳 学校教育課 程(学部) 学校教育専 攻 (大学院) 教育 教育 障害 教育 教育 障害 学 選 心理 児 教 学コー 心理 児教 修 学選 育選 ス 学コー 育コー 修 修 ス ス 1年生 - - - 0 4(2) 2(1) 2年生 - - - 1 0 0 3年生 3 2 4 - - - 4年生 1 0 1 - - - 小計 4 2 5 1 4(2) 2(1) 合計 18 名(3) 男性7名 女性11名 注: ( )内は現職教員院生 内数 表4-3 平成 20 年度臨床教育実習生の内訳 学校教育課 程(学部) 学校教育専 攻 (大学院) 教育 教育 障害 教育 教育 障害 学 選 心理 児 教 学コー 心理 児教 修 学選 育選 ス 学コー 育コー 修 修 ス ス 1年生 - - - 1 2(2) 3(2) 2年生 - - - 0 0 0 3年生 3 4 3 - - - 4年生 0 1 0 - - - 小計 3 5 3 1 2(2) 3(2) 合計 17 名(4) 男性 7 名 女性 10 名 注:( )内は現職教員院生 内数 ②学生指導の4つのツール 臨床教育実習では、学生が次の4つのツールに習熟することを要に指導した。 ア.アセスメントシート 実習生は、チーム担当教員の指導のもと、保護者や教員からの支援児に関する聞取 り、医療機関からの情報、心理検査・LDIなどのチェックリストの結果や行動観察 の結果をアセスメントシートの項目に沿って整理する。項目は「主訴」 「家族構成と家 族の状況」「生育暦」「教育暦/相談暦」「学校・学級での状況」「学力の状況」「行動や 社会性の面」「言語・コミュニケーションの面」 「諸検査の結果」 「運動・基本的生活の 面」「身体・医学の面」「興味・強い面」「本人や家族の気持ち・願い」「指導仮説」の 14 項目である。アセスメントシートに支援児の様々な情報を整理した上で、支援児の 主訴(対応や指導が現在特に必要なこと)を絞り込み、指導仮説に基づき、長期目標 を立てる。 イ.個別の指導計画 個別の指導計画とは、支援児の学習、行動、社会性等に関する教育的ニーズに基づ いて作成された、指導のための全体計画である。先に述べたように、大学施設実習は 全 12 回である。そして、4回の指導を1つのステージとし、3ステージに分けている。 ステージごとに長期目標は短期目標に具体化される。その際、前のステージでの結果 を踏まえ、次のステージの短期目標をさらに検討・修正するよう実習生に求めた。こ の作業を通して、支援児の成長や状況をより深く理解しつつ、更に適切な指導を実現 できるよう指導している。 ウ.指導構想とインストラクションシート 個別指導担当の実習生は、まず「指導構想」をつくり、次に支援児の行動特徴や反 応予想をもとに、ことばかけのことまで綿密に展開を考えてインストラクションシー トを作成する(「指導構想をインストシートに落とす」と言っている。)。指導中に、支 援児のどのような行動や反応に注目するかなど、予め細かにこのシートに記入してお く。支援児が見せた反応や行動を記入する欄も設けている。個別指導担当ではないチ ームの他の学生は、このシートを見ながら、指導を参観し、支援児のことばや行動な どで気づいたことをこの欄に記入する。そして、臨床教育演習の時間に、 「気づき」を 出し合い、指導の結果を総括し、次の計画を練る。PDCA サイクルに沿った支援活動を 学生が経験できるようにしている。このシートの例を下記の表に示す。 エ.教材 また、指導の結果と支援児の様子や特徴を踏まえて教材作成ができるよう指導して いる。 個別指導担当は実習生1人、平均2回ずつであった。個別指導の他、 「みんなといっ しょ」(全体活動)もチーム持ち回りで担当した。 表4-4 インストラクションシートの例(導入の冒頭) 指導の段階 1.課題へ 先生の教示と行動 1 の導入 子ども 注目点 の活動 今 日 の「先 生 とい っ しょ に」の時 間 は ○○ 先 生で す 。 様子や 気づき 表情 よ ろ し くお 願 いし ま す。 2 3 先 週 は、「絵 を 見て お話 を する」の 勉強 を しま し た。 答 え る 「 嫌 だ った 、難 し ど う だ った ? (反 応を 待 つ。難 し か った な どの 返 事 か っ た 、楽 しか っ の 場 合 は、 「 そう だ ね、 難しか っ た ね。 で も、 す ご た 」な ど、どの よ く 上 手 にお 話 をす る こと が出来 て い たよ 」 と言 う ) う に 答 える か 。 今 日 も 、 前 回と 同 じ よ うに 、「 絵 を 見 て お話 を つ く 表 情 、足の バタ バ る 問 題 」を 5 つし た 後、かけ 算の 勉 強 をし ま しょ う 。 タ が 見 られ る か 4)支援児在籍校や保護者との連携 平成20年度の臨床教育実習では、「スマイルルーム通信」を指導後毎回作成し、支 援児在籍校と保護者にお送りした。大学施設実習の段階から、連絡が密になるように した。第3部の資料集を参照。 5.臨床教育実習と臨床教育演習の結合 ―映像記録システムを活用してー 松下 一世 1)はじめに 臨床教育実習は、前半期(10~1 月)の大学施設実習と、後半期(4~7 月)の学校実習と、 年度をまたがって構成されており、参加する学生も学年を越えての関わりとなる。ま た、10 月からの大学施設実習に向けて、実際には年度当初から、支援時講座や、アセ スメントのための支援児・保護者・在籍学校の担任教員との面談が少しずつ行われる。 学校実習が終わった後も、報告書の作成、合同カンファレンス会議での報告発表等が あり、個々の学生にとっては、2 年近くもの期間、この実習に関わることになる。 この期間の中でもメインに位置づけられるのは、個別に支援児と学習する 10~1 月 の大学施設実習である。「スマイルルーム」と呼ばれる教室で、支援児 4 人に対して、 20 名ほどの学生が 4 チームに分かれ、それぞれのチームごとに一人の支援児と関わる ことになる。プログラムは二種類あり、ひとつは支援児一人ひとりに学習支援を行う 個別学習である。それぞれ課題が違うので、チームごとに目標をたて、それに即して 毎時間の個別指導計画を立てていく。もうひとつは、支援児と学生全員が参加する遊 びやゲームの要素を取り入れた全体活動である。これは、学生がローテーションを組 んで指導に当たるが、どの学生も自分のチームの支援児が全体の場でどのような言動 をするか、仔細に観察しながらサポートしていく。 このスマイルルームでの支援でどれだけ力をつけられたかによって、後の学校実習 にも大きく左右してくる。 本学の臨床教育実習の取り組みとして特徴的なのは、複数の学生がチームを組み、 チーム単位でひとりの子どもと一貫して関わる点である。ボランティアのように複数 の学生で複数の子どもと関わるのではなく、通常の教育実習のように一人の学生が複 数の子どもと関わるのでもなく、また一対一の関わりでもない。こうした体制をとる ことによって、学生はチーム内でお互いの気づきや意見、情報を交流しながら支援児 の特性や個性の理解を共有することが前提となり、そのうえで支援計画を作成し、支 援を実行していくことになる。 このような支援計画作成と検証のためのチームミーティングの場として、 「臨床教育 演習」として大学の時間割の中で一時間(90 分間授業)ある。 本稿では、実際に子どもと関わる「実習」の時間と、チームミーティングの場とし て計画作成を行う「演習」の時間が、どのように有機的な結合して行われたのかを検 証していくものである。また、スマイルルーム実習時には教室や体育館内に設置され たビデオカメラと高性能マイクによって録画された映像が、次の週の演習で DVD とし て保存されており、このような装置と機器を活用したことの効果についても併せて考 察していきたい。 筆者は、D チーム担当者として関わったので、とくにこのチームの学生と支援児と の具体的な姿を通して検証していきたい。チームメンバーの学生は 4 人であり、うち 院生 2 名(現職の中学校教員一名を含む)、学部生 2 名である。 2)「演習」から「実習」、「実習」から「演習」の循環 大学施設実習(通称「スマイルルーム」、以下「スマイルルーム」と称する)は週一回 土曜日に12回行われ、同じく週一回、演習の授業が組まれる。図示すると以下のよ うになる。 演習① アセスメントの結果考察と長期目標、第一ステージの短期目標設定 (個別学習ではコミュニケーションスキルのトレーニングをすることに決定、全体活動での 支援児の位置づけ方も決定) 実習① 第一回スマイルルーム実施 (スマイルルームの説明と支援児の今後の学習内容についての説明、全体でのゲーム活動) 演習② 全体の場での支援児の様子の振り返り(支援児の行動や表情、発言から) 第二回スマイルルームの個別指導計画立案・作成 (コミュニケーションスキルトレーニング開始) 実習② 第二回スマイルルーム実施 演習③ 第二回のスマイルルームでの振り返り (支援児の実態から指導方法の改善) 第三回スマイルルームの個別指導計画立案・作成 (支援児の実態に合わせた指導方法で実施) 実習③ 第三回スマイルルーム実施 演習④ 第三回のスマイルルームでの振り返り (指導方法が適切だったかどうか) 第四回スマイルルームの個別指導計画立案・作成 実習④ 第四回スマイルルーム実施 演習⑤ 第四回のスマイルルームでの振り返り (成果と課題を明らかに) 第一ステージの短期目標の達成状況の考察 次のステージの目標設定と学習内容設定 (支援児の課題を次時の学習目標に) (次のステップは何か考察) 合同カンファレンス会議に向けての資料作成 第五回スマイルルームの個別指導計画立案・作成 以上のように、繰り返していくと、合計 12 回の実習と、13 回のチームミーティン グとして演習が実施される。演習の時間は一時間(90 分)では不足しがちで、とくに ステージの切り替えの時期は、放課後の時間外にとることもあった。 3)「演習」における教授方法 [映像記録からの振り返りによる授業分析] 前回のスマイルルーム実習を振り返りに際して、チームリーダーの学生または、そ の授業を担当した学生が、気づいたことを資料としてまとめ、提案する。できるだけ、 支援児の言葉、表情、行動を拾い出し、そのことがどのような意味を持つのか、どの 第3回 10月27日(土) 指導の段階 教 示 支援児の発言及び態度 考 察 ○授業前に『バウムテスト』に取り組む。態度は真剣。 「パイナップル、りんご、下手やろ。」 「りんご好きなの」という問いに対し、「大好き」と答える。 1 前時の 授業の内容について 復習 2つの気持ち「どきどき」「くやしい (かなしい)」を学習 ○前時の学習に対しては、2つの気持ちをすぐに答える。 2 今日の 今日も先週と同じで、一つの気持 ○説明をしっかりと聞き、その後学習するカードを一枚選ぶ。 指示に対し、理解や行動ができる。 学習内容 ちについて考えていくよ。選ぶのは ○授業に参加しているものの、周りに注意が向く場面が数回あっ 学習環境の影響が非常に強いものと思われ の説明 この6つの気持ちからだよ。それ る。 と、もちろんみんなで取り組んでい た。 きましょう。 3 学習活 早速、今日考えてみたい気持ちを ○「おこった」顔カードを選択 動 この6枚から選ぼう。 ○「はずかしい」「だれに書こう」「下手よ、先生より下手よ、下手 学習への意欲 だもん」と言いながらも、ワークシートへの記入は真剣そのもの。 ①気持ちと この気持ちについて考えていこう。 ○書いては消し、書いては消しした後に、 顔記入 先週使ったプリントと同じものを配 「先生、怒られるにかえていい?」 るね。 「怒られるにかえて、そっちがいい、怒られるにかえて」と言いな 日にち、名前、どんな気持ちか、そ がら足をバタバタさせる。 れとその時の顔を描こう。 他者から何かをされる場面を多く考えてしまう 特徴がある。 ②どんなと き? どうし た? 授業者を怒っている人に感じ、それが自分の 過去の怒る先生を思い出させ、その時に怒ら れた記憶が強くなり、怒られた時の気持ちにつ いて書きたくなったものと推測される。 この気持ちになったのはどんな 時? その時にどうした? 思い出して書いていこう。 さあ、みなさんも書いてみてくださ い。 「ずっと怒られるって書きよったっちゃん」 授業者をみて「先生、怒っている顔にみえるっちゃん。」 その後、小学校の頃の先生にみえると言う。 ○結局怒られた時の気持ちを書く。その時は5分ほど真剣であっ た。 わからなくなると、甘えた言動が出てくる。 ○先生から怒られた時の話になる 先生が怒っている 「私も一緒に怒られた」「怖い」 ↓ その時の様子を細かく説明しはじめる(友達関係の話) 4人の中の一人がいじめられていた。 驚いた 「先生が怖い、顔つきがね、先生に似とる」 「それは小学校の時の話?」という問いに対し、 ↓ 「忘れた。髪が長かったちゃん、男か女かわからない。今までずっ とね、怖くてね」 泣く 「この一人の子と仲が良かったの?」の問いには、 「ううん、3人は仲がいい」 いろんな気持ち が混ざった ○友達の話 細かい所は「記憶がない」 「女の子が3人いて、後一人は男か女かわからない」 「いじめられている人はDちゃんではなかったの?」という問いに 「たぶん。いじめられているのは一人じゃない、3人がいじめられ ている、一人から」 「いじめられ方が嫌だった、先生に怒られる方が嫌だった?」の 問いに「わかんない」 「先生に怒られた記憶だけが残っている?」の問いに「うん」 4 発表 発表をしていこう。 ○その後友達の仲間外れの話となる。支援児がその友達から相 だれからでもいいですよ。 談を受けた時「自分で考えろ」と言ったようだ。 みんなに書いたことを伝えてくださ い。 ○女性スタッフの発表に対し、「そんなことある。先生には言えな 先生に相談しても解決しなかった経験があるも い、みんな集められてしまう。謝るまで帰らせんて言われた。」 のと思われる。 ○みんなの発表はよく聞いている。 5 学習の だれにでも○○の気持ちになった まとめ 時があって、そんな時にどんな行 動をとったかを知ることができまし た。 ○○の気持ちの時がDちゃんにも あって、△△の時にそんな気持ち になっていたんだね。 そして、そんな時に□□の行動をし ていたんだね。 ○授業者が「今日の話であなたはどんな気持ちがでてきたか?」 この授業の中で被害者意識の強さも感じられ という問いに対し、 た。 「怒られた」「怖い」「なんかわかんなくなってきた。」 最終的には「そんだけ」 ような心情や背景から生み出されたものかを考察する。それをもとに、それぞれが気 づいた場面を出し合う。さらに記憶だけではとらえられない部分を振り返るために、 DVD 録画を見ながら論議する。支援児の学習意欲はどうだったか、それはなぜか、教 材や発問は適切だったか、支援児の体調や心の状態はどうだったか、保護者からの情 報も併せて分析する。また、発言や表情、行動から、どのような心情や変容があった のか、支援児のコミュニケーション上の課題は何か等を話し合う。このような論議を 経て、再度作成した資料が先の表である。支援児の発言の中でも、とくに重要と思わ れるものを抜き出している。 [支援児の分析をベースに学習課題の設定] 支援児の分析から短期目標を設定し、それに即して授業を組んでいく。ときには、 当初計画していた学習のねらいや指導方法が支援児の応答によって軌道修正される場 合もある。たとえば、D チームの支援児は、学生との人間関係に際しても緊張感が強 く、そのことが授業への抵抗や反発として表れていた。できるだけ緊張感と抵抗感を なくし、ラポールを形成するための指導方法を改善すること余儀なくされた。また、 コミュニケーションスキルのトレーニングという性格上、支援児一人に解答させるの ではなく、学生も自らの体験や心情、意見をありのまま語るほうが、支援児にとって も思考や発想を広げていくことにつながるのではないかということで、協同学習(学生 はこれを「学びの共同体」と称している)を成立させていった。 ときには、支援児の分析に対して、学生たちの意見や考察が食い違う場合もある。 たとえば、支援児の授業における発言を「他者の気持ちをよく理解できている発言だ った」とする意見と「いや、きれいごとを言っているだけではないだろうか。支援児 のホンネは違う気がする」という意見が出されたことがあった。そこで、次のステー ジ以降は、友人関係の中で生じやすいトラブルを想定したロールプレイや紙芝居を授 業の方法として取り入れ、支援児より良好な友人関係を創っていくためのトレーニン グを実施した。 [幅広い情報の共有化から総合的な分析力] ステージ終了ごとに行われる合同カンファレンスでは、他チームからの意見や情報 交換、評価が加わる。とくに、全体活動の場面で、他の支援児との関係や他のチーム 学生との関わりの中から、支援児の人間関係の現状が明らかにされ、課題が浮き彫り になることもあった。たとえば、支援児が他のチームの支援児とトラブルを起こした 時などに学生がどのように指導に入ればよいのかが話し合われたこともある。課題だ けでなく、支援児のプラス面が他チームからの情報として出され、個別学習の成果と して捉えられることもある。 さらに、支援児を理解するためには、支援児の在籍学校担任や保護者とも連絡を密 にし、学校や家庭における支援児の様子をできるだけ情報収集し、学生に伝えていっ た。 こうして、さまざまな場面での支援児を多面的にとらえ、総合的に判断していく力 をつけていくような演習にしていった。 [学校実習におけるサポートと演習] チームによって学校実習の入り方はさまざまだが、D チームの場合、特別支援学級 にサポートとして入った。教員二名に生徒数 5~6 名である。中学校なので、教科指導 が主なので、毎時間先生は変わる。また、交流学級の教室で他の生徒と一緒に授業を 受ける時間もあり、そこに付き添ったりする。学校実習とはいえ、一人のこのサポー トのみに関わることができないので、そのときの教科担任の TT として教室全体のサポ ートをすることになる。支援児が友人関係とトラブルを起こした場合は、本人と話す ことはできても、他の生徒への指導は実習生にはできない。しかし、支援児の学校で の対人関係の様子を観察し、担任の先生方の支援児への関わりから何を学ぶかという 視点で、実習ノートに記録するように指導した。 演習の時間には、毎週、実習ノートを提出し、支援児と他の友人とトラブルを生じ たいきさつやその要因の分析を行った。必要と思われるときは、学校で支援児に関わ るすべての先生(管理職・学年主任・交流学級担任・特別支援学級担任・コーディネー ター・保健室、図書室の先生)と大学とでケース会議を行い、これまでの支援児の様子 や心理検査の結果等をお話しさせていただいた。情報を共有することで、学校におい ても支援児への理解がより深まった。 4)学生の自己評価より チームリーダーのある学生は、共同でひとつの授業を作り上げていくプロセスを次 のように感想で述べている。 臨床教育実習中に感じた大きなことのひとつは連携し協力することの生み出す力である。ひとりで は限りがあっても、チームならばより多くの可能性を導くこともできる。多様な意見を聞く必要性を 感じ、この実習がチームによる支援という体勢をとっている意義も私なりに理解してきたつもりだ。 さらに、事前および事後に綿密なミーティングをもつことで計画・実行・反省および改善というサイ クルを形成することができた。また同じ結論に達するのであっても、いきなりそうなるのと、一旦議 論をして考えを深化させたうえでその結論に至るのとではおそらく雲泥の差があるものであろう。こ の実習においてもそのような姿勢を忘れないようにしてきたつもりで、そういった議論をすることも これが目指しているもののひとつと捉えている。 これは、学校現場で教員として求められる資質である。学校は、個人で教材開発や 授業研究を行うところではない。子どもたちの実態を出し合い情報を共有するなかで 課題を発見し、そこから授業を創り上げていくものである。協同のスペースとして「演 習」が成り立っている。同学生は、 「学びの共同体」において支援児とともに学んだこ とも述べている。 私たちのチームの支援の特徴のひとつともいえる“学びの共同体”について少し考えたい。 “学びの 共同体”を形成した、支援児の周囲の人々にはなんらかの変容があったのかということである。この ことはクラスの児童・生徒たちの変容の可能性を示唆しうるものであろう。自らを振り返ってみると、 今の支援児と同じくらいの年のとき私も似たような悩みをもっていた。この実習ではそのときのこと も思い出しながら支援児とともに考えてきたつもりである。あの頃から今までに試行錯誤しながら、 多くの失敗をしながら周囲との関係を保ってきたこと、今でもいろいろなことを考えてしまっている こと、そのひとつひとつを再考する場であった。支援児が現在、自ら見つけ出した自分なりの方略を 聞きながら、そんな方法があったのかと感心したり、逆に私のほうからこんな方法もあるんだよ、と 伝えたくなったり。そういった諸々が、私にとっての“学びの共同体”のかたちだった。 また、支援児との関係において、支援児の観察の重要性を学んだ学生もいる。 今回この実習に参加するに当たり、初めは戸惑いと不安ばかりが先立っていた。そんな状況であっ たが故に、自分なりの課題をもつことがより重要になるのではと考えた。その課題とは、支援児との 信頼関係を築くことである。子どもと関わる上では特に、自分のありのままの気持ちや考えを表現で きるような存在となることが第一に必要だと思うからである。具体的にどうすればよいのか見えない ながらも、まずは、Dの言動一つ一つをしっかりと観察し、そしてそれを受け止めることから始めよ うと考えた。 次は、このチームに現職教師の院生の感想である。発達障害や心身症の特性やアプ ローチの仕方を専門的に学ぶことは重要である。しかし、そのことを理論的にだけで はなく実践的に捉えることの重要性を指摘している。 私自身特に勉強になったものだが、 「障害を持つ子ども達に対し、極度な意識を持ちすぎたこと」が ある。つまり、私の中で「この子はこのような障害を持っている。だから、通常の学級にいる子ども 達とは違う。」といった考えを持ちすぎたために、いざ自分が授業を行っている時にその子に合わせた 授業だけを展開しなければと思ってしまったのである。そして、このことがある意味一方通行的な授 業となり、授業者である私から彼女へのアプローチの弱さとなってしまった。授業を重ねていく中で、 「両者が素直な気持ちを出し合う時間や空間が授業である」ことを改めて気づかせてくれたのだ。勿 論、様々な特徴を持つ子ども達に対し配慮を忘れるということではない。言いたいのは、子どもと関 わる側が勝手に決めつけすぎて、マニュアル化したような手立てで授業を進めてはいけないというこ とである。 支援児と学生の信頼関係の芽生えと、受容することの重要性について、ある学生は 卒業論文の「教師力」というテーマで次のように述べている。 第 10 回個別指導(2007 年 1 月 12 日)での先生(T1、T2、T3)と Y のやり取 りの場面である。 ここでは、Y が T1やチー ムのメンバーと徐々に関係を形成していく様子がみられる。第 10 回目の個 別指導ではまだワークシートを記入していない先生に対して気遣う発言がみられた。T1だけでなく、 チーム全体で Y と向き合っ た結果、Y 自身も心を開き 、周囲を理解し、気遣うようになったのであろ う。また、以前は他人の意見に対して適当な反応を示すことが多かったが、表 6 の T2 と Y の関わり からも分かるように、次第に他人の意見を聞くようになり、その意見に対して自分の意見をいえるよ うになった。双方向的関係の形成は指導者と支援児にとって重要なことである。このように双方向的 関係が形成されたことによって、支援児の悩みや苦しみだけでなく、その人間性まで理解することが できたように思われた。この関係の形成ができてはじめて、支援児の求める支援の内容や方法が明確 になってくるように思われた。 第 11 回個別指導(2007 年 1 月 19 日)での先生(T1、T2、T3)と Y のやり取 りの場面である。 第 11 回目の個別指導は Y に自分 1 人で解決する方法もあるが、周囲の人に相談することも大切だと いうことを知られるために実施した。Y は自分で解決すること(一人でひなたぼっこをすること)に 強く固執しており、過去のマイナスの体験や「女の子だから」と言うことを理由に、他人に見せたく ない、言いたくない自分の一面を肯定しているようであった。しかし、Y が過去のマイナス体験や自 分のエピソードを話してくれることは T1 やチームの メンバーが Y との信頼関係を築くことができた 結果ともいえる。受け入れられることで、Y は安心感をもち、また自分の行動を理解することができ たのではないだろうか。この日の指導目標は達成できなかったが、支援児の心に寄り添い、理解して あげることが指導者には必要であると思った。 ここでの T1、T2、T3 は、学生を指している。Y というのが支援児である。この学 生は DVD 映像を振り返ることで、自分たち学生と支援児の心理的距離感がどう縮まっ ていったかを考察している。 5)考察と課題 「実習」と「演習」が有機的に機能することによる成果として、次の四点が挙げら れる。 ① 発達障害や心身症の専門的知識と経験的技能との融合 ② 子どもの実態やニーズに即した個別指導計画、授業案づくりの力の養成 ③ 子どもへの受容的な対応と教師としての基本的資質の養成 ④ 集団として子ども観を統一し、協同で対応する力の養成 一点目について、ある学生が次のように語っていた。 「実際に子どもと関わっていて、 あ、これが本に書いていた ADHD の特性なのかって初めてわかった」と。このように、 生身の一人の子どもとのとの関わりを通して、知識が理解され、 「ではこの子のために どのような学習が必要なのか」と考え、より専門的な知識を習得し、それが経験に生 かされ技能を高めるというプロセスをたどることができた。実習と演習が効果的に行 われた結果ではないかと思われる。 二点目は、大学の演習で陥りがちな「子ども不在」の教材づくり、指導案づくりに なることなく、子どものアセスメントを重視した演習を行うことができた。学生とは いえ、子どもの前では「先生」である。「先生」が子どもに対して「授業」を展開して いくためには、わかりやすい楽しい「授業」でなくてはならない。まして、大勢の子 どもが対象ではない。目の前の一人の子どもの学習意欲と学習理解度がすべてを左右 する。子どもだけでなくその保護者の期待も背負うが、授業を通して子どもと触れ合 い、学習が達成したときの充実感も味わうこともできる。そのことが学生の意欲向上 にもつながったと思われる。 三点目については、子どもの学習理解や学習意欲を高めるためには、子どもの抱え ている状況をトータルに捉え、子どもの気持ちを理解し、受容していくことが求めら れる。それが教員と子どもとの信頼関係構築である。この基本的な信頼関係が基盤に あってこそ、支援児が、ルールを守らない場合や不適切な行為をしたときにストップ をかけたり注意を促したりすることができる。このような教員として子どもに関わる 上での基本的な資質を養成することができたと思われる。また、それを促したのが、 DVD 映像記録を活用しての演習であった。支援児だけでなく、学生自身の子どもへの 対応の仕方、指導する側の学生と指導される側の子どもとの距離感を客観的に見つめ 直すことにつながっていった。 四点目については、個々に力量を高めるだけでなく、集団として相互に高めあい磨 き合う力量アップができたと思われる。個々の教師が様々に対応するのではなく、学 校全体として統一した対応が求められている学校教育現場の課題を経験的に学べたの ではないか。 しかし、一方で課題がないわけではない。支援児に対して、どのような教育的アプ ローチ、療養的アプローチがあるのかという実践的な専門性を身につけるのは時間が まだ足りない。ひとりの教育的ニーズに対応したプログラムは実に多種多様にある。 大学としても「演習」の時間だけでなく、時間外に支援児講座を開設し、その時間に 受講できない学生にとってもいつでもどこでも視聴して学べるライブラリー講座とし た。これらをもっと有効に活用していくことが今後の課題である。 また、後半期の実習である「学校実習」に入ったときに学生が直面することになる のは、支援児が学級の中でどのように理解され、どのような対応を受けているかとい うことであった。教員だけでなく、周囲の子どもたちにどのように受容されているか という点が支援児の心理面や学習意欲と大きく関わってくる。社会性に課題があると はいえ、支援児のみが社会に適応する努力を強いられるのではなく、障害のある子ど もを受け入れていく社会としての学級集団や学校づくりのあり方が問われている。こ うした視点にたった演習や実習のあり方を検討していくことも今後の課題である。 6.臨床教育実習における学生の成長と評価 網谷綾香 1)はじめに 臨床教育実習において学生を指導してきた大学教員は,それぞれに学生の成長を目の当 たりにし,手ごたえを実感しているところである。しかし,総合的かつ客観的にみたとき, 具体的に学生たちはどのような力を身につけ,どのように成長したといえるのか。果たし て彼らの「臨床力」や「教育力」を,どのようにすれば正しく評価できるのであろうか。 本稿では,自己評価リストと学生のレポートを通して学生の学びと成長について分析し, それをふまえて今後の学生指導と評価のあり方について検討したい。 2)「自己評価リスト」を通してみる学生の成長 (1) 「自己評価リスト(試行版)」について 平成 19 年度および平成 20 年度は,試みとして「自己評価リスト」を作成し,学生にチ ェックさせた。このリストを作成した第一の目的は,実習を通し学生が身につけることが できる知識・能力・態度を学生に明示することであった。第二の目的は,評価結果に基づ き,講義・演習の内容で不十分な点を明らかにし,カリキュラムや授業内容を改善するこ とである。 評価観点は,「Ⅰ.基礎的理解(6 項目)」,「Ⅱ.アセスメント(7 項目)」,「Ⅲ.総合的判断 と支援の方針(1項目)」, 「Ⅳ.個別の指導計画の作成(4 項目)」, 「Ⅴ.教材作成・対処方法 についての自己学習(4 項目)」,「Ⅵ.対応力・指導力(9 項目)」,「Ⅶ.連携力(4 項目)」, 「Ⅷ.倫理(3 項目)」の 8 観点(合計 38 項目)である。具体的な項目については,付表を 参照されたい。観点Ⅴ以外の7観点については,「できない」から「できる」までの 5 段 階で評定させた。観点Ⅴについては,「ない・ある」の2択とした。 このリストを用い,実習前,大学施設実習終了後,学校実習終了後の 3 回にわたり,学 生に自己評価を行わせた。観点Ⅴをのぞく 7 観点について, 「できない」を 1 点, 「あまり できない」を 2 点, 「どちらでもない」を 3 点, 「だいたいできる」を 4 点, 「できる」を 5 点とし評価得点を算出した。 (2) 「大学施設実習」における学生の成長 まず,実習の第一段階である「大学施設実習」前後における学生の自己評価得点につい て分析する。平成 19 年度と平成 20 年度の履修学生それぞれについて集計し,各観点別に 平均値を算出したところ,年度による差はほとんど見られなかったため,ここでは平成 19 年度と 20 年度の学生のデータをまとめて扱うこととした。なお,観点Ⅴの分析について は本稿では割愛する。 図 1-1~3 に,実習前と大学施設実習後における学生の自己評価の変化を示した。図 1-1 は学部生(3,4 年生)21 名のデータ,図 1-2 はストレートマスター4 名のデータ,図 1-3 は現職教員の大学院生(以下,現職院生とする)6 名のデータである。学部生の自己評価 得点は大学院生に比べて低く,現職院生の評価得点は全体的に高い。当然のことながら, 学年があがるほど,また,経験のある者ほど,それぞれの観点に関して「できる」と自己 評価することが確認された。 大学施設実習の前後における変化についてみると,ほとんどすべての評価観点において, 実習前より実習後のほうが自己評価得点は高くなっている。この傾向は,学部生・ストレ ートマスター・現職院生を問わず同様であるが,中でも学部生の成長が著しい。 t 検定により平均値の差の分析を行ったところ,学部生はすべての評価観点において 1% 水準の有意差があることが明らかとなった。特に, 「総合的判断と支援の方針」, 「個別の指 導計画の作成」,「対応力,指導力」についての伸びが顕著であった。 ストレートマスターについても, 「倫理」以外のすべての評価観点について,実習前より 実習後のほうが評価得点は高くなっていた。人数が 4 名と少ないこともあってか,5%水準 以下での統計的有意差がみられたのは「総合的判断と支援の方針」のみであったが, 「個別 の指導計画の作成」および「対応力,指導力」についても 10%水準での傾向差が確認され た。 現職院生については,もともと教育現場において特別支援教育の実践経験を持つ者も多 く,実習参加前から「できる」と評定された項目も多かったため,得点の推移だけをみる と著しい成長がみられたとは言い難い。しかし,それでも「基礎的理解」「アセスメント」 「個別の指導計画」 「対応力,指導力」 「連携力」において,5%水準での有意差が確認され た。なお, 「倫理」については,ストレートマスター・現職院生は,実習前からその重要性 を理解し,配慮することができていたものと考えられた。 以上のように,学生は大学施設実習を通してさまざまなスキルや実践力を高めることが 示された。 次に,学生全員の平均値について項目別に分析を行い,大学施設実習後も得点が低かっ た項目を確認したところ, 「基礎的理解」の中の心身の問題に対する医学的・心理的知識に 関する項目(4,5,6),「アセスメント」の観点の中の心理検査の分析に関する項目(7, 8,9,10),「連携力」の中の担任教員との連携に関する項目(33)であった。 5.0 5.0 実習前 大学施設実習後 5.0 実習前 実習前 大学施設実習後 4.0 4.0 3.0 3.0 3.0 2.0 2.0 2.0 1.0 1.0 1.0 倫理 連携力 対応力・指導力 図 1-3 個別の指導計 画の作成 総合的判断と 支援の方針 図 1-2 ストレートマスター(n=4) アセスメント 0.0 大学施設実習後 基礎的理解 倫理 連携力 対応力・指導力 個別の指導計 画の作成 総合的判断と 支援の方針 アセスメント 図1 0.0 基礎的理解 図 1-1 学部生(n=21) 倫理 連携力 対応力・指導力 個別の指導計 画の作成 総合的判断と 支援の方針 アセスメント 基礎的理解 0.0 4.0 現職院生(n=6) 実習前および大学施設実習終了時における学生の自己評価の変化 心身の問題に対する医学的・心理的知識に関する項目は,その項目の示す内容が幅広く 漠然としていたために学生自身が評価しにくかった可能性も高いが,基礎的な知識に関す る教育が十分ではなかった可能性も否めない。そこで、平成 20 年度の支援児講座で医学・ 心理に関する講義を設け、改善を図った。 アセスメントに関しては,各チームの支援児の特徴により取り組み内容が異なったこと の影響もあろう。たとえば学習困難が顕著である支援児のチームにおいては,WISC や K-ABC を実施し詳細な分析を行ったり,認知特性から学習困難の背景を探ったりしたが, その他のチーム,例えば社会性の問題や心理的支援を主眼に置いたチームにおいては,こ うした認知面や学習に関する詳細なアセスメントを自らが実施する機会が少なかった。逆 に,あるチームでは心理面に注目し人格検査の結果を詳しく分析したが,他のチームでは 実施しないケースもあった。事前の講義・演習で学んだりカンファレンスや報告会で他の チームの報告を聞いたりすることである程度の学びは可能と思われたが,学生にとっては 専門性の高い難しい内容と感じられるのかもしれない。これらの力を伸ばすためには実際 の子どもと向き合いながらの実践的学びが必要であろう。 また,担任との連携については,大学施設実習での課題のひとつでもあるが,第二段階 の学校実習においてさらに充実して取り組まれる内容でもある。平成 20 年度からは,大 学施設実習中に定期的に「スマイル通信」というお便りを発行し,在籍学校にもこれを配 布することで連携が促進されたが,これも一方向の通信であるためさらなる工夫が求めら れるところである。 (3)「学校実習」における学生の成長 次に,第二段階の「学校実習」における学生の成長について分析を行う。平成 19 年度 に学校実習に参加した学生は,学部生 6 名,ストレートマスター3 名の合計 9 名であった (現職教員は大学院 2 年目より所属学校での勤に戻るため,学校実習には参加していない。 また,平成 20 年度生の学校実習はまだはじまっていないので,ここでは 19 年度生のデー タのみ扱う)。 学校実習に参加した 9 名の学生における,実習前・大学施設実習後・学校実習後の3回 の時点での自己評価得点の推移を図 2 に示した。大学施設実習の前後の伸びと比べると決 実習前 5.0 大学施設実習後 学校実習後 4.0 3.0 2.0 1.0 倫理 連携力 対応力・指導力 個別の指導計 画の作成 学校実習参加学生の自己評価の変化(n=9) 総合的判断と 支援の方針 基礎的理解 図2 アセスメント 0.0 して大きいとは言えないが,t 検定を行ったところ, 「倫理」以外の観点において,有意差 が確認された(「総合的判断と支援の方針」については 10%水準の傾向差)。学校実習終了 時の評価得点は「アセスメント」をのぞき 4 点以上となり,「だいたいできる」から「で きる」のレベルで自己評価されたことが分かる。 項目ごとの分析の結果,学校実習後に特に大きな伸びがみられた項目は,「12 保護者や 学校関係者との面談による支援児の心身の状態理解」「29 支援児の反応や変化を観察し, 理解」「30 見立てや支援方針の妥当性の検証」「33 担任教員との連携」「34 保護者との連 携」といった項目であった。学校実習においては,保護者や学校との連携力が,顕著に伸 びることが示唆された。 3)レポートと実際の姿からみる学生の学びと成長 本報告書の第2部に,各チーム報告を掲載した。その末尾に,短いものではあるが実習 参加学生の感想がある。このレポートの記述と実際の学生の姿からみえる学生の学びと成 長について検討したところ,以下の3点が重要であると思われた。 (1)子どもをより深く理解しようとする姿勢 行動観察や心理検査,子どもとの関わりを通して,子どもの言動や気持ちを考えられる ようになり,それにもとづいて指導・支援するようになった学生が多い。これは,自己評 価リストにおける「アセスメント」 「指導力,対応力」の観点に該当するが,ここで興味深 いのは,レポートでは「理解できるようになった」 「対応できた」というよりも,分からな い中でも何とか「理解しよう」,「考え抜こう」とし,子どもと「とことん向き合う」姿勢 が身についたという記述が目立つことである。このような姿勢は,実習と対をなす演習を 重要視してきた本取り組みの確かな成果であるといえる。学生たちがこのように真摯に子 どもと向き合い,考え抜いてきたからこそ,ちょっとした子どもの変化にも敏感に気づく ようになり,子どもの成長を心から喜び, 「子どもに支えられる」体験が得られたのではな いか。 (2)自己理解力,自己内省力 上記のように子どもを深く理解し,理解にもとづいて対応しようとするとき,学生は支 援する側である自分のあり方にも否応なしに直面させられた。レポートからは, 「自分の力 不足」や「自覚のなさ」を痛感するなど,己の未熟さに気づくようになった学生もいたこ とが分かる。こうした気づきは特に,責任ある役割を担い, 「1 人の先生」として子どもの 前に立ったときに促進されるようである。 学生達は子どもを理解しようとしても,「子どもが見えない」状態に陥ったり,指導が うまくいかなかったり,適切でない対応をしてしまうなど,学生達は多くの「失敗」も経 験し悩みもしてきた。しかし, 「一番の成長は,指導者側のあり方を考えられるようになっ たこと」とはっきりと報告した学生がいたように,実は己の未熟さを自覚し,失敗体験か ら学ぶことこそ,非常に大切な成長のプロセスであると考えられる。 (3) 人と人との関係性の中での学び 子どもを深く理解し,自分に向き合うことは,そうたやすいことではない。これらの理 解は,本実習の特徴でもあるチームアプローチの形態により促進された部分も大きい。 チームで一人の子どもに関わり話し合 いを重ねていく中で「様々な意見」や「多 面的な見方」に触れたことを,非常に多 くの学生がレポートに記述している。学 生達は,選修や学年,経験の異なる者で 構成されたチームの中で,各々の「感じ 方,接し方の違い」に気づいていった。 このプロセスを通して子ども理解が深め られ,自分の考え方の狭さや偏りに気づ き,より「柔軟な発想」ができるように なった。意見や関わり方の相違は,時に チームで一丸となって(学部生・大学院生・教員) チーム内あるいは個人内での葛藤を生み もしたが, “子どもにとって一番よい支援を考えること”を原点として,話し合いを繰り返 し行っていった。相互のやりとりを通して,各々の個性を活かし,自然とチーム内で適材 適所の役割分担のうえ支援が行われるようになったチームもあった。 本実習において,複数の視点に触れる機会は,チームで行う実習や演習の場だけではな い。チーム合同カンファレンスは他のチームの取り組みや考え方から学ぶ場であったし, 前年度の実習生から先輩としての意見や経験談を学ぶ機会もあった。また,関係団体を招 いての実習報告会は,担任教諭や教育委員会の思いに触れる場であったし,学校実習はさ らにそれらが明確に肌身に伝わってくる体験の場となった。保護者との連携の中では,家 族の悩みや葛藤を知り,共感的に理解できるようになった学生も多かった。 以上述べてきたように,本実習において子どもとの関係性を軸としながら,様々な人と 人との関係性の中で学んでいく体験が,学生の成長を支えてきたものと考えられる。 4)学生指導と評価に関する今後の課題 臨床教育実習を中心とした本取り組みの教育目標は,以下の 4 点であった。①実践に基 づいたより深い理解力の形成,②特別な教育的ニーズのある児童生徒に対する対応力と指 導力の向上,③チームワーク力の形成,④特別支援教育コーディネート力の形成。このう ち,①~③については,自己評価リストおよび学生レポートと実態を通した分析から,あ る程度のレベルまでの学生の成長が確認された。④については,はっきりとした評価を行 っているわけではないが,基本的には①~③を充分に促すことがコーディネート力の基盤 となると考えられる。また,チームの中で経験や知識の豊かなものは自然と(あるいは意 識的に)コーディネーター的な役割を担っていたことが,現職院生との対話などから明ら かになった。 このように多くの教育成果が本実習で得られたが,今後検討すべき課題としては,以下 の点があげられる。 (1) 自己評価リストの項目の洗練,教員による評価のあり方の検討 今回の分析を通して改めて学生の学びと成長を確認する中で,自己評価リストの項目を より洗練させ追加修正していく必要性,もしくは項目の内容についてより具体的に説明す る必要性が強く感じられた。たとえば,関係性の中で学んでいく上での基本的姿勢や自己 理解の深化に関する項目なども盛り込まれる必要があるのではないか。「協力」や「連携」 ということばでひとくくりに表現してきた内容についても,より具体化させ, 「相手の立場 や思いを理解すること」や「自分の考えや指導・支援の内容を説明する力(報告力)」など, 明確に示していくことも検討しなくてはならない。学部生とストレートマスター,現職院 生の評価リストを,共通の項目とするのか,個別に項目を設けて作成するのかについても, 検討の余地がある。 平成 21 年度入学生から,「臨床教育実習」と「臨床教育演習」が佐賀大学文化教育学部 および大学院教育学研究科の正規の授業科目として単位化されることが決定している。単 位を出すためには,大学教員は履修学生の評価を行い,成績を出さなくてはならない。そ のためにも,評価リストによって学ぶべき内容と達成基準を明示し,教員もこれにもとづ いて学生を評価していくことが必要となる。このときに忘れてはならないのは, 「失敗に学 ぶこと」,「分からないことを分からないということ」も学生にとっては重要な学びのプロ セスであるという視点である。教員による評価が成長過程にある学生を防衛的にしてしま う結果とならないよう配慮したい。そのためには, 「失敗に学ぶこと」や「分からなさの自 覚」なども評価リストの項目として加えておくべきかもしれない。逆に,過度に反省的な 学生や無自覚のままに支援児によい影響を与えている学生もいることから, 「できている部 分や支援児に与えている影響の自覚」なども教員からフィードバックすべき大事なポイン トであろう。 さらに,この評価リストを学生本人もしくは大学教員が用いるとき,その限界も知って おくべきであろう。学生レポートは,リストでは把握しきれない質的な成長を確認するひ とつの方法である。また,現在,学生自身に自己評価リストをチェックさせたのち,学生 と教員がその結果について個別に話し合う面談の場をもうけてはどうかという案も出てお り,試行的に実施しているところであ る。このような教員と学生のやり取り を通して,学生の冷静で妥当なセルフ モニタリング能力も向上するであろう し,評価方法もより妥当なものへと改 善されていくであろう。実習報告会の あとに開催する懇親会や,平成 20 年度 に行った現職院生と大学教員の懇談会 なども,われわれが学生の率直な意見 をきくことで教育のあり方を改善して 現職院生と大学教員の懇談会の様子 いくための重要な機会と考えている。 (2) 学部・大学院カリキュラム全体の充実,実習と他の科目との有機的連結 自己評価リストの分析から,基礎的知識やスキル不足の可能性も示唆された。事前の講 義・演習や支援児講座を通して,基礎的な知識やスキルを身につけたうえで実習に参加す ることを前提としているが,実際のところ,学生によって差があるのも実状である。この 問題を解消するためには,学部 1 年からの教員養成カリキュラムをもう一度再検討し,講 義や演習内容の充実を図っていくことが求められる。また,実習前に最低限身につけてお くべき知識やスキルを明確に学生に提示し,学習させる必要がある。そこで,基礎的知識 やスキルについて解説したテキストや DVD 教材等の作成,それらの習得を確認するため の客観テストの実施なども検討していきたい。 教職に関する科目や教科内容に関する科目,あるいは,教養科目なども,特別支援に関 わる教員の養成には非常に重要である。学生のひとつひとつの学びが,有機的に連結して いき,本実習で実を結ぶようなカリキュラムを構築していくことは,重要課題のひとつで ある。 5)おわりに われわれが目指しているのは,“質の高い”,“個性を持つ教員”の養成である。教員と しての基礎的な資質能力と高度な専門性を確保しつつ,各人の得意/苦手領域の存在や長 所/短所も認めながら,魅力ある個性的な教員を育てていきたい。 教育相談の場面において,たとえば不登校の子どもの保護者とお会いするとき,カウン セラーが心にとめておくべきこととして,次のような教訓がある。 「保護者は,カウンセラ ーにされたように子どもに接する」。不登校の子どもに対して保護者が共感的に接すること をカウンセラーが望むならば,何よりまずカウンセラーが保護者を受容し,保護者に共感 することが大事なのである。もし子どもに共感できない母親を前にしたとき,カウンセラ ーが自分の望む方向へと母親を無理に変えようとする態度で臨めば,きっとその母親は同 じような態度で子どもに接するであろう。 したがって,学生が子どもの心に寄り添い,子ども達の能力や個性に応じた支援を行え るように望むならば,学生を指導する大学教員もまた,学生の声に耳を傾け学生の心に寄 り添い,学生の能力や個性に応じた指導をしていかなければならない。学生にチームワー ク力を形成させたければ,まず大学教員同士がそれぞれの専門性を大事にしながらも連携 を密にし,チームとして相互交流を図っていく必要がある。学生が支援児から多くを学び とったように,われわれ教員も学生から多くを学び成長していきたいものである。 付表:「自己評価リスト(試行版)」の項目 Ⅰ 基礎的理解 1.LD の主な状態について説明できる。 2.ADHD の主な状態について説明できる。 3.高機能自閉症、アスペルガー症候群の主な状態について説明できる。 4.心身症や神経症など,子どもの心の健康に関する医学的知識について説明できる。 5.不登校やいじめなど,子どもの心や行動上の問題に関する心理学的知識について説明できる。 6.子どもの心の問題に対する支援について説明できる。 Ⅱ アセスメント 7.WISC-Ⅲの結果を分析できる。 8.K-ABC の結果を分析できる。 9.認知特性と学習や行動上の困難との関係を推定できる。 10.心理検査の結果から,支援児の心身の状態を理解することができる。 11.支援児との面談や行動観察から,支援児の心身の状態を理解することができる。 12.保護者や学校関係者との面談から,支援児の心身の状態を理解することができる。 13.アセスメント・シートに得た情報を整理できる。 Ⅲ 総合的判断と支援の方針 14.行動観察、情報収集、心理検査、支援児の心身の状況等を踏まえた総合的解釈(判断)に基づ き、教育的支援の方針を立てることができる。 Ⅳ 個別の指導計画の作成 15.個別の支援計画、個別の教育支援計画、個別の指導計画の違いを説明できる。 16.個別の指導計画の必要性を説明できる。 17.長期目標と短期目標の違いを説明し、長期目標から短期目標を立てることができる。 18.短期目標に基づき、指導の各セッションのねらいを立て、課題を設け、教材を工夫し、さらに 評価視点を設定できる。 Ⅴ 教材作成・対応方法についての自己学習 19.読み書き指導に関する教材を利用した事例を読んだことがある。 20.算数の指導に関する教材を利用した事例を読んだことがある。 21.行動改善のための活動事例を読んだことがある。 22.心のケアに関する事例を読んだことがある。 Ⅵ 対応力、指導力 23.支援児との信頼関係を築くことができる。 24.不適応行動、問題行動が見られた場合すぐに対応できる。 25.できたところを見つけ、ほめることができる。 26.支援児を受容し,共感的に理解することができる。 27.支援方針に基づき,適切な声かけや対応をすることができる。 28.自らの言動が支援児に与える影響について考えることができる。 29.支援児の反応や変化を観察し,理解を深めることができる。 30.見立てや支援方針の妥当性を検証し,適宜修正していくことができる。 31.支援児の示す言動から、指導や心のケアのためのポイントを見つけることができる。 Ⅶ 連携力 32.チームメンバーと協力して、支援活動を進めることができる。 33.支援児在籍校の担任教員と連携することができる。 34.支援児の保護者と連携することができる。 35.必要に応じて専門家や関係者に協力を要請し,連携することができる。 Ⅷ 倫理 36.守秘義務の重要性を理解している。 37.個人情報の扱いについて責任を持つことができる。 38.支援児や関係者に苦痛や不利益をもたらさないための配慮ができる。 ※各項目について,「できる」「だいたいできる」「どちらともいえない」「あまりできない」「できない」の 5段階で自己評価させた。観点Ⅴは「ある」「ない」でチェックさせた。 7.発達障害児支援における連携の模索 池田行伸 1)医学部との連携 平成 15 年 10 月に旧佐賀大学と佐賀医科大学が統合し、新たな佐賀大学が誕生し、佐 賀医科大学は佐賀大学医学部として再出発した。それまでも距離的に近い旧佐賀大学と 佐賀医科大学の教員の交流は行われていたが、統合後は同じ大学の職員としてさらに距 離が縮まった。そのような中で、発達障害や不登校などの集まりで顔を合わせることが 多かった文化教育学部の教育学・教育心理学講座の教員と医学部小児科の教員との交流 が深まった。小児科外来で不登校や発達障害の相談に忙しかった小児科の医師から、教 育学・教育心理学講座の教員に、附属病院内でこのような相談に対応してくれないかと の依頼があった。学校現場に赴くことの多い教育学・教育心理学講座の教員は、医師の 診断の重要性を感じていた。このようにして小児科と教育学・教育心理学講座の連携・ 協力の第一歩が踏み出された。筆者がまず小児科に赴くことになった。平成 18 年 4 月 のことであった。小児科外来では、不登校や発達障害の子どもとその保護者の相談に応 じた。相談内容については、カンファレンスで医師と検討を重ねた。このようにして平 成 19 年度にこのプロジェクトが採択されるまでに、文化教育学部と医学部の連携の基 礎ができていた。 近年、発達障害の早期発見に力が注がれている。小児科医もその一端を担っている。 しかし、小児科医の中には、現時点での早期発見には疑問を抱く者もいる。検診で発達 障害と診断された場合、どのような療育・教育がなされるのか。現在のところそのよう な体制は未整備である。このような状況で診断を下すと、ただ保護者の不安をあおるだ けになるのではないかとの懸念である。もっともな意見であると思う。しかし、だから と言って早期発見を止めて解決するとも思えない。脳科学の進歩により、発達障害が脳 の機能的障害であることが示唆されている。それにより発達障害の知名度も高くなった。 発達障害の早期発見を止めるのではなく、発見された後の早期療育、教育体制の整備を 急ぐべきであると思う。 このプロジェクトはこのような背景も持っている。附属病院小児科で診断された子ど もに適切な療育・教育を受けさせて、社会適応を促進させようとの思いがあった。その 手始めとし、小児科で診断を受けた子どもの中から協力者を募り、臨床教育実習で教育 の方法を探ろうと試みたのである。医療と教育の連携モデルを考えてのことである。 2)支援方法の連携 実際に療育・教育体制を整備し、支援をはじめるにあたっては、医師の診断だけでは 不十分だと思われる。その子には何ができて、どのようなことを苦手とするかを見極め なければ支援の方法が見いだせない。いわゆるアセスメントの充実である。知能検査を はじめとする種々の心理学的検査によりおおよその能力の査定はできる。教師の立場か ら学力を見ることで、学力水準が分かる。知能と学力にギャップはないのか、能力や学 力の下位項目にばらつきはないのか、感情は安定しているか、不可解な行動はないのか、 あるとしたらどのような行動かなど、多方面に渡って綿密に調べなければならない。そ のためにはそれぞれの分野に秀でた専門家が必要とされる。臨床教育実習では学生が自 ら検査を行うこともあったし、検査機関のデータを利用させてもらったこともあった。 正確なアセスメントがなくては的確な指導方法は得られない。それを行うためには、専 門の検査者、あるいは検査機関との連携がまず必要である。学力についても妥当な方法 で調べなければならない。学校教育に精通した人によって、正確な学力水準を計っても らわなければならない。そのための専門家との連携が重要である。もちろん子どもの在 籍校の担任教師から学級でのようすも聞いておかねばならない。 支援方法にもさまざまある。学力を伸ばす支援では、障害に応じた方法を採用する必 要がある。少なくともいくつかの学力支援法に精通しておかねばならない。問題行動を 減らす行動変容を考える場合は、行動療法に精通する者がいなければならない。社会適 応が悪い場合はソーシャルスキルトレーニングを用いることが多い。支援方法は多岐に 渡り、それぞれに精通した人がいなければならない。 一人でアセスメントから具体的な支援を行うのは極めて困難である。専門家と連携し ながら、その子ども、その状況にあったアセスメントを行い、必要とされる支援を行う 方が現実的であろう。一定の地域で多くの領域の専門家を確保し、必要に応じて利用す る方が効率的である。 3)連携のかなめ 医師が診断し、専門家がアセスメントを行い、療育者・教育者が実際の支援を行うと する場合、これだけのスタッフで本当にうまくことが運ぶのであろうか。医師の診断や 専門家のアセスメント結果のやりとりなどは当事者が行うのであろうか。ある子どもに ある種の検査が必要となった場合、誰がどのようにしてそれを必要な人に連絡するのか。 親の承諾は誰がもらうのか。佐賀の地でもっとも欠落している支援体制の不備はここに あるように思う。平成 19 年度と平成 20 年度に先進国視察で訪れたカナダ・ウィニペグ 市の生徒支援センター主任は、educational case worker の存在がもっとも重要だと指 摘した。教育機関におけるケースワーカーである。学校や家庭で問題を抱える子どもが 発見されると、まずこのケースワーカーが関わるという。ケースワーカーが判断して、 医療機関を紹介したり、検査を実施したりする。その結果を受けて療育・教育プログラ ムをアドバイスし、学校等で実際の支援が行われる。日本の介護分野でのケアマネージ ャーとまったく同じ働きをする。医師の意見書を見て適切な介護施設を選び、介護計画 を立てるが、実際の介護は施設が行う。ケアマネージャーの背景はいくつかあるが、医 療と介護に精通した看護師の資格を持つ者が重宝されると聞いている。カナダの教育ケ ースワーカーは心理学を専攻した者が多いと聞いた。彼らは巡回で地域の学校を訪問し、 支援のかなめとして働いている。 日本の特別支援教育を軌道に乗せるためには、医師やアセスメントの専門家を養成す るだけではなく、その人たちの間を縦横に動き回り、情報を収集したり提供したりでき るこのようなケースワーカーの養成と配置が不可欠であるように思う。潤滑油がなけれ ばどのようなすぐれた機械でも機能しない。介護の世界はケアマネージャーの登場で景 色が一変した。教育の世界も、このような多くの領域に精通した職種の登場で、状況が 大きく変化すると思う。人材の育成が急務であろう。 4)学校での支援 教育を受ける権利は憲法で保障されている。最新の教育思想はインクルージョンで表 される。子どもの能力に関わらず、誰でも地域で暮らし、地域の学校で学べるというも のである。アメリカに長年在住し活躍している日本人心理教育士が講演で話したことだ が、アメリカではこのインクルージョンに反対した人たちがいたとのことである。それ は養護学校に子どもを通わせている親であり、その子どもたちを教育している教師であ ったという。なぜなのか。障害を持つ子どもの教育には人手がいり、施設、設備も必要 である。安易に障害を持つ子どもを普通学校に入れると、障害を持つ子どもの教育に精 通していない教師により、薄められた教育しか受けられないと言うのである。その講演 者はアメリカでインクルージョンが押し進められた背景には、教育費の抑制という政治 的課題があったからだと言った。そしてインクルージョンが障害を持つ子どもを普通学 級にただ投げ込むだけになってはいけないと結んだ。われわれもこのことは肝に銘じて おかねばならない。ウィニペグの主任も同じことを言っていた。障害を持つ子どもの教 育にはお金がかかる。しかしそれは必要なことだと言う。浪費はいけないが等しく教育 を受けさせるための必要経費は支出してしかるべきであろう。 とは言っても昨今の財政環境では急速に特別支援教育が進むことは考えにくい。先進 国で特別支援教育が進んだ背景をカナダで見ることができた。次章に臨床教育実習の活 動報告が掲載されている。どの子どももスマイルルームでは生き生きしていた。学校で はトラブルメーカーである。スマイルルームでは一人の子どもに2~4名の支援者がつ いており、皆、子どもを肯定的に受け入れようとしていた。学校では一人の担任に20 ~30名の生徒である。スマイルルームでは支援者の目が行き届き、子どもの変化を素 早くキャッチし、対応していた。注意がそれると注意を向かせる支援を行っていた。コ ミュニケーションが悪くても、支援者が懸命に考え、子どもの心の中に入って行こうと していた。このような環境の中で子どもは受け入れられ、理解されて、その子が持って いる能力を伸ばすことができた。しかし学校ではそこまで目が届かず、手が回らない。 障害を持つ子どもにはマンツーマンで対応すればいいことは分かっている。カナダの学 校ではそのような子どもに educational assistant を配置していた。教育アシスタント であるが、この職種には教員免許は必要ないとのことであった。授業中、子どものそば にいて、教師に注意を向けさせたり、教師の指示により、適切な活動をさせていた。ア メリカもそうだが、カナダも州により条例が異なるので、制度が異なることがあるが、 この教育アシスタントはウィニペグのあるマニトバ州でも、バンクーバー国際空港のあ るリッチモンド市、ブリテッシュコロンビア州でも同じであった。社会資源を有効に活 用している。教員免許を持たないと働けない日本の学校教育の現場には一つの示唆とな ろう。当然、教員免許を持たない教育アシスタントの給与は教員より低い。 この他にも、資格を持たない人が学校の中で重要な役割を果たしている姿を見てきた。 重度の障害のため胃ろうを作り、そこから栄養物を入れなければならない子どもがウィ ニペグの学校にいた。一人の女性が傍らにつき、栄養物を入れていた。案内の主任に尋 ねると、彼女は看護師の資格も教員免許も持っていないとのことであった。研修を受け、 看護師に指導を受けてこの業務に就いているとのことであった。日本ではほとんど考え られないことであろう。確かに看護師の資格を持っているか、特別支援教員免許を持っ ている人がこの業務を行う方が安全で確実であろう。ここに財政的問題を感じた。専門 家を集める方がいいに決まっているが、教育費の面から言えば異なる。すそ野を広くし、 必要な子どもであれば誰もが支援を受けられるようにするためには、このような方法を 取らざるを得ないのかも知れない。現実的対応の難しさを感じさせられている。 5)連携によるインクルージョン 二度に渡って視察することができたカナダのインクルージョン教育の取り組みには感 動すら覚えた。小学校の場合は、日本の学校と劇的に変わっている印象はなかったが、 中高一貫の学校は日本とは大きく異なっていた。大規模校で、佐賀では金立特別支援学 校を思わせるような建物であった。平屋建てで車椅子が余裕を持って通れるような広い 廊下が印象的であった。いくつものコースが用意されていた。通常の教室で幅広い教科 を学び大学進学を目指すいわゆる普通コース、工場のような実習室で板金や塗装技術を 習得する工業技術コース、ホールでダンスのレッスンを行っていた芸術コースのようす を見ることができた。どのクラスにも発達障害の生徒がおり、必要に応じ教育アシスタ ントがついていた。広い廊下では肢体不自由の子どもが筋力トレーニングのために三輪 車をこいでいた。異なる教育ニーズの生徒たちが同じ屋根の下で肩を並べてそれぞれの 学習目標に向かい励んでいる姿を見ることができた。教師はそれぞれに専門性があると のことであった。化学の教師は化学教育については詳しいが、障害についてはそれほど 詳しくはないようであった。筋力トレーニングは、理学療法士や理学療法士に指導を受 けたスタッフが専門的に関わっていた。教師はそれぞれに専門性を発揮していたが、同 じ場所にさまざまな生徒がおり、専門のスタッフもいて情報交換を行うので、次第に他 の領域にも精通していくようであった。生徒たちもまたさまざまな生徒がいて当たり前 だという考えを自然と抱くようになる。 戦後の日本の教育は、戦前の身分社会を思わせるような複線型の教育体制から全員が 同じように学ぶ単線型の体制に変わった。義務教育の教育内容は同じである。十分とは 言えない教師の数でこのような教育を続けてきたが、勉強についていけない子どもたち が出てきて不登校が増えた。高校では普通学校、実業学校等に別れる。それぞれの学校 種の中でもレベルに応じてランクづけがなされている。障害を持っている子どもたちは これまでは障害種に応じて盲学校、養護学校などの特殊学校で学んでいた。学校を卒業 すると同じ社会で生活し、お互いを理解し、尊重するように求められるが、それまで顔 を合わすことのなかった人たちに出会って面食らう。このようなことを考えた場合、さ まざまな教育ニーズも持った子どもたちを同じ場所で教育することがはるかに高い教 育理念を実現できるように思う。ウィニペグの中高一貫校の校長は、「この学校ではカ ナダで一、二を争うような大学を目指す生徒も、重度の障害を抱えた生徒も教育しま す。」と胸を張っていた。新しい教育の姿を見た思いがした。これを実現させるために は教育スタッフの深い専門性と、スタッフ間の強い絆で結ばれた連携が不可欠である。 教育スタッフの意識が変わり、教育が変わると自然と子どもも変わる。図1の写真は ウィニペグの小学校での一こまである。肢体不自由の子どもがバランスボールを使い、 専門のスタッフから身体機能訓練を受けている。日本の特別支援学校でも見られる光景 である。そのとなりの大きな子どももバランスボールに乗っている。この子どもはまっ たく何の問題もない子で、休み時間を利用して身体機能訓練を受けている子のためにボ ランティアとして来ているのだという。異国からの訪問者が見ている中でも臆すること なく障害を抱える子どものボランティアとして活動している姿には、小学生とは思えな い崇高な人格を感じた。 図1.カナダ・ウィニペグ市の小学校での一場面。 6)佐賀大学の連携の課題 文化教育学部は医学部小児科と連携して、特に発達障害児の支援を模索している。そ の一環として臨床教育実習を試みた。個別の指導を考える施設実習は附属特別支援学校 の一部を拝借して実施した。指導方法でも特別支援学校スタッフにアドバイスをいただ いた。文化教育学部はこの他にも、附属幼稚園、附属小学校、附属中学校を持っている。 約6パーセントと言われる軽度発達障害の子どもたちはこれらの学校にも在籍してい る。教師も指導方法で悩んでいる。これらの附属学校との連携を強め、文化教育学部教 員の専門性を利用して佐賀大学モデルとして連携・協力のあり方を示していけたらと思 っている。新たな時代の教育システムを開発するときが来ているように思う。 8.「臨床教育実習フォーラム」の報告 中島 範子 平成 20 年 12 月 7 日(日曜日)、佐賀大学での取り組みを学内外ヘ向けて発信するため に「臨床教育実習フォーラム」(平成 19 年度専門職大学院等 GP フォーラム)が開催され た。当日はカナダより講師を招き、 「カナダにおけるインクルージョン教育の実現と教員養 成」というテーマで記念講演をしていただいた。より専門性のある教員を養成するため、 マニトバ大学で取り組んでいる教育について述べられた。その前日の 12 月 6 日(土曜日) には、公開研修会も開催された。「カナダにおける発達障害等への支援」というテーマで、 インクルージョン教育の実際について紹介していただいた。障害のある子を含め、すべて の児童生徒のニーズに応えるための取り組みについて述べられた。 このほか同フォーラムでは、平成 19 年度の実習に参加した学生が、チームごとに活動 内容を報告した。大学施設実習から学校実習にいたるまでのアセスメントや実際の指導に ついて、また学生自身の振返りを述べた。シンポジウムでは実習を支えた学内外の関係者 がそれぞれの立場から話題を提供し、連携の方法と課題についてさまざまな意見を交わし た。フォーラム終了後、アンケートを回収して多くの方から貴重な意見や感想をいただく ことができた。 1)記念講演会の要旨 講師:ゼイナ M.ルトフィア 氏(カナダ マニトバ大学教育学部 副学部長) 演題:カナダにおけるインクルージョン教育の実現と教員養成 通訳:倉本哲男氏(佐賀大学文化教育学部附属教育実践総合センター) インクルージョン教育(障害のある子もない子も同じ学校、同じ教室で必要な支援を受 けながら共に学び、共に過ごす教育)にとって最も大切なのは教員養成である。教養学部 でリベラルアーツ(人文、社会、自然科学など)を専攻して学位を取得後、教育学部に進 むことができる。年齢層は 22~55 歳、平均 36 歳である。大部分が社会人であり、各地域 で責任ある立場の人が教職免許取得のために学んでいる。2 年間で 60 単位取得し、24 週 間の教育実習に参加する。特別支援教育の単位は必修で、1 年目に IEP(個別の教育支援 計画)の作成などについて徹底的に学ぶ。教育評価、学級経営、カリキュラム開発などに ついても学ぶ。周囲の教員へのサポートやカウンセリングなど、アシスタントの役割も学 ぶ。インクルージョンに対して実習先の学校や教科によって温度差があるため、学生の学 びはさまざまである。大学で実習を振り返り、討議を進める中で学びを深めている。 現職教員が社会人として学ぶコースでは、基本的に 1 年間で 30 単位取得する。夜間や 週末、夏期休暇中に開講されており、興味関心に応じて特定領域のスキルを身につけるこ とができる。特別支援教育の専攻では資格を取ることができる。これは、支援のための専 門教員(SERT:Special Educational Resource Teacher)などのリソース教員になるため に必須である。本専攻の半数はリソース教員志望者であり、残り半数は担任として特別支 援教育にかかわることを志望している。経験をもとに指導や評価などの領域を深め、ニー ズに応じて自らの教育実践を変革していく取り組みを行っている。特別支援教育の選択科 目として早期教育、支援体制、実習などがある。すべての教員が特別支援に対応できるわ けではないので、経験のない教員をどう育てるかが今後の課題である。 2005 年から、カナダでは夏期講習を実施するようになった。特別支援教育に関する経験 の差によって温度差が大きいが、法制定により大きな変化を見せている。多くの現職教員 が大学を訪れるが、大学側にも限界あるのですべてには対応できていない。現在、e ラー ニングを遠隔地に普及させようと試みている。ネイティブカナディアンや特別支援が必要 な子など、すべての子に教育を与えることが課題である。ビデオカンファレンスを使った 教育も施している。 大学院には特別支援教育やカリキュラム開発、カウンセリング、社会教育などの専攻が あり、特別支援教育の専攻生は 30 名である。入学するためには、学部を卒業して少なく とも 2 年間の関連領域での職務経験が必要である。修士号を取得するためには、論文を提 出するコースと、単位を取得して総合的な試験を受けるコースとがある。博士課程に進学 するためには、論文提出が必須である。卒業後は周囲の教員に刺激を与えており、よいモ デルとなって教育の底上げにつながっている。マニトバ大学は州内で唯一博士号を出して いるため、社会的責任は大きい。博士課程で特別支援教育を専攻している学生は現在 10 名である。 大学教育においてもインクルージョンを実践している。学生センターで、視覚障害の学 生や難聴の学生にサポートを行っている。試験中に不安障害を起こす学生への支援も行っ ている。2004 年からはキャンパスライフと呼ばれる聴講システムを導入している。卒業要 件には含まれないが、指導や評価を受けることができる。大学教員の理解と学生ボランテ ィアのサポートが必要である。例として、自分では本を読めない学生が、関連書籍の録音 テープを聞いて大学の議論に参加して学んでいる。異なる存在を受容し、広く教育の機会 を与えていくことは大学の役割である。学びたい学生に等しく機会を与えることが大学組 織として重要である。 【質疑応答】 Q.教員採用について、キャンパスライフに参加する要件について知りたい。 A.カナダでは教員資格を示せば採用となり、試験はない。アメリカでは面接と簡単な試験 がある。日本のような試験はない。キャンパスライフには、公式の書類と費用があれば誰 でも参加できる。最終的には担当教員が判断を行う。 Q.インクルージョン教育の科目について知りたい。 A.入門的な科目であり実践には遠いが、ユニバーサルな教育である。カリキュラム概念や IEP 作成について学ぶ。子どものアセスメントは大事であり、行動を見ながらどう評価す るか、状態を知ったうえでどう授業を組み立てるかを身につける。多様なニーズの子がい るため学級経営は難しいが、一人ひとりに目標を持たせて達成させるのが教育である。 Q.特別支援教育は教職免許を取るための必修なのか。 A.教職免許のためには必修、リソース教員にも必修である。しかし、学校で働く人すべて に必修というわけではない。 Q.行政で女性が多く活躍しているが、マネジメント力を大学で養成しているのか。 A.過去 20~25 年、女性の進出を支援するような政策をとっており、行政も女性採用を増 やしている。実際、女性は教育現場に多い。大学は遅れており、1992 年には 2 人の女性 しかいなかった。教育庁では 4 人中 3 人が女性である。性別や人種にかかわらず、対等な 職務条件でネイティブカナディアンなどにも同等の機会がある。教育庁の残り 1 人はネイ ティブカナディアンである。 Q.障害を理由に教育を受けられない子はいないのか。重度の子を含むすべての子に対して 教育を行っているのか。 A.教育の機会均等のもと、訪問教育のシステムがある。病院だけでなく入所施設の子へも 教育を行っている。通学できない場合、各学校のプログラムを使って支援を行っている。 特別な免許状はなく教育委員会や大学で研修を受ける。 Q.4 歳以前の早期発見および支援体制、支援に関わる人材について知りたい。 A.医学的な支援や法による支援が行われ、他の子とのネットワーク作りにも努めている。 幼稚園や保育園で支援が必要な子に対しては、校区の予算により支援員を配置する。4~7 歳の重度でない子の場合、教育委員会がリーダーシップをとって保護者にアドバイスを行 っている。就学前のシステムはまだ統一されていないため、転園した場合の支援が課題で ある。行政関係者や保護者の中でも、特別支援が必要な子に対する認知は進んでいる。 2)公開研修会の要旨 講師:サンドラ A.マクゲイ氏(カナダ ウィニペグ市教育委員会 学習支援センター生徒指導部門長 マニトバ大学教育学部非常勤講師) 演題:カナダにおける発達障害等への支援 通訳:倉本哲男氏(佐賀大学文化教育学部附属教育実践総合センター) インクルージョン教育のもとでは、すべての児童生徒を受け入れ、育てる責任がある。 あらゆる子が、あらゆる方法と評価で学ぶことができるように、能力やニーズに応じて教 育を保障すべきである。家庭、学校、地域との連携も大切である。異なる価値観を認め、 包み込むのがインクルージョン教育である。特別なニーズのありなしにかかわらず、誰も が平等であり不当な扱いを受けてはならない。予算がないからできないでは許されない。 重度の子も通常学級で共に学ぶ権利があり、個に応じた評価を受けることができる。単に 一緒にしていればいいのではなく、一歩進んだものがインクルージョン教育である。 校内で多様な子が学ぶことができるように、サポートは 3 段階になっている。80~90% の子は第 1 段階であり、一般カリキュラムの中で生活する。第 2 段階の子は 5~15%で、 サポートを受けながら通常学級で過ごす。第 3 段階の子は 1~7%で、IEP に基づいた特別 カリキュラムの中で通常学級と行き来して過ごす。どの子にどんな支援が必要かについて、 校長のリーダーシップのもと早期対応が求められる。第 2 段階では、リソース教員や心理 士、言語聴覚士などとの話し合いが必要な場合もある。保護者とのかかわりも大切である。 昨年度、第 3 段階の子は約 1250 名おり、予算の追加措置がとられた。生活スキルを学ん だり、セラピールームで活動したり、コンピューターを使って学習したりして、心地よい 学校生活を送れるような環境になっている。 インクルージョン教育は、校長の学校経営のもとですべての子を支援する教育である。 教師の役割はインクルージョンを前提とした学級経営である。子どもが学習に参加し、成 功体験を得るよう保障しなければならない。教室内でさまざまな支援を行うのはアシスタ ントである。また、専門家チームが支援や危機的状況への介入にあたっている。看護師が 学校で働いて医療的なケアを行ったり、言語聴覚士や作業療法士が指導したりしている。 保護者の同意や協力を得ることは課題である。親参加プログラムはトリプル P などたく さんある。IEP を作成する場合、保護者への説明責任がある。保護者の中には、特別支援 を受けない周囲の子が損するのではないかという意見もある。子どもをインクルージョン に投げ込むだけでなく、地域とどうつなげるかも課題である。教育にかかわるボランティ アは 5,000 名以上いる。予算削減やサービス減退があってはならない。インクルージョン 教育は高い期待のもとに行われるものである。人的、物的、財政的資源の有効活用が望ま れる。問題は、よい先生に負担がかかることである。教室内で支援のありなしで二極化し ないように、みな同じ責任を負えるようにしなければならない。チームで問題解決を行い、 チームで一緒に育てることができるように教師が研修を積んで能力を伸ばしていかなけれ ばならない。 Grant Park 高校では、成功体験の中で自尊感情を育てており、地域内でよき市民とな れるようすべての子を指導している。可能性を伸ばして互いに尊敬の心をもてるように、 学習から生活までのカリキュラムを個別のニーズに応じて作成している。重度の子を含め て 9%が個別教育を必要としており、特別カリキュラムに基づいて学習している。多様な ニーズに多様なカリキュラムとシステムで対応しており、一般カリキュラムや IEP に基づ いたカリキュラムの中で通常学級と特別教室を行き来して過ごす。料理や洗濯などを学ぶ 部屋、パニック時に落ち着くための部屋、セラピールームなどがあり、医療的なケアや教 材システム技術も整っている。優秀な子へのケアもあり、高校生でありながら大学の講義 を受けて単位を取得できる。参加したい教育に参加可能であり、特別カリキュラムのもと で達成へと導く。キャンプ活動などにも参加可能であり、支援のため看護師を雇ったりバ スを増やしたりするなどの対策をとることもある。すべての子はチャンピオンである。み な受容され、達成感を得て、自尊感情を高めることができる。 【質疑応答】 Q.どのような保護者支援を行っているのか。 A.各教育委員会で実施していることは次のようなことである。さまざまな情報を与え、子 ども理解や接し方の説明を推進している。トリプル P という親教育プログラムにも取り組 んでいる。多言語国のため、教材の翻訳も行っている。家庭でできるプログラムを紹介し ている。4 歳の子にアルファベットや数字を教えている。書籍の貸し出しを行っている。 ボランティア活用も行っている。IEP についてのアドバイスも行っている。 Q.保護者の願いに答えるため、知的遅れの子が同じ場で学ぶためにどのような手立てをと っているのか。 A. スクリーニングプログラムがあり、4 歳時に診断を受けたうえで入園する。カリキュラ ムへの適応についてアセスメントを行い、必要に応じて IEP を作成する。IEP は年 4 回検 討し、保護者に報告する。期待した結果が得られなければ変更し、常にアセスメントと報 告を行う。保護者の許可なしにはアセスメントもうまくいかない。州カリキュラムの 50% を修正することもある。カリキュラムが子どもに合わなければ、IEP を作成したりして子 どもにふさわしい支援を行う。別室で学習することもあるが、同じ校内で学ぶことに違い はない。ひとつの教室で同じ授業を受ける場合、大部分の子は通常の形で、ある子はサポ ートつきで、一部は IEP に基づいて個別に学習することもある。 Q.アセスメントは誰がどのように行っているのか。 A.まずは担任が行う。担任とリソース教員が指導にあたり、アシスタントがさらに加わる 場合もある。校内には心理士、言語聴覚士、作業療法士などの専門家チームもある。 Q.クラスの人数はどれくらいなのか。 A.小学校は 20~35 名。高校は 35~40 名。教室内にはさまざまな教具があり、アシスタン トもいるため混み合っている。場合により、教師よりアシスタントの方が多いこともある。 教師 1 名の予算で 3 名のアシスタントを雇用できる。行政は比較実験を行っており、予算 の使途、雇用形態が課題となっている。 3)シンポジウムの要旨 テーマ:「臨床教育実習推進のための連携の方法と課題 」 ~文化教育学部と医学部附属病院との協働を軸に~ シンポジスト 松尾宗明氏(佐賀大学医学部附属病院小児科 講師) 久野隆裕氏(佐賀県教育委員会教育政策課特別支援教育担当 指導主事) 平田陽介氏(佐賀市教育委員会学校教育課 指導主事) 今泉 弘氏(佐賀市立思斉小学校 校長) 山下文彦氏(唐津市立第一中学校教諭、教育学研究科学校教育専攻教育心理学コース) コーディネーター 園田貴章氏(佐賀大学文化教育学部附属教育実践総合センター長) 連携する中で見えてきた課題を共有するため、シンポジウムを開催した。シンポジスト は医療の立場から 1 名、行政の立場から 2 名、学校の立場から1名、臨床教育実習を経験 した現職教員院生1名の計5名であった。各シンポジストに 15 分ずつ発表していただい た後、全体討議を行った。討議では学校実習の在り方、学級経営力形成の必要性などが主 に議論された。以下、シンポジストの発言要旨を紹介する。 【松尾氏】医師としての立場から発達障害、心身症の支援に対するポイントを挙げた後、 教師の役割に対する期待、連携の実際と今後の課題について述べた。 小児科、児童精神科を受診する子の問題として、発達障害や身体疾患、社会問題などの 一次障害と、不登校や摂食障害、うつ病、心身症などの二次障害が挙げられる。二次障害 は、いじめや虐待、叱責などによって自己評価が下がり、不満や不安、葛藤を処理できな くなって引き起こされる。一次障害は避けることができないが、二次障害は早期発見によ り予防することができる。医療的な介入は病院受診から始まるが、その前に早期発見、早 期療育が大切である。二次障害の予防として、家族支援や子育て支援が挙げられる。本人 や家族を孤立させることなく支援し、悩みや不安を共有することが有効である。 問題行動や不登校、心身症などの背景として以下のようなことが挙げられる。まず性格 や生育歴、発達障害、身体面の問題など本人の特性である。次に親からの虐待または過干 渉、兄弟関係などの家庭環境である。そして、いじめや孤独感などの友人関係である。問 題行動に対して「わがままなだけ」と言われることがある。わがままや性格異常、本人の 問題として片付けるのではなく、背景に必ず何かあることを理解する必要がある。教師や 家族が本人を理解しようとする姿勢が大切である。本人の問題を共感して居場所を作るこ とが二次障害を防ぐことにつながる。 問題が起こったとき、子ども同士、子と親、教師と親との関係の中でコミュニケーショ ンのずれが生じることがある。発達障害にかかわらず、思春期には子の気持ちと親の期待 とのずれが心身症の背景要因となりうる。これらを理解する姿勢をもち、特性を把握でき る教師、適切な個別支援を行うために教育支援計画を作成したり、家族とのコミュニケー ションに対応したりできる教師が増えることを願っている。 臨床教育実習を推進するにあたっては、支援児の抽出、支援児アセスメント時の情報提 供と助言、支援チーム合同カンファレンスへの参加を通して連携を行った。3 名の医師が 心身症、発達障害、ペアレントトレーニングについての講座を担当した。支援児抽出の際 は居住地、多動や問題行動の程度をもとに定期的な参加が可能かを考慮した。支援児が抱 える問題や年齢のバランスについて、また本人と保護者との協力が可能かも考慮した。 なお担当医による診断の手順は以下のようになっている。発達の経過、症状の記述、家 族関係などに関する問診、保護者と教師とが記入するチェックリストをもとに診察を行う。 その後、医学的検査を行ったり、神経心理学的検査を文化教育学部のスタッフが担当した りする。一般的(多軸)診断、合併症の診断、個別特性の分析結果を説明後、必要に応じ て文化教育学部のスタッフが心理教育相談を担当する。 学生に期待することは、子どもたちが抱える問題を実際に共有することによって、障害 の理解を深めたり支援方法を学んだりすることである。支援児については回数が限定され るため効果の期待が薄かったが、周囲が支援児を理解しようと努めていることにより予想 以上の効果を生んでいる。派生する効果として学校現場への刺激になればと願っている。 今後の課題は、医師と文化教育学部スタッフだけでなく、言語聴覚士などの専門家も含 めたチームで診断や評価をすることである。また心身症の子の実習参加は難しいので、カ ウンセリング法の実習や見学、西九州大学との連携も視野に入れている。支援児に関して は、より多くの子が参加できるような体制を望んでいる。学校実習では支援児に対する周 囲の子の理解が必要である。通常学級の中で発達障害に関する理解のための教育をどう広 げるかも課題である。 【久野氏】佐賀県における特別支援教育の現状について述べた。 県は、平成 20 年からの 3 カ年計画で特別支援教育推進プランに取り組んでおり、5 つの 基本方針をもとに障害のある幼児児童生徒の自立と社会参加の促進を目指している。 ①特別支援学校への通学負担を軽減して身近な地域での教育を提供するため、複数の障 害種別に対応した効果的な環境、施設の整備を進めている。中原養護学校では、従来の病 弱に加えて知的障害、肢体不自由に対応できるように施設整備を進めている。また、分校 の設置を検討している。伊万里養護学校では、知的障害に加えて肢体不自由に対応できる ように施設整備を進めている。 ②一人ひとりの障害の状態や個性、能力に応じた教育を推進するため、特別支援学級や 通級指導教室の適切な設置を進めている。通常学級の子への支援を含めた校内の支援体制 の充実を図っている。校内には特別支援教育コーディネーターの配置、及び校内委員会の 設置をしている。各地区のコーディネーターが相互に連携して情報交換し、成功事例を共 有して支援に生かす取り組みをしている。 ③就学前から卒業後までの一貫した支援を行うため、個別の教育支援計画作成により、 保護者と関係機関との連携について共通理解を進めている。長期間にわたって保護者や医 療、福祉、労働機関とがどう支援すればよいかのツールとなる。卒業後の自立と社会参加 を目指し、一貫した進路支援体制の確立、将来を見据えた生活指導の充実にも取り組んで いる。例として、特別支援学校中学部の就業体験や、高等部の進路別コース設置などであ る。特別支援学校在学中のサポートをするため、新たに雇用した就労支援コーディネータ ーが情報提供を行ったり、企業と連携して支援の改善及び強化を図ったりしている。 ④関係機関と連携した総合的な支援体制の構築を目指すため、幼稚園や保育園からの要 請に応じて巡回相談員を派遣したり、相談に応じたり、ケース会議に参加したりしている。 高等学校にも専門家を派遣したり、コーディネーター同士のネットワークづくりを充実さ せたり、選抜方法やカリキュラムの検討を行ったりしている。各学校だけで支援を完結さ せるのでなく、横のつながりや相互の関係を大切にしている。大学や関係機関の専門家の 助言を受けることもある。 ⑤特別支援教育に対する理解や啓発を推進するため、専門性を向上させる研修を実施し たり、障害について地域で理解する環境づくりを進めたりしている。地域の小中学校での 支援を努力義務とし、体制の充実を図っている。すべての学校のすべての保護者に啓発リ ーフレットの配布も行っている。対象となる子や保護者への理解を啓発し、周囲の正しい 理解を進めることによって支援が進みやすくなる。特別扱いされているという意識でなく、 必要な支援を受けているという意識になってもらいたいと考えている。 今後、特別支援教育の推進にあたり求められる教師の専門性は以下の 3 点である。まず、 一人ひとりの障害の状態や個性に応じて適切な支援を行い実践する力、客観的データに基 づいて評価や指導をする中で学びやすい教材教具を作成する力、子どもとしっかりした関 係を構築してコミュニケーションを円滑に進める力である。次に、通常学級の中で適切に 支援できる学級経営力を持ち、周囲が十分に理解して支え合うために適切な支援を行い、 良好な子ども同士の関係を作り上げる力である。そして、校内の支援体制を円滑に機能さ せ、保護者と関係機関との連携を図り、個別の教育支援計画という形で方針を定めたうえ で活用し、学校全体の質を高めるコーディネート力である。適切な支援を周囲の教師に対 しても行い、教師同士をまとめ、うまく機能させ、学校全体の支援をできる教師になって 欲しいと願っている。 【平田氏】佐賀市の特別支援教育の現状と課題について述べた。 市内 36 の小学校の中には知的 33、情緒 12、病弱 2、肢体不自由 2、院内1、通級指導 教室として言語障害・難聴 6、発達障害 2 を配置している。18 の中学校の中には知的 15、 情緒 5、院内 1、発達障害の通級指導教室 2 を配置している。今後、情緒クラス、発達障 害の通級指導教室の増設を予定している。学校現場では、特別支援学級に在籍する児童生 徒が通常学級の授業に参加することで周囲の子との交流教育を推進したり、保護者への啓 発に努めたりしている。個別の対応が必要な児童生徒が特別支援学級で学習できるように、 弾力的な運用も行っている。通常学級にいる発達障害の児童生徒数は、平成 20 年 7 月調 査によれば小学校 196 名(平均 1 校あたり 5 名)、中学校 61 名(平均 1 校あたり 3 名)で あった。これは専門機関から診断を受けている、または保護者の申し出や相談があった児 童生徒数である。各学校における取り組みとして、養護学校からの巡回相談や専門家の派 遣、個別指導計画の作成、特別支援教育に関する校内外での研修会の充実、全職員による 対象児童生徒への支援体制の充実などを行っている。この中で、特別支援教育コーディネ ーターの複数配置を求めている。 市教育委員会の取り組みとして生活指導員を配置している。小中学校 36 校に 30 名の指 導員、学校教育課に 1 名の巡回指導員がおり、週 2~5 日勤務している。幼稚園や保育園、 小中学校の教職免許保持者や、介護の現場で経験のある人材を採用している。ひまわり巡 回相談では、特別支援担当の職員と巡回指導員の 2 人で要請のあった学校を訪問したり、 幼稚園や保育園年長児の就学相談に応じたりしている。ひまわり継続相談は、学校不適応 状態に陥り、学校における支援が極めて困難な児童生徒を対象として毎週水曜日に実施し ている。3 か月の継続相談の中で学校へのガイドラインを作成し、サポート体制を整える 役割を果たしている。教師からの相談を受けることもある。ひまわり相談のスタッフは特 別支援教育担当指導主事 1 名、担当嘱託員1名、巡回相談員 1 名、スーパーバイザー4 名、 教育相談担当嘱託員 1 名、ひまわり継続相談対応生活指導員 6 名である。 今後の課題は人的環境を充実させることである。毎年支援を必要とする児童生徒が増加 しており、各学校から生活指導員の配置を要求されている。しかし予算上、各学校 1 名の 配置さえも困難である。生活指導員の配置も必要であるが、各学校で特別支援教育コーデ ィネーターの適切な配置が望まれる。また、教師の役割として学級経営が基本であり、学 級の中でうまくかかわるためには経験が必要である。臨床教育実習を経験して、早くから 現場に出ることにより教師としての考え方が深まるであろう。現在、市内 10 校が大学と 連携して大学 1 年時から教育実習を受け入れており、この効果も感じている。 【今泉氏】学校実習の対象校としての意見を述べた。 学校としては、全教職員で特別支援教育に対する意識と資質を高め、指導の改善を図る ことが重要である。校務文章を見直し、一人ひとりの子に対応するための児童支援部会を 設置している。子どもの困り感やニーズに対応するため組織を改革し、関係機関と連携し て県や市の施策に基いた研修も行っている。担任が一人で抱え込まない支援体制をとって いる。保護者とよりよい関係を作り、地域とともに理解を深めて連携していくことも必要 と考えている。 学校実習では、対象児の実態分析と目標設定、評価と役割分担が重要であった。個別指 導の時間設定や教室の確保、学級経営の中で個別指導をどう位置づけるかについて考慮し た。限られた時間の中で、実習生と担任との人間関係構築や、情報交換の時間と場の確保 が必要であった。対象児の保護者との連携も必要であった。学級の他の子との関係づくり では、個別学習後に頑張ったことを紹介するというかかわりをもった。週 1~2 時間の学校 実習は適当であった。指導内容は担任が望むこと、学生が必要と感じていることを整理し て、連絡を取り合いながら対応した。対象児の変容として、発表するなど積極性が見られ るようになった。また学習内容が授業や学校生活で生かされ、生き生きとした学校生活を 送れるようになった。 校内で教職員 29 名を対象としてアンケートを実施した結果、以下のようになった。全 教職員が支援を要する子への指導について苦慮したり、悩んだりしたことがあると回答し た。また、支援を要する児童への指導力を有した教員が必要と回答した。そのような教員 が各学校に 1 名は必要と考えており、その期待として行動面への対応が最も多かった。望 ましい指導形態は、困り感に応じて個別か集団か柔軟な対応が必要と考えていた。個別指 導の必要性について、ADHD 児や LD 児などは専門的な指導が必要であり、きめ細かな対 応が可能であることが挙げられた。周囲の子への指導も大切であり、学級全体を把握する ことが必要であると考えていた。教員養成への期待として、広い視野を持ち職員集団と適 切な人間関係を築ける人材を求めている。これは担任の指導力アップにつながると考えて いる。専門的知識も大切だが、その場に応じた対応力や児童理解、コミュニケーション力 も重要である。学校現場では個別の対応や教育支援計画などに関して関係機関と連携し、 実践力を身に付けていかなければならない。特別支援教育は、管理職を始めとして全教職 員が共通理解して取り組んでいかなければならない重要な事項である。 【山下氏】臨床教育実習に参加しての気付きや思い、学校現場で改めて感じた実習の意義 について述べた。 現在、○部の顧問をしており、その中に特別支援学級の知的クラスに在籍している生徒 がいる。学年当初は通常学級に顔を出していたが、現在は級友とのトラブルにより顔を出 さなくなっている。学級経営については小中学校で異なる。通常学級に行けなくなって周 囲とのかかわりは減ったように思われるが、部活動の中ではさまざまなかかわりをもって いる。複雑化する子どもたちを統合するためには学級経営力が重要である。実習で経験し た保護者との連携の大切さを念頭に置きながら対応している。 聴覚に障害のある生徒に対しては、数学を通してどんな働きかけができるかを考え、点 字をテーマにした授業を実践した。将来自分のためになるものは何か、自分のためになる からこそ学ぶべきものがあるということを伝えた。クラス全体に伝えようと思ったのは、 本人だけでなく周囲にも働きかけが必要だということを実習の中で経験したからである。 臨床教育実習の利点は、個別指導計画の作成により指導の一貫性を共有できることであ る。中学校への進学の際、申し送り事項に入れることによって系統的な指導を行うことが できる。チームとして活動する大切さも実感した。担任だけが四苦八苦せず、さまざまな 視点で支援を考えることができる。みなが同じ目線でかかわり、自然に活動できた。実習 への要望は、学校現場により近いものを求めるということである。実践的な教師を養成す るためには、1 年目に支援児の級友と交流して周囲も視野に入れた手立てを考えることが 望ましい。 4)臨床教育実習フォーラム参加者の声 ~アンケートより~ 【教育職】 ○周りの子どもたちへの理解、啓発という視点から考えると、すべての教員免許取得を考 える学生を対象として、特別支援教育についての教育が必要だと思います。この実習が、 特別支援教育の核となる人材育成になることを期待しています。 ○発達障害や心身症への支援に強いというのは、全教職員に必要なことです。免許更新制 度などの中で研修を重点的に取り扱ったらいいと思いました。実習を終えた教師が、学級 運営や周りの子どもへのかかわりという方向へ視点を向け、素晴らしいと思いました。よ り具体的なアセスメント、指導方法を知りたいです。 ○最近、小学校の中に学生の姿を見かけることが多くなりました。現場では毎日子供たち と向き合い日々悩みがたくさん出てきていますが、ゆっくり研修もできない状況です。専 門職の必要性と現場での工夫が必要なのは十分理解できます。一番大切なことは、現場に 専門性の高い人的資源を恒常的に置けることだと思います。子どもはずっと生活していま す。システム教育特区があればいいです。うまく教育の現場と研究がつながるといいです。 ○生活指導員をしています。 「うまくいかない時はなぜそうなのか見極める必要がある」と いうのは、私が支援していく中でもつながるなあと感じました。 ○現場にいると、今の状態に「仕方ないか」と思ってしまうこともありました。今日は刺 激を受けました。 ○佐賀県では 5 歳児検診が行われていませんが、そのような早期の支援システムを作るた めに動かなければいけない時期ではないかと思いました。医療と教育の連携の時だと思い ました。行政(県学校教育課、県医事課)にも呼びかけて参加を働きかけていただけると 大変意義があると思いました。 ○話の中で哲学的な考え方が機能していると感じた。日本の学校では方法を先行して模索 しているように感じる。日本での副担任の存在は何かと思う。 ○発達障害を持つ児童生徒への具体的な支援事例をイメージしてきましたが、もっと重要 な最初の考え方について知ることができて大変参考になりました。 ○カナダのインクルージョンの実態から、私たちはまず何から始めていけばいいかを考え るいい機会になりました。 ○予算面が一番気になった。生涯的に本当に特別支援が可能になるのか。 ○インクルージョンについてよく説明されてあり、評価についても分かりやすい説明がな されていたと思う。個人を大切に育てる意義が伝わったと思う。発達障害の理解を深める ことを行ってほしい。 ○支援の具体的事例や医師、臨床心理士との連携などについて聞きたかったです。 ○医療関係の先生の専門的な話をもっと伺いたいと思いました。 【行政職】 ○就学前検診で早期の発見、診断、療育支援をする中で、就学後の対応に疑問や不安を持 っています。インクルージョン教育ではなく、情緒の特別支援学級でしか対応が難しいと いう考えを多くの教師が持っているように感じます。就学前の医療、福祉、教育の連携を 行う私たち保健師が持っている多くの情報を、より有効な方法で伝達できるように、教育 現場で取り組める教育方法を学べたらと強く思っています。子どもの状況を受け入れてい る保護者は、教育の保障を希望しています。T.T.の在り方を含めて、知的障害を伴わない 通常学校における発達障害児への対応についても学べる機会があればと思います。また行 政に求められることも知りたいです。学級経営力アップは重要ですね。 ○カナダの実践を聞いて日本との違いにため息も出ましたが、目指すところがわかったと 思います。 【一般】 ○カナダではこれだけのことができています。日本もほんの少しずつでもそれに近い状態 に近づいていけばと思います。そのためには発達障害の子どもを持つ私たち親もいろいろ と働きかけていく必要があるかなと思いました。保護者としてはいろんな学校の先生方の 考え方も聞いてみたいと思います。 ○特別支援法ができ、日本もこれから変わっていくのかもしれませんが。少子化なので特 に小学校のクラスの人数を少人数体制にして欲しい。 ○外部機関、NPOなどとの連携について、その他の要因による不適応行動への対応との 共通課題について知りたいです。 【学生】 ○友人が臨床教育実習に真剣に取り組んでいる姿を傍から見ていました。今日の発表で、 この 1 年を通して本当に大きな経験と実力を身につけていったのだと感じました。 ○学生の発表のみの参加でした。同じ立場として素晴らしい取り組みだと感じました。子 どもたち一人ひとりに支援が広がっていけばと思いました。 ○障害のある子どもに対しての学習支援をできるだけの力でやっている身です。今回の実 習の報告やシンポジウムの話の中でいろいろな意見や支援の方法がありました。さまざま な意見を取り入れながらその子に合う支援があることを知り、その子に合う支援を見出し ていけたらと思います。 ○教科教育選修に在籍していますが、特別支援教育にとても興味があります。いろいろな 話が聞けてとても参考になりました。 第2部 臨床教育実習の報告 9.平成 19 年度実習報告 平成 19 年度の臨床教育実習4チームの実習生による活動のまとめを 以下掲載する。 各チームに、卒業論文や修士論文として取り組んだ学生がいた。 なお、平成 19 年度実習生は 18 名であった。 その内、現職教員院生と卒業・修了した学生計5名、そして、事情により学校実習に参 加できなかった4年生4名を除く、9名の学生が学校実習に参加した。なお、この4名の 学生も、臨床教育演習に参加したり、大学で行う支援児への継続指導に参加した。 学校教育課程(学部) 学校教育専攻 (大学院) 教育 教育 障害 教育 教育 障害 学 選 心理 児 教 学コー 心理 児教 修 学選 育選 ス 学コー 育コー 修 修 ス ス 1年生 - - - 0 4(2) 2(1) 2年生 - - - 1 0 0 3年生 3 2 4 - - - 4年生 1 0 1 - - - 小計 4 2 5 1 4(2) 2(1) 合計 18 名(3) 男性7名 女性11名 注: ( )内は現職教員院生 内数 ※実習報告は、支援児の保護者に予めご覧いただき、掲載した。 9‐1 社会性に課題を抱える児童への支援(Aチームの活動報告) 〔平成 19 年度 Aチームメンバー〕 末永智美(教育心理学選修4年生) 剣持裕子(障害児教育選修4年生) 上田遥香(教育学選修 卒業) 小竹恵(教育学研究科学校教育課程教育心理学コース2年生) 岡本尚子(教育学研究科学校教育課程教育心理学コース2年生、現職教員) 池田行伸(チーム担当教員 教育学・教育心理学講座) 1)支援児の状況 (1)支援児について 【男児,小学4年生(2007 年 10 月時点)】 専門医を受診。コミュニケーションの問題、注意集中の問題、バランスのとれた運動 の問題が指摘された。 (2)主訴 ・まわりの発言を聞いていない。 ・会話が一方的である。 ・不注意,多動性,衝動性などの傾向がある。 (3)WISC-Ⅲ(平成 19 年 4 月、9 歳 7 ヶ月時に実施)の結果 ⅰ) IQ について 全検査 IQ(98),言語性 IQ(90),動作性 IQ(107) ⅱ)4つの群指数について 言語理解(94),知覚統合(115),注意記憶(73),処理速度(83) ⅲ)結果の解釈 ・知的発達のレベルは平均域だが、聴覚的処理能力と視覚的処理能力の間に格差が見 られる。視覚的処理能力優位。 ・視覚的短期記憶に弱さが見られるが、平均の範囲。 ・聴覚的短期記憶に弱さが見られる。 (4)アセスメント ⅰ)学習 事前の学力テストの結果や WISC-Ⅲの結果等から本児の学力水準は高いレベルにあ ることがうかがえたが、実際の水準を査定するために国語・算数の学力検査を実施した。 その結果、やはり本児の学力水準は高いことがわかった。国語では、文章読解や漢字の イメージによる概念形成、算数では計算・文章題・図形の読み取りと様々な面からアプ ローチをしたがどれも高い水準であることがわかった。しかし、国語の読解力の問題で は表面的な情報は読み取ることができるが、その文章に書かれている本当の意味を読み 取ることに苦手さを示し、算数でも問題を解くのではなく作るといった問題で苦手さを 示した。これらのことから、基本的には、高い水準の学力を有しているが、それを応用 させていくことに苦手さを持っているということがわかった。 ⅱ)コミュニケーションや行動 会話をする際に相手の顔を見ずに話をしたり、注意がそれて話を聞いていなかったり する等、コミュニケーション場面ではやや一方通行的なようすが見られた。また、集団 活動に関して苦手なようすが見られた。その中でも特にA児は、他者の状況や言動に合 う対応をとるという点において困難さを示した。例えば、ある女の子が怪我をし、包帯 を巻いていた。その状況に関して、A 児はその女の子に「包帯どうなってるの?」と声 をかけ、包帯をさわろうとする姿が見られた。その状況の中で A 児は、包帯を巻いてい るということから相手になにか困ったことがあったのではないだろうか、と思いをめぐ らせる姿は見られなかった。そのことよりも、A 児は自身の興味のある包帯の中に隠れ ている怪我のほうに注目し、その答えを他者に求める姿が見られた。つまり A 児は、他 者と接する中で自身の興味・関心にとらわれてしまいがちな対応をするという特徴が見 られた。 ⅲ)運動 鬼ごっこなどの走る場面で、本児はまっすぐ走れずふらふら走っている姿がみられた。 また、ボールを投げる、新聞紙の上にボールをのせて運ぶ場面ではうまくボールを扱え ず、見当違いな方向に投げてしまったり、うまくボールを運べなかったりする姿がみら れた。これは、本児の持つ協調運動の問題からきているものと考えられる。 2)長期目標とその設定理由 上記のアセスメントの結果より、社会性の面に課題があることが分かった。よって、下 記の 2 点を長期目標と設定した。 1.コミュニケーション能力を高める。 2.意にそぐわない時、衝動性を抑えようと努めることができる。 3)個別指導計画と指導内容 (1)大学施設実習(スマイルルームでの指導) 短期目標 評価の観点 第1 本児に声かけをしたときに、その声の相手の 支援者の顔を見て言葉のや ステージ 方向に顔を向けることができる。 りとりができるか 第2 ①注目合図に気づくことができる。 注目合図で支援者のほうを ステージ ②カードを見て、情動を抑えることができる。 見ることができるか。 ③感情の種類を知る。 表情と感情のつながりを理 解できているか。 第3 ①注目合図に気づき、注意を長く保たせる。 情動のコントロールができ ステージ ②情動のコントロール方法を知る。 るか。 ③「ありがとう」という場面を知る。 場面に気づき「ありがとう」 と言えるか。 (2)学校実習 保護者の要望により、学級に本児の障害を開示しないことで学校実習の承諾を得た。し たがって、学校実習では観察を中心とし、本児の支援は学校とは別の場所・時間を設けて 行った。 4)結果の考察 (1)大学施設実習 ⅰ)コミュニケーション能力を高める。 基本的に本児は人とかかわることを好んでおり、自由時間のたびに実習生に本を読み聞 かせことを非常に好んでいた。しかしその一方で、会話をする際に相手の顔を見ずに話を したり、注意がそれて話を聞いていない等、コミュニケーション場面ではやや一方通行的 な様子が事前の面談で観察できた。これを踏まえ、コミュニケーションの基本として個別 活動の時間に「先生の話を聞くときは、先生の顔を見る、最後まで聞く」という約束を毎 回、活動時間のはじめに確認し、徹底を図った。また、本児の不注意によって話を聞かな いようすがみられたときには、すぐに本児に約束の確認をさせ、まずは 1 対1の関係で会 話場面におけるコミュニケーション能力を高める働きかけを行った。図1は、声かけに対 して本児が顔を向けることができた割合である。 図1から、セッション6までは徐々にできるようになっていたものの、セッション7で は突然割合が低くなっていることがわかる。これは、個別指導担当の実習生がそれまでの 学生と変わったこと、またセッション7ではゲームの時間にパニックを起こしたことなど が原因として考えられる。それまでは、スマイルルームに慣れてもらうために、本児にと って居心地のいい状態を作り接してきたが、このセッションで初めてゲームに負けたりと スマイルルームが本児にとって居心地のよいだけの場所ではなくなった。ここで、一度そ れまでに築いた人間関係に変化が生じた。 その後もさらに指導を行っていくと、セッション11でもセッション7同様にパニック が起きたにもかかわらず、話を聞くときに 80%と高い水準で学生に顔を向けることができ た。徹底した指導の結果、「話を聞く」ときの態度の定着に到っているのではないかと考 えられる。また、セッション7で生じた人間関係の変化が、良い方向へ向かい、学生と本 児の間に強いラポールの形成ができた結果だとも考えられる。今後は、1 対 1 ではなく小 集団から集団でのコミュニケーション場面で適切な行動がとれる指導を行っていく必要が あると考えられる。 今回臨床教育実習を行う中で、コミュニケーション能力を高める手だての一つとして、 本児の担任教師から、「本児は『ありがとう』という場面で『ありがとう』ということが できない。『ありがとう』という場面で『ありがとう』という言葉が出れば、もっとコミ ュニケーションが円滑になるだろう。」という示唆をいただいたので、指導の中に取り入 れた。「ありがとう」という言葉を使えるようにしていくための学習の中で、本児にまず 物語を使って「ありがとう」について本児がどう捉えているかを確認した。その結果、概 ね物語の中で理解はできていたものの、実際の生活場面と結びついていないようすがうか がえた。感情学習のときにもみられたが、知識として知っているものと行動との結びつき が弱いという側面が見られたので、日常生活場面で「ありがとう」と言えるような働きか けを行い、実際の場面で本児が「ありがとう」という場面を理解しやすくするような働き かけを行った。本児が「ありがとう」と発言ができた際には「どういたしまして。ありが とうと言われてうれしかったよ」ということを伝え、できるだけ気持ちを言語化していっ た。そのことで本児が「ありがとう」と言われたときの気持ちを理解できるようにし、さ らに自発的に「ありがとう」と言えるようにした。説明とフィードバックで行動変容をは かった。 その結果、徐々に自発的に「ありがとう」と言えるようになってきた。しかし限られた 場面での支援であったために、スマイルルーム以外の場面で「ありがとう」という発言が できるようになっているかについては疑問が残る。今後、「ありがとう」と言う場面はス マイルルーム以外の場でもあるのだということを学ばせていく必要がある。般化を促進す る手だてを考える必要がある。 ⅱ)意にそぐわない時、衝動性を抑えようと努めることができる。 第 2 ステージでは、オセロのゲームの中で A 児が負けると、悔しい気持ちを抑えられず に大声を出したり、泣いたりするようすが見られていたので、その感情を自分のなかでコ ントロールできるようにする働きかけを行った。オセロをしている中で本児が「1回では 1枚しかとってはいけない」という「自分ルール」を作っていた。そのためオセロのルー ル表に新たに「一回に取る枚数は何枚でもいい」をつけ加えたところ、負けた後には口数 が減るなど悔しい気持ちはあるものの、パニックを起こすほどの感情を表に出さなくなっ た。また、その後オセロの代わりに行った七並べの中でもルールが理解できていないため にまた「自分ルール」が現れていた状況で、自分がカードを出せない状況になるとパニッ クを起こしたが、その後ルールをきちんと本児に理解させる働きかけを行うと、以前パニ ックを起こしたときと同じ状況が起こってもパニックにならなかった。これらのことから、 本児がパニックを起こす要因として、視覚的に明示されていないルールを「自分ルール」 化してしまい、それが他の人が共通に持っているルールと合わない場合、本児は自分の置 かれている状況を理解できなくなり、パニックを起こすと考えられた。ルールを整備し理 解させることが本児の支援に役立つと考えられた。ある程度状況理解ができると、負ける ことや自分にとって不利な状況になっても感情のコントロールが可能になったと考えられ る。このことから、通常は丁寧に説明する必要のないくらい単純だと思われることでも、 整理して提示することが重要である。そのことで衝動性を抑制することができるかも知れ ない。 (2)学校実習 ⅰ)「コミュニケーション能力を高める。」について 大学施設実習の中でも見られたが、一般的に暗黙の了解と言われる目に見えないことを 「自分ルール」化してしまうことが、こだわり行動やパニック行動を起こす要因となって いる。そのことが、本児にとってコミュニケーションを苦手なものにしている。 そこで、コミュニケーション能力を高める手だてとして、個別指導の中でソーシャルス キルトレーニングを行い、学校の中では、個別指導の中で行ったソーシャルスキルトレー ニングを思い出させ、場面に適した行動がとれるような働きかけを行った。その結果、状 況に適した行動があることを知ってパニック行動を減らしていくことができた。また、状 況を理解することによって、周囲に目を向けることができるようになっていき、①順番に 対するこだわりが減ったこと(例:給食をもらう順番が一番でなくても怒らなくなった)、 ②自分の意見にみんなが賛同しなくても怒らなくなったこと、というように特異な行動が 減ってきている姿が見られた。自分ができないことを友達と協力しながら行うように提案 する姿も一度見られた。 個別指導のソーシャルスキルトレーニングの取り組み方として、ある状況を提示し本児 に「同じような状況は今までありましたか?」という問いかけを行いながら、状況に対し て適切な行動があることを学ばせていった。このことにより、それまでパニックを起こす と自分の行動さえもコントロールできない程混乱した状態に陥っていたが、あらかじめ状 況の全体像が頭に入っている状態になっていると、自分自身のことはもちろん、周囲の状 況にまでも目を向けることができるようになっていったのではないかと考えられる。 今後もこのような方法を用いて、本児自身がコミュニケーション能力を身につけること ができるような支援を行っていかなければならない。 ⅱ)「意にそぐわない時、衝動性を抑えようと努めることができる。」について 大学施設実習の中では、ゲームに負けると悔しい気持ちを抑えきれずに大声を出したり、 泣いたりする姿が見られた。これも、暗黙の了解と言われる目に見えないことを「自分ル ール」化してしまうことに起因していると考えられる。自分の中のルールと違うことが生 じると、衝動性を抑えきれない場面が多く見られた。 大学施設実習から引き続き、実際にゲームを行いながら、ルールを明確に視覚化するこ とで改善をはかった。本児がゲームに負けることがあっても、ルールにのっとって行って いることを認識させ、そのような状況に陥っても本児の中で折り合いをつけさせていくよ うな支援を行った。また、パニックを起こしている支援児に対して、「今どんな気持ち?」 と問いかけることで、どのような状況であるのかを、本児自身が客観的に認識できるよう にした。その結果、意にそぐわない状況でも、本児が衝動性を抑えようと努めている姿が 見え、感想カードに「今日は負けたけど、次はがんばる」という言葉が見られた。また、 学校でも並ぶ順番について友達に、「早く行かないと一番になれないよ。」と言われた時に 「今日はいい。」と自分が一番になれない状況に対して、嫌な顔をしつつもぐっとこらえて いる姿が見られた。 このように、徐々にではあるが衝動性を抑えようという姿が見られるようになった。ル ールがあることを知り、そのときの自分自身の状況を認知することで、落ち着いて行動す ることができるようになったのではないかと考えられた。引き続き、ルールを視覚的に認 知できなくても状況に対応できるようになる支援を行っていく必要がある。 (3)全体を通して これらの活動を通して、A 児に様々な変化がみられた。個別の場面では、①「自分の思 いを他者に伝えること」、②「自分自身の行動を振り返る」という姿が見られるようになっ た。さらに、学校場面でもいくつか変化がみられるようになった。教室の中で A 児は徐々 に周囲に目を向けることができるようになり、①順番に対するこだわりが減り、②自分の 意見にみんなが賛同しなくても怒らなくなった。ひとりではできないことを友達と協力し て行うことを提案する姿も見られた。意にそぐわない状況でも、衝動性を抑えようと努め ている姿も見られるようになった。このように、A 児の課題としていた社会性の成長が観 察された。 5)臨床教育実習に参加しての感想 末永 智美 この実習で行ったことは簡単なことではなく、知識も経験もない私には大変難しく感じ た。しかし、この活動で得たものは大変多かった。例えば各々の児童の状況に即した方法 での学習について、その学習法が効果的で重要なことだという知識はあったが、実際に個 別の学習を行うことでその効果と重要性を身を持って感じることが出来た。また所属が教 育心理学選修ということもあり実習前は本児や保護者の立場から発達障害を見ることが多 く、学校や教師の無理解ばかりが目についていた。しかし今回教師の立場から発達障害を 見たり、学校の先生や他選修の実習生の話や意見を聞いたりする機会があったことによっ て、学校や教師の思いについても理解することができた。 私にとって、この実習は初めてのことばかりで、失敗も多かった。最初は本児の不適切 な行動にうまく対応できなかったり、何も言えなくなったりと、本児にはもちろんのこと、 大事な我が子を私達に預けてくださっている保護者の方をも何度も不安にさせてしまった と思う。それでも本児が毎週スマイルルームに通い強い学習意欲を示してくれたこと、そ して保護者の方の温かい見守りと最後まで臨床教育実習に協力してくださったことに大変 感謝している。 小竹 恵 本実習を行っていく中で一番困難に感じたことは「子どもが見えない」ことでした。本 児がとる行動の背景にはなにがあるのか、どのような支援方法が本児に適しているか、試 行錯誤を繰り返しながら実習を進めていきました。その中で、チーム内で仮説をたて、話 し合いを重ねることによって徐々に本児の行動に対して理解を得ることができるようにな っていきました。こうした理解が得られたのは、チーム内の全員がそれぞれの立場から本 児に対して働きかけを行っていったからだと言えるのではないでしょうか。 今回の実習では、発達障害を抱える児童・生徒の実際について知ることができるならと、 今思えば自分中心に捉えていたように思います。しかし、実際に本実習に臨んで、子ども たちに触れて、実習は自分だけのものではないと考えを改めました。もちろんこの経験を 自分の糧にしていくことはとても重要な意義があります。しかし、本実習では支援を行っ ていくことのほかにさまざまなことを学ぶことができました。それは、保護者の方々をは じめ支援児をとりまくまわりの人たちとの連携です。 最後になりましたが、今回の実習では私の力不足のため至らなかった点も多々あったか と思います。しかし、支援方法を私たち学生に任せてくれた担当教員や保護者の方々には 大変感謝しております。おかげで大変実のある実習をさせていただくことができました。 9-2 書字の困難さと不注意のある児童への支援(Bチーム活動報告) 〔平成 19 年度 田中 Bチームメンバー〕 孝(教育学選修 4 年) 甲斐陽子(障害児教育選修 4 年) 山根大樹(教育学研究科学校教育課程障害児教育コース 2 年) 田上麻美子(教育学研究科学校教育課程障害児教育コース 網谷綾香(チーム担当教員 修了) 教育実践総合センター) 1)支援児の状況 小学校 4 年生。通常学級に在籍する外遊びが大好きな男児である。小学校 2 年時に学習 の困難さを指摘され専門機関を受診。言語の理解力、コミュニケーションは良好だが、漢 字の習得、特に書字に困難さを示し、整理整頓を苦手としていた。また、学習に対する抵 抗感が強く、学習面での支援の必要性が認められた。 【心理検査の結果と支援児の特徴】 7 歳 10 ヶ月時の WISC-Ⅲの結果では、VIQ=106、PIQ=75、FIQ=90。VIQ と PIQ の差 は 31 であり、5%水準で統計的な有意差がみられた。言語理解と処理速度の間に有意差は ないが、言語理解と注意記憶、知覚統合と注意記憶、知覚統合と処理速度の間に有意差が あった。 8 歳 9 ヶ月時の K-ABC の結果では、90%信頼区間で継次処理尺度が 105±9、同時処理 尺度が 71±8、認知処理尺度が 84±7、習得度尺度が 82±5。継次処理尺度と同時処理尺 度の差は 34 であり、1%水準で継次処理尺度が有意に高かった。習得度は 82 であり、継 次処理との間に 23 の差があり、1%水準で継次処理が有意に高かった。 これらの心理検査と、保護者・担任からの情報等によるアセスメントから、支援児は、 「視覚で捉えることは苦手だが言語的に捉えることは得意」 「 情報ひとつひとつを順番に理 解していくことと、頭の中で計画を立てることが得意」 「試行錯誤して問題解決をすること が苦手」という特徴があると考えられた。さらに、描画検査の結果によれば、自分に自信 が持てず他者の視線を気にする自己評価の低さが顕著に窺えた。これは支援児の自己肯定 感の低さを示唆するものであった。以上のことより、支援児は「学習場面における‘でき ない’体験の蓄積により自己肯定感が低くなっている」のではないかと考えた。 2)長期目標とその設定理由 【長期目標】 ①既習漢字を習得する。 ②活動の準備と終了の時に、整理整頓ができる。 ③自己肯定感を高め、学習への抵抗感を和らげる。 【設定理由】 長期目標①:漢字の書字の苦手さの背景には、視覚的認知の弱さがあると考えられた。 一方、支援児は「言葉を用いたり順序立てたりして覚えることが得意」である。このこと から、支援児が得意とする方略で既習漢字の指導をしていくことで、書字に自信をつけさ せることができると考え、目標設定した。 長期目標②:引き出しの中に入りきらないものを床に落とす、床にものが散乱していて も片付けようとしないといった学校での支援児の姿は、担任教諭だけでなくクラスメート からも注意されることが多く、児童同士の人間関係に少なからず悪影響を与えている状況 があった。整理整頓の苦手さは、視覚的認知の弱さからくる空間配置の弱さが原因ではな いかと考えられた。一方支援児の概要でも述べたとおり、支援児には計画能力の高さが見 られる。そこでそれを生かしながら視覚的支援を行い、整理整頓へ取り組むこととした。 整理整頓ができるようになることで、学校のような集団生活への適応もよりスムーズにな ると考え、目標設定した。 長期目標③:支援児は学習に対して強い抵抗感を示していた。その背景として、支援児 の発達水準を越えた内容が指導として求められてきたことにより、失敗や挫折を経験し、 自信が喪失されたと考えられた。支援児を承認する場面を多く設けたり、成功体験を多く 積ませたりすることで支援児の自己肯定感を高め、外発的動機付けではなく、内発的動機 付けで活動することができるようにし、学習への抵抗感を和らげることをねらいとして目 標設定した。 3)個別の指導計画と指導内容 (1)大学施設実習 期間:10 月~1月 毎週土曜日、合計 11 回 【各ステージの短期目標】 第 1 ステージ ※書字に関するアセスメントを中心に行った 漢字学習 視覚能力の評価と見る力のトレーニング。 整理整頓 片付けタイムにおいて元の場所に片付けないモノの数が4個までとする。 第 2 ステージ 漢字学習 口唱法に触れ、漢字の学び方を知る。 整理整頓 片付けシートを使わず整理整頓することができる。 心理的支援 活動において成功体験を自覚し、自己肯定感を高める。 第 3 ステージ 漢字学習 口唱法で学習した漢字 80%を確認テストで正答することができる。 整理整頓 片付けシートを使わず、片付けられないものを1つにする。 心理的支援 活動において成功体験を自覚し、自己肯定感を高める。 ①漢字学習について 支援児が得意とする「言葉を用いたり順序立てたりして覚える」方略で漢字学習を進め るため、下村式口唱法の指導法を応用した「スマイル法」を採用した。下村式口唱法とは、 漢字をパーツに分解し、そのパーツごとに口唱を規定しており、漢字を書く際、筆順に従 いパーツの口唱を唱えながら書くというものである。例えば『書』の場合、口唱は「ヨを 書く→横 2 本→縦棒引いたら→漢字の日」となる。下村式口唱法では、指導者が漢字のパ ーツを言語化し、その口唱を支援児に伝える。 一方今回採用した「スマイル法」では、漢字への抵抗感をなくし‘楽しく’漢字に取り 組むねらいから、口唱をあらかじめ規定せず支援児と支援者が一緒に考えるようにして、 既習漢字の習得に取り組んだ。また同時に、学習の中で支援児の考えが支援グループに承 認される場面を多く設けることで、成功体験を自覚し自己肯定感を高めていくこともねら いとした。 ②整理整頓について 空間配置能力の弱さを補うための支援として、構造化された籠を用意し、視覚的にどこ にものを片付けるかとらえやすいようにした。また、支援児の「計画能力の高さ」を活か し、学習後の片付けを始める前に支援児自身で片付ける順番を決めさせ、支援者がチェッ クシートに記入するようにした。このような方略を取ることで片付けるものや順番を忘れ た時には、確認できるよう配慮した。 ③心理的支援について 支援児の自己肯定感を高めるため、支援児の様子や表情、休み時間に対話した内容、保 護者からの情報などをチームで共有することで、心理状態を正確に把握しながら支援児と の関わりをもった。具体的な支援については、学習や活動で‘達成感’を味わえるよう、 できたことを充分に褒めるようにつとめた。また各活動の後に設けられた振り返りの時間 にて、本人の考えや気持ちを発表させたり、話しやすい雰囲気を作ったりすることで支援 児を受け止めようとした。 (2)学校実習 期間:5 月 7 日(水)~7 月 16 日(水) 毎週火・水曜日、合計 21 回訪問 【学校実習目標】 整理整頓 支援者の助けを借りずに整理整頓できる。 心理的支援 できている面を自信にしながら、できないことも受けとめていく。 (自己受容) ※ 漢字指導は個別指導となるため学校実習では困難であると判断し、大学施設実習終 了後から個別指導を大学で継続し、指導することとした。 ①整理整頓について 整理整頓は、支援児一人の問題ではなく、クラス全員が行わなければならないことを伝 えた。休み時間の様子として、自主的に整理整頓を行う場合と、整理整頓を行わずに休み 時間を過ごす場合があり、後者の場合においてのみ支援児に声かけを行った。声かけは一 方的に注意するのではなく、周囲の児童の様子や今やるべきことを支援児に考えさせるよ うに配慮した。 ②心理的支援について 支援児が苦手としていることについて一緒に向き合い、個別に声をかけていくようにし た。また、在籍学級の児童と支援児が支援者を通してつながりが持てるようにし、苦手な 科目において支援者からではなく在籍学級の児童から教えてもらえるような場面設定を行 った。 4)結果と考察 ①漢字学習について 学習中、支援者と楽しく漢字の口唱を考える姿や素晴らしい発想で口唱を命名する様子 がみられた。大学施設実習最終日に実施した漢字定着確認テストでは、定着率 90%を達成 した。また、支援児自身が、 「より多くの漢字が書けたり、字が綺麗に書けたりするように なりたい」と望むようになり、学校でも本人なりに漢字を丁寧に書こうとする姿が見受け られるようになってきた。以上のことから、書字に対する姿勢が変わり、自信をつけ、漢 字学習に対する意欲が向上したと言える。 漢字を書くためには、手本となる漢字を視覚的に全体と細部の双方から捉える必要があ る。支援児は、視覚的に細部を捉えることを苦手としているため、線が複数に交わってい る複雑な構成の漢字の定着は難しかった。一方、画数の少ない漢字や具体性が高く使用頻 度が多い漢字は定着しやすかった。 支援児の継次処理能力の高さを活かし、K-ABC の下位検査で評価点が高かった<手の 動作>の能力と言語的支援であるスマイル法を連動させたことは、視覚情報処理が弱い支 援児にとって漢字学習を進める上で効果的な方略であったと言える。 ②整理整頓について 大学施設実習では、チェックシートを使用せずに片付けができるようになるという、ス キルの向上が見られた。時に片づけを面倒くさがることもあったが、 「学校用のチェックシ ートを作って欲しい」という要望が支援児自身から出たことから、整理整頓に対する意識 が高まったと言える。 学校での整理整頓の状況について振り返ってみたとき、支援を始める以前は机の引き出 しに左右関係なく片付けてしまうため、道具・教科書が重なり引き出しの中におさまりき らない状況があった(これは左右概念が定着していないため、右と左に分類して片付ける ことを理解していても、いざ片付けるとなると逆に置いてしまうことがあったためと考え られる)。 しかし学校実習期間中では、必要なものと不必要なものを区別して引き出しを整理した り、どうすれば整理整頓が上手くできるようになるか支援児なりに考え、引き出しの左側 にタオルを引くことで、左右を区別しやすいように工夫したりする様子がみられた。また、 これまでは床にものを落としたら指摘されるまでなかなか拾おうとはしなかったが、落と したことに気付くと自分で拾う姿が見られたり、隣の児童とどちらが速く綺麗に片付ける ことができるか競争する姿が見受けられたりするようにもなり、整理整頓に対する意識の 高まりが確認された。この結果は支援児の対人関係のトラブルのもとであった整理整頓が 改善されたことにより、支援児と在籍学級の児童との対人関係が良好になったことを示唆 するものでもある。 整理整頓ができるようになった要因としては、①整理整頓を繰り返し行ってきたことで 習慣が身に付いてきている、②「次の活動へスムーズに移行するために片付けをする」と 整理整頓の意義を理解した、③どうすれば上手く整理整頓できるか本児なりに工夫し方略 を考えた、④支援児と同じく整理整頓を苦手とする同級生との良いライバル関係があった、 などが挙げられる。 また、床に落としたものを拾うようになった背景として、学習に対する抵抗感が少なく なったことが考えられる。本児が床にものを落としても拾わなかったのは認知面や不注意 の問題も関係しているだろうが、何より本児にとって「鉛筆・消しゴム=学習に使用する もの=苦手なもの」であり、たとえそれらが目に付いたとしても拾いたくなかったのであ ろう。漢字学習を通して勉強に関して自信を持てたことが、落ちた文具を拾う契機となっ たとも考えられる。一方で、時にテストファイルを拾わないなどの姿もみられることから、 学習への抵抗感については完全に払拭されたとは言い難い。 ③心理的支援について 大学施設実習では、漢字の習得による達成感や整理整頓のスキル上達に伴い、支援児の 自己肯定感は高まり、学習への抵抗感は和らいだといえる。これは、支援児が支援者と共 に継続的に苦手なことに取り組み、それを克服する方略を学べたことで支援児が自信をも てたことが要因の一つだと考えられる。また、常に支援児を褒めながら支援を実施したこ とは、周囲に認められているという安心感を与え、自分の考えが受けとめられる経験の積 み重ねを通して、自己肯定感が育まれたのではないかと考えられる。 しかし、学校実習では、学習内容の難易度が上昇したことで再び自己肯定感の低下が顕 著になり、苦手教科が始まる前の休み時間には保健室に行きたいと言い出したり、教室で 気だるそうな様子を見せたりしていた。また、学習内容でわからない箇所があっても、教 えられるまで黙ったままでいることが何度かあった。学習内容を理解していないことを周 囲に悟られることに抵抗があると考えられた。このような状況の中でも、支援者と個別に 対話する中で、少しずつ自分のできなさにも向き合いはじめる様子が見られた。 一方、授業外の様子では積極的にクラスを引っ張っていこうとする姿や男女仲良く遊ぶ 姿が見られるなど、クラスメートとの人間関係は良好であることが窺えた。これは、今ま で整理整頓の問題などをきっかけにギクシャクしていた児童同士の関係が、支援児なりに 整理整頓に関心を持ち片付けようとするようになったことで、改善されたとも考えられる。 支援児の自己肯定感の高まりが見られたのは、支援児と支援者が支えあった部分が大き い。しかし、これからは本児自身で学習や整理整頓などの苦手なことに取り組んでいかな くてはならない。今後の課題として、支援を通して高まった自己肯定感を維持しながら、 自分なりにやれるという自信をつけることが必要である。さらには、自身が苦手としてい ることを自身に留めておかず、周囲の人々に開示していく力も必要となってくるだろう。 5)臨床教育実習に参加しての感想 田中 孝 「大学施設実習」と「学校実習」という大きな柱のもと、支援児とチームのメンバー、 そして様々な方とつながりながら、長期に亘る「臨床教育実習」を行うことができました。 私は「臨床教育実習」を通して、支援を行う者にとっても、子どもにとっても大切なのは 「人と人のつながり」だということが実感できました。 支援を行う者にとっての「人と人のつながり」は、チーム内の連携をはじめ保護者や関 係団体の方とのつながりなどとても幅の広いつながりで、多面的な視点から子どもを見つ めていくことの大切さを示唆するものであると感じています。一方、子どもにとっての「人 と人のつながり」は支援の今後のあり方として、支援児と周囲の子どもの関係作りをいか に支援していくのかということを示唆するものです。今回の実習では、個人レベルの支援 にとどまり、支援児と学級に在籍する子ども達との関係作りまで支援を発展することがで きませんでした。対人関係のトラブルの解消は今後の支援の鍵となってくると思います。 私は四月より大学院に進みます。今後の学生生活の中でその糸口を見つけていければと考 えています。 最後になりましたが、実習を行っていくにあたり多くの方々にお世話になりました。そ して、支援児と出会いが自分自身を見つめなおすいい機会となりました。この場を借りて 御礼申し上げます。ありがとうございました。 甲斐 陽子 今回臨床教育実習に参加する中で、私は子どもたちにたくさんの元気をもらいました。 それは苦手としていることに一緒に取組み、できることや分かることが少しずつ増えてい く楽しさや喜びを共に味わうことができたからだと思います。 また、今回漢字の書字に関する学習支援を行う中で、学習支援といってもやり方だけを 教えるのではなく、学習への抵抗感を和らげたり、自信が持てるよう心理面に配慮するこ とも大切であると感じました。周りと比べるのではなく前回よりもどうかと、その子自身 の成長に目を向けて声をかけていけたことがよかったと思います。 これは、チームで様々意見を出し合いながら支援に取り組んでいけたからこそ、できた ことだと感じています。私は教員を志しているので、今回実習を通して学んだことを今後 生かしていけるよう、努めていきたいと思っています。ありがとうございました。 山根 大樹 臨床教育実習は初年度ということもあり試行錯誤の中での取り組みであったが保護 者・教員・学生が一体となった素晴らしい実習だった。また、心理学、教育学、障害児教 育学を専攻するメンバー編成の下、専門的に支援できたことは非常に貴重な体験であり、 その一員として参加できたことを誇りに思う。 支援児とは、個別支援の期間を含め 1 年半近い付き合いとなった。その期間、自分の力 不足を痛感し、指導方針に疑問を抱き悩んだこともあった。しかし、そんな時に不安を解 消してくれたのは支援児の笑顔であり、チームメンバーの支えであった。 臨床教育実習でお世話になった支援児や保護者、先生方、そしてチームメンバーに深く 感謝し、感想としたいと思う。 9-3 言語表現と四則演算に課題のある小 4 女児への支援(Cチーム活動報告書) 〔平成 19 年度 Cチームメンバー〕 高木公裕(教育学選修 4 年) 坂本みなみ(教育心理学選修 4 年) 石橋理沙(障害児教育選修 4 年) 天野浩之(教育学研究科学校教育課程障害児教育コース 2 年、現職教員) 中村理美(教育学研究科学校教育課程教育学コース 1 年) 園田貴章(チーム担当教員 教育実践総合センター) 1)支援児の状況 支援児の状況について Y児 (小学 4 年生 女児 平成 19 年 10 月現在) (1)WISC-Ⅲの結果(9 歳 6 月) ・全検査IQ70、言語性IQ68、動作性IQ78、15%水準で有意差 ・群指数では「言語理解」70、「知覚統合」85 であり、5%水準で有意差。 「注意記憶」は 76 であり、聴覚的短期記憶が言語能力の中では比較的優れている。 (2)ITPA検査結果(9 歳 7 月) ・全体及び表象水準で、「聴覚-音声回路」より「視覚-運動回路」が有意に高い。 ・自動水準の配列記憶能力の弱さから(評価点平均 28 のところ数の記憶 23、形の 記憶 23)、無意味な刺激の記憶の保持や再生の困難さが推定される。 ・下位検査では、単語の意味理解の低さ(「ことばの理解」19)、ことばを使った思 考の苦手さ(「ことばの類推」23)、構文の苦手さ(「文の構成」26)が推定される。 (3)保護者(母親)や担任からの聞き取り ・2 歳になっても、ことばの発達が遅かった。5 歳の時、K 病院を紹介され、検査と 指導を受けた。 ・平仮名の読み書きできるが、片仮名は時々忘れていることがある。文章を作るのが 苦手。言われたことを書くことが多く、書くスピードが遅い。 ・算数では、200 から 1 をとると?などに答えられない。グラフ、立体などの学習が 苦手。割り算の筆算などでも計算などやり方がわかれば行うことができる。 ・日常生活上でも伝えたい言葉が思い浮かばなかったり、単語を間違えて表現したり することがある。 ・周囲との協調性がある。しかし、何事につけ自信のない様子が見られる。 ・宿題をやっていないと朝登校するときお腹を痛がる。 (4)本児の願い 4 年生に進級時、「勉強をがんばりたい」と 4 年生の目標を書いた。 (5)保護者の主な願い ・思っていることを相手にきちんと伝えられるようになって欲しい。 ・授業が分からないと本人が楽しくないと思う。本人はスマイルルームで勉強を教え てもらうことを楽しみにしている。 2)長期目標とその設定理由 1.適切な助詞を使って表現できる。 2.整数の四則演算ができる。 3.全体の前で、予め練習したことを発表できる。(大学施設実習) 自分の思いを、相手に伝えることが出来る。(学校実習) ・行動や社会性の面で課題が見られないことから、学習支援を中心とする。学習面で 自信を持たせることにより、心のケアもなされると思われる。 ・以上の心理検査、行動観察、保護者からの聞き取り等から、言語表現と計算力の向 上を中心に長期目標を設定した。 3)個別の指導計画と指導内容 (1)大学施設実習 1.適切な助詞を使って表現できる。 長期目標 2.整数の四則演算ができる。 3.全体の前で、予め練習したことを発表できる。 ①視覚的処理優位の特性をふまえる。 ②同時処理優位の傾向をふまえる。 指導仮説 ③学習への抵抗感を軽減し、自信を高める。 ④書字の丁寧さを認め、ほめる。 ⑤ことばでの表現の自発性を高める。 1-1:小 1、2 年で習う助詞の課題を自力で 70%解くことができる。 第 1 ステージ 短期目標 (10/13~10/27) 2-1:計算力の基礎となる量概念 や量操作の課題を自力で 100%解くこと ができる。 3-1:全体活動のはじめと終わりのことばを皆に聞こえる大きさの声で言 うことができる。 1-1:文中の助詞の空欄を埋めるテストを実施する。名詞、動詞、助詞の 文字カードを作成し、主語と述語を本人に並べさせ、次に助詞の選択さ 指導内容 せる課題を与える。 2-1:1~3 年までの四則計算力を確かめるテストを実施する。掛け算筆算 の手続きを示すカードで説明した後、課題に取り組ませる。 1-2:「文の統辞・意味論的構造の分析とモデル 化を基礎にした構文学習 プログラム(以下、構文学習プログラム)」(天野清、1994)のステッ プ M1 課題 20 問を自力で 70%正解できる。 第 2 ステージ 2-2:①掛け算筆算(二位数×一位数<繰り上がりあり>、二位数×二位数 短期目標 <繰り上がりなし>)の問題を、ヒントカードでの学習を通して 90%正 (11/10~12/1) 解できる。 ②おはじきを列に並べる操作をして、掛け算式を書いて答えを求めること ができる。正解率は 90%とする。 3-2:チーム内で話したことをもとにして、全体の前で一日の活動の感想 をいうことができる。 1-2:図版による「お話作り」の学習 ①図版(イラスト)を見てお話をつくる課題に取り組ませることにより、 文の統辞・意味論的構造に関する言語的自覚の程度(ベースライン)を 評価する。 ②行為者、対象、場所、時間、行為の要素からなる構文を材料にして、口 頭で正しく文を作ることを学習すると共に、 「誰が」 「何を」 「どこで(に、 指導内容 を)」「いつ」「どうする」の疑問詞を用いた疑問文の作り方を指導する。 2-2:①掛け算筆算の手続き的知識を整理させる。 ②掛け算の意味理解 掛け算を使うと早く計算ができることを意識させ ることを目的に作成した図版を用いることによって、掛け算を使う意味 を学習する前に、掛け算を使う便利さを意識させ、おはじきを縦に、数 列に分けて並べる操作や図版を通して、掛け算の意味を理解させる。 ③掛け算九九の定着 2×1=2 などと表に式、裏に九九の言い方が書かれ たカードを使い、2、3、4、5 の段のかけ算九九の定着状況を確認する。 1-3:構文学習プログラムのステップ M1 課題 20 問を自力で 70%正解で きる 第 3 ステージ 短期目標 (12/8~1/19) 2-3:①かけ算筆算(繰り上がりのある二位数×二位数)の問題を、ヒント カードを使って 90%正解できる。 ②おはじきをいくつかのまとまりに分ける操作を通して、掛け算の意味の 理解を図りながら掛け算の式を書き、答えを求めることができる。 3-3:チーム内で話したことをもとにして、全体の前で一日の活動の感想 を言うことができる。 1-3:行為者、対象、場所、時間、行為の要素からなる構文を材料にして、 口頭で正しく文を作ることを学習すると共に、 「 誰が」 「 何を」 「 どこで(に, を)」「いつ」「どうする」の疑問詞を用いた疑問文の作り方を指導する。 また構文学習の定着状況を評価し、正当率の低かったものについて、文 指導内容 の作成と疑問文について今一度確認、補習を行う。 2-3:①掛け算の学習 ②掛け算の意味理解 掛け算筆算の手続き的知識を整理する。 おはじきを縦に、数列に分けて並べたり、おはじ きを同じ数だけ、皿や袋に入れたりする操作を通して、掛け算の意味の 理解を図りながら、掛け算の式を書き、答えを求めさせる。 (2)学校実習 1.適切な助詞を使って表現できる。 長期目標 2.整数の四則演算ができる。 3.自分の思いを、相手に伝えることが出来る。 ①視覚的処理優位の特性をふまえる。 ②同時処理優位の傾向をふまえる。 指導仮説 ③学習への抵抗感を軽減し、自信を高める。 ④書字の丁寧さを認め、ほめる。 ⑤ことばでの表現の自発性を高める。 第 1 ステージ 短期目標 (5/20~5/29) 1-1:構文学習プログラムのステップ M1 学習テストを自力で 70% 正解で きる。 2-1:掛け算、割り算の筆算の確認テストを自力で 70%正解できる 3-1:個別指導の時間の司会進行をすることができる。 1-1:ステップM1 で学習した行為者、対象、場所、時間、行為の要素から なる文について、正しく文を作り 文のモデルを構成することが出来るよ うになったか否かを確かめ、構文学習の定着状況を評価する。 70%に満 指導内容 たない場合は再度指導を行う。 2-1:整数÷整数の課題を取り扱い、二位数 ÷一位数、三位数÷一位数、二位 数÷二位数のあまりのない割り算筆算に取り組ませ、割り算筆算の計算過 程や手続きを確認しながら解かせる。 第 2 ステージ 短期目標 (6/3~6/17) 1-2:構文プログラムのステップM2 課題を自力で 70% 正解できる。 2-2:整数の二位数÷二位数の割り算筆算を 80%正解できる。 3-2:指導の終わりに感想を言うことが出来る。 1-2:行為者、対象、受け手、相手、場所、行為の要素からなる構文を 材 料にして、口頭で正しく文を作ると共に、「誰を」「誰に」「どうして 指導内容 いる」の疑問詞を用いた疑問文の作り方を指導する。 2-2:整数÷整数の課題を取り扱い、二位数÷二位数の余りのないもの、余 りのあるものの割り算筆算の計算過程や手続きを確認しながら解かせ る。 第 3 ステージ 短期目標 (6/19~6/26) 1-3:構文プログラムのステップ M3 課題を自力で 70% 正解できる。 2-3:整数の二位数÷二位数、三位数÷二位数の割り算筆算を 80%正解でき る。 3-3:手紙で、自分の気持ちを相手に伝えることが出来る。 1-3:行為者、対象、場所、道具・手段、材料、行為の要素からなる構文 指導内容 を材料にして、特に道具・手段、材料の要素を場所の要素と対比させて 「何で」「何から」の疑問詞を用いた疑問文の作り方を指導する。 2-3:整数÷整数の課題を取り扱い、二位数÷二位数、三位数÷二位数の余り のないもの、余りのあるものの割り算筆算の計算過程や手続きを確認し、 具体物を操作しながら解かせる。 1-4:構文プログラムのステップM4 課題を自力で 70% 正解できる。 第 4 ステージ 2-4:整数の二位数÷二位数、三位数÷二位数の割り算筆算を 80%正解でき 短期目標 る。 (7/1~7/10) 3-4:個別支援を受けての感想を書き、発表することができる。 1-4:行為者、相手、対象、場所、時間、道具、目的、原因・理由、行為 の要素からなる構文を材料に他の要素と対比させて、「何しに(何のた め)」(目的)、「どうして(なぜ)」(原因・理由)の疑問詞を用い 指導内容 た疑問文の作り方を指導する。 2-4:整数÷整数の課題を取り扱い、二位数÷二位数、三位数÷二位数の余り のないもの、余りのあるものの割り算筆算の計算過程や手続きを確認し、 具体物を操作しながら解かせる。 4)結果と考察 (1)大学施設実習 ①長期目標 1 「適切な助詞を使って表現できる」について 文中の空欄に適切な助詞を書くという課題はほぼ正解できるようになった。ただし、 助詞が 3 つの課題では間違うことがあった。 助詞の適切な活用においては、場所を表す助詞の間違いと行為を表すことばの間違 いが多く見られた(Ex.「とる」または「くわえている」と言うべきところを「釣って いる」。 「 立っている」と言うべきところを「乗っている」。 「 かもめが空に飛んでいる」)。 その他の行為者、対象、時間を表す助詞の活用については比較的スムーズに取り組め ていた。正解率は概ね目標に達していた。 構文課題では、助詞の箇所を強調し、解答していた。語彙力に関しては、語彙の少 なさだけでなく、語彙検索にも課題があるように思われる場面が多く見受けられた。 ②長期目標 2 「整数の四則演算ができる」について 二位数×一位数(繰り上がりなし)から二位数×二位数(繰り上がりあり)まで段階 を追って指導した。筆算手続きを示すヒントカードを用いた指導の時は、全問正解で きた。正解率は目標に達していた。しかし、定着確認テストを実施したところ、部分 積までは手続きにそって正しく計算できたが、その和を求める際、位取りを間違うと いう、今までなかった課題がみられた。 掛け算の意味理解の学習では、 「一あたりの量といくつ分」の関係の理解がまだ定着 していない。しかし、 「掛け算式の意味理解カード」を使い単位を意識させたところ自 力で立式し、答えを求められるようになった。割り算は時間がなく、指導することが できなかった。 ③長期目標 3 「全体の前で、予め練習したことを発表できる」について おわりの会で支援児 1 人ひとりが感想を言う場面では、チームの先生に「何があっ たっけ?」と尋ねる場面もあったが、 「○○がおもしろかったです(楽しかったです)」 と自分で立って、言えた。1、2 度、 「自習時間におはじきをしたのが楽しかったです」、 と長く感想を言うことができた。はじめの会では、 「おはようございます」を言う係だ ったが、その役割を果たせた。ただし、声は小さかった。おわりの会のチーム内での 話し合いでは、 「○○先生はどうですか?」と自分から質問できた。客観的評価が難し い長期目標であったため、達成の程度は主観的となるが、おわりの会で、自分で立ち 上がって、1 人で感想を言えたことから、目標は概ね達成されたと考える。 (2)学校実習 ①長期目標 1 「適切な助詞を使って表現できる」について 週に一度の大学施設実習においては、あまり正答率が上がらず同じ問題を間違うこ とも多かったが、学校実習での指導においては、第 1 試行での正答率が低いものでも、 次の指導での復習や確認テストではすべて正答率 70%を超えることができた。これは、 指導を週二回に増やしたことで得られた成果だと考えられる。週二回の指導を行うこ とで復習の間隔が狭くなり、支援児への定着ができたのだと考えられる。また、大学 施設実習では助詞を正しく使えていなかった際、気にする様子はみられなかったが、 学校実習においては、正しい助詞を使おうとする意識の高まりがみられ、それが正答 率を上げる結果につながったのだと思われる。構文能力は高まってきたが、名詞や述 語動詞に関する語彙不足が目立つようになったため、語彙を増やすための方法を考え る必要があると考えられた。 ②長期目標 2 「整数の四則演算ができる」について 【割り算筆算】全体的に商の立てにくさが最後まで解消されなかった。余りの無い割 り算を計算するときに見られる、被除数、除数の下一桁をもとに商を立てるという方 法に慣れているため、余りのある割り算については、見当違いな商を立てるというこ とがしばしば起きていた。 【文章題】全体として支援児は、文章題を処理していくときに加法で処理しようとす る傾向があるようであった。問題によってはきちんと正答までたどり着くことができ るものもあったが、加法のみで処理することにはやはり限界があるようで、しばしば 混乱する場面が見られた。 ③長期目標 3 「自分の思いを相手に伝えることができる」について 大学施設実習では、終りの感想を言う際、 「○○がおもしろかったです(楽しかった です)」と自分で言うことができ、また「自習時間におはじきをしたのが楽しかったで す」と長く感想を言うこともできるようになった。学校実習では、個別指導の司会進 行、指導後の感想などで自信を持って発表する姿が見られ、自分の思いを自発的に表 現できるようになった。 5)臨床教育実習に参加しての感想 高木公裕 一年間という長期に亘って、支援児と関わり合いを持つことができ、支援児が成長 する姿を垣間見ることができました。その中で、支援を必要とする子どもにどう寄り 添っていくのか、支援児をどう受け止めるべきなのかという信頼関係の構築が個別支 援において最も重要であると感じました。指導技術や指導計画の作成だけでなく、人 間対人間の関係性が基盤になってこそ、実践における教育的意義が見出せると思いま すし、その点が最も重要であると感じさせられました。また、一人の子どもにチーム 体制で支援するという組織の在り方についても、個別支援において、様々な観点から 子どもの実体にアプローチすることの必要性について考えさせられました。子どもの 良さを引き出すためにも、様々な観点から議論する必要があると感じますし、決め付 けは絶対に避けなければならないと感じました。 臨床教育実習に参加させていただき、自分自身の成長を肌身で感じさせられました。 とても感謝しています。ありがとうございました。 坂本みなみ 今回の実習で、その児童に合った適切な手立てをとりながら支援していくことの必 要性と難しさを学びました。支援を行いながら、私自身は学習の内容というよりも肯 定的な声かけやほめること、笑顔で接することを重視していました。そのことも少な からず彼女の自信につながったのではないかと感じました。また適切な支援のために は、十分なアセスメントが必要であるということ、またアセスメントした結果を活か すために柔軟な考え方をしていくことが大切であると感じました。この実習を一年間 継続して続けられたのは、チームで行った実習だったから、ということが大きいと思 います。私 1 人では、柔軟な発想はできなかったでしょうし、担当の先生やチーム内 外のメンバーとたくさんの話し合いを重ねることで、うまくいった部分が多いと思い ます。また毎週支援児に会って少しずつ成長していく様子を目の当たりにできたこと が大きな喜びでした。この実習に参加し、様々な経験ができてよかったと感じていま す。ご指導ありがとうございました。 中村理美 1 年間の Y さんとのかかわりを通して、たくさんのことを学ぶことができました。 いま目の前にいる子どもたちは何を必要とし、自分は何をしなければならないのか、 本当にこれでいいのだろうか、と試行錯誤しながらの実習でした。その中で、アセス メントを行うことの難しさを感じながら、その重要性を再確認するとともに、評価を 行いながら指導を積み重ねることの大切さを実感することができました。 私自身の一番の成長は、なぜできなかったのかを考える際、その理由が子ども自身 の能力にあるのではなく、指導者側の在り方にあると考えるようになったことだと思 います。今後も、アセスメントや評価を行うと共に、自分自身の行動や考え方、かか わり方を常に振り返りながら、子どもたちと関わっていきたいと思います。 1 年間スマイルルームの勉強を頑張った Y さん、様々な面で支えてくれた C チーム の天野さん、高木くん、坂本さん、石橋さん、そしてご指導いただいた園田先生に深 く感謝いたします。 9-4 不登校傾向の中学生への支援(Dチームの活動報告) 〔平成 19 年度 Dチームメンバー〕 中島悠介(教育学選修 4 年生) 山下佐代子(障害児教育選修 4 年生) 山下文彦(教育学研究科学校教育課程教育心理学コース 2 年 現職教員) 薗畑真人(教育学研究科学校教育課程教育心理学コース 2 年) 松下一世(チーム担当教員 教育学・教育心理学講座) 1)支援児の状況 (1)支援児について 【女児,中学 2 年生(2009 年現在)】 小学校 4 年より不登校傾向 現在は特別支援学級 知的障害児学級に在籍 学力状況 不登校傾向 特別支援学級 ・集中力がやや弱い。 ・小学校高学年から、友達と ・中学校から入級 ・文章読解が苦手。 うまくコミュニケーション ・ 少 人 数 学 級 に よ るき め細 ・自分の感情を言語 で 伝え とれない。 ることが苦手。 やかな指導 ・欠席は少ないが遅刻が多 い。 (2)現在の状況 通常学級の教室に入れない。 少人数学級でも友達とトラブルが多い。 (3)検査の結果 ○WISC-Ⅲ (実施日:2007.1.4) CA:12 歳 2 ヶ月 全検査 IQ(FIQ)63、言語性 IQ(VIQ)66、動作性 IQ(PIQ)68 言語理解(VC)68、知覚統合(PO)71、注意記憶(FD)73、処理速度(PS)80 ○LDI ・行動・社会性においてつまずきがみられる LDIプロフィール 3 2 3 点 … つ ま ず き あり 2 点 … つ ま ず きの 疑い 1 1 点 … つ ま ず きな し 0 聞く 話す 読む 書く 計算 推論 行動 社会性 ○ロールシャッハ・テスト(実施日:2008.1.7.) ・豊かな精神エネルギーがある一方、衝動的なところがある。 ・物事を部分的・具体的にとらえる傾向がある。 ・総合的・創造的にまとめることが苦手。 2)長期目標とその設定理由 (1)長期目標 1.自分の感情を見つめ直し,感情をコントロールすることができる。 2.他者との関係性を作るスキルを育てる。 3.全体の場でのリーダーシップを育てる。(大学施設実習) (2)設定理由 これまでの面談等から,支援児には社会性・行動面に課題があり,コミュニケーシ ョンスキルの弱さがみられた。よって,長期目標 1 では,感情トレーニング(自分の 気持ちを整理する,他者の心を考える),長期目標 2 では,コミュニケーションスキル (SST:Social Skill Training:ソーシャルスキルトレーニング,アサーショントレー ニング)を中心にした。さらに,今回の臨床教育実習の支援対象児の中で支援児が最 年長であったこと,また,支援児が成功体験を重ねて自尊感情を高めることができる ように全体の場で発言する場を設けたいということから長期目標 3 を設定した。 3)個別指導計画と指導内容 (1)大学施設実習 時期 内容 ①第 1 回(H19.10.13.)~ 感情トレーニング 第 5 回(H19.11.17.) ②第 6 回(H19.11.24.)~ 第 8 回(H19.12.8.) ③第 9 回(H19.12.15.)~ 第 10 回(H20.1.12.) ④第 11 回(H20.1.19.) (感情カード) コミュニケーションスキル(SST) (ロールプレイなど) コミュニケーションスキル(アサーション) (紙芝居の導入) コミュニケーションスキル(アサーションの応用) (紙芝居など) (2)学校実習 (ⅰ)学校実習体制 ・期間 平成 20 年 4 月 21 日~平成 20 年 7 月 14 日 ・体制 実習生として,中島と薗畑の 2 名 ・ 実施場所 特別支援学級 (ⅱ)研究授業について 担任 2 名 女児 4 名 原則毎週火曜日午前中 「アサーティブな言い方を学ぼう」というテーマを設定し,平成 20 年 7 月 14 日(月), 研究授業をおこなった。対象クラスは 支援児 が在籍する特別支援学級(女児 4 名)であっ た。 4)結果と考察 (1)大学施設実習 ○トレーニングにおける多様な学習方法の効果 (ⅰ)感情トレーニング 感情トレーニングでは,人の感情の中の 8 種類を取り上げた。顔のイラストカード を基に,感情の言語化を行い,その後,毎時間支援児が 2 種類のカードを選び,その 感情を想起する体験をワークシートに記入していった。チーム全体で体験を語り合う ことで,人によって感じ方や行動が様々あることを知ることができ,また他者の感情 や行動に支援児が共感する場合も多く見られた。 (ⅱ)コミュニケーションスキルトレーニング このトレーニングは,SST やアサーションを取り入れたものである。場面設定にな るストーリーは,支援児が体験したであろうできごとをチーム全体で考えていった。 ただし,直接的な体験に結びつくことは心理的ストレスがかかる可能性があったので, 性別を変えたり,出来事の内容を若干変更したりした。 自分の意に反する言葉かけを友だちからされたときの断り方,遊びの中で自分の楽 しさや悔しさの感情の表現は時として友だちの気持ちを離れさせること,自分の行動 にも理由や気持ちがあり,それを聞いていくことによって友だち関係が良好になるこ と,仲間はずれにされたときの対応策などを学んでいった。 (ⅲ)ロールプレイ 5 回目からは,場面設定をより明確にするためにロールプレイを取り入れた。口頭だ けでなく視覚的にも見せることで,場面をより理解しやすく,身近なものとして捉え られることにつながったのではないだろうか。 (ⅳ)紙芝居 9 回目からは紙芝居を取り入れた。この方法はさらに学習意欲を高める効果があった ように思われる。紙芝居は場面ごとの心情を後で振り返ることができ,心情の変化が 明確になるため,その場面に応じた登場人物の心情を言語化しやすくなったようであ る。 (ⅵ)学びの共同体 第 1 回目の個別指導では、一対一の授業形態をとった。支援児 は落ち着かず、離席が多 かった。そこで 2 回目からは、学生も共に作業をする学習形態“学びの共同体”を取り入 れた。この方法は、緊張感を緩和したり、他者との関わりをもったり、他者の意見にも耳 を傾け受け入れたりすることにおいて、とても効果的なものだった。この“学びの共同体” の中ではワークシートを使用し、 “自ら書く”作業を毎回入れた。最初の頃は、自分の気持 ちを整理できない、言葉で表現しづらいという場面も見られた。しかし回を重ねるごとに、 書くことによって自分の意見を整理し、表現することができるようになった。最後の頃に は、ワークシートがない場面でも自らノートを取り出し、自分の意見をまとめていた。 最初の頃は,視線を合わせることはあまりなかった。しかし,学習を重ねるごとに 全員がうまく意見を発表できるよう順番を考慮するなどといった配慮の様子がみられ た。さらに,自分でも認めたくないだろうと思われること(「私,いじめられっこだも ん」など)を自ら語る場面が増えた。徐々に信頼関係が築けていたことの結果である と思われる。この関係つくりには, “学びの共同体”を取り入れたこともよかったのか もしれない。学生側からの自己開示を行うことで,支援児も自らの体験を話しやすい 場がつくられていったのだと考えられる。 (ⅶ)支援児の自己認識、感情理解の変容 最初の頃は、 「私は、自分で自分の気持ちがわからなくなる」と言っていた。個別指 導で感情トレーニングの最初に 8 つの感情の理解と言語化を行ったときも、漠然とは つかめているものの、はっきりとその違いを認識しているわけではなかった。また、 わかっていても言語化できなかった感情があったり、その感情に即した自分の体験を 想起することが困難であったりした。初回に、その苦手意識の大きさと困難さが見え たため、2 回目からは支援児だけを対象に指導を展開していくのではなく、指導者以外 の教員、学生みんながともに授業に参加するというグループワークに切り替えた(=” 学びの共同体”)。 グループワークでは参加者全員が体験を語るため、他者の体験をきっかけに自分の 体験を想起し、さまざまな感情の理解が進められた(「こういうときに人は悲しくなる のか」「こういうときに人は寂しくなるのか」)。他者の体験や心情に自分を重ね、「私 もそんなことある」というつぶやきも多々見られた。 学習の中で支援児が多く語ったのは、 「友だちからのいじめ」と「先生から叱られた こと」であった。友だちにいじめられたことや先生に叱られた負の体験は、セルフエ スティームの低下へとつながってきたものと思われる。しかし、始めの頃は決して「自 分の体験」として語るのではなく、自分ではない「第三者の体験」として語ったり、 自分の話になりそうになると話を変えて辻褄が合わなくなったりしていた。ひとつの ことを話し始めると似たような体験が次から次へと想起されるのか、いくつかの体験 が入り混じり、いつの時の話をしているのか本人にも混乱が見られることがあった。 このような段階を経て、微妙な感情の違いや複雑な感情も理解できている発言が次 第に見られるようになった。 SSTに関しては、最初は、自分の気持ちだけで発言するが、ワークシートに書き 込む段階では、相手の気持ちも考えた対応を書き込むことができていた。アサーショ ンになると、支援児にとっては難しかったようだ。友達とトラブルが生じたり、怒り の感情が沸き起こるときは、今まで「自分ひとりで気持ちを落ち着かせる」努力をし てきた支援児にとって、相手との関係を修復するための解決策はあまり出てこなかっ た。しかし、他の人の意見を聞くことで「そういう解決方法があるのか」と感心した 様子で、真剣に聴き、そのことに自分の意見を重ねていくことができた。学習を通し て、支援児自身が深く自分をみつめ、そこから立ち上がろうとしていく強さを感じた。 それは、学習中のひとりひとりへの細やかな心遣いや配慮の言葉かけ、休憩時間や全 体活動での年下の子への言葉かけなどにも、人との関係を大切に思う行動として表れ ていた。 (2)学校実習 (ⅰ)支援の様子とサポート 学校実習は毎週火曜日に特別支援学級(女児 4 名、担任 2 名)において実施した。 実習生として支援児の観察や授業にでることができない場合に別教室で一緒に話をし たり勉強をしたりして心の安定に寄与した。支援児は担任の先生をはじめとして養護 教諭、司書教諭に悩みをうちあけるなど信頼関係を築くことができていた。また、友 だちとの関係は概ね良好であるが、昨年まで仲が良かった友だちが卒業してしまい、 同年代の友だちとはトラブルが多いようであった。支援児自身も頭では理解できてい るものの、そうできない自分にいらだちを感じていた。さらに、授業に出られないこ とに対して,特別支援学級の友だちなどから“わがまま” “サボり”と思われてしまう ことが増え,特別支援学級での授業にも出られないことが増えてきた。保健室にいる ことが多くなった。 支援児が授業に出られないという状況に対して,学校側では通常学級での授業数を 減らし,さらに特別支援学級での授業も減らし、個別指導という形態を増やした。特 別支援学級の生徒たちともいったん距離を置いた。これには,調子が悪い時に無理に 一緒にいて,さらに失敗体験をしてしまうことを回避するという意図があった。また, 授業時間に廊下をうろうろすることもあったので,誰か先生がついていられるように 時間割を組み直して対応した。 (ⅱ)支援児の対人関係 スマイルルームでは大人との関わりや自分より年下の子どもとの関わりが多かった こともあり、友好な関係を築けていた。学校では自分と同年代の子どもと接する機会 が多く、同年代の子どもとコミュニケーションをはかることは困難のようであった。 特に通常学級では周りの目線が気になり、常に緊張しているような状態になっていた。 一方、特別支援学級では自分が安心して過ごせる場所であるので、緊張から開放され たようにリラックスして過ごせることから、同年代の子どもとも関わりやすいようで ある。しかし、学校でも大人との関わりをもつことが多く、休み時間などは担任の先 生について行ったり、保健室や図書室に行って過ごしたりすることが多かった。大人 は自分のことを理解してくれるし、認めてくれるので周囲の友だちよりも安心して話 をできるようである。特別支援学級でも同年代の子どもと関わりはあるものの、自分 からは積極的に関わろうとする場面はあまりみられなかった。特別支援学級の年下の 子どもにはスマイルルーム同様、優しい声かけや年上らしい態度がみられたことから、 関係を築くことを困難としているのは同年代の子どもだけのようにも感じられる。 また、自分の調子が悪いときに周囲の友だちと衝突することがあり、そのことをあ とで後悔してしまうようなことがあった。そのようなことがきっかけで、相手は自分 のことを嫌いになってしまった、自分のことを受け入れてもらえないと感じてしまい、 同年代の子どもと関係を築くことに消極的になってしまう。また、相手も自分の素直 な気持ちを言えないままになってしまう。 そこで、学校実習のまとめとしてアサーショントレーニングを取り入れた研究授業 を行った。相手の気持ちを考え、自分の気持ちを言うことは誰にとっても難しいこと ではあるが、このような言い方があることに気づいてほしいと考えたためである。こ の授業を通して感じたことや気づいたことを普段の学校生活の中において少しずつで いいから活かしてほしいと考えた。 5)臨床教育実習に参加しての感想 中島悠介 大学施設実習では、主に支援児の個別指導を担当した。個別指導で用いた授業形態 “学びの共同体”は支援児にとって有効な手段であったのと同時に授業者にとって有 効でした。チームで考え、助け合いながら指導していくことで、自分 1 人では気づく ことのできない視点で考えることができ、また、観察の仕方やアプローチの仕方を学 び、学校実習につなげることができた。 学校実習では、臨機応変に対応することの難しさを実感し、その場での対応が本当 に子どもにとって適切であるのか、と疑問に思ったことも多々ありました。しかし、 それでも担任の関わり方をみるうちに少しずつ自分も行動にうつすことができるよう になった。大切なのは子どもと正面から向き合い、信頼関係を築くことであり、その 子どもにあった関わり方を見つけることであると気づいた。また、先生同志の連携の 大切さも改めて実感した。 薗畑真人 臨床教育実習では、常に臨機応変な対応が求められ、またいつも同じ手立てをとれ ば上手にいくというわけではない難しさがあった。しかし、何が子どもたちのために なるのか考えた。未だに答えは見つからないが、それでも考え続けたいと思う。一方 で、教職というものについても改めて考える機会になった。私は、教えるのではなく 伝えたい。伸びるのは子どもたち自身であり、私たちができるのは、そのお手伝いな のではないか。みんなのもっているタネが、芽を出し伸びていけるように。そういっ た手立てを準備しサポートすることが役目なのではないだろうか。子どもたちが、あ る時不意にできるようになっていることに気付いた瞬間があった。それを感じるほど に、自分の役割があくまでお手伝いなのだと知る。臨床教育実習に参加させて頂いて、 たくさんの方々とのつながりができた。子どもたちのいろいろな表情にも出会うこと ができた。また、教職というものについても改めて考える機会に巡り会えた。私が臨 床教育実習に参加させて頂いて学んだかけがえのないことだと思う。 最後に、子どもたちや先生方、一緒に実習に取り組んだ仲間たちに、感謝の意を表し たいと思います。ありがとうございました。 10.平成 20 年度実習報告 平成 20 年度の臨床教育実習4チームの実習生による活動のまとめを以 下掲載する。 平成 20 年度実習生は 17 名であった。 学校教育課程(学部) 学校教育専攻 (大学院) 教育 教育 障害 教育 教育 障害 学 選 心理 児 教 学コー 心理 児教 修 学選 育選 ス 学コー 育コー 修 修 ス ス 1年生 - - - 1 2(2) 3(2) 2年生 - - - 0 0 0 3年生 3 4 3 - - - 4年生 0 1 0 - - - 小計 3 5 3 1 2(2) 3(2) 合計 17 名(4) 男性 7 名 女性 10 名 注: ( )内は現職教員院生 内数 ※実習報告は、支援児の保護者に予めご覧いただき、掲載した。 10-1 書字困難など学習に困難のある児童の支援(Aチームの活動報告) 〔平成 20 年度 A チームメンバー〕 藤原祐次郎( 教育学選修3 年生) 柴田真知子( 障害児教育選修3 年生) 刀根有紀( 障害児教育選修3 年生) 副島輝史(教育学研究科学校教育課程 教育心理学コース1年生 池田行伸(チーム担当教員 現職教員 ) 教育学・教育心理学講座) 1) 支援児の状況 小学校4年生の男児。専門医の診察を受け,薬物の処方を受けている。主訴として, 書字の困難,文章の読み間違いを含め学習全般の遅れが挙げられた。本人や家族の願 いも「勉強ができるようになりたい」であった。 アセスメントには WISC-Ⅲ,LDI の結果を用いた。2007 年7月実施の WISC-Ⅲでは, 言語性 IQ89,動作性 IQ78,全検査 IQ82 であった。下位検査項目では積木模様(5), 組合せ(3)において評価点が低く,空間認知能力が低いことが考えられた。2008 年8 月実施の LDI では判定C型で「LD の可能性はある」という判定が出た。 担任より学校での様子を聞くと,離席はないが全般的な学習の遅れが見られること, 近くの友達に注意が向いてしまうことなどが報告された。また,学習については,字 形が崩れる,漢字を覚えるのが苦手,算数が苦手で特に文章題ができないことなども 報告された。 2)指導仮説について 長期目標の1つを「文字(読む,書く)に対する抵抗感や困難さが少なくなる」と した。それは,文字に対する抵抗や困難さが大きいと学習内容の理解が難しい面があ るからである。まず,遊戯などを通して視覚運動能力を高め,さらに空間認知能力が 高まるように指導していきたいと考えた。そうすることにより,文字に対する抵抗感 や困難さが軽減され,学習内容の理解につながるのではないかと考えた。 3)個別指導計画と指導内容(施設実習) (1)長期目標1「空間認知能力を高める」について 第 1 ステージでは、まねっこ遊びやブロック遊びを通して、支援児の空間認知能力 がどの程度であるかを知ることとした。体を使ったまねっこはできたが、図形をまね て描くことはできなかった。このことから、書字困難の原因が空間認知能力の低さに あるのではないかと考え、第 2 ステージから、それを高める支援を取り入れることと した。 第 2 ステージでは、パズルやブロックの模倣を通して空間認知能力を高めることと した。パズルは、ピースの数が増えると多少時間はかかったものの、色や形をヒント に作ることができていた。また、ブロックの模倣も、こちらがモデルとして提示した 形を模倣することができた。このことから、支援児はこちらが予想していたよりも空 間認知能力は低くなく、初めてみた漢字や文章を書き写すなどの学習時に困難を与え るほどではないと考えた。 また、学校の通級指導教室である「ことばの教室」でも、パズルなどを用いて訓練 しているようであった。さらに、WISC-Ⅲの検査からスマイルルーム開始までに期間 があり、その間にも空間認知能力が高まっていたと考えられるので、空間認知能力を 高める指導は、第 2 ステージで終了した。 第 3 ステージからは、 「勉強や遊びにおいて、達成感を持たせることで注意力を高め る」と短期目標を設定して指導にあたった。課題の提示方法を1枚に1問とし、枚数 を多く解かせることで達成を感じやすくしたことや、 「約束」を作成し、守ることがで きたらシールを貼るなどして学習意欲を高める方法をとった。その結果、達成感を感 じ意欲も持続し、学習時の行動にも落ち着きが見られ、注意力も高まってきたように 思えた。このことから、達成感を感じることができれば、学習にも抵抗を持たずに取 り組むことができ、集中し落ち着いて学習に取り組むことができることが示唆された。 (2)長期目標2「文章の視写ができる」「書字の抵抗感が少なくなる」ついて 第 1 ステージを、どの程度の書字能力があるのか、読字、書字に抵抗感があるかな どを見るアセスメントの期間とした。その結果、読みの際に、文章の語尾を間違える、 文章の内容を理解できていない、書字(特に漢字)に対する抵抗感があることが課題と して見えてきた。また、文末の読み間違いへの支援方法として、蛍光ペンで印をつけ ることが有効であると示唆された。 それらを踏まえて、第 2 ステージでは短期目標を「文中の単語をイメージしながら 読むことができる」とし、学年相応の教科書や書写のための文章の文末を蛍光ペンで 目立つようにした上で、文節ごとに区切りながら読み、それを視写をさせる、写真を 用いて内容理解を促進させるなどの支援を行った。文節に区切りながら視写を行うと、 初めて見た漢字なども正確に書くことができた。しかし、文節の途中で区切る場面が 見られたこと、一字一字書き写している様子であったことなどから、文字をまとまり として見ることができないのではないかと思われた。その原因として、用いた教材の 内容が支援児にとって意味が捉えにくいものであったことが考えられた。意味理解な しに、まるでただ字形を写していただけのように感じた。 そのため、第 3 ステージでは、第2ステージと同じ短期目標と方法を設定したが、 内容や単語を親しみやすいものにし、理解しやすい文章を用いて支援を行った。また、 学習の最後に、自由に感想文を書かせ、書字に対する抵抗感を軽減させようと試みた。 その結果、単語ごとに視写できるようになったことから、読み書きの際に単語をイメ ージすることができるようになったと感じた。また、感想文においても、自ら紙一杯 に書くなど楽しく行っているようすであった。これは、支援児にとって身近なことや 興味があるものを教材として使うことでイメージしやすく、抵抗が軽減し、学習意欲 が高まり、理解も深まったことを意味するものであると思う。 (3) 長期目標3 「算数の学習への抵抗を軽減する」について 第 2 ステージでは、割り算筆算で、数を立てる位置の誤りと、除数が被除数にいくつは いるかを予測できないために正確な答えを導き出すまでに何度も消しゴムで消す作業を繰 り返す失敗体験の積み重なりが問題であると考えた。それをふまえて短期目標を「割り算 の筆算の方法を知る」とし、下記のように筆算の順番を明確にし、表を用いる計算の方法 を提案した。これにより、改善が見られた。数を立てる位置については「たてる」、「かけ る」、「ひく」、「おろす」を表示し、筆算の順番を明確にしたことで1つひとつの作業の意 味が明らかになった(図1参照)。このことで改善が見られたものと思われる。また、表を 用いることで正確な解答が得られるようになっただけでなく、消しゴムを使う回数を大き く減らすことができストレスを軽減できた。こうした成功体験の繰り返しが本人の自信と 学習意欲につながり、提案した筆算の解き方が定着した。ただし、いったん獲得されたこ の方法が長期間保持されるかどうかは分からない。継続して経過を観察する必要がある。 図1.提案した計算の方法 第 3 ステージでは、短期目標Ⅰ「割り算の筆算の解き方を定着させることができる」、 Ⅱ「算数の文章題を文章と数字を統合させて考えることができる」という目標のもと、提 案した筆算の解き方が定着するよう達成感を重視した教材で繰り返し解かせること、文章 題については絵を用いた指導、またその解答の過程について本人に説明させることでつま ずいている点を明らかにし、アセスメントを行いながら指導計画を立てていくことができ るようにした。教材は、小学校低学年相当の問題を用いた。支援児の傾向としては、問題 文の内容に関係なく数字を組み合わせて解答することが誤答の原因であると考えた。そこ で、解答の過程を説明させた。このことで、指導者側だけでなく本人もその解答が不正解 であることが自覚できると考えられた。また「解答した後に説明しなければならない」と いう意識が問題文を理解しようとする意欲にもつながったと考えられた。しかし、指導に 絵を用いただけでは理解できていないようすが見られることがあったので、今後は具体物 の操作を通して、内容をイメージさせながら指導していくことが必要であることが分かっ た。 4)支援児の行動面の変容について。 スマイルルームが始まってしばらくすると、学習中うまくいかないと集中力が途切れ、 立ち上がったり途中で活動を終わらせようとしたりする様子も目立った。しかし、第 3 ス テージ以降は離席がなくなったり、正解するごとに嬉しそうに支援者全員にハイタッチを 求めたりする姿が見られるようになった。また、グループ学習が終わると自ら進んで片づ けをする姿も見られるようになった。これは、学習内容や提示方法を、達成感を重視した ものにする、学習時の約束を作成するなどしたことでそれを意識し、学習に達成感を持ち、 学習意欲が継続したと考えられる。また、全体活動においても熱中するとルールを無視し て自分中心になる様子も見られたが、学習時と同様に全体活動においても「約束」を作成 すると、 「約束」を意識して行動できるようになり、話を集中して聞き、集合も素早くでき るようになるなど、社会生活の場としての態度形成もできたと考えられる。 5)今後の課題について 文章題については、先に述べたように絵だけの支援では十分なイメージを持つことがで きないようすであったため、問題として出す数字を小さくし、具体物を操作させながら、 文章の内容と式を関連させる支援が必要であると考えている。また、学校実習を行うにあ たり、スマイルルームでの取り組みと成果を学校側にしっかりと伝え、十分な話し合いを 持ちながら他の児童との学習面などにおける差を、どのような支援で埋めていくか考えて いく必要がある。スマイルルームでは、支援児1人に対して4名の支援者がついていた。 どのような場面でも少なくとも1名の支援者はついていた。しかも支援者は支援児を肯定 的に見守っていた。このような中で支援児は心地よく活動できたと思える。学校では1人 の担任のもとに多くの児童や生徒がいる。このような状況の中で学力の差、行動の問題を 抱える支援児をどのように支援するかは学校とよく協議して検討する必要がある。 6)臨床教育実習に参加しての感想 藤原 祐次郎 スマイルルームに参加して、発達障害がある子と接することができ、また、勉強を教 えることができたのはとても良い経験になったと思う。私は特別支援の勉強を以前からし ており、知識や接し方の方法は知っていたが実践の経験がなかったので、今回の経験で難 しさを体験することができ、支援の方法も知識だけでは不十分で、アセスメントをして支 援児に必要な支援を見つけ出していくことが大切だと気づくことができた。そのおかげで、 支援が必要な子だけでなく、多くの子どもと接する方法や学習の方法のレパートリーが増 えたので、今後に活かしていきたいと思う。しかし、まだ個別学習のみの支援しかしてお らず、多人数学習時の支援児の様子・問題点などが見えていないので、学校での支援を知 ることも必要と感じた。来年の学校実習に行くかはわからないが、もし行くこととなった ら、学校・保護者・私たちの連携をしっかりさせることを意識して取り組みたい。 柴田 真知子 私は今まで、特別支援教育について様々な講義を受けて知識を得たり、ボランティア等 で触れあう機会はあった。しかし、実際に障害を持った児童の支援を行ったことがなく、 臨床教育実習が始まるまでは、初めてのことばかりで不安も多かった。まずは、アセスメ ントでその子についてよく理解することが大切であると感じた。そのためには保護者や学 校などとの連携が不可欠であった。それを踏まえて、個別の指導計画作成し、先生方から も意見をいただきながらチームで協力して具体的支援方法を試行錯誤しながら考えていっ た。その子についてよく知ること、そして、その子が何を必要としているのかを明確にし、 その子に合った支援をしてくことが重要なことなのだと感じた。また、カンファレンスな どでの振り返り、評価を行いながらの指導の大切さを感じた。この経験を活かして、今後 も障害をもった子どもたちと向き合いながら特別支援教育に関わっていきたいと思う。 刀根 有紀 学習支援といえば、決まった方法を支援児に教授していくというイメージをもっていた。 しかし、今回の臨床教育実習では、1人の支援児について一定期間を通してアセスメント をしつづけながら長期目標達成に向けて短期目標を設定し、支援児が今一番必要としてい ること、それを獲得するために必要な指導を検討した。これにより、ひとりひとりに合っ た指導の重要性を強く再認識することができたことがこの実習の一番の成果ではないかと 考えている。また、教授や現職教員と学生がチームとなり取り組むことで、高度な専門的 知識や経験知が加わった様々な目線から指導方針について検討することができ、そこから 多くの学びを得た。教職を志すにあたり、この臨床教育実習での貴重な経験を生かしひと りひとりに合った指導法を検討していきたい。 副島 輝史 「臨床教育実習というものがありますが,参加しませんか」ということばにすぐ反応し て希望することを決めた。それは,新しい子どもと出会うことができること,そしてチー ムとして取り組むことができることが一番の理由であった。 Aチームは担当の教授,学部の学生3名,そして私,合わせて5名のチームで支援を行 っていった。事前の打ち合わせから,支援,様子観察,事後の検討まで,それぞれの立場 で意見を出し合って支援方法の検討を行うことができ,とても有意義な時間をもつことが できた。スマイルルームでは,支援児と一緒にふれあう中で支援児の変容を見ることがで きた。また,学部学生の支援の仕方は現職教員としても参考になることが多かった。 今回の実習を通して,チームを組んで支援を行う重要性をあらためて実感した。学校現 場でもチームによる取組を一層充実しなければならないと強く感じさせられた。 10-2. 感情理解とコントロール及び基礎学力の習得に困難のある男児への支援 (Bチーム活動報告) 〔平成20年度 Bチームメンバー〕 江越瑛子(教育心理学選修 3 年) 大塚翔史(教育心理学選修 3 年) 城野真妃(障害児教育選修 3 年) 入井淑圓(教育学研究科学校教育課程障害児教育コース 1 年、現職教員) 平谷孝輔(教育学研究科学校教育課程障害児教育コース 1 年) 網谷綾香(チーム担当教員 教育実践総合センター) 1)支援児の状況 小 5 男児。祖父母、両親、姉、本児の 6 人家族。幼少時、保育園の勧めで総合福祉センタ ーへ相談。小 2 年時、授業中に教室を抜け出し校庭で遊ぶなどの行動があり、学校の勧めで教 育センターに相談。いずれの相談時も、想像力が豊かで、心配するほどの所見はないとの助言 を受けている。小 4 時、学校生活にうまく適応できない状況が増える。3 学期、小児科受診。 本児は、学校生活において、年下の児童の面倒をよくみたり、クラスでの役割を自ら行 おうとしたりする積極性が見られる。しかし、「3 階の窓から落ちるふりをした」「授業中 にうろうろ立ち歩く」「カッとなって同級生に手や足がでる」など衝動的で不適切な言動、 「正しいことを言っても他の子に相手にされない」 「自分の係以外を横取りしてしまい、ト ラブルを誘発する」など対人関係における難しさが観察される状況がある。 読み書きに関しては、「ひらがなとカタカナは、拾い読みができる」「ひらがなカタカナ 交じりで、簡単な物の名前は書くことができる」「漢字の読み書きは難しい」「硬筆では、 ゆっくり時間をかけ書き写しができるようになってきた」 「毛筆は比較的好き」という実態 がある。「計算」に関しては、「繰り上がりのない足し算と繰り下がりのない引き算ができ る」 「かけ算の九九は知っている」 「具体物を使う指導を必要としている」 「かけ算や割り算 の意味はあいまい」という実態である。また、「人前での発表は好む」が、「ノート活用状 況や活動参加状況(意欲、態度)も含めた基礎学力の習得そのものが全体的に厳しい」と いう実態も確認されている。なお、本児の興味関心等に関する情報収集を繰り返し行った が、本児ならびに保護者や学校側、それぞれの情報が一致しにくく、文脈や人が変わると 言動が変わりやすいことが観察されている。 2)長期目標とその設定理由 ① 感情を自分でコントロールする方法を身につける。 ② 場面に応じた簡単な言葉を使って、自分の気持ちを相手に伝える方法を身につける。 ③ 足し算、引き算、かけ算の考え方を理解する。 【設定理由】 ①衝動的で不適切な言動や対人関係のトラブルが多く観察される背景として、本児の理解 力の未熟さや自己肯定感の低さがあると考えられる。そこで、自他の感情理解、状況理解 などに関する課題を用意し、それらを組みあわせながら、感情や状況を理解する力と自己 肯定感を育てる指導をめざしたい。自分の感情を意識しコントロールする方法を学ぶ場の 設定は、段階的に活動全体を通して行い、長期的には学校生活などの実際場面での活用に つなげることをめざしたい。 ②アセスメントの結果、読み書きに関する基礎的学力の未習得状態にあり、伴って低い自 己肯定感、弱い学習意欲、不注意の状態にあると考えられた。さらに、本来は対人関係を 円滑にするための気持ちや状況を表す言葉の意味理解や表現が弱いことが、不適切な言動 を助長していることも考えられる。そこで、本児の興味関心を誘い、理解しやすいような 具体的で簡単な言葉や場面を設定し、学校や家庭と情報交換をしながら、ロールプレイな どを行い、本児自身の言葉による感情表現や状況説明の機会を用意し、伝える方法を学べ るように努めたい。 ③本児は、「算数はしたくない」「わり算はしたくない」といった苦手意識を持つ。また、 「足し算、引き算、かけ算はできる」という言葉で自己認知状態を表したが、アセスメン トの結果からは、足し算や引き算をはじめ計算に関する基礎的学力は未習得状態にあると 考えられる。伴って弱い学習意欲や短い注意集中の維持、弱い自己肯定感なども考えられ る。本児の興味関心を誘うゲーム的課題を設定し、具体物の提示や操作を通し、足し算、 引き算の概念を確認し理解することから始め、かけ算の概念を身につけることまで段階的 に取り組みたい。 3)個別指導計画と指導内容(大学施設実習) 先に示した長期目標①②を「感情・気持ち言葉」のセクション、③を「計算」のセクシ ョンとして第 1~3 各ステージでそれぞれの短期目標を設定した。 ◆「感情・気持ち言葉」各ステージでの短期目標と指導内容 【第 1 ステージ】 ⅰ)自分の感情について確認し、簡単な言葉やイラストで表現する事ができる。 ⅱ)言葉の学習を楽しみながら取り組む事ができる。先生たちに自分から挨拶ができる。 指導内容:感情表現の言葉カード(気持ち言葉カード)と表情カードのマッチング、ひら がな・カタカナ・漢字交じり言葉の学習 【第 2 ステージ】 ⅰ)場面ごとに自分の感情を理解し「言葉」で表現することができる。 ⅱ)言葉の「読み」や「意味」について学び、身につけることができる。 指導内容:感情表現の言葉カード(気持ち言葉カード)と表情カードのマッチング、場面・ 状況に応じた感情表現の学習(イラストで場面を提示、その場面で感じる気持ちを書く)、 全体活動での声かけ 【第 3 ステージ】 ⅰ)活動の中で感情が高ぶった時にその感情を自分で意識し対処法をとることができる。 ⅱ)気持ち言葉の意味理解を深めるためその度合いを知り、それに応じた言葉を学ぶ。 指導内容:気持ち温度計による深い自己感情の理解(うれしい、イライラ)、ロールプレ イによるイライラの対処法の学習、全体活動での声かけ、スマイルポイント制導入 ◆「計算」各ステージでの短期目標と指導内容 【第 1 ステージ】 足し算・引き算・掛け算の能力と計算の概念理解のベースラインを見つける。 指導内容:足し算・引き算・かけ算のカードゲーム 【第 2 ステージ】 具体物を使ったゲームを通して、繰り上がりのある足し算ができるようになる。くり下 がりのある引き算ができるようになる。 指導内容:足し算(繰り上がり含む)・引き算のカードゲーム 【第 3 ステージ】 計算のための基本概念としての 5・10 のまとまりを理解する。(また、引き続きアセス メントを実施する。) 指導内容:繰り上がり・繰り下がりを含む計算プリント(実習生も支援児と共に解く) 4)結果と考察 ◆「感情・気持ち言葉」について 第 1 ステージでの気持ち言葉のマッチング学習では、 「うれしい」 「かなしい」などの単 純な感情表現のマッチングは可能であったが、「あんしん」「こまった」などの多少複雑で ある感情表現においては戸惑いが見られた。また、答えに自信がないと声が小さくなる、 「書く」作業であれば手元を隠しながら書くといった行動が観察された。これらのことよ り、支援児がマッチングに戸惑った気持ち言葉はその言葉自体の意味理解をしていなかっ た可能性があること、さらに自分の答えに対する自信の無さや書字に対する抵抗感が大き いということが分かった。そのため、第 2 ステージでは支援児がより多くの感情表現を知 り、自分が今どのような気持ちであるのかを考えたり、後に振り返ったりできるようにす ることを目標とした。複雑な感情については写真や文脈を用いてその意味理解を促した。 また、体育館での全体活動の時間になると空間的にも精神的にも気持ちのコントロールが しにくくなるために、なかなか言葉が出てこずに実習生を叩いたり、命令口調で指示をし たりという行動が見られた。そのため、全体活動時でも実習生が気持ち言葉を意識的に使 い、支援児にも尋ねるようにした。 第 2 ステージではこちらが提示した各場面の気持ち言葉を答えることができていたため、 気持ち言葉の意味理解は成果が上がってきたと考えられた。しかしながら、全体活動の時 間になり感情が高ぶると、他のチームの支援児へ不適切な発言をする様子が観察された。 状況・文脈から判断した結果、不適切行動の誘導要因として「イライラ」が考えられたが、 支援児自身がその感情を理解している様子ではなかった。 そこで第 3 ステージでは自己感情の理解を主眼とし、ロールプレイや気持ち温度計で支 援児自身の感情体験を測るというようなより具体的な活動を行った。また、イライラ対処 法は支援児自身で思いつくことが困難であったため、支援者よりいくつか提案し、ロール プレイを行った。 第 3 ステージの全体活動では、集団の輪を乱すような不適切行動は減少した。その原因 として、ルール・約束を守れるとポイントアップしていくスマイルポイント制による小さ な成功体験の積み重ね、また他者から認められる場面を支援者が多く設けたことにより、 感情が高ぶる場面が減少したことが考えられる。対処法については自分で様々試してみて、 適したものを選んでいた。しかし、それが実生活のなかで効果的に働いている段階ではな いため、今後は実生活への対処法の適用を中心とした支援が必要である。 ◆「計算」について 第 1 ステージでは、支援児の学習意欲を保つため、計算をカードゲーム化し、まずは実 態把握を行った。その結果、繰り上がりのある足し算には困難がみられた。引き算も同様 に机の下で他からは見えないようにして、指を使って計算する場面が観察された。そこで、 第 2 ステージでは学習意欲を削ぐことが無いよう、支援児のレベルに合うであろう足し 算・引き算の指導から入ることとした。第 2 ステージでは繰り上がりの足し算を具体物操 作によって計算した。しかし「10 の塊 1 つと 5 の塊 1 つでいくつ?」という質問に対し て「30」と答えたことから、数のまとまりの概念理解へのアセスメントがさらに必要であ ると判断した。よって第 3 ステージでは引き続きアセスメントを含めた指導を行った。計 算方法は具体物操作から、1 枚のプリントに 1 問の計算問題を載せておき、一斉に解くと いう方法へと移行した。答え合わせの際に教育用ブロックを使用し、まとまりを意識させ るようにした。結果、「5+5」に時間がかかっていたことから考えると、数のまとまりを 理解しているとは言い難い。しかし計算の数をこなしたことや、正解するとスマイルポイ ントを与えたことなどが支援児の計算に対する自信となった。当初「勉強はやりたくない」 と言っていた支援児が、最終日に今後やってみたいこととして「かけ算・わり算」と書い ていたことからも、支援児の学習意欲の高まりを感じることができた。 5)臨床教育実習に参加しての感想 江越 瑛子 今回 5 人の実習生で 1 人の子どもを支援できる贅沢な実習環境であったからこそ、多く のことに気付くことができました。私自身、1 人の子どもについてたくさんの人と真剣に 考え、活動することで、子どもに対する感じ方、接し方などの違いを知ることができ、学 ぶことが多かったように思います。また、自分が授業を行う回以外でも授業作りに関わる ことで、全ての回の授業内容を把握でき、その上で観察、活動することで、子どもの姿を しっかり知ることができました。子どもの行動、言動から心の中まで考え抜くことを続け ることで、先生として上からではなく、同じ目線になって指導することも少しだけできた かなと思います。実際の教育現場に行くと、今回支援したような子どもをたくさんの児童 とともに教育していかなくてはならず、実習のように1人の子どもについて考え抜く時間 はないかもしれません。それでも、考え抜こうとする気持ちを持ち続けて、これからもた くさんの子どもと関わっていきたいと思います。 大塚 翔史 私はこの臨床教育実習に参加して非常に多くのことを学ぶことができた。一番は連携の 大切さである。チームで一人の支援児に対してアセスメントし、その子に合った指導方法 を作り、毎回の指導後に振り返りまた新しい指導方法を作り直す。これを一人で行うには かなりの時間と労力を費やし、ましてや学級担任であったらなおさら他の仕事もあるので 費やす時間が少なく、支援児に対しての指導になかなか手が行きとどかないはずである。 また、チームで行うことによって支援児を多面的に見ることができ、それぞれの実習生の 視点で有意義な話し合いもできる。見えなかった部分が見えるようになり指導も支援児の 様子もより明確になる。今回の臨床教育実習で特別支援に対して一人の支援児に対して専 門知識を持った人が継続して関わることも大切だが、新しい視点で多くの意見を取り入れ ながら支援していくことも大切であることを学び、今後につながるものとなった。これか らは、臨床教育実習で学んだことを活かしながら、教育に携わっていきたい。 城野 真妃 この実習が他に誇れることと言えばやはり、関係する人たち全員が「繋がり合う」とい うことを大切にしている点であると思う。毎回の実習後の各チームでのミーティングでは チーム内での繋がり、ステージ終了後の合同カンファレンスではチーム同士での繋がり、 また指導につまずいたときには気軽に平成19年度生の方々に相談し、そこで前年度生と の繋がり、その他にも支援児の家庭・学校との繋がり、他機関との繋がりなどなど、1人 の支援児を通して私はたくさんの人と「繋がり合う」ことができた。 特に、授業以外で接 することができなかったであろう他選修の先生や、現職教員の方と一緒に取り組むことに より他で学ぶことのできない、より実践的な「教育」というものに触れることができた。 大変、有意義な経験ができたことに感謝しています。このプロジェクトがこの先10年、 20年と続けば素敵だと思うので続きますように。 入井 淑圓 支援児講座等々一連のプログラム、PDCA サイクルによる実習プロセスは、緊張感を伴う 苦しくも楽しい時間でした。複数の視点による客観的なアセスメント(教育評価)やチー ムアプローチ等の困難と素晴らしさを改めて思います。どのような教育環境、学校組織に おいても、教育的ニーズに応じ、多面的なチームレベルによる教育支援を組み合わせて取 り組む役割が、特殊教育と通常の教育を包括する概念としての特別支援教育に求められて いると考えますと、マネージメントやコーディネート、ファシリテーションといった様々 な関係性を高めるスキル獲得の基礎となる観察力(アセスメント)と相互交流の力(コミ ュニケーション)を磨くことが、さらに重要になると感じます。子どもや大人の人生や命 を左右する創造的な仕事=教育に係る人材育成という重要な場に参加させていただき、省 察できたことを深く感謝しています。 平谷 孝輔 「何とかこなせるだろう」。この考えはとても甘かった。今年度で 2 回目を迎えた臨床 教育実習。開始当初は何もわからず、受け身の実習であった。気持ちの変化があらわれた のは、私が本児に対し初めて「先生」として立った瞬間だった。授業中の本児の生き生き とした表情を見た時、自分の先生としての自覚のなさと、力のなさを痛感させられた。「本 児の力になりたい。」この気持ちの変化が私を臨床教育実習の虜にしたのではないか。 今、本児に聞きたい。活動は楽しかったかな?思い出はできたかな?たくさんの笑顔を 作ることができたかな?私は本児にとって一人の先生となれていたのかな?終わってみて 考えると本児のおかげで私達も成長できた。本児主体の活動を行うために役割分担し、任 せられた仕事を確実に行わなければならないという責任感を持ちチームとしてアプローチ できたことが私達の成長の証である。最後になったがこの場を借りて本児へ一言伝えたい。 「本当にありがとう。」 10-3 言語面と行動面に課題のある小1児童への支援(Cチーム活動報告) 〔平成20年度 Cチームメンバー〕 井手恭敬(教育学選修3年生) 佐藤 祐(教育学選修3年生) 高柳美佳(教育心理学選修3年生) 平川まゆみ(教育学研究科学校教育専攻障害児教育コース1年生 中村理美(教育学研究科学校教育課程教育学コース1年生 園田貴章(チーム担当教員 1)支援児(C 児)の状況 性別(男子) 現職教員) 平成 19 年度経験) 教育実践総合センター) (アセスメントシートより一部抜粋) 年齢(6) 学年(小学校1年生) (1)全体的状況 ① 主訴 ・言語面の発達、行動に課題がある。 ②家族構成と家族の状況 ・父、母、兄(小5)、本人 ③生育歴 ・人見知りをしなかった。 ・母親は ADHD ではないかと思うことがあった(兄の授業参観時に教室のいろいろなも のに興味を持って「あれ何?」としきりに聞いたりしたことや、目に入るものに注意を 引かれやすかった)。 ④教育歴/相談歴 ・2 才半の時託児所から発達の遅れを指摘される。市の言葉の教室に相談。 ・3 歳よりK園に通所。 ・S学園に相談。集中力が弱いと指摘され、学校生活に不安感じる。 ・平成 20 年 3 月K大学受診。 ・S大より診断を受ける。 ・5 月より発達障害児の会に入る。太田ステージ検査で読み書きLDの指摘。 ⑤学校・学級での状況 ・国語と算数は特別支援学級で個別指導 。他の授業は在籍学級で。 ・特別支援学級では6月より産休のため担任が替わったが、学級担任と支援員の先生の個 別指導で集中して学習している。 ・在籍学級では、支援員を頼って活動する。友達もよく手を貸している。指示はある程度 理解している。できそうなことでも支援員を頼ることがある。 ・ゲーム等で負けると教室を出ていくことがある。(支援員が対応している) ・休み時間は同じ保育園の友達と遊具で遊ぶ。滑り台が好き。よく声をかけてもらってい る。同じ保育園でない子は「知らない子」。限られた友達にしか関心がなく、人を意識 する事がない。 ・黙って聞く授業は苦手。 ・関心が向かないと、話を聞かず、支援員と話していることがある。支援員がいない時に は、在籍学級の担任に話しかけようとする。 ・集中がなくなると机の下にもぐったり、教室を出ていったりする。 ・トイレに行くために声かけが必要。 ⑥学力(国語・算数その他)の状況 ・入学後ひらがなの拾い読みができるようになった。まだ言葉としては読めない。(6月 時点) ・教科書の文を語のまとまりとして読めるようになった。補助手段を使わずに音読できる ようになった。(8月時点) ・10 までの物は正確に数えることができるようになった。バラバラに置かれた物をラン ダムに数えるが、正確。 ・個別指導により、算数の課題は宿題も在籍学級と同じ内容を学習できるようになった。 「算数は得意」足し算引き算は指やタイルを使ってできる。 ・左右は理解しているようだが、「横」がわからない。 ・LDI検査(2008 年 8 月実施)では、話す、読む領域のつまずきがみられ、 「LDの可 能性が高い」の結果。 ・書くことについては不器用さや鉛筆の持ち方の影響が考えられる。 ⑦行動や社会性の面 ・ルールのある遊びに苦手意識がある。集団遊びに「できない」と言って自ら参加しよう としない。周囲に盛り上げてもらって入ることはある。 ⑧言語・コミュニケーションの面 ・一方的に話すことがある。 ・話が横道にそれると修正が効きにくい 。自分の関心のままにしゃべっている。 ⑨諸検査の結果 ・2007 年 8 月(5歳)WPPSI ・2008 年 9 月(6歳)WISC-Ⅲ 全 IQ68、言語性 IQ64、動作性 IQ83 全 IQ91、言語性 IQ85、動作性 IQ100 ⑩運動・基本的生活の面 ・運動苦手。 ⑪身体・医学の面 ・よく熱が出た。熱性痙攣 3 回(9 ヶ月、11 ヶ月、2 歳)。入院経験もある。 ⑫興味・得意な面(指導に利用できること) ・おいかけっこが好き。 ・怪獣の人形を使って戦いごっこをするのが好き。 ⑬本人と家族の気持ち・願い ・将来は仕事につけるように読み書きは身に着けてほしい。集中力をつけてほしい。 ・「作業所等になるだろうか?」 *その他 ・スイミングに通っている。本人も好きと言っている。 ・市のスポーツクラブの児童陸上部に入っている。 ⑭指導仮説(指導の手だて、心理特性をふまえて) ・スマイルルームでの活動に見通しを持って参加できることや、注意がそれないように、 本人がわかりやすいように視覚的に活動内容やルールを提示することが必要。 ・衝動性や多動性があると思われることから、スマイルルームの個別活動の際は別室で行 う。 ・基本的に良い行動はその場でほめ、好ましくない行動は原則無視する。 ・集中して楽しく学習できるようにゲーム的な要素を取り入れる。 ・わからないときや困ったときは、自分から言葉で意思を伝えることができるようにする ように支援する。 (2)心理検査と行動観察 ①心理検査の結果と解釈 平成 19 年 8 月の WPPSI 検査(C 児5歳)では、全検査 IQ は 68 であった。しかし、 小学校入学後の平成 20 年9月(C 児6歳)に実施した WISC-Ⅲ検査では、全検査 IQ は 91 で、全般的な知的発達は平均域となっていた。しかし、言語性 IQ85<動作性 IQ100 で視覚的処理優位であり、この傾向は WPPSI 検査と同じであった。群指数では言語理 解 83、知覚統合 107、注意記憶 91、処理速度 83 であり、能力間にアンバランスが見 られた。視覚的情報を自分なりに結びつけて考えることは得意だが、言語的な情報や 自分自身がもつ言語的知識を状況に合わせて応用することや、手の巧緻性に難しさを 持っていることがうかがわれた。下位検査の評価点では特に単語が 4 であることから 理解している言葉が少なく言語表現の苦手さがあるといえる。動作性下位検査では絵 画完成 13 で視覚情報への関心が高いが、符号 6 と視覚的短期記憶の苦手さがうかがわ れた。したがって視覚的な手がかりを用いて理解を促すことやできるだけ簡単な言語 指示をしていくことが望ましいと思われた。 ②2008 年 7 月小学校における行動観察 在籍学級の児童と一緒に水泳大会に参加する場面を観察した。着替えや移動の際は、 支援員の先生のサポートを受けながら着替えて廊下に並んだ。ほとんどの児童が列を 乱して遊ぶ中、支援員の傍でおとなしく待っていた。他の児童が本児に関わってきた ときは笑顔が見られた。 準備運動では先生の動作の模倣に苦手さや身体の動きのぎこちなさが見られた。 プールの中での自由遊びでは楽しそうにはしゃいでいたが終わりの合図に気づかず に一人取り残される場面があった。名前を呼ばれて返事をする際や移動する際など 様々な場面で指示を聞き逃す様子が見られ、わからないときは支援員を見たり、支援 員が離れているときは周囲を見渡したりして手がかりを探している様子がうかがわれ た。 2)長期目標と設定理由 保護者や学校からの聞き取りや行動観察、心理検査の結果等から、本児の課題を言 語面、行動面、感覚面の3つに整理した。 言語面では単語のみでの会話、自分の関心のあることを一方的に話す、難しい表現 をする一方で一般的な常識に答えられない、知っている言葉でも意味を聞かれると説 明できない、平仮名の読み書きの未習熟、単語の音順の言い間違い(例えば、 「ドラえ もん」を「どらもえん」)がある等様々な課題が見られる。そこで語彙量を増やしつつ、 語の上位・下位関係や包摂関係を理解すること、基本音節や特殊音節のひらがな表記 を身につけることによって言語に対する意識を高め、理解を深めることとする。 行動面では話を聞く際に不注意から聞き逃したり自分の関心のあることに反応して 衝動的に話し始めたりする等の課題が見られるので、具体的場面において「聞く」こ とや「話す」ことの力をつけさせたい。 感覚面では手先や身体の動きの不器用さ、姿勢が崩れやすく集中が長く続かない、 字形が整わない、運動が苦手、集団遊びが苦手等様々な課題があるので、本児が好き な遊びを支援者と思う存分楽しむ中で手や身体を使い、感覚統合を図ってゆく。 長期目標 指導内容 1 語彙量を増やす力を高めるため、語の上位・下位 関係や包摂関係の理解を図る。 語彙指導のための L プログラム(天野 清) 2 基 本 音 節 や 特 殊 音 節 (拗 長 音 ま で )か ら な る 平 仮 名 読み書き指導のための W プログラム (天野清) の読み書きができる。 3 具体的場面における「聞く」 「話す」能力を高める。 朝 の 会 で の 役 割 、 終 わ り の 会 で の 感 想 4 感覚統合の発達を促す。 体を動かしての自由遊び 3)個別指導計画と指導内容 3つのステージ毎の短期目標、指導内容、評価の観点、評価は下記の通りである。 第 短 期 目 標 1-1 1 ス 短 期 目 標 2-1 テ ー ジ 短 期 目 標 3-1 短 期 目 標 4-1 【 評 価 の段 階 】 【 評 価 の段 階 】 【 評 価 の段 階 】 【 評 価 の段 階 】 語 の カ テゴ リ ー化 の 発達 基 本 音 節や 特 殊音 節 を含 3 回 の 活動 で「 聞 く」「 話 3 回 の 活動 に おい て 観察 や 上 位 概念 の 習得 の 程度 む ひ ら がな の テス ト を行 す 」場 面 の観 察 を行 い 、 「聞 を 行 い、粗 大運 動 や微 細 運 を 客 観 的に 検 査す る 。 い 、読み 書 き能 力 のベ ー ス く 」「話 す 」能 力 のベ ー ス 動 の ベ ース ラ イン を 見つ ラ イ ン を見 つ ける 。 ラ イ ン を見 つ ける 。 ける。 指 導 の 内容 指 導 の 内容 指 導 の 内容 指 導 の 内容 「 語 の カテ ゴ リー 化 テス 「 W プ ロ グ ラム 前 テス ト 」 朝 の 会 、個別 活 動 、休 み 時 ト 」 ( 天野 清 )の 実 施 ( 天 野 清) 、「 小 学生 読 み 間 、全 体 活動 、終 りの 会 を し て 、 参加 者 と楽 し く遊 書 き ス クリ ー ニン グ テス 通 し て 、「 聞 く」 「 話す 」 ぶ。 ト 」(宇 野 彰) のひら が な 様 子 を 観察 す る。 休 み 時 間や 、全 体 活動 を 通 1 文 字( 全学 年 共通 )の 読 み 課 題 の実 施 。 評 価 の 観点 評 価 の 観点 評 価 の 観点 評 価 の 観点 実 態 把 握の 段 階の た め達 実 態 把 握の 段 階の た め達 実 態 把 握の 段 階の た め達 実 態 把 握の 段 階の た め達 成 基 準 は設 定 しな い 。 成 基 準 は設 定 しな い 。 成 基 準 は設 定 しな い 。 成 基 準 は設 定 しな い 。 評価 評価 評価 評価 カ テ ゴ リー に つい て は動 基 本 音 節に つ いて は 、清 朝 の 会 、全体 活 動 、終 り の ブ ラ ン コの 大 きい 揺 れを 物 に 人 間が 入 るこ と や、生 音 、濁 音 、半濁 音 の読 み に 会 の 活 動中 に、先 生の 話 を 怖 が る、じ ゃん け んが ぎ こ 物 の 理 解は 難 しい よ うで 課 題 は なか っ た。 集 中 し て聞 く こと が でき ち な い 、靴の 左 右が 逆 、ル あ っ た が、その 他 は概 ね で 拗 音 に 課題 が 見ら れ た。 な い こ とが わ かっ た 。 ー ル の ある 遊 びに 参 加し き て い た。単語 に つい て は 促 音 、長 音 、拗 長 音に つ い 2 回 目 よ り 活動 ス ケジ ュ ー よ う と しな い など の 様子 語 彙 の 少な さ が見 ら れた 。 て は 未 測定 。 ル と 話 を聞 く 時の 約 束を が 見 ら れた 。 シ ー ト 化し 達 成で き たら シ ー ル を張 る よう に した 。 終 わ り の会 の 感想 は 抵抗 が 見 ら れた 。 第 短 期 目 標 1-2 2 ス テ ー 短 期 目 標 2-2 ジ 短 期 目 標 3-2 短 期 目 標 4-2 機 能、材 質、形に よ る 1 次 促 音 を 含む ひ らが な の読 メ モ を 見な が ら、支援 者 と 支 援 者 と一 緒 に、簡単 な ル 元 分 類 に基 づ いて 、具 体 物 み 書 き がで き る。 一 緒 に 全体 の 前に 立 って 、 ー ル の ある 遊 びを 楽 しむ の 操 作 がで き る 。ま た 、分 長 音 の モデ ル の構 成 がで 感 想 を 言う こ とが で きる こ と が でき る 。 類 の 観 点に つ いて 言 葉で きる。 説 明 す るこ と がで き る。 指 導 の 内容 L プ ロ グ ラ ム( 天 野) 指 導 の 内容 指 導 の 内容 指 導 の 内容 W プ ロ グ ラ ム(天 野)促 音 感 想 を 書き 留 め、グル ー プ 鬼 ご っ こな ど 役割 や 交替 の モ デ ルの 構 成と 書 きの の 中 で 発表 の 練習 を して の あ る 遊び 練 習 。 長音 の モデ ル 構成 。 か ら 発 表さ せ る。 評 価 の 観点 評 価 の 観点 評 価 の 観点 評 価 の 観点 具 体 的 分類 操 作活 動 80% 促 音 の モデ ル の構 成 80% メ モ を 見な が ら、支援 者 と 自 由 時 間に 支 援者 と 一緒 分 類 の 観点 の 説 明 80% 促 音 の 書 き 70% 一 緒 に 全体 の 前に 立 って に 一 定 時間 継 続し て 鬼ご 長 音 の モデ ル の構 成 80% 感 想 を 言う こ とが で きる 。 っ こ な どを し て遊 ぶ こと が で き る。 評価 評価 評価 評価 (W プログラムの実施に 促 音 を 含 む 25 の 語 に つ い 「 終 り の会 」の 感 想発 表 で 休 み 時 間に は 工作 を し、剣 時 間 が かか り 、L プロ グ ラ てモデルの構成を実施し は 、本児 の 言っ た 感想 を メ を作ることを楽しみにし ム は「 ク ラス の 包摂( 全 体 た 。モデ ル 構成 で は一 音 ず モするとそれを見て読む て い る 。「 こ こ に 貼 っ て 」 と 部 分)の 理解 に 関す る テ つ 指 し なが ら「 こ この 音 は こ と が でき た。全 体へ の 発 と自分のアイディアを先 ス ト 」と「 対象 の 名称 の テ 何?」と尋ね確認すると 表では実習生が一緒に立 生 に 伝 えた り、先 生と 一 緒 ス ト と その 教 育」のみ 実 施 100%で き た 。 し か し 机 上 つ と 、読 み 上げ る こと が で にガムテープを貼ったり し た 。) に置かれたモデルのプレ きた。 した。 「 全 体 部分 」で は 、全 体 へ ートから支援児が選択し 「 朝 の 会」のあ い さつ 係 り 自由時間にはその剣を持 の気づきが見られなかっ て 構 成 させ た 場合 、そ れ を で は 、全 体 の前 に 立っ て 元 っ て 、他 の チー ム の人 に も た 。 「 もの の 名称 」 では 、 使 っ て 遊ぼ う とし た 。 気 よ く 号令 を かけ 、あ い さ 関 わ る よう に なっ た 。 本児にとって学習や生活 促 音 の 表記 に つい て は、カ つの言葉を言うことがで 子ども用のホッケーのス 場面において身近なもの タカナにこだわる傾向が きた。 ティックに関心を示しゲ の名称や使用方法につい 見 ら れ たた め、途 中か ら カ ー ム に 参加 す るが 、ル ー ル て は 答 える こ とが で きた 。 タ カ ナ で書 く 語、支援 児 の がわからなかったため集 興 味 の ある 語 を加 え 20 語 団 か ら 離れ た 。「 応 援係 」 を「 小さ い“ つ”」を 意 識 になって跳び箱の上に立 し て 書 くこ と がで き た。 ち 、剣を 振 り回 し なが ら 大 声 を 出 して 応 援で き た。 第 3 ス 短 期 目 標 1-3 テ ー 短 期 目 標 2-3 ジ 短 期 目 標 3-3 短 期 目 標 4-3 ひ ま わ り 、う さ ぎ 、飛 行 機 長 音 を 含む 語 のモ デ ル構 話 を 聞 く時 の 約束 を 守っ 支 援 者 と一 緒 に、材料 や 道 な ど が 描か れ たカ ー ドを 成 と 表 記が で きる 。 て 、 話 を聞 く こと が でき 具 を 扱 って 遊 ぶこ と がで る。 きる。 用 い た 1 次 元 分 類 に基 づ い て 、身 近 な具 体 物の 操 作 が で き る。また 分 類の 観 点 に つ い て言 葉 で説 明 する こ と が でき る 。 指 導 の 内容 指 導 の 内容 指 導 の 内容 指 導 の 内容 ひ ま わ り 、う さ ぎ 、飛 行 機 W プ ロ グ ラ ムの 長 音の モ 学 習 の 前に「 や くそ く 」を 学 習 後 の休 み 時間 に、空 き な ど が 描か れ たカ ー ドを デ ル 構 成図 版 や支 援 児の 支 援 児 と一 緒 に読 む こと 箱 を 用 いて 、 工作 を 行い 、 用 い た 1 次 分 類 及 び、2 次 好 き な キャ ラ クタ ー を使 に よ っ て、支援 児 に話 を 聞 そ れ を 使っ て 先生 と 遊ぶ 。 分 類 を 行わ せ る。 っ た 図 版を 用 いて 、長 音 の く 時 の 態度 を 意識 さ せる 。 音 節 構 造を 意 識さ せ る。次 に モ デ ル構 成 を行 わ せ、最 後 に 表 記さ せ る。図版 は カ タ カ ナ 表記 の もの を 用い る。 評 価 の 観点 評 価 の 観点 評 価 の 観点 評 価 の 観点 具 体 的 分類 操 作活 動 80% ① 音 節 構造 の 意識 (拍 )、 ② 支 援 児 が勝 手 に行 動 を取 支 援 者 と協 力 して 、工 作 を 分 類 の 観点 の 説 明 80% モ デ ル 構成 (マ ー ク)、③ っ た 時 に、 約 束を 提 示し 、 行 い 、作 品 を作 り 上げ る こ 表 記(カ タ カナ )、の 3 つ き ち ん と話 を 聞く こ とが と が で き、それ を 用い て 継 の 視 点 で評 価 する 。そ れ ぞ できる。 続 的 に 遊こ と がで き る。 れ「 サ ポ ート あ り 」で 80% 正 解 を 目標 と する 。 評価 評価 評価 評価 ① 1 次 元 分 類 は 、 自分 で 分 ① で は 自力 で はほ と んど 注 意 が それ て ルー ル を忘 休 み 時 間の 際 には 、支 援 者 類 し て その 視 点を 説 明す で き な かっ た が、先生 の サ れ る 行 動が 見 られ た 時も 、 と 一 緒 に剣 を 製作 し た。ま る こ と もで き た 。ま た 、先 ポ ー ト があ れ ばで き た。 ル ー ル を先 生 が確 認 する た 、 継 続的 な 作品 と して 、 生 の 分 類の 視 点に つ いて ② で は 図式 が 最初 か ら提 こ と で 思い 出 し、話し を 聞 大 き な ロボ ッ トの 顔 のデ も 説 明 する こ とが で きた 。 示 さ れ てい れ ば、音を 言 い こ う と する こ とが で きた 。 ザ イ ン や、製作 は 支援 児 自 2 次 元 分 類 に つ いて は 、 自 つ つ マ ーク を 置く こ とが ら が 率 先し て 行っ て いた 。 分 で 二 次元 分 類を す るこ で き た 。しか し 、図式 が 隠 全 体 活 動の 自 由時 間 の際 と が で き、その 視 点を 説 明 さ れ て いる と 戸惑 う 様子 に は 、こ の ロボ ッ トを 使 っ で き て いた 。 ( ただ し 、 「水 が 見 ら れた 。 その 場 合、 C て 遊 ぶ 場面 も 見ら れ た。こ に い る 生き 物」と して 鳥 と 児 は 自 ら手 で 拍を 打 って 、 の 活 動 をと て も楽 し みに 魚 を 一 緒に す る様 子 が見 音 節 構 造を 確 認し 、置 い た し て い た。 ら れ た 。) マ ー ク を修 正 する 行 動も 見 ら れ た。 ③ 表 記 では カ タカ ナ で書 か せ た。思 い出 せ ない カ タ カ ナ 表 記 が 29 語 中 6 語 あ り 、 長 音の 表 記で は 18 ヵ 所 中 2 ヵ 所 書 け な いと こ ろ が あ った 。 4)結果と考察 (1)第 1 ステージの結果と考察 ①長期目標1について カテゴリーについては動物に人間が入ることや、生物の理解は難しいようであった が、その他は概ねできていた。単語については語彙の少なさが見られた。 ②長期目標2に関して 基本音節については、清音、濁音、半濁音の読みに課題はなかった。拗音に課題が 見られた。促音、長音、拗長音については未検査。 (2)第 2 ステージの結果と考察 ①長期目標1について W プログラムの実施に時間がかかり、L プログラムは「クラスの包摂(全体と部分) の理解に関するテスト」と「対象の名称のテストとその教育」のみ実施した。 全体と部分の包摂関係の理解では、全体への気づきが見られなかった。「ものの名 称」では、本児にとって学習や生活場面において身近なものの名称や使用方法につい ては答えることがでた。しかし、L プログラムの具体物では、身近なものが少なかっ たので、身近なもので行うような工夫が必要であると感じられた。 ②長期目標2について 促音を含む 25 の語についてモデルの構成を実施した。モデル構成では一音ずつ指し ながら「ここの音は何?」と尋ね、確認すると 100%できた。しかし、机上に置かれた 数枚のプレートを支援児に選択させて、モデル構成させた場合、それを使って遊ぼう とした。表記については、カタカナにこだわる傾向が見られたため、途中からカタカ ナで書く語、支援児の興味のある語を加えた。20 語を「小さい“つ”」を意識して書 くことができた。 (3)第 3 ステージの結果と考察 ①長期目標1について 絵カードを使った第一次分類は、分類と説明ともに 100%できたと考えてよい。二 次元分類に関してはよくできているが、 「あひると池を同じ仲間」とするなど、具体的・ 事実的な結合がまだ見られた。先生と C 児が交互に問題を出して答えるというゲーム 形式の学習を採用したことにより、楽しく集中して学習に取り組めた。この方法が有 効であった。 ②長期目標2について 長音の学習では、音が伸びる箇所で、両手を左右に大きく広げて拍を打つように指 導した。長音を含む単語の学習で、手を左右に大きく広げることを意識していること から、長音の発音と表記の関係をある程度理解していると思われた。手で拍を打つ活 動では、1 人で打つことは難しいようだったが、先生と一緒に打つことはできた。2 回 目のリズム打ちの練習では 3 文字で、単語の間に長音が入っているものは、先生の手 を借りず、1 人で行うことができたが、少し長いものや、最後に長音が入っているもの などは、拍が打ちにくいようであった。表記練習ではわからないカタカナがあると支 援者にその都度聞くという形態をとった。聞かずに書くことができたものの中に鏡文 字「イ」があった。 (4)第4ステージの結果と考察 ①長期目標3について 「聞く」については、全体活動を通して、先生の話や課題に集中できなかった。そこ で、活動の流れや学習内容を文章で示すことで、次に何をするのか、後どのくらいか かるのかなど見通しを持たせるようにしたところ、集中して取組む様子が見られるよ うになった。また、「やくそく」を決め、約束を守れていない時、「約束はなんでした か?」と言葉をかけると、約束を思い出し、行動を修正する様子がみられた。しかし、 やくそくをすぐに破る行動が見られたので、今後は課題に集中する時間ができるだけ 長くなるような支援の工夫が必要である。 「話す」については、全体活動の終了時点で行われたチーム毎の振り返りの時間で は、自分の感想を言うことができたが、全体の前では、全体活動の司会の先生の耳元 で感想を囁く様子が見られた。そこで、チーム毎での振返りの時間に C 児が言ったこ とを、B4 サイズの紙に書きとめ、それを読み上げる形式で全体の前で発表させたとこ ろ、声は小さかったが発表することができた。しかし、全体活動の全員でのゲームで 2位になった時、全体の前で堂々と自分の気持ちを語ることができた。成功体験の重 要性が改めて感じられた。 ②長期目標4について 工作では、箱の組み立てやガムテープを使った接着を先生に頼むことが多かった。 そこで、C 児と一緒に工作を楽しむようにし、頑張ったらすぐにほめるように心掛け た。ルールのある全体遊びでは、C 児なりに楽しく遊べるように工夫したところ、遊 びに参加する様子が見られた。 5.臨床教育実習に参加しての感想 井手 恭敬 私は、3年生の学校実習でお世話になったクラスに、軽度発達障害の児童がいまし た。その児童と関わる中で、なぜこのような反応をするのか、なぜこのような行為を するのかという疑問がずっと自分の中にありました。そんな疑問に少しでも答えを見 つけ出したいという気持ちから、この臨床教育実習に参加しました。 この臨床教育実習において自分自身が学べたことが二つあります。一つは子どもた ちの気持ちをじっくり考えることです。臨床教育実習では、常に子どもたちの行動や 発言について観察し、グループや全体でじっくり考えました。この発言はこのような 心境から出たのではないか、この行動は何かのサインなのではないかなど、子どもと とことん向きあってきました。普段ならただのわがままだろうと思うことも、じっく りと真剣に考える。この行為は簡単そうでとても難しいことです。しかし、この実習 を通して、子どもの行動には必ずなにか意味があると考えることができるようになっ てきました。 二つ目は、細かな連携の大切さです。この実習では、数人の子どもが同じ環境下で 活動することになります。その際に、子どもによって注意しなければならない点や、 指導の方法、何がすきなのかなど、支援する方は知っておかなければならない情報が あります。その時にいかに細かな連携が取れているかによって支援の質も効果も変わ ってくるのです。そのために合同カンファレンスや報告会があるのだということを自 分はこの実習を通して学ばせていただくことができました。今回の実習で学んだこと はこれから生きていく中で大いに役立つことではないかと思います。この実習で学ん だことを活かせるようにこれからも努力していきます。 佐藤 祐 今回、この臨床教育実習に参加した理由は自分自身、以前から発達障害に関して興 味があったことと、学校と医療と大学の連携といったものに興味があったからである。 私は、これまで発達障害を持つ子どもに関わったことがなく、少し不安だったが実際 に実習が始まるとその不安も気にすることなく、実習を進めることができた。 臨床教育実習と教育実習とはまた全く違うもので、指導計画やインストラクション シート、個別指導に最初は戸惑うこともあったが、良い経験になったと思う。自分が 直接指導をした回数は 2 回だった。他の人の指導や自分の指導が終わった後は、次は こういうことに注意しようなど改善することがたくさん見つかり、次回の指導につな げることができたのは良い成果だったと感じた。 最後に、実習中はやはり少し大変だなと思ったり、きついと感じたりすることもあ ったが、今回の実習は自分を成長させてくれる機会になり、また、何より楽しみなが ら実習をやることができたので、とても良い経験になった。 高柳 美佳 臨床教育実習の話を聞いたときは、参加したい気持ちは強かったけれど、部活との 兼ね合いや実習自体の全貌がよくわからないことがネックになり、かなり迷いました。 悩んだ結果、何事もやってみないとわからないし、ここで学ぶことは絶対に自分の将 来の糧になると考え、参加を決意しました。 最初は右も左もわからず、ただその場にいるだけという状態でした。部活との兼ね 合いや行動の中で、チームのメンバーに迷惑をかけることも多々あって、私はこの場 にいていいのかと悩むこともありました。そんな気持ちを抱えながら実習に取り組む 中で、考え方が変わってきたのは、自分が全体活動などを任されるようになった時で した。自分がある活動を仕切り、子どもたち一人一人のことを考えながら引っ張って いかなければならないという立場に置かれて初めて、私は本当の意味で「この子ども たちのために自分は何をすべきなのか」ということを考えられるようになったと思い ます。それからは毎回楽しんで、やりがいを持って実習にとりくむことができるよう になりました。 実習の場で学ぶことが多かったのはもちろんですが、実習以外の場、たとえば合同 カンファレンスなどでも多くのことを学ぶことができました。子どもたちが在籍して いる学校での支援のされかたや状況などを知ることができ、また、自分のチームの支 援児に対しても他のチームの方から意見をいただくことができ、非常に意義のある時 間だったと思っています。 この実習を通して学んだことを、自分の将来に活かしていくと同時に、この実習が 今後もっと発展して、佐賀県の発達障害の子どもたちに対する支援の手助けになって いくことを願います。 平川 まゆみ 本実習への参加動機は発達障害のある子どもへの支援の実際を学びたいということ です。特別支援学校のセンター的機能が求められますが、特別支援学校の教員の多く は通常学級の集団における支援の経験よりも個別指導が中心となる教育を行っている のが現状です。 大学の先生、教育学・心理学の学生、院生がチームを組み支援児のアセスメント・ 支援を行う中で、自分一人では気づかない視点や支援の発想が得られたことは収穫で した。チームのメンバーがそれぞれの持っている力を支援にうまく生かすにはどのよ うにしたらいいかといった視点も重要だと思いました。具体的な支援に関しては事前 の情報収集、心理検査や行動観察等から指導方針を立てましたが、自分たちの指導の 方向性に確信が持てるようになったのは 3 つのステージが終わった時点でした。長期 的な視野を持ち、子どもを取り巻く環境も含めてその時点での状態に応じた支援を学 ぶ貴重な経験となりました。 10-4 社会性に課題のある中学生への支援(Dチームの活動報告) 〔平成 20 年度 Dチームメンバー〕 豊田明宏(教育心理学選修 3 年生) 福田章子(教育心理学選修 3 年生) 石橋めぐみ(教育学研究科学校教育課程教育学コース1年 松下一世(チーム担当教員 現職教員) 教育学・教育心理学講座) 1)支援児の状況 中1男児。父、母、妹の4人家族。 学校では、一人で行動することが好きであり、友人は少ない。だが、小学校低中学 年より、友人とのトラブルが増え始め「自分はトラブルメーカーだ。」と考えるように なる。小2(平成 16 年 1 月1日)時、痙攣をおこし、小児科にて「良性の痙攣」と診断。 高学年では相手がグループ化し、1対多の関係になった。本人の体力もついてきた ため、激しい喧嘩になることもあった。中学入学前(平成 20 年 3 月)に、佐賀大学医学 部付属病院にて「社会性に課題がある」と言われる。 現状も、学級内で落ち着かない子が多く見られ、支援児もさらに不安な状態である。 ゆえに、級友の言動を注意して喧嘩になり、そのことでからかわれたり、挑発された りしてまた喧嘩になるという悪循環が続いている。一方、学校以外の落ち着いた場所 では自分のペースを大事にしながら、人とトラブルを起こすことはあまりない。 ○主訴 ・理屈に合わないことを受け入れることができず、相手にも要求してしまう。 ・友人関係がうまく作れず、会話も一方的である。 ・英語の聞き取りや文法などは理解できるが、英単語のつづりに納得がいかず、書く ことができない。(他の教科の学力に比較して英語だけやや落ち込んでいる) ○諸検査結果 【WISC-Ⅲ知能検査(平成 20 年 5 月 1 日実施)】 ・全検査 IQ129 言語性 IQ139 ・言語理解 144 ・知識 19 単語 16 動作 性 IQ113 知覚統 合 103 注意記憶 94 絵画完成 11 類似 17 符号 17 7 理解 17 組合せ 積木模様 処理速度 128 算数 12 14 数唱 6 絵画配列 10 記号 13 迷路 11 検査結果の分析 支援児の知的発育水準は優れており、言語性 IQ が動作性 IQ より有意に高い。さら に言語性 IQ を構成する言語理解が(144)、注意記憶が(94)と大きな差があることが特 徴である。言語能力に優れた点があるとはいえ、聴覚的短期記憶に弱さがあることに 配慮する必要がある。このことは周りの環境要因が作用している可能性もある。動作 性 IQ を構成する知覚統合(103)と処理速度(128)の間では、処理速度が有意に高く、視 覚的短期記憶や事務処理能力は高い。しかし「積み木」は 7 であり、弱い傾向がみら れる。このことにより全体と部分の関係を理解することが特に苦手と思われる。 【 LDI 】 聞く 13 話す 12 読 む 14 計算する 12 推論する 12 行動 16 社会 24(26) 検査結果からの分析 LD の傾向はみられないが、社会性のところで対人的に難しいところがみられる。 【 S-M 社会生活能力検査】 社会生活指数:84 身体自立 移動 作業 意思交換 集団参加 自己統制 28 14 16 21 19 17 検査結果からの分析 身辺自立や移動に関しては、一人で外に出かけて行動したことがあまりないことか らこのような結果になったと思われる。全般的に特に問題がないが、今後これらの経 験することにより生活能力の向上がみられると思われる。 2)長期目標とその設定理由 ①友人たちとスムーズな関係が結べるようにコミュニケーションスキルを身につける。 ②フォニックス(つづり字と発音の関係を教える語学教授法)を使って 英単語のつづりの 規則性を学び、書く力をつける。 ○設定理由 ・学力も高く、言語能力もあるので対人関係のスキルを身につけることで十分に社会 生活に適応できると思われる。場面に応じた対応を考えるというトレーニングにかな りのウェイトを置く必要がある。 ・発音や文法はわかるものの、英単語のしくみについて日本語との差に納得いかない ため書くことに抵抗を感じている。本人にとって規則的な学習の仕方がスムーズに身 につくので英単語の習得に関しては、フォニックスを利用した方法で行う必要がある。 3)個別指導計画と指導内容 (1)スマイルルーム(大学施設実習) ◆第一ステージ短期目標 ①日常生活における困難な場面を設定し、正しい対応を考える。 【指導内容】 ①日常生活における困難な場面を設定し、攻撃型、受け身型、アサーティブ型の3種 類のロールプレイングによるアサーショントレーニングを行うことで、一番スムーズ で、適切な友人への対応の仕方を考える。 ◆第二ステージ短期目標 ①対人関係における葛藤場面を設定し自分の体験を振り返ることができる。 ②英単語のつづりの規則性を身につけ、書く力を身につける。 【指導内容】 ①第1ステージに加え、自分の体験を出しその時の心情を話し合う。 ②フォニックスを使って規則性を知る。一回につき単語は5個。 ◆第三ステージ短期目標 ①様々な感情があることを知り、他者に共感することができる。 ②怒りなどのマイナス感情を受け入れ、ストレスの対処法を考える。 ③フォニックスで単語を書けるようにする。 【指導内容】 ①気持ちの温度計クイズを通して他者の気持ちを考える。 ②自分のストレスを考え、その対処法をいくつか実践する。そしてその中から、自分 に合った対処法を見つける。 ③フォニックスの規則を使って、一回につき5単語習得する。 4)結果の考察 長期目標① コミュニケーションスキルについて (1)第一ステージ~設定された場面でのアサーショントレーニング~ 支援児の特性から、あらかじめ攻撃的な反応を予想していたが、相手の立場を考え た受け答えだった。そこで支援児の考えを受け入れつつアサーティブな考えを提示し ていったところ、徐々にそのアサーティブな考え方に理解を示した。全く相手の立場 を考えていないわけではないことから、利己的ではないと考える。しかし、言い方を 聞いていても口語体で応答することがなく、どこか感情を抑えている様子が見られた。 また、場面の中の教師の存在の有無をこだわっていた。例えば、授業中遅れて教室 に入る友人に対しては、 「先生が注意すればよい」というような回答を示し、教室内の 秩序を教師に求めている様子が見てとれた。このことから、支援児にとって、教師の 存在は大きく、教師の役割や権限を理解していると思われる。ゆえに、教師がいる時 は、わざわざ自分までが関与する必要が無いということであった。そして、友達との 貸したものを返してくれない場面設定においては、あまりピンときていなかった。こ こからは、支援児が貸し借り、励ましあい、手伝いといった友達との関わりの希薄さ が見え、こうすると友達が嬉しいだろうといった相互感情の体験があまりないと考え られる。この点に関して、場面設定が支援児の学校生活に完全に即していれば、さら にアサーティブな考え方への理解が深まると思われた。 (2)第二ステージ~支援児の体験談に沿ったアサーショントレーニング~ 人との関係は正しいか間違っているかという二者択一だけでなく、友達の心情は多 様で複雑であることを伝えるために、実習生が自分の 体験として「先生に怒られること より、友達を選ぶ」や「冗談を言う」といった多様な対応の在り方を語っていったところ、 支援児は気持では納得できないが、頭では理解できたように見受けられた。 その一方で 「困ったときに後で先生に相談する」というエピソードに対して、支援児は級友にか らかわれた体験を語り、 「 僕は別に悪いことをしいてるわけではないのでこっそり先生 にいう必要はないんじゃないですか。」と言っていた。つまり後々の友人関係が重要視 されておらず、級友ともめないように解決することよりも、その場で相手を正したい という考えの方が強いと考えられる。そのため、なかなかこちら側が提示したアサー ティブな対応について同意することがなかった。しかし、次第にアサーティブな対応 に対して反論することがなくなり、頭ではその必要性を理解できていた。体験談を軽 快に話すようになり、スマイルルームが支援児にとって自己を受け入れてもらえる場 となったのではないだろうか。 (3)第三ステージ~怒りの感情を中心にストレスマネージメントトレーニング~ 写真や絵から人の感情を読み取ることができており、感情に関する知識が高いこと がわかった。相手の感情は理解できるものの、人によって微妙に異なる気持ちの度合 についてやや理解することが困難なようであった。しかし相手に共感することの必要 性は理解できていた。教師側から喜びや悲しみ等の気持ちの例を提示したが、支援児 は怒りという感情にこだわり、自分のストレスの一番の原因であるとはっきり言って いたことから感情の自己認知がよく出来ていると考えられる。そのストレス対処法と して人に相談するという方法を、本を使ったアプローチなどで提案したが、支援児は 自分には合わないと拒んだ。これまでのステージではうまく自己開示ができていた支 援児であるが、それは授業の流れの中でごく自然に体験談を話すという形式であった からであり、面と向かって他者に相談することに対しては抵抗感があるものと考えら れる。)こちらが提案した多様な対処法をまったく実践していないと支援児は言っていた が、実は家でプロレスごっこをやっており、これは支援児なりのコミュニケーションの取 り方であると保護者は語られた。また、解消法の一つとして言葉でも相手にうまく伝える ようになりたいと感じることができていた。 (4)学習を通じて対人関係の変容 初めの頃は、照れもあり全体的にあまり意思表示がなく、教師をはじめ他児童との 関わりに消極的であった。教師側からの問いかけを心がけるが、言葉数が少なく反応 が薄かったため、興味関心のあるもの(恐竜や化石)からのアプローチを行っていっ た。すると、回を重ねるごとにチーム教師とのコミュニケーションが徐々にとれるよ うになり、自分の体験談等を「書くより話した方が早い」と流暢に話すこともあった。 これは、チーム内で進んで各々の意見を求め、それを聞き入れる体制を整えたことに 加え、支援児とチームの教師間でラポールが築けたことによるものではないかと考え る。他児童とは、自ら接触を試みることは無く、全体活動の反省にて「年下の子ども と一緒にゲームをしたり遊んだりするのは難しかった」と言っていたこともあったも のの、持ち前の頭脳を活かして適度なリードがとれていた。また、自分より年下とい う意識からか、他児童のルールに則らない行動に対して見守ることもできていた。 一方で学校においては、支援児がルールや規則に従うことを絶対視していることよ り、そのことに関してトラブルが多々生じていた。 「白黒つけたい」と言っていたこと から、とにかく間違いをはっきりさせたいという思いが強く、問題解決に非常にこだ わっている。支援児の話から彼の中の解決とは、間違った行動を相手に伝えてその場 で認めさせることにある。これは、スマイルルームを通して一貫したままであった。 しかし、学校でトラブルをかわしたり、授業中に動き回る級友に「できたの?!」と いう間接的で、円滑な対応をしたりできるようになった。また、特に終盤における“手 を出すことはやめた” “言葉でうまく伝えられるようになりたい”といった言葉から窺 えるように、トラブルにならないような対応の仕方(アサーティブな方法)を支援児 なりに試行錯誤し始めたと考えられる。 このように、スマイルルームを通して対人関係の変容が少しずつ見られたことを肌 で感じることが出来た。この変容に伴い、 “学校は特別な場”という意識が強かったが、 “学校が全てではない”ということに気付きだしたようだった。これらの変化は、こ のスマイルルームに参加したことによって、自分の感情を表現でき、自己否定感が低 減したこと、さらにこの体験そのもの、つまりこれまで支援児が生活してきた中には ない新たな人間関係に触れたことにあると思われる。このことより、支援児自身の中 で何かしらの新たな価値観や視野を少しでも感じることができたことが大切だったよ うに思う。 (5)今後の課題~学校実習に向けて~ 支援児は、様々なトレーニングによりいろいろな感情表現や相手の気持ちがあるこ とを理解した。しかし、一日の大半を過ごす学校生活において、からかわれたり攻撃 的行動をされたりした時、どう対応するかを模索している。けれども、スマイルルー ムの他児童や教師とは適度な関係が築けていたことや本人の“言葉でうまく伝えられ るようになりたい”という意志の表れが見られたことから、あとはここで学んだこと を基に学校生活において実践していくことが今後の課題として挙げられる。学校実習 では今回新たに発見した支援児の、運動によってエネルギーを発散させることや、向 上心の高さといった特性を大切にしながら、長期目標に掲げた「円滑な友人関係」の 実現に向かって取り組んでいきたい。今回の施設実習では、指導教員の松下先生を主 体として支援児の母親や担任教諭と密に連絡を取り合っていたため、多くの視点から 支援内容を検討することができた。学校実習においてはこの連携を実習生が主体とな って図っていかなければならない。 長期目標② 英単語学習について 英単語が日本語やローマ字とは文字の規則や発音が異なるため、抵抗を示していたので、 フォニックス(つづりと発音の関係を教える語学教授法)を使って、英単語の規即を理解す ることにより英単語を書けることを目標に絵カードを用いて文字の音読みを習得させ、英 語の文字を足し算する方法で学習させたことは支援児にとって効果的な方法であったと思 われる。同じ発音の C,K,Q についての区別へのこだわっていたものの、説明を聞く時は興 味を持ち、一生懸命に習得しようとした態度が見られた。 スマイルルームにおいては時間的に短く、単語の初歩的な理解のみにとどまっていたた め、中学校でのテスト問題にまでは直接結びついておらず、支援児にとっても結果の見え ないいらだちが見えた。今後、フォニックスによる英単語のさらなる読み方の習得と規則 正しい文法の訓練により、学力の向上が期待されると思われる。 5)臨床教育実習に参加しての感想 豊田 明宏 今回のスマイルルームを通して私は多くのことを学び、新たな発見をすることがで きた。本チームの支援児の目標として対人関係を円滑にし、豊かな学校生活を送るこ とを掲げて、これまで学習を行ってきた。数々の困難な状況もあったが、スマイルル ームで学んだことが徐々に普段の学校生活に活かされつつあったり、最終回では「言 葉で相手にうまく伝えれるようになりたい。」という気持ちを聞いたりし、支援児の持 つ可能性を学ぶことができた。また、普段苦手意識からあまり運動をしない支援児で あったが、本施設実習では卓越した俊敏性を発揮し、運動の後には笑みがこぼれ、顔 が輝いていた。アセスメントの段階では思いもしなかった支援児の特性に触れ、関わ り合いの中から新たな発見が生まれることを学んだ。ストレスマネージメントの学習 とこれら全体活動での発見は密に関係しており、今後の支援児の生活に大きく変化を もたらすのではないかと期待している。 福田 章子 グループ学習で支援児とともに勉強し、私自身も対人関係における他者理解の重要 性を実感することができた。これに気付けたのも、ただ客観的に支援するのではなく、 アサーショントレーニング等で支援児と同様の目線に立ち、主体的に支援に参加する 方法をとったためだと思う。この他者理解という観点から考えると、支援するという ことは、多様な視点を持ち、支援児を丁寧に理解することでもあると思った。その点 で、チームによる支援体制は、複数の視点から支援できるため非常に有効だと感じた。 そして、理解する過程で、随時その段階に応じた支援方法を行うことこそ、大きな価 値があると知ることが出来た。また、保護者ともお話させて頂く機会の中で、子ども と向き合っている保護者にも様々な葛藤があると感じた。どのように対応したらいい のか、誰に相談したらいいのかといった多くの悩みが存在しているだろう。だからこ そ、情報交換や意見交換を定期的に行い、子ども同様に保護者を受け入れる場づくり も非常に必要だと思った。 石橋 めぐみ 臨床教育実習に携わるにあたって、最初は特別支援のことについては校内研修など からの知識だったので、何をどうしていいか不安でいっぱいだった。教職経験は長い ものの、支援を要する生徒との出会いはあったが、普通学級の担当しか経験したこと がなかったため、専門用語もアセスメントの方法や心理検査なども言葉だけは知って いるものの実施方法などあまり分からなかった。しかし、チームで支援児のアセスメ ントを行い、指導法を話しあったり、授業や活動を実践してそれを振り返り、何がど のように支援児の役にたったかを話し合っていくことが、次の授業や活動の大きなヒ ントとなった。支援児にとっては最高の学習の場となり、私たち学生にとっても生き た教育体験の場となった。同時に大学院の授業とのリンクで、心理検査やかかわりの 方法などをより詳しく理解できた。確かに教育現場では一つの教室に多くの様々な児 童・生徒が在籍するので、その教育効果を高める上で、学生時代にこの貴重な経験を することは教職や心理職を目指す私たち学生にとってとても必要不可欠なプログラム ではないかと思う。 第3部 資料集 資料A.臨床教育実習フォーラム 臨床教育実習フォーラム 案内パンフレット 1/4 臨床教育実習フォーラム 案内パンフレット 2/4 臨床教育実習フォーラム 案内パンフレット 3/4 臨床教育実習フォーラム 案内パンフレット 4/4 臨床教育実習フォーラム・公開研修会 平成 20 年 12 月 6 日(土)・7 日(日) 研修会参加者 公開研修会 講師: サンドラ A.マクゲイグ M.ED 挨拶:上野景三文化教育学部長 フォーラム参加者 挨拶:長谷川照学長 フォーラム参加者 記念講演 講師:ゼイナ M. ルトフィヤ PH.D ドリームキャッチャー 臨床教育実習報告(学生) 臨床教育実習報告 質疑応答 シンポジウム シンポジストの発表 資料B.臨床教育実習の概要(英文) 資料C.スマイルルームのしおり 「スマイルルームのしおり」は、スマイルルームの日時、活動内容、時 間割、お約束、チーム毎の先生(実習生とチーム担当教員名)を支援児 や保護者に知らせるために作成したパンフレット 資料D.スマイルルーム通信 支援児在籍校や保護者にスマイルルームの様子を知らせるため、 「スマ イルルーム通信」を指導後に毎回作成し、お送りした。 資料E.新聞記事から 新聞以外でも、NBCラジオ佐賀、STSサガテレビ、NHK佐賀でも紹介された。 佐賀新聞記事 2007年6月13日 西日本新聞記事 2007年8月17日 佐賀新聞記事 2007年10月7日 西日本新聞記事 2007年10月7日 佐賀新聞記事 2008年1月5日 佐賀新聞記事 2008年1月14日 朝日新聞記事 2008年2月5日 佐賀新聞記事 2008年3月10日 朝日新聞記事 2008年5月6日 朝日新聞記事 2008年5月16日 編集後記 編集後記 平成 15 年度より毎年、活動報告書を発行し、佐賀県の学校に配布してきました。 ・ 『連続講座報告書 LD(学習障害)など軽度発達障害をもつ子どもへの家庭及び学校での対応』 (平成 15 年度) ・ 『特別支援教育の理解推進事業と調査研究に関する報告』(平成 16 年度) ・ 『発達障害の支援と研究』 (平成 17 年度) ・ 『発達障害の支援と研究』 (平成 18 年度) 昨年度は GP 初年度の活動報告書を、全国の教員養成系学部・大学等にも配布いたしました。 ・ 『文部科学省 専門職大学院等教育推進プログラム 「発達障害と心身症への支援に強い教員の 養成~文化教育学部・医学部附属病院連携による臨床教育実習導入とカリキュラム開発~」平成 19年度 報告書』 これまでの報告書の編集後記にも載せたドナ・ウィリアムズさんの本の一説を本報告書でも引 用し、結びとしたいと思います。 皆様のご協力とご支援に御礼申し上げるとともに、これからもご指導、ご鞭撻賜りますよう宜 しくお願い申し上げます。 GP 運営担当 園田貴章(佐賀大学文化教育学部附属教育実践総合センター) 「もし愛情豊かなご両親が、自分たちの感情には客観的になるように努め、子ども自身がど のように世界を感じ取っているかを第1に考えながら、接し、話をするようにすれば、子ど もは(話をすることができる段階に来ていれば)信頼と勇気を見出し、少しずつ自分のペー スで、自分の殻を破ろうとするだろう。自閉症の子どもに接しようとするならば、これが一 番最初の〔そして、常に大事で、また、どの子に対しても必要な-引用者〕アプローチの仕 方だ」 (ドナ・ウィリアムズ著、河野万里子訳『自閉症だった私へ』、新潮文庫、444 ページより) 臨床教育実習推進委員会(○ 生馬寛信 ○池田行伸 上野景三 撫尾知信 大元 誠 眞田英進 久野建夫 芳野正昭 川上泰彦 松下一世 松山郁夫 委員長) (教育学・教育心理学講座) (教育学・教育心理学講座) (教育学・教育心理学講座) (教育学・教育心理学講座) (教育学・教育心理学講座) (教育学・教育心理学講座) (教育学・教育心理学講座) (教育学・教育心理学講座) (教育学・教育心理学講座) (教育学・教育心理学講座) (健康スポーツ科学講座) 園田貴章 (教育実践総合センター) 倉本哲男 (教育実践総合センター) 網谷綾香 (教育実践総合センター) 藤田一郎 (医学部小児科学講座) 松尾宗明 (医学部附属病院小児科) 栗原 淳 (附属特別支援学校 校長 健康スポーツ科学講座) 須藤廣美 (附属特別支援学校 副校長) 文化教育学部教育プロジェクト支援室(GP 推進室) 岩永正史 (教務補佐員 情報関係) 中島範子 (教務補佐員 心理検査・心理相談関係) 角田淳子 (事務補佐員 会計・文書管理関係) 文部科学省 専門職大学院等教育推進プログラム(平成19~20年度) 発達障害と心身症への支援に強い教員の養成 ~文化教育学部・医学部附属病院連携による臨床教育実習導入とカリキュラム開発~ 最終報告書 平成21年3月 編集・発行:佐賀大学文化教育学部 〒840-8502 佐賀県佐賀市本庄町1番地 0952-28-8209(文化教育学部附属教育実践総合センター 事務室) 印刷:株式会社昭和堂 佐賀大学スマイルルームHP:http://smile.pd.saga-u.ac.jp/ 佐賀大学