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日本バイオロギング研究会会報 - 生物圏情報学講座
日本バイオロギング研究会会報 日本バイオロギング研究会会報 No.(123 発行日 2016 年 11 月 10 日 発行人 三谷曜子 発行所 日本バイオロギング研究会(会長( 荒井修亮) 北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター( 〒040-0051( 北海道函館市弁天町 20 番 5 号函館市国際水産・海洋総合研究センター 内 219 号室) 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター生態系変動解析分野 Tel:(0138-85-6558( ( Fax:(0138-85-6625 E-mail:([email protected] 会費納入先:みずほ銀行出町支店( 日本バイオロギング研究会 普通口座( 2464557 もくじ 新しい発見 北海道から茨城県沖まで産卵回遊するマツカワの経験水温特性 河邊 玲( 長崎大学)2 調査報告 台湾メカジキのちハチワレ( ( ( ( ( ( ( ( ( バイオロギングによるスズキ・ヒラスズキの生態調査 中村 乙水( 長崎大学)3 ( 樋口 絢允( 長崎大学)5 研究紹介 捕食行動を選択的に記録する加速度ロガーの実用化に向けて ( 西海 望( 長崎大学大学院)6 第 12 回日本バイオロギング研究会シンポジウム( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( 飛龍 志津子( 同志社大学)7 お知らせ 「ロガーを取りつけたアオザメ」 撮影場所:台湾 撮影者:中村乙水(長崎大学) -1- 新しい発見 北海道から茨城県沖まで産卵回遊するマツカワの経験水温特性 河邊 玲 長崎大学海洋未来イノベーション機構) 長崎大学の研究チームは、ヒラメ・マツカワなど、 異体類の産卵回遊行動を調べている。魚が産卵回遊を 開始する前にデータロガーを取り付けて放流すること が、調査の必須条件だ。体の大きさや形態的特徴でオ スとメス、性成熟しているかどうかを判別できる魚も いるが、我々の対象魚をはじめとして外見だけでは成 熟状態が区別できない魚も少なくない。ロガーを取り 付ける前に、その年に卵を産む準備を開始している魚 を見極める必要がある。 たとえば、ヒラメは成長すると雄より雌のほうが大 型化する。つまり、大型のヒラメだと、雄よりも雌で ある割合が高い。そこで、全長で 50cm を超える大型 の魚を選び、データロガーを装着した。ところが、再 捕した個体を解剖して生殖腺を調べると、まぎれもな 図1 マツカワから採血する 成熟した雌魚だと判定できる。この方法を用いて、ロ い雄であったり、卵が未発達な雌であったり、すでに ギング前に雌雄の判別と卵巣の発達度を調べた実用例 卵を産み始めている雌であったりと、さまざまだった。 を紹介しよう。 このように、魚を解剖すれば生殖腺を精密に観察でき 我々は 2010 年の冬からマツカワ( Verasper moseri) るので、雌雄はもちろんのこと生殖腺の発達度も診断 という大型カレイの産卵回遊行動を調べている。この できる。しかし、データロガーを取りつける予定の魚 調査ではデータロガーを取り付ける前に魚の血中の を解剖することはできない。しかも、運よくわれわれ VTG を測定した。まず、魚から注射器で採血する が海に放した魚を漁師さんが捕獲しても、魚は売られ 1) 。魚の大動脈は背骨と並行して通っているので、尾 てデータロガーだけが戻ってくることも少なくない。 鰭の付け根あたりからウロコを避けつつ針を入れて採 こうなると、性別すらわからない魚のデータになって 決する。針を入れて背骨に当たり、少し戻すと血管に しまう。 入る。ゆっくり注射器を引いて 1ml ほど採血し、すぐ 以前のニュースレター 日本バイオロギング研究会 図 に採血容器に移して室温で 30 分ほど静置する。 会報 No.37)では、ロガーを装着する前にカニューレ その後、採取した血液を 15 分ほど遠心分離機にかけて を使って卵細胞を採取して、卵巣の発達度を知る方法 血清と血餅に分離する。ピペットで分析に必要な上澄 を紹介したが、今回は血液を調べる方法を紹介したい。 みの血清だけを取り分けて、酵素免疫測定法で VTG の 血液は全身の隅々をめぐっているため、体内でどの 量を測定する。ここで VTG の量がゼロでなければ、産 ような生理的変化が起こっているかをわれわれに教え 卵準備中の雌魚であると確認できる。 てくれる情報だ。著者のような中年男性になると、毎 こうして、卵黄蓄積を完了し、最終成熟を待つばか 年の健康診断で採血されて、肝機能、腎機能、血糖値 りと判定されたマツカワ雌成魚 208 個体にデータロガ などを調べてもらう。もちろん、魚にだって血が流れ ーを取り付けて北海道太平洋沿岸から放流し、産卵場 ているので、この血液中の成分を調べれば、性別や卵 である茨城県鹿島灘沖合 巣の発達度も判定できる。卵巣は、産卵を開始するま るまでの深度と水温情報を取得した。合計 102 個体が でに、卵細胞が増殖する時期、卵細胞が卵黄を取り込 再捕されて、データを解析したところ、産卵場に到達 み成長する時期( 成長期)、受精可能な状態にまで発育 するまでの約 1 ヶ月間で緩やかな昇温 する時期 成熟期)の 3 段階に分けられる。成長期に 験していた( 図2) 。我々の共同研究者が行った飼育実 入った卵細胞を顕微鏡で観察すると、細胞内に小さな 験では、卵黄蓄積を完了した雌親魚に野外で記録され 球状の構造が多数みられる。卵黄の基となる構造で、 たのと同様の温度上昇を経験させると、最終成熟が誘 卵黄球とよばれる。卵黄は、肝臓で合成されたビテロ 導されて、その後、排卵に至った。つまり、このよう ジェニン な昇温刺激はマツカワ雌魚にとって、最終成熟の誘導 VTG)という卵黄タンパク質の前駆体が血 液とともに卵巣に運ばれ、細胞内に取り込まれて形成 される。つまり、このタンパク質が血中に見つかれば、 -2- 水深 300-500m)に到達す 約 2℃)を経 に関係する環境因子の 1 つではないかと推測される。 12 月から 1 月にかけて、深場へ移動するにつれて 徐々に経験水温は低下し、2 月になると最低水温を経験 している。その後、南下移動するにしたがって経験水 温は徐々に上昇するようだ。ところで、なぜマツカワ は沿岸近くではなく 200m より深い場所を選んで移動 しているのだろうか?1 月下旬の水温に注目すると、2 回ほど 10℃前後の高水温を経験しているのがわかる。 12 月から 1 月の東北三陸海域の大陸棚上は津軽暖流由 来の水が占めており高水温( 12 月で 7℃以上)である。 一方、水深 350m 以深の水は 2-4℃と周年を通じて安 定して冷たい。マツカワは大陸棚上の高水温を避けて、 図2 雌成魚が経験した緩やかな昇温。破線が経験水温。実線が 移動平均処理した水温値 摂餌場である北海道太平洋沿岸にいるとき、マツカ ワは浅海域に滞在しているが、産卵回遊を開始すると ともに深場へ移動し、それ以降、水深 200-600m の大 陸棚斜面域に滞在した(図3)。 一旦 350m 以深の冷水域へ移動することで、その後の 昇温を経験できているのかもしれない。 【論文情報】 Kawabe(R.,(Nakatsuka(N.,(Wada(T.,(Sawaguchi(S.,( Murakami(O.,(Kamiyama(K.,(Kito(K..(Furukawa(S.( and( Kayaba( T.( Behaviourally( mediated( thermal( experience(in(relation(to(final(oocyte(maturation(by( free-swimming( barfin( flounder( (Verasper moseri)( Fisheries Research((in(press) 図3 2011 年 12 月に道東十勝沖から放流した雌成魚の経験深度 水温記録 調査報告 台湾メカジキのちハチワレ 中村 乙水 長崎大学 環東シナ海環境資源研究センター) 台湾での野外調査について報告する。まず申し上げ 入してもらい、データロガーを取り付ける練習をした ておきたいのは、この調査の目的はメカジキにロガー 図2) 。準備はばっちりだ。 を装着することだったということである。メカジキは、 それからしばらくは別に天気も悪くないのに漁に出 昼は深度数百メートルの深海にずっといて、夜は表層 られない日々が続いた。聞くと理由は、マグロ延縄は へ浮上してくるという生態をしているという。深海と 漁期が終わっており、出漁する予定はないからという 海面の水温差は20度以上もある。メカジキの体温は ことだった。そんな中無理言って漁に出てくれるとい いったいどうなっているんだというのが研究のとっか う漁師さんを見つけてもらった。延縄船が出漁するの かりである。とにかくメカジキへ取り付けるロガーと は深夜0時である。そこから2〜3時間かけて漁場へ 研究計画書を携えて台湾に向かったのだ。 向かい、延縄を仕掛ける。延縄は針が数百個、全長数 台湾側のカウンターパートである Riyar さんが言う 十キロの長大なものだ。仕掛けるのに3〜4時間、引 には、メカジキは1年中捕れるけど常に数はあまりい き上げるのに6時間以上はかかる。延々と引き上げら ないということだった。マグロ延縄で偶発的に漁獲さ れてくる針を見ていたが、肝心のメカジキは釣れなか れるらしい。魚市場に行くと、確かに数は少ないけど った。いいサイズのキハダが氷箱に入り切らなくなる 毎日コンスタントに水揚げされており、時にはずらり ほどたくさん釣れて漁師さんは嬉しそうだった( 図3) 。 と並んでいることもあった( 図1) 。とりあえず1匹購 -3- 図 1.魚市場に並ぶメカジキ. 図3.大きなキハダが釣れてご満悦な漁師さん達. 図2.データロガーを装着する練習をした. メカジキは捕れずじまいだったので、地元にあるカ ジキを祀った寺でお参りすることを勧められ、線香を フリフリして祈願した( 図4)。結局、その後も全くメ カジキは釣れなかったし、一緒に調査に行った刀祢君 のバショウカジキも1匹も釣れることはなかった。信 心が足りなかったようである。ちなみに、この寺の息 子も調査に参加して、常に GoPro を頭につけて GoPro 職人になっていた。 次の出漁する機会は、アメリカのテレビクルーがチ 図4.カジキ寺に祀られたカジキ. ャーターしたサメ延縄船に便乗する形だった。そこで 釣れたのは、ハチワレというオナガザメ類である 図 獲されたかわいそうなサメを開放してあげたぜ!グッ 5) 。ハチワレもメカジキと同様、昼夜で生息深度を変 ジョブ!みたいな雰囲気になったのを見て、あんた達 える種類であり、ハチワレでも狙ったデータが取れる がサメ延縄船をチャーターして針にかけたサメなのに のではと考え、ロガーを装着することにした。船上に 何を言ってるんだと思った。しかし、それに便乗した 揚げたら重力でクタっとなってしまう身体に苦戦し、 おかげでデータが取れたので何も言うことはない。 装着に5分位かかってしまった( 図6) 。ピクリともし 体温データがうまく取れなかったので、もう1個体 ないハチワレに、死んでしまったかなと心配したが、 ハチワレのデータを取ろうということになり、もう一 次の日回収したロガーには元気に泳ぐデータが記録さ 度サメ延縄に挑戦することになった。装着に手間取っ れていた。しかし、肝心の体温データはロガーのエラ たことを踏まえ、今度は船にサメを揚げないで装着す ーでうまく測れていなかった。ハチワレが釣れた後ア ることにした。しかし、今度はハチワレが釣れない。 カシュモクザメが針にかかっていたが、テレビクルー 代わりに大きなヤジブカが釣れたが、ヤジブカは浅海 が針から外して放流するシーンを撮影し、最後には混 性のサメで狙ったデータは取れそうにないので見送っ -4- た。次に釣れたのはアオザメである。アオザメは、サ 温と遊泳速度のデータが取れれば…ぐふふ…と煩悩た メ界で一番泳ぐのが速いとされており、マグロのよう っぷりな頭でロガーを取り付けて放した( 図7) 。次の に水温より体温を高く保てるサメである。針にかかっ 日、海に浮かんだロガーの示す位置に向かったが、船 ている間にも水面から3〜4メートルもジャンプを繰 の上からは発信器からの信号が全く入らない。1日中 り返し、身体能力の高さを感じさせた。このサメの体 捜索を続けたが日没タイムアップとなった。その後、 沖縄方面へ向かって流れていくロガーを追って、急い で日本へ帰国。どこかの島に近づくのを待っている間 に発信器の電池が切れてロガーの位置がわからなくな ってしまった。皮算用がいけなかったのだろうか。 台湾調査は1ヶ月続いたが、ご飯も安くておいしく 快適に過ごせた。毎日ジュースショップで珍珠奶茶( タ ピオカ氏ミルクティー)を飲んでいたら、注文しなく ても出てくるようになった。魚市場にはウシマンボウ やヤリマンボウも並んでおり、マンボウ専門家として はいつか奴らも研究したい。 図5.延縄にかかったハチワレ. 図6.ロガーを取り付けたハチワレ.( 図7.ロガーを取り付けたアオザメ. 調査報告 バイオロギングによるスズキ・ヒラスズキの生態調査 樋口 絢允 長崎大学水産学部 行動機能形態学研究室 私は卒業論文の研究として天草郡苓北町近海におい 4 年) 時思いもしませんでしたが‥‥。 てスズキとヒラスズキを対象としたバイオロギングを 梅雨の時期、比較的スズキとヒラスズキが釣りやす 行っております。私がこの研究を行うと考えたきっか い時期に意気揚々と実験海域である天草へと来ました。 けは、私は趣味が魚釣りで、普段からよく両種を釣っ 事前の情報で、大型の個体がよく釣れていると聞き、 ていました。そのため両種の生態に関してとても興味 なおさら期待していました。普段からスズキはよく釣 があったからです。バイオロギングで使用する個体に っていましたし、3 週間毎日やれば、必要な分はすぐに ついては主に釣りで捕獲をすることにしていました。 捕獲できるだろうと簡単に考えていました。がしかし 自分としては研究で魚釣りもできるとあり、とても喜 ‥‥いざ捕獲調査を始めると、釣れない、釣れない。 んでいました。しかしこれが相当の労力になるとは当 朝早くからやったり、夜中にやったり、雨の中やった -5- り‥‥。様々な時間、場所、狙い方でやれど一向に釣 れません‥‥。趣味の釣りとしてやっている分には、 釣れなくてもさほど辛くはないのですが、研究として の釣りとなると、色々なプレッシャーがかかるわけで ‥‥。結局のところ滞在期間中に釣れたのは、バイオ ロギングには使用できない大きさのセイゴ( 〜30 ㎝ま でのスズキ)のみでした。幸いなことに、研究協力者 のおかげでヒラスズキに関しては 11 個体分装着し放 流できたので安心しました。自然を対象にした研究は 簡単にはいかないのだと感じるとともに、自分の腕の なさを痛感した捕獲調査でした。 写真 1.腹腔内装着の様子(ヒラスズキ) 研究紹介 捕食行動を選択的に記録する加速度ロガーの実用化に向けて 西海 望 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科) 動物の捕食行動は概して短時間でなされるため、野 観察し続ける必要がありました。しかし、飼育水槽か 外において捕食の場面を観察することは簡単ではあり ら実験用の大型水槽へヒラスズキを移すと、明るいう ません。私は動物の個体レベルでの捕食者-被食者間相 ちはエアレーションの泡に身を潜め、餌となるカタク 互作用を専門としていますが、捕食行動を野外観察す チイワシには見向きもしないのです。ヒラスズキはス ることの難しさからバイオロギング技術の有用性を感 ズキ属の中では眼の大きな種であり、暗所での視覚に じておりました。そこで昨年学位を取得した後は、長 優れると考えられます。また、待ち伏せ型の捕食様式 崎大学の研究員として捕食行動の検出に特化した計測 をとると考えられており、岩礁の影などに身を隠して 器の開発に携わらせていただきました。この計測器の 捕食を行うと言われています。そのため、水槽という 開発は同センターの行動・機能形態学研究室にて魚類 不慣れな環境では明るいうちには捕食を行わないので への使用を想定して進められていたものであり、高加 しょう。 速度運動が始まった時に起動する加速度計を用いて、 そこで夜間にヒラスズキを撮影する取り組みが始ま 捕食時の運動を選択的に記録しようというものでした。 りました。投光器を水中に沈めるなど幾多の試みを経 私の役割の一つに、捕食行動における加速度の特徴 て、水位をなるべく下げた状態で高出力の赤外光と低 を調べ野外データの解釈に役立たせるというものがあ 出力の赤色光を水槽全体に均一に照射することで捕食 りました。ちょうどその頃、マルスズキとヒラスズキ 行動を妨げずにビデオ撮影できるようになりました。 の採餌生態を比較するという研究が当研究室で始まっ しかし、安心するのも束の間で、いざ計測器をヒラス ており、また天草沿岸域のヒラスズキならば 20%以上 ズキの腹腔内に挿入すると、ヒラスズキは数週間捕食 の確率で再捕獲できるという報告もあったため、ヒラ 行動を行わなくなることが確認されました。計測器は スズキを対象としてその捕食行動の加速度を調べるこ 腹腔へ挿入後三週間程度しか作動しない仕様のため、 とにしました。それまで私は陸上動物を相手に研究を ヒラスズキには手術後あまり時間を置かずに捕食を始 行ってきたため、魚類を対象としたこの研究をとても めてもらう必要がありました。ヒラスズキが捕食行動 新鮮に感じました。特にヒラスズキが水中を三次元的 を行わないことの要因は手術によるストレスというよ に移動し獲物を襲う様は、これまで扱ってきた動物と りかは、計測器が大きくてそれに慣れるまでに時間が は異なる躍動感と迫力を私に与えてくれるものでした。 かかっていることが考えられました。そこで、計測器 しかしながら、ヒラスズキの捕食行動を記録するこ と同じ大きさと重さのダミーを予めヒラスズキに挿入 とはなかなか思うようにはいきませんでした。という しておき、ヒラスズキがダミーに慣れてから、ダミー のも、ヒラスズキはビデオ撮影に好適な明るく開けた と計測器を入れ替えるようにしました。その結果、ヒ 環境ではほとんど捕食行動を行わないからです。ヒラ ラスズキは計測器の作動期間中に捕食行動を行うよう スズキの捕食行動の有無を判別するには、計測器が作 になりました。 動しているあいだビデオカメラでヒラスズキの行動を -6- こうしてヒラスズキの飼育をはじめてから約 8 ヶ月 間の試行錯誤の末、とうとう実験の目的を果たすこと 2016 年を迎え、実験に用いてきたヒラスズキに、改 ができました。時期はもう年の暮れであり、手術にし めて計測器を取り付け海へ放すことになりました。調 ても飼育の世話にしても手先の震えを抑えることが難 達した頃よりも一回り大きくなったヒラスズキは、元 しい時期でしたが、取り出した計測器に捕食時の加速 気に海へと戻っていきました。実験や飼育に手間がか 度が正しく記録されていることを確認できた時は大変 かっただけに、愛着の湧いた個体でした。ヒラスズキ 嬉しいものでした。 にしてみればとんだ災難ですが、私はまた捕獲される ことを心待ちにしております。 図 1.実験時の様子.上方一点と側方三点からヒラスズキの行動が撮影される. お知らせ 第 12 回日本バイオロギング研究会シンポジウム 飛龍 志津子 同志社大学) 平成 28 年 12 月1日( 木)-12 月 3 日( 土)の日程で,第 12 回日本バイオロギング研究会シンポジウムを同志 社大学 今出川校地にて開催いたします.たくさんのポスター発表の申込み、ありがとうございました.( 12 月 2 日のテーマ講演の様子は,小さい子供さん同伴でも参加いただける別室に中継する予定です.また子供 さんと一緒に休憩いただける部屋も用意しますので,ぜひご利用ください.シンポジウムの詳細は日本バイオロギ ング研究会HPからもご覧いただけます.皆様のご来場をお待ちしております. -7- ☆シンポジウム全体日程 テーマ講演 12 月 1 日(木) <10(:(40(–(11(:(10> 前夜祭企画( 「第2回女子会ワークショップ」 野生動物装着センサ用の時空間情報補正機構 男性の方も是非ご参加ください!参加費は無料です) 日時:2016 年 12 月 1 日 木)16(:(00(–(18(:(00( 場所:同志社大学今出川校地 オーガナイザー: 三谷曜子 寒梅館 東京大学生産技術研究所) <11(:(10(–(11(:(40> 地A会議室 画像認識・空間計測技術の最新動向とバイオロギング 北海道大学) 飛龍志津子 小林博樹 バイオロギング×情報科学」 への応用の可能性 同志社大学) 岡谷貴之 東北大学大学院情報科学研究科) 11「:「40「–「13「:「00 研究 昼食・幹事会 テーマ:「 研究者の Life を考える」 <13(:(00(–(13:(20> Work)が生活 文部科学省科学研究費助成事業 2016 年度新学術領域 Life)となっているのが研究 者の常ですが,研究以外の Life も楽しみたい,あるい 生物ナビゲーションのシステム科学」領域説明会 は,結婚,出産,育児,介護など様々なライフステー ※依田憲 ジで Life を回していく必要があるという研究者は多い <13(:(20(–(13(:(50> と思います.そこで,女性・男性関係なく,研究者に ヒトの日常生活センサデータ認識技術と動物データへ とっての Life を考えるワークショップを開催します. の応用の可能性 司会: 三谷曜子 北海道大学) 前川卓也 パネラー: 荒井修亮 京都大学) <13:50(–(14(:(20> 依田憲 名古屋大学) 名古屋大学大学院環境学研究科) 大阪大学大学院情報科学研究科) 小規模・大規模空間におけるコウモリの獲物探索ルー 酒井麻衣 近畿大学) トに関する実験的,数理的検討 木村里子 京都大学) 藤岡慧明 飛龍志津子 藤岡慧明 同志社大学) 同志社大学研究開発推進機構) 14「:「20「–「14「:「30 同志社大学) 休憩 <14(:(30(–(15(:(00> 経路データから鳥の対気速度ベクトルと現場の風を推 ※ 参 加 申 し 込 み (11/15 〆 切 ) は こ ち ら か ら 定する新手法:オオミズナギドリは横風を相殺して帰巣 https://goo.gl/forms/LBg7MIrUBAyvl0LO2 する 後藤佑介 東京大学大気海洋研究所) もちろん子供さんと一緒に参加いただいてOKです! <15(:(00(–(15(:(30> ナイトセッション 粘菌の探索行動の数理モデル 懇親会)も準備していますので, ぜひ合わせてご参加ください. 伊藤賢太郎 ※18(:(00〜@アマーク・ド・パラディ( 寒梅館 広島大学大学院理学研究科) 15「:「30「–「17「:「30 ポスター「 発表 P1 省エネ動作を考慮した 3G 通信を備えたツキノワグマ の観測首輪の検討 早川宙也( 長岡技科大),( 杉原匡人( KDDI 研),( ○山 本麻希 長岡技科大),( 山本寛 立命館大),( 山崎克之 長岡技科大) P2 動物搭載型採血装置を用いた鰭脚類の内分泌学的研究 ◎鈴木一平( 北大フィールド科セ),( 竹井祥郎( 東大大 動物たちの子育てもいろいろ.写真は夫婦で子育てを するペンギンの親子 写真:依田先生提供) 海研),(Ailsa(Hall 克文 セントアンドリュース大),( ( 佐藤 東大大海研) P3 12 月 2 日(金) 場所:同志社大学今出川校地 寒梅館 開鰾魚チャネルキャットフィッシュは流れに応じて浮 地A会議室 10(:(00(–(10(:(30( 開場・受付( ( 10(:(30(–(10(:(40( 開会あいさつ 力と遊泳方法を変化させる「 ◎吉田誠,( 山本大輔,( 佐藤克文 -8- 東大大海研) P4 P12 DNA 解析と行動解析から明らかになってきたオオミ 滑空する海鳥を用いた海面付近の風速勾配の推定 ズナギドリの婚外受精の実態 ◎米原善成,後藤佑介( 東大大海研) ,成岡優( JAXA), ◎坂尾美帆( 東大),( 高橋晃周( 極地研),( 武島弘彦( 総 佐藤克文 合地球環境研),( 佐藤克文 東大大海研) 東大) P13 P5 ボルネオ島サバ州沿岸におけるカブトガニの活動周期 省電力ロガー実現のための生物の行動認識に関する検 ○渡辺伸一( 福山大),Faridah(Mohamad,Azwarfarid( 討 Manca,Noraznawati(Ismail ○鮫島正樹,( 前川卓也( 大阪大院情報),( 菅原貴徳( 名 Terengganu) University(Malaysia( 古屋大院環境),( 西沢文吾,( 綿貫豊( 北大院水産),(Yong( Lindsay Pacific(Rim(Conservation),( 依田憲 名古 屋大院環境) P14 仲ノ神島で標識されたカツオドリの若鳥期における 回収海域および GLS による 1 個体の南下渡りと落鳥過 P6 程 3軸加速度計と機械学習による行動識別手法の構築 河野裕美,○水谷晃 ◎福田聡子( 東大院新領域) ,岩崎渉( 東大院理(・東大 依田憲 東海大沖縄地域研),山本誉士, 名古屋大院環境) 院新領域・東大大海研) P15 P7 繰り返し同じ採餌場所を利用するウミネコは適応的か 赤外線ビデオカメラと加速度・温度データロガーを用 ◎鈴木宏和,水谷友一,依田憲 名古屋大院環境) いたオオミズナギドリ雛の飛翔練習に関する研究 ○依田憲,塩崎達也,松本祥子( 名古屋大院環境) ,白 P16 井正樹 仲ノ神島におけるカツオドリの採餌行動 電力中央研) ,山本麻希 長岡技術大生物) ◎鈴木範星ダニエル( 東海大海洋),水谷晃( 東海大沖 P8 縄地域研) ,山本誉士,依田憲 生け簀内における養殖ブリの行動生態 野裕美 名古屋大院環境) ,河 東海大沖縄地域研) ◎森友彦( 東大大海研) ,宮村和良( 大分県農水研セ), 紫加田知幸,鬼塚剛( 瀬戸内水産研) ,佐藤克文( 東大 P17 大海研) 複数・同時的筋温測定によるバショウカジキの体温特 性 P9 ◎刀祢和樹,中村乙水 高加速度運動を選択的に記録する新規加速度ロガーの Sheng-Ping(Wang 紹介 Chiang 長崎大),Shian-Jhong(Lin, 国立台湾海洋大),Wei-Chuan( 台湾水産試験所),河邊玲 長崎大) ○西海望,松尾彩音,河邊玲( 長崎大) ,Nicholas(Payne Roehampton(University) ,Charlie(Huveneers P18 Flinders(University) ,渡辺佑基 コアホウドリの漁船追随行動「:画像と GPS 記録による 河端雄毅 国立極地研) , 長崎大) 解析 西沢文吾( 北大院水産) ,Lindsay(Young( Pacific(Rim( P10 Conservation) ,依田憲( 名古屋大院環境) ,南浩史( 国 ウトウの個体間での越冬行動の違いと生理的変化の関 際水産資源研) ,○綿貴豊 北大院水産) 連性 ◎島袋羽衣,高橋晃周( 総研大(・極地研),水谷友一( 名 P19 古屋大) ,綿貫豊 音響動態計測による群行動中のコウモリの衝突回避行 北大) ,新妻靖章 名城大) 動の分析 P11 ◎宮本聖,長谷一磨,山田恭史,岸本啓太( 同志社大), RFID「 チップを用いたアリの分業ダイナミクスの定量 伊藤賢太郎( 広島大) ,小林耕太,飛龍志津子( 同志社 的解析 大) ◎山中治,粟津暁紀,西森拓 広島大院理) -9- P20 ません.そこで,星図も磁石もないまま外洋に取り残 コウモリの飛行モード変換のダイナミクス されているようなバイオロギング研究者に対して,デ ◎近藤大,藤岡慧明,小林耕太,飛龍志津子 大) ,合原一究 同志社 筑波大) ータ解析の指針 希望)を与えられる座談会を開催し ます.多次元の時系列データや,ビデオ画像データの 解析はどのように行えば良いのか?バイオロギング研 P21 究者に必要なデータ解析スキルは?はたまた,生き物 3次元音響動態計測に基づいた野生コウモリの最適パ 好きの若者の参入障壁となる解析の高度化問題に教員 ッチ利用に関する検討 はどう対処すれば良いのか?データ科学の達人たちと ◎本居和也,( 濵井郁弥,( 藤岡慧明( 同志社大),( 福井大 の交流を通して,バイオロギング研究会の解析リテラ 東大),( 飛龍志津子 同志社大) 17「:「30「–「17:40 シーの底上げを目指します. 閉会あいさつ ☆シンポジウム参加費、懇親会費について シンポジウム参加費 18「:「00「–「20「:「00 懇親会 当日受付でお支払いください) ・研究会会員無料 French(restaurant(will( 寒梅館 7F)( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( (・非会員 ( 一般)3000 円 ・非会員 学生)1000 円 12 月 3 日(土) ワークショップ 懇親会費 バイオロギング×情報科学:座談会」 ★せっかくの機会にテーマ講演者とじっくり話しませ 当日受付でお支払いください) ・学生・ポスドク研究員 4000 円 ・一般 6000 円 んか?事前申し込み不要です! 領収証は,所属先宛てに参加費,懇親会費に分けてご 日時:2016 年 12 月 3 日 用意いたします.宛名にご指定のある方は,事前また 木)10(:(00(–(12(:(00( 9(:(30( 開場・受付) 場所:同志社大学今出川校地 オーガナイザー:依田憲 良心館 はお支払時にお知らせください. 408教室 名古屋大学大学院) ☆ポスター作成・発表要領について ポスターボードのサイズは 94cm( 幅)×175cm( 縦) シンポジウム講演者と、新学術領域「生物ナビゲー です.ポスターボードに掲示の番号の場所に,発表者 ションのシステム科学」計画研究代表者らを囲んで議 ご自身で掲示してください.ポスターを貼付するため 論,質問,データ解析相談などを行います. の押しピンは会場で用意しています.また発表のコア ビッグデータや AI が社会的にも産業的にも注目され タイムは,発表番号が奇数の方は前半の1時間 ています.一方,バイオロギングでは,大量のデータ (15:30-16:30) , 偶 数 の 方 は 後 半 の 1 時 間 を適切に解析する能力がますます求められています. (16:30-17:30)の予定です. こうした背景から,本シンポジウムのテーマ「バイオ また例年通り,ポスター賞( 1名)を選出します( 副 ロギング x 情報科学」のような,バイオロギングと情 賞あり) .審査対象は発表者が学生またはポスドク研究 報科学 員に限ります. データ科学)の邂逅は必然だったと言えるで しょう.本年度採択された大型プロジェクト,新学術 領域研究「生物ナビゲーションのシステム科学」もそ ☆寒梅館へのアクセス の一つです.そもそも動物の行動をデジタルデータ化 するバイオロギングの誕生時から,この流れは予想さ れていました.「ネイチャーインタフェイス第 6 号 2001 年,NPO ウェアラブル環境情報ネット推進機 構機関誌) 」では,内藤靖彦さんも執筆陣に加わり, 「生 ( 物と情報科学のコミュニケーション」という特集が組 まれています.また, 「 ( 動物たちの不思議に迫るバイオ ロギング 2009 年,京都通信社) 」でも,島谷健一郎 さんが統計モデルの,坂本健太郎さんがソフトウェア 開発の重要性を述べています.しかし,多くのバイオ ロギング研究者の解析能力が充分なものかというと, そうではないでしょう.また,バイオロギングとデー タ科学の専門家が交流する機会もいまだに多くはあり - 10 - 〒602-0023 京都市上京区御所八幡町 103 川上る西側 同志社大学寒梅館 烏丸今出 http://www.doshisha.ac.jp/information/campus/ access/muromachi.html JR 京都駅から京都市営地下鉄 烏丸線)に乗り換え, 「今出川」駅から徒歩約1分 本からは私も含めて 3 名です.ロシア語,英語の同時 通訳付き.日本の海棲哺乳類はロシアとつながりが深 いにもかかわらず,情報があまりないので,とても良 い機会となっています.しかし,街中は英語表記もな 京都は紅葉のシーズンですので,宿泊の手配をお早め にされることをお勧めいたします. く,一緒に参加している H さんに頼りっぱなし.ロシ ア語も勉強しないとなぁ.【YM】 シンポジウム実行委員長:飛龍志津子 ポスター賞審査委員長:依田憲 申し込み受け付け:藤岡慧明 ☆文部科学省科学研究費助成事業 2016 年度新学術領 域 生物ナビゲーションのシステム科学」領域説明会 のご案内※ 日時:2016 年 12 月 2 日 場所:同志社大学寒梅館 金)( 13:00〜 室町キャンパス) ヒトや動物が自分自身を目的地に導くことを「ナビ ゲーション」といいます.ナビゲーション能力の理解 は,学問分野を超えた重要な課題ですが,これまで系 統だった研究は行われてきませんでした.この「ナビ ゲーション」の仕組みを情報科学的に解明する大型融 合研究プロジェクト「生物ナビゲーションのシステム 科学」が文部科学省科学研究費 2016 年度新学術領域 の新規領域として採択され,新たに立ち上がることに なりました.また本領域では,計画研究の他に,複数 件の公募研究を広く募集する予定です.説明会では, 本領域設立の背景,目的,期待される成果,および公 募研究についてご説明する予定です.領域についての 詳細はこちらをご参照ください. (http://navi-science.org) 東北大学 橋本浩一 領域代表) 名古屋大学 同志社大学 依田憲( 飛龍志津子 編集後記 北海道に移って早 1 ヵ月,鯨類の目視調査では約 100 頭の群れに遭遇したり,直径が 40-50cm と本州よりも 大きなフキは,より一層と森を大きく感じさせてくれ ます.北の大地に溢れる自然に驚かされてばかりの刺 激的な日々を送っています. 【IS】 ロシアでの学会に来ています.米露のつながりで行 われている学会なので,米露の研究者がほとんど。日 - 11 - 【SK】 - 12 -