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菓子業界にみる限定商品に対する消費者心理
菓子業界にみる限定商品に対する消費者心理 ①――― はじめに ②――― 現状分析 ③――― 既存研究のレビュー ④――― 仮説 ⑤――― 仮説検証 ⑥――― 考察 ⑦――― 参考文献 天野愛子 大角仁美 篠原さくら 友成哲也 堀口晋太郎 立教大学 高岡ゼミナール 非耐久消費財 1 班 ① ―――はじめに ある。この消費者態度指数とは、今後半年間にお ける消費者の意識を表す指標のことである。詳し 本稿では、非耐久消費財である菓子業界に焦点を く説明すると、 「暮らし向き」 、 「収入の増え方」、 「雇 当て、現代の不況下における特性を踏まえたうえ 用環境」、「耐久消費財の買い時判断」などについ での限定製品に対する消費者心理を解明し、実証 て今後半年間にどう変化するのか、消費者の考 へと繋げることを目的とする。 え・意識を調査したものである。調査では、 「良く まず討論会のテーマである「不況に打ち勝つマー なる(1 点) 」、 「やや良くなる(0.75 点) 」、 「変わ ケティング」の“不況”を定義したい。 らない(0.5 点) 」、 「やや悪くなる(0.25 点)」 、 不況とは元来、有効需要の不足などが原因で経済 「悪くなる(0 点) 」の 5 段階評価で国民に回答し 活動が停滞している状況のことを指す。不況によ てもらい、点数を加重平均して指数にする。つま る影響には様々なものが考えられるが、その中で り、消費者態度指数は国民が感じている景気を反 も本研究では特に生産・消費の減尐に重点を置く。 映していると考えることができる。その消費者態 それを踏まえたうえで、本稿において“不況”と 度指数が、平成 18 年 12 月では 46 度であったもの は、消費者態度の低下と定義する。内閣府が発表 の、平成 20 年 12 月では 26 度まで低迷した。わず した「平成 20 年度消費者動向調査」によると、消 か 2 年間で 20 ポイントも低下したのである。そし 費者態度指数は平成 18 年 12 月を境に減尐傾向に て、21 年 9 月の時点で消費者態度度数は 40 度まで 1 持ち直したものの、依然として不安定であり、低 と思われる「内的参照価格」について触れる。続 い値ということができるだろう。つまり不況をき いて第 3 章において、既存研究のレビューとして っかけに消費者の消費に対する意識が低下してい 2007 年に発表された三村浩一氏の「限定品に対す ることがこの数値からも明らかである。よって本 る消費者の特性」、「限定品を購入する消費者の特 稿では、この状況を“不況”と定義する。 性」といった 2 点の論文を考察する。現状分析と 新光総合研究所の調べによると、東京証券取引 既存研究のレビューを踏まえたうえで第 4 章にお 所に上場する企業のうち 09 年 3 月期に本決算を迎 いて、私達が立てた 3 点の仮説について論じる。 える 1232 社の予測は、前期比の売上高増減率でマ 第 5 章ではその仮説を実際にアンケート調査を用 イナス 6.4%、経常利益増減率でマイナス 60.9%、 いて検証し、 第 6 章で実証そして提案へと繋げる。 純利益増減率ではマイナス 83.4%になると見てい 以上の構成をとって、本研究を進めていく。 る。しかし多くの上場企業が減収減益に苦しむ中 で、09 年 3 月本決算で 64 社が過去最高益を見込ん でいるという事実も存在する。それらの企業に共 ②―――現状分析 通している儲かるためのキーワードが「巣篭もり」 、 「内需」 、そして「低価格」である。この中でも特 1.リスク回避志向 に「低価格」というのが不況における流通業界の キーワードとなっており、各業界が低価格商品を まず初めに、不況下における日本人に多く見受け 打ち出すことに躍起になっている。その中で今回 られる特性として、 「リスク回避志向」について触 着目したものが“限定”と銘打たれた商品である。 れておきたい。アメリカ・イギリス・フランス・ 低価格商品が売れる不況下においても様々なシー ドイツ・イタリア・中国・台湾・インド・シンガ ンにおいて“限定”と表記された商品が数多く存 ポール・日本の 10 カ国を対象に 2001 年に実施さ 在する。個数限定で販売される家電や期間限定販 れたグローバル比較調査によると、日本は調査し 売の製菓や飲料、店舗限定販売の衣服など、その た 10 カ国の中で最もリスク回避の志向が強くなっ 業種は多種多様である。しかしこのような“限定” ているという結果が出ている。リスク回避とは、 という言葉が付随した商品の多くは、通常の商品 あるリスクに対してそのリスクの破棄・撤退を行 と比較して同等もしくはそれ以上の価格が付けら うことにより、リスクを抹消する行為のことを指 れていることが多い。低価格商品が台頭している す。リスクの存在と直面した際にリスク回避を行 不況下においてこういった“限定”商品は、果た う志向が日本では特に多く見受けられ、このリス して成功しているのだろうか。私たちは前述のよ ク回避志向は不況下においてさらに強く表れると うな疑問を感じ本研究においてそれを解明し、ビ 予想される。前述したグローバル比較調査におい ジネスモデルとして抽出することを目的とした。 てされた質問をここで挙げたい。「借りに手元に 以上のような観点から、本論文では以下のような 100 万円あったとして、1 年後に 150 万円になる確 構成をとる。 率が 50%、50 万円になる確率が 50%の金融商品が手 第 2 章では主に現状分析を行う。不況下における 元にあるときにどうするか。」という質問に対し、 消費者の特性である「リスク回避志向」と菓子業 「投資する」が 87%を占めた中国の結果とは対照的 界に見る限定製品、また、価格面で関係性がある に、日本では「1 円も投資しない」という回答が 6 2 割を超えるという結果になっている。このデータ る限定商品に対する消費者行動」の研究である。 より日本人がいかに安全志向でリスク回避型であ るかがうかがえる。日本よりも失業率が高く、格 2.菓子業界における限定製品 差化が進んでいる国々に比べ、日本人のリスク回 避志向は明らかに過剰なものである。こういった 続いて、不況下における限定商品に対する消費者 現状になった要因として、バブル崩壊による株価、 の行動に関する調査として 2 点のアンケート結果 地価の暴落といった資産価値の下落、企業のリス を示したい。 トラや終身雇用制の崩壊など人的資産の崩壊とい 株式会社アシェット婦人画報社が行った調査によ ったものが挙げられる。これらの要因は全てバブ ると、以下のような結果が得られている。アシェ ル崩壊期の 90 年代初頭に起因するものであり、現 ット婦人画報社は 2009 年 8 月 17 日(月)-8 月 19 日 在の不況下と酷似した状況下において発生したも (水)、25-39 歳の働く女性 400 名を対象とし、 「思 のである。つまり現在の不況下において日本人の わず購入したくなる、うたい文句はなんですか」 リスク回避志向は高まる一方であり、このリスク という調査を行った。その調査を通じて、 「限定品」 回避志向に着目する有効性として挙げられるので が 59.5%、 「おトク」59%、 「日本未発売」36%、 「ラ はないだろうか。このリスク回避志向は投資など グジュアリーブランド」8.8%、 「コラボ」5.3%「そ の経済的な要因として使われることが多いが、こ の他」6.3%ということが分かった。このことから、 れは一般的な消費者にも同じことが言えると私た 不況下においても「限定」という言葉に消費者が ちは考える。不況下におけるキーワードとして前 大きく反応するということが伺える。そこで、本 述したものが「内需」、「巣篭もり」、「低価格」で 稿では、限定商品に対する消費者の反応を研究対 ある。こういったキーワードを含んだ商品や戦略 象とし、 「限定」という言葉を有効的に使うことに に含めた企業が成功しているのにも、やはり日本 よって、消費者の購買意欲をいかにしてあげるこ 人特有のリスク回避志向に起因していると思われ とができるかを探求したい。消費者の購買意欲を る。消費者はリスクを回避するために消費に対し 高めることは、消費者指数を上昇させることに繋 て手堅い意識を持っている。低価格な製品が売り がり、その結果、上記で定義した“不況”を打開 上げを伸ばしていること、国外への需要が減り国 できると考えられる。 内での需要が高まる「内需」が注目されているこ また、全国の DIMSDRIVE モニターである男女 4659 と、また外出せず家などに籠もって外食やレジャ 人に 2007 年 6 月 14 日から 21 日までの期間で行っ ーを避ける傾向にある「巣篭もり」に企業が着目 たアンケートからは以下のような結果が得られて していることなども日本人特有のリスク回避志向 いる。 「限定と聞いて思わず購入してしまうものは が存在しているからなのではないだろうか。この 何ですか?」という調査であり、その調査の結果、 リスク回避志向については仮説検証以降で詳しく 「お菓子」が 932 人、 「スイーツ」が 502 人、 「食 触れていきたい。 べ物全般」が 319 人、 「化粧品」が 200 人、 「衣服」 まとめると、この不況下において私たちは“限定” が 196 人、 「アルコール飲料」が 186 人、 「CD」が という言葉に着目し、リスク回避志向の高い日本 165 人、 「お土産・地域限定」が 150 人、 「チョコレ における消費者心理に焦点を当てたということで ート」が 148 人、 「飲み物全般」が 148 人というこ ある。よって、本稿の研究課題は「不況下におけ とが分かっている。この調査結果から見ても明ら 3 かなように限定という言葉を聞いて消費者が購入 商品がランクインしていることがわかる。数多く 意欲を高める商品として最も多くの票を集めたの の定番商品が人気を博する中で期間限定等と銘打 がお菓子であり、また 3 位の「食べ物全般」 、8 位 たれた商品が名を連ねていることがうかがえる。 の「お土産・地域限定」 、9 位の「チョコレート」 この売上高の推移からもわかるように 1 年間で にもお菓子が含まれていると考えると、やはり、 様々な企業から様々な商品が発売される中、期間 お菓子における限定という表記に消費者が最も興 限定と銘打った商品が数多くランキングに名を連 味を示していることがわかる。ここから私達は、 ねていることがうかがえる。 限定製品の中でも消費者のニーズが最も強く感じ 前述のアンケート結果及び売り上げの推移から私 られる菓子業界に着目し、菓子業界における限定 達は、不況下において菓子業界が安定した業績を 商品の消費者行動について研究していくと決めた。 保っている一要因として限定商品の販売が挙げら 以上を踏まえて、次に菓子業界の現状について分 れるのではないだろうかという問題意識を持ち、 析していきたい。JMR 生活総合研究所の食品ビジネ 不況下における菓子業界の限定商品を今回の研究 スユニットの代表である山田朗彦氏による「製菓 対象とすることにした。 業界の研究」によると、製菓業界における生産量 この問題意識を踏まえたうえで続いて現在販売さ 及び生産金額は 1997 年をピークに年々減尐傾向の れている限定商品についての現状分析を行いたい。 一途をたどっている。しかし統計局による平成 20 数多く販売されている限定商品は消費者・ユーザ 年家計調査によると、家庭での菓子の消費状況は 1 ーと流通の大きく 2 つに分けることができる。消 カ月で 4,187 円、1 年間で 5 万円の支出となってお 費者・ユーザーにあたる限定商品として挙げられ り、食費全体の約 6.9%を占めている。平成 2 年の るのが主に期間、数量、地域の 3 つであり、流通 1 カ月 5,288 円の支出をピークに減尐傾向にあるが、 にあたるのが小売等のチャネルである。これらの 平成 13 年における 1 か月の支出 3,976 円を最後に 限定の区分を簡単に定義したい。期間限定とは季 近年は若干ではあるが上昇しつつある。このこと 節やイベントなどで区分してそれらのイメージを からも菓子業界は、不況における打撃を強く受け 喚起させる付加価値を付随して販売する手法であ ているわけではなく、成長している業界であるこ る。地域限定とは関東や中部・四国などのブロッ とがうかがえる。また矢野経済研究所による「流 クに区切り、そのエリア内限定で販売する手法の 通菓子市場による調査結果 2009」によると、2008 ことである。数量限定とは文字通り、生産数を制 年度の流通菓子市場は 2 兆 1,112 億円で、前年度 限して販売する手法のことである。チャネル限定 比 1.2%増とあり、このことからも菓子業界が不況 とは地域や期間とは別にチャネルごとに区分して 下において成長性の見込める業界であることがう そのチャネル内限定で販売する手法である。衣服 かがえる。 などを販売するアパレルブランドに多くみられる ここで菓子の中でも前述のアンケートにおいて単 手法である。 体で票数を獲得しているチョコレートに焦点を当 また限定商品には希尐性の法則が働くことにもこ て、このチョコレートの年間売上高のランキング こで触れておきたい。希尐性の法則とは、いつで に着目してみた。日経テレコン 21 における全国の もどこでも手に入るものは価値が低く、数が尐な 大手スーパーから集計した POS 情報の 2009 年 10 いものは価値が高いと考える、経済・生活行為の 月版によると、上位 25 位までのなかに 6 つの限定 中で人間が身につけている共通認識、常識のこと 4 である。 「今決断しないと無くなってしまう」 、 「数 が尐ないのだから価格が高いのは当たり前」、「尐 3 内的参照価格 ないからこそ他の人も欲しがるはず」など様々な 理由を考えることによって、充分な検討をするこ 次に限定製品においても関わりがあると考えられ となく購入へと繋げるという消費行動を取らせる る価格における現状分析を行っていきたい。今回 ことになる。このような特殊な心理状態にする響 私達が着目したものとして消費者が価格の高低の きが“限定”という言葉に含まれているのである。 基準として使用する「参照価格」が挙げられる。 ではそもそもなぜ“限定”商品を販売するのであ 参照価格とは、定価や市場価格との比較において ろうか。大きく分けて限定商品を販売する理由を 2 使用される価格のことである。またこの参照価格 つあげることができる。まず、全国販売に先駆け は大きく分けて二種類に分けられる。それが外的 て試験的に行われるマーケティングを目的とした 参照価格と内的参照価格である。この二つは価格 限定商品である。これは売れないリスクを軽減さ 判断をする際に重要な指標となるものであり、今 せる目的として限定商品を販売する。つぎに、消 回、この中でも後者に挙げた内的参照価格に私達 費者の購買意欲を高める目的である。消費者があ は着目した。 る製品を購入するまでのプロセスは問題意識、情 内的参照価格とは売買価格として表記されている 報探索、評価・選択、購買、購買後評価の順で行 外的参照価格を基に、消費者が自己の意識の中に われる。このプロセスにおいて、一般的に家電や 形成する購買基準となる価格のことである。棚や 家具などの耐久消費財であれば、1 つの製品の価格 ラベルに表記された価格、つまり外的参照価格を が高いという点、耐用年数が長いという点からも 通して、消費者は客観的価格を取得する。それら わかるように、問題意識や情報探索に時間がかけ の行為を何度か繰り返し、その商品の品質等を考 られるのが通例である。しかし食品や日用品など 慮した上で、消費者はその製品に対して妥当性を の非耐久消費財においては、耐久消費財と比べる 形成する。そのようなプロセスを踏むことによっ と問題意識や情報探索に対して消費者がかける時 て、その製品が割安か割高かを判断する基準とな 間の比重が尐なくなるという傾向がある。そこで る主観的価格を意識の中に形成する。つまりこれ 評価・選択という点における付加価値が重要とな が内的参照価格である。この内的参照価格よりも ってくる。つまり“限定”という言葉を商品に付 安い値段表示を見ればその製品を割安だと感じる 随することにより、プロセスの中の評価・選択に し、同様に、高い値段表示を見ることによってそ おける効果的な付加価値となり得るのである。 の製品を割高だと感じてしまう。 またこの“限定”という言葉は文字通り、期間や 消費者はこの内的参照価格と実際価格との差異の 数量などといった枠組みの中である程度の期間が 大きさによってリスクマネジメントを行う。この 限られていることを指す。つまり購買プロセスに 事実を説明する上で内的参照価格の特性のひとつ おいて問題意識や情報探索に時間を要する耐久消 であるプロスペクト理論について論じる。 費財と比べて、評価・選択に重点を置く非耐久消 このプロスペクト理論とは、意思決定理論の一つ 費財において、この“限定”製品について研究す であり、リスクを伴う決定がどのように行われる ることがより有効性を言えるのではないかと考え かについての理論である。そのモデルは極めて記 る。 述的であり、最適解を求めることよりも、現実の 5 選択がどのように行われているかをモデル化する 証研究である。研究内容である消費者の特性とし ことを目指す。当理論は 1979 年にダニエル・カー ては、消費者の心理的特性を取り上げている。こ ネマンとエイモス・トベルスキーの両氏によって の心理的特性として大きく分けて「心理的リアク 期待効用仮説に対する心理学的に、より現実的な タンス」と「相互協調的・独立的自己観」の 2 点 理論として展開された。当理論によると内的参照 に絞られている。また研究対象として関与度の高 価格が実際価格より高ければ消費者は商品価値を い「キャラクター・フィギュア」、関与度の低い「お 実際より高く感じているので割安となる。逆に内 菓子」の 2 点に絞られてあり、対象商品に合わせ 的参照価格が実際価格より低いと消費者が感じて て対象者も前者を愛好者、後者を一般的な大学生 いるのであれば、価値判断が低いと設定されてい と設定している。この研究より明らかになったこ るため割高となる。またこれを価値関数に置き換 とが大きく分けて 4 点ある。まず一つ目として、 えて考察した際に、消費者は得をした時よりも損 限定製品として選択される傾向にある商品特性は、 をした時の方が、より心理的に強い影響を受けて 関与度の高い製品カテゴリーにおいては、当該商 いることも当理論において言われている。このプ 品ブランドやメーカー等の所有経験を有するもの ロスペクト理論も先述したように、日本人独特の であるということを挙げている。つまり所有して リスク回避志向の強さを踏まえると、不況下にお いる商品と同じ属性の商品を購入することで、所 いて如実にその結果が表れていると考えられる。 有商品のバリエーションを増やし、効用を保持ま リスクに対して敏感であり、そのリスクをなるべ たは増大させていると考えているのである。 く回避しようとする傾向にある現代の状況におい 二つ目の結果として、消費者が限定製品を購入す て、消費者は当理論で述べられている通り、得す る際に共通する理由について明示している。その ることよりも損をしないことを選択する傾向にあ 理由として「商品に対する愛好度」と「希尐性を る。 伴う限定性」の 2 点が挙げられている。また限定 私達はこの内的参照価格が限定製品に関わってく 商品を選択する消費者は 4 タイプに分類されるこ るのではないかという疑問を持ち、現状分析にお とができるとされている。その分類は「限定キャ いて当概要を記載した。どういった経緯でこの内 ラクター愛好者」、「キャラクター愛好者」、「希尐 的参照価格に着目したのか、その動機については 品愛好者」 、 「煽られ・道連れ派」の 4 種類である。 第 4 章の仮説において詳しく述べる。 研究成果の三点目として、限定商品を選択する傾 向にある消費者のデモグラフィック特性は「女性」 であるという点が挙げられる。女性に比べ男性の ③―――既存研究のレビュー ほうが買い物に慣れていないためブランドに頼っ たヒューリスティックな購買行動を行う傾向があ ここで限定製品に関しての既存研究として三村浩 り、女性のほうが限定商品のような通常品と差異 一氏の「限定商品を選択する消費者の特性」とい のある商品を認識できるからであるとこの論文で う論文が挙げられる。 は考えられている。 この既存研究は、期間限定や数量限定等、提供さ 最後に 4 点目として、限定商品を選択する傾向に れる商品やサービスを制限された商品を選択する ある消費者のパーソナリティ特性は、 「心理的リア 消費者の特性を明らかにすることを目的とした実 クタンス」尺度における「自由への脅威因子」と 6 「相互協調的・独立的自己観」尺度における「集 心理状態が大きく影響を与えていると論じ、それ 団同調因子」の 2 点であると表記されている。こ によって消費者がもたらす限定品に対する思考を、 れらの特性がある消費者として、 「心理的リアクタ 仮説を立てて検証へと導いている。また同論文に ンス」の影響を受け、準拠集団への帰属の動機か おいても前述した同氏による論文と同様に、限定 ら限定商品を選択する消費者を挙げている。 商品を購入する割合が高いのは「女性」であると 当論文においては以上の 4 点の資格を踏まえたう いうこと、消費者が限定品を選択する理由には、 えで、尺度に基づき測定された消費者の特性を提 商品やブランドに対しての愛好心が存在すると仮 示し、考察を行っている。また最終的に、限定商 説を立てている。 品販売の方策の策定に向け、企業が実施すべきマ 以上の二つの既存研究から分かることとして、限 ーケティング活動についての提案を行い、論文の 定製品に対しての購買意欲には消費者の心理状態 終着としている。 が大きく影響していること、また、限定製品を購 また同氏による「限定品を購入する消費者像-心 入する消費者の特性として、通常製品に対する愛 理的リアクタンス理論から見えるパーソナリティ 着度が購買に影響を与えることが挙げられる。 性-」という別の論文においても限定品について しかしここで疑問点及び当研究において言及され の研究がなされている。 ていない懸念点が生じる。まず初めに限定製品に この論文において、商品やサービスを限定する理 対する購買意欲に消費者の心理状態が影響をもた 論的な根拠として、TEASE 理論と心理的リアクタン らすことはわかるが、では逆に、 “限定”という言 ス理論の 2 点が挙げられている。前者の TEASE 理 葉によって消費者の心理に影響をもたらすことを 論とは Brown が 1999 年に提唱した理論のことであ 実証できればそれはマーケティング活動において る。 「限定品にすること」で、顧客のニーズをあえ きわめて有効的な研究結果と言えるのではないだ て満たさず、商品を手に入れたいという欲望を増 ろうかということ。次に、通常製品に対する愛着 大させる。購買意欲をかきたてられるのでそれに 度が無いとしても“限定”という言葉の付随がリ 伴い売り上げは増えるという内容である。続いて スク回避に起因するのではないかということであ 後者の心理的リアクタンス理論は前述した一つ目 る。以上の 2 点の疑問点として既存研究を考察し の論文内でも取り上げられていた理論である。 た結果、導き出し、これを仮説へと繋げる。 1966 年に Brehm によって提唱された同理論によれ ば、リアクタンスとは、 「失われた自由を回復しよ うとする、または失われた自由を確保しようとす ④―――仮説 る動機付け状態」のことを言う。限定品は消費者 にとって代金を支払いさえすれば自由に入手でき 前章に示した 2 つの論文からもわかるように、限 るというものではないと論じている。また、複数 定商品を購入する消費者心理には特有の心理状態 ある選択肢の中から一つの選択肢が奪われると、 が付随していると考えられる。 選択の自由を脅かされると感じ、取り除かれる選 つまり既存研究から考察できることとして、消費 択肢に対しての価値が増大して認知されるという 者には限定商品に対する心理的な特性が存在する ことも同様に論じてある。 こと、またそれらを活かすことによって、効果的 同論文においては消費者の特性には前述の 2 点の なマーケティングが行われているということが挙 7 げられる。こういった限定商品に対する心理特性 を下げずにいれるかどうかを検証していく。つま は様々な分野で使われていると推測し、菓子業界 り消費者の内的参照価格が“限定”という言葉に においてもこの特性を有効的に活用していると私 よって上がり、その結果、限定製品に対してある 達は考えた。この特性を有効的に活用されている 程度の値段の変動が消費者にとって許容範囲に収 とすれば、つまり、菓子業界が成長している一要 まることをアンケート結果によって検証していく。 因として挙げることができるのではないだろうか。 これらの仮説において消費者の心理が最も如実に また、先ほど現状分析において取り上げた内的参 現れると思われる業界として私達は前述した菓子 照価格が限定製品に関わると考えることによって 業界に焦点を当てた。菓子業界に着目した理由と 新たな仮説を立てることが出来る。つまり“限定” しては第 2 章の現状分析において明らかにしたが、 という言葉を付随することによって消費者の価格 それと別の理由として、この菓子業界における“限 マインドに変化を与えることが可能であると考え 定”商品の品数の多さと、対象としている 20 代の たのである。 “限定”という言葉が付随した商品に 男女に対しての身近さ等も考慮に入れていること おいて消費者は、その言葉の付随から無意識に自 をここで触れておきたい。 己の当該製品に対する内的参照価格を上げている のではないかと考えられるのではないだろうか。 以上の考察と日本人特有のリスク回避志向を含ん ⑤―――仮説検証 だ不況下である現状を踏まえたうえで私達は以下 のような 3 点の仮説を立てた。 そこで私達はこの 3 点の仮説検証を行うために、 実際に菓子を頻繁に購入するであろう 20 代の男女 (1)“限定”という言葉を付随させた商品に対して、 を中心に対象としたアンケート調査を実施し、菓 消費者は購買意欲を向上させる。 子に対する“限定”という言葉の付随においての (2)“限定”の表記方法の違いが消費者の購買意欲 消費者心理を見出し、それを基に現在不況下にお に影響をもたらす。 ける“限定”商品の特性を明らかにしていく。 (3)“限定”商品において消費者の内的参照価格は 今回、私達は、菓子における限定商品への消費者 無意識に高まる傾向がある。 の心理を調査することを目的とし、簡単ないくつ かの質問を 20 代の男女中心に調査した。期間とし (1)では既存研究においても明らかにされている て 2009 年 11 月 16 日~18 日の 3 日間に絞り、最 ように“限定”という言葉を商品に付随させるこ 終的に有効回答数 452 人で男 176 人、女 276 人と とにより、消費者が心理的にその商品に対して普 いう結果になった。以下、アンケートの調査結果 段以上に購買意欲を向上させることを検証してい をまとめていきたい。 く。 Q1.あなたはお菓子をどれくらいの頻度で買いま (2)では“限定”という言葉をはっきりと表記する すか? こととそうでない場合における消費者の心理を探 毎日――76 票 る。 週 2~3 回――208 票 (3)では“限定”という言葉の付随によって消費者 週 1――110 票 が通常の商品よりも高価格である場合に購買意欲 月 1――32 票 8 ほぼ買わない――26 票 尐し買いたい――216 票 Q2.お菓子の限定品のなかでぜひ買いたいものは あまり買いたくない――122 票 何ですか 買いたくない――30 票 期間限定――258 票 無回答――18 票 数量限定――64 票 Q8.通常 100 円の菓子があるとします。これの限定 地域限定――120 票 製品が販売された際にあなたが想起する価格はい 無回答――10 票 くらですか。 Q3.では実際に一番良く購入するのはどれですか 95 円――20 票 期間限定――364 票 100 円――5 票 数量限定――12 票 110 円――149 票 地域限定――54 票 130 円――167 票 無回答――22 票 150 円――108 票 Q4.よく買うお菓子の限定品が出たらあなたは購 無回答――3 票 入しますか Q9.期間と数量が明示されている商品の方がより ぜひ買いたい――154 票 限定感を強く感じますか 買いたい――122 票 強く感じる――182 票 どちらでもない――114 票 感じる――182 票 あまり買いたくない――16 票 どちらとも思わない――42 票 買わない――36 票 あまり感じない――24 票 無回答――10 票 感じない――12 票 Q5.売り場で“限定”の表記を目にしたときあなた 無回答――10 票 は気になりますか Q10.期間限定商品において「冬季限定」のように とても興味をひかれる――118 票 “限定”が明示されているものと「栗・マロン」 興味をひかれる――238 票 といった季節を想起させる単語の付随とではどち どちらでもない――40 票 らのほうに強く限定感を感じますか あまり興味をひかれない――36 票 限定とはっきり書かれているもの――286 票 興味をひかれない――12 票 イメージを想起させるもの――158 票 無回答――8 票 無回答――8 票 Q6.“限定”であることにひかれて普段買わないお 菓子を購入したことがありますか 以上のような 10 の質問を行い、その結果を集計し ある――346 票 た結果、私達が立てた仮説を実証する上で有効的 ない――96 票 な興味深い事項を確認することができた。 無回答――10 票 まず Q1 からもわかるように 20 代の男女において Q7.限定品であれば多尐価格が高くても買いたく お菓子に対してのニーズは存在し、お菓子を普段 なりますか 購入していることが明らかになっている。このこ 買いたい――66 票 とからも今回菓子業界に焦点を当てた有効性が言 9 えるだろう。 ない製品であるため、その製品の味や特性などを 続いて Q2 及び Q3 から汲み取れることとして、20 消費者は購買以前は経験したことが無い。その状 代の消費者はお菓子において期間限定という言葉 態において通常、消費者にはリスクを回避するた に魅力を感じ、実際に最も高い頻度で購入してい めに普段購入している、特性を経験したことのあ ることがわかる。菓子におけるイメージとして数 る製品に流れる傾向がある。しかいこのアンケー 量限定を謳った製品はあまり見受けられないが、 ト結果ではその傾向とは逆に購入に至ったケース それと比較して期間限定、地域限定の製品が数多 の方が購買を控えたケースを圧倒していることが く存在していること、また、より身近に購入でき 見て取れる。つまり“限定”という言葉の付随に るという2てんから考察すると、消費者にとって よって、消費者の心理にリスクを負うことの危険 お菓子における“限定”とはつまり期間限定であ 性を緩和させる効果があることがわかる。 ることがこの結果からわかる。 また Q6 と同様に Q7 及び Q8 においても面白い結 次項の Q4 からは実際にお菓子における限定品に 果を得ることが出来た。Q7 における質問において、 対しての消費者の購買意欲に関する調査を行った 限定製品に関する消費者の価格に対する認識が見 結果である。まず Q4 からわかることとして、消費 えてくる。こちらも多尐ではあるが通常商品と比 者は普段購入している通常商品の限定の味やパッ 較した場合に多尐高い価格のものでも購買意欲が ケージなどの製品が発売された際に尐なくともそ 高いまま維持することが出来ている。これは“限 の製品に対して興味を示していることがわかる。 定”製品がもたらした価格に対する認識の違いな またそれと同様に結果から明らかなことは、その のではないだろうか。また Q8 において、消費者が 興味が実際に購買へと繋がっているということで “限定”という言葉の付随とともに無意識に製品 ある。普段購入しているというベースが存在する の内的参照価格を上げていることがわかる。通常 ため、消費者はこの商品に対してのリスクをいく の製品における内的参照価格が“限定”製品にな らか軽減出来ている。つまりある程度の安心感も ることにより意識の中で上書きされ、通常よりも 付随されているため、この限定商品に対する興味 高い価格を内的参照価格として受け入れる傾向が もそれに伴い、向上していると言える。よってそ 消費者に見られることがわかる。つまり“限定” れが実際に購買に繋がっているのである。 製品において内的参照価格は上がることがわかり、 また Q5 においても Q4 における私達の考察を裏付 価格の変動に対して消費者は柔軟であることがう ける結果を得ることができた。 “限定”という言葉 かがえる。 に対して消費者は興味を示していることはこのけ 続いて Q9 と Q10 における 2 つの質問についてで っかからも明らかである。 あるが、この 2 つの事項から、 “限定”の表記方法 続いて興味深い結果を得ることができた事項が によって消費者に与えるインパクトに変化がある Q6 における回答である。“限定”という言葉の付 ことがうかがえる。やはりはっきりと“限定”と 随によって普段買わない製品までも購入している いう言葉を表記し、より期間や数量を明確に表示 という結果を得ることが出来ている。ここから考 することによって、消費者はその商品に対しての 察できることとして、先ほど挙げたリスク回避の プレミアムな印象を強める傾向があり、効果的に 特性を“限定”という言葉の付随によって、緩和 “限定”感を打ち出せることがわかる。期間や数 させているということがうかがえる。普段購入し 量をはっきりと表記すること、 “限定”の 2 文字を 10 パッケージに明確に表記することによって、消費 た商品は、消費者の購買意欲を向上させるか」に 者の心理に「今しか無い」、「早くこれを買わない ついてだが、これは計画的購買においても同じよ と無くなってしまう」という感情を想起させる効 うに言えると考える。ここで「計画的購買」のス 果があることをうかがうことが可能である。 タイルを消費者がとる非耐久消費財の一例として 以上のようにアンケート結果からあらゆることを 化粧品業界を見てみる。池袋西武ジバンシィの うかがうことが可能である。今章で明らかになっ 1998 年 7 月度から 9 月度の売り上げ推移を見ると、 た検証結果を踏まえると、私達が立てた三つの仮 7 月が 250 万円、8 月が 300 万円の売り上げに対 説はすべて実証されたと言える。 して、限定コフレを販売した 9 月度には 512 万円 また検証を行った結果、仮説に有効性を見出すこ と売り上げが増加している。このように「計画的 とが出来たことを踏まえれば、仮説検証の際に焦 購買」のスタイルをとる業界においてもやはり“限 点を当てた菓子業界において、限定製品の存在は 定”という言葉は消費者に魅力を与え、購買意欲 成長の一要因として挙げることが出来ると言える を向上させていること、またそれが実際の売上に だろう。 繋がっていることがうかがえる。 続いて仮説 2 の「 “限定”の表記方法の違いが消費 ⑥―――考察 者の購買意欲に影響をもたらす。 」という点につい てだが、これはおそらく当てはまらないと言える 以上の仮説検証を踏まえたうえで本研究の考察に のではないだろうか。第 2 章で示した消費者の購 入りたい。 買スタイルにおいて、 “限定”の明示は 3 番目のプ 仮説を検証した結果、 “限定”製品の菓子業界にお ロセスである「評価・選択」の部分により強く影 ける消費者心理は解明することが出来た。しかし、 響していることがわかっている。 「計画的購買」に これはあくまで菓子業界に焦点を当てた検証によ おいては「評価・選択」といったプロセスよりも って得られた結果であり、これがそのまま全ての その以前の「問題意識」、「情報探索」において焦 製品に当てはまるとは言い切れない。そこで他業 点が当てられると考える。つまり、計画的購買を 界における汎用性について検証するために、仮説 主とする製品にとって、 「評価・選択」の重きが置 検証基に考察していく。 かれていないため、この仮説 2 は有効的なもので まず非耐久消費財の購買方法として大きく分けて はないと考えられる。 2 種類に分けることが可能であると考える。一つが では第 3 の仮説である「 “限定”商品において消費 「衝動買い」、もう一つが「計画的購買」である。 者は内的参照価格を向上させる傾向がある」に対 今回焦点を当てた菓子業界においては、前者の「衝 してはどうだろうか。これも前述の仮説 2 におい 動買い」が当てはまるだろう。そして、今回仮説 て示したのと同様に、購買プロセスから考察する 検証した結果、私たちが立てた仮説が実証され、 と、 「衝動買い」と「計画的販売」の 2 つではアプ よって、この仮説が「衝動買い」という購買スタ ローチ方法が違うことがうかがえる。 「衝動買い」 イルにおいては当てはまることが分かる。では、 においてはやはり購買プロセスにおける「評価・ 後者で挙げた「計画的購買」において、前述した 3 選択」の際に、消費者は限定製品に対しての内的 つの仮説は当てはまるのだろうか。 参照価格を発生させる。またこの内的参照価格は まず一つ目の仮説「 “限定”という言葉を付随させ 一時的なものであることが言える。つまり消費者 11 は通常製品 A に対して既に内的参照価格 A を保持 く見受けられる。家電における折り込みチラシに している状態で、限定製品 B を目にする。すると、 表記された「限定○○台限り」といった訴求広告 消費者の心理に内的参照価格 B が生まれ、この A や、北海道限定や沖縄限定のお土産として知名度 と B の二つの内的参照価格を比較・検討した結果、 を上げた「花畑牧場生キャラメル」や「じゃがポ 通常製品 A と比較して限定製品 B が割安であると ックル」などがこの「情報探索」のプロセスにお 考え、購買へとつながる。そして内的参照価格 B いて限定であることの効果を発揮する具体的製品 は購買後、内的参照価格 A を上書きすることなく 例である。このような製品と比較して、特に菓子 消失するものであると思われる。しかし「計画的 業界に多く見受けられるものである期間限定製品 販売」において、消費者の心理に内的参照価格が はコンビニやスーパーなどのチャネルに消費者が 発生するのは、購買プロセスにおける「情報探索」 足を運んだ際にたまたま限定の表記を目にし、そ の部分である。この「情報探索」の時点で限定製 こで「評価・選択」を行い、購買につなげるケー 品 B に対する内的参照価格を形成し、通常商品 A スが多いと考えられる。 に対する内的参照価格 A を上書きした状態で、消 よって以上の考察をまとめると、本稿で提唱した 費者は商品の購入へと導く。このように「衝動買 仮説が最も強く当てはまるのは、限定製品の中で い」と「計画的販売」の 2 点において、内的参照 も衝動買いを購買スタイルとした期間限定製品で 価格発生のプロセスが違うことが言えるので、こ あることが言える。 の仮説 3 は一概に、 「計画的販売」の製品や業界に 菓子業界において、限定製品が効果的に販売され おいて有効的であるとは言えないと私たちは考え ていることが分かり、菓子業界の成長要因として た。 この限定製品の存在があると言えた。また仮説 3 以上のことから、本研究において私たちが提唱し において提唱した「 “限定”製品において消費者は た仮説は、 「衝動買い」といった購買スタイルをと 内的参照価格を上げる傾向がある」がというもの る非耐久消費財に当てはまるものであり、これは が、日本における不況下において友好的なもので 「計画的販売」を購買スタイルにとる製品におい あると言えるのではないだろうか。日本における ては必ずしも当てはまるものではないことがうか 不況下においてリスク回避志向という特性が存在 がえる。 することは現状分析において論じた。このリスク またこの結果をさらにセグメントしていくことに 回避志向によって日本人は不況下において消費に する。 「衝動買い」という販売スタイルをとる製品 対して手堅くなっており、低価格な製品を購入し、 の“限定”製品は主に期間限定に特化されている 経験の無い製品に手を出すのを控える傾向が見ら ことが分かる。これもまた、購買プロセスに起因 れる。このような状況下において仮説の 3 のよう していることがわかる。 「衝動買い」の製品におい な内的参照価格に関わる提唱を有効的に使用する て“限定”という言葉が最も効果を発揮するのは ことによって、不況下における新たなマーケティ 「評価・選択」の時であり、この「評価・選択」 ング手法になり得ると言える。 “限定”といった言 において期間限定製品が最も身近で最も効果を発 葉を付随させた製品において消費者が内的参照価 揮する限定製品であることがわかる。地域限定製 格を一時的に上げることができるのであれば、限 品や数量限定製品に関しては、購買プロセスにお 定製品において低価格にする必要性がなくなると ける「情報探索」において効果を発揮する例が多 いうことになる。何故ならば消費者は内的参照価 12 格を上げるとともに、その限定製品に対してプレ 財と他の財におけるマーケティング手法の違いを ミアム感を感じている。つまり、そういった心理 明らかにすることが今後の課題である。今後の課 が生まれている状況なので、限定製品に対して通 題を明確にしたことで、本研究の結びに変えさせ 常製品と比較して、ある程度高価格な価格を打ち ていただく。 出しても消費者の価格弾力性は小さいまま保つこ とが可能であり、この不況下において有効的な戦 略になると言えるのではないだろうか。 ⑦―――参考文献 また、企業側からの視点で見ると、限定製品を販 売する理由として、消費者の購買意欲を高める目 ・内閣府[2009]『平成 20 年度消費者動向調査』 的があることは現状分析において明らかになって ・『新光証券取引所ホームページ』 いる。限定製品とは元々ある程度の売り上げを約 (http://www.shinko-ri.co.jp/sitemap/index.html) 束されたベースとなる通常製品の存在があってこ ・『新規開拓.com ホームページ』 そ成り立つものである。つまり通常製品における (http://www.shinki-kaitaku.com/) ユーザーを同じ味やパッケージで飽きさせない為 ・J Marketing-net[2009]『世界の消費リーダー~グロー の対策の一つでもある。この消費者を飽きさせな バル調査 10 カ国比較より~』 いという対策はどのような業界においても活用さ (http://www.jmrlsi.co.jp/concept/report/consumption/g0 れていると思われる。本稿で提唱した仮説は主に 4.html) 非耐久消費財における汎用性は見られる。しかし ・J CAST ニュース[2008]『巣篭もり、内需、低価格~大 例えば、サービス業のような無形財においては、 不況でも儲かる会社のカラクリ~』 いくらか違った特性が見られる。 (http://www.j-cast.com/2009/02/16036013.html) お菓子のような製品においては様々な企業の様々 ・統計局[2009]『平成 20 年家計調査』 な製品が一同に介しているので、企業側としては ・株式会社アシェット婦人画報社[2009]『20-30 代働く女 自社の製品を選んでもらう為にも限定製品を販売 子のファッションに関する意識調査』 して自社に対する購買意欲を高める必要性がある。 (http://www2.hfm.co.jp/shop/information/media/20090 しかし、レストランやカフェなどのサービス業に 928000000.html ) おいては、その店舗や企業を消費者に選ばせてい ・ネットリサーチディムズドライブ[2007]『“限定”に関 る時点で企業側としては最低限の消費を約束され するアンケート』(http://www.dims.ne.jp/index.asp) ている状況になっている。つまり企業側からする ・Yahoo! JAPAN セカンドライフ[2007]『甘くない!製 と、最低限の消費をいかに高い位置まで持ってい 菓業界の研究』 くことができるかがカギとなる。つまり消費財と (http://secondlife.yahoo.co.jp/business/special/070604/p 無形財においては限定製品の打ち出し方、および age002.html) マーケティング手法自体が相違していることを踏 ・日経テレコン 21[2009]『売れ筋商品 まえることが必要である。本研究において提唱し のランキング た非耐久消費財における限定製品の消費者心理と (http://t21.nikkei.co.jp/g3/CMN0F11.do) は別に、無形財や耐久消費財における限定製品の ・perigee[2009]『消費者の価格マインドとプライシング』 消費者心理を打ち出すことによって、非耐久消費 (http://www.yomiuri-is.co.jp/perigee/feature01.html) 13 最新週・最新月 -チョコレート-』 ・きれいねネット[2000]「特集コフレ」 ・三村浩一[2007]「限定製品に見る消費者の特性」 (http://www.kireine.net/tokusyu/toku0001/body1.html ・三村浩一[2008]「限定品を購入する消費者像〜心理的 ) リアクタンス理論から見えるパーソナリティ特性〜」 ・ex Buzz words[2009]「参照価格とは」 (http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_3475.ht ml) 補録 菓子業界における限定製品に関するアンケート Q1.あなたの年齢を教えてください。 ① 19歳以下 ② 20〜25歳 ③ 26〜30歳 ④ 31歳以上 Q2.あなたの性別を教えて下さい。 ① 男性 ② 女性 Q3.お菓子をどのくらいの頻度で買いますか。 ① 毎日 ② 週2〜3回 ③ 週1 ④ 月1 ⑤ ほぼ買わない Q4.お菓子の限定品の中で是非買いたいと思うものはどれですか。 ① 期間限定 ② 数量限定 ③ 地域限定 Q5.では、実際に一番頻繁に買っているのはどれですか。 ① 期間限定 ② 数量限定 14 ③ 地域限定 Q6.よく買うお菓子は何ですか。 ( ) Q7.その商品の限定品が出たら買いますか。 ① ぜひ買いたい ② 買いたい ③ どちらでもない ④ あまり買いたくない ⑤ 買わない Q8.売り場で“限定”の文字が目にとまったら気になりますか。 ① とても興味をひかれる ② 興味をひかれる ③ どちらでもない ④ あまり興味をひかれない ⑤ 興味がない Q9.“限定”であることにひかれて普段買わないお菓子を買ったことがありますか。 ① ある ② ない Q10.限定品だったら多尐高くても買いたいですか。 ① 買いたい ② 尐し買いたい ③ あまり買いたくない ④ 買いたくない Q11.通常価格が100円である製品があるとします。これの限定製品が販売された際にあなたが想起する価格はいくら ですか。 ① 95円 ② 100円 ③ 110円 ④ 130円 ⑤ 150円 15 Q12.期間と数量を明示されている商品のほうが限定感を強く感じますか。 ① 強く感じる ② 感じる ③ どちらとも思わない ④ あまり感じない ⑤ 感じない Q13.期間限定製品で、「冬季限定」とはっきり書かれているものと「マロン、栗」など季節も野田ということが感じら れるものとどちらを買いたいと思いますか。 ① 限定とはっきり書かれている商品 ② 季節などから限定であることをイメージ想起させる商品 16