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世界の海面水温・表層水温

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世界の海面水温・表層水温
第1章
第1章
地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
地球温暖化に関わる海洋の長期変化
1.1
海水温
1.1.1
世界の海面水温・表層水温
世界の海面水温・表層水温
診断概要
診断内容
世 界 の 年 平 均 気 温 ( 陸 域 に お け る 地 表 付 近 の 気 温 と 海 面 水 温 の 平 均 ) は 、 1891年 か ら
2012年までの122年間で100年あたり約0.68℃の割合で上昇しており、二酸化炭素などの温
室効果ガスの増加に伴う地球温暖化が大きく寄与していると考えられている。地球表面の
7割の面積を占め大気の約1000倍もの熱容量をもつ海洋は、地球温暖化において大きな役
割を果している。ここでは、世界の海面水温と表層水温について、2012年までの長期変化
傾向を診断する。
診断結果
世界の年平均海面水温は、1891年から2012年の122年間に100年あたり0.51℃上昇してい
た 。 こ れ は 世 界 の 陸 上 気 温 ( 陸 域 に お け る 地 表 付 近 の 気 温 ) の 上 昇 率 ( 100 年 あ た り
0.83 ℃ ) よ り 小 さ か っ た 。 ま た 、 半 球 別 に 海 面 水 温 の 長 期 変 化 傾 向 を み る と 、 北 半 球
(100年あたり0.55℃)のほうが南半球(100年あたり0.48℃)より上昇率が大きかった。
世界の年平均表層水温(海面から深さ700mまでの平均水温) は1950年から2012年の63年
間に10年あたり0.021℃上昇していた。これらの事実は、地球温暖化予測実験で利用す る
気候モデルと呼ばれる数値モデルによる再現結果と符合している。海面水温や表層水温の
長期的な上昇傾向には、地球温暖化の影響が現れている可能性が高い。
1
海面水温・表層水温の基礎知識
という水温 分布になっ ている。ま た、地球の
自転軸が公 転面に対し て傾いてい るため、海
(1)海面水温の平均分布
面が受ける 日射量は季 節によって 異なり、海
面水 温の 分 布は 季節 変 化す る。 図 1.1.1-1(b)、
海面水温とは、大気と海洋の境界(海面)
(c)に1月、7月の海面水温の分布を示す。中高
の水温のこ とである。 現実には海 面そのもの
緯度においては、年平均と比較して、1月の水
の温度を測 定すること は不可能で あり、手法
温は北半球側で低く、南半球側で高い。一方、
によって観 測する深さ が異なるが 、通常深さ
7月の水温は北半球側で高く、南半球側で低く
10m程 度 ま で の 水 温 観 測 値 を 海 面 水 温 と し て
なっている。
いる。
また、海面水温は、大気の運動の影響も受
地球が球形であるために、海洋が太陽から
けている。 例えば、太 平洋赤道域 の海面付近
受け取る熱 量(日射量 )は緯度に よって異な
では、貿易 風と呼ばれ る東風が吹 いている。
る 。 図 1.1.1-1(a) に 年 平 均 海 面 水 温 の 平 年 値
この東風に よって海面 付近の暖か い水が太平
(1981~ 2010年 の30年 平均 値) の 分布 を示 す 。
洋の西部に 吹き寄せら れ、それを 補償するよ
全体として は、低緯度 で高く、高 緯度で低い
うに東部の 南米沖では 、深いとこ ろから冷た
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第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
い 水 が 海 面 近 く に 湧 き 上 っ て い る 。 図 1.1.1-
の力である コリオリ力 を受け、沖 側へ流され
1(a)を み る と 、 太 平 洋 赤 道 域 の 海 面 水 温 は 西
る。それを 補償するよ うに、深い ところから
部で高く、 東部で低く なっている ことがわか
冷たい水が 海面近くに 湧き上って くることが
る。また、 北半球(南 半球)の大 陸の西岸付
ある。例えば、7月の北米西岸付近 の海面水
近では、岸 に沿って南 向き(北向 き)の風が
温が周囲よ り低い原因 の一つもこ の湧き上が
吹くと、海 面付近の暖 かい海水は 風の方向に
りだと考えられる(図1.1.1-1(c))。
力を受ける とともに、 地球自転に よるみかけ
このように、海面水温は、日射、大気の運
(a)年平均
(b)1月
(c)7月
図1.1.1-1 海面水温の平年値の分布(単位:℃)
(a)年平均、(b)1月、(c)7月、平均値は1981~2010年の30年平均値。
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第1章
動、海水の 運動、地形 といった様 々な要因に
地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
大気-海洋相互作用によって引き起こされ
よって、複雑な分布をしている。
ると考えら れる気候変 動には、数 年規模で変
動するエルニーニョ/ラニーニャ現象、十年か
(2)気候変動と海面水温の変動
ら数十年規 模で変動す る太平洋十 年規模振動
などがある。これらは海面水温の変動を伴い、
気温や降水量などの平均状態とその変動に
大気と海洋が連動した自然変動である。図
直接影響を 及ぼすのは 大気である が、大気や
1.1.1-2、 図 1.1.1-3に そ れ ぞ れ の 現 象 時 の 典 型
水の循環の 変動には海 洋・陸面・ 雪氷の変動
的な海面水温の変動パターンを示す。エル
が深くかかわっている。そこで、大気・海
ニーニョ/ラニーニャ現象、太平洋十年規模振
洋・陸面・ 雪氷を相互 に関連する 一つのシス
動の詳細は2.3、2.1.1をそれぞれ参照されたい。
テムとして 捉えて「気 候システム 」と呼ぶ。
(3)地球 温暖化と海 面水温・表 層水温の変
気候システ ムを十分長 い時間平均 した平均的
化
な状態を気候状態と呼ぶ。
海面水温の分布は、気候状態の決定に重要
な役割を果 たしている 。海面水温 が与えられ
世界 各地 の 陸上 の観 測 所で 観測 さ れた 地上
ると、熱帯 では積乱雲 の分布(大 気を駆動す
気温から求 めた世界の 平均気温に は、年々か
る熱源の分 布)が大体 決まり、中 緯度では低
ら数十年規 模の自然変 動と、期間 全体を通し
気圧の急速 な発達など に影響を与 えることに
た上昇の傾向が現れている(図1-1参照)。こ
なる。
の上昇傾向は地球温暖化の現れであり、IPCC
しかしながら、(1)で述べたように、海
は第4次評価報告書で、20世紀半ば以降に観測
面水温は日 射や大気の 運動などの 影響を受け
された世界 の平均気温 の上昇のほ とんどは、
るので、気 候状態は、 実際には、 大気と海洋
人間活動に 伴う温室効 果ガスの増 加によって
の相互作用 の結果とし て決まる。 大気-海洋
もたらされ た可能性が 非常に高い と結論づけ
相互作用は 気候状態を 形成するの みならず、
て い る ( IPCC, 2007) 。 過 去 約 50年 間 に 地 球
気候変動(気候状態からのずれで、時間ス
温暖化によ って気候シ ステムに貯 えられた熱
ケールの長いもの)も引き起こしている。
量の大部分 は海洋の貯 熱量の増加 となってい
図1.1.1-2
エルニーニョ現象時の典型的な海面水温平年差の空間分布(単位:℃)
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第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
図 1.1.1-3 太 平 洋 十 年 規 模 振 動 の 指 数 が 正 の と き の 典 型 的 な 海 面 水 温 平 年 差 の 空 間 分 布 ( 単
位:℃)
ると見積もられており(図1.1.1-4参照)、その
観測データ をもとに作 成した時間 的・空間的
約3分の2が海面から深さ700mまでに蓄えら
に均質な海 面水温デー タベースや 50年以上に
れているとされている。地球の表面の7割を占
わたる表層 水温データ ベースを用 いて、世界
め、 大気 の およ そ1000倍も の熱 容 量を もつ 海
の海面水温と表層水温の長期変化傾向を示す。
洋は、大気 の温暖化に 大きな影響 を及ぼして
2
いると考えられる。
海面水温の監視
気候 モデ ル と呼 ばれ る 数値 モデ ル で地 球温
(1)100年以上の期間にわたる海面水温の客
暖化につい て計算した 予測結果で は、海上の
観解析
気温より陸 上の気温の 上昇が大き くなってい
る。この理 由には、① 陸面は海面 より蒸発に
よる冷却効 果が小さい こと、②大 陸は海洋よ
気候の長期変動や地球温暖化の監視のため
り熱容量が小さいこと、が指摘されている
には、長期 にわたる観 測データが 不可欠であ
(真 鍋,2001) 。ま た 、南 半球 よ り北 半球 の
る。また、 観測のない 領域の値を 適切に推定
気温の上昇 が大きくな っている。 これは、北
するには、 時間的・空 間的に不規 則に分布す
半球のほう が大陸の占 める割合が 大きいから
る観測データを合理的に内挿する必要がある。
船舶 が観 測 ・通 報す る 海面 水温 を はじ めと
である。
気候 モデ ル の予 測結 果 は、 大気 の 温暖 化に
する海洋気 象データが 、長年にわ たって蓄積
海洋の存在 が影響を及 ぼすことと ともに、地
されてきた が、近年、 それらが電 子媒体化さ
球温暖化によって海面水温に現れる変化
1
が
れ、容易に 多量のデー タを扱える ようになっ
陸上気温のそれとは異なることを示している。
てきた。こ うしたデー タとして、 米国海洋大
以下では、100年以上の期間にわたる歴史的な
気 庁 ( NOAA ) 作 成 の ICOADS ( International
Comprehensive Ocean-Atmosphere Data Set)や、
1
海面水温の長期変動 が船 舶 などで 観測 さ れた海上の
神戸コレク ション(神 戸海洋気象 台(現
気温の長期変動と同様な振る舞いをすることが示さ
神
戸地方気象台)が収集した過去の海洋気象
れている(浅井,1988など)。
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第1章
地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
行い、1891年から現在までの100年以上にわた
る1度格子の海面水温と海上気象要素の格子点
データを整備した(COBE :Centennial in-situ
Observation-Based Estimates of the variability of
sea
surface
temperatures
and
marine
meteorological variables)。このう ち、海面 水
温 の デ ー タ セ ッ ト を COBE-SST ( Sea Surface
Temperature ) と 呼 ぶ 。 COBE-SST は 、 19 世 紀
末から現在 までの世界 全体を対象 にした客観
解析値で、空間の分解能は、経度、緯度とも1
度となっている。
客観 解析 の 前に 観測 デ ータ には 品 質管 理が
施さ れる が 、そ の際 、 1950年以 前 のデ ータ に
図1.1.1-4 気候システムの各構成要素別の貯エネ
ルギー変化量
青 色 は 1961~ 2003年 、 紫 色 は 1993~ 2003年 の 期
間における変化量を示す。IPCC(2007)より。
は観測方法 の違いによ る観測誤差 が比較的大
きいため、 それらを補 正している 。また、客
観解析には 、最適内挿 法と呼ばれ る方法を用
いている。詳しくは、Ishii et al.(2005)や石
データ)を 気象庁と日 本気象協会 がデジタル
井ほか(2003)を参照されたい。
化したものがある。
こ こ で は 、 1891 ~ 2012 年 の COBE-SST を 用
気象 庁で は 、こ の二 つ のデ ータ や 現業 的に
いて海面水温の長期変化傾向を診断する。
収集している近年のデータなどを合わせた100
年以上にわたる歴史的な観測データを用いて、
客観解析( 観測データ から規則的 に配列され
た格子点上 の値を合理 的に推定す る作業)を
(2)海面水温の長期変化傾向
図 1.1.1-5に 世 界 の 年 平 均 海 面 水 温 平 年 差 の
図1.1.1-5 世界の年平均海面水温平年差の経年変化(1891~2012年)
各年の値を黒い実線、5年移動平均値を青い実線、長期変化傾向を赤い実線で示す。平年値は1981
~2010年の30年平均値。
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第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
時 系 列 を 示 す 。 5年 移 動 平 均 値 ( 図 の 青 い 曲
に示す。相 対的に大西 洋とインド 洋での上昇
線 ) では 、 1910年頃 に 極 小 、1940年 代 初頭 に
が大きく、 南太平洋で の上昇が小 さい。時間
極大となっ ている。そ れ以降、し ばらく横ば
的 な 変 化 を 海 域 ご と に 見 る た め に 、 図 1.1.1-8
い傾 向で あ った が、1970年 代半 ば 以降 、再 び
のように、 南北太平洋 、南北大西 洋、インド
上昇 傾向 と なっ た。2000年 代に 入 って から は
洋の5海域に区分して、図1.1.1-9に、それぞれ
上昇傾向は 鈍っている 。このよう に、世界の
の海域の海面水温平年差の時系列を示す。5年
年平均海面水温は、十年~数十年の時間ス
移動 平均 値 (図 の青 い 曲線 )で は 、1910年 頃
ケールで変動しつつ上昇している。
に 極 小、 1940年 代初 頭 に 極 大、 1970年 代半 ば
こうした海面水温の長期変動は陸上気温
以降再び上 昇傾向、と いった特徴 が、ほぼ全
(陸域にお ける地表付 近の気温) とおおまか
ての海域に 共通してみ られる。北 大西洋の海
に は 同 じ パ タ ー ン と な っ て い る ( 図 1.1.1-6) 。
面水温の変 動について は、大西洋 数十年周期
ま た 、1891年 か ら2012年 ま での 海 面 水 温の 長
振動(Atlantic Multi-decadal Oscillation)と呼
期変化傾向(図1.1.1-5の赤の直線)は100年あ
ばれる、海 面水温の温 暖な時期と 寒冷な時期
たり0.51±0.05℃の上 昇 で、上昇 率 は陸上気 温
が数十年規 模で交互に 発生するよ うな数十年
(同じ期間に100年あたり0.83℃上昇)より小
規模 の自 然 変動 が存 在 して おり 、 1990年代 半
さな値とな っている( 上昇率は線 形回帰から
ば以降の海 面水温の急 激な上昇に ついては、
求め たも の で、95% の 信頼 限界 を ±を付記 し
長期的な海 面水温の上 昇に加え、 この自然変
た数値で示 している) 。これら陸 上気温と海
動 の 影 響 に よ る も の と 考 え ら れ る ( IPCC ,
面水温を平 均した世界 全体の年平 均地上気温
2007)。5海域の海面水温の長期変化傾向(図
の上昇率は、100年あたり0.68℃となっている。
の赤の直線 )は100年あたり0.4~ 0.7℃の上昇
であった。
半球 別に 海 面水 温の 長 期変 化傾 向 をみ てみ
ると、北半球では100年あたり0.55℃の上昇、
南半球では100年あたり0.48℃の上昇であった。
海 面 水 温 の 長 期 変 化 傾 向 の 分 布 を 図 1.1.1-7
図1.1.1-6 世界の年平均陸上気温の平年差の経年変化(1880~2012年)
各年の平均気温の基準値からの偏差を黒い実線、偏差の5年移動平均を青い実線、長期的な変化傾向
を赤い実線で示す。基準値は1981~2010年の30年平均値。
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第1章
地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
図1.1.1-7 年平均海面水温の長期変化傾向(1891~2012年)
1891~2012年における100年当たりの変化傾向。変化が90%以上の信頼度で統計的に有意な領域に+を付
けた。
図1.1.1-8 海域区分
1:北太平洋、2:南太平洋、3:北大西洋、4:南大西洋、5:インド洋。
3
表層水温の監視
測データを 客観解析し て格子点上 の解析値を
作成し、長 期変化傾向 を診断する 。海洋内部
(1)50年以上の期間 にわたる表 層水温の客
の観測は海 面水温に比 べて観測数 が少なく、
観解析
時代をさか のぼるにつ れて、ある いは観測深
度が深くな るにつれて 観測数が少 なくなる。
海洋表層は海面を通じて大気と直接熱をや
これらの事 情を考慮し て、ここで は海面から
り取りし、海洋に蓄えられた熱量の3分の2が
深 さ700mま で の 海洋 表 層 に つい て 、1950年 か
海面 から 深 さ700mま で に吸 収さ れ てい ると 見
ら 2012 年 ま で の 63 年 間 を 対 象 に 客 観 解 析 を
積もられて いる。この ため、海洋 表層は気候
行った。
客観解析は、Ishii and Kimoto(2009)の手
変動において重要な役割を果たしている。
表層水温 についても 、海面水温 と同様に観
法に従い、世界全体の緯度経度それぞれ1度ご
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第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
北太平洋
北大西洋
南太平洋
南大西洋
インド洋
図1.1.1-9 各海域の年平均海面水温平年差の経年変化(1891~2012年)
各 年 の 値 を 黒 い 実 線 、 5年 移 動 平 均 値 を 青 い 実 線 、 長 期 変 化 傾 向 を 赤 い 実 線 で 示 す 。 平 年 値 は
1981~2010年の30年平均値。
と、海面から深さ700mまでに16層の格子を対
32
第1章
地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
と、海面から深さ700mまでに16層の格子を対
監視におい て海洋内部 の水温の把 握が重要で
象に、1950年1月から1か月ごとに行っている。
あ る こと を 示 し てい る 。1950年 か ら2012年 の
また、観測 方法の違い による誤差 も補正して
間に、海面水温は10年あたり0.072℃の割合で
いる。この 客観解析値 を用いて、 表層水温の
上昇してお り、上昇率 は表層水温 のほうが小
長期変化傾向を診断する。
さくなっている。
海面水温と同じく図1.1.1-8の5海域に区分し
(2)表層水温の長期変化傾向
た表層水温平年差の時系列を図1.1.1-11に示す。
上昇率は海 域によって 異なり、北 大西洋の上
図1.1.1-10に世界の年平均表層水温平年差の
時系列を示 す。世界全 体で平均し た表層水温
昇 率 が 10 年 あ た り 0.051±0.007 ℃ で 、 5 海 域 中
最も大きい値となった。
は年 ごと に 上昇 下降 を 繰り 返し つ つも1950年
以 降 長 期 的 に 上 昇 傾 向 に あ り 、 1950 年 か ら
4
診断
2012 年 の 63 年 間 に 10 年 あ た り 0.021±0.003 ℃
(±は95%の信頼区間)の割合で上昇していた。
世界 の年 平 均海 面水 温 は、 年々 か ら数 十年
近 年 では 1990年 代半 ば か ら2000年 代 初 めに か
規 模 の自 然 変 動 を伴 い つ つ 、1891年 か ら2012
けて特に大 きな昇温が みられ、そ の後も水温
年 ま で の 122年 間 で 100年 あ た り 0.51℃ の 割 合
が高 い状 態 が続 いて い る。2000年 代に 入っ て
で上昇して いた。これ は、陸上気 温の上昇率
から、上昇 傾向が鈍っ ている様子 が見られる
(100年あたり0.83℃)より小さかった。また、
が 、 引 き 続 き 有 意 に 上 昇 し て い る 。 700mよ
北半球の海 面水温の上 昇率のほう が南半球よ
りも 深い 層 では2000年 代以 降も 水 温の 上昇 が
り大きかった。
続い て い る とい う 研 究 があ り ( Levitus et al.,
世界の表層水温(海面から深さ700mまでの
2012;Balmaseda et al., 2013)、地球温暖化の
平均水温) も、海面水 温と同様に 様々な時間
図1.1.1-10 世界の年平均表層水温平年差の経年変化(1950~2012年)
丸付きの実線は年々の値、陰影は各年の解析値の95%信頼区間を表す。
平年値は1981~2010年の30年平均値。
33
第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
スケ ール の 自然 変動 を 伴い つつ も 、1950年 か
の海面水温の上昇率(10年あたり0.072℃の上
ら2012年までの63年間で10年あたり0.021℃の
昇)よりも小さかった。
割合で上昇 していた。 この上昇率 は同じ期間
(a)
これ らの 事 実は 、地 球 温暖 化予 測 実験 で利
(c)
北太平洋
(b)
(d)
南太平洋
(e)
インド洋
図1.1.1-11 各海域の年平均表層水温平年差の経年変化(1950~2012年)
(a) 北太平洋、(b) 南太平洋、(c) 北大西洋、(d) 南大西洋、(e)インド洋。
実線は年々の値、陰影は各年の値の95%信頼区間を表す。
平年値は1981~2010年の30年平均値。
34
北大西洋
南大西洋
第1章
用する気候 モデルと呼 ばれる数値 モデルによ
る再現結果 と符合して おり、陸面 は海面より
蒸発による 冷却効果が 小さいこと や、大陸は
海洋より熱 容量が小さ いことに起 因している
と考えられ る。海面水 温と表層水 温の長期的
な上昇傾向 には、地球 温暖化の影 響が現れて
いる可能性が高い。
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地球温暖化に関わる海洋の長期変化
世界の海面水温・表層水温
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