...

平成 24 年度 消費者行政推進調査等委託費

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

平成 24 年度 消費者行政推進調査等委託費
平成 24 年度
消費者行政推進調査等委託費
(東アジアにおける物流円滑化に関する調査)
報告書
平成 25 年 3 月
株式会社 日立製作所
目
次
1. 本調査にいたる経緯、背景 ....................................................................................... 2
1−1. 調査目的 ......................................................................................................... 2
1−2. 実施概要及び調査対象範囲 ............................................................................. 3
1−3. 調査方法 ......................................................................................................... 4
2. 世界における東アジア地域と我が国の物流状況 ....................................................... 7
2−1. 我が国と東アジア地域の貿易構造 .................................................................. 7
2−2. ロジスティクス指標による客観的評価 ......................................................... 10
3. 今回の調査サマリー ................................................................................................ 12
3−1. 日系企業が製造拠点を持つASEAN諸国 .................................................. 12
3−2. 戦略的にハブ機能を構築する物流先進国・地域........................................... 16
4. 各国の物流状況調査詳細 ......................................................................................... 22
4−1. 日系企業が製造拠点を持つASEAN諸国 .................................................. 22
4−1−1. タイ .................................................................................................... 22
4−1−2. ベトナム............................................................................................. 29
4−1−3. インドネシア ..................................................................................... 40
4−2. 戦略的にハブ機能を構築する物流先進国・地域........................................... 47
4−2−1. シンガポール ..................................................................................... 47
4−2−2. 香港 .................................................................................................... 55
4−2−3. 韓国 .................................................................................................... 59
5. 中国の物流政策・物流産業動向調査 ....................................................................... 74
5−1. 概況サマリー ................................................................................................ 74
5−1−1. わが国と中国の貿易状況.................................................................... 74
5−1−2. 中国の物流市場概況 ........................................................................... 75
5−2. 中国の物流戦略............................................................................................. 75
5−3. 日系物流企業へのヒアリングから ................................................................ 83
【参考】本報告書で用いた用語の解説 ............................................................................ 85
【参考】本レポートで用いた略語.................................................................................... 86
1
1.本調査にいたる経緯、背景
1−1.調査目的
経済のグローバル化が進展する中、我が国の製造企業は、国際レベルでコストや品質の競争
力を強化しながら、国内海外の消費者向けて安定した製品供給の実現することが重要となって
いる。特に、近年は製造の中心である中国から、タイ、ベトナム、インドネシア等の ASEAN 諸国を
含めた東アジア地域で最適生産をする体制を構築し、製品・サービスを国内海外の消費者に効
率的に供給するグローバル物流の重要性が増してきている。
一方、政府間レベルでも、ASEAN 諸国及び中国、韓国、台湾などの東アジア地域の連携強化
に向けた取組みとして、様々な経済連携や協力検討する「東アジア経済統合」、日本税関とアジ
ア各国の税関を簡素化しシームレスに連携する「アジア・カーゴハイウェイ構想」を推進している。
そこで、重要性の高まる東アジアの物流に着目し、各国の物流インフラの最新動向や現地国に
進出する日系製造業の抱える物流課題をヒアリング調査する。
また、中国においては、我が国の主要貿易国であり、かつ日系製造業の進出が最も多い国で
あるが、日系製造業においては、人件費の高騰などを受けた生産体制の見直しや、大量生産の
場から消費市場の場と捉えてビジネス活動を変化させている。政府レベルでも経済的連携を強
化するための日中物流政策対話が設置され、日中間の物流効率化の検討がなされるなど、今後
のビジネス活動の活性化・進展に結びつける動きが行われている。
本調査では、中国の物流政策関連で注力されていること、ステークホルダーを把握する意味で、
中国における物流の構造、行政部門の関連といった情報について調査整理する。
2
1−2.実施概要及び調査対象範囲
以下、調査内容の詳細について述べる。
(1)東アジア地域の物流インフラ状況把握
①日系企業が製造拠点を持つ ASEAN 諸国(タイ、ベトナム、インドネシア)
現地における物流インフラの実態を把握するとともに、物流の効率化を実現するために求め
られる課題事項を明らかにする。表 1-1 に示す項目について調査した。
表 1-1 日系企業が製造拠点を持つ ASEAN 諸国に対する調査項目
№
(a)
調査項目
物流インフラ状況
(港湾、空港を中心とした主要物流インフラの取扱量、バース数、荷役設備、
開港時間等を調査)
(b)
荷主企業の物流インフラ面における課題
(c)
標準物流リードタイム
(要港間のリードタイムや港から主要都市までの陸上輸送リードタイム等を調査)
(d)
物流関連業務の人材育成実態
(物流関連人材育成の施策、レベル向上や物流資格プログラムの適用可能性)
なお、(d)の人材育成の実態については、従来、効率的な国際物流の実現に向け、日本と
ASEAN連携の枠組みを利用して、人材育成や制度改善に関わる国際協力が推進されてきた。
物流現場実務や効率的な物流戦略の計画立案、輸出入諸手続等を遂行する優秀な人材の存
在が欠かせないが、ASEAN諸国では、その育成が十分でない状況にある。また、現地において
人材を育成する物流管理専門家層も不足しているとの認識から、経済産業省及びJETROの支
援により、2006年から2010年に現地の専門家層への人材育成の重要性に関わる啓もう活動が
実施されてきた。そこで、物流人材の育成への取組み状況のフォローアップを目的として、調査
対象国・地域における取組みについて調査した。
②戦略的にハブ機能を構築する物流先進国・地域(シンガポール、香港、韓国)
世界における物流ハブ機能を戦略的に構築しているシンガポール、香港、韓国における取
組みは、日本における物流インフラの参考にできる点も多く、東アジア域内での効率的な物流
網の構築にもつながるとの考えから、各国における物流事業を対象とした政策や港湾/空港運
営に対する考え方とその状況について調査し整理した。
3
表 1-2 戦略的にハブ機能を構築する物流先進国・地域に対する調査項目
№
(a)
調査項目
物流インフラ調査
(港湾、空港を中心とした主要物流インフラの取扱量、バース数、荷役設備、開港
時間等を調査)
(b)
ASEAN 先進国の物流政策・物流産業動向調査
(物流事業を対象とした政策や港湾運営に対する考え方などを調査
(2)中国の物流政策・物流産業動向調査
我が国最大の貿易国となっている中国において、中国の物流関連の政策動向は、中国に進出
している日系企業の企業活動に影響を及ぼす。このため、総合的に物流政策関連情報を把握す
ることを目的とし、主に以下の項目について調査した。
①「第十二次五カ年規画」における中国の物流政策・物流産業の仕組みと発展動向
②物流分野における IT 利活用の状況と方向性
③物流関連の標準化動向
④通関手続の電子化等に関する取組み
1−3.調査方法
調査に当たっては、文献及び Web による調査のほか、現地の Port/Airport authority、荷役サー
ビス会社、フォワーダーのほか、日系企業へのヒアリングを通じて実態を把握した。
(1)港湾/空港関連組織の訪問
表 1-3 ヒアリング先一覧(Port/Airport authority:港湾/空港関連組織)
国・地域
タイ
ベトナム
インドネシア
シンガポール
マレーシア
香港
韓国
ヒアリング先
Port of Authority Thailand
Saigon New Port Corporation
PT. JAS(Jakarta Airport Service)
IPC(Indonesia Port CorporationII)/PT Pelindo II
Changi Airport Group
SATS Ltd
Civil Aviation Authority of Singapore(CAAS)
Singapore Maritime Foundation(SMF)
Maritime and Port Authority of Singapore(MPA)
Pelabuhan Tanjung Pelepas Sdn Bh(PTP)
Hong kong International Terminals(HIT)
香港特別行政区政府 運輸及房屋局
仁川空港公社
仁川港湾公社
釜山港湾公社
4
訪問日
2013/1/28
2003/1/31
2013/2/20
2013/2/22
2012/11/26
2012/11/26
2012/11/28
2012/11/27
2013/2/18
2013/2/19
2013/1/14
2013/1/16
2013/1/23
2013/3/5
2013/3/4
(2)荷役サービス会社、フォワーダー、日系製造業の訪問数
表 1-4 ヒアリング先一覧(荷役サービス会社、フォワーダー、日系製造業)
国・地域
タイ
ベトナム
インドネシア
シンガポール
(マレーシア)
香港
韓国
中国
会社区分
荷役サービス会社
IT 事業者
フォワーダー
荷役サービス会社
フォワーダー
荷役サービス会社
フォワーダー
日系製造業
荷役サービス会社
フォワーダー
日系製造業・日系荷主
荷役サービス会社
日系製造業
荷役サービス会社
IT 事業者
フォワーダー
荷役サービス会社
IT 事業者
日系製造業
訪問数(地区)
1社(バンコク)
1社(バンコク)
1社(バンコク)
1社(ホーチミン)
1社(ホーチミン)、1社(ハノイ)
3社(ジャカルタ)
2社(ジャカルタ)
1社(ジャカルタ)
1社(シンガポール)
1社(シンガポール)
2社(シンガポール、ジョホール)
1社
1社
3社(ソウル、仁川)
1社(ソウル)
1社(ソウル)
2社(上海・蘇州)
1社(広州)
1社(広州)
(3)物流団体及び物流機関
表 1-5 ヒアリング先一覧(物流団体、物流機関)
国・地域
タイ
ヒアリング先
Thai National Shippers' Council (TNSC)
訪問日
2013/1/29
(タイ荷主協議会)
インドネシア
Asosiasi Logistik Indonesia(ALI)
(インドネシアロジスティクス協会)
5
2013/2/21
(4)参考文献ほか
本報告書の作成にあたっては、(1)、(3)の訪問先組織提供資料、ホームページのほか、主
に以下の文献及び Web を参照した。
・経済産業省 通商白書(2010 年版、2011 年版、2012 年版)
・世界銀行 LPI(Logistics performance index) 2012 Data 及び Report
・JETRO ASEAN 物流ネットワークマップ(2008 年)
・財務省 貿易統計
・国際協力銀行 海外投資環境(タイ、ベトナム、インドネシア)(2012 年版)
・国際機関日本アセアンセンター ASEAN の工業団地情報
・帝国データバンク 「特別企画 : ベトナム進出企業の実態調査」
及び「特別企画 : タイ進出企業の実態調査」 (海外への日本企業進出数)
・大韓民国 国家記録院 政策根拠データベース
(4-2-3 章:韓国における物流、港湾、空港開発関連政策の政策根拠及び
政策の変容についての情報ソースとした)
・大韓民国 国土海洋部 物流関連政策ホームページ
(4-2-3 章:韓国における物流、港湾、空港開発関連政策の詳細及び
示範プロジェクトの詳細情報についての情報ソースとした)
・国土交通省 アジアハイウェイプロジェクト概要
・中華人民共和国 物流・調達連合会ホームページ
・中華人民共和国 中央人民政府網
・中華人民共和国 海関総署ホームページ及び電子口岸ホームページ
・香港貿易発展局(Hong Kong Trade Development Council:HKTDC)ホームページ
・マレーシア ISKADAR 開発(Iskandar Regional Development Authority)ホームページ
・PSA Singapore ホームページ及び PSA International ホームページ
・HACTL 社ホームページ
・スワンナプーム国際空港ホームページ
6
2.世界における東アジア地域と我が国の物流状況
2−1.我が国と東アジア地域の貿易構造
日本の貿易構造は、アジア域内での貿易額が全体の約半分を占め、そのほとんどが中国、韓
国、ASEAN 等の東アジア地域になっている。
図 2-1 日本の貿易総額の内訳 (出典:財務省貿易統計を基に作成)
中国との貿易額は 2000 年から 2010 年までの 10 年間で約 2.5 倍に増加し、2004 年以降は米
国を逆転し、最大の貿易相手国となっている。また、ASEAN との貿易額は、2009 年の国際的な
金融危機に伴う減少を除き、輸出・輸入額ともに増加傾向にある。
図 2-2 我が国の貿易統計推移 (出典:財務省貿易統計を基に作成)
7
2012 年版通商白書では、貿易の財別傾向を次のように分析している。東アジア域内の中国、
ASEAN に向けての貿易(中国、ASEAN から見た輸入)において中間財(部品/ユニット)のシェア
が高い。これとは反対に中国、ASEAN から EU、NAFTA 向けの貿易(中国、ASEAN から見た輸出)
では中間財のシェアが低い、いわゆる最終財(完成品)の貿易が多いことを示している。特に、
2000 年と 2010 年を比較すると、中国の日本、ASEAN からの中間財(部品/ユニット)輸入額が増
大し、NAFTA、EU に対する最終財(完成品)の輸出額が増大している。
図 2-3 世界の主要地域間の貿易フロー図(2000 年)(出典:経済産業省通商白書 2012 年版)
図 2-4 世界の主要地域間の貿易フロー図(2010 年)(出典:経済産業省通商白書 2012 年版)
(注)図で矢印は貿易フローを示し、矢印の大きさが貿易額、矢印の色彩が中間財(部品/ユニッ
ト)のシェアを表している(寒色系になるほど中間財シェアが高い)。
8
図 2-5
日系製造業現地法人数の推移
(出典:経済産業省通商白書 2012 年版データより編集)
経済産業省「海外事業活動基本調査」によると、2010 年度末時点で、日系海外現地法人は、
全世界で約 18,600 社が操業しており、そのうち製造業は約 8,400 社で、その 7 割強の約 6,200
社がアジアに展開している。売上高ベースで見ても、全世界製造業現地法人の総売上高約 89
兆円の内、アジアは 49 兆円と過半数(55.0%)を占める。このようにアジアは日系製造業にとって
重要な地域であり、その生産活動や販売・調達を通じた結びつきが域内で形成されている、とし
ている。
また、通商白書によると、東アジアにおける生産分業を次のように分析している。東アジア諸国
は、韓国や台湾などの技術に優位性を持つ国や、中国やタイなどの低コスト労働力の豊富な国
など国毎に特性を持っている。その特性を活かす形で生産工程が分割され、国際的分業として
発達してきた。そのため、国境を越えて分散した製造拠点間で部品のやり取りが必要になり、生
産拠点を結ぶ部品貿易が拡大するとともに、その生産活動のために必要な産業用機械等の資
本財も活発に取引されている。
日系製造業においても、このような特性を活かして生産活動を行っており、2 国間から多国間
で生産財をやり取りする物流ネットワークが重要となってきている。今後も、市場ニーズや、国・地
域の技術レベル、コスト優位性、品質といった特性に応じて、生産拠点、調達先を多国間に広げ
るとともに物流ネットワークを構築しながら事業展開していくことになると考えられる。
9
2−2.ロジスティクス指標による客観的評価
世界銀行が発表している The Logistics Performance Index(LPI)は各国の主要輸入相手国や
周辺国の物流専門業者(総計 1,000 社以上)に対し①通関手続きの効率性(スピード、シンプル
さと手続きの予測可能性を含む)、②貿易と輸送インフラ(例:港湾、鉄道、道路、情報技術)の品
質、③適切な輸送便確保の容易性、④輸送サービスの能力・質、⑤荷物の追跡管理能力、⑥納
期内到着度の 6 分野についてアンケートを行い、当該国の国際物流を 5 段階で評価・スコア化し
ているもので、客観的な指標である。表 2-1 に 2012 年版 LPI ランキングトップ 10 と調査対象国・
地域の一覧を示す。
表 2-1 2012 年版 LPI ランキングトップ 10 と調査対象国・地域
(出典:世界銀行 LPI 2012 Report(LPI データに各評価指標の順位を追加))
世界銀行は LPI 2012 REPORT の中で世界主要国の物流状況を評価し、効率的な運送ルート
と物流プロセスを提供している国・地域が、経済自由化、海外市場への接近性も高いと述べてい
る。また、上位にランキングしている国・地域であるほど物流企業の海外進出が活発で、海外投
資への対応できる環境を取りそろえていると分析している。指数の低い国・地域の代表的な物流
障害要因としては、物流企業の競争力が低く、サービスレベル、グローバル ネットワークの構築
が不十分であるといった点を指摘している。
この 2012 年の LPI 指標を見ると、シンガポールが 1 位、香港が 2 位にあり、名実共に物流強
国であることが確認できる。韓国は、通関 22 位、インフラ 23 位、国際運送 12 位、物流品質 21 位、
貨物追跡 22 位、到着度 23 位となっている。海運・航空を中心にした国際運送分野は総合 4 位
のドイツと同スコアとなっており、国際輸送分野に力を入れて育成された結果が伺える。しかし、
通関や国内物流企業の競争力を判断する国内物流インフラ、到着度等の評価が低く全体順位
10
は高くない。韓国国土海洋部では、「通関手順など制度改善と共に国内物流企業のグローバル
競争力向上を図る必要がある」と分析しており、具体的対応施策として国内物流企業のレベルア
ップを物流政策として推進している。
中国においては、世界的な貨物取扱量を誇る港湾・空港を抱えるようになり、国際運送につい
ての優位性が順位を押し上げた形となっている。また、インフラに関する評価も他の評価と比べて
スコアが高いが、国内の物流インフラの改善が進みつつあることが今回調査のヒアリングにおい
ても聞かれた。
政府が LPI を使い改善につなげようとしている代表的な例がインドネシアにある。2008 年に世
界銀行はインドネシアの交易物量の 2/3 を処理しているジャカルタ タンジュン・プリオク港湾の業
務改善を提案した。この港湾計画の最も大きな目標はコンテナが港湾を通過するのにかかる滞
留時間を減らすことだった。2011 年を基準とすると、タンジュン・プリオクのコンテナ滞留時間は平
均 6 日だった。世界銀行では根本的な問題は輸入コンテナが港に到着して約 3 日半を事前通関
手順(コンテナを船から下りて税関に積荷目録を提出するのにかかる期間)に費やしているところ
にあることをつきとめ、現在このプロセスを改革するための作業の一環で港湾共同体設立作業を
インドネシア政府とともに推進している。
11
3.今回の調査サマリー
本章では、今回の調査、及び現地訪問によるヒアリング結果を要約として纏める。また、
その詳細内容を4章で述べる。
3−1.日系企業が製造拠点を持つASEAN諸国
(1)港湾・空港・道路などの物流インフラ状況と課題
日系企業が進出している ASEAN 諸国の新興国を相対的にみると、沿岸部の物流立地条件の
良いところは既に物流インフラの開発が進んでいるものの、このキャパシティがオーバーしつつあ
る。一方で、内陸地は物流インフラが未整備あるいは整備が遅れており、このことが理由で企業
進出が遅れがちになっている。
ASEAN 諸国の国内・地域内物流は、小規模の物流業者が限られたエリアで配送業務を行っ
ている場合が多く、物流企業同士の結びつきが弱い。全国的な物流ネットワークが整備されてい
ないために、国内の地域間で広域な物流配送をしようとする障壁となっている。また、ASEAN 諸
国には様々な外資規制があり、外資企業が総合的な物流業務を直接に提供することはできない。
顧客ニーズが求めるきめ細やかなサービスを提供するためには、現地の物流企業との関係を構
築し総合的な物流サービスを作り上げることが必要で、規制緩和という点での働きかけも求めら
れる。表 3-1 に日系企業が製造拠点を持つ ASEAN 諸国のインフラの特徴や問題点を示す。
表 3-1
対象国
タイ
ASEAN 諸国のインフラの特徴と問題点
インフラ特徴 問題点・課題
【国内・地域内物流】
・内陸輸送はトラックが主体であるが、近年、トラック車両不足及びドライバー不足が
深刻化している。さらに、一律 300 バーツの最低賃金の適用もあり、人件費高騰を
招いている。そのため、労働集約型の物流業において深刻なコストアップとなって
いるとともに、物流費のコストアップにもつながっている。
・トラック輸送が限界に近いため鉄道輸送への期待が高まっているが、機関車や貨
車の不足、単線区間が多いこと等の要因に加え、タイ鉄道が国有で赤字経営のた
め、鉄道網には設備投資が行われず、整備が進んでいない。
・急速なモータリゼーションの進行から急増する交通量に対応できず都市部で慢性
的な交通渋滞が発生しており、調達・配送のリードタイムが長時間化している。
【グローバル物流】
・スワンナプーム国際空港では、上屋事業者が通関後のハンドリング作業者を準備
しておらず、フォワーダー各社にて作業者を派遣し自社貨物のハンドリング作業を
行なっている(通常は上屋事業者がハンドリング作業を行うケースが多い)。フォワ
ーダーとしては、自社スタッフによるハンドリングであるため、貨物ダメージの軽減
など差別化要素となっている一方で、コスト増の一因ともなっている。
12
【その他(雇用状況、IT 化等)】
・FZ(Free Zone:保税地域)を規定する法律とタイの BOI 制度(投資促進に関わる優
遇制度)や、その他の税制関連法律の関連性に起因するグレーゾーンが存在して
おり、日系企業はリスク回避のため、FZ を上手く活用できていないケースが多い。
・外国人事業法により物流事業には外国企業への規制が多く、市場参入の障壁とな
っている。
・2012 年現在、物流関係に関わらず失業率はほぼ 0%に近く、人員確保が極めて難
しい状況になっている。国の制度として外国人労働者の雇用が推進されておら
ず、シンガポールに見られるような労働力の担保が図られていない。一方、労働生
産性向上の観点から、今後IT化や自動化などのニーズが高まるものと思われる。
ベトナム
【国内・地域内物流】
・国内物流の約 70%を陸送が占める。幹線道路は整備が進んできているものの、幅
員、舗装状況等、改善課題は多い。特に産業道路と生活道路の区分が整備され
ていないため、幹線道路では乗用車やトラックの間を大量の二輪車が縦横無尽に
走り、時に逆走さえ見られ、事故や渋滞の要因となっている。
・国道1号線は、ハノイ∼ホーチミン間(1,800km)をつなぐ縦断道路で、トラック輸送
の所要日数は片道 3 日である。基本的には片道一車線で、大都市を通過する部
分には片側二車線に整備されているところもある。ただし、陸路3日程度の距離で
あるが、各所の検問で時間がとられる等の理由により、実質的には 5∼6 日を要す
る場合が多い。
・よりコストの安い船舶や鉄道輸送に期待が高まっているが、鉄道については単線で
電化されておらず、軌道、路盤、信号、通信設備などの老朽化が進んでいる。
【グローバル物流】
・ハノイとホーチミンの二大集積地・商圏が南北1,800Km の距離にそれぞれ存在し、
海外とのアクセスや利便性には特徴がある。
・北のハノイは中国華南越経済4圏に近いが、主要港のハイフォン港は河川港であ
り水深が5m と浅いため、香港からのフィーダー船など、小型船による輸送がメイン
である。大型船での一貫輸送ができないため、リードタイムを要する。
・ホーチミンを中心にした南部地区は北部と比べ工業発展が進んでおり、裾野産業
が発達している。大型貨物船が入港できる港湾インフラ網も整備されているが、貨
物が集中するため、都市部及び港湾周辺の定常的な渋滞も課題となっている。
【その他(雇用状況、IT 化等)】
・日本の通関システム(NACSS)を活用した「税関近代化のための通関電子化及び
ナショナル・シングルウィンドウ導入計画」を推進している。貿易手続の所要時間短
縮や貿易コスト縮減などによるビジネス環境改善の効果が見込まれる一方で、基
本的な手続き業務は現行システムとの二重運用リスクも懸念される。
13
インドネ
【国内・地域内物流】
シア
・国内の主要な島間は貨物船にて輸送される。ただし、貨物船の運行スケジュール
は事業者や貨物の集積状況によって左右される傾向にあり、国内船舶輸送の計
画的な運用が困難な状況。
・国内の主要な島に 11 の空港が整備されている。島嶼部では道路の整備が進んで
おらず、陸続きであっても航空機による輸送に頼らざるを得ない地区もある。
・ジャカルタではトラックが中心で鉄道はほとんど利用されていない。トラック輸送に
ついては、都市部における慢性的な渋滞が影響し、港湾及び空港から工業地帯
までの輸送リードタイムが長期化する傾向にある。
【グローバル物流】
・インドネシア沿岸部は遠浅で入港できる船舶に制限があり、近隣のハブ港(シンガ
ポールやマレーシア)を経由するため、物流費用がコストアップする。
・ジャカルタでは、近郊のタンジュン・プリオク港への貨物が一極集中するため港湾
エリアの拡張が課題となっている。
・通関許可に時間がかかり、貨物の受け取りが遅れる場合がある。その場合も港湾
エリアの敷地が不足しており、税関により港湾外のエリアに移送されるが、移送費
用は荷主に請求され、物流費用のコストアップにもつながっている。
【その他(雇用状況、IT 化等)】
・港湾取引で未だ現金主義が残り、支払い証明がなければ貨物引渡しが遅延する。
・税関申請においても、納税確認が取れてからの処理エントリーとなる。
・EDI 通関により IT は導入済みだが、オリジナル書類の提出も義務付けられており、
非効率。
(2)人材育成
アジア地域の相互依存関係の深化、経済統合の重要性が増す中、効率的な国際物流の実現
に向け、日本とASEAN連携の枠組みを利用した人材育成や制度改善に関わる国際協力が推進
されてきた。物流人材の育成への取組み状況のフォローアップを目的に、調査対象国での取組
みについて調査した。物流人材の育成及び育成プログラムの状況について表3-2に示す。
14
表 3-2
対象国
タイ
各国の人材育成の状況
各国の人材育成の特長、プログラム内容
タイ荷主協議会(Thai National Shippers' Council :TNSC)では、物流機能の知識と
物流管理手法を総合的に習得し、物流管理及びロジスティクス改善を推進できる人
材を育成するため、2008 年度より「ロジスティクス管理士資格認定講座(英文名称
Logistics Qualification System Program :LQSP)」を実施している。LQSP は、日本で
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が実施している、物流技術管
理士資格認定講座をもとにタイ向けにアレンジした、物流専門家育成のための資格
認定講座である。過去5年間で 150 名の資格取得者を輩出し、多くの資格取得者
は、所属企業でロジスティクスの改善を進め、コスト削減等の大きな成果を上げてい
る。
ベトナム
物流人材に関する認定制度導入は、JILS や TNSC のような物流関連団体の確立が
望まれる。ベトナム海運総局(VINAMARINE)は、IBC(International Broadcasting
Convention)と共同でベトナム港湾・物流会議を 5 年に渡り実施しているが、ベトナム
における物流環境を把握し、ソリューション事例を共有するエクゼクティブセミナーで
あるため、物流実務を理解するような場としては活用しづらい。
国土交通省は、ベトナム海事大学と連携して、同大学で物流を学んでいる学生など
を対象として、日本の優れた物流システムに関して体系的な講義を実施する「物流
人材育成モデル事業」を実施した。学生を対象とした人材育成は将来のすそ野を広
げる意味で有用と考えられる。
ベトナムでは全体の効率化を優先させるよりも、断片的に最新技術を追求するとい
った理論詰め込み型の風潮が見受けられる。物流に関する制度や政策の全体設計
が進んだ段階で、物流人材に関する認定制度などを導入するほうが効率的であると
考えられる。
インドネ
イ ン ド ネ シ ア ロ ジ ス テ ィ ク ス 協 会 ( Asosiasi Logistik Indonesia : ALI ) に お い て 、
シア
Warehousing management, Inventory management, Transportation management につ
いての物流専門のトレーニングが実施されている。インドネシアにおいては、多くの
会社で SCM と Logistics の重要性は意識されており、経営コンサルタントはこれらの
傾向に即応した内容の知識を提供しており、これらのフィールドで活躍できる優良な
人財の必要性については認められつつある。ALI では日本の旧財団法人海外技術
者研修協会(AOTS)と定期的なミーティングをもっており、ALI でのトレーニングカリキ
ュラムの見直しや進め方などについて交流を図っている。
企業側は、一定の業務経験を持ち、定常業務の中に気付きを感じられる従業員
のスキルアップとして利用するには効果的であるが、即戦力の育成につながるカリキ
ュラムとしては魅力を感じていない。
現在、ALI としてもカリキュラムの内容や進め方を模索している段階であり、ALI 自
身の取組みを優先し定着をはかるほうが、時間はかかってもインドネシアに根付いた
カリキュラムとなると思われる。
15
3−2.戦略的にハブ機能を構築する物流先進国・地域
戦略的にハブ機能を構築する物流先進国・地域においては、それぞれの地理的特性も持ち
合わせながら、ハブ機能としての働きを強化している。ここでは、今回対象とした、シンガポール、
香港、韓国のそれぞれの特性について、港湾運営形態を述べた上で、(1)インフラ投資環境、
(2)港湾運営の方法、(3)空港運営の方法、(4)IT 活用の状況、の4つの動向を述べる。
図 3-1 は、港湾運営における役割分担を示したものである。縦軸は、投資、方針・計画、業務
オペレーションが誰であるかを、横軸に、港湾要素である土地、下物(岸壁築造、航路浚渫、防
波堤など)、上物(クレーンなど荷役機械、管理棟など)、法規制で区分した。シンガポールは、
国家主導型で、法人格を持つ法定機関が港湾の方針・計画を立て、下物が国営会社、上物が
業務オペレーションを行っている。一方、香港は官民協調型で、政府と民間で作った組織で方
針・計画を立て、民間企業にて業務オペレーションを行っている。韓国は公社主導型で、方針・
計画を公社が立てるとともに、土地・下物の所有権も公社で持ち、業務オペレーションを民間に
委託している。
(注)韓国については、韓国港湾法で定められた指定港湾のうち
「貿易港」のケースについてモデル化
図 3-1 港湾運営における役割分担
16
(1)インフラ投資環境
空港や港湾のインフラ投資には大規模な投資が必要となるが、各国・地域により、投資元や法
定機関が異なる。これらの投資環境を表 3-3 に示す。
表 3-3
対象国・地域
シンガポール
香港
韓国
インフラ投資機関
投資機関
Statutory Board(法定機関)が投資先である。法定機関は法人格であるため、
管理や財務面で自主裁量を有している。よって、収益性、それに繋がるサー
ビスや品質向上といった部分に投資が行われている。
方針や規制は政府機関により定められるが、インフラの投資元は民間企業で
あり、競争原理を生かした投資が行うことにより、港湾・空港の機能サービスの
向上が図られている。
政府機関が使用権を民間企業に貸し出し、民間企業はサービスで償還する
方式である。韓国は上記と比べて後発であり、政府主導で進みながら民間企
業が入りやすいような形を取っている。
(2)港湾運営の方法
戦略的ハブ拠点を持つシンガポール、香港、韓国における港湾の運営方法について、表 3-4
に示す。
表 3-4
港湾運営方法
対象国・地域
港湾運営方法
シンガポール 国家主導型。法的機関である MPA(Maritime and Port Authority)が港湾の方
針・計画業務を行い、ターミナルオペレーターの PSA International)が運営し
ている。基本的に上物も下物(注)もターミナルオペレーターが保有し整備も担
っている。ここでの特長は、ターミナルオペレーターがマレーシアなど周辺国
の港湾整備へも投資する等、近隣港湾と協調/競争関係を持ちながらハブ
拠点機能を強化し、サービス向上を図っている。
香港
民間協調型。香港港のターミナルオペレーターは全て民間により運営されて
い る 。 港 湾 運 営 の 管 掌 は 運 輸 及 房 屋 局 ( Secretary for Transport and
Housing)であるが、香港港の発展戦略、港湾開発の基本方針、整備計画等
の策定については、官民で構成された香港港口発展局(Hong Kong Port
Development Council:PDC)が当たっている。
Council は、管掌部門の運輸及房屋局、ターミナルオペレーターの代表者等
から構成されており、開発戦略を共有しその戦略の実行に責任を持つ仕組み
が構築されている。従って、ターミナル間の競争だけでなく、香港港全体の競
争力を維持するという目的を効果的に遂行できるようにしている。
韓国
公社主導型。仁川港では運営主体は港湾公社で、下物は国が 100%整備
し、港湾公社に無償で賃貸し、公社から更にターミナルオペレーター会社に
再貸与される。
(注)上物:荷役機械(レーンなど荷役用可動施設)、管理棟、ゲートなどの施設
下物:岸壁築造、航路浚渫、防波堤、ふ頭用地造成といった一連の基本施設
17
(3)空港運営の方法
空港運営には、大きく、全体投資計画や法規制を制定・検討する「空港行政」、空港周辺の物
流用地開拓や設備開発を行う「空港地域運営」、空港内の貨物設備の開発運営を行う「航空貨
物ターミナル運営」の3つがある。空港の運営方法について、表 3-5 に示す。
表 3-5 空港運営方法
対象国・地域
シンガポール
空港運営方法
空港行政は、Statutory Board (法定機関)の航空輸送民間航空局(Civil
Aviation Authority of Singapore:CAAS)が実施している。空港地域運営と航
空貨物ターミナル運営は、CAAS の運営部門から独立・民営化したチャンギ
空港グループ(Changi Airport Group:CAG)にて行われており、温度管理可
能な低温倉庫や、輸出ターミナルと輸入ターミナルを隣接させて効率的なト
ランシップを実現するなど、利用企業を意識した高付加価値サービスを提供
している。
香港
空港行政は公的組織である運輸及房屋局(Secretary for Transport and
Housing ) 、 空 港 地 域 運 営 は 公 営 機 構 で あ る 香 港 空 港 管 理 局 ( Airport
Authority Hong Kong:AA)が実施している。航空貨物ターミナル運営は AA
から権利を得た民間会社が運営している。この結果、中国本土の珠江デル
タ地域と香港間の保税空陸一貫輸送サービスなど高付加価値サービスが提
供されている。オペレーター業務は、公的組織が民間企業に委託する形で
はなく、入札によって対象業者が選定されるため、競争原理にもとづくコスト
低減やサービスレベルの向上が図られている。
韓国
空港行政は行政組織である国土海洋部、空港地域運営は公的組織である
空港公社が実施している。空港地域運営は、空港公社が空港近隣に自由
貿易地域を作り、地域利用企業を入札にて選定している。ハブ航空輸送を
望む企業にとってコストメリットの高いサービスを提供している。また、航空貨
物ターミナル運営は、開港前から、土地造成費用を国で負担しながらも民間
資本誘致方式により、国の投資を抑えながらも競争原理を働かせ高サービ
スの提供を促している。
(4)IT 活用の状況
シンガポール、香港、韓国では、戦略的にハブ機能を構築することを目的として、膨大な物流
取扱量の効率的な処理、さまざまな事業者の利用、という2つの観点で IT を有効に活用している。
また、IT で収集した情報を基に戦略的活用もなされている。例えば、船社に対して港湾取扱量に
応じてドレージコストの補助金制度の設定や、インフラ設備の稼動状況から今後の投資計画・保
全計画に反映させる等に利用している。
18
それぞれ、通関・貿易手続き(BtoG)との EDI システムからスタートし、港湾や空港における貨
物に関わる手続き業務(BtoB)との接続から相互連携、手続きの一元化へとシステムを発展させ
ている。更に、手続きだけでなく、業務処理を通じて取得可能なデータや情報を活用した総合的
な物流情報システムへと発展させ、荷役処理の効率化と利用者の利便性向上を図っている。
各国・地域の港湾・空港における業務手続きとこれら業務を支援する IT システム名称を表 3-6
に、特長を表 3-7 に示す。シンガポールは、TradeXchande で1システムに統合されており、各種
申請を1システムで完了することができる。また、手続きが簡素化されており、処理スピードも 3∼
30 分で遅くても翌日の貨物搬出が完了可能である。香港は Digital Trade & Transportation
Network(DTTN)という Gateway システムを介して通関・貿易手続きに関わる情報だけでなく、貨
物にを対象とした情報の共有と関連する手続きが連携されている。貿易・通関手続きは Tradelink
に統合されており、処理スピードともシンガポールと同様である。韓国も手続きの簡素化が進み、
システム統合がされている。更なる統合化ポータルサイトとして各システムの高度化と連携を推進
中である。その他、USN、RFID 等の IT 技術利活用の特長として、シンガポールは貨物ステータス
情報の一元化を実現しており、位置管理・追跡を活用し輸出入業務の先手処理をするなどの IT
活用が行われている。また、香港では、高機能かつ処理性能の高い荷役設備を用いて、生産性
向上とサービス向上を図っている。韓国においては、RFID、GPS などのユビキタス技術を活用し
た物流情報の可視化を推進している。
表 3-6 港湾・空港業務の主な手続きとシステム
e
d
n
a
h
c
X
e
d
a
r
T
(貨物管理、船積み指示等)
Integrated
Multimodal
Solution
ターミ
ナル毎
のシス
テム
港湾位置管理・追跡
7
航空貨物手続き
8
鉄道貨物手続き
(鉄道無し)
(鉄道無し)
9
統合システム
TradeXchand
e が1システム
で統合
DTTN が
Gateway 機能
として、
community
サイトに接続
(5 万企業)
︶
6
ACCS
ACCS: Cargo Clearance System
KACIS:Korea Air cargo Community Information System
19
(参考)日本
NACCS
各省
システム
NACCS
決済機能
港湾 EDI
S
I
M
t
r
o
P
t
e
n
e
d
a
r
T
港湾業務手続き
k
r
o
w
t
e
N
n
o
i
t
a
t
r
o
p
s
n
a
r
T
&
e
d
a
r
T
l
a
t
i
g
i
D
港湾手続き (入出庫、
係留施設使用手続き等)
Trade
Finance
Portnet
N
T
T
D
金融決済手続き
k
n
i
l
e
d
a
r
T
5
(検疫/検査/
輸出入許可)
S
S
A
P
I
N
U
4
税関手続き
他法令手続き
韓国
S
S
A
P
I
N
U
3
通
関
香港
S
C
C
A
N
2
輸
出
入
業
務
シンガポール
︵
1
業務区分
国家統合物流情報システム
№
GICOMS
COLINS
KACIS
NACCS(Air-NACCS)
KROIS
―
通関システムと
各種物流情報
システムの統
合と情報の高
度化を推進中
システムの single
window 化と共に
帳票手続きを
電子化
表 3-7 各国における貿易・通関システムと関連システムの特徴と比較
№
1
比較項目
輸出入業務(通関、
港湾入庫、金融決
済)の自動化
2
処理スピード
(通関所要時間*)
3
貨物ステータス支援
4
USN、RFID 等の
IT 技術利活用
シンガポール
◎
各種申請を一シス
テムで完了可。手続
きが簡素化
◎3∼30 分で処理。
貨物搬出も翌日に
は完了。
◎
Port-Net と の 相 互
接続により情報一元
化を実現
◎
位置管理・追跡を活
用 し 輸 出 入業 務 の
先手処理による効
率化。
香港
◎
各種申請を一シス
テムで完了可。手続
きが簡素化
◎3∼30 分で処理。
貨物搬出も翌日に
は完了。
○
貨 物 の 処 理ス テ ー
タスの把握は可能
◎
港湾の高機能設備
(複数コンテナ処理)に
よる効率化。
韓国
○
各種申請を一シス
テムで完了可
○処理は 1.5 時間
程度。貨物搬出は1
日以内。
◎
管理番号の入力に
より貨物処理ステー
タスの把握が可能
◎
ユビキタス技術を活
用した物流情報の
可視化を推進
*通関所要時間:税関への輸入申告から輸入許可までの所要時間
港湾及び航空インフラのオペレーション、通関手続き等のIT利活用の状況について、表 3-8
に示す。
表 3-8 港湾及び航空インフラオペレーションにおける IT 利用状況
対象国・地域
状況
シンガポール
シンガポールでは、コンテナ貨物の効率的かつ迅速な取り扱いを確保するた
め、通関手続きのオンライン化などIT技術を駆使し、貿易・物流に係る手続きの
ワンストップサービスの開発を進め、手続きにかかるリードタイムを極限にまで短
縮した。PortNet(港湾関連業務EDI)及びTradeNet(貿易・通関関連業務EDI)
では、港湾・貿易関連の申請手続きのほか、貨物情報の位置や処理状況など
の物流情報や金融機関等の決済手続き状況までを関係者に提供することを可
能としている。No control、No premitの貨物(輸入貨物全体の95%がこれに分
類)は3分以内に許可がされている。それ以外の申告は、Control Agencyの審
査が必要となるが、殆ど全ての申告は提出から30分以内に許可され処理されて
いる。
ま た 、 荷 役 業 務 を 効 率 化 す る た め 、 CITOS(Computer Integrated Terminal
Operation System)が稼動している。
20
香港
香港は自由貿易政策を推進しており、原則的に貿易障壁は存在しない。香港
に輸入される物品には関税はかからず、輸入許可の手続きも最小限に抑えら
れている。貿易円滑化に焦点を合わせており、安全面への配慮から航空貨物
に対してだけ税関が直接統制する形がとられてきた。統制対象物品(controlled
item)は許可を受けた者だけが取り扱えるように運営者を直接管理する方式を採
用している。このような背景から、港湾関連の情報システム化は、貨物輸送事業
者との情報共有という部分で遅れていたと言われている。現在は Digital Trade
& Transportation Network(DTTN)という Gateway システムを介してターミナルオ
ペレーターとフォワーダー及び貨物輸送事業者との情報共有システムも構築さ
れ、運用されている。また、このシステムは、貿易・通関システムである Tradelink
とも連携しているほか、空港オペレーション会社のシステム(HACTL 社のシステ
ム等)や決済機関との接続を実現しており、貿易手続きだけでなく、貨物の処理
状態などの物流情報の提供、銀行への支払い指示などもカバーしている。
港湾・空港での荷役処理の効率化としては、ターミナルを運営する会社がそれ
ぞれの効率化のためにシステム化を推進している。HACTL 社が運用している
COSAC(communication system on air cargo)は、航空局、税関局、民間航空
局、政府統計局などの政府機関と航空会社や貨物輸送事業者を接続し、貨物
の電子申請のほか、貨物のトラッキングなども可能としている。
韓国
国土海洋部と関税庁を中心に輸出入物流プロセス情報化、物流情報 DB 構
築、物流情報の共同活用拡大事業を推進している。入出港、荷役、 通関、検
疫、運送など輸出入業務における段階別物流プロセスの改善を目的として情
報化戦略が立てられている。手続きのオンライン化と共にシングルウィンドウ化
が図られ、政府機関間の情報共同活用システムが連携し提供されている。
物流に関する国家基幹情報システムとしては、国土海洋部の総合物流情報シ
ステム、港湾運営情報システム(PORT-MIS)、関税庁の通関情報システム
(UNI-PASS(KT-Net 含む))、鉄道公社の鉄道運営情報(KROIS)などがある。
次の段階として、港湾・航空物流分野の民間物流業者と物流情報を共同活用
する協業システムを構築し、港湾・空港における荷役業務に関わる情報提供の
ためのプラットフォームが強化され、その中では特にユビキタス情報基盤として
RFIDやモバイル情報機器を活用したシステム構築がされている。これらには、
仁川空港公社で運用されているAIRCIS (航空物流情報システム)や、仁川港湾
公社で運用されているI-PLUS(仁川港湾物流システム)などがある。
これらについても統合物流情報システムとして統合が推進中である。
21
4. 各国の物流状況調査詳細
4−1.日系企業が製造拠点を持つASEAN諸国
4−1−1.タイ
4−1−1−1.概況
タイにおける陸運、鉄道、水運(内航海運及び内陸水路)のチャネル別輸送では、陸運の占め
る割合が最も高い。2009 年では全体の 84%を占めている。また、水運の貨物量も増加基調にあ
り、同年のシェアは 14%と 1999 年の 9%に比べて伸びている。一方、鉄道の貨物輸送量はほと
んど増えていないのが実情である。
工業団地はバンコク周辺を中心として、周辺地域と基幹道路の周辺に発展している。
図 4-1
タイの工業団地分布
図 4-2 タイのアジアハイウェイ路線
(出典:国際機関日本アセアンセンター
(出典:国土交通省)
工業団地情報を基に作成)
22
4−1−1−2.港湾インフラ状況
タイでは、経済発展に伴う貨物量の増大と共に港湾整備が進められてきており、現在の主要な
港湾には、バンコク(クロントイ)港、レムチャバン港、マプタプット工業港等がある。
(1)バンコク(クロントイ)港
バンコク港は、1951 年に開港し、国内外への海上輸送のベースとして発展してきた。バンコク
港は、チャオプラヤ河の河口から 26∼29km の左岸に立地する河川港である。同港は 1950 年代
以降、世界銀行の融資などを受けて拡張し、貨物取扱量は急速に拡大していった。1980 年代初
頭には、タイの 98%の輸入貨物、60%の輸出貨物、40%の沿岸貿易の貨物を取り扱っていたとされ
ている。バンコク港は、コンテナヤードの新設、保管設備の拡張、貨物取り扱いサービスの効率
化を進めたが、1980 年代の急速な経済発展とそれに伴う貨物需要の増大に対応することができ
ず、港湾の混雑は深刻化することになった。また、河川港で水路が狭く水深が 8.5m しかないため、
10,000 トン以上の大型船が入港できず、近年の輸送船の大型化への課題も抱えていた。
深海港であるレムチャバン港の開港に伴い、本来の貨物取扱容量に見合った貨物を取扱うよ
うになり、現在は、近海航路及び内陸水運の拠点として機能分担されている。
港湾管理に加え、荷役作業などの機能をタイ港湾公社自らが提供している。タイ港湾公社が
バンコク港において力をいれているのが e-Port プロジェクトであり、同プロジェクトにより、輸送コ
ストの削減・迅速で透明性の高い運営とサービスの向上を図っている。
(2)レムチャバン港
経済発展とそれに伴う貨物需要の増大に対応するため、タイ政府の投資により 1991 年、西部
臨海地域にレムチャバン港が開港した。河川港であるバンコク港に大型船が入港できないのに
対し、深海港であるレムチャバン港は全長 1,300m の防波堤を備え、3 万トン∼5 万トン級の大型
貨物船の入港に対応している。レムチャバン港が開港して以来、輸入貨物を中心にレムチャバン
港への機能移行が進み、現在は基幹航路を中心にした荷役が行われている。現在、第 2 期とし
て全長 1,900m の防波堤を備えた総延長 4,100m、奥行 500m、水深 16m のふ頭整備が進められ
ている。
レムチャバン港の貨物取扱量は年々増加しており、港湾設備のさらなる拡張が課題となってい
る。レムチャバン港では、貨物の集中を緩和する方法として、内陸部にコンテナ・デポを設置して
おり、コンテナ・デポと港の間は鉄道によって結ばれており、鉄道の積極的な活用と拡張が検討
されている。なお、こうした貨物輸送の積極的な鉄道活用は、慢性的なトラック不足への対応、更
にはタイ国鉄の収益改善にもつながる可能性があると期待されている。
(3)マプタプット工業港
バンコクの南東約 180Km に位置し、東部臨海開発のインフラとして工業団地と併せて整備され
た。浚渫と埋め立てにより造成された港で、化学、鉄鋼、石油化学等の重化学工業地帯を後背
地に抱え、タイ工業団地公社が管理している。水深 10m、6万トンクラスの船舶が入港可能であ
る。
23
4−1−1−3.空港インフラ状況
(1)7つの国際空港
タイには、バンコク(①スワンナプーム、②ドンムアン)、③チェンマイ、④チェンライ、⑤ハジャイ、
⑥プーケット、⑦サムイの7つの国際空港があり、⑦サムイを除く6つの国際空港の管理・運営は
タイ空港会社(Airports of Thailand:AOT)が行っている。バンコクのスワンナプーム空港が乗降旅
客数全体の約 75%、輸送貨物量全体の 95%を処理している。タイの国際空港の乗降客数と輸
送貨物量の実態を表 4-1に示す。
表 4-1 タイの国際空港の乗降客数と輸送貨物量(2010 年 9 月期)
輸送実績
空港名
乗降客数
(万人)
スワンナプーム
輸送貨物量
(構成比)
(千トン)
(構成比)
4,250
74.0%
1,274
94.8%
プーケット
680
11.8%
26
1.9%
チェンマイ
318
5.5%
21
1.5%
ドンムアン
276
4.8%
7
0.5%
バジャイ
146
2.6%
13
1.0%
チェンライ
72
1.3%
3
0.2%
5,743
100.0%
1,343
100.0%
合計
(出典:国際協力銀行「タイの投資環境 (2012 年 10 月版)」 ※ソース元はAOT資料)
(2)スワンナプーム国際空港の概要
スワンナプーム国際空港は、ドンムアイ空港に替わるバンコクの新しい国際空港として 2006 年
に、バンコク市内から約 25km 東の位置に開港した。ターミナルは国際・国内の双方に対応し、1
つのターミナルの中に別々のコンコースが配置されている。同空港には平行する二本の滑走路
(幅 60m、長さ 4,000m 及び 3,700m)があり、航空機の同時発着が可能であり、一時間に 76 機の
離発着が処理できる。また、60m と長い 52 本の誘導路を有するほか、120 の駐機場(contact
gate:51、remote parking bay:69)を持ち、そのうち8つ(内、contact gate:5)は大型旅客便である
エアバス A380 にも対応している。空港の床面積は 563,000 ㎡、世界で最も高い航空管制塔
(132.2m)を備えるなど、世界でも有数の規模を誇る国際空港である。
現在完成している設備は、年間 4,500 万人の旅客と 300 万トンの貨物に対応することができる。
貨物・郵便を取扱う施設としては空港西側に総面積 549,416 ㎡の非課税エリアと 111,156 ㎡の公
共エリアがあり、その中には貨物ハンドリング会社のオフィスビル、4 つの倉庫、4つの航空貨物荷
役代理店ビルと税関や関連政府機関のオフィスビルのほか、Free Zoon 運営ビルがある。
24
ス ワ ン ナ プ ー ム 国 際 空 港 に あ る 国 際 貨 物 上 屋 は 、 タ イ 航 空 ( THA ) と Bangkok flight
services(BFS)の二社により運営されている。
通常、ハンドリング作業は上屋運営会社によって行われるが、スワンナプーム国際空港ではフ
ォワーダー各社が行っている。トータル輸送時間の短縮や、自社スタッフによる貨物の取扱は貨
物ダメージの軽減など差別化要素となっている。一方でハンドリング作業のための人員を常に確
保する必要があり、コスト増の一因ともなっている。
図 4-3 スワンナプーム国際空港 空港貨物上屋内風景
(左:X-ray 検査装置、右:貨物倉庫)
4−1−1−4.道路及び鉄道インフラ状況
タイの主要道路網は、ベトナム戦争時にアメリカ軍との軍事協力協定により、アメリカ軍が効率
的な輸送と作戦上の理由によりタイの道路を整備したことにより、急激に道路網が発展することに
なった。国際協力銀行によるタイの投資環境(2012 年 10 月)によると、約 6.7 万 km 以上の自動
車専用道路が建設され(現在、舗装率 98%以上)、高速道路網も整備されているとのことである。
タイ国内の物流については、トラックによる陸送が中心であるが、増大する物量に対応できる十
分なトラック車両の確保が課題となっている。また、タイにおいてはシンガポールと異なり、外国人
労働者の受入れ制限があり、運送作業者(ドライバー)の確保も課題となっている。また近年、人
件費が高騰しており、輸送コストも上昇傾向にあることから、投資先としてのタイの差別化が課題
となっている。
鉄道網は、工業団地と港湾との直通ルートも敷設されているものの、機関車の不足、貨車の不
足、単線区間が多いこと等もあり、インフラ整備には遅れが見られる。また、タイ鉄道が国有組織
であり赤字経営が続いているため、あまり設備投資が行われず、改善が進んでいないというのが
実情である。
25
4−1−1−5.制度や規制に起因する課題
(1)外資参入における法規制と地場配送網の物流課題
外国企業は外国人事業法により強い規制を受ける。特に「国内陸上・海上・航空運輸及び国
内航空事業」といった物流事業は外国企業に門戸が開かれておらず、「港湾関連事業」のように
限定的な規制除外事業はあるものの、外国企業の市場参入の障壁となっている。
また、タイ国内の配送ネットワークは国営運送会社の The Express Transportation Organization
社(ETO)のみが保持しているが、ETO のサービスは料金前払い制で値段も高い。このため、企業、
運送業者とも ETO の利用は緊急の場合に限り、地場運送業者を使い分けているという状況であ
る。
(2)国内物流事業者への規制が少ないことによる物流の品質課題
外国企業は強い規制を受ける一方、タイの国内企業に対する規制は極めて少ない。特に開業
規制については特別な規制がないため、誰でも開業が可能であり、経済規模の割に事業者数が
多い実態がある。物流業界についても同様で、誰でも参入できることも原因の一端として、物流に
関する手続きの遅延や輸送中の破損等の品質面の課題も発生している。
(3)通関手続きの非効率性に起因する課題
大メコン圏(GMS:Greater Mekong Sub-region)プログラムの対象項目の 1 つとして通関手続き
の簡素化に向け越境交通協定(CBTA:Cross Border Transport Agreement)が作成されている。
国境での手続きを 1 つの窓口で完結させるシングルウィンドウ、国境を越えるときに輸出国と輸入
国で各々行われる検査を共同で実施し 1 回で完結させるシングルストップの導入等により、手続
きを簡素化し、リードタイムの短縮と作業効率向上をめざしている。しかし、CBTA を各国の国内
法へ取り込むことにも時間がかかっている上、税関窓口の運用時間延長の必要性(24 時間受付)
や電子通関の問題(頻発するシステムのシャットダウン)、運用問題による非効率性(特定品目へ
の HS コード適用による関税金額の修正や原産地証明書発給の遅れ)といった運用面での障害
もあり、各国連携の加速化による改善が期待されている。
その他、ASEAN 諸国と異なり、タイ、マレーシアのみ ASEAN 共通関税コードではなく従来の
HS コードを ASEAN 域外の貿易に使用しており、制度の一本化も期待されている。
26
4−1−1−6.日系進出企業の物流状況と課題
タイに進出する日本企業は、2011年10月31日時点で3,133社であり、業種別では「製造業」が
1,735社(55.4%)で過半数を占める。以下、「卸売業」(739社、23.6%)が続く。「自動車部分品製
造」(94社)など、自動車関連の業種だけで252社(8.0%)を数える。(出典:帝国データバンク「特
別企画 : タイ進出企業の実態調査」)このような状況の中、進出日系企業の主な課題として次の
ようなものが上げられる。
(1)人件費高騰による物流コストアップ
2013 年 2 月現在、失業率はほぼ 0%に近い状況であり、国の制度として外国人労働者の雇用
が推進されていないこともあり、人員確保が極めて難しい状況になっている。また、内陸輸送はト
ラックが主体であるが、近年トラック車両不足及びドライバーの不足が深刻化している。さらに、一
律 300 バーツの最低賃金の適用もあり、労働集約型の物流業において、深刻な人件費高騰を招
いている。そのため、結果として荷主の物流コストアップにつながっている。タイ荷主協議会でも
最低賃金の適用という政府政策に対しては一定の必要性を認めながらも、タイの物流環境は更
なる改善とレベルアップが必要であり、過度なコストアップは投資対象国としての魅力を失うことに
つながるとの危惧を示していた。
(2)都市部の渋滞による調達・配送リードタイムの長時間化
都市部を中心に渋滞は深刻化している。急速なモータリゼーションの進行と共に、都市部の道
路も迂回できない路地が多いことも渋滞の要因とされている。タイ運輸省によると、バンコク首都
圏の自動車登録台数は 2012 年 11 月時点で道路の許容量(160 万台)の 4.6 倍にも達したとのこ
とであり、早急な対応が急がれている。バンコクへの既存国道の代替ルートやレムチャバン港へ
のバンコク都市部を経由しないルートのモータウェイ建設が計画・実施されている。計画の一部
については、アジア開発銀行(ADB)の資金により調査が実施されている。
(3)制度や規制のグレーゾーンの存在
制度や規制が制定されているが、タイの BOI 制度(補足)や、FZ(Free Zone:保税地域)を規定する
法律、その他の税制関連法律の関連性に起因するグレーゾーンが存在しているのが実情である。
そのため、進出する日系企業はリスク回避のため、FZ を上手く活用できていないケースが多い。
(4)自然災害(洪水)対策
2011 年 7 月から発生したタイの大規模洪水被害では工業団地が冠水し、日系企業も多くの被
害を受けた。今後はサプライチェーンの維持・寸断防止を目的として、自然災害(洪水)対策に取
組み、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)が求められる。
(補足)BOI 制度
タイ投資委員会(The Thai Board of Investment:BOI)が投資奨励法に基づき推進している投資促進に関わる優遇制度
27
4−1−1−7.人材育成について
タイにおいては、中間管理職の人材不足や獲得の難しさが課題となっているため、タイ荷主協
議会(Thai National Shippers' Council :TNSC)が中心となって、物流機能の知識と物流管理手
法を総合的に習得し、物流管理及び物流・ロジスティクス改善を推進できる人材育成を進めてい
る。TNSC では、2008 年度より「 ロジスティクス管理士資格認定講座(英文名称 Logistics
Qualification System Program :LQSP)」を実施している。LQSP は、日本で公益社団法人日本ロ
ジスティクスシステム協会(JILS)が実施している物流専門家育成のための資格認定講座であり、
物流技術管理士資格認定講座をもとにタイ向けにアレンジしたものである。過去5年間で 150 名
の資格取得者を輩出し、多くの資格取得者は、所属企業で物流・ロジスティクスの改善を進め、コ
スト削減等の大きな成果を上げている。
4−1−1−8.ミャンマーダウェイ港への期待
タイでは、マレー半島西側アンダマン海を通じて直接インドや欧州に輸出可能な物流ルートと
して、産業集積地から最短半日でアンダマン海に抜けられるミャンマーのダウェイ港開発に期待
が高まっている。
ただし、物流ルート確立には、総輸送コストの削減、ワンストップ通関など手続きの簡素化、国
境でのコンテナ積み替え不要化など円滑化措置の実施や不確定要素の削減もあらかじめ検討
しなければならないなど課題も多い。
なお、ダウェイ港開発に関して、タイ政府は 2012 年 7 月、ダウェイ開発にミャンマーとの2国間
国家プロジェクトとして取り組むと発表している。また、タイのゼネコン(総合建設会社)最大手イタリ
アンタイ・ディベロップメント(ITD)は、2013 年 3 月 11 日、バンコクで記者会見を開き、ミャンマー
南東部ダウェイの開発に関し、ミャンマー政府と特別目的事業体(SPV)を設立することで合意した
と発表している。SPV にはミャンマー政府とタイ政府が 30%ずつを出資し、残り 40%については、
日本、韓国、中国などに出資を募っている状況である。
タイがミャンマーのダウェイ港開発に期待を寄せている背景としては、バンコクから陸路で西に
300km の距離であり、リードタイムの短縮が見込まれることのほか、レムチャバン港のキャパシティ
を分散する狙いがあることが、タイ港湾公社へのヒアリングからもうかがえた。
28
4−1−2.ベトナム
4−1−2−1.概況
ベトナムには北部に位置するハノイと南部に位置するホーチミンの二大都市があり、産業集積
地かつ商圏となっている。グローバルなサプライチェーンを意識すると、北に位置するハノイは中
国華南越経済 4 圏(広州、シンセンなど珠江デルタ地域)に近い。南部のホーチミンは工業発展
が進み、裾野産業が発達しているという特徴がある。工業団地はハノイとホーチミンを中心とした
周辺地域と、基幹道路の周辺に発展している。
ハノイとホーチミンの二大都市の距離は約 1,800Km であるが、南北間を結ぶ道路網、鉄道網と
いったインフラ網は貧弱である。ベトナムでは国内輸送にはトラック、海外輸送には船舶が利用さ
れることが大半である。
図 4-4 ベトナムの工業団地分布
図 4-5 ベトナムのアジアハイウェイ路線
(出典:国際機関日本アセアンセンター
(出典:国土交通省)
工業団地情報を基に作成)
29
4−1−2−2.道路インフラ状況
ベトナムの幹線道路は、GMS 諸国間の輸送インフラの整備とも関連して、ADB や日本による
ODA 支援もあり整備が進められている。ベトナムと他の GMS 諸国間との輸送手段は海上輸送が
中心であるが、陸上輸送による所要時間の短縮と、地域経済の活性化という視点から注目を集め
ている。特に、第一東西回廊、第二東西回廊(南部経済回廊と呼ばれることもある)の中越物流
ルートは、日系企業にとっても関心が高い。
ベトナムの国内物流は約 70%が陸送で占められている。ベトナムの幹線道路は整備が進んで
きているものの幅員、舗装状況等に課題も多い。
特に産業道路と生活道路の区分が整備されてお
らず、幹線道路であっても乗用車やトラックの間
を大量の二輪車が縦横無尽に走り、時に逆走さ
え見られる。
南部ホーチミン、北部ハノイといった都市に近
い主要港周辺道路は、渋滞が定常的に発生して
おり周辺企業の調達、出荷物流停滞の原因の 1
つとなっている。
主要な道路網を図 4-6 に示す。
図 4-6 ベトナムの道路網
図 4-7 ホーチミン市内の道路状況
出典:国際協力銀行
「ベトナムの投資環境(2012 年 8 月版)」
30
国内の幹線道路状況を表 4-2 に示す。
表 4-2 国内の幹線道路状況
道路の状況
国道名
国道
・ハノイ∼ホーチミン間(1,800km)をつなぐ縦断道路
1 号線
・トラック輸送の所要日数: 片道約 3 日(各所の検問で時間がとられる等の理由により、
実質的には5∼6日を要する場合が多い)
・道路状況:基本的には片道一車線で、大都市を通過する部分には片側二車線に整
備されているところもある
・近隣諸国との接続
ハノイ
2005 年 12 月、中越国境の友誼関と南寧を結ぶ高速道路(南友道路、
以北
約 180km、片側二車線)が開通し、ベトナム側の国道 1 号線に接続
ホーチミ
ン以南
南部のカントーまで延伸している。ホーチミンからは国道 22 号線が北
西に伸び、カンボジアの首都プノペン経由でタイのバンコクへ通じて
いる(第二東西回廊(南部経済回廊))。
・国際支援:ベトナム南北間の道路整備に対し国際金融機関が様々な支援を実施。
-世界銀行:ハノイ∼ヴィン間及びホーチミン∼カントー間整備事業に借款を供与
-アジア開発銀行(ADB):ホーチミン∼ニャチャン間の整備事業に借款を供与
-日本:ダナン∼フエ間のハイバントンネルの建設に借款を供与
ハイバントンネルは 2005 年 6 月に完成し、峠越えにかかる時間が従来の
約 1 時間から 5 分へ大幅に短縮された。
国道
・ハノイ∼ハイフォン間(130km)の高速道路
5 号線
・所要時間:約 2 時間
・生活道路と化しており渋滞が頻発している。なお、ハノイ市中心部ではトラックの総積
載量に応じて通行規制がとられている。例えば、総積載量 2.5 トン以上の場合、午前 6
時∼午後 9 時は走行禁止である。ホーチミンでもほぼ同じような措置が取られている。
中部のダナンでは、道路網の整備が進められており、交通量もハノイやホーチミンと比
べて少ないため、やや緩めの規制となっている。
国道
・国道 5 号線の北側に位置し、ハノイとカイラン港を結ぶ(160km)
18 号線 ・所要時間:2 時間半∼3 時間
・現状では 5 号線に比べて二輪車の量が相対的に少なく、トラックにとっては多少走り
やすい。なお、現在、5 号線南側に自動車専用道路の新 5 号線の建設が進んでいる。
国道
・中部の道路網の中心都市はダナンである。
9 号線
・ダナンから第一東西回廊がスタートしダナン北部のフエ、ドンハを通過し、ラオスのサ
バナケット(国道 9 号線)を経由してタイやミャンマーへと繋がっている。
出典:国際協力銀行「ベトナムの投資環境(2012 年 8 月版)」の情報を基に編集
31
(2)周辺国との国際物流回廊
第一、第二東西回廊プロジェクトは、インドシナ地域をベトナム中部から東西に横断する運輸イ
ンフラ(道路、橋梁、港湾等)整備構想のことで、ADB や日本の ODA 資金などによって整備されて
いる。特に、バンコク∼ハノイ間の陸路輸送の利便性向上に大きく貢献すると期待されている。
GMS 諸国を結ぶ国際物流回廊ルートを図 4-8 に示す。
図 4-8 ベトナムと周辺国との国際物流ルート
出典:国際協力銀行「ベトナムの投資環境(2012 年 8 月版)」
※所要日数及びコストは目安:日系物流企業資料、JETRO 資料、ほか各種資料より作成
(2−1)第一東西回廊
・ルート概要
東側のベトナム・ダナン港と、西側のミャンマー・モーラミャイン港をつなぐ全長 1,450km で、
2006 年 12 月、ラオス(サバナケット)・タイ(ムクダハン)国境にかかる第二メコン国際橋が完
成し、ほぼ直線経路で開通した。
32
・従来との比較
開通まではサバナケットから北上してラオスの首都、ビエンチャン経由でバンコクへ向かわ
ざるを得ず、時間的なロスが生じていた。第二メコン国際橋の完成により、バンコク∼ハノイ
間の陸上輸送距離は 1,925km から 1,555km へ短縮され、所要日数も約 4 日間(4 泊 5 日)
から約 3 日間へ短縮された。
・海上輸送との比較
ハノイ∼バンコクの海上輸送は、8∼12 日間(ほぼ 2 週間)かかっている。
・期待と課題
陸上輸送は海上輸送に比べて輸送時間が短いことから、タイからの部品供給など、潜在需
要は大きいと考えられる。2007 年には経済産業省、国土交通省所管にて、走行実走実験
が行われたほか、いつくかの日系物流企業では実際に顧客の要望で緊急輸送を行ってい
る。しかし、以下のような課題があり、海上輸送よりコストも割高となるため、商業的に定期便
輸送ができるまでには至っていない。
①片荷:タイから輸出するものはあるが、ベトナムから輸出するものがない。
②積み替え:ベトナムのトラックはラオスには入国できるが、タイには入国できず、荷物の
積み替えが必要。その結果、積み替え作業のコストが付加され割高。
③通関:各国境での手続が煩雑で時間がかかる。
(2−2)第二東西回廊(南部経済回廊)
・ルート
ベトナム・ホーチミン(サイゴン港)からカンボジア・プノンペンを経由し、タイ・バンコクを結ぶ
全長約 900Km
・次のような課題から、積極的に活用されるには至っていない
①通関手続きの所要時間やコストが他国より多くかかる
②橋、道路の未整備
③片荷の問題に加え、輸送量が少ないことから、海上輸送より割高
④結局は海上輸送の方が、時間が短い
(2−3)中越物流
・ルート
ハノイ北東に位置するランソンと、中国広西チワン自治区・憑祥(ピンシャン)を結ぶルート
で、ベトナム国内の国道1号線を北東に約 150km(所要時間:約 3 時間)+ランソンから中国
国境までの約 20Km+友誼関と南寧を結ぶ高速道路(中国南友道路)の約 180Km(片側 2
車線)の合計約 350Km
・従来との比較
ハノイ∼南寧の所要時間は、従来までの約 7 時間から約 5 時間へ短縮された。
・特徴
特に中国側で改善が進んでおり、2005 年 12 月、中越国境の南友道路が開通しベトナム側
の国道 1 号線に接続されている。
33
4−1−2−3.鉄道インフラ状況
鉄道輸送については、鉄道が単線で電化されておらず、軌道、路盤、信号、通信設備などの
老朽化が進んでいる状況である。
ベトナムの鉄道は総延長 2,600km(除く側線)で、図 4-9 に示すのとおり、南北の主要都市を結
んでいるほか、北部は 2 地点で中国とも結ばれている。国内路線の中でも重要な路線は表 4-3
に示す4つである。
表 4-3
№
1
路線名
南北:
ベトナムにおける鉄道の主要路線
距離
1,726km
ハノイ∼ホーチミン線
運行数・所要時間ほか
ハノイ∼ホーチミン間の運行列車数は1日6本。
所要時間は最短で旅客は約 30 時間程度。旅客優先で、
貨物は 2∼3 日かかる。
2
北部:
102km
ハノイ∼ハイフォン線
3
北部:
運行列車数は 1 日 2∼3 往復あるが旅客のみ。
所要時間は 2.5 時間程度。
164km
ハノイ∼ドンダン線
運行列車数は 1 日 1 往復、所要時間は、約 6 時間。
このほかに中国の南寧、桂林、北京へとつながる国際列
車が週に 2 往復。
4
北部:
294km
運行列車数は 1 日 5 往復、所要時間は、9 時間程度。
ハノイ∼ラオカイ線
出典:国際協力銀行「ベトナムの投資環境(2012 年 8 月版)」の情報を基に編集
鉄道インフラの老朽化に対応すべく、「南北
鉄道橋梁安全性向上事業」という日本の ODA
により、ハノイ∼ホーチミン線に関し、経年劣化
の激しい 44 橋梁の掛け替え等を行うプロジェク
トが実施されている。
また、2010 年から国際協力機構(JICA)の支
援を得てハノイ∼ホーチミンを 10 時間以下で
結ぶ「南北高速鉄道計画」として、高速鉄道の
採用やレールの軌間変更を含めた南北縦貫鉄
道の高速化計画の事業化調査(FS)を進めて
きたが、「準高速鉄道案」と貨物輸送重視への
シフトを含めた動きも報道されている。
図 4-9 ベトナムの鉄道網
出典:国際協力銀行「ベトナムの投資環境(2012
年 8 月版)」 ※ソースはベトナム統一鉄道
34
4−1−2−4.港湾インフラ状況
南北に長い海岸線を持つベトナムには、多数の港湾が点在している(図 4-10)。ベトナム港湾
の多くは河川港で水深が浅く大型船が就航できないため、国際コンテナ輸送の潮流である大型
船輸送に対応できないといった港湾処理能力の問題が発生している。南部のホーチミン、北部
のハノイを中心としてインフラ開発が進んでいるが、中部のインフラ整備は南北に比較すると遅れ
ている。ベトナム港湾協会(Vietnam Seaports Association)の発表している 54 の港湾における
2009 年の貨物取扱量では、南部 54%、中部 9%、北部 37%の割合で、コンテナ取扱量では、南
部が全体の 65%、中部3%、北部 33%の割合である。実際に中部のダナン港では在来船で運
ばれる木材などの原材料が多く、コンテナ船の配船がほとんどない状況となっている。
港湾別にみると、ホーチミンのサイゴン新港が取扱貨物量の 19%、コンテナ取扱量では 46%
を占め、他を圧倒している。サイゴン新港に次いで重要な港湾は、北部のハイフォン港と南部の
サイゴン港と言われている。
図 4-10 ベトナムの主な港湾
(出典:ベトナム港湾協会ホームページ情報より作成)
35
主な港湾の特徴を表 4-4 に示す。
表 4-4 ベトナムにおける港湾の特徴
地域
北部
港湾の特徴
北部の代表的な港湾は、ハイフォン港(ハイフォン市)、ディンブー港(ハイフォン市)、カ
イラン港(クアンニン省)で、ほかに石炭積出港のカムファ港などがある。
日本の海運大手と商社がベトナムの国営海運会社と共同で、ハイフォン沖のラックフェン
で大型新ターミナルを建設・運営することが報道されている。
ハイフォン港
北部最大の商業港であるが、河川港であり、航路水深が 5.5m∼7.3m と
浅く、大型船が入港できない。4 万トンが上限である。
ディンブー港
ハイフォン市に新設された港で、航路水深は 5.7m。240m と 185m の2本
のふ頭を有する。最大 4 万トンの船舶が入港可能。
カイラン港
ハイフォン港を補完する国際商業港とするために建設された北部で最初
の深海港。航路水深は 10∼20m で、最大 5 万トンの船舶まで入港可能。
2004 年 6 月にコンテナ・ターミナルが開業した。コンテナの取扱規模は、
2009 年でハイフォン港の 44%の規模である。カイラン港への期待は大き
いが、近くに世界遺産に指定されたハロン湾があるため、さらなる拡張は
難しいとの指摘もある。
中部
中心的な港湾は、北から順にダナン港(=ティエンサ港、ダナン市)、クィニョン港(ビンデ
ィン省)、ニャチャン港(カインホア省)で、2009 年の中部地区のコンテナ取扱量は、ダナ
ン港が約 5 割、クィニョンが約 4 割を占めている。
ニャチャン港は南部に近く、ホーチミンとの距離は約 320km である。
南部
・南部には多数の港湾があり、ベトナムの海上輸送の拠点となっている。
・南部では多くの港湾開発計画が浮上している。ホーチミン市の南、バリア・ブンタウ省の
カイメップ・チーバイでは日本の ODA や民間資本により港の整備が進められており、将
来的には 5 万トン級以上の船舶が入船できるようになる計画である。
サイゴン新港、 これら 3 港にベトナム国際コンテナターミナル(VICT)を加えて「サイゴン
サイゴン港、
港」と呼ぶこともある。貨物やコンテナの取扱量は非常に多いが、いずれ
ベンゲ港
も河川港であるため、3 万トン級の船しか入れない。
出典:国際協力銀行「ベトナムの投資環境(2012 年 8 月版)」の情報を基に編集
36
図 4-11 サイゴン新港ターミナルゲート
(2)海上輸送の所要日数
海外主要港への所要日数は図 4-11 のとおりである。ベトナムと日本とを結ぶ航路は、シンガポ
ールや香港経由が主流のため、日数がかかる。積み替え作業をローカル事業者が行う場合には、
当初予定以上に時間がかかる場合もある点に注意が必要である。
図 4-12 主要港への所要日数
出典:国際協力銀行「ベトナムの投資環境(2012 年 8 月版)」
※ソース元は、郵船航空サービス資料、東京船舶及び商船三井のホームページ
37
4−1−2−5.空港インフラ状況
(1)国際空港
ベトナムの主な国際空港は、北部のノイバイ空港(ハノイ市)、南部のタンソンニャット空港(ホ
ーチミン市)、中部のダナン空港(ダナン市)の 3 空港である。
南部では、新しい国際空港の建設が計画されている。ホーチミン市街から約 40km 離れたドン
ナイ省のロンタインでの新空港建設で、完成すれば、タンソンニャット空港に替わる南部の国際
空港となり、タンソンニャット空港は国内線の空港として利用されることになる。
(2)航空便数と所要時間
現在の日本∼ベトナムの航空便就航状況(旅客便)と、ベトナム主要都市間の所要時間(飛行
機)は以下のとおり。また、貨物便については、日本航空が 2007 年冬期より大阪(関西空港)∼
ホーチミン間で週 2 便(往復)運行を開始した。
表 4-5 日本・ベトナム間の航空便数と所要時間
出典:国際協力銀行「ベトナムの投資環境(2012 年 8 月版)」
※ソース元は、各航空会社ホームページ
4−1−2−6.日系進出企業の物流状況と課題
ベトナムに進出している日本企業は、2012年1月31日時点で1,542社あり、業種別に見ると「製
造業」が725社(47.0%)でほぼ半数を占めた。次いで「卸売業」(319社、20.7%)、「サービス業」
(236社、15.3%)となっている。(出典:帝国データバンク「特別企画 : ベトナム進出企業の実態
調査」) このような状況の中、進出日系企業の主な課題として下記が上げられる。
(1)近隣諸国と比較した物流インフラの整備の遅れ
GMS(Greater Mekong Sub-region:大メコン圏)プロジェクトの一項目として経済回廊のインフラ
整備が実施されているが、ベトナムにおいては近隣諸国に比べて道路整備が進んでいない。東
西経済回廊(ベトナムのダナン港からタイを経由しミャンマーまでを結ぶ国際道路)及び南部経
38
済回廊(ベトナムのホーチミンからカンボジアを経由しタイのバンコクまでを結ぶ国際道路)の整
備と利用を促進することで、タイの大都市バンコクとのサプライチェーン連携による流通の活性化
が期待できる。
(2)都市部における定常的な渋滞
南部ホーチミン、北部ハノイといった都市に近い主要港周辺道路は、渋滞が定常的に発生し
ており周辺企業の調達、出荷物流停滞の原因の 1 つとなっている。主要港周辺道路の整備によ
る渋滞解消が実現できれば、物流の効率化が期待できる。
(3)通関システムのベトナム内での統一化推進への期待と懸念
ベトナムでは、日本の通関システム(NACCS)の技術を活用した「税関近代化のための通関
電子化及びナショナル・シングルウィンドウ導入計画」を推進している。日本の NACCS 技術を活
用した貿易システムを構築することで,貿易手続の所要時間短縮や貿易コストの縮減などによる
ビジネス環境改善、IT 化による行政コスト削減といった効果が見込まれる。一方で、一時的な通
関業務の混乱や現行システムとの二重運用リスクが日系企業の間では懸念されている。
4−1−2−7.人材育成について
ベトナムでは、さまざまな規制や制度が行政区単位で規定・運用されている。また、制度面の見
直しにおいては全体の効率化を優先させるよりも、断片的に最新技術を追求するといった理論詰
め込み型の風潮が見られる。
ベトナム海運総局(VINAMARINE)は、IBC(International Broadcasting Convention)と共同でベ
トナム港湾・物流会議を 5 年に渡り実施しているが、ベトナムにおける物流環境を把握し、ソリュー
ション事例を共有するエクゼクティブセミナーであるため、物流実務を理解するような場としては
活用しづらい。
国土交通省は、ベトナム海事大学と連携して、同大学で物流を学んでいる学生などを対象とし
て、日本の優れた物流システムに関して体系的な講義を実施する「物流人材育成モデル事業」
を実施した。学生を対象とした人材育成は将来のすそ野を広げる意味では有用と考えられるが、
物流人材に関する認定制度導入は、JILS や TNSC のような物流関連団体の確立が望まれる。
物流に関する制度や政策の全体設計がある程度進んでから人材育成を行う方が効率的であ
ると考えられる。
今回の調査で訪問したローカル企業においては、誤り事例の蓄積やその対処方法を記録に
残すなどして再発防止に努める工夫が定常業務の中に盛り込まれていた。また、従業員が再発
防止のための改善に積極的に取り組む仕組みを整備し、モチベーション向上の工夫が図られて
いた。
39
4−1−3.インドネシア
4−1−3−1.概況
インドネシアは、17,508 の島々から構成されており、国内輸送、国際輸送ともに海運が重要な
役割を占める。しかし、国際交易に開放された 141 の港のうち大型のバルク船が寄港できるのは
首都ジャカルタのタンジュン・プリオク港、北スマトラ州都メダンのブラワン港、国内第2都市スラバ
ヤ(東ジャワ州都)のタンジュンペラックの主要3港しかない。今回の調査によると、首都ジャカルタ
のタンジュン・プリオク港でも投資計画はあるものの、港湾設備能力の絶対的な容量不足が発生
している。
図 4-13
インドネシアにおける域内輸送リードタイム(目安)
ジャカルタにあるタンジュン・プリオク港はインドネシア最大の流通港湾であり、コンテナ貨物で
全国の約半分を取り扱う。またこの西側にスカルノハッタ空港、港湾から南下した位置にジャカル
タ市街、その周りに各製造拠点の工業団地があり、それぞれに主要道路が伸びている。これら道
路インフラは迂回する経路がないために、近年増え続けている乗用車、トラック、オートバイが増
え続けており、交通渋滞が慢性化している。
今回ヒアリングを実施した物流企業によると、4∼5年前には工業団地からタンジュン・プリオク
港まで一日4∼5 往復できていたのが、2012 年現在は最大でも一日2往復に留まっているとのこ
とである。
40
図 4-14
ジャカルタ近郊の空港、港湾、工業地帯の位置関係
市内のスカルノハッタ空港寄りに金融拠点(BANK)、タンジュン・プリオク港の付近に税関
(CUSTOM)、市内から右手に伸びる道沿いに工業地帯が広がっている。
4−1−3−2.港湾インフラ状況
(1)タンジュン・プリオク港概要
タンジュン・プリオク港は、インドネシア最大の流通港湾であり、コンテナ貨物ではインドネシア
全体の約半分近くを取り扱う。同港の基本的な姿は旧オランダ統治時代のもので、オランダ人技
師デレーケが設計した第一線防波堤の恩恵を受けて100年近くタンジュン・プリオク港は機能して
きたといわれている。現在の岸壁総延長は約2km、内航と外航のほか自動車専用を含めて6つの
ターミナルがあり、現在も施設の拡張工事が行われている。コンテナバース14とガントリークレー
ン31機を有し、最大水深は14mで5万トン級のコンテナ船の入港が可能となっている。港湾は国
営企業であるIndonesia Port Corporation II(IPC)が管理しているが、港湾の設備費用は政府が
100%負担している。
図 4-15 タンジュン・プリオク港 港湾設備
41
(2)タンジュン・プリオク港の課題
ジャカルタ北部沿岸域は遠浅でかつ外海に直接面しており、港湾の基本的な立地に適してい
ないという地形的ハンディを持つ。大型船への対応、円滑な船舶航行に対する考慮は十分でな
く、防波堤に囲まれた狭い水域の中で施設の効用が最大限に発揮できる状態ではない。更に、
港湾周辺は無秩序な開発によって、十分な道路網の整備が行われないまま市街化した。従って、
港湾背後の道路網といった設計になっていないため、コンテナトレーラーをはじめとする港湾関
連重車両のスムースな港湾アクセスの確保への取組みが遅れる結果となっている。
図 4-16 タンジュン・プリオク港周辺の道路状況(2013 年 2 月 22 日撮影)
4−1−3−3.空港インフラ状況
(1)スカルノハッタ空港の概要
スカルノハッタ国際空港(Jakarta International Soekarno-Hatta Airport)はジャカルタから西に
20Km のバンテン州タンゲランに位置する。1985 年 4 月に開港。空港発着回数は年間 345,495
回(2011 年データ)を数え、446,245 トンの航空貨物処理量(2010 年)がある。スカルノハッタ空港を
利用した旅客数は 2011 年に前年比 200%の増加率となっている。
スカルノハッタ国際空港が運用を開始するまでは、ジャカルタ中心部にあった国内線のクマヨ
ラン空港とジャカルタ東部にあった国際線のハリム・ペルダナクスマ国際空港が利用されていた。
クマヨラン空港は公共施設に転換され、ハリム・ペルダナクスマ国際空港は、要人やチャーター便、
軍用として現在でも運用されている。
42
(2)JAS(Jakarta Airport Services)の概要
1984 年設立。インドネシア国内 11 空港の地上業務(ground handling)全般と荷役サービスを担
当する国営企業で、以下の五つサービスを提供している。
・Ground handling premier
・Ground handling silver
・Airport Special Assistance(ASA)
・Cargo handling service
・Lounge service
JAS では、JACS(JAS Cargo System)という、Oracle ベースの EDI システムを活用している。
スカルノハッタ空港では、ハンドリング作業は上屋運営会社によって行われている。
図 4-17
インドネシアの主な空港
(出典:JAS 提供資料を基に作成)
(3)空港貨物輸送の特徴と課題
輸入貨物と輸出貨物が別々の建物になっており、シンガポールのチャンギ空港のように隣接し
ていない。いわゆる、トランジットを目的とした設備ではない。また、輸出貨物受付と保管倉庫は
別になっており、貨物はトラックの荷台を横付けし手動で荷下ろしを行っている。情報システム化
が推進されている反面、物流業務としてまだ非効率な面がある。貨物が受付けられた際には全品
X 線チェックがされている。通過した貨物のエリアへの入退出には厳重なセキュリティチェックがあ
り、貨物の不正な持込や持ち出しなどは厳重に管理されている。一方、積荷はパレットをそのまま
二段積みにするなど、保管用のラック等が十分に整備されていない箇所もある。
43
4−1−3−4.日系進出企業の物流状況と課題
(1) 荷受企業(製造メーカ)の物流課題
(1−1)物流インフラの問題
工業地帯は港や空港から離れた場所に位置しており、港や空港から工場までの輸送手段はト
ラックしかないこと、また都心部は慢性的に渋滞が発生することから、輸送リードタイムが長期化
することが問題となっている。ある工場では、4∼5年前は工場から港湾までトラックで一日4∼5
往復できていたが、現在では渋滞の影響で1∼2往復しかできない状況である。
現地調達率の高い製造メーカにおいては、工業団地に隣接するベンダから部品を調達するた
め、定期納入が可能であり、一部ミルクランも実施されている。ただし、今後、インドネシアから周
辺地域への輸出を計画している製造業もあり、工場と港湾を結ぶ物流インフラの問題がより顕在
化するものと考えられる。
インドネシア内の物流については、ジャカルタ本土内はトラックによる陸送、ジャカルタから周
辺の島へは船による輸送を実施している。インドネシア内の船輸送は定期的に船が出ることにな
っているが、積載効率を考慮して荷が集積するまで出港を待つことが多く、物流リードタイムがか
かるだけでなく、輸送のためのスケジュールが作成しにくいといった課題がある。
(1-2)物流要員の問題
物流業務に携わるローカルスタッフは、商品と取り扱いや服装など仕事に対するモラルが低い、
といった声があった。また、ローカルスタッフ要員が退社してしまうなど、流動性が強いことから、
優秀な人材を確保することが難しいという課題がある。
(2)フォワーダー物流企業の物流課題
(2−1)地域輸送業者の品質の問題
・運転手のモラルの問題:決められた通りに梱包しない等
・車両メンテナンス頻度が低い
(メンテナンス不十分による故障発生が多い。低コスト車は故障も多い。)
(2−2)港湾・空港・航路・鉄道事情の問題
・コンテナヤードの容量が慢性的に不足している。
・港湾近郊の道路は、陥没や水溜りが多数ある悪路が多く、渋滞がひどい。
・港湾取引においては、未だ現金主義が残り、支払い証明がなければ貨物引渡しが遅延す
る状況も見られる。
・鉄道は敷設されているものの、まだ貨物輸送のインフラとしては活用できる段階にない。
44
(2−3)税関(税務、法務)、EDI
・EDI 通関により IT は導入済みだが、一方で紙による運用も並存し非効率。
・税関員により、HS コードチェック、製品査定、軽微な書類ミスへの指摘など、
対応にバラつきがある。
・事前に事業者へ周知されることなく、いきなり税関の運用方針が変更になることがある。ま
た税関の運用ルールが明確に文書等で示されない部分がある。
(2−4)宗教、地域慣習など
・金銭収受の商習慣、警察役員のモラル問題も残る。
・洪水、降雨など自然環境への影響を物流も受ける(道路渋滞)
(3)IT に関する課題
ジャカルタ市街は IT 網が十分に発達しておらず、郊外では IT 網が未整備である地域も多く、
インドネシアでは、まだ物流の IT 化に対応するための環境が整っていない。事業者においても、
インドネシアにまず必要なものは、交通インフラの整備であり、物流の IT 化は緊急課題であるとは
認識していない。
図 4-18 交通渋滞(ジャカルタ市内(左)、タンジュン・プリオク港内(右))
4−1−3−5.人材育成について
インドネシアロジスティクス協会(Asosiasi Logistik Indonesia:ALI)は、サプライチェーンとロジス
ティクスを専門とした非営利団体で、ALI の会員は、物流企業の従業員、サプライチェーン・マネ
ジメントとロジスティックス管理に携わる流通・製造業の従業員のほか、大学、監査機関やコンサ
ルティング機関で働くサプライチェーン・マネジメントとロジスティックス管理に関心の高い個人会
員により構成されており、その割合は、概ね6:3:1。現在、2012 年 12 月の段階では、3,500 人以
上が登録しており、ロジスティクス企業の幹部約 25 名も含まれている。
45
ALI では、Warehousing management, Inventory management, Transportation management につ
いての物流専門のトレーニングが実施されている。
インドネシアにおいては、多くの会社で SCM と Logistics の重要性は意識されており、経営コン
サルタントはこれらの傾向に即応した内容の知識を提供しており、これらのフィールドで活躍でき
る優良な人財の必要性については認められつつある。国内物流だけでなく、国際物流を担う人
材が求められているとの認識から、ALI では国外の大学や機関との交流によりカリキュラムの見直
しを図っているとのことであった。ALI では日本の旧財団法人海外技術者研修協会(AOTS)とカリ
キュラムの見直しや進め方などについて定期的なミーティングを持ち、交流を図っている。
ALI からは、ALI でカリキュラムを推進する講師陣が高度な物流知識を身に付けることができる
ようなレベルの高い講座を実施して欲しいというニーズもあった。
JILS のカリキュラムをそのまま大学で活用できれば、一気に底上げが図られるといったALI側
の意見もあり、知識としての積み上げに外部からの支援を期待している部分も見受けられる。
しかし、企業側は、一定の業務経験を持ち、定常業務の中に気付きを感じられる従業員のスキ
ルアップとして利用するには効果的との認識であり、即戦力の育成につながるカリキュラムとして
は魅力を感じていない。
現在、ALI としてもカリキュラムの内容や進め方を模索している段階であり、ALI 自身の取組み
を優先し定着をはかるほうが、時間はかかってもインドネシアに根付いたカリキュラムとなると思わ
れる。
46
4−2.戦略的にハブ機能を構築する物流先進国・地域
4−2−1.シンガポール
4−2−1−1.概況
シンガポールでは港湾事業を国策として位置づけ、港湾機能の充実を図ってきた。シンガポ
ール港は、世界の主要航路の要衝に位置し、世界中の約 400 の船社(うちコンテナ船社約 250)
により約 130 カ国 700 以上の港と航路で結ばれている。日本、米国、欧州、中国・香港・台湾との
間には大型船が就航、東南アジア及び南アジアとの間ではフィーダー船を中心とした航路が確
立されており、東南アジアにおける海上輸送の中継貿易港として大きな役割を果たしている。
シンガポールの主要4港では、港湾設備の整備や情報システムを活用した入出港手続きの効
率化など、顧客サービスの向上に努めてきた。近年、シンガポール周辺国であるマレーシア、イ
ンドネシア、タイ等では、自国の貨物を自国の港から直接目的地まで輸送しようとする動きが活発
化しており、マレーシアのタンジュン・ペラパス港、インドネシアのタンジョン・プリオク港、タイのレ
ムチャバン港等におけるコンテナ取扱量の増加率はシンガポール港を上回る伸びを示すなど、
シンガポール周辺港との競争は年々激しさを増している。
チャンギ国際空港は、シンガポールの東端に位置し、1981 年に 24 時間空港として開港した。
現在、約 60 の国と地域の約 220 都市と 100 以上の航空会社によって航路がむすばれており、世
界でも有数のハブ空港としてその地位を確立している。また、15 の航空会社によって 7 カ国約 17
都市と毎週 300 以上の定期航空貨物便が運航されている。
チャンギ国際空港の貨物ターミナルでは、トランシップの効率化を目的として入荷倉庫と出荷
倉庫が隣接して設けられており、書類の手続きも含めて迅速な積み替えを実現している。
シンガポールは利便性の高い地理的特性を持ってはいるが、国土の面積が限られているため、
需要と供給のバランスをとるためには港湾設備の敷地をいかに拡張していくかが課題である。ま
た、周辺各国が大型の港湾設備を整備し安価な利用料金でサービス提供を始めており、東南ア
ジア地区における競争力の維持が課題となっている。
4−2−1−2.物流戦略
(1)船舶輸送
シンガポール港は、運輸省管轄下の 4 つの法定機関の 1 つであるシンガポール港湾庁(PSA:
Port of Singapore Authority)により、港湾の整備、維持、保全、港内での船舶の運航管理、関連
サービスがなされてきた。政府主導によるインフラ整備という段階を終了し、効率的な運営ときめ
細やかな顧客サービスや海外投資の促進により競争力を高めることを目的して、1997 年に PSA
は政府が全額出資する株式会社 PSA コーポレーションとして民営化された。PSA の民営化後、海
事・港湾業務の監督などの公的機能は海事港湾庁(Maritime and Port Authority)へ移管され、
PSA コーポレーションは純粋な港湾サービスの提供を行うこととなった。2003 年 12 月に組織再編
成が行われ、政府系の投資会社である Temasek Holdings が 100%出資し、持ち株会社 PSA
International が設置され、PSA corporation はその子会社となっている。基本的に上物も下物もタ
47
ーミナルオペレーターが整備し保有している。
港湾政策としては、積極的な船社誘致や本船寄港誘致と港湾設備の拡充、また荷役の迅速
性とコスト競争力の維持に努め、情報システムについても自国内のみならず他国の港湾とのネッ
トワーク整備も進めている。港湾で取り扱われるコンテナ貨物の 8 割程度は周辺諸国へのトランシ
ップ(積み替え)貨物となっている。シンガポールでは、これらの積み替えを効率よく進めるための
設備や情報システムの整備を進めでいる。PSA は、タンジュン・ペレパス港に対向した港湾料金
の見直しを実施しており、また外国船社の出資によるコンテナターミナルの共同運営許可などの
港湾運営政策を打ち出している。
(2)航空輸送
2009 年 7 月、航空輸送民間航空局(Civil Aviation Authority of Singapore:CAAS)は、CAAS
運営部門を独立・民営化し、新たにチャンギ空港グループ(Changi Airport Group:CAG)を発足
した。航空行政は CAAS に残し、空港運営や海外の事業展開を CAG に特化した運営組織となっ
ている。
CAAS の戦略は、①自由な航空基本政策の堅持、②航空会社に対する使用料金(着陸料、駐
機料、搭乗桟橋使用料など)などの継続的割引、③チャンギ空港での航空会社の作業の簡素化
を達成するための継続した連携、④空港側が提供する基本作業の品質基準の高性能化、⑤シ
ンガポールでの航空物流産業の育成(シンガポール空港の自由貿易地区である ALPS - Airport
Logistics Park of Singapore 計画の実行推進)である。また、航空貨物作業の効率を向上するため
に、他政府機関との綿密な連携が行われている。
現在 CAG では、空港運営における航空関連外収入で得た収益をもとに、着陸・駐機料や空
港使用料を低く抑えるなどの工夫がなされている。
Changi Airfreight Centre (CAC)は保税区(Free Trade Zone)に指定されており、24 時間体制
で貨物の受入れと出荷が行われている。保税区内には入荷した部品をもとに製品を組み立てる
製造工場エリアである Airport Logistics Park of Singapore (ALPS)があり、主要輸出業者制度
(MES:Major Export Scheme)の認定を受ければ、物品サービス税(GST:Goods and Service Tax)
7%の納税が免除されるなど、税制面での優遇措置もとられている。
4−2−1−3.運営状況概要
(1)シンガポール港
シンガポール港のコンテナターミナルは、Tanjong Pagar、Keppe、Brani と Pasir Panjang(第 1、
第 2)の 5 か所で 52 のバースが稼動している。これらのターミナルは全長 16km の道路で接続さ
れている。最大のコンテナターミナルである Pasir Panjang は 16mの大水深港で、現在 23 のバー
スが稼動している。また、1 人のオペレーターがコントロールルームから最大 6 基を操作できるクレ
ーンシステムも導入しており、世界最大級のコンテナ船の停泊も可能である。
今後さらに高まる物流需要に備え、同ターミナルでは、現在、拡張工事が進められており、第4
48
期工事が終了する 2018 年までには、39 バースを擁する巨大なコンテナターミナルとなり、全ての
ターミナルを合計すると 70 バース、取扱可能なコンテナは年間約 4,900 万 TEU となる予定であ
る。
シンガポール港では、着岸から離岸まで所要 12 時間以内で、1 日あたりコンテナ船 60 隻、6
万個のコンテナの積み卸ろしが可能という高い作業能力を持っている。
表 4-6
シンガポール港ターミナルの施設状況
ターミナル名
Brani
Keppel
Tanjong Pagar
Pasir Panjang
バース数
8
14
7
23+3(RORO 船)
ふ頭の長さ(m)
2,400
3,200
2,100
7,800
面積(ha)
80
105
85
330
最水深
15
15.5
14.8
16
Quay Cranes
32
39
27
90
(出典:PSA International ホームページ)
表 4-7
シンガポール港からの毎日の定期便就航数
行き先
便数
米国
2
欧州
4
日本
5
中国本土、香港、台湾
9
南アジア、東南アジア
70
(出典:PSA International ホームページ)
Sembawa Wharves
Pasir Panjang
Keppel
Tanjong Pagar
Brani
図 4-19
シンガポール主要ターミナルの位置
(出典:PSA International ホームページ情報を基に作成)
49
(2)チャンギ国際空港概要
チャンギ国際空港はシンガポールの東端に位置し、1981 年に 24 時間空港として開港した。現
在、約 60 の国と地域の約 220 都市と 100 以上の航空会社によって航路がむすばれており、世界
でも有数のハブ空港としてその地位を確立している。また、15 の航空会社によって 7 カ国約 17
都市と毎週 300 以上の定期航空貨物便が運航されている。
表 4-8 チャンギ国際空港概要
設備
概
要
ターミナル数
4(一般旅客ターミナル:3、バジェットターミナル:1)
面積
1,300ha(そのうち 890ha は埋め立て地)
滑走路
長さ 4,000m、幅 60m の並行滑走路 2 本
駐機スポット
旅客機専用スポット:144(固定スポット:102,オープンスポット:42)
貨物機専用スポット:12, 機体整備専用スポット:3
管制塔
80m
(出典:CAG ホームページ)
チャンギ国際空港の航空貨物用施設としては、Changi Airfreight Centre(CAC)、Airport
Logistics Park of Singapore (ALPS)と Coolport@Changi の大きく 3 つの重要な施設がある。これ
らの施設は自由貿易地区(FTZ)となっている。
ALPS における荷役業務の事例を以下に述べる。
H 社では、アジア地区へ出荷するストレージサーバ製品を対象に、顧客の需要に応じて製品
を構成する CTO 生産に対応したロジスティクス拠点として、ALPS 内のオフィスを活用している。
構成部品は日本から空輸にて搬入し、組立とパッケージング、検査を行い、隣接する貨物ターミ
ナルから製品をアジア各地(中国、韓国、香港、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュ
ージーランドなど)へ出荷している。部品搬入から出荷までは約 1 週間から 10 日程度である。従
来は米国の拠点にて組立を行っていたが、ALPS にて組立を行うことで、FTZ の恩恵による輸出
管理手続きの省力化とともにアジア地区への配送リードタイムが大幅に短縮された。
図 4-20 FTZ に隣接した貨物ターミナル
50
CAC 内にある 9 航空貨物ターミナル(AFTs)は、SATS と Changi International Airport
Services (CIAS)のハンドリングエージェント 2 社によってオペレーションされており、年間 300 万ト
ンの処理能力を持っている。47 ヘクタールの CAC には、その他倉庫及び事務所を備えるカー
ゴ・エージェント・ビルが5カ所、2 つの専用 Express and Courier センターなどがあり、税関チェッ
クポイントを含め 365 日無休でサービスが提供されている。
また、SATS 航空貨物ターミナル2の中にある Coolport@Changi は、−28 度から 18 度の異なる
温度管理が可能な施設であり、年間約2万トンの取扱能力を持っている。積み替え生鮮貨物の
倉庫機能だけでなく、温度管理を必要とする医薬品などの在庫管理を含めた倉庫業務やラベリ
ングなどの加工業務といった付加価値サービスを含めて実現できる施設となっている。港湾施設
と同様に、通関・物流が一体化されている。また、輸入貨物の受入れターミナルと輸出貨物のタ
ーミナルは隣接しており、輸入貨物のトランシップは、書類審査も含めて数時間で実現している。
SATS社では、COSYS-IS(Cargo Operation System-Intelligent Solution)というシステムを導入
し、貨物の誤った取り扱いを防止し、荷役作業における処理を効率化している。このシステムは、
貨物オペレーションのプロセスを簡素化して自動化するシステムで、貨物輸送用に設計している
倉庫管理システムとなっているとのことだった。また、SATS社は、ベトナムやインドネシアの空港オ
ペレーション会社とも戦略的提携をしており、システムを含めて横展開もしている。
図 4-21 SATS 航空貨物ターミナル
手前がトラックヤード。前方にエアカーゴが駐機しているのが見える。
(3)第 2 の空港 Seletar 空港
CAAS にヒアリングしたところ、シンガポールにはチャンギ国際空港のほか、プライベート飛行機
及びセスナ機による近隣諸国との近距離運行に利用している Seletar 空港がある。この空港の積
極的な利用は推進していないとのことだが、近距離諸国への少量貨物の輸送などに活用してい
るとのことである。
51
4−2−1−4.IT システムの活用状況
現在、港湾の運営や貿易手続きについて主に以下の 3 つのシステムが活用されている。
(1)Tradenet(通関システム)
Tradenet は EDI(電子データ交換)システムで、輸出入や貨物の積み替えにかかわる申告から
許可通知、関税・諸税や手数料等の支払いに至るまでの手続きが自動的に一括処理している。
全ての関連官庁(航空局・税関及び検疫などすべての物流関係の官庁)、輸出入業者、フォワ
ーダー、通関業者、倉庫業者、銀行、船会社、航空会社が加入している。Tradenet に入力された
情報は瞬時に転送され、貿易管理品目や他法令関連品目以外であれば申告後 3 分以内に許
可が下りる。貿易管理品目や他法令関連品目の場合は、申告データは管轄の各政府機関に転
送され、許可後、30 分程度で申告者の PC に許可通知が届くしくみとなっている。
Tradenet の利便性は、ペーパーレスであることや複数の官庁に横断的に接続されていることは
もとより、貨物に関わる一切の制限を排除している点にある。非居住者代理人輸出入制度を導入
し、委託を受けたフォワーダーが荷主から貨物所有権の移転を伴わずに代理で輸出入を実行す
ることも可能である。なお、端末料金はなく、電子取引 1 回あたりの利用料金を支払う。
Tradenet は 2007 年 10 月より、TradeXchange と呼ばれる貿易物流業界の情報交換プラットフ
ォームの核となるアプリケーションとして統合され、海外の企業や規制当局のシステムとも接続を
実現することが可能となっている。
シンガポールには通関士制度はなく、Tradenet への事前登録で誰でも EDI 申告が可能である。
輸出入申告は、貨物が保税区内になくても、入港の 14 日前から、24 時間 365 日可能である。し
たがって、貨物の輸出入にあたって書類上の手続きを先行して行うことができ、貨物の通関リード
タイムを短縮することが可能となっている。
また、輸出管理対象品目以外で船舶、航空機で輸出する場合は、出港後 3 日以内の事後申
告が認められている。ただしこの事後申請については、到着地の税関において発送元での処理
がされておらず混乱をきたすことが多々発生してきたことから、廃止されることになっている。
(2013 年 4 月 1 日より廃止、2012 年 1 月 12 日にシンガポール税関より通達済。)
(2)CITOS(Computer Integrated Terminal Operation System)
ターミナル操作管理システムで、1988 年に導入された。このシステムでは、CCTV や GPS を駆
使して、コンテナ船が接岸した後のクレーンの移動、ヤードにおける輸送トラックの配置やコンテ
ナの積み替え船への移動などを中央制御室で集中管理し、オペレーターにリアルタイムで業務
指示を出すことができる。このシステムにより、ヤード内でのコンテナ取り扱い作業を円滑に進め
ることができるようになった。コンテナ番号をカメラで自動認識し、コンテナの出入り管理とセキュリ
ティ確保にもつなげている。事前に PORTNET から登録されているコンテナ情報と、CCTV で読
み取った情報との連動によるターミナル管理もその一つである。ターミナルエリアのみであるが、ト
ラックに RFID を付着したトラックの管理もおこなっており、CITOS とも連動が可能である。GPS や
RFID の付着は、トラック協会が推進しているとのこと。
52
(3)Portnet(港湾情報システム)
世界初の海運業者向けの電子商取引システムで 1989 年に導入された。PSA、税関など海事
関係者全体をネットワークで結ぶ。利用者は、港湾関連申請書類等の提出、入港スケジュール
やコンテナ貨物の搬出入情報の確認、バースの予約などがあり荷役関連情報や船舶航行安全
管理情報の確認ができるほか、税関申告、許可証発行、関税の支払いもオンラインで決済するこ
とが可能となっている。Portnet は Tradenet と相互接続されており、利用者は PORTNET 経由で
輸出入申告等を行うことも可能である。
4−2−1−5.マレーシアの港湾物流
(1)マレーシア港湾運用の概要
シンガポール政府は、シンガポール対岸に位置するマレーシアジョホール地区にある港湾設
備の整備にも投資するなど、シンガポールとマレーシアの港湾運営は協調と競争の関係にある。
以下、マレーシアジョホール地区の港湾及び物流状況について述べる。
全国の貿易の 90%以上を海運に依存するマレーシアは港湾開発や管理・運営にも相当な力を
注いでいる。マレーシア政府はクラン港(Port Klang)の運営効率の向上による船社誘致を図るた
めに、1987 年から同港の管理・運営を民営化させた。また第 7 次マレーシア計画(1996∼2000 年)
の中で、「今までシンガポール港経由で輸出入されている国際貨物をマレーシア国内で取り扱う」
という海運政策が盛り込まれた。こうした政策の下で、マレーシア最大の国際港であるクラン港は
2001 年にはコンテナ取扱量が世界第 12 位へと躍進した。
図 4-22 タンジュン・ペレパス港全景
(2)タンジュン・ペレパス港概要
タンジュン・ペレパス港は 2000 年、マレーシアジョホール州の南西部に開港した。開港当時は
1 号∼6 号バース(2,160m)が建設されたが、2001 年にはコンテナ取扱量はクラン港に次ぐ2位の
位置を占めるようになった。2000 年にマーク・シーランド社、2002 年にエバーグリーン社がそれぞ
れ東南アジアの拠点をシンガポールからタンジュン・ペレパス港に移したこともあり、タンジュン・
ペレパス港は東南アジアにおける国際コンテナ物流のハブ港として注目されている。港湾地区は
継続して開発が進められており、開発の PhaseⅡとして、2003 年にバース 7、8 を拡張、2005 年に
はバース 9、10 が拡張された。2012 年現在、14 バースまで拡張されている。今後も、バース及び
53
保税区を拡張する計画があり、PhaseⅢではバースを 22 まで増やし、2028 年には保税区に沿っ
て新しいふ頭を増設、2032 年にはさらに第3ふ頭を拡張する予定となっている。
タンジュン・ペレパス港のターミナルエリアの面積は 2000 エーカー(1 エーカー≒4,047 ㎡)。周
辺にある保税区は 1500 エーカーの広さを持つ。保税区には製造拠点と倉庫がある。ソーラーパ
ネルなどの工業製品の組立や、ミルクパウダーなど日常生活品の配送拠点などがある。港湾に
隣接したエリアには港湾関係者約 6,000 人が居住する住居施設がある。
港湾設備としては、Super post panamax クレーン 44 台、ラバータイヤガントリー(RTG)クレーン
148 台、Prime Mover390 台が活用されており、ターミナル内にはコンテナメンテナンスの施設も設
けられている。港湾の水深は 15m∼19m で干満差は 3m ほど。港湾は 24 時間稼動。
なお、ジョホール州の東に位置するジョホール港は多目的港(Multi Purpose Port)であり、バル
ク素材やガスなどの資源も輸出可能な設備を備えている。
(3)タンジュン・ペレパス港の運営状況
タンジュン・ペレパス港では、情報ネットワークが構築され、輸出入に関する申請書のペーパー
レスが可能となっている。またターミナルのバース搬入設置計画立案、ゲートシステム(ナンバー
認識によるトラック及び運転者認識)もコンピュータ制御により運営されており、施設運営におい
て高い評価を受けている。シンガポール港の料金を基準として料金設定し、貨物量の多い船社
には優先的に取り扱うといった競争力を保つためのコンテナターミナル運営に力を入れている。
タンジュン・ペレパス港においては、政府が水路、港湾道路、港湾鉄道引込み線を整備し、その
他の港湾施設は、Pelabuhan Tanjung Pelepas 社(PTP)が整備している。政府は、実質的な支援
措置として、1995 年から 60 年間、PTP にヤードを含めた周辺管理用地を貸付けて、PTP はこれ
を民間企業に転貸し、賃貸料収入から利益を得る構造となっている。
(4)ジョホール地区の物流状況
ジョホール地区では、これまで道路網の整備が課題となっていたが、マレーシア政府が積極的
にインフラ整備に投資しており、近年、タンジュン・ペレパス港周辺の道路網はかなり改善されて
きた。また、マレーシアとシンガポール間の道路上には陸送貨物の通関エリアが設けられており、
貨物の積み替えをせずにコンテナごと通関が可能となっている。ジョホール地区の工業地帯とシ
ンガポール間での貨物の輸出入も陸送により行われている。
ジョホールに工場を持つ化学製造メーカ K 社の事例では、第1にコスト、第2にルート問題を考
慮した輸出を実施している。現在、ジョホール地区の道路網の整備が進んだ結果、K 社からタン
ジュン・ペレパス港までは 3 本のルートが整備され、海外輸出は、もっとも近いバクシラン港の利
用が30∼40%に、タンジュン・ペレパス港の利用が50%を占めるようになっている。またシンガ
ポール港も利用するケースも少ないが存在し、半日程度で港から工場まで搬送することが可能と
なっている。
54
4−2−2.香港
4−2−2−1.概況
香港は、中国最大の海外直接投資地域と言われているように中国本土と密接に関連しており、
一国二制度の下、物流と金融の拠点として発展してきた。香港は中国本土に対して物流におけ
る保税倉庫としての機能を担ってきた。中国本土からの再輸出が含まれている場合は、本土の対
外貿易の 15.3%は 2011 年に香港を経由して処理されている。香港特別行政区政府の統計によ
ると、2011 年には、再輸出の 62%は中国からのもので、53%が中国本土向けのものであった。中
国の税関統計によると、香港は 2011 年に貿易総額の 7.8%を占め、米国、日本に次いで、中国
本土の 3 番目の貿易相手国である。今後、中国は消費地としての発展が見込まれ、また中国に
おける産業構造の比重が大量生産からハイテク製品を中心とした少量生産へと移行しつつある
状況を受け、香港では、空港インフラの整備及び、香港・中国間の港湾ブリッジ機能としてのハブ
事業に注力しようとしている。
香港国際空港は、100 以上の航空会社が毎日約 1,000 便の運航をしており、170 の都市と結ば
れている。香港は東アジア地域のほぼ中心に位置し、航空機による移動時間ではアジアの主要
な都市であれば 3 時間圏内である。
香港港は貨物と旅客輸送の外航旅客船、貿易船を含め 205,700 船(2011 年)が寄港する大容
量港である。また、年間 2,440 万 TEU(2011 年)のコンテナを取り扱うコンテナ港湾で、上海、シン
ガポールに次ぐ世界第 3 位の処理量を誇る港である。
4−2−2−2.物流戦略
(1)港湾物流
港湾施設に関しては、コンテナ取扱能力が小幅ながら今後数年間に着実に拡大される計画で
ある。香港は 2015 年には最初の新コンテナバースが必要になるといわれており、香港特別行政
区政府は、青衣南西部の第 10 コンテナターミナルの開発に向けたフィージビリティ調査や関連
する環境アセスメントを積極的に実施している。
香港港の港湾利用料は高いと言われており、諸費用の安い中国本土での港湾との様相が激
化しているが、香港市政府のスタンスは、中国政府、澳門市政府の港湾に関するブリッジにとして
の位置付けは大きいとしている。
中国では、地域毎にトラックライセンスが必要であるためコンテナ単位の通関による手間や通
関事務手続きが煩雑となっており、香港を利用した方が早く処理がされるといった点が利便性と
して挙げられている。
(2)航空貨物
香港空港管理局(Airport Authority Hong Kong:AA)は香港国際空港(HKIA)の競争力を強化
するために、旅客や貨物取扱能力の拡大と珠江デルタとの交通リンクの強化を目的に空港インフ
ラの改善を進めている。AA は、今後 20 年間の空港開発計画を規定する香港空港マスタープラ
ン 2030 を発表しており、このプランのポイントは大きく2つある。
55
① 中期的に香港の航空要求に対応するため、既存の 2 の滑走路を維持する
② 2030 年まで、もしくはそれ以降に、増大が見込まれる航空交通需要に対応し、国際的な航
空ハブとしてその位置を強化するために、滑走路を新設する。
現在、政府の承認を得て、AA は環境影響評価プロセスと三滑走路システムの下での施設の
関連する設計細部の準備を進めている。
4−2−2−3.運営状況概要
(1)海上物流の現状
香港特別行政区政府運輸及房屋局によると、香港港で処理される貨物の処理形態は、71%
がコンテナターミナル、Mid stream による処理が 12%、River Trade が 17%とのことである。
更に、香港港で取り扱う貨物の約 70%以上が中国華南地区の貨物であり、そのうちの約 6 割
強がコンテナトラックにより輸送され、約 30%が Mid stream 及び River Trade によって処理されて
いる。また、近隣のベトナム地区についても、Mid stream 及び River Trade により貨物が処理・輸
送されている。
港湾運営の管掌は運輸及房屋局(Secretary for Transport and Housing)であるが、香港港の
発展戦略、港湾開発の基本方針、整備計画等については、官民で構成された香港港口発展局
(Hong Kong Port Development Council:PDC)が当たっている。
香港港のターミナルは全て民間により運営されている。香港行政区政府は運営権を入札にか
け、ターミナルオペレーターを選定、選定されたオペレーターが上物も下物も整備する。ただし、
下物については所有権が国に移管され、オペレーターの資産保有リスクが回避される(BTO 方
式)。施設整備についての補助制度はなく、上物も下物もリース料で償還する考え方をとってい
る。
近年、香港港は、隣接する深セン港や広州港との集荷競争が激しているが、ターミナルオペレ
ーターの多くはライバルと目される深セン港や広州港の港湾開発にも投資している。
(2)HIT コンテナターミナルの状況
現在、香港で取り扱われる貨物の約 70%は葵涌(Kwai Chung)ターミナルで処理されている。
葵涌ターミナル内では 5 社のターミナルオペレーターによって運営がされている。この中で最大
の タ ー ミ ナ ル 面 積 を 運 営 し て い る の が ハ チ ソ ン グ ル ー プ の HIT(Hong Kong International
Terminal)社である。
HIT 社は、HPH(Hutchison Port Holdings)傘下の企業で、香港の Terminal 4、6、7、9 及び
Teramina8(Cosco Pacific 合弁)の合計 14 バースを運営している。世界コンテナ取扱貨物量で第
4 位の深セン港にも展開し、深セン港のターミナルは香港に存在する 9 つのターミナル合計面積
よりも大規模なターミナルとなっている。葵涌ターミナル内には 6 段積みに対応した RTG に加え、
香港では唯一 HIT のみが導入している RMG(Rail Mounted Gantry Cranes)が整備されているほ
か、岸壁沿いには、39 基のスーパーポストパナマックス船に対応したガントリークレーンが装備さ
れている。
56
図 4-23
HIT コンテナターミナル
(3)香港特別行政区政府運輸及房屋局
香港ではカウンシルの形態をとっており、具体的な運営方針については各カウンシルが状況
の調査と事業運営計画を立て、政府がそれを承認する形となっている。ただし、価格設定に対し
ては、合理的な価格で提供するように政府側から政策指導を行っている。
人材育成面では、港湾運営に係る法規、オペレーション、金融、エンジニアといったそれぞれ
の分野に対し、奨学金を出して育成している。海外からの研修生についても同様である。
現状では、中国本土の港湾とは良好な関係でであり、香港の長年のノウハウを活かした形での
ブリッジとしての役割を推進しているとのことである。
通常、港湾の運営については国が開発し運営を民間に委託する方式が一般的であるが、香
港では開発と運営をオペレーターが担っている。香港では複数のオペレーターが入札により選
択されるため、オペレーター自身がターミナルの運営に責任を持ち、よりよいサービスが提供され
るような事業構造となっている。
(4)航空貨物の現状
香港国際空港は 2012 年、航空貨物 403 万トンを処理し、世界第一位の貨物量を誇っている。
香港の対外貿易総額の 36%が処理されていると言われている。
空港内の2つの空港貨物ターミナルは Hong Kong Air Cargo Terminal 社と Asia Airfreight
57
Terminal 社によって民間運営されている。2008 年に香港をハブ空港とするキャセイ・パシフィック
が第3貨物ターミナルの建設と運営権を落札し、更に拡張が予定されている。
Hong Kong Air Cargo Terminal を管理する HACTL 社は中国本土向けの貨物に対し、「スーパ
ーリンク・チャイナ・ダイレクト」という珠江デルタ(PRD)地域にある拠点と香港との間を保税空陸一
貫輸送する連携サービスを展開している。香港と中国大陸の境界を通過するときの税関検査を
省略でき、リードタイムの短縮にもつながっている。
4−2−2−4.IT システムの活用状況
(1)輸出入手続きシステム
香港は自由貿易政策を推進しており、原則的に貿易障壁は存在しない。香港に輸入される物
品には関税はかからず、輸入許可の手続きも最小限に抑えられている。貿易円滑化に焦点を合
わせており、安全面への配慮から航空貨物に対してだけ税関が直接統制する形がとられてきた。
統制対象物品(controlled item)は許可を受けた者だけが取り扱えるように運営者を直接管理する
方式を採用している。このような背景から、港湾関連の情報システム化は、貨物輸送事業者との
情報共有という部分で遅れていたと言われている。現在は Digital Trade & Transportation
Network(DTTN)という Gateway システムを介してターミナルオペレーターとフォワーダー及び貨
物輸送事業者との情報共有システムも構築され、運用されている。また、このシステムは、貿易・
通関システムである Tradelink とも連携しているほか、空港オペレーション会社のシステム
(HACTL 社のシステム等)や決済機関との接続を実現しており、貿易手続きだけでなく、貨物の
処理状態などの物流情報の提供、銀行への支払い指示などもカバーしている。なお、DTTN に
は約 5 万企業が接続しているとされている。
(2)COSAC(communication system on air cargo)
HACTL 社が運営する SuperTerminal 1 は年間に貨物 350 万トンの最大処理能力を保有して
おり、完全に自動化された荷役システムにより運用されている。また、COSAC(communication
system on air cargo:航空貨物コミュニケーション・システム)により、空港局、香港税関局、民間航
空局、及び政府統計局などの政府機関と、航空会社や貨物輸送事業者を接続し、貨物の電子
申請処理のほか、貨物の在庫管理とトラッキングを可能にしている。
(3)Asia Airfreight Terminal 社(AAT)の RFID によるトラック管理システム
香港国際空港の航空貨物ターミナルを運営する Asia Airfreight Terminal 社(AAT)では、取り
扱い貨物を効率的に処理するために、RFID を利用したトラック管理システムを導入している。タ
ーミナルにおける貨物車両の動きをリアルタイムに監視しているほか、様々な種類や大きさの車
両の出入りと効率的な駐車スペースへの誘導と監視と合わせて、危険な荷物の混入や不法侵入
を防ぐため、ドライバーや車両を特定し万全なセキュリティ体制の確保につなげている。ゲート入
場時間は、従来のシステムに比べ 7∼8 分程程待ち時間が短縮し、利用者からも評価を得てい
る。
58
4−2−3.韓国
4−2−3−1.概況
韓国では、国際物流ネットワークを主導的に構築するには、東北アジア物流ハブとして、外国
貨物の誘致と高付加価値な物流量創出が必要であるとの考えから、国家戦略の 1 つとして港湾・
空港開発が推進されている。
港湾・空港というハードウェアインフラだけでなく、情報システムの連携と活用により、情報に基
づく分析や管理を推進するとともに、物流に関する国境障壁の撤廃を促進し、貨物が自然に韓
国を利用することができるような物流ネットワークを形成するような政策を展開している。空港・港
湾背後団地を有機的に活用し、企業サプライチェーンにおける利便性を向上するため、港湾背
後団地に自由貿易地域を設定し、その背後団地内で行われる経済活動に対し、関税免税と通
関手続きの簡素化、自由な企業活動の保証、法人税などの租税や家賃の優遇などインセンティ
ブを提供している。
4−2−3−2.物流戦略
(1)韓国における物流戦略
韓国では、国家物流体系の効率性強化と物流を通した国富の創出という国家戦略目標の達
成のために、物流の未来像と政策推進方向を提示する 20 年単位の長期計画の「国家物流基本
計画」を制定している。また、5 年単位の中期国家物流基本計画により具体的かつ実践な計画を
準備する目的で、2000 年 1 月「貨物流通促進法」を改正し、国家物流基本計画を制定することに
なった。
国家物流基本計画の主要戦略は、グローバル物流体系の構築、ハードウェアの物流インフラ
の拡充、ソフトウェアによる物流システムの強化、高付加価値物流産業の育成及び物流政策の
統合推進体系の確立にある。
この骨子は以下の通りである。
① 付加価値創出型(3PL)複合団地の開発による国際空港・港湾の強化、企業ニーズにあっ
たマーケティング強化による物流企業誘致活動の強化、物流協力による企業のサプライ
チェーン構築上の課題解消(補足 1)を通じて、グローバル物流体系の構築を図る。
② ハードウェア物流インフラの拡充のために 物流拠点施設統合開発及び活性化を推進し
て主要運送拠点の背後物流施設、複合物流基地を拡充して鉄道物流及び沿岸海運な
ど大量貨物輸送体系の活性化を推進する。
③ ソフトウェア物流システムの強化のために部署別の単一物流情報網から連係した総合物
流情報網を構築し、物流産業を革新し主導する物流先進国水準の物流専門担当者を
養成する(補足 2)。
(補足1)「荷主-物流企業の物流協力による物流革新支援」
国土海洋部支援のもと、韓国貿易協会が実行主体となり、両者共同で物流費を節減して競争力向上のために荷主
企業の物流診断とプロセス改善などのコンサルティングを実施する。背景としては、韓国では、荷主が自家物流や物
流子会社に委託した利用の場合が半分を越えており、物流コスト比率が高いことが問題となっている。
(補足2)「物流専門担当者養成事業」
実務能力補強教育と総合物流企業認証業者における現場実習機会により、物流業界のニーズにあった実務専門
担当者を育成する。国土海洋部が支援し、韓国物流協会が主管して実施されている。国際物流と最新物流技術など
を教育することによって既存の物流管理士資格の範囲に加えて、国際物流素養の育成とグローバル物流ニーズに相
応できる高級人材を育てることを目的としている。
59
④ 高付加価値物流産業を育成するために第三者物流の活性化により物流専門企業を育
成するとともに、高付加価値物流産業を育成し貨物運送市場の安定化を推進する。
⑤ 物流政策の統合推進体系確立のために物流政策基本法を制定して政策推進の信頼性
確保のために物流関連データベースを構築する。
これらは韓国国内の物流基盤を強化するための位置づけであるが、ハードウェアだけの強化
だけでなく、物流情報を戦略的に活用することによって、東北アジア物流ハブという国家戦略を
後押しするものとなっている。
(2)韓国における港湾開発
港湾(韓国港湾法で定められた指定港湾)の運営主体は港湾公社管理に移行しており、基本
的な運営方式は次の通りである。
下物は国が 100%整備し、港湾公社に無償で賃貸されている。公社から更に、ターミナルオペ
レーターに再貸与される。上物はターミナルオペレーターが整備し、保有する(一定期間経過後
は所有権が国に移管される BOT 方式)。賃貸料収入を国庫に納入せずに内部留保させることに
より、直接コンテナターミナルを整備することを可能としている。
港湾公社は港湾と後背地港湾工事及び改修に関わる開発計画策定と管理業務を担い、地域
海洋湾岸庁は、港湾と海洋開発に関連のある政策の調停、及び港湾と後背地の管理(防波堤、
航路・泊地などの整備と維持)を担う形となっている。
設備に関しては国が初期投資を行い、民間企業にリース(契約期間は 30-50 年程度)している
ケースが基本である。投資体力のある民間企業は上物設備のみならず岸壁などの下物設備も自
己投資のケースもある。
韓国では 1967 年に港湾の開発の促進とその利用と管理の適正を期するために、港湾の指定・
使用及び保全と費用に関する事項を規定した「港湾法」により、10 年毎に「全国港湾基本計画」
を策定し、港湾開発と運営の根拠となる内容を示すことになっている。また、港湾基本計画と連係
し「貿易港港湾背後団地開発総合計画」として港湾背後団地開発に関する 5 年単位の中長期目
標についても策定するようになっている。
2001 年度に策定された第 2 次全国港湾基本計画に対して、5 年を経過した 2006 年に修正計
画が策定されている。基本計画制定当時の 2001 年頃は楽観的な見方が優勢だった。IMF 以後
の輸出入貨物を中心とした回復基調と、対内外的条件が好調で積み替え貨物が急激に増加し
ていたことから、釜山港新港を 30 バース、光陽港を 33 バースとして開発する良港政策を中心に
大規模な港湾開発計画が策定された。しかし、2002∼2004 年、東北アジアの物流量は持続的に
増加しているのに反して韓国の物流量増加率は停滞状態にあった。2005 年に英国の港湾・海運
分野コンサルティング OSC(Ocean Shipping Consultants)に依頼し中長期物流量を予測した結果、
2011 年を境として物流量が 7%減少(コンテナは 9%減少)し、中長期的な各種条件は楽観的な状
況ではないことが明らかとなった。
この結果は韓国の港湾開発における港湾機能と役割に大きな変化を与え、バース開発を中心
とした計画から、港湾背後団地や背後交通網の拡充といった施策による港湾競争力を強化する
60
方向に転換された。また、港湾の多目的需要から港湾再開発計画なども港湾基本計画に反映さ
れるようになった。このような変化は、既存の港湾基本計画本来の性格と内容にも影響を及ぼす
が、港湾に関連するすべての事項を基本計画の中に包括するには限界があるため、関連する計
画を反映できる余地と関連計画の確定した概括的内容を港湾基本計画に反映することによって、
港湾に要求される多様なニーズに柔軟に対処することができるようにしている。
第 2 次(2006∼2011)港湾基本計画では、港湾市場状況にあわせた計画修正が必要となり、戦
略策定のための内容が盛り込まれた。計画の修正と盛り込まれた内容の骨子を表 4-9 に示す。
表 4-9 第 2 次(2006∼2011)港湾基本計画内容の骨子
港湾市場状況と計画変更の必要性
盛り込まれた内容
 東北アジア物流の中心基地建設と港湾
間競争の優位性確保
・港湾開発の量的成長と質的成長が調和
した企画
 輸出入貨物の増加率が順次鈍化。更に
積み替え貨物に関わる対外条件の不確
実性が増加。これに対応できる戦略の制
定
・東北アジア物流の中心港湾を実現できる
港湾空間の配置
・対内外からの変動要因に弾力的に対応
するためのシステム構築
(港湾需要予測センターの設立と運営、
Trigger Rule の導入及び適用)
 港湾を多目的空間として活用するニーズ
が上昇
・港湾の多目的活用のための施設の配置
・港湾 Waterfront 開発及び観光インフラ
 老朽化港湾の再開発や浚渫土投棄場の
活用度向上などの遊休化施設の再活用
方案
(クルーズ、マリーナなど)開発の受け入れ
・高付加価値創出型先進港湾の発展のため
の港湾クラスターの活性化
 海洋観光関連インフラ拡充の期待と港湾
の多目的活用化方案の提示
(出典:韓国国土海洋部 第 2 次(2006∼2011)港湾基本計画を基に作成)
現在は、第 3 次全国港湾基本計画の期間中で、主要な内容は以下の通りである。
①釜山港をコンテナ積み替えハブとして集中育成、光陽港は国家基幹産業を支援する複合
物流ハブ、蔚山港をオイルハブとして育成するなど、主要な港湾を目的に応じて高付加価
値物流ハブとして育成する。特に、釜山新港の総 40 バースのコンテナふ頭運営(計画策定
当時 17 バース)により、中国・日本港湾との東北アジアハブ港競争においての優位性を確保
し、釜山港の積み替えコンテナ処理規模を世界 2 位水準に引き上げる。
②製鉄、石油化学、自動車など国家基幹産業発展を支援する地域別拠点港湾を特化育成し、
輸出入物流費の最小化と国内企業のグローバル競争力確保を支援する。
(韓国貿易状況:世界輸出第 7 位、貿易依存度 88%、輸出入貨物の 99.8%を港湾が担当)
③クルーズ及びマリーナ インフラの開発により、港湾を海洋観光産業の拠点にするとともに、
施設活用度が低く、都心機能と摩擦がある施設について、高付加価値施設あるいは調和空
61
間への転換を推進する。(2020 年まで全国 23 か所の港湾に 571 万㎡の港湾内施設と調和
空間を追加確保して、7 か所の港湾にクルーズ専用ふ頭の運営を推進)
④主要老朽化港湾及び沿岸離島港を育成し、島嶼地域の住民生活改善と海洋領土守護活
動機能を強化する。(海上警察の船舶増強計画と連係して全国 13 か所の港湾に海上警察
専用ふ頭を拡充)
⑤道路主体の内陸輸送体系を鉄道と沿岸海上輸送に切り替えるために、主要港湾に対する
引入鉄道及び沿岸専用ふ頭の拡充を推進し、港湾内への新再生エネルギー団地造成など
CO2 削減拠点となるグリーンポート構築を推進する。
⑥このほか、港湾管理・運営体系先進化により運営効率の向上とグローバル運営企業育成、
港湾産業の積極的な海外進出支援なども推進する
国土海洋部は第 3 次全国港湾基本計画により、2020 年までに貨物ふ頭 232 バース、旅客ふ
頭 56 バースほかを確保して港湾処理能力を 53%高め、韓国港湾の付加価値を現在の年間約 20
兆ウォン規模から、年間約 40 兆ウォン規模に増大させる計画である。このために 2020 年までに
港湾インフラ拡充に約 41 兆ウォン(政府財政 18 兆ウォン含む)を投じる計画としている。ただし、
財政投資規模は国家財政条件、予算状況などにより弾力的に調整することになっている。
(3)韓国における空港開発
韓国には現在運営中の空港が 16 か所あるが、これらの空港の運営主体は次の通りである。仁
川空港は仁川国際空港公社が独自に運営し、金浦、済州、襄陽、蔚山、麗水空港は純民間航
空として提供される空港で韓国空港公社が管理・運営の責任を負っている。木浦と浦項は海軍、
金海、大邱、清州、泗川、醴泉、原州は空軍、群山は米空軍と共同で運営されている。
韓国では、2000 年に「航空法」の規定により「空港開発中・長期総合計画」が策定されることに
なった。この総合計画は全国を対象に体系的で効率的な中・長期的空港開発方案を用意する目
的のもので、「航空法」第 89 条により策定する 5 年単位の法的計画であり、空港開発・建設に関
する最上位の計画とされている。国内・外航空運を取り巻く環境状況や航空需要の分析、施設拡
充・改良などの空港開発・建設計画や空港運営効率化方案などに関する計画が策定され、これ
に基づいて地域別空港の開発方針や施設拡充方案が計画されて航空開発が推進される。中央
行政機関及び地方自治体との協議を通じて協議結果を検討・反映した後、最終的に国土海洋
部から告示される。
現在は第4次空港開発中長期総合計画期間(2011∼2015)で、推進中の計画骨子は以下の
通りである。
①空運送環境の変化と国民の航空利用欲求増大にともなう新しい空港政策の準備
-
航空需要として国際線部門は持続的に成長しているが、国内線部門は済州路線を除い
て、2005 年から成長が鈍化している。
62
-
内陸では高速鉄道、道路網の拡充により航空手段の競争力が弱まっており、これにともな
う変化を摸索する必要がある。
-
国民所得の向上で島嶼地域接近でも、観光レジャー活動時に航空機を利用したいとする
欲求が増大している。
②航空政策基本計画、道路網、鉄道網計画など上位計画と連係した空港開発計画の策定
-
第一次航空政策基本計画(2010∼2014)の目標と推進課題、推進計画などを反映する。
-
道路網、鉄道網(KTX 含む)計画、地域発展 5 ヶ年計画(2009∼2013)、第 4 次国土総合計
画修正計画などとの連係及び調和について盛り込む。
4−2−3−3.運営状況概要
(1)仁川空港航空公社における取組み
(1-1)仁川空港の概要
仁川空港は 1992 年に建設が着工されと総工事費約 7 兆 8,000 億ウォンが投入されて永宗島
と龍遊島の間を埋めたて、8 年 4 ヶ月の歳月を経て 2001 年に開港した。1992 年 2 月首都圏新空
港建設基本計画が制定され、別途促進法が作成されるようになった。1994 年には首都圏新空港
建設公団が設立されて公社を主管している。仁川国際空港は 21 世紀の航空需要に対応 24 時
間運営可能な東北アジア地域の中枢空港として開発されてきた。2011 年現在、仁川国際線貨物
処理量は世界第 2 位を記録し、国際線旅客処理では世界 8 位である。仁川空港の貨物用物流イ
ンフラ施設には、貨物ターミナル、貨物駐機場、航空貨物倉庫及び空港物流団地などがある。
(1-2)空港・港湾背後物流団地の開発
韓国では国際物流ハブ港として成長させるために、港湾背後団地を造成している。国内外の
有望な物流、製造企業を誘致することにより、港湾産業クラスターを構築して国内企業のレベル
アップを図るとともに、新規物流量を創出する狙いがある。
仁川空港公社は空港インフラ企業から脱却し、国内物流産業の付加価値の創出を支援する
空港物流革新を志向している。自由貿易地域を指定運営して、空港物流団地の開発を推進して
きた。空港物流団地(ALP:Airport Logistics Park)は貨物ターミナル地域(CTA:Cargo Terminal
Area)と共に現在の自由貿易地域(FTZ)に指定されており、敷地造成事業費の 70%に政府補助を
受けて 2006 年 3 月に運営を開始している。現在、国内企業 51 社、海外企業 48 社が選定され、
30 社の企業及びコンソーシアムが既に賃貸を開始し 22 社が運営している。
3 つの貨物ターミナルは開港前から航空会社などによる民間資本誘致方式(BTO、20 年)によ
って推進し、大韓航空、アシアナ航空と外航会社が入ることになったが、政府は国庫から土地造
成費用(事業費 448 億ウォン)の 50%を支援した。現在、7 つの専用ターミナルがあり最大で 36 機
の処理が可能である。また、航空貨物倉庫は中小型物流企業が自らの倉庫施設を持ちにくいと
いう点を考慮し、共用使用を可能にすることによって物流活性化を図る目的で 2007 年に竣工し
ている。
63
(2)仁川港湾公社における取組み
(2−1)仁川港の概要
仁川港はソウル市の西70kmに立地し、首都圏の玄関港として1883年に開港した。韓国で約
半分の人口を占める首都圏で消費される食糧、原材料の輸入港といった位置付けが強い。仁川
国際空港、仁川経済自由区域と隣接しており、首都圏への物流拠点としての役割のほか、韓国
と中国間のカーフェリー定期航路を利用して海上輸送したのち、トラックによる国内保税輸送にて
仁川国際空港に輸送し、航空便にて北米や欧州に輸送するといった海空複合輸送にも力を入
れている。仁川港の全体取扱量の約7割が中国からの輸入貨物、約2割が中国への輸出貨物、
残りが中国以外への貨物である。
仁川港は潮位の干満差が10mと非常に大きいため、安定した荷役を行うため、閘門を保有して
おり、最大で50万トン級船舶を受け入れられるようになっている。
青蘿地区
約 70km
永宗地区
松島地区
図 4-24
仁川国際空港・仁川港及び仁川経済自由区域の位置関係
(出典:仁川港湾公社パンプレットより)
64
表 4-10 仁川港の施設概要
No.
施設名
概
要
1
北港
産業原資材(原木、古鉄、飼料用副原料)取り扱い
2
内港
閘門に仕切られた内港を指す。閘門により常に一定の水深が保たれ、波が
立たないといった特徴を持ち、48 隻の船舶が同時接岸できる。
鉄材、雑貨、清浄雑貨(パルプ、塩、砂糖等)、穀物、自動車(完成車)等を
取り扱う。穀物の貯蔵と加工処理を行うサイロ施設も保有し、穀物アンローダ
によりサイロ施設に直結した搬入ができるようになっている。
3
閘門
最大 10m の干満差に対応するため、安定した荷役を行う目的で 1974 年に建
設。1.5 万トン級及び5万トン級の 2 つの施設がある。
4
南港
コンテナ専用ターミナル及び国際旅客船ふ頭(現在、南港東側に新しい国
際旅客ターミナルを建設中
5
仁川新港
環黄海圏の物流ハブ港をめざし、松島国際都市南側に建設中。
ガス備蓄用施設、後背用地のほか、2020 年までに最大でコンテナふ頭バー
ス 25、雑貨4バースを建設予定。
図 4-25 仁川港内港に隣接するサイロ及び仁川港閘門
(2−2)港湾開発と各ステークホルダーの役割
韓国では港湾の整備・運営は国が中心となって行う公共投資方式が主流であったが、1991年
に韓国コンテナふ頭公団(以下、KCTA)が設立された。2012年にKCTAは全ての役割を終え、
組織が解体されている。KCTAは、韓国政府からコンテナターミナルの管理権を無償で借り受け、
民間企業に有償で貸与。賃貸料収入を国庫に納入せずに内部留保させることにより、直接コン
テナターミナルを整備することを可能としてきた。KCTAは、コンテナターミナルの整備資金を調
達するための港湾債券を発行することも可能で、この債券の一部を、ターミナルを借り受けた者
に売却するシステムを採用して民間資金を導入してきた。(但し、外資への完全な売却は許容し
ていない。)
港湾のある地域との連携性を深め、港湾施設の開発及び管理運営に関する業務の専門性と
効率性を高めることにより、港湾競争力を持った海運流通の中心基地として育成することを目的
65
として、仁川港湾公社(IPA)は、釜山港湾公社の設立に1年遅れの2005年に設立された。
現在、仁川地域の港湾開発に関してのステークホルダーは以下の通りである。
表4-11 仁川地域の港湾開発に関するステークホルダー
No.
1
2
3
名称/(略称)/URL
仁川経済自由区域庁
(BJFEZ)
http://www.ifez.go.kr
仁川港湾公社(IPA)
http://www.busanpa.com
国土海洋部(仁川地方海洋港
湾庁)(MLTM)
http://www.portincheon.go.kr/
役割
海外からの直接投資を通じた都市の開発の推進。
外国の投資家に対して有利な国際ビジネスと生活環境
の創造と建設に関する立案・インセンティブの提供
港湾と後背地港湾工事及び改修に関わる開発計画策
定と管理
港湾と海洋開発に関連のある政策の調停、及び港湾と
後背地の管理(防波堤、航路・泊地などの整備と維持)
(2−3)最新技術の導入
仁川国際空港、仁川港を中心に、周辺地区の 169.5 ㎢が仁川経済自由区域として指定され、
松島(Songdo)、永宗(Yeongjong)、青蘿(Cheongna)国際都市の 3 つの地区がそれぞれ特徴をも
って開発されている。仁川経済自由区域の大きな特徴としては、都市開発において U-City と
ECO-City の推進により Compact Smart City の実現を唱っており、IT 技術を利用した都市開発
の実験場となっていることがあげられる。
表 4-12 仁川経済自由区域の各エリアの特徴
№
1
エリア名
松島(Songdo)
2
永宗(Yeongjong)
3
青蘿(Cheongna)
特 徴
国際ビジネス都市としての機能を有する国際業務団地、国際コンベン
ションセンター(KNTEX)、IT/BT/R&D 企業誘致による知識情報産業
団地・バイオ団地・最先端産業クラスターほかを建設中。
仁川空港を有する永宗島地区を物流、観光都市として育成。半導体
及び関連部品、自動車及び自動車部品、電気・電子・通信部品加工
産業を取り込むことで、産業・物流団地及び関税自由地域としての利
便性を提供しようとしている。
業務・金融、観光レジャー、先端産業の集積をめざしており、特に金
融企業と R&D 企業の誘致を積極的に行っている。
仁川港湾公社はユビキタス技術を利用した最先端の港湾を実現するという目標のもと、2009年
から3段階のフェーズを経て86億ウォンを投資し、Incheon Port & Logistics Ubiquitous System
(I-PLUS)構築事業を推進した(http://www.ipus.co.kr/ にてサービスを提供中)。これは、仁川
港を利用するユーザに対して、統合されたポータルとスマートフォン等を介して、より正確で効果
的な情報サービスを提供することを目的としている。I-PLUSの統合ポータルサイトには、国土海
洋部の持っている輸出入物流関連システムと、仁川港の5つのターミナルの情報システムが接続
されており、仁川港内のコンテナターミナルの混雑状況やレベルを把握することができるようにし
ている。
66
(2--4)Sea & Air の推進
仁
仁川港と中国
国間のカーフェ
ェリー航路は
は、中国
北部
部の主要10都
都市(丹東、 大連、営口 、泰皇
中国
島、天津、煙台、
、威海、青島
島、石島、連雲
雲港)に
航しており、近
近距離であれ
れば13時間、長
長距離
就航
でも
も25時間程度
度で結ばれてい
いる。
仁
仁川港の後背
背物流団地は
はそれぞれの
のヤード
近隣
隣に確保され
れているが、F
FTZのメリット を更に
享受
受させるため仁
仁川空港公社
社及び仁川港
港湾公
社一
一体となった
た営業活動を 実施し、Sea&Air輸
送連
連携にも力を入れている。
2009年以降、下降に転じて
ていたSea&A
Airの利
は、2012年に大幅に回復し
してきたとして
ている。
用は
図4-26 中国北部とのカ
カーフェリー航
航路
(出典:仁川
川港湾公社資
資料を基に作成
成)
仁
仁川港湾公社
社では、2009年
年以降の貨物
物減少の要因
因は、仁川国
国際空港の利用
用料金上昇と
と中国
現地
地の地元航空
空による運賃ダ
ダンピングで
で利用メリットが
が下がってい
いたと分析した
た。その上で、
、2012
年度
度の貨物量回
回復理由として
て、大韓航空
空が輸送用航
航空機のスペ
ペースを確保し
したこと、仁川
川にお
ける
る航空貨物運
運賃が小幅な
ながら回復傾向
向にあり、更に中国Air Cargo対象に
C
DB Schenkeer、GE
Heaalthcare等のF
FTZに入居し
している企業8社が広報活
活動を推進したことを挙げ
げ、空港公社と
との連
携し
した営業活動
動の効果が出て
てきていると分
分析している
る。(航空貨物
物量が全体的
的に減少傾向にある
こと、企業側のコ
コスト意識も働
働いて、FTZの
の業務サービ
ビスの活用と併
併せた形での
の利用が増えた
たと推
される。)
察さ
−5)閘門による安定した荷
荷役業務
(2−
仁
仁川港は潮位
位の干満差が
が10mと非常に
に大きいため、
、港湾としての
の弱点を抱え
えていた。これ
れに対
して
て、安定的な荷
荷役を行う目的で1974年に
に閘門が建設
設された。閘門
門の一日最大
大処理能力は
は入港
20隻
隻、出港20隻
隻とのことである
る。閘門施設
設規模は表4-13の通りであ
ある。
閘
閘門により内港
港は常に一定
定の水深が保
保たれ、波が立
立たないといった特徴を持
持っている。
表4-13 仁川港の閘門
仁
門施設規模
区
区分
実際の大きさ
さ
通行許容船
船
舶の大きさ
1 万トン級
万
5 万トン級
級
外側閘門使用時
2002m
636m
内側閘門使用時
1776m
271m
幅
222.5m
36m
長さ
160m
m 以下
300m 以下
幅
19.2m以下
32.3m以下
船底と海底地面の
の余裕水深
30㎝
㎝ 以上
30㎝以上
上
長さ
(出典
典:仁川港湾公
公社ホームペ
ページ)
67
(3)釜山港湾公社における取組み
釜山港は影島(Yong-do)を挟んだ北港・南港・甘川(Gamcheon)湾を中心に発展してきた。コン
テナ処理能力の限界もあったため、1997 年に加徳島(Gadeok-do)北西部に「新港」と呼ばれる
釜山新港の開発に着手(北港からの距離約 25Km)。2006 年に新港をオープンし、北港(旧港)か
らコンテナターミナルの機能を順次移行中で、2020 年までの開発計画がある。
一方、「北港」に関しては、釜山港(北港)再開発事業が 2008 年から推進されている。複合機能
(商業・業務地区、複合都心地区、港湾施設地区、複合港湾地区、IT・映像・展示地区、海洋文
化地区など)を備えた国際海洋観光拠点として再開発する予定である。
釜山港は、世界第五位の韓国最大の港であり、363 日 24 時間稼動のコンテナ貨物を中心とし、
100 カ国以上、また、500 港湾以上の港と連結しており、韓国国内への輸送、また日本や中国の
地方港向けの路線に積み替えの拠点となっている。現在、釜山港の貨物取扱量は年間約 1,700
万 TEU あるが、取扱貨物の約 90%はコンテナ貨物である。新港と旧港における比率は 55:45 で、
今後も比率は更に開く見込みである。トランシップ比率は 48%、更に、その中の 61%が日本、米
国、中国向けの貨物である。
釜山港においては、港湾施設の開発及び管理運営に関する業務の専門性と効率性を高める
ことにより、港湾競争力を持った海運流通の中心基地として育成することを目的として、2004 年に
釜山港湾公社(BPA)が新たな港湾管理体制として設立された。港湾開発におけるステークホル
ダーは表 4-14 の通りである。また、港湾開発に関わる関連機関が協力して、港湾を積極的に活
用してもらえるよう様々な取組みを行っている。具体的な取組みについて、(3-1)∼(3-4)に示す。
表 4-14
港湾開発におけるステークホルダー
№
1
名称/(略称)/URL
釜山・鎮海経済区域庁(BJFEZ)
http://www.bjfez.go.kr
2
釜山港湾公社(BPA)
http://www.busanpa.com
国土海洋部(釜山地域海洋湾岸庁)
(MLTM) http://www.mltm.go.kr
3
役割
海外からの直接投資を通じた都市の開発の推進。
外国の投資家に対して有利な国際ビジネスと生活環境の
創造と建設に関する立案・インセンティブの提供
港湾と後背地港湾工事及び改修に関わる開発計画策定
と管理
港湾と海洋開発に関連のある政策の調停、及び港湾と後
背地の管理(防波堤、航路・泊地などの整備と維持)
(3−1)FTZ(free trade zone)
釜山新港の北側(陸側)を中心に大規模な物流団地が建設中である。この物流団地は、総面
積が670万平方メートルに及び、釜山新港で陸揚げされた貨物等を現地にて組み立て、分類、
包装、加工等の多様な産業と結合させることにより、高付加価値をつけることを目的としている。
68
この物流団地近隣は、安い賃貸料と多種の税的優遇をうける自由貿易地域に指定し、海外企
業等を誘致している。(FTZ の税制上の優遇政策に関しては、釜山港湾公社の所管ではなく、釜
山・鎮海経済自由区域庁(略称:BJFEZ)の所管である。
表 4-15
№
賃貸料のインセンティブ
条件
1
基本賃貸料 入居企業に対して適用
2
優待賃貸料 外資企業の中で
賃貸料
㎡単価 281KRW/月
100 万ドル未満
㎡単価 168KRW/月
3
自由貿易地域法上
100 万∼300 万ドル未満
㎡単価 106KRW/月
4
物流業種を営む企業
300 万ドル以上 又は
㎡単価 43KRW/月
既存優待賃貸料適用企業
5
公示地価
入居企業の中で当初の入居目的道理に移行できな 公示地価×50/1,000
賃貸料
い企業
(国有財産法一年間)
((注)インセンティブについては 2013 年中に変更予定とのこと。)(出典:釜山港湾公社資料)
(3−2)船社誘致に関する施策
船社に対する補助の基本的な考え方は、船舶が他の港湾に行ってしまうと港湾利用料も取れ
ず、寄港により発生する観光等の需要も減るため、船社に金銭を支払ってでも多くの船舶に来て
もらった方が良いというものである。
新港と旧港の距離が約 25km と離れており、トラックで 1 時間程度かかるため、ドレージコストが
かかるとの不満が船社等から指摘されている。この問題への対応としてドレージコストに対する補
助制度を設けている。その他、貨物取扱量が増加した船社に対しては、貨物の増加量に応じて
補助金を出している。インセンティブの支給対象は、年間積み替え貨物 10 千 TEU 以上の処理で、
過去 2 年間の平均値比が当該年度の物量が増加した該当前年比の積み替え増加量
(PORT-MIS によるデータ)を基準に算出される。
ターミナルオペレーターや国内荷主に対する補助は無い。これは、多くの船社に利用してもら
うことによりスケールメリットが出れば、荷主にも運賃の値下げ等で還元されるからとのことであっ
た。
表 4-16
物量の増加に伴うインセンティブの基準(TEU)
増加量(TEU)
単価(KRW/TEU)
1 ∼ 50,000
5,000
50,001 ∼ 100,000
7,000
100,001 ∼
10,000
(出典:釜山港湾公社ホームページ)
69
(3−3)鉄道及び道路との連結性
各ターミナルと鉄道が連結しており、ソウルまで約 8 時間で輸送できる。鉄道は内陸輸送の約
9%を担っている(その他はトラック輸送)。海上コンテナの標準である 20 及び 40ft コンテナの輸
送可能である。新港では、北側ルートと南側ルートの2つを計画中であるが、現在は北側ルート
が運用開始している。
また、背後道路についても、基幹となる高速道路との連結により利便性を向上している。
釜山・大邱高速道路
京釜高速道路
背後鉄道
蔚山・釜山
馬山へ
高速道路
南海高速道路
第一背後道路
第二背後道路
海岸循環道路
図 4-27
釜山港の背後道路状況
(出典:釜山港湾公社パンフレットより作成)
①背後道路I(No.1Hinterland road)
Gadek I.C →Sheshan Intersection→GarakI.C →Chojeong I.C間の延長22.9km
事業期間:1994年12月∼ 2008年12月
事業費:6,516億ウォン
Sheshan Intersectionから南海高速道路,GarakICから南海高速道路支線に接続。釜山と大邱
間を連結する「釜山・大邱高速道路」にも接続する
②背後道路II(No.2Hinterland road)
新港→進礼JC(南海高速道路) 延長15.3km
事業期間:2012年∼2017年
事業費:3,499億ウォン
釜山から旧馬山市(現昌原市馬山区)を経て、全羅南道光陽市付近までを結んでおり、馬山
地区の造船場付近及び光陽コンテナ港が連結する
③海岸循環道路
都市中心部を通らない輸送ルートとなる。北港大橋が建設中。
釜山新港及び既存の釜山港(南港・北港)を連結し一体化した港湾運営のために建設がはじ
まった。北港大橋の接続により、釜山新港から釜山・蔚山高速道路にも連結される。
70
(4)釜山進行の開発計画
90 年代から貨物量が増加し、97 年に着工。2020 年までかけて第1期∼3期まで計画されてお
り現在第2期の工事推進中となっている。2020 年には、45 バースで 1,600 万 TEU/年の能力を備
えた港が完成する予定である。貨物量の 90%はコンテナ貨物である。(2011 年度までの総事業
費(30 バース計画時の想定額)は 9 兆 1542 億ウォンで政府投資が 45%と言われている。)現在の
予定(2020 年まで)では、45 バースへの拡張が計画されている。従来は開発計画に従って開発
が進められてきたが、現在は需要に応じた開発がされているとのことだった。
図 4-28 現代釜山新港ターミナル風景
4−2−3−4.IT システムの活用状況
韓国では、国土海洋部と関税庁を中心に輸出入物流プロセス情報化、物流情報 DB 構築、物
流情報の共同活用拡大事業を推進している。入出港、荷役、 通関、検疫、運送など輸出入業
務における段階別物流プロセスの改善を目的として情報化戦略が立てられている。手続きのオ
ンライン化と共にシングルウィンドウ化が図られ、政府機関間の情報共同活用システムが連携し
提供された。
また、手続き面だけでなく、物流情報の収集・分析・加工及び流通を促進するという目的で、物
流政策基本法第 29 条に基づき、単位物流情報網を総合的に連係し構成した物流情報体系を構
築するという「総合物流情報網」制度が国土海洋部を中心に推進されている。
陸上・海上・航空などの物流情報共同活用体系を構築して企業の円滑な物流活動企画及び
物流競争力向上を図るという目的で、国家物流情報センターの構築も段階的に推進されている。
初期フェーズとして、港湾・航空物流分野の民間物流業者と物流情報を共同活用する協業シス
テムを構築し、港湾・空港における荷役業務に関わる情報提供のためのプラットフォームが強化
され、その中では特にユビキタス情報基盤として RFID やモバイル情報機器を活用したシステム
構築がされている。現在は各システムをよりシームレスに連携し、各システムもより高度化を推進
するフェーズに入っている。
71
統合システムを構成するシステムの概要について以下に整理する。
(1)航空物流情報化推進(u-Freight)
①RFID インフラ構築事業
2007 年 7 月に貨物処理効率化及び RFID 技術拡散のために政府支援事業を行いながら仁川
空港も他の空港との差別化のために推進している。
RFID 基盤航空輸入貨物通関システムは、航空輸入貨物ターミナルへの輸入貨物の搬入、貨
物分類、在庫管理、搬出、貨物引きとり、保税運送、内陸地保税区域搬入、在庫管理、通関、搬
出などの全体の業務プロセスに RFID を導入して、最先端の輸入貨物通関体制、保税貨物管理
体制を構築した。これにより、貨物処理状況を RFID で可視化するとともに、税関申告を自動で処
理、書類への入力作業を排除して、業務の正確性、迅速性が向上した。
②AIRCIS : Air Cargo Information System
航空貨物予約及び追跡、運航スケジュール、操業情報など航空物流情報を統合提供するた
めに 2007 年に国土海洋部が構築したシステムで仁川空港公社が委託運営している。
従来はフォワーダー(航空貨物斡旋業者)が航空貨物予約・追跡をするためには、大韓航空、
アシアナ航空など個別航空会社のホームページに対してアクセスする必要があったが、政府は
フォワーダーなど航空物流従事者が便利に業務を遂行できるように一度に関連業務を処理でき
る統合システムを構築した。この AIRCIS は、貨物予約及び追跡、運行スケジュール情報の確認、
海外税関への前積荷目録申告、航空運送状、貨物受付証の電子化、ターミナル操業情報の提
供等の機能を有する。
(2)港湾情報システム
①PORT-MIS:PORT Management Information System
船舶入出港、港湾設備運営、意思決定に必要なリアルタイム情報を使用者に提供するために、
港湾情報管理システムと電子文書を使う物流EDIネットワークから構成されている。全国の28の貿
易港について船の入港届、港湾内施設の使用、管制事項、貨物の搬出入、歳入徴収、出発届
出等の港湾運営業務及び請願業務を処理するシステムである。
②GCTS:Global Container Tracking System
GCTSはRFID基盤の物流情報ネットワークを構築して車両・コンテナの物流拠点搬出入及び
装置・荷役作業結果をリアルタイムで自動収集することによって、コンテナ/BL番号などを利用し
たコンテナ及び貨物の位置追跡を問い合わせて情報を提供する物流情報システム。
また、コンテナターミナルのゲート、装置クレーン、荷役クレーンなどの港湾施設及び装置に対
する運営状況の把握、多様な拠点及び区間の輸出入物流量及びリードタイム分析結果などがイ
ンターネットを通じて確認できる。
72
③I-PLUS(Incheon Port & Logistics Ubiquitous System)構築事業
仁川港湾公社はユビキタス技術を利用した最先端の港湾を実現するという目標のもと、2009
年から3段階のフェーズを経て86億ウォンを投資し、I-PLUS構築事業を推進した。
(http://www.ipus.co.kr/にてサービスを提供中)。これは、仁川港を利用するユーザに対して
統合されたポータルとスマートフォン等を介して、より正確でタイムリーな情報サービスを提供す
ることを目的としている。I-PLUSの統合ポータルサイトには、国土海洋部の持っている輸出入物
流関連システムと、仁川港の5つのターミナルの情報システムが接続されており、仁川港内のコ
ンテナターミナルの混雑状況やレベルを把握することができるようにしている。
(4)主要物流情報システム
港湾・空港関連システムの他、物流情報を把握する目的で以下のシステムが構築されている。
①先端貨物運送システム(Commercial Vehicle Operation:CVO)
車両に付着した端末機(CVO 専用、PDA,携帯電話など)を利用し、リアルタイムに車両や貨
物位置追跡(GPS,CELL 方式)し、車両及び貨物管理を行う。
②内陸貨物基地(ICD)物流情報共用システム
搬出入、ヤード、保税貨物、装備など管理について、無線技術を利用したリアルタイムの業
務支援システムである。ゲート搬出入管理、ICD 業務処理手続きの改善と標準化を行ってい
る。
73
5.中国の物流政策・物流産業動向調査
5−1.概況サマリー
5−1−1.わが国と中国の貿易状況
2012 年度の貿易総額は、対世界貿易の 7.8%の伸びであったが、対中貿易は 0.1%増と全体
の伸びを下回った。なかでも、対中輸出額は 5.7%減と大きな減少となった(世界貿易前年度同
期比:輸出=4.7%増、輸入=10.8%増、総額=7.8%増。対中貿易前年度同期比:輸出=5.7%減、
輸入=7.5%増、総額=7.8%増)。また、日本の貿易総額に占める中国のシェアは 19.3%と前年
同期(20.6%)から 1.3 ポイント低下し、全体の 20%を割り込んだ。しかし、依然として日本にとって
中国は輸出、輸入ともに最大の貿易相手先である。中国からみた場合、日本は中国にとって第5
位の輸出相手先、第2位の輸入相手先である。
図 5-1 日中貿易推移 (出典:財務省貿易統計より作成)
74
5−1−2.中国の物流市場概況
中国では第十二次五カ年規画期間の時期に、内需拡大に転向させ、消費、投資、輸出の調
和に転換させる重要な時期と位置付けている。2010 年、中国の社会消費財小売総額は 15.5 兆
元、生産財販売の総額は 36 兆元に達し、商務部の予測によると、2015 年までこの2つの総額は
倍増を実現するとしている。
図 5-2 中国の物流市場規模の推移と将来予測
(出典:中国物流・調達連合会)
中国は潜在的に巨大な消費市場であり、生活必需品の消費だけでなく、住宅、自動車などの
消費も急増、インターネットショッピングなども急激に発展し、さまざまなサービスの領域が拡大し
ている。このサービス領域の拡大に伴って、高効率、低価格の物流の実現という要求が強まった。
物流業を代表的な生産性の高いサービス業に発展させるため、科学技術を活用し、積極的な発
展をめざしている。
5−2.中国の物流戦略
中国においては、物流に関わる行政部門が複数あり、そこの中の政策の動きから、今後の物流
に関する投資や注力政策が見てとれる。そこで、物流産業管理体制とそれらの中の物流政策の
動きについて纏める。
(1)中国の物流産業管理体制
物流には様々な内容が含まれており、関連する行政部門も数多く存在している状況にある。
75
中国における基本的な物流行政体制を理解するため、物流産業の管理体制について図 5-3 と
表 5-1 まとめる。それぞれの行政部門毎に関連する政策を策定している。また「五カ年規画」は、
地方政府においても策定されており、地域に特化した独自の強化策や発展規画も策定されてい
る。
図 5-3
中国における物流に関わる組織体系
表 5-1
中国の物流管理組織一覧
主管部門
標準化管理
業界管理
国家質量監督検験検疫総局
国家標凖化管理委員会
国家標準 全国物流標準化技術委員会
化管理委 全国物流情報管理標準化技術
員会
委員会
国家発展改革委員会
鉄道部
交通運輸部
道路運輸司
公路局
水運局
民用航空運輸司
商務部
工業・情報化部
住宅・都市農村建設部
管理する役割
№
物流産業の標準策定を管理する。
物流産業の標準を策定する。
物流基盤、物流管理などの標準を策定する。
物流の情報に関する標準を策定する。
1
2
3
4
物流産業の発展計画、政策、法令を策定する。
鉄道の発展計画、政策、年度計画を策定する。鉄道輸送を統一管理
する、鉄道輸送の標準を策定し、その実施を監督する。
運輸産業の発展計画、総合運輸体制計画を策定する。
総合運輸体制に関する調整を行う。
道路輸送を管理する。関連政策、法令、標準を策定し、
その実施を監督する。
道路の建設、管理、保守に関する政策、法令、標準を策定し、その実
施を監督する。
水路輸送発展計画、水路設計計画を策定する。関連物流計画、政
策、標準の立案を行う。
民間航空輸送を管理する。関連政策、法令、標準を策定し、
その実施を監督する
生産財物流を管理する。関連計画、政策、標準を策定する。
商業・貿易・物流の発展、物流センターの建設、物流サービス体制の
構築、3PL 企業の育成を推進する。
物流産業の情報化を推進する。情報化に関する法令を策定
する。
物流パーク、倉庫の建設を指導する。
5
6
76
7
7-1
7-2
7-3
8
9
10
11
表 5-2 中国における物流企業の形態
№
1
物
流
自
社
運
営
5
6
物
流
代
理
会
社
会社例
出荷、
輸送
黒竜江華宇物流
集団有限公司
入庫、
出庫、
配送
中国物資儲運総
公司
すべての
段階
中国遠洋物流有
限公司
輸送、
輸出入
中国対外貿易運
輸(集団)総公司
倉庫保管
代理
物流会社の委託を受け、倉庫管理を行う。
入庫、
出庫
南儲倉儲管理有
限公司
流通加工
代理
物流会社またはサプライヤーの委託を受け、流通
加工を行う。
流通加工、
配送
上海宝鋼不銹鋼
加工配送有限公
司
総合サービス型物流会社
3
業務
以下の条件を満たしている必要がある。
①貨物輸送業務を中心に行う。貨物速達サービ
ス、輸送代理サービスも行う。
② ドア・トゥ・ドア、ドア・トゥ・ステーション、ステーシ
ョン・トゥ・ドア、ステーション・トゥ・ステーション輸送
サービスやその他の物流サービスを提供する。
③一定数の輸送設備を保有する。
④ネットワーク情報サービス機能を持つ。情報シス
テムで貨物の状態を監視、照会することができる。
以下の条件を満たしている必要がある。
①倉庫保管業務を中心に行う。貨物保管、積み換
えなどのサービスを提供する。
②配送サービス、商品取次販売、流通加工などそ
の他のサービスを提供することができる。
③一定規模の保管施設・設備を有し、必要な貨物
輸送車両を自社で保有又は借用している。
④ネットワーク情報サービス機能を持つ。情報シス
テムで貨物の状態を監視、照会することができる。
以下の条件を満たしている必要がある。
①多くの物流業務を行う。輸送、輸送代理、倉庫保
管、配送など多くの物流サービスを提供することが
できる。一定の規模がある。
②顧客のニーズに応じて、物流資源を統合する運
用プランを立て、総合物流サービスを提供する。
③必要な輸送設備、保管施設、設備を自社で保有
または借用している。
④一定範囲の貨物集散、分配ネットワークがある。
⑤専門の機関と人員を置き、顧客サービス体制が
整っている。迅速かつ有効に顧客サービスを提供
することができる。
⑥ネットワーク情報サービス機能を持つ。情報シス
テムで貨物の状態を監視、照会することができる。
荷主の代理として、貨物の通関、引き渡し、振り分
け、検査、包装、保管、積み換え、船腹予約などを
行い、荷主から代理費用を受け取る。
倉庫型物流会社
2
4
内容
輸送型物流会社
物流
形態
輸送代理
77
(2)中国の物流関連政策の動き
中国物流・調達聯合会は 2001 年以降、全国で物流実証実験の評価を行い、「中国物流モデ
ル基地、中国物流実験基地評価検収規定」を公布してきたが(2008 年改訂)、2008 年以前の物
流関連政策は、保税物流センターに関する管理規定などがほとんどであった。
しかし、2008 年のリーマンショックをきっかけに産業強化に対する政策の見直しが加速し、2008
年末から 2009 年にかけて中国経済に大きな影響を与える十大産業(*)を選び、「十大産業振興計
画」を公表した。その中で十大産業の最後の 1 つに指定された物流産業は、唯一のサービス産
業である。物流産業が幅広い産業領域であり、物流を除く他の重要産業富節な関係性もあり、国
民経済にとって、雇用、生産促進、産業高度化、競争力の向上に大きな役割を果たしていると位
置付けられたからだといわれている。
*:鉄鋼、自動車、造船、石油化学、軽工業、紡績、非鉄金属、装備産業、電子情報、物流
「物流業調整及び振興計画」により、物流産業について複合型サービス産業であるとの認識に
たち、十項目の重点計画が示された。表5-3に中国経済に影響を与える十大産業一覧を、図5-4
に中国で示された物流関連のポイントとなる指針や施策を年表形式で示す。
78
表5-3 中国経済に影響を与える十大産業一覧
No.
1
おもな項目
内容
積極的に物流の市場ニーズの
サプライチェーン・マネジメントと近代的な物流の理
拡大
念、技術と方法を運用して、調達、生産、販売と物品回
収等の物流一体化運営を実施。
2
物流サービスの社会化と専攻化
強力に第 3 者の物流を発展して、企業の競争力を高め
の推進
る。
3
物流企業の合併再編加速
中小の物流の企業に情報の疎通を強化
4
重点領域の物流発展推進
関連産業や製造拠点、都市間(農村部/都市部)及び
都市内物流ネットワークの構築、物流の省エネルギー
化、緊急時における生産、流通、運送のための情報シ
ステムとともに災害時物流網を整備する。
5
国際物流と保税物流の発展加
主要な港、国際海運の陸路運送におけるコンテナ積
速
み替え駅、多機能な国際貨物輸送駅、国際空港といっ
た物流ノードの整備と複合一貫輸送のための物流施
設建設強化
6
7
物流業の発展地区配置の最適
九大物流地域を重点的に発展させ、十大物流ルートと
化
物流拠点都市を整備する
物流の接続と調和によるインフラ
《総合交通網中長期発展計画》、《中長期鉄道網計
建設を強化する
画》、《国家高速道路網》、《全国沿海港配置計画》、
《全国内陸河川航路及び港湾配置計画》、《全国民間
用空港配置計画》等、交通運輸施設の建設を強化し、
総合輸送網の配置、各種運送方法と組み合わせをセ
ットで促進し、資源と物流の運用効率を高める。
8
物流の情報化レベルの向上
業界、地方の公共情報プラットフォームを整備し、相互
情報共有を推進する。税関、検疫、交通運輸、鉄道輸
送、航空輸送と商工業管理などの政府部門による検証
と公共情報プラットフォームを管理することにより情報
サービス企業の成長を支援する。
9
物流における標準化体系の完
物流における基礎サービスの種類、物流技術の種類、
備
物流情報の種類、物流管理の種類など標準化体系を
整理する。また、国際標準化につながる基礎研究を強
化する。
10
物流の新技術及び応用技術開
物品体系のコード体系の整備と普及、RFID などの自
発の強化
動識別技術と EDI を連携した可視化と物流情報サービ
スの応用強化、GPS,VICS,ETC 技術を利用した ITS の
運輸領域における研究の強化。物流に係る技術装置
や総合的な移動物流情報サービスの自主開発を強化
する。
(出典:国務院 「物流業調整及び振興計画」通達:http://www.gov.cn/zwgk/2009-03/13/content_1259194.htm)
79
図 5-4 中国の物流関連施策の変遷
80
(3)「第十二次五カ年規画」における物流産業の方向性
第十一次五カ年規画期間における物流産業の評価として、2010 年、中国の GDP に占める物流
費の比率は 17.8%で、2005 年の値と比較して 0.5%低減した。これは、2,000 億元近くの経済効果を
増加したのに等しいといわれている。
チェーン・スーパーや電子商取引などの新しい形の事業形態が急速に発展したが、それらの発
展に追従する物流サービスは発展のレベルが緩やかで、都市物流サービスの整備といった課題
が議論されている。
鉄道網、道路網といった輸送路の整備等の物流インフラの強化のほか、物流に関わる各種情報
を集約する物流公共プラットフォームの構築が注目を集めている。プラットフォームサービスには、
「物聯網」と呼ばれる IT 技術を利用し、物流の情報化、物流の管理、サービスに大きな変革を与え、
専門性、集約化、情報化、循環という持続的な発展のモードに転換させようとしている。
商務省は 2013 年 1 月 16 日に 国際貨物輸送と物流を促進する指導意見(指針)"を発行し、品
質の向上と、国際貨物輸送企業の売上げを年平均 12%程度の増大を実現すると同時に、買収合
併を通じて業界を最適化するための再編を図り、強い競争力のある大規模な国際物流企業の育
成をしていく方針を打ち出している。これらは、大・中型の物流事業者の統廃合による強化を意味
しており、機能的な育成環境や、施設環境の充実度、資源能力といったリソースを統合し強化を図
るという方針である。
対外経済関係と貿易サービスは、外国からの投資の誘致、雇用拡大、現代物流産業の発展積
極的な役割を果たしてきた。中国での国際貨物運送物流業界は、先進国と比較して小規模でサ
ービス機能が分散している状況にあるとの自己評価であり、今回の指針の介入は国際貨物運送物
流業界の発展のための新たな機会到来を告げることを意味していると評価する意見もある。
(http://news.clb.org.cn/2013-01-18/67510.html)
(4)標準化
物流分野の情報技術発展と標準化は、物流産業育成の両輪に位置付けられている。中国では、
物流産業の急速な発展にともなって、物流標準化の遅れが目立つようになった。このような状況に
対して、2001 年公布の「我が国の現代物流の発展加速に関する若干の意見」では、物流標準化の
強化が提示され、2009 年には「全国物流標準 2009 年-2011 年特別計画」が公布されるなど、物流
の標準化がますます重要視されてきた。
しかし、標準化の内容は、《物流用語》の定義や、《物流コスト》といった考え方を定義するもの、
更には物流資材(パレット、トレイなど)のサイズや利用方法、RFID 技術とその応用といった規格、
ガイドライン的なものまで含んで、「標準化」と表現されているようである。
中国における標準化は、業界でボトムアップ式に進められることも多く、標準が作成されるプロ
セスを理解しておくことが必要である。
81
物流産業の標準化に関わる機関を図 5-5 に示す。
図 5-5 物流産業の標準化機関
(5)中国における通関業務組織と電子通関
2012 年 7 月に国務院弁公庁より、《電子口岸発展 十二・五 》が発表された。国務院は電子口
岸の建設全般に対して、電子口岸の建設の歩調を加速するため、港の通関の効率を高めることを
目的として、現在推進中のプロジェクトとその方向性について指針を示したものである。関連する部
署は 15 以上の組織に渡っており、それぞれのシステムの連携性を模索しつつ、電子口岸というシ
ングルウィンドゥのシステムを構築する取組みが伺える。これによると、中央政府と地方政府がそれ
ぞれの方向から電子口岸の建設を推進して行くものと推察される。地方政府が進めるプロジェクト
は、地方政府のモデルプロジェクトとしての位置付けが強いものとなっている。
この中で、国際競争力を高める電子口岸システムの構築をするため、港の情報化を推進して総
合的に使用する重要な領域であると位置づけた上で、物聯網技術といった新技術の開発と活用を
推進し、革新的なサービスに繋げることがうたわれている。
82
今回のヒアリングの結果、中国における電子通関には、大きく以下3部門が関わっている。
①海関総署:貨物の通関(通関システム H2000 を導入)
②商務部門:梱包材/動植物の通関(商務システム PTAS を導入)
③国検総局:貨物の検査(輸出入検査検疫システム CIQ2000 を導入)
海関総署の下には、深セン、広州、黄埔など 41 箇所に直轄拠点がある。その下に、分室、オフィ
ス、出張所が設置され、全体で 4 階層の構造になっている。商務部、国検総局も同様に省レベル
の区分を含め 4 階層の組織構造である。海関総署は貨物の通関を扱い、商務部では木箱等など
の木製の梱包材や各種材料、動植物、生物の通関を管理している。パレットがプラスチックであれ
ば対象外だが、木製のパレットについては商務部門での通関手続きが必要となる。
それぞれの部門の手続きは電子化されており、電子通関システム H2000、商務システム PTAS、
検査検疫システム CIQ2000 が導入済である。現状はこれら3システム間でのデータの連携はして
いないが、広東省をモデルサイトとして H2000 と PTAS の連携運用が試行されている。保税通関手
続きで使用される電子手冊によって、輸出入に関わる全ての処理が電子化されていると思われが
ちであるが、実際にはバックエンドのシステム間連携がなされておらず、申請者側の手続きの利便
性には依然として課題があるとのことである。
広東省で利用されているシステムが今後、他地域へ横展開されるとは限らず、各地域のシステ
ムが独立した運用となる可能性もある。
5−3.日系物流企業へのヒアリングから
中国の物流環境についての日系物流企業からのヒアリング結果をまとめる。
従来の五カ年計画では、道路網、鉄道網、物流園区といった設備面での内容が多かったが、
「現代物流」の育成や都市物流といった内容も多くなり、ロジスティクス分野の発展につなげようとし
ていることが伺える。
一方、物流産業に対しての外資規制の緩和は進んでいない。
物流事業に対しては、中央政府が許認可するライセンスと地方政府が許可するライセンスが併
存するなど、ライセンス体系が複雑となっており、また、許認可を行う部門も商務部と交通運輸部な
ど複数存在する。香港と中国間の CEPA(Closer Economic Partnership Arrangement:香港・中国経
済緊密化協定)は、日系企業にも恩恵をもたらしている。香港に設立した日系 100%現地法人は香
港の企業と同等に扱われるため、CEPA の対象となる。
従来は中国資本との合弁企業でない限り、外資企業は国際フォワーディング業務を行うことがで
きなかったが、CEPA を活用することで、香港に設立した日系 100%の現地法人であっても、フォワ
ーディング事業参入が可能となった。
また、国際空港フォワーディング事業については事業免許を保有していないと、日常取引のある
日系航空企業に対しても航空輸送事業者に直接貨物を取り次ぐことができないため中国系国際航
空フォワーダーを通して取引しなければならず、仲介手数料などのコストがかかっていた。
鉄道網は従来に比べ、大都市を結ぶ路線では活用できるものも出てきている。
83
従来は、鉄道網のハブ拠点となる駅で貨車の連結を繋ぎかえることが多く、輸送の手間がかかって
いたが、近年ではインフラが拡張され、貨車の連結を変更することなく輸送できる直行便が増えて
きたことも、鉄道網が活用されるようになってきた一因である。
小売店への流通貨物については、日本では複数メーカの製品を流通センターに集約し、店舗ご
とにまとめて配送を行う方式が一般的であるが、中国ではメーカが個別に直接店舗へ配送を行うた
め、小売店にて配送トラックの待ち時間が長期化するなど、効率面において問題がある。また、荷
受後の検収に際しても検収責任者が売り場責任者を兼ねていることが多く、品物の種類によっても
検収の方法が異なることから、検収が一括処理されるような仕組みにはなっておらず、業務上の課
題も多い。
中国の流通店舗は、不動産誘致の側面からとらえると理解しやすく、優先ブランド品の物流も優
先されるとのことである。都市流通の改善には、こうした流通の仕組みの変化も必要と考えられる。
環境配慮という点では、中国でも欧州と同様、ターボ利用により排気ガスの量を減らす取組みを
主に進めており、高性能車両よりは、ターボ車の需要が高い傾向にある。
日系物流事業者へのヒアリングによると、定期的にパートナー事業者への指導を実施しており、
中国においては中国物流企業とのパートナーシップを構築することが重要であるとのことである。
中国内でも、物流企業の品質サービスの差別化が重要になっているとのことで、中国パートナー企
業の意識も変化しつつあるとのことだった。
中国の経済環境は日々変化しており、2008 年頃にはまだ富裕層が特別な扱いを受けていたが、
現在ではマーケットの主流が富裕層になりつつある。そうしたマーケットの変化にあわせて、中国市
場にどれだけ日本の商品を売るのか、それらをどのように運ぶのかといった点に注目が集まりつつ
あり、物流業界においては 3PL の比率が増えていることも最近の傾向としてあげられるとのことだっ
た。
84
【参考】本報告書で用いた用語の解説
用語
ASEAN
東アジア(地域)
GMS
内容
東南アジアの政治的安定、経済成長促進等を目的に設立。現在、インドネ
シア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオ
ス、ミャンマー、カンボジアの 10 か国が加盟。
様々な枠組みでアジア諸国の経済協力体制が作られているが、ここでは、
東アジア地域を、ASEAN+3(日本、中国:香港/マカオ/台湾を含む、韓
国)と定義し用いる。
拡大メコン圏:Greater Mekong Sub regionの略。メコン川流域の国と地域(タ
イ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、中国(雲南省))が参加。
NAFTA
HS コード
River Trade
Mid Stream
Tidal Window
UKC
バルク貨物
来料加工【中国】
進料加工【中国】
加工貿易手冊
【中国】
転廠【中国】
結転【中国】
増値税【中国】
北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement)。米国、
カナダ、メキシコの3カ国と定義し用いる。
あらゆる物品に固有分類番号をつけて、貿易上、それが何であるのか世界
各国で共通して理解できるよう取り決めた番号のこと。タリフコード、HS 番号
とも言う。最新の HS コードは 2012 年度に更新された HS2012。現時点では
200 以上の国や地域で使われ、関税率決定のベースや品物の国籍を示す
重要な番号として使われている。
小型フィーダー船による河川上の貿易取引
クレーン、バージによる沖荷役
潮位の利用により港湾に入出港可能な時間帯
Under Keel Clearance 船舶の船体最下部(Keel)から海底までの垂直距離
のこと。余裕水深。
船倉にバラ積み(撤積)される貨物のこと。石炭、鉄鉱石、穀物等の液体で
はないドライバルク貨物と、原油、石油製品、液化ガス(LNG、LPG)、液体
化学薬品等のリキッドバルク貨物とに分類される。
海外の加工依頼者が、中国国内の委託加工先に原料・材料・資材・加工設
備の無償提供を行なう委託加工貿易形式。委託加工先は、加工した製品
を加工依頼者に引渡し、加工費用/組み立て費用を受け取る。
中国国内加工者が海外から原料、材料、資材等を購入、生産した製品を海
外へ輸出して商品代金を決済する加工貿易方式。
加工貿易の原料、材料、資材等の免税輸入データ、製品の海外への輸出
データを税関が管理する手帳。電子データ化も実施されている。
委託加工貿易に於いて、委託加工企業が輸入した免税原材料を税関の許
可を経て、中国国内の他企業に外注加工を依頼するシステム。定められた
期間内に加工依頼先から回収する必要があり、「所有権」は移転しない。
委託加工方式で生産された製品/半製品を、一旦中国国外に輸出したり、
国外と看做される地区地域を経由させる事なく、移出入双方税関の許可を
経た上で中国国内受け渡しを行う仕組み。転廠とは異なり、所有権の移転
を伴う。
英語の Value-Added Tax(VAT)の中文訳。流通の過程で発生する「付加価
値税」を意味する。日本の「消費税」と基本的な仕組みはほぼ同じであり、
物品の販売、輸入、役務(加工、修理、組立)の提供時に 売り上げ税額か
ら仕入れ税額を控除した差額を納付する。
85
保税物流園区
【中国】
三検【中国】
国務院の批准を経て、保税区内、或いは保税区に隣接する特定港区内に
設立された税関特殊監督管理区域。貨物の搬入は同時に輸出とみなさ
れ、増値税還付の手続をおこなうことができる。
中国では輸出入貨物を対象に、1.衛生検疫、2.動植物検疫、3.商品検験が
行われるが、かつては異なる法体系、行政機関によって行われたので、通
称「三検」と呼ばれている。輸入貨物は全てが対象であり、輸出貨物につい
ては当該商品の HS コードによって検査の有無が決定される。
【参考】本レポートで用いた略語
略語
正式名称
意味
ADB
Asian Development Bank
アジア開発銀行
UNESCAP
The United Nations Economic and Social
国連アジア太平洋経済社会委員会
Commission for Asia and the Pacific
BOT 方式
build, operate and transfer 方式
国企業が相手国から土地を提供しても
らい、工場などの施設を建設して一定
期間運営・管理し、 投資を回収した後
に、相手国に施設や設備を委譲する開
発方式。
BtoB
Business to Business
企業間の電子商取引のこと
BtoG
Business to Government
企業と行政機関との電子商取引のこと
EDI
Electronic Data Interchange
異なる組織間の電子商取引において
商取引に関する情報を標準的な規約
を用いて自動的に交換すること
JILS
Japan Institute of Logistics Systems
公益社団法人日本ロジスティクスシス
テム協会
TNSC
Thai National Shippers'. Council
タイ荷主協議会
CEPA
Closer Economic Partnership Arrangement
香港・中国経済緊密化協定
86
Fly UP