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SUMMARY - Kyushu University Library
ユビキタス時代の情報技術と経済(1)
一分析の枠組みと研究の展望一
*
篠崎 彰彦
Akihiko Shinozaki
SUMMARY
本稿では、パソコンとインターネットが牽引力となった1990年代から、ユビキタス時代へと
変遷する2000年代の情報化について、経済活動のr3主体」と経済効果の「2側面」に着目した
分析枠組みを提示し、1990年代以降の研究で得られた成果を踏まえて、今後取り組むべき研究の
方向性を検討した。企業部門が中心となった1990年代とは異なり、情報技術が至るところに遍
在するユビキタス時代は、家計部門や政府部門を含めたすべての経済主体が情報化の対象領域とな
る。生産性の向上とそのための組織改革や人的投資など企業部門に焦点を当てた経済効果について
は、これまでに多くの実証研究が積み重ねられ、一定のコンセンサスが形成されているが、家計部
門や政府部門、及び、それらと企業部門を含めた各部門の相互関係については、分析の蓄積が充分
にはなされていない。特に「利用効粟」についての研究は、分析手法の確立も含めて、今後の取組
みが重要な課題といえる。
1 はじめに 高まるユビキタスへの関心
ることは確かである、というコンセンサスが形成
されている(4)。
情報技術(lnfOrmatiOn TeChnOlOgy:IT 〈2))が
2000年代に入り、日本経済が景気の後退局面
経済活動に影響を与えると認識されるようになっ
から回復していく過程では、DVDプレイヤー、
て久しい。とりわけ、1990年代中盤以降は、IT
デジタルカメラ、薄型テレビなどのデジタル情報
関連分野の生産や雇用の拡大といった「情報化に
家電や、音声だけでなく電子メールや画像にも対
よる量的効果」のみならず、ITを利用する企業
応できる多機能な携帯電話の普及が新しいタイプ
の投資行動や生産性向上など「情報化による質的
の情報化として注目されるようになった。すなわ
効果」への関心が高まった。この関心の高さが、
ち、1990年代に顕著であったパソコンやインター
米国経済の再生という現実の動きに結びつき、過
ネットに加えて、家電製品、携帯端末、R:FID
度の楽観を招いて2000年にかけての「ITブー
(Radio Frequency Identification)など、身の回り
ム」とその後の「IT不況」という副作用を生み
に存在するあらゆるものがデジタル化され、かつ・
出したがく3>、情報誌:術の進歩と急速な普及が生
ネットワーク化されるという「ユビキタス」時代へ
産性の向上につながり、経済の活性化に寄与し得
の関心の高まりである。
Z励α∼ノηRE肥〃ほわ必38(2006.♪99
ユビキタス(ubiquitous)とは、どこにでも存
ソコンとインターネットが牽引力となった1990
在(遍在)するという意味のラテン語で、rコン
年代からユビキタス年代へと変遷する情報化につ
ピュータによる接続と情報処理が至るところで
いて、経済分析の枠組みを提示した上で、現在に
可能になること」を提唱した米国ゼロックス社
至る研究の経過と成果を総括し、今後取り組むべ
パロアルト研究所のMark Weiserが、それを
き研究の方向性と課題について検討を加えること
“ubiquitous computing”と称したのが嗜矢とされ
にする。
る(5>。現在では、超小型のコンピュータ(情報処
理ICチップ)があらゆるものに組み込まれること
2 情報経済(lnformation Economy)の
で「いつでも、どこでも、誰でも、何でも」がネッ
分析枠組み
トワーク化される状態を意味するものと理解されて
いる16)。
2−1 3つの主体と2つの側面
記事検索の手法でキーワード別に時系列の相対
頻出度をみると(図表1>、1990年代中盤ごろか
ユビキタス時代の情報化を経済分析するにあ
ら注目されだした「インターネットとパソコン」
たっては、それだけを分析対象とする特殊な枠組
が、「ニュー・エコノミー」に沸いた2◎00年にか
みではなく、それ以前の情報化についても比較分
けての「ITブーム」で一段と脚光を浴びたもの
析が可能な包括的、一…般的枠組みが必要とされ
の、過熱気味だった注目度は、その後の「IT不
る。なぜなら、そうした包括的な枠組みによっ
況」とともに沈静化したことがうかがえる。それ
て、ITの進歩と普及が経済に及ぼす影響(情報
と入れ替わるように、2◎02年から2003年目かけ
化の経済効果)について、ユビキタス時代が従来
ては、「ユビキタス」が注目されるようになり、
とどのように異なるのか、また、何が共通するの
2001年の景気後退期を境に、情報化についての
かを、全体像を把握しつつ比較検討し、理解を深
関心の中身が相対的に大きくシフトしている様子
めることができるからである。これは、ミクm分
が読み取れる。
析の応用装置としての情報経済;学(lnformation
こうした状況の変化をふまえて、本稿では、パ
Economics)ではなく、情報経済(lnformation
図表1 記事検索相対頻出度
簸頻出年=・100
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l995 1996 1997
出溺:鰹経テレ=3ムの凝i事検索をもとに簾餐雀哉
700 /nfoCom REVIEW VoZ38 (2006?
1998 1999 2000 2001 2002 2093 20ca g
Econ◎my 〈7>>の実態を総合的に研究するための
生していく経済効果である。
分析枠組みであるく8>。
一方、企業、家計、政府の各経済主体におい
本稿では、経済活動で基本的な「3つの主体」
て、これらITに関連した需要が生まれるのは、
を基点に、各主体が経済行動でITに関係する
それらを導入し利活用することで、各主体に何ら
「2つの側面」に着目し、そこから生じる経済効
かのメリットが生まれると期待されるからに他な
果を分析していく枠組み一具体的には、企業部
らず、決して、支出自体が目的なのではない。例
門、家計部門、政府部門の3主体、及び、IT需
えば、企業はITを利用することで生産活動の効
要とIT利用の2側面を骨格とした枠組み一を
率性を高めたり、より多くの顧客を開拓したり、
提示する(図表2)。
市場のニーズに対応して財・サービスの質を向上
周知のとおり、経済活動の基本主体は、企業、
させたりすることが可能となり、費用を削減しつ
家計、政府の3部門であり、「いつでも、どこで
つ売上げを伸ばすことができる。家計にとって
も、誰でも、何でも」が晴報ネットワーク化され
は、ITの利用度が上がることで、日常生活の利
ていく現象は、経済社会の隅々にまでITが普及
便性が増し、消費者の効用(満足度)が高まっ
していくことを意味し、企業にとってはITへの
て、豊かな暮らしの実現に役立ち、政府にとって
投資や中間投入を、家計にとっては情報家電等へ
は、ITを利用することで、行政組織の改革、行
の消費を、また、政府にとってはIT関連予算の
政サービスの向上、行政灘ストの劇減、民間部門
支出をそれぞれ促していく。これらは、いずれも
の情報化誘導(呼び水効果)などを促す手段とな
ITに対する「需要」の増大を生み出し、この需
り得る。第2の側面が、こうした「利用」から生
要の増大がハードウェア、ソフトウェア、コンテ
まれる経済効果である。
ンツなどITに関連した財・サービスの生産活
こうして、企業、家計、政府の3主体にITが
動、すなわち、IT産業を拡大させ、それが直接、
万遍なく普及する中で、「需要jから派生する経
間接の波及経路を経ながら、経済に影響を及ぼし
済効果と「利用」から派生する経済効果の2つの
ていく。第1の側面は、こうした「需要」から派
影響が生まれるのである。
図表2 情報経済の分析の組み
需要から生Uる影響
き
【2狽圃 【3調 i 野州ら生じる雛
:
学的拡大
景気循環
【3段閣 ;
響
質的向上
経済成長
墓盤整備
既存の仕組みの樗設欝
回しい癒縫連鎖
・制度鍵盤
(起業金融、欝働欝場、税鋼、企業法鰐、競塾敬策、教育、麟磁
出醗1筆者作競
加乃α膿R∬肪騨!泌Z38(200dジ !0ノ
2−2 需要効果と利用効果
し、変貌・発展していくという質的変化の経済効
果が生まれる。この経路は、さらに、基盤整備、
2側面のうちの「需要効果」では、コンピュー
既存の仕組みの見直し、新しい価値連鎖という3
タ産業やエレクトロニクス産業などの直接的な
段階に掘り下げて観察することができる。ITを
IT関連鮪節のみならず、部材を供給する化学や
利用するためには、まず基盤となるハード、ソフ
金属製品など、軒間投入で関係する諸産業への間
トの導入、すなわち基盤整備が必要となるが、単
接的な波及を伴いながら、経済全体に生産誘発効
にそれらを一揃い設麗すれば、直ちに効果が現れ
果が生まれる。やがてはそれが直接、間接の波及
て、従来なかったような新しい価値連鎖が自動的
メカニズムを通じて「雇用増加」へとつながって
に生まれるわけではない。例えば、1990年代に
いく。さらに、ITのような新技術が関連する産
IT導入が盛んだった企業部門についてみると、
業分野の拡大は、これまでなかったような新規事
既存の企業組織や業務プロセスの仕組みは、今の
業の勃興とそこでの「雇用創出」という全く新し
ような情報技術がなかったか、あったとしても初
い効果も生まれると考えられる(9)。
歩的で未熟だった時代につくり上げられたもので
これらは、生産や雇用における量的拡大の効果
あり、そうした旧来の仕組みを残したまま最新の
であるが、IT需要の増大がソフトウェアやコン
情報技術を導入しても、その効果は限定的だと指
テンツなどの産業に裾野を広げて波及し、産業全
摘されている(11)。
体に占めるシェアを高めたり、部品や素材などの
したがって、ITの利用がどの程度進んでいる
ハードウェア関連の製造業でより高度な技術集約
かを判断する際には、インフラ整備や機器の普及
製晶を要求したりするという点で、産業構造の
率だけでなく、それらが既存の仕組みの再設計と
「ソフト化」や「高度化」という質的変化にも影
連動して、新しい価値連鎖につながっているかど
響を及ぼす。
うかの見極めが重要といえる。この3段階を経て
ただし、生産と雇用の量的拡大や産業構造の高
ITの「利用効果jが生まれれば、企業組織や行
度化といった経済効果が生まれる過程では、プラ
政組織の効率性、生産性が向上し、また、消費者
ス聞だけでなく、マイナス面の影響も生じること
の効用や利便性が高まることを通じて、中長期的
を忘れてはならない。IT需要の増減は、関連す
に経済成長や生活水準の向上が実現する。
る産業の生産活動に対して変動要因となるため、
ただし、企業改革や生活様式の変化の過程で
その動向が景気循環という経済の不安定メカニズ
は、「デジタル・デバイド」に象徴されるような
ムに作用する。また、旧技術から新技術への転換
機会の不均衡がもたらす格差の問題、あるいは、
や産業構造の転換に際しては、旧技術に深く結び
新しいタイプの犯罪の拡大や判断力の形成途上に
つき、直:ちには転換できない人的資本の失業問題
ある子供たちへの危険な影響力など、馴れ親しん
や固定的資本の埋没費用化など、生産要素の移動
だ日常生活の急速な変化に伴う様々な社会問題が
に伴う摩擦が短期的にはマイナスの影響をもたら
不安定性を高めてしまうというマイナス面の影響
すと考えられるからである。
があることを見落としてはならない。
他方、「利用効果」では、それぞれの経済主体
がITという新技術を日々の行動に取り入れ、有
2−3 制度基盤と制度変化
効に利活用していく過程で、従来の行動様式を
「情報の時代j(10)にふさわしいものへと再設計
ノ02加乃α雇ηRβ照W協必38(2006?
ここで、経済を支える「制度基盤jが「3主
体」と「2側面」という枠組みにどう組み込まれ
用を前提とした企業内訓練のみならず、就労後の
るかを補足的に述べておきたい。日々の経済活動
社会人が個人としていつでも再教育を受けること
は、金融制度、雇用制度、税制、企業法制、競争
が可能な仕組みを整えることや、新しい時代に対
政策、教育制度など様々な制度基盤の上に成り
応できる人材を育成するための基礎教育の再強化
立っており、ITに限らず、新技術が急速に普及
といった教育制度の見直しも求められる。
していく時期には、制度基盤の柔軟性と安定性が
このように、IT導入に伴う需要効果と利用効
重要度を増す。なぜなら、技術革新で広がった新
果がどのように発現するかは、制度基盤も深くか
領域では、既存の制度が新しい活動にとっての障
かわってくるが、この問題が複雑なのは、全体と
害となったり、逆に、制度の空白や未整備が新し
しての制度が、成文法など明示的なフォーマル・
い領域の活動に混乱を引き起こしたりするため、
ルールばかりでなく、伝統や慣行など暗黙のイン
技術革新がもたらす筈のメリット(プラスの経済
フ*一マル・ルールからも成り立っている点にあ
効果)を充分に享受することができず、場合に
る(13>。つまり、制度は多層構造をなして一体的
よっては、マイナスの効果に帰結するリスクが高
に機能しており、フォーマルなルールは一夜にし
まるからである。
て変更可能だが、インフォーマルなルールは、
例えば、新たな領域で生まれる需要効果は、新
人々の習慣に根ざしたものであるだけに、変化に
規事業の創出とそれに伴う起業を促す要因となる
は時間を要するのである。そのため、ITに限ら
ことは間違いないが、それだけでは、事業の創出
ず新技術の進歩や普及の敏捷なテンポは、制度変
や起業を現実のものにすることはできない。業暦
化の緩慢なテンポとは一致しづらく、技術が成熟
の浅い小規模事業者が不確実性の高い新技術を武
期に達するまで、両者の軋礫や摩擦といった緊張
器に新分野で起業するためには、ベンチャー・
関係が続くことになる。こうした観点から、情報
キャピタルなど、従来の日本で主流だった金融と
化の経済効果を分析する際には、制度基盤がどう
は異なる仕組みが欠かせない。また、既得権益を
関与し、どのような制度変化の緊張を生んでいる
抑えて新規参入を促すような競争政策がなけれ
かを常に視野に入れておくことが必要とされる。
ば、新たな市場の拡大は遅々として進まないだろ
う。さらに、産業構造が転換していく中で、優秀
3 「枠組み」からみた1990年代の研究
な人材が既存の企業から新しい企業へと円滑に移
動するには、中途採用市場の層が薄いままの雇用
以上を踏まえて、本節では、まず情報化の経済
制度では不充分なため、雇用面の制度変化も課題
効果に関する米国と日本のこれまでの研究動向を
となる。
概観した後に、前節で提示した分析「枠組み」に
加えて、一見するとITには無関係にみえる制
照らして、先行研究の対象領域と研究成果の位置
度基盤も重要な影響力を持つ場合がある。例えば
づけを行い、ユビキタス時代の研究テーマと分析
ITの導入は企業組織再編の原動力となるが、
アプローチを導くための手がかりとする。
1990年代に露顕したように、企業行動を規律付
ける会社法制が当時は未整備であったため、企業
3−1 米国の研究動向と研究成果
組織の分割・合併を円滑に実行するには、会社法
制の見直しが不可欠であった(12>。また、産業構
ITの経済効果に関する研究は、情報化で先行
造の転換に伴って転職が増加する中では、長期雇
する米国が中心舞台となってきたが、とりわけ、
lnfoCon2 REVIEW Vol.38 (2006? iO3
1990年代には活発な論争と研究が繰り広げられ
第一・は、半導体やコンピュータなどITの関連財
た。大量のデータを計算するための「情報処理マ
を生産する分野の技術革新に伴う生産性向上であ
シン」にとどまっていたITが、インターネット
り、それは、IT関連産業の全要素生産性(TFP)
というオープンなネットワーク環境と結びつき、
向上に現れる。第二は、ITを導入する側の生産
有効な「コミュニケーション・ツールjへと進化
性向上である。ITの導入は、まず情報化投資と
するなか、1990年代の米国では積極的なIT投資
なって具体化するため、この面からの生産性向上
が続いた。こうした現実の動きに触発されて、米
は、情報資本装備率(情報資本深化)の高まりと
国経済がIT投資によって再生し、1970年代から
なって現れ、続いて、導入した企業や産業(非
の停滞を脱したのではないか、というテーマが、
IT関連産業)のTFP向上に反映されることにな
経済学者たちの間で高い関心を呼ぶことになっ
る。つまり、生産性向上のうち、資本深化の計測
た。というのも、かつては、IT投資が進んでも
では導入側の効果が、TFPの計測では生産側と
生産性の向上(生産性上昇率の加速)が実現しな
導入側の両方の効果が現れることになる。
いという現象が広範に観察されていたからであ
分析結果によって具体的な寄与の数値には違い
る。この謎は、Solow(1987)が発した有名な一
がみられるが、情報資本の深化とIT関連産業の
文にちなんで、「ソローの生産性パラドックス」
TFP向上については、いずれの実証分析でも一
と呼ばれた凶。
定の効果が確認されている。200◎年からの株価
確かに、1990年代序盤までの実証分析では、
下落とそれに続く景気後退という現実によって、
パラドックスの存在を裏付ける分析結果が数多く
議論の「膨張」した部分は明確に否定されたが、
みられたが、その後の米国経済が1994年のメキ
論争の核心というべき生産性問題に関しては、景
シコ通貨危機、1997年のアジア通貨危機、1998
気後退を経た後も上昇基調の定着が確認されてお
年のmシア通貨危機、あるいは、日本やEUの経
り、米国経済の生産性向上にIT投資が寄与した
済停滞という厳しい国際経済情勢をよそに好調を
ことは、今や「コンセンサス」となっている(17)。
続けたため、ITへの関心は、「生産性パラドック
生産性上昇率の加速について、JorgeRS◎ft, et aL
ス」を超えて「ニュー・エコノミ’一一」論へと膨張
(2004)に基づいて、具体的な数値をみると、
した。ここで「膨張」とは、情報化の経済効果に
197◎年代からの停滞期に年率L5%だったもの
ついて、生産性論争だけでなく「景気循環の消
が、1990年代後半以降は年率3.1%へと1.6%ポ
滅」や「株価の永遠の上昇」にまでも論点が広
イント加速している(図表3)。
がったことを指す〈i5>。
重要なのは、この変化量のインパクトであ
この間、論壇での膨張した論争に一部巻き込ま
る。年率1%台の変化は、数値だけをみると、
れつつも、生産性の問題は、企業レベルのミクロ
ごくわずかの違いのように思われる。しかし、
分析(Brynjolfsson and H:itt[1996])、経済全体
Krugman(1990)の軽妙な指摘にあるように、
のマクロ分析(Jorgenson[2001], Oliner and
生産性の問題は、長期的な観点から重要な意味を
Sichel [2eOO]. the Council ef Economic Advisors
もつQ8)。年率1β%で生産性が上昇する経済で
〔2003〕)、産業別のセミマクロ分析(Stiroh
は、所得が倍増するのに約47年を要するが、生
[2002])において多面的に検証が積み重ねられ
産性が年率3.1%上昇する経済では、その期間が
た。J◎rgenson(2001)が提示したように、 ITは
約23年に短縮される。ひらたく言うと、2倍豊
次の2つの経路から生産性向上に寄与するq6)。
かな社会の実現が子供の世代か孫の世代かとい
ノ04加乃α2卿1魑砺障剛38(20067
う、1世代分の違いなのである(19>。第2次世界
情報化に伴って経済効率が低下することを防ぐ
大戦後、米国をはじめとして先進国の生産性上昇
には、情報化の進展、すなわち情報技術の普及に
率は一段と高まったが、資源の制約に直面した
よって生産性を引き上げることが必要であり、こ
1970年代以降これが下方屈折し、停滞局面が続
うした問題意識に、米国で活発に進められていた
いた。ところが、「情報の時代」への転換期、す
実証研究の刺激が結びついて、1990年代中盤以
なわち1990年代には、米国経済が積極的なIT
降は、日本におけるIT投資と生産性に関する実
投資によって生産性上昇率を再加速させ、約20
証研究が大きく推し進めちれていったく22)。日本
年間続いた停滞から抜け出すことができたと総括
での実証研究は、統計データの整備が進んでいる
することができる。
米国に比べて鋼管が大きかったが、固定資本マト
リクスを用いたデータ構築手法の考案(篠崎
3−2 日本の研究動向と研究成果
[1996])が1つの契機となり、様々に応用・精徴
化されて、1990年代後半以降、IT投資と生産性
日本での研究は、1960年代から指摘されていた
に関するマクロ分析が盛んに行われるようになっ
「情報化社会」の実態を定量的に明らかにしてい
た(経済企画庁[2000a]、日本経済研究センター
くアプロ・・一チが盛んで、情報に関連した産業活動
[2000]、篠崎[2003、2004]、元橋[2005]など)。
や雇用機会が日本経済の中で存在感を増していく
一方、固定資本マトリクスを基礎としたマクロ分
様子を、「情報の産業化」や「産業の情報化」と
析とは別に、産業別の情報処理費用等のデータに
して統計的に確認していくスタイルであった(20)。
基づくセミマクロ分析や、企業に対するアンケー
ところが、この種の研究が進み、「情報化」の進
ト調査データによるミクロ分析からも生産性や効
展度が急速に高まっていることが明らかになるに
率性の検証が盛んに行われるようになった(廣松
つれて、次のような問題意識が醸成されるように
他〔1998]、経済企画庁[2000b]、鵜飼[2003]、廣
なった。すなわち、情報化の進展は新たなコスト
松他[2004]、竹村[2003」、篠崎[2005]など)。
の増大に過ぎず、物的生産活動を多く含む非情報
これらの研究結果については、必ずしも充分な
部門に比べて、生産性が相対的に低いサービス活
コンセンサスが形成されているとはいえないが、
動が中心となる情報部門の増大は、経済全体の効
いくつかの実証分析では、IT投資は生産や雇用
率性を損なうのではないか、という、いわば、日
の誘発効果が大きいこと、1980年代後半に加速
本版の「生産性パラドックス」問題である(21)。
した情報資本の蓄積は、1990年代に鈍化したも
のの、労働生産性や全要素生産性にプラスの影響
図表3 米国の生産性の変化
(鵯)
聴聞項自
労働生産性
ig59−73(a)
逢973−95(b)
95・2◎03(C)
㈲一(a)
(c)一(b)
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等.5
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一壌.4
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@ (02)
@ (0.5)
@ (αD
@ (0.3)
TFP*
ヒ 脚 一 一 一 葡 脚 朧 騨 轍 幣 闇 一 顧 鰍 轍
@ (う判丁)
出所:Jorgenson, et ai.(2004)をもとに作成
(注)*:労働の質的要因を禽む。
lofoCom RffYIEW Vol.38 (2006? 105
を与えていること、IT導入の効果は、組織改革
なりうることを示すと同時に、その過程で惹起さ
や人的対応への取組み度が鍵を握ること、などが
れる雇用などの問題が、経済効果として表裏一体
明らかにされている。
であることをも示唆している。
こうした日米の研究の動向と研究成果を、先に
3−3 「枠組み」からみた先行研究の位置づけ
提示した「3主体」と「2側面」の分析枠組みに
照らして位置づけると、主体としては「企業」部
以上みたように、米国では1980年代からIT
門に、側面としては「利用」効果に、研究対象が
導入による効率性や生産性の向上効果が問題意識
集中していたと総括することができる。このこと
の申心にあり、「情報の時代」への転換期とされ
は、1990年から2004年に至るまでの学術論文等
る1990年代にその傾向がいっそう強まった。
の件数を整理することでも確認できる。学術雑誌
他方、日本では、景気動向に直結する「需要効
が刊行した人文社会系の年次報告書や学術論文集
果」への関心が高かったが、1990年代の米国経
を含む総計787万件のジャーナル情報をカバーす
済の再生を目の当たりにする中で、次第に米国流
る国内最大級データベースMA(;A ZINEPL USを
の問題意識が強まっていった。その結果、1990
もとに(24)、情報技術と経済に関する日本の研究
年代以降の研究は、日米ともに情報資本の蓄積が
動向を概観すると、企業部門に関係するとみられ
生産性の向上にどの程度寄与しているかという
るものが全体の7割以上を占め、特に1990年代
IT投資の経済効果問題に集中したとみることが
後半にその傾向が強まったことがうかがえる(図
できる。
表4)。また、投資や生産性を対象にした研究が
多くの研究では、ITは導入すれば、それだけ
多数に及ぶことも確認できる。研究の量が一段と
で自動的に効果をもたらすわけではなく、業務の
増加した2000年以降は、家計部門や政府部門に
見直しや人材の教育など、組織改革や人的対応へ
関する研究も増加し、家計部門については全体に
の取組みと結びつく必要があるとの条件がつけら
占める割合がやや高まってはいるが、企業部門に
れているが(23)、そうした「調整費用」を負担す
集中した研究傾向の構図は、それほど大きく変
れば、生産性は向上することが明らかとなってい
わっていない。
る。これは、ITの利用が長期的な成長の源泉と
図表4 1990年以降のITに関する学術研究等の動向(論文等件数)
(件、%)
研究時期
全対象期間
2000−2004
P990−2004
1990−1994
1995−1999
企業部門
L608721(75)
24プα2(28)
:351747(23)
家計部門
3921ス6(27)
52148(8)
71聯GD
269酬(8>
政府部門
23びα3(17)
53紙◎(9)
48書α詮(4)
等2ga2(4)
単純合計
223び。。(l19)
352肇。◎(45)
4’7び◎◎(38)
肇,4081。o(36)
L65達 (80)
29達 (23)
46達 (28)
899 (29)
、究分野
投資・生産性関連
1,0茎0フ1・7(24)
出議:maGAZifVEPLUS学衝論文・雑誌記事データベースの精報をもとに箋餐修蔑
(編考〉キーワードに内報鼓衛またはITまたは影回化」のいずれかを禽み、かつ、漂多響また綜効剰のいずれかを含む学会年報・論文集、雑
誌記事の申から、企業部罷では絵業または会縫または纒織または経回を、家戸部魍篭ま町田または家灘まだま消費者まだま消費ま
た1ま魑入」を、敢鰐部門で{まヂ政癒また1ま自治体または行敢」葱それぞ職ギーワード{こ禽むもの。投資・生産騰§愚ま、鯖韓技娠または
ITまたは懸轍ヒ」のいずれかを含み、かつ、鰹済ま擦ま経麹のいサれか奄禽むニギーワードに禽む学会隼馨・論文集、論文・雑誌記事
の中から「投資または生産性まのいずれかをキーワードに禽むもの。対象期閣は達990奪から2004琿まで。右肩添数字は合講を
槍0とする構成比。⇔な学会年報・論文集で内数。
!06 lnfoCom REVIEW Vo!38 (2006?
いずれにしても、情報技術と経済に関しては、
それら3主体へのIT普及から生まれる「需要効
これまで「企業部門」への関心が高く、研究の対
果」と「利用効果」がユビキタス時代における
象が集中していたと位置づけることができる。つ
「情報化の経済効果」の全体像ということになる。
まり、たとえ経済成長や経済全体の生産性という
ここで留意しなければならないのは、家計部門
マクロ分析であったとしても、本稿の「枠組み」
や政府部門におけるITの普及率や装備率の上昇
で捉えなおすと、その研究領域は、包括的なもの
を捉えることは、単にユビキタス時代の到来を確
というよりは、特定領域(「企業」部門の「利用」
認する作業に過ぎず、「需要効果」や「利用効果」
効果〉に偏在したものだったといえるのである
の分析には、切り込んでいないということである。
《25>。この、「企業j部門の「利用」効果という分
ユビキタス時代においても、企業部門のIT投
析対象の偏りこそが、実は、ユビキタス時代の情
資が需要の面でも利用の面でも、依然として経済
報化と経済を分析する際に乗り越えなければなら
に重要な影響を及ぼすことに変わりはなく、むし
ないポイントである。
ろ、中核的な主体であり続けると考えられる。特
に、企業規模別にみると、裾野の広い中小企業や
4 ユビキタス時代の研究アプローチ
零細な個人企業ほど情報化への取組みが不充分だ
という実態があり(図表5)、今後は、申小、零
4−1 ユビキタス時代の需要効果
細企業の取組みが全体としての経済効果を大きく
左右すると考えられる。したがって、影響力が企
「3主体」と「2側面」の枠組みで、「いつでも、
業部門から家計部門や政府部門に「とってかわ
どこでも、誰でも、何でも」が清報ネットワーク
る」のではなく、企業部門に「加えて」家計部門
化されるユビキタス時代を照らし出すと、イン
ターネットとパソ3ンが牽引役とな6て、企業部
や政府部門が情報化の主体に登場することによっ
門に情報技術の普及が「偏在」(かたよって分布)
複合的に影響が及ぶようになる「変化」を認識す
した1990年代とは異なり、家計部門や政府部門
ることが重要である(図表6)。
を含めた全経済主体に情報技術が「遍在」(まん
まず、「需要効果」について考えると、企業の
べんなく分布)する時代と規定される。そして、
「投資需要」のみならず、家計の「消費需要」、政
て、以下でみていくように、経済社会へ多面的、
図表5 規模別にみた企業部門の情報化
(スコア)
8
7
6
5
4
6735
一 一 冒 國 國 冒 ■ 一 ■ 一 一 雪 一 r 騨 一 一 一 曽 _ 一 一 帯 齢 輔 旧 輔 閣 勲 轍 単 o 圃 邑 讐 一 一 一 ■ 一 一 r 冒 一 一 一 一 _ _ _ _ _ 幽 幽 齢 鼎 隠 騨 需 鼎 轍 塒 脚 一 噌 一 一 一 伽 ■ 一 冒 雪 冒 ■ 冒 一 一 ■ 一 一 一 一 ■ 齢 一 幣 禰 騨 輔 禰 一 一 一 一 旧
□情報化の程度
翻情報化の効果
6,342
5,563
一 一 r ■ 國 一 一 一 ■ 一 一 一 一 r 口 r 一 一 一 層 一 一 一 ” ㎜ 揃 欄 師 襯 禰 繍 噌 o 曽 一 一 冒 一 ■ ■ 一 一 卿 一 一 一 一 _ _ _ _ 薗 一 劇 鱒 騨 禰 隔 淵 脚 騨
4794
髄 囎 刷 需 騨 一 閣 一 騨 一 禰 冒 一 9 ■ 暫 ■ 冒 一 一 一
層隔層一雪曹一曹暫一一一一
一 } ■ 盧 o 嚇 観 滞 榊 齢 窟 鱒 精 嚥
一層層犀屋一一冒一■冒雪■
餉一隠櫓
一一一一一一薗
僻一■q
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縣 刷 胃 冒 嘔 曹 ■ 層 層 嘔 昌 昌 辱
3
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2
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2868一一一一一一鱒階謄㎜隔騨僻構
2,083一 冒 一 − 一 , 一
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聯一一一一凪脚冒一一一一一
唱鱒
1
一一一一一一一一一一一一一
5,085
≠R98
鞭 一 ■ 一 一 一 噂
R383
一一一一〇−一
一簡騨幣勝需隔”
■■■■冒■一
一一一一檜一曽
■ 需 騨 騨 鼎 襯 蝉 騨
層曽一一一一一
S,333
櫛 一 一 彌
揺
小企業 中小企業 中堅企業 大企業 巨大企業
(油)金国9,500社を対象に行ったアンケート調董の其通圓答3,141社のチータをもとに、r情報化のへの取組み度1情報化の程度>」と「情報化の効果」ll :)いて、それ
ぞれ24頂目と20項目の質問に対する回答繕粟登iO点満点でスコア化したもの。
企業規模な従業舞数i=よる区分。挙企業(1∼IOO人〉、串小企業(IOI∼300入:i,中堅企業(3el∼lDOO人〉、大企業(1、eoト3.000人)、臣大企業(3.OOI入以よ〉。
出駈二篠蝿(2905)表4〈碧及び(4>のテご一一ダをもとに作成
lnfoCom REVIEH/Vol.38 (2006? 107
府の「公的需要」にもITが広がっていくことを
少へと転じた」ことだと指摘されている㈱。そ
意味するが、これは、単に需要の裾野が広がって
のため、2000年代になって「デジタルカメラ、
ボリュv…一ムが増すという影響にとどまらず、より
携帯電話、ハードディスク、デジタルテレビな
多面的な影響の「変化」を引き起こす。第一に、
ど、日本竜のマーケットが復活し、チャンスは到
米国企業が得意としたパソコンやインターネット
来している」とする見解がみられる⑳。ただし、
関連の機器だけでなく、かつて日本企業が優位性
アナログ技術からデジタル技術への移行やグロー
を発揮していた家電分野にも需要が拡大していく
バル化が深まった今日の状況の違いがどう影響す
と考えられること、第二に、企業の設備投資が起
るかは、必ずしも明らかではなく、この点を視野
点となる需要変動から消費や政府支出を起点とす
に入れた分析と議論の深掘りが望まれる。
る需要変動へと厚みが増すため、景気循環に対し
第二の点については、消費需要の変動は、一般
て複合効果が現れると考えられること、第三に、
に投資需要の変動に比べて安定しており㈱、ま
ITが「遍在」することで、セキュリティ問題が
た、政府支出については、企業投資などの民間需
顕在化し、関心が高まることによって、セキュリ
要が低迷している時期に景気対策として増加する
ティ対策への需要が増大すると考えられること、
傾向があるため、いずれも需要の変動を緩和・平
第四に、消費需要に対応すべく、コンテンツ、放
準化させる効果がある。こうした傾向がITに関
送、ブPt・一・ドバンド通信、端末製造などの産業
しても敷術できるとすれば、需要の主体が広がる、
で、・高度化に向けた企業再編や制度改革の動きが
ユビキタス時代は、企業の投資に集中しがちだっ
活発化すると考えられることである。
た1990年代と異なり、起点となるIT需要の変
第一の点について、「日本の電子産業は、1980
動を安定化させる効果が期待できる129>。
年代に飛躍的に発展を遂げ、1990年越に低迷の
第三のセキュリティ対策への需要増大について
時代を迎えた」としばしば論じられるが、その原
は、ブn一ドバンド化、モバイル化、大容量記憶
因として、「1980年代の成功は、テレビ、VTR、
装置の小型化によって、大量の情報が瞬時に転
オーディオなど、日本発のマーケットがあり、半
送、複写可能となり、また、それらの情報が気軽
導体ユーザが日本に存在した」のに対して、1990
に日常空間に持ち運び可能となったことから、紛
年代の低迷は、「PCやネットワークなど米国発
失、漏洩、不正利用のリスクが一段と高まり、社
のマーケットが成長し、日本発のマ…一一・・ケットは減
会問題化していることが背景にある。メインフ
図表6 1990年代を境にした年代別の特徴
項 圓年代区分
∼給80年代
1コンピュータ善部樹
象徴的技術
・メインフレーム
・交換機・専用線
対象となる経済主体
・大組織(大企業・官庁)の特
定部署
需要効累の及ぶ領域
・汎用機メーカー
・電霞鉱層
技術的特徴と利用効果
・大羅データ処理
・定型処理効率化
・爾電ファミリー
・受注ソフト
達990武代
【:コンピュータを介し
・パソコン
・インターネット
・企業・組織の全構成員
・パソコンメ∼カー
・ルーターメーカー
・インターネットプロバイダー
・パッケージソフト
・有効なコミュニケーション・
ツール
・企業組織の再設計
・情報蒙電
・経済社会の金構成員
・ICチップが組み込まれたあら
ゆるモノと鍵間
・パソコンメーカー
・ルーターメーカー
・インターネットプロバイダー
・情報家電メーカー
・縄み込みソフト
・ユビキタス・コミ鉱ニケー
たヒトとヒトの通信:
バーチャル空唾
2000年代∼
【リアル&バーチャル
の両空間でヒトとモノ
が様々に相互通倒
・RFID
・モバイル
・ブ磁一ドバンド
・センサー
・セキ講りティ
出漸:筆者作成
708 lnfoCom REVIffM/Vo138 (20062
・コンテンツ
・生産性向上
ション・ツール
・社会システムの再設計
・生産性向上
・効用、利便性向上
・相互関係による相乗効果
レーム時代には、高度に管理され、制限された空
や「媒体」の選択肢を検討するならば、有線か無
間に偏在していたITが、ユビキタス時代には、
線か、放送か通信かの違いはそれほど重要ではな
身近な存在となって遍在するようになったため、
くなると考えられる。そうなると、今日のような
セキュリティという新たな問題が生まれ、関連す
情報技術が存在しなかった時代に整えられた制度
る財・サービスへの需要が増大するのである。問
や業界秩序が間尺に合わなくなり、「放送と通信
題は、この種の需要増大がIT導入に際しての新
の融合」に象徴される制度改革やこれに伴う企業
たな費用負担に他ならないことである。その意味
の再編が「情報ネットワーク産業の高度化」に不
で、セキュリティの問題は、次に述べる利便性や
可避の動きとなって広がることが予想される。こ
満足度といった「利用」効果との兼ね合いによっ
の動きに制度基盤がうまく対応できれば、情報
て、「果たして本当にIT導入のメリットはある
ネットワーク産業を核としたイノベーションの連
のか」という「ユビキタス時代のパラドックス」
鎖が生まれ、国際競争力の強化につながっていく
問題を引き起こすと考えられる。
ことも期待できる(図表7)。
第四四目について、報道や音楽・映像などのコ
4−2 ユビキタス時代の利用効果
ンテンツは、消費者に対して本源的な価値を有す
る一方、ハードウェアとしての端末(受像機、携
帯端末、パソコンなど)はインターフェースとし
次に、「利用効果」について考えると、第一に、
て、また、情報ネットワーク(通信網、地上波放
企業では効率性、生産性の向上という形で明確
送網、ケーブルテレビ網など〉はコンテンツと端
だった導入目的が、家計や政府では何なのか、ま
末をつなぐ「媒体」として、利便性こそがかなめ
た、それが基盤整備、既存の仕組みの見直し、新
の役割を担うことになる。とりわけ、ブロードバ
しい価値連鎖という3段階にどうつながっていく
ンドの環境下では、国内のみならず、海外におけ
かを明確化する必要があり、第二に、ユビキタス
る需要も含めて市場が広がるため、消費者がこれ
時代は、ITの「導入と利用」が3主体それぞれ
までの仕切りにこだわらず、利便性に徹して端末
に独立したものではなく、「相互関係化」してい
図表7 需要効果と情報ネットワーク産業の高度化
「榊備僻“僧鱒欄禰q一臼q欄一層一1
ニ ロ
情報ネットワーク産業
; 二三市場 1
そ ほ
ロ コ
イノベーション
ソフトl11ン
チンツ産藁
〈4
凵p
玉多劉
き ほ
i[亙コ{
じ ロ
ぼ ぼ ほ
iL」墾L」i
瞳 藍
国際競争力
ネットワークインフラ産業
; 蟹鋳平場 :
放送と通信の融合
ヘ ヘ ミ
・縫渡の致革・制度の國際鶴
出議:藻暫作域
lnfoCom REVIE”/Vo138 (2006? 109
図表8 各主体の相互関係の変化
【1990年代】
「企業部門中心」と「導入と利用」の「自律性」
利用効果
一T産業
需要効果
ノ ザロコ ま ぎりねぬぶれ の ヘサ ロま
ノき ザ ロ ロロき ぎのおねのねりロ り
‘〈7y)
綴謬i政醗府i;⇒i利潤蓬性i:⇒
, ____________書 ______________
【ユビキタス年代】
「裾野の広がり」と「導入と利用」の「相互関係化」
き き
ル
織i
箔
,〈71>
再
≡几
双
翻
l 「裾野の広がり」と「相互関係化」 1
X糞
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l l
l l
A
;嘆、
i麗響い一 ㍗’ウ摯ツ1糖’
R.
藷動の
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利用効果
緊 ミ』≒’
経
済
擾
禦
需要効果
一丁産業
ザのの ロ ロ ココロココ コ ロ のねの
セキュリディ問題
出所:筆者作成
く側面を視野に入れることが求められる。
潤最大化仮説を適用することができる企業部門の
第一の「導入目的jについて考えると、既述し
場合は、既述のとおり、ミクロ的にもマクロ的に
たように、家計や政府の情報化については、それ
も生産性という共通尺度でITの効果が測定でき
ぞれの部門における普及率や装備率などの指標を
るため、インプットとしてのIT導入の程度との関
もって分析されることが多いが、これは、3段階
係を検証するモデルの特定化が容易である。
でいうと「基盤整備」の程度を示すに過ぎない。
ところが、家計の場合は、効用や利便性の向上
したがって、それだけでは、効果が何であるかが
を検討する際に、何をもって尺度とするか、ま
全くみえてこない。企業部門に例えると、IT投
た、実際に計測可能かという分析手法の問題が残
資が増加することだけに着目し、既存の仕組みの
されている。このため、普及率や消費割合等で捕
見直しや新しい価値連鎖によってもたらされる効
捉できるIT導入の程度と、効用や利便性との関
率性や生産性の向上という効果を全く視野に入れ
係を検証するモデルの特定化が必ずしも容易では
ていないことを意味する。利用効果を検討する場
なく、データのアベイラビリティの問題も含めて
合には、普及率や装備率など単なる基盤整備の分
多くの課題が残されている。
析に留まらず、「導入目的」が何であるかをしっ
政府の場合は、IT導入の効果として、(1)行
かりとみすえることが重要である。この点で、利
政サービスの向上、(2)行政組織の改革と行政コ
1!0 lnfoCom REVIEW VoZ38 (2006?
ストの削減、(3)取引関係を有する民間主体(企
化し検証可能かを検討しなければならない。他
業・家計)のIT化促進(誘導効果)、の3点が
方、「取引関係を有する民間主体のIT化促進」
考えられるが、このうち、行政サービスの向上
については、アンケート調査などによるデータを
は、効用や利便性の向上という性格をもつため、
用いて分析する方法が考えられる。また、自治体
家計の場合と同様に、何をもって尺度とするか、
レベルの分析では、行政機関の情報化の程度と地
また、実際に計測可能かという分析上の課題が残
域別にみた民間部門の情報化の程度との関係を検
されている。さらに、行政組織の改革や行政コス
証するなどの分析手法が適応可能ではないかと考
トの削減は、生産性の向上という、まさに企業の
えられるが、具体的な手法については、更に検討
IT投資効果と同じ観点からの分析が可能である
の余地が残されている。
が、組織の存立目的に利潤最大化仮説を適用でき
第二の「相互関係化」は、ユビキタス時代の情
ないことや、データのアベイラビリティの問題か
報化でとりわけ重要になる。もちろん、パソコン
ら、実際の分析に際してどのようにモデルを特定
とインターネットに牽引された1990年代も、企
図表9 ヒトと技術の関係概念
【コンビ鉱一タ間の通信】
ロ ロロ サロ ロロロ のコサの の ゆのりのの のののののロののれゆのののロロののロ コロロロロ ロ ロ日曜ロロロロロロロロ ののロロののののロの のり
ロ ロ
l I
コ
ロ
L_____.一______._一.一.一_一一一一_.一一___..一一」
【コンピュータを介したヒトとヒトの通信】
じのロ ロロロササロロロロコロロ のコロコののののりののロリむのねののれねのれのサののののロのロロロロロロ ロ ロロロ ロ コロ コ ロロコロコロ ココロぽ
じ ロ
ε 、 華
さ へ き
さ ま
ロ ニ
■ 1
■ 1
【リアルな空間とバーチャルな空聞でヒトとモノが様々に相互通信】
ロロココロ コココロロ ロロロロコロロロロロのののココのコのののゆのリサののぬねののりリのリリのロリ コ ロコ ロコサココ コ サロ ココ ロロ コ ロ
ロ ロ
i 毒 鱒ICカード i
} 謙 ・・ 曇 1
1 情報家電・ 躍.
3ンピュ篇タ 携
黍
血
3.tS韓端末』、
:
出所:筆者作成
lnfoCom REVIEW Vo138 (2006? 1!1
業部門が中心だったとはいえ、家計や政府でも
雑化、高度化するため、費用対効果の評価を含め
ITの導入が着実に進んでいた。しかしながら、
て、この問題が重要性と緊急性をさらに高め、新
生産性向上を臼指した企業では、多くの場合、自
たな課題(それほど対策費用がかかるのならば、
律的に完結した導入目的と計画の下でIT投資に
ITの利用をやめた方がいいという「ユビキタス
取り組んでおり、家計部門や政府部門のIT導入
時代のパラドックス」)を生み出すと考えられる。
も、総じて自己完結的な性格が強かったといえる。
これに対して、ユビキタス時代は、例えば、
4−3 ユビキタス時代の「ヒト」と「技術」
ICカードやICタグといったR:FIDによる交通シ
ステム、医療システム、流通・小売システム、行
次に、ユビキタス時代の「変化」を特徴づける
政システム、あるいは、居住空間内でのデジタル
ポイントを、「ヒトと技術」、及び「ヒトとモノ」
情報家電のネットワーク化などを考えると分かる
の関係から考察しておきたい。
ように、ユーザである消費者(家計部門)と、シ
まずヒトと技術についてだが、これは、コン
ステムを設置するサービス提供者(企業部門や政
ピュータに象徴される情報処理技術と通信技術の結
府部門〉、更には、許認可など制度上の関係を持
びつき、すなわち、情報ネットワークの歴史と関連し
つ政府部門の行動とが、導入、利用、普及の面で
ている(図表9)。歴史的にみると、情報ネットワー
相互に密接な関係をもっており、その関係性の構
クとは、各地に散在する稀少なコンピュータ資源を有
築がうまくいかないと、所期の目的が達成され
効に共同利用したいという動機から、「コンピュ・・糊塗
ず、充分な効果が生まれないという性格が強まる
同士が通信する」ことを目的に構築されたものであ
(図表8)。
る。1969年に運用が開始されたARPANET
メリットの大きさや普及のテンポについて、
(Advanced Research Projects Agency Network)
ユーザ(利用側)とサービス提供者(導入側)と
は、そうした情報ネットワークの礪矢であり、今
の間に相互の「読み」の要因が加わるため、各主
日のインターネットの起源とされる(30)。1980年
体のIT導入に際して、自律的、自己完結的な目
春まで産業界で主流だった専用線でメインフレー
的や計画が立てづらくなり、新技術に備わる不確
ム・コンピュータをつないだクローズドな情報
実性とは別の、関係性の複雑性と不確実性が加わ
ネットワークも、金融機関のオンラインシステム
る。また、「需要効果」で述べたとおり、ネット
を思い浮かべると分かるように、基本的には、
ワーク化されたITが遍在する中で相互関係化が
「コンピュータ同士が通信する」ためのシステム
進むことによって、セキュリティの問題がより複
である。もちろん、ネットワ…一クの片側ではヒト
図表IO RRDの対象としての「ヒト」と「モノ」
「ヒト」
認識される対象の社会性
のの物的特性
「モノ(含む動植物)」
・意思決定の主体
・意患決定の客体
・管理されることを敬遠
・讐理されることにメリット
・所有権(売翼)の対象にはならない
・所有権の対象(売買可能性)
・法的には償権の概念が及ぶ
・法的には物権の概念が及ぶ
・紛失を避けるために一建のサイズ
・極小化を追求する余地が大きい
・管理の面で標準化された形状
・用途によって多様な形状
(他の財との補完性、互換性、ネットワー
ク効果、mックイン効果)
出蟹:篠麟・浜跨・納羅・#上・安涌(2()04)、P.23、襲4−2参照
〃2加乃α卿R6聡W泌必38(2006?
が操作していることも多いが、その場合も、彼ら
み込まれたモノが遍在し、電波やセンサーを介し
がコミュニケーションしている相手はネットワー
て相互に情報をやり取りする状態は、「ヒト」に
クの向こう側にある別のコンピューータであり、い
とっては、情報ネットワークの内部でありなが
わば、コンピュータをネットワーク経由で遠隔利
ら、リアルな空間でもある。つまり、ユビキタス
用している通信形態に過ぎない。
時代の情報技術は、「ヒト」に対してバーチャル
ところが、インターネットの世界では、次第に
な情報ネットワーク空間だけでなく、リアルな情
別の性格の通信形態が隆盛となっていった。それ
報ネットワークの時空をも提供し、そこへの関与
は、コンピュータを介した「ヒトとヒトのコミュ
を「ヒト」に促すのである。
ニケーション」である。Hafner and Lyon(1996)
によると、2台のコンピュータ間で最初の電子
4−4 ユビキタス時代の「ヒト」と「モノ」
メール転送が成功したのは1972年とされるが(31)、
これは、コンピュータの前で操作しているrヒ
情報ネットワークが形成するリアルな時空に
ト」が、ネットワークを経由して遠隔操作してい
「ヒト」が関与することで、技術を介した「ヒト」
たコンピュータの、更に向こう側にいる「ヒト」
と「モノ」の「社会性」が改めて問い直される。
と通信するというものである。もともとは「コン
ユビキタスの特徴を端的に表現するrいつでも、
ピュP・タ閥の通信」システムであったネットワー
どこでも、誰でも{何でも」のうち、「誰でも
クの、いわば軒下を借りる形で行われた「ヒトと
(=ヒト)」と「何でも(=モノ)」は、超小型の
ヒトとのコミュニケーション」といえる。こうし
コンピュータ(情報処理ICチップ)、すなわち、
て、「コンピュータ問の通信網」にヒトの関与が
情報技術に体化したID(個体識別番号)が付与
深まり出すにつれて、情報ネットワークは、「時
される対象である。IDが個別に付与されること
間」と「空間」だけでなく「組織」の枠を超えて、
によって、「ヒト」と「モノ」が集合としてでは
「ヒト」の頭脳が繰り出すアイディアや心情がダイ
なく、単体として個々に識別され、それらが情報
レクトに結びつく世界を形成していった。情報
ネットワークによって結びつくことで、解像度の
ネットワークの時空に形成されたこの世界は、「ヒ
高いユビキタスな環境が生まれる。この点では、
ト」にとっては、「現実」の世界とは異なる「バー
構成要素としての「ヒト」と「モノ」は、IDが
チャル・リアリティ」の世界である。
付与された対象として、技術の側からみると全く
ユビキタス時代は、こうした情報ネットワーク
同列である。
と「ヒト」の関係をさらにもう一一度大きぐ転換さ
しかし、現実の経済社会における両者の性格は
せると考えられる。「バック・トゥー・リアル
全く異なるものである(図表10)。なぜなら、ID
ワールド(現実世界へ戻ろう)」という標語が端
の対象が「ヒト」である場合、それは自由な意思
的に示すようにく32)、コンピュータ・チップが組
決定の主体であり、基本的に管理されることを忌
図表11 「導入側」と「利用側」の視点
1トラッキング、トレーシングへの意調
「ヒト」
「モノ」
導入鰯の視点
客体
客体
ヒトの情報もモノの情報も積極的に取り組む
利用側の視点
主体
客体
ヒトの情報は、場面によっては、忌避される
【情報の劉
権能情報
属性情報
出所:筆者作成
.lnfo(コb加ノ∼EVIEW Vol 38(200tジ 1!3
寵する傾向をもつからである。出退社時間管理な
「物権」が及ぶのに対して、「ヒト」には、ある行
ど社会生活を送る上で最低限必要な管理、あるい
為を請求する権利やそれを履:行ずる義務、すなわ
は、セキュリティ上必要な管理にはやむなく同意
ち、「債権・債務」の関係が適用される。この違
できても、トイレの利用状況や嗜好品の購買歴管
いは、ユビキタス時代の制度問題を法的側面から
理など、日常生活の細事にわたって私的領域に立
検討する際にポイントとなるであろう。
ち入られ、過度の管理が行われることには拒絶反
これらの社会性の違いは、ユビキタス時代の分
応が強い。これに対して、認識される対象が「モ
析視点で検討した「導入と利用」における3主体
ノ」である場合、それは意思決定の客体であっ
の「相互関係化」で重要な意味をもつ。なぜな
て∼経済活動においては、一般に管理の対象とな
ら、技術を導入してサービスを提供する側(主と
る。小売店の商品在庫管理や宅配便の物流管理な
して企業部門)と、システムに参加して技術を利
どの場面(追跡管理:トラッキング)を想定する
用するユーザ側く主に家計部門)との間で、効果
と容易に理解できるように、「モノ」は効率的に
や効用を巡って鋭い対立が生まれる場合も考えら
管理されることで経済効果が引き出せる。
れるからである。IDの対象が「モノ」の場合、
ユビキタス時代を迎えて注目を集めているIC
それは導入側(例えば小売店)からみても、利用
タグなどのR:FIDについて、その本質はトレーサ
側(例えば消費者)からみても、IDの対象は客
ビリティ(履歴管理)だと指摘されるが(33)、「ヒ
体であり、その情報の「管理」は、肯定的に評価
ト」と「モノ」では利用効果を同列に評価するこ
されやすい。しかし、これが管理されることを嫌
とが難しい。生産地や品質情報など「モノ」に関
う「ヒト」の場合は、導入側からみると客体で
しては履歴管理を肯定的に受けとめる利用者も、
あっても、利用側はまさに本人、つまり、意思決
それが本人の購買履歴など「ヒト」のID(個人
定の主体そのものであり、導入側に管理されたり
情報)と安易に結びつけられることを敬遠する傾
監視されたりするという不効用(マイナス評価)
向にある。現に、有名アパレル企業のベネトンが
につながりやすい。その意味では、「ヒト」に関
取り組んだ商品に関する顧客追跡システムでは、
する情報の管理は、個人の私的「属性情報」より
顧客のプライバシーを侵害する恐れがあるとの批
は、社会的存在としての「権能情報」を軸にした
判が相次ぎ、計画が白紙撤:回されるという事態に
ほうが受け入れられやすいのではないかと考えら
陥ったことがある(34)。「モノ」については、利便
れる(図表11)。
性や効率性を高めるような技術的特徴が、「ヒト」
いずれにしても、ユビキタス時代の情報技術導
の効用(満足度)を低下させる要因に転化するこ
入に際しては、技術的魅力と社会的魅力の違いが
とを示す一例である。
何かを理解する視点が欠かせず、それは、「誰で
「ヒト」と「モノ」の社会性の違いは、法律上
も」と「何でも」の違いをよく認識することだと
も大きい。動植物を含めて「モノ」は、意思決定
いえる。
の主体である「ヒト」の所有権の対象であり、売
買が可能である。これに対して、奴隷制が完全否
定される現代社会では、「ヒト」は、当然ながら
所有権の対象にならず、したがって、売買される
こともない。それゆえ、生物か非生物かを問わ
ず、「モノ」には直接の支配と排他性を有する
114 lnfoCom REVIEW Vo138 (2006?
5 おわりに 研究テーマと課題
ではなく「相互関係化」していく点を考慮する
と、零細な個人企業、医療、教育、流通・小売、
本稿で考察したように、経済活動の「3回目」
自動車・交通システム、放送と通信の融合など、
と経済効果の「2側面」に着目した枠組みで情報
3主体が相互に関与する度合いが高いとみられる
技術が遍在するユビキタス時代を検討すると、企
分野の重点研究や、情報通信政策、競争政策、イ
業部門を中心にパソコンとインターネットが牽引
ノベーション政策など、関連する諸政策について
力となった1990年号とは異なり、家計部門や政
の評価・検討、あるいは、情報技術が万遍なく行
府部再を含めたすべての経済部門で「ヒト」や
きわたることに伴うセキュリティ問題などが、個
「モノ」に情報技術が遍在する時代と位置づけら
別テーマとして有力な研究対象と考えられる。
れる。したがって、企業部門におけるIT投資の
生産性効果に分析が集中しがちだったこれまでと
は、研究テーマの広がりや分析アプローチの違い
という点で、新たな対応が求められる。
(注)
(1) 本論文は、科学研究費補助金:基盤研究(C)(2)
「ユビキタス時代のIC技術導入の経済効果に関す
る研究」(課題番号165◎◎152)に基づく研究成果の
本稿の考察は、ユビキタス時代の分析枠組みと
一部である。本論文の執筆に際しては、レフェリー
研究展望についてのいわば包括的「概論」である
より、今後取り組むべき方向性について、示唆に富
が、最後に、これを受けて今後取り組むべき「各
む貴重なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表
論」をいくつか提示しておきたい。「需要効果」
したい。本論文に何らかの誤りが残されているとす
については、従来から取り組まれてきた産業連関
れば、それは、いうまでもなく筆者の責に帰するも
のである。
分析を、企業の投資需要のみならず、個人消費や
(2) 国連やOECDなどの国際機関では、情報技術と通信
政府支出にも拡張し、生産や雇用の誘発力がどう
技術を総称して、InformatiOfi and Cemmunications
変化するかの検証や、景気変動の安定性に対する
Techn◎1◎gy(ICT)と表現されるが、米国やH本で
影響の変化の分析、さらに、家電やコンテンツの
領域に広がるという点で日本の産業構造や競争力
は、通信技術も含めた広い概念としてInformation
Technology(IT)が一一一 nc的に用いられている。本稿
では、これに倣い、通信技術を包摂した概念として情
にどう関係するかを探ることが具体的な研究テー
報技術(IT)という用語を使用する。
マだといえる。
(3) 日米で同時にみられた「ITブーム」とRT不況」
一方、「利用効果」については、利潤最大化を
の関連性と相違点については、篠崎(20◎3>fi 12
前提とした企業部門の生産性分析とは異なり、家
章参照のこと。
(4) Stiroh(2002), p.1559参照。米国については
計部門や政府部門を対象とする分析では、データ
Jorgenson, et aL(2004)、日本については篠崎
のアベイラビリティ周題に加えて、IT導入の進
(2004),内閣府(2004)を参照。
展度と「効用」や「利便性」の向上との関係を実
(5) 坂村(2002)p. 12参照。
証的に分析可能なモデルの特定化など、分析手法
自体の開発・検討が求められる。その点で、技術
(6) 坂村は、これに先立って、同様の概念を“computing
everywhere”あるいは“highly functionaUy distributed
system:HFDS”と提唱していた(坂村〔2002〕p」2)。
的な実証実験と一体化したアンケート調査による
(7) 2005年版のEconomic Report of the Presiden tでは
行動経済学的な実証研究は1つの手がかりになる
“lnnovation and the lnformation Economy”が独立
のではないかと考えられる。
した章として取り上げられている(第6章)。そこ
また、ユビキタス技術の「導入と利用」に際し
て、企業、家計、政府がそれぞれに独立したもの
では、情報技術を(1)半導体やコンピュータなど
のハードウェア技術、(2)パッケージソフトやデー一
lnfoαomノ∼万レ7万〃7レ∂/. 38(2006ジ 〃5
タ処理などのソフトウェア技術、(3)家庭における
は、工業を中心とした産業社会の枠組内における変
音響・映像機器を含めた通信装置技術、(4)電話や
貌ではないため、第三次「産業」革命という表現は
ふさわしくないと考えたからである(p.3)。
CATVなどの通信サ…一一ビス技術を包摂するものと定
持した上で、成長が続く“lllformation Economy”
(ll)
BrynjolfSSOR and H:itt(2◎◎◎)、篠崎〈2◎◎5)参照。
すなわち「情報経済」の核心は、「より多くの人々
(12)
篠崎(2◎◎3)第ll章参照。
がインターネットを経由してコンピュータを利用し
(13)
North(1990)参照。
コミュニケーシNンすることだ」と論じられている
(14)
New York Times紙の書評欄で述べた“You can
(Council of Econemic Advisers [2005] pp. 135−153).
see the computer age everywhere but in the
2◎◎g旧版の同書でも劫あ㎜滋わ澱ECORemy〈情報
productivity statistics.”(コンピュータの時代とい
経済)の用語が使われているが、そこでは「情報経
うことを至る所で目にするが生産性の統計では目に
済は企業の競争方法や労働の本質を変える」と手短
しない)という一文。ソロー・パラドックスの起源
に言及されているだけであり(岡[2◎0◎]p.98)、
と背景については、篠崎(2◎◎3)第3章で詳しく跡
Information Economyという概念が本格的に採り
付けられている。
上げられたのは2005年版が初めてといえる(イタ
(15)
この間の論争の経過については、篠崎(2003)第3
章に詳しい。
リックはいずれも引用者による)。
(8) OEC:Dでは、“The三和r澱3が。銀EeORomy Uftlt
(i6)
JergeRson(2◎◎◎)p. 27参照。
examines the ecenomic and social implications of
(17)
注4参照。2000年3月には、ソロー自身がインタ
the deveiopment, diffusioR and use oHCTs, the
ビューに答えて、“Y◎ucan now see c◎mputers麺
InterRet axd e−commerce.(「情報経済」ユエット
the pr◎ductivity statistics(今や生産性の統計でも
は、情報通信技術、インターネット、電子商取引の
コンピュータ〔の効果〕を確認できる)”と表明し
ている(Uchitelle[2000]参照)。
発展、普及、利用の経済的、社会的影響を分析す
る)とされている(OECD[2005]参照。イタリッ
(18)
3皮は、 “PrOdUCtiVity iSn’t eVerythiRg, bU之in the
クは引用者による)。
lOR9 rgR it is almost everything”(生産性がすべて
(9) かつて「情報の産業化」といわれた現象がこれにあ
というわけではないが、長期でみると、それはほと
たる、。これは、企業内で細々と行われていた情報関
んどすべてである〉と指摘した。KrugmaR(199①,
連の業務が増大していくにつれて、アウトソース化
P.9参照。
され、やがてはひとつの独立した産業へと確立して
(19)
この点は、次のような現代史の経験によってより実
いく現象を指す。これに対して、各企業の生産活動
感できるであろう。一人当たりGDPで計った生産
の中で、デザインや市場調査など、物的な部材以外
性の水準は、1950年の時点で、H本はアルゼンチン
の情報に関する資源投入が増大する現象(すなわ
の2分の1以下であり、チリや南アフリカよりもは
ち、中間投入に占める情報関連投入の増大)は、
るかに低かったが、その後の生産性上昇率格差によ
「産業の情報化」と表現された。
り、今Hでは、H本がこれらの国よりも2倍以上豊
〈10) Chand!er(20◎◎)は、2◎配下最後の1◎年、すなわ
かな社会を実現している。高度成長というH本の特
ち1990年代を、産業の時代(lndustrial Age)から
異な時期が影響しているが、1973年以降の低成長期
情報の時代(lnformation Age)への転換期だと位
における生産性上昇率のわずかな違いが累積された
丁づけた。当初、彼はこの変化を第三次産業革命と
効果も大きい。1973年のアルゼンチンの生産性はH
みなしていたが、後にこの捉え方は適切ではないと
本の7割の水準であったが、1998年には45%の水
認識するに至った。なぜなら、彼の定義によると、
準にまで低下した。この間の両国の生産性上昇率の
18世紀末から’19量紀にかけて英国でみられた商業
社会(Commercial Age)から工業を中心とした産
差は、わずかに1.76%ポイントであった。
(20)
業社会への転換が第一次産業革命、そして同じ工業
に跡付けられている。
を中心とした枠組みの中で、19世紀末から20世紀
(21)
にかけて欧州や米国で起きた転換が第二次産業革命
(22>
であり、産業の時代から情報の時代への枠組の転換
ノノ6加わα膿R8肥レ7㌻6138(2006?・
慶松・大平(1994)では、この問の研究経過が詳細
飯沼・大平・増田(1996)p.172参照。
この問の研究の変遷については、大平(2◎03)、篠
崎(2◎◎3)第5章を参照。
(23)
析濃ソシオネットワーク戦略研究叢書第1巻、多賀
畢生(2005)参照。
(24)
日外アソシ守旧ツ(2◎05)参照。
(25)
出版、PP.149475
注7で言及したように、2005年版のEconomic
(4)
江下雅之(2004)『監視カメラ社会』講談社
Report of the Presidentでは、第6章で“lnformation
(5)
大平嘆声(2003)「情報経済論の系譜一情報経済から
ECOR◎mジが分析対象として採り上げられているも
ディジタル・エCUノミーへ鐸情報通信心誰情報通
のの、イノペーシMンとの関係で経済成長や生産性
信学会編、pp.151−172
の視点から検討されているに過ぎない。その意味で
(6)
省印刷局
は、本稿の枠組みからすると、分析の内容は総合的
ではなく偏っている。
(26)
2004年版『日本半導体年鑑』p. 15参照。
(27)
2004年版『日本半導体年鑑』p.15参照。
(28)
1981年第1四半期から2◎◎5年第2四半期までの期
[7)
る』2000年10月
(8]
ただし、その場合も、消費需要や公的需要が引き金
(30)
坂村健(2002)『ユビキタス・コンピュータ革命』
角川書店
{le)
坂村健(2◎◎4)ilユビキタス、 TRONに出会う雲
NTT出版
となって、能力不足を補うための民間企業投資が促
される場合、加速度原理が働いて投資循環が生まれ
國領二郎他(2◎◎4)謬デジタルID革命悉H本経済新
聞社
(9)
対して後者は2.1と変動が大きいことが確認できる。
(29)
経済企画庁(2◎◎Ob)霞弱化が生産性に与える効果
について:日本版ニューエコノミーの可能性を探
間について、実質民間最:終消費下垂と実質民間企業
設備投資の変動係数を計算すると、前者0.7なのに
経済企画庁(2000a)『平成12年版経済白書』大蔵
(11)
篠崎彰彦(1996)「米国における情報関連投資の要
るメカニズムは作用する。この点についての掘り下
因・経済効果分析とH本の動向」日本開発銀行鼻
げた考察は別の機会に譲ることとしたい。
髭』第208号、pp.1−55
Hafner and Lyon(1996)では、「ARPANETは、
(12)
経済の明暗と逆転一』H本県論拠
メッセージを交換するためのシステムとして考案さ
れたわけではない。開発者の構想では、ネットワー
篠崎彰彦(2003)『情報技術革新の経済効果一日米
[i3)
篠崎彰彦(2◎04)r成長会計モデルによるH本の労
クは資源を共有するためのものであり、それ以外の
働生産性と情報資本の寄与:田本にソロー・パラ
用途は考えられていなかった」と述べられている
ドックスは存在したか?」九州大学経済学会『経済
(邦訳p.186参照)。
学研究書第7i巻第2・3号、2◎◎4年12月、
(31)
Hafner and Lyon(1996)邦訳188頁参照。
pp.209−218
(32)
坂村(2002)p.43参照。
(33)
国領他(2◎04)では、トラック(追跡)とトレース
(14)
が情報化の効果に及ぼす影響:企業規模別・地域
(遡及)を包括した概念とした上で、個体識劉技術
別・業種別多重比較」内閣府経済社会総舎研究所、
(技術)とトレーサビリティの本質が多面的に考察
ESRf Discussion Paper Series, No.127,2005年2
月,pp.1−34
さていている。
(34)
篠崎彰彦(2005)「企業の組織的・人的業務見直し
Starrett(2◎◎3)参照。この他にもICタグを利用し
(15)
篠崎彰彦・浜崎陽一榔・納富貞嘉・井上創造・安浦
寛人(2004)「社会基盤としてのRFIDに関する考
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