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日々進化する情報技術と取り巻く環境の激変 ―大学の情報担当組織の
日々進化する情報技術と取り巻く環境の激変 ―大学の情報担当組織の対応事例― 吉田 等明 岩手大学情報メディアセンター情報処理部門 概要:岩手大学情報メディアセンター情報処理部門が行ってきた様々な事例を、大学運営、教育、研究、地域貢献、東日 本大震災時の緊急援助活動や復興支援活動の観点から報告する。 キーワード:東日本大震災復興支援、情報教育支援、地域情報化支援 1. 組織 きるかと思います。はじめは比較的高速な計 算機の運営だけだった業務が,コンピュータ ネットワークやサーバ管理,教育研究支援な どに拡大し,大きく変化してきています。 はじめに,国立大学法人岩手大学の情報メ ディアセンター関連の組織からご紹介いたし ます。 情 報 メ デ ィアセンターは,図書館部門, ミュージアム部門,情報処理部門の 3 部門か らなっております。これは人の組織です。一 方,我々情報処理部門のスタッフが勤務する 建物の名称は情報処理センターであり,情報 システムを主に設置する場所となっています。 規模的に言うと,全国の国立大学の総合情報 処理センターに相当します。 情報メディアセンターは,学内外における 知的資源の中核的拠点として,急速に進展す る情報環境を最大限に活用しながら学術情報 の流通基盤と発信機能の強化を図り,最新高 度の教育・研究上の要請に応え,地域の生涯 学習・情報化に貢献することを目的としてい ます。 運用スタッフは,定員では,部門長(教授) 1(併),准教授 2(専),技術職員 3(専)と なっておりますが,実員は,部門長・センター 長(教授),教授 1(兼),准教授 2(専),技 術職員 3(専),技術補佐員 1(専),事務補 佐員 1(専)という構成です。 S41.3 計算機室設置[FACOM-231] S63.3 情報処理センターに改組 [HITAC-260K] H7.8 対外接続回線増速(1.5Mbps) H8.3 ATM ネットワークの構築,運用開始 H9.1 SGI:Origin2000 に更新 H11.12対外接続回線増速(6Mbps) H13.1 SGI:Origin3000,IBM:RS/6000SP に更新 H13.4 総合情報処理センターに改組 H13.8 ギガビットイーサネットシステムの 構築,運用開始 H14.1 SGI:Origin3800,遠隔教育システム の導入 H14.12対外接続回線増速(30Mbps) H16.4 情報メディアセンター設置 H17.12対外接続回線増速(100Mbps) H18.1 SGI:Altix3700,Altix350 に更新 H22.3 ギガビットイーサネットシステムの 更新 H23.9 SGI UV100, Hitachi BS320 に更新 2. 情報処理部門スタッフの役割と 特徴的な活動 2.2 教育 教育面では,1999 年ごろから,情報基礎 教育支援を強化してきました。まずは,情報 基礎教科書の作成支援が挙げられます。発行 した最新の教科書を以下にご紹介します。 独立法人化後は,教員は大学運営,教育,研 究,地域貢献の 4 つを実施する必要が出てき ました。他大学でも同じ状況かとは思います。 それぞれについて簡単に説明していきます。 情報基礎 ―コンピュータの基本操作と情報活用術― 岩手大学情報教育教科書編集委員会 編 学術図書出版社,2012 年 3 月 30 日発行 ISBN:9784780602869 2.1 大学運営 大学運営につきましては,沿革を見ていた だければおおよその活動内容と変遷が推測で 64 授の発案によるもので,TOPIC(東北学術 研究インターネットコミュニティ)の支援を 受け,TOPIC 盛岡 NOC と共に活動を行っ てきています。ネットワーク連絡会から派生 した大学間の共同研究としては,地域 IX(イ ン タ ー ネ ッ ト・ エ ク ス チ ェ ン ジ ) で あ る COZMIX(不来方マルチメディア IX)の構 築などが挙げられます。 ソーシャルネットワークの活用という点で は,盛岡市の地域 SNS「モリオネット」の 支援を積極的に行っている他,総務省から委 嘱された地域情報化アドバイザーとしての活 動もあります。 全国で活発な活動を行っている住民ディレ クターの支援も行っています。ソーシャルメ ディアやソーシャルネットワークを活用して, 日々の生活の知恵を受発信しあい,豊かな暮 らしを創造する活動を行っている人たちが住 民ディレクターです。詳細は,一般社団法人 八百万人(やおよろずびと)が運営する, 八百万人 SNS〈http://sns.yaoyorozu-hito.jp〉 をご覧ください。 理論的には COMPLEX Network の手法を 用いたソーシャルネットワークの解析も合わ せて行っているところです。 次に,情報セキュリティに関する研究です が,複雑系であるカオスニューラルネットワー クを利用する暗号及び乱数の発生について実 施してきました。独自の暗号システムの開発 と製品化を行った実績があり,複数の企業と 共同研究を続けています。 得られた成果は,暗号化鍵空間拡張アルゴ リズムの特許として「乱数生成システム(特 許:4586163) 」や「乱数生成システム及びプ ログラム(特開 2011-242827) 」など特許申請 も数多く行ってきました。 岩手県の支援による,夢県土いわて戦略的 研究推進事業「次世代ブロードバンド対応セ キュリティ保護システムの開発」では, (株) アドテックシステムサイエンスが試作機を製 造して製品化を行い,岩手県庁で記者会見を 行いました(図 1) 。 情報基礎早期認定試験を農学部に代行して 実施しています。情報基礎では,基礎的な情 報処理技術の習得を課しており,高校までに 既に技術を身に付けているケースも珍しくあ りません。そこで,岩手大学に固有の部分を 学んだ後に,希望者には試験を受けさせて, その結果で単位を早期に認定するものです。 合格すれば,それ以降の受講は免除されます。 独自の講習会の開催を行っています。以下 に,平成 23 年度の例を挙げておきます。 5 月 6 月 9 月 9 月 11 月 12 月 新入学スタートアップセミナー 高速計算講習会[初級編] 新システム講習会 MATLAB 講習会 高速計算講習会[応用編] 情報セキュリティセミナー 新入学スタートアップセミナーは,新入生 に対して,ネット利用の危険性の警告,著作 権法等の法律についての注意,岩手大学固有 の情報サービスの紹介を行うものです。入学 時にはパンフレットの配布も行っています。 2.3 研究 研究面で力を入れて実施してきたものとし ては,主に「ソーシャルネットワークに関す る研究」と「情報セキュリティに関する研究」 が挙げられます。 ソーシャルネットワークに関する研究の具 体例としては,岩手県や盛岡市などの地方自 治体の情報化の支援の一環としてオンライ ン・コミュニティ形成の必要性を叫び続けて きたことが挙げられます。当時の情報化はイ ンフラ整備に主眼があり,市民参加型の情報 化の考え方としては,かなり先進的なもので した。 実際に,様々なオンライン・コミュニティ を地域で展開してきました。ネットワーク連 絡 会,SPERng 研 究 会,COZMIX 研 究 会, COZMIXNG,COMMET-M,IPv6 活用研究 会などです。特にネットワーク連絡会は,平 成 8 年に第 1 回ネットワーク連絡会を開催 して以来,1 年に 2 回の割合で講演会,総会, 報 告 な ど を 実 施 し, 岩 手 県 に お け る コ ン ピュータネットワーク関係者の交流と地域情 報化に大きく寄与してきました。これは当時 の岩手大学情報処理センター長 宮本 裕教 2.4 地域貢献 地域情報化では,地域の中核となって支援 を行ってきています。平成 11 年ごろからは, 岩手県の情報ハイウェイ構築支援など岩手県 の情報化支援を行い,平成 13 年ごろからは 盛岡市情報化基本計画策定懇話会において情 報処理センター長が座長を務めるなど中心的 65 に参画し,地域情報化を支援してきました。 また,ネットワークを利用した遠隔授業の ノウハウの蓄積を生かして,平成 14 年には IT 遠隔地連携システムの導入を行いました。 県の情報ハイウェイの地域連携ネットワーク を活用して県内 3 カ所を接続して遠隔地から の講演や企業相談を可能にするとともに,教 育ネットワークを通じて総合教育センター及 び,県立高校(100 校)への遠隔授業を可能 にしました。(図 2) その後,このシステムの発展形態ともいえ る TV 会議システムを利用して,平成 20 年 には,いわて高等教育コンソーシアムにおけ る遠隔授業を可能とし,現在は大学間の単位 互換制度等に活用されています。 2.5 東日本大震災緊急援助,復興支援 地域貢献の一環として行った重要なもの に,平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大 震災後の緊急援助と,復興支援があります。 発 生 直 後 は, 緊 急 時 の 組 織 間 の イ ン タ フェース及び支援に尽力しました。組織で公 式の決済を取っている時間が無い状況におい て,ハブ同士でつながることによって,組織 間の迅速なインタフェースができた点は,注 図 1 最初の製品,CF カードリーダライタ AMI-410CF 図 2 IT 遠隔地連携システムのネットワーク構成 66 目すべき点と考えられます。ここでハブとは, 多くの人とコネクションを持った人物のこと を指します。 岩手大学情報処理センターでは,大きく分 けて 5 つのプロジェクトに関わってきました。 きましたが,中古パソコンの整備・梱包・送 付は非常に大変な作業でした。 まず,リース元の日本 IBM (株)と交渉し てリース切れのパソコンを譲り受け,日本マ イクロソフト社とソフトウェアのライセンス の件で交渉しました。その後,552 台のパソ コンの動作チェック,BIOS とハードディス ク 書 き 換 え 作 業,PC の メ モ リ 交 換, 起 動 チェック,クリーニング,梱包・搬出・運搬 には 2 週間以上を要しました。送料は岩手大 学の負担です。情報処理センターとしてはシ ステムの更新時は多忙な時期であり,情報企 画室,工学系技術室,企画調査課の皆様の多 大なるご協力の元に実現することができまし た。 岩手県を通じて以下の都市へ,平成 23 年 8 月 10 日,31 日,11 月 17 日 に, 合 わ せ て 552 台の PC を送付しました。 (1)岩手震災 IT 支援プロジェクト 震災直後,岩手県立大学 村山教授を中心 としたグループと合流し,被災地,避難所と 支援者間の情報交換に参加した。避難所の衛 星通信による IP 接続などにも協力しました。 (2)災害情報の共有・発信・安否確認の支援 普段から支援していた地域 SNS「モリオ ネット」を利用して,安否確認,ライフライ ンなどの情報発信,情報交換を行いました。 その際,構造化した SNS 上のコミュニティ を用いて,信頼のおける情報,新しい情報を フィルタリングして,迅速に発信することが できました。災害時は,信頼のおけない情報, 古くなった情報,デマ,その他もろもろの価 値の低い情報が洪水のように溢れてくること が多い。そのような状況下,電力不足の中で の情報交換では,必要な情報に短時間でアク セ ス で き る こ と が 大 切 で す。 全 国 の 地 域 SNS からのご支援と連携によって,効率的 に機能しました。被災地でもある盛岡市では, 食料,水,電力,ガソリンなどの確保がまま ならず,支援に向ける力は限りがありました。 陸前高田市 65 台,大船渡市 123 台 釜石市 88 台,大槌町 39 台 山田町 44 台,宮古市 101 台 岩泉町 3 台,普代村 1 台 野田村 9 台,久慈市 79 台 (5)災害支援内容の講演 次に以上の経験を,全国 7 カ所以上で紹介 しました。TOPIC 研修会(宮城県仙台市), 第 6 回情報系センター研究交流・連絡会議 (和歌山大学) ,ICT 利活用勉強会(熊本大 学) ,第 8 回東京農工大学総合情報メディア センターシンポジウム(東京農工大学) ,地 域 SNS 全国フォーラム in 姫路(イーグレ姫 路)など。 (3)学び応援プロジェクト モリオネットが中心となり,全国へ呼びか けを行って,被災地の児童・生徒向けに文房 具を集めた。目標のダンボール 200 箱を大き く上回る文房具が集まり,岩手県の窓口や東 北各地の被災地へかなり大型段ボールで 400 箱ほどを送付しました。 特筆すべきことは,全国の地域 SNS の協 力によって,文房具が尾道~姫路~愛知~東 京~岩手と,トラックのリレーでも運ばれて きたことです。また文部科学省の「子供の学 び支援ポータルサイト」を活用して文房具の 送付を行ったことにより,文部科学省から感 謝状を授与されています。 3. 結 語 以上は,情報メディアセンタースタッフの 皆様のチームワークによって乗り切ってこら れたことです。ご協力いただいた方々には, 改めて深く感謝の意を表したいと存じます。 (4)パソコン 552 台を被災地に送付 リース切れになった岩手大学情報処理セン ターの PC 552 台及びプリンタ 11 台を被災 地に無償で送付しました。 ちょうど情報処理センターのコンピュータ システムが更新時期にあったことから実現で 67