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サイバネットニュース
NEWS
2010
SUMMER
特 集 最適化を考える
金沢大学理工研究域長 山崎光悦先生 インタビュー
「最適設計がこれからの製品開発環境を激変させる」
真の最適とは
最適化について、ちょっと考えてみて
レンズの自動修正と局所最適化での不思議
CAE
ユニバーシティ
「制御に関する運動と振動のモデル化」 第 2 回
エンジニア向け理論教育
「CAE ユニバーシティ力学系講座が目指すもの」
131
No.
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
ご挨拶
新体制となったサイバネット
昨年からサイバネットニュースが年2回の発行となりました。今年
度は本誌が1回目となります。
今年度に入り、当社にとって2つの大きな出来事がありました。
1 つ目は 5 月 1 日に国内子会社 株式会社ケイ・ジー・ティー(以下、
ケイ・ジー・ティー)を当社に吸収合併したことです。ケイ・ジー・ティー
は可視化ソリューションとインターネットソリューションの2つのビ
ジネスドメインを持ち、グループ会社の中核的存在でありましたが、当
社とのシナジー効果を更に強化するため、並びに医療用可視化ツール
など有力事業分野については、今後、継続的な投資が必要と判断し、①
可視化ソリューション部門は新規事業分野を統括するアドバンストソ
リューション事業部へ統合し、②インターネットソリューション部門
田中 邦明
代表取締役社長 は IT 事業部へ統合し、更なる発展を期すこととなりました。ケイ・ジー・
ティー時代よりご愛顧頂いておりますお客様へは、今まで以上に質の
高いサービスの提供に努めて参りますので、引き続きよろしくお願い
申し上げます。
2 つ目は、7 月 1 日に PIDO(Process Integration & Design
Optimization)ソ リ ュ ー シ ョ ン の 分 野 で 世 界 的 に 著 名 な Noesis
Solutions NV(以下、Noesis 社)を買収したことです。
Noesis 社は Optimus という PIDO ツールの開発、及び最適化におけ
るコンサルティングを行なっている会社です。
当社は Noesis 社設立以前の 1998 年 4 月より、Optimus の国内代理
店として販売・サポートを行なっており、また当社中国子会社及び台
湾子会社においても、各子会社設立当初から販売・サポートを行なっ
ております。
Optimus は当社の CAE ソリューションサービス事業において、複数
の CAE ソフトウェアを連携させて解析及びシミュレーションを行なう
マルチプロダクトソリューションの“コア”となるツールであり、更に
は複数のアトリビューションにおける全体最適化を行なう PLM 最適化
(Products Lifecycle Management-Optimization)へと発展を期す
ツールです。
これにより、複雑化かつ高精度化しているお客様の“ものづくりシ
ミュレーション”に、更に適切に応えることができると考えています。
今後は特に日本のお客様の最先端ニーズを積極的に取り込み、PIDO
ソリューションにおけるグローバル・スタンダードなツールとして
Optimus を大きく発展させていく所存でございます。
今回のサイバネットニュースはNoesis社の買収とも絡めまして、
「も
のづくりシミュレーションにおける最適化」をキーワードに致しました。
本ニュースが少しでも皆様の業務のお役に立つことを祈念してお
ります。
これからもお客様の声に応え続ける、お客様の求めるサービスを提
供し続ける会社でありたいと思っております。
引き続きご支援の程、よろしくお願い申し上げます。
2
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
特集
特集に寄せて
特集:最適化を考える
正しく使おう!「最適化」
み進めるに当たり、その謎は徐々に明らかになるかと思いま
「最適化」という言葉には大変に魅力があります。と同時に誤
すが、主に以下の 3 点について注意して頂きたく思います。
解があるのではないでしょうか?最適化はいわゆる数理計画
理論的側面:理論的にはある特殊な問題(凸型問題)で無い
法と呼ばれる数学的手法で、
「目的関数を制約の下で最小化(あ
限り、真の最適解を見つけることは不可能です。しかし多くの
るいは最大化)する問題」として定義付けられております。そし
理論化の努力により、実用上、有効な解を得ることができるア
てその手法もコンピュータ技術の発展と密着して数々の方法が
ルゴリズムが近年開発されております。
開発され、現在では構造解析、電気回路、光学設計等の工学問
コンピュータ技術的側面:多くの最適化には数値計算を伴
題だけでなく、交通システムや物流などの社会問題まで、様々
います(そうでないものもありますが)
。これらはコンパクト
な分野で応用されており、多くのシミュレーションツールに実
な問題なら非常に上手く機能しても、実問題に適用すると、途
装されるまでに至っております。そしてそれらは「条件を与え
端に大規模になり、計算困難な問題になります。この場合、す
れば自動的に最適な解を見つけてくれる」ことをうたい文句に
ぐに引き合いに出されるのは、コンピュータの進歩ですが、
しております。果たしてそうでしょうか?これには多くの人が
いくらコンピュータが進歩しても本質的に、実用上解けない
「ノー」と回答するでしょう。
問題もあります。俗に言うクラス NP の問題です。これらも
私が考えるに「最適化」と「最適設計」は、
似て非なるものです。
ヒューリスティックな手法により突然に解けることもあり、
このことを改めて伝えたいと思い、本特集を組みました。最適
また、性質の良いクラス P の問題に変換できることもあります
化は先に述べた通り数学的に定義された問題に過ぎず、いわば
が、NP=P か NP ≠ P かの問題は未だ解決されていないと思わ
そこには人間は介在しない無機的な問題です。それに対して最
れますので、工学的センスを持って、必要以上に問題を複雑化
適設計は、設計問題である以上、
「人間の知恵を振り絞る」いわ
しないことが重要になってくると思われます。
ば大変泥臭い作業を伴う有機的な世界ではないでしょうか。最
設計問題的側面:そもそも最適な設計など存在するのでしょ
適化は最適設計を行う一手段に過ぎず、正しく理解することに
うか?多くの製品は不特定多数の消費者が相手です。年齢や
より大変大きな力を発揮するものと信じます。従来から良く言
体格、性別など趣向違う人々が等しく満足する、真のユニバー
われる「最適化は使いものになるか?」の問いは愚問に過ぎず、
サルデザインなど存在するはずがありません。現在、広く使わ
その多くは最適化と最適設計を混同しているのかも知れませ
れている「ユニバーサルデザイン」という語は、
「重心値設計」
ん。当社も最適化を内蔵した多くのシミュレーションツールを
あるいは「趣向にロバストな設計」ということであろうかと思
扱っており、また、統合最適設計(PIDO)を行うツールを扱っ
います。しかし、これは大変に重要なことで、最近の最適設計
ている以上、正しい情報を届けることが務めと考えております。
の成果は一部、これらを可能としています。
今回は多くの専門家の方々から、理論面、応用面、実用面と多
また、最近は、例えば車のシートポジションやルームミラー
方面から解説頂いたことを大変に嬉しく思うと同時に、皆様に
の角度など、乗る人を自動認識して個々人に合わせるという
有益な情報を、自信を持って届けることができたと思っており
研究も実用化し始めているので、真の意味での個々への最適
ます。
化もできるようになっています。
このように、今後、益々我々に恩恵を与える最適化 / 最適設
何故、最適設計は難しいのか?
計を本号でお楽しみ頂けたら幸いに思います。
それではなぜ、最適設計は難しいのでしょう?本特集を読
サイバネットシステム 執行役員 CTO 石塚 真一
Contents
開発元のある風景
ご挨拶
2
◆新体制となったサイバネット
代表取締役社長 田中 邦明
18
4
◆特集に寄せて
◆最適設計がこれからの製品開発環境を激変させる
8
10
12
14
◆制御に関する運動と振動のモデル化
20
山崎 光悦先生 インタビュー
◆今、最適設計支援ツールに何が求められているのか
− Optimus の機能紹介
CAE ユニバーシティ力学系講座が目指すもの
東北大学大学院 工学研究科 准教授 寺田 賢二郎先生
「見える化」技術
◆真の最適とは
◆都市の環境問題を体感する
24
◆最適化について、ちょっと考えてみて
京都大学大学院 工学研究科 機械理工学専攻 西脇 眞二教授
∼シミュレーションと VR(バーチャル リアリティ)で“街”を再現∼
中央大学 理工学部 都市環境学科 樫山研究室訪問
製品情報
◆レンズの自動修正と局所最適化での不思議
東京工芸大学 工学部 メディア画像学科 渋谷 眞人教授
第2回
「アクティブサスペンション制御系設計のためのモデリング」
東京大学生産技術研究所 准教授 中野 公彦先生
◆エンジニア向け理論教育
22
アドバンスド ソリューション事業部PIDO室 室長 兼 Noesis Solutions NV CEO 古井 佐土志
東京大学先端科学技術研究センター 西成 活裕教授
社本拠地 カナダ・オンタリオ州ウォーター ルーから
Maplesoft 社 上級副社長 山口 哲
CAE ユニバーシティ
特集 最適化を考える
3
◆Maplesoft
26
◆ AR(拡張現実感)構築ツール
metaio Unifeye
◆溶接解析支援システム Welding.Sim
◆
「電話を使った」二要素・二経路認証サービス
27
PhoneFactor
◆ シンプル&スタイリッシュ iPhone 向けスケジュールアプリ「Refills for iPhone」
◆ CAE
技術者のための理論教育講座 CAE ユニバーシティ
3
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
特集
最適設計がこれからの製品開発環境を激変させる
特集:最適化を考える
山崎 光悦 先生 インタビュー
金沢大学 理工研究域長・理工学域長・工学部長
Koetsu Yamazaki
1976 年 金沢大学大学院工学研究科機械工学専攻
修士課程修了、1976 年 金沢大学助手、1983 年
金沢大学講師を経て、1985 年 金沢大学助教授。
1989 年∼ 1990 年までカリフォルニア大学サン
タバーバラ校に研究員として滞在、1994 年より
金沢大学教授。2010 年現在、金沢大学の理工研究
域長・理工学域長・工学部長。
専門分野:設計工学,計算力学,材料力学など
今回のインタビューでは金沢大学理工研究域の山崎光悦先生
分割が粗く、形状設計を試みて応力分布の改善幅をチェック
に、最適設計について、お話を伺いました。
するのですが、形状変更の効果か計算誤差のせいなのか、わ
山崎先生は、長年、最適化の研究に携わってこられ、日本の
からない状態でした。単連結の連続体からスタートして、密
最適化研究における「草分け」的な存在です。
度やヤング率を変化させることで物体の中に穴が自動的にで
きる多連結連続体を創成したり、トラス連続体の概念によっ
て構造形態の最適パターンの創成を初めて試みたりしたのも
先生は、長年、最適化の研究に携わってこられたわけです
が、最適化に興味を持たれたそもそものきっかけは何だっ
たのでしょう?
その頃です。
1980 年代が「第2期 最適設計黄金時代」でしょう。この時
期から自動車産業で最適設計が活用されるようになり、また、
コンピュータの発達・普及が大きくその動きを後押ししたと
私は、大学時代から最適化一筋で、最適化の研究しかやっ
言えます。最適化プログラムの開発も始まり、最適化の現在
てこなかったと言ってもいいくらいなのですが、興味を持っ
に繋がる大きな礎が築かれた時代です。
たきっかけは、修士論文のテーマに最適化を選んだことです
ね。ただ、当時は有限要素法自体がなかなか利用できる環境
にありませんでした。結局、FEM の勉強をして、プログラム
を自分で作ってみたり、研究室で開発されたプログラムを改
良したりといったことから、研究をスタートしました
当時、金沢大学で利用できる学内のコンピュータはメモリ
最適設計や最適化はその誕生から、およそ半世紀が経過し
たのですね。黎明期からようやく 50 年が経った今、最適設
計は第3期の黄金時代を迎えていると考えて良いのでしょ
うか
が 90KB でしたので、要素分割も2次元三角形要素 20 ∼ 30
個ぐらいの粗さでした。しかし、有難いことに、全国の研究
そうだと思いますね。90 年代の終わりくらいから、最適
者が共同利用できる大型コンピュータが東大・京大以下、7
化の概念や方法論は自動車産業を飛び出し各分野に広がっ
大学にありました。特に東大の大型コンピュータは、金沢か
て、そこで実践されるようになってきました。今では、最適
らは遠かったのですが、当時、最も計算スピードが速かった
化でひとつのビジネスが成り立つくらいですよね。最適化の
ことから、重い紙カードのプログラムを携え夜行列車に乗っ
ソフトウェアを開発している会社もかなり出てきたし、その
て、頻繁に使いに出かけたものです。
ソフトを使いたい、使ってみたいという感触は広く産業界に
あると思います。そのバックグラウンドには、やはり、CAE
の普及とパソコンの登場・その性能の飛躍的向上ということ
その当時は、最適化研究としてはどういったステージに
あったのでしょうか?
どき熱や流体なども含めたシミュレーションを、一生懸命、
最適化というのは、始まりはもちろん、構造最適化だった
大型コンピュータにかけてやっていた。それが、今では、そ
わけですね。1960 年代に、最適設計の要求が主として航空
の辺に転がっているパソコンでそこそこの計算ができるし、
分野から起こりました。おそらく、この時期が「第1期 最適
2、3台見つけてきて繋いでやれば、それこそ、かなり高度な
設計黄金時代」と言えるかと思うのですが、このときはまだ、
計算までできる。そういう時代になってきたわけです。私が
実務設計のレベルまでは浸透せず、一部で試行的に使われて
大型コンピュータを使うためにはるばる東大まで通っていた
いたという状態でした。私が研究生活をスタートさせ修士論
当時からすると、本当に隔世の感があります。
文に取り組んでいたのは、この「第1期 最適設計黄金時代」
のおしまい近くに当たると思います。当時は、まだまだ要素
4
がありますね。かつては、専門家が構造計算を中心に、とき
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
「第3期 最適設計黄金時代」の特徴とは、言ってみれば、一
Optimization)と呼ばれるもので、前者は鳥や鰯などの群れ
部専門家のものだった最適化や最適化計算の裾野が大きく
の動きにヒントを得たものです。群れの中の一個体は自分の
広がり、
“誰でも気軽に最適設計ができる時代”になったと
動きの情報、群れ全体の情報、進んできた方向の情報といっ
いうことでしょうか?
た様々な情報をベクトルの中に入れて、自分の位置を定めて
いるのですが、それを最適手段の探索に応用しています。こ
「最適設計は誰でもできそう」といった雰囲気は確実にある
のアルゴリズムはどんな問題に使っても計算時間が1桁早い
と思います。明らかにそうなってきていますしね。たとえば、
し、どんなケースにでも使えます。
①寸法設計問題 ②形状設計問題 ③形態(位相=トポロジー)
更に効率の良い探索法と目されているのが後者の「ACO」
設計問題という 3 つが同時に解けて初めて構造設計が成り立
で、これは、餌を探すアリの動きにヒントを得たものです。
つわけですが、この3つ全てが、最近ではソフトで簡単にで
そ の 他 に「DE」
(Differential Evolution)と い う ア ル ゴ リ
きるようになってきています。条件だけ決めてやれば、ある
ズムもありますが、最終的には「ACO」や「DE」それにまあ
程度は誰でもできる。形態(位相=トポロジー)設計法には、
「PSO」くらいが生き残って、他のアルゴリズムは淘汰されて
均質化法、SIMP 法、レベルセット法といろいろあるのですが、
いくような気がしますね。
そのどの方法を採っても、今、世界で5、6個くらいは、実に
こうした、生物系のアルゴリズムは、連続変数でなければ
簡単に設計できるソフトがあるのではないでしょうか。
使えない、離散変数でなければ使えないといった制約がない。
そういう意味では、コンピュータとソフトウェアの知識さ
何にでもどんな局面にでも使える。そこに大きな強みがあり
えあれば、構造設計は素人でもできると言えます。あるいは、
ますし、現在未解決の殆どの問題を解決してくれるアルゴリ
会社に入ってきたばかりの新人でもね。物理や力学の知識で
ズムになるのではないかと期待しています。
すらほとんど要らないんです。
ただ、構造設計の真の専門家は大変な経験を積んでいます。
先生は、長い研究生活の中で、様々なご研究をされてきたこ
設計というのは、自分の頭の中にノウハウを溜め込み、最後
とと思いますが、今、特に興味を持たれていることや研究事
は、そこからいろいろな要因を判断する。振動はどうだろう
例について、お聞かせ頂けますか
かとか、考えなければならないファクターは多種多様です。
力学的側面だけ押さえておけばいいといったものではない
最近、自動車のクラッシュの際に衝撃を吸収するフロント
し、最終的には、コストや使う人にとっての便利さといった
サイドメンバーの設計を行なっています。この部材がクシュ
ことも考慮に入れなければならない。ですから、
「ソフトを使
クシュと早く、うまくつぶれてくれることで、中に乗ってい
えば誰でもできる」という思い込みが余りに蔓延することは
る人を保護するのですが、現在の自動車は軽量化の要請が強
問題だと思います。
いですから、アルミニウムで作りたい。そして衝撃エネルギー
しかし、そうは言っても、これまでは経験豊富な技術者で
の吸収は最大にしたい。それにはどのような形状が最適かと
なければ作れなかった、あるいは思いつかなかったような形
いうことで、最適化シミュレーションを行ないました。結果
態が、最適化設計ソフトを使って計算すれば、自動的な計算
的には、六角形がよく、角と角とを結ぶのではなく、角の間
結果として誰にでも出せるようになった。それは事実です。
と間に隔壁を通すと衝撃力の増加を抑制しつつ、最もエネル
その辺りが、最適化設計ソフトが大きな注目を集めている理
ギー吸収が良いという結果が得られました。
由でしょうね。
ソフトウェアが進歩して、専門知識がなくても使える汎用
的なソフトが増えてきたことが、現在の“第 3 期 最適設計黄
金時代”を支えているということですね。今、ソフトのお話
が出たので、現在の最適化ソフトのアルゴリズムについて
少し伺いたいのですが。実際のソフト利用者にとっては、ア
ルゴリズム自体はもはやブラックボックスでしょうが、ソ
フトウェアの根幹としての重要性は見逃せません
ソフトの発展というのは、即ち、アルゴリズムの発展とも
言えますね。
従来は、関数の勾配、つまり微分係数を用いたアルゴリズ
ムで探索していたわけです。登山を例にとれば、どの方向の
勾配が急かを見る。一番急な勾配ならそこが山頂までの最短
距離であるといった探索法です。
図 1 衝撃エネルギー吸収の最大化による安全性の確保
現在は、ある種“飛躍した”進化的アルゴリズムが登場して
注目されています。従来とは違う数式に基づいたアルゴリズ
もう一例、今、衝撃を受けたときにポンと上がって膨らむ
ムで、生物の世界に着想を得ています。具体的には、
「PSO」
ようなボンネットが考えられています。ポンと飛び出すとこ
(Particle Swarm Optimization)や「ACO」
(Ant Colony
ろから、
「ポップアップフード」と呼ばれますが、不幸にして
5
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
人とぶつかってしまったときに、ボンネットが膨らむことで
最適設計は自動車産業はもちろん、様々な分野で利用され
人への衝撃を和らげるのが目的です。それと同時に、柔らか
ているということですね
い材料で作ったロア・アブソーバで人の足をすくってやろう
と。敢えて、足をすくってこのボンネットに乗り上げさせる
その通りです。今では、最適設計はありとあらゆるところ
わけです。そうすれば、人の怪我はかなり軽くなるであろう。
で使われています。ちょっと趣向を変えて、私たちにとって
そうした発想に基づいて、
「アクティブ・ロア・アブソーバ
大変身近な存在である飲料缶の話をしましょう。アルミのボ
による損傷低減」という研究も同時進行中です。現在、足首
トル缶にホットコーヒーを入れて売りたい。そのまま持てば
の加速度・膝の折れ曲がり角・せん断のずれ角などがある範
当然熱いですね。そこで、缶の表面にぎざぎざ(エンボス)を
囲内にあると、怪我は少なくなるという指標が明らかになっ
付けて手との接触面積を減らすことにする。この段階で、加
てきています。そこで、人の脚部モデル(脚部インパクタ)を
工性とのトレードオフを考えなければなりません。使う人の
作って、どの瞬間に、どのスピードでロア・アブソーバを出
使いやすさと作り手側の作りやすさを天秤にかけるわけです
してやれば良いか、といった最適化計算を行なっています。
ね。このように、相反する複数の目的のバランスを取って、
適切な解を求めることを「多目的最適化」と呼びますが、今、
挙げたボトル缶は多目的最適化の良い例の一つと言えます。
缶の設計には他にも様々な工夫が為され、最適化が大活躍
していますよ。例えば、缶ブタの上にはさらにタブが付いて
いますよね。このタブについても、実にいろいろなことが考
えられているんですよ。まずは、開けるときに痛くないよう
に、危なくないように、ということですね。缶を開けようと
して爪を割った経験のある人もいると思いますが、そうした
事態を防ぐために、指の痛点分布なども考えて、どういった
形態のタブが一番軽い力で、痛みを感じさせることなく開く
のか、そうしたことも最適化を使って計算しているのです。
飲料容器は多くの人が日常的に使うものですから、人間工
学的な設計が必須です。しかし、ちょっと外国に行って飲み
物を買ってみればわかりますが、飲料容器というジャンルで、
図 2 人間を守る賢い車体(アクティブ・ロア・アブソーバ)
世界で最も進歩したユニバーサルデザインを創出しているの
は、何と言っても、アメリカと日本です。上に述べたような
神経の行き届いた細部設計には、最適設計の果実が活かされ
最適設計は、やはり自動車産業での使い道が多いようです
ていると言えますね。
が、他の分野でも効果を発揮しているのでしょうか?
もちろん、他の分野でも非常に有用ですよ。例えば、プラ
スチック成形の金型設計分野ですが、現在、私の研究室で次
のような研究をしています。金属光造形という手法があるの
ですが、レーザー光線で作りたい形状に金属粉末を溶かし、
その後エンドミルで削る。この成形手法を使えば中に複雑な
空洞があるような3次元形状も自在に作れます。ということ
は、曲がった冷却管や螺旋状の冷却管が作れる。射出成形は
a)強く
b)開けやすく
高分子材料を熱で溶かして造形するので、残留応力が入らな
いように上手に冷やして固めるという必須の要請と同時に、
全体のサイクルタイムを上げたいという要求があるわけです
が、そのためにはどんな形状の冷却管をどう配置すれば最も
効率的なのか。こうしたことにも最適化計算を使っています。
それと共に、葉脈などの自然界の分岐網をヒントにして、
c)熱くなく
そういった形状の冷却管ができないかという研究も行って
います。例えば、IC チップに冷却シートを分岐網のように貼
図 3 ユニバーサルデザインを目指して!
る。IC チップは、熱を持つところと持たないところがありま
すから、今までにない形の、しかも、かなり有効な冷却管配
置ができるかもしれない。あるいは、そもそもチップを作る
最適化のもたらす恩恵は性能や機能向上以外にもありますか
ときにそのような分岐網状の冷却シールを作って埋め込んで
やる。そういった形で有効に使えるのではないかと考えてい
多目的設計の話をしましたが、種々の異なる設計要求に対
ます。
し最もバランスの良い解を求める。設計の要諦というのは結
局そこにあるわけで、それを昔は経験と勘でやっていた。そ
6
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
れが、今ではソフトである程度できるようになったというこ
と、当然、ユーザーインタフェースが重要となるでしょう。
とですね。
今のところ、寸法・形状・形態(位相)を表すパラメータは、ユー
私が学生だった頃、かれこれ 30 年ほど前になりますが、自
ザーがその対象となるソフトウェアの入出力ファイルから直
動車会社が新車を作るには、コンセプト設計から上市まで4
接マニュアルで設定し、それらをパラメータとして定義して
年くらいかかっていた。今は、何と、ほぼ 1 年しかかからない
いるわけですが、それが始めから埋め込まれたようなモデル
そうです。新車開発のためには試作車が要る。1台作るのに
定義の手法、もしくはソフトウェアが開発されると、利用者
1億円くらいかかります。生産ラインができる前の手作りで
にとっては大変利便性が高いと思いますよ。加えて、設計変
すからね。それを重要な実験の際には、トライで壊していく
数の選定なども自動的に行なえると、更に使い勝手が良いソ
わけです。当然、
何十台も壊すわけにはいきませんよね。今は、
フトになるのではないでしょうか。
ある部材を付けてみたら…、取り外してみたら…、あるいは
また、FOA(First Order Analysis)のような設計検討に
材料を様々に変えてみたら…、といったことは、かなりの程
有用な、簡易モデル応答解析手法を搭載したソフトウェアの
度、シミュレーションで確認できる。従って、シミュレーショ
開発も重要だと思います。
ン結果を参考に相当高い完成度まで作りこんで、最後の最後、
いずれにしても、最適化というジャンルは理論もソフトも、
最も重要な安全試験といった場面で1台か2台壊して上市す
将来に向けた発展がまだまだ期待できる分野ですので、私も
る、といったことが可能になっています。仮想的な実験を可
その未来像というものを大いに楽しみにしたいですね。
能にして、コストがかかる現実の実験数を激減させたという
点で、シミュレーションの力は非常に大きいと思います。コ
ストと、そして時間の劇的な削減を支えているわけです。
製品サイクルがどんどん短くなっている現在、今後も、も
のづくりにおけるシミュレーションの重要性は増すばかりで
しょう。最適設計という場面に限らず、シミュレーションを
上手に利用して良い製品につなげる知恵がますます求められ
ていると思いますね。
実験がシミュレーションに置き換わっていく趨勢は、今後
も変わらないでしょうね。そのようにシミュレーションや
ソフトの重要性が高まっていくにつれて、利用者の要求レ
ベルも高くなっていくと思われますが、先生は、現状の最適
化ソフトには、どんな問題があるとお考えですか?
リラックスした表情の山崎先生
(当日は、ご多忙な先生のスケジュールの合間を縫って、機械
学会近くの明治記念館にてインタビューを行ないました)
そうですね。最適化ソフトが本当に実際の設計の場で使え
るものでないと意味がないと思います。使えるというのは、
限られた期間の中で最適化計算に必要な繰り返し計算ができ
るかどうかということです。その点を考えれば、もっと探索
スピードの速い最適化アルゴリズムが出てくるといいと思い
ますね。探索スピードは、特に、整数計画や混合変数計画、組
み合わせ問題では大変重要です。最適化アルゴリズムについ
ては、先に述べたように、
「PSO」や「ACO」、
「DE」といった、
現状でも新しい工夫が凝らされたものがいろいろと出てきて
はいるのですが、まだまだ進展の余地はあるように思います。
また、もうひとつ、CAE を伴う最適設計では、応答曲面近
似の精度向上が今後の利用拡大の鍵を握っていると思います
ね。実計算をしながら何百回も何千回も CAE を計算するこ
とは実際の現場では困難です。近似精度の高い応答曲面を作
成して、それを応用することが重要なキーとなると思います。
◆インタビュアーから最後に一言
本当に、最適化ソフトはまだまだ発展可能性があるし、最適
化技術は社会のいろいろな側面で役に立てる力を秘めている
と思います。
この度、弊社は、最適化ソフトウェア“Optimus”の開発元
である Noesis Solutions NV を買収し、100%子会社化致し
ました。今後は Noesis 社と力を合わせて、最適化ソフトの更
なる進展に力を尽くす所存です。より多くの方々にご利用い
ただけるような使い勝手を有すと同時に、優れた最適化探索
効率を追求したソフトウェア、世界でスタンダードとなれる
最適化ソフトウェアを目指して、これからも積極的な製品開
発を進めたいと思います。 当社がご提供する最適化ソリュー
ションによって、今後の日本の先進的な産業飛躍に大きく寄
与できればと願っています。
山崎先生、本日はお忙しいところインタビューにご協力頂
今後、最適化ソフトをどんな側面から発展させていくべき
でしょうか。また、将来の最適化ソフトに期待するのは、ど
ういったところでしょう?
き、誠に有難うございました。深く御礼申し上げると同時に、
先生の今後のご研究を楽しみに致しております。
インタビュアー
やはり、最適化ソフトウェアには“もっともっと使いやす
アドバンスドソリューション事業部 PIDO 室 室長
く”ということを期待したいですね。誰でもが気軽に使える
兼 Noesis Solutions NV CEO
ソフトウェアでないと意味がありません。その観点からする
古井 佐土志
7
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
特集
今、最適設計支援ツールに何が求められているのか
− Optimus の機能紹介
特集:最適化を考える
1.はじめに
近年、シミュレーション技術やハードウェアの処理能力の
向上に伴い、製品品質を向上する手法として最適設計支援
ツール(以下 PIDO ツール:Process Integration & Design
Optimization)を用いることが一般的となり、PIDO ツール
の基本機能である自動化・統合化・最適化は、ユーザーの設
計業務の効率化に寄与し、業務改革を実現してきました。しか
しそれに伴い、市場には多くの PIDO ツールが存在するように
なり、ユーザーが選定する際の差別化が非常に困難になって
います。現在では、多目的最適化は専用の PIDO ツールだけで
なく、シミュレーションツールの最適化オプションにも搭載
されるほど一般的な技術となり、もはや差別化の要因ではな
くなっています。また、設計空間を分析するためのデータマイ
ニング(ポスト)機能でも、
必要なものは現時点である程度揃っ
ており、これ以上の機能追加は特定の業界にフォーカスされ
た少数ユーザーが利用するものか、一般ユーザーでは理解す
ることが難しい複雑な機能になってしまいます。
それでは、これからの PIDO ツールには何が求められている
のでしょうか。我々が多くのユーザーと話し合いを重ねた結
果、次のようなニーズが見えてきました。
1)限られた開発期間内に効率的に最適解を見つける
2)現実に起こる不確定要因(バラツキ)を考慮する
3)誰もが気軽に利用できる環境が用意されている
本記事では、これら 3 つの項目について、弊社の 100% 子
会社である Noesis solutions NV が開発している PIDO ツー
動的に実施するので、ユーザーが応答曲面の精度を気にする
必要も無く、特別な知識が無くても利用可能です。他に同様
のハイブリッド型の手法として、局所最適化手法の Adaptive
Region 法や、多目的最適化手法の NSEA+(FAST)がありま
す、これら全ての最適化アルゴリズムは Optimus にて利用で
きます。短い開発期間での成果が求められているユーザーに
とって、計算回数を減らす工夫がされている手法が搭載され
ていることが重要なポイントとなるでしょう。
2 つ目は、社内のリソースをフル活用して最適化計算を高
速化させる仕組みです。最適化計算はシミュレーションを複
数回実行する必要があるので、もし 1CPU だけで繰り返し計
算をする場合には、
「1 回あたりの計算時間」×「繰り返し計算
数」の所要時間が必要となります。もし 1 回あたりの計算時間
が数時間かかる問題を取り扱う場合、最適解を算出するまで
に数ヶ月を要する場合もあり、限られた開発期間に収束でき
ない可能性があります。そこで活躍するのが、最適化計算の分
散処理です。社内で空いている CPU やシミュレーションのラ
イセンスを最大限に活用することにより、最適化計算の高速
化を実現します。例えば、1 回当たり 2 時間かかるシミュレー
ションを最適化計算で 700 回実行する場合、トータルで約 58
日必要となりますが、8CPU を利用して分散処理をした場合
は、通常の 1/8 の計算時間、つまり約 1 週間(7.2 日)で最適化
を実現することができます。限られた開発期間の中で、できる
限り最適化計算を高速化させる取り組みとして、最も有効的
な手段が分散処理です。
ル Optimus での実現性についてご説明します。
2. 効率を追求した最適化
まず、
「限られた開発期間内に効率的に最適解を見つける」
については、2 つの解決策が考えられます。まずは最適化手
法自体が少ない計算回数で最適値を見つけることができるか
ということです。大域的最適化手法である遺伝的アルゴリズ
ム(Genetic Algorithm)などは、局所解に陥ることが少ない
有効な手法として知られていますが、計算回数が膨大となる
問題点があります。そこで現在注目されているのが、内部的
に実験計画法と応答曲面を利用して計算を効率化するハイブ
リッド型の最適化手法です。その代表的な手法として EGO
(Efficient Global Optimization)が挙げられます。EGO で
図 1 分散処理の実施例
は、まず始めにラテン超方格法を用いてサンプリングを行い、
そのサンプリング点を元に応答曲面を作成、次に作成した応
8
答曲面の精度を内部的に判断し、精度が悪い箇所に対しサン
3. 現実に起こる不確定要因(バラツキ)した最適化
プリングを追加実行して、応答曲面をアップデート。これを複
通常シミュレーションでの計算結果は、実際に起こりうる
数回繰り返し、応答曲面の精度を一定以上にした段階で最適
製造上の公差や、製品を使用する際の気象条件の変化などは
化を実行する。応答曲面を利用するためシミュレーションの
考慮されていません。これらの不確定要因を無視した、理想
実行回数を大幅に削減することが可能であり、実際に従来の
状態で最適化を行い制約条件ギリギリの最適解を導き出して
遺伝的アルゴリズムと比較しても 5 倍∼ 6 倍の高速化が可能
も、現実に起こるバラツキが生じることで、本来求められてい
である証明されています。また、一連の作業は全て EGO が自
る製品性能を発揮できない場合がほとんどです。最悪のケー
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
スになると、製品リコールということになり多額の損害が発
ます。まず、
シミュレーションとの接続部分については、
シミュ
生することになります。このような問題に対処するのが、ロ
レーションとのインタフェースをカスタマイズすることがで
バスト・信頼性と品質工学手法です。入力のバラツキに基づ
きる UCA(User Customizable Action)を搭載しており、パ
いて確率論的な計算を行うロバスト・信頼性計算は、これま
ラメータの設定や CAE のバージョン選択、OS 毎のコマンド
でモンテカルロ法の利用が一般的でしたが、計算回数が膨大
入力を登録することができます。一度 UCA を作成すれば、後
となり最適化と組み合わせることは難しいとされてきまし
は社内の異なるユーザーやマシン間でも共有することができ
た。実際にベンチマークを行った結果では、モンテカルロ法を
るので、設計者は完成された UCA を利用するだけで、すぐ
用いてロバスト・信頼性を計算するためには、最低でも 100
に最適化に取り組むことができます。また、一般的なシミュ
回以上の計算回数が必要であり、厳密な精度を追求する場合
レーションツールの UCA については、OPTIMUS のユーザー
は 500 回以上の計算が必要となります。この問題を解決す
であれば、弊社のホームページからダウンロード可能です。
る手法として Optimus で採用しているのが、FOSM(First
(ANSYS、NASTRAN、ADAMS、STAR-CD など)また、
「設
Order Second Moment)や FORM(First Order Reliability
計者に新たなツールの操作を覚えさせたくない」といったユー
Method)
、Importance Sampling といった内部的に近似を
ザーには、
Excel 等の誰もが扱えるツールから Optimus をバッ
行うことで、計算回数を減らすことができる手法です。これら
チ実行できる環境も提供しています。OPTIMUS は構成ファ
の手法は、モンテカルロ法の 1/50 ∼ 1/100 の計算回数でロ
イルが全てテキストベースになっており、Excel 等の外部ツー
バスト・信頼性を評価することができるため、これまで取り
ルからバッチ実行することが可能で、この機能によって設計
組むことが難しかったシックスシグマデザインの実現を可能
者は Optimus の操作を全く意識せずに、Excel 上で入力の上
にしました。
下限値を設定し、最適化実行ボタンを押すだけで、最適化を実
また、もう一つの製品のロバスト性を高める手法として、大
現することができます。
手企業で多数採用されているのが品質工学(タグチメソッド)
です。品質工学による設計では、直交表、SN 比・感度、分散
分析表、要因効果図などの様々なステップを実施する必要が
ありますが、それらは表計算ソフトなどを用いて、ユーザーが
作成するのが一般的でした。しかし、複数の直交表の搭載や計
算式に対応するためには、多くの工数がかかってしまい、そ
の上、直交表に基づくシミュレーションの実行は、担当者が 1
ケースずつ手動でサンプリングをする必要があり、担当者は
単純作業に多くの時間を費やしていました。これらの問題を
解決することができるのが、Optimus の品質工学機能で、本
機能では直交表への因子の自動割付から、シミュレーション
の自動実行、要因工数図や分散分析表の表示まで、パラメータ
設計に必要とされる全てのステップを自動化することができ
ます。これによって、本質的ではない単純作業を削減し設計検
図 2 UCA の一例
討の本質に注力することが可能になります。
4. 誰もが気軽に利用できる環境
一般的には PIDO ツールというと、
「解析のエキスパートだ
けが利用する敷居が高いツール」と思われがちですが、短期間
で設計品質を向上し業務効率を改善することができる、とい
う効果を考えると、製品設計に携わるできるだけ多くの開発
者が利用することが望ましいと言えます。実際に、PIDO ツー
ルで確認することができる、
「どの入力値が目的に対し大きく
影響を及ぼすのか」といった寄与度や、
「A というパラメータ
が変化したときに、B はどうなるか」といったパラメータ同士
の相関性は、設計者自身が確認しその知識を設計に活かすこ
とが理想的です。
5. 最後に
PIDO ツールは自動化・統合化・最適化の基本機能でユー
ザーに受け入れられていましたが、時代と共にツールは進化
します。今利用している PIDO ツールが、本当に自分たちに
とって最良であるのか、PIDO ツールを利用することが目的
になってしまい、自分たちの本当にやりたいことに制約を課
してしまっていないか再確認してみてください。本記事で紹
介したとおり、開発期間の短縮・不確定要因の考慮・簡単に
利用できる環境をご提供している Optimus は、ユーザーの
ニーズを解決することができる唯一の PIDO ツールだと当社
は自信を持ってお勧めしています。
実際、Optimus の使い方自体は難しいものではなく、広く
普及されている設計者向け CAE よりも操作は簡単です。それ
にも関わらず、PIDO ツールの利用が難しいと考えられてい
るのは、組み合わせて利用するシミュレーションツールとの
接続(自動化)が難解で、多くのノウハウが必要とされること
サイバネットシステム株式会社
アドバンスドソリューション事業部 PIDO 室 室長
兼 Noesis Solutions NV CEO 古井 佐土志
が原因です。その点、Optimus では「OPENNESS」をコンセ
プトに、誰もが簡単に利用できる開かれた環境を提供してい
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CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
特集
真の最適とは
特集:最適化を考える
よく学生に「コンピュータでは絶対にできないことを挙げ
なさい」という問を出すのですが、そのとき私が最も期待して
いる答は、
「矛盾すること」です。矛盾は絶対にコンピュータ
ではできない。しかし、本当に「最適とは何か」という問題を
考えていくと、矛盾と二律背反の中でもがいた挙句に出てく
東京大学先端科学技術研究
センター
西成 活裕
教授
るものではないかと思うことがよくあります。
参考にするのは生物の世界
こうした最適化の難題を考えるとき、私が参考にしたいと
思うのは自然界です。次の例を見てみましょう。
「最適化」の難しさ
「最適化」を語るときには、まず「最適」とは何か、というこ
とを考える必要があります。私は「渋滞学」というものを研究
していますが、まずは道路交通の渋滞でこれを考えてみましょ
う。下図のように目的地 D に行くために、A、B 2つの道があ
<例>
ライチョウの羽の色は夏には黒褐色だ
が、雪の降る冬は白になり、これにより
外敵から見つかりにくくなる。しかし年
によっては暖冬で雪が少ないときもあ
るとします。A は広くて走りやすいが遠回り、B は細道で走
る。まさか気候を予測することはでき
りにくいが近道です。さて、今、10 人が O 地点から D に向か
ない。では、この鳥は何色の体毛が最
うとして、全員が近道の B を走ると渋滞します。そして B では
適か?
車の数に比例して所要時間が増えるとすると、実は 10 人のう
ち半分の 5 人に A を走ってもらえば全員の走行時間の総和は
何色の体毛がライチョウにとっては最適だと思いますか?
最短になります。しかし、A を選ぶ人たちにとっては不便か
人間はこういうとき、中間を取って解とする癖があります。雪
もしれません。これは、交通工学では、
「システム最適化配分
の多い年3年の後、少ない年1年が続いたとすると、
「5年目
と利用者均衡配分」
というテーマで語られる問題です。つまり、
は、白3:黒1で混ぜた灰色の体毛がベスト」といった答を出
自動車運行状態全体の最適とドライバー個人の最適(ハッピー
しがちなのです。トレードオフによる落としどころに落ち着
度)がずれることがある。換言すれば、全体最適と局所最適は
けるのが人間の出す解の特徴だとも言えるでしょう。しかし、
必ずしも一致しないということです。
ライチョウがもし灰色になったら?当然ながら、雪が多い年・
少ない年いずれの年にも擬態しにくくなり、捕食の危険のみ
高まります。自然界ではどうなっているかと言うと、雪の多い
冬でも黒褐色のライチョウがある割合でちゃんといる。これ
はもちろん最適ではありませんが、絶滅を避けるという意味
では素晴らしい知恵です。
A
B
この例のように、自然は人間の好むトレードオフ的な解決
手段を採らないことが多いのですが、それで私が思い出すの
は、トヨタ自動車の有名な「ジャストインタイム」と呼ばれる
生産方式(カンバン方式)です。これは、簡単に言えば、部品在
庫を持たないよう後工程で加工した分だけ前工程で生産して
もらう仕掛けです。しかし、従来の在庫理論では、横軸に在庫・
これが最適化の最も難しい部分です。即ち、
「何を目的にす
縦軸にコストを取り、2 本グラフを書いてその交点が適正在
るか」を定めた途端に最適解が変わるということです。専門的
庫であるといった考え方をしていた。つまり、部品を大ロッ
に言えば「最適化における評価関数の設定」ということですが、
トで保管しておくと増えていく保管費と小ロットで保管し頻
この評価関数の取り方で答がまるで変わることがあるため、
その目的決定が大変難しいのです。
部分最適の積み上げは全体最適にはならない
定したわけですが、素晴らしい発想の転換だったと思います。
部品は何とかしてすぐ作ればよいと考えたわけで、トレード
部分の総和が全体であるものは、部分最適の累積が全体最
オフ的な在庫理論とは別の観点からする、別種の最適解となっ
適になります。機械の世界などは概ねそうです。ところが、生
たわけです。おそらく、トヨタは「できれば部品在庫は持ちた
物は部分を組み合わせても全体にはならない。組織も人間社
くない」ということに徹底的にこだわり、そこから演繹的に採
会も同じです。そこで、最適化を考える場合は、部分の総和が
り得る方策を考え詰めた。自分たちの目的にこだわって解を求
全体になるケースなのかどうかを、チェックすることが必要
め続けたからこそ、
「彼らの」最適解を見出せたと思うのです。
です。
10
繁に作る際の段取り費用をトレードオフしていた。トヨタの
「ジャストインタイム」は、この「経済ロット」を真っ向から否
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
準最適=“そこそこ”を狙う
前に述べたライチョウが採っているような戦略は、ある環境
<問>
成人住人 100 人の街に有名なバーが
に対して最適に進化していくのではないため、
「準最適」と呼ば
オープンし大人気である。でもキャパ
れることがあります。私は、最近、この「準最適」に注目してい
シティは 50 人で、100 人全員が詰め
て、実は「最適」より「準最適」の方が良いのではないかと考え
かけると、店内はぎゅうぎゅう詰めに
ています。まずは、そこそこのシステムを作っておく。その方
が、多少周囲の環境が変わっても、それに合わせて行こうとし
たとき、それほど大きな変更が要らず、長期的な変動にも生き
残りやすくなるわけです。
なり極めて不快な状況となる。
①家にいたがバーは混んでいた(行か
なくてよかった)
⇒ラッキー (ポイント 1 付与)
②家にいたがバーは空いていた(行けばよかった)
誰でもわかる例は、職場のコンピュータ環境をWindows7
⇒アンラッキー (ポイントゼロ)
に適合させるといったケースです。やがては Win.8になると
③バーに行ったら空いていた(来てよかった)
します。とすると、Win.7 で最適化していると Win.8 環境に
⇒ラッキー (ポイント 1 付与)
は不適合の部分が出てこないとも限らない。環境が短いスパン
④バーに行ったが混んでいた(来なきゃよかった)
⇒アンラッキー(ポイントゼロ)
で変化する場合、それに次々に適応するのは果たして良いこと
か? という疑問が当然出てきます。つまり、
完全には合わせず、
そこそこ合わせる方が良い。ベストではなく2位か3位くらい
◆全員が、1 年に何度かはこのバーに足を運ぶとして、住人
100 人全員の満足度(=全体ポイント数)が一番高くなるの
は、どんな場合か?)
の解を選んでおく。それで長期的には最適となることも多い
し、コストも抑制できる。変化スピードについていけず、息切
れしてしまうといったことも防ぐことができます。
この問題の正解は、
「1ポイント取ったら次は譲る」です。①
もう一例。京都の老舗の和菓子屋さんを研究したことがあり
だったら翌日絶対バーに行く、③だったら翌日は絶対に行かな
ます。300年、400年、中には1000年続いている店もある。
い。すると住民トータルのポイント数(幸福度と言ってもいい
そうした店の共通点は、
「急なブームなどの変化に対していち
でしょう)は最大になるのです。
いち機敏に対応しない」ということなのです。具体的には、①
この例が示しているのは、
「全体最適のためには一人で勝ち
少品種 ②売り切れ御免 ③店舗は拡大せず ④顧客増を狙わな
続けない」ということです。自分がいい思いをしたら次は他の
い。押しなべてそうです。
人に譲る。それで全体最適が得られる。これは単なる道徳では
このような例を見れば、
「何が最適か?」という問いこそ、難
ありません。数学的に証明されていることなのです。
問中の難問であることがわかると思います。特に、長期スパン
これが私の言う「全体最適」です。日本にはそうした知恵が
になり、より全体的な最適化を考えれば考えるほど、
「最適と
かつて沢山ありました。
「損して得とれ」とか「負けるが勝ち」
は何か」はわかりにくくなる。評価関数の設定が難しくなる。
といったことわざが良い例です。他の様々な民族も似た格言
しかし、この評価関数だけは、人間がある目的を設定してそこ
を持っています。そこに示されているのは、
「勝ち続けるな」
から判断せざるを得ないものなのです。
という思想です。ところが、数学的にもそれが全体最適に繋が
り他のシナリオより良い、ということが証明されました。勝ち
全体最適を考える
続けたいという気持ちを抑えて他に譲る。すると自分もその
では、どうやって全体最適を見出すべきなのでしょう。これ
うちには譲られ、ひいては全体最適が得られる。そしてそれは
は、
「人間の直感と経験に拠る」という結論にならざるを得な
数学によっても示されている。これは素晴らしいことだと思
いのですが、ポイントとして、①先読み力=長いスパンで見る
いませんか?
(=時間的視野を広く)と、②辺縁視野力=焦点を合わせ過ぎ
つまり、人間社会は無意識のうちに「全体最適」を考えて、そ
ず、空間を大きく見る(=空間的視野を広く)の2つは大切だ
のための叡智を培ってきたとも言えます。それは、エゴで生き
と思います。
るのではなくある程度利他的に行動する。良い思いは代わりば
このように考えていくと、局所最適はともかく全体最適を
んこに、ということです。そうすると社会全体の幸福度が高ま
考える限り、最適化はコンピュータには馴染まないとも言え
るわけです。
ます。100 の扉の中のたった一つが正解だとしたとき、その
最適解は評価関数が定まれば決まってきます。それは評価関
扉(=これが評価関数)を見つけるのは人間の直感であり経験
数に対して決まるだけの、ある意味、機械的なものに過ぎませ
です。扉を見つけた瞬間、その後の最適化計算は“コンピュー
ん。一方、評価関数の決め方は任意ですが、これをコンピュー
タにお任せ”で良いのですが、どの扉にも一長一短があり、相
タで「最適に」決めるということだけはできない。結局は人間
互に矛盾している。その「一長一短」や「矛盾」をどう評価する
が、モラル・哲学・世界観といった大きな見地から決めざるを
か。そこに反映されるのは世界観であり、哲学であり、人間心
得ないのです。だとすれば、最適化の問題を考えることは、長
理です。最適化の根本から人間的要素は取り除けません。機械
期的で広い視野に目を開かせてくれるものであってほしいと
的な部分はプログラムを組めばできますが、ヒューマンファ
思います。そしてまた、科学者を含め、最適化を考える人々は、
クターを含んだ矛盾をどう解くのか。最適化の根本にはその
真のソリューションは何かということをこそ、真剣に考えてい
問が横たわっているのです。
くべきでしょう。
ともあれ、最近では、全体最適の問題に数学の世界から光
が当てられつつあります。次のような問題を考えてみてくだ
さい。
11
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
特集
最適化について、ちょっと考えてみて
京都大学大学院 工学研究科 機械理工学専攻 西脇 眞二
教授
特集:最適化を考える
1.最適化について
品の設計解に大域的最適解が得られたとしても、他の部品の
は要素の性能を可能な限り最大化する、システムの変数を求め
設計諸元との調整に困ります。局所的最適解であれば、以前の
ることと言えます(数学的にはより厳密な定義がありますが、こ
解と比較して設計諸元にそれほど差がないので、調整が容易
こではそれほど厳密ではなく、これぐらいにしておきましょう)
。
なのです。また、大域的最適解が本当に良い解であると納得す
最適化の最も重要な課題の一つは、①最大化したい性能、②
ることも難しいと思います。最適解がなぜ性能向上に繋がる
対象としているシステムあるいは要素の状態、③性能を最大
かを開発者が納得することは、開発過程において大変重要で
化する際に制約となる条件を、どのように数学的に定式化す
す。それができているからこそ、
通常の開発過程では、
他の様々
るか、ということです。一般に、最大化したい性能は目的関数、
な開発要件上、最適解を少し変更しなければならなくなって
状態と制約は制約条件として定式化します。また、性能は最大
も、その変更に対応できるのです。その解がなぜ最適解となる
化し、目的関数は最小化するように定式化します。
「状態」と
かわからなければ、その最適解を最悪解に変更してしまう可
普通に言う「制約」との違いは、制約条件が陰的に、あるいは
能性もあり、非常に危険です。そういう意味においても、大域
陽的に記述されるかという違いと言えます。この定式化が所
的最適解の取り扱いは難しいと思います。もっとも、今までに
望の最適解を求める上で最も大切です。特に制約条件をどう
大域的最適解を常に求められる数学的な手法は、開発されて
するかは重要で、必要な制約は漏れなく入れておいた方が無
いませんが。
難です。その一つを忘れただけでも、最適解は最悪解になる可
一度、最適化問題を定式化すれば、後はその問題を数学的な
能性もあるからです。ただ、あいまいな制約、例えば、決まっ
最適化の方法で解いて、最適解を求めます。数学的な最適化の
ていない寸法をどう表現するか、また、システムの状態の記述
方法はいろいろありますが、最近では、遺伝的アルゴリズム
とも関連するのですが、わからない外力をどう推定するか、と
(Genetic Algorithms)
、Particle Swarm Optimization な
いったことは極めて難問です。これはもう、過去の経験に拠る
どのメタヒューリスティックな方法が利用されています。こ
としか言いようがありません。そういう意味からして、最適化
れらの方法は大域的最適解が得られる可能性を持つ上(あく
により、性能が抜本的に改善され、かつ過去には全くない最適
までも可能性で、必ず大域的最適解が得られるわけではあり
解を求めるということは、工学的には無理ではないでしょう
ません)
、その実装や取り扱いが容易なので、広く利用されて
か。所詮、制約条件の設定やシステムの状態は、過去の経験に
います。
拠らなければならないのですから。
ここで、遺伝的アルゴリズムなどを利用する場合の注意を
これに関連して、よく最適化の分野では、大域的最適解を見
一つ申し述べておきます、通常の数学的な最適化の方法は、
つけることが議論されますが、これも余り意味のないことで、
初期解が同じであれば何度やっても同じ最適解を得られま
せいぜい局所的最適解が求まれば良いのではないでしょうか。
す。従って、あるパラメータを変更させて最適解の傾向をみ
敢えて言えば、工学的には局所的最適解こそ意味のあるもの
る、いわゆるパラメータスタディを行うことが可能です。こ
で、大域的最適解が仮に求められたとしても、その解を工学的
れに対して遺伝的アルゴリズムでは、同じ初期集団から始め
に利用することは難しいかもしれません。ここで大域的最適
ても異なる最適解が出る可能性があります。従って、この方
解と局所的最適解というのは、図 1 に示したように、対象とし
法を用いてパラメータスタディを行うと、あるパラメータ
ている領域全てにおいて目的関数が最も小さい値となる解が
に対する最適解の傾向がわからなくなる可能性があるので
大域的最適解、ある限られた領域において目的関数が最も小
す。この点から、逐次二次計画法(Sequential Quadratic
さい値となる解が局所的最適解です。この意味を工学的に考
Programming)は、メタヒューリスティックな方法と比較し、
えてみれば、局所的最適解は現状のある解からの改善案を示
遙かに高い収束性を持っています。設計変数が連続変数であ
しています。これ
れば、まずは試して頂きたいです。
に対して大域的最
最適解についてもう一言。工学的な多くの最適化問題では、
適解は、性能は抜
最適解は制約条件上において得られます。殆どの目的関数は
本的には改善され
設計変数に関して単調増加、あるいは単調減少するからです。
るものの、現状の
これは工学的には妥当なことで、例えば、機械設計について考
解から全くかけ離
えてみましょう。設計過程において設計者は、ある設計諸元が
れた解になる可能
性があります。
12
いに戸惑ってしまうでしょう。例えば、大規模な製品である部
最適化とは、ある条件の中で対象としているシステムあるい
図 1 大域的最適解と局所的最適解
性能にどう影響するかを見ながら設計を進めます。ある寸法
を短くすれば性能は向上するのか低下するのか、といった検
実際の製品の設計・開発過程は、少しずつ改善を積み重ね
討を積み重ねて設計案を固めていくわけですが、これは、性能
て性能を向上させることに尽きます。このような実際の過程
と設計諸元の関係に単調性があることを前提にしています。
で大域的最適解を出された場合、寸法諸元等が全く異なって
もし、そのような単調性がなければ見通しがつかず、設計は大
いれば、抜本的な改善が可能だとしても、開発者はその取り扱
変困難なものとなるでしょう。そして、このような単調性があ
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
る問題を、最適化の方法で解けば、必ず制約条件上で最適解が
で、上述のように形状最適化が非常に有用です。しかし、全く
得られます。これは、目的関数の設計変数に関する単調性から
経験のないものを開発する際は、製造方法などの要件を検討
は当然のことです。この関係を利用して最適化問題を単純化
するよりも、まずは製品の基本的な構想を得ることが第一で
する方法として、Monotonicity Analysis が、ミシガン大学の
す。そのような構想設計にはトポロジー最適化が非常に有用
Papalambros 教授により提案されています。Papalambros
なのです。もっとも、過去の経験の多い製品であっても、構想
教授は、このような最適化問題の工学的な意味を、以前から深
設計案を抜本的に見直すことは大切ですが、現実的にはなか
くご理解されていたのでしょう。
なか難しいようです。
2.最適設計・構造最適化について
なお、トポロジー最適化であっても、このときに得られる最
適構造は局所的最適解です。ただ、目的関数を剛性最大化にし
では、次に最適設計・構造最適化について少し述べてみます。
た場合には、一般的に大域的最適解に近い最適解が得られま
最適設計の中で最適化を適用する対象が特に構造である場合
す。トポロジー最適化の基本的な考え方は、構造最適化問題を
を、構造最適化と呼びます。この場合の構造とは、例えば自動
指定した固定設計領域の中での材料分布問題に置き換えるこ
車のボディ構造・橋の骨組み構造等で、この構造に求められ
とにあります。この考え方は極めて単純で、コンピュータモニ
る性能を最大化できるような形状あるいは形態を求めるわけ
ター上に任意の図形を描画する操作や、点の描画によりキャ
です。この構造最適化の方法は大別して、図 2 に示すように、
ンバスに絵を描く点描法に似ています。
寸法最適化、形状最適化、トポロジー最適化に分類されます。
トポロジー
寸法最適化
最適化で求め
は最も簡易な
た幾つかの最適
構造最適化の
構造をお見せし
方 法 で、図 2
に示したよう
ましょう。我々
⒜ 寸法最適化 ⒝ 形状最適化 ⒞ トポロジー最適化
に、梁の長さ
や高さのよう
図 2 構造最適化の分類
の研究室で新し
く開発している
図 3 トポロジー最適化により得られた最適構造
(剛性最大化問題)
レベルセット法
な構造的な寸法を設計変数として最適化を行います。この方
に基づく方法に
法は簡単なので汎用解析ソフトで容易に実行できますが、設
よって得られた
計変数の数に限りがあり性能向上はそれほど期待できません。
結 果 で す。図 3
形状最適化は、構造物の外形形状そのものを設計変数とし
は、剛性最大化
て最適化を行う方法です。例えば、構造を有限要素モデルで表
問題に関する最
現し、各要素の節点を移動させることにより、外形形状を変更
適構造です、図
し最適構造を得る方法や、その他、外形形状をスプライン関数
4 はコンプライ
などの補間関数を用いて表現し、補間関数のコントロールポ
アントメカニズ
イントの位置を設計変数とし有限要素法を用いながら最適解
ムの設計問題に
を得る方法、予め最適構造を構成する形状モードを用意して
関する最適構造
おき、その重み付き重ね合わせで最適構造を得るベーシスベ
です。コンプラ
クトル法などがあります。寸法最適化と比較して、多くの設計
イアントメカニ
変数を取り扱うので、より高い性能をもつ構造が得られる可
ズムとは、従来
能性が高いのですが、穴の数を増減させるといった、いわゆる
の剛体とジョイ
形態の変化は基本的に困難です。しかし、そうした根本的な設
ントで構成され
計変更が行なわれない段階、即ち、詳細設計案が決まった段階
る機構とは異な
では、大変有効です。もちろん、このときに得られる最適構造
り、構造の柔軟性を積極的に利用した機構です。図 5 は熱拡散
は局所的最適解です。この点からもおわかり頂けると思いま
問題に関する最適構造です。とても綺麗で、かつ人間がなかな
すが、局所的最適解は工学的には実用的なのです。
か創造できない構造が得られていることがわかります。もち
トポロジー最適化はこれら三つの方法の中で最も自由度の
ろん、物理的に考えていけば各々なぜ最適か、納得できる構造
高い構造最適化手法です。この方法を工学的に応用する基本
にはなっていますが、何も知識ないところで、最初から人間が
的な考え方は、デンマーク工科大学の Bendsøe、教授とミシ
設計するのは難しいと思います。トポロジー最適化は、そのよ
ガン大学の菊池教授により最初に提案されました。
うな全く新しい設計を支援することができるのです。
図 4 トポロジー最適化により得られた最適構造
(コンプライアントメカニズム設計問題)
図 5 トポロジー最適化により得られた最適構造
(熱拡散問題)
前述のように、形状最適化では外形形状だけを設計変数と
するので、穴の数などの構造の形態を変更することは難しい
のですが、トポロジー最適化は、形態をも設計変数として変更
することができ、他の二つの方法と比較してより高性能な構
造が得られる可能性があります。また、今までに全く開発した
3.おわりに
最適化について日頃考えていることを少し書いてみました。
中には、余り論理的ではないことも述べましたが、
「楽観的」
(Optimistic)にお許しください。
ことがない新しい製品の構造を得る、いわゆる構造の創成に
も利用できます。過去の経験の多い製品の開発を行う場合は
その経験を利用する方がより現実的な最適構造が得られるの
13
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
特集
レンズの自動修正と局所最適化での不思議
渋谷 眞人
東京工芸大学 工学部 メディア画像学科 教授
特集:最適化を考える
1.はじめに―レンズ設計の基本―
パラメターを動かしたりレンズを追加したりします(この作
レンズの実際の設計は、多くの場合、まず似たような設計仕
業はあまり文書化されておらず、ここに設計者のセンスの差
様の従来光学系を探してきます。設計にとってもっとも重要な
が出てくるようです)
。その後、変化表に基づく作業を再び進
仕様であるFナンバーと画角をほぼ満足することが必要で、そ
めていきます。
の次に焦点距離が大きく違っていないことが望まれます。次
にこの従来光学系を基本に、設計パラメター(曲率半径・レ
2.レンズの自動設計
ンズ厚さ・空気間隔・ガラスの屈折率・ガラスの分散(波長が
(1)式を解くだけなら、計算機に全て任せる方が効率が良
変わったときの屈折率の変化を示す指標)など)を変え、収差
いわけで、それがレンズの自動設計です。様々な収差を補正し
が小さくなるように設計していきます。物体の一点から出た
なければなりませんから、目標はベクトルで考える必要があ
光は像面上の理想的な一点に集光することが望ましいのです
りますが、収差補正の良し悪しを単一の値(スカラー)で代表
が、実際はそのようには集光しません。この乖離が「収差」で、
する評価関数というものを考えます。直接には評価関数を考
これを小さくするのがレンズ設計の仕事です。収差が小さく
えない自動設計もありますが、以下に示す評価関数を考えた
ならないときには、レンズを追加したり、さらには非球面を用
定性的な説明で、同じように理解して良いと思います。評価関
いたりして、設計を進めていきます[1]
。計算機がこの作業を
‒ との残差の 2 乗和であり、次
数は各収差の現在値yi と目標値y
i
自動的に行うことを自動設計、あるいは自動修正と言います。
式で表されます(実際には収差によって重み付けを行います)
。
私がレンズ設計を始めた 1977 年頃には計算機の能力が十
(2)
分でなく、レンズの自動設計は少なくとも会話型では殆ど使
われていませんでした。しかし、当時でも大型計算機との会話
(TSS:Time Shearing Systemといって、20個くらいの計算
機端末が大型計算機の CPU を順番に使う仕組みです)で、目
標である収差 yi と変数であるレンズパラメター xj との間の線
型な関係 aij ≡ ∂yi/∂xj を求めていました(もちろん実際には線
型ではありません)
。行列 A は変化表と呼ばれ、収差 n 個とパ
ラメター m 個の微小変化を Δyi、Δxj とすれば、これらの関係
は次式で表すことができます。
(1)
図 .1 評価関数の大域的変化
図.1は、横軸がパラメター、縦軸が評価関数φです。ここで
はパラメターが一個ですが、実際には m 個のパラメター全て
14
n>m のときには、一般には等号を成立させることはできま
を考えることになります。パラメターを評価関数が減る方向
せんから、等号はできるだけ近づけるという意味になります
に変化させることで収差補正(自動設計)が行われます。ただ
(端的には後述する評価関数を小さくするということになりま
し、
(1)式はあくまでパラメターの変化量と収差の変化量と
す)
。
(1)式から(あるいは変化表 A から)
、どのパラメターが
が線型な関係にある範囲でしか成立しないので、少しずつ動
どの収差に影響するかということは一目瞭然です。そこで、あ
かしていきます。最終的に、初期値 A から局所最適値 B に行き
るパラメターを大きく動かしてある重要な収差を大きく改善
つくことになり、これを局所最適化(Local Optimization)と
させる試みがなされることになります。さらに精細に収差を
呼びます。大局的には C の方がより優れているのですが、局所
良くするために、変化表から、重要な収差とそれに対して効果
最適化では C に行くことはできません。この C に行くための手
の大きいパラメターとを同じ数だけ選び、連立 1 次方程式を
法が大局最適化(大域的最適化、Global Optimization)です。
解いて、収差補正を進めることができます。変化表は線型な領
詳細はここでは述べませんが、いろいろな大局的最適化の
域にしか使えないので、徐々に収差低減を進めることになり、
手法が提案され、実際に使われています。局所解に陥ったとき
また時々変化表を取り直すことになります。これがレンズ設
にここに土盛りをして、隣の局所解へと誘導させる方法があ
計の基本作業なのですが、実際には行き詰まることが殆どで
り[2]
、非常に実践的な手法と考えられます。Simulated −
す。ここで変化表をじっくり見ても、収差間の相関から、この
Annealing という方法もあり、これは、パラメターをランダ
レンズタイプは収差補正が容易なのか困難なのか見えてきて、
ムに変化させて、収差が悪くなるような場合であっても、適
行き詰まった理由が分かります。行き詰まったときには、変化
当な確率(ボルツマン分布のように与えるので Simulated −
表から予想されるものとは全く異なるような思考で、大きく
Annealingと呼ぶ)でそれを採用して、改めて局所最適化を行
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
うものです。あるいは遺伝的アルゴリズムという方法もありま
図 .1の説明から、局所最適化による自動修正では、評価関数
す。遺伝の考え方によって、2つの親データから外挿したデー
が小さくなる方向にしか変化しないように見えます。しかし、
タも適当な確率で存在できるようにした上、さらに最良デー
実際に局所最適化を行ってみると、
(2)式で表される評価関
タだけでなく悪いデータも残すようにして、遺伝の操作を繰
数が一度は大きくなってから再び小さくなることがあります。
り返して行ない最適化を進めていくやり方です[3]
。Code-V
このことを肌で感じているレンズ設計者も多くいるかもしれ
には Global Synthesis と呼ばれる大局的最適化が備わってい
ませんが、公の場では殆ど話題になっていないようです。この
ます。私の研究室でも用いたことがあるのですが、レンズの追
現象は自動修正を理解し、発展させる上で重要な示唆を与え
加も行ってくれるもので、非常に有効な最適手法でした。この
ているようにも思えるので、ここで紹介します。
ように一口に大局最適化といっても様々な手法があり、局所
図 .2 は初期のレンズデータです。これに Code-V で局所最
最適化に近いものから、大きく異なっているものまで様々で
適化を行いました。デフォルトで与えられた評価関数(
(4)式
す。局所最適化あるいはそれに近いものは自動修正、大局的最
ではなく(2)式に相当)の値の変化を図 .3 に示します。評価
適化を自動設計と、区別して呼ぶこともあります。
関数が一度大きくなって再度小さくなっていることがわかり
なお、自動設計は単に設計効率を高めるだけではありませ
ます。最終的に得られたレンズ形状を図 .4に示します。
ん。極限の収差が要求されるステッパー光学系の設計などは、
この自動設計が使えないとすると、まず設計自体ができない
でしょう(古典的な光学の教科書には、ストレール強度が 0.8
より大きければほぼ無収差と考えられるというマーシャルの
基準が書かれていますが、現在のステッパー光学系は広い視
野全域で0.99 程度が要求されています)
。
3.局所最適化に見られる不思議
現在、極めて一般的に用いられている局所最適化手法であ
る DLS 法(Damped Least Squre)について簡単に述べます
[1,4]
。
(1)式の線型な関係はパラメターの変化量 Δx が小さ
図 .2 自動設計初期値
ければ成立します。そこで、パラメターの変化量の目標値をゼ
ロ(零)として追加することで、パラメターが大きく動かない
ようにしたものがDLS法です。この関係を式で書けば、
(3)
図 . 3 評価関数の変動
と表すことができます。ここで、ρ はダンピングファクターと
呼ばれるもので、これが大きいほどパラメターが変化しにく
くなるのです。I は m × m の単位行列です。自動修正の目標と
しての「評価関数」を
(4)
とします。すでに
(1)
(
、2)
式のところで説明したように、
(4)
式右辺第1項の中の yi は収差の現在値、Δyi が線型の範囲で予
‒ が収差の目標値(理想値)です。第1項は収
想される変化量、y
i
差だけによる本来の評価関数φであり、第2項がパラメター
の変動の効果です。すべてのパラメター Δyj による評価関数
φ′
の微分(偏微分)がゼロになるとして、次式のように解が求
まります[1,4]
。
図 . 4 自動設計最終値
DLS では、パラメターの変化分の効果は、図 .5 の点線に示
すように、現在地を頂点とした放物線で描かれるわけで、これ
を追加しても、全体の評価関数は太い実線のようになるだけ
で、局所最適値から抜け出せるようには思えません。それでも
実際には、多くの収差やパラメターを考えていることや、目標
(5)
とする評価関数φ′にパラメター自身の変化が加わることか
ら、元の評価関数φが一度大きくなり再び小さくなるという
15
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
こともあるのでは ? と考えるかもしれません。あるいは、たま
1を越えることになります(図 6ではγは 0.5くらいですが、実
たま山の高さや幅が小さかったから、偶然乗り越えてしまっ
際のレンズ設計では 0.1 といったさらに小さい値から出発し
たということも、あり得なくはないと思います。しかし、DLS
ます)
。
(2)式で表される評価関数φの、自動修正の各サイク
以外の、それも極めて単純に連立方程式を解くような手法に
ルごとにその変化を見ます。このときφが大きくなっても同
おいても、同じように評価関数φが一度大きくなって、改めて
時に達成予想比 γ が大きくなるようなときには、殆どの場合、
収束することがよくあるのです。それも、最初の数回だけでは
そのうちに評価関数φが小さくなってきます。この経験則を
なく、ずっとφが大きくなって行くようなときでも、最後には
模式的に書くと図 . 7のようになります。γ が1を越えたとき
収束するのです。
に評価関数φが収束してゼロになります(このプログラムでは
n<m なので、評価関数φは収束するとゼロになります)
。しか
し、φが大きくなるときに γが小さくなるようなときには、φ
が再び小さくなることはないのです。
このように、非常に単純な数学的処理であっても、評価関数
の山を越えていくのです。これを「局所最適化の不思議」と、本
稿では呼ばせてもらいました。
「達成予想比」γという指標を
考えることで、収束する場合と収束しない場合を、自動修正の
初期から把握できるという経験則を紹介しましたが、その明
確な解釈は得られていません。ここには、局所最適化の改良に
つながるヒントが隠されているように思えます。DLS におい
図 . 5 評価関数の変化
てもこの γに相当する指標を、打ち出すようにしてみてはどう
(1)式の連立方程式を単純に解こうとすると、実際の収差
でしょうか。
では独立ではないものが多く、目標の収差の数nをパラメター
の数 mより小さくしないと(n≦ m)
、きちんとした解にはなり
ません[5]
。そこで n ≦ m となるように目標収差とパラメター
を選びますが、単純にn元連立1次方程式を解くならば、パラ
メターが m − n 個余ってしまいます。残ったパラメターも有
効に使うことが望ましいので、図 .6 のように解を求めること
にします。図 .6 では、簡単にするため、目標収差の数を 2 個
、パラメターの数を 3 個(Δx1、Δx2、Δx3)としてい
(Δy1、Δy2)
ます。各パラメターによる収差の変化ベクトル a1,a2,a3(これ
は行列 A の列ベクトルに相当する)が線型性の成り立つ大き
さとして、Δxi の絶対値が 1 より大きくならない範囲で解を求
めることになります。つまり、目標値に向かうベクトルが、こ
の 3 つのパラメターで作る多面体の表面を突き抜ける位置を
Δx の解とすることになります。図 .6 の例では | Δx1 |= 1、
図 .7 図 6 に示すような自動修正での、評価関数φと目標達成率
γの推移例(模式図)
。途中でφが大きくなってもγが大き
くなる時は再び収束する。
4.まとめ
| Δx2 |= 1、| Δx3 |< 1 です。この計算を、目標に達するま
レンズの自動設計について概要を述べ、
「局所最適化につい
で繰り返し行ないます。
ての不思議」について紹介させて頂きました。かなり以前から
面白い現象だと思いながら、いまだにきちんとした検討がで
きていないのですが、この現象を解明することは、局所最適化
だけでなく大局的最適化の改良にもつながるのではないかと
考えています。
もしかすると、私が大げさに取り上げているだけで、レンズ
自動設計の開発者にとっては、あるいはレンズ設計の名人に
とっては当たり前のことなのかもしれませんし、あるいは、他
分野では良く知られていることなのかもしれません。もしご
存知であれば、忌憚なく教えていただければ、大変有難く思い
ます。
図 . 6 多面体表面を解とする自動修正
参考文献
(1)渋谷眞人:
「レンズ光学入門」
(アドコムメディア ,2009)7 章
ここで、目標までの距離 L0 に対する多面体表面までの距離
L の比 γ
(6)
を、
「達成予想比」と定義します。目標を達成するときは、γ は
16
(2)M.Isshiki, H.Ono, and S.Nakadate; ”Lens Design: An Attempt to
Use‘Escape Function’as a Tool in Global optimization”, Opt Rev.
Vol.2 No.1 47-51(1995)
(3)小野功、立沢嘉浩、小林重信「単峰性正規分布交叉を用いた実数値遺伝的アル
ゴリズムによる光学系の最適化」光学 vol.28、No.12、650-656(1999)
(4)松居吉哉「レンズ設計法」
(共立、1972)
(5)大木裕史「レンズ設計における特異値分解の応用」光学 vol.13、No.6,490496(1984)
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数式・数値ハイブリッドなプラントシミュレータ
MapleSimとソフトウェアモデルが融合。
高精度・高速シミュレーションが組込みシステム開発を加速!
「ZIPC 」
「MapleSimTM4.0」の連携ソリューション
『MZSim』
『MZCom』リリースのお知らせ!
「MZSim」
「MZCom」は、数式を元にした制御対象モデルを作成し、数式・数値でのハイブリッドなシステム・シミュ
レーションを可能にする複合物理モデリングツール「MapleSim 4.0」と連携することにより、従来の数値解析の課
題であった誤差や安定性、シミュレーション速度の問題を解決するソリューションを提供します。
MZSim のソリューション
「MZSim」は MapleSim 上で、ZIPC で作成さ
れた状態遷移表、状態遷移図を含めたシステム・
レベルの検証を行うことができるソリューショ
ンです。数式を元にしたプラントモデル作成、及
び数式・数値でのハイブリッドなシステム・シ
ミュレーションを可能にする MapleSim と、状
態遷移表を元にしたコントローラ設計を可能に
する ZIPC を連携させることで、数値解析では実
現困難な高精度で高速なシステム・レベル・シ
ミュレーションを実現しました。
MZCom のソリューション
「MZCom」は要件管理ツール ZIPC SPLM のア
ド オ ン 製 品 で す。MapleSim モ デ ル や ZIPC
AUTOSAR のモデルを部品単位で管理するこ
とができます。要求仕様、物理モデル(制御対
象)、構造モデル、振る舞いモデル、実装、試験、
レビュー結果など、開発プロセスの各段階の成
果物間の対応関係をデータベース管理すること
ができます。 これにより設計のヌケ・モレの防
止や変更に対する影響範囲の検討が容易になり、
ソフトウェアの品質や生産性を向上させること
ができます。
モデルベース開発事業部
お問い合わせは
TEL 03-5297-3255
E-mail [email protected]
URL: http://www.cybernet.co.jp/zipc/
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CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
開発元のある
風景
Maplesoft 社本拠地 カナダ・オンタリオ州ウォータールーから
業、金融サービス関連の企業などが、拠点を構えています。近
1.はじめに
Maplesoft(メイプルソフト)社は、1980 年 11 月にカナ
ダ・オンタリオ州にあるウォータールー大学で始まった数式
処理システム『Maple』開発プロジェクトに端を発し、1988
年に『Maple 』の開発・販売・サポートを目的に設立されま
した。
『Maple』は、いまや全世界多くの理工系学生や研究者
に親しまれている数式処理システム・技術計算環境となって
います。また 2008 年にリリースされた複合モデリング環境
『MapleSim』は、手軽に数式モデルを用いた設計を実現する
コンセプトが、多くの産業分野のエンジニアに支持されてい
ます。
年、ウォータールー市には、ウォータールー大学の優秀な学生
や研究者と共同研究を進める企業の進出が目立っており、携
帯電話「ブラックベリー(BlackBerry)
」で知られる RIM 社
(Research In Motion )
は、
本社を同市に構えています。また、
Microsoft、Google、OpenText、Sybase 等が、研究拠点
を大学の近隣に設けるようになってきたことでも知られてい
ます。もちろん、私たち Maplesoft 社の従業員で最も多いの
は、ウォータールー大学の卒業生です。
Maplesoft 社は設立以後も定期的に、ウォータールー大
学と Maple 本体の数式処理アルゴリズムの開発から工学分
野への応用など、様々な研究開発プロジェクトを続けてきて
います。近年、ウォータールー大学には、自動車や高度交通
システム、クリーンエネルギーの研究開発を行う「WatCAR
(Waterloo Centre for Automotive Research)
」と呼ばれる
プロジェクトセンターが設立されており、
北米自動車メーカー
に加えて Maplesoft 社も『MapleSim』をベースとした自動
車諸分野の研究活動に協力しています。
このようにウォーター
ルー市は研究学園都市の機能を多く持つようになり、カナダ
全体の中でも急成長を遂げる都市のひとつとして知られるよ
うになっています。
観光路線用の Waterloo 駅舎
2.ウォータールーについて
ウォータールーは英語で「Waterloo」と書きますが、学校
の歴史の授業で習った、ナポレオンⅠ世の最後の戦いである
「ワーテルローの戦い」も実は「Battle Of Waterloo 」と書きま
す(実際に戦場となった場所は、現在のベルギーにあります)
。
さて、カナダ・オンタリオ州にあるウォータールー市は、ト
市内中心部にある Waterloo Park
ロント・ピアソン国際空港から車で南西に 1 時間半程のとこ
ろに位置しています。
隣にあるキッチナー市(Kitchener)と併せて、Kitchener
‐ Waterloo(略して KW)と称されることもあり、人口約 12
万人。ドイツ系移民のコミュニティとして知られるセント・
ジェイコブス村がある一方で、コンピュータサイエンス分野
で北米トップクラスを誇るウォータールー大学や多くの IT 企
18
セント・ジェイコブス村で開かれているファーマーズマーケット
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
Maplesoft ミーティングルームにて
4.ウォータールーの名物といえば・・・
ウォータールー大学の工学部校舎 エコカープロジェクト試作車両
3. Maplesoft オフィス紹介
カナダ土産として代表的なものはもちろんメイプルシロッ
プですが、中でもセント・ジェイコブス村で作られるシロッ
プは高級品として知られています(ファーマーズマーケット
の直売所では、安く手に入ります)
。
Maplesoft の本社オフィスは、ウォータールー市の北部、
その他にも、
ウォータールー市の地ビールとして
『Waterloo
セント・ジェイコブス村のファーマーズマーケットに程近い
Dark』という黒ビールが有名です。日本で黒ビールというと
オフィスパークにあります。従業員約 120 名のうち 60% 以
重い感じがしますが、この『Waterloo Dark』は喉越しも比較
上が世界最先端の数式処理技術の研究・開発等の技術関連業
的軽く和風の料理にも合うため、日本人にも飲みやすい黒ビー
務を行っており、技術系社員の 70% 以上は数学や工学等の博
ルとしてカナダ国内でも知られています。また、旧シーグラム
士号保有者です。また、本社では北米地域の直接販売とマーケ
の蒸留酒工場もウォータールー市中央部にあり、いろいろな
ティング活動などを担当しています。
お酒が楽しめる街でもあります。
Maplesoft 社では、社員の健康に対して常に万全の注意を
カナダに来る機会がありましたら、是非、ウォータールー市
払うため、社内に社員が自由に使えるトレーニングジムを保
にも足を伸ばしてみて下さい。
有しています。冬場は外気温が氷点下 20 度近くまで下がるた
め、季節を通して多くの社員が体を動かす場として、このジム
を活用しています。
旧シーグラムの蒸留酒工場
Waterloo Dark の黒ビール
Maplesoft のオフィス外観と経営陣(右から 3 人目が筆者)
Maplesoft 社 上級副社長
山口 哲
19
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
CAE ユニバーシティ
CAE ユニバーシティ
制御に関する運動と振動のモデル化
第2回
「アクティブサスペンション制御系設計のためのモデリング」
東京大学生産技術研究所 准教授 中野
公彦 先生
サイバネットは、エンジニアのための理論教育講座「CAE ユニバーシティ」を主催しています。このコーナーではその
「特別講座」として、講師の方などに専門分野をわかりやすくご紹介いただきます。
はじめに
前回は、円柱を例に、連続体の振動のモデリング手法の一例
を紹介しました。今回は、自動車や鉄道車両で乗り心地の向上
を目的に設置されているアクティブサスペンションについて
解説し、大型車のアクティブサスペンションのモデリング例
を紹介します。
アクティブサスペンションとは
アクティブサスペンションとは、車体等に加速度計などの
センサを設置し、その信号に基づいて、サスペンションに取り
付けられているアクチュエータが力を出すことにより、車体
の姿勢変化を抑え、乗り心地や運転性能を向上させるもので
図2
す。ばねや減衰器(ダンパ)などのパッシブ(受動)な要素に対
して、アクチュエータというアクティブ(能動)な要素を用い
るため、アクティブサスペンションと呼ばれています。油圧ア
クチュエータを用いたものが 1980 年代に乗用車にて実用化
されています。また、鉄道においても、空気圧アクチュエータ
を用いたシステムが、新幹線用車両に設置されています。この
ようなアクティブサスペンションを、大型車で実現するため
のモデリングを考えてみます。
サスペンションのモデル
アクティブサスペンションの制御系を設計する際には、図 1
に示すような 1/4 車両モデルと呼ばれるものが良く利用され
ます。車両の上下振動のみに着目したモデルであり、4 つあ
るサスペンションを 1 つづつ切り出したような形になるため、
このように呼ばれています。2 自由度系となり、比較的扱いや
図3
すいモデルです。また、図 2 に示すような 1/2 車体モデルと呼
ばれるものもよく使われます。これは、進行方向に平行な線で
車体を半分にしたようなモデルであり、乗り心地に大きな影
響を与えるピッチングを考えることができます。タイヤは上
下の動きのみを考慮するので、4 自由度系となります。一般的
フレームのねじれを考慮した大型車のモデリング
な自動車の場合、前の方が重いので、重心位置はやや前方にな
大型車は、乗用車と異なり、車体(フレーム)の上に、4 つの
ります。図 3 に示すような 1 車両モデルも存在します。ピッチ
キャブサスペンションを介してキャビンが置かれている構造
ングに加え、ロールも考慮することができるようになります。
になります。また、後輪も2軸あることが多いため、図 4 に示
すように 1 車両モデルでは、3 自由度(上下、ロール、ピッチ)
のキャビン、3 自由度(上下、ロール、ピッチ)のフレーム、1
自由度(上下)のタイヤ 6 つとなり、12 自由度系となります。
なお、ロール剛性を向上させるスタビライザが入ることも多
いのですが、ここでは省略しています。
今まで紹介したモデルは、車体が質点もしくは剛体である
ことを前提に考えています。しかし、大型車のように全長が長
い車両は、ねじれのような弾性変形が生じやすく、それが車両
の運動性能を悪化させることが考えられます。ねじれを抑え
図1
ることができるアクティブサスペンションを実現するための、
大型車のモデリング手法の一例(1)を紹介します。
20
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
大型車のフレームをねじれやすい円柱と考えます。前回説
明しました通り、その場合のねじれ方程式は以下のようにな
ります。
∂ 2θ (x, t ) GJ ∂ 2θ (x, t ) τ (t )
δ (x − p )
=
+
I0
I0
∂t 2
∂x 2
(1)
ただし、時間を t、円柱の左端を原点として軸方向の座標を
x、ねじり角 θ(x,t) を、円柱の横弾性係数を G、極断面二次モー
メントを J、単位長さ当たりの極慣性モーメントを I0、外部か
らのねじりモーメント入力を τ、その入力位置を p、δ(t) をデ
図4
ルタ関数とします。
計 10 か所のサスペンションからの反力のモーメントが外部
ねじりとしてフレームに入力されることになります。各サス
1 つのモードに着目すれば、状態方程式を導くことができま
ペンションからの入力を fi、各サスペンションの位置を pi 、中
す。これにより、最適制御などの現代制御理論に基づいて制御
心軸と各サスペンションの距離を li とすると(ただし、i はサ
器を設計することができるようになります。後輪の2軸にア
スペンションの番号とする)
、ねじり方程式は以下のようにな
クティブサスペンションを搭載した大型車がレーンチェンジ
ります。
をする時の後輪2軸目のフレームロール角(左右のサスペン
ションのストローク差をトレッドで除したもの)を図 5 に示し
(2)
さて、フレームは両端自由なので、モード形状は余弦波状に
なります。サスペンションの力によってモード形状は変化し
ないと仮定し、車両の運動性能に影響を与えるのは 1 次モー
ドであると考えれば、時間関数 q(t) を用いて、ねじり角を以下
の式によって表わすことができます。なお、C は定数です。
θ (x, t ) = C cos
π
l
x q (t )
(3)
ます。制御の効果が表れていることがわかります。
ḿぜ໩
ᚃ㍧㻕㍀䝙䝰䞀䝤䝱䞀䝯ぽ
∂ 2θ (x, t ) GJ ∂ 2θ (x, t ) 10 f i l i
δ (x − pi )
+∑
=
I0
∂ x2
∂t 2
i =1 I 0
㻃
㻔
㟸โᚒ
โᚒ䛈䜐
㻓㻑㻘
㻓
㻐㻓㻑㻘
㻐㻔
これを、
式(2)に代入したねじり方程式の両辺に、
1 次のモー
㻃
㻓
㻕
ド関数を乗じ、x=0 から l まで積分を行うと以下の式が得ら
π
d 2q (t )
+
l
dt 2
2
π
2 10 f l
GJ
q (t ) = ∑ i i cos
p
I0
l i =1 I 0
l i
(4)
㻛
㻔㻓
図5
れます。
㻗
㻙
᫤㛣㻋⛂㻌
最後に
また、fi は、進行方向右側後輪 2 軸を考えると、サスペンショ
ねじれとサスペンションのダイナミクスを組み合わせた大
ンのストローク z2i とアクチュエータ出力 ui を用いて、以下の
型車のモデリング例を紹介しました。なお、ねじれを表現する
ように表わされます。なお、項の前の符号はサスペンションの
際には、車体を適当な場所で、前部と後部に分け、それらをね
位置によって変わります。
じりばねで接続するような集中質量系でモデリングを行うこ
ともあります。各パラメータの値を実験値で合わせこめば、こ
f i = − c i z 2i − k i z 2i + u i
(5)
また、タイヤの質量を mi、タイヤの変形量を z0i、路面凹凸
を z0i とすると、その運動方程式は以下のようになります。こ
こで、相対変位を用いているので、外乱(路面凹凸)は加速度
項として表れます。
場合は、後輪に2つの軸があるため、集中質量系では、車体を
切断する位置によって、ダイナミクスが大きく変化してしま
う可能性がありました。そのため、モード形状を考慮すること
により、1 つのフレームを 2 つに切断しなくても良いモデリ
ングを行いました。モデリングは、制御対象となる系の特性や
制御を行う目的などに応じて、最良と思われるものを選択し
mi z1i = − ci z1i − k i z1i + ci z 2i + k i z 2i − u i − mi x 0i
の手法でも十分に役立ちます。しかし、今回のような大型車の
(6)
ていく必要があります。
このようにして、全てのサスペンションに対して同様の方
程式を記述し、
フレームの剛体モードの運動方程式(上下、
ロー
ル、ピッチ)を組み合わせれば、ねじれを考慮した車両の方程
式が導かれます。
参考文献
(1)中野公彦,平山勝彦,鈴木啓祐,須田義大,小林こずえ,木下和人,佐々木隆,
上妻文英,伊藤隆,車体のねじれを考慮した大型車用電磁サスペンションの
制御系設計,自動車技術会論文集,40 巻 6 号,1423-1428(2009).
21
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
CAE ユニバーシティ
エンジニア向け理論教育
CAE ユニバーシティ力学系講座が目指すもの
東北大学大学院工学研究科 准教授 寺田
1.はじめに
CAE ユニバーシティが開講したのは 2007 年の秋ですが、
当初から「FEM 原理」を担当し、サイバネットの担当者と一緒
賢二郎 先生
体系的に学習できる環境を作ることことに責任を感じており、
NPO の活動や、CAE ユニバーシティを通してこの分野に貢
献したいと考えているのです。
に実習や力学など FEM 関連の各講座をコーディネートして
きました。 CAE ユニバーシティの内容については、これまで
3.シミュレーション・数値計算・解析
この「サイバネットニュース」でも何度か紙面が割かれてきた
ここでいまさら「CAE とは何か」を述べるつもりはありませ
ようですので、ここでは「計算力学に基礎を置く CAE」に特化
んが、
CAE の定義に用いられる「シミュレーション」
「計算」
「解
して、大学でいえばカリキュラム策定委員としての立場から、
析」という用語の意味を確認しておきましょう。
CAE ユニバーシティとはどのようなものなのか、どうあるべ
「シミュレーション」は設計対象に関する物理現象を“模擬
きなのか、について説明したいと思います。
する”ことを意味しますが、CAE ではその主体(すなわちユー
ザ)が必要なデータを揃えてソフトウェアを実行すれば、
“もっ
2.CAE“ユニバーシティ”の語感
“ユニバーシティ”の和訳は、言うまでもなく学術研究お
よび教育の最高機関である“大学”ですが、
「CAE ユニバーシ
ティ」は、サイバネットという一企業が提供し、研究を主眼と
しないので、厳密にいえば学校教育法の定める大学とは異な
ります。また、単独の講座だけ見ると、同社が提供している講
習会やセミナーとの区別がつきにくいのも事実です。しかし、
少なくとも教育機関としての大学に近い理念を掲げ、同等以
上の知識レベルを提供する、新しいかたちの CAE 教育システ
ムとして設立されたものであり、
(後述するように)
“ユニバー
シティ”としての語感が保たれるよう配慮されたカリキュラ
ともらしい”結果が出力され、これが正しいものと信じて設計
支援を行っています。この際、ソフトウェアの中身は基本的に
非公開の場合が多いので、ユーザがこれをブラックボックス
として扱えば、ソフトウェア内部で行われている「数値計算」
を無視したことになります。一方、ソフトウェア内部での「計
算」を意識することは、計算対象となる「数式」を意識したこと
と等価です。それによってはじめて物理現象がクリアになり、
計算結果に対する分析、すなわち「解析」が可能になるのです。
つまり、厳密には「シミュレーション≠解析」であり、
「計算の
内実=理論」を知らなければ“≠”は“=”になり得ないことに
なります。
ムが提供されています。
「CAE ユニバーシティ」の特徴として第 1 に挙げられるの
は、計算力学関連の講座を担当するすべての講師が大学の教
員であることです。私たちは、もちろん研究もしますが、講義
を通して学識を普及することを使命とする教育者でもありま
す。そして、私たちの CAE ユニバーシティでの教育方針は、大
学における学部生・大学院生に対する教育同様に社会人教育
を目指しています。学校教育法(第九章 大学)的にいえば「
(中
略)広く知識を授け(中略)知的、道徳的及び応用的能力を展
開させることを目的とし、
(中略)その成果を広く社会に提供
することにより、社会の発展に寄与する。
」という意識で臨ん
でいます。
そのような教育は本来大学で行うべきではないか、との批
判もあろうかと思います。しかし、残念ながら現在の大学の
教育システムでは、
“CAE によるものづくり”という観点は希
薄で、CAE の中枢を担う計算力学・計算工学は学際領域とし
て認識されているものの、従来型の大学教育にはなじみませ
ん。すなわち、大学の工学系の学部・大学院のほとんどが、機
械・航空・造船・原子力・土木といった近代以降に成立した
縦の分野割を堅固に守り続けており、CAE を基調として既存
の学問体系を構成し直すことは不可能に近いといえます。も
のづくりにおける CAE が急速に重要度を増している現実があ
る一方で、大学では CAE を基調として体系化された教育カリ
キュラムは提供されないという一種のねじれ現象は、しばら
くの間は解消されることはないでしょう。だからこそ私たち
講師は、研究・教育面で CAE に携わる大学人として、CAE を
22
図 -1:現象のモデル化・離散化と誤差
図 -1 を参照下さい。まず CAE で解析対象とする物理現象は、
数学的なモデルに置き換えられます。次にそれがコンピュー
タで扱うことのできる数値的手法に置き換えられてソフト
ウェアに実装されます。前者の物理現象の「数理モデル」の具
体形は、ほとんどの場合が偏微分方程式であり、初期値と境界
条件を合わせて「支配方程式」と呼ばれます。これに対して後
者のソフトウェア内にプログラム実装されている数式は「離
散化(支配)方程式」であり、その解は一般に厳密には偏微分
方程式を満たさない近似解となります。すなわち、CAE ソフ
トウェアの利用により得られる計算結果と実際に起こり得る
現象との間には必ず差が生まれます。それらは総称的に誤差
と呼ばれ、具体的には以下のようなものが含まれます[1]
。
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
(a)物理現象を数理モデルで表すことによるモデル化誤差:
現在のところ、CAE ユニバーシティにおける計算力学関連
の講座は、図 -2 に示す基礎講座、専門講座および実習から構
支配方程式の正当性
(b)材料データの誤差:構成則のパラメータなど
成されています。各講座は、開講に際して達成目標と受講要件
(c)形状近似の誤差:CAD 等の形状モデルから計算モデル
が示され、かつ講座間の相関も明示されているので、受講者が
自身の持っている知識と照らして、どの講座を受講すべきか、
への変換時など
(d)境界条件の設定による誤差
あるいはどのような順番で受講していくべきか判断しやすく
(e)離散化誤差:要素、メッシュ分割方法等
なっているはずです。
(f)丸め誤差:コンピュータの浮動小数点の表現性能
計算力学・計算工学に関連した CAE 教育のためのカリキュ
(g)結果の可視化等の出力に際して介入する誤差
ラムとしては、熱工学、波動・振動、各種非線形問題と、それ
計算結果にはこれらの誤差が含まれることを認識し、以下の
ぞれの問題に対する数値計算法などの講座が必要ですが、今
ような意味での「数式の理解」がなければ、シミュレーション
のところはまだ計画の段階です。これらが整ってきたところ
はできるかも知れませんが、解析はできたことになりません。
で、以下のようなコースを設定して、よりシステマティックで
(1)元の支配方程式とその解の特性
柔軟なカリキュラムへの移行が望ましいと考えています。
各変数およびパラメータの物理的意味、初期・境界条件
(1)固体の解析者コース
(2)流体の解析者コース
と微分方程式の型など。
(2)離散化支配方程式とその解の特性
(3)熱の解析者コース
元の支配方程式がどのような方法で離散化方程式に変換
(4)振動・波動の解析者コース
されているか。その離散化方程式の解はなぜ近似解なのか。
(5)設計者コース
それはどんな近似で、どの程度の誤差が含まれるのか、など。
ここで、
(1)∼(4)のコースは、現象の支配方程式、離散化
CAE ユニバーシティは、これらを学習するための講座群の
方程式、近似特性という順に学習するもので、現在開講されて
総称であり、このような意味での「解析」ができる人材を育成
いる講座を拡充する形になります。一方、
(5)の「設計者コー
するためのカリキュラムを編成しています。
ス」は設計者向けの教育プログラムとして新たに設置するも
ので、CAE ソフトウェアを用いて現象を再現し、その現象と
その数理モデル(支配方程式)に関する理解を深めることを第
4. CAE 教育カリキュラム
前述のように、CAE ユニバーシティでは大学教育のシステ
ムに倣って「ある一定の基準に照らして策定されたカリキュ
ラム」を提供しているという点で、通常の講習会やセミナーと
は異なります。すなわち、各講座は互いに有機的に関連し合っ
ており、学習する内容は、できる限り重なりのないよう、また
不足のないよう吟味されています。実際、計算力学関連の講座
を受け持つ講師は、不定期的ですがカリキュラムミーティン
グを開催して講座間の相互関係を確認・修正しています。
一目標とし、離散化や近似特性の細かい式展開については従
属的に学べるような講座を考えています。例えば、
「CAE で学
ぶ設計の力学」では、設計評価に関連した力学問題に対して、
数式から入るのではなく、まず CAE ソフトで解いてみて、現
象の把握に何が必要かを認識した上で、対応する数式の構造・
意味を学び、力学的洞察力を培うといったものです。これは、
CAE ユニバーシティならではのコース設定であり、一部は試
験的な開講を予定しています。
5.おわりに
CAE ソフトウェアに内包されている数式と数値計算を理解
することは、支配方程式そのものに加えて、離散化方程式とそ
の特性を理解することです。数値シミュレーションの結果が
“もっともらしい”だけでは設計者に対して責任を果たしたこ
とにはならず、どんな式を、どのような方法で、どのようなデー
タで解いたのかを、しっかりと認識したうえで、計算結果の分
析を行うことで始めてものづくりの現場、
設計に役立つ「解析」
ができたことになります。CAE ユニバーシティでは、そのよ
うな意味での「解析」のための理論を学ぶ場です。未だ、発展
途上ですが、CAE によるものづくり技術者の育成を通して産
業界に貢献するという目標を達成するために、受講者と講師
とが一緒になって CAE“ユニバーシティ”を形作っていくこ
とができれば幸いです。
図 -2:CAE ユニバーシティの構成(□で囲まれた講座・実習は既
に開講中。その他は計画中あるいは開講予定)
CAEユニバーシティに
ついてのお問い合わせは
参考文献
(1)シミュレーションの品質保証と現実問題への適用,
計算工学 Vol.4,
No.4,
2009
CAEユニバーシティ室 TEL 03-5297-3692
E-mail e-mail [email protected]
CAE ユニバーシティホームページ
http://www.cae-univ.com
CAE ユニバーシティ で検索下さい
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CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
「見える化」
技術
都市の環境問題を体感する
∼シミュレーションとVR(バーチャル リアリティ)で“街”を再現∼
で数値シミュレーション手法を開発するグループに、大きく
分かれて研究を行なっています。
今、最も興味を持たれているのはどういうことですか?
中央大学理工学部都市環境学科
計算力学研究室
樫山 和男教授
音の可視化・可聴化* 2)ということですね。都市の音環境に
注目しています。現在、実際に取り組んでいるのは騒音の可
視化と可聴化で、騒音の音圧レベルをシミュレーションして
います。音自体はサンプル音を使うのですが、例えば、バイク
や車ならその典型的な音を採取してきて、実際の道路でのバ
今回は、計算力学をベースにシミュレーション結果をよりよ
イクや車の騒音がどの程度のものなのかを体感することがで
く「見える化」する研究に取り組んでいらっしゃる、中央大学
きます。そのシミュレーション結果を VR 化した空間の中に流
理工学部の樫山和男教授にインタビューしました。現在、樫山
して、よりわかりやすくアウトプットする試みを行なってい
*1)
を用いてVR空間上で3
ます。つまり、空間を 3 次元的に表示して、そこに自動車音を
次元都市を創り、そこで発生しうる様々な都市環境における現
3 次元的に響かせる。そうすることで、より具体的な騒音のイ
象を「見える化」し、より判りやすい形で呈示しています。
メージが得られるわけです。
教授は、バーチャルリアリティ装置
高速道路の自動車音の可聴化にも取り組んでいますが、今
後、このような VR を利用したプレゼン手法が進んでいけば、
高速道路建設の際など、住民との合意形成を得るための有効
な説明手法となると思います。実際に「このくらいの“うるさ
さ”です」ということで、耳で感じてもらえれば、書類で騒音
の数値を読み上げるよりずっと効果的です。
まさに、
「百聞は一見に如かず」ですね。将来的には、バー
チャル観光のような形で街を体感するということもできる
ようになりそうですね
ええ、可能だと思います。現在、都市空間のバーチャル化は
ポピュラーになってきていますが、例えば、大阪なら大阪に特
有の景観(道頓堀や大阪城)というだけでなく、特有の音(大
阪弁)というものもあるわけですよね。音というのは、都市を
新宿高層ビル群の風の流れ解
析結果(下)と
それをバーチャルリアリティ
空間に表示している様子
まず、先生のご研究について簡単に教えて下さい
私のベースは計算力学で、それを基に、これまで都市環境・
防災に関する研究、例えば、都市の熱循環や風、河川や海岸の
流れのシミュレーションを研究の中心にしてきました。現在、
計算理論や情報機器の発達に歩調を併せて、シミュレーショ
ンからバーチャルリアリティ(以下、
「VR」と記す)へと研究
の幅を少し広げてきたところです。
しかし、VR をよりよく理解・運用するにも、物理現象の基
本理論や数学が不可欠であることは言うまでもありません。
そのため、この研究室では、VR 装置を積極的に使って VR 手
法の開発・応用を進めていくグループと、計算力学の方法論
24
体感するかなり重要な要素だと思うのです。それを、3 次元表
示でバーチャル化させた空間と結合させることで、その街々
の個性を感覚的によりよく把握できるようになると思います。
* 1)中央大のシステムでは、左右と床の
スクリーン 3 面に立体映像を投影す
ることで、観察者はコンピュータグラ
フィックスで作られた世界を体感する
ことができます。さらに、8 台のスピー
カーで 3 次元的な音場も再現できま
す。ソフトウエアは、
AVS/Express(シ
ミュレーションの可視化)
、FusionVR
(3 次元表示合成)
、VR for MAX(VR
シーンの記述)などを使っています。
* 2)音のシミュレーション結果をスピーカーで音として呈示することを、見え
る化→「可視化」になぞらえて、聴こえる化→「可聴化」と呼びます。
CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
ことによって今まで気づかなかったことにも気づけます。3
次元にした途端、プリプロセッシングの段階でのメッシュの
歪みや精度などにも気づくようになりますね。VR では、解析
領域の中に自分が没入する感覚を味わうことができるので、
それによって、わかる部分が増えるわけです。空間的に狭小な
ところにまで自分が入り込んでいけることで、より多くのこ
とに気づくんですね。例えば、風の流れで言えば、従来の透視
図を用いた 2 次元表現だと、流線などで風を表現するとして
も、奥行き方向の情報は正しく把握できません。それが VR に
なると、街の中に実際に自分が立っている感じになるので、そ
の場所の風の流れをより具体的に把握できます。現実把握が
より容易に、かつ正確になるわけですね。
騒音の可視化&可聴化体験の様子:この道路を正面から車やバイ
クが走ってくると、その立体映像と同時に音も通過していく。防
音壁の高さや車の速度、路面の状態等を設定することができる。
VR はこれからどんな方向に進んでいくのでしょうか
これまではVR自体の研究が多かったのですが、これからは、
VRをシミュレーションのツールとして用いる応用的な研究が
多くなってくると思います。複雑な力学現象の理解と解明に
◆ここで、都市の風の流れと、道路騒音を VR 化したシステ
VRは非常に有効な手段です。
ムを体験させてもらった。立体映像を見るためのメガネを
とは言っても、私はベースが計算力学なので、VRをこのよ
かけると、解析対象の新宿や日本橋周辺の映像が 3 次元的
うに「計算力学における表現手段」といった見方をするわけで
に立ち現れる(ただ、色は黒っぽいので、
「影の街」に立っ
ているといった感じである)
。実際に街中で周りを見てい
るように感じられ、乱立するビルの連続性や高さの違い、
奥行き方向をはっきりと認識できる。そのため、風がどの
方向から吹いてくるのかも、よりイメージしやすい。
騒音の VR 化の方は、道路に面したマンションの前を車が
すが、VRの専門家の世界では、逆に、VRの適用事例のひとつ
として計算力学を見ている人もいます。私はVRの専門家では
ありませんが、非常に拡大しながら進んでいると言える分野か
もしれません。この傾向は今後も続き、ゲーム性やシミュレー
ション性がどんどん追求されると、よりVR重視になって計算
通過するという設定で、その音を映像と共に可聴化してい
力学を飲み込んでいくかもしれませんね。誰でもすぐに理解で
る。ベランダに出たとき、窓を閉めて部屋にいるとき、道
きるというのがVRの強みで、物理学や数理計算に無縁な一般
路に面していない部屋ではどのように聞こえるか、遮音壁
の人もすぐにわかる。感じることができる。これには非常に強
を設けたらどうなるか、など様々なシミュレーションが可
い説得力がありますよ。
「一目瞭然」の世界なんですから。
能となっている。
では、最後に今後の夢を聞かせて下さい
従来の防災シミュレーションは、構造物の被害シミュレー
どちらのシミュレーションも、都市計画や建築計画にすぐ
ションが中心でしたが、将来的には人間にどのくらいの被害
役立ちそうです
が出るかというシミュレーションもやってみたいですね。今、
そうです。もう既に、風の解析(=風況解析)のシミュレー
「巨大津波が都市に来襲したら…」といった災害シミュレー
ションは、実際の建築計画に活かされ始めています。建物の出
ションに取り組み始めています。こうしたシミュレーション
現で、その周辺の風の流れがどう変化するか、といったことを
の場合、その精度を上げようとすると人間行動の把握が不可
事前に把握できますからね。しかし、街の 3 次元化表示の中に
欠です。そのためには、
「防災心理学」と言うか、災害時におけ
風況解析の結果を流すと、その理解がよりいっそう体感的に
る人間の心理や行動をモデル化しなくてはなりません。これ
なります。VR 空間そのものが、
「風洞」になった感じ。言わば、
は難しいことですが、災害時の行動モデルを作るために、VR
“バーチャル風洞”ですね。
空間内で津波を再現して津波現象を体験する人の脳波を計る
ことを始めました。こうした行動モデルは、全く無いわけでは
ただ、この VR 装置から実際の風は出ないんですよね?
残念ながら風は出ません。可視化表示だけです。実際に風を
ないのですが、まだまだ大雑把なものです。もっと精密な行動
モデルを作ってみたいと考えています。
出して、街のある一点でこんな風が吹いているというところ
までいけるといいのですが、それは、現状の機器ではちょっと
◆終わりに
難しいのです。でも、匂いなどは工夫すれば出せるので、出し
樫山先生は都市環境を考えることが大好きなので、今後も、
てみたら面白いんじゃないかと思っています。先ほどのバー
計算力学と VR をフルに活用して都市環境問題の研究を続け
チャル観光に近い話になりますが、大阪の「食い倒れ」で流れ
ていきたいとのこと。計算力学を基礎に VR を使って都市の
ている匂いとか、コーヒーの匂いとかね。
問題を「見える化」し、それによって、HQC(High Quality
Computing)を実現したい!と熱く語って下さいました。
VR にはいろいろな可能性があるのですね
樫山先生、お忙しいところ有難うございました。
その通りです。人間が感覚的に捉えることのできる表示形
式であるという点が大きなメリットですね。VR で可視化する
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CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
製品情報
AR(拡張現実感)構築ツール metaio Unifeye
Unifeye は、実写の映像や写真に3次元 CG を重ね合わせて表示す
る機能を持つ、Augmented Reality(拡張現実)を構築するためのソ
フトウェアプラットフォームです。
単純な視覚化だけではなく、仮想空間と実空間の検証や分析、販売
促進、エンターテインメント、工業分野、消費者向けアプリケーション
など幅広い用途に使われます。
カスタムメイドによるアプリケーション製作が可能で、様々な分野
● Unifeye Prototyping
Faro Armなどの3次元測定システムとHDカメラを組み合わせるこ
とにより、実部品により正確にCADデータを重ね合わせることが可
能となり、部品や組立の検証などに使われます。
適用事例
●産業分野
のユーザニーズに合った斬新な AR 環境の実現を可能にします。
製品の特徴
高速で安定したトラッキング機能
精度の高い計測機能(マーカー同士、対象物とマーカー)
● マーカーの種類が豊富
−標準マーカー −マーカーレス(2 D イメージ)
−3 D オブジェクトマーカー
● GUI 操作やビジュアルプログラミングで、AR 構築
● 利用目的に応じた各種パッケージ製品ラインナップ
●
●
製造ライン+車の CG
車体 +CG のバックドア
●販売促進
製品ラインナップ
● Unifeye SDK
標準的なARアプリケーション開発ツールです。C#、C++のAPIを
持ち、スタンドアロンのPCアプリケーション、Webアプリケーショ
ンの開発が可能です。
● Unifeye Design
スタンドアロンPCアプリケーション専用のAR構築ツールです。
GUI操作で3Dコンテンツを読み込み、シナリオを設計するだけで
簡単にARを実現できます。
製品パッケージ+ CG アニメ
雑誌広告+製品 CG
●教育 ・ サービス
● Unifeye Viewer
Web ア プ リ ケ ー シ ョ ン 専 用 の AR 構 築 ツ ー ル で す。 Unifeye
Viewer XtraをAdobe Director開発環境にプラグインし、実写の
キャプチャと2Dイメージマーカーのトラッキング機能を利用した
Shockwaveアプリケーションを構築します。
● Unifeye mobile SDK
図鑑+ CG
携帯端末用アプリケーション専用のAR構築ツールです。iPhone、
Android、Symbian、Windows Mobileに対応しています。
● Unifeye Planner
高精度なマーカーに対応しており、工場のレイアウト、製造ラインの
検証など、より精度が求められる場合に使います。
部屋の写真+ CG 家具
ビジュアリゼーション部
お問い合わせ
TEL 03-5297-3799
E-mail [email protected]
URL: http://kgt.cybernet.co.jp/feature/ar-vr/
溶接解析支援システム Welding.Sim
Welding.Sim は鋼板溶接時の変形を精度よく解析することを目的
に、JFE テクノリサーチ株式会社様とサイバネットが共同開発した
ANSYS のアドオンツールです。
Welding.Sim の3つの特徴
● ANSYS による移動溶接解析
汎用有限要素解析ソルバー「ANSYS」の過渡伝熱解析機能・熱弾
塑性解析機能を利用して、移動溶接解析を実施します。溶接条件を
ウィザード形式にて設定するため、ユーザによる複雑な処理は必要
ありません。各時間ステップにおける熱源位置、形状変化を自動的
に変更して計算することができます。
● 冷却速度依存性相変態の考慮
鉄鋼においては温度依存による材料変化だけではなく、冷却速度に
応じて、生成される組織が変化します。Welding.Sim は冷却速度
依存性相変態を考慮した解析を実現します。もちろんアルミなど、
相変態しない材質に対しても、温度依存性材料特性データを入力し
て、溶接プロセス解析を実施することが可能です。
● 材料データベースの保有
次の4つの材料について常温から溶融温度までの温度依存性特性
データだけではなく、冷却速度と変態開始・終了温度、冷却速度と
生成されるミクロ組織割合のデータを提供します。下記材料以外
については、JFE テクノリサーチ株式会社様にて材料データの計測
が可能です(別途有償)
。
SPCC、SCM440、SM490、S45C
ある時刻における温度コンター図
溶接終了後の変位コンター図
メカニカル CAE 事業部 営業部
お問い合わせ
TEL 03-5297-3081
E-mail [email protected]
URL: http://www.cybernet.co.jp/ansys/welding/
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CYBERNET NEWS No.131 Summer 2010
製品情報
「電話を使った」二要素・二経路認証サービス PhoneFactor
PhoneFactor は携帯電話・固定電話を利用した認証サービスです。
システムへのログイン時に ID・パスワードを入力すると、ユーザーの
携帯電話(固定電話)に電話がかかり、その電話に出ることで認証が
完了します。万が一、ID・パスワードが盗まれても、ユーザーの携帯
電話にかかってきた電話にでなければログインすることができませ
ん。セキュリティトークンなどの認証機器を追加導入する必要はあり
ません。
適用シーン
●リモートアクセス VPN の認証を強化
二要素・二経路認証でセキュリティレベルを大幅に向上
● Web アプリケーションの認証を強化
二要素認証とはユーザーが「知っているもの(ID・パスワード)
」と
「持っているもの(複製できない、複製しづらい機器)
」を組み合わせて
セキュリティレベルを高める方法です。PhoneFactor は、
「持ってい
るもの」で携帯電話(固定電話)を利用します。また、ID・パスワード
の送信はインターネット経由、本人確認は電話網と二経路認証を採用
しているので、飛躍的にセキュリティレベルを高めることができます。
IT 事業部 営業部
お問い合わせ
TEL 03-5297-3487
E-mail [email protected]
URL: http://www.cybernet.co.jp/phonefactor/
フィッシング対策にも有効です。
シンプル&スタイリッシュ iPhone 向けスケジュールアプリ「Refills for iPhone」
リフィルとは、本来システム手帳に綴じる用紙
の意味であり、Refills for iPhone はその名前の通
り、操作性のほかデザインにいたるまで、まるでシ
ステム手帳を使っているかのような感覚でご利用
いただける iPhone アプリです。
気分に合わせてデザインを変更
付属のリフィルカタログより、違うテーマや色、デザインのリフィ
ルに変更できます。無料サンプルのほか、さまざまなテーマのリフィ
ルを販売しています。
iPhone ならではの操作性
タッチしやすい大きめのボタンを基本としてデ
ザインしたため、片手で操作する際にもストレス
を感じさせません。日付や月単位のページ移動も左右に指を滑らせる
だけ。直感的に操作できます。
リフィルの例
シンプルなデザインに高い機能を凝縮
シンプル&スタイリッシュであっても、スケジュール・タスク管理
アプリケーションに求められる高い機能が備わっています。Google
カレンダーとの同期機能や、イベントロケーションがすぐにわかる
IT 事業部 営業部
お問い合わせ
TEL 03-5297-3487
E-mail [email protected]
URL: http://kgt.cybernet.co.jp/iPhone/Refills/jp/
マップビューの機能は、特に好評です。
CAE 技術者のための理論教育講座 CAE ユニバーシティ
ものづくりにおける「ひとづくり」をキーワードに CAE エンジニ
ア育成のための教育プログラムを提供しています。
●定期開催講座(年 2 回、
東京秋葉原にて開催)
物理、数学や工学の理論
を座学、実習で集中的に
学習します。
●オンサイト研修(ご要望に合わせた会場で随時)
CAE ユニバーシティの講座カリキュラムをベースにカスタマイズ
した研修を、御社の敷地内 ・ 指定箇所で開催致します。
■ 詳細は Web で!
http://www.cae-univ.com
※「CAE ユニバーシティ」と検索下さい。
●セミナー実験室(東京、
名古屋、大阪、その他)
実験、解析、理論の値を比
較し誤差が生じる要因に
ついて考察を行います。
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BOOK レビュー
『「渋滞」の先頭は何をしているのか?』
今回のブックレビューでは、本文記事でもご登場頂いた東京
大学先端科学技術研究センター教授・西成活裕先生の掲題
の書籍を取り上げさせて頂きました。
まずは大きく国家財政の話から。2010年、我が日本国の財
政赤字は800 兆円だそうです。全くもって天文学的数字で、庶
民にはピンとこないこと夥しいのですが、ここは簡単に、1日
100 万円ずつ遣うとしましょう。さて、800 兆円遣い切るに
は何年かかるでしょう? 1年では3億6500万円の支出。結構、
遣う感じがしますね。何だー、800 兆円って言ってもすぐに
遣っちゃいそうだなあ、などと思っていませんか。800兆÷ 3
億6500 万を計算してみましょう。まず、私の電卓(に限らず、
普通の電卓は全て)では 800 兆は打てません(ゼロが 14 個付
きます)
。手計算です。結局、800,000,000÷365となります
が、答は約2191781 です。何を示す数字なのか既に途方に暮
れそうですが、単位は勿論「年」です。
219 万 1781 年かかるんですよ! 1 日に 100 万円ずつ遣っ
て、800 兆円を遣い切るには!(しかも、発生利息(通常、複
利!)は考慮しないものとする)
ちなみに、今年の4月、南アフリカで約200万年前の「人類
の祖先である猿人」の化石が発見されたとの報道がありまし
た。200 万年前、人類はまだ存在していないのです。
さて、そこで「渋滞」です。何と、交通渋滞による1年間の逸
失利益は 7 兆円に上るという試算があるそうです。渋滞が無く
なり、その逸失利益分が国庫に入る(そして、利息は無し)とい
う最も単純な仮定を置けば、かくも膨大な日本の財政赤字も
110 年で解消できる可能性がある。これは凄い。実際、この本
を読むまで渋滞に遭遇すれば「クソーッ」と思うだけで、毎年
7 兆円もの国民利益を損なっている“超・悪者”だとは夢にも
思っていませんでした。というより、それほど渋滞について考
えたことは無かった。まあ、多くの人はそうでしょう。
わけのわからない公益法人よりムダを垂れ流している(かも
しれない)
「渋滞」
。では、その本質とは?
この本によれば、
「渋滞」とは、交通渋滞に限らず、ある「流
れ」が滞ることであり、
つまりは、
『
「ものの流れ」があるところ、
西成 活裕(著)
ていますが、同様の試みは早くも紀元前のローマで行なわれ
ていたわけです。交通渋滞の歴史は古いのですね。
さて、この本では更に、交通渋滞以外の様々な渋滞現象につ
いても広く解説されており、
「うーん、こんなものまで…」と眼
からウロコが落ちる思いが味わえます。血液の渋滞、物流の渋
滞、会社内での回覧書類の渋滞まで、身近な「渋滞」の例として
考察が加えられています。逆に「渋滞」を起こさせたいジャン
ルとして、インフルエンザなどの伝染病や悪い噂・中傷といっ
た例が挙げられています。伝播スピードをダウンさせること
で解決のための時間が稼げるわけですね。望ましい「渋滞」と
いうものも存在するのです。
7兆円ものムダを産んでいる、にっくき交通渋滞に話を限れ
ば、
「これが決め手だ!」というような解決手段は残念ながら
無いとのこと。ドライバーの認識と努力に委ねられる部分が
大きいようです(そこで、西成先生は、教習所で交通渋滞のメ
カニズムをきちんと教えるよう提唱しておられます)
。最後に、
本書から渋滞させない秘訣を挙げておきます。
1)車間距離を詰めない→高速道路での車間距離は 40 mが適
当。それより詰めることは、自分は前に進んでいるという
“気分”を味わっているだけ。実は、車の流れ全体を不安定
(メタ安定状態)にし、渋滞発生に繋がる可能性が高い。
2)ブレーキを踏む回数を減らす→よく高速道路で見かける「上
り坂 渋滞注意」といった看板の類は、過度に減速した車両
が、後続車両群に減速の連鎖反応を生じさせることを警告
するもの。この
「減速の連鎖反応」
こそが、
渋滞の種であり芽。
この看板を見たら、速度計に注意して速度維持を心がける。
3)右折により発生しがちな一般道の渋滞は「1.5 秒の法則」
で回避→右折レーンに入ったらモタモタしてはならない。
一人当たり 1.5 秒で次々右折していくこと。右折レーンの
ドライバー全員が「曲がるぞ、それーっ!」という気持ち
で動く ・・・。
現代の過密都市での生活は実に大変ですね。結局は、身勝手
に行動せず、そのとき限りの見知らぬ人とも連帯感を持つこ
と。それがスムーズな動きに繋がるようです。
「渋滞」を通して、現代社会のあり方
どこでも発生の可能性がある普遍的現象である』ということに
というものも考えさせられます。面白い
なります(
「万物は渋滞する!」
)
。
エピソードも満載です。易しく書かれて
もちろん、
「渋滞」という言葉で第一に思いつくのは交通渋
いて読みやすいので通勤時間にもお奨
滞であるわけですが、この交通渋滞ですら、20 世紀のモータ
めです。
リゼーションから始まるわけではなく、紀元前のローマで既
にローマ市内における馬車渋滞が問題になり、シーザーが「午
『
「渋滞」の先頭は何をしているのか?』
後3時までは、馬車の市内乗り入れを禁ず」との布告を出して
西成 活裕(著)
いたというから驚きます。今、欧州では、首都中心部への自家
宝島社新書(2009/06)
用車の乗り入れを曜日や時間帯によって制限する国が出始め
ISBN:978-4532260361
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