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コミュニケーション能力を高める ICT活用の在り方

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コミュニケーション能力を高める ICT活用の在り方
平成20年度
研究紀要
(第 788 号)
F10−01
コミュニケーション能力を高める
ICT活用の在り方
―お互いの考えを深め合う学習活動の工夫を通して―
話す・聞く・伝え合う学習活動において,コミュニケーションスキ
ルとICT活用の特性を照らし合わせ,プレゼンテーションソフトを
効果的に活用したり,遠隔地の学校とIPビデオ通話で交流したりす
る検証授業を実施した。その結果,互いに情報を共有し正確に伝え合
うことで、相手への理解が深まり、ICTの活用が児童のコミュニケ
ーション能力を高めるために有効であることが分かった。
福岡市 教育 センター
情 報教 育研究室
目
第Ⅰ章
次
研究の基本 的な考え方
1 主題設定の理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情 1
(1) 教育政策の動向から
(2) 新学習指導要領におけるICT活用について
2 研究の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情 2
3 研究の仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情 2
4 主題についての基本的な考え方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情 2
(1)「コミュニケーション能力を高める」とは
(2)「ICTの効果的な活用」とは
(3)「互いの考えを深め合う学習活動の工夫」とは
5 研究の内容と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情 4
(1) 各学校におけるICT活用及びコミュニケーションに関する実態調査
(2) 各学校における検証授業の実施
第Ⅱ章
研究の実際とその考察
1 各学校におけるICT活用の実態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情
4
2 小学校理科における学習指導・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情
5
3 小学校国語科における学習指導・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情 8
第Ⅲ章 研究の成果と今後の課題
1 研究の成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情13
2 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情15
3 共同研究を通しての指導助言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情15
参考文献
しませることに主眼が置かれていることが多
く,情報教育が目指す児童の情報活用能力を
第Ⅰ章 研究の基本的な考え方
はぐくむ指導については,学校によって取組
1
にばらつきが大きい。また,情報モラルに関
主題設定の理由
する指導が十分でない」ことを挙げている。
(1) 教育政策の動向から
社会の高度情報化に伴い,学校現場におい
今後は情報活用能力をさらに高めることで,
て も 急 速 に I C T ( Information and
児童の基礎的・基本的な知識・技能の定着を
Communication Technology=情報通信技術)
図り,それを活用して行う言語活動の基盤を
の普及が進んできている。しかし,我が国で
育成することが必要である。また,情報の影
は平成 20 年3月現在,
コンピュータ1台あた
の部分である様々な問題に対応した情報モラ
りの児童生徒数は 7.3 人,校内LAN整備率
ルの育成,情報安全等に関する知識の習得が
は 56.7%であり,諸外国と比べるとICT環
重要であるとしている。
境整備が遅れている現状がある。よって学校
(2) 新学習指導要領におけるICT活用につ
における情報機器や教材の整備,支援体制,
いて
ICT環境に関する条件整備が必要となって
平成 20 年3月 28 日に文部科学省より公示
された新学習指導要領では,各教科等におい
いる。
政府のIT(Information Technology)戦略
て言語活動の充実や,表現する能力の育成を
本部は,平成 18 年1月 19 日に出された「I
図ることを明示している。各種の調査の結果
T新改革戦略―いつでも,どこでも,誰でも
によれば,今日の児童の課題として,思考力・
ITの恩恵を実感できる社会の実現―」の施
判断力・表現力等の低下が挙げられる。これ
策の重点②において,IT基盤の整備として
らの能力を確実にはぐくむためには,各教科
「次世代を見据えた人的基盤づくり」を提言
等の指導の中で,基礎的・基本的な知識・技
している。基本的な考え方として「ハード整
能を習得させるとともに,知識・技能を活用
備とソフト整備の相互作用による学校のIT
する学習活動を充実させることが必要である
化を実現し,ITを活用した教育による学力
と考える。
向上や我が国の次世代を担う児童生徒の情報
児童の思考力・判断力・表現力の確実な育
活用能力の向上を実現させていく」ことを打
成のためには,
「記録・要約・説明・論述」と
ち出している。具体的な目標として,a 教員
いった学習活動を取り組むことが不可欠であ
一人に1台のコンピュータ,b ネットワーク
る。これらの学習活動を通して,数式などを
の整備,cIT基盤のサポート体制,d 教員の
含む広い意味での言語に関する能力が高めら
IT活用能力の向上,
eITを活用した学習機
れ,思考力・判断力・表現力の育成が効果的
会の提供,f 教科指導におけるIT活用,g
に図られると考えられる。
情報モラルを含む情報活用能力の向上,を挙
ICT活用に関しては,これまでコンピュ
げている。このようなことからハード面の整
ータ教室での主にインターネットによる情報
備と同様に,ICTを活用した教育などのソ
収集や教育用コンテンツの活用,ワープロソ
フト面の整備が急務であると考える。
フトなどを使った作品づくりなどの活動が主
文部科学省では,平成 20 年1月 17 日の中
流であった。校内LAN環境の整備が進む中
央教育審議会答申の中で,情報教育の課題に
で,普通教室においてインターネットが利用
ついて「各学校において,情報手段に慣れ親
できるようになり,教科指導の中で必要なW
情報−1
ebコンテンツを提示したり,教師がつくっ
て,ICTの特性を効果的に活用(プレゼンテー
た自作コンテンツや児童が記録したディジタ
ションとIPビデオ通話での交流活動)すれば,
ル画像や動画などもLAN上で共有したりす
お互いの考えが深まり,児童のコミュニケーシ
ることも可能となった。これらのICT活用
ョン能力が高まるであろう。
をさらに工夫することで,教師の指導の幅が
4
主題についての基本的な考え方
(1) 「コミュニケーション能力を高める」と
広がり,児童の表現力の向上も期待できると
は
考えられる。
近年,児童のコミュニケーション能力の低
「コミュニケーション」とは,
『人間が互い
下が問題視されている。核家族化,地域の教
に意思・感情・思考を伝達し合うこと。言語・
育力の低下,人間関係の希薄化という要因か
文字その他視覚・聴覚に訴える身振り・表情・
ら人との関わりが減少し,人間関係力や自己
声などの手段によって行う。
』(大辞林)とあり,
表現力が失われつつあると言われている。福
個人が他者と共に生きていく上で,必要不可
岡市においても,
全市的な学力向上の取組(学
欠なものである。
校改善支援プラン)の中で,コミュニケーショ
他者とのコミュニケーションを確かなもの
ン力向上プランを一つに挙げ,その重要性を
とするためには,互いのもつ意思・感情・思
示している。各教科のあらゆる学習場面や生
考を的確に交換し合う能力を高めていくこと
活場面において,コミュニケーション能力を
が重要である。特に現代社会においては,言
身に付けるように記している。
語を介してのコミュニケーションが主流であ
り,互いに「話す力」
「聞く力」
「伝え合う力」
しかし全体的に,コミュニケーション能力
が低下していると言われている一方で,イン
を高めていくことがコミュニケーション能力
ターネットや携帯電話などのコミュニケーシ
を高めることにつながると考える。このこと
ョンツールの利用や,表現方法の幅は年々広
から「コミュニケーション能力を高める」と
がっている。7月の情報教育アンケートから
は「個人が他者との対話を通して自己の考え
も,児童の 90%以上がパソコンを使った学習
を明確にし,自己を表現し,あるいは他者を
を好み,その理由として,多様な表現が簡単
理解し,他者と意見を共有しながら互いの考
にできることや,遠隔の者とコミュニケーシ
えを深めていく力を高めること」
ととらえる。
ョンがとれることを挙げている。
このように,
(2) 「ICTの効果的な活用」とは
学習活動においてICTを効果的に取り入れ
ICTとは,IT(情報技術)にコミュニケ
ることが,表現力全体の育成につながり,コ
ーション(通信,意思疎通,共同)の概念を加
ミュニケーション能力の向上が期待できると
え,ネットワーク通信により知識や情報を共
考える。
有することの総称として使われる。特に学校
現場においてはコンピュータをはじめとする
2
情報機器やディジタルコンテンツ,校内LA
研究の目標
学習活動において,ICTを効果的に活用す
Nとそれらの活用方法を指している。情報教
ることで互いの考えを深め合い,コミュニケー
育の目標である情報活用能力を育成するため
ション能力を身に付けた児童を育てる。
には,各教科等の学習のねらいとICT活用
の特性(表−1)を照らし合わせ,効果的に組
3
み合わせることが必要である。
研究の仮説
コミュニケーションスキルの学習場面におい
情報−2
① 示
②効率
表−1 ICT活用の特性
といった言語によるコミュニケーションスキ
実際に体験することが難しい内容を擬
ルを身に付けさせる。
似体験し,体験の共有を図ることができ
次に正確に情報を伝えたり聞いたりする力
る。見やすくすることで理解を深めた
を身に付けさせる。そして,最終的には意見
り,視覚的なインパクトを与えたりでき
交流の場面で児童が自分の考えを話し,その
る。
考えについての質問や意見を交わすことで,
多大な情報を瞬時に処理することがで
お互いの考えがよりよいものへと変わってい
きる。
くようにする。
本研究室では,それぞれの学習段階におい
③利便性
簡単・便利に作業をすることができる。
④反復
繰り返し活用することができる。
て,コミュニケーションスキルを身に付ける
⑤編集
編集・加工や部分的な活用ができる。
ための学習活動と,その学習活動が効果的に
⑥記録
情報を記録・保存することができる。
行われるためにICTの活用が加わることで,
直接交流が難しい相手と正確に情報を
児童のコミュニケーション能力が一層高めた
交換することができる。
いと考える(図−2)。
⑦通信
ただ単にICTを使えばよいというのでは
(3) 「お互いの考えを深め合う学習活動の工
夫」とは
なく,教員がICTの特性と機能を理解し,
コミュニケーション能力を高めるための段
学習のねらいにあわせて有効に活用すること
が,学習活動の工夫につながると考える。た
階を次のようにとらえている。
だし,これらの学習活動の根底には,情報モ
まずはじめの段階では「話す力」
「聞く力」
ラルをはじめとする道徳的なマナーや規範,
・プレゼンテーション
・IPビデオ通話
ICTの活用
・ホームページ
・メール
・チャット
・ボイスレコーダー
コミュニケーションスキル
○国語を通して話す
力・聞く力の育成
○朝の会のスピーチ
○道徳等で行なう
エンカウンター等
○小グループや学
級内における話し
合い活動
○討論
○意見交流
○ワークショップ
○パネルディカッ
ション
学習のプロセス
「話す力」「聞く力」を
高める段階
互いの持つ情報を
正確に伝えたり聞
いたりする段階
図−2 コミュニケーション能力の高まりとICT活用
情報−3
互いの考えを深
め合う段階
コミュニケーション能力
・動画
観者のアンケート調査を実施する。
思いやりといった態度を身に付けさせるこ
検証授業は,小学校2校でそれぞれ 10 月
とが必要不可欠である。
15 日,11 月 17 日に実施する。
このように話し合いや発表,交流活動を工
夫することで,互いの意見,考えを深め合う
5
研究の内容と方法
(1) 各学校におけるICT活用及びコミュニ
ことができる児童が育つと考える(図−3)。
ケーションに関する実態調査
互いの考えを深め合い、人との関わりを大切にできる児童
まず,各研究員の所属校におけるICT活
用の現状やコミュニケーションに対する意識
互いの考えを深め合うことができる児童
を明らかにするために,児童と教員を対象と
したアンケート調査,および検証授業後のア
正確に伝えたり聞いたりできる児童
ンケート調査を平成 20 年 7 月から 11 月まで
にかけて実施する。児童を対象としたアンケ
コミュニケーションの基本的な
スキルを身に付けた児童
ート調査では,ICT活用に対する意識や活
用の現状,頻度,実施教科,コミュニケーシ
図−3 めざす児童像
5
ョンに関する意識などの質問項目を用意した。
研究の内容と方法
また,教員を対象にしたアンケート調査では,
(1) 各学校におけるICT活用及びコミュニ
ケーションに関する実態調査
コミュニケーション能力を高めるための指導
まず,各研究員の所属校におけるICT活
についての意識や手立て,ICTの活用方法
用の現状やコミュニケーションに対する意識
や頻度などの質問項目を用意した。
を明らかにするために,児童と教員を対象と
(2) 各学校における検証授業の実施
したアンケート調査,および検証授業後のア
コミュニケーション能力を高めるICT活
ンケート調査を平成 20 年 7 月から平成 20 年
用の効果を検証するために,小学校での教科
11 月までにかけて実施する。児童を対象とし
指導において授業を平成 20 年 10 月から 11
たアンケート調査では,ICT活用に対する
月にかけて実施する。授業後にICT活用に
意識や活用の現状,頻度,実施教科,コミュ
よりコミュニケーション能力に高まりが見ら
ニケーションに関する意識などの質問項目を
れたか,その効果を調べるために事後のアン
用意する。また,教員を対象にしたアンケー
ケート調査,授業者の自己評価,参観者のア
ト調査では,コミュニケーション能力を高め
ンケート調査を実施する。
検証授業は,小学校2校でそれぞれ 10 月
るための指導についての意識や手立て,IC
15 日,11 月 17 日に実施する。
Tの活用方法や頻度などの質問項目を用意す
る。
(2) 各学校における検証授業の実施
第Ⅱ章 研究の実際とその考察
コミュニケーション能力を高めるICT活
用の効果を検証するために,小学校での教科
1
各学校におけるICT活用の実態
指導において授業を平成 20 年 10 月から平成
児童がICT活用への意識やコミュニケーシ
20 年 11 月にかけて実施する。授業後にIC
ョンに対してどのような考えを持っているか,
T活用によりコミュニケーション能力に高ま
現状を知るために,小学校5,6年生2校を対
りが見られたか,その効果を調べるために事
象にアンケート調査を実施した。
まずICT機器のうち,パソコンを使った学
後のアンケート調査,授業者の自己評価,参
情報−4
習が好きか調べてみると,
「好き」または「どち
があっても質問していないということが考えら
らかといえば好き」と答えた児童が 90%という
れる(図−6)。
結果となった。このことからパソコンを利用す
質問3 相手が話していてわからないことがあった
ることを好む児童はかなり多いと考えられる
とき質問しているか
(図−4)。理由としては
「おもしろい,
楽しい。」
していない
15%
「簡単に調べることができる。
」
「いろいろなこ
とが分かる。
」などが挙げられた。
している
25%
質問1 パソコンを使った授業は好きですか
どちらかとい
えばしていな
い
26%
嫌い
3%
どちらかとい
えば嫌い
7%
どちらかとい
えばしている
34%
図−6 アンケート調査結果③
好き
66%
自分の考えと相手の考えが違うとき,相手の
どちらかとい
えば好き
24%
考えを分かろうとしているか調べてみると,
「分
かろうとしている。」または「どちらかといえば
分かろうとしている。
」が 81%という結果が出
図−4 アンケート調査結果①
た。コミュニケーションと図ろうとしている児
次にコミュニケーションに対して調査した。
童が多いことが伺える(図−7)。
人と話し合ったり思っていることを伝え合った
りすることは好きか調べてみると,
「好き」また
質問4 自分の考えと相手の考えが違うとき,相手
は「どちらかといえば好き」と答えた児童が
の考えを分かろうとしているか
80%という結果になった(図−5)。
していない
5%
質問2 人と話し合ったり思っていることを伝え合
どちらかとい
えばしていな
い
14%
ったりすることは好きか
嫌い
5%
どちらかとい
えば嫌い
15%
している
33%
どちらかとい
えばしている
48%
好き
36%
どちらかとい
えば好き
44%
図−7 アンケート調査結果④
話し合いの中で自分の言いたいことを,言葉
でしっかり表せるか調べると,
「言葉で表すこと
ができない。
」または「どちらかといえば言葉で
図−5 アンケート調査結果②
多くの児童は,話し合うことを好んでいるが,
表すことができない。
」と答えた児童が 32%と
話し合いの中で,相手が話していて分からない
なった。このことから,約3割の児童が言いた
ことがあったとき質問しているか調べてみると,
いことを言葉で言い表せないでいるものと考え
「質問している」または「どちらかといえば質
られる(図−8)。
問している」が 59%と,約6割という結果にな
った。逆にいえば4割の児童が分からないこと
情報−5
質問7 相手の考えを取り入れながら新しい考えを
質問5 自分の言いたいことを言葉でしっかりと言
創ろうとしているか
い表すことができるか
できない
5%
どちらかとい
えばできない
27%
していない
9%
できる
24%
している
27%
どちらかとい
えばしていな
い
29%
どちらかとい
えばできる
44%
どちらかとい
えばしている
35%
図−8 アンケート調査結果⑤
図−10 アンケート調査結果⑦
話し合いの中で自分の考えを言うときに,理
以上の結果から,児童は相手とコミュニケー
由を挙げながら言うことができるかについては,
ションを図ろうとする気持ちがとても高い。し
「言うことができない。
」または「どちらかとい
かしその反面,コミュニケーションスキルがし
えば言うことができない。」が 47%と,約5割
っかりと身に付いていなかったり,過去の話し
の児童が思うように理由を言えていないことが
合いの経験からコミュニケーションを苦手と感
分かった(図−9)。このことから,考えはあっ
じたりしている児童がいると見られる。コミュ
てもうまく説明できない児童が多いということ
ニケーションスキルの中でも,特に「話す力」(理
が分かる。
由を挙げながら話す)を苦手としている児童の
割合が高い。話し合いで自分の考えていること
質問6 自分の考えを言うとき,理由を挙げながら
を話すことは好きだが,自分の考えを思うよう
言うことができるか
に話せていない児童が多い。また人の話を聞く
できない
10%
できる
18%
ことも好きだが,質問したり新しい考えを作り
出したりすることはあまり得意ではないようで
ある。したがって児童のコミュニケーションの
どちらかとい
えばできない
37%
深まりが不足していることが分かった。
どちらかとい
えばできる
35%
そこで,コミュニケーションの深まりを図る
ために一つの手段として考えられるのがICT
の活用である。ICT機器を使ってどのような
図−9 アンケート調査結果⑥
学習をしてみたいか質問すると,
「調べ学習」
「発
相手の考えを取り入れながら,新しい考えを
表」「社会」「国語」「理科」
「総合的な学習の時
創ろうとしているかの質問に対しては,
「創ろう
間」などあらゆる授業においてICTを使って
としている。
」または「どちらかといえば創ろう
みたいという多くの意見が出た。コミュニケー
としている。
」が 62%という結果が出た(図-9)。
ション能力を高める学習のプロセスにおいて、
約6割の児童が,話し合いの中で新しい考えを
児童の興味関心の高いICTを効果的に活用す
創り出そうとしている。しかしながら新しい考
ることで、コミュニケーション能力を高めるこ
えを創ろうとしていない児童が約4割いること
とができると考える。
交流活動の第1段階として,直接交流におい
が気になるところである。
情報−6
てもICTを活用した交流においても,ある程
Ⅳ
降った雨の量と川の水の量は関係がある
度相手の考えをまとめたものを見ながら(視覚
のか,また流れる水のはたらきで土地はど
的に確認しながら)意見を述べたり質問をした
のように変化するのか,プロジェクタの画
りする手だてをうつ必要があるのではないだろ
像を見ながら話し合う(1時間)。
うか。それができるようになって,第2段階で
Ⅴ
教科書を見ながら,洪水の仕組み,川の
ある言語による多様なコミュニケーションを図
もたらす自然の恵みについて調べる(1時
ることができると考えられる。
間)。
Ⅵ
2
小学校理科における学習指導
小学校第5学年
Ⅴで調べたことをプレゼンテーションソ
フトにまとめる(1時間 本時)。
Ⅶ
理科
Ⅵで調べたことを調べたことを,プレゼ
ンテーションソフトを使って発表する(1
流れる水の働き
時間)。
(1) 単元の考え方
Ⅷ
この単元では,流水実験で見いだしたきま
流れる水のはたらきについて,調べたこ
とをまとめる(1時間)。
りをもとに,川の流れと河原の様子などを関
(3) 本時の目標
係付けて調べ,流れる水には土地を変化させ
○ 水害や川のつくりに関心をもち,水と
る働きがあることをとらえられるようにする。
生活の関係についてICTを活用しなが
本時では,流れる水のはたらきを理解した上
ら進んで調べようとする(自然現象への
で洪水や川の自然に目を向ける。自然災害が
関心・意欲・態度)。
土地や生活を大きく変化させること,川の作
○ 川の水の量の変化を,雨の降り方と関
りが生活に関係していることに気づかせ,そ
係付けて考え,ICTを活用しながらよ
の対策を話し合うようにする。これらの学習
りよい発表に向けて話し合うことができ
では,流れる水のはたらきを計画的に追究し,
る(科学的な思考)。
流れる水のはたらきとともに自然の大きな力,
災害に向けた人々の努力を感じ取らせるよう
調べたことを発表する場面において,プレゼ
にしたい。
ンテーションソフトを話し合いの場に活用す
(2) 本単元の学習の流れ
れば,互いの情報を共有することで相手への理
主な学習活動
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
(4) 本時の授業の仮説
解が深まり,コミュニケーション能力を高める
川の水が増え過ぎたとき,川の水や川岸
ことができるであろう。
の様子がどのように変わるのか,プロジェ
(5) 本時の学習の流れと児童の活動の様子
クタの画像を見ながら話し合う(1時間)。
ア つかむ段階
実際に小さな水の流れを作って,流れる
まず,
これまでの学習を振り返るために,
水のはたらき(速さ,削り,積もり)を調べ
プロジェクタを使って学習データを提示す
る(1時間)
。
る。学習場面を表す画像をスライドで表示
近くの川や雨の後の運動場を見に行きデ
し,何を学んだか思い出させるようにする。
ィジタルカメラやディジタルビデオカメラ
を使って流れる水の働きを調べる(1時
間)。
情報−7
資料-1
資料-2
スクリーンでこれまでの学習を振り返っ
レーザーポインタを使用して発表し
ている様子
ている様子
発表が終わると質問・感想の時間に入り,
次に前時までに洪水の仕組みや,川がもた
らす自然の恵みについてグループで調べ,プ
よかったところ,気がついたところを話し
レゼンテーションソフトを使ってまとめ活動
合うようにする。そのときにマーカーペン
をしたことを確認する。全部で8グループあ
を使用し,どの部分が修正する必要がある
り,調べる課題は4つで,2グループずつ同
か,直接ホワイトボードに意見を書き込め
じ課題に取り組むようにした。課題は以下の
るようにした(図−3)。
一つ目のグループが終わると次のグルー
4つとした。
・日本の洪水の様子
プが発表を行い,よりよい発表に向けて話
・博多区にある三笠川の氾濫と現在の様子
し合った。
同じ課題のグループ同士による交流が終
・洪水の防ぎ方
わった後は,各グループで再びプレゼンテ
・自然を守る川づくり
ーションソフトの画面を修正する作業を行
学習データをプロジェクタでスライド化
なった。
したことで,これまでの学習で学んだこと
を思い出しやすくなり,児童は意欲的に前
資料-3 マーカーペンで画面の修正部分を直接スクリ
時までの活動を発表することができた。
ーンに書いている様子
イ 深める段階
この段階では,同じ課題をもつグループ
同士で集まり,調べたことをプレゼンテー
ションソフトを使ってお互いに発表し合う
ことで,発表方法や内容についてお互いに
意見を交換し合うようにする。
発表方法は,パソコンとプロジェクタと
ホワイトボードスクリーンを使ってプレゼ
ウ
ンテーションを行う。プレゼンテーション
まとめる段階
ソフトで画像を提示するときにレーザーポ
次時の発表に向けてのまとめ作業がどの
インタを使用し,どの部分に注目するのか
くらい進んだか,また同じグループで発表
分かりやすくするようにした。レーザーポ
し合い,気がついたことをみんなに報告す
インタの安全面の指導については事前に行
る段階である。報告の後は次回の学習活動
った。
(プレゼンテーションの完成)を確認した。
情報−8
く、活用能力も高いからであるだろうと考え
(6) 考察
各グループの発表ではプレゼンテーション
られる。以上のことからプレゼンテーション
ソフトを巧みに使い,グループで発表する児
ソフトの特性(表−2)を活かし,話し合い
童,マウスをクリックする児童など役割分担
の場面で効果的に活用することにより,児童
がはっきりとしていた。発表中はレーザーポ
のコミュニケーション能力の高まりを感じる
インタの特性を生かし、注目すべき箇所を的
ことができた。
確に指示し、説明しやすくなった。発表を聞
小学校国語科における学習指導
く側はスクリーンに大きく画面が出るので集
中して見ることができたと考えられる。
小学校第6学年
国語科
発表後の意見交換の場では,質問・感想に
筆者の考えを受け止め,自分の考えを伝え
ついてはまず1分ほど聞き手のグループで考
よう「平和のとりでを築く」
「自分の考えを
(1)
単元の考え方
発信しよう―インターネットと学習」
えさせるようにした。そのあと良かったとこ
ろや気になるところを発表するようにした。
本単元は,「平和」に関する説明文教材を
言葉についての発表内容と提示についての画
事実と意見を区別しながら読むこと,必要な
面内容という二つに着目して話し合わせた。
材料を集めて文章にまとめること,それを発
スクリーンは画面を全員で共有できる良さが
信する学習等から構成されている。
「平和のと
あり,一人の意見に対して全員で確認するこ
りでを築く」では,
「原爆ドーム」が,かつて
とができた。第Ⅰ章で説明したICTの特性
は物産陳列館として広島市民に広く親しまれ
である提示の効果を生かせたと考えられる。
ていた時代から,原爆が投下され甚大な被害
視覚的に理解しやすい良さもあり,ほぼ全員
を被った後に,平和を築き戦争をいましめる
が意見を言うことができた。マーカーペンを
ための建造物として世界遺産に登録されるま
用意して,ホワイトボードスクリーンに直接
での経緯を述べた文章である。日本が過去に
「字が小さい。」
「色が見にくい。」など書き加
経験した戦争や原子爆弾投下についての史実
える児童もいた。ホワイトボードをスクリー
と,それが世界遺産となった意味についての
ンとして使用することで,直接書き加えて,
筆者の考えを読み取ることで,
「平和」は自分
何度も消すことができるし,修正部分も全員
たち自身の問題でもあることに気付き,自分
で確認することができた。自分たちのグルー
の考えをつくるための動機付けにつながると
プだけでは見えなかった部分をほかのグルー
考える。
プに客観的に指摘してもらえることで,伝え
「自分の考えを発信しよう」では,
「平和の
たいことと表現したいことの差を,理解し再
とりでを築く」の学習や教科書の資料をきっ
構成することができたと考えられる。
かけとしながら,今もなお世界の人々が強く
パソコンとプレゼンテーションソフトを使
「平和」を希求していることを知り,児童は
った今までとは違う発表方法で,児童は意欲
「平和」に関連してもっと知りたい,調べた
的に取り組み,話し合った。またプレゼンテ
いと考えるであろう。また,
「平和」について
ーションソフトの使い方の一部分を教師から
調べたことや自分の考えを発信することで,
指導を受けた後は,児童自らいろいろな機能
自分も「平和」を考える人の輪の一員である
を見つけ活用することができた。これは,児
実感をもちながら,自分の考えを深め,表現
童のパソコンに対する興味関心が高く,操作
力を高めることができると考える。
本単元の指導にあたっては,以下の点に留
も簡単であることから,操作技能の習得が早
情報−9
意して指導を行っていく。
Ⅲ
自分の考えを発信する(7時間)。
まず,導入段階においては,
「平和のとりで
1
戦争や平和について話し合う。
を築く」を読み,原爆ドームがユネスコの世
2
発信の目的・相手・課題・方法を決め
界遺産に登録されるまでの歴史的背景を史実
る。
に基づき,正確に読み取らせる。そして,一
3
調べることを具体化する。
つ一つの叙述を丁寧に解釈しながら,筆者の
4
「仮の要旨」のまとめと説得力をも
考えや伝えたいことを受け止められるように
たせる材料集めをする。
していく。
5
自分の考えを書きまとめる。
展開段階では,筆者の伝えたいことをもと
6
書きまとめたものを推敲する。
に戦争や平和について考え,小グループで友
7
推敲したものを発信する(本時)。
達と話し合う活動を取り入れ,自分の考えを
Ⅳ
書きまとめていく。その際,自分の考えの根
学習をまとめる(1 時間)。
1
この単元での学習を振り返る。
拠となる材料を取捨選択し,書き出しや文末
表現,文章の構成を工夫することで,より説
(3) 本時の目標
得力をもつ考えへと高めたい。そして,
「イン
○ 「平和」についての自分の考えや相手
ターネットと学習」を読み,インターネット
への質問意見を,IP ビデオ通話を活用し
を活用する上で大切なことやルールを理解し
て根拠を挙げながら述べることができる。
たうえで,
他校の児童に自分の考えを発信し,
○ 自分の考えとの共通点や相違点を意識
「平和」についての互いの考えを交流できる
しながら相手の考えを聞き,自分の考え
ようにする。
を生かそうとすることができる。
終末段階では,これまでに学んだことを振
(4) 本時の授業の仮説
り返り,
「平和」についての考えを交流したこ
フリーソフトのIPビデオ通話を活用し,
との意義を実感し,今後も自分の問題として
地理的条件により直接交流が難しい相手とで
考える意欲をもたせていく。
も簡単に情報交換ができる場を設定すれば,
(1) 本単元の学習の流れ
平和に対する考えを深め,児童のコミュニケ
主な学習活動
ーション能力を高めることができるであろう。
Ⅰ 学習の構えと見通しをもつ(1 時間)。
1
(5) 本時学習の流れと児童の活動の様子
単元名,リード文,題名から学習の
ア
構えをもつ。
2
Ⅱ
単元構成に目を通し,見通しをもつ。
「平和のとりでを築く」を読み,筆者
1 読みの課題を共通認識し,全文を読む。
課題に対する読みを書きまとめる。
3
筆者の伝えたいことを読み確かめる
し合い,互いの意見を自分の考えに生かそう」
「①自分の考えを述べるときには,考えの根
拠を明確にして述べる ②相手の考えを聞く
ときは,自分の考えとの共通点や相違点を考
えながら聞き取る」の2点を押さえて交流に
ための視点について話し合い,筆者の
臨ませていった。
伝えたいことを書きまとめる。
4
本時のめあて「平和についての考えを発信
を確認する。交流する際に留意する点として,
の伝えたいことを考える(6時間)。
2
つかむ段階
イ
筆者の伝えたいことに対しての考え
深める段階
展開段階では,他校の6年生とIPビデオ
をまとめる。
通話による交流を行なった(資料−1と2)。
情報−10
IPビデオ通話での会話はマイクとスピーカ
資料−3 ワークシート
をセットして行ない,全体の場で聞けるよう
にした。また,発表者の映像と考えの根拠と
なる図や絵,写真などを映し,ディスプレイ
画面をプロジェクタで提示することで,双方
の学級全体が参加できる形態をとった。交流
活動では,予め双方で発表者を決めておき,
発表している間,聞く側はワークシートにメ
モを取りながら聞くようにした(資料−3)。
発表が終わってから,このワークシートをも
とに,相手の考えに対しての質問や意見を述
べるようにした。1 時間の中での発表者の数
は限られているので,全員が交流に参加でき
る場の設定と,全員分の考えは事後にメール
ウ
で送信し合うなどの手立てをとった。
資料−1
まとめる段階
終末段階では,交流後の振り返りを行ない,
本校児童の発表の様子
今後の活動の見通しをもたせていった。他校
の6年生と交流して感じたことや考えたこと,
また交流して自分の考えが深まったところな
どワークシートに自由記述させた。そして,
交流を通しての感想をIPビデオ通話で伝え
合う活動を取り入れた。
「平和」についての考
えは,今後学校ホームページに掲載し,さら
に全国に向けて発信することを知らせ,児童
の意欲を高めた。
資料−2 資料提示の様子(相手校パソコンルーム)
(6) 考察
本時で活用したIPビデオ通話ソフトウェ
アは,第Ⅰ章で整理したICT活用の特性の
うち,
「実際に体験することが難しい内容を擬
似体験し,体験の共有を図ることができる。
見やすくすることで理解を深めたり,視覚的
なインパクトを与えたりできる」ことと「直
接交流が難しい相手と正確に情報を交換する
ことができる」
の 2 つをもち併せると考える。
まず,前者の本単元における特性の価値付
けについて述べる。このIPビデオ通話ソフ
トウェアは,インターネット回線での通話は
無料で,ダウンロードすれば誰とでも通話を
することができる。また,USBカメラをイ
情報−11
ンストールし利用することで相手の画像を見
資料−5 相手校の発表を見る本校児童の様子
ながら通話をしたり,画像と一緒にデータを
ディスプレイ上に提示したりすることができ
る機能をもつ。プロジェクタで画面を拡大投
影し,音声をスピーカから出せば,学級単位
の交流も可能である。その特性を活かし,本
時の交流では,スクリーンに映し出された相
手校の児童の表情や反応を確かめながらコミ
ュニケーションを図ることができた(資料−
4)。このことで,相手校児童の発表の際には,
本校児童が集中して画面に見入る姿や,相手
次に,後者の「直接交流が難しい相手と正
の考えにうなずいたり拍手を送ったりする様
確に情報を交換することができる」特性の価
子が見られた(資料−5)。また,時々音声が
値付けについて述べる。このIPビデオ通話
途切れたときに,
「もう一度お願いします」と
ソフトウェアは,地理的条件により直接交流
合図を送り,その場で言い直しをしてもらう
が難しい相手とでも,相手の表情を見ながら
など,リアルタイムならではのよさを感じる
リアルタイムで考えや意見を交換し合い,コ
ことができた。
ミュニケーションを図ることができるという
従来のビデオを録画した映像では,質問し
よさをもつ。相手の考えを音声で聞くだけで
たいことがあってもその場では解決できない
なく,相手の表情や提示資料を見ながら,聞
ことや,相手の考えのよさにその場で拍手な
いたり見たりすることができる。
このことは,
どの反応を返すことができないなどの課題が
相手が伝えようとしている情報をより正確に
あった。本時のIPビデオ通話による交流で
理解し,互いのコミュニケーションを図りや
は,本校児童の反応を見て,相手校の児童が
すくするものであると考える。
学習後の児童の感想には,
「○○小学校の人
笑顔で返すなど,従来のビデオを録画した映
像では味わえない臨場感をもつことができた。
資料−4
たちの交流で,相手の人たちの考えを聞けて
よかったです。自分の考えの中にはなかった
相手校の発表の様子
世界の地雷について,
平和の大切さについて,
改めて感じたことや,さまざまな考えを聞け
たので,自分の考えにも生かそうと思います」
「今日○○小との交流で,○○小の人たち3
人の考えを聞けて色々なことを知りました。
その中で,○○さんの考えで,地雷とは一瞬
にして手や足がなくなるという恐ろしい事を
知ることができました。それに募金にも協力
しようと思いました」などの記述が見られ,
相手の考えを自分の考えに生かそうとする姿
が見られた(資料−6)。
このように,児童の活動の様子や学習後の
感想からも,IPビデオ通話による交流が児
情報−12
資料−6
学習後の児童の感想
質問1 人と話し合ったり思っていることを伝え会
ったりすることは好きか
図−1 アンケート調査結果①
童にとって興味・関心を高め,コミュニケーシ
理由は「プレゼンテーションソフトを使うこ
ョンを図るために有効であり,楽しさを十分に
とで話し合いが楽しかった。」「スクリーンを見
感じるものであることが分かった。
て話し合いやすかった。
」「相手がどんなことを
質問するか楽しみだった。」など,ICTを活用
第Ⅲ章 研究の成果と今後の課題
することで情報の交換が容易になり,有意義な
面を十分に深めることができた。また相手の質
1
研究の成果
問に対して質問や感想を言えたか調べると,検
本研究室では、それぞれの学習段階において,
証授業前より3割増え9割になった。自分の言
コミュニケーションスキルを身に付けるための
いたいことを言葉で言い表すことができた児童
学習活動と,その学習活動が効果的に行われる
は7割から8割に,理由を挙げながら自分の考
ためにICTの活用が加わることで,児童のコ
えを言うことができた児童は5割から8割,新
ミュニケーション能力が一層高まると考えて研
しい考えを作ろうとした児童は6割から7割と,
究を進めてきた。
いずれもICTの効果的な活用で以前よりもコ
そこで,まず始めにICTをプレゼンテーシ
ミュニケーション能力の高まりが感じられた。
ョンソフトとIPビデオ通話の活用に絞り,理
検証授業前と検証授業後の変化
科と国語科の学習活動の中でどのような効果が
もたらされ,児童のコミュニケーション能力が
高まるかをまとめた。これをもとに,学習単元
計画の中にICTの効果的活用を位置付け,授
業実践を行った。
5年生理科「流れる水のはたらき」では,授
業後の児童へのアンケート調査において次のよ
うな結果が得られた。人と話し合ったり思って
いることを伝え合ったりすることが好きになっ
図−2 アンケート調査結果②
たか調べてみると,「好きになった」「どちらか
6年生国語科「筆者の考えを受け止め,自分
といえば好きになった」が検証授業前より2割
の考えを伝えよう」の授業で用いたIPビデオ
増えた。
通話ソフトウェアは,インターネット回線で人
情報−13
と人とを結ぶICTであり,コミュニケーショ
考えや価値観の異なる相手との交流が可能とな
ンツールである。ICTを活用しながら,バー
り,児童の考えを深めたり,コミュニケーショ
チャルではない人間対人間のコミュニケーショ
ン能力を高めたりすることができると期待でき
ンを図り,様々な人間同士の交流を可能にする
る。
ことができる。今回の検証授業では,相手校の
また,このIPビデオ通話には,全画面表示
児童がスクリーンに映し出された時に,本校児
で映像を拡大したり,ファイルを送ったりホワ
童は集中して画面に見入ったり,相手の発言に
イトボードで情報を共有したりできる機能も併
対して頷いたり,相槌を打ったりする姿が見ら
せもつ。今回の検証授業では,全画面表示によ
れた。このことは,ICTの向こうにいる相
るビデオ通話のみでの交流を行ない,相手の表
手校の児童を身近に感じ,コミュニケーション
情や反応を見ながら考えを述べたり,質問した
を図ろうとする姿ではないかと考える。今回は
りすることができた。今後はIPビデオ通話ソ
市内の小学校との交流であったが,今後はさら
フトウェアの機能をフルに活用することで,地
に国内の遠隔地の学校との交流や,外国の学校
理的に直接交流が難しい相手とでも,インター
との交流も考えられる。ICTの活用により,
ネット上で1つの活動を共同で行うなど,様々
な交流活動が可能となると考える。
情報−14
2
4台のプロジェクタとスクリーンを設置した。
今後の課題
(1) 相手への理解をより正確に深め,コミュ
これらの機材を用意することで、4つのグル
ニケーションを図るための提示方法を明ら
ープが一つの教室で同時に発表することがで
かにする。
きた。機材の準備に多少の時間はかかるが、
5年生理科では、ICTを活用することで
同時発表によって授業時間が短縮できたり、
洪水や川の実態に関心を持ち、よりよい発表
教室の空間を最大限に利用したりすることが
に向けて話し合うことができた。プロジェク
できた。教師においては、4つのグループが
タとスクリーンを活用することで、画面を共
どのような進行状態かすぐに把握することが
有することができ、積極的にコミュニケーシ
できたが,発表内容を把握し,教師がコミュ
ョンを図ることができた。課題としては、質
ニケーションを深めるためのアドバイスや支
問感想の時間で画面構成や発表者の発表態
援,行動観察等の評価をするまでには至らな
度・技能についての意見は多く出たが、調べ
かった。今後はプロジェクタやスクリーンの
たことの内容については質問が少なかった。
設置の利便化が必要となってくる。
6年生国語科において活用したIPビデオ
また発表中にレーザーポインタを使用したが、
児童によって使い方が異なってしまった。今
通話ソフトウェアについては,インターネッ
後は質問内容について工夫していくとともに、
ト回線が外部サーバーを経由してつながるた
レーザーポインタは強調したいところのみを
め,サーバーによっては音声や画像が乱れた
示すようにしていく必要がある。またホワイ
り,途切れたりするなどの問題が生じた。他
トボードスクリーンに表示された画面に、マ
校の児童や,遠隔地に住む人とのコミュニケ
ーカーペンで直接意見を書き込んだが、今後
ーションを図るためには,IPビデオ通話の
もいろいろな場面で利用していきわかりやす
即時性や相手の表情やリアクションが鮮明に
く書き込むことができるようにしていくよう
返ってくる視覚的なインパクトなど,相手が
にしたい。
まるで隣の教室にいるようなリアルさを体験
6年生国語科の課題は,資料提示の方法を
できるよさをもつ。この効果を生かすために
USBカメラの前で提示するのではなく,フ
は,近くのサーバーを経由させる,また回線
ァイルとして画面上に提示する方法をとる方
を安定させるなどハード面での整備が必要と
がより相手に分かりやすく正確に伝わると考
なる。
える。IPビデオ通話の機能を最大限に生か
し,どの機能を使えば情報がより正確に伝わ
3
共同研究を通しての指導助言
るのか,また自分の考えを効果的に伝えるこ
(1) 背景
平成 20 年度は,ウルトラモバイルPC
とができるのかを整理し,場面に適した提示
の方法を工夫する必要があった。
(UMPC)と呼ばれる超小型のノート型PCの普
(2) コミュニケーションを高めるためのIC
及の兆しが見られたところに,さらにネット
T環境を整備する。
ブックと呼ばれるノート型PCが一気に発売
今回の検証授業では,コミュニケーション
された。ネットブックはその用途を限定する
をとる相手を,学級内の児童,他校の児童に
ことにより,
安価・小型軽量を実現している。
設定し,それぞれに適したICT活用につい
さらに一部機種では,従来のハード・ディス
て検証を進めてきた。
5年生理科においては,
ク・ドライブ(HDD)の代わりにフラッシュ・ソ
同じ課題のグループ同士の発表を聞くために、
リッド・ステート・ドライブ(Flash Solid
情報−15
State Drive / Flash SSD)を採用することで,
の消費電力(240W-500W)が大きいため同一電
耐衝撃性やバッテリ持続時間が改善され,ノ
源回路内では過負荷となる恐れもあり,通常
ート型PCの機動性を大きく高めた。
であれば実用的な手段ではないと思われるか
また,ネットワーク環境では,高速な無線
もしれない。しかし,前述したように,LE
WAN(有線以外のインターネット・ブロー
Dを光源とした液晶プロジェクタであれば,
ドバンド環境)が安価(月額 5000 円程度)に利
低消費電力,小型軽量,安価,取り扱いも容
用できるようになった。さらに,これまでの
易,さらに機動性も高まり,これまで以上に
無線WANはPC1 台に 1 セット必要であっ
教育現場における活用の場面の拡大が期待で
たのが,平成 20 年度後半から,これを複数の
きる教具である。
PCで共有できる機材が安価に提供されるよ
第6学年国語科による学習指導では,他小
うになった。これらによりPC側に特に面倒
学校と双方向IPビデオ通話を主に用いた交
な設定は必要なく,どこでもだれでも,安価
流を行った。今回使用したIPビデオ通話ソ
にブロードバンド環境に近いインターネット
フトウェアは無料で利用できるものであり,
環境を構築できるのである。
本来のIP電話,IPビデオ機能のほかにも,
プレゼンテーション環境の面では,小型プ
拡張機能として3カ所以上の同時ビデオ通話
ロジェクタの開発が進み,光源にLED採用,
機能,電子ホワイトボード共有機能など様々
バッテリー駆動,ポケットサイズ,クイック
な拡張性を持ち合わせている。これまでのビ
オン・オフ(クールダウン不要)というもの
デオ通話(会議システム)の利用では専用装
まで製品化されはじめ,より手軽に利用でき
置・専用回線が要求され「手軽に」利用でき
るようになってきた。
るものではなかったが,ここ数年のブロード
特に教育現場においては,ICT関連製品
バンド環境の普及と様々なソフトウェア技術
の低価格化や取り扱いが簡易になったことが,
の開発により,簡易・安価に利用できる環境
その普及と利用場面の拡大に拍車をかけるこ
となっている。すでにこれらのIPビデオ通
とになるであろう。既に「ICTを利用する
話は,e-Learning などにおける遠隔メンタリ
授業はパソコン教室に限定」から「ICTは
ングの手段として用いられているところもあ
いつでもどこでも利用できる」という時代に
る。
今回の検証授業では,
「教室内」での相互交
なっているのである。
流であったが,UMPCやネットブック,高
(2) 検証授業
第5学年理科における学習指導では,同時
速WAN環境が安価・手軽に利用できる今日
に4台の液晶プロジェクタとPCを用いて,
では,これらを利用した「野外と教室」ある
児童たちがそれぞれのグループ単位でリハー
いは「野外と野外」の交流が容易に行うこと
サルから発表までを行った。液晶プロジェク
ができる。今回の取組は,その基礎研究とい
タの映像をホワイトボードに投影し,その投
う位置付けになる。
影された情報に対してホワイトボードへのマ
(3) 今後を見越した事前研究・検証授業の必
ーカーペンによる書き込みによる複数児童の
要性
共同作業環境を構築している。これは新旧メ
ICT技術の発展は凄まじく,関連周辺環
境が随時変化しているが,
「 ICTでできるこ
ディアを融合した利用である。
液晶プロジェクタは高価であるとともに,
と」の範囲は決して狭まることはなく,拡大
設置の煩わしさや,複数台の同時利用は光源
される一方である。現在「無理」と思われる
情報−16
ことでも,数年後にはそれが「可能」になる
ことは十分に予想される。実際,過去数年を
みても,そのような事例が多数ある。したが
って,現在の環境では実践は無理だろうと思
われるようなICTの利用方法に関しても
「十分に研究する価値はある」
というよりも,
「現在やるべき研究」であると捉える必要が
ある。ICTは「特別な教具」というイメー
ジから「普通に使える教具」へと変化しつつ
ある。教育現場がICTから取り残されない
よう,ICTの今後の技術開発・進化を踏ま
えた教授法の研究が今後必要であろう。
参考文献
1
文部科学省 『IT新改革戦略−いつでも,どこでも,誰でもITの恩恵を実感できる社会の実
(平成 18 年)
現−概要』
(平成 10 年)
2
文部科学省 小学校指導要領
3
文部科学省 小学校学習指導要領解説
理科編
(平成 11 年)
4
文部科学省 小学校学習指導要領解説
国語科編
(平成 11 年)
共同研究者
八 尋 剛
規(東海大学福岡短期大学准教授)
泊
治(研究支援課主任指導主事)
宏
松 﨑 知
子(和白小学校教諭)
芝 田 博
和(美和台小学校教諭)
情報−17
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