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こちら - 関西大学 教育GP

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こちら - 関西大学 教育GP
文部科学省 平成20年度「質の高い大学教育推進プログラム」
(教育GP)
ICTを活用した教育の国際化プログラム
留学前、
留学後を結ぶ3つの活動を通した総合的留学教育の実践
平成21年度 成果報告書
平成22年3月
文部科学省 平成20年度「質の高い大学教育推進プログラム」
(教育GP)
ICTを活用した教育の国際化プログラム
留学前、留学後を結ぶ3つの活動を通した総合的留学教育の実践
平成21年度 成果報告書
C o n t e n t s
はじめに ������������������������� 4
Ⅰ 本年度の取組内容 ������������������� 6
Ⅱ 海外現地フィールドワーク調査報告
A.現地フィールドワークにかかる調査
1.北アリゾナ大学(平成21年8月27日〜8月30日)����� 8
2.ユタ大学(平成21年8月30日〜9月2日) �������� 9
3.カンザス大学(平成21年9月2日〜9月6日)�������10
4.アデレード大学(平成22年2月22日〜24日) ������11
5.オークランド大学(平成22年2月25日〜27日) �����12
B.日本の「知」アーカイブ構築にかかる調査
1. ハワイ大学(平成21年8月31日〜9月11日)�������13
Ⅲ 国内調査 �����������������������15
Ⅳ 教育の国際化講演会
1.第1回 教育の国際化講演会 ���������������18
2.第2回 教育の国際化講演会 ���������������38
3.第3回 教育の国際化講演会 ���������������61
Ⅴ コンテンツ作成状況
1.日本の文化
a.先端科学技術�������������������74
b.日本の伝統文化������������������75
c.日本の現代文化������������������78
d.学生文化���������������������79
e.関西大学の歴史������������������81
2.異文化ABC����������������������82
Ⅵ 取組支援のための情報システム
1.本取組で開発する情報システムと年度計画��������84
2.
「日本の『知』アーカイブシステム」開発(第1段階)���86
3.コンテンツのSCORM形式への変換手順 ���������93
4.学習コミュニティ掲示板の機能強化�����������95
5.「日本の『知』アーカイブシステム」
(第2段階:開発上流工程)��96
Ⅶ フォーラム運営現状 ������������������98
Ⅷ 留学にかかるニーズ分析 ��������������� 101
付録 資料 ����������������������� 104
Mail : [email protected]
はじめに
山本 英一
事業推進責任者 新聞を読んでいると「PRに不熱心な日本」という見出しが目に入ってきた。
筆者である曽野綾子氏がマレーシアを訪れたとき、その国会図書館に、日本に
関する本が、旅行案内程度のものを含めて7、8冊しかなかったというのである
(産経新聞 平成22年1月31日)。日本は商品を売ることには熱心だが、肝心の日
本に関する知識の売り込みは得意でない。本年度の第3回教育の国際化講演会で
お話いただいた宮崎敬子先生が「アニメは最高の外交手段」と言われたが、自
分のことを相手によく理解してもらうことが「外交」の原点だろう。自らのこ
とを知ってもらう努力のないところに「外交」は存在しないのではないか。「ICT
を活用した教育の国際化プログラム」を始めて2年目になるが、取組の柱の1つ
である「日本の『知』アーカイブ」構築に際して、立派なコンテンツがたくさ
んあっても、それがことごとく日本語でしか書かれていないことに、もどかし
さを感じる毎日である。日本語、日本人、そして日本文化に関するユニークな
考え方が、さまざまなところで展開されているにも関わらず、日本語で書かれ
ている以上、読者層は限られてくる。これが英語で書かれていたら、どれほど
日本の売り込みに貢献してくれるだろうか。日本を理解してもらうのには絶好
の材料ではないか。そういう思いに駆られてしまう。だからこそ、英語や中国
語で「日本の『知』アーカイブ」を作って、留学を目指す学生たちに十分な知
識を身につけてもらおうとしているのだ。巡り巡って、思いは本取組の原点に
戻ってくるのである。
しかし、本当にアーカイブ作りは手間隙がかかるものである。先の新聞記事は、
よく読んでみると、産経新聞が昭和52年5月11日に掲載した記事を今回再録した
ものであることに気づいた。何と32年余り前に曽野綾子氏が語ったことが、今
もなお新鮮さを失っていないのだ。日本はPRに不熱心だ。少なくとも、英語で
日本文化、あるいは日本そのものを発信する努力が不足していることは誰の目
にも明らかであろう。
大学生の頃、専門課程に入ると、恩師が担当する英作文の授業が毎年あった。
最初の年は、星新一の「ボッコちゃん」を、次の年は高山樗牛の「滝口入道」を、
それぞれ英訳するというものである。現代小説の前者はともかくとして、後者
は辞書なしには日本語でも理解不能な内容である。これを英訳するなどという
芸当は、いくら英語専攻の学生とはいえ、至難の技と言えた。なぜ、そのよう
な題材を選んで、英語の勉強をさせられるのか。当時は皆目分からなかった。
しかし、後々恩師の研究業績を見る機会があった時、その謎が解けた。恩師は、
英語学の研究とは別に、日本文学の翻訳を手掛けていたのである。そういえば、
英訳の許可を得るために、川端康成に手紙を書いたという話も、いつか聞いた
ことがあった。我が恩師の教えは、「言語の研究者であると同時に、英語の職人
たれ」であった。日本文学をはじめ、日本の風物を英語で発信できるのは、そ
の職人にしかできないことである。恩師は、自ら日本文学の発信人を任じてい
たのだろう。それにしても、30年以上の時を隔てて、日本文化発信の重要性を
認識し、その仕事を他人事ではなく、我が事として進めなければならないとは、
夢にも思わなかった。そして、この仕事はなかなか難物だったのである。そん
な仕事に従事できる職人はそうそういるものではない。仮に仕事を始めても、
ひとりの力でできることは高が知れている。
本年度の取組では、コンテンツの英語化に際して、日本文化の英訳に関心の
あるスタッフに協力していただき、作業の効率化を図った。また、異文化ABC
の充実を目指して、ハワイでの現地取材を実施し、そのコンテンツをもとに、
e-Learningに供することのできる寸劇DVDを作成した。寸劇は、本学・外国語
学部でスタディ・アブロードを目前に控えた学生の協力も得て、予見されるト
ラブルとそれへの対処法を考えさせる内容になっている。また、日本の伝統芸
能を通じて、庶民の生活を考える「落語プロジェクト」も、多くの方の協力を
得ながら実現することができた。ひとりの力でできることは高が知れているが、
チームを組んで事に望めば、かなりの成果が上がることもわかった1年であった。
この収穫を踏まえて、取組の最終年では、知のアーカイブの更なる充実、コミュ
ニケーション活動の本格化、現地フィールドワークの実践を目指すことになる。
Ⅰ 本年度の取組内容
平成20年度に引き続き、平成21年度は次の3つの柱を中心に活動を展開した。
1.
「日本の
『知』
アーカイブ」構築(学ぶ)
2.教育GPフォーラム運営
(語る)
3.現地フィールドワーク
(実践する)
それぞれの活動の概要を以下に記す。
1.「日本の『知』アーカイブ」構築(学ぶ)
平成20年度に引き続き、大阪大学より2次利用の許諾を得たESP教材(平成17年度現代GP
成果物)のSCORM教材化を急ぎ、同時にe-LearningプラットフォームとしてCEASとSakai
の連携を進め、CEAS/Sakai連携フレームワークの中での公開を実現させた。なお、本取組
においては、ESP教材は、日本の最先端科学技術として日本文化を代表するものとして位置
づけ、留学支援の一助としている。もともと英語で書かれたコンテンツは、受入留学生の学
習にも役立つよう日本語化、中国語化を進めている。
アーカイブの柱の1つ、
「日本の文化」については、学内の資源を有効に利用することを基
本方針とし、剣道や落語をテーマにした記事を作成した。落語については、1つのネタ(青菜)
を選び、江戸時代の風物を視覚的に紹介しつつ、衣食住を中心とした日本の文化を考えるフィ
ルムを作成した。
伝統文化につながる学生活動として、学内の体育会(弓道、柔道など)および文化会活動(邦
楽、能楽など)に従事する学生に呼びかけて、活動解説文(日本語)を寄稿してもらい、こ
れを英訳する事業を展開した。
関西大学の学生として、大学の成立ちをはじめとする年史に関する知識も必要と考え、関
西大学120年史の英語原稿をもとに、アーカイブ用の教材を作成した。
なお、それぞれの教材については、可能な限り音声(英語)を付すよう努めている。
アーカイブのもう1つの柱である「異文化ABC」については、ハワイ大学での取材をもとに、
「留学生べからず集」を取りまとめ、その素材をもとに、DVDを作成した。4つのパートから
構成されるDVDは、CEAS上でも公開され、留学を目指す学生の異文化に対する意識の向上
に役立てられる。
2.教育GPフォーラム運営(語る)
平成20年度に引き続き、教育GPのために開設したホームページ上のフォーラムの数を増や
し、留学を目指す学生たちのコミュニケーション活動を促した。また、フォーラムに、現地
での様子を伝える写真を容易にアップロードできる仕組みを求める学生からの声に応えて、
ファイルアップロード機能を追加した。
3.現地フィールドワーク(実践する)
平成20年度に引き続き、海外語学研修を中心に、本取組が目指す「現地フィールドワーク」
の実施と環境整備を行った。サウスカロライナ大学は、昨年と同様、小学校での日本文化発
信のプロジェクトが実施された。また、北アリゾナ大学、ユタ大学、カンザス大学、アデレー
ド大学、オークランド大学に赴き、本取組が提供する枠組みで学習した学生が、現地コミュ
Ⅰ 本年度の取組内容
ニティで日本文化を発信したり、あるいは現地の文化との比較分析を行うプロジェクト実施
にかかる詳細について、円滑に活動に入れるよう現地担当者と協議を行った。いずれの大学
でも、何らかの形で平成22年度に現地フィールドワークの実施を目指している。
なお、これらの事業展開については、教育GP運営委員会で綿密な計画と議論の上、進めて
いる。本年度の運営委員会開催スケジュールと議事内容は、以下を参照されたい。
平成21年度 運営委員会開催記録
回
6
日 時
議 事 内 容
平成21年4月21日
(火) 1.プロジェクトの全体計画 2.大阪大学ESP教材について
10:30〜12:00 3.その他
7
4月28日
(火) 1.プロジェクトの全体計画 2.コンテンツについて 10:30〜12:20 3.大阪大学ESP教材について 4.その他
8
5月19日
(火) 1.大阪大学ESP教材について 2.コンテンツについて 13:00〜13:50 3.その他
9
6月2日
(火) 1.大阪大学ESP教材について 2.コンテンツについて 10:40〜12:20 3.その他
10
6月16日
(火) 1.大阪大学ESP教材について 2.コンテンツについて 13:30〜14:40 3.その他
11
7月24日
(金) 1.大阪大学ESP教材について 2.コンテンツについて 10:30〜12:30 3.その他
12
9月24日
(木)
1.現地フィールドワーク 2.異文化ABC 3.その他
10:30〜12:10
13
10月29日
(木)
1.教育国際化推進リエゾン 2.コンテンツ 3.その他
10:30〜12:20
14
11月19日
(木) 1.教育の国際化講演会 2.ハワイプロジェクト
10:30〜12:20 3.コンテンツ 4.阪大SCORM教材 5.その他
15
12月10日
(木)
1.コンテンツ 2.教育の国際講演会 3.その他
10:40〜12:20
16
12月17日
(木) 1.CEAS機能補強 2.コンテンツ 3.教育の国際化講演会
10:40〜12:20 4.スタディ・アブロード実施を想定したコミュニティ機能強化
17
平成22年1月13日
(水)
1.コンテンツ 2.春季語学研修とフィールドワーク
10:40〜12:00
18
1月19日
(火)
1.コンテンツ 2.その他
10:40〜12:00
19
1月26日
(火)
1.コンテンツ 2.その他
10:40〜12:00
20
2月2日
(火) 1.ハワイプロジェクト 2.落語ビデオ作成 10:40〜12:10 3.その他
21
2月15日
(月) 1.落語ビデオ作成 2.教育の国際化講演会(3月) 15:00〜16:10 3.その他
22
3月1日
(月) 1.落語ビデオ作成 2.教育の国際化講演会(3月) 15:00〜16:10 3.成果報告書
Ⅱ 海外調査報告
A
現地フィールドワークにかかる調査
本取組の柱の1つである現地フィールドワークについては、昨年度に引き続き、本年度もサ
ウスカロライナ大学における春季語学研修で、地元の小学生を対象に日本文化の紹介プロジェ
クトが実施された。以下の写真を参照されたい。
小学校での文化交流(1)
小学校での文化交流(2)
小学校での文化交流(3)
日本文化に関する知識を深めた上で、留学先のコミュニティで自らの文化について発信す
る活動を、本取組では
「現地フィールドワーク」と呼び、本年度は外国語学部のスタディ・ア
ブロード提携校
(ユタ大学、カンザス大学)、および関西大学協定校(北アリゾナ大学、アデレー
ド大学、オークランド大学)を訪問し、それぞれ現地担当者とのミーティングを通して、活動
の趣旨を説明し、
(主として)語学プログラムの中に組み込んでもらうべく協議を進めた。以下、
各大学における具体的な協議の内容報告である。
1. 北アリゾナ大学(平成21年8月27日〜8月30日)
北アリゾナ大学は、現在
(平成22年3月時点)51校ある関西大学の協定校の1つである。Vice
Provost for International Initiativesで あ り、Center for International Education(CIE)の
Directorでもある Harvey Charles 氏が
本学とのパイプ役として、さまざまなプ
ログラムを検討してくれている。すでに
交換派遣留学の制度は始まっているが、
平成22年夏からは語学研修プログラムも
開始される。本取組との関係では、語学
研修における日本文化発信の活動をどの
ように位置づけてもらうかが焦点とな
る。元来、応用言語学の分野では世界的
に著名な学者
(Douglas Biber)を擁して
お り、 英 語 教 育 に は 定 評 が あ る。ESL
Center for International Educationの建物
Ⅱ 海外現地フィールドワーク調査報告
(English as a Second Language)には4つのレベルがある。すべてはTOEFLのスコアが基準
となっているが、レベル1
(below 400)、レベル2(400-450)、レベル3(451-500)、レベル4(501-525)
と呼ばれる。本学から語学研修に参加する学生は、レベル2・レベル3に属するのが一般的だ
と思われるが、単なる文法能力の開発ではなく、内容に基づく(content-based)文化研究
(cultural studies)やコミュニティ活動(community activities)も含めながら、トータルなコ
ミュニケーション能力の養成を目指す。大学のあるFlagstaffから車で約1時間移動すると、眼
前にグランドキャニオンのSouth Ridge が広がる自然の豊かな土地がある。グランドキャニ
オンへの道中には、Navajo Indian Reservation(ナバホーインディアン保護区)があり、本取
組による日本文化発信のプロジェクトに、アメリカ先住民族の文化を考えながら、異なる文
化の比較を試みることも有益ではないかとの提案がHarvey Charles氏からなされた。今後、
詳細なプログラムの企画・立案については、同氏を通じて、英語教育を担当するセクション
と協議が行われる。また、研修(留学)前に、北アリゾナ大学の学生とスカイプを通して交流
を行う可能性も示唆されており、その点については、同大学で日本語教育を担当されている
Chie Okubo先生にCIEとの橋渡しを務めていただける。
2. ユタ大学(平成21年8月30日〜9月2日)
ユタ大学は、本学・外国語学部の提携校で、2年次必修のスタディ・アブロードの受入先
の1つである。スタディ・アブロードでは、平成22年3月に第1期生が派遣されるが、ユタ大学
へは外国語学部からは最も多い約60名(学部全体は150名)の学生が出かけることになってい
る。学生の受入の拠点となるのはEnglish Language Institute(ELI)で、Director のValentina
Inozemtseva氏と、Associate Director のGeorge Plautz氏が留学プログラムの世話人である。
学生たちはELIで、10ヶ月の滞在期間を通してESLの勉強に専念する。運用能力の程度によ
りクラス分けされたコースは、月曜日から木曜日まで通常の語学授業が提供され、金曜日に
さまざまな活動が用意されている。たとえば、horseback-riding(乗馬)やkayaking(カヤック)
も課外活動に含まれ、counting hours(教育の一環として算定される時間)については逐一報
告が可能とのことである。本取組における日本文化発信に関する活動も、そのような課外活
動として位置づけ、単位認定に必要な時間数を確認するような仕組みも将来的にはできる余
地がある。
Sasaki-Uemura氏(左端)とともに
プログラム・コーディネーターのPlautz氏のオフィス
International Center で International Programs and Services のAssociate Director を務
めるAnjali Pai Hammond氏によると、たとえば学内には100名以上から構成されるJapanese
Student Association(日本人留学生協会)があり、そのような組織で日本文化交流のイベント
を企画するのも1つのアイデアとして有効かもしれないとのことである。また、今回、元アジ
ア学のDirectorで、今も歴史学部で教鞭をとっておられるWesley Sasaki-Uemura氏とも会う
機会があった。留学した学生たちの関心にあわせて、歴史学部で日本の歴史を学ぶ学生たち
との交流の機会を設定し、相互に知識を深めることも有意義なプロジェクトになると思われ
る。
なお、日本文化発信のためのプロジェクトについて、詳細な協議はスタディ・アブロード
全体のお世話もお願いしているGeorge Plautz氏を通して行うことになる。
3. カンザス大学(平成21年9月2日〜9月6日)
カンザス大学も、本学・外国語学部の提携校で、2年次必修のスタディ・アブロードの受入
先の1つである。学生受入の中心となるのはApplied English Center(AEC)である。ユタ大学
と違って、カンザス大学では10ヶ月の滞在期間中、学生がTOEFLのスコアをクリアすれば、
Advanced AEC(AEC上級コース)や、通常の学部授業も受講することが可能である。ESL
の授業では、そのような上級クラスを目指して、(academic)listening、reading、writing、
grammarなど、テーマ別のプログラムが用意されている。
スタディ・アブロードの世話役は、AECのAssociate DirectorであるMargaret Coffey氏
である。本取組が目指す日本文化発信のプロジェクトについても、Coffey氏を中心に協議を
進めた。日本文化との関係では、学内にJapanese Student Associationがあり、また9月に
はKansas City Japan Festival が催されるとのことである。さらに、キャンパスにはAnime
Clubもあり、そのような組織を介して、たとえば学生による日本文化紹介のプレゼンテーショ
ンを企画することも選択肢の1つになるという。
今回の訪問では、Department of East Asian Languages and Culturesの先生方にもお会い
して、本取組について説明する機会が得られた。このアジア言語文化学部で室町時代の説話
を研究されているMaggie Childs氏によると、キャンパスのあるローレンス市とその周辺で
Outreach Program(社会支援プログラム)が実施されており、地元の小学生を対象に日本文化
について語ったり、中学校や高等学校の先生を対象としたワークショップで日本のポップカ
ルチャーについて話したりすることの実現性は、かなりあるという。また、アジア言語文化
学部の先生方が、本取組と地元の学校の仲を取持ちながら、プロジェクトを実施することも
可能なようである。この点については、本学学生を受入れているAECの方で課外活動として
認めつつ、将来的にはユタ大学と同じくcounting hours(教育の一環として算定される時間)
として報告することも実現可能なことがわかった。Margaret Coffey氏からは、学校でのプレ
ゼンテーションの素材として、①絵葉書、②着物、③折紙、④学生自身の写真、⑤絵本など
の具体例が示された。本取組としては、そのようなアイテムも考慮に入れながら、さらに日
本文化について深みのある語りを目指していることを説明した。
AECのMargaret Coffey氏(前列左端)、
Chuck Seibel 氏(前列右から2番目)とともに
※取組責任者(山本)は前列左から2番目
10
東アジア言語文化学部・助教授の
Maggie Childs氏(右から2番目)
Ⅱ 海外現地フィールドワーク調査報告
なお今回は、AECではMargaret Coffey氏を中心に、Director のChuck Seibel氏をはじめ
とする英語教育のチームと丸1日使って協議をする機会が得られ、英語教育に関する双方の意
見交換を十分に行い、相互理解を深めることができたと言える。また、本取組については、
Margaret Coffey氏を窓口として、実行可能なプログラムの作成を目指すことになった。
4. アデレード大学(平成22年2月22日〜24日)
アデレード大学と関西大学の関係は長
く、すでに15年におよぶ語学研修の実績があ
り、交換派遣留学の協定校でもある。語学研
修 に つ い て は、GEAP(General English for
Academic Purposes)Program と呼ばれる5週
間のプログラムが本学学生のために用意され
ていて、5つのレベルに分けて実施されている。
GEAP Programの授業風景
本取組が求める「現地フィールドワーク」につ
いては、このGEAP Program の中で、
“Student
Ambassador”のような名称のもと、以下のような形態で日本文化発信の実践(Outreach
Program)
が可能である。
○日本語教育のクラスへの派遣:
コミュニティ・プログラムとして、日本語学習者
との交流を図る。
○地元の学校への派遣:
アデレード大学では、ホストファミリーによる学
生の受入れをしており、ホストと地域のパイプがあ
る。また、教職課程も提供しているため、地元の学
校とのつながりもある。学校で、学生にプレゼンテー
ションをさせる機会は持てる。
担当のLiz氏、Matt氏とともに
○Aged Care Centerへの派遣:
高齢者の施設でのプレゼンテーションも選択肢の1つ。
現在提供されている語学研修プログラムにおいては、金曜日の選択授業を「日本文化」発信
にあてることが考えられる。ただし、関西大学の学年暦にあわせて、今のプログラムは4週間
で完結するように組まれているが、現地フィールドワークを成功させるには5週間プログラム
として実施することが望ましい※。
※アデレード大学の正規語学研修は、本来5週間で完結するようにユニットが組まれている。
PCE玄関にて(1)
PCE玄関にて(2)
11
5. オークランド大学(平成22年2月25日〜27日)
オークランド大学と本学は、正式
な交換派遣を実行する協定関係には
至っていないが、春季語学研修が先
行する形で両校の連携が始まってい
る。研修を担当する組織は、English
Language Academy(ELA)で、 日
本人だけでなく、中国、韓国などア
ジア諸国を中心に集まった学生によ
る混成クラス
(Integrated Class)
で授
業は運営されている。
もともと授業を通して、学生にマ
オリ文化について考えさせる試みも
マオリ文化の展示物(オークランド博物館)
含まれており、本取組が目指す日本文化の発信は、既存の異文化体験プログラムとのジョイ
ントも選択肢の1つになるとのことである。また、地元の高等学校で文化交流の企画を設ける
ことも可能である。
ELAで提供されている語学プログラムは多様である。IELTSの成績向上に特化した授業は、
比較的日本人学生が得意とする文法項目の
さらなる理解と定着を目指している一方、
Businessに 焦 点 を 当 て た クラ ス や マ ス メ
ディアで注目される話題を選んで、学生に
プレゼンテーションを求めるといった、か
なりコンテンツ志向のクラスが多い。綿密
に組まれた語学プログラムの中に、日本文
化発信のためのフィールドワークを取入れ
るためには、3週間の混成クラス
(Integrated
Class)
の後に、1週間の関西大学専用クラス
ELAプログラム 時間割
(Closed Class)
を設けることが現実的かつ効
果的なオプションであるとの提案があった。
なお、来年度の実施に向けた詳細な打合せは、Program CoordinatorのFiona氏、および
Senior InstructorのKirsten氏とのコンタクトを通して行うこととした。
ELAオフィスにて
12
Fiona氏、Kirsten氏とともに
Ⅱ 海外現地フィールドワーク調査報告
B
日本の「知」アーカイブ構築にかかる調査
1. ハワイ大学(平成21年8月31日~9月11日)
本取組の柱の1つである
「日本の『知』アーカイブ」には、日本の文化に関する知識・情報だけ
でなく、異文化と接したときに起こり得るトラブルを事前に回避するための情報を盛り込む
ことになっている。これを
「異文化ABC」と呼んでいるが、海外における日常生活と密接に関
わっており、また人々の意識も時代とともに移り変わる部分があるため、今回は最新の情報
を得るべく、海外での生活も長く、本学赴任前にはニュージーランド・オークランド大学で
も教鞭をとっておられた、外国語学部・教授の菊地敦子氏の協力のもと、日本人学生が起こ
しがちなトラブルの取材をハワイ大学で行った。
この現地取材で得られた情報は、Hawaii Survey という形で整理され、以下のような見出
しのもとに分類された。
1. Lack of Assertiveness(自らを主張することの欠如)
- Lack of English skills(英語運用能力がないため)
- Inability to say‘No’
(No と言えないため)
2. Relationship Problems(人間関係のトラブル)
- Between US males and JP females(アメリカの男性と日本の女性間)
- Between Japanese students(日本の学生同士)
- Between gay men
(ゲイ同士)
3. In-class / On-campus
(クラス内/キャンパス内で)
4. Off-campus
(キャンパス外で)
- Host-family / Dorm problems(ホストファミリーや寮の問題)
- Legal issues 〜Drugs/alcohol/crime/violence(法律に関わること:ドラッグなど)
- Date rape
(レイプ)
5. Problematic Behavior
(問題行動)
- Dress code
(服装について)
6. Health Management
(健康問題)
- STD
(性病について)
7. Other Tips
(その他のアドバイス)
いずれの項目でも、アメリカに留学した学生がすぐに直面すると思われる問題を取り上げ、
その事例
(cases)を紹介し、それに対する対応策(strategies)を記している。扱われた事例は
93、対応策は56に及ぶ。いくつか代表的な事例と対応策を見てみよう。
1. Lack of Assertivenessより
Case 1: A student became depressed because she realized how little English she was able
to use.
(英語がなかなか使えないことに気づいて、日本人学生はふさぎこんでしまいました)
Strategy 1: Practice giving your own opinion. Unless you try to express your opinion,
people will gradually stop talking to you, thinking that you won’t say anything
anyway.(自分の意見が言えるように練習しましょう。自分の意見を言わないと、何に
も言わないのだと思われて、周りの人からはだんだん話しかけられなくなります)
2. Relationship Problemsより
Case 2: A Japanese student was waiting at a bus stop. There was a man with a dog, so
13
Ⅱ 海外現地フィールドワーク調査報告
she was looking at the dog. The man started talking to her. After a few exchanges,
the man introduced himself and asked the girl for her name. He then hugged her and
kissed her on the cheek. She felt embarrassed so she giggled. She was uncomfortable
but was not able to say anything.(日本人の女子学生がバス停でバスを待っていました。
犬を連れた男性が現れ、この学生は犬を見ていました。男性が彼女に話しかけてきます。
少し言葉を交わした後、男性は自己紹介を始め、彼女の名前を尋ねます。男性はいきな
り彼女に抱きつき、頬にキスをしました。彼女はとても戸惑っているのに、クスクス笑っ
てしまいます。とても不快なのですが、彼女は何と言っていいのか分からなかったのです)
Strategy 2: Many Japanese female students allow American men to get away with many
things that they would never allow a Japanese man to get away with. A Japanese girl
would not normally agree to go out with a man who started chatting to her at a bus
stop. But somehow, many Japanese girls allow this to happen in the US. Japanese
girls should behave in the same way they would behave in Japan.(日本人の男性には
きっと許さないことでも、アメリカ人の男性には許してしまう日本人女子学生が沢山い
るようです。
(日本だったら)バス停で話し始めた男性と付き合うなどということは通常
はあり得ないでしょう。ところが、アメリカだとそんなことを許してしまうのです。女
性はアメリカでも日本にいるときと同じように行動しなければなりません)
5. Problematic Behavior より
Case3: Sometimes, Japanese are careless about showing the amount of money they have
in their wallets. Americans carry very little cash. Only carry what is necessary on
that day, no more.(日本人は財布に入れるお金の金額について気配りの足りないことが
あります。アメリカ人はほとんど現金を持ち歩きません。その日に必要なお金だけを所
持し、それ以上持つことはないのです)
Strategy 3: Don’
t carry large amounts of cash. Lock it up in a safe place. Open a bank
account.(多額の現金を持ち歩かないように。安全な場所にしまいましょう。あるいは、
銀行口座を開きなさい)
なお、今回取材した内容をもとに、本学・外国語学部の学生や教員、そして交換派遣留学
生の協力も得て、4つの状況を設定し、「アメリカ留学べからず集」とも言うべき寸劇ビデオを
制作し、留学先での生活に活かしてもらうべく、オリエンテーションや講演会の場を利用し
てスタディ・アブロード出発前の外国語学部学生たちに観てもらった。さらに、映像はもち
ろんのこと、文字情報も教材化・デジタル化し、「日本の『知』アーカイブ」の主要なパートと
して、次年度以降の取組に活かすことになっている。
14
Ⅲ 国内調査
平成21年度情報教育研究集会(平成21年11月15日発表)
スライドは東北大学で開催された「平成 21 年度情報教育研究集会」での発表に用いたものである。本集会
では、ICT を利用した各大学の発表があり、貴重な情報交換・情報収集の場となった。
15
16
Ⅲ 国内調査
17
Ⅳ 教育の国際化講演会
1
第1回 教育の国際化講演会─アメリカ留学と私─
日時:2009年3月31日(火)14:00〜16:00
講師:石黒 加奈 氏
山本教授:「ICTを活用した教育の国際
化プログラム」について、少しお話をさ
せていただきたく、チラシ(※P2〜3を
参照)を用意させていただきました。こ
れは、平成20年度の文部科学省の教育
GP「質の高い大学教育推進プログラム」
ということで、関西大学の方から全学
の取組として申請いたしまして、それが
認められまして、実質的には昨年の11月
からプログラムが立ち上がっています。
タイトルにあります「ICTを活用した」
といいますのは、いわゆるコンピュー
タ、ネットワークを活用しまして教育のプログラムを実施するということです。関西大学の中にCEASという
e-Learningのシステムがありまして、これを教育に活用します。平成16年度の現代GPの取組としてこのCEAS
の事業が展開していましたが、今回はこのCEASを使って、あるいはネットワークを使って、皆さんの留学を
支援する方法を開発しようという取組が進んでいます。これを「教育の国際化」といっております。チラシの
裏側を見ていただきましたら、
「e-Learningを使って留学の前に必要な知識を身に付けて出かけてもらおう」と
いう柱が書いてあります。特に留学を体験した皆さんの中で何が困ったかというといろんなことがありまして、
もちろん異文化間の食い違いもありますが、日本人として出かけていっているのに日本のことを聞かれて何も
答えることができず、そのあたりを自分で発信することができないためにフラストレーションをためて帰って
くるということなどをよく聞いておりますので、そのあたりをきちんと事前に勉強して出かけてもらおうとし
ています。全学のプログラムとして交換派遣のプログラムや、1ヶ月間の語学研修のプログラムがありますが、
似たようなことが起こっていまして、これを包括的にサポートしようということが1つの狙いとしてあります。
もう1つでは、今日来ていただいている学生さんもおられると思いますが、明日から関西大学の11番目の学部
として外国語学部ができます。こちらでは、2年次に留学が必修となっておりまして、事前にそのあたりのい
ろんな勉強をして出ていってもらって、現地の学習がスムーズに行くようにということもこのプログラムでは
想定しています。そのための教材といいますか、学ぶためのアーカイブ、データベースをフェイズ1というこ
とで用意して、その内容を踏まえて、一体どういうことが問題なのかということを、留学を考えている人、留
学中の人、あるいは帰ってきたOBの人にも参加を促し、ともに語り合ってもらい、その中で情報を共有しな
がらお互いを高めあってもらうということを考えています。フェイズ3は、今までなかったことですが、身に
付けた知識を現地に行ったときに利用して、何か自分を発信するような作業に活かしてもらおうというもので
す。そのあたりが可能な大学からこのプログラムを動かしていきます。外国語学部ですと、提携先が決まって
いますので、実際に身に付けた知識を現地のコミュニティで発信してもらうというようなプログラムを行おう
としています。3つのフェイズがありますが、トータルではそのあたりをICT、インターネット、パソコンを使っ
てサポートします。それだけですとお互いの顔が見えないので、それと同時にこういう形で集まっていただき
勉強会を開いたり、講演会を開いたりして、いろんな疑問に思っていることについてのお話を聞いたり、また
情報交換をして、
お互いの知識を高めていこうということをもくろんでいます。今度はこの赤い方のチラシ(※
P37を参照)を見ていただきたいのですが、最初の講演会ということで今日企画をしました。3月31日という日
程ですが、今日、国際部の方では留学を目指している学生さんのためにTOEFLのITPテストを実施するので、
関心のある学生さんが来ているということと、先程も申しましたように明日から外国語学部の学生さんが入っ
てくるので、関心のある学生さんが集まりやすい日ということで、今日に設定させていただき、講師として石
黒加奈先生にお越しいただいています。そこにも簡単にご説明しているのですが、石黒先生はジャパンタイム
ズのスチューデントタイムズのお仕事を長くされて、特に留学の体験を踏まえてその記事を連載されていて、
その中のお話の一部がこの『ちょびつき留学英語日記』というジャパンタイムズから出されている本です。私
18
Ⅳ 教育の国際化講演会
も読ませていただきましたが、非常に興味深いエピソードを書いておられます。石黒先生は大学ではなくてそ
の前の段階、つまり高校の段階から1人アメリカに出かけていって生活をしたということで、その中での経験、
苦労されたこと、楽しかったことを本にまとめられていて、是非この情報を皆さんと共有したいという思いが
ありまして、第1回目の講演会にお招きしたという次第です。今日、「アメリカ留学と私」ということでお話を
いただきます。こういう比較的小さな形で集まっていただきましたので、なるべくインフォーマルな形で意見
交換といいますか、質疑応答も交えながら進めていきたいと思いますので、最後まで宜しくお付き合いをいた
だきたいと思います。前置きが長くなりましたが、石黒先生、宜しくお願いします。
石黒講師:関西大学の皆様、今、山本教授からご紹介に預かりました石黒と申します。今日はこれから約1時
間半、皆様と一緒に留学について考えていきたいと思います。どうぞ宜しくお願いいたします。先程少しお話
もありましたが、今日は語学研修プログラムや交換派遣留学を考えておられる学生の皆様であるとか、今年4
月に開設の外国語学部に入学予定の学生の皆様にお集まりいただいたということで本当にお忙しいところあり
がとうございます。留学や外国語教育に関心のある皆様に、今日これからお話を聞いていただけるということ
で大変光栄に思っております。今日のお話は先程、山本教授にもご紹介いただきましたが、ジャパンタイムズ
出版から出しております私の『ちょびつき留学英語日記』という本と、宝島社から出しております『16歳の選
択-英語の苦手な女の子が飛びこんだアメリカ留学』という本を元に、私自身が7年間アメリカ留学で感じま
した楽しかったこと、おもしろかったこと、また不安に思ったこと、悩んだことなどを少しでもご紹介できれ
ばと思います。今日のテーマはここにありますように「留学」ですが、それを好きなことを持つ大切さと、好
きなことを継続する力という側面から考えていきたいと考えています。皆さんがこの講演会をきっかけに留学
に対する意識を高めることができて、近い将来、実際出かけていかれるときの参考にしていただければ嬉しく
思います。そして今日帰路につかれるときに、ご自身に関して何か1つでも2つでも気づきや発見のある講演会
であってくれればと願っております。先程も申し上げましたが、留学というのはいろいろな思いがけない体験
ができてとても楽しかったりワクワクしたりするという反面、文化や言葉の壁にぶつかってそういった狭間で
迷ってしまうことや悩むことも非常に多くなってきます。そんな中で自分が「やっていて好きだ」という好き
なことを持つことや、好きなことを大切にして継続するということが、これからの留学、また少し大袈裟に言
えば、これからの皆さんの人生の自己実現できるかどうかという場において、大きなポイントとなってくると
思います。つまり留学の前、または留学中、それから留学から帰ってきた後に、心の迷いやブレがあるときに
軸になってくれるというものがこの「自分の好きなことを持つ」ということだと思います。それによって「自
分の好きな自分」になるのだと思います。
「自分はこんなことが本当は好きだったのではないだろうか」、「こ
んなことをやっているとき本当に楽しいな」
、
「こんなことを本当はやりたいけれども、周りにこういうように
思われるのが嫌だから初めの1歩が踏み出せないのではないかな」、それから「自分がこんなふうに失敗するの
が怖いから英語や留学にチャレンジすることができなかったんだ」といったようなことに少しでも気づくこと
ができれば、その先の道はご自身でも
ビックリするほど広がってくるのではな
いかと思います。1つ、留学を前にして
考えるべきことは、人間には自己防衛本
能のようなものがありまして、難しいこ
とや新しいことに挑戦しようとすると自
然に体や心にブレーキがかかってしまう
ことがあるということです。この2点に
ついて考えながらお話を聞いていただけ
ればと思います。それから、お手元に「自
分の好きなもの探しワークシート」があ
ると思いますが、今日の講演を聞いてい
19
ただいている間に、自己分析をするツールになるので、皆さんに書き込んでいただいて、一緒にさせていただ
ければと思います。2枚目は、私への今日の感想や、今日1時間くらいお話させていただきますが、その後に質
疑応答やディスカッションの時間を取っていますので、そのときに「こんな質問を聞いてみたい」ということ
がありましたらこちらに書き込んでいただければ、1時間が終わった際に一度回収させていただいて、時間が
許す限りその質問にお答えできればと思っておりますので、そのようにこちらのシートをご活用ください。で
は、本題に入りたいと思いますが、まず留学するまでのお話をさせていただきます。まずは留学した理由です
が、どうして7年も、それも16歳ですから高校1年になってすぐに「留学したいな」と思ったのかについてお話
させていただきます。皆さんの中で、
「留学したいな」と思っておられる方も多いかと思いますが、「こうこう
こうだから留学したい」とはっきりと言える方は少ないのではないかと思います。「なんとなくやはり行きた
いな」
、
「やってみたいな」
、
「外国を見てみたいな」という気持ちが漠然とあって留学したいという方が多いの
ではないでしょうか。私もやはり中学生のときになんとなく「広い世界ってどんなだろう」、「いろんな人種が
いる国に行ってみたいな」という漠然とした気持ちがありました。私は中学のとき、地元の私立の女子校に通っ
ていましたので、中学の受験が終わるとそのまま高校、大学とエスカレート式に上がっていくと決まっていま
した。自分のこの先の人生がレールに乗ってしまって決まっているような閉塞感のようなものを、中学生なり
に多少感じていたのではないかなと思います。私の父がまた大変変わった仕事をしておりまして、関西大学さ
んの馬術部が大変強くて2連覇したりしていますが、私の父も馬術のオリンピック選手で、馬術の日本のチー
ムを指導したりしていました。山梨の田舎暮らしでしたので、いつも馬の生徒さんが家に来まして、割とごっ
た返した家といいますか、いつも馬の生徒さんやコーチさんといった関係者がいるという状態でした。ある意
味、そこで社会性が育ったといえば育ったのですが、あまりプライバシーのないような家庭でしたので、私と
しては「本当の自分」というのと、
「お客さんがいつもいる我が家での自分」という2つの顔があると子供心に
意識しておりました。そんなときに「本当の私というのはこういう人間なのではないか」ということを日記に
書くようになって、
「私というのは書くことが好きだな」と気づきました。書いているときは自分らしくいら
れるし、誰にも遠慮せずに本当の気持ちが書けて自由な気持ちになれました。そういう家庭環境もあり、だん
だん書くことが好きということに気づきました。「いつかは海外に行って、いろんな違った文化の人と会って、
そういう人たちとの出会いやおもしろい体験を本にまとめたいな」という気持ちが漠然としてあり、それが留
学したいと思った大きな理由の1つだと思います。「そうやってアメリカに行くという気持ちが中学の頃から
あったなら、英語の勉強は熱心にやっていたんでしょ?」とよく言われますが、皆さんもご自身の小学校・中
学校の時代を振り返ってみてください。英語というのは、数学や理科や国語などと同じ1教科としては捉える
ことはできても、アメリカに行ったらどれくらい英語が必要になるのかというのはなかなか頭の中でピンと来
ない部分があると思います。私も田舎育ちで暢気な子でしたので、塾も1回も行ったことがありませんでしたし、
英語の塾にも行ったことがありませんでした。学校でも英語というのは他の教科と同じ1教科で、そのときの
英語の先生が好きだったら勉強したり、あまり好きではない英語の先生だったら全然勉強しなかったりという
感じでした。先生に怒られて、
「このセンテンスを読んでみなさい。石黒さん」などと言われると、“a piece
of cake”
、
「一切れのケーキ」というのも、
「ピースオブカキ」と読んで、先生に「そんな調子で本当に留学で
きるのか」と言われ周りがみんな心配するくらいでした。皆さんは大学生ですから「留学するためには英語が
できなければいけない」と当たり前のことのように理性的に捉えておられると思いますが、私はとりあえず、
「海外に行きたい」という気持ちが先にありました。そして、「英語を勉強しなければいけない」というのは付
属的なものとして、あまり特に意識しておらず、「アメリカに行くために英語がこれくらいできていなければ
いけない」という具体的なイメージがまったくない状態でした。無謀と言えば無謀でしたけど、子供でしたの
で怖いもの知らずだったと思います。そのような感じで留学することになりました。ここで皆さんに一度考え
ていただきたいのが、先程も言いましたが、留学中または留学から帰ってきた後に、「自分はこういう好きな
ことがある。だからこういう留学をしたかったんだ」というイメージが湧いていると留学中も留学の後も悩ん
だときにそれが軸に、または心のパイロットのような感じになって自分の支えになってくれることがあるとい
うことです。ですから、私の場合は先程お話したように、書くことが好きで、書くときは本当の自分になれま
20
Ⅳ 教育の国際化講演会
したし、またその夢を追い続けていくため
にその先にアメリカ留学がありました。少
しお時間を取って、
「自分にとって留学は
どういう位置づけなのか」についてその
ワークシートに皆さんの気持ちを書いてい
ただければと思います。先程、山本先生に
紹介していただいた『ちょびつき留学英語
日記』は英語と日本語の対訳がついており、
その本の英語のところで私は、
“To get in
touch with the little girl inside, I started
to write.”と書きましたが、それは「本当
の自分と会話するために私は文章を書きま
した」ということです。私にとって文章
を書くときや本を書くときというのは、本当の自分に素直になれるときでした。ですから、“To get in touch
with the little girl inside, I started to write.”というように、皆さんも「どんなときに自分に素直になれるかな」
、
「自分を正直に表現する場所があるかな」と思い出してください。たとえば、「私が英語を好きなのは、英語で
異文化の人と会話しているととても自由な感じがしてすごく手足が伸ばせる。伸び伸びした気持ちになれる」
など、
皆さんそれぞれだと思います。そういったことをリフレクトとしてもらえたらと思います。それから、
「子
供の頃、どんな遊びが好きだったかな」というのも思い出していただければと思います。私は子供の頃、お手
紙を書いてそこにいろいろ切り絵をつけたり、そういったお手紙を書いてお友達やおじいちゃんやおばあちゃ
んに送ったりしていて、自分を文字で表現して誰かに伝えるということが好きだったということが思い出せま
す。その次に、
「今、どんな趣味があるかな」、「今、私の趣味はこういう趣味だけれども、それが留学とどう
いう関係があるのかな」ということも今ここで書いて考えていただければと思います。今日は、少しアットホー
ムな雰囲気のお部屋なので、
「私はこんなときに自分に素直になれて、だから留学したいんだ」という繋がり
が思いついて、ここで皆さんの前で発表しても良いという方がおられたら教えていただけたらと思いますがい
かがでしょうか?はい、どうぞ。
J:昨年までオーストラリアに交換留学で出かけていました。子供の頃からずっと野球をしていて、オースト
ラリアの大学にたまたま野球部があって参加していました。コーチが元マイナーリーグの選手で、選手も何人
かマイナーの選手がいて、なかなか高いレベルでやらせてもらいましたが、何を言っているのかまったくわか
りませんでした。全部教えてくれるのですが、1つのプレーのサインプレーも何もわからなくて、結局、「野球
やっているけど英語力が必要だ」と感じました。それでもやはり、“Nice play!”などの日本語発音でも、伝わ
ることがたくさんあったので、
「僕は素直になれるのがグラウンドの上だな」と思いました。
石黒講師:ありがとうございます。お名前を教えていただいても良いでしょうか?
J:Jです。
石黒講師:Jさんにとっては、野球というコアの部分があって野球をやっている自分が素直になれるというこ
とがあるから、それに留学というものがついてきて、その後ろに英語の勉強というものがついてきているとい
うイメージが湧きました。今、
シェアしていただきありがとうございました。そうやって何か好きなものがあっ
て留学する、そしてそれを英語の勉強に繋げるということ。Jさんも英語がまったくわからなくて恥ずかしかっ
たことなどもあったのではないでしょうか?もしかしたらホームシックになられたこともあったかもしれませ
ん。でもそういう中で野球という好きなものがあるから、そうやって迷ったときやちょっと落ち込みそうになっ
21
たときに、先程のお話のように、
“Nice play!”など一言でも自分が声を掛けれたというのが力になって、次の
日も頑張れたりするということがあると思います。そういうものを持っていられるか持っていられないかとい
うのは、留学前も留学中も留学後も自分がブレないでいられるという素敵なことに繋がると思います。今シェ
アのために良い例を出していただいてありがとうございました。他の皆さんもそういうものが、今少し考えて
見つけられる、今気づいていなくても心の奥の奥を見つめると実はある、ということに気づいていただけたら
良いと思います。今、Jさんの場合は野球という大きなはっきりしたものをお持ちでしたので、余計それをしっ
かりゆるぎないものとして持てたと思いますが、そこまで大きくてしっかりした夢でなくても良いと思います。
「なんとなくこういうことをするのが好きだな」というもっと小さいことで良いのです。夢と呼べるほどのも
のでなくても良いと思います。
「これは自分がとても好きだし、これをやっているときの自分を好きになれる」
というものがあると留学中に何か辛いことがあったときに思い出して、そこから人間関係などを広げていける
ということがあるので、是非、そういうことを留学する前に考えてみていただければと思います。前置きが長
くなってしまいましたが、ここにおられる方には高校留学は関係ないかもしれませんが、私がたまたま高校留
学を含めて16歳から7年間、アメリカに留学したということで、アメリカの高校というのはこういったところ
だということを少しだけご紹介できればと思います。アメリカも日本と同じで私立と公立がありますが、私の
場合は、両親、家族はそのまま実家のある山梨県にいて、私が16歳で単身留学という形でした。ですから、ど
うしても寮がある私立の学校でないと生活ができませんでした。向こうに親戚がいるわけでもなかったもので
すから、寮のある高校をいろいろ留学のカウンセラーの先生に相談して探したところ、400人くらいの生徒が
いるイーストコーストの全寮制の高校に入ることになりました。日本と中学校・高校のシステムが違いますが、
その高校には日本で言う中学3年生から高校3年生までの生徒がいました。私は最初の2、3ヶ月しか日本の高校
に行っていないので、日本の高校とうまく比べられるか心配なのですが、日本の高校だと文系、理系などは分
かれると思いますが、自分で1つ1つクラスを選択するということは少ないのではないかと思います。アメリカ
の場合、こういったジャンルの教科で何単位、というように割と大学に近い感じで、自分で授業を選択すると
いうところからまず始まります。もちろん突然、英語もほとんどできない状態で行きましたので、クラスを選
ぶと言いましても「決められていないのか!」というので、ビックリしてしまいました。理科は「Biology」
か「Chemistry」か「Physics」かと聞かれましても、単語もわかりませんので、
“Yes! Yes!”と言うわけです。
何を聞かれても、
“Yes! Yes!”と。先生ももう1回、“Biology? Chemistry?”と言ってくるので、また、“Yes!
Yes!”と言って、全然スケジュールが決まらないで、授業の選択を1つするにも大変でした。何もわからない
ときに“Yes! Yes!”と言うこの癖というのは学校でも困り者でしたが、1歩キャンパスを出ても同じでした。
今ですとスターバックスに行くと、
「To goですね?」など言われますが、当時16歳でアメリカに留学してマク
ドナルドに行って突然、黒人のおばさんが低い声で、“To stay or to go?”とすごいスピードで言うのです。
「Cheeseburger」とは言っていないし、
「Coke」という発音でもないし、ということで、とりあえずここも、
“Yes!
Yes!”と言っていました。
「Or」と言っているから、どちらかを言ってくれないと向こうも困るのに、しかも
後ろの方の列も長くなるし、というので、ハンバーガーを1つ食べるのにも大変な苦労をしたという記憶があ
ります。その「Or」の質問ですが、
“Biology? or chemistry? or physics?”と聞かれて、どれかを言わなけれ
ばいけないのに、
いつも“Yes! Yes!”と曖昧にニヤニヤしながら言っていました。ですから、皆さんもその「Or」
の質問のときには気をつけた方が良いと思います。アメリカの高校生は、そうやって高校1年のときには生物を、
2年には物理を、というように自分で選択していることが多いということを1つご紹介しておこうと思いました。
それから私がペンシルバニア州にある全寮制の高校を選んだ理由の1つに、そこに非常に英語がしっかりした
ESLのクラスがあったということがあります。皆さん、ESLという言葉を聞いたことがありますでしょうか。
これは「English as a Second Language」ということですが、
「英語が母国語でない学生が集まった英語のクラ
ス」というものがきちんとあります。ですから、もちろん私も母国語が日本語ですから私や、他にアジアでし
たら、台湾や韓国やフィリピンやタイ、インドネシアなど本当にいろんな国の方が来ていましたし、もちろん
ヨーロッパもドイツ、イタリアなどあちこちから来ていました。レベルも2段階や3段階に分かれていました。
高校に留学しても、すぐにアメリカ人の生徒と一緒に英語の授業を受けるというようなレベルでは当然ありま
22
Ⅳ 教育の国際化講演会
せんでした。マクドナルドで、
“To stay or to go?”で、“Yes! Yes!”と言っているレベルですから、とてもそ
んな英語のクラスには入れません。皆さんの高校の国語の授業に突然、明日から日本語がわからない人が入る
ようなものです。そういうレベルでしたので、留学してから1年半くらい、ESLの母国語が英語でない学生の
皆さんと英語の勉強でしごかれました。それからアメリカ史というのはもちろん、アメリカにとっては日本史
と同じような扱いです。日本史より短いから余裕かと思いましたが、教科書だけは5センチくらいあり、「これ
は百科事典ではないか!」と思いました。アメリカ史の基礎は地理も入っておりまして、いわゆる「日本の都
道府県を覚えなさい」
、
「県庁所在地を覚えなさい」というのと同じように、ニューヨークくらいしかわからな
いのに、アメリカの全部の州のスペリングをまず覚えるというところから入りました。私の行った州はペンシ
ルバニアですが、州都もペンシルバニアシティなどと言ってくれれば良いのですが、そうではありません。「で
は、大きい都市でフィラデルフィアかな」と思うとそうでもありません。「では、次に大きいピッツバーグかな」
というと、それも違います。山梨県の県庁所在地が甲府市というように、本当に名前が全然違います。そうい
うので散々、ESLの英語とアメリカ史ではしぼられました。私たちもよく考えてみれば全都道府県の名前など
は小学校で習います。それと同じような、まず小学校・中学校で習ってくるような基本的なことを、高校に入っ
てこのESLのクラスで、徹底的に叩き込まれました。それから先程も、「Biology」、「Chemistry」、「Physics」
と紹介しましたが、理科のクラスが必ず週1回実験をします。日本でも実験はすると思いますが、「今日はどう
いう実験をしました」
、
「どういう結果でした」という実験のレポートを必ず書かなければなりませんでした。
まず、
「Biology」と「Chemistry」と「Physics」の違いがわからない人間が突然「実験をやれ」と言われても
本当におぼつかなくて、実験のレポートを書くにも、「今日何の実験をしたか」ということが、実験が終わっ
た時点でも全然わかっていませんでした。さらにその実験というのは2人ずつのペアでやらなければいけなく
て、パートナーが必要でした。
「2人組になってください」と先生が言うのですが、誰も私と組みたくありませ
んでした。
「この怪しい日本人と組んだら絶対実験終わらないぞ」といった雰囲気でした。そこで先生がクラ
スで1番きちんとできる人を、
「ちょっとこの子の面倒を見てやってくれないか」といった感じで無理やり連れ
てきてくれました。高校3年間は理科の時間は、「恥ずかしい」というか「申し訳ない」という気持ちもありま
したが、
「孤独だな」という気持ちで、高校生の若い心が大分傷つきました。そういうように、理科の実験な
ども、教科書から全部勉強するというよりも、実験をさせて実験のレポートを書かせるというのがアメリカの
高校では割と主流の理科のクラスの進め方です。それから、芸術関連のクラスですが、受験校ですと音楽のク
ラスがない学校なども数年前までは結構ありましたが、今は音楽や美術史などを取らなければいけないように
なって、受験校でも大分変わってきたという話も聞きます。アメリカの場合はまたその選択肢がいろいろあり
ます。
「Chorus」
、
「Orchestra」
、それから「Ceramics」、いわゆる日本でいう陶芸です。また、木工や美術な
どいろんな芸術関連のクラスの選択肢があり、その中から1つ選んで、それを1年間通してやっていくというシ
ステムがあります。私は最初に紹介したその教科選択のときに芸術のクラスを取らないといけないということ
を先生が説明してくださったのですが、私は全然わかっていないので相変わらず、“Yes! Yes!”と言っていま
した。そこで、
“Orchestra? Drama? Ceramics?”とまた聞かれるわけです。「Or」、「Or」で。全部、”Yes!
Yes!”と言っていたら、先生が「Drama」のクラスに入れてしまいまして、1年目に演劇のクラスに入ってし
まいました。突然ピエロの練習などさせられて、「私の留学はどうなってしまうんだ?」という感じでした。2
年目からは、
「陶芸のクラスなら英語を喋らなくても良いだろう」という留学生にはあるまじき理由で
「Ceramics」のクラスに入りましたら、きちんとクラスの終わりに自分の作ったお茶碗の説明のプレゼンテー
ションの時間というのがありました。さすがアメリカです。オバマ大統領なんかもスピーチが上手いですが、
みんな若いときからそうやって散々、どのクラスでもプレゼンテーションやスピーチをやらされます。ですか
らアメリカ人はみんな、人前で話したりするのが得意なのではないかと思います。その「Ceramics」、陶芸の
クラスで、
「私のお茶碗はこういったところを工夫して、この色を選んだ理由は・・・」というのをみんなの
前で発表しなければいけません。今も私はこんなにたくさんの皆さんの前で話していて実は結構ドキドキして
いますが、
「このコップを作ったのは・・・」というのを、
“This is my cup.”などと英語で言って、その後「一
体何を言えば良いのか?」という感じでしたので、5分、10分プレゼンテーションしなければいけなくて恥ず
23
かしい思いをしたという思い出もあります。アメリカの学生は英語、アメリカ史は当然ですが、理科はそうやっ
て勉強して、芸術関連のクラスもそうやってプレゼンテーションやスピーチの練習をしているということをこ
こで紹介しました。それから、私は寮に住んでいましたので、寮の生活もご紹介しようと思います。もう先程、
オーストラリアに行かれたという方もおられたので、実際に行かれた方で寮の生活も経験している方がおられ
るかと思います。2人ずつくらいのお部屋が10人分くらいまとまったものを「ホール」といいますが、当時は
大体10人から15人くらいの女の子がそのホールにまとまって暮らしておりまして、そこに電話が1台しかつい
ていませんでした。今はインターネットフォンがありますが、その当時は電話が1台しかありませんでした。
10人から15人いる年頃の高校生の女の子に電話が1台しかないという、今の世界からは想像もできないような
状況でしたが、私は運良くと言いますか運悪くと言いますか、必ず電話の隣の部屋になってしまうのです。そ
うしますと電話がリンリンと鳴ると電話を取らなければいけないわけです。でも「英語がわからない。でも電
話は鳴っている。どうしよう?」
という状況で、日々電話が鳴ると心臓がドキッとするような思い出があります。
そして、電話に出ますとまた、早口なお父さんなどからかかってくるわけです。「エイミーはいるか?」と言っ
ていて、
「エイミーにかかってきているな」というのはわかるのですが、この人がお父さんなのか叔父さんな
のかお兄さんなのか先生なのかということが聞き取れなくてわかりません。“Can you tell her to call me back
when she gets back?”のようなことを言われるので、「わかった」ということで“Yes! Yes! OK! OK!”と言っ
て切るのですが、
「エイミーに電話があった。でも誰から電話があったかというのがわからない」ということで、
エイミーが帰ってきたときに、
「エイミーに電話があったよ」と伝えても、
「誰から?」と聞かれると、
「ちょっ
とそれがね・・・」ということになってしまい電話番は散々な思いをしました。それが私の当時の寮の生活の
1つの思い出です。それから、私は高校1年で行きましたが、英語ができないということで、1つ学年を落とし
て中学3年生の学年に入りまして、中学3年生の女の子たちと同じ寮に入りました。中学3年生というと本当に
子供なので、
Curfewが10時半でした。10時半になったらみんな電気を消してベッドに入らなければいけません。
でも10時半でしたら到底、宿題が終わっていません。塾も行かないで中学の英語くらいでアメリカ留学して、
教科書を見たらわかるのは冠詞「a」や「the」、そして主語「I」や「He」や「She」くらいです。それ以外は
ほとんど辞書を引かなければいけないくらいわかりませんでした。ですので、そんな状態で宿題しても10時半
には終わりません。ですから次の日も朝3時に起きて、そのホールにある廊下に小さい机が置いてあるところ
がありましたので、そこに座って、まだ当時は電子辞書が出始めた時代でしたので、紙の辞書を「日本語の辞
書と逆から引くんだな」などと暢気なことを考えながら引いて、寂しく宿題をしました。そして7時半くらい
になると女の子たちがみんな起きてきて、
“Can you just bullshit or something?”などと言ってくるのです。
どういうことかと言いますと、
「そうやって何時間も辞書を引いて書いてないで、適当にごまかして書けない
のか?」
ということですが、
寮の友達の女の子がそういうことを言いながらシャワーに入っていくのです。
“You
think I’d be sitting here if I could do that?”
「それができたら、こんなところで座って、一休さんみたいに勉強
していると思うか?」と言い返したい時代もありました。そのようなことが私の寮の最初の生活です。全寮制
の学校は、往々にして、放課後のスポーツというものも大体1学期間か2学期間は取らなければいけないという
規則がありました。私は先程言いましたように、父が馬術の先生ですから馬のクラスでも取っておけば良かっ
たのですが、テニスも少しやったことがあるからと調子に乗ってテニス部に入りましたら、あっさり3日間く
らいで、
「君のスキルは十分でないから」ということで落とされてしまいました。それから仕方なく6軍くらい
まであるフィールドホッケーやラクロスのクラスをやりました。放課後のスポーツは毎日、2時間くらいあり
ました。授業の後、4時から6時くらいまであちこちと練習しなければなりませんでした。アメリカのキャンパ
スと言いますと、
ここの関西大学さんくらい広い感じですので、それを走ったりさせられていたわけです。水曜、
金曜は、アウェイゲームかホームゲームというのがありまして、アウェイゲームですと、ひどいときには1時
間半や2時間くらいバンやバスに乗ってライバル校まで行きます。これがまた最悪でした。私はまず乗り物酔
いをします。さらに、バスの隣に座った女の子と何か会話しなければいけません。“Hi! My name is Kana.”と
言うところまでは良いのですが、チームメイトとはいえ全然知らない女の子に何を言って良いかわかりません。
車酔いはするし、英語は何を言って良いかわからないし、これを水金、水金と繰り返す地獄のような日々でした。
24
Ⅳ 教育の国際化講演会
先程は「何か一言でも言えたら嬉しかった」とお話がありましたが、私はなかなかその一言が言えずに放課後
のスポーツも苦しんでいた時期がありました。そのように、何をやっても、たとえば、授業の選択をしても、
どのクラスに行っても、英語で悩まされる時期がこの頃は続いていました。日本もそうですが、高校も2年生
になりますと、大学受験の話がどんどん出てきました。この頃は、「日本に帰国して日本の大学をもう1回受け
なおそうか?それともアメリカの大学に残ろうか?」と、いろいろ悩んだり考えたりする時期でした。そこで
もう1回先程の「自分の好きなものワークシート」を見ていただけますでしょうか。「私は日本に帰った方が良
いのかな?アメリカに残ってアメリカの大学に行きたいのかな?」という自分の進路のことがよくわからな
かったときに、当時のルームメイトのエレーナちゃんに、“Kana, sometimes your fear and laziness hinder
you from knowing what you want for yourself.”と言われました。それはどういうことかと言いますと、先程
も少しお話ししましたが、
「
『自分がやりたいことって何だろう?』と自分に問いかけたとき、自分の進路につ
いて考えたとき、自己防衛本能が働いて自分に上手に嘘をついてしまうことがある。つまり恐怖心だったり、
怠惰な気持ちだったりするのですが、そういった『失敗するのが怖い』というような気持ちが邪魔をして、自
分が本当に何をやりたいかということをわからなくすることがある」ということです。それをそのとき私の寮
のルームメイトが言いました。
「あぁ、そうか、私は失敗するのが怖いし、そういうことでこれからの進路に
ついて迷っているのかな」
と考えさせられました。当時、私が恐れていたことというのは先程言いましたとおり、
英語が全然できませんでしたので、元々は文章を書くことがとても好きでしたが、「アメリカの大学に行って
文学部に行く」なんていうことはとても恐ろしいことでした。今の何倍も努力しなければなりませんし、もし
かしたら教授に散々に言われるかもしれませんし、とにかく想像を絶するようなことで、「何か失敗したらど
うしよう」
、
「否定されたらどうしよう」という気持ちがありました。ですから「アメリカの大学に行って文学
をやって物書きになりたい」と今は思っていますが、当時はそのように思うことができませんでした。ここで
皆さんに一緒にこのワークシートに書いて考えていただきたいのは、皆さん自身が失敗などを恐れていて、認
めたくない「理想の自分像」というのがもしかしたらどこかに潜んでいるのではないかということです。「あ
のとき自己防衛本能が働いていたな」と思い当たることはありませんか?「将来はこうなりたいな」というの
がどこかにあるのに「それから逃げているという瞬間があったかしら?」ということを、留学する前に1回こ
こで振り返っていただければと思います。これを考えていただくのは、後々の進路を考えるときにためになる
のではないかと思います。たとえば、自己防衛本能ということについては、もちろん「自分はこうしたいけれ
どもこういうふうに失敗するのが怖いし、こういう努力をしたくないから、別に私は元々そうなりたくなかっ
たんだ」と最初から言い訳をしておくというような、自分自身に対することもありますが、たとえば留学を考
えているときに、親御さんやご兄弟の方、もしかしたら恩師の方が「留学なんて止めておきなさい」と言うか
もしれません。そういうこともあるかもしれません。それは実はご両親や兄弟の方に、または先生方に防衛本
能が働いている可能性もあるのです。
「英語の成績もあまり良くないのにこの子を留学に出したら、向こうに
行ってとても苦労するのではないか」
、
「こんなことで寂しい思いをするのではないか」と周りの方が心配して、
「止めておきなさい」と言うこともあると思います。もちろん自分自身の自己防衛本能について分析しておく
必要がありますが、家族の人たちが「止めておきなさい」と言ったときに、実は彼らが本当は心の底で「失敗
したり傷ついたりする私を見たくないから止めているのではないかな」というところまで考えてみることも必
要かと思います。たとえば、私は4歳年下の弟がいますが、実は弟も16歳のときに「アメリカに来る」と言い
ました。彼の目には、私が留学して楽しそうにしているというように映ったと思います。ですから、「アメリ
カの高校でサッカーをやりたい」
と当時言っていました。サッカーはアメリカは強くないからヨーロッパに行っ
た方が良いのですが、
当時はそういうことを言っていました。私はそのとき、弟がアメリカに来るということを、
「家族が来るから賑やかになって良いではないか」とは思いませんでした。弟もまた私と同じように寮に行って、
寮の電話の隣の部屋でビクビクしたり、朝の3時から寒いところで一休さんみたいに正座して宿題をしたり、
それから理科の実験のときに誰からも「パートナーになりたくないな」と思われたり、スポーツの試合に行く
ときに「あの人の隣に座ると会話が弾まないな」と思われたり、自分の弟がそういう同じ体験をするのは、正
直「嫌だな。かわいそうだな」と思いました。それは私に、「傷つく弟を見たくない」という自己防衛本能が
25
働いていたのではないかと思います。それと同じように皆さんの周りの方も心配してくださることもあるかも
しれません。
「お母さん、
もしかしてそういう気持ちがあるから留学止めているの?」という話し合いがあって、
それを乗り越えて「お母さんもお父さんも留学応援するわ」となってくると家族で団結して共通の理解ができ、
留学という大きなハードルを乗り越えていけるかと思います。ではここでも「自己防衛本能が働いていたな」
というご意見をお聞きしたいと思いましたが、時間が押してきましたので、そのエクササイズは皆さんに書い
ていただくことにして、次のお話に進みたいと思います。今まではアメリカの高校はこんなところで、もし塾
も行かずに中学の英語の勉強だけをやって留学したら大体こんな感じになりますというご紹介をしましたが、
これからは本番で、大学の留学はどのような感じになるかをご紹介したいと思います。私は、ルームメイトの
エ レ ー ナ ち ゃ ん に、
“Sometimes your fear and laziness hinder you from knowing what you want for
yourself.”と言われた後に、
「あぁ、そうだ。私はアメリカに残ってアメリカの文学を勉強していつかライター
になりたい。英語でもものを書いてみたいと思っているんだ」という当時にしては恐れ多い希望と言いますか、
夢があるということに気づきまして、結局、アメリカの大学に進学することにしました。そのときにどういう
基準でアメリカの大学を選んだかと言いますと、その全寮制の高校が非常に自分に合っていましたので、イー
ストコーストの田舎にあって、でもフィラデルフィアやニューヨークといった都市に近くて、そういうところ
で夜景を見に行ったり、オーケストラを聞きに行ったり、お祭りを見たり、美術館に行ったりなどができる、
「そ
のような環境の小さい大学に行きたいな」という基準でした。でも実際に入ってみたのは、ニュージャージー
のデュルー大学という今までの高校と似たような大学でしたが、決定的に1つ違うところがありました。それ
はインターナショナルスチューデントの数が圧倒的に少なかったことです。留学生はほとんどいない、それか
ら黒人やヒスパニック系の生徒もほとんどいない、白人がほとんどであるというような大学に入りました。そ
うしますと、おられる教授の方々もやはり、日頃、白人の生徒を指導することに慣れておられるので突然、英
語が大学のレベルにまったく達していないような子が入ってきて「文学部に入りたい」と言いましても、どう
私に手を差し伸べて良いかおわかりになりませんでしたし、私も学校の環境に慣れることができませんでした。
私は小さいときからずっとピアノを習ってきましたので、当時、「Music Major、音楽の専攻になったらどう
だ?」と言われました。
「英語があまりできないことも問題にならない」ということもありました。でも私は、
ルームメイトのエレーナちゃんに「本当にやりたいことは何か考えてみなさい」と言われて、考えてみて、
「自
分はやはり文学が好きだし、文学部に入りたい」という気持ちがこの頃は強くなっていました。ですから、ア
ドバイザーの先生が「音楽の専攻になりなさい」と言われる気持ちはよくわかりましたが、「文学の道に行き
たい」と思いました。アドバイザーの先生は、英語の教授でしたし、「この英語のレベルでは本学の文学部は
無理だ」という判断がされてしまったので、
「ここでそのまま文学部を目指すのは難しいな」と感じて、ちょ
うど1年が終わった夏に、ボストンというニューヨークよりもさらに北に行った町に行きました。ボストンレッ
ドソックスという、松坂投手がいる球団のある町です。今日もTOEFLを受けてらしたという方もおられまし
たが、ボストン大学で、それとハーバード大学でひと夏、TOEFLの特訓や、他のさまざまな英語の特訓をも
う1回受けなおして、何とか英語のレベルを高校レベルから、大学で文学部に入る英語のレベルに上げようと、
猛特訓しました。アメリカの大学のシステムの良いところは、そうやって1回大学に入って、「自分の思ってい
た大学と違うな」というところであった場合、編入のシステムがきちんと確立していて、大学をもう1回受け
なおして行くことができることです。そして、今まで行っていた大学の単位を持って別の大学に行くというこ
とが可能であるということです。それがアメリカのシステムの珍しいところかと思います。私が1番最初に行っ
たデュルー大学というところで何が不満だったかと言いますと、留学生が大変少なく、「diversity」と言いま
すが、いろんな民族、いろんな文化を持った人、民族宗教が違った人たちがあまり集まっていないというとこ
ろでした。ですから、
「是非ニューヨークのような、いわゆる『人種のるつぼ』と言われているような町に行っ
て、いろんな文化の人たちと一緒に学校に行きたいな」という気持ちがあって、ニューヨークのマンハッタン
の大学を端から受験しました。その中でたまたまあった1つがコロンビア大学でした。今のオバマ大統領も学
部編入されて、確か3年生からコロンビア大学に行かれたと思いますが、黒人の生徒もすごく多いですし、そ
れから私のように日本から直接留学して来た人ではなくても「Japanese-American」や「Chinese-American」
26
Ⅳ 教育の国際化講演会
や「Korean-American」などいろんな人種が集まっていました。さらに町に出ればいろんな催し物もいっぱい
あって、
「ここは良いのではないかな」ということでコロンビア大学を受験しました。最初はとても小さい田
舎の大学に行こうと思っていたのが、最終的にはアメリカの1番の都会であるニューヨークの1番規模の大きい
大学に行くことになったというのは、自分でも意外でした。皆さんが大学を選ぶときの基準に1つ気にかけて
いただきたいと思うのは、
「アメリカに行って全然日本と変わらないような、日本人ばかりのクラスというの
もちょっとな」と思うのももちろんあるかと思いますが、また留学生が全然いない大学というのも、先程言い
ましたような留学生サポートのシステムやESLのシステムができていない場合があるということです。ここに
も書いてありますように、コロンビア大学は大学付属の語学学校のシステムがありました。小さい大学ですと、
「教授とOne-on-Oneでお話ができたりして、英語ができないところはカバーされて良いのではないかな」と思
う反面、実は大きい大学でも先生と生徒のRatioが良ければ、少人数制でケアをしてくださるということもあ
ります。だから必ずしも大学の規模で選ぶのではなくて、その大学にどういう学生さんが来ているのか、そし
てどういうサポートがあるのかというのも気をつけて見ていただければ、私のように少し意図するところと違
う大学に行ってしまうことがないかと思います。コロンビアの大学付属の語学学校のシステムの場合は、レベ
ルが1から10くらいありました。1-A、1-B、2-A、2-B、3-A、3-Bというように分かれていて、8-A、8-B、9-A、
9-Bと続き、語学学校のレベル10の英語のレベルになったら初めてESLのクラスが終了で、大学の英語のクラス、
いわゆるネイティブの大学生と一緒のクラスに入れるというシステムになっています。ですから時間はかかる
かもしれないですが、そこでゆっくり自分の英語の力をつけることができますし、大学に無理なく溶け込んで
いくことができたという意味では私は良かったと思います。ただやはり、文学部に入るというのと、私の場合
では「Literature Major」でしたが、それと、「Music Major」になるというのは、求められている英語のレベ
ルが違いますので、ESLの語学学校を終了して、大学生と同じクラスを取っても良いという英語のレベルの試
験というのはとても厳しいものでした。たとえば1時間半などでテーマを決められて論文を書いて、三単元の「s」
が抜けたりという当たり前の間違いが2つあればもうバツで、その試験はFail、受からないというくらい厳しかっ
たのです。ですから自分が気をつけていれば間違えないで済むような簡単な文法の間違いや、テーマに対する
リサーチ不足などがあると、その語学学校を終了することはとても難しかったのです。その点はやはり「大学
の英語のレベルというのは厳しいな」と痛感したときでした。それから文学部に入るまでのその語学学校時代
には、コロンビア大学の先生にも「あなたはEnglishがSecond Languageだし、本当に文学部なのか?他に
Majorはないのか?」と随分言われました。
“Is this your best effort?”ということ、「『Very Best』なのか?
これで『Best』だったらあなたのレベルではもう駄目だ。だから本当に自分の『Best』は何なのかというのを
もう1回考えてきなさい」ととても厳しいことを言われました。「『Best』というのも、ただ10時間宿題をやっ
たとか、もう闇雲にやったということではない。分析をしてこういう試験にはこういう対策で行こうという工
夫も必要であって、それを全部含めて『Best』というのだ」と。「ただ闇雲にやることを『Best』というので
はない」という厳しいことを語学学校の先生に言われて、ようやく私も文学部に入れました。このときに教授
や語学学校の先生に、
“Your English is not good enough to major in English.”と言われました。「あなたの英
語は文学を目指すには全然駄目だ」と教授や学部長さんに言われたとしたら、シュンとして、「やっぱり駄目
かな」と思ってしまうと思います。でもそのときに先程のお話のように、「自分はこれが好きだし、これがや
りたいから、これでやっていこう」と、もう1回自分で自分を励ませるかどうかというそのときが、「ギブアッ
プするか、
ギブアップしないで続けられるか」
という分かれ目になってくると思います。皆さんも留学されたら、
行く前から必ず英語に対するコンプレックスはあると思います。英語だけでなくても、別の国に行くとしても、
やはり母国語でないというコンプレックスはあると思います。そういうときには、励まされても励まされても
つい「駄目だ」と思いがちだと思います。そういう精神状態のときに教授に、“No good.”、「それじゃ駄目だ」
と言われたら、
「本当に駄目なのかな」とくじけそうになると思います。そのときに、「何で私はこの留学を決
めたのだろうか?」
、
「どうしてこの留学を続けたいのか?」ということをもう1回冷静になって思い出せるよ
うに、今1回、
「自分にとって留学というのはどういうものか」というのを、最初に言いましたように考えてい
ただけると、
こういう壁にぶつかったとき、
何かやろうとしたことが「無理だ」と言われたときに、心の軸になっ
27
て踏ん張らせてくれるのではないかと思います。その次に、皆さんが文学に興味があるという方ばかりではな
いと思いますので、私が文学部の「Literature Major」でしたので、アメリカの「Literature Major」というの
はどんな感じかというのを少しだけご紹介できればと思います。アメリカの文学部では、アメリカ文学、西洋
の文学の基礎ということになると、ギリシャの古典、それから聖書をやらされて、そしてシェークスピアとい
うようになります。シェークスピアのクラスですと、文学部の生徒はみんな取らなければいけないので、大体
80人から100人くらいが集まりますが、そこでは大体1週間に1冊のペースで進みます。「今週は4大悲劇のまず
『Othello』を読んできなさい」
、
「来週は『King Lear』」など、1週間で本が1冊進むというペースでした。シェー
クスピアのクラスでは1冊何か読まなければいけませんし、その他最低でも4つか5つはクラスを取っています
ので、4冊、5冊の英語の本を毎週読んでいかなければいけないというペースでした。そのくらいのリーディン
グのスピードをつけるために、たくさん読み込んでいかないと、なかなかそのクラスに追いついていけません。
特に、シェークスピアのクラスというのは本当に厳しくて、試験も、「あるこの台詞を言ったのは誰か?」と
いうものから始まります。1冊読んだ中で、有名な台詞ならともかく、「この台詞を言ったのは誰か?」と言わ
れても「それは・・・」と答えに困るような細かい試験から、短いエッセイ、それから長い論文というような
感じで構成されています。そのように試験は試験で厳しいのですが、シェークスピアのクラスでは1冊読んで
きなさいという本を「2回読め」と先生は言われます。「1回は内容を知るため、2回はディテールのため、2回
読んできなさい」と。1回読むのも大変なのに、「2回読んできなさい」と。その上に「映画を見てきなさい」
と言うのです。たとえば「
『King Lear』だったらKurosawaの『乱』を見ても良いよ」と言われました。シェー
クスピアも読むものではなくて見るものなので、舞台を見てくるか映画を見てくるかでした。「この先生は私
たちが1日24時間しかないということをわかっていないのではないかな?」と思うくらい文学の基礎について
は厳しい教授の方が多かったと思います。そうなると、朝から晩まで本ばかり読んでいるわけです。でも私は
やはり本が好きで書くことが好きで文学が好きだったので、そういうクラスというのを何とかこなして卒業す
ることができたのではないかと思います。これがもし「Music Major」で、今週ドビュッシー、来週ベートー
ベン、再来週ショパン、というように毎週新しい課題を与えられたら、案外すぐ挫折していたのではないかと
思います。ですから自分では気がつかないほど力が出るときというのは、やはり好きなことをやっているとき
だと思います。ですから皆さんも、これから留学する前や将来の人生設計を考えるときに、火事場の馬鹿力の
ように、自分の好きなことをやるときはとても力が出るということを思い出していただければと思います。そ
のような感じで私も文学のクラスを何とかこなしてやってきました。特に私はアメリカ文学が好きだったので
すが、大江健三郎さんがノーベル賞を獲られる確か1年か2年前に、Toni Morrisonというアフリカ系アメリカ
人の黒人の女性作家が賞を獲られましたが、彼女の本に英語のタイトルだと『The Bluest Eyes』というもの
があります。黒人の小さい女の子が、
「白人の女の子のような青い目さえあれば自分は幸せになれるのではな
いか」というように「obsessed」
、とりつかれたように思うようなくだりがありますが、私もやはり「文学部
に入って、英語さえできれば幸せになれるのではないかな。英語さえできればお友達ができるし、英語さえで
きれば恥ずかしい思いをしなくて良いし、英語さえできればたとえばこういう集まった場で『誰か意見を言っ
てください』
と教授が言ったときに
『はい』
と手を挙げられるのにな」と思っていました。積極的な「participation」
と言いますが、手を挙げて意見を言うことはアメリカでは成績の一部ですし、求められていることですが、私
は実際4年間大学に行っている間、2回しか手を挙げることができませんでした。それくらい自分の英語にコン
プレックスがありました。
「自分は英語ができない」という気持ちがあって、「自分の発音がおかしいのを聞か
れるのが嫌だ」という恐怖心があったと思います。「英語さえできれば、この社会に受け入れられて自分も幸
せになれるし愛されるし大切にされるし」と思い込んでいた時期があります。でもやはり英語というのは私に
とって第2外国語ですし、今振り返ってみると、「英語ができればみんなに受け入れられる」など、「英語さえ
できれば・・・」というように「obsessed」していたのが間違っていたと思います。ですから皆さんの中でも「留
学しよう」と思うと、どうしてもその行った先の言葉について、「その言葉さえできれば・・・」と思うかも
しれませんが、英語というのはまた別のことであって、「英語」と「あなたという人間」はイコールではあり
ません。ですから「英語ができないと自分は駄目なのだ」という劣等感を持つ必要は全然ありません。もし留
28
Ⅳ 教育の国際化講演会
学して「自分は英語ができない」と自分を責めてしまうような状況になったときには、「そういえばあの講演
会であんなこと言っていたな」と思い出してほしいと思います。あなたの人間性やあなたの価値というものと、
英語ができるできないということはまったく別のものだと考え、そのような精神状況の上に立って、英語を勉
強していただければと思います。その言葉というのが、現地での思い出と重なって、英語、国語、理科という
ような単なる1教科ではなく、自分にとって思い出のドアを開いてくれる鍵と言いますか、すごく大切な宝物
のように思えてくるのではないかと思います。ここまでが私の大学留学の基本的なところですが、7年後、大
学を卒業して帰国をしまして、いざ就職しようと思ったときに、「アメリカで文学部に行ってものを書きたい
というのはわかっているけれども、では何をすれば良いのか?どういう職業に就けば良いのか?」ということ
が全然わかりませんでした。皆さんも留学する前というのはとても準備するし、行き先の国について勉強して、
「Mentally and Physically」に「Prepare」
、よく準備できていると思います。ですが帰ってくるときというの
は無防備に帰ってくるものです。自分の家に、自分の知っている場所だと思って帰ってきます。しかし、皆さ
んは留学という体験をされて、行った先でいろいろな人に会い、良い思い出も悲しい思い出も含めいろんな体
験をされて帰ってきます。でも家族やお友達はここにいましたから、皆さんがした体験と、その体験をしてい
ないここにいた人たちとの会話や考え方に、実は気がつかないギャップのようなものがあることがあります。
そうしましたら、逆カルチャーショックといいますか、学んできたことをみんなと一緒にわかち合いたかった
のに、もしかしたら、
「その話は聞きたくない」と言われるかもしれませんし、英語を一生懸命勉強して帰っ
てきて就職試験に行ったら「英語のスキルはそんなに重要じゃない。君、漢字読めるの?」と言われるかもし
れません。もしかしたら、みんながみんな留学体験を良く思ってくれるわけではないかもしれませんし、あな
たの留学をうまく理解できるとは限りませんので、帰ってくるときにやはりまた、
「日本という自分の国に帰っ
てくるけれども、自分はこういう別の体験をして少し変わった。別の自分になった部分もある」と自覚して帰
国するともしかしたら、帰国後の日本の生活にうまくadjustしていけるのではないかと思います。「自分の好
きなもの探しのワークシート」の1番最後のところを説明させていただきたいのですが、「今日、石黒さんの講
演会を散々聞いたけど、好きなことってあまりわからない」という方がこの中にいらしたら、この最後の演習
をやっていただきたいと思います。
「自分の好きなことがわからないな。さっきの野球みたいにはっきりとし
た自分の好きなものがわからない」という方は、ここを是非やってください。これは『The Artist’s Way』と
いうJulia Cameronさんという方が書いた自己啓発の本からの引用です。“Jealousy is always a mask for fear.”
と書いてありますが、直訳すると「ジェラシーというのは、つまり人をうらやましいと思う気持ちは、いつも
恐怖心の仮面だ」ということです。ここで理解していただきたいのは、人をうらやむ気持ちとかやきもちを焼
く気持ちというのは、何かをやることに対する恐怖心の仮面である可能性があるということです。たとえば私
の場合ですと、
「私にとってうらやましい人って誰かな」と思うと、村上春樹さんです。私も物書きの端くれ
なので、
「あんなにたくさんの人に本を読んでもらって、なんてうらやましい」と思います。ですが、そのう
らやましいという気持ちさえも認めたくないときがあります。「でもどうして村上春樹さんをうらやましいと
思うのだろう。自分は彼のどういうところを自分もできたら良いなと思っているのだろう」と考えてみること
によって、そのうらやましいという気持ちややきもちを焼くという気持ちが、ネガティブ感情ではなく心の地
図のようになって、
「この人のこういうものを自分もできたら良いなと思っているのではないかな」と気づく
ことができるのではないかと思います。ですから皆さんももし好きなことがわからないということがあれば、
誰かのことをうらやましいと思ってないかと考えてみてください。誰をうらやましいのか、そしてどうしてう
らやましいのか、ここをちょっと掘り下げて考えてみて、そのうらやましいという気持ちをそのままにしてお
くのではなくて、その解決策として何かできることはないのかを考えてください。たとえば私でしたら、「村
上春樹さんはベストセラーがいっぱいでうらやましいな」とただ思っているのではなくて、「みんなに読んで
もらえるような素晴らしい小説を書いていてうらやましいな。では自分が1つでも新聞の記事を書いたりコラ
ムを書たりエッセイを書いたり、それから次の本を出版したりすることが、私にとってそのうらやましいとい
う気持ちを乗り越える1つの解決策ではないかな」と思います。そういうものが皆さんにとって何かないかと
いうのをここで考えていただければと思います。では、山本教授、誰かうらやましいなと思われる方はおられ
29
ますか?
山本教授:私は個人的には留学をしたことがなくて、実際に行かれて生活の中で英語を使われて、本当に何が
困ったかということがわかっている、どういうところが日本人の弱点かというところがわかっている、という
方がとてもうらやましいです。特に若いときに留学された方というのが本当にうらやましいと思います。だか
ら今日来られている学生さんも、これから出かけていくというのは僕にとっては本当にうらやましい存在で、
そういう意味で石黒さんのような方が私にとって1番うらやましいタイプの方です。
石黒講師:ありがとうございます。先生にとってそのうらやましいというお気持ちがあるからこそ、こうやっ
てこれから留学される皆さんを真摯にサポートして応援できるのではないでしょうか。
山本教授:実は本当にそうで、これはこういう形でプログラムとして形ができてきたのですが、実際に教室の
中で学生さんを指導する中では、よく「私は留学したいです」と相談に来てくれます。私は実体験したことが
ありませんが、特に大学の4年間で「出かけていきたい」という人には全面的に協力をして何が必要なのかと
いうこともお話をするし、推薦状なども「どんどん言ってください」ということでお手伝いしています。です
からおそらく形として現れる部分、それから教室の中での形にはならないが協力している部分というのが解決
策としてあるのかもしれません。
石黒講師:ありがとうございます。今、推薦状と言ってくださいましたが、少しお恥ずかしいですが、私は大
学の先生が書いてくださった推薦状を今、今日もここに持っています。この講演会があるから持っているので
はなくて、どこに行くにもそれを持っています。先程も言いましたように当時、英語に自信がなくてコンプレッ
クスがあったときに、先生が素晴らしい推薦状を書いてくださいました。「先生、お世辞で言っているのかな」
というくらい素晴らしい推薦状です。アメリカ人は確かに大袈裟なところがありますが、
「Yes」、
「No」ははっ
きりして、
「No」は「No」で、
「Yes」は「Yes」ですから、
「これは先生は本当に思ってくれて書いてくださっ
たのだろう」ということで、今でもお守りのように推薦状を持っています。後でもし見たい方がおられたらお
見せします。そのように、高校、特に大学というときは自分に自信が持てなかったりしますし、特に留学とい
う未知の世界にチャレンジするときというのは、どうしてもコンプレックスと隣り合わせのようになりますの
で、そういうときにこのように素晴らしいプログラムがあって、山本教授のように真摯にサポートしてくださ
る教授がいらっしゃる関西大学さんは、皆さんにとって素晴らしい学びの場になるのではないかと思いました。
それではそろそろ大分お時間が押してきてまいりましたので、最後にまとめをさせていただきたいのですが、
私が今日お話した中で1番お伝えしたかったことというのは、本当にやりたいことを模索し続けるということ、
それから本当にやりたいことを忘れないで心に持ち続けるということを是非、留学をする際に覚えていてほし
いというように思います。それが必ず、悩んだり迷ったりするときに自分の心の軸になってくれると思います。
そして長期的な提案としては、好きなことをやっている自分というのは褒めてあげられますし、好きになりや
すく、自分のことが好きでいられると、強くなれるし自信がつくし継続できると思いますので、結果としても
上達するし自己実現ができるのではないかと感じています。ですから皆さんが留学される際には、こういった
ステップを心の片隅に置いて、未来に羽ばたいていただければと思います。以上が私の講演のすべてになりま
すが、この後、質疑応答とディスカッションのお時間がございますので、もし私でお答えできることがあれば
時間の許す限りお答えしたいと思いますので、このワークシートに感想なりご質問なり書いていただいて後ろ
から前に回していただければと思います。
では、時間の許す限り質問シートに書いていただいた質問に答えさせていただきたいと思います。
「友人と離れることで不安にはなりませんでしたか?」
なりました。16歳になったばかりでしたので、友達と離れることはすごく寂しい気持ちがありました。留学
30
Ⅳ 教育の国際化講演会
生の中には日本が嫌で嫌で、日本が嫌いだから日本から飛び出したいというような留学生のお友達もいました
が、
私はどちらかというとお友達と離れるのが寂しくて仕方がありませんでした。昔は本当に国際電話も高かっ
たので、お手紙のやり取りしかできませんでしたが、今はインターネットの電話でどこでも繋がっていますの
で、そういう意味では時差はあるとはいえ、お友達と離れることはそこまで心配しなくて良いのではないのか
と思いました。
「食に関してはすぐ慣れましたか?」
向こうに行って「私は和食が好きなのだな」と思うくらいやはりご飯が食べたかったです。毎日の寮の食事
はパンかパスタかというような感じなので、せめてご飯くらいは炊けるように準備して行かれると良いのでは
ないかと思いますが、こういう機会に現地のものをいろいろ食べるのも良い機会かとも思います。中にはピザ
など食べ過ぎて急激にすごく太ってしまった女の子もいました。また、アメリカの料理は油が強いので下痢に
なってしまったり、やはり食に関してはすぐに慣れたとは言えません。やはり少し時間がかかったと思います。
脅すわけではありませんが。
「トイレやお風呂は日本と大分違うと思いますがその辺はどうでしたか?」
それもありました。シャワーしかなくてお風呂にほとんど入らないので、お風呂に入らないというのは慣れ
るまでに時間がかかりました。逆に今度は向こうではシャワーばかりなので、帰ってきてお風呂に入るという
のがこれまた違和感がありました。食やお風呂などの生活の様式の違いというのは、確かにすぐ慣れるという
わけにはいかないかもしれません。ただ、
言葉ができないのが多分1番きついと感じると思います。そうすると、
食の心配をする前に言葉の心配になります。たとえば、先程は紹介できませんでしたが、カフェテリアでみん
なで一緒に食べると、
“Where are you from?”など隣に座った人に聞かれます。「私に英語で話しかけないで」
と思いながら食べているので、おいしいとかまずいとかいうより、「英語で喋りかけられたら何て返事しよう」
というドキドキ感の方が強かったような記憶があります。何を聞かれるかと言うと、見た感じ黒髪ですし、や
はり「どこから来たの?」ということです。
“I’m from Japan. You can see Mt. Fuji from my house.”「富士山
が私の家から見えますよ」と言っても、その後はもう全然言うことがないのです。だからカフェテリアでは食
の心配より、英語の心配をしていたと思い出しました。
「授業を聞くときボイスレコーダーは持っていましたか?」
持っていました。でも家に帰っても、帰ったら帰ったで、今度は本を読んだり、別の宿題があったりして聞
き返すという余裕があまりないときもありました。大学では英語以外にも第2外国語をやらなければいけなく
て、
「英語だけでも悩んでいるのにどうしよう」と思っていましたが、「中国語や韓国語なら少し日本語に似て
いるから大丈夫かな」と思って、中国語と韓国語をやっていましたが、その両方はボイスレコーダーを持って
いて、ご飯を食べるときなどもかけっぱなしでした。とても役に立ちましたね。ボイスレコーダーは確かにお
勧めです。では次の質問行きます。
「ジャパンタイムズを購読しています。記事は英語のネイティブの方が書いていることが多いと思うのですが、
日本人で働いておられる方はどんな業務をされていますか?またスタッフのTOEICなどの英語力はどの程度で
すか?」
ジャパンタイムズでは、言われるとおり、記事はネイティブの方が書いていることが多いのですが、日本人
記者の方もおられます。邦字の新聞と同じで、国会議事堂や官邸などいろんなところに詰めて、ニュースを集
めてきている日本人の記者さんがおられます。ジャパンタイムズも新聞社ですが、新聞社と言うとなんとなく
記者さんがいるというイメージがあり、他にどんな職業、仕事、業務があるのかと疑問に思われるかもしれま
せんが、普通の会社と同じです。管理部もありますし、販売促進の部署もあります。それから広告局というの
は編集部と同じくらい大きいです。業務によって英語力はさまざまなのですが、記者の方の英語力はTOEIC、
31
TOEFLは満点というようなレベルです。ほとんどがそういう方だと思います。ただ、先程言いましたように
業務もさまざまで、電話で新聞の注文を英語で取るという方もまた別の英語のレベルですし、英語のレベルも
さまざまだと思います。次の質問です。
「英語にハンディがあるという状況でどのように友人関係を築かれていきましたか?何をきっかけにされたの
でしょうか?」
これはすごく良い質問だと思いますが、ハンディがあるからこそ逆に友人関係を築けるということがありま
す。たとえば先程言いましたように、言葉ができないのにわざわざ、理科の実験のパートナーになってくれる
人というのは、日本に興味がある子かもしれませんし、英語ができないという大変さを知っている子かもしれ
ませんし、そういう思いやりのあるお友達かもしれません。ですから英語ができないというハンディがあるか
らこそ、優しい人や思いやりのある人や明るい人などの積極的な人が周りに寄ってきてくれたという気がしま
す。逆に英語がペラペラ喋れたら、そういうお友達の良さに気づかないで過ごしてしまったかもしれないと思
います。もちろん最初はコミュニケーションが取れないのでお友達どころの騒ぎではなく、毎日1人で寂しく
過ごす生活というのが続くのですが、少しずつ喋れるようになってくると、逆にそうやって英語ができないた
めに助けてもらって、今でもお付き合いが続くようなお友達ができたりします。「Pros and Cons」と言います
が、良いこともあるし悪いことももちろんありますので、必ずしもハンディがあるから友人関係が築けないと
いうことではありません。
「何をきっかけにされたでしょうか?」というのは先程言ったように好きなことです。
たとえば、私はR&Bの音楽が好きなので、そういうCDを貸し合ったりして話が合いましたので、そういう趣
味や好きなものなどでした。先程は特に「野球が好き」と言われましたが、多分、野球の話ではとても盛り上
がれると思います。今でしたら、アメリカですと日本の選手がたくさん活躍していますし、そういうのをきっ
かけにお友達になれるということがあると思います。ですから趣味がきっかけというのはあると思います。
「石黒さんはコロンビア大学でたくさんの本を読まされたということですが、シェークスピアなど翻訳なしで
読みましたか?」
いえ、翻訳をまず読みました。翻訳を読んでから、「こういうストーリーか」というのをわかってから英語
を読みました。そうでないと本当にちんぷんかんぷんで、“Greek to me.”「これは英語か?これはギリシャ語
か?」と思ってしまうくらい難しくてわかりませんので、当時は翻訳を読んでいました。「これは何ていう意
味か?」と教授に「はい!」と指されたら困るので、日本語を英語の本の下に書いていました。「こういう意味」
、
「ここは何を言っている」
など私の対訳のようなすごい本になっていました。日本語のメモ書きが多かったです。
「私も英文学を今年の夏からイギリスで学ぶのですが翻訳と照らし合わせながら読んでいます。量をこなせば
慣れて、翻訳なしでも原書で読めるようになりますか?」
はい、そう思います。感覚を研ぎ澄ますために、「わからなくても、翻訳に頼らずにまず原書を読め」と言
われる先生もおられます。そこまで行くのにもまたかなり読まなければいけないと思いますが。シェークスピ
アの場合は、翻訳なしで原書で読んで一発で意味がわかるというのは相当大変だと思いますが、もちろん普通
の現代の本であればそれは十分可能です。
『Oxford English Dictionary(OED)』という百科事典のように厚い
辞書がありますが、言葉の歴史がずっと出ていまして、シェークスピアの本ですと、もしこうやって専門で勉
強されたらイギリスなんかですと「こういうのを引きながら読みなさい」などと言われるのではないかと思い
ます。ですから、今は紙でなくてもCDもありますので、OEDを引くというのにも少し慣れておくと良いかと
思います。
「留学経験がなく今まで漠然としたイメージしか持っていなかったのですが、今日の講演会を聞いて留学する
ということは自分自身が持っている可能性を無限大に広げられるものだと改めて気づきました」
という感想です。ありがとうございました。では次。
32
Ⅳ 教育の国際化講演会
「
『書く』ということ、それは石黒さんの場合、『日本語』のことですか?『英語』でなく?」
日本語で書いているときと英語で書いているときは自分で別人のような気がします。2人の自分がいるよう
な感じです。
「日本語を喋っているときの自分、日本語を書いているときの自分」、それから「英語を喋ってい
るときの自分、英語を書いているときの自分」という2人の自分です。日本語を喋っているときに表現できる
自分と、英語を喋っているときに表現できる自分というのはかなり違うと感じます。
「村上春樹さんを例に挙げられたので、多分『日本語』だと思うのですが。」
村上春樹さんはいっぱい本が売れていてうらやましいという意味で挙げてみましたが、好きな本は日本語で
書かれた本も英語で書かれた本もありますし、自分としては、繰り返しになりますけれども、それぞれの言葉
を喋っているときに自分の性格が変わるということは感じていて、それは自分ではおもしろいなと思います。
「いずれにせよ、世間で言う『英語コミュニケーション力』と『文章を書く』ということの違いを、体験的に
お聞かせください。
」
これは深い、難しい質問です。多分、教授の方からでしょうか。先程もお話しましたけれど、英語が1つの
教科ではなくて、自分を表現するツールへと変化してくるまではたくさんの英語を読んでたくさんの英語を書
くという繰り返しが必要だと思います。今回、先程紹介されたプログラムの中にも、自分が伝えたい日本の文
化や自分が伝えたい自分のお話など自分が伝えたいものを持っていると、英語であっても日本語であってもコ
ミュニケーション能力というのは上がっていくと思います。大阪でも先日、大相撲がありましたが、お相撲で
いくと変化気味の回答になってしまい申し訳ありません。では次。
「長期間留学するには経済的な面が一番問題になると思われますが、石黒さんの場合、どうされたのですか?」
確かに長期の留学というのは経済的な面が一番大変ですし、もちろん家族のサポートも必要になります。そ
れからこちらの大学では奨学金の制度などはありますでしょうか?
山本教授:派遣留学の場合にはサポートがあります。
石黒講師:大学さんによってはそういう奨学金の制度がありますし、もちろん大学だけでなくてもいろんな団
体がやっている奨学金の制度というのがありますので、これはしっかりリサーチして活用していただきたいと
思います。私の場合は、留学をしたいということで、年が若かったこともあるのですが、両親とかなり相談して、
家族の1つの目標というような形で、両親には本当にお世話になったと思います。父母も「加奈ちゃんが留学
してなかったら、今頃車を買い替えられたのに」とよく言っています。両親は、旅行などを随分我慢していて、
母は私の卒業式くらいしか海外に行ったことがありません。ですから、そういうように家族で協力してくれた
のでありがたいと思っています。
「今日お話されたこと以外で留学を経験して、興味、関心を持ったことはございますか?」
不思議なのですが、アメリカに行ったからこそ、日本の文化というものに逆に興味を持ったと思います。た
とえば帰国したばかりの頃は、伝統文化、それこそ歌舞伎や狂言などに毎月行っていました。それから昔はお
じいちゃんたちがお相撲を見ていると、
「何であんなつまらないものをテレビで一生懸命見ているのかな」と
思いましたが、最近では私も大阪場所をすごく熱心に見て、「13日目は誰が勝ったか?」などと質問していた
だいても良いくらいで、そのように日本の独特のイベントや文化というものに興味を持ったのは意外だと思い
ます。ですから海外に出ていったことによって、もちろん海外のことも勉強しましたが、「自分のことを知り
たい」
、
「自分の国を知りたい」と思ったのは自分でも不思議だと思います。続いて感想です。
「オバマ大統領の話をしているところが印象づけられました。」
33
ありがとうございます。私もたまたま同じ大学の先輩なので、少し親近感が湧いたりしています。次の質問
に行きます。
「日本人は日本のことを知らないというのはよく聞くのですが、アメリカやその他の外国の人は実際にどの程
度の自国の知識を持っているのでしょうか?」
自分の国の文化というのは何かきっかけがないと、たとえば、ご両親の職業が○○職人であるというような
特別な環境に育った場合でないと、積極的に知るというのはなかなか機会がないかもしれません。日本人だけ
ではなくて他の国から来ている留学生も、自分の国のことよりもアメリカのこと、留学先のことに興味が強い
という感じはしました。でもどこの国でも、自国の歴史をすごく知っているような子はいて、それは個々に違っ
たという印象です。
「留学したとき何か壁にぶち当たっても頑張れるコアの部分が自分にはまだわからないので、これから見つけ
ていきたいです。
」
ありがとうございます。とても嬉しいコメントです。私はたまたま勢いで、というか、若かったこともあり、
あまり考えずに行ってしまって、行ってしまってから壁にぶち当たって考えたというのがありますが、もしそ
ういうコアの部分を今から少しでもリフレクトできれば、良い準備になると思います。
「文章を書く職業を目指されているということで、在米中に日本の文学作品を読む時間や機会は持てたのでしょ
うか?」
アメリカの大学に行ってからは、夏休みもサマースクールに行ったりしていましたのであまり時間はありま
せんでした。高校のときは3ヶ月くらい夏休みがあって宿題もなく、いつも英語ばかりで接していて日本語に
飢えていましたので、日本文学を読むのは嬉しかったです。そして帰国して日本文学を読める時間があったと
きは嬉しかったです。
「帰国後、留学中にやっておけば良かったと思われたことは何ですか?」
先程も少しお話しましたが、
「英語ができない」とコンプレックスを持っていたので、たとえば、せっかく
学校のイベントやパーティなど何か集まることがあったときも、なんとなく遠慮しがちというか、引き気味の
ような感じで、積極的に何にでも参加できなかったということがあったと思います。でも第2外国語ですから
英語ができないのは当たり前で、そんなことを心配してみんなの輪の中に遠慮して入らないというのはもった
いなかったと思います。今でしたら気にしませんが、高校・大学生のときは恥ずかしいという気持ちが強いの
で、でもそんなことは気にせずに、積極的に何にでも参加しておけば良かったと思います。では、最後の質問
になりました。
「自分に『話そう』という積極的な気持ちがあれば次第に話せるようになりますか?」
なると思います。些細なことでも良いのですが、「今日学校でこういうことがあって、これをルームメイト
に話したい」と思うと、自然と「文法がおかしくても何か言ってみよう」という気持ちになるので、自分が話
したいという何か好きなことがあると良いと思います。たとえば、先程の野球の例でいくと、「イチローが今
日打った1本について話したい」と思うとすらすら、英語が上手になると思います。自分に「話そう」とか「話
したい」テーマがあるということは英語が上手になる、英語が話せるようになる、モチベーションが上がる、
というきっかけになると思います。以上で全部の質問にお答えできたと思います。
山本教授:私から1つだけ質問しても良いですか?長い間留学されていてそちらの生活に慣れたときに、ある
いは留学中の最初の段階でも結構ですが、
「日本に帰りたい」というような思いに強く駆られたということが
ありましたか?ホームシックに襲われることが多かったかどうかについてお聞きしたいと思います。
34
Ⅳ 教育の国際化講演会
石黒講師:恥ずかしくなるようなお話ですが、16歳と若かったものですから、自分がホームシックになったと
いうことを認めたくありませんでした。ホームシックになったと思うと泣いてしまうような感じでした。飛行
場でも最後に出て行くときに家族が後ろから「加奈ちゃん、加奈ちゃん」と呼んでいるのが聞こえましたが、
振り返ったら自分も泣いてしまいそうな気がして、振り返らないでそのままゲートに入っていきました。皆さ
んも向こうに行ったときに、
「ホームシックなんだよね」と自分で認めてしまったら、全部崩れてしまうよう
な気がして、なかなかホームシックだと自分で認められないかもしれません。英語ですと、「admitできない」
といいますが、自分で「私はホームシックだ」と言いづらいときがあると思います。私の場合はたまたま高校
のカウンセラーが「あなたが無気力症候群になっているのはホームシックだからだよ。帰りなさい」と言って
くれたので、
「最初の1年間は絶対日本に帰らない」と決めていましたが、春休みにやはり日本に帰ってとても
元気になったという思い出があります。
山本教授:ありがとうございます。実はたまたま昨日、ある会合があって、海外に行ったときのことが話題に
なりました。日本人は割とそのようにホームシックになる方が多いのですが、たとえば中国や韓国からアメリ
カに出かけて行っている人はそのような思いがなく、「もう帰りたくない」、「何か理由があればこのままこの
場所に残りたい」という形で留まられる方も多く、なぜ日本人はそこまで「家に帰りたい」と思うのかという
話になりました。ホームシックそのものは皆さんが持っておられる感覚だと思いますが、日本人の場合そのあ
たりの事情が違うのかという話題になりまして、何か感じられることがありますか。
石黒講師:やはり日本が恵まれた国であるということが1つあるかもしれません。それから、お父様やお母様
に転勤が多い職業だと別かもしれませんが、日本人は割とずっと1つの場所にいて住所が変わらない方が多い
ので、そうするとやはり代々その土地に住んでいて土地に対する愛着というのがあるかもしれません。
山本教授:ありがとうございます。今、いろんなお話の中に含蓄のある話題が含まれていたと思いますが、私
も授業をしていて、特に中学校・高校から上がってくる皆さんの英語に対する捉え方というのを見ていますと、
英語というのはあくまでも、どこまでも教科、学習の対象としての科目でしかありません。そうすると、そこ
の得点だけが目的化してしまって、同時にそれがもうすべてということ、つまり英語の力、自分の英語の得点
そのものが自分というようなことになってしまいます。自分をその英語あるいは英語の得点にidentifyしてし
まうので、そこが少し問題かと思います。実はそうではなくて、英語とあなたはまったく別物であって、あな
たは何か自分というものを持っているわけですから、その持っているものを普段は日本語で伝えていますし、
それが外に出ていったときには英語であるということで、そこが、特に大学の4年間では大事な、発想の転換
をしてもらわなければいけないところだと思います。今回のプロジェクトも「自分は何か」というところで、
いろんなテーマを持っているというポケットを広げてもらうための取組と考えています。ですから、今日は石
黒さんのお話を聞いていろんな参考にしていただけることがあったかと思いますので、そのあたりを是非これ
からの生活、そして留学に活かしていただければ私もありがたいと思います。今日は長時間お話いただきまし
てありがとうございます。最後まで残っていただきました皆様も長時間お付き合いいただきありがとうござい
ました。これで終了したいと思います。今日は本当にありがとうございました。
35
配付資料
36
Ⅳ 教育の国際化講演会
37
2
第2回 教育の国際化講演会
日時:2010年1月12日(火)13:00〜15:00
山本教授:最初にお話いただく島村先生
は、外国語学部になる前の組織の上に大
学院がありまして、その外国語教育学研
究科の修了生で、2008年にMasterを取っ
て出られています。同時に自らの会社を
経営され、そこで、理研やNTTのよう
な大きな企業に出かけていき英語に関す
る講義等をされていますので、今日は特
別に皆さんのために、学生の立場から、
どのように効果的なプレゼンテーション
をしたら良いかを噛み砕いて、お話して
いただきます。島村先生については、最
近、
『研究ですぐに使える理系の英文Eメール』という本を出されていますので、また関心があったら見てもら
いたいと思います。そして後半の方は、こちらに立っておられます長澤先生にお話をいただきます。長澤先生
に関しては、外国語学部の皆様は、スタディ・アブロードから帰ってきた後の3年次の言語コミュニケーショ
ン論のマスメディアでお目にかかる先生です。先生からは、「早く関大の学生さんに会いたい」と前々からお
話をいただいておりました。少し難しくなるかもしれませんが、今日は留学に関して、特にイギリスでの体験
をもとに、お話をご用意いただいています。長澤先生につきましては少し前に、
『BBCニュースの英語』という、
BBCに出向されていたときの経験を踏まえられた本を書いておられます。授業の方もおそらくその関係のお話
が聞けると思いますし、今日の講演もそれをベースにしたお話になるかと思います。もし時間が許せば、お話
の後に皆さんから質問やコメントを受ける質疑応答の時間を設けています。せっかくの機会ですのでよく聞い
て、質問をしてもらいたいと思います。今回の私のプログラムは、外国語学部だけではなく、関西大学全体の
国際化、
留学支援を目指しておりまして、
本講演会はその一環で行います。受付に冊子があったかと思いますが、
そちらもまた読んでいただけますとありがたく思います。それでは45分、45分とお話をいただきますが、まず
前半は島村先生の方から、英語による効果的なプレゼンテーションについてお話をいただきます。先生、宜し
くお願いいたします。
英語による効果的なプレゼンテーションについて
講師:島村 東世子氏
島村講師:それではまず、私の方から効果的な英語のプレゼンテーションについて皆さんにお話したいと思い
ます。私はただいまご紹介にあずかりましたように、この関西大学の大学院の外国語教育学研究科を2008年に
卒業しました。今日、皆さんに私の講演をさせていただけてとても嬉しく思います。英語のプレゼンテーショ
ンと言いますと、皆さんに一番関係があるのは、留学先でのクラスでの発表になると思います。クラスで英語
でプレゼンテーションをするスキルは、こちらに書いてありますようにStudy Skillと呼ばれ、大学で学ぶとき
には必ず必要となる必須の能力と現在言われています。Study Skillとは、英語で講義を聞いて理解したりノー
トをとったりする力、ディスカッションやプレゼンテーションをするなど自分の意見を言えるかどうかのス
ピーキング能力、英語でレポートや論文を書くアカデミックライティングの力、そして研究論文を書くための
情報収集、英語の論文を読むアカデミックリーディングの力のことです。このような力が必要とされていると
言われていますが、これは皆さんにとって直近に必要なスキルになると思います。その中でこのプレゼンテー
38
Ⅳ 教育の国際化講演会
ションというのは、日本人にとっては難しいスキルになっていると思います。私は、他の大学で英語のプレゼ
ンテーションを指導しております。そして、企業でも指導しておりますので、皆さんが卒業されて就職をされ
た先でまた会うかもしれません。また、研究所でも英語のプレゼンテーションの指導をしております。また、
ビジネス英語一般を指導しておりますが、ビジネスでしたら今は、海外に向けて自社、または自社の商品を紹
介するために、TOEICが800点ほどあれば、もしくはもう少し下げて700点あれば、「あなたは英語ができるか
らプレゼンテーションできるでしょう?」と言われます。TOEICの資格というのは単なる運転免許ですから、
運転ができるとは限らないのですが、企業の担当者はそこまでわかっていません。ですから、「あなたは入社
したときにTOEICが800点ありますね。では、英語で商談してきてください。プレゼンテーションしてきてく
ださい」と言われます。もしできなかったら、「なぜできないのですか?」と言われます。これが現状です。
ですから、資格だけではなくて、実際に英語を使えなければなりません。話すときには、先程言いましたよう
に、プレゼンテーション、商談にて相手を説得できなければなりません。皆さんは理系ではありませんが、も
しこのまま大学院に上がって博士を取るためには、国際学会で発表することが要件になっているかと思います。
国際学会では英語でプレゼンテーションです。このように現在、効果的に英語でプレゼンテーションをする力
が必要となっているのです。さて、では、効果的にプレゼンテーションをするためには、何をしなければなら
ないのでしょうか?もちろん、プレゼンテーションの中身が一番大切です。どのようなことを発表するのかと
いう研究発表、もしくはプレゼンテーションの内容が一番大事であるのは当然なのですが、内容が良ければそ
れで良いという時代ではないのです。どのように英語で表現するのか、きちんと聴衆に自分の言っていること
は伝わっているのかどうかなのです。英語のプレゼンテーションは、アピールする以前に聞いていてわかって
もらえていない、もしくは全然退屈で聞く気にもならないということが起こり得るものです。日本語もそうで
すが。ここで皆さんに考えていただきたいのは、英語でプレゼンテーションをする目的は一体何かということ
です。ただ授業の単位を取るための課題であるというような問題ではありません。まず、プレゼンテーション
は伝わってこそ意味があります。聴衆に伝わってこそなのです。課題でやらなければならないから、渋々前に
立って、
「もう何でもいいか」と言ってするものではありません。まず聞き手に理解してもらわなければなら
ない、そして聞き手の興味を引かなければならない、そしてできるだけ聞き手の共感を得なければならないの
です。つまり、聞き手、聴衆とのコミュニケーションが必要です。ところが、プレゼンテーションは実際、か
なり難しいです。プレゼンテーションを成功させる構成要素には、中身をどのように並べていくか、どう構成
するか、そしてどのような態度で行うかというものがあります。プレゼンテーションは自信がある態度でする
べきだということを皆さんはすでにご存知だと思いますが、日本人が100%そうではありません。最近では大
変上手な方もいらっしゃいます。往々にして、「日本人は海外に行くとshyになる」と言われていることはご存
知だと思います。shyと言うと、日本語では、かわいい感じで、それほどネガティブには聞こえないかと思い
ますが、英語のshyはそれほどポジティブな言葉ではありません。どちらかと言いますと、気が弱いなどの意
味になります。日本語の「恥かしがりや」は、それほど悪く響きませんが、英語で「shyね」と言われても褒
められているわけではありません。どち
らかと言いますと、ネガティブな感じで
す。ですから、たとえば私たちが、海外
の英語を話す人、英語を話さない人に「あ
なた、shyですね」と言いましたら、あ
まり良い顔をされずに、「私はshyではな
い」と言われます。ですから、自信があ
る態度がもちろん必要です。そして、ス
ライドをどのように効果的に見せるかで
すが、最低限1つ知っておいていただき
たいのは、スライドに文字を詰め込まな
いということです。スライドに文字を詰
39
め込み、それをそのまま読むという人をたまに見かけますが、あれはプレゼンテーションではありません。そ
れでしたら、ハンドアウトを配って読んでもらった方が良いでしょう。聴衆も無駄な時間を費やすことになり
ますので、それはしないでください。そして、音声です。発音だけではなく、イントネーションやポーズも含
みます。これは今日のプレゼンテーションの終わりの方で説明したいと思います。今日、皆さんに重点的にお
話しするのは、英語の使い方です。どういう英語を話すのかという英語表現です。英語表現以外にも、日本人
はすぐにプレゼンテーションの中で「I’m sorry.」と言います。そういう癖があります。皆がそうではありま
せんが、往々にしてよく見かけます。少し間違うと「I’m sorry.」、パソコンの操作を誤ると「I’m sorry.」とす
ぐに言いますが、まったく言う必要はありません。何か絶対にお詫びをしなければならない場面以外は、「I’m
sorry.」と言う必要はありません。それは自分を卑屈に見せるので、そういうときは冷静に対処をしてくださ
い。よほど謝らなければならないとき以外は言わないということを覚えておいてください。メリハリがないと
いうのはもちろん音声にも関係しますが、退屈でわかりにくいという評判を変えたいのです。もう1点ですが、
少し注目していただきたいのは、皆さんはプレゼンテーションをするときには原稿を書かれると思います。原
稿を書くのは大事なことです。原稿なしで英語でプレゼンテーションするのは、かなり難しいため、原稿を書
いて自分の頭の中で流れを整理します。これは大切なことですが、原稿を書くという行為のために、原稿の中
の文章が書き言葉になります。これが大きな問題点です。書くという行為ですので、どうしても話し言葉では
なく書き言葉になってしまいます。そうしますと、棒読みになります。イントネーションがまったくなくなり、
それによってわかりにくくなります。あまり聞きたくないことですが、私がプレゼンテーションを指導するに
おいて、毎日、英語のプレゼンテーションをする研究所があります。そちらの研究所の方に、「日本人がプレ
ゼンテーションをしているのを見て、
あなたどう思いますか?」という調査をしました。そのときの結果ですが、
前に出ているようにあまりポジティブな意見はありませんでした。毎日プレゼンテーションを英語でするよう
な人々であっても、日本人のプレゼンを聞いて「上手くない」と思っています。では、良いプレゼンテーショ
ンというのは一体どういうものでしょうか?これは、まだあまりきちんと定義されていません。しかし、私の
方で、実際にそのように日々プレゼンテーションをする人、見る人に調査をしましたところ、良いプレゼンテー
ションというのはわかりやすいプレゼンテーションだという結果になりました。わかりやすい英語表現を使う、
そして良いスピード・発音、イントネーションでわかりやすくするというわかりやすさです。その次に簡潔性、
つまり、簡単に言うこと、簡単な文章、簡潔なプレゼンテーションが2位に入りました。それ以降は、スライド、
構成、態度などが続きますが、今までの研究では、このわかりやすい、聞きやすいプレゼンテーションとい
う視点が少し欠けていました。では、わかりやすい英語というのは何でしょうか?それが話し言葉、Spoken
Englishなのです。この話し言葉、Spoken Englishと書き言葉、Written Englishが、文法的にも違うと言われ
たのは最近です。皆さんはそうではないかもしれませんが、私が今まで学校で習ってきた英語は間違いなく
Written Englishです。話すという観点があまりありませんでした。ここでSpoken EnglishとWritten English
はどのように違うのかをご紹介してみます。Written Englishというのは基本的に受動態が多いです。論文など
も受動態が多いです。そして無生物主語です。人間が主語になりません。次に、It thatやIt toの構文です。また、
1つの文章が大変長いです。これらが書き言葉の特徴であると言われています。こちらに例文を出しておりま
すが、こちらの文章2つをプレゼンテーションで使うSpoken Englishに変えるとどうなるでしょうか?このよ
うに変わります。こちらを音声で聞いていただきたいので、後程流します。Spoken Englishは、文章が能動態で、
主語は人間、そして1文が短いです。また、皆さんにはわかりづらいかもしれませんが、倒置やwhat節の主語
などがよく使われます。Spoken Englishに倒置が使われるとはおかしな感じがしますが、どのような倒置かと
言いますと、一番下の「Here is the result of the questionnaire.」にありますような「Here is...」です。この倒
置ではない文章は「The result of the questionnaire is here.」ですが、このように倒置をする傾向があるのが
Spoken Englishと言われています。こちらを聞き比べていただきたいと思います。どのような感じがするでしょ
うか。
まず1つ目。
40
Ⅳ 教育の国際化講演会
(音声)
This web site was created last year.
これに対して、
(音声)
I created this web site last year.
どうでしょうか?どちらがわかりやすく、すっと入ってきますか?もう1ついきましょう。
(音声)
It is cross-cultural communication that I want to study.
これに対して、
(音声)
I want to study cross-cultural communication.
これを強調した話し言葉にしますと、
(音声)
What I want to study is cross-cultural communication.
となります。聞いてみてどうでしょうか?少しでも違いがわかっていただけましたでしょうか?つまり、
Written Englishの場合は、
「This web site was created last year.」のように、「誰が」という行為者が出てき
ませんので、聴衆との距離感を感じさせます。淡々と事実を述べる感じになります。「cross-cultural」の文章
で気づいていただいたかもしれませんが、It is〜thatを使うと、やはり少しわかりにくくなります。それより
も、
「I want to study cross-cultural communication.」という方がすっと入ってきます。「What I want to」と
いう表現は、皆さんには馴染みがないかもしれませんが、これは英語の強調表現としてプレゼンテーションで
よく使われる表現です。たとえば研究発表などで、「私がしました」という行為者が出ない受動態は不利にな
ります。
「by〜」という行為者の部分は省略することが多いため、自分をアピールすることがあまりできませ
ん。一方、Spoken Englishの方が聞いていても、フレンドリーな感じがしますし、かつわかりやすいです。こ
れは単に私の意見ではなく、実際に実験した結果です。話し言葉の方が多いプレゼンテーションと書き言葉の
方が多いプレゼンテーションを、毎日プレゼンテーションを聞いたり見たりする人に聞いていただいて、「ど
ちらがわかりやすいですか?」という質問をしました。明らかにSpoken Englishが多い方のプレゼンテーショ
ンが聞きやすいという結果になりました。つまり、わかりやすいプレゼンテーションとは、英語でも、もちろ
ん日本語でも、話し言葉を重点的に使ったものです。「話し言葉って何?」
「Spoken Englishは何?」これは今、
スライドに出ておりますように、能動態、主語が人間、1文を短くするなどに注意をすることです。強調した
い場合は、whatの主語や倒置を使いこなしましょう。ただし、1点覚えておいていただきたいことがあります。
「受動態を一切使ってはならないのでしょうか?」そうではありません。使っていただいて良いのです。それ
は単に割合の問題ですから、受動態を使っても良いですし、書き言葉の文法を使っても良いのですが、少なめ
に使用するということです。主にSpoken Englishを使うということを皆さんに覚えておいていただきたいと思
います。Spoken Englishの構文・文法をお話しましたが、もう1つ大事なことがあります。Spoken Englishに
するために、ディスコースマーカーをプレゼンテーションで使いましょうということです。「ディスコースマー
カーとは何ですか?」これは、プレゼンテーションの内容に直接は関係のない、枠組みを言うための言葉です。
たとえば、
「私は今から〜について話します」や「次に」や「〜を見てください」などです。これはプレゼン
テーションの内容には関係ありません。ディスコースマーカーとは、話の展開、もしくは文章を繋ぐ言葉のこ
とを言います。言葉は聞き慣れないかもしれませんが、どのようなものかはおわかりだと思います。さらに覚
えておいていただきたいのは、英語では「私は今から〜を話します」のように、先に予告をしてから内容を話
します。まず、
「こんなことを話します」と言ってから内容です。プレゼンテーションもそのように、「次にこ
れをお話します」と言って、内容に入ります。これは英語の論理展開ですが、そちらも覚えておいていただき
たいと思います。このようなディスコースマーカーは、英語のプレゼンテーションの本に必ず載っています。
「こういう言葉を使いましょう」という繋ぎの言葉の方は載っていますが、載っていないのは、最初にお話し
ました「こういう構文を使いましょう」というSpoken Englishの文法の方です。プレゼンテーションでよく使
われる繋ぎの表現というのは本にたくさん載っていますので、そちらは簡単に見つかると思います。もう一度
まとめますと、Spoken Englishの利点は、わかりやすいということです。先程も言いましたように、実験の結
果、プレゼンテーションをよく聞いている聴衆が、「Spoken Englishの方が断然にわかりやすい」と言いまし
41
た。そして、プレゼンテーションは聴衆とのコミュニケーションですから、話しかけることが大事です。そう
することによって聴衆との一体感が生まれます。壁を持ってきて話すのはとても冷たい感じがしますし、退屈
さを与えます。壁を持ってくるとはどういうことかと言いますと、先程も言いましたように、書き言葉や論文
のような文章、そしてたとえば、ホームページなどに載っている文章をコピー&ペーストするだけでそれを読
むといったことです。コピー&ペーストも良いのですが、それをSpoken Englishに書き換えるというひと手間
を加えていただきたいと思います。そして、
「Here is〜」、
「Please look at the slide.(スライドを見てください)
」
や「はい、これが表です」などのディスコースマーカーを使って、聴衆の視線をコントロールすることをして
いかなければなりません。
「はい皆さん、こちらを見てください。これは〜です」と、聞き手の視線をコント
ロールしたり注目させたりするために、そのような言葉を使うことが大切です。後程音声を聞いていただきま
すが、イントネーションがない文章というのは、書き言葉であるがためにイントネーションがつけにくいので
はないかと思います。Spoken Englishの方が、抑揚がつけやすいです。イントネーションをつけやすいのです。
もう1度注意していただきたいのは、書き言葉も少しは使っても良いのです。「実際、本当にそうなのでしょう
か?」という点において、英語が母語のNative English Speakerのプレゼンテーションを録音して、書き起こ
し、その原稿を比べた1つの研究データがあります。どのような構文を使っているかという研究ですが、注意
していただきたいのは、こちらのネイティブプレゼンとノンネイティブプレゼン、資料では赤と紺の文字の箇
所を見ていただきますと、1つのプレゼンテーションの中で、Native English Speakerは受動態の文章を8.3%
しか使っていません。それに比べて、Non-nativeは17.1%となっていますので、非常に多く使っています。し
かし、論文では、ほぼ同じではありますが、Nativeの方が受動態を少し多く使っています。It thatやIt to構文
になりますと、プレゼンテーションではNativeはほとんど使っていません。倒置もやはりNativeの方が、倍ほ
ど使っています。そして、先程申しました「What I want to study」や「What we found」という擬似分裂文
については、Non-nativeはまったく使いこなせていません。そのような結果になっています。次に、プレゼン
テーションの中の文章でどのような主語を使っているかについて、ネイティブプレゼン、ノンネイティブプレ
ゼンに日本人プレゼンを追加してみました。先程のノンネイティブの中には日本人が入っていませんでしたが、
こちらは私の方で日本人のデータを入れてみました。有生の人称代名詞、つまり人間の代名詞の主語を使って
いるかどうかですが、Nativeは37.3%使っていますが、日本人は8.1%しか使っていません。I、You、Weと分
けてみますと、日本人もノンネイティブも、主語にYouが使えません。IやWeは使えますが、「あなた、こうし
たらこのようなことができますよ」というような聴衆に語りかける、Youという主語が使えません。そのよう
な結果になっています。この結果で、プレゼンテーションでどういう構文を使っているかという違いがとても
明確にわかります。しかし、これは当然だと思います。私たちももし日本語でしたら、このように言った方が
強調できる、このように言った方が親しみがわくなどがわかると思いますがどうでしょうか?英語だからわか
らないだけなのです。ですから、Native English Speakerがそのように使いこなすのは、当然であると思いま
す。ただ、強調表現やSpoken Englishの構文を今まできちんと定義できていなかったことが問題だと思います。
Spoken Englishのまとめが皆さんの資料に書いてあると思いますので、また見ておいてください。ディスコー
スマーカーにつきましては、プレゼンテーションの本にたくさん書いてありますので、ここでは特に言わなく
ても良いと思います。皆さんには、
「I’m going to talk about〜(〜についてお話します)」、
「Next(次に)」、
「First
of all(まず最初に)
」
、
「Please look at〜(〜を見てください)」などの言葉を覚えておいていただきたいと思
います。ここで、皆さんに音声を聞いていただきますが、音声も不得意な方が多いかもしれません。なぜかと
言いますと、英語を読むトレーニングが、どちらかというと授業では少ないからだと思います。こちらの大学
ではしておられると思いますが、そのような原稿を読む練習にどうしても馴染みがありません。しかし、プレ
ゼンテーションは原稿を書くだけでは十分ではありません。必ず読んでください。どう読むかと言いますと、
少しゆっくり、適切な場所でポーズをおいてください。ポーズとは、少し止めるということです。このポーズ
がなければどのようになるのか、もしくはポーズをおくところを間違うとどのようになるのかは後程聞いてい
ただきます。また、抑揚をつけてください。棒読みとは、要するに棒であって、抑揚がないという意味ですか
ら、抑揚をつけてください。この抑揚の練習は、普段からシャドーイングなどを練習していくと自然に身につ
42
Ⅳ 教育の国際化講演会
きます。普段のシャドーイングの練習、つまり音声を聞いてリピートをすることは効果的だと思います。そし
て、意外に単語のアクセントを間違う人が多いです。たとえば「deVElopment」が「deveLOpment」となる
ような間違いをよく聞きます。日本人同士でしたらわかるかもしれませんが、アクセントを間違うと、英語話
者などには伝わらないことが多いです。ですから、この点も注意をしていただきたいと思います。では、音声
を聞いていただきましょう。まずポーズですが、おかしなところでポーズを入れたものと、正しいところでポー
ズを入れたものの2つを聞いていただきます。どのような感じがするでしょうか?まず、おかしなものです。
(音声)I think studying-abroad(ポーズ)is a good(ポーズ)
opportunity to(ポーズ)expand my perspective.
そして、
(音声)I think(ポーズ)studying-abroad is a good opportunity(ポーズ)to expand my perspective.
どうでしょうか?やはりきちんとポーズを入れますと、すっと入ってきます。現実問題として、原稿を書い
ただけで息切れ、スライドを作ってもう時間切れということが非常に多いのですが、声を出して読む練習をし
なければなりません。そのときにスラッシュを入れておいて適切なところでポーズをおく練習をしておけば、
おかしな文章になってしまったり、おかしなプレゼンになってしまったりということはありません。次に、イ
ントネーションがあるものとないものを聞いていただきましょう。
(音声)I’m going to talk about how this system works in XYZ.(イントネーションなし)
そして、
(音声)I’m going to talk about how this system works in XYZ.(イントネーションあり)
イントネーションのあるなしで、これだけ聞き手にとっては印象が違います。先程のポーズのあるなしもか
なり如実だったと思いますが、実際にあのように聞こえます。もしもイントネーションをつけなかったり、ポー
ズを間違ったりしますと、あのように聞こえるということがわかっていただけたかと思います。今、ポーズの
例で出しました文章は、
「留学は自分の視野を広げるのに良い機会だと思う」という文章です。そして、イン
トネーションの方は、
「XYZの中でこのシステムがどのように機能するかについてお話します」という文章で
した。あのように出だしからイントネーションなしで話されてしまうと、その時点で聞く気になりませんから、
音声も英語表現と同様にとても大切だということを皆さんにわかっていただけたかと思います。スライドの方
はここまでですが、私が今お話したこととお話していないことを併せて、皆さんにチェックリストという形で
見ていただきたいと思います。今までの私のお話の中で言わなかったことがあれば、付け加えてお話したいと
思います。
『チェックリスト 心構え・その他』という配付資料の方から皆さんに目を通していただきたいと
思います。この2ページ目を読んでいただけますか?行っていたらチェックをする、行っていなかったらチェッ
クをしないという作業をしていただけますか?
(チェックリスト作業)
どうですか?全部チェックできていますか?
(チェックリスト作業)
前に座っている方々のリストを見せていただきますと、チェックが多いようですので、しっかりと練習され
ているように思いましたが、今後プレゼンテーションをする前にはまず、このチェックリストを一通り見てい
ただきたいと思います。プレゼンテーションをするとき、留学に行った先でクラスで英語で発表するときなど
に、一度このリストを見て思い出してください。「そうだそうだ、これをしなければならない」というように、
記憶を思い起こしてほしいと思います。特に、「結局、何?」という伝えたいことがわからないプレゼンテー
ションや、最後に内容がまったく残らず「この人は一体何を伝えたかったのだろうか?」というプレゼンテー
ションも多々ありますので、自分はどのような目的でプレゼンテーションをするのか、何を伝えたいのかとい
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う指針の骨をまずきちんと決めてください。ここがきちんとしていれば、内容的にそれほどおかしなプレゼン
テーションにはなりません。また、言葉の使い方ですが、難しい専門用語をどの程度出すか出さないか、どの
程度簡単にするかしないかということ、つまり聞き手に合わせて言葉を選ぶということも考えていただくと、
上級のプレゼンテーションになるかと思います。イントロですが、「皆さんは〜のことをご存知ですか?」な
ど、こちらに聞き手の興味をひきつける質問はよく聞くプレゼンテーションの出だしです。このように聞かれ
ると「ん?」となって聞き手が聞くという、オーソドックスなひきつけの方法です。このように最初にインパ
クトを与えることは非常に大切ですが、よく誤解されることとして、プレゼンテーションにひきつけるために
ジョークを言う、ユーモアをまじえるということがあります。プレゼンテーションの本には必ずそのように書
いてあります。これはとても良いことではありますが、ギャグはすべることがあるため、1つの冒険と言えま
す。すべったときはすべった自分が辛くなりますので、その後余計に崩れてしまうこともあり得えます。です
から、ジョークは、無理に言わなくて良いです。普通に真面目な感じでしてただいて良いです。それがどの程
度効果を奏するかについて疑問がありますので、言う必要はありません。プレゼンテーションの最後は、「こ
れで私のプレゼンテーションは終わりです」
という意味の「This concludes my presentation.」と言います。
「This
concludes my presentation. That’s all.」などと言う人がいますが、最後に「That’s all.」とは言いません。こ
れは、
「はい、これで終わり!」のようなカジュアルな感じで、プレゼンテーションの結びとしてはふさわし
くない言葉ですから、最後は「Thank you for your attention.」や「Thank you for listening.」と言ってくだ
さい。そこまで出なければ、最後は「Thank you.」でも良いです。このように終えるということを覚えておい
てください。
「That’s all.」ではありません。これはとても投げやりな感じがして、印象が悪いので、そのよう
には言わないということを覚えておいてください。また、Visual Aidであるスライドに、文字をたくさん書き
込んでそれを読むということはしないでください。文字はできるだけ少なくして、自分の話す内容のキーワー
ドだけを並べることができれば一番良いでしょう。文字は、少しくらいは入れても良いですが、できるだけ少
なくしてください。実際、キーワードを入れてどのように練習してくかというのは、この先の話になりますが、
また何かの機会がありましたら、そういうこともお伝えしたいと思います。実際に、キーワードだけを書いた
スライドでプレゼンテーションしていくやり方もありますが、まずこの段階では、文字を詰め込まないという
ことだけを覚えておいてください。上級編の話をしますと、たとえばクラスや留学先などではないかもしれま
せんが、プレゼンテーションをするときに、このようなポインターを使えるときがあります。これを使うと、
ずっとずっとこうしている
(注:身振りあり)
人が多いです。おそらく何かを持っていると安心するのでしょう。
このような感じで(注:身振りあり)
、発表もこう(注:身振りあり)ではなくてこう(注:身振りあり)なっ
てしまいます。スライドの方を見ながら話してしまいがちになりますので、そうならないように注意してくだ
さい。ポインターは必要なときだけ使いましょう。たとえば私が今、ずっとこうしていれば(注:身振りあり)
、
苛立ちませんか?「止めてください」と思いませんか?しかし、そういう方が多いので、ポインターを使うと
きには注意をしてください。背中を向けて、スライドの方を見て話さずに、聴衆を見て話してください。そう
いうことが割とあります。そして、照れ隠しでへらへらと笑う人も割といますが、見ている方が少し困ります。
その人はヘラヘラされていても、聞き手は真剣に聞きたいと思っています。そのように思ったことはありませ
んか?私はよくあります。
「もう少ししっかりしてください」と思います。少し恥ずかしい気持ちがあること
もわかりますが、そこはきちんとしてください。きりっとして、へらへら笑いはしないでください。お詫びも
あまり言わないようにしてください。よほどのことではない限り「I’m sorry.」とは言わないでください。こ
のようなことは英語には直接関係しませんが、プレゼンテーションでよく見かけるおかしな態度ですので、気
をつけてください。では、皆さん、留学先でも日本人の代表として、是非素晴らしい英語のプレゼンテーショ
ンをしていただければと思います。皆さん、本当にありがとうございました。
山本教授:興味深い話をありがとうございました。少し時間が押していますが、質問があれば、
1つか2つ。では。
学生A:会社などのそれほど真剣な場ではありませんが、今までプレゼンテーションしてきた中で、劇形式で
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Ⅳ 教育の国際化講演会
進めているプレゼンテーションを見ましたが、これはプレゼンテーションとしてどうですか?
島村講師:劇形式でプレゼンテーションをするというのは、たとえばどのような状況ですか?
学生A:たとえば、あるトピックについてのグループプレゼンテーションをするとします。そのとき、「私が妹
で」などグループで家族の構成を説明して、その家族の中で話をしながらプレゼンテーションを進めていく人
たちがいました。このように劇をまぜるのはどうですか?
島村講師:それは、そのようにしなさいという指示でしたか?
学生A:違います。自分たちで作ってそのようにしていました。
島村講師:それは単に、その人たちのオリジナルなものであって、それが受け入れられるのであれば、それは
それで良いかもしれません。しかし、プレゼンテーションのスタンダードのパターンではまったくありません。
学生A:では、それはプレゼンテーションではないのですか?
島村講師:それでその場が良ければ良いでしょう。しかし、普通の場合はそうではありません。普通は、私が
今日しました、スライドを使ってするこのようなものをプレゼンテーションと言います。英語の場合でしたら
英語を使います。今聞きましたお話で、1つ思い起こしましたのは、原稿を読んでも良いのかどうかというこ
とです。これについて少しお話したいと思います。話し言葉で作った原稿を覚えて、あたかも自分が今、話し
ているように話すということをしていただきたいと思いますが、実際、それは難しいことだと思います。最低
限どうするべきかと言いますと、1つのやり方としまして、イントロとコンクルージョンだけは必ず覚えて前
を見て言ってください。最初と最後だけです。真中はスクリプトを読んでも良いですが、イントネーションを
つけて話していくように読んでください。これが最低限のやり方です。ですから、書き言葉で書いた原稿を棒
読みするということだけはしないでください。
山本教授:芝居形式でやるということは、先程、ユーモアやジョークを入れるとすべったときに怖いというお
話がありましたが、そのような感じではないでしょうか?芝居でやるということは通常は求められていない形
ですから、それがすべったときには大変怖いでしょう。
学生A:多くのグループがそのような形式でプレゼンテーションをしましたので、それが普通かと思いました。
山本教授:プレゼンテーションそのものとしては、それは普通のスタイルではありません。ではもう1つ質問。
たくさんあるようですが、後ろの方にいきましょう。
学生B:プレゼンテーションでマイクを持っていると、持っていない方の手がいつも気になります。置く場所
や、
ジェスチャーなどです。ピンマイクなどはしたことがありませんから、必ずどちらかにマイクを持っており、
片方が何も持っていない、遊んでいる状態になるため、やり場に困ります。
島村講師:よくわかります。それはとても良い質問だと思います。実際、立ち姿というのは大変難しいです。
私はピンマイクよりもこちらのハンドマイクの方が好きです。ボリュームも調整できますし、片方はずっとこ
のままでいけるからです(注:身振りあり)
。こちらの手はどのようにすれば良いかですが、ハンドマイクで
したら基本的には普通に下ろしておいていただいていて結構です。
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学生B:見ている分には良いのですが、実際してみるととてもぎこちなく感じます。
島村講師:それは、ボディランゲージが出ないからだと思います。ボディランゲージが出ないというのは、こ
れは私も少し不確かで、脳科学の話で聞きましたが、本当に心から相手と話しているときには勝手にボディラ
ンゲージが出るらしいです。しかし、
覚えたこと、暗記したことを思い出しながら言うときには、ボディランゲー
ジが出ないらしいです。ですから、どこかで自分の感情をこめたり、自分が覚えたもの以外のことを言ったり、
もしくはこれは必ず言いたいということがあったりすると、勝手に出るらしいです。ボディランゲージという
のは、たとえば体操のようにこうしてこうなどと決まっているものではありませんので、自然に出るためにも、
最初から自分が必ず言いたいところなどをよく練習しておくと良いでしょう。ずっとこうしているのは確かに
ぎこちないと思います。演台があれば、演台に手を置けます。
学生B:癖で肘を触ってしまいます。
島村講師:それは良くないです。それは、自分をプロテクトして、
「私は怖気づいています」というポーズです。
「何も質問しないでください」という感じですので、それはしない方が良いでしょう。しかし、大変良い質問
だと思います。そうされる方が比較的多いので、しない方が良いでしょう。
山本教授:もう1つだけご質問をどうぞ。
学生C:たとえば、完璧にプレゼンテーションが作れたとしても、本番に緊張したら、この元の素材の8割くら
いしか活かせないと思います。先生はそれをどのように乗り越えられたのでしょうか?
島村講師:どのように乗り越えたかですか?私は基本的にあまり緊張しないのです。緊張しない一番のコツは、
上手く見せようと思わないことです。
「自分が伝えようとすることが伝わったら良い」、
「わかってくれたら良い」
という気持ちを持つことです。
「私の英語は上手いでしょう?」という発音をするというような気持ちを捨て
ることです。そうするとあまり緊張しません。
山本教授:また質問がありましたら、後程少し時間を取りたいと思いますので、用意しておいてもらえますで
しょうか?では、改めて島村先生、ありがとうございました。
島村講師:ありがとうございました。
山本教授:代わりまして、長澤先生にお話をいただきたいと思います。ちょうど今、プレゼンテーションの仕
方のお話の中に、どのようなボディランゲージをするかというお話がありましたが、長澤先生は朝日放送で長
くアナウンサーをされていましたので、その辺りも話題としては重なるかもしれません。是非その点を宜しく
お願いいたします。
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Ⅳ 教育の国際化講演会
配付資料
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Ⅳ 教育の国際化講演会
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イギリス:私をジャーナリストにしてくれた国
講師:長澤 彰彦氏
長澤講師:こんにちは。先程の島村先生の
お話ですが、ついでに話しますと、緊張は
必ずします。緊張しないことなどありませ
ん。そういうときに逃れるコツが1つあり
ます。私はアナウンサーをしておりました
から、カメラに向かって話さなければなり
ませんでした。それが商売です。ただ、自
分のビデオを見るのが嫌いでした。自分が
話しているのを見ると、ソーセージのよう
な自分の太い指が非常に目についたからで
す。また、私はよくパチパチと瞬きをする
癖がありました。瞬きはできるだけしない
方が良いのですが、してしまいます。では、
それをどのように逃れれば良いのでしょうか?完全な克服法については、私はアナウンサーを辞めてから気が
つきました。もしアナウンサーの途中で気がついていれば、私は大学の先生になっていなかったでしょう。今
頃、宮根誠司さんのように、東京に行って、アナウンサーをしていたかもしれません。しかし残念ながら、ア
ナウンサーとしてはある程度までは行きましたが、それほどたいしたアナウンサーではありませんでした。な
ぜかと言いますと、腰が落ち着かなかったのです。腰が落ち着かないとは、要するに、体が揺れるのです。揺
れると、テレビを見ている人が落ち着いて見ることができません。なぜ最近になって逃れるコツがわかったか
と言いますと、最近になって声楽を始めまして、その声楽の先生にとても良いことを教えていただいたからで
す。今から私はお話をしますが、たわいないお話ですから、あまり緊張していません。ところが、歌を歌おう
と思うと、緊張します。自分の慣れないことをするのは必ず緊張します。そういうときに、舞台にこのように
立ちましたら、両膝に力を入れます。不思議ですが、両膝に力を入れると肩の力が抜けます。有名なオペラ歌
手がいろいろといらっしゃいますが、舞台に立つ前には必ず緊張します。舞台に登場しましたら、このように
挨拶をしますが、そのときに必ず膝に力を入れます。そして、視線を飛ばすとすっと力が抜けるのです。とは
言いますが、これからお話する中で、私自身がそのように上手くいくかどうかはわかりませんので、いい加減
な話だと思って聞いてください。実は今日、私がお話しするということに関しましては、山本先生に「とにか
く皆に会いたい。会いたい」
と私がひたすら恋焦がれているように言っておりました。どうしてかと言いますと、
「外国語学部の非常勤で1コマ教えていただけませんか?」と山本先生に言っていただいたのが一昨年で、私は、
「是非、させてください」と大喜びでお返事しました。そうしますと、「3年生の担当ですので、学生が3年生に
なりましたら1コマだけお願いします」と言われました。山本先生に依頼されましたのが2年前ですので、3年
生と言いますと、皆さんは今年留学に行きますから、来年しか会えないということになります。正直なところ、
もう年ですから、
「それまで生きているかどうかわからない」と思いました。ですから、こちらの非常勤講師
をする以上は、死ぬまでに皆さんに1回でも会っておきたいと思い、「とにかくお話しする機会を作ってくださ
い」とお願いして、今日、このような機会を作っていただきました。皆さんはこれから全員が留学しますが、
素晴らしいことだと思います。皆さんにはアリストテレスのレジメをお渡ししていますが、そのレジメを見た
途端に眠くなるかと思います。私はそういうことを言いたいので、読んでおいてください。今からそちらに関
係したことをお話しますが、ほとんど別のことになります。ですから、後程見ていただいて、「長澤先生はあ
のようなことを言いたかったのだろう」と思ってくれればそれで十分です。今から私が何を話すかと言います
52
Ⅳ 教育の国際化講演会
と、
私がイギリスに行ったときの体験談です。体験とは素晴らしいことだと思いませんか?皆さんも留学に行っ
て、いろいろなことを体験できると思っていませんか?期待していますか?「どのようなことを体験できるか
な?」と思って、ワクワクしている人がいましたら手を挙げてみてください。それが楽しいでしょうから、や
はりそうでしょう。それが一番良いことです。ところが、体験談というのは、あまりためになりません。よく
講演で自分の体験をお話する人がいらっしゃいますが、体験談ほどためにならないものはありません。なぜだ
と思いますか?
学生D:人の話だから。
長澤講師:そう、人の話。それもあります。
学生D:人の経験。
長澤講師:人の経験ですね。同じ経験はしません。他にありますか?
学生E:共有できない。
長澤講師:共有できない。人の話だから共有できないのです。まだありますが、わかる人はいますか?
学生F:自分と関係がない。
長澤講師:自分と関係がない。つまり、人の話ということです。要するに、なぜ体験談がためにならないかと
言いますと、体験というのは基本的には受身だからです。皆さんは、アメリカに行ったり、中国に行ったり、
イギリスに行ったりしますので、何かを期待しているでしょうが、体験するというのは、誰かに出会う、何か
の出来事に遭遇するというようにすべてが自分の受身です。皆さんは必ず面白い体験をするはずです。しかし、
「その体験は何なのだろう?」と自分で考えなければなりません。そこでレジメのアリストテレスの話になり
ますが、今はそれを読む必要はありません。私はアリストテレスの研究者ではありませんが、コミュニケーショ
ンの研究をしておりますので、アリストテレスも興味を持って読みます。アリストテレスが特に言っているこ
とは、まず「知ること」です。
「覚えること」
「知ること」
「勉強すること」が一番大切であって、次に「それを
実践すること」
「行為、行うこと」が非常に大切であると言っています。書けばわかりやすいでしょうから、書
きましょう。
「知」です。そして「技術」です。そしてその間に、
「覚える」
「学ぶ」というのがあります。「知識」
の「知」は「学ぶ」ですが、
この「知識」の「知」に「恵」と書きますと、
「知恵」になります。「知恵」とは「恵
まれた知識」
「知ること」だと思われるでしょうが、アリストテレス的な考え方ですと、「知ったことを人に与
える」ということになります。自分が体験したことを覚えて、何らかのアクションを人に加えないことには、
それはほとんどためにはならないことと言えます。自分の体験談をお話すると言っていましたのに、ついつい
授業のようになってしまいましたが、できるだけ講義の方向には行かないようにします。今日は講演ですから、
講義ではなく講演にしようと思っておりますので、元に戻します。体験するだけでは十分ではないという方向
に入ってきましたら、それだけで1時間は完全にかかってしまいますので、止めます。体験だけでものを言い
ますと、先程言いましたように、ためになりません。なぜためにならないかと言いますと、バートレットとい
う心理学者は、体験だけで考える人をスキーマと呼びました。長期記憶の構造では、体験に基づいていること
を人間は長い間覚えていられます。ですから、皆さんは体験に基づいていろいろなことを覚えていかれます。
ところが、
その体験だけで、
「この体験は何だろうか?」と考えたこともない人というのはステレオタイプになっ
てしまいます。同じことを言ってしまうのです。ですから、必ず、体験から何かを考えなければなりません。
そして、今から私の体験談を申し上げますが、実はもう25年くらい前のお話ですから、皆さんが生まれる少し
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前にイギリスに行きました。そのとき、私は1人で行けば良かったのですが、1人だと寂しいので、妻を連れて
行きました。妻はそのときにどういう状態だったかと言いますと、妊娠6ヶ月でした。お腹はまだそれほど大
きくはありませんでしたが、妊娠6ヶ月で無理やり連れて行きました。口実として、妻に「イギリスで出産す
ることによって、いろいろなことを学べるから一緒に行こう」と言って、無理やり一緒に連れて行きました。
1週間だけホテルを取っていましたが、1週間もホテルを取っていれば、その間に自分の住む家くらい見つけら
れるだろうと思っていました。ところが、見つけられませんでした。ですから、延長してもらおうと思い、
「も
う2週間ほど延長させてください」と頼みましたが、満杯で無理だと断られてしまいました。「仕方がない」と
思って、そのホテルのすぐ近所に、皆さんのような若者がいつもロビーで本を読んでいる楽しそうな雰囲気の
ホテルがあり、そこに「部屋はありますか?」と聞くと、
「あります」と言われたので、そこに飛び込みました。
私が日本から取ったホテルは、きちんとした立派なホテルでしたが、私が飛び込みで行ったホテルは、2つ星
でした。ヨーロッパのホテルはすべて、星の数で区別しており、2つ星は非常に安いところになります。いつ
自分の家を決められるかわかりませんでしたので、2つ星で十分だと思って入りました。普通はホテルでしたら、
シャワーではなくお風呂がついていると思うでしょうが、ついていませんでした。部屋に案内されて驚きまし
たが、これくらいの広さで、これくらいの蛇腹のものがベッドの横にありました。安いので、部屋は狭いです。
「何だろう?」と思ってそれを引っ張ると、そこにシャワーの蛇口があったので、「ここで体を洗いなさいとい
うことか。このようなところで1週間も過ごせない」と大変驚きました。アメリカは別でしょうが、ヨーロッ
パでは、基本的にほとんどがシャワーだけで、バスにゆったり浸かるなどということはありません。皆さんの
中にもイギリスに語学留学に行く人がたくさんいらっしゃると思いますが、浩宮様、つまり今の皇太子殿下が
オックスフォードに行かれている間に、BBCに見学に来られたことがあります。そのとき、浩宮殿下に「殿下、
今一番したいことは何ですか?」と聞きましたら、
「私は肩までゆっくり温かいお湯に浸かりたいです」とおっ
しゃいました。要するに、皇太子殿下がオックスフォードに留学していても、それくらいの状態です。お風呂
にゆっくり入れるなどということはあまりありません。20何年前のことですから、多少は変わっているかもし
れませんが、イギリスという国はそれほどは変わっていないと思います。ですから、皆さんはそのように違う
文化にめぐり合わなければならないわけです。そのときは私もそのようなことをまったく知りませんでしたか
ら、シャワーだけのところで過ごさなければなりませんでした。ところが、あまりの環境の変化に、妻が流産
しかかってしまいましたので、私は慌てて家を見つけ、住まうようにしました。私はBBCに行きますので、妻
には「病院に行きなさい」と言いました。妻が病院に行くと、病院の受付の看護婦さんから、「あなたはこの
病院で出産したいのですか?」と3回聞かれたそうです。ところが、妻は「出産」という英語を知りませんで
した。出産は「delivery」と言います。要するに、コウノトリが「運ぶ」のが、出産です。3回も聞かれるとは
思ってもいませんでしたので、そのときは仕方がありませんでした。「出産という言葉も知らないで、病院に
来たのですか?しかし、あなたのお腹を見ますと、出産だというのはわかりますので、わかりました」となり
ました。その後、病院に行き、出産のコースを受けました。男性は必ず出産に立ち会わなければなりませんが、
これは向こうの当たり前のシステムです。実際に病院に行き、「こちら側に行ったらあなたの赤ん坊は危ない
かもしれません。こちら側に行ったら大丈夫です」というようなことまで言われました。そのときが6ヶ月で
したから、4ヶ月が経って妻の出産のときがやってまいりました。当然、私はずっとそばにいました。ギリシャ
系のお医者さんでしたが、その方は産婦人科の医者になって、出産に立ち会うのが初めてだったので、「大丈
夫かな?」と思いました。実際にお医者さんが妻を見て、「Strange…」と言っており、「『不思議だ』と言って
いる」というのはわかりました。お医者さんは、「この子の頭にはballoonが付いています。ボールが付いてい
ます」と看護婦さんに話していたようです。その話を妻が横で寝て聞いておりまして、「おかしなことを言っ
ているけど、このお医者さんは本当に大丈夫かな?」と思っていたそうです。そうしますと、看護婦さんが「あ
れはballoonじゃなくて、testis(精巣)です」と言ったようです。要するに逆子だったのです。逆子ですから、
頭だと思っている方にtestisがあったというわけです。そして、陣痛が来ると、自分の麻酔薬まで、「これをお
願いします」ということを言わなければなりません。そこで、妻に感心しましたのは、最初は「あなたはここ
で出産したいのですか?」と聞かれてもわからないほどでしたのに、4ヶ月経つと女の人とは素晴らしいもの
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Ⅳ 教育の国際化講演会
です。陣痛が来たときから、
「この麻酔を打ってください」ときちんと医者に伝えるではありませんか。痛さ
は自分しかわかりませんから、日本ではあまりそういうことはしませんが、イギリスでは出産のときに、「こ
ういう痛さが来たらこの薬をほしいです」ということを自分で言わなければなりません。そうしますと、きち
んとお医者さんがそれを調合して、手当てしてくださいます。妻はそういうことが全部話せるようになってい
ました。しかも看護婦さんがお医者さんに話している、「あなた、駄目ですよ。落ち着いてください。逆子で
すよ」という秘密話もすべて、わかるようになっていました。ですから、女の人というのは基本的に先天的に
そういうものを持っているのかと思いましたが、そういうことを考えるのは、先程申しましたようにステレオ
タイプです。女性だから男性だからということではありません。そのときに私が体験に基づいてつくづく思っ
たことは、子供というのは1人ではできないということです。当たり前といえば当たり前です。子供というの
は1人では絶対できません。一般的に日本人の考え方では、たとえ夫婦であっても、一緒に子供を生むという
感覚はありません。ところが、イギリスに行きますと、すべてが違います。子供というのは当然、亭主も一緒
になって育てます。彼らは家庭というものをとても大事にします。そこからまったく違うということがわかり
ました。妻の出産の話ばかりしてきましたが、今からBBCの話をします。BBCとは、英国放送協会です。これ
は1923年にできました。まずラジオができましたが、このラジオを作ったのが、ジョン・リースという人です。
ジョン・チューさんという人もいまして、こちらは私が勤めていた頃のボスです。Three Johnで、ジョンが3
人おりますが、一番偉い人がジョン・リースです。この人がイギリス放送協会を作って最初の会長になった人
ですが、このお話はまた3年になってからしましょう。イギリスという意味では、BBCは3つありまして、先程
申しましたようにラジオとテレビ、そして国際放送のWorld Serviceがあります。私はWorld Serviceの社員と
して赴任しました。World Serviceというのは、BBCですが少し異なっておりまして、Television Centre、
Radio SectionがNHKと同じように徴収料でまかなわれています。BBCのWorld Serviceの社員というのは、外
務省員さんになります。ですから、私は3年半の間は、イギリス外務省の職員でした。ここで、BBCに行く前
の話をしましょう。私がなぜアナウンサーになったかと言いますと、大学生のときに成績がとても悪かったか
らです。アナウンサーというのは、倍率は高いですが、試験はやさしいので、簡単に入れます。一般職はなか
なか入れません。朝日放送に入ってアナウンサーをしていましたが、私はすごくうぬぼれるタイプです。良い
格好をしたくて、すぐうぬぼれます。最初はいろいろな番組を持っていましたが、「生意気だ」とされて、仕
事がなくなります。仕事がなくなると反省します。そして、頑張るようになりますが、また何か番組を持つと
偉そうにして、仕事がなくなります。ですから、「またか・・・」と思って、「BBCに行きたい」と手を挙げま
した。当時のアナウンス部長が、
「イギリスに行きたいのなら、私が試してあげよう。『首相』は英語で何と言
うか知っているか?」といきなり聞いてきました。私は英語で「首相」を知りませんでした。皆さんは知って
いますか?首相と総理大臣の違いがわかりますか?こういうことが、微妙に違います。総理大臣というのは、
大臣ですから、
「臣」です。首相は「相」です。これはどちらも、誰かの臣下、家来ということです。首相の「相」
は、助けるという意味です。総理大臣も首相も「Prime Minister」ですが、「Minister」という言葉の中にも、
助けるというニュアンス、言葉の意味が入っています。つまり、「王様を助ける」のが首相です。ところが、
そのとき私はそういうことを知らずに、
「Prime Minister」とすぐ答えられずにいましたので、「首相と総理大
臣とは違うので、それはかなり難しい問題です」と言って、ごまかしました。先程も申しましたように、イギ
リスに行って、実際に家も探しましたが、
「Prime Minister」もわかりませんでした。私の大学は高校からエ
スカレータ式であったため、大学受験をしていなかったので、単語能力が中学から変わっていません。ボキャ
ブラリーがほとんどなかったのです。非常に困りましたが、そのときに、たとえばEstate Agency(不動産屋
さん)に行って話を聞いて、案内してもらいましたが、意外と通じました。中学校1年生くらいの語学力で、
ある程度通じます。そのときに私が何と思ったかと言いますと、「私は坂本龍馬か」と思いました。司馬遼太
郎さんの本に『竜馬がゆく』という本がありますが、その『竜馬がゆく』の中に、英語の授業を坂本龍馬が後
ろで聞いていて、7割から8割を理解したという記述があります。司馬遼太郎さんが書いています。私はごまか
しながらBBCに行っていたので、私の英語が通じるなどと思っていませんでしたが、それが妙に通じましたか
ら、
「私は坂本龍馬か」と思いました。これは大変な錯覚です。皆さんも、中国に行きましても、アメリカに
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行きましても、イギリスに行きましても、不思議なことに意外と通じます。なぜ通じるのでしょうか?私はコ
ミュニケーション学を研究しておりますが、言葉というのは、コミュニケーションの中で、10%程度の役割し
か果たさないそうです。つまり、このように話していても、私の素振り、口調、目つきなどですべて通じるの
です。私が今、何を言っているのかは、一生懸命話していますのでわかりますよね?ですから、何か目的があっ
てコミュニケーションするときは意外と通じます。通じたと思ったら通じていますが、そういうときは錯覚に
陥ります。皆さんはおそらく、これから留学するにおいて、いろいろなことを体験します。英語も通じるはず
ですが、
「通じたから私は英語ができるようになった」と思うのは、とんでもない間違いです。私は今、それ
で苦しんでいます。あのときイギリスに行っている間に、もっと一生懸命勉強しておけば良かったと思ってい
ます。先程、
「知」と書きましたが、知って、実践して、学問の領域まで達しないと英語はわかりません。皆
さんは1年間留学しますが、何となく話して通じたという気になって、それで終わってはなりません。必ず勉
強してください。必死になって勉強してください。そうしなければ、私と同じように後悔します。留学すれば
語学が上達すると思っていると思いますが、これは人によります。「3年もいたら話せますよね?」とよく言わ
れますが、話せません。10年いても話せません。今、日本人は世界中どこにでもいます。そのような仲間同士
で話した時点で、英語、あるいは中国語を忘れてしまいますので、私は、行っている間は語学をマスターする
ために必死にならなければならないと思います。そして、私はジョン・ニューマンという人に、「societyに入
りなさい」と言われました。
「society」にはいろいろな意味があり、説明が難しいのですが、要するに、「日本
人から離れなさい」ということです。私の場合は何をしたかと言いますと、どこに行っても日本人がいたので、
柔道クラブに入って柔道をしました。不思議なことに日本人がいませんでした。そして、意外と話せます。そ
れこそ体をぶつけ合って稽古をするのでコミュニケーションができますから、楽しかったです。そのときに、
友達もできました。しかし、societyに入ったとしても、私たちというのはやはり、勉強しようという意志がな
ければ絶対に自分のものにはできません。伝わるのは伝わりますし、友達もできます。では、それで勉強は全
部できたのでしょうか?絶対そんなことはありません。もう少しBBCの話をしようかと思いましたが、イギリ
ス自体が階級社会だということを、皆さんに知っておいていただきたいと思います。アメリカとイギリスの民
主主義の形態はまったく違います。これを話すと講義になってしまいますので、ここで止めておきますが、皆
さんはクレジットカードを持って行きますか?クレジットカードがなければ生活に少し困りますので、必要で
す。絶対に作っておいてください。電車の切符を1枚買うだけでも、クレジットカードですべて処理ができます。
今は非常に安全性が高いので、失敗することはありませんが、私はクレジットカードでおもしろい経験をした
ことがあります。Regent Streetというロンドンの目抜き通りがありまして、妻の誕生日にカシミヤのセーター
を買ってあげようと思って歩いていましたら、良いものがディスプレイしてありました。「良いものを飾って
いるな」と思い、その店に入っていき、
「カシミヤセーターを見せてください」と言うと、「わかりました。ど
うぞ奥の方に」と奥の方に連れて行かれました。「これはどうですか?これはどうですか?」といろいろ勧め
られたので、
「私はディスプレイしてあるものが気に入って、来ました」と言うと、嫌な顔をされ、「それでし
たら、こちらです」と入口の方に戻されて、見せてもらいました。「あなたの奥さんがカシミヤのセーターを1
枚持っていらっしゃるなら、私はこちらが良いと思います。もし1枚もお持ちでなければ、こちらの方をお勧
めします」と言うのです。どうしてそのようなことを言われなければならないのでしょうか?私の妻がカシミ
ヤのセーターを1枚持っていようが2枚持っていようが、そのようなことが店員さんにどう関係があるのでしょ
うか?妻が1枚持っていたか持っていないか、私も覚えていませんでしたが、とりあえず「これをください」
と比較的高いものを買いました。私のクレジットカードはゴールドだったのですが、そのカードを出すと、
「ゴー
ルド?」と嫌な顔をされました。
「ゴールドなのに、どうしてそのような格好をしているのか?」という目つ
きで見てきました。私がどのような格好をしていたかと言いますと、当時は古着屋が流行っていましたから、
古着のボロボロのツイードのジャケットでした。要するに、「この人は労働者階級だ」となるわけです。「もし
かしたら盗まれるかもしれない」と彼女は警戒していたかもしれませんが、イギリスでは身なりで判断します。
「そのクラスにいるのであれば、その素振り、立ち振る舞いをしなさい」というのがイギリス的な考え方です。
貴族であっても、スコットランドで実際に下水工事をしている人もいます。「貴族だが、私はこういうことを
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Ⅳ 教育の国際化講演会
したい。その方が楽しい」と言っていますが、それがイギリスの民主主義です。身分が偉くてもそのように、
「こ
このクラスに私はいます」と言えばそれで終わりです。ですから、「汚い格好をして、きちんとしたお店に来
てはなりません。それは、逆に礼儀知らずではありませんか?」という姿勢を示されます。これについては、
私は毎年イギリスに行っていますが、徐々に格好はラフになってきてはいるものの、おそらくそれほど基本的
には変わっていません。たとえば最近、パブ自体が少なくなりました。パブはいわゆる酒場です。publicのパ
ブについては、3年になったら講義を聞いてください。パブというのはpublicで、大変重要な意味がありますが、
それもまた少し体験してくれると良いと思います。パブの入口は、労働者、いわゆるブルーカラーと、ホワイ
トカラーとが違います。中のバーカウンターは同じです。「自分はこちら側から、いわゆるホワイトカラーと
して入った」という場合は少し高くなります。ビール1杯でも高いです。「自分はこちら側から、つまり
Worker(労働者)として入った」という場合は当然、人は多いですが、その代わりにビールもウィスキーも
安いです。ですから、
「自分が自分のクラスを指定していればそれで良い」という非常にドライな考え方を持っ
ています。そして、駐車違反をして捕まって、思ったことがあります。なぜ捕まったかと言いますと、自分の
家の前が工事しており、いつも停めていたところに停めることができなかったので、違うところに停めたとこ
ろ、後ろのトランクルーム部分がパーキングスペースから少し出ていたようです。そして、ベタッと貼られて、
「罰金を払いなさい」という指示が来ましたので、私は頭にきてしまいました。英語ができないのに無茶苦茶
な作文をして、
「マグナカルタからの伝統があるイギリスの法律を君たちは守らないのでしょうか?このよう
なことで罰金を払いなさいと言うのはおかしいでしょう」という抗議の手紙を出したのです。そうしますと、2ヶ
月ほどかかりましたが、
「今回に関しましては、あなたの言っておられることがもっともだと認めます。罰金
は払わなくて結構です」という返事が来ました。日本ではあり得ません。ベタッと貼られたら、「機械がカウ
ントしていますので、もう駄目です」となります。マグナカルタを出したのは無茶苦茶な話で、私はマグナカ
ルタが何のことかさっぱりわかっていませんでした。ですから、マグナカルタの話から始まって、「駐車違反
を貼るのがおかしい。違反で罰金払えと言うのがおかしい」と言ってくるから、
「何を言っているのだろうか?」
と思ったでしょうが、私はきちんと写真を撮って、送りました。そうしますと、やはりそのように、「払わな
くて結構です。あなたが今回おっしゃることは正しいと思います」という手紙が来るのです。イギリスは、必
ず議論する国です。ジャーナリズムもそうですが、「99対1でしたら、1は絶対泣いてください」というのが日
本的な考え方です。ところが、
「1の意見が正しいかもしれません」と考えるのがイギリス的な認識です。これ
はどこから来ているかと言いますと、皆さんにもお配りしたアリストテレスから来ています。もちろん、イギ
リスやアメリカに行く場合には、おそらくキリスト教の考え方がベースにあるだろうということを皆さんはご
存知かと思いますが、キリスト教的な考え方、プラス、アリストテレス的な考え方というのが、ほとんど同じ
くらいあります。たとえば、なぜナチスドイツがユダヤ人をあれだけ殺したのでしょうか?これはアリストテ
レス的な考え方から来ています。アリストテレスの考え方をヒトラーたちは利用しました。ですから、「ユダ
ヤ人はひどい」ということをアリストテレス的に単純に言いますと、「利息でお金儲けをしてはなりません。
貨幣というのは物と物との交換です」ということです。アリストテレスはいろいろなことを言いました。その
ようなアリストテレスの考え方が続いていますから、イギリスに行けばそれがまだ確固としてのことです。「イ
ギリスの王室というのは、暖炉の飾りとして置いておいても良いのではないでしょうか?」という考え方です。
ですから、クラスについて私が何を言いたいかと言いますと、皆さんはイギリスに行った場合には特にそうで
すが、学生というクラスです。皆さんは自分たちで学生というクラスを意識したことがありますか?イギリス
人にとって、学生、大学生というのはやはり偉い人たちにあたります。ですから、皆さんは馬鹿なことはでき
ません。日本でしたらある程度はできるでしょうが、イギリスでは学生というのは学ぶ人たちということで、
1つのクラスとして認めてくれます。Sheffieldなどに行くとそうですが、町中で学生を応援します。Warwick
も多分そうだろうと思います。皆が一目置いて、「人類のために頑張ってね」というくらい大袈裟に応援して
くれるので、それに対して皆さんはそれなりの責任を負わなければなりません。これがイギリス的な考え方で
す。そして、もう2つ言いたいことがあります。1つは、いろいろな人に出会うということです。実は、外国に
行きますと、
出会いがたくさんあります。思わぬ人に出会います。たとえば、私がベルリンで歩いていましたら、
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信号の向こうに郷ひろみさんがおりました。信号の向こうに「格好良い東洋人がいる」と思いながらすれ違っ
たら、妻から「郷ひろみさんよ」と言われて、
「へぇ」と思ったことがあります。「サインをもらえば良かった」
と思いましたが、要するに、そういう出会いがあります。そして、私がBBCに行って、一番感動したのは、ア
スコット競馬です。アスコット競馬場にこのようなグレイのスーツを着て取材に行きました。ところが、アス
コット競馬についてはご存知かと思いますが、このようなスーツで行く人は私1人くらいしかおりません。皆
さんがいわゆるグレイの燕尾服を着ています。女性は大きな帽子を、男性は山高帽をかぶります。1組だけ日
本人のカップルがいましたが、あまり似合っていませんでしたから、「日本人にはやはり似合わない」と思い
ました。しかし、アスコットにはいまだにそういう世界があります。ちなみに、そのような帽子をかぶってい
る人にインタビューをしようと思いましたが、私のつたない英語でインタビューなどできませんから、「どう
しようか?」と迷いました。
「
『アスコット競馬を取材してきなさい』とボスから指示されているがどうしよう
か?」と思っていましたら、時間を持て余していそうな警備のおじさんがいました。警備のおじさんと言いま
しても、このような丸い帽子をかぶった紳士です。その人にアスコットのことをいろいろと聞き、BBCに帰っ
て、編集していましたところ、ジョン・ニューマンというボスが来まして、
「長澤さん、これは誰にインタビュー
したのですか?」と聞かれたので、
「帽子をかぶった紳士です」と答えると、「それは警備員でしょう?」と言
われました。どうしてすぐにわかるかと言いますと、言葉でわかるのです。ですから、ただ通じれば良いとい
う英語を皆さんは覚えないでください。皆さんが大学生としてこれから何をしていくのか私はわかりませんが、
夢に向かって、ふさわしい英語を覚えてください。ペラペラと話せる人が尊敬されるというわけではありませ
ん。自分の夢、つまり自分がこういう地位に行きたいという夢にふさわしい英語、語学力、あるいは言葉遣い
というものがあるので、それを目指してください。単にペラペラと話せても、言葉というのは道具にしかすぎ
ません。また先程のアリストテレスの話になりますが、当時は奴隷がいました。医者といえども奴隷ですから、
手術してくれるお医者さんも道具です。アリストテレスは、人間も道具だと思っています。ですから、英語を
話せる人間というのは道具にしかすぎません。いかに自分が考えていることを話せるかが正しい言葉の習得の
仕方であるというのが、アリストテレス的な考え方です。そして、もう1つですが、その最後の結論に行く前に、
先程、
「Sorry.」のお話がありましたが、
「Sorry.」はイギリスでは頻繁に使います。肩が触れたら「Sorry.」と
言い、
ドアで何かあっても「Sorry.」と言います。アメリカとイギリスでは少しシステムが違います。ところが、
自動車事故に遭いますと、
「どうも私の方が悪い」と思うこともありますが、そのときに彼らは、絶対に「Sorry.」
と言いません。
「I’
m sorry.」
とは言いません。謝りましたらその時点で自分に責任を被されるということをはっ
きり認めることになるため、肝心なときには絶対、彼らは「Sorry.」とは言いません。そして、一番言いたかっ
たことを言わなければなりません。先程から申していますように、アリストテレス的な考え方とは、まず物事
を覚えるということ、そして自分で行動するということです。行動することによって、良いことをするわけで
すが、その良いことを何回も続けなさいということです。「続けなければほとんど意味がない」とアリストテ
レスは言っていますが、私がイギリスに行って一番感じたことを、一番言わなければなりません。それは自分
自身です。日本人である自分であり、長澤
彰彦という自分であり、自分というものが
どういう人間かというのが、イギリスに
行って3年間で少しわかりました。34、5歳
で行き、自分というものを持っていたつも
りでしたが、やはり持っていませんでした。
外国の人たちや外国の文化と接して初め
て、自分というのは、日本人の中の長澤で
はなく、世界の中の日本人の自分であると
いうことがわかった気がします。これは
「identity」です。それは皆さんに配った資
料に書いてあると思います。どうぞ皆さん
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Ⅳ 教育の国際化講演会
は留学をして、自分、特に世界の中での日本人としての自分というidentityをつかんでいただきたいと思います。
これは私の切なるお願いです。次に「principle」と書いてありますが、これは非常に訳しにくいです。訳しに
くいのですが、
「前提」です。自分が何者かというのがわかったら、自分はこうするという前提、刀をしっか
り持ちなさいということですが、これはイギリス的な考え方です。アリストテレス的な考え方です。それを持
ちましたら、先程申しましたように、何度も続けてください。彼らは、その続けているということが一番立派
なことであると一番認めます。このアクセントは難しいので、あとで英語の先生に聞いてください。「ri」にス
トレスが入ります。ちなみにアクセントとは言いません。イギリスではストレスと言います。彼らは、アクセ
ントのことは訛りと言います。その最後の「integrity」が一番重要ですが、そこに至るまで、どうぞ皆さんに
はidentityを是非つかんで、帰ってきてほしいと思います。取り留めのない話になりましたが、私が伝えたかっ
たことはそこに書いてありますので、難しい言葉では書いていますが、後程読んでおいてくだされば良いと思
います。ありがとうございました。
山本教授:長澤先生、ありがとうございました。長澤先生にはまた来年の4月からお越しいただきますので、
そのときまでに留学の体験も踏まえて、いろいろと質問を温めておいてください。長澤先生、ありがとうござ
いました。ではこれで講演会を終わりたいと思います。皆さん、ご参加ありがとうございました。
配付資料
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3
参加費
関西大学 平成20年度採択
第
教育 GP プロジェクト
回
2
無料
ICT を活用した教育の国際化プログラム
事前申込
不要
教育の国際化 講演会
本講演会では、留学を目指す皆さんのために2人の講師をお招きし、英語による効果的なプレゼンテーションの
仕方、BBCでの勤務を踏まえたイギリス滞在記を、それぞれ語っていただきます。その道のプロの話を聞き、イ
ンフォーマルな質疑応答も交えながら、皆さんの留学への意識を高めてもらうための企画です。留学に関心のあ
る方は、奮ってご参加ください。
①『英語による効果的な
プレゼンテーション
について』
②『イギリス:
私をジャーナリストに
してくれた国』
講師:
長澤 彰彦
講師:
島村 東世子
〈大阪国際大学教授、
元朝日放送アナウンサー〉
〈
(有)イーグローブ社長〉
〈プロフィール〉
有限会社イー・グローブ代表取締役。関西大学大学院外
国語教育学研究科博士課程前期課程修了(外国語教育学
修士)。企業での実務英語経験を生かし、現在、多数の
企業や研究所にて、ビジネス英語や、研究者向けの英語
研修を行っている。
「成功する英語プレゼンテーション」
等、明るくわかりやすい口調で語られ「すぐに役立つ英
語研修」として毎回好評。
〈プロフィール〉
1970年慶応義塾大学卒業。朝日放送に入社。アナウンサー
を経て85年から4年間イギリスBBCに出向。その後、
「ナ
イス9!長澤彰彦です」などラジオ番組のパーソナリティを
務めた。現在は、ジャーナリストを目指す後進の指導に専念。
外国語学部の専門科目「言語コミュニケーション論(マスメ
ディア)
」担当予定。大阪国際大学教授。
2010
火
以文館 4 階 セミナースペース
講 演 ①13:00∼13:45 ②13:50∼14:35
至北千里
1.12
山本 英一
(本取組担当者)
大学前通り
関西大学 GP支援課 〒564-8680 大阪府吹田市山手町3丁目3番35号
TEL.06-6368-1121(代) FAX.06-6368-1353
Mail:[email protected]
60
関大前駅
至梅田
〈お問い合わせ〉
新関西大学会館
北棟
正門
外国語学部教授
阪急千里線
司 会
第1学舎一号館
以文館
以文館 4 階
セミナースペース
質 疑 応 答・
ディスカッション 14:40∼15:00
簡文館
尚文館
関西大学
千里山キャンパス
総合図書館
新関西大学会館南棟
北口
第 3 学舎
第 2 学舎
南口
※車・バイクでのご来場はできませんので、公共交通機関
(阪急電車)をご利用ください。
Ⅳ 教育の国際化講演会
3
第3回 教育の国際化講演会
日時:2010年3月9日(火)・10日(水)13:00〜14:30
講師:宮崎 敬子 氏
本取組では、関西大学の協定校を中心に、現地フィールドワークの打合せのため、アメリカの大学を訪問す
る機会が得られた。現地でのプログラムを展開する際に、ESLの部署そのものではないが、日本語・日本文化
の授業を通して、日本からの受入学生とアメリカ人学生が交流を深めるという企画が、どの大学にも存在して
いることがわかった。興味深かったことは、日本語・日本文化の授業を担当されている先生方が、日本のポッ
プカルチャーに関心を寄せるアメリカ人大学生が少なからずいると、異口同音に語られたことである。その先
生方に共通する課題は、学生たちが興味を持つトピックをキャッチし、それを授業に活かすために、日本国内
にいる以上に、最近流行の映画や音楽に対する感度を高めておかなければならないことである。学生たちは、
ある種「おたく」だからである。
翻って、本学から送出す学生にとって、日本のポップカルチャーは身近な話題であり、彼ら自身「おたく」
かもしれない。しかし、仮にそのような話題に詳しいとしても、それを英語で発信できる能力があるかどうか
は保証の限りではない。というよりも、日本国内にいる限り、そういった話題を英語で語る機会の方が稀なの
であって、意識的な努力をしない限り、円滑な情報発信や意見交換は望むべくもない。
一方、たとえば本学で受入れる可能性の高いアジアからの学生の間でも、日本のポップカルチャーの人気は
高いようである。台湾では、日本の大衆文化愛好家を「哈日(ハーリー)族」と呼ぶそうである。いわば「お
たく」である。そういう若者も含めて、
「漫画やゲームで歌舞伎を知った」という人たちも少なくないという(日
経新聞夕刊 平成22年3月15日)
。日本文化発信において、もはやポップカルチャーは軽視できない存在と言え
るだろう。
そのような背景を踏まえて、今回は本学・協定校の1つであるサウスカロライナ大学で日本語・日本文化を
教えておられる宮崎敬子先生をお招きし、スタディ・アブロードや交換派遣留学に出かける学生たちをオー
ディエンスの中心に据え、日本のポップカルチャー教育の現状について、2日にわたってお話いただいた。初
日のタイトルは「アメリカにおける日本文化の浸透度―ポップカルチャーを中心に―」、2日目は「アメリカで
教える日本語・日本文化」であった。以下、講演の概略である。
アメリカにおける日本文化の浸透度
─ポップカルチャーを中心に─ (3月9日)
ポイントは以下の3つに集約される。
1)アメリカでのアニメ人気
2)日本のファッション
3)J-ポップの魅力
サウスカロライナ大学では、100人を越える学生が日本語・日本文化の授業を受講している。そのうちの半
数はアニメに関心がある。日本文化に関する話題は、
アニメ、テレビゲーム、ハイテク、J-ポップ、映画、ファッ
ションなど多岐にわたるが、もっとも注目されるのが
アニメに対する関心の高さである。ことの始まりは、
1960年代のGeneration X(新人類)と呼ばれる世代に
あるようで、彼らがいわゆる「おたく」のはしりであ
る。アニメブームも遡っていくと、60年代のAstro Boy
(鉄腕アトム)や Speed Racer(マッハゴーゴーゴー)、
Kimba the White Lion(ジャングル大帝)を皮切りに、
61
70年代のStar Blazers(宇宙戦艦ヤマト)、80年代のAkira(アキラ)
、
Kiki’s Delivery Service(魔女の宅急便)、Spirited Away(千と千
尋の神隠し)、Howl’s Moving Castle(ハウルの動く城)など宮崎
駿の世界へとつながっていく。その他、Ninja Scroll(獣兵衛忍風帖)
や Ghost in the Shell(攻殻機動隊)も人気の的となっているよう
である。人気のアニメは、DVDがすぐに手に入る上、テレビでは
即座に字幕入りの放送が流れるようで、日本のアニメ・ファンと
の間でタイムラグが生じていない点も注目すべきであろう。
日本のファッションについては、たとえば制服姿が、アメリカ
の学生の目には「カッコイイ!」と映るところがおもしろい。「原宿ブランド」はアメリカのデパートでも手
に入り、人目を引くメイドファッションやロリータファッションは、一部若者たちの憧れでもある。また、
「お
たく」という切り口からファッションを観察した場合、チェックのシャツを着た暗い孤独な男性のイメージが
強い日本の「おたく」に対して、アメリカの“Otaku”は、むしろ奇抜な装いでグループ行動する明るい女の
子のイメージに変わる点も興味深いところである。
音楽については、Visual Kei(ビジュアル系)と呼ばれる、過激で派手な化粧や髪型を特徴とするロック・
バンドの人気が高い。1990年代のX Japanがこのジャンルの起源らしい。
本講演の結びとして、アメリカ人大学生に対する日本文化に関するアンケート結果が示された。詳細は、パ
ワーポイントのスライドを参照されたい。
配付資料
62
Ⅳ 教育の国際化講演会
63
64
Ⅳ 教育の国際化講演会
65
66
Ⅳ 教育の国際化講演会
アメリカで教える日本語と日本文化 (3月10日)
講演のポイントは以下の3点。
1)Japanese Culture and Society through Animeとはどのような授業か?
2)いま、どうしてアメリカの大学でアニメの授業なのか?
3)
「文化」を教えること
まず、宮崎先生がサウスカロライナ大学で担当され
て い る 授 業“Japanese Culture and Society through
Anime”のシラバスが紹介された。学生との契約書でも
あるシラバスには、学期中に扱われるテーマと評価基準
等が詳細に掲載されており、学生たちはその情報・指示
にしたがって学習活動を進めることになっている。
では、
「なぜ、今アメリカの大学でアニメなのか」と
いう問いである。一言で言うならば、アニメが「最高の
外交手段」だからである。つまり、
アニメは日本の社会・
文化・歴史の今と昔を雄弁に伝えてくれるメディアなの
である。そして、アニメ人気は、単に作品の美しさにあるのではなく、むしろストーリーの多様性と内容の複
雑さにある。つまり、
日本のアニメには深みがあるのだ。たとえば、主人公に見られる多様性は、マッチョなヒー
ローを期待するアメリカ人のイメージとは異なる。内面的成長を描き、心理描写の多いアニメには強いメッセー
ジ性が感じられる。学校や塾が舞台となっているアニメからは、日本における教育の重要性が視聴者に伝わり、
先輩・後輩が軸になる社会構造や、社会における家庭の位置づけまでも理解することができる。神話や宗教を
テーマにしたアニメからは、象徴主義を重んじる日本の伝統文化が伝わってくる、などなどである。
日本語を教えることは、結局は日本文化を教えることである。つまり、「言語は文化であり、文化は言語」
なのである。日本文化とアメリカ文化を比較したとき、前者は「言わない文化」であり、後者は「言う文化」
であることに辿り着く。たとえば、サンドイッチを注文して、こちらが何も言わなければ、店員が矢継ぎ早に
パンの種類や具について質問してくるのは「言う文化」の象徴である。生徒たちが、幼いときからShow and
tell を通じて話すことを求められ、Debate のクラスで相手を論破することが期待されることも、「言う文化」
の延長線上にあると言って良いだろう。以下は、当日のスライドである。
配付資料
67
68
Ⅳ 教育の国際化講演会
69
70
Ⅳ 教育の国際化講演会
71
2
1
Other Materials:
JAPA 398A: Japanese Culture and Society through “ANIME”
・Patrick Drazen (2004) Anime Explosion! : The What? Why? Wow! of Japanese Animation.
・Christopher Bolton (2007) Istvan Csicsery-Ronay Jr. and Takayuki Takumi (eds.), Robot,
Ghosts and Wired Dreams: Japanese Science Fiction from Origins to Anime.
・Frederik L. Schodt (1996) Dreamland Japan: Writings on Modern Manga. Berkeley: Stone
Bridge Press.
・Fred Patten (2004) Watching Anime, Reading Manga. Berkeley: Stone Bridge Press.
・Selected additional readings. Available on line (as from Animeresearch.com) or from the
instructor via Blackboard or e-mail.
Spring 2010
M・
・W・
・F 2:30-3:20 p.m.
WMBB 133
Instructor: Keiko Miyazaki
Office: HuO 924
Phone: 777-9622
E-mail: [email protected]
Office Hours:
M・
・W・
・F 10:15-11:00 a.m.
Course Requirements & Grading:
(1) 2 Papers
(2) Joint Presentation
(3) Class Participation
(4) 15 Quizzes
(4) Midterm
(5) Final Exam
Course Description:
This course will offer an introduction to the rich and varied world of Japanese animation, or
“anime,” which is one of the important products in Japan since the end of the WWII. The
Japanese have been combining words and pictures to create a variety of literary forms since the
beginning of their written history, and creating complex graphic novels called “manga” and
unique animation films called “anime.” Although anime is a medium that covers wide range of
various fields, as art, as social commentary, as commercial products, as an important part of
global popular culture, this course will focus on its cultural aspects and approach anime through
its most important themes: identity, metamorphosis, gender, apocalypse, aesthetics, heroism,
justice, etc. We are examining anime through Japanese culture and society, and Japanese culture
and society through anime.
Total
30%
10%
5%
15%
15%
25%
100%
(1) a. The first paper (3-5 pages): Article Review.
Students will write an article review over the course of the first six weeks. Each
student should take one chapter, which have been discussed in class, of their
choice and write a 2-3 page summary of the main ideas. In addition, they must
discuss those ideas, 1-2 pages.
Learning Outcomes:
b. Paper topics of the second paper (5-7 pages): You must bring in your own ideas, analyze
the topic, and back up your assertions.
(1) The role of technology/machine:
Compare the role of technology/machine in American science fiction
movies with its role in Japanese anime, using at least one specific text from
each country.
(2) Identity:
Compare the search for identity in Ghost in the Shell and in Evangelion.
(3) Apocalyptic theme:
Compare the way how to treat the end of the world in at least one specific
anime with the way in an American apocalyptic movie.
(4) Your own topic (You have to consult me first.)
・Students will deepen their knowledge, or learning, of Japanese animation, with a focus on its
relation to Japanese culture.
・Students will cultivate a better understanding of Japanese culture and society.
・Students will be able to broaden their intellectual horizon, which leads them to get ready to be
actively involved in the front lines of the community with a global point of view.
・Students will find a good opportunity to reflect on their own culture and society.
Required Textbooks:
・ Susan J. Napier (2001/2005) Anime from Akira to Howl’s Moving Castle. NY: Palgrave
Macmillan.
・ Antonia Levi (1996) Samurai from Outer Space: Understanding Japanese Animation.
Chicago: Open Court.
・ Course Packet. Available at the SMART TEXT mobile store in the parking lot of the
KINKO’s.
(2) Joint presentation: each pair will choose one anime from the list below and make an oral
report on (1) the story, (2) the author/creator, and (3) your opinion about the anime. Each
presentation should be made on the day the anime is shown.
3
<The “anime” films that will be shown in class>
1. Astro Boy
2. Gigantor
4. Mazinger Z
5. Mobile Suit Gundam
7. Ghost in the Shell 8. Akira
10. Urusei Yatsura 11. Howl’s Moving Castle
<The TV drama that will be shown in class>
13. Train Man
3. Farewell Yamato
6. Neo Genesis Evangelion
9. Grave of the Fireflies
12. Princess Mononoke
(3) Class participation: Readings as assigned (should be done before the day the material will be
discussed), and general active participation (showing how much you are understanding) are
essential to fully benefit from the course.
(4) Midterm: Friday, March 5th (in class)
(5) Final: Wednesday, May 5th (2:00 p.m.~)
Tentative Class Schedule
(Subject to change according to time limitations and student interests)
N=Napier, Susan
B=Bolton, Christopher, et al.
Week
Date
W1D1
1/11 M
W1D2
1/13 W
W1D3
1/15 F
W2D4
1/18 M
W2D5
1/20 W
72
L=Levi, Antonia
S= Schodt, Frederik L.
Topic
D=Drazen, Patrick
P=Patten, Fred
Reading/assignment/Quiz
Film showing
General Introduction
Introduction to Japanese Anime: Why
Anime?
The History of Anime: An Outline.
N: Chap. 1
Quiz (1)
N: Chap. 2
NO CLASS
The History of Anime: An Outline.
W2D6
1/22 F
W3D7
1/25 M
W3D8
1/27 W
Cultural Background: Scrolls, Ukiyoe and Manga.
Spiritual Background: Heroes in
Mythologies, Legends and Folktales.
W3D9
1/29 F
W4D10
2/1 M
W4D11
2/3 W
Robot Anime (1)
Tezuka Osamu
Yokoyama Mitsuteru-1960’s
D: Chap.1-Packet
Quiz (2)
Joint Presentation Selection Due.
L: Chap. 2
Quiz (3)
L: Chap.3
Quiz (4)
D: Chap.8-Packet
L: Chap. 4
Quiz (5)
N: Chap. 5
B: Introduction-Packet Quiz (6)
S: Chap. 5-Packet
P: pp.206-209, 313-322-Packet
(A part of)
Naruto the Movie
Ninja Scroll
Tenchimuyo
Presentation (1)
Astro Boy
Presentation (2)
Gigantor
4
WeekDay
W4D12
2/5 F
W5D13
2/8 M
W5D14
2/10 W
W5D15
2/12 F
W6D16
2/15 M
W6D17
2/17 W
W6D18
2/19 F
W7D19
2/22 M
W7D20
2/24 W
W7D21
2/26 F
W8D22
3/1 M
W8D23
3/3 W
W8D24
3/5 F
W9D25
3/8 M
W9D26
3/10 W
W9D27
3/12 F
W10D28
3/15 M
W10D29
3/17 W
W10D30
3/19 F
W11D31
3/22 M
W11D32
3/24 W
W11D33
3/26 F
W12D34
3/29 M
W12D35
3/31 W
Topic
Reading/assignment/Quiz
Film showing
L: Chap.5
Quiz (7)
Nagai Go-1970’s
P: pp.193-196-Packet
Presentation (3)
Mazinger Z
Presentation (4)
Farewell Yamato
Anime in Space: Matsumoto Reiji1970’s
Farewell Yamato
Farewell Yamato
Presentation (5)
Gundam
Robot anime (2): Tomino Yoshiyuki1980’
First Paper Due
Gundam
Gundam
An’no Hideaki-1990’s
D: Part 2-Chap.8-Packet
B: Part II-Chap.6-Packet Quiz (8)
Presentation (6)
Evangelion
Evangelion
MIDTERM
Spring Break
Mecha and Cyberpunk
D: Part 2-Chap.12-Packet
N: Chap. 6
Quiz (9)
Presentation (7)
Ghost in the Shell
Ghost in the Shell
Apocalypse
N: Chap.13
L: Chap. 6
Schodt: pp.228-232
Quiz (10)
Presentation (8)
Akira
Akira
Facing harsh reality: War
N: Chap. 11
D: Chap.15-Packet
Quiz (11)
Presentation (9)
Grave of the Fireflies
Ⅳ 教育の国際化講演会
5
Week
Date
W12D36
4/2 F
W13D37
4/5 M
W13D38
4/7 W
W13D39
4/9 F
W14D40
4/12 M
W14D41
4/14 W
W14D42
4/16 F
W15D43
4/19 M
W15D44
4/21 W
W15D45
4/23 F
W16D46
4/26 M
W16D47
4/28 W
Topic
“Otaku”
Reading/assignment/Quiz
L: Chap. 1 & Appendix A
B: Chap. 11-Packet
Quiz(12)
S: pp.43-49-Packet
Film showing
Grave of the Fireflies
Presentation (10)
Train Man
Train Man
The culture of Cuteness
N: Chap 8, L: Chap. 7
D: Chap. 9-Packet
Quiz (13)
Magical girls and Fantasy World
D: Part 2-Chap. 5-Packet
N: Chap. 7
Quiz (14)
Train Man
Presentation (11)
Urusei Yatsura
Presentation (12)
Howl’s Moving Castle
Miyazaki Hayao
Howl’s Moving Castle
2nd Paper Due
Howl’s Moving Castle
N: Chap. 10
Quiz (15)
Presentation (13)
Princess Mononoke
Princess Mononoke
参加費
関西大学 平成20年度採択
教育 GP プロジェクト
無料
ICT を活用した教育の国際化プログラム
第
回
3
事前申込
不要
教育の国際化 講演会
本講演会では、
アメリカの大学で関心の高まりつつある
「日本のポップカルチャー」
をテーマに、
アメリカの大学
(サ
ウスカロライナ大学)で実際に教えておられる先生をお招きして、お話いただきます。海外で異文化に接する前に、
自らの文化をよく知り、相手の視点も考えながら情報を発信する姿勢を養うことも必要です。留学をめざしてい
る皆さんは奮ってご参加ください。
講演内容
3/ 9(火)
『アメリカにおける日本文化の浸透度
−ポップカルチャーを中心に−』
3/10(水)
『アメリカで教える日本語と日本文化』
講師:
宮崎 敬子
〈サウスカロライナ大学専任講師〉
〈プロフィール〉
昭和女子大学大学院終了後、専任講師として母校の昭和女子大学に勤め、その他、青
山学院大学、立教大学、国学院大学等で英語英文学を教える。その後、カリフォルニア
州立大学に留学し、言語学の学位を取得。同大およびグレンデールコミュニティーカ
レッジ等で日本語を教えた後、帰国。東海大学、共立女子大学、国士舘大学等で言語学
と英語、明治学院大学で日本語を教える。2002年、カリフォルニアに戻り、大阪産業
大学ロサンゼルス校の日本語プログラムディレクターに就任。日本、アメリカ双方から
の学生のための留学プログラムや文化交流プログラムを企画運営し、また、同校およ
びグレンデールコミュニティーカレッジ等で日本語を教える。2007年より、サウスカロライナ大学の言語・
文学・文化学部日本語学科にて、専任講師として日本語および日本文化を教える。現在、
「アニメを題材にし
て日本文化を考える」というコース(Japanese Culture and Society through ANIME)を担当中。
2010
火
水
岩崎記念館 4 階 多目的ホール 1
至北千里
3.9 .10
山本 英一(本取組担当者)
関西大学 GP支援課 〒564-8680 大阪府吹田市山手町3丁目3番35号
TEL.06-6368-1121(代) FAX.06-6368-1353
Mail:[email protected]
関大前駅
至梅田
〈お問い合わせ〉
大学前通り
新関西大学会館
北棟
正門
外国語学部教授
阪急千里線
司 会
会場
岩崎記念館
以文館
講 演 両日とも13:00∼14:30
質 疑 応 答・
ディスカッション 14:40∼15:00
第1学舎一号館
簡文館
尚文館
関西大学
千里山キャンパス
総合図書館
新関西大学会館南棟
北口
第 3 学舎
第 2 学舎
南口
※車・バイクでのご来場はできませんので、公共交通機関
(阪急電車)をご利用ください。
73
Ⅴ コンテンツ作成状況
1
a
74
日本の文化
先端科学技術
Ⅴ コンテンツ作成状況
b
日本の伝統文化
─ 落 語 ─
古典落語は、衣食住を含む、江戸時代の庶民文化を知る上で重要な手がかりを私たちに与えてくれる。「日
本の『知』アーカイブ」の充実の一環として、今回は落語「青菜」をテーマに教育ビデオを制作した。まずは、
日本語版で視覚情報の助けも得ながら、学生たちの理解を促すことにした。このビデオをもとに、英語版・中
国語版の教材を作成し、e-Learningで学習してもらうことが、次のステップである。なお、ビデオ制作にあたっ
ては、文学部・大島薫教授と同大学院ゼミ生の全面的協力を得たことを付言するものである。
寸劇台本(一部抜粋)
75
寸劇の撮影風景
落語・解説の撮影風景
76
Ⅴ コンテンツ作成状況
「剣道」
、
「年中行事」も教材化を目指している(以下の資料を参照のこと)。
剣道(一部抜粋)
年中行事(一部抜粋)
77
C
日本の現代文化
昨今、
話題になった「裁判員制度」をテーマにして、教材化を進めている(英文は以下の資料を参照のこと)
。
78
Ⅴ コンテンツ作成状況
d
学生文化
日本文化と所縁の深い課外活動について、学生が提供してくれた文章・写真をもとに、英訳し、これを教材
としてアップロードする作業を続けている。テーマとして抽出したのは、以下の通りである。
<体育会系>
◦日本拳法 ◦なぎなた ◦弓道 ◦剣道 ◦古武道 ◦合気道 ◦柔道 ◦相撲 ◦空手道
<文化会系>
◦囲碁 ◦吟詩 ◦書道 ◦将棋 ◦速記 ◦茶道 ◦能楽 ◦邦楽 ◦落語大学
<単独パート>
◦応援団
以下、SCORM化してアップロードする日本語ページの例である。
79
80
Ⅴ コンテンツ作成状況
e
関西大学の歴史
81
Ⅴ コンテンツ作成状況
2
異文化ABC
─ アメリカ生活について ─
第Ⅱ章で報告した通り、日本人留学生が直面する可能性が高い事例を、本学外国語学部の菊地敦子教授にお
願いして、ハワイ大学で取材をしてもらった。多くの事例の中から、4つの場面を抽出し、外国語学部の学生
や教員、また交換派遣留学生の協力も得ながら、寸劇DVDを制作した。
以下は、寸劇収録のために準備された台本と、撮影当日の現場写真である。なお、制作したDVDはスタディ・
アブロードに出かける前の学生に視聴させる機会を設けた。
台本(案)(一部抜粋)
82
Ⅴ コンテンツ作成状況
撮影風景
83
Ⅵ 取組支援のための情報システム
本取組を支援する情報システムを初年度に引き続き開発し、順次取組での利用に供してき
ている。この章ではまず、この取組実施に必要な情報システムを、平成20年度に開発が完了
したシステム、本年度(平成21年度)に開発したシステム、次年度(平成22年度)に予定し
ているシステムに区分して示す。ついで、本年度に開発したシステムについて説明する。開
発したシステムにSCROMコンテンツを掲載するのに必要となるSCORM化作業についても簡
単に説明する。最後に本年度実施したシステム設計について報告する。この設計に基づき来
年度前半にプログラムを実装し利用開始を予定している。
1
本取組で開発する情報システムと年度計画
本取組を推進するにあたり開発する必要がある情報システムと、取組年度ごとの開発につ
いて説明する。取組の3つのフェイズでの教育学習活動に関与する情報(コンテンツ)を取り
扱うには、以下に示す情報システムが必要となる。
フェイズ 1 :
「e-Learningによる学習」
(対面授業の補完および自学自習)
教材コンテンツ用ファイル管理システム
日本の「知」アーカイブ管理システム
e-Learningプラットフォーム(対面授業支援用、自学自習用)
フェイズ 2 :「学習コミュニケーション」
(リアル・バーチャル両方の学習コミュニティでの活動)
コミュニケーション支援システム
(e-LearningプラットフォームのBBS電子掲示板、学習コミュニティ掲示板)
フェイズ 3 :
「現地フィールドワーク」
遠隔指導システム(テレビ会議システム)
年度毎の開発対象システムは次のとおりである。
平成20年度
平成20年度には、上記情報システムのうち下線をつけた次のシステムや機能、
・教材コンテンツ用ファイル管理システム(基本部分)
・CEASの対面授業支援用機能(授業でのSCORM学習コンテンツ利用支援機能)
・CEASの授業支援用BBS機能
・学習コミュニティ掲示板機能
の開発を行った。これらのうち、1番目の教材コンテンツ用ファイル管理システムは、本取組
で作成する教材コンテンツを管理するためのPC上で使用するシステムである。2番目と3番目
はCEASをSakai CLEと連携させたシステム(CEAS/Sakai連携システムと呼ぶ)により実現
した。CEASは平成16年度関西大学現代GP取組「進化するe-Learningの展開」の支援も受け、
84
Ⅵ 取組支援のための情報システム
関西大学で開発した授業支援型e-LearningシステムCEASバージョン3.0であり、Sakai CLEは
北米の大学が中心になっているSakaiプロジェクトが提供しているオープンソースソフトウェ
アである。4番目の学習コミュニティ掲示板機能は、「教育GP-Webサイト」のなかのコミュ
ニケーション支援機能として実現した。
平成21年度
平成21年度の取組では、
本取組のフェイズ1の活動を支援する情報システムの中核である「日
本の『知』アーカイブシステム」の開発を推進した。
「日本の『知』アーカイブシステム」は、「アーカイブ管理システム」とシステムを利用す
るための「ユーザインターフェイス」から構成する。利用者はe-Leaningプラットフォームか
ら、または、独自に開発するユーザインターフェイスから「日本の『知』のアーカイブ」に
蓄積される教材を利用することになる。
開発は2段階に分けて行う。第1段階では、e-LeaningプラットフォームCEASの機能拡張(対
面授業支援用機能補強、
自学自習用)とバックエンドとなるアーカイブ管理システムを開発し、
第2段階では、学習支援機能と公開/検索機能のための独自ユーザインターフェイスを含むサ
ブシステムを開発する。
本年度は、第1段階の開発を完了し、第2段階の開発については開発の上流工程であるシス
テムの分析と外部設計を行った。
さらに、取組のフェイズ2で利用している昨年度開発した「教育GP-Webサイト」のなか
の学習コミュニティ掲示板について、学生からの要望に基づき機能追加を行った。
取組の第3フェイズで用いる「遠隔指導システム(テレビ会議システム)」は、ITセンター
に導入されたテレビ会議システムを本取組で利用可能な環境に整備調整した。
平成22年度
平成22年度は、年度前半に「日本の『知』アーカイブシステム」開発の第2段階である開発
下流工程(内部設計とプログラミング)とテスト工程を実施し、試行利用を開始し、年度後
半にシステムの本格利用を行う予定である。
なお開発したシステムは取組に順次利用しているので、システムの運用保守も本取組の事
業として継続して支援している。
以下では本年度の成果について、まず「日本の『知』アーカイブシステム」の第1段階の開
発の成果を報告する。続いて、通常の教材コンテンツをSCORM2004形式の教材に変換する
手順の概略を次に記載する。これは、大阪大学平成17年度取組の成果物である専門英語教材
がバージョンの低いSCORM形式であり、日本の「知」アーカイブに登録する際に変換が必
要であったので、その手順を今後の参考のために記載しておく。さらに、「教育GP-Webサ
イト」のなかの学習コミュニティ掲示板の機能強化について報告する。
最後に、
「日本の『知』アーカイブシステム」開発の第2段階として、報告書執筆時点で
仕様をまとめている「MyStudy」と「Showcase」と称するサブシステムについて報告す
る。MyStudyは、学生が学習を計画し学習し記録を残す学習の場としての機能を提供し、
Showcaseは、教科履修者以外が「日本の『知』アーカイブ」を利用できるための検索・参照
機能を提供するサブシステムである。
85
2
「日本の
『知』
アーカイブシステム」開発(第1段階)
開発の第1段階では、e-LeaningプラットフォームCEASの機能拡張(対面授業支援用機能
補強、自学自習用)とバックエンドとなるアーカイブ管理システムの開発を行う。以下では、
最初に「日本の『知』アーカイブシステム」の全体像について説明したのち、第1段階の開発
を報告する。
2-1
はじめに
本取組ではe-Learningを軸とした留学前・留学中・留学後の支援を行っている。
留学前教育の学習支援のために、日本文化を紹介する教材データベース「日本の『知』アー
カイブ」を構築し、
学生を正課授業、個人の学習の両面で支援する。「日本の『知』アーカイブ」
には、
質の高いSCORM学習コンテンツを蓄積し、
「日本の『知』アーカイブシステム」を構築し、
学生が自学自習のために利用でき、学習履歴を科目評価に反映できるようにする。
留学前・留学中・留学後の支援として電子掲示板を用いたコミュニティの中での発言や
コミュニケーションを通して相互理解による知識の向上を目的とし汎用CMS(Contents
Management System)によるWebサイトも構築している。
「日本の『知』アーカイブシステム」は、次のような機能を実現することを目的とする。
①カリキュラムにある正課課目の担任者は、科目履修者に対し学習コースウェアの自主学
習を推奨できる(推奨学習コースウェアと呼ぶ)。履修学生が推奨コースウェアを学習し
た場合、担任者は、学生が推奨コースウェアを学習した学習記録を把握でき当該科目の
成績評価に利用することができる。
②教員は、
「日本の『知』アーカイブ」に登録されている学習コースウェアの構成要素であ
る学習単位(授業1回分程度の粒度のもの)を担任科目で利用することができる。
③教員・学生は、
「日本の『知』アーカイブ」に登録されている学習コースウェアや学習単
位を利用目的に応じて検索することができる。
④学生は、各人の学習計画を立て登録されている学習コンテンツを学習し学習記録を登録
することができる。
⑤学生は、学習記録を各種の応募に利用することができる。
日本の「知」アーカイブシステムの開発は、2つのフェイズに分けて行う。第1段階では、
①と②を開発し、第2段階では、③から⑤を開発する。
本報告では、第1段階の開発に関し、外部仕様と実際の授業での利用計画について述べる。
図1 日本の「知」アーカイブシステム概要
86
Ⅵ 取組支援のための情報システム
2-2
システム概要
目的とするシステムは、授 業 支 援 型e-LearningシステムCEAS(Web-Based Coordinated
Education Activation System)とSakai CLE(Sakai Collaboration and Learning Environment、
以下、Sakaiと称する)のツールを組み合わせて実現する。すでに開発しているCEAS/Sakai 連
携システムをベースに機能拡張を行い、必要に応じサブシステムを開発する。
CEAS/Sakai 連携システムは、CEASバージョン3系にSakaiの学習支援機能を利用するこ
とを目的として結合した連携システムである。
CEASには、CEASバージョン2系(開発言語:PHP)と3系(開発言語:JAVA)があり2
系ではプログラムの保守性・機能拡張性の考慮が不十分、国際化対応が困難などの問題があっ
た。これらの問題を解決するためCEAS3系の開発を行った。CEAS3系では、JAVAフレーム
ワークを利用することで保守性・拡張性が向上し、国際化対応も可能となった。
実現するシステムの概要を図1に示す。図1の左側部分は、正課科目の担任者と学生が日本
の「知」アーカイブのSCORM学習コースウェアをどのようにCEAS/Sakai連携システムで
利用するかを示し、中央部分は、日本の「知」アーカイブを管理する学習教材ライブラリ管
理者と学習教材ライブラリの関係を示している。図1の右側は、学生や一般学習者を対象と
した学習コースウェアの閲覧(ショーケース)や個人の学習の計画・実施・実績を支援する
機能(MyStudyと呼ぶ)とCEAS/Sakai連携システムの関係を示す。図1下部の学習記録は、
CEAS/Sakai連携システムを介してSCORM学習コンテンツを学習した結果を学習記録として
保存・参照されることを示す。
本システムの開発は、第1段階と第2段階に分けて開発を行う。
第1段階では、図1の左側の正課科目の履修者がSCORM学習コンテンツを推奨学習コース
ウェアとして自学自習できる機能を対象に、CEAS/Sakai連携システムの機能拡張を行う。
平成21年度前半に開発を行い秋学期からの試行運用を開始する。
第2段階は、図1の右側部分の機能を実現するための開発であり、学生や一般学習者を対象
とした「日本の『知』アーカイブ」の利用を可能にする。第2段階の開発上流工程は平成21年
度中に実施し、下流工程やテスト工程を平成22年度前半実施してシステム開発を完了し、春
学期中に試行を開始する予定である。
以下では、第1段階で開発する機能についてのシステム要件やシステム化方針を述べる。
2-3
システム要件
作成するシステムに対する各利用者の要件とシステムの中で利用する用語の定義を行う。
1)利用者ごとの要件
第1段階で実現するCEAS/Sakai連携システムの機能拡張に対する要件は次のとおりとする。
[学 生]
◦公開されている学習コースウェアを選択して、自主学習することができる。
◦選択した学習コースウェアはCEASのTopページに表示される。
◦選択した学習コースウェアで学習記録を残す、残さないは学習の単位ごとに切り換えできる。
◦履修科目の担任者から推奨教材として学習コースウェアを推奨された場合、推奨された
科目であることが分かり、自己学習することができるようになる。
◦選択した学習コースウェアの自分の学習記録を閲覧することができる。また、CSVファ
イルで学習記録をダウンロードすることができる。
87
[科目担任者]
◦担任科目において、推奨教材として、学習コースウェアを推奨することができる。
◦担任科目の履修者に推奨した学習コースウェアの学習記録を、その科目の履修者に限り、
参照できる。また、CSVファイルでダウンロードすることができる。
◦学習教材ライブラリに登録されているSCORM学習単位(1回分の学習単位)をSCORM
学習コンテンツ登録時に利用できる。
[学習コースウェア担任者]
◦担任科目において、学習教材ライブラリに登録されている学習コースウェアを登録する
ことができる。
◦担任科目において、学習教材ライブラリに登録されているSCORM学習単位(1回分の学
習単位)をSCORM学習コンテンツ登録時に利用できる。
◦担任科目の学習コースウェアの学習記録を見ることができる。
◦担任科目に対し、アンケート/テストなどの教材を作成し授業回に割付けることができる。
[学習教材ライブラリ管理者]
SakaiのResources(Sakai CLEのGeneral Collaboration ToolsのResources、以下Resourcesと
呼ぶ)を用いてフォルダとファイル(SCORM学習単位)に対して以下の事柄を行う。
◦学習教材ライブラリフォルダを作成することができる。
◦作成したフォルダに対して利用者権限を設定することができる。
◦作成したフォルダにSCORM学習単位を設置することができる。
[履修環境管理者]
◦学習教材ライブラリ管理者を設定することができる。
◦科目担任者と学習コースウェア担任者のできることはすべてできる。
2)用語の定義
要件の中で使用されている用語を次のように定義する。
[SCORM学習単位]
:Learning Subject Unit(LSU)
◦SCORM形式の1回分の学習単位を指す。
◦学習履歴の蓄積が可能である。
[学習コースウェア]
:Learning Course Ware(LCW)
◦複数のSCORM学習単位を組み合わせて1つのコースウェアとした学習セット。
◦現設計では、学習コースウェアという種類の科目として実現する(「学習コースウェア科
目」と呼ぶ)
。
◦CEASのログイン権限があれば、誰でも利用可能。
[学習教材ライブラリ]
◦SCORM学習単位を登録・共有するための格納
場所(図2)
。
◦現 設計では、学習教材ライブラリ管理者が
SakaiのResourcesを 用 い る こ と で 実 現 す る。
フォルダを階層的に作成し、SCORM学習単位
(SCORMのzipファイル)をリソースにアップ
ロードして登録することができる。
[推奨学習コースウェア]
◦科目の担任者が推奨した学習コースウェア。
88
図2 学習教材ライブラリ構造
Ⅵ 取組支援のための情報システム
◦科目担任者が公開されている学習コースウェア群から科目の履修学生に対して推奨する
ことができる。
◦科目担任は科目で指定した推奨学習コースウェアの当該科目履修者の学習記録を見るこ
とができる。
[学習コースウェア科目]
◦学習コースウェアを扱う科目。
◦CEAS上の通常科目は、
「公開・非公開」の属性を持つが、学習コースウェア科目の公開
属性とは異なる。
◦学習コースウェア科目は、コースウェア内容を公開する(デフォルトとして公開属性に
なる)
。
◦学習コースウェア科目のSCORM学習単位を学生が学習する場合、学習記録を「記録す
る/記録しない」の設定をすることができる。
◦学習コースウェア科目にも担任者の役割を設定する。
[学習コースウェア科目担任者]
◦学習コースウェア科目に設定できる担任者の権限を有するユーザ。
2-4
システム化方針
CEASでの従来の科目は、図3の「授業明示モデル」と称する概念モデルを使っている。学
習コースウェア科目については、図3において以下のような対応関係を設定する。
◦科目→学習コースウェア科目
◦授業→学習コースウェア
◦教材→SCORM学習単位
◦担任者→学習コースウェア担任者
◦学生→学習コースウェア学習学生
◦授業データ→学習記録
これらのような対応関係を設定すること
でCEASの機能拡張は、
①CEASのデータベースに対して科目
図3 授業明示モデル
情報テーブルに学習コースウェアの
項目を追加、学習コースウェア利用
ユーザテーブルと推奨学習コース
ウェアのテーブルを新規に追加
②学習コースウェアを利用するユーザ
インターフェイスの追加
の2点となる。
学習教材ライブラリに関係する部分は、
図4 Sakai ResourcesとCEAS SCORM教材登録
SakaiのResources機能(ファイル共有機能)
を利用し学習コースウェアを登録・編集・参照することができる。図4のようにResources上
のSCORMファイルをCEASの教材として登録し、科目へのリンクで実現する。
Sakaiの 機 能 拡 張 は、Resourcesか らCEAS上 のSCORM学 習 コ ン テ ン ツ 登 録 へ の 連 携 と
Sakai Contrib Tools のSCORM Player実行時の学習記録の保存や登録などの部分となる。
89
2-5
システムの画面設計
画面設計外部仕様として作成する画面イメージを表示し、具体的な利用方法を述べる。
1)学習コースウェア科目管理画面
システム化方針で述べたように学習コースウェアを科目として扱うが、従来のCEASの科
目管理機能は、そのままでは利用することはできない。
従来の科目管理機能は、当該科目に対して「公開・非公開」属性(デフォルトは、非公開)
を設定することができる。科目履修者のみの閉じた利用を行う場合は、「非公開」属性とし、
履修者以外の一般学習者に対して授業内容を公開する場合は、「公開」属性を設定する。公開
属性を設定した科目は、科目で利用する教材やテスト、レポートなどの表示・閲覧を可能と
するが、テストの受験やレポートの提出はできない仕様となっている。
新たに追加する学習コースウェア
科目は、CEASにログインできるす
べての学生に公開される。学習コー
スウェア科目は、コースウェア内容
を閲覧でき、学生が学習したい場合
は学習コースウェア科目を選択し、
SCORM学習単位で学習記録を「残
す/残さない」を設定できるものと
する。
CEAS従 来 の 科 目 と 学 習 コ ー ス
ウェア科目の属性やデフォルト値が
異なるため、科目管理および科目環
境設定画面とは別に学習コースウェ
ア管理画面および学習コースウェア
環境設定画面を設け、それらの画面
図5 学習コースウェア科目管理画面例
にアクセスするための項目も別に作成する。
但し、学習コースウェア科目の情報を保存するデータベーステーブルは、科目情報テーブ
ルとし、内部処理は科目管理と同一とする。
科目情報の項目で学習コースウェア管理に表示されていない項目はデフォルト値または「設
定しない」を自動設定し登録する。図5に学習コースウェア科目管理画面例を示す。
学習コースウェアは、Sakai側のResourcesとして格納されている学習教材ライブラリから
学習コースウェアを選択し、登録することで当該科目に学習コースウェアが展開され学習コー
スウェア科目として公開される。
2)担任者からの利用画面
担任者が、公開されている学習コースウェア科目を利用する場合、操作手順は次のように
設計する。
①担任者の科目に学習コースウェア科目から推奨学習コースウェアとして登録
担任者の担当科目に学習コースウェアを推奨学習コースウェアとして履修学生に提示し
たいとき、学習コースウェア科目一覧から推奨したい学習コースウェア科目を選択/登録す
る。図6に推奨学習コースウェア選択画面例を示す。推奨学習コースウェアは、当該科目の
ログイン後の担任者Top画面に表示される。図7に担任者Top画面例を示す。
90
Ⅵ 取組支援のための情報システム
②当該科目履修学生の推奨学習コース
ウェア学習記録の閲覧
担任者が当該科目で指定した推奨
学習コースウェアの当該科目履修学
生の学習記録を閲覧し利用する機能
である。この機能実現に必要な画面
は、CEAS/Sakai連携システムの授
業教材として登録したSCORM学習
コンテンツのデータ管理と同じ機能
であり、データを参照する科目と
データを表示する学生を当該科目に
のみ絞って表示するので、既存の
「SCORM学習データ管理」のデータ
抽出・表示対象を変更することで実
現できる。
図7 担任者Top画面例
図6 推奨学習コースウェア選択/登録画面例
図8 学生Top画面表示例
3)学生からの利用画面
学習コースウェアは、図8に示すように学生Top画面の「学習コースウェア」一覧表に表示
される。科目で学習コースウェアを推奨している場合は、学習コースウェア一覧表の推奨科
目欄に科目名が表示される。
学生が学習コースウェアを学習する場合は、学習したいコース名称(科目名称)の「コースへ」
ボタンを選択する。表示される学習コースウェアは、図9に示すようにSCORM学習単位ごと
の授業実施一覧画面が表示される。
学生が、学習したいSCORM学習単位をクリックすると学習記録を残すかどうかの問い合
わせ画面が表示される。問い合わせ画面で「OK」を選択した場合は、学習記録がデータベー
スに格納され、
「キャンセル」を選択した場合は、SCORM学習単位の内容が表示され、テス
トなどを受けることができるが、学習記録はデータベースに保存されない。
学生が学習している学習コースウェアの学習記録は、図10のように学習記録として各
SCORM学習コンテンツタイトルに「SCORM学習要素一覧」と「学習要素学習進捗一覧」を
確認するボタンが表示され、ボタンをクリックすると当該一覧が表示される。学生自身の学
91
習記録は、ファイルに保存できる。保存された学習記録の利用方法は、第2段階で要件/機能
を検討する。
学生の学習記録の閲覧は、学習コースウェア担任者が閲覧でき、推奨科目の設定がある学
習コースウェアは、推奨している科目の担任者が学習の進捗を閲覧できる。
図9 SCORM学習単位毎の授業実施一覧画面例
図10 学生の学習記録表示例
4)学習教材ライブラリ管理者の利用画面
学習コースウェアとしてのSCORM学習単位の登録
は、学習教材ライブラリ管理者がSakaiのResources機
能を利用してSCORMコンテンツである圧縮ファイル
(zipファイル)をアップロードし登録する。
SakaiのResourcesは、 図11に 示 す よ う に「public
courseリソース」フォルダにSCORMコンテンツのファ
イルをアップロードすることでSCORM学習単位が登
録できる。このように登録されたSCORM学習単位は、
担任者が学習教材として担任科目の授業回に登録する
こともできる。
図11 Sakai Resources画面例
2-6
開発システムの利用
関西大学に本年新設された外国語学部に所属する学生(1学年150名)は、すべて2年次にお
いて英語圏もしくは中国語圏の大学に留学すること(スタディ・アブロード・プログラムへ
の参加)が必修となっている。そのため、留学に対する彼らのレディネスを高めることが強
く求められている。
第1段階で開発するシステムについては、平成21年秋学期に開講される「留学のためのコミュ
ニケーション」
(1年次配当科目)を試行的適用の対象に選んだ。
国際部において毎年実施されている短期語学研修プログラムについては、すでにCEASを
利用(CEAS専用の教材作成・テスト機能を利用)して、本年の夏季プログラム(英語圏のみ)
で留学支援を始めている。平成22年2月〜3月に開催される春季プログラムに、第1段階で開発
したシステムの利用を開始している。
92
Ⅵ 取組支援のための情報システム
3
コンテンツのSCORM形式への変換手順
前章では日本の「知」アーカイブシステム開発の第1段階の開発について記述した。開発し
たシステムを利用することにより、日本の「知」アーカイブに蓄積された学習コンテンツを
留学前の学習に活かすことが可能となる。本取組ではこの留学前学習に利用できる日本の古
典から最先端科学技術にわたる学習コンテンツを製作し、アーカイブに蓄積することが主要
な目的の1つとなっている。この章では、学習コンテンツをアーカイブに蓄積する作業の1つ
である、通常の教材コンテンツをSCORM2004形式の教材に変換する手順について記載する。
SCORM化手順
1)概要
大阪大学から提供された平成17年度現代GP取組成果物である先端科学技術分野の専門英語
コンテンツは、バージョンの低いSCORM1.2形式であった。
平成20年度に一部のコンテンツを先行して外部委託しSCORM2004形式に変換していたの
で、平成21年度前半に、そのコンテンツを解析し、変換の手順を確定し、作業マニュアルを
準備した。関西大学ITセンター内で本取組で雇用している学生スタッフによる作業チームを
作り、大阪大学提供のコンテンツに対し組織的に変換作業を行い、合計96個の学習コンテン
ツをSCORM2004形式に変換し、検証を行った後、日本の「知」アーカイブに登録した。
2)解析作業
大阪大学より提供されたコンテンツは基本的に以下のファイルで構成されている。
・HTML
・CSS
・JavaScript
・SWF
・JPG等の画像ファイル
これらのファイルを組み合わせて、1つのframeで構成されたWebページとしてコンテンツ
が表示されている。ページの遷移はHTMLで直接記述されている。
大阪大学のコンテンツは一定の手順で記述されていることがわかったので、SCORM2004
規格に適合するマニフェストファイルのサンプルを作成し、対応するページ遷移の記述を行っ
た。さらに、コンテンツファイルの記述変更サンプルを作成した。
3)マニュアルの作成とスタッフの指導
変換作業を学生スタッフに行わせるにあたり、マニュアルを作成した。マニュアルには作
業方法や作業環境設定などの情報も盛り込んだ。図12には、マニュアルの一部を示す。
作成したマニュアルを参照して作業できるように学生スタッフに対して指導を行い、学生
スタッフに各自で作業を行わせるようにした。
なお、作業がはかどっている学生スタッフには、作業が遅れている学生スタッフを指導す
るようにし、相互協力させるように配慮した。
93
図12 変換作業のマニュアルの一部
4)テスト環境と完成
学生スタッフが作成したSCORMコンテンツは、実運用を行っているCEAS/Sakai連携シス
テムに直接アップロードする前にアーカイブ用サーバ上の検証サーバにて動作の確認を行っ
た。
検証サーバ上で正常動作の確認が取れたコンテンツを日本の「知」アーカイブにアップロー
ドして登録する。
上記の手順を経て、まずは先端科学技術分野の専門英語コンテンツを日本の「知」アー
カイブに登録した。この作業の経験をもとに、今年度本取組で制作された学習コンテンツを
SCORM2004対応のコンテンツとして仕上げ、順次日本の「知」アーカイブに登録する作業
を継続している。
94
Ⅵ 取組支援のための情報システム
4
学習コミュニティ掲示板の機能強化
ここでは、
「教育GP-Webサイト」のなかの学習コミュニティ掲示板の機能強化について
報告する。
国際部において実施している短期語学研修プログラムに参加し、教育GP-Webサイトの学
習コミュニティ掲示板を利用している学生から、画像をメッセージとともに貼りこみたいと
の要望が寄せられている。留学先での経験を伝えるにはテキストだけでなく画像などを掲載
できれば、コミュニケーションがより促進されると判断し、機能拡張を検討した。
技術的検討
掲示板は、テキストのみで記述され、画像の貼り付けができないのが一般的であり、教育
GP-Webサイトで採用しているCMS(Content Management System)の掲示板もテキストの
みの入力、表示が可能なものである。
教 育GPサ イ ト のCMSに は、 記 事 を 書 く と き に 利 用 す るWYSIWYGエ デ ィ タ と し て
FCKeditorが利用可能になっている。FCKeditorは、文字の修飾や大きさ、画像の貼り付けが
可能なWord ライクなアイコンが表示されるが、エディタであり比較的使いやすい。
このFCKeditor を掲示板でも利用できるかどうか調査した結果、次のことが確認できた。
(1)掲示板にFCKeditorを組み込むことは可能。
(2)管理者権限での画像表示は、可能。
(3)投稿者以外のユーザや一般ユーザでの画像表示は、フィルターにより抑制されている。
(4)F
CKeditorを用いて作成した掲示板データは、データベース内で画像URL がそのま
ま保存されている。
(5)FCKeditorでの画像は、1箇所に集約されて保存されている。
この検討を踏まえ、掲示板のシステムに対して次の変更開発を実施した。
(1)掲示板にFCKeditorを組み込む。
(2)一般ユーザでも画像が登録・表示できるように掲示板フィルター制御部分の解除。
(3)FCKeditor 組み込みによる元掲示板の不要部分の削除。
(4)ア
ップロードされる画像がユーザごとに別フォルダに保存・参照できるように改造。
ユーザIDを利用したフォルダ作成とFCKeditorからファイルアップロード参照がで
きるサーバ、ブラウザのディレクトリ変更を行う。
以上の開発により、学習コミュニティ掲示板の機能強化が行えた。図13は、FCKeditorを
利用して画像と絵文字を貼りこんだメッセージを作成している画面の例であり、図14はメッ
セージの投稿を完了した際の画面の例である。
図13 画像を挿入したメッセージ作成画面の
サンプル
図14 画像が含まれたフォーラムのメッセージの
サンプル(投稿完了画面)
95
5
(第2段階:開発上流工程)
「日本の
『知』
アーカイブシステム」
日本の『知』アーカイブシステム開発の第2段階では、教科に制約されない「日本の『知』アー
カイブ」の利用環境をCEASに連携する2つのサブシステム「MyStudy」と「Showcase」の
開発により実現する。MyStudyは、学生が学習を計画し学習し記録を残す活動を支援する「学
習の場」としての機能を提供し、Showcaseは、教科履修者以外が「日本の『知』アーカイブ」
を利用できるための検索・参照機能を提供する。
本年度の取組では、2つのサブシステムに対する要求分析と外部設計を平成22年3月末まで
に完成させる計画で、報告書執筆時点では、成果物の最終仕様が確定していない。そのため
ここでは、
「MyStudy」サブシステムに関する要求仕様と検討中の画面設計例を紹介する。
5-1
「学習の場」としてのMyStudyの要求仕様
MyStudyの開発に際し、システムに関する要求項目は次のとおりとする。
●目 的
留学前の学生に対し、利用できる場所と時間の制約を受けない「学習の場」を提供する。
●使うことのメリット
計画的に学習でき、学習過程に関与するデータや成果を保持でき、後で利用できる。
●システムの特長
留学前の学生の学習活動や学習時間に制約を与える主要な活動を含め学生の活動全体を対象
とし、それらの活動を並行して進行する
「活動フロー(サイクル)
」
として捉え、短期的/長期的
な時間幅の中で、学習活動を計画的に進めることができるよう支援することが可能である。
ここで、
MyStudyの支援対象である「活動フロー」とは、学生が行う活動を構成する活動(要
素)とその連鎖であり、それぞれの活動要素は、それを行うのに「(持続)時間」が必要なも
のとして扱う。学生の活動は、次のような大学のカリキュラムに用意されている正課の科目
に関する活動から、課外活動、試験、イベント、アルバイトなどがある。直接学習活動に関
係ない活動も、学習時間に対する制約として機能するので、それらも含めて全体をMyStudy
で扱う対象とする。
たとえば、正課課目に関しては、授業に着目すると
・予習/復習(週)
・レポート課題(週、不定期)
・小テスト(週サイクル、不定期)
・グループ課題(週サイクル、不定期)
・プロジェクト課題(複数週、学期)
・グループ学習(週、不定期)
・定期試験(学期)
に関する一連の活動フローが想定できる。課外活動では、クラブ(週、不定期)や資格試験
の準備から受験に至る活動フローがあり、アルバイトでは、TAから学外での一般のアルバイ
ト作業もある。そのほか、各種イベント(講演会、行事、その他)への参加も活動フローを
想定できる。
上記の諸活動に関する計画を、各活動の実施に必要な「時間」を単位として見積り、実行可
能な計画の立案を支援し、実施中の活動とその計画との関係を確認し、行うべきことを示唆し、
学習活動を支援する機能が備わっている学習の場を実現できるシステムの構築を求める。
96
Ⅵ 取組支援のための情報システム
具体的には次のような学習計画の支援の機能が求められる。
・学習可能時間計画(生産マネジメントとの比喩では、「能力計画」)
・学習要求時間計画(同上、「負荷計画」)
・学習実施計画(同上、「生産計画」)
・学習活動一覧表(同上、「日程計画」のガントチャート)
が、計画期間としては、日単位から週、月単位まで可変な時間幅で表示編集でき、当日を起
点として使えることが必要である。
計画に必要なデータ入力は、重複入力を避け、自動処理と修正、CEASで設定されるデー
タとの連動が望まれる(データ入力の手間は可能な限り少なくする)。
さらに、作業を行う学習の場には、適切に個人やグループのアクセス権限を設定する必要
がある。グループ作業を支援するには、グループメンバー間でスケジュールを相互に参照で
きることも必要である。また、各種の学習や関係する活動を支援するには、コミュニケーショ
ンツールやCEAS等の機能をシームレスに使えることが必要である。
「学習の場」は、必要な道具を集めた「道具箱」であるだけでなく、活動のフローを支援で
きることが肝要である。
5-2
MyStudyの外部設計
「学習の場」に対する前節の要求仕様と、現在利用可能な情報システム技術および組み合わ
せるツールやモジュールを想定しながら、画面設計を含む外部設計を本報告書原稿執筆時点
で作成中である。ここでは、その中から、MyStudyの学生のTopページに画面設計案を紹介
する。図15は、CEASを利用している学生が、学習の場であるMyStudyのTopページにシー
ムレスに移行できる設計にしていることを示している。なお、この画面デザインはSakaiをベー
スにしているが、すべてSakaiのツールを使用するのではなく、ポータルとして利用するもの
である。
今年度に完了させる開発の上流工程に引き続き、平成22年度前半の早い時期にMyStudyお
よびShowcaseの開発を完了し、平成22年度後半には学生の利用に供する予定である。
図15 MyStudyの学生Topページのイメージ
97
Ⅶ フォーラム運営状況
現状報告
取組初年度に教育GPのホームページを立ち上げ、大学ごとのフォーラムを設けた。平成22
年度は、夏季・春季語学研修が行われる英語圏の大学について新たにフォーラムを作り、研
修参加学生に登録してもらい、CEAS上での学習とあわせて、留学前教育を試みた。新たに
設けられた大学別フォーラムは以下の通り。
《夏季語学研修》
◦マンチェスター大学
◦トロント大学
◦カルガリー大学
◦ポートランド大学
《春季語学研修》
◦アデレード大学
◦オークランド大学
次は、今回がフォーラム設置2年になる「サウスカロライナ大学フォーラム」の書き込みで
ある。研修に参加した学生が、クラス内外での体験について詳細に語ってくれていて、書込
み者本人がプログラムを今後振り返る際にも、また次年度の参加者にとっても有意義な情報
となっている。
平成22年春季語学研修(サウスカロライナ大学)の書込み
また、交換派遣留学を目指す学生のためにも、新たにフォーラム(「ブリッジウォーター大
学」
)を立ち上げ、過去の留学生に情報の連載を依頼し、次年度以降の留学予定者への参考に
供した。次の図は、
「Spring Break」
(春休み)と「Hay Fever」
(花粉症)について語ったペー
ジである。
98
Ⅶ フォーラム運営状況
ブリッジウォーター大学の書込み(Spring Break)
ブリッジウォーター大学の書込み(Pollen Allergy, or Hey Fever)
さらに、平成22年3月より、いよいよ1年間のスタディ・アブロードに出かける外国語学部
学生用に、
「スタディ・アブロード・フォーラム」も開設した。あわせて、昨年度より懸案で
あった写真のアップロード機能を付加した(HPの機能補強)。写真が提供してくれる視覚的
情報により、これまでの文字情報がより強化されることになり、フォーラム参加者は、より
活き活きとした描写を提供することが可能になった。次の図は、スタディ・アブロードでユ
タ大学(アメリカ)に到着した学生から送られてきたものである。
99
スタディ・アブロード ユタ到着の写真
課 題
ホームページを活用したフォーラムを始めて1年半になるが、次の2点については、今後の
効果的運営のために、早急に対策を講じる必要がある。
◦フォーラムのクロスオーバー
◦書込みの促進
前者は、大学ごとにフォーラムを切り分けたものの、留学に関わる情報は、もちろん個々
の大学に特有のものもあるが、かなり共通する部分も多いことによる。フォーラムをクロス
オーバーさせることで、留学を志望する学生、留学中の学生、留学後の学生の輪をさらに広
げることが可能だと思われる。また、そこには交換派遣留学で、関西大学に来る学生・来た
学生も積極的に参加してもらうことで、情報の質向上を図ることも期待できよう。
そのようなフォーラムのクロスオーバーと参加学生の増加だけでは解決できないのが、後
者、すなわち書込みの促進である。現在も、交換派遣留学を経験した(ロンドン大学・ブリッ
ジウォーター大学)学生に書込みを依頼しているが、ファシリテーターとしての役割をより
明確にした上で、
学生の意見も取り入れながら、
(情報交換の輪だけでなく)ピアサポート(peer
support)の輪も広げていくことが必要なようである。
100
Ⅷ 留学にかかるニーズ分析
留学を強く希望する学生が、どのようなモチベーションを持っているか、またどのような
不安を抱いているかなどについて、その詳細を知ることは、ICTを活用した留学支援を主眼
とする本取組には必要不可欠なことと言える。本年度は、関西大学に創設された外国語学部1
期生の一部を対象に、ニーズ分析のためのアンケート調査を行った。学生はすべて、2年次に
スタディ・アブロードが必修科目として与えられており、彼らに対して意識調査をすること
は、取組の方向性を探るために意義のあるものと思われる。アンケートは同学部・奥田隆一
教授の協力を得て、平成21年12月に「英語学概論」の授業の中で行われた。回答数は74であっ
た。ちなみに、外国語学部の在籍者数は149なので、ほぼ半数の学生に相当する。
本報告では、次年度以降の取組に関係深いと思われる、次の5つの点について集計結果を紹
介する。
◦スタディ・アブロードで期待していることは何か?
◦留学中に心配なことは何か?
◦英語で話す際に得意と考えるトピックは何か? 3つあげよ。
◦英語で話す際に不得意と考えるトピックは何か? 3つあげよ。
◦将来目指しているキャリアは何か?
1.スタディ・アブロードで期待していることは何か?
学生たちは、スタディ・アブロードで1年間、アメリカ、イギリス、フィリピン、あるい
は中国にあるいずれかの大学(現在、協定校は5校)で勉強することになる。彼らが留学で
一番期待しているものは何かを尋ねた。外国語学部の学生ということもあって、彼らの関心
は「語学力の向上」
(20%)に集中した。しかし、複数回答を可とした設問に対して、その他
の答えにはかなりバリエーションがあった。すわなち、「異文化について考える」
(16%)、「友
人などの人的ネットワークの構築」
(15%)、「現地の文化を考える」
(14%)、「職業に活かせる
スキルを獲得する」
(13%)など、異なるモチベーションが拮抗する形になっている。1年の海
外生活をもとに、将来的にも現地との交流を続けたいという学生の声はこれまでも耳にして
いたが、
「友人などの人的ネットワークの構築」という項目としてあがっている点が興味深い
ところである。一方、本取組が主眼としている「日本文化の発信」については、わずか5%に
とどまっており、大上段に構えて日本文化云々という意識にまでは高まっていないようで、
e-Learningを利用した教材の提供にも一工夫する必要がありそうである。
語学力の向上
異文化について考える
アイデンティティの確立
6%
5%
15%
14%
1%
20%
職業に活かせるスキ
ルの獲得
16%
13%
10%
友人など人的ネット
ワークの構築
日本文化の発信
スタディスキルの修得
現地の文化を学ぶ
その他
101
2.留学中に心配なことは何か?
昨今の経済不況の中、1年間のスタディ・アブロードにかかる経費は、高いところでは(生
活費も含んで)250万円に上る。学生にとって、「経済面全般」(13%)についての不安は当然
の声と言ってよかろう。しかし、それ以上に学生が懸念しているのは、自らが海外の大学に行っ
て、まともに授業が受けられるか(「授業の難易度」
(18%))、あるいは発言するだけの言語運
用能力があるか
(
「コミュニケーション力」
(16%))の2点である。実際に学生の行動を見ていて、
要求されるTOEFLのスコアをクリアすべく、懸命に勉強している姿は、他の学部の新入生と
はまったく異なる光景であり、留学を前にしてコミュニケーション力を身につけておきたい
という切実な思いが伝わってくる。それ以外の回答として、「現地の生活への適応」
(15%)や
「現地での人間関係」
(14%)があがっており、一部ホームステイ期間を含むプログラムもある
ため、生活習慣の違いや家族との接し方に不安を抱いていることも見て取れる。さらに、「現
地の治安」
(12%)を指摘する学生もおり、送り出す教員サイドとしては、留学先のコミュニティ
情報をさらにきめ細かく知らせる努力も今後必要なようである。
11%
12%
1%
13%
16%
15%
14%
18%
現地の治安
経済面全般
現地での人間関係
授業の難易度
生活への適応
コミュニケーション力
健康問題
その他
3.英語で話す際に得意と考えるトピックは何か?
本取組では、学生が留学を契機として日本文化に対する知識を高め、自らのアイデンティ
ティを考える礎にしてもらうことを目論んでいる。したがって、英語で話す際の得意なトピッ
クとして「日本の伝統文化」や「日本のポップカルチャー」を始めとする、文化一般に関す
る項目を学生たちが選択してくれることが理想である。実際には、以下のグラフが示す通り、
「家族や友人のこと」
(32%)
、「趣味」
(28%)のように、まずは身近な事柄が半数を占めるのが
現状である。ただ、
身近にある話題として「日本のポップカルチャー」
(12%)があげられており、
「日本の『知』アーカイブ」を構築する際に、日本文化への入口として、日本のポップカルチャー
にまつわるトピックを扱うことで、学生たちの関心を引きつけることはきわめて有効かも知
れない。そういう意味で
に語ってもらったアメリ
カ人学生が関心を持って
いる日本のポップカル
102
関
族
や
に役立ちそうである。
家
J-ポップのテーマは大い
友
人
の
チャーに現れるアニメや
西
講演会で、宮崎敬子先生
こ
と
大 趣
日
日 本 学 味
本 の の
の 伝 こ
ポ
ッ 統 と
プ 文
カ 化
日 ルチ
本 ャ
の ー
日
日 本 政治
本 の
の 経
科 済
日 学技
本 術
日 の
日 本 歴史
本 の
の 宗
教 教
育
制
日 度
本
語
そ
の
他
35
30
25
20
15
10
5
0
は、 第3回 教 育 の 国 際 化
Ⅷ 留学にかかるニーズ分析
4.英語で話す際に不得意と考えるトピックは何か?
こ れ は3の 設 問 の 裏
返しであり、学生たち
が特に不得意とするト
ピックを浮彫りにしよ
う と い う も の で あ る。
学生にとって身近でな
こ ろ、
「日本の経済」
関
るわけだが、実際のと
家
族
や
友
経済・宗教が予想され
人
の
い話題として、政治・
こ
と
西
日 大 趣味
日 本 学
本 の の
の 伝 こ
ポ
ッ 統文 と
プ
カ 化
日 ルチ
本 ャ
の ー
日 政
日 本 治
本 の
の 経
科 済
日 学技
本 術
の
日 歴
日 本 史
本 の
の 宗
教 教
育
制
日 度
本
語
そ
の
他
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
(19%)
、
「日本の政治」
(15%)、「日本の宗教」
(14%)がトップに位置しており、これに「日本
の歴史」
(14%)が並ぶ。
「日本の科学技術」
(18%)を選ぶ学生が多かったのは、文系学部に特
有な「数理アレルギー」の表れかもしれない。そういう意味では、文系の学生として、日本
の歴史についてはある程度の知識も身につけているはずで、話題の引出しは、いくつも用意
されているのではないか。この点について、英語で発信することが苦手であるという意識に
ついては、もう少し追跡調査が必要かもしれない。
昨年8月に現地フィールドワークの調査のため、本学・外国語学部のスタディ・アブロード
先を訪問する機会があったが、ちょうどユタ大学・カンザス大学を訪れたときが、日本の衆
議院選挙の直後であった。仕事に入る前のsmall talk(世間話)で話題になったのは、「日本
の政治に(政権交代という)歴史的な変革が起こった」ことであった。教員間は大人の会話
とは言うものの、学生も自国の政治情勢を聞かれて「何のことですか?」では済まされない
だろう。大学で学ぶ者としての教養が疑われる。また、自国の政治に関心のない学生が、他
国の政治に関心を持つことは、まずあり得ない話である。学生にとって縁遠いテーマを、い
かに身近なものとして感じさせるかということも、本取組の課題と言えるのだろう。
5.将来目指しているキャリアは何か?
参考までに、学生が将来目指している職業を尋ねた。教職必修科目の「英語学概論」でア
ンケートを実施したという事情もあって、やや「教員」志望(25%)の比率が高くなってい
るかもしれないが、外国語学部に所属する学生の意識の傾向を忠実に表しているのではない
かと思われる。とりわけ注目すべきは、
「航空・観光産業」
(33%)を希望する学生が多い点だ。
高い語学力を活かして、フライト・アテンダントやツアー・コンダクターを目指す女子学生
が多いようだ。その他(12%)として、NPOやNGOでの活動を考えている学生や、
「企業勤務」
(12%)でも海外勤
志望職種
0% 12%
12%
務を夢見ている学
7%
25%
33%
11%
企業勤務
公務員
教員
通訳・翻訳業
航空・観光産業
自営
その他
生、そして「通訳・
翻訳業」
(11%)を
志望する学生がい
る点は、外国語学
部ならではの傾向
と言えるだろう。
103
付録 資 料
1
‘日本の「知」アーカイブ’利用のためのCEAS/Sakai 連携システムの機能拡張
─正課課目に関連させる推奨学習コースウェアの導入─
関西大学外国語学部 山本 英一
関西大学環境都市工学部 冬木 正彦
関西大学インフォメーション
テクノロジーセンター 得永 義則
関西大学先端科学技術推進機構 植木 泰博
2008年度文部科学省「質の高い大学教育推進プログラム」
(教育GP)に採択された「ICTを
活用した教育の国際化プログラム」は、多彩なコンテンツから構成される「日本の『知』(デ
ジタル)アーカイブ」を構築し、学生の留学へのレディネスを高め、関西大学における留学
支援の一助とすることを目的としている。このアーカイブには、学生が自学自習の際に残す
学習履歴を保存する機能をもった学習支援システムも付随しており、教員は、SCORM学習
教材の学習履歴を正課科目評価に反映することもできる。本報告では、GPプログラムを実行
するために開発された新しいシステム―CEAS/Sakai連携システム―とともに、2つの重要な
特徴、推奨学習コースウェア登録機能、および学習履歴の利用について詳述する。
キーワード:CEAS、Sakai、e-Learning、コースウェア
1. はじめに
関西大学では、2008 年度文部科学省「質の高い大学教育推進プログラム」(教育GP)に採択
された「ICTを活用した教育の国際化プログラム」として、e-Learning を軸とした留学前・
留学中・留学後の支援を行っている。[1]
従来の国際交流における教育では、外国語力のアップ、異文化を受容することに重点を置
いていた。日常レベルでの語学力アップは、現地でのコミュニケーションの向上に役立つ。
しかし、一歩踏み込んで尋ねられたり、日本人としての意見を求められると立ち往生する。
知っているはずの日本の文化や専門知識が語れない、相手と対等に議論できないことになり
留学成果があがらないために学生にとっても留学先にとっても残念な結果を残すことになる。
自分の意見を主張でき、相手との議論を深めることができるような、自らの頭で考え、自
立的かつ積極的に行動できる人材、考え実践できる人間「考動力のある人材」の育成を目指
している。
ICTというハード面を支えるソフト面が、多彩なコンテンツから構成される「日本の『知』
アーカイブ」である。これは、2つの局面、「日本文化」と「異文化ABC」から構成された学
習のためのデータベースである。
「日本文化」は、学生のニーズ分析にも現れるように、海外に出かけた際に日本人として知っ
ておくべき文化に関する知識で、政治、経済、歴史、文学、芸術、科学技術など多岐にわた
るトピックを想定している。他方、
「異文化ABC」は、それぞれ異なる文化で生活する際に、知っ
ておくべき知識で、滞在先によっていろいろなバリエーションが考えられる。
「日本の『知』アーカイブ」は、単なるデータベースではなく、学生が授業の中であるいは
自学自習の際に信頼できる教材として利用できる点が重要であり、さらに残された学習履歴
が何らかの形で評価にも反映されることを意図している。
信頼できる教材として大阪大学が平成17年度の現代GPの取組「国際的な人材養成に資す
るコンテンツ開発(グローバルコンピテンシーの習得を目的とするe-Learning プログラム)
」
で開発したものは、秀逸なESP 教材である。英語で仕上げられたコンテンツは、日本語を付
して学習者の理解を促すことによって、日本人が得意とする最先端の科学技術について、知っ
ておくべき知識であるため日本語化する作業を行い、英語・日本語の教材として「日本の『知』
アーカイブ」に含め始めている。
「日本の『知』アーカイブ」を利用した学習支援は、質の高いSCORM 学習コンテンツを蓄
104
付録 資 料
積し、学生が自学自習のために利用することで学習履歴を科目評価に反映できることを目的
とした学習支援システムである。留学前・留学中・留学後の支援として電子掲示板を用いた
コミュニティの中での発言やコミュニケーションを通して相互理解による知識の向上を目的
とし汎用CMS(Contents Management System)によるWEBサイトも構築している。[2]
「日本の『知』アーカイブ」を利用するシステムは、次のような機能を実現することを目的
とした。
① カ
リキュラムにある正課課目の担任者は、科目履修者に対し学習コースウェアの自主学
習を推奨できる(推奨学習コースウェアと呼ぶ)。履修学生が推奨コースウェアを学習
した場合、担任者は、学生が推奨コースウェアを学習した学習記録を把握でき当該科目
の成績評価に利用することができる。
② 教
員は、
「日本の『知』アーカイブ」に登録されている学習コースウェアの構成要素で
ある学習単位(授業1回分程度の粒度のもの)を担任科目で利用することができる。
③ 教
員・学生は、
「日本の『知』アーカイブ」に登録されている学習コースウェアや学習
単位を利用目的に応じて検索することができる。
④ 学
生は、各人の学習計画を立て登録されている学習コンテンツを学習し学習記録を登録
することができる。
⑤ 学生は、学習記録を各種の応募に利用することができる。
システムの開発は、2つのフェーズに分けて行う。フェーズ1では、①と②を開発し、フェー
ズ2では、③から⑤を開発する。
本報告では、フェーズ1で行ったCEAS/Sakai連携システムの機能拡張について述べる。
2. システム概要
目的とするシステムは、授業支援型e-LearningシステムCEAS(Web-Based Coordinated
Education Activation System)[3] と Sakai CLE(Sakai Collaboration and Learning
Environment、以下、Sakaiと称する)[4]のツールを組合せて実現する。すでに開発してい
るCEAS/Sakai 連携システム[5]をベースに機能拡張を行った。
実現するシステムの概要を図1に示す。図1の左側部分は、正課科目の担任者と学生が日本
の「知」アーカイブのSCORM 学習コースウェアをどのようにCEAS/Sakai 連携システムで
利用するかを示し、中央部分は、日本の「知」アーカイブを管理する学習教材ライブラリ管
図1 システム概要
105
理者と学習教材ライブラリの関係を示している。図1の右側は、学生や一般学習者を対象と
した学習コースウェアの閲覧(ショーケース)や個人の学習の計画・実施・実績を支援する
機能(MyStudyと呼ぶ)とCEAS/Sakai 連携システムの関係を示す。図1下部の学習記録は、
CEAS/Sakai 連携システムを介してSCORM 学習教材を学習した結果を学習記録として保
存・参照されることを示す。
本システムの開発は、フェーズ1とフェーズ2に分けて開発を行った。
フェーズ1では、図1の左側の正課科目の履修者がSCORM 学習教材を推奨学習コースウェ
アとして自学自習できる機能を対象に、CEAS/Sakai 連携システムの機能拡張を行った。
2009年秋学期からの試行を開始している。
フェーズ2は、図1の右側部分の機能を実現するための開発であり、学生や一般学習者を対
象とした「日本の『知』アーカイブ」の利用を可能にする。フェーズ2 の要件/機能については、
2009年中に決定し、2010 年春学期中に試行を開始する予定である。
以下では、フェーズ1についてのシステム要件やシステム化方針を述べる。
3. システム要件
3.1 節で作成するシステムの各利用者の要件を定義し、3.2 節でシステムの中で利用する用
語の定義を行った。以下では、システムの要件と用語の定義の抜粋部分を述べ、詳細は、電
子版に記載する。
3.1 利用者ごとの要件
フェーズ1で実現するCEAS/Sakai 連携システムの機能拡張に対する要件を以下に示す。
[学生]
• 公開されている学習コースウェアを選択して、自主学習することができる。
[科目担任者]
• 担任科目において、推奨教材として、学習コースウェアを推奨することができる。
[学習コースウェア担任者]
• 担
任科目において、学習教材ライブラリに登録されている学習コースウェアを登録する
ことができる。
[学習教材ライブラリ管理者]
SakaiのResources(Sakai CLEのGeneral Collaboration Tools のResources、以下Resources
と呼ぶ)を用いてフォルダとファイル(SCORM学習単位)に対してSCORM 学習教材登
録ができる。
3.2 用語の定義
要件の中で使用されている用語の定義を以下に行う。
[SCORM学習単位]
:Learning Subject Unit(LSU)
• SCORM形式の1回分の学習単位を指す。
• 学習履歴の蓄積が可能である。
[学習コースウェア]
:Learning Course Ware(LCW)
• 複数のSCORM 学習単位を組合せて1つのコースウェアとした学習セット。
[学習教材ライブラリ]
• SCORM 学習単位を登録・共有するための格納場所。
[推奨学習コースウェア]
• 科目の担任者が推奨した学習コースウェア。
106
付録 資 料
図2 個別科目が個別推奨コースウェアを指定
図3 別科目が同一推奨コースウェアを指定
• 科
目担任は科目で指定した推奨学習コースウェアの当該科目履修者の学習記録を見るこ
とができる(図2、図3:A2 とB2 が同じユーザであってもかまわない)。
[学習コースウェア科目]
• 学習コースウェアを扱う科目。
[学習コースウェア科目担任者]
• 学習コースウェア科目に設定できる担任者の権限を有するユーザ。
4. システム化方針
CEAS での従来の科目は、
「授業明示モデル」と称する概念モデルを使っている。学習コー
スウェア科目については、
「授業明示モデル」において以下のような対応関係を設定する。
• 科目→学習コースウェア科目
• 授業→学習コースウェア
• 教材→SCORM学習単位
• 担任者→学習コースウェア担任者
• 学生→学習コースウェア学習学生
• 授業データ→学習記録
これらのような対応関係の方式をとることでCEASの機能拡張は、
① C
EAS のデータベースに対して科目情報テーブルに学習コースウェアの項目を追加、学
習コースウェア利用ユーザテーブルと推奨学習コースウェアのテーブルを新規に追加。
② 学
習コースウェアを利用するユーザインターフェイスの追加
以上の2点となった。
学習教材ライブラリに関係する部分は、SakaiのResources 機能(ファイル共有機能)を利
用し学習コースウェアを登録・編集・参照することができる。Resources 上のSCORMファイ
ルをCEAS の教材として登録し、科目へのリンクで実現した。
Sakaiの 機 能 拡 張 は、Resourcesか らCEAS上 のSCORM学 習 教 材 登 録 へ の 連 携 とSakai
Contrib Tools のSCORM Player 実行時の学習記録の保存や登録などの部分となった。
5. システムの画面設計
画面設計外部仕様として作成する画面イメージを表示し、1例として担任者の利用方法を述
べ、他のユーザの利用方法は、電子版に記載する。
5.1 担任者からの利用画面
担任者が、公開されている学習コースウェア科目を利用する場合、操作手順は次のように
設計した。
① 担
任者の担当科目に学習コースウェアを推奨学習コースウェアとして履修学生に提示し
107
たいとき、学習コースウェア科目一
覧から推奨したい学習コースウェア
科目を選択/登録する。推奨学習コー
スウェアは、当該科目のログイン後
の担任者Topページに表示される。
図4に担任者Topページの例を示す。
② 当
該科目履修学生の推奨学習コース
ウェア学習記録の閲覧。
担任者が当該科目で指定した推奨
学習コースウェアの当該科目履修学
生の学習記録を閲覧し利用する機能
である。
図4 担任者Topページ例
6. 開発システムの利用計画
フェーズ1で開発するシステムを、2009 年秋学期に開講される「留学のためのコミュニケー
ション」
(1年次配当科目)に適用した。
国際部において毎年実施されている短期語学研修プログラムについては、2010年2月~3月
に開催される春季プログラムに、フェーズ1での開発システムを利用する予定である。
7. おわりに
「ICTを活用した教育の国際化プログラム」として留学支援を行う「日本の『知』アーカイブ」
のSCORM学習教材をCEAS上で自学自習でき、科目担任から推奨された学習コースウェアの
学習記録を科目担任が科目の履修学生評価のために利用する仕組みの機能拡張を報告した。
CEAS3系では、保守性と機能拡張性が高いこと、CEASのモデルにおいて従来の科目と今
回導入した学習コースウェア科目の対応関係をとることができたこと、これらの要因で仕様
の検討から作成までを短期間で行うことができた。
参考文献
[1]
「ICTを活用した教育の国際化プログラム平成20
年度成果報告書」、関西大学 GP 支援課
(2009)
[2]http://www.hqe.kansai-u.ac.jp/
[3]冬
木、辻、植木、荒川、北村、
「Web 型自発学習促進クラス授業支援システムCEAS の開発」
、
教育システム情報学会論文誌、21(4)、343-354(2004)
[4]http://sakaiproject.org/portal
[5]植
木、花田、冬木、
「授業支援型ユーザインターフェイスを実装したCEAS/Sakai 連携シ
ステムの開発」
、情報処理学会研究グループ報告[教育学習支援情報システム研究グルー
プ]第11回 CMS研究発表会、72-79(2009)
108
付録 資 料
2
CEAS/Sakai連携システムの利用環境と教育実践事例
Environment for CEAS/Sakai Joint System and Education Practices
関西大学環境都市工学部 冬木 正彦
あ ら ま し: 関西大学ではCEASとSakai CLEを連携させたCEAS/Sakai連携システムを2010
年4月から全学レベルで本格運用を開始する。本発表では、CEAS/Sakai連携シ
ステムの特徴と開発経緯をまず説明する。続いてSakai CLEのResourcesをベー
スにした「日本の『知』アーカイブ」の開発と、そこに蓄積されたSCORM教
材を利用した教育実践例を紹介する。
キーワード:オープンソースCMS、CEAS、Sakai
1.はじめに
大学における教育の情報化は、「大学全入時代」における教育の質の保証にとって有効な手
段となりえる。コース/学習管理システム(CMS/LMS)は、教育と学習の支援を目的とする
システムであり、学籍・履修・成績情報を管理する教務システムや学術情報システムなどと
ともに大学における教育学習環境を与えている。
関西大学では、筆者らにより開発されたCMSである授業支援型e-LearningシステムCEAS
(1)が2004年度より全学部/大学院を対象として運用されてきた。教員の利用者が増え利用
科目が拡大する中で要求される支援機能の広がりに対応するため、Java版のCEASを開発
し(2)試験運用を行いながら、さらにSakai CLE(3)(Sakai Collaboration and Learning
Environment、以下Sakaiと称する)を連携させ、Sakaiのツールをバックエンドで機能させ
るCEAS/Sakai連携システムを開発し、(4)2008年9月より試験運用を開始した。このシステ
ムは2010年4月より本格運用を開始し従来のCEASと並行運用後、9月から単独運用する形態
に移行する。
さらにSakaiに含まれるツールを、直接アクセスして利用するシステムの開発も進行してい
る。
「日本の『知』アーカイブ」
(5)はSakaiのResourcesを使うシステムである。
本報告では、まずCEAS/Sakai連携システムに関し、提供する機能、授業支援型と称するユー
ザインターフェイスと連携機能への適用、従来のCEASからCEAS/Sakai連携システムへの運
用の移行について説明する。続いて「日本の『知』アーカイブ」の開発と、そこに蓄積され
ているコンテンツを利用した教育実践例を示す。
2.CMSとしてのCEAS/Sakai連携システム
CEASは、
「授業と学習(予習・復習)のサイクル形成」に必要な支援機能を備えた授業支
援型のCMSであり、
「授業支援型ユーザインターフェイス」
(6)と呼ぶ次の要件を満たすユー
ザインターフェイスを実装している。
◦各活動段階のユーザの活動と、それに必要な機能操作の集まりとが、ユーザインター
フェイスで分かりやすく提供されていること
◦一覧的な情報の提示があること
授業のワークフローを中心とした設計により、担任者と学生の授業や予習・復習に関する
諸活動を毎回の授業実施を単位として扱える特長を有している。
Javaのフレームワークを利用したアーキテクチャに基づいて開発されたJava版のCEAS
は、PHPで記述しフレームワークなどを用いていない従来のCEASと同等のパフォーマンス
を有し、さらに、ブラウザによる表示レイアウトの相違への対応など品質の向上、Adobe
Systems社のPDFに限定しているが、手書きレポートの提出および採点のサポートなど授業
支援の機能を強化している。
Java版のCEASはCMSとして高い授業支援機能を備えているが、一方で、コミュニケーショ
ン機能の大幅な強化や、CEAS の主目的である授業支援とは異なる学習記録を活用したe-ポー
トフォリオの機能など学習支援の具備は、対応が困難な状況であった。
109
これらの機能強化は、CEASとSakaiを連携するCEAS/Sakai 連携システムの開発により対応
した。開発した連携システムでは、SCORM規格のコンテンツ(SCORM教材と呼ぶ)を扱う
機能、フォーラム機能、Wiki機能、ライブラリ機能をSakaiのツールをバックエンドで利用す
ることにより実現した。
開発したCEAS/Sakai連携システムは、2008年9月より実環境において試験運用を開始した。
履修環境データは従来のCEASとまったく同様に設定し、数人の担任者に依頼して実際の授
業でシステムを利用してもらい、実行性能の改善やバグフィックスを行った。2009年9月から
は、日本の「知」アーカイブとの連携も実現できた。
関西大学が独自開発を行い運用中の「インフォメーションシステム」のサブシステムに「授
業支援システム」があり、そのサブシステムはe-Learningに関係する機能も有している。こ
れらの機能を一本化する方針のもと CEAS/Sakai連携システムへのさらなる機能追加が現在
進行中であり3月末に完了予定である。この期間中に2003年度から従来のCEASサーバ群に蓄
積されている約4000科目に関係するすべての授業データ、たとえば学生の提出物やフォーラ
ムでの議論など、をCEAS/Sakai連携システムに移行する作業も実施する。この過去のデー
タの移行を行うことにより担任者や学生は過去の記録や提出物を参照でき、ポートフォリオ
の作成などに利用できる。
3.Sakai CLEのツールを利用するシステム
2008年度文部科学省「質の高い大学教育推進プログラム」(教育GP)に採択された「ICT
を活用した教育の国際化プログラム」の取組の一環として、留学前教育の学習支援のため
に、日本文化を紹介する「日本の『知』アーカイブ」(5)をSakaiに含まれているGeneral
Collaboration ToolsのResourcesを用いて開発中であり、一部はすでに実運用に供している。
「日本の『知』アーカイブ」は、質の高いSCORM学習コンテンツを蓄積し、学生が自学自習
のために利用することで学習履歴を科目評価に反映することを目的とした学習支援システム
である。
「日本の『知』アーカイブ」を利用するシステムは、次のような機能を実現する。
①カリキュラムにある正課課目の担任者は、科目履修者に対し学習コースウェアの自主
学習を推奨できる(推奨学習コースウェアと呼ぶ)。履修学生が推奨コースウェアを学
習した場合、担任者は、学生が推奨コースウェアを学習した学習記録を把握でき当該
科目の成績評価に利用することができる。
②教員は、
「日本の『知』アーカイブ」に登録されている学習コースウェアの構成要素で
ある学習単位(授業1回分程度の粒度のもの)を担任科目で利用することができる。
③教員・学生は、
「日本の『知』アーカイブ」に登録されている学習コースウェアや学習
単位を利用目的に応じて検索することができる。
④学生は、各人の学習計画を立て登録されている学習コンテンツを学習し学習記録を登
録することができる。
⑤学生は、学習記録を各種の応募に利用することができる。
システムの開発は、①と②を開発するフェーズ1と、③から⑤を開発するフェーズ2に分け
て行う。フェーズ1は2009年9月に完了し、開発した部分は、すでに正課科目で利用されている。
一方、フェーズ2に関する設計が現在進行中であり、実装は2010年度の初めに実施する。
4.教育実践例
「日本の『知』アーカイブ」には、現在「学習コースウェア」11本と「学習単位(授業1回
分)
」計124個が蓄積され利用可能となっている。これらのコンテンツは大阪大学現代GP取組
110
付録 資 料
等で開発された専門英語ESP学習教材をSCORM化
したものである。
パソコン教室で実施している『技術英語』の授業
では、ESP学習教材の「学習単位」を授業中の演習
に使うとともに予習復習にも利用できるようにして
いる。授業支援型ユーザインターフェイスの要件に
合わせて開発したCEAS/Sakai連携システムの一覧
表を使うことにより学生の学習状況を一覧で把握す
ることも可能である(図1)
。
図1 学習データ連結一覧評価表
5.おわりに
従来からのCEASおよびCEAS/Sakai連携システムの日常的運用は、事務職員、教員、シス
テム支援業者との協力のもとになされている。eラーニングを推進する組織の発足は現在検討
中である。
CEAS/Sakai連携システムは、今後モバイル環境への対応や個別の機能強化を引き続き進
め、一方でユーザインターフェイスデザインの見直しを組織的に行うことを予定している。
参考文献
(1)冬木、辻、植木、荒川, 北村:Web型自発学習促進クラス授業支援システムCEAS の開発、
教育システム情報学会誌、21(4)、343-354(2004)
(2)矢 野、植木、冬木:授業支援型e-LearningシステムCEASの再構築 -実現機能と今後
の展開-、情報処理学会研究会報告[教育学習支援情報システム研究グループ]第6回
CMS研究会、43-47(2007)
(3)Sakai Project:http://www.sakaiproject.org/
(4)植 木、花田、冬木:授業支援型ユーザインターフェイスを実装したCEAS/Sakai連携シ
ステムの開発、情報処理学会研究報告[教育学習支援情報システム研究グループ]第11
回CMS研究発表会、72-79(2009)
(5)山本、冬木、得永、植木:‘日本の「知」アーカイブ’利用のためのCEAS/Sakai連携シ
ステムの機能拡張─正課科目に関連させる推奨学習コースウェアの導入─、平成21年度
情報教育研究集会講演論文集、417 - 420(2009)
(6)植木、冬木:コース管理システムのための授業支援型ユーザインターフェイス、教育シ
ステム情報学会誌、27(1)、(2010)掲載予定
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文部科学省 平成20年度「質の高い大学教育推進プログラム」
(教育GP)
ICTを活用した教育の国際化プログラム
留学前、
留学後を結ぶ3つの活動を通した総合的留学教育の実践
平成21年度 成果報告書
関西大学 GP支援課
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平成22年3月31日発行
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