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Extreme Events in Human Society

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Extreme Events in Human Society
CRDS-FY2010-XR-13
JST-CRDS/NISTEP共催講演会 講演録
Extreme Events in Human Society
講師:John Casti 教授
IIASA プログラムリーダー 前サンタフェ研究所 主任研究員
2010年7月28日開催
開催概要
演
題:
Extreme Events in Human Society
講
師:
John Casti 教 授
IIASA プ ロ グラ ム リ ー ダー 、 前 サ ンタ フ ェ 研 究所 主 任 研 究員
日
時:
2010 年 7 月 28 日 ( 水 )10 時 00 分~ 12 時 00 分 ( 受 付開 始 9 時 30 分 )
場
所:
科 学技 術 政 策 研究 所 会 議 室( 霞 ヶ 関 ビ ル 30 階
言
語:
英 語( 同 時 通 訳付 き )
3026 会 議室 )
講 師略 歴 :
1970 年 南 カ リ フ ォ ル ニ ア 大 学 学 位 取 得 ( 数 学 )、 RAND、 ア リ ゾ ナ 大 学 、 ニ ュ ー ヨ ー ク
大 学、プ リ ン スト ン 高 等 研究 所 を 経 て、1973 年 国 際 応 用 シス テ ム 分 析研 究 所(IIASA)初
代 研究 員 に 就 任 。1986 年 ウ ィ ー ン 工科 大 学 教 授 。1992 年 ~2002 年 サ ン タ フ ェ研 究 所 主 任
研 究員 。著 書 に『 ケ ン ブ リッ ジ・ク イン テ ッ ト 』
( The Cambridge Quintet;新 潮 社 1998/9)、
『 現実 の 脳 人 工の 心 』( Real Brains, Artificial Minds;共 立 出版 1991/5)、『 パ ラ ダイ ム の
迷 宮- 科 学 の 鏡に 映 る 実 像と 虚 像 』(Paradigms Lost; 白揚 社 1992/6)、『 複 雑性 と パ ラ ド
ッ クス - な ぜ 世界 は 予 測 でき な い の か? 』
( Complexification;白 揚 社 1996/11)、
『20 世 紀
を 動か し た 五 つの 大 定 理 』
( Five Golden Rules;講 談 社 1996/4)、
『 複 雑 系 に よる 科 学 革 命 』
( Would-be Worlds; 講 談 社 1997/5)、『 プ リ ン ス ト ン 高 等 研 究 所 物 語 』( The One True
Platonic Heaven; 青 土 社 2004/12) 他 多 数 。
JST-CRDS/NISTEP 共催講演会講演録 (John Casti 教授)|1
司会 ( 有 本 )
お は よ うご ざ い ま す。 JST 社 会 技 術 研究 開 発 セ ンタ ー の 有 本で す 。 今 朝
は 「Extreme Events in Human Society」 と いう こ と で 、世 界 的 に 有名 な John Casti 先 生
に おい で い た だき ま し た 。一 昨日 来 られ た ん で すか ね 。あ と 2~ 3 日 、日 本に い らっ し ゃ い
ま す。 彼 は University of Southern California の 数 学 を出 ら れ 、RAND Corporation、 そ
れ から プ リ ン スト ン に お られ て 、今 は IIASA に 所 属し 、オ ー スト リ アの 大 学 で 複雑 系 を 教
え てい ら っ し ゃい ま す 。 サン タ フ ェ にも お ら れ たん で す ね 。
非常に複雑で予期しない不確実な社会あるいは未来をある程度フォーサイト
(foresight)、予 測 を し 、そ れに 対 応す る と い うこ と が い ま非 常 に 大 事に な っ て いる と 思 い
ます。特に日本の科学技術政策で申し上げますと、トラディショナルなディシプリン・オ
リ エン テ ィ ッ ド(discipline oriented)か ら 社 会的 な 課 題 を解 決 す る とい う 方 向 へ 、科 学 技
術 のリ ソ ー ス のウ エ ー ト を掛 け て い くと い う 流 れが 今 で き つつ あ る と 思い ま す 。
その際、まずどうやって科学技術で解決すべき課題を見出すのか。あるいはそれを見出
した上で科学技術の体制を組んでいくというところが、私個人的な感じとしてはほとんど
日本では議論されていません。ストレートに申し上げると、安倍政権のときに「イノベー
シ ョ ン 25」と い うこ と で少 し そ う いう こ と を やろ う と し たの で す 。し か しフ ァ ンデ ィ ン グ
のつくり方、研究の体制のつくり方、評価の仕方、人の育成の仕方を考えずにそういう方
法 論を 打 ち 出 した の で 、
「イ ノ ベ ー ショ ン 25」は ほと ん ど空 回 り で 終わ っ て し まい ま し た 。
し かし 今 回 、 第 4 期 科 学技 術 基 本 計画 で は 、 それ を ど う やっ て 確 立 して い く か とい う こ と
が 非常 に 大 事 にな る と 思 いま す 。
その 一 環 と して 、Casti 先 生 が 午 前中 に お 話 しに な る よ うな 未 来 の 予測 、課 題 を見 出 し て
いくというところで、もう少し日本の中でもプロフェッショナルなコミュニティをつくる
など、新しい研究者をどんどん育成していくことが大事だと思います。私の個人的な意見
も あり ま す け れど も 。そ うい う こ と も含 め て Casti 先 生に 1 時 間 ぐ らい お 話 し いた だ い て 、
それからディスカッションしたいと思っております。それでは先生、1 時間ほど講演をし
て いた だ け ま すか 。 そ の あと コ メ ン トな ど を 皆 さん か ら い ただ き た い と思 い ま す 。
Casti
ど うも あ り が とう ご ざ い ます 。ま ず は所 長 に 対 して 、そ し て有 本 セ ン ター 長 、そ
れから私の友人でもあります渡辺先生、今回このような機会を設けてくださいましてあり
がとうございました。今日ここで皆様とともにこういったお話ができますことを大変うれ
し く思 い ま す 。
新た に 生 ま れて き た 科 学的 な 活 動 が IIASA で も 始ま っ たわ け で す が 、こ れ は オー ス ト リ
アのウィーンにあり、私はプログラムの担当のディレクターを務めています。今日これか
らお話しする内容は、まずこのプログラムそのものについてです。そして、特に将来につ
いて考えている方々、例えばプランニングや政策策定といったことに関わっている人たち
と の関 係 に つ いて で す 。これ は 、も し何 か 意 味 する と す れ ば、明 日 の 社会 、あ る いは 来 年 、
こ の 先 10 年 、この 次 の 世紀 を 見 据 えて 今 日 何 がで き る の かと い う こ とを 考 え 、そ うい っ た
社 会に 備 え て いく と い う こと だ と 思 いま す 。
将来 の 世 界 にお い て 、特 に こ の 10 年 、何 十年 か 先 を 考え る と き 、つ まり 明 日や 来 月 の こ
とではなくこの先を考えたときには、予想外と言うよりも我々が驚愕するようなことが起
こり得るということです。つまり我々の生活においてそういった課題に直面することがあ
る わけ で す 。我 々の 今 日 持っ て い る ライ フ ス タ イル が 、そ のま ま 直 接 30 年 先 に も当 て は ま
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ると考えるのは非現実的だと思います。予想外の出来事で影響を受け得ないと考えるほう
が 非現 実 的 で あり 、 予 想 外の こ と を 予想 す る こ とが 必 要 に なっ て く る ので す 。
さて、本題に入る前にタイトルについて説明したいと思います。まず「極端な事象」と
いうのはどういうことなのか。これを次のスライドで説明したいと思います。人間の社会
というものか、ここが大変重要です。一般に、街で誰かに出会って、いま極端なことと言
うと何を思い浮かべますかと聞いたときに、何か浮かんでくるとしたら、何か劇的でしか
も大きな被害を与えるようなことではないかと思われます。例えば阪神淡路大震災のよう
な もの 。 あ れ は普 通 極 端 な事 象 と 言 うと 浮 か ん でく る よ い 例だ と 思 い ます 。
私はこのプロジェクトのタイトル、そしてこの講演のタイトルに「人間の社会における
極端な事象」を意図的に選びました。人間の社会での極端な事象は人為的な行為によって
生まれるものです。例えば地震、ハリケーン、嵐、洪水など、自然によって発生するもの
は考えていないことが多いわけです。これらは、自然が我々に対して極端な事象を投げ込
ん で、 我 々 が なん と か そ れに 対 処 し よう と す る もの で す 。
しかしそれ以外にも多くの極端な事象があって、その中には人為的な原因で発生するも
のがあるのです。例えばいま起こっているよい例として金融危機があります。これは決し
て自然の脅威として生まれたものではありません。人間の判断、人間の恐怖、欲望といっ
たものが合わさって、むしろ多くの人々にとっては大きくマイナスの効果を与えるような
も のを 生 ん だ わけ で す 。
これ以外にも極端な事象として人為的な原因によるものがあります。例えばインフラが
障害を起こす、コミュニケーション、通信網、航空管制網、電力などが破綻するのは人為
的原因によるものです。テロやその他さまざまな政治的な革命もそうです。ですから列挙
すれば、実に多くのものが極端な事象、人類の社会に対して大きな影響を与えていたもの
として挙げられると思います。そして、おそらく地震やハリケーンよりも、人為的な原因
へ の理 解 が 及 んで い な い と思 わ れ ま す。
そこでウィーンにおいては、こういった人為的な原因による極端な事象とその影響につ
い て検 討 し よ うと し て い るわ け で す 。も う 1 つ 強 調 し た いの は 、 こ のあ と ス ラ イド で も 出
てきますが、すべての極端な事象が必ずしも悪いことばかりではないという点です。極端
な事象というのは、何かを恐れなければいけない、破壊をもたらす、予防を試みなければ
い けな い と い うも の で は 必ず し も な いの で す 。
もしかすると場合によっては、何か自分たちの意思で極端な事象を生み出さなければな
らないこともあるかもしれません。それによって社会を従来の軌道から外れさせて、そし
てまったく新しい体制に移していこうというような試みが行われるかもしれません。そう
い った 例 も こ のあ と ご 紹 介し た い と 思い ま す 。
さて 、お 気 付き か と 思 いま す が 、こ のタ イ ト ルに あ る 、私 が所 属 し てい る IIASA の シ ス
テム解析という部分が重要です。我々の研究所においてはシステム的な思考をします。コ
ン セプ ト 、メ ソッ ド 、ツ ール と い っ たも の を 開 発し て シ ス テム を 理 解 しよ う と し てい ま す 。
で すか ら 我 々 のプ ロ ジ ェ クト の 基 本 的な 志 向 性 とい う の は 方法 論 ( methodology) で す 。
この真ん中にある絵は応用システム、分析の応用です。応用というのは、常に我々の方
法論がどのように使われるかということを意識しておかなくてはいけません。どういった
設問を我々は政策決定者や企業の意思決定者に対して投げかけていくのか。どういう設問
に意識を持って、方法論をどう使えば役に立つのか。そして、どのように設問や関心事に
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対して、研究に関わっていない研究所や大学でも解決策を与えられるようにするのか。例
えば政策分析というようなことも我々はやっていますが、システムというときには、いか
に 設問 に 対 し て解 を 与 え るか と い う こと を 考 え なく て は い けな い の で す。
では 極 端 な 事象 と は ど うい う も の なの で し ょ うか 。私 の 話の 残 り は 極端 な 事 象( Extreme
Events) を 略し て 、 Xevents と 呼 びた い と 思 いま す 。 共 通の 理 解 と して 従 来 か らの 知 恵 を
借りると、あまり頻繁には起こらない珍しい事象、そして地震、嵐など、数時間から数日
は続くけれども何十年も継続はしない、比較的短期間に発生するもの、また非常に破壊的
な被害、破壊的な状況を呼ぶものです。ですから二度と起こってほしくない、早く収まっ
て ほし い と 思 うよ う な こ とで す 。
これ は 非 常 に狭 義 の 意 味で 、も う 少し 枠 を 広 げた 広 義 の 意味 で Xevents を 捉 えて み ま す 。
まず「珍しい」というところは上と同じです。頻繁に起こらないということです。毎日起
こっているものを極端とは言わないと思います。あまりしばしば起こらないものです。い
い こと 、悪 い こと 、両 方 あり ま す 。す な わ ち 見 てい る 人 に よっ て は 歓 迎す べ き も ので あ り 、
あ るい は 治 め るべ き も の です 。
この 区 別 を する た め に 私 は 2 つ の 概念 を 導 入 しま し た 。Unfolding Time( UT、展 開 時 間 )
と Impact Time(IT、 影響 時 間 ) と呼 ん で い ます 。 UT と は 、あ る 事象 が 続 い てい く の に
どれぐらいの時間が掛かるのか、展開して終了するまでの時間です。例えばハリケーンや
地震の場合は比較的短い時間で発生し終了します。金融危機のさなかに我々はいますが、
こ れは か な り 長期 に 及 び ます 。 何 年 とい う 期 間 で測 定 す る こと に な る でし ょ う 。
その 他 、人 為的 な Xevents で こ れよ り 長 く 続く 場 合 も あり ま す 。IT は 、そ の事 象 が 世 界
に 対し て 影 響 を及 ぼ し て いる 時 間 で す。例 え ば 事象 が 発 生 して 影 響 を 及ぼ す 時 間 とい う と 、
お 金や 人 命 な ど人 に 対 し て影 響 を 及 ぼし 、 例 え ば制 度 が す べて 入 れ 替 わる ま で に 1 世 紀 を
要 する よ う な 場合 も あ る でし ょ う 。
この リ ス ト に 3 つ 目 を加 え る と する な ら ば 事象 の 強 度 です 。 ど れ ぐら い 重 大 な事 象 で あ
っ たの か 、 地 震は カ テ ゴ リー 7 あ る い は 8 な ど強 度 で 表 した り す る わけ で す が 、こ の 強 度
が重要になってきます。事象の社会領域に及ぼす影響は強度によって変わり異なるため、
強 度は 影 響 の 中に 含 ま れ てい ま す 。
人によっては自然科学領域を背景として、やはり数字で確かめたいという人もいると思
います。数字を見て初めて、どれだけこの事象が極端であるかを知るのです。すなわちま
ったく極端でないというところから、非常に極端であるというところまでスケールで見た
い とい う よ う なこ と も あ ると 思 い ま す。私 は あ まり そ の 尺 度に は 注 意 を払 わ な い ので す が 、
尺 度に 興 味 の ある 人 に は 、こ の UT、IT を 使 っ て少 し 指 標 的 に Xevents が ど れ ぐら い の も
のかということを知っていただくための評価尺度を挙げてあります。です。これがその公
式 です 。 高 校 の数 学 で 出 てく る よ う な、 数 学 と も呼 べ な い よう な 代 数 的な も の で す。
いく つ か の 側面 を 捉 え て Xevents と し て い ます 。こ れ を Xevents の X を 取 って 数 量 化 し
よ うと い う も ので す 。 基 本的 に こ れ は何 を 言 わ んと し て い るの か 。 UT が 短 く IT が 長 い 場
合として、自然によって起こる事象が挙げられます。例えばカトリーナというハリケーン
の 被害 が ア メ リカ で あ り まし た が 、 展開 時 間 は 数時 間 で し た。 し か し 影響 は 5 年 た っ た 今
も まだ 現 存 し てい ま す 。この よ う に UT は 短 く IT は 長 い とい う こ と から 、こ の 公式 に 当 て
は める と X が 1 に 近 似す る と い う数 字 に な りま す 。 X と いう 数 量 です が 、 あ えて 0 から 1
に なる よ う な 公式 に し て いま す 。 1 に近 く な る とよ り Xevents に な りま す 。 0 に近 い と 極
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端 性が 減 少 す るこ と に な りま す 。
このこと自体には例外があって、この数量は最大でも近似でしかないのです。どれだけ
極端であるかということの近似でしかありません。あくまでも参考値です。ですから例え
ば一般的に言う、それほど極端ではない、あるいは極端であるという言葉での表現レベル
に とど ま る と いう こ と で す。 例 え ば rule of thumb と 英 語で 言 い ま すが 、 Xevents と い う
の は大 体 の 目 安で あ り 、 絶対 で は あ りま せ ん 。
皆さんもこのコピーのところで、それ以外の数値がどういうものであるかということを
見 てい た だ け れば と 思 い ます 。カ ト リー ナ 型 の 5 と 言わ れ る、IT が カト リ ー ナ より も 長 い
ハリケーンがマイアミビーチを襲いました。マイアミはニューオーリンズよりも脆弱な場
所 であ る た め に IT が 長 くな っ て 、非常 に 破 壊 的な 状 況 で あり 、X が 基本 的 に 1 と いう 大 変
Xevents で し た。
相対 的 に Xevents を見 て み る と、 見 る 人 によ っ て も 極端 か ど う かは 変 わ っ てき ま す 。 同
じハリケーンで今度はカリブ海です。外洋のほうということで陸上に上陸しなかったもの
で す 。 そ の と き に は 影 響 時 間 は 0。 す な わ ち 人 間 社 会 に は 影 響 は な か っ た 場 合 、 事 象 と も
捉 えら れ な い もの で す 。そ し て X の値 は よ っ て 0 でし た 。ま った く Xevents で は あ り ま せ
ん 。同 じ ハ リ ケー ン で あ った の に 0 と なる わ けで す 。
そこ で 示 さ れて い る の は、Xevents と い う の は絶 対 的 な もの で は な くて 、こ れ は文 脈( コ
ンテクスト)によるということです。カリブ海のハリケーンは、ハリケーンを研究する人
には大きな関心事かもしれませんが、それ以外の人には関心事ではありません。人間社会
に対しての影響がなかった、被害が及ばなかった、死亡者はいなかったため、一般的には
事 象と し て も 認め ら れ な いと い う こ とに な る わ けで す 。
3 つ 目 、4 つ 目 の 例 で す 。これ は より 興 味 深 い内 容 で は ない か と 思 いま す 。ま ず人 為 的 な
事 象が 最 初 に 示さ れ て い ます 。 そ れ はこ の Xevents が マ イナ ス で は なく プ ラ ス の効 果 を 持
つというものです。最初のものはいわゆるドイツの第二次大戦敗戦後、マーシャルプラン
が導入されて経済の奇跡を起こしたというものです。アメリカはドイツの再建のために資
金を投入して再興させるため、アメリカ製品の市場をドイツで形成しようとしました。今
か ら考 え る と おか し な 話 です が 、1940 年 代 後 半に 行 わ れ まし た 。そ こで の イ ベ ント は 発 生
か ら終 了 ま で 5 年 か ら 10 年 UT が 掛か り ま した 。マ ー シャ ル プ ラ ンの 展 開 が 行わ れ て 資 金
提 供が 行 わ れ たの が 5 年 か ら 10 年 です 。
この 資 金 提 供が 、経 済 のシ ス テ ム の中 で 、25 年間 継 続 的に 奇 跡 を もた ら し ま した 。し た
が って こ れ は 0.83 と い う、X が 相 当高 い 数 値 にな り ま す 。そ し て Extreme Events と い う
ことにもなり得るでしょう。しかしながら同時に言えることは、これはポジティブな
Extreme Events で あ っ たと い う こ とで す 。特 にド イ ツ 人 やア メ リ カ 人の 観 点 か ら言 え ば 間
違いなく、これは歓迎すべきポジティブなことであったということで、脅威あるいは破壊
的 とい っ た も ので は な か った わ け で す。
では最後の例です。これは農業の進化です。畜産などの発展も含まれます。これによっ
て 人間 の 生 活 その も の が 変わ っ て き まし た 。こ の農 業 の 進 化に は 何 千 年も 掛 か っ てい ま す 。
そ れで は IT はど う か と 言う と 、こ れま で の と こ ろ 4000 年 ぐ ら い と 計算 し て い いで し ょ う 。
そして今もまだこれは続いています。まだまだその影響が今日でも感じられます。劇的な
変 化で す 。 例 えば 100 人 ぐ らい の 社会 で 暮 ら して い た と ころ が 、 東 京の よ う な 大都 市 圏 に
な って も 、 ま だ農 業 で 暮 らし て い く とい う こ と にな る わ け です 。
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かつては東京のような都市はありませんでした。それはそもそも食料などを自給できな
かったためで、現在は十分な食料や家畜を自給自足できるから東京が存在し得るのです。
こ の X は だ いた い 0.33、3 分 の 1 で あり 、決 し て 大 き くは な い の です が 、IT よ り UT が 高
いということになります。人間に農業という手法ができ、そして家畜類を飼育することが
で きる よ う に なり 、 だ ん だん と IT が 大き く な って い っ た わけ で す 。
さら に ま た 4000 年 経 つと 、 人 間が 4000 年 存続 し て い ると し た ら 、こ れ は 8000 年 ぐ ら
い にな る た め 、X の値 は もっ と 高 く なり ま す 。と い う こ と は 、X は IT よ り も より 極 端 な 方
向 へ大 き く な って い く こ とに な る で しょ う 。
今日、生活している私たちから見ると、この農業の発展というのはポジティブであって
決してネガティブではないでしょう。決して破壊的なものではありません。ではなぜ、こ
の よう な Xevents を 建 設的 な も の では な く 、 常に 破 壊 的 なも の と 考 えて し ま う ので し ょ う
か 。そ れ は UT が こ こに 入 っ て いな い か ら です 。 こ れ が短 い 場 合 、一 般 に こ の事 象 は 破 壊
的 なも の が 多 いわ け で す 。
物理 学 者 で あれ ば す ぐ に分 か る と 思い ま す が 、こ れ は ダ イナ ミ ク ス の 2 次 法 です 。 破 壊
す るほ う が 時 間が 短 く て 済む か ら で す。 例 え ば 高層 ビ ル を つく る の に は 5 年 ぐ らい 建 築 時
間が掛かりますが、破壊するのは数秒で済みます。既存のビルを破壊して新しいビルをつ
く ると き に は 爆発 物 を 仕 掛け て ほ ん の数 秒 で 壊 すこ と が で きま す 。 建 設に は 5 年 掛 か っ て
も 破壊 は ほ ん の数 秒 で 済 む。UT が 短い と い う のは 破 壊 と いう こ と に 関連 し て く るか ら で す 。
事象 が 展 開 する 時 間 が 長け れ ば 、 例え ば 100 年 と は い かな く て も 数年 掛 か る もの で あ れ
ば、一般にポジティブな事象であると考えられます。しかし瞬時に、数秒あるいは数日間
で展開してしまうような事象はだいたい破壊に関連している場合が多いと言えます。それ
はつまり我々が恐れるべきもの、または避けるべきものということになります。以上
Extreme Events に つ い ては こ れ ぐ らい で よ ろ しい で し ょ う。
続い て 学 術 的な 原 則 か らい き ま す と、Extreme Events プ ロ ジ ェ ク トは い く か の問 題 の 組
み 合わ せ 、つ まり 行 動 心 理学 的 な 問 題な ど の 社 会的 な 問 題、物 理 的 な 問題 、数 学 的な 問 題 、
そして力学的な問題、統計学的な問題といったものを組み合わせたプロジェクトになるだ
ろ うと 考 え ま した 。例 え ばこ の 統 計 の中 で も Xevents と い う 特 定 の学 派 に な るわ け で す が 、
それが組み合わせられると思いました。この三角を見ていただきますと、先ほども申し上
げ まし た が 、 この 中 に 政 策と い う も のが 入 っ て きま す 。 IIASA と い うの は 国 際 応用 シ ス テ
ム分析という研究所ですから政策が入ってこなければなりません。したがってピラミッド
に しま し た 。
私たちが研究の対象として最も考えなければならないものは、実はこのピラミッドの中
に あり ま す 。つ ま り こ の 4 つ のド メ イン の 中 で 出て く る UI の 内 容 がこ の プ ロ ジェ ク ト の 対
象になります。この話はまたあとで詳述しますが、このダイヤグラムは、私たちのプロジ
ェクトは行動心理学であり、数学演算であり、統計学であり、政策分析であるということ
です。実際我々が直面する問題に対して我々は答えを出すべきであって、学術的に学者が
考 えた 問 題 を 解こ う と す るも の で は ない と い う こと で す 。
では 、 ど う いっ た テ ー マが こ の Extreme Events で は考 え ら れ るで し ょ う か。 ま ず 予 測
の ため 早 期 警 戒シ ス テ ム など を つ く ろう と す る とき 、 例 え ば何 ら か の Xevents が、 ま た は
予測できないような問題が起こり得るかもしれないという警戒情報をどうやって出すこと
が でき る か と いう こ と 。 それ か ら ま た予 測 。 こ れは anticipation と はち ょ っ と 違う と 思 い
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ま す。 Forecasting に はど ち ら か とい う と 予 想す る と い うニ ュ ア ン スが 入 っ て きま す 。
それからトレンド分析。これは私見ですが、このトレンドというのはとても重要だと思
い ます 。一 般 に申 し 上 げ て、Xevents と い う の は、ま た は Xevents を 定 義 す る とい う の は 、
あるトレンドがあって、それが反対方向に向かう瞬間、つまり今まさにそのトレンドが変
わ ろう と す る ター ニ ン グ ポイ ン ト を 見つ け る こ とが 一 番 重 要だ と 私 は 考え て い ま す。
例えば未来予測をする場合、私は多くの未来学者と知己を得ていますが、彼らが未来を
予 測す る と き に 、
「明 日 はち ょ う ど 今日 と 同 じ よう な も ん だよ 、少 し よく な る か 、少 し悪 く
なるけれど、それは今のトレンドが上昇傾向か下降傾向かによりますね」というようなこ
と を言 う と し たら 、 そ れ は常 に 正 し いと い う と ころ が 興 味 深い と こ ろ です 。
しかし一方、これはまったく使いものになりません。なぜなら未来学者であっても今の
トレンドがそのまま継続すると予測できるわけではないからです。そうではなく本当の知
識、本当の情報というのは、実はこのターニングポイントなのです。つまり今のトレンド
がいつ終わるのか、大体いつ頃今のトレンドが終わると予測できるかどうかが一番重要な
ところです。今のトレンドから次のトレンドに変換する地点が非常にシャープな点になる
はずで、徐々にカーブを描いていくのではなく、ピークをいったん経て、それからグッと
変 わっ て い く とい う よ う な Xevents が 、 こ こ で起 こ り 得 る可 能 性 が ある わ け で す。
したがって未来学者に対してお金を払う必要はありません。未来を予測して、明日は今
日とちょっと違うだけ、少しいいか、少し悪いだけというのはまったく情報がないわけで
す。つまり情報の価値がまったくないもの、無知な者に対してお金を払うべきではないわ
けです。そうではなくクリティカル・ポイントがどこなのか、今のトレンドが転換する点
はどこなのかということを予測できるものにお金を払わなければならないわけです。この
方 法論 が 私 た ちの プ ロ ジ ェク ト の 中 の 1 つ で 、そ の た め 、い く つ か あと で 説 明 しま す が 、
ど こで タ ー ニ ング ポ イ ン トが 起 き る のか を 見 る ため の ツ ー ルを 開 発 し まし た 。
も う 1 つ 、エ ー ジ ェ ント に 基 づ くシ ミ ュ レ ーシ ョ ン に よっ て 、 私 の言 う と こ ろの 「 欠 け
て いる デ ー タ を生 成 す る 」と いう も ので す 。Xevents を 検 討す る に 当 たっ て 、ま ず Xevents
は稀なため、一般にそれに関するデータが乏しいのです。時系列的に見て、無作為にある
時 点を 選 ん で みま す 。 そ うす る と 確 率的 に そ の 時点 に お いて Xevents が あ る 可 能性 、 あ る
い はト レ ン ド が 1 つ の 転換 点 に 差 し掛 か る 確 率は お そ ら くゼ ロ で す 。と い う こ とは 、 あ る
時点を選ぶといつも、ほとんどそれはいわゆるクリティカル・ポイントではなく、何か通
常 の状 況 が 続 くポ イ ン ト であ る わ け です 。
つま り こ の Xevents に関 し て は デー タ が あ まり な い と いう こ と で あり 、 そ の 結果 、 統 計
学において皆さんがご存じのツールはあまり役に立たないと言えます。統計的な手法を使
おうと思えば必ずいつもデータが、しかも膨大なデータが必要になります。たくさんのデ
ー タが な け れ ば問 題 で す 。そ こ で ど うす る か 。 デー タ が な けれ ば ど う しま す か 。
例えば今まで一度も起こったことのないことをどうやって研究するのでしょうか。1 つ
の研究のやり方は、自分のコンピューターの中で電子的な形で、言ってみれば実世界のコ
ピーをつくるのです。そしてその中で実験を行います。コンピューターの世界の中で、コ
ンピューターゲームのようなものですが、例えばこうしたらどうなるか、こうしたら
Xevents が 起 こ る か と い う 形 で デ ー タ を そ こ か ら 生 成 す る と い う や り 方 が あ り ま す 。 し か
し その デ ー タ はい わ ゆ る 実世 界 か ら 得ら れ た デ ータ と は 違 いま す 。
しかしこのコンピューターの世界は言ってみれば実験室のようなものであって、コント
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ロールされた環境で反復性と再現性のある世界の中で、皆さんが神様の役割としていろい
ろな実験を行って、何らかのおかしなこと、何か極端なことが起こったときの情報を生成
し、収集することができます。こういったエージェントベースのシミュレーションが開発
さ れた こ と も 、私 ど も の これ ま で の 成果 の 1 つ です 。
では方法論的な観点からどんな手法があるのでしょうか。どういったものを使って、予
測や予想に関する問題に対処できるのでしょうか。まずは時系列的な異常性あるいはシナ
リオを策定するといったようなことが書かれていますが、これは特に政策策定、意思決定
を行う上でも重要です。つまりありとあらゆるシナリオを想定し、基本的には起こり得る
将 来の 世 界 と いう の を 考 える の で す 。2010 年 、2050 年 、い つ で も いい の で す が、 そ の と
きの世界を想定し、そういったシナリオをつくるためには何らかの想像力も必要になりま
す。
小説 を 書 い てい る よ う なも の で す 。SF を 書 いて い る と 考え て み て くだ さ い 。ま だ 存 在 し
ないけれど、もしかしたら存在するかもしれない世界を考えて、そこでのストーリーを組
み立てる。言ってみれば、それは新しい世界の一部として出てきうるものです。これもま
たデータがまったくない状況に対処する方法です。今までに起こったことのない事象につ
いて語ろうとするとき、あるいはあまりにもその頻度が稀であるために統計が使えないの
で シナ リ オ を つく る わ け です 。
おそらくここにいらっしゃる皆様は何らかの形でこういったシナリオ作成に関わったこ
とがあると思いますが、よいシナリオとはどういうものでしょうか。例えば将来に関して
の洞察を与えてくれるもので、基本的には今日の状況が将来に向けてそのまま当てはまる
と考えるのではなく、例えば何か驚くべき事象が起こるような世界を考えてみよう、ある
いは予想されていないことが起こったら、それによってどのように変わってくるのかを考
えるのです。ゲーム・チェンジャーと呼んでいるものですが、これによって、今日何をす
べ きか と い う よう な 考 え 方は ま っ た く変 わ っ て しま い ま す 。
つまり今日のトレンドをそのまま外挿していくのではなく、まったく外れたような世界
における状況を考えるとき、またこれをコンピューターコードに変換して、こういった世
界をコンピューターの中で作り上げることもできます。先ほど申し上げましたが、そこで
実験をするわけです。系統立った形で、そして制御された科学的な実験を行って、こうい
ったシナリオを用いていくのです。そういったことを実際フィンランドの組織との私ども
の プロ ジ ェ ク トで や り ま した 。
こういったツールだけではなく、このスライドに載っているもの以外にもいくつかあり
ま す。 最 後 か ら 2 個 目 。例 え ば 金 融の 波 形 ( ウェ ー ブ ・ パタ ー ン ) で社 会 的 な 事象 を 予 測
するというものですが、これは後半で例をいくつかご紹介したいと思っています。私自身
が 取り 組 ん で いる も の で もあ り ま す 。
こ れ は 飛 ば し ま し ょ う 。 す で に お 話 を し た 内 容 で す の で 。「 未 知 の 未 知 」。 ど う や っ て デ
ー タが な い 中 で統 計 的 な 解析 を 行 う のか と い う こと で す 。
さて、それではいくつか皆様に問題提起をしたいと思います。私は、研究をしようと思
ったらまず問題がなければならないと強く信じています。つまり問題があればそれに対し
て答えを見出そうとするわけであり、そして研究プログラム、研究活動の方向性は、どう
やってこの問題に答えるか、答えはどのようなものになってくるのか、そしてもしその答
えが分かったときに、どうやって認識するのか、本当に答えが出てきたというのはどうや
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って分かるのかといったことに向かっています。私どものプロジェクトにおいては誰もが
大 きな 問 題 を 抱え て い ま す。 そ れ を 検討 し よ う とし て い る ので す 。
例 を 3 つ ご紹 介 し ま す。 最 初 の もの で す 。 これ は ア イ ルラ ン ド の 私の 友 人 、 スコ ッ ト ・
リカードから出てきたものでした。複雑適応系システムラボラトリーというダブリン大学
の研究所の人ですが、情報ネットワークに関してこんな問題提起をしました。インターネ
ットのようなものを考えてみてください。まず背景として、我々は同じ情報に対して瞬時
に アク セ ス し ます 。 こ れ がフ ラ ッ ト な世 界 の 不 安定 性 と い うも の で す 。
この事実の結果として何が生まれるか。個々の活動、行為は決して独立したものであり
ません。むしろお互いに依存し合っていて、私が今日何をすべきかということに対して影
響を与えているのはほかの人たちの行為なのです。つまり自分が独立したエージェントと
し て行 為 を し てい る の で はな く 、周 りの 人 た ち の大 き な 影 響を 受 け て いる と い う こと で す 。
ス コッ ト の 問 題提 起 は こ こに あ り ま す。
グループの中におけるどのような結合的なパターン、構造があるために「群れ」の精神
構 造が 生 ま れ るの か と い うこ と で す。つ ま り 基 本的 に グ ル ープ 思 考 と も呼 ば れ る もの で す 。
例えばお互いにバラバラでつながっていなくて、誰からも情報がもらえないのではあれば
群れは生まれません。それは当然なことです。これは極端な状況です。一方で、その対極
として全員がすべての人とつながっていれば必ずや群れが生まれます。誰もが同じグルー
プ に所 属 す る とい う 極 端 な状 況 で す 。
もちろん実世界においてはその両極のどちらでもなくて、その間に位置しています。お
互いに一部の人とつながっていて、直接、間接にいろんな人とつながっています。しかし
つながっていない人たちもたくさんいるという状況です。そうすると、どういった結合的
なパターン、構造があるために群れの行動が生まれるのかということです。もちろんこれ
は Xevents とい う こ と にも 影 響 を 持っ て い ま す。 つ ま り 群れ を つ く る行 動 と い うの は 大 き
く転換して、その結果突如として社会的な行動あるいは社会的な行為が革命的なものとな
り ます 。つ ま りそ れ は 集 団の 中 で 群 れと い う も のが あ る 情 報に 基 づ い て生 ま れ る から で す 。
こ れも と て も いい も の で す。
これは重要インフラストラクチャーの問題に関わっています。インフラには安定性ある
いは脆弱性というのがあって、例えば電力、水、食料、電気通信、運輸、交通といったシ
ステムはすべてインフラであり、我々が依拠し、毎日の生活を工業社会の中で行う基盤と
な るも の で す 。
しか し 例 え ば 1 つ の よい 例 を 考 えて み ま す と、 こ う い う議 論 が で きま す 。 す べて の イ ン
フ ラは 、 金 、 資材 、 情 報 をあ る 1 ヵ 所 か ら 別 の場 所 に 動 かす シ ス テ ムと 捉 え る こと が で き
ま す。例 え ば 交通 シ ス テ ムで は 車 が 動き 、イ ン ター ネ ッ ト の場 合 は 東 京か ら ニ ュ ーヨ ー ク 、
ウィーン、またロンドンからサンパウロ、オークランドへと、ネットワークを介して情報
が動き回ります。必ずしも人が動くわけではないけれども運ぶということに関して共通で
す。
よっ て 、き ちん と し た 理論 を 立 て られ れ ば 、シ ス テ ム の 振る 舞 い が 破壊 さ れ 、断 絶 さ れ 、
その効果が減少するというシステムの脆弱性は、それぞれのインフラを個別に調査しなく
てもいいわけです。電力、通信、情報のそれぞれシステムを別物として調べなくても、あ
る 1 つ の シ ステ ム 、 運 搬シ ス テ ム を見 れ ば い いの で す 。 情報 シ ス テ ムや 通 信 網 に対 し て 運
搬 シス テ ム で 分か っ た も のを 適 用 す れば い い 。 これ が シ ス テム 理 論 と いう も の で す。
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すな わ ち 共 通要 素 は あ る 1 つ の 系統 シ ス テ ムの 中 で 違 うよ う に 見 えて も 実 は 同じ で あ る
と い う こ と で 、 こ れ は 同 型 ( isomorphic) と 数 学 者 が 呼 ぶ も の で す 。 す な わ ち 同 じ シ ス テ
ムの共通項があって、そしてそれが実際に機能するときに違ったように見えるというもの
です。これは個人的に気に入っているもので、さまざまなエビデンスが挙がってきていま
す。すなわち我々が目にする社会的な事象は、いろいろな人の相互作用、例えば選挙の結
果や、映画やファッションの流行、あるいは政局が変わる、政変が起こる、何か勢力や権
力の構造が大きく変わるといったものですが、こういった事象が累積すると、最終的な事
象が起こりそうであるかあまり起こりそうでないというのは、実はこの社会が将来に対し
て どう い う 意 識を 持 っ て いる か と い うこ と に よ って バ イ ア スが 掛 か る と言 う の で す。
例えば将来に対して今日よりも明日のほうがいいと楽観しているような人たちが集まっ
ていると、この中で起こる事象は、将来に対して悲観し否定的な人たちの間で起こる事象
と は大 き く 異 なり ま す 。 これ が ソ ー シャ ル ・ ム ード ( 社 会 的な 気 分 ) とい う も の です 。
これ を 1 つ の 仮 説 と して 捉 え 、 ソー シ ャ ル ・ム ー ド に よっ て 事 象 の特 徴 が 変 わる と 、 そ
のソーシャル・ムードはどのように測定しあるいは特徴付ければいいのか。これを測定し
使うことによって未来予測ができるのか。何か具体的な形でなくても、例えば高いのか、
低いのか、天気予報のような形でその尤度を予報ができるのか。あるいは、ある時間や期
間を経て起こり得る確率や尤度について占うことができるのか、あとで例を示しながら見
て いき た い と 思い ま す 。
いくつかここは飛ばしながら進めていきたいと思います。この図ですが、絵的に描いて
みました。何枚か前のスライドをまとめてみたものです。研究領域とさまざまな活動テー
マです。ここでは話をする必要は無いと思うのですが、エネルギー、通信などといういく
つ かの テ ー マ の応 用 で す 。つ ま り Xevents がい ろ い ろ な形 で 発 生 する 、 起 こ り得 る わ け で
す。もう余白がなくなって書ききれないのですが、下のほうにもたくさんあると思ってい
た だけ れ ば と 思い ま す 。
Xevents は 人 間 の 生 活 、 人 生 の あ ら ゆ る と こ ろ で 起 こ り 得 る と い う こ と で す 。 こ う い っ
た Xevents が起 こ ら な いと こ ろ は 、人 間 の 生 活に お い て はな い の だ と言 い 換 え るこ と も で
きます。ここでもそれほど議論は必要ないと思います。いずれにしてもお手元の資料にあ
り ます の で 。
我々 の 研 究 所 の 2010 年 以 降 の プ ログ ラ ム で す。こ の 活 動は ま だ 揺 籃期 で あ る と申 し 上 げ
ま した 。 組 織 的に も ま だ 1 年 未 満 の部 隊 で す 。よ っ て こ れま で の 活 動の 大 半 は 、私 と 数 人
の同僚が世界中の人たちに、我々が何をやっているかということをお伝えして、そして最
も重要なのはいろんな人にそこから関わっていただきたいという活動でした。皆さんも含
め て、 我 々 の 協力 者 を 求 めた い の で す。IIASA は小 さ な 研究 所 で す 。Xevents そ の も の は
大きなテーマ、トピックになっていますので、我々のような小さな研究所は一部なりの判
断はできても全体の判断はできないと思っています。やはり外部との連携協力がなくては
無理だと思っています。研究所をはじめ世界中のいろいろな機関や組織と一緒に共同作業
をし、対話をし、そして共通の関心事や利益のあるところを探っていきたいと思っていま
す 。そ こ に 我 々の 研 究 所 の存 在 意 義 があ る と 思 って い ま す 。
我々の研究所をいわばこの共同事業を行うための中心的なセンターとして考えています
が、あくまでも調整役です。フィンランドの政府や企業といろいろな活動が進んでいます
が、そのグループに加わっているのはスコットランドやシンガポールの研究者グループで
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す。できれば日本からも連携協力ができるような人たちに加わっていただければと思いま
す。こういった活動を共同でできることが我々にとっては重要ですし、今後願わくば、こ
の全体的なテーマに皆さんがそれぞれの専門分野あるいは関心領域をもってプロジェクト
に 参加 し て い ただ け れ ば と思 い ま す 。
日本はいずれにしても国として我々の研究所を支援していただいていますが、シンガポ
ールはそういう状況ではないので、国として支援していただいている日本からの参加を望
ん でい ま す 。 この よ う な 最終 目 的 を 持っ て 日 本 に参 り ま し た。
さて 、Extreme Events は 方 法 論 をめ ぐ る 活 動で す が 、政 策 が常 に 我々 の 視 野 に入 っ て い
ます。政策は我々の全体的な活動の重要な一部です。政策の分析などを行う場合、具体的
な文脈(コンテクスト)の中で、例えば地政学的な影響、政策を立案する上でのステーク
ホルダー(利害関係者)やプレーヤーへの影響とバランス、経済効果とそれを実現するた
めの政策など、いくつか注目すべき問題があります。これらを最終的には政策の分析にも
つ なげ て い き たい と 思 っ てい ま す 。
いくつかの例を示しておきたいと思います。ピーク・オイルの問題があります。いろい
ろな人たちが最近、石油の総量は地球上で有限であり、さらに重要なことに、我々はすで
に使用可能な量の半分を抽出しどんどん枯渇していると指摘しています。安く掘削できる
部 分の 半 分 を 抽出 し た た め、残 り 半 分を 今 か ら 手に 入 れ る ため に は も っと コ ス ト が掛 か る 、
もっと大変な思いをしなければならない、ということが正しい前提であれば、エネルギー
政策はどうなるのでしょうか。それは全くナンセンスなことで信じなくてもいいんだと言
う人たちもいるわけですが、信じる人たちもいます。もしこれが正しいとしたら、今日エ
ネ ルギ ー 政 策 を策 定 し て いく 上 で 考 えな け れ ば なら な い 問 題が い く つ かあ り ま す 。
先ほど私が提供したいくつかの要素がここに入ってきます。例えばこの特定のピーク・
オ イル と い う テー マ に 対 して 、ま ず スコ ー プ(scope)は 地球 規 模 に なり ま す 。こ れは あ る
特定の地域に限定されるものではなく、世界全体に影響を与えます。つまり地球温暖化と
同 じで す 。
それからまた地政学的な問題も出てきます。もしピーク・オイルというのが正しいので
あれば、地政学的に考えて非常に大きな不協和が生まれることになります。特に、石油を
持っている者と石油を手に入れることができる者との間の権力構造が大きく変わってくる
こ とに な り ま す。 で す か らピ ー ク ・ オイ ル も Xevents とい う 観 点 から 考 え る こと が で き ま
す。
例えばこれまで予測をしなかったような事象が起きるとしたら、それはどの部分で発現
してくるのか。そしてそれが政策とどう関連性があるのかということを考えていかなけれ
ば なり ま せ ん 。
トピックを変えましょう。今度はソーシャル・ムードです。これを社会的な予測にどう
使 って い く の か。 非 常 に 極端 な 事 象 と極 端 で な い事 象 の 両 方に 使 う た め、 こ こ で は 2 つ の
言 葉 を 提 唱 し て い ま す 。 1 つ は 予 測 し な か っ た (unexpected) 事 象 で す 。 こ れ は 私 が つ く
っ た 言 葉 な の で す が 、 予 測 し な か っ た も の と 驚 く ( surprising) 事 象 と い う こ と の 間 に は
差 があ り ま す 。私 に と っ て予 測 し な かっ た も の とは 、こ れ まで 起 き た こと が あ る けれ ど も 、
そ れほ ど 頻 度 は多 く な か った も の と いう 定 義 で す。
例え ば 100 年 に 一 度 の洪 水 な ど 、定 期 的 に 起き る わ け では な い け れど も 、 こ れま で に 起
こ った こ と が あり 、 少 し のデ ー タ は ある と い う 事象 で す 。
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それに対して驚く事象というのは予測しなかった事象がもっと大きくなったものです。
例えば宇宙人が突然攻撃してきたというような、これまでに確認することができず、ほと
ん ど統 計 的 な 数字 な ど の デー タ が な いと い う タ イプ が 驚 く 事象 で す 。
中には、これは予測しなかった事象という程度のものではないかとおっしゃる方もいる
かもしれませんが、予測しなかった事象と驚く事象との間の差、定義の間の境界線という
のは実はちょっと曖昧で、白黒ではっきりとけりが付くものではありません。例えば色調
の 中に は 256 の グ レ ー ・ス ケ ー ル があ る の で すが 、 こ の 予測 し な か った 事 象 と 驚く 事 象 と
の 間に も 256 もの 段 階 があ る よ う な感 じ で す 。
基本的にこれはすべて人為的な現象です。例えば世界で起きた金融危機もそうです。ま
だこれは完全には終焉していませんが、決して今回が最後というわけではありませんし、
今回が初めてというわけではありません。繰り返されるものでしょう。いくつか政府が介
入してステップを踏んできたわけですが、しかしながらこれから先もまた起こる。いつ起
こ るか が わ か らな い の で あっ て 、 起 こる か ど う かで は な い わけ で す 。
それからまた、インターネットの問題があります。例えばインターネットがもしいま完
全 にク ラ ッ シ ュし て な く なっ て し ま った ら 、例 え ば 10 分 では な く て 1 ヵ 月間 イ ンタ ー ネ ッ
ト が使 え な く なっ て し ま った ら 、あ なた の 生 活 はど う な り ます か と 聞 くと 、
「 そ れは い い こ
とだと思うよ、だってメッセージをいちいちみんなに送らなくていいし、eメールの返事
を出さなくてもいいし」というふうに言う人もいます。でも私がさらに続けて「でも、も
う 銀行 口 座 も 見る こ と が でき な い し 、車 も運 転 でき な く な るん だ よ 、そ れ でも い いで す か 」
と 聞き ま す と 、「う ー ん 、そ れ は あ まり よ く な いで す ね 」 とい う 答 え が返 っ て き ます 。
この 中 で 特 に驚 く べ き こと は 、イ ンタ ー ネ ッ トに よ っ て ほん の 20 年 ぐ ら い の 間に 私 た ち
の人生そのものに非常に大きな変化があったということです。インターネットが出てから
100 年 経 っ た わけ で あ り ませ ん 。た っ た 25 年 ぐら い の も ので す 。と ころ が も し イン タ ー ネ
ッ トが こ こ で クラ ッ シ ュ して な く な って し ま っ たら 、25 年 前の 生 活 に 戻る の で は な く 2000
年 前の 生 活 に 戻っ て し ま うこ と に な り得 る わ け で、 こ れ は 非常 に 甚 大な Xevents と い う こ
と にな り ま す 。ツ ィ ッ タ ーが も う で きな い 、 と いう よ う な 話で は な い わけ で す 。
最後の例です。これもおもしろいですね。これは電磁波パルスです。知っている人はあ
まり多くないのですが、電磁波パルスがガンマ線領域において非常に強力な威力を発生す
る とい う こ と に 、1950 年 代 に な る まで 誰 も 気 付い て い ま せん で し た 。電磁 波 パ ルス は 実 は
大気圏中の核兵器と関連しており、これによって超小型回路をすべてショートさせて破壊
し てし ま う 威 力を 持 っ て いま す 。
1950 年 代 はま だ 大 気 圏中 で 核 実 験を し て い まし た が 、1962 年 に 南太 平 洋 で 核実 験 が 行
われ、ここで発生した電磁波パルスが、何千マイルも離れているホノルルの街灯などを全
部消してしまいました。その当時は、これはどういう現象なのだろうかという興味を引き
起こしただけだったのですが、今日ではそのような話では済まなくなりました。なぜなら
ば、当時は原始的な真空管が主流で電気回路はあまりなく、今よりもショートしにくかっ
た ので す 。
1950 年 代 は 、例 え ば 半導 体 を 完 全に 溶 解 す るた め に は もっ と 強 い パル ス が 必 要だ っ た の
で すが 、今 日 は状 況 が 違 いま す 。大 気 中 10 マ イル ぐ ら い の高 さ で カ ンザ ス 州 の 真上 で 核 兵
器が爆発したとすると、米国全体の超小型回路は全部瞬時に溶解してしまいます。そうす
ると道路上のほとんどの車はそこで停止してしまい、監視されていないコンピューターは
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瞬時にクラッシュしてしまいます。インターネットが長期的にダウンするかどうかという
話はこの状況に比べたらずっといいほうで、人は殺さなくても国全体のインフラをすべて
ダメにしてしまう、非常に強力なテロ兵器だという話になるでしょう。これはこれまで起
きたことがないわけですが、その理由としてそれはまず核兵器を手に入れることが難しい
と いう の が 1 つ 挙げ ら れま す 。持 って い た と して も 、そ れを 大 気 中 10 マ イ ル 上ま で 持 っ て
行 って そ れ を 爆発 さ せ る こと は 困 難 です 。
しかしこれに対して完全な抑止力が働くわけではありません。私自身、いま書いている
本の重要インフラに関する章で電磁波パルスについて言及しています。これは非常に恐ろ
しい発見でした。例えば今日インターネットにアクセスして検索してみると、インターネ
ット上に、普通の商店に行って、普通のワイヤーや部品などで、電磁波パルス発生器を自
分 でつ く る こ とが で き る 設計 図 が あ るわ け で す 。核 兵 器 は もう 必 要 あ りま せ ん 。
また 大 気 中 10 マ イ ル まで 上 昇 す る必 要 は あ りま せ ん 。あ る 丘の 上 で電 磁 波 パ ルス を 発 生
さ せれ ば 、 国 全体 の イ ン フラ を 破 壊 する こ と は でき ま せ ん が、 あ る 1 つ の 都 市ぐ ら い は ク
ラ ッシ ュ さ せ るこ と が で きま す 。 し かも 、 そ れ をつ く る の に掛 か る コ スト は 400 ド ル ぐ ら
い で済 む の で す。
では、コストは安く、つくる方法にもアクセスすることができ、物理学的にも可能で、
この部屋にいる人たちはたぶん誰でもつくることができるのに、なぜ電磁波パルスがこれ
まで使われなかったのでしょうか。私はたぶんこれから先いつかこれが使われ、新聞の記
事 にな る 日 が 来る と 思 い ます 。こ れ は驚 く 事 象 また は Xevents と い うこ と に な るで し ょ う 。
将来 の シ ナ リオ と し て Xevents の 話 を す る とき 、 例 え ば 2050 年 にも し 電 磁 波パ ル ス が
発生させられたとしたらどうなるか、考える余地は大きくあるでしょう。もちろんそれは
場 所に も よ り ます 。ロ ン ドン や ニ ュ ーヨ ー ク で 爆発 さ せ れ ば恐 ろ し い こと に な る でし ょ う 。
オ マハ で 発 生 した 場 合 と はま っ た く 異な り ま す 。
どちらにしても完全にこれは可能性のあることで、すでに起きたことと言ってもいいと
思 い ま す 。 た だ こ れ は 意 図 的 に 発 生 さ せ た こ と で は な く 、 た ま た ま 核 実 験 に よ っ て 1960
年代に起きたことです。今は大気圏中で核実験をする人はもういませんので、今はないと
いうこともあり得るかもしれませんが、まったくないわけではありません。驚く事象の例
と して 、 例 外 はい く つ か 挙げ ら れ ま す。 こ れ ま であ っ た 驚 く事 象 は 決 して SF の 話 で は な
く 、科 学 的 に も事 実 と し ても あ り 、 もう 一 度 起 こる 可 能 性 もあ り ま す 。
こ の よ う に さ ま ざ ま な 概 念 と し て 複 雑 系 理 論 に 関 し て 示 し て い ま す が 、 Xevents と い う
文脈の中で、いかに、いつ、どういった形でこういった事象が起こり得るかということを
検 討す る 必 要 があ り ま す 。
これはインターネットの写真ですが、皆さんご覧になったことがあり、特に詳しいこと
を申し上げることもないかと思います。それから先ほど転換点ということを申し上げまし
たのでこの絵を含めておきました。これは私が言わんとしたことを絵で示しものです。横
軸が時間、そして何らかの時系列データを自分が持っていたとします。例えば金融マーケ
ッ トの 平 均 で もか ま い せ ませ ん 。ど こに そ の 臨 界点 、重 要 な点 が あ る のか 、A、B、C と マ
ー クし て お き まし た 。 今 日の 傾 向 が どう い う も ので あ れ 変 化し た 点 で す。
A で は 上 向き に 転 換 した も の で 、B は 逆 です 。 C はち ょ っ と興 味 深 く て、 踊 り 場 、横 ば
い にな っ て い ます 。 数 学 的に は ど れ も変 曲 点 と 呼ば れ て い ます が 、 A と B は 、 ある 意 味 で
安 定し て お り 、物 は 動 い たけ れ ど も 性質 は 変 わ って い ま せ ん。 し か し C は 恣 意 的に ち ょ っ
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と した 摂 動 を 起こ す こ と で不 安 定 な 変曲 点 に な り得 ま す 。
実際のシステムにおいて、こういった変曲点というものは本来予想されていないのです
が、しかし先ほど申し上げましたように、このような時系列の中でどこか好きなポイント
を 無作 為 に 選 んで み て く ださ い 。必 ずこ の A、B、C で は なく て 何 か 違う と こ ろ を選 ぶ こ と
になります。そうすると、それはこの点線の部分に当たります。点線の部分というのは、
すなわちどこであろうとも次の瞬間、現状のままである。すなわち上向きか、あるいは下
降 か、 と も か くそ の ト レ ンド が そ の まま 追 従 さ れて い る と いう 状 況 で す。
です か ら 関 心が あ る の は A、B、C のポ イ ン トで あ り 、もし こ れ に 関心 が あ っ て、あ と 残
りの部分の曲線を埋めたければ、もうそれは実線を引けばいいわけです。これは数学的な
ものであって、決して印象派の絵でもなく、いわゆる特異性の理論と言われているもので
す。すなわち、変曲点は全体の構造の特徴であって、自分がどこにいるかは分からないわ
け です 。
さて、ソーシャル・ムードについてお話ししましょう。皆さんの中にはこのあとフォー
サイトに関するフォーラムに参加される方がいるかもしれません。そこでも少し詳しいこ
とを申し上げますので、ここでは簡単に述べておきます。言ってみれば午後の話の導入と
も 言え る も の です 。
先ほど私が問題提起したソーシャル・ムードは、どうやって測定すればよいのでしょう
か。ある集団において、いかに人々の将来に対する気分、気持ち、行動が楽観的か、悲観
的か、最も有益な測定方法は金融市場の指数を見ればいいという基本的な考え方がありま
す 。こ の 指 数 の時 系 列 変 化が ソ ー シ ャル ・ ム ー ドを 反 映 し てい る 理 由 は、 第 1 に 日 経 で も
ダウ・ジョーンズでもいいのですが、金融市場の指数は、人々が将来に対して自分の現金
を かけ て い る かど う か を 表し て い る から で す 。
金融 市 場 は 、次 の 瞬 間 ある い は 来 月、来 年 ど うな る か 、人々 の 将 来 に対 す る 賭 け全 て を 1
つの数字に合成して、価格の変動という形で表しているのです。つまりこれは人々の将来
に 対す る 気 分 の反 映 で あ り、 社 会 的 な環 境 を 反 映し て い ま す。
さまざまな問題がこの指数に関連して出てきます。例えばこれがどうやって社会全体の
行動を反映しているのか、社会のごく一部である売買を表しているだけではないかと言わ
れるかもしれません。表面上は確かに有意義な反対意見に問われるかもしれませんが、実
は そう で は な いの で す 。 あと で 皆 さ んか ら 質 問 を受 け な い よう に そ の 理由 を 説 明 しま す 。
ドアの横に温度計がありますね。あの温度計はここの室温を測定していますが、この部
屋にあるすべての分子の挙動を測定する必要はありません。この部屋の中のすべての分子
の挙動を測定して部屋の温度を計算するのではなく、サンプルを抽出すればいいのです。
これらの分子はお互いに相互作用があり、ごく一部のサンプルだけで、分子の挙動がこの
部 屋全 体 で ど うな っ て い るか を 語 る に十 分 な の です 。
ですから私が熱力学の論文を書くとすれば、温度計はある場所における熱量を便利な形
で測るものですから、その論文は実はむしろ力学に関するものであって熱そのものに関す
るものではありません。温度計は言ってみればソーシャル・ムードを測るものです。とレ
ーダーの行動は直接価格の変動に影響を与えますが、彼らは社会と切り離されて売買して
いるわけではありません。家族や友人がいて、テレビも見るし、新聞も読む。そういった
形で相互作用が生まれます。つまり社会のすべての人たちの間で相互作用が生まれ、その
相 互作 用 が 彼 らの 取 る 行 動に 影 響 を 与え る の で す。
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この先どうなるか、将来をどう考えるかという世界に対する見方は、ただ単に、ほかか
ら切り離された個人の感情ではなくて、社会的な集団の中で、すべての情報、相互作用を
合成したものなのです。ですから金融市場の平均というのはソーシャル・ムードをよく反
映 した も の な ので す 。 ほ かに も 例 が ある の で こ のあ と ご 紹 介し ま す 。
国境が消失し、自由に人やお金や物やアイデアが流れるようになるグローバル化という
現 象に つ い て ここ で 語 っ てみ た い と 思い ま す 。こ れ は と て も広 く 支 持 を得 て い る 考え 方 で 、
長 い歴 史 を 持 って い ま す 。グロ ー バ ル化 は 決 し て新 し い 現 象で は な く 、実 は 19 世 紀 に 端 を
発し、大きな波となり、今はむしろグローバル化の現在の波の終わりあたりに来ているの
で す。
この グ ラ フ に示 し て い るよ う に 1974 年 に 始ま っ て い ます 。こ の 図は ダ ウ・ジ ョ ー ン ズ 平
均ですが、世界の株式市場の動向を反映していると言っていいかと思います。世界全体の
中でソーシャル・ムードを測ろうと思えば、世界の株式市場を最も近似する金融市場はニ
ュ ーヨ ー ク 株 式市 場 で あ り、 そ の ダ ウ・ ジ ョ ー ンズ 平 均 を 取る の が い いわ け で す 。
いくつかここに数字や丸があると思いますが、それはちょっと無視してください。本題
には関係ありません。重要なのは、この図の中にある、グローバル化へ向けてのマイルス
ト ーン と な る よう な と こ ろの い く つ かの マ ー ク です 。80 年 代 半ば に は、 G8 が 結成 さ れ 、
ニュージーランドが工業先進国の中で初めてグローバル化という考え方を真剣に取り入れ、
国 境を 基 本 的 に撤 廃 し ま した 。
その 後 NAFTA が で き 、WTO が つく ら れ ま した 。こ れ らは す べ て グロ ー バ ル 化へ 向 か う
重 要な マ イ ル スト ー ン で す 。そし て お気 づ き か と思 い ま す が 、G8、NAFTA、中 国 の WTO
加盟などこれらのマイルストーンが発生した時期はほとんど、かなりポジティブなソーシ
ャル・ムードの終わり頃です。例えば株式市場が大いに上昇していた頃、今日はすばらし
い、明日はもっとすばらしい、と人々が未来に関して楽観的な期待を持っていた時期、そ
ういった心理的な環境の中において起こり得る事象は、みんな一緒になろう、グローバル
化 をし よ う 、 そし て ほ か の仲 間 を 歓 迎し て ハ ッ ピー に な ろ う、 と い っ た事 象 で す 。
しかしソーシャル・ムードがマイナスに転じますと、株式市場が下げに転じます。今日
の 状況 は よ く ない 、明 日 はさ ら に 悪 いか も し れ ない と 思 っ たと き 、逆 の動 き が 起 こり ま す 。
グローバル化をしよう、みんな一緒になろう、ではなくて、むしろ外国人を歓迎するより
も 門戸 を 閉 じ 、地 域 に 閉 じこ も ろ う とし ま す 。
ここ で ま ず 皆さ ん の 目 を引 く の は 、お そら く 1970 年 代 半ば か ら 2000 年 ま では 基 本 的 に
は、世界のソーシャル・ムードはいつもと言っていいほどほとんど右肩上がりだったとい
う こと で す 。 例え ば 70 年代 後 半 から 80 年 代 初め に 掛 け て、 少 し マ イナ ス に 転 じた と き も
あ りま す が 、80 年代 半 ばか ら は 右 肩上 が り に 転じ 2000 年代 に 到 達 して い ま す 。そ し て 突
如 とし て 横 ば いに な っ て いま す 。
この 頃 は ど うだ っ た の か、今 ま で ずっ と 右 肩 上が り だ っ たの が な ぜ 横ば い に な った の か 、
何が起こったのだろうか、と皆さん思われるでしょう。先ほどご覧いただいたように横ば
いになり、このあとまた再度上昇に転じるのか、それとも下げに転じるのか。これこそが
まさに変曲点であるわけです。どちらの場合にせよ、この踊り場は不安定で、永遠に続く
わけではありません。つまり横ばいでずっと続くのではなく、上がるか下がるかのどちら
か なの で す 。
30 年 間 に わた る 月 ご との 時 系 列 で見 ま す と、グ ロ ー バ ル化 と い う 現象 は 一 夜 にし て な っ
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たのではなく、またその停滞期はむしろ長年掛かって発生したものです。ソーシャル・ム
ードを測定する尺度は、皆さんが見ているこの上昇とも一致し、この月別チャートが正し
い方向を示しているのです。ダウ・ジョーンズの分刻みの変化を見ていくとあまりにも感
覚が短すぎて、何十年にわたるような転換期を測定することはできません。しかし月別チ
ャ ート で は か なり 状 況 を よく 反 映 し てい ま す 。2004 年 あ たり で こ の グラ フ は 終 わっ て い ま
す が、 実 際 こ のあ と ど う なる の で し ょう か 。
これはスイスでヨーロッパの未来学者の学会の会合が開かれたときのものですが、その
ときの私の講演タイトルは「グローバル化の上昇あるいは下降と衰退」でした。この図が
示すように、この過程全体は現在かなり後半に来ていると思うわけですが、私が驚いたの
は、世界中で何十ものタイトルに関して何百回も講義をしてきましたが、このスイスでの
講 演は お そ ら く最 も 人 気 がな か っ た もの の い く つか に 入 っ たと い う こ とで す 。
その会議の参加者はこの過程は最悪だと、敵意、対立と言うよりも、かなり悲しみ、嫌
がりました。集まっていた人々は決してビジネスマンとか政府の関係者ではなく、将来を
展望し考える仕事である未来学者であるのに、この傾向は永遠に続いていくと思っていた
の です 。
これが今後どうなるのか、今この図に示すように、拡大するとこのように継続していく
で しょ う 。 こ れが こ れ ま での 状 況 で す。 2007 年 10 月 ま では 、 こ の よう に フ ラ ット な 部 分
が 少し 長 く 持 続し 、 今 度 は上 昇 に 転 じて き ま す 。2005 年 の終 わ り から 2007 年 まで 確 か に
継 続し ま し た 。し か し こ の傾 向 が だ んだ ん 途 絶 え、 2007 年 10 月 か ら転 が り 落 ちる よ う に
下 降し て き ま した 。 今 こ のぐ ら い の とこ ろ ま で 戻っ て き て いる か と 思 いま す 。
我々はこの逆のマイナスのソーシャル・ムードのトレンドの初期段階に入っています。
こ れは ま っ た く無 料 で 皆 様に お 伝 え しま す が 、あ と 数 年 こ れは 続 く だ ろう と 思 っ てい ま す 。
一夜にして展開するようなトレンドではありません。いわゆる回復というものが新聞で毎
日のように記事になっていますが、私は回復しないと思っています。これはこの逆を行く
小さなカウンターバランスのトレンドです。これがこの図から外れるところまで行くだろ
う と考 え ら れ 、我 々 は 今 日の 段 階 で それ に 備 え て準 備 を 整 えな く て は いけ な い の です 。
も う 1 枚 図が あ り ま す。 こ れ は ダウ ・ ジ ョ ーン ズ 工 業 株価 の 名 目 の平 均 で す から 、 あ く
までも新聞で語られる内容です。しかし、今度は金融的にこの指数を、紙幣ではなく金の
オ ンス で 測 る と実 は 非 常 に変 わ っ て きま す 。1999 年 に ピ ーク が あ っ て 、そ し て まっ す ぐ 下
降してきました。これまで数ヶ月の動きを見てみますと、ほとんど見えないぐらい、これ
ぐ らい 下 が っ てき て い る ので す 。 た だ、 こ の 資 料の 図 に は 示し て い ま せん 。
数百件の似たような話があり、またいろいろな事象や事柄について語ったものがありま
す が、 こ の 『Mood Matters』 は ニ ュー ヨ ー ク で 約 3 週 間前 に 発 刊 され た ば か りの 本 で す 。
ア マゾ ン で 購 入し て い た だく こ と も でき ま す 。丸 善 に 昨 日 行っ て み た らあ り ま せ んで し た 。
これから入荷するかもしれませんが書店にはまだ並んでいないと思います。ソーシャル・
ムードについても語っています。技術的な本ではなく、数学の一片もありません。いろい
ろ な事 象 が 描 かれ て い て 、今 回 の 話 題に つ い て も少 し 詳 し く語 っ て い ます 。
日本 の 出 版 社と 実 は 一 昨日 会 う こ とが で き ま した 。日 本 語版 を 出 し てく だ さ る よう で す 。
お そら く 1 年 後 に な る ので は な い かと 思 い ま す。 後 ろ に いる 通 訳 の よう な 人 が 翻訳 し て く
れたとしても、これだけの分量ですから日本語にするには少し時間が掛かると思います。
今のところはまだ英語版しかありませんが、英語版でもよければあります。いずれにして
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も 数週 間 で 英 語版 が 間 違 いな く 日 本 にも 届 く と 思い ま す 。
最後は宣伝になりましたが、皆様のご出席に感謝申し上げたいと思います。今朝お集ま
り いた だ き ま した こ と を 感謝 い た し ます 。で は 、こ こ か ら 質疑 応 答 に 移り た い と 思い ま す 。
有本
ご 発 表あ り が と うご ざ い ま した 。
質問 者 1
質問 が 2 つ あ り ま す 。お っ し ゃ った 活 動 は 、例 え ば ブ ラッ ク ・ ス ワン と か ホ
ワ イト ・ ス ワ ンと い っ た よう な 活 動 とも 絡 ん で いる の で し ょう か 。 も う 1 つ の 質問 は 、 例
えばリーマンショックといったようなものがありましたが、経済学者の?ムーベニーなど
は、未曽有の予想しなかったものではなくて、いわば予想された事象であったと言いまし
た。これもやはりデータを持って語ったわけですが、すでに大量のデータがあって、たく
さんの注意喚起をしてきたのだが、その警告を無視したので危機になったのだというので
す が、 こ れ に 関し て 彼 ら の立 場 に つ いて ど う 思 われ ま す か 。
Casti
ご 質問 あ り が とう ご ざ い ます 。ナ シ ーム・ニ コ ラス・タ レ ブの 話 を な さい ま し た 。
彼 も私 の よ い 友人 の 1 人 で 、アメ リ カで 出 し た「Mood Matters」と いう 本 に 、す ぐ れた 本
で すの で す ぐ 読ん で く だ さい と い う 言葉 を 寄 せ てく れ た の も彼 で し た 。
ブラック・スワンという言葉を引用されましたが、これは予想不可能であると彼はきっ
ぱりと述べています。私もそうだと思います。例えば物理的あるいは機械工学的に見ると
予 測で き な か った あ る 特 定の 事 象 の 過去 、現 在、未 来 に 関 して 、何 ら かの ツ ー ル を開 発 し 、
何らかの信頼性を持って、一貫して予測できるということであれば別ですが、ただ私の本
の中で書いているのは、何か予測できるとするならば、環境のいろいろな要素が組み合わ
さ れる と い う こと で す 。
例えばある事象が起こるような環境があった場合、何か障害があるとこの環境がどうな
るかを予想することはできないけれども、例えば谷や山など氾濫域がある地形で、これは
もちろん固定した環境ではなくて常に変化し得る環境ですが、その中で何か具体的な事象
が起こるならば、ある観察不可能なものがきっかけとなって、それに続く一連の事象が起
こ って い く の です 。
地形的に考えると、ピークを迎えるある環境があり、それがたとえ小さなものであって
も 断続 的 な 乱 れ( disturbance)に よっ て 、そ こか ら 谷 に 一気 に 落 ち るこ と が あ りま す 。た
だ、その乱れの方向によってはこちらの谷、あるいはまったく別の場所に没落するかもし
れません。その事象を引き起こすきっかけは予想できません。ただ、この谷というのは予
測 可能 で あ る とい う こ と です 。
それから金融危機について予測可能であったという指摘についてですが、弱い意味で見
るとそうかもしれません。以前にも金融危機が起こったわけですから、また起こるだろう
という予想はできます。非常に簡略化して考えると、断続的な欲望と危機の間には関連が
ありますから、ある瞬間どちらかが制御されていればいいのですが、例えばもっとお金が
欲 しい な ど の 欲望 が 制 御 から 外 れ る とク ラ ッ シ ュし て し ま う。
そして欲望が制御されないと今度は危機が高まってクラッシュする。例えば欲望が高ま
ると蓄積しますが、それは長年蓄積したものであって急に爆発するものではありません。
しかし、すべてが外へ脱出しようと入口に集まって、蓄積するところではなく出口に殺到
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す るこ と に な ると 、 そ こ でク ラ ッ シ ュが 起 こ る のだ と 思 い ます 。
また、彼は今までもそういう予想ができたということで評判を取ってきた人ですから、
別に特別な予測をしたということでも何でもなくて、このクラッシュは予測できたと言う
こ とで 、 彼 と して は そ の 評判 を 保 っ てい る の だ と思 い ま す 。
グローバル化が今度はローカル化になるというわけですが、そういった予想をすること
は 別に 難 し い こと で は あ りま せ ん 。長い 歴 史 の 過程 で 見 た とき に 、断 続的 な も の では な い 、
ある一定のパターンが出てきます。そしてその理由もわかります。例えば今も政府などが
で きる だ け 早 く動 い て 、 いろ い ろ な 法規 制 と か 制約 を 行 お うと し て い ます 。
それによって社会的に少し悲観的な環境が生まれています。いま政府がどのような行動
を取るのかによってソーシャル・ムードは大きく変わってしまいます。金融危機があると
通常、政府はこういった緊縮傾向に向かうわけですが、しかし人の記憶は非常に短くて、
それを忘れてしまうとまた経済は拡大していくわけです。つまり欲望が拡大し、それによ
っ てだ ん だ ん 気持 ち が 緩 くな り 、ま た規 制 緩 和 が起 こ り 、緩や か な 政 策に 変 わ っ てき ま す 。
このような緩和政策が取られ、例えばアメリカの銀行規制が緩くなっていくと、銀行が
まるで投資機関、ほとんどカジノのようになってしまい、もう銀行として機能しなくなっ
てしまうわけです。こういった現象はこれから先も起こります。どのような金融改革法が
今 採択 さ れ た とし て も 、10 年 か 20 年す れ ば 必ず 規 制 緩 和が ま た 起 きて き ま す 。そ う す る
ともう一度人々の欲望が高まって、そして次のクラッシュに向かうというサイクルになっ
て いく わ け で す。
ここで一番興味深いのは、次にいつそれが起こるのかというタイミングです。マクロ経
済のトレンドで見ていくと、今の状況はある程度のところで収縮し、いつの日かこれが横
ば いに な っ て いく わ け で すが 、 ソ ー シャ ル ・ ム ード は そ の 1 つ の 先 行指 標 と な り得 る こ と
を 、私 は こ の 本の 中 で 書 いて い ま す 。
質問 者 2
JST 研 究 開発 戦 略 セ ンタ ー か ら 参り ま し た 。現 在 ウ ィ ーン の 研 究 所で は ど こ
か と協 力 し て 進め て い る ので す か 。
Casti
い や、 現 時 点 では あ り ま せん 。 だ か ら私 は こ こ に来 た の で す。
質問 者 2
2 番 目 の 質 問で す が 、ど う いう ふ うに そ の 方 法論 の 検 証 をな さ る の でし ょ う か 。
つまり特定の事象を予測するのは難しいとおっしゃいましたが、特定の事象を予測するこ
と なし に 、 実 際に こ の 方 法論 を 検 証 する こ と は でき る の で しょ う か 。
Casti
今 の質 問 を 正 しく 理 解 し たい の で す が 、検 証 す ると い う の は 、い ま 申 し上 げ た よ
う なこ と を 検 証す る と い うこ と で し ょう か 。 そ れと も 一 般 的な 方 法 の 話で す か 。
質問者 2
先生が行っていらっしゃるプロジェクトです。つまり極端な事象を予測する
た めの 方 法 で す。
Casti
そ れに ど う い うふ う に 答 える か ち ょ っと 決 め か ねて い た の は、私 に は 2 つ の役 割
があるからです。私はこのプロジェクト全体の代表でもあるのですが、個人的にも、いま
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お話したような、こういった事象の研究をやっているからです。ではまず質問に答えまし
ょう。どのような方法を我々が開発したとしても、例えば日本で政治的な大きな変化が
2015 年 1 月 7 日 に起 き て、そ し て 現政 権 は 次 のこ う い っ た政 権 に よ って 駆 逐 さ れる と い う
こ とを 予 測 す るわ け で は あり ま せ ん 。そ う い っ たこ と を や って い る わ けで は な い ので す 。
もしそのような予測ができる方法論があり、またそれは常に非常に確率が高いと言う人
がいたとしたら、私はかなりそれを疑うと思います。ある特定の事象が起きるということ
は、実 は 進 化 生物 論 学 者 が言 っ て い るよ う に チ ャン ス と 必 然性 の 組 み 合わ せ だ と 思い ま す 。
こ こで 、 必 然 性と は こ う いっ た 事 象 が起 こ る 社 会的 環 境 で す。
サッカーの試合を考えてください。サッカーの試合はサッカーのスタジアムで行われる
わけです。そこに選手がいて、ボールを投げて試合をするわけですが、特定の選手の動き
は決して予測できるものではありません。またはその選手の事象そのものを予測すること
はできません。なぜならそれは非常に不安定だからです。そしてまた同時に、そのスタジ
ア ムの 環 境 も 何が 起 き る かと い う こ とに 大 き く 影響 を 与 え ます 。例 え ば地 面 が 濡 れて い る 、
乾いていて非常に試合がしやすいという状況や風が強いといった環境が、選手によっては
影 響を 受 け る 可能 性 が 出 てく る わ け です 。
したがって環境が経時的にどのように変わっていくのか、またその環境が事象とその特
性に対してどのようなバイアスを掛けるのか見ることになります。例えば天気予報を考え
てください。今日の東京の風速や気温、湿度を計測して、物理学的、気象学的に考えてい
くつもの明日の天気予報を理論的に出すことができるでしょう。いろんな可能性が考えら
れ ます が 、そ れら の 確 率 は同 様 で は あり ま せ ん 。例 えば 明 日の 雨 の 降 る確 率 が 60% と 新 聞
で 読む わ け で すが 、 こ れ は可 能 性 で す。 ま っ た く同 じ 値 が 出た と し ても 1 月 と 7 月 で は 違
い ます 。
何が起きるか常に正確に予測することはできません。だからこそ天気予報も評判が悪い
わけです。いつも間違っていると言われるのも、環境が同じであったとしても異なる事象
が 起こ り う る よう な 特 定 の事 象 を 予 測し よ う と する か ら で す。 そ う い う答 え に な りま す 。
質問 者 3
コメ ン ト 1 つ 、 質 問 1 つ で す。 コ メ ン トか ら ま ず 申し 上 げ ま す。 人 間 の 社会
における極端な事象に関するプレゼンテーションを大変興味深く聞かせていただきました。
私 は 5 年 以 内に 中 国 で 極端 な 事 象 が起 き る の では な い か と予 測 し て いま す 。 多 くの 人 た ち
は中国共産党が現在の状況にきちんと対処するため、そのようなことは起きないと言うの
ですが、私自身は中国がきちんと対処することはできないと思うのです。こういった極端
な 事象 が 近 隣 諸国 に お い て起 き る か どう か 、 ぜ ひ知 り た い とい う の が 私の コ メ ン トで す 。
次に 質 問 で す 。こ こ に いる 日 本 の 科学 技 術 担 当者 た ち は 、グロ ー バ ル化 が 進 み 、20 世 紀
型の経済成長はこれで終わったのだというふうに感じているのですが、科学技術政策はこ
れ から 先 ど の よう に な る でし ょ う か 。
Casti
ま ずコ メ ン ト に関 し て で すが 、中 国 で の Xevents の 可 能 性に 私 は 100% 同 意 しま
す。今 日 中 国 につ い て 考 えて い る 人 たち は 、実 は 1980 年 代の ソ ビ エ ト連 邦 に つ いて 関 心 を
持っていた人たちと非常に似ています。このシステムは永遠に続くと言っていたのに実際
はほんの数週間で崩壊してしまいました。これも非常に短い期間で起きた事象は今日でも
そ の結 果 が 続 いて い る と い う Xevents の 非 常 によ い 例 で す。
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2 番目の質問は、何を私がお薦めするかということですが、少し付加的なコンサルテー
ションになりますよ。一般的に申し上げれば、タイミングにもよりますし、来年の話では
なく 10 年 とか 20 年 ぐ らい の 話 を して い ら っ しゃ る の だ と思 い ま す が、 ど の よ うな 世 界 の
中で事象は起ころうとしているのか、社会が機能していくための環境にきちんと注意を払
うべきだということです。今日私がやることができるとしたら、この世界の中で科学技術
政 策に 関 わ る 事象 を 見 て、ど こ に 投 資を す れ ば、こ の 世 界 の環 境 の 中 で 2020 年 に最 も 大 き
な 見返 り を 得 るの か 、 考 えて い か な けれ ば な ら ない の で す 。
これは、ウィーンでフィンランドのために検討したものです。私たちのコンソーシアム
がフィンランドの業界と政府と一緒に協力しており、彼らからその質問をされたのです。
2020 年 に 世 界が ど の よ うな 環 境 に なっ て い る か、2 つ の 大き な 産 業 に影 響 を 与 える か 、 彼
ら は興 味 を 持 って お り 、 知り た か っ たわ け で す 。
これは科学技術政策ではなくて、フィンランドの主要な産業である林業です。大手企業
で ある ノ キ ア は私 た ち の コン ソ ー シ アム の パ ー トナ ー の 1 社 で す が、 こ の 分 野に 非 常 に 興
味を持っています。これは決して秘密でも何でもありませんが、彼らは携帯電話ビジネス
に 対し て 、こ れか ら 先 、ス マー ト フ ォン な ど ア ップ ル が つ くっ て い る もの 、BlackBerry の
よ うな も の に 凌駕 さ れ る ので は な い かと い う 懸 念を 非 常 に 抱い て い る ので す 。
皆さんはノキアと言うと携帯電話を思い浮かべるかもしれませんが、実はこの会社はも
ともとゴム靴をつくっていました。フィンランドの濡れた森の中を歩いていくための雨靴
をつくっていて、そのあと自転車のタイヤに切り替えました。そのあともエレクトロニク
スの登場にあわせて、ビジネスプランを劇的に変えてしまいました。これまでの事業との
関連性はまったくなく、会社として劇的に変えなければならないため変えたわけです。全
社をこれまでとはまったく違う方向性に賭けて大きな勝者となった彼らを私は非常に尊敬
し てい ま す 。
今この会社は、これから先まったく新しい事業を展開すべきか検討しています。携帯電
話の改善や将来のエレクトロニクスに対して自分たちの将来を賭けるのではなく、新しい
産業に対して自分たちの会社を変貌させていくにはどうしたらいいかということを考えて
います。こういったことを考える会社はあまりありません。新しい世界を活用しようと考
え る会 社 が な いわ け で は あり ま せ ん が、 ノ キ ア のよ う な と ころ は 稀 で す。
まず 自 分 た ちの 環 境 を 考え て 、2020 年 に ど うい う 環 境 にな る か 理 解で き れ ば 、それ に 対
して洞察を加え、自分たちがぴったりとはまるすき間を見つけ、それに向けて行動を取っ
ていこうと考えたわけです。もしかしたら間違っているかもしれません。そうなったら会
社としては大きな損失になりますが、自分たちが変わらなければ、それもやはり損失にな
るわけですから、どちらにせよ判断を誤ったとしてもそれほど大きな損失にならないこと
を やっ て い る わけ で す 。 そう い っ た こと を 日 本 に対 し て も アド バ イ ス した い と 思 いま す 。
質問 者 4
Casti 先 生 のス ラ イ ド の中 に ポ リ シー ・ フ レ ーム と い う もの が あ る ので す が 、
な ぜこ れ ら の 項目 を 列 挙 され た の で しょ う か 。
それ か ら ポ リシ ー・プ ライ オ リ テ ィの と こ ろ で、科 学 技 術も あ る の です が 、特 に resilience
というのは非常に重要なキーワードではないかと思います。そのあたりについて先生のお
考 えを お 聞 き した い と 思 いま す 。
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Casti
な ぜ私 が ほ か の項 目 で は なく こ れ ら の項 目 を 列 挙し た の か とい う と 、私 自 身 が こ
のような政策分析を意思決定者ために行った過去の経験上、常に必ず対応しなければいけ
ない項目だったからです。もちろんこのリストがすべてというわけではありませんが、優
れた政策解析を行う場合の最重要項目の一部ではないかと考えました。しかし、ピーク・
オイルのような具体的な特定の例に関して、さらにその文脈に当てはまる追加的な要素が
あ り、 そ れ ら をこ の リ ス トに 入 れ る べき か も し れま せ ん 。
しかし一般に、政策を立案しようと思えば、グローバルかローカルか、短期的か長期的
か、あるいは経済学的、地政学的な側面といった要素は必ずと言っていいほど常にその検
討 に入 っ て き ます 。 言 っ てみ れ ば 1 つ の章 の タイ ト ル に なる よ う な もの で す 。
2 つ目のご質問について。特にこのスライドはちょっと変わっています。スクリーンの
ほ うが 、色 が 付い て い る から い い か もし れ ま せ ん 。resilience( 強 靱 性 )と anticipation( 予
測)の色を変え、しかも大文字にしたのはなぜかと言うと、できればほかのものと混同さ
れ るこ と が な いよ う に と 考え た か ら です 。
つまり単に同類のものとして列挙するのではなく、たまたま私がこれをつくったときに
これが出てきたということではなく、むしろ予想できない驚愕すべきいろいろな事象につ
い て、 そ れ を anticipate(予 測 ) し理 解 す る 過程 が resilient( 強 靭) で あ る とい う 、 シ ス
テム理論的な考え方や概念が、すべての政策の検討の中に浸透していかなければいけない
の です 。
政策分析においても重要なのは、たとえ予期せざる未知の事象が起ころうとも、実施さ
れる政策がいかにこれからも効果的に機能できるシステムを維持するにはどうしたらよい
のか、そのためには政策に対して影響を与えるどのような事象が、具体的でなくても起こ
り得るのか、予測することだからです。言ってみれば、そういった極端な事象を管理する
能 力と い う こ とに な り ま すか 。
通 常 resilience と anticipation と い っ た 文 言は 、個 人 の能 力( capability)を 意 味 す ると
思 うの で す 。resilience と い う 言 葉 は基 本 的 に は 、た と え 予期 せ ざ る こと を 経 験 した と し て
も 、効 果 的 な 機能 を 発 揮 し続 け る こ とが で き る とい う こ と を指 し ま す 。こ れ を hedging と
金 融分 野 の 人 たち は 言 っ てい ま す 。
例えばこれから円安になるだろうと考えたら、そういった立場を取りつつ、その予測は
間 違っ て い る かも し れ な いの で 、2 つ 目 の 立 場 に保 険 を 掛 ける こ と を 、hedging と 金 融の 世
界 では 言 っ て いま す 。 こ れは シ ス テ ム理 論 に お いて は 、 不 確実 性 に お け る resilience あ る
い は robustness( 堅 牢 性) と い っ た言 葉 を 使 いま す 。
つまり最適化や効率化を図るがあまり、あるピークにおいては機能するけれども、前提
をほんの少しでも間違えるとクラッシュしてしまうというものではなく、ショックや予期
せぬ事象が起こってもあまり変化しない、平坦なところに乗っているようなシステムを編
成 する 。 つ ま りそ う い っ たも の を resilience とい う イ メー ジ で 思 い浮 か べ る わけ で す 。 よ
ろ しい で し ょ うか 。
質問者 5
ソーシャル・ムードの件についてお尋ねします。ソーシャル・ムードがいま
長期的トレンドとして低下傾向にある、非常に低い状態にあるというのは、例えば日本の
今 の状 況 を 取 って も 、来 年度 予 算 を 人件 費 も 含 め て 10% 切っ て く れ など 、ソ ー シャ ル・ム
ードはそれほどポジティブにはなれない状況になっています。一方で、例えば私も今年イ
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ンドとか中国に行きましたが、ソーシャル・ムードはまだアグレッシブというか高いので
はないかと思います。人口の伸びと経済的な伸びで、いま新興国と呼ばれるところについ
て はソ ー シ ャ ル・ム ー ド が非 常 に 高 いの で は な いか と い う 意識 を 持 っ てい ま す 。最後 か ら 2
つ目に、今後長期的にはソーシャル・ムードもそんなに高まらないという予測の図が出て
きましたが、これは国によって状況が違うのではないかと感じるのです。そこの点につい
て はど う お 考 えで す か 。
Casti
ご 質問 、本 当 にあ り が と うご ざ い ま す 。こ れ は 意図 的 に し てい た だ い た質 問 で は
ありません。実際よくこういった質問を受けるのです。まずこちらはグローバル化に関し
て示しました。このソーシャル・ムード、あるいはソシオメーターと言ってもいいのです
が、ソーシャル・ムードのメーターというのは株式市場の指数だと申しました。ここでは
日本の日経を使わなかったのですが、午後のプレゼンテーションでは用意しています。か
つての黄金期と比べて、伸びているわけでも大きく落ちこんでいるわけでもなく、ただ大
変 狭い 範 囲 で せい ぜ い 振 れて い る と いう 横 ば い、そ れ が 長 期的 に 続 い てい る と い うこ と が 、
まさにおっしゃったことを反映していると思います。横ばいで、停滞し、ほとんど変わら
ず 、小 さ な 変 化し か 起 こ って い な い ので す 。
一方、上海の指数を見てみましょう。こちらは爆発的に右肩上がりです。大きく下がっ
たところもありますが、この図と同じ時期を見れば、基調は休みなく右肩上がりで、将来
に 対す る 楽 観 的な 見 方 が 長年 、 少 な くと も こ の 10 年 、 20 年に わ た って 続 い て いま す 。 確
か に様 相 が ま った く 違 い、お っ し ゃ った 通 り 国 によ っ て 大 きく 違 う こ とを 反 映 し てい ま す 。
私個人あるいはあなた個人の印象ではなく、確かに中国などの国は楽観的であり、日本は
そ れほ ど 楽 観 的で は な い とい う 証 拠 です 。
金融市場は特に先進国においては相関が高いと言われていますが、必ずしも考えている
ほ ど高 く は あ りま せ ん 。例え ば こ こ にア メ リ カ のソ ー シ ャ ル・ム ー ド が示 さ れ て いま す が 、
日 経で は こ ん なふ う に な って い ま せ ん。 日 本 は 80 年 代 、90 年 代 に かけ て ず っ と横 ば い で
した。今もあまり大きな回復基調には立っていないようです。これが大きな懸念となって
いるし、なるべきだと思います。しかしソーシャル・ムードに何が影響を与えるか、どう
やってソーシャル・ムードをもう一度盛り上げることができるか、どうしたらこの国を再
起 させ る こ と がで き る の か、 そ れ こ そが 最 も 重 要な 日 本 に おけ る 政 策 的な 課 題 な ので す 。
ソーシャル・ムードがどういった形で生成されるかはわかりませんが、しかしどういっ
た過程で生まれ、変わるのか、それに対する一貫した答えは考えられないと思います。つ
まり社会工学をやったからといって、社会システムがどういうものであり、どのように機
能するのかわからなければ、その応用の仕方もありません。ですからいろいろ想像を働か
せ るし か な い わけ で す 。そこ で い ろ んな 人 た ち が、い ろ ん なこ と を 無 作為 に 行 っ てい ま す 。
そして、ときとして前進の徴候が見られても、また消失してしまう。それは何らかの装
置の配線図を理解しようとしているようなもので、中身を見ることもなくいろいろと入力
をしてみて、何が出てくるかというのを試しているようなものです。そうなるともうこれ
は 科学 で は あ りま せ ん 。 想像 と 芸 術 の組 み 合 わ せと 言 う べ きも の だ と 思い ま す 。
日本のソーシャル・ムードを直すといった神の啓示は与えられません。ただ、ずっと同
じく永続していくこともないわけで、またプラスのムードに変わることもあるでしょう。
外部からの何らかの衝撃よりも、内部的に生成された過程でよって、十分な数の人たちが
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将来に対してマイナスの見方をしているのですから、まず底を打つか、そうでなければ、
もうこれ以上悪くなると言う人がいなくならないと、浮揚しないと思います。そしてソー
シ ャル ・ ム ー ドも ず っ と 浮揚 し 続 け るこ と は な いの で す 。
ただマイナス成長やゼロ成長の可能性もあるわけですが、これは中国でも起こり得るこ
とです。もしかしたら日本よりも劇的なクラッシュが起こるかもしれませんし、むしろ、
影 響 が だ ん だ ん と に じ み 出 て 長 期 的 に 低 下 し 侵 食 さ れ て い く か も し れ ま せ ん 。 Extreme
Events で も 、急 激な 衝 撃と い う よ りも お そ ら く低 速 な も ので 、回 復 も同 じ よ う に非 常 に 緩
や かで は な い かと 思 い ま す。
質問 者 4
Casti 先 生 のこ う い う 方法 論 を 、会 社 の 経 営 戦略 や 科 学 技術 政 策 も 含め て 公 共
政策と結び付けるためには、シナリオ・プランニングのように、いくつかのシナリオを持
っ た上 で resilient に 適 宜事 象 に 対 応し な け れ ば、せ っ か く の Casti 先 生の 方 法 論が 単 な る
anticipation に な り 、 本 を 読 む だ け と い う こ と に な り 、 実 社 会 に う ま く 結 び 付 か な い と い
う気が非常にするのです。おそらくフィンランド政府との契約でやられたこともそういう
問 題意 識 に よ るこ と で は ない か と 思 いま す 。そ のあ た り を 教え て い た だき た い と 思い ま す 。
Casti
あ りが と う ご ざい ま す 。お っ し ゃ る 通り で す 。つ ま り 理 論 的な 概 念 、あ る い は シ
ナリオなどいろいろな手段、方法によって開発していったとしても、それを政策化するに
は専門家以外にもきちんと理解してもらい、実施してもらうことがなければ実になりませ
ん 。実 際 の 方 法論 も 実 行 され な け れ ば意 味 が な いわ け で す 。
フィンランドの研究に関してですが、フィンランド政府との契約ではなく、フィンラン
ドの企業や法人との契約、合意です。それぞれ関心分野は異なり、国家としての関心事項
と言うよりも、もっと一般的な関心事項ことです。林業関係のコンソーシアム、企業の肝
心事項はノキアの関心事項とはもちろん違います。政府・官公庁関係は技術的なイノベー
シ ョン に 関 心 があ り 、 ノ キア や 林 業 関係 の 企 業 の関 心 事 項 とは 違 い ま す。
その中でまず我々は、貿易や政府が取り得るさまざまなマクロ経済レベルでの行動など
実社会を反映した人工的な世界をつくり出そうとしています。というのは、このような現
象 によ っ て ほ とん ど の 組 織や 国 民 が 影響 を 受 け ると 考 え た から で す 。
フィンランドは小さな国ではありますが、フィンランドのためにやった研究ですからフ
ィンランドをあえて世界の貿易に関与する主要な国家の中に取り込んで、フィンランドを
含めた世界的なマクロ経済の貿易モデルをつくりました。そしてフィンランドの影響は、
つくり出す影響や貿易を行うことによる規模よりも、影響を被るほうが大きいと考えまし
た。
モデルとしてつくったので、今度はそれを利用することになりますが、モデルの中の世
界に組み込まれるいろいろな組織、例えばノキアが別の事業を行ったらフィンランドの貿
易収支や活動にどういう影響が出てくるのか、これに関しては取り組んでいる最中で、ツ
ールについてはすでに出来上がりましたが、まだ分析が終わっていません。先ほど望遠鏡
をつくるという話をしましたが、鏡面を削ったり磨いたりして望遠鏡ができたので、過去
は 見ず に こ れ を使 っ て 今 度は 未 来 を 見ま し ょ う とい う わ け です 。望 遠 鏡は で き た けれ ど も 、
こ れを 使 っ て まだ 見 て い ない と い う のが 私 ど も の研 究 の 実 情で す 。
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質問 者 6
お話 あ り が とう ご ざ い まし た 。1 つ 方 法 論 的 な質 問 が あ りま す 。先 生の お 考 え
や 説明 は 、分 岐ダ イ ナ ミ ック・シ ス テム あ る い は differential location の 理 論 に則 っ て い る
のではないかと思いました。ノイズ、あるいは摂動、変動に関する見方をお聞きしたいと
思います。私の研究は決定論的理論とモデル化で確率論的理論とは異なります。先生の理
論 の 中 で ノ イ ズ は ど の よ う に 解 釈 さ れ て い る で し ょ う か 。 あ る い は 変 動 ( fluctuation) に
つ いて ど う 解 釈さ れ て い るで し ょ う か。
Casti
ノ イズ の 役 割 をど う 捉 え るか 。ノ イ ズと 不 確 実 性は 同 じ で はあ り ま せ ん 。ダ イ ナ
ミック・モデルにおいては、実社会のいろいろな要素が明示的にモデルの中に組み込まれ
ているのではなく、ノイズと言われる項を足すことによって残った情報をモデルの中に取
り込もうとするか、あるいは引き出された情報を取り込もうとしているということです。
我 々 の Extreme Events に 関 す る プロ ジ ェ ク トで や ろ う とし て い る こと は 、 特 異点 理 論 以
外のダイナミック・システム、つまりコンピューターモデルではあるのですが、ただ数学
的 なモ デ ル で はな い も の です 。
ですから分岐現象は起こるのですが、分岐させているわけではありません。モデルのパ
ラメータで決定的に重要な領域があって、例えばノブをいじることによって変曲点を調整
する、あるシステムがひっくり返ると新しい状態に入る、といったことが起こり得ます。
そ れが 分 岐 点 とな り 、Extreme Events と な っ て 、そこ か らあ る 状 態 から ま っ た く異 な る 状
態 への 遷 移 (transition) が 起こ る とい う こ と だと 思 い ま す。
ただ、これに関してはダイナミック・システム理論の中ですでにきちんと研究されてい
ると思います。その成果を我々の設問に対して該当性があると思えば使います。ただ、こ
の方法論そのものは我々の研究のテーマあるいは中心的課題とはなっていません。よろし
い でし ょ う か 。
司会
それではこれで終わりたいと思います。我々が普段考えていないような話題がい
ろいろとありまして、非常に刺激的だったのではないかと思います。それでは皆さんで最
後 に拍 手 を し たい と 思 い ます 。 よ ろ しく お 願 い しま す 。
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■担当メンバー■
福田
佳也乃
フェロー
(環境技術ユニット)
治部
眞理
フェロー
(政策システム G-Tec ユニット)
嶋田
一義
フェロー
(電子情報通信ユニット)
有本
建男
上席フェロー (電子情報通信ユニット)
※お問い合せ等は下記ユニットまでお願いします。
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Extreme Events in Human Society
講師:John Casti 教授
IIASA プログラムリーダー、前サンタフェ研究所主任研究員
平成 22 年 10 月
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
政策システム G-TeC ユニット
〒102-0084
東京都千代田区二番町 3 番地
電
話
ファックス
03-5214-7487
03-5214-7385
http://crds.jst.go.jp/
@2010 JST/CRDS
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引用を行う際は、必ず出典を記述願います。
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