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自然エネルギーの 導入拡大に向けた系統運用
自然エネルギーの 導入拡大に向けた系統運用 ―日本と欧州の比較から― 2016 年 3 月 謝辞 この報告書は、2015 年 3 月、7 月、10 月に実施した欧州調査で得た知見をもとに作成し ました。これらの調査では、Energynautics GmbH, 50Hertz Transmission GmbH, Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems ISE, Öko-Institut, Chalmers University of Technology, Technical University of Denmark のほか様々な大学、研究機関、企業と意見 交換の機会をいただきました。ご協力いただいた専門家の皆様に深く御礼申し上げます。 執筆担当者 分山達也 上級研究員 公益財団法人 自然エネルギー財団とは 自然エネルギー財団は、東日本大震災及び福島第一原子力発電所の事故を受けて、孫正 義(ソフトバンクグループ代表、自然エネルギー財団会長)により、2011 年 8 月に設立され ました。安心・安全で豊かな社会の実現には自然エネルギーの普及が不可欠であるという 信念から、自然エネルギーを基礎とした社会を構築することを目的として活動しています。 自然エネルギー政策についての調査研究や提言、企業・自治体・消費者団体などとのネッ トワークづくり、国内外の最新情報の紹介等を行っています。 目次 要旨 .......................................................................... 1 背景 .......................................................................... 3 1.広域運用 .................................................................. 5 1.1 日本の広域運用の特徴.................................................... 5 (1)地域を越えた電力取引................................................. 6 (2)相対取引を優先した連系線運用ルール ................................... 8 (3)連系線の長期的な空容量不足と短期的な空き ............................. 8 (4)自然エネルギーの広域取引への影響 .................................... 12 1.2 欧州の広域運用の特徴................................................... 14 (1)マーケットカップリング(市場連結) .................................. 14 (2)前日スポット市場を活用した広域取引 .................................. 14 (3)前日スポット市場のための連系線活用 .................................. 19 (4)自然エネルギーを含めた広域取引 ...................................... 20 1.3 日本と欧州の広域運用の比較と論点 ....................................... 22 (1)日本と欧州の広域運用の比較.......................................... 22 (2)日本の広域運用の論点................................................ 22 2.系統接続 ................................................................. 24 2.1 日本の系統接続の特徴................................................... 24 (1)自然エネルギーの接続義務が未確立 .................................... 24 (2)先着優先による既存系統の空容量不足と増強 ............................ 24 (3)系統増強工事の負担金の高額化と工事長期化 ............................ 26 (4)空容量不足解消に向けた取組.......................................... 28 2.2 欧州の系統接続の特徴................................................... 30 (1)自然エネルギーの優先接続............................................ 30 (2)系統混雑の発生と再給電による系統接続の維持 .......................... 30 (3)系統増強による混雑解消.............................................. 36 (4)系統増強における費用負担............................................ 37 2.3 日本と欧州の系統接続の比較と論点 ....................................... 39 (1)日本と欧州の系統接続の比較.......................................... 39 (2)日本の系統接続の論点................................................ 40 3.需給運用 ................................................................. 42 3.1 日本の需給運用の特徴................................................... 42 (1)長期固定電源の優先給電.............................................. 42 (2)自然エネルギーの 30 日等出力制御枠と長期固定電源 ..................... 43 (3)送配電部門の中立的な系統運用の未確立 ................................ 44 (4)原子力の再稼働に伴う調整力低下 ...................................... 46 3.2 欧州の需給運用の特徴................................................... 48 (1)自然エネルギーの優先給電............................................ 48 (2)活発な卸電力市場取引................................................ 48 (3)原子力発電の負荷追従運転............................................ 49 (4)ネガティブプライス.................................................. 49 3.3 日本と欧州の需給運用の比較と論点 ....................................... 52 (1)日本と欧州の需給運用の比較.......................................... 52 (2)日本の需給運用における論点.......................................... 52 参考1.自然エネルギーの 30 日等出力制御枠における原子力発電による空抑え ....... 54 要旨 このレポートでは、自然エネルギーをより効率的に活用するための系統運用のあり方に ついて、広域運用、系統接続、需給運用の 3 つの点から日本と欧州の比較を行った。この 比較検討に基づき、日本で自然エネルギーの導入を拡大する上での、系統運用上の課題を 明らかにするよう努めた。これらの課題に関する議論は、日本において、まだ十分に尽く されておらず、本レポートでもすべての論点を網羅的に検討するには至っていない。しか し、日本の系統運用の改善に向けて、さらに広く議論を行い、知見を深めていく必要があ ると考え、ディスカッションペーパーとして、いくつかの論点を挙げた。今後の自然エネ ルギーと系統運用の議論において、本レポートの提起した論点に関する詳細な検討が行わ れ、より効率的な自然エネルギーの活用が実現することが期待される。 1.広域運用 広域運用とは、各電力会社(系統運用者)の供給区域を越えて、調整力や供給力を活用 する運用である。広域運用によって、個々の供給区域を越えて需給運用が効率化されるこ とが期待されている。 日本では自然エネルギーの接続可能量(30 日等出力制御枠)の試算において、太陽光発 電や風力発電の導入拡大策として広域運用が考慮されてはいるが、その活用程度は大きく ない。これは、広域運用に用いられる地域間連系線が、これまで主に相対取引による長期 的な割り当てを通して、火力発電や原子力発電の送電によって占有されており、自然エネ ルギーによる連系線利用の余地が小さかったためである。 これに対し欧州では、連系線運用容量の大部分が前日スポット市場と連動して運用され、 自然エネルギーを含めて市場を通した大幅な広域運用が可能となっている。電力取引市場 の流動性を表す指標(スポット市場取引量/電力消費量)は、欧州で 48.8%に達している が、日本は約 1.4%に留まっている。 日本においても自然エネルギーの広域運用を拡大するために、前日スポット市場におけ る広域取引の拡大が有効と考えられる。具体的には、地域間連系線運用容量の大部分を前 日スポット市場へ開放することで、市場における広域取引の拡大が期待される。 2.系統接続 系統接続とは、発電事業者が新たに発電設備を導入し売電を始めるために、電力系統に 接続することを指す。日本では、既に 30 日等出力制御枠を越える自然エネルギー発電設備 が認定されている一方で、地域内系統の空容量の不足によって、系統接続が遅れ、認定分 の導入時期が見通せない状況がある。一方、欧州では、地域内系統の空容量不足(系統混 雑)が生じている区間でも、自然エネルギーの新規接続が可能となっている。 1 この違いの背景には、系統混雑発生時における日本と欧州の異なる系統接続の対応ルー ルがある。日本では、 「先着優先」の考え方に基づき、地域内系統の空容量が不足する場合 は、新規に接続する事業者が系統増強を行い、その上で自然エネルギーの発電設備を接続 する。これに対して、欧州、例えばドイツでは、地域内系統の空き容量不足(系統混雑) が生じている区間では、すでに系統を利用している周辺火力発電所の出力を低減させる(再 給電と呼ばれる)前提で、系統増強を待たずに新規の自然エネルギーの発電設備を接続し ている。 日本で、自然エネルギーの系統接続の遅れを解消するためには、現状の「先着優先」の 系統利用を見直し、火力発電の再給電を活用することが有効と考えられる。再給電の活用 によって短期的には運用面で空容量不足を解消し、長期的には系統増強によって空容量を 拡大していくことが期待される。 3.需給運用 電力会社(系統運用者)は電力の安定供給を実現するため、需要と供給との均衡を保つ よう供給力を調整する需給運用を行っている。各電力会社や系統運用者は、利用可能な発 電を組み合わせ、最も経済的となるよう需給運用をおこなう。 日本では、需要が少ない軽負荷時においても長期固定電源(原子力発電や揚水除く水力 など)の出力抑制を回避するため、長期固定電源の優先給電ルールを定めている。この優 先給電ルールに基づき、自然エネルギーの 30 日等出力制御枠の試算では、再稼働していな いものや建設中のものを含め、最大限の原子力発電所の稼働を想定し、太陽光発電や風力 発電の導入が制限されている。この結果、現在のルールは、稼働していない原子力発電所 による供給枠の空抑えが可能になる制度となっている。 欧州では、 自然エネルギーの優先給電を EU 再生可能エネルギー利用促進令によって定め、 2013 年 3 月時点で 18 の加盟国が自然エネルギーの優先給電を各国の法律で規定している。 また、活発な卸売電力市場取引においては、短期限界費用の安価な自然エネルギーがメリ ットオーダーに基づき、最初に給電される。更にドイツやフランスでは、原子力発電の負 荷追従運転が行われている。 今後日本でも、自然エネルギーの導入を拡大するためには、30 日等出力制御枠などで制 限されている自然エネルギーの受け入れ可能性を高めていくことが必要である。そのため には、長期固定電源の優先給電ルールを見直すことが求められる。 2 背景 日本では固定価格買取制度の施行以降、太陽光発電を中心に自然エネルギーの導入容量 が増加したが、太陽光発電が電力供給に占める割合は約 2%程度、風力発電や地熱発電は 1%未満(それぞれ 2014 年度)と未だ少ない。しかし、いくつかの電力会社では、今後の 太陽光発電や風力発電の増加の見通しを受けて、既に太陽光発電や風力発電の接続可能量 (30 日等出力制御枠)を設定している(表 1) 。30 日等出力制御枠とは最大で 30 日や 360 時間(太陽光) 、720 時間(風力)の出力抑制(無補償)を条件に接続できる自然エネルギ ーの容量である1。30 日等出力制御枠を上回る発電設備は無補償無制限の出力抑制の対象に なるため、発電事業者にとって大きなリスクになる。 表 1 電力各社の太陽光発電・風力発電の接続可能量(30 日等出力制御枠)(単位:MW) 北海道 太陽光 風力 東北 北陸 中国 四国 九州 沖縄 1170 5520 1100 6600 2570 8170 495 360 2510 590 1090 640 1800 183 表 2 では、30 日等出力制御枠に相当する太陽光発電と風力発電が導入された場合におけ る、販売電力量に対する太陽光、風力の各発電量比率と、出力抑制比率(出力抑制量/発 電電力量)を電力会社ごとに示している。この場合、北海道では販売電力量における太陽 光発電と風力発電の比率がそれぞれ 5.3%と 2.6%になる。また、現在の出力抑制のルール では、北海道の場合、太陽光発電で約7%、風力発電で約 11%と大きな出力抑制が必要に なると試算される。 表 2 接続可能量(30 日等出力制御枠)導入時の販売電力量比と出力抑制量の見通し 北海道 東北 北陸 中国 四国 九州 沖縄 ドイツ 販売電力量比 太陽光 5.3% 9.0% 3.7% 13.7% 10.3% 11.4% 7.5% 6.1% 風力 2.6% 7.3% 2.7% 2.4% 5.6% 3.0% 5.1% 9.7% 7.0% 7.5% 3.6% 6.7% 8.4% 4.7% 3.8% 0.7% 11.1% 4.5% 3.5% 3.5% 3.5% 1.9% 4.5% 2.1% 出力抑制量 太陽光 風力 出典)出力抑制量は新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ(第 7 回)資料より引用、 販売電力量には 2014 年度分 電力需要実績 (確報)2を利用し、財団で試算した。 1 新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ(第 7 回)資料 http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/keitou_wg/007_ha ifu.html 2 電気事業連合会,2014 年度分 電力需要実績 (確報) https://www.fepc.or.jp/library/data/demand/2014.html 3 欧州の事例を見ると、ドイツでは自然エネルギーの導入が増加しながらも、出力抑制の 比率は低い水準にとどまっている。ドイツは、風力発電と太陽光発電の普及が進み、発電 量比率は 2014 年にそれぞれ 9.7%と、6.1%に達している(図1) 。その中で、出力抑制比 率も上昇しているが、2014 年時点では風力発電で 2.1%、太陽光発電で 0.7%に留まってい る。日本の電力各社の出力抑制の想定は、ドイツにおける出力抑制の実績を大きく上回る 水準である。 % 10.0 9.7 7.5 6.1 5.0 電力消費における 風力比率 電力消費における 太陽光比率 風力発電の出力抑 制比率 2.5 2.1 0.7 0.0 2009 図 1 2010 2011 2012 2013 太陽光の出力抑制 比率 2014 ドイツにおける太陽光発電・風力発電比率と出力抑制の推移3 出典) AGEB Stromerzeugung nach Energieträgern 1990-2014 (11/25/2015) and Bundesnetzagentur Monitoring Bericht 2010-2015 より財団作成 ※ドイツは販売電力量比率ではなく電力消費量における太陽光発電と風力発電の比率を示した。 日本で 30 日等出力制御枠の設定が必要とされ、また出力抑制量がドイツと比較して大き くなる要因には、系統運用方法の違いがある。欧州では自然エネルギーを有効に活用でき るような系統運用ルールが採用されている一方で、日本では一部で自然エネルギーの活用 を優先するルールへの移行が進められているが、現在でもなお、原子力発電や火力発電に よる供給が事実上、優先される系統運用ルールが採用されている。 そこで、本レポートでは、日本と欧州の比較から自然エネルギーをより効率的に活用す るための系統運用対策について検討した。 3 AGEB, Stromerzeugung nach Energieträgern 1990-2014(11/25/2015) and Bundesnetzagentur Monitoring Bericht 2010-2015 4 1.広域運用 電力会社(系統運用者)は、広域運用を行うことで、地域を越えて調整力や供給力を活 用することが可能になり、需給運用を効率化することが期待されている。本章では、広域 運用の中で特に地域を越えた供給力の活用について議論する。供給力の観点では、発電事 業者や小売り事業者が地域を越えて電力取引を行うことで、相対的により価格競争力のあ る電源から順番に利用され、発電コストの低減が可能になると期待される。地域を越えた 電力取引について日本と欧州の特徴を比較して議論する。 1.1 日本の広域運用の特徴 日本では電気事業法による供給区域に基づき、各電力会社区域内で需給バランスをとる ことを基本としてきた。そして、これら9つの電力会社間は地域間連系線で連系されてお り、連系線を通した広域運用が実施されている4(図2)。各地域間連系線には「運用容量」 が設定されおり、この運用容量内で地域を越えた電力取引を行うことができる。 図 2 日本の地域間連系線5 出典)電力広域的運営推進機関、平成 28 年度、29 年度の連系線の運用容量の値より引用 4 電力系統の構成及び運用に関する研究会,電力系統の構成及び運用について(平成 19 年 4 月) http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1368617/www.meti.go.jp/press/20070417003/denr yokuken-houkokusho.pdf 5 電力広域的運営推進機関,平成 28 年度、29 年度の連系線の運用容量の値(平成 28 年 3 月) https://www.occto.or.jp/keito/renkeisen/2016_0310_h28_29_unyouyouryou.html 5 (1)地域を越えた電力取引 地域を越えた電力取引は大きく分けて①個々の事業者による相対の電力取引と、②卸電 力取引市場(主に前日スポット市場)を通じた電力取引の二つがある。図3は 2010 から 2014 年度の取引別の連系線の利用状況を図示したものである。日本では、相対取引による連系 百万kWh 線の利用が多い。 120,000 100,000 80,000 相対取引 60,000 前日スポット取引 時間前取引 40,000 20,000 0 2010 2011 図 3 2012 2013 2014 取引別連系線の利用状況6 出典)電力広域的運営推進機関年次報告書-平成 27 年度版-より財団作図 ① 相対取引 まず、事業者は地域間連系線を利用し、他地域の一般電気事業者や需要家と電力の相対 取引を行うことができる。例えば、東北東京間連系線では、主に火力発電、水力発電、原 子力発電による連系線利用が登録されている7。これらの取引の背景の一つには、 「広域電源」 の存在がある。日本では全国大での電源開発の効率化の観点から、地域を越えて電力の供 給を行う「広域電源」の開発が行われてきた。主に電源開発(J-POWER)の石炭火力発電所 や、一般電気事業者が有する原子力発電所等が広域電源として供給を行っている8。平成 22 年度 6 月に策定された「エネルギー基本計画9」でも、下記のように広域電源開発を推進し ていく方針を示していた。 6 電力広域的運営推進機関年次報告書-平成 27 年度版https://www.occto.or.jp/koiki/koukai/files/nenjihoukokusho_h27_s_150707r.pdf 7 第4回広域系統整備委員会 資料1「東北東京間連系線に係わる計画策定プロセスについて」 https://www.occto.or.jp/oshirase/kakusfuiinkai/files/seibi_04_01.pdf 8 新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ(第 7 回)資料「電力各社設備一覧」 http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/keitou_wg/pdf/00 7_s01_00.pdf 9 エネルギー基本計画(平成 22 年 6 月) http://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/100618honbun.pdf 6 広域電源開発の推進 電力需要の伸び率が低下する中で、電力供給システムの低炭素化を進めるための電源 開発は、これまで以上の説明責任と多大な負担を伴う。そのため、中長期的な電源開 発を推進し、安定供給を確保する観点から、事業者の経営の自主性を尊重しつつ、広 域電源の開発や共同開発、及びそれに伴う広域融通等を進めていく重要性が高まるこ とが想定されるため、そのあり方について検討する。 広域電源の推進には、電力需要の伸びが鈍化し、電力各社単体では大型の電源への投資 が見合わない可能性がある中で、各社の協力によって高効率大容量機を導入し、コスト削 減を実現する意図があったと考えられる。しかし、広域電源の開発によって地域を越えて 供給力や需要を確保できる一方で、取引や連系線の利用を長期的に固定し柔軟性を損なっ ている側面もあると考える。地域間連系線には、このような広域電源から地域を越えて供 給するための電源線的な役割も含まれていると指摘されている10。 ② 卸電力市場取引 次に相対取引ではなく、卸電力取引市場(主に前日スポット市場)を通して他地域と電 力取引を行うこともできる。日本の前日スポット市場は、翌日受渡しの電力の取引を行う ものであり、地域別ではなく全国で一つの市場となっている。ある地域で電気が余ってい る場合、前日スポット市場で販売することで、他地域の需要家が電力を購入することが可 能になる。その結果、全国・広域でより安価な電力を利用することが可能になる。前日ス ポット市場を通した広域取引によって、その時々の広域のメリットオーダーの実現が期待 される。 ただし、前日スポット市場における地域を越えた電力取引を行うためには、その取引を 実施する地域間連系線の送電容量が必要である。日本では、この送電容量として「空容量」 という概念が用いられ、この空容量の範囲で前日スポット市場の取引が行なわれている。 具体的には、以下の通りである。 前日スポット市場では、まず日本全国を一つの市場として約定処理を行い、各地域の売 買を成立させるための地域間の電力取引量を決定する。この際に、地域間連系線の空容量 が、地域間の電力取引量に対して十分に存在していれば、前日スポット市場の取引は成立 する。しかし、電力取引量が空容量を超えてしまう場合は、地域を越えた取引は空容量が 上限となり、これを超える分は実現できない。この場合は、さらなる需給調整を地域内で 行うために、改めて地域単独で約定処理を行う。この時、当該の地域では、前日スポット 10 電力系統の構成及び運用に関する研究会, 電力系統の構成及び運用について(平成 19 年 4 月) http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1368617/www.meti.go.jp/press/20070417003/denr yokuken-houkokusho.pdf 7 市場全体のシステム価格と別に、 「エリアプライス」と呼ばれる地域ごとの価格が約定され る。これは市場分断処理と呼ばれる。 市場分断処理の発生は地域間連系線の空容量不足によって、市場での広域の電力取引が 実現できなかったことを意味する。例えば、売り入札の多くが北海道で行われ、買い入札 の多くが東北地方で行われていた場合、前日スポット市場の取引を成立させるためには、 北海道から東北へ地域間連系線を通して電力を送る必要がある。この電力の取引量が北本 連系線の空容量以内であれば取引は成立する。しかし、取引量が空容量を上回った場合、 北海道エリアは、他地域との取引量を空容量以内に限定したうえで、さらなる需給調整の ため、改めて北海道内のみで約定処理を行うことになる。このように、市場取引において 広域での電力取引を目指したとしても、地域間連系線の空容量が不足している場合、大幅 な電力取引は実現しない。前日スポット市場における取引を十分に機能させるためには、 十分な「空容量」を確保することが重要となる。 (2)相対取引を優先した連系線運用ルール 日本では、各地域間連系線には「運用容量」が設定されおり、運用容量の範囲内で地域 を越えた電力取引を行うことができる。 この地域間連系線の運用容量は、まず個々の事業者の相対取引に対して割り当てられる ルールとなっている。他地域との相対取引を行う事業者は、事前に電力取引に必要な地域 間連系線の利用の申し込みを行う(「希望計画」の提出)。各事業者から申請された「希望 計画」は送電可否が判断される。そして送電可能となった「希望計画」は容量登録されて、 連系線が利用できることとなり、「利用計画」と呼ばれる。これらの「利用計画」を潮流の 向きを考慮して合算した値が「計画潮流」と呼ばれている11。「計画潮流」は、運用容量を 上回って系統の混雑が発生しないように調整される。 これに対して前日スポット市場を通した広域の電力取引では、地域間連系線の空容量が 活用されている。空容量とは、運用容量から事業者の相対取引による利用容量(計画潮流) やマージン(緊急時用に電力会社が確保するもの)を差し引いたものである。つまり、地 域間連系線が相対取引によって占有された場合、前日スポット市場を通した広域取引の活 用の可能性は少なくなる仕組みとなっている。 (3)連系線の長期的な空容量不足と短期的な空き 図4は 2017 年度から 2024 年度の東北東京間の運用容量(黒線) 、電源ごとの地域を越え た相対取引量、マージンと空容量を長期的に示している。各電源の取引量は、潮流の向き を考慮して個別の事業者の取引を合算した値である。図4では、まず運用容量が 2020 年度 以前は 5000MW、2021 年度以降は 5700MW が計画されている。これに対して、各年度におい 11 電力広域的運営推進機関,業務規程 https://www.occto.or.jp/jigyosha/koikirules/files/kitei_gyoumu20150831r.pdf 8 て長期的に 2300MW~3000MW の火力発電 (赤色)の相対取引が計画されていることがわかる。 そして、2021 年度以降では、原子力発電(灰色)もまた約 1300MW の大きな相対取引が計画 されている。これら 2 つの相対取引が、運用容量(黒線)に対して、大きな割合を占めて いる。また、マージンは 850~900MW が常に確保されている。しかし、運用容量から各相対 取引やマージンを差し引いた空容量(黄色)は、2017 年度と 2018 年度においてそれぞれ 662MW と 533MW が存在しているが、2019 年度以降はゼロとなる。これは長期的には地域間 連系線の空容量が不足している状況を示している。空容量の不足は、前日スポット市場に おける広域取引が困難になることを意味する。 さらに電力広域的運営推進機関によると「広域的な電力取引により東北東京間連系線の 利用を拡大しようとする電気供給事業者」の募集に対して、約 5,000MW の応募があり、現 東北 -→ 東京(MW) 状の運用容量を上回る東北東京間連系線の利用希望が存在している12。 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 2017 火力 図 4 2018 水力 原子力 2019 2020 その他 2021 マージン 2022 空容量 2023 2024 運用容量 東北‐東京(順方向)の連系線における長期断面の運用容量と各電源の割当て13 東北から東京方向(順方向)への送電を正とする。図中のマージンと空容量を除く各電源 への割当を合算したものが計画潮流となる。 このように、連系線の運用容量の多くが長期の利用計画によって占められている。しか しその一方で、より短期的な実需給面では大きな空容量が生じている。これは、連系線の 運用ルールの結果である。 連系線利用ルールでは、希望計画や利用計画は、最長で 10 年先の年度別最大時出力(kW) の容量登録を行い、さらに原則として先着優先で容量登録が行われる。そしてより実需給 に近付いた段階で、平日と休日、夜間と昼間ごとの最大時出力(kW)の容量登録(翌年、 翌々年の計画など)や、さらには 30 分毎の発電量(kWh) による詳細な利用計画(翌々週 第3回広域系統整備委員会 資料2「東北東京間連系線に係わる計画策定プロセスについて」 https://www.occto.or.jp/oshirase/kakusfuiinkai/files/seibi_03_02.pdf 13 第4回広域系統整備委員会 資料1「東北東京間連系線に係わる計画策定プロセスについて」 https://www.occto.or.jp/oshirase/kakusfuiinkai/files/seibi_04_01.pdf 12 9 から翌日など)へと詳細化していく 11。そのため、長期の利用計画では空容量が無かったも のが、計画の詳細化を経て、より短期断面で空容量が生じるケースがある。また電力各社 が緊急時用に確保しているマージンも実需給断面に向けて縮小され空容量が生じる。 そこで、図5と図6では、10 年前の 2005 年時点の長期計画の見通しと 2014 年の実績デ ータを比較した。 図5は、2005 年時点の 2014 年の東北東京間連系線(相馬双葉幹線)における計画潮流、 マージン、空容量の見通しを示したものである。長期計画では、年度別の最大時出力(kW) における計画潮流、マージン、空容量が計画されている。2005 年の時点では、長期の利用 計画に基づいて、 2014 年の計画潮流は約 3,630MW、マージンは 1,000MW、空容量は 370MW と計画されていた14。運用容量の多くがマージンや計画潮流によって利用されると想定され ており、この空容量は運用容量の約7%程度となっていた。 東北→東京(MW) 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 計画潮流 図 5 マージン 空容量 2005 年時点における 2014 年の東北東京間連系線利用見通し(需要ピーク時) これに対して 2014 年の実績データでは、 多くの空容量が生じていたことが分かっている。 図 6 では、2014 年 1 年間(1 月~12 月、30 分毎)の相馬双葉幹線の空容量実績を示してい る15。この現状の実需給断面でも、運用容量の多くを計画潮流(緑)が占めてはいるが、空 容量(黄)も多く生じている。全体の 85%の時間では運用容量に対して、20%以上の空容 量が生じており、さらに 8 月から 9 月にかけては多くの時間帯で空容量が 30%台後半から 最大で 50%以上に達している。 図5と図 6 の比較から、長期計画で連系線の運用容量が不 足していても、実際の需給断面ではより多くの空容量が発生する傾向があることがわかる。 風力発電連系可能量拡大のための会社間連系線活用方策の検討(中間報告) http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g50606a10j.pdf 15 電力広域的運営推進機関,系統情報公表サイト https://www.occto.or.jp/keito/denkeito/index.html 14 10 東北→東京(MW) 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 計画潮流 図 6 マージン 空容量 2014 年の東北-東京間連系線の空容量実績 出典)電力広域的運営推進機関,系統情報公表サイトよりデータを引用し財団作成 さらに図7では、東北東京間と共に北海道本州間、関西四国間、中国四国間、中国九州 間の連系線利用率(2014 年度)の試算結果を示した。この利用率は「各地域間連系設備の 運用容量算定結果の公表16」に示された各連系線の運用容量と各連系線の実際の利用電力量17 を基に年間の利用率を簡易的に試算したものである。図7によると関西四国連系線で約 76% の利用率を示しているが、その他の連系線の利用率は低く、数十%の空容量が存在してい ることを示している。 100.0% 76.3% 80.0% 60.7% 55.1% 60.0% 39.1% 40.0% 20.0% 2.7% 0.0% 東北向き 東京向き 北本連系線 関西向き 中国向き 中国向き 東北東京間連系 関西四国間連系 中国四国連系線 中国九州間連系 線 線 線 図 7 地域間連系線の利用率試算(2014 年度) 16 各地域間連系設備の運用容量算定結果-平成 26 年度版https://www3.occto.or.jp/User/Upload/4sewliuikgsjky455ab5txjm/h2604_opecapa_posting.p df 17 電力広域的運営推進機関年次報告書-平成 27 年度版https://www.occto.or.jp/koiki/koukai/files/nenjihoukokusho_h27_s_150707r.pdf 11 実需給断面で空容量が生じる原因としては、先に述べた 10 年後の長期計画の利用計画か ら、徐々に不要なものを空容量として開放していく詳細化の運用方法が要因の一つである と考えられる。また、近年の原子力発電の状況の変化や需要の低下を受けて、長期で容量 確保を行っていた電源が計画を変更したことで空容量が生じていると考えられる。 (4)自然エネルギーの広域取引への影響 電力会社によると、電力需要が低い時期や時間帯では、電力の需給バランスを維持する ため、太陽光発電や風力発電の出力抑制を求められるとしているが、余った電気を他地域 に供給することができれば、出力抑制を回避し、より有効活用できる可能性がある。日本 では、自然エネルギーの 30 日等出力制御枠の算定で、地域間連系線の「空容量」を利用し た地域外との取引が想定されている。しかしその取引の可能性は限定的にしか考慮されて いない。図8は参考として、30 日等出力制御枠の算定で用いられた北海道電力、東北電力、 四国電力、九州電力における地域間連系線の空容量想定を示したものである。この想定で は、連系線運用容量の大部分は利用登録された計画潮流やマージンに占められ(図中、緑) 、 空容量(黄)は限定的になると想定されている。空容量が限定的であるため、自然エネル 連系容量(MW) ギー大量導入時の広域取引の効果も大きくないと想定されている。 6000 5000 空容量 4000 マージン 3000 2000 計画潮流 1000 周波数維持面制約 0 北海道 図 8 東北 四国 九州 北海道、東北、四国、九州電力における連系線利用想定18 出典)新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ(第 7 回)資料から、北海道電力説 明資料、東北電力説明資料、四国電力説明資料、九州電力説明資料より財団作成 しかし、この 30 日等出力制御枠の算定では、空容量が実際より過小に想定されている場 合がある。東北電力の試算では、図5で示したような長期断面(10 年後)での計画潮流や 空容量の値が利用されている 18。これは計画潮流が(計画どおり)地域間連系線を最大限に 新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ(第 7 回)資料 http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/keitou_wg/007_ha ifu.html 18 12 利用した場合の出力と空容量を示すものである。先に述べたように、実需給断面では長期 断面の想定よりも多くの空容量が発生している。30 日等出力制御枠の試算において、長期 断面の計画潮流ではなく、図6に示したような計画潮流や空容量の実績値を想定すれば、 空容量が拡大し、出力制御枠も拡大すると考えられる。 実需給断面で生じる空容量を詳細に評価して、30 日等出力制御枠の試算の考慮に入れる など、自然エネルギーにとって空容量をより効果的に活用できるようにすることが望まし い。実際に、九州電力の 30 日等出力制御枠の試算では、図6で示したような計画潮流の実 績値が想定されており、電力会社間で試算の前提が統一されていない。 また、実需給断面においては、計画潮流が部分的に空容量として開放されているものの、 図 7 で示したように、 最終的に運用容量の多くが利用されないまま残る状態になっている。 現状の運用方法では、従来型発電による長期計画がいったん先に連系線を占有し、実需給 断面で発生する空容量の大きさはこれらの従来型発電の動向次第となっている。この結果、 他の事業者も含めたより効率的な運用を阻害している恐れがあり、より公平で透明性があ る運用方法へと移行することが重要な課題であると考える。 13 1.2 欧州の広域運用の特徴 (1)マーケットカップリング(市場連結) 欧州では Nordpool や EPEX など複数の電力市場が存在し、これらの前日スポット市場は マーケットカップリング(Market coupling 以下、市場連結とよぶ)と呼ばれる仕組みで 連結されている19。この市場連結では、各電力市場は共通のプラットフォームを用いて約定 処理を行っており、異なる国や市場での売り・買いの入札が、共通のプールでメリットオ ーダーに基づいて取引される。その結果、ある国で安価な電力が売られれば、その他の国 でもその電力を活用することが可能になっている。この連結された市場では、取引結果に 応じて国際連系線を通して電力が融通される。日本の前日スポット市場と同様に、取引成 立に必要な電力融通を行う上で連系線の制約が生じない限り、連結された市場内のスポッ ト市場価格は共通の価格となる。2015 年時点で、19 の国で欧州の 85%の電力消費の市場が 連結されている(図9)20。 この市場連結の目的には、上述したメリットオーダーの実現とともに、市場の流動性を 高めることが挙げられている 19。欧州委員会(European Commission)の Quarterly Report on European Electricity Markets によると、2014 年の第三四半期では、卸売電力市場に おける前日スポット市場の取引量は 317TWh であった21。市場の流動性を示す指標(スポッ ト市場取引量/電力消費量)は 48.8%に達する。なお、欧州では、北欧の Nordpool やフラ ンス・ドイツを含む CWE(Central Western Europe) など各地域に市場があるが、流動性 指標が最も高いのは Nordpool の 85.9%であり、 CWE では 33.4%であった (日本は約 1.4%)。 地域によって差はあるが、欧州の前日スポット市場では活発に取引がなされている。 (2)前日スポット市場を活用した広域取引 欧州では、広域の電力取引が主に前日スポット市場を通して実現している。まず、市場 連結された地域は、いくつかの「入札エリア」に区分され、入札エリア間は地域間連系線 (国際連系線)で連系されている(図 10)。入札エリアとは、電力取引を行う際のエリアを 分けるものである。同一のエリア内の電力取引であれば連系線の制約を考慮しない。そし て入札エリアをまたぐ電力取引では、エリアをつなぐ地域間連系線(国際連系線)の制約 を考慮しなければならない。つまり、この入札エリアは、日本の卸電力取引市場における 各電力会社エリアのような存在である。 19 Elia, Day-Ahead Market Coupling ensuring better market liquidity http://www.elia.be/~/media/files/Elia/Products-and-services/ProductSheets/C-Cros s-border%20allocations/C4_E_DayAhead_MarketCoupling_F.pdf 20 EPEXSPOT, MARKET COUPLING, http://www.epexspot.com/en/market-coupling 21 European Commission, Quarterly Report on European Electricity Markets https://ec.europa.eu/energy/sites/ener/files/documents/quarterly-electricity_q3_ 2014_final_0.pdf 14 図 9 欧州における前日スポット市場の市場連結 出典)BMWi, An electricity market for Germany's energy transition, White Paper by the Federal Ministry for Economic Affairs and Energy22より引用 22 BMWi, An electricity market for Germany's energy transition, White Paper by the Federal Ministry for Economic Affairs and Energy http://www.bmwi.de/EN/Service/publications,did=721538.html 15 図 10 欧州の電力入札エリア 出典)ofgem, Bidding Zones Literature Review (July 2014)23より引用 23 ofgem, Bidding Zones Literature Review https://www.ofgem.gov.uk/sites/default/files/docs/2014/10/fta_bidding_zone_confi guration_literature_review_1.pdf 16 入札エリアは主にフランスやスペイン、英国のように単一の国で形成されている。また ドイツとオーストリアのように、異なる国が単一の入札エリアを形成しているケースや、 北欧やイタリアのように国内で複数の入札エリアを持つ国がある。例えば、ドイツでは国 内に4つの TSO (系統運用者)が存在するが、ドイツ(あるいはオーストリア)の電力取 引であれば、発電地点から需要地までの連系線の利用容量を確保する必要はない。そして、 入札エリアを越えた電力取引は、「間接オークション(Implicit auction)」という連系線 運用方式によって実施されている 19。 間接オークションは、連結した市場全体で、入札エリアを越えてより安価な電源を活用 していくために、入札エリア間の連系線(国際連系線)を活用するという考え方にもとづ く運用方法である。間接オークションでは、前日スポット市場での異なる入札エリアにお ける売りと買いの結果に応じて、エリアを越えて市場取引を成立させるために必要な地域 間連系線(国際連系線)の電力融通量を計算する。そして、計算された電力融通量が地域 間連系線の利用可能容量(ATC: Available Transmission Capacity 、日本の空容量に相当 する)未満であれば、地域間の電力融通が実現し取引が成立する。このとき市場全体の前 日スポット価格は同一となる。市場での入札に対して間接的に連系線の利用容量が割り当 てられることから間接オークションと呼ばれる。その一方で、計算された電力融通量が地 域間連系線の利用可能容量を超過した場合、地域間の電力融通量は上限値である連系線の 利用可能量となり、さらなる需給調整をエリア内で行うために、独立したエリアプライス が決定される。これは日本の前日スポット市場の運用と同様である。 実際に、北欧では、国内でも複数の入札エリアが設けられているが、頻繁に市場分断処 理が実施されている(図 11) 。図 11 では、スウェーデンやデンマークの電力価格が共通で あることに対して、ノルウェーではエリアごとの価格が付けられている。異なるエリアプ ライスを付けているエリアの境界では、地域間連系線(国際連系線)を通した電力融通量 が連系線の利用可能容量に達し、最大限に送電されていると考えられる。 17 北欧(ノルドプール)のエリアごとの前日スポット価格24 図 11 (2015 年 12 月 14 日日本時間 20 時、デンマーク 12 時) 24 Statnett, Nordic power flow http://www.statnett.no/en/market-and-operations/data-from-the-power-system/nordi c-power-flow/ 18 (3)前日スポット市場のための連系線活用 欧州の前日スポット市場を通した広域取引において、入札の際に連系線の容量確保を必 要としない点は、日本の前日スポット市場と共通している。しかし、日本では連系線運用 容量のうち計画潮流を除いた空容量を用いて、比較的小規模に前日スポット市場の運用を 行っているが、欧州では連系線の運用容量の大部分を間接オークション方式で前日スポッ ト市場の取引成立に活用している。そのため、欧州の連系線は、日本と比較してより柔軟 な運用が可能となっている。この前日スポット市場における連系線の活用方法に大きな違 いがある。 図 12 では、2015 年 3 月のドイツ-フランス間における NTC(Net Transfer Capacity, 日 本の運用容量に相当する)と ATC(Available Transmission Capacity, スポット市場の利 用可能容量、日本の空容量に相当する)を示している。図 12 では、この期間、運用容量(黒 線、 NTC) が時間別で 1200MW から 3000MW に設定されており、その中で各日の利用可能量(橙、 ATC)が十分な割合を占めていることがわかる。つまり前日スポット市場向けの連系線利用 MW 可能量が十分に確保されており、広域の電力取引が可能となっている。 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 ATC NTC 2015/3/1 2015/3/2 2015/3/3 2015/3/4 2015/3/5 2015/3/6 2015/3/7 2015/3/9 2015/3/10 2015/3/11 2015/3/12 2015/3/13 2015/3/14 2015/3/15 2015/3/16 2015/3/17 2015/3/18 2015/3/19 2015/3/20 2015/3/21 2015/3/22 2015/3/23 2015/3/24 2015/3/25 2015/3/26 2015/3/27 2015/3/28 2015/3/29 2015/3/30 2015/3/31 0 図 12 ドイツからフランスへの運用容量(NTC)と前日スポット市場の利用可能量(ATC) 出典)CASC マーケットデータより財団作成25。なお 2015 年より連系線の運用管理が NTC、 ATC 方式から FB(Flow Based の運用容量管理)方式に移行が始まり、利用可能量は ATC に かわって RAM(Remaining Available Margin)という定義が用いられている。 上述のように欧州では、連系線の大部分を間接オークション方式で前日スポット市場と 連動して運用している。その一方で、日本の長期の連系線利用計画のような、入札エリア 25 CASC.EU, http://www.casc.eu/en 19 を越えた長期の相対取引に対して、欧州では送電権のオークションを行っている26。これは 間接オークション(Implicit auction)に対して直接オークション(Explicit auction) と呼ばれている。事業者は他地域との相対取引を実施するために、オークションで翌年 1 年間や特定の月間の送電権を取得することができる。日本のような先着優先ではなくオー クションの形式をとることで、より透明性や公平性が確保されている。また、運用容量の 大部分が前日スポット市場で活用できるように、この送電権オークションにかけられる送 電権は運用容量の一部となっている。図 12 ではこの期間、時間別に設定された 1200MW か ら 3000MW の運用容量に対して、年間の送電権オークションにかけられていた容量は正味で 逆方向(フランスからドイツ)へ 400MW であった27。また各月では、正味で順方向(ドイツ からフランス)に 25MW のオークションが実施されていた28。 さらに、オークションにかけられるのは翌年の 1 年間や各月の送電権となっており、日 本のように 10 年先の送電権を割り当てることはしていない。長期の送電権は不確実性が大 きくなること、新規参入者を阻害することなどの理由から導入されていない29。 (4)自然エネルギーを含めた広域取引 欧州ではこのように、地域間連系線(国際連系線)を主に、 「間接オークション」によっ て、前日スポット市場での広域取引に用いている。自然エネルギーの電力は、その性質か ら長期的な予測は困難なため、長期的に地域間連系線の容量を確保することには困難を伴 う。しかし、一方で前日スポット市場など、より実需給に近い時間帯であれば、予測の精 度も高まり市場での取引の可能性も高まる。そのため、自然エネルギーの比率の高い国で は、前日スポット市場での取引を通して、自然エネルギーも含めた広域取引が実現してい ると考えられる。 例えば、図 13 は、デンマークにおける 2015 年 7 月 9 日から 11 日にかけての 3 日間の電 力供給と、国外との電力取引の時間推移を作図したものである。各電源からの電力供給量 を面グラフで示し、国外との正味の電力取引量、及び、それを含めた電力供給量の合計を 折れ線で示している。9 日から 10 日にかけて陸上風力(青色) ・洋上風力(紫色)が大幅な 電力を供給し、 その後 11 日には陸上風力や洋上風力からの供給が大幅に減少した。この時、 国外との電力取引(赤破線)は、9 日から 10 日にかけてマイナスの値を示している。これ は国外への送電を意味しており、最大で約 700MW の電力を国外へ送電していた。一方で、 KU Leuven Energy Institute, The current electricity market design in Europe https://set.kuleuven.be/ei/factsheets 27 順方向(ドイツからフランス)に 600MW と逆方向(フランスからドイツ)に 1000MW であり正 味では逆方向に 400MW となる。 28 順方向(ドイツからフランス)に 400MW と逆方向(フランスからドイツ)に 375MW であり正 味では逆方向に 25MW となる。 29 ENTSO-E Assessment of Multi-Annual Hedging Transmission Rights https://www.entsoe.eu/publications/position-papers/position-papers-archive/Pages/Posi tion%20Papers/Multi-Annual-Hedging-Transmission-Rights-Assessment-.aspx 26 20 11 日に入って風力発電からの供給が減少を始めると、電力の国外取引は国内への送電に転 じ、2000MW を超える電力が輸入されている。陸上風力発電や洋上風力発電の大きな変動に ともなって、大きな電力が国外と融通されている様子がわかる。 なお、この 9 日から 10 日にかけて、デンマークでは最大で需要に対して 140%の自然エ 出力 MW ネルギーが供給されていた。 5000 5000 4000 4000 3000 3000 2000 2000 1000 1000 0 0 9日 10日 21:00 - 22:00 18:00 - 19:00 15:00 - 16:00 12:00 - 13:00 09:00 - 10:00 06:00 - 07:00 00:00 - 01:00 03:00 - 04:00 21:00 - 22:00 18:00 - 19:00 15:00 - 16:00 12:00 - 13:00 09:00 - 10:00 06:00 - 07:00 00:00 - 01:00 03:00 - 04:00 21:00 - 22:00 18:00 - 19:00 15:00 - 16:00 12:00 - 13:00 09:00 - 10:00 06:00 - 07:00 03:00 - 04:00 -1000 00:00 - 01:00 -1000 11日 バイオマス 太陽光 廃棄物 洋上風力 陸上風力 原子力 無煙炭 褐炭 石油 天然ガス その他 国外との取引 供給合計 図 13 デンマークにおける電力需給と広域取引状況(2015 年 7 月 9 日から 11 日) 出典)ENTSOE transparency platform データより財団作成30 注)国外との取引(折れ線)は、プラスの値では電力を国外から受け入れている状況を示 し、マイナスの値では電力を国外へ送電している状況を示している。 30 ENTSOE, Transparency platform, https://transparency.entsoe.eu/ 21 1.3 日本と欧州の広域運用の比較と論点 (1)日本と欧州の広域運用の比較 日本と欧州の広域運用を比較すると、以下のように、広域運用の主要な取引形態とそれ を可能にする連系線の運用ルールに違いがあることがわかる。 日本では、広域取引が主に広域電源などを利用する事業者の相対取引によって行われて いる。そして、電力の相対取引を優先した連系線運用ルールに基づいて、運用容量の大部 分が従来型発電(火力や原子力発電)の 10 年間程度の長期的な利用に割当てられている。 その結果、地域間連系線は長期的に空容量が不足している状況にある。日本では、前日ス ポット市場においても、空容量を用いた広域運用が行われてはいるが、空容量が不足して おり、この市場を通した広域取引の量は少ない。この結果、30 日等出力制御枠(接続可能 量)の検討においても、空容量の不足によって、太陽光発電や風力発電の広域取引の可能 性は少なくなっている。 これに対し欧州では 2015 年時点で、19 の国の市場が連結され、前日スポット市場を通し た広域の電力取引が連系線を通して活発に行われている。市場の流動性を示す指標(スポ ット市場取引量/電力消費量)は、ノルドプールで約 85.9%、日本で約 1.4%である。 そして欧州では、連系線の運用容量の大部分を間接オークション(Implicit auction) 方式で前日スポット市場の取引成立に活用している。間接オークション方式では連結した 広域の前日スポット市場取引の中で、より安価な電源から取引が成立するのに伴ってそれ らの取引に連系線の運用容量が割り当てられていく。その結果、前日スポット市場を通し て自然エネルギーを含めたその時々の広域でのメリットオーダーの実現が期待される。 このように、日本では、火力発電や原子力発電の相対取引を中心とした広域取引が行わ れている一方で、欧州では、自然エネルギーも含めて前日スポット市場を通した広域取引 が活発に行われている。また、これらの広域取引において、日本では連系線運用容量を相 対取引で割当てていく方法をとっており、欧州では卸電力市場と連動して連系線を活用す る方法をそれぞれ採用している。 (2)日本の広域運用の論点 ①連系線運用容量の前日スポット市場への開放 日本において自然エネルギーの導入を拡大していくためには、広域運用の拡大が必要で ある。そのためには、欧州のように前日スポット市場での広域取引の拡大が求められる。 日本では今後、卸売電力市場を通して自然エネルギーの広域取引が行われる可能性があ るが、地域間連系線は、現在、主に火力発電や原子力発電によって占有され、空容量が不 足した状態にある。そのため自然エネルギーの広域運用の拡大の可能性は小さい。相対取 引を主体とした連系線利用ルール上では、太陽光発電や風力発電の広域取引も地域間連系 線の運用容量の確保が可能となっている。しかし、電力広域的運営推進機関の資料(平成 22 27 年 7 月)によると、太陽光や風力発電による連系線の運用容量確保は、ゼロである31。太 陽光発電や風力発電は、その性質から長期的に出力を予測することは困難なため、連系線 の運用容量を長期的に確保することが困難であったと考える。これらの結果、これまでの 相対取引を主体とした広域の電力取引では、自然エネルギーの広域取引の十分な拡大が困 難であった。 欧州の間接オークションのように、日本でも地域間連系線容量の大部分を前日スポット 市場へ開放することで、前日スポット市場において自然エネルギーを含めた電力の広域取 引を拡大することができると考える。前日スポット市場での広域取引が活性化すると、よ り実需給に近い時間帯での取引が可能となるため、自然エネルギーの予測精度向上の面か らも取引の可能性が高まると期待される。 ②長期的送電権オークションの導入 また、日本で連系線運用容量の大部分を前日スポット市場へ開放するためには、これま での相対取引への地域間連系線の運用容量の割り当て方法の見直しが必要である。具体的 には、欧州のように送電権のオークションの活用が考えられる。 現在の地域間連系線運用ルールでは、先着優先で運用容量の大部分を相対の広域取引に 長期に割り当てている。そこでまず、相対取引への連系線運用容量の割当量を縮小してい く必要がある。また、現状の割り当て方法では、長期的に空容量が不足している一方で、 実需給時間に近づくと、長期計画から利用しない運用容量が開放され、空容量が発生して おり、他の事業者を含めたより効率的な運用を妨げている恐れもある。 今後、日本においても、欧州の事例を参考に、自然エネルギーの広域取引を活性化させ るためには、送電線のオークションの活用が有効と考える。欧州では、日本の長期の連系 線利用計画のような、入札エリアを越えた長期の相対取引に対しては、運用容量の一部を 用いて送電権のオークションを行っている。事業者は他地域との相対取引を行う場合、オ ークションによって翌年 1 年間や特定の 1 か月間の送電権を得ることができる。ただし、 運用容量の大部分が前日スポット市場で活用できるように、この送電権オークションにか けられる送電権は運用容量の一部であり、かつ期間も1年毎となっている。日本でも、送 電権オークションの活用によって、長期的な送電権の割り当てを縮小しながら、より公平 で透明性を高く割り当てていくことが可能になると期待される。 31 2015 年 4 月から自然変動電源が連系線を利用するにあたっては、蓄電池等の組み合わせをし なくても、過去の発電実績等に基づき安定して発電し得る電力を蓋然性の高い計画として、自然 変動電源が利用可能であることが明確化され、条件が緩和された形となったが、その効果は未だ 不明である。 23 2.系統接続 自然エネルギーの売電を行うためには、発電設備を電力会社の送配電設備に接続するこ とが必要となる。発電設備の設置を行う事業者は、一般電気事業者(系統運用者)に対し て系統接続を申込む。一般電気事業者や系統運用者は、それに対して技術検討を行い、接 続可否を判断する。また、アクセス線のルート選定や送配電設備の増強工事の必要性を判 断し、所要工期、工事費や発電事業者の負担額等を算定する。ここではこの系統接続につ いて日本と欧州の特徴を比較して議論する。 2.1 日本の系統接続の特徴 (1)自然エネルギーの接続義務が未確立 固定価格買取制度では、 「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別 措置法」において電気事業者に対して、自然エネルギー発電設備の系統への接続義務が規 定されている。すなわち、 「電気の円滑な供給の確保に支障が生ずる恐れがあるとき」には 接続を拒否できるとの例外規定があるが、電力会社は発電設備を接続することにより電気 の供給が需要を上回ることとなる場合など、正当な理由がない限り接続を拒否できない、 との規定がおかれている32(なお、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関す る特別措置法の改正案では、接続義務に関する規定が変更となり、接続義務が改正電気事 業法(第 2 弾改正)第 17 条第 4 項におけるオープンアクセス義務で担保されることが検討 されている) 。 しかし、実際には、これまでに、主に太陽光発電設備の設備認定の増加を受けて、北海 道、東北、北陸、中国、四国、九州、沖縄の電力各社が太陽光発電や風力発電の接続可能 量(30 日等出力制御枠)を設定し、無制限無補償の出力抑制を条件とした系統接続を行っ ており、新たに接続する発電事業者にとって困難な状況となっている。さらに、新規の自 然エネルギーの系統接続の際に、既存系統の空き容量不足のために増強が必要となり、接 続が遅れる事例が生じている。 (2)先着優先による既存系統の空容量不足と増強 自然エネルギーの発電設備を系統に接続し供給を開始するには、まず電源線(発電所か ら電力系統への送電を主たる目的とする送変電等設備)を設置する必要がある。日本の接 続検討プロセスでは、発電設備の立地や規模に応じて一般電気事業者が電源線のルートを 選定し、設置に必要な負担金を算出する。この電源線の設置は発電設備設置者の負担とな る。 近年、自然エネルギー等の分散型電源の導入拡大などにより、電源線を設置するのみに とどまらず、電源線の接続ポイントから先の不特定多数が利用する既存の電力系統におけ 32 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H23/H23HO108.html 24 る送配電等設備(ネットワーク側の送配電等設備という)の空容量が不足し、その増強が 必要とされる場合が増加してきている33。電力各社は、これを受けて系統連系制約マップを 公開し、既存の基幹系統や地域供給系統における連系制約の発生情報を公開している。図 14 では、東京電力の基幹系統を例に、系統(黒線)における空容量の不足(赤線)を示し ている。同様に電力各社から公表されている連系制約マップによると、基幹系統、地域供 給系統の両方で、様々な地域で新規の発電設備の連系の際に、制約が生じる可能性が高く なっていることが指摘されている。 赤色:現在,特別高圧系統の 空容量が不足し,連系のため の対策が必要となる可能性が 高い電力設備 黒色:現在,特別高圧系統の 空容量があり,連系のための 対策が必要となる可能性が低 い電力設備 図 14 空容量マッピング(東京電力)34 日本では、自然エネルギーの発電設備が接続するネットワーク側の送配電設備の容量が 不足する場合は、接続に先立って系統を増強することが求められる。この背景には、地域 内送電線への接続が「先着優先」によって運用されていることがある。旧 ESCJ の整理によ 33 発電設備の設置に伴う電力系統の増強 及び事業者の費用負担等のあり方に関する指針 http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulation s/pdf/h27hiyoufutangl.pdf 34 東京電力,当社における系統情報について http://www.tepco.co.jp/corporateinfo/provide/engineering/wsc/yuudo-j.html 25 ると、新たな発電設備の系統アクセスの際には、既存の設備の存在を前提として、既存契 約分に制約が生じないように接続検討が行われる。系統増強とそのための高額の負担金が 必要となった場合、高額の工事費を抑えるために一部運用制約を設けたうえで契約するこ とは、例外的に可能とされている。しかし、その場合も先着優先の考え方により、既契約 分に制約が生じないように、新たな発電設備の運用制約を検討することを基本としている35。 地域内送電線への系統接続の際に適用される、こうした「先着優先」の運用ルールは、 地域内の給電ルールや地域間連系線の給電ルールとも異なっている。地域内の需給バラン スを維持するために出力抑制が必要な場合、太陽光発電や風力発電は、原子力発電に次い で優先的に給電され、火力発電が先に抑制される。また、地域間連系線の運用でも、系統 混雑発生時は火力発電の出力を抑制し、太陽光発電や風力発電の抑制順位はより後位に位 置付けられている。 このように日本においても、地域内や地域間連系線の給電ルールでは、自然エネルギー の給電は火力発電より優先されることになっているが、系統接続に関しては、先着優先の 考え方が維持され、既に接続している火力発電の系統利用が優先され、新規に接続する自 然エネルギー設備は出力の制約や、系統増強の必要性を負うことになる。 (3)系統増強工事の負担金の高額化と工事長期化 上述のように空容量が不足している地域では、新規の系統接続の際に、系統増強工事を 完了させることが求められる。しかし、ネットワーク側の系統増強工事には、高額の工事 負担金と長期の工事が必要となる。 図 15 は九州電力の事例を示したものである。九州電力では、平成 27 年 2 月 13 日までに 申込みを受けた事業者を対象として、上位系統対策(送変電設備)が必要となる地区の工 事費負担金確定に向け、事業者調整を行っている36。図 15 は上位系統対策が必要な地域に おける、概算負担金と所要工期を示している。北長崎など 4 つの地域では、上位系統対策 の負担金が 1.1~1.4 万円/kW であるが、 他の 15 の地域では、2.4 万円/kW から最大で 23.9 万円/kW の負担金が必要とされており、高額の負担金が必要となっている地域が存在して いることを示している。 35 ESCJ, 系統アクセスに関するQ&A http://www.escj.or.jp/obsolete/faq/pdf/qa_access140523.pdf 36 九州電力, 再生可能エネルギー等の接続に必要となる上位系統(送変電設備)対策の工事概 要及び所要工期について http://www.kyuden.co.jp/rate_purchase_index.html#item23 26 35 所要工期(月) 120 23.9 100 20.7 所要工期(月) 30 概算負担金(万円/kW) 25 80 20 60 15 40 20 3.6 5.6 1.4 2.5 4.7 1.1 1.1 7.2 2.7 4.7 4 4.1 3.5 3.4 2.4 3 1.4 0 10 5 概算負担金(万円/kW) 140 0 図 15 上位系統対策の工事概要及び所要工期について 37 出典)九州電力「再生可能エネルギー等の接続に必要となる上位系統(送変電設備)対策 の工事概要及び所要工期について」より財団作成 電力広域的運営推進機関では、上位系統対策の有無に限らず、これまでの契約済みの工 事負担金単価を調査している。これによると、特別高圧接続案件における契約済み案件の 負担金分布は 54%が 0~0.5 万円/kW、13.5%が 0.5~1 万円/kW であり、約 93%の事業者が 3万円/kW 以下の負担金で連系していると報告されている。また、高圧案件では 75.2%が 0 ~0.5 万円/kW、14.7%が 0.5~1 万円/kW であり、約 98%の事業者が3万円/kW 以下の負担 金で連系していると報告されている(図 16) 。 九州電力で上位系統対策が必要となる地域における工事負担金(図 15)では、19 か所の うち 12 か所で、工事負担金が3万円/kW 以上となっており、電力広域的運営推進機関の調 査による契約済みの工事負担金より高額である。上位系統対策が必要なケースでは、工事 負担金が高額化する傾向を示している。 なお電力広域的運営推進機関の調査では、負担金単価が小さいほど契約に至る件数は多 いが、負担金が 5 千円/kW 未満でも、特別高圧において約7割、高圧において約4割は契 約に至っておらず、負担金以外の要因により未契約となっている案件が含まれていると指 摘されている。 また九州電力の調査では、各地域の上位系統対策に係る工期は、短いもので 13 カ月から 最大で 132 か月と非常に長期化している。系統接続が遅れる要因の一つとして、工期の長 期化があると考えられる。 27 (A)特別高圧案件 図 16 (B)高圧案件 契約済み系統接続案件における負担金の分布調査 出典)電力広域的運営推進機関 第5回広域系統整備委員会資料より引用37 (4)空容量不足解消に向けた取組 日本では、上述した空容量不足と系統工事負担金の高額化を受けて、主に二つの対策が 開始されている。 一つ目は、負担金の高額化の要因の一つであるネットワーク側の送配電設備増強におけ る費用負担のあり方の明確化である。上述した通り、系統接続にあたっては、まず設置す る発電所から電力系統へ接続するための電源線が必要であり、さらにその系統へ接続した 先のネットワーク側の送配電設備の増強が必要となる場合がある。これまで風力発電や太 陽光発電所が系統接続を求める場合に必要となる系統増強については、発電事業者が便益 を受けるものであり、原因者負担(特定負担)との整理がなされていた38。これは欧米で Deep 方式と呼ばれる費用負担方式に相当する(Deep 方式については 2.2(4)にて改めて議論 する)39。これに対して平成 27 年 11 月 6 日に制定された「発電設備の設置に伴う電力系統 の増強及び事業者の費用負担等のあり方に関する指針40」では、発電設備が系統増強の契機 になったことのみを持って特定負担とすることも、全額一般負担とすることも適切ではな いとして、費用負担の考え方を明確化している。具体的には、ネットワーク側の送配電設 備のうち、基幹系統(上位2系統、東電管内の場合 500kV や 275kV)の費用負担を一般負担 とし、基幹系統以外の系統については設備更新に伴う一般電気事業者の受益範囲を評価し 37 電力広域的運営推進機関 第6回広域系統整備委員会資料 https://www.occto.or.jp/oshirase/kakusfuiinkai/files/seibi_05_04.pdf 38 次世代送配電システム制度検討会第 2 ワーキンググループ(WG2), 全量買取制度に係る技術的 課題等について報告書参考資料 http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004682/report_001.html 39 この他に Shallow 方式などがあり、後述する。 40 発電設備の設置に伴う電力系統の増強 及び事業者の費用負担等のあり方に関する指針 http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulation s/pdf/h27hiyoufutangl.pdf 28 たうえで一般負担とし、その他を特定負担とすることとなっている。これにより、案件に よってはネットワーク側の送配電設備の事業者負担(特定負担額)が減少し、系統工事負 担金が減少すると期待される。 しかし、一般負担が可能な額には上限が設定されており、上限を超える部分も特定負担 となる。ここで問題なのは、風力発電や太陽光発電の接続では、設備利用率の違いを理由 に、火力発電や原子力発電よりも一般負担額の上限額を低く設定することが検討されてい ることである。この場合には、風力発電や太陽光発電では、系統接続における特定負担額 が他の電源と比較して相対的に大きくなり、不利になる可能性が懸念されている41。 二つ目の対策は、系統増強の契機となった発電設備設置者が、単独で系統工事負担金を 負担するのではなく、近隣の発電設備設置事業者と共同負担することで、一社当たりの工 事負担金の軽減を可能とする取組である。これは電源接続案件募集プロセスという42。これ まで、系統増強が必要となる場合、新たに必要となる増強の規模に対して、増強後に接続 される事業規模が小さいために、事業に対して負担金が過大になるケースが考えられた。 電源接続案件募集プロセスの導入によって、一事業者当たりの工事負担額費用を抑えるこ とが期待される。 このように、日本では、自然エネルギーの系統接続に伴って、特にネットワーク側の送 配電等設備の増強が必要となり、その負担金が高額化することを受けて、ネットワーク側 の送配電設備の増強費用負担の新たな指針や、事業者の負担金を軽減する共同負担方法手 続きの運用が開始された。これにより、一事業者当たりの系統工事負担金の軽減が期待さ れる。しかし一方で、工事が長期化し、発電設備の系統接続までに長期間を要する点は改 善される見通しは未だなく課題の一つとして残されている。 41 電力広域的運営推進機関, 一般負担の上限額の設定に対する意見募集について https://www.occto.or.jp/oshirase/iken/2016_0224_ippanfutan_public_comment.html 42 電力広域的運営推進機関, 電源接続案件募集プロセスのご案内 https://www.occto.or.jp/keito/akusesu/2015_access_dengensetsuzoku_process_r1.html 29 2.2 欧州の系統接続の特徴 (1)自然エネルギーの優先接続 欧州では、EU 再生可能エネルギー利用促進令において、自然エネルギーの優先接続が規 定されている43。優先接続とは、発電設備の系統への接続において、化石燃料など他の発電 設備よりも自然エネルギーからの電力を優先して系統に接続することを規定したものであ る。表3に欧州における優先接続の採用状況を示す44。ドイツやスペイン、イタリアにおい て優先接続が導入されている。なお、EU 指令の中では、後述する「優先給電」は義務とし て規定されているが、優先接続に関しては各国の判断に任せた任意ルールとなっている。 例えば、ドイツの系統接続では、自然エネルギーは従来型発電に優先して接続される。 そして接続の申し込みがあった場合は、系統増強が必要な場合でも、接続する義務を負う。 なお、この場合の系統増強費用は系統運用者の負担となるが、経済的に不合理な場合は系 統増強の責務を負わないとされている45。一方で英国では、優先接続は導入されていないが、 新規の発電所の接続の申し込みがあり系統増強が必要な場合にも、電源線の敷設のような 系統接続に最低限必要な工事が完了していれば、既存系統の増強を待たずに接続可能とな っている46。 表 3 欧州における優先接続導入状況 45 優先接続 国名 有 ドイツ、イタリア、スペイン、ベルギー、等 無し フランス、英国、デンマーク、ポルトガル、スウェーデン等 (2)系統混雑の発生と再給電による系統接続の維持 上述したように系統増強が必要とされる場合でも、系統接続を維持している背景には各 国の系統混雑解消に向けた運用面での取り組みがある。 ①ドイツにおける系統混雑への対応 ドイツでは、自然エネルギーの発電設備の増加に伴って、系統混雑が課題の一つとなっ ている。図 17 ではドイツの系統運用者の一つである 50Hertz 管内における系統の混雑の発 43 経済産業省, 次世代送配電システム制度検討会第 1 ワーキンググループ(WG1)報告書参考資 料2 http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004671/report_001.html 44 EWEA, EWEA position on priority dispatch of wind power http://www.ewea.org/publications/position-papers/ 45 RES-Legal Europe, Germany, http://www.res-legal.eu/search-by-country/germany/ 46 ofgem, Connections https://www.ofgem.gov.uk/electricity/transmission-networks/connections 30 生状況を示している。図中で、赤で示した線が混雑の多い線である。特に、北部に風力発 電の導入によって、安い電力の余剰が生じ、需要地の南部への流れが生じているため、南 北間の系統の混雑が生じている。混雑が生じている南の境界は隣の系統運用者である TenneT との境界部分である。なお、2 章で示したようにドイツは国内が単一の入札エリア となっているため、50Hertz と TenneT の間の系統は、日本でいう地域間連系線というより むしろ、地域内の基幹系統の役割に相当すると考えられる。その他の地域においても特に 境界部分において系統の負荷が高くなっている傾向がある。しかし、このような状況でも ドイツでは系統の混雑状況の有無にかかわらず遅延なく接続に応じなければならない47。 図 17 50Hertz における系統の混雑状況48 出典)50Hertz ヒアリング資料より引用 ドイツで系統の混雑が発生しながら、接続を維持している背景の一つには、出力抑制や 「再給電」の運用がある。具体的には、送電線の混雑等が発生する場合に周辺発電所(火 力、風力発電等)の出力を抑制することで系統の混雑を解消している。例えば、A 点から B 47 48 50hertz へ問い合わせ結果より。 50hertz, 50hertz ヒアリング資料より引用(2015 年 7 月 6 日) 31 点への送電量がその系統の運用容量を上回る場合、A 点側の火力発電所の出力を抑制し、B 点側の火力発電の出力を増加させる(Redispatch:再給電)を行うことで、地域全体の需給 を維持しながら A 点と B 点間の系統の混雑を解消している49。この場合、A 点側で出力抑制 可能な火力発電が存在しない場合には、風力発電の抑制が行われることもある。 出力抑制のルールでは、まず、エネルギー事業法(EnWG 法)に基づき火力等の従来型発 電設備に対する出力制御等を実施する。そして次にすべての従来型発電設備を最低出力ま で制御しても、送電線の混雑が解消されない場合は、再生可能エネルギー法(EEG 法)に基 づき、再エネ発電設備を有償で出力制御を実施することが規定されている50。これにより、 自然エネルギーの発電設備の接続によって地域内系統に混雑が生じるような場合でも、再 給電を行うことで混雑を解消できるため、自然エネルギーの接続の原則が可能になってい ると考えられる。表4ではドイツの各 TSO における 2014 年の再給電の実施時間を示したも のである。TenneT や 50Hertz において再給電は頻繁に実施されている。 表 4 ドイツにおける再給電措置51 管轄 TSO 時間 Tenne T 5000 50Hertz 3230 Transnet BW 119 Amprion 104 出典)BNetzA, Monitoringbericht 2015 この系統混雑の解消方法は再給電のコストを要する。上述した例では、A 点側で抑制を行 った発電所が自然エネルギー発電所であった場合 95%が補償される。また火力発電所であ った場合、本来市場から得られる売電収入が維持される一方で、発電しなかったことで削 減された燃料費は TSO へ返還される。そして B 点側で出力を増加した発電所には、追加的 な発電に要した費用が補償される。 図 18 では、2014 年の 50Hertz における再給電のコストを示している。図のオレンジで示 した部分が、50Hertz 内の再給電に伴うコストである。さらに緑色は TenneT との境界にお ける再給電のコストを示している。この TSO 間の再給電のコストは、半々で各 TSO が分担 49 BMWi, An Electricity Market for Germany’s Energy Transition, https://www.bmwi.de/BMWi/Redaktion/PDF/G/gruenbuch-gesamt-englisch,property=pdf,berei ch=bmwi2012,sprache=de,rwb=true.pdf 50 再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会(第 4 回)資料1, http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/saisei_kanou/004_haifu.html 51 BNetzA, Monitoringbericht 2015, http://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Downloads/DE/Allgemeines/Bundesnetzagentur /Publikationen/Berichte/2015/Monitoringbericht_2015_BA.pdf?__blob=publicationFile&v=3 32 することになっており、緑の部分は、50Hertz が分担している分(つまり総コストの半分) のコストである。そして赤で示した部分が国際連系線における再給電のコストである。な おドイツ全体では 2014 年に再給電のコストとして 1 億 8670 万ユーロを要している 52。 図 18 50Hertz における再給電コスト52 出典)50Hertz ヒアリング資料より引用 ②英国における系統混雑への対応 英国では、 (1)節で述べたように自然エネルギーの優先接続は導入されていない。しか し、新規の発電所の接続の申し込みがあり系統増強が必要な場合にも、電源線の敷設のよ うな系統接続に最低限必要な工事が完了していれば、既存系統の増強を待たずに接続可能 となっている。これは、2011 年から新たに開始された「接続後の運用(Connect and manage) 」 という系統接続の方針に基づくものである。図 19 ではこの「接続後の運用」と従来の「投 資後の接続(Invest and connect) 」と呼ばれる接続方式を説明したものである。 52 50hertz, 50hertz ヒアリング資料より引用(2015 年 7 月 6 日) 33 図 19 英国における系統接続の転換(Invest and connect から Connect and manage へ) 出典)National Audit Office, Electricity Balancing Services より引用53 「接続後の運用」の考え方の下では、増強を待たずに系統接続を可能とするが、それに よって系統の混雑・制約が生じてしまうため、ドイツの例と同じような系統の制約管理 (Constraint management54)を行っている。この制約管理では、市場を活用してドイツの 再給電と同様の混雑処理が行われている。 系統運用者である National Grid は市場(Balancing mechanism)から発電所出力の調整 力を調達し、系統混雑の解消を行う。例えば、英国では北部のスコットランドと南部のイ ングランド間で北部から南部へ送電を行う際に系統混雑が生じている(英国でも、ドイツ と同様に国内は一つの入札エリアであるため、スコットランドとイングランド間の系統は、 日本でいう地域内の基幹系統の役割に相当すると考えられる) 。このような系統混雑を解消 するために、系統運用者は例えば供給側であるスコットランドで発電出力を低下させ、需 要側であるイングランドで発電出力を増加させる。これらの調整力を市場から調達するこ とで、系統混雑を解消している。 系統混雑解消のために、供給側で抑制する電源は主にガス火力発電や石炭火力発電であ るが、風力発電に対しても出力を抑制することが可能となっている。これらは、調整力市 場の取引によって決定される。例えば、スコットランドで化石燃料を用いた従来型発電の 出力を抑制する場合は、燃料コストを削減できるため National Grid に対して削減できる コストを支払う入札が行なわれる(マイナスの入札が行われる) 。風力発電の出力を抑制す 53 National Audit Office, Electricity Balancing Services https://www.nao.org.uk/report/electricity-balancing-services/ 54 National Grid, Transmission Constraint Management http://www2.nationalgrid.com/uk/services/balancing-services/system-security/transmiss ion-constraint-management/ 34 る場合は、燃料費はゼロとなるが、再生可能エネルギー証書制度など(ROC:Renewables Obligation Certificate)から得られるはずだったコストを代替するため、出力の抑制に 対して費用を受け取る入札が行われる(プラスの入札が行われる)55。そのため、供給側で 出力を抑制する電源は、入札の結果からまずガス火力や石炭火力となる。 そして北部で出力を抑制することで南部のイングランドで、供給力が不足する場合は南 部の発電所にコストを支払い、出力を増加させて需給を維持させている。図 20 では英国の 系統混雑に係るコストを示している。なお図 20 には、風力発電の出力増加や需給予測のず れに伴う系統混雑によるコストの他に、系統増強工事に伴う容量制限・系統混雑によって 生じたコストも含まれている。大きくコストが増加している期間は、主に系統増強工事が 要因と指摘されている。 図 20 英国における系統混雑コストの推移 出典)National Audit Office, Electricity Balancing Services より引用 54 「接続後の運用(Connect and manage) 」という方式は主に、英国で用いられているもの であるが、North Seas Countries’ Offshore Grid Initiative(NSCOGI)によると、この 他に表5に示す国々で同様の系統接続の運用が行われていると整理されている。 55 REF, Notes on Wind Farm Constraint Payments http://www.ref.org.uk/energy-data/notes-on-wind-farm-constraint-payments 35 表 5 Connect and manage と Invest and connect 方式(NSCOGI による整理)56 系統接続方式 国 接続後の運用 デンマーク、フランス、ドイツ、オランダ、イギリス Connect and manage 投資後の接続 ベルギー、アイルランド、スウェーデン Invest and connect 出典)NSCOGI, Working Group 2, The North Seas Countries’ Offshore Grid Initiative Deliverable 1 - final report より引用 このようにドイツと英国では系統増強を待たずに接続を可能にしており、また NSCOGI の 整理によるとその他の国でも同様の系統接続方針をとる国が存在している。ドイツや英国 の例からは、これらの系統接続方針を可能としているのは、短期的に系統混雑・制約を解 消する火力発電の再給電等の運用方法にあると考えられる。 ドイツや英国では、自然エネルギーの発電設備を接続する際に、送配電設備の空容量が 不足した場合、系統混雑解消のためにまず火力発電の再給電を行う(それでも混雑が解消 できない場合には風力発電の出力抑制を行う)。これによって、従来型発電からの潮流で空 容量が存在しないような系統区間においても、増強を待たずに新規の発電設備の接続が可 能になっている。 (3)系統増強による混雑解消 (2)項で議論したように再給電(Redispatch)や系統制約管理(Constraint management) によって一時的に系統接続を可能とすることができる。これらの制約解消方法には追加的 なコストを伴うが、大規模な系統増強工事を行うより少ないコストとより少ない時間で系 統混雑を解消することが可能となる。そして、系統増強は将来的に系統の混雑・制約を解 消し、再給電や系統制約管理の必要量を低減する長期的な対策として位置付けられる。 ドイツでは、系統増強計画が 4 つの TSO が策定した系統開発計画(Grid Development Plan:GDP)をもとに、公開協議(Public consultation)や戦略的環境アセス(SEA)など を経てネットワーク規制庁(BNetzA)に承認され、連邦要求計画(Federal Requirements Plan) として承認される57。この連邦要求計画では、47 の送電線拡張計画と 3 つの HVDC(高圧直 流送電)の計画地帯が作成されている(このうち 4 件は取りやめられ 43 件が残っている)58。 56 NSCOGI, Working Group 2, The North Seas Countries’ Offshore Grid Initiative Deliverable 1 - final report http://www.benelux.int/files/9014/0923/4547/regulatory_and_market_challenges.pdf 57 有限責任監査法人トーマツ, 平成26年度新エネルギー等導入促進基礎調査(再生可能エネ ルギー導入拡大のための広域連系インフラの強化等に関する調査)業務報告書 http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000177.pdf 58 BBPIG(連邦要求計画法) 附則 http://www.gesetze-im-internet.de/bbplg/BJNR254310013BJNE000602118.html 36 50Hertz でのヒアリングによると、50Hertz-TenneT 間の系統混雑は、これらの計画が実現 すると混雑が改善するとみられている。 (4)系統増強における費用負担 系統接続に伴うコストには、主に発電所を系統の接続ポイントへと繋ぐ電源線の建設コ ストと、既存の系統(日本でいうネットワーク側の送配電設備)の増強コストがある。既 存系統に十分な空き容量が存在する場合には増強は不要である。この系統接続コストは、 接続する発電事業者と系統運用者によって分担される。そして系統運用者によって分担さ れる費用は、最終的には送電網の利用料などを通して利用者の負担となる。この費用分担 について、欧州では図 21 のように Shallow, Super Shallow , Deep, Shallow -Deep 等と いった表現で整理されている。 まず Shallow 方式では、発電事業者は系統接続ポイントまでの電源線の建設コストを負 担する。そして系統所有者は既存系統の増強が必要であればそのコストを負担する。次に、 Super Shallow 方式では、発電事業者は発電所内の変電所(サブステーション)までのコス トのみを負担する。系統所有者は、発電所から系統接続ポイントまでの電源線の建設を含 め既存系統の増強費用を負担する。そして、Deep 方式では発電事業者が電源線、既存系統 の増強を含めてすべての費用を負担する。これに対して、Deep-Shallow 方式では、Deep と Shallow の間の費用負担方式であり、発電事業者は電源線のコストと共に、既存系統の増強 にかかる費用の一部を負担する。 ENTSO-E の調査による欧州各国における系統接続費用負担方式の採用例を表6に示す。 ENTSO-E の調査によると欧州各国では、費用負担方法は主に Super-Shallow、あるいは Shallow 方式が採用されている。Deep 方式はスウェーデンやクロアチアとバルト三国等で 採用されている。 37 図 21 系統接続費用の分担方式の違い 出典)The regulatory framework for wind energy in EU Member States Part 1 of the Study on the social and economic value of wind energy – WindValueEU59より引用 表 6 欧州における系統接続費用の負担方式 分担方式 国名 Super-Shallow デンマーク、英国、ノルウェー Shallow フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ベルギー他 Deep-Shallow ハンガリー Deep スウェーデン、クロアチア、エストニア、ラトビア、リトアニア 出典)ENTSO-E Overview of Transmission Tariffs in Europe:Synthesis 201560 を基に財団作成 59 SERRANO GONZALEZ Javier, LACAL ARANTEGUI Roberto, The regulatory framework for wind energy in EU Member States Part 1 of the Study on the social and economic value of wind energy – WindValueEU https://ec.europa.eu/jrc/en/publication/eur-scientific-and-technical-research-reports /regulatory-framework-wind-energy-eu-member-states-part-1-study-social-and-economic-v alue 60 ENTSO-E, ENTSO-E Overview of Transmission Tariffs in Europe:Synthesis 2015 https://www.entsoe.eu/about-entso-e/market/european-transmission-tariffs/Pages/defaul t.aspx 38 2.3 日本と欧州の系統接続の比較と論点 (1)日本と欧州の系統接続の比較 日本と欧州の系統接続を比較すると、以下のようにネットワーク側の送配電設備の空容 量が不足している際の系統接続方法に違いがあることがわかる。 日本では自然エネルギーの接続義務が規定されているものの、新たに自然エネルギーの 発電設備を接続する場合、ネットワーク側の送配電設備に空容量がないことを理由に系統 増強が求められ、系統接続が遅れるケースが発生している。これは英国の「接続後の運用」 と「投資後の接続」という整理によると、「投資後の接続」にあたる。この背景には、日本 が地域内系統の接続において採用する「先着優先」ルールがある。 「先着優先」のもとでは、 電源の種別に係らず既に接続されている発電所による系統利用が優先される。新規に接続 する自然エネルギー発電所は、空容量が不足する場合、系統増強工事を完了する必要があ る。そして、系統増強工事には長期の期間を要するため、自然エネルギー発電所の新規の 接続が遅れてしまう。需給運用や地域間連系線では、太陽光発電や風力発電からの給電が 火力より優先されているが、地域内系統の利用に関しては先着優先が維持されている。 欧州では、EU 再生可能エネルギー利用促進令において自然エネルギーの優先接続が規定 されているが、優先接続を採用しているドイツにおいても、採用していない英国において も、空容量が不足しても新規の接続が可能である。ドイツでは、自然エネルギーの系統接 続時に空容量が不足する際には、短期的には「再給電」を行い系統の混雑解消や空容量の 調整を行っている。これは、自然エネルギーの接続によって空容量が不足する際に、周辺 火力の出力を下げる(系統利用を抑制する)調整を行うものである。これによって、系統 増強を待たずに系統接続が可能になっている。そして長期的には系統を増強して、系統混 雑を解消し再給電の量も減少できると期待されている。英国もまた、市場から調整力を調 達することで同様に再給電を行い、系統の空容量の調整と系統接続を行っている。なお、 地域内系統に混雑が発生した際には、燃料費の節減となる火力発電をまず先に抑制するが、 火力を最小出力としても系統混雑が回避できない場合に自然エネルギーの抑制も行ってい る。 このように、新規の自然エネルギー発電設備の系統接続時に空容量が不足する場合、日 本は系統利用の「先着優先」の考え方に基づき系統増強を待って接続するが、欧州では再 給電によって一時的に混雑を解消して接続を可能にしている。日本の「先着優先」の考え 方では、系統接続時に欧州で実施されているような再給電の効果は考慮されない。つまり ドイツや英国で行われているような系統混雑を火力の再給電や抑制によって解消してまで、 新規の自然エネルギー発電所を接続することはしていない。日本の先着優先の考え方が、 自然エネルギー発電設備の接続を遅らせる要因の一つとなっている。 39 (2)日本の系統接続の論点 ①系統混雑解消に向けた再給電の活用 日本においては自然エネルギーの導入拡大へ向けて、自然エネルギー発電設備の系統接 続の遅れを解消することが必要である。そのためには、欧州の事例のように、火力発電を 用いた再給電を活用することが有効であると考える。 日本では、系統利用の「先着優先」の考え方に基づいて、ネットワーク側の送配電設備 の空容量が不足する場合には系統増強工事が必要となる。そして、ネットワーク側の送配 電設備の増強工事に対して、費用の共同負担を可能にするなど一事業者の費用負担を適正 化するための検討を進めているが、増強工事による系統接続の遅れが課題として残されて いる。 そこで、日本で系統接続の遅れを解消するためには、ネットワーク側の送配電設備にお ける「先着優先」の系統利用を見直し、火力発電の再給電を活用することが有効であると 考える。欧州の事例のように、火力発電の再給電を活用することで短期的に系統混雑(空 容量不足)を解消し、系統増強を待たずに新規の系統接続を維持することが期待される。 そして、長期的には系統増強によって空容量を拡大して、再給電の量を減らしていくこと が、自然エネルギーの導入にブレーキを掛けることなく接続していくために有効であると 考える。なお、再給電を活用する際には、欧州の事例のように、自然エネルギーの抑制を 最小化する方針のもと、火力発電の出力抑制を最大限に活用できるように電源の優先順位 を規定することが求められる。 ②系統運用者による系統増強費用の負担 系統混雑解消に向けて再給電を活用する場合、長期的には系統増強を行い再給電の量を 減らしてくことが必要となる。今後、再給電の活用を前提とした場合、この系統増強の費 用負担方法のあり方も見直す必要がある。 系統増強費用は日本と欧州では異なる負担方法がとられている。日本では、ネットワー ク側の送配電設備の増強が必要となった場合は、一般負担額と特定負担(発電事業者の負 担)額を算定し、費用を分担することになっている。これに対して、欧州の主な国では、 系統接続時のネットワーク側の送配電設備の増強費用については、増強が必要であれば、 系統運用者や一般負担となっている。これは、Shallow または Super-Shallow 方式と呼ばれ ている。 再給電の活用を前提として新規発電所の接続を続けた場合、各系統では混雑が多く発生 する可能性がある。この場合、系統混雑の発生状況を比較して、より必要性の高いところ から増強を行っていくことが有効であると考える。例えば系統混雑が発生しても、年間の 少しの時間しか混雑が発生していない系統であれば、増強よりもむしろ再給電や自然エネ ルギーの出力抑制によって系統の安定性を維持したほうが合理的であるケースもあり得る。 しかし、ネットワーク側の送配電設備の系統増強を特定負担とした場合、系統増強の意思 40 決定に増強費用を負担する事業者が入ることとなる。日本において、混雑状況を見て経済 合理性の高い場所から系統増強を実施していくためには、ネットワーク側の増強費用を系 統運用者負担または一般負担とすることが合理的であると考える。 41 3.需給運用 電力会社(系統運用者)は電力の安定供給を実現するため、需要と供給との均衡を保つ よう供給力を調整する需給運用を行っている。一般的に各電力会社や系統運用者は、利用 可能な発電を組み合わせ、最も経済的となるよう需給運用をおこなう。この需給運用につ いて日本と欧州の特徴を比較し、検討すべき論点を挙げる。 3.1 日本の需給運用の特徴 (1)長期固定電源の優先給電 日本の需給運用は、長期固定電源(原子力、揚水除く水力、地熱など)の出力抑制を可 能な限り回避するという考え方に基づいて行なわれている。この考え方は「優先給電ルー ル(表7)」で規定されている。「優先給電ルール」は、長期固定電源の出力抑制を避ける ため低需要時の給電の条件や順序を定めたものである。この中で自然変動電源の出力抑制 は、火力発電の出力抑制の後に位置付けられ、長期固定電源の出力抑制は最後尾に位置付 けられている。 表 7 優先給電ルールの概要61 (2016 年 4 月変更) a.一般電気事業者があらかじめ確保する調整力(火力など)及び一般送配電事業者からオン ラインでの調整ができる火力発電等の出力抑制(注 1) b.一般電気事業者からオンラインでの調整ができない火力発電の出力抑制(注 2) c.連系線を活用した広域的な系統運用(広域周波数調整) d.バイオマス電源の出力抑制(注 3) e.自然変動電源(太陽光・風力)の出力抑制。 f.電気事業法に基づく広域機関の指示(緊急時の広域系統運用) g.長期固定電源の出力抑制(注 4) (注 1)火力発電にはバイオマス混焼発電(地域資源バイオマスを除く)を含む。 (注 2)原則、発電事業者に差損が発生しない範囲内で発電計画の変更を指令するものとするが、 必要に応じて発電事業者に差損が発生する場合にも指令できるものとする。 (注 3)バイオマス専焼の出力抑制後に地域資源バイオマスの出力抑制を行う。 (注 4)長期固定電源とは、原子力、水力(揚水除く)及び地熱発電所を指す この優先給電ルールについて、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会の報告書(平 成 16 年 5 月)では、 「自由化範囲拡大の中、引き続き長期固定電源への投資が確保される 61 電力基本政策小委員会(第 3 回)資料 http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denryoku_gas/kihonseisaku/003_haifu.html 42 よう、投資リスクのマネジメントを容易化することが必要であるとの考えの下、長期固定 電源に対しては優先給電指令制度が整備されている」と説明されている62。長期固定電源の 抑制順位を後位に置く理由の一つは、長期固定電源の投資リスク低減であると考えられる。 (2)自然エネルギーの 30 日等出力制御枠と長期固定電源 日本では、いくつかの電力会社において太陽光発電や風力発電の 30 日等出力制御枠(接 続可能量)が設定されている。これまでに北海道、東北、北陸、中国、四国、九州、沖縄 の電力各社が、太陽光発電や風力発電の 30 日等出力制御枠を設定している。30 日等出力制 御枠とは 30 日や 360 時間(太陽光発電) 、720 時間(風力発電)を上限とした出力抑制(無 補償)を条件に接続できる自然エネルギーの設備容量である。電力各社は、地域内の太陽 光発電や風力発電の導入量がこの 30 日等出力制御枠をさらに上回った場合、新規に導入さ れた発電設備には、無補償で無制限の出力抑制を指示することが可能になっている。太陽 光発電や風力発電事業にとって、無補償かつ無制限の出力抑制が課せられることは、事業 の採算性の見通しが困難になることを意味する。 しかし、この自然エネルギーの 30 日等出力制御枠の評価は、原子力発電の新設や再稼働 を前提とするために、導入可能性が過小評価されている。 30 日等出力制御枠の算定では、太陽光発電や風力発電の出力が増加して供給が需要を上 回る場合には、火力や水力発電の出力を低減した「最小出力」で稼働したうえで、揚水発 電の活用や、他地域との電力取引を行うことを想定している。さらに太陽光発電や風力発 電自身も最大限の出力抑制を行うことで、30 日等出力制御枠をより多く設定しようと試み られている。その中で原子力発電は現在稼働しているものは一部であるにもかかわらず、 建設中のものも含めた最大限の設備が、平均的な設備利用率による一定出力で稼働するこ とが想定され、抑制は想定されていない。 30 日等出力制御枠試算では、廃炉が決定した原子力発電所を除く、建設中である大間原 子力発電所や島根 3 号機を含む合計 23 基(北海道 3 基、東北 7 基、北陸 3 基、中国 2 基、 四国 3 基、九州 5 基)の原子炉が同時に稼働することが想定されている(表8)。これら 23 基の発電所のうち、2015 年 11 月時点で稼働している原子力発電は川内 1 号基、川内 2 号基 のみであり、ほとんどは未だ再稼働していない。太陽光発電や風力発電の 30 日等出力制御 枠は、これらの原子力発電の将来の給電を妨げないように、前もって制限される「空抑え」 状態にある(文末参考1) 。自然エネルギーの 30 日等出力制御枠の設定が必要となる要因 の一つには、このように長期固定電源の優先給電の考え方にのっとり、将来の原子力発電 からの給電を保証していることがある。 62 総合資源エネルギー調査会 電気事業分科会, 今後の望ましい電気事業制度の詳細設計につ いて(平成 16 年 5 月) http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/data_neutral/pdf/s yousaihoukoku2.pdf 43 表 8 30 日等出力制御枠算定において稼働が前提とされている原子力発電設備一覧(MW)63 北海道 東北 北陸 中国 四国 九州 泊 1(579) 東通(570) 志賀 1(540) 島根 2(820) 伊方 1(566) 玄海 2(55.9) 泊 2(579) 女川 1(524) 志賀 2(758) 島根 3(1373) 伊方 2(566) 玄海 3(1180) 泊 3(912) 女川 2(825) 原電敦賀 2 伊方 3(890) 玄海 4(1180) 女川 3(428) (376) 川内 1(890) 柏崎刈羽 1 川内 2(890) (526) 東海第二 (211) 大間(281) (注) 電源の中には、柏崎刈羽1など複数の電力会社に供給している広域電源があり、これら の設備容量については、各社の受電相当を記載している。また引用文献内の表では東北電力にお ける供給力に福島第二 3(264) 、福島第二 4(264)が含まれているが、注釈にて「東北電力は、 福島第二を、東京電力の「新・総合特別事業計画」においても今後の扱いは未定としていること 等から、接続可能量を算定する供給力には織り込んでいない。 」とあるため、表 8 では除外した。 (3)送配電部門の中立的な系統運用の未確立 日本の一般電気事業者は、自社電源を主体に利用可能な発電を組み合わせ、最も経済的 となるよう需給運用を行ってきた。これまで日本の発電設備の大部分は火力、原子力、水 力発電設備であり、それらは一般電気事業者によるものであった(図 22)。しかし、固定価 格買取制度の施行以降は、太陽光発電を中心に自然エネルギーの導入が拡大しており、自 然エネルギーを含めた新たな電源構成へと移行する時期にある。そして、太陽光発電や風 力発電では、一般電気事業者やそのグループ会社以外の様々な事業者が参入している(図 23) 。今後様々な事業者が送配電網を利用できるよう、送配電網の中立的な運営が必要とな る。 これまでは、一般電気事業者が発電・送電・配電を一貫して行い、送配電部門の中立化 のため会計分離が採用されていた。そして、一層の送配電部門の中立化のために電力シス テム改革の中で、法的分離が行われることになっている64。法的分離は、送配電部門を別会 社化するものであり、各事業部門の行為、会計、従業員等を子会社ごとに明確に区分する 63 新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ(第 7 回) http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/keitou_wg/007_ha ifu.html 64 電力システム改革専門委員会報告書 http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/report_00 2.html 44 ことが可能である。しかし、法的分離の場合、企業グループ内での資本関係があることか ら、グループ内の発電・小売会社を有利に扱う誘因があることも否定できず、送配電子会 社の独立性を確保するために、送配電子会社と親会社の間で適切な行為規制を講じること が必要となる。 送配電部門の中立性を実現する最もわかりやすい形態として所有権分離があるが、日本 は所有権分離の採用には至っていない。 特定規模電気 事業者 特定電気事業 1% 自家発電 者 19% 0% 卸電気事業者 6% MW 図 22 一般電気事業 者 74% 火力発電・水力発電・原子力発電の合計認可出力のシェア(2014 年度末)65 25,000 23,320 全体 一般電気事業者(グループ会社含む) 20,000 15,000 10,000 2,940 5,000 975 370 0 太陽光 図 23 風力 一般電気事業者による太陽光発電・風力発電設備容量(2014 年度) 出典)太陽光発電・風力発電の導入容量は経済産業省資源エネルギー庁「再生可能エネル ギー設備導入状況66」等より、電気事業者の認可出力は電力調査統計「発電所認可出力表67」 と電力各社の HP より財団作成 65 電力調査統計「発電所認可出力表」、 「自家発電所認可出力表」より作成 経済産業省資源エネルギー庁「再生可能エネルギー設備導入状況」 http://www.fit.go.jp/statistics/public_sp.html 67 電力調査統計「発電所認可出力表」 http://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/results.html#headline2 66 45 上述した 30 日等出力制御枠は、新エネルギー小委員会系統ワーキンググループで整理さ れた基本的考え方に基づいて、一般電気事業者が算定し、ワーキンググループでの検証を 経て設定されている。一般電気事業者は、30 日等出力制御枠を設定することで、地域内の 自然エネルギーの導入に実質的な上限を設けることが可能となっている。そして、30 日等 出力制御枠の算定においては、一般電気事業者が大多数を保有する原子力発電については 現在稼働していないものも含め最大限の再稼働と、優先給電を見込むことが可能となって いる。このように、現行の需給運用は、一般電気事業者を実質的に有利にする規定になっ ている。30 日等出力制御枠は、より中立で公平な視点から評価される必要がある。 (4)原子力の再稼働に伴う調整力低下 今後、30 日等出力制御枠試算で想定されているような 23 基の原子力発電の再稼働や運転 開始が進めば、自然エネルギーの出力抑制が徐々に必要になると考えられる。図 24 では 30 日等出力制御枠試算で用いられた、火力発電(橙)や水力発電(青) 、原子力(灰)や地熱 (茶)を最小限の出力に抑えた場合の「最小出力」と、昼間の最低需要に対する「最小出 力」の合計の割合(赤線)を示したものである。図 24 では、昼間の需要に対して「最小出 力」の合計が高い比率を示している。原子力(灰)はその中で大きな割合を占める。この ような時期・時間帯ではその他の電源からの給電を受ける余地は小さくなり、自然エネル ギーの出力が大きくなった場合、揚水発電の運転や、出力抑制が必要となる。 さらに図 24 では、北海道や北陸では、火力、水力、原子力、地熱による「最小出力」の 合計が昼間の需要を上回っている。日本では原子力発電の負荷追従運転を行っていない68。 そのため、北海道や北陸では自然エネルギーをすべて抑制しても供給を下げる調整力(下 げ代)が不足し、需給バランスの維持が困難になり、揚水発電の活用や他の地域との電力 の融通が必要となる。つまり、これらの地域では、自然エネルギーの導入にかかわらず、 原子力発電が再稼働した場合には調整力の確保が課題となる可能性がある。 2011 年以前に原子力発電が最大限に稼働していた時期もあり、現状の揚水発電や他地域 との電力の融通による十分な調整力(下げ代)が確保されていたと考えられる。しかし 2011 年以降、電力消費量は減少傾向にあり、年別(1 月~12 月)の発受電電力量が 2010 年から 2015 年にかけて 11.5%も減少している(図 25)。原子力発電の再稼働が調整力へ与える影 響について検証が必要である。 68 これまで原子力の負荷追従運転については、電力自由化と原子力に関する小委員会(2006 年) で議論されているが、 「負荷追従運転の必要性が高まってきた段階において、具体的な運転方法 を提示し、国はこれに基づき安全規制上の対応の有無を検討する」としている。 電力自由化と原子力に関する小委員 http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/nuclear_subcommittee/ 46 6000 120% 111.1% 100.4% 87.5% 5000 80% 76.1% 4000 62.3% 72.9% 3000 40% 2000 1000 0 0% 北海道 東北 北陸 中国 四国 昼間最低負荷に対する割合(%) 最小出力(MW) 7000 九州 地熱発電出力 水力最低出力 火力最低出力 原子力供給力 昼間最低負荷に 対する合計出力 割合 12,000 120% 100% 93.5% 10,000 91.6% 88.5% 100% 8,000 80% 6,000 60% 4,000 40% 2,000 20% 0 2010年比(%) 年間発受電電力量(億kWh) 図 24 接続可能量(30 日等出力制御枠)算定における最小出力想定69 0% 2010 - 2013 年間発受電電力量 図 25 2014 2015 2010年比 年間発受電電力量の推移70 69 新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ(第 7 回)より財団作成 http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/keitou_wg/007_ha ifu.html 70 電気事業連合会,発受電実績より財団作成 http://www.fepc.or.jp/library/data/hatsujuden/ 47 3.2 欧州の需給運用の特徴 (1)自然エネルギーの優先給電 欧州では自然エネルギー電源の優先給電が EU 再生可能エネルギー利用促進指令で定めら れている。優先給電とは電力系統の供給信頼度の維持を前提として、送電系統運用者に対 して、他の電源より自然エネルギーからの給電を優先して給電することを義務づけるもの である。欧州風力発電協会によると、2013 年 3 月時点で 18 の加盟国が自然エネルギーの優 先給電を各国の法律で規定しており、9 つの国では優先給電を定めていない 72。自然エネル ギー電源は優先給電が規定されることで、給電や売電が保証されると共に、系統安定性の 確保を理由としないような不必要な出力抑制を回避することが期待される71。 表 9 欧州各国における優先給電の有無 優先給電 国名 有 デンマーク、スペイン、ドイツ、アイルランド、イタリア、等 無 英国、フランス、スウェーデン、オランダ、等 (2)活発な卸電力市場取引 欧州では電力小売市場が自由化されており、また発送電分離(主に所有権分離)の実施 によって発電部門と送電部門は分離され運営されている72。そして卸電力取引市場における 活発な取引によって、2014 年の第三四半期では、前述のとおり、市場の流動性を示す指標 (スポット市場取引量/電力消費量)は 48.8%に達している(北欧のノルドプールでは 85.9%、CWE では 33.4%73)。なお、日本では 2014 年度の販売電力量におけるスポット市場 取引量の比率は約 1.4%74であった。 電力市場では電力需要に対して入札額が最低の電源から優先的に供給され、これによっ て全体の電力供給コストが最小化されると期待される。メリットオーダー75はこのような費 用最適化の原則であり、電力需要に対して短期限界費用が最低の電源が最初に割り当てら れ、よりコストの高い電源は必要に応じて順次発電を開始するというものである。ここで 短期限界費用は、追加的な 1kWh の発電にかかる燃料費といった変動費用となる。 71 EWEA, EWEA position on priority dispatch of wind power http://www.ewea.org/publications/position-papers/ 72 発送電分離の形態には、主に所有権分離、そして一部、独立系送電運用者方式(いわゆる法 的分離)がとられている(参考) 「ドイツ視察報告書“Energiewende”(エネルギーヴェンデ(大 転換))を進めるドイツ」http://jref.or.jp/images/pdf/20121018/energiewende_20121018.pdf 73 European Commission, Quarterly Report on European Electricity Markets https://ec.europa.eu/energy/sites/ener/files/documents/quarterly-electricity_q3_2014_ final_0.pdf 74 電力取引監視等委員会,制度設計専門会合(第 4 回) http://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_system/004_haifu.html 75 EWEA(訳:日本風力エネルギー学会), 風力発電の系統連系~欧州の最前線~ http://www.jwea.or.jp/publication/PoweringEuropeJP.pdf 48 風力発電や太陽光発電等の自然エネルギーはこの短期限界費用がほぼゼロである。その ためメリットオーダーの中で最初に給電される。自然エネルギーの増加に伴って、短期限 界費用の低い自然エネルギーがこれまで高い限界費用で発電していた発電所を代替し、結 果として電力価格を下げることが期待される。 (3)原子力発電の負荷追従運転 日本では最優先とされている原子力発電について、欧州では例えばドイツやフランスで これまでにも負荷追従運転を行っている。ドイツでは、さらに、自然エネルギーに対する 優先給電が徹底されており、原子力などの日本では最優先とされている電源についても出 力抑制することが義務付けられている76。図 26 はドイツの 4 つの TSO の内の一つである TenneT のエリアにおける 2015 年 8 月 23 日の時間ごとの発電状況を示したものである。太 陽光発電(黄)や風力発電(水)の出力の増加を受けて、原子力発電(黒)の出力が調整 され、低下している。この日、原子力発電の出力は、最大で 3951MW から最低で 2518MW ま MW で変動している。 25000 太陽光 陸上風力 20000 洋上風力 廃棄物 15000 その他 石油 10000 天然ガス 褐炭 5000 無煙炭 0 地熱 原子力 図 26 23:45 - 00:00 22:30 - 22:45 21:15 - 21:30 20:00 - 20:15 18:45 - 19:00 17:30 - 17:45 16:15 - 16:30 15:00 - 15:15 13:45 - 14:00 12:30 - 12:45 11:15 - 11:30 10:00 - 10:15 08:45 - 09:00 07:30 - 07:45 06:15 - 06:30 05:00 - 05:15 03:45 - 04:00 02:30 - 02:45 01:15 - 01:30 00:00 - 00:15 -5000 バイオマス 水力 揚水 地域外との融通 TenneT エリアにおける 2015 年 8 月 23 日の時間ごとの発電状況 (出典)ENTSO-E transparency platform77 における時間別発電データより財団作成 (4)ネガティブプライス 原子力発電は、先に述べたように負荷追従運転を行うものもあるが、その一方で、電力 市場において「ネガティブプライス」により、出力の抑制を回避しているケースもある。 76 JREF, 自然エネルギーの系統連系問題と今後の方向性 http://jref.or.jp/activities/reports_20140131.php 77 ENTSO-E, ENTSO-E transparency platform, https://transparency.entsoe.eu/ 49 欧州の前日スポット市場では、出力調整が困難な電源が出力抑制を回避するために、マ イナスの価格での入札を行うことも可能となっている。マイナス価格での電力供給とは、 通常とは反対に、供給側が需要側に金銭を支払って発電する(出力を維持する)ことを意 味する。需要側は、金銭を受け取って電力を消費する。欧州では、このようなマイナスの 価格での入札の結果、前日スポット価格がマイナスになる「ネガティブプライス」が発生 している。 「ネガティブプライス」が生じると、金銭を受け取って電力を消費する新たな需 要が呼び込まれ、需給バランスが維持される。 図 27 は、ベルギーにおける 2013 年 6 月 15 日(土)から 16 日(日)にかけての前日の 残余需要予測(黒色、自然エネルギーの出力を需要から除いたもの)、風力発電出力(破線) 、 太陽光発電出力(点線)の予測と前日スポット市場における取引価格(赤)を示したもの である(Elia System Operator and Belpex Power Exchange のデータをもとに、KU Leuven Energy Institute が作成したものを引用している78) 。 この週末、ベルギーでは 16 日(日)の明け方 6 時と昼 12 時すぎに前日スポット市場価 格(赤)がマイナスとなっており、ネガティブプライスが発生している。これらの時間帯 の太陽光発電(点線)や風力発電(破線)の出力を見ると、昼 12 時前後には太陽光発電出 力が 2 GW 近くに上昇し、これに伴う残余需要(黒線)の低下がネガティブプライスの要因 の一つになっていると考えられる。しかし一方で、明け方 6 時の時間帯では、太陽光発電 (点線)と風力発電(破線)の出力は少なく、ネガティブプライスの大きな要因ではない と考えられる。明け方 6 時頃では残余需要は最小値 6.2GW が予測されたが、この時、原子 力発電の利用可能な出力が 5.4GW 存在していた 79。さらに、火力発電の最小出力を考慮する と供給が需要を上回る可能性があり、前日スポット市場価格(赤)が大きくマイナスとな ったと考えられる。このベルギーの事例からは、自然エネルギーの出力が低い時間帯でも、 原子力発電出力や火力発電の最小出力が要因となって、ネガティブプライスが生じうるこ とを示唆している。 78 Negative electricity market prices https://set.kuleuven.be/ei/images/negative-electricity-market-prices 50 図 27 ベルギーの前日スポット市場の動き(2013 年 6 月 15 日~16 日 79) 出典:Elia System Operator and Belpex Power Exchange のデータをもとに、KU Leuven Energy Institute が作成 ドイツでは従来型発電による調整の利かない最小出力を低減させていくことが今後の課 題の一つとして指摘されている79。従来型発電による固定的な最小出力は、アンシラリーサ ービスを担う火力発電の最小出力や、起動や停止に長い時間と高いコストを要する原子力 や褐炭火力の存在が要因になっている。これらの最小出力が今後も高く推移すると、自然 エネルギーの変動に対して十分な下げ代が確保できず、自然エネルギーの出力抑制の増大 や、ネガティブプライスの頻発が生じうることが指摘されている。これらの対策の一つと して、ドイツ連邦経済エネルギー省のホワイトペーパー(2015)80では、20 の施策の中で、 調整力市場の新規参入者への開放を挙げている(measure 6)。これは自然エネルギーや柔 軟な消費者そして蓄電などの小規模かつより柔軟な調整力に対して、調整力市場を開放す る試みである。調整力市場の自然エネルギーへの拡大によって、調整力を提供してきた従 来型電源の「最小出力」を低減させることが期待されている。また、従来型電源の最小出 力についてモニタリングを行い、最小出力が生じる要因を分析することが予定されている (measure 7) 。 79 BMWi, An Electricity Market for Germany’s Energy Transition https://www.bmwi.de/BMWi/Redaktion/PDF/G/gruenbuch-gesamt-englisch,property=pdf,berei ch=bmwi2012,sprache=de,rwb=true.pdf 80 BMWi, An electricity market for Germany's energy transition White Paper by the Federal Ministry for Economic Affairs and Energy http://www.bmwi.de/EN/Service/publications,did=721538.html 51 3.3 日本と欧州の需給運用の比較と論点 (1)日本と欧州の需給運用の比較 日本と欧州の需給運用を比較すると、以下のように、優先給電ルールが異なっている。 日本では、長期固定電源(原子力や揚水除く水力、地熱など)の優先給電に基づいて需 給運用が行われている。そしていくつかの電力会社では、各地域の需給バランスを安定的 に維持する目的のもと、太陽光発電や風力発電の導入に接続可能量(30 日等出力制御枠) を設定している。この 30 日等出力制御枠を越える太陽光発電や風力発電の導入には、無制 限無補償の出力抑制が課せられる可能性があり、これは事業の採算性の見通しが困難にな ることを意味する。優先給電ルールと 30 日等出力制御枠の設定によって、需要が少ない時 期は原子力が需要の大部分を賄い、太陽光発電や風力発電を大幅に出力抑制することにな る。 一方で、欧州では、自然エネルギー電源の優先給電を EU 再生可能エネルギー利用促進指 令で定め、2013 年 3 月時点で 18 の加盟国が自然エネルギーの優先給電を各国の法律で規定 している。優先給電が規定されることで、自然エネルギーの給電や売電が保証されると共 に、系統安定性の確保を理由としないような不必要な出力抑制を回避することが期待され る。そして、ドイツやフランスでは原子力発電の負荷追従運転を行っている。また、活発 な卸売電力市場取引におけるメリットオーダーに基づいて、短期限界費用の安価な自然エ ネルギーがはじめに給電されことで、従来高い限界費用で発電していた発電所を代替し、 結果として電力価格を下げることが期待される。 このように日本では、長期固定電源の優先給電によって軽負荷時には自然エネルギーの 出力が抑制される方針にあるが、欧州では、自然エネルギーの優先給電や卸売電力市場の メリットオーダーにもとづいて自然エネルギーの出力がむしろ優先されている。 (2)日本の需給運用における論点 ①長期固定電源の優先給電の見直し 自然エネルギーの導入拡大に向けて、日本では、現状 30 日等出力制御枠などで制限され ている自然エネルギーの受け入れ可能性を高めていくことが必要である。そのためには、 長期固定電源の優先給電を見直し、自然エネルギーからの給電をより有効活用するルール に移行することが求められる。 日本では、長期固定電源の優先給電を妨げないように、太陽光発電や風力発電の 30 日等 出力制御枠が設定される。出力制御枠の設定では、再稼働していないものや建設中のもの を含め、最大限に原子力発電所が稼働しても需給バランスが安定的に保たれるよう、太陽 光発電や風力発電の導入を制限し、出力の抑制を可能にしている。この結果、現在のルー ルは、稼働していない原子力発電所による供給枠の空抑えが可能になる制度となっている。 これは優先給電ルールを理由として、原子力発電への過剰な配慮となっている可能性があ り、見直しが必要である。また、日本の原子力発電では、負荷追従運転が行われていない 52 ので、原子力発電比率が高まることで調整力は低下する。さらに 2010 年以降、発受電量は 減少傾向にあり、2015 年は 2010 年比で 11.5%減少しているため、今後、特に軽負荷時に 長期固定電源を優先的に給電しながら需給バランスを維持することは、より困難になる可 能性がある。例えば、もし 30 日等出力制御枠の算定で想定されているように、建設中のも のも含めて多くの原子力発電が稼働した場合、地域によっては原子力や火力の最小出力が 昼間の最低需要を上回り、調整力の確保が課題となる可能性がある。このように、長期固 定電源の優先給電は、自然エネルギーの導入を制限するとともに、電力需要の減少が進ん だ場合、軽負荷時の需給バランスを困難にする可能性がある。 自然エネルギーの導入拡大に向けても、長期固定電源の優先給電の見直しが求められる。 自然エネルギーの有効活用を進めるために最も有効なのは、日本も自然エネルギーの優先 給電を定めることである。しかし、それ以前にまずは、30 日等出力制御枠の試算における 原子力発電の空抑えを是正することが必要である。 ②自然エネルギー出力制御枠の見直し 長期固定電源の優先給電を見直すことによって、自然エネルギーの受け入れ可能性が拡 大するため、30 日等出力制御枠の見直しが必要である。 上述した通り、30 日等出力制御枠試算における長期固定電源による空抑えを検証するこ とや、自然エネルギーの優先給電を前提とすることで、太陽光発電や風力発電の受け入れ 可能性は増加する。このほかにも、先に指摘したような広域運用の拡大も太陽光発電や風 力発電の受け入れ可能性を増加させる要因となる。これらの影響を評価したうえで、出力 制御枠を見直していくことが求められる。 現状では、30 日等出力制御枠は、新エネルギー小委員会系統ワーキンググループで整理 された基本的考え方に基づいて、一般電気事業者が自然エネルギーの接続可能量を算定し、 ワーキンググループでの検証を経て設定されている。自然エネルギーの受け入れ可能性を より公平で中立な視点から評価していくためには、広域的運用機関などの、より中立な機 関による評価や、太陽光発電や風力発電など関連団体の意見を踏まえた丁寧な検証が求め られる。この場合、出力制御枠そのものの必要性も含めて見直していくことが課題となる。 また、日本では、送配電部門の一層の中立化を図るため、今後法的分離による発送電分 離が実施されるが、所有権分離には至っていない。今後、所有権分離によって送配電部門 のより一層の中立化を図ることが有効であると考える。 53 参考1.自然エネルギーの 30 日等出力制御枠における原子力発電による空抑え 現在、いくつかの電力会社では、太陽光発電と風力発電の 30 日等出力制御枠を設定し、 これらを越える新規の太陽光発電や風力発電の導入には、無制限で無補償の出力抑制を課 すことが可能となっている。このような 30 日等出力制御枠の設定や無制限無補償の出力抑 制が必要とされている原因の一つは、現在稼働していないものも含めて、原子力発電によ る将来的な給電を保証していることである。 30 日等出力制御枠を設定している電力各社は、この制御枠試算の前提として使用した需 給のシミュレーションデータを公開している。図 28 は、これらのデータに基づき、1 年間 (8760 時間)の 1 時間毎の電力需要データを、年間の最小需要から最大需要まで大きさ順 に並び替えた曲線(青線で示したもの。デュレーションカーブと呼ばれる) 、および、その 際の供給力と電源内訳を示したものである81(ここでは、制御枠を設定している北海道電力、 東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力のデータを統合して示している。ま た、太陽光発電・風力発電は 30 日等出力制御枠に相当する設備量まで導入された場合の発 電量を示し、火力発電は出力抑制の効果も織り込まれた発電量を示している)。 この図を見ると、電力各社の太陽光発電と風力発電の導入量が 30 日等出力制御枠に達し た場合、多くの時間で、太陽光発電(赤)を含む供給力が電力需要(青線)を大きく上回 ると試算されていることがわかる。特に図の左側に示される電力需要の低い時間帯におい MW て、供給が需要を大きく上回ると想定されている。 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 原子力 地熱 水力 バイオマス 火力 風力 太陽光 時間 1 241 481 721 961 1201 1441 1681 1921 2161 2401 2641 2881 3121 3361 3601 3841 4081 4321 4561 4801 5041 5281 5521 5761 6001 6241 6481 6721 6961 7201 7441 7681 7921 8161 8401 8641 0 需要 図 28 電力需要のデュレーションカーブと電源別供給量 出典)電力各社(北海道電力、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力)か ら公表されている「接続可能量(30 日等出力制御枠)の算定に用いたシミュレーションデ ータ」を用いて財団にて作成した。 81 例えば、図 28 では 1 年間のほとんどの時間帯において 30,000MW 以上の電力需要が発生し、 約 10%の時間帯で 44,000MW 以上の大きな需要が発生していることがわかる。 54 これらの需要を上回る供給に対しては、揚水発電や連系線の活用に加え、太陽光発電・ 風力発電の出力抑制を行うことで、需給バランスを維持することが必要と想定されている。 図 29 では、図 28 で示した需要と供給に対する各時間における調整力の活用想定を、揚水 運転(青)、連系線を活用した地域外との電力取引(赤)、太陽光発電と風力発電の出力制 御の合計(緑)で示した。 図 29 を見ると、揚水運転(青)は、需要の大小にかかわらず様々な状況で調整力として 活用されているが、特に電力需要が低い時間帯では、出力にして 5000MW から 10,000MW の 大きな太陽光発電・風力発電の出力制御(緑)が必要になると試算されていることがわか る。連系線の活用(赤)は、どの時間帯でも大きな活用が見込まれていない。 以上のように、電力各社のシュミレーションデータでは、太陽光発電と風力発電の導入 量が 30 日等出力制御枠に達した場合、火力発電の出力抑制を織り込み、揚水運転や連系線 を活用しても、大きな出力抑制が必要となると試算されており、30 日等出力制御枠を越え た自然エネルギーについては、無制限無補償の出力抑制を課す必要があることを示す根拠 MW とされている。 5,000 0 (5,000) (10,000) 揚水 出力制御 時間 1 314 627 940 1253 1566 1879 2192 2505 2818 3131 3444 3757 4070 4383 4696 5009 5322 5635 5948 6261 6574 6887 7200 7513 7826 8139 8452 (15,000) 連系線 図 29 30 日等出力制御枠の試算における調整力の活用想定 しかし図 28 に示したような、 「供給が需要を大きく上回る」という試算結果は、原子力 発電の最大限の稼働を前提としたものであり、現在(2016 年 4 月)の原子力発電の稼働状況 とは全く異なっている。すなわち、第 3 章で指摘したように、ここでは 23 基(表 8)の原 子力発電所の稼働が想定されているが、現在稼働しているものは川内 1,2 号機の 2 基のみ であり、ほとんどは未だ稼働していない。 そこで、図 30 では、現在稼働している 2 基の原子力発電所のみを想定した場合の需要と 電源別供給力を示した。現在の原子力発電所の稼働状況を前提とすれば、電力供給が需要 を越える日数は極めて少なくなる。さらに揚水運転や連系線の調整力を活用することを想 定すれば、太陽光発電や風力発電の出力制御量は大きく減少すると考えられる。これは、 55 無制限無補償の出力抑制を課さずとも、さらに多くの太陽光発電や風力発電の受け入れが MW 可能であることを意味している。 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 1 241 481 721 961 1201 1441 1681 1921 2161 2401 2641 2881 3121 3361 3601 3841 4081 4321 4561 4801 5041 5281 5521 5761 6001 6241 6481 6721 6961 7201 7441 7681 7921 8161 8401 8641 0 原子力 地熱 水力 バイオマス 火力 風力 太陽光 時間 10,000 需要 図 30 現状の原子力発電稼働状況による電力需要のデュレーションカーブと電源別供給量 以上のように電力会社が行った 30 日等出力制御枠の試算では、将来的な原子力発電の最 大限の稼働を想定したために、供給力が需要を大きく上回る試算となり、太陽光発電や風 力発電の導入に無制限無補償の出力抑制という条件を課す結果となっている。現状の原子 力発電の稼働状況を前提とすれば、無制限無保証の出力抑制の条件は必要ではない。 太陽光発電や風力発電にとっては、無制限無補償の出力抑制が条件となることで、これ らの事業の採算性の見通しが困難になり、一方で原子力発電にとっては、将来、たとえ最 大限に原子力発電が稼働しても一定出力での給電を保証することが可能となり、将来の事 業リスクが低減されている。これは、稼働見通しが明確でない原子力発電に対して将来的 な給電の空抑えを認め、そのために太陽光発電や風力発電へリスクを負わせる構造になっ ていることを意味する。そして、この原子力発電による空抑えは、不必要に太陽光発電や 風力発電の新規の導入を制限してしまい、電力供給における火力発電への高い依存を維持 することにもつながる可能性がある。原子力発電による空抑えを前提とした 30 日等出力制 御枠の試算は、見直しが必要である。 また、図 29 では 30 日等出力制御枠の試算における調整力の活用想定を示したが、この 中における連系線の利用による地域外との電力取引(赤)の活用度合は小さい。今回、図 28~30 で示したデータに含まれる電力各社には、東京電力や中部電力、関西電力など日本 において特に需要が大きい電力会社が含まれていない。そのため連系線を活用した他地域 との電力取引が、特に重要な調整力のオプションの一つであるが、十分な活用は想定され ていないことがわかる。本報告書の第1章で指摘したように、太陽光発電や風力発電の出 力抑制を低減して電力を有効活用していくためには、連系線を通した広域運用の活用可能 性を高めていくことが必要である。 56 自然エネルギーの導入拡大に向けた系統運用 ―日本と欧州の比較から― 2016 年 3 月 発行 2016 年 4 月 改訂版発行 公益財団法人 自然エネルギー財団 〒105-0021 東京都港区東新橋 2-18-3 ルネパルティーレ汐留3階 電話 03-6895-1020 http://www.renewable-ei.org/ Renewable Energy Institute 3F, 2-18-3, Higashi Shinbashi, Minato-ku, Tokyo 105-0021 Japan Phone +81-3-6895-1020 http://www.renewable-ei.org/en 写真提供(表紙下) :Red Eléctrica de España 57