最適化意思決定論の限界

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最適化意思決定論の限界
Kobe University Repository : Kernel
Title
最適化意思決定論の限界(Some Limitations on Optimal
Decision-Making Theory)
Author(s)
占部, 都美
Citation
国民経済雑誌,127(2):40-55
Issue date
1973-02
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00171603
Create Date: 2017-03-30
最適北 意思決定論 め限界
占
部
都
美
1
.は し が き
最近 の意思決定論的経営学 においてほ,経営学 の認識対象であ る経営は,意
de
c
i
s
i
o
nma
ki
ng)であ る とい う立場が とられ る。 そ して,意思決定にた
思決定 (
い してアプローチ してい くぼ あい,(
11
最適化意思決定諭 と(
2)
満足化意思決定論
とい う2つの異な った アブ。-チが方法論的に対立 してい るのが,現状である。
OR)におけ る意思決定
前者 は,経済学 ない しオペ レーションズ ・リサ -チ (
論 のアプローチであ り,利潤極大化又は費用最小化の 目的 の最適化 のための意
思決定 モデルを開発す ることを主 な 目的 と してい る。 これ にたい して,後者 は,
サ イモ ン (
H・A・Si
】
ュ
o
n) な どを中心 とす る行動科学的意思決定論 の立場 であ
s
a
t
i
s
Gc
i
ng pr
i
nc
i
pl
e
) に よる意思決定 モデルの開発を主 な 目的
り,満足化原則 (
とす るものである。
他方では, コンビュ-タに よる情報技術革命が進行 し, コンピュータは,初
期段階の事務処理 の 自動化の段階か ら,意思決定 の コンビュ-タ化 の段階に移
って きている。 この段階 では, 最適化意思決定論 と満足化意思決定論の対立 は,
たんに抽象的 な方法飴 の問題 と してではな くて,現実に意思決定 の コンピュー
タ ・モデルを構築す るば あいの 2つの異 なった方法 として,注 目され て きてい
るのである。
ここでは まず,意思決定 の コンビュ-タ化にあた って,最適化意思決定論 の
適用 には,重大 な現実的 な制約 があることを明 らかに した いのである。
O R学者を代表す るとみな され るア コフ (
R・L・Ac
kof) さえ も,最適化論
の限界をつぎの ような根拠に よって,指摘 してい ることは,重要 である。 ア コ
最適化意思決定論 の限界
41
7は,経営計画について,「計画の主 な価値 は,それが作成す る計画にあ るので
1
はな くて,計 画をつ く り出す過程 のなかにあ る」 と述べ てい る。計画の過程 を
つ うじて, 目標達成 のた めの創造的な計画案の発見を行な うところに,計画の
真 の意義が あ る。 いいか えれば,革新 (
i
nnova
t
i
on) を発見 し, これを遂行す る
ところに,計画の真の価値が あるのであ る。 コンピュータの意思決定- の活用
は,決 して陳腐な計画決定を 自動化す ることが,その 日的ではない。計画の創
造性 と,環域変化にたいす る適応性を飛躍的に高 める ところに, コンピュータ
を活用す る真の意義 があることを注意 しな くてはな らない。
2
ア コフほ,つ ぎの ように も述べ てい る。
「代替的 な計画の評価にたい して,多 くの計画者は拘泥 してい る。不幸な こ
とは, この拘泥 のために,計画者は, よ り稔 りのある活動に従事す ることが往
々に して妨げ られ てい るので ある。 よ り稔 りのある活動 とは,新 しい計画や方
針を発見 し,作成す ることであ り,創造す ることであ る。 -・
-陳腐 な計画の最
適評価 よ りも,新 しい計画や方針を創造す ることが,成功す る計画活動へ の鍵
であ る。
」 と。
ORを中心 とした最適化論者は, ともすれば,所与の代替案の最適な評価 ・
選択 の問題 に専念 しやすい。 しか し,意思決定の最重要 なポイ ン トは,新 しい
計画や方針を発見 し,作成す ること, いいかえれば革新を創造す ることにある
ことを注意 しな くてはな らない。
さらに,今 日の企業の内外 の環境 の変化は,はげ しいo意思決定は,環境変
化 にたいす るダイナ ミックな適応性を もたな くてほ, その苛思決定は企業の収
益性 目的や成長 目的 の達成 にたい して有効でない とい う意味で,効率的 とはい
えないのである。
以上 の ことは, コンビュ-タを企業 の意思決定に適用 してい くための経営情
報- 決定 システムの本質を理解す るための大前提 をなす ものである。
1 R.L.Ac
k
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97
0,p.1
5.
2 Lb
7
d.
,p.4
3.
4
2
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第
2 号
2
. 「構造化された問題」と 「構造化されない問題」
企業 の意思決定は,つ ぎの 2つの カテ ゴ リ-に分け ることがで きるO
㊤
構造化 された決定 (
s
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r
uc
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ur
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c
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)
⑧
構造化 され ない決定 (
uns
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r
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ur
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c
i
s
i
o
ns
)
企業 の意思決定のなかで,つ ぎの 3つ の条件をみたす意思決定は,「
構 造化 さ
れた決定」いわれ る。
④
問題 の構造 を数学的 モデルに よってあ らわす ことがで きることO
㊥
明確 に定義 された一元的 な 目的関数があること。
0
最適解を導 き出す アル ゴ リズム (
al
gor
i
hm)があ ること。
t
業務的決定のなか の在庫管理,生産 日程計画や管理的決定 のなかの設備計画
な どほ, この 「
構造化 された決定」 の性格 を もってい る。
この種の決定については,問題 の構造が 明確 であ り, システ ムを構成す る各
変数 とその相互関係を計量的に とらえて,数学的 モデルを構築す ることが で き
る。 さ らに, この種 の決定については,利潤極大化や費用最小化 の形 で,一義
的な 目的関数を設定す ることがで きる。 そ して, この種 の決定 については,最
適解を導 き出す アル ゴ リズムを発見す ることがで きるのである。 ここで, アル
ゴ リズムとは,決定手続 ない し計画手続 を意味 してい る。 それは,最適決定ル
-ルであ り, これ を コンピュータの プログラムにす ることに よって,「
構造化 さ
れた決定 」の コンビュ-タ化 を行 な うことがで きるのである。
したが って,「
構造化 された決定」 は,最適化原則に したが って, これを コン
ピュータ化す ることがで きるといえ るのである。
つ ぎに,
「
構造化 されない決定」 とは, 以上にあげた 3つ の条件 の全部又 はい
ずれか 1つを欠 く決定問題 を さしてい る。 まず,問題 の鹿造が複雑 であ り,変
数 の数 も多 く,その相互関係が複雑多岐 にわた る場合である。 また, システム
を構成す る諸要 因をすべ て計量化す ることがで きないで,質的要 因を考慮 しな
くてはな らない場合 であ る。合併,多角化,新製品開発な どの戦略的決定 は,
最適化意思決定論 の限界
43
この意味で,正に,「
構造化 されない決定」 の性格を もっている。
つ ぎに,決定問題 の性格か ら,利潤極大化や費用最小化 の形で, 目的関数を
一元化できない場合がある。利益 目標 のほかに,成長 目標,財務上の弾力性や
顧客の信用な ど, 目標が多元的であ り, しか もこの多元的な 目標を 1つの尺度
に一元化できない場合,あるいは 目標 のすべてを計量化できない場合, この種
の決定にたい しては,最適決定ル ールを適用できないのである。戦略的決定は
い うまで もないが,管理的決定 のなかの長期実行計画,予算編成,総合的な生
産計画や マーケテ ィング計画な どほ, 目的関数が一元化で きないために,「
構造
化 されない決定」 の性格を もつのである。
つ ぎに,た とえ 目的関数が一元化 され,そ して問題の構造を計量化す ること
ができるとしても,最適解を導 き出す最適決定ルールを発見で きない決定問題
がある。た とえば,数多 くの各製品分野に多角化を行なってい る企業 の全体的
利益計画について,最適決定を行な うための最適決定ルールを発見す ることは,
困難 である。定型的決定 といわれ る在庫管理や生産 日程計画であってち,それ
が複雑な ものになると,最適決定ル ールを適用できない場合 も多いのである。
その場合には, コンピュータ ・シュ ミレーションや ヒュー リステ ィック ・プロ
グラ ミングの適用が行なわれ るのである。
か くて,「
構造化 されない決定」にたい しては,最適化原則に したが って, こ
れを コンピュータ化す ることは,不可能である。 しか し,そのゆえを もって,
この種 の 「
構造化 されない決定」にたい して, コンビュ-タの適用を断念す る
な らば,現代経営にたいす るコンピュータの適用範囲は, きわめて限定 された
ものになるであろ う。 コンピュータの活用は,事務処理 の自動化や技術計算の
範囲にか ぎられ るとい う現状か ら脱却す ることを不可能に して くるであろ う。
なぜな らば,経営者に とって主要な価値を もち, また企業の成長性や収益性に
たい して重要な意義を もつ経営問題 の大部分は,大な り小な り 「
構造化 されな
い決定」 の性格を もってい るか らである。
最適決定ルールを適用できない 「
構造化 されない決定」にたい して, どのよ
4
4
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第
2 号
うな決定原則があるだろ うか。 それは,満足化原則 (
s
at
i
s
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i
ngpr
inc
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pl
e
)であ る。
か くて,企業 の意思決定にたい して, コンピュータを適用 してい く場合,つ
ぎの 2つの決定原則があ ることを注意 しな くてはな らない。
㊤
最適化原則 (
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満足化原則 (
s
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C
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i
nc
i
pl
e
)
前者 の最適化原則は,ORな どの 「
管理科学」に よって主張 され る決定原則
であ る。企業 の決定問題 にたい して数学的 モデルを構築 し,最適解 を導 き出す
最適決定ル ールを発見 し, これを プログラム化す ることに よって,意思決定 の
コンビュ-タ化を行な ってい く立場 であ る。 この最適化原則は,構造化 された
定型的決定にたい して適用す ることがで きるが,複雑 な,構造化 され ない非定
型的決定にたい しては, この最適化決定 モデルを構築す ることは, 困難 なので
あ る。
これにたい して,満足化原則は, サイモ ンな どの行動科学的意思決定論 ゐ立
場か ら主張 され る決定原則をな してい る。企業 の意思決定 の改善 にたい して,
コンピュータを活用 してゆ くにあた って,複雑 な,構造化 され ない非定型的決
定にたい しては,満足化原則に したが って,解決 をはか らな くてほな らないの
であ る。つ ま り,構造化 され ない非定型的決定 にたい しては,最適解 を導 き出
す最適決定 ル ールがないために,受容可能 な満足 な代替案を満足基準に よって
選択す るとい う決定原則が,満足化原則をな している。構造化 され ない決定問
題 にたい して コンピュータを適用す る場合, この満足化原則に よらな くてほな
らない。その場合,満足化原則ほ,かな らず Lも所与 の代替案か ら最適 な選択
を行 な うことを保障す る ものでは ないが, コンビュ-クを利用 して意思決定 の
創造性 と適応性を高め るための決定原則 と して,決定的な重要性を もつのであ
る。
ここでは,つ ぎに,企業 の意思決定 の最適化 モデルの特色をかんたんな事例
に よって検討 して,それが もつ限界を明 らかに したい と思 う。
最適化意思決定論 の限界
45
3
. 最適化モデルの特質
ここで,最適化 モデル とは,
「
構造化 された決定 」にたい して,最適化原則に
したが って,構 築 された決定 モデル (
de
c
i
s
i
on mode
l
s
) を意味 してい る。ORな
Ma
na
ge
me
nt Sc
i
e
nc
e
) の研究に よって,在庫管理 モデル,檎
どの 「管理科学」 (
送 モデル,割当モデルな ど,数多 くの最適化 モデルが開発 され てい る。 それ ら
に共通 して用い られ てい る決定 モデルの基本構造は,つ ぎの方程式 であ らわす
ことが で きる。
p-I(
C
,u)
ここで,Pは,利潤 の極大化 あ るいは費用 の最小化 とい うシステムの一元的
な 目標をあ らわ してい る。 いいか えれば, 少は, システ ムの有効性をはか る尺
度であ り,経営管理 は この 少の最大化 あ るいは最小化をほか ろ うとす るのであ
る。 目標 は計量化 されな くてほな らない。 目標が複数である場合に, なん らか
・最適化 モデルを構築す ることは
の方法 で, 1つ の尺度に一元化 されな くてほ,
で きない。
そ して, システムの有効性の尺度であ る Pは,管理可能 の変数 (C) と管獲
不可能 の変数 (u) の関数 (i)をな してい る。 この場合,管理可能 の変数 と
de
c
i
は,意思決定者が操作で きる変数をな してい るo それは,意思決定変数 (
s
i
onvar
i
abl
e
s
) とも呼ばれ る。
在庫管理 モデルでは,発注量や発注点な どが管理可能 の変数をな してい る。
管理不可能 の変数 とは,意思決定者が操作 で きないが, しか し, システムの
e
nvi
r
onme
nt
alγar
有効性に影響 を与 え る変数を さ してい る。 それは,環境変数 (
i
abl
e
s
) とも呼ばれ るo在庫管理 モデルでは,在庫品 の需要量や需要 の変動,発
注か ら入庫 までの リ- ドタイムな どは,通常,管理不可能 の変数 として取 り扱
って,決定 モデルが構築 され る。
●
c
ons
t
r
a
i
nt
)を 明らかに しな くてはな らな
つ ぎに,決定 モデルには,制約条件 (
い。在庫管理 であれば,倉庫 の在庫能力を制約条件 として指定す ることがで き
第 127 巻
46
第
2 号
る。生産管理 の場合,工場 の生産能力を制約条件 として指定す ることがで きる。
このよ うに して,決定 モデルが構築 され ると,つ ぎに,一定 の制約条件 の も
とで,一定 の管理不可能 の変数 を前提 に して, システムの有効性を最適化す る
値 を,管理可能な変数について,発見す る最適決定 ル ールが決め られな くては
な らない。最適値を導 き出す決定ル ールは,解析的 な数学方程式に よって設定
され, これを コンビュ-タ ・プログラムにす ることに よって,最適化 モデルの
コンピュータ化が行なわれ るのである。
最適化 モデルの構造を さらに具体的 に理解す るために,か んたんな事例を 1,
2あげて説 明 してお こ う。
<製 品 ミックス生産計 画の最適化 モデル>
1つの企業 で, 2つ の工場が あ り,A とBとい う2つの製 品を生産 してお り,
2つ の工場は どち らの製品を も生産で きる生産設備を もってい るとす る。 しか
し,2つの工場 の生産能 力にちがいがある し,2つ の製品 1単位 あた りの利益
率 に もちがいがあ る。企業全体 の利益 の最大化をはか るとい う目的 のためには,
2つ の工場 の生産能力を どの よ うな割合で利用 して, 2つ の製品 の生産計画を
決め るべ きか とい う決定問題 である。
つ ぎのよ うに して,決定 モデルは構築 され る。
システムの有効性 の尺度 ;
カニ利益
管理可能 の変数 ;
Xa
-A製品の生産量。
Xb
-B製品の生産量。
管理不可能 の変数。
2
.
0-A製品の単位あた り利益。
2
.
5-B製品の単位 あた り利益。
●
0
.
5
,1
.
0- Ⅰ工場 で AとBの各 1単位 の生産 に必要な能力の割合
0
.
8
,
0
.
5-Ⅱ工場 で AとBの各 1単位 の生産に必要 な能力の割合
(
%
)
(
%
)
最適化意思決定諭の限界
47
この場合 の決定 モデルは,つ ぎの方程式 であ らわ され る。
(
1) 9-2
.
0
0Xa十 2
.
5
0Xb
そ して, この決定 モデルには,つ ぎの制約条件がおかれ る。
(
2
) Ⅰ工場 ,0.5
0Xa+1
.
0
0Xも
≦1
0
0(
%)
Ⅱ工場 ,0
.
8
0Xa+0
.
5
0X)≦1
0
0(
%)
(
3) Xa≧0,
Xb
≧0
この うちで,(
2)
の制約条件は, 2つ の製品の生産量は,各工場 の生産能力を
3
)
の制約条件 は,各工場 の生産
こえてほな らない ことを意味 している。 また,(
量はつねに 0以上 でなければな らない ことを意味 してい る。
つ ぎに, この よ うな制約条件 の もとで,上記(
1)
の方程式 を解析す ることに よ
って,最適決定 ル ールがえ られ る。 この簡単 な事例では,計画は手作業 で十分
に行 な うことがで きるが,製品の数が数百種類にお よび,工場 の数 も数十 に及
ぶ場合, あ るいは数百 の下請工場にたい して製品 ミックス生産計画を決定す る
場合,手作業 では と うてい,計算を行 な うことはで きない。 しか も,毎 日ひん
ぽんに生産計画を変更す る必要があ る場合, この製品 ミックス生産計画 モデル
を コンビュ-タ化す ることは大 きな利益を もた らす のであ る。
<在庫管理 の最適化 モデル>
在庫管理 モデル は,工場倉庫や営業所倉庫や配給 セ ンターにおけ る製品在庫
に適用 され るばか りでな く, スーパ - ・チ ェ ィソの商品在庫に も適用 され る。
さらに,製品や商品 の在庫ばか りでな く,原材料,部品 の在庫管理に も適用 さ
れ るのであ る。
在庫管理 の最適化 モデル とは,総在庫管理費用を最小化す るよ うな最適発注
ロ ッ トない し最適発注点 を発見す る決定 ル ールを もった決定 モデルを さ してい
る。 ここでは,最適発注 ロ ットの決定に問題を しぼ ってみ よ う。
総在庫管理費用 は,つ ぎの 2つ の費用か らなってい る。
㊤
在庫費用 (
倉庫保管費,在庫 に投下 してい る資本 の利子,保険料,陳腐
化 の費用な ど)
48
④
第 127 巻
第
2 号
発注費用 (
発注や受け入れ の処理に要す る諸費用,生産を発注す る場合,
生産品種 の取替に必要な金型 の取替,機械の整備な どの段取 り費用)
一定期間におけ る製品の需要量を一定 とす ると, 1回の発注 ロ ットが大 き く
なればなるほ ど,平均在庫量が増えるた釧 こ,保管費用は増大す る。 これにた
い して, 1回の発注 ロッ トが大 き くなればなるほ ど,一定期間の発注費用は減
少す る。反対に,発注 ロットが小 さければ小 さいほ ど,保管費用は減少す るが,
発注費用は増大す る。 このような在庫管理問題 の構造は,つ ぎの図にあ らわす
ことができる。 この図で明 らかな よ うに,総在庫管理費用は,発注 ロットが大
きくな るに したが って,てい減 してゆ くが,一定の点を こえて発注 ロットが大
図1
. 最適発注 ロット
きくなれば,総在庫管理費用はてい増す るのである。 したが って,総在庫管理
費が最低である点が,最適発注 ロ ットであ り,それは,在庫費用 と発注費用 と
が相ひ としい点である。
最適化意思決定論の限界
49
か くて,在庫管理 の決定 モデルは,次 の方程式であ らわす ことがで きる。
I
Cは,総在庫管理費用であ り,在庫管理 システムの有効性をはか る尺度 であ
り,企業 と しては, この Cの値 の最小化をはか ることが 目的 である。
い る。
c
I
Q/
qほ,総発注費用をあ らわ してい
clは
1回の発注費用 をあ らわ して
馴 も 総需要畳 をあ らわ してい る。 1回の発注 ロ ッ トが qの値 であれば, T
期間におけ る発注 回数 は,Q/
q とな る0 1回の発注費用 (
cl
) 紘,発注 ロ ッ ト
の大 きさにかかわ らず,発注回数 に比例 して生ず るとみな され るか ら,T期 間
におけ る発注費用 は,C
10
/
q となるのである。製品の総需要が一定 であれば,
発注 ロ ッ トが大 き くな るに したが って,発注回数 は減 り,総発注費用はてい減
す るのである。
これ にたい して,総在庫費用 は C
2
Tq
/
2に よってあ らわ され る。在庫費用 (
C
2
)
は,平均在庫量 と時間に比例 して発生す る 1日あた り単位在庫費用 であ る。発
注 ロ ッ トが大 き くなればな るほ ど,一定期間 の平均在庫量 は増大す る。 1日あ
た りの平均在庫量 は,発注 ロ ッ トの大 きさの 1
/
2にな る。 したが って, 1回の
/
2とな り, 1日あた
発注 ロッ トが qであれば, 1日あた りの平均的在庫量は q
りの在庫費用 は C
2
q
/
2 とな る。 したが って,T 日間の在庫費用は C
2
Tq
/
2 とし
てあ らわす ことが で きる。
以上に述べた総発注費用 と総在庫費用 との合計が総在庫管理費用をなす ので
あ る。それは,在 庫管理 の決定 モデルの基本構造をな してい る。
そ して,総発注費用 と総在庫費用がひ としい とき,すなわ ち,C
I
Q/
q-C
2
Tq
/
2
であ るとき,総在 庫管理費用 (
C)紘,最小 となる。 この決定 モデルに解 析を
加 えると,最適発注量を導 き出す最適決定 ル ールは,つ ぎの式 であ らわす こと
がで きる。
q
-(
I
翠
(
決定 ル ル )
5
0
第 127 巻
箱
2 号
この決定 ル ールは, Eon (
Ec
onomi
cOr
de
r(
迦l
ant
i
t
y) 公式 と呼ばれ る。 それ
は,最適発注 ロ ッ トの決定 ル -ルをな してい る。 この決定 ル ールを コンピュー
タ ・プ ログラムにす ることに よって,在庫管理 の最適化 モデルの コソピ ューク
化が行なわれ る。
製品 の多様化がすすむにつれ て,各製品について,晶質,サ イズ,負, モデ
ルな どは,幾何級数的に増 え る傾 向にあ る。在庫管理 の対象は,何首種 額に も
及ぶ ことも稀ではな くなってい る。 この ような場合,各品種 につ いて,手計算
で,最適発注量を決定す ることは, とうてい不可能 である。在庫管理 の最適化
モデルの コンビュ-タ化を行 な うことに よっては じめ て,在庫管理 は, 自動化
されて くるのであ る。
しか し,以上 のかんたんな例で説 明した,最適化 モデルに よる意思決定 の コ
ソピューク化には,いろいろの問題が残 され てい る ことを注意 しな くてほな ら
ない。
4
. 最適化モデルの限界
ORな どの管理科学 の立場は,で きるだけ広汎 な決定問題にたい して,最適
化 モデルを適用 して,それを コンピュータ化 してい く研究をすすめてい る。 し
か し,最適化 モデルの コソピュ-タ化にあた ってほ,つ ぎの諸点を十分 に考慮
しな くてはな らないC
,
①
まず,前 に述べた よ うに,最適化 モデルは,「
構 造化 された決定」 にた い
して適用 され るが了構造化 され ない決定」には,適用す ることがで きない こと
であ る。
戦略的決定 は もちろんの ことであるが,管理的決定や業務的決定 のなかで も,
「
構造化 されない決定」は多いのである。
構築 された決定 モデルが システ ムの構造 を正確かつ完全に反映 していな
3
い ときは,最適決定 ルールに よって導 き出された最適解 は,かな らず Lも,真
⑧
3 R.L Ac
k
o
f
r
,i
b
i
d.
,p.1
4
.
最適化意思決定論 の限界
51
の最適解 ではない ことを注意 しな くてはな らない。
したが って,決定 モデルを構 成す る変数, そ のパ ラメー タ値や相 関率 な どに
つ い て,十 分 な デー タを収集 し, これ に各種 の統計的分析を加 えた上 で,決定
しな くてほな らない。 さ らに, そ の よ うに して構 築 された決定 モ デルは, はた
して システ ムの実体 を正確 に表 現す るか ど うかをた しか め るために,何 回 もテ
ス トを行 なわ な くてはな らない. そ のテス トの結果 の評価 につい ては,経営管
理者 や管理 ス タ ッフの判断が必要 にな って くる。
③
よ り重要 な問題 は,解 析的 な最適決定技術 を適用 で きるよ うにす るため
に, 現実 の システ ムを抽象化 した り,単純化 した りす る危 険 のあ る ことであ る。
そ の場合 には,最適 ル -ルで導 き出 された最適解 は,か な らず Lも真 の最適
解 ではない ので あ る. た とえば,在庫管理 の最適化 モデルにおいては,需要 は
つね に一定 率 で発生す る ことが仮定 された り, あ るいは,需要 の変動 は,正規
分布 ない しポ ア ソン分布 をなす ことが予定 され てい る。 しか し,現実 の システ
ムにおいて, この条件 がみた され ない場合,最適決定 ル -ルを適用す る ことが
で きない のであ る。 現実 の シス テ ムは複雑 であ るために,決定 モデルを構 築す
る ことが で きて も,最適解 を導 き出す最適決定 ル ールを発 見 で きない経営問題
は多 い のであ る。
この よ うな決定 モデルにた い しては,最 適解 の近似解 を兄 い出すために, コ
ンピ ュー タ ・シ ュ ミレーシ ョンの方法を適用す ることが有効 な方法 とな るので
あ るO この コ ンピュー タ ・シ ュ ミレーシ ョンに よるマ ン ・コ ンビュ-タ ・シス
テ ムは, か な らず Lも最 適解 を保障 しない。 しか し, コンピ ュー タ ・シ ュ ミレ
ーシ ョンを通 じて,経 営者 や ス タ ッフの判断を行使す る ことに よって,人 間 と
コンピュー タの相互作用 に よって,最適解 の近似値 を発見 し, あ るいは, よ り
真実 の最適値 さえ発見す る ことが で きるので あ る。
④
目的関数 を一元化 で きない場合, あ るいは, 目的 をすべ て計量 化 で きな
い場合 には,最適決定技術 を適用す る ことが で きない。
た とえば,在庫管理 の最 適化 モデル の場合,総在庫管理費用 のなか に,品切
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5
2
第
2 号
れ費用を見積 ることが行 なわれ る。品切れ費用は,在庫 の品切れのために,蘇
客か らの注文に応 じられ ない結果生 じる直接,間接 の費用を さ してい る。それ
には,失なわれ る販売 の機会を見積 った り,顧客 の信用 の喪失な どを費用に見
積 って,品切れ費用が算定 され る。 しか し, こ? よ うな質的要 田を計量化す る
ことには,多 くの主観が入 るのである。
㊥
つ ぎに,最適化 モデルに よって意思決定を コンピュータ化 しよ うとす る
論者 は, ともすれば既成 のシステ ムの構造を所与 の もの とみな して, システ ム
の最適化をはか ろ うとす る。 そのために, システムの革新を行な う革新的決定
4
を怠 りやすい ことを注意 しな くてほな らない。
ある企業で,製品の品種が多様化 し,約 1
0
0種類に も達 していた。 ところが,
全体 の2
0%にあた る品種 は黒字製 品であるが,残 りの8
0%にあた る品種は,受
注が小 口であるために,不採算品種をな していた。 この不採算品種 の生産中止
は,顧客に不便を もた らす とい う理 由か ら,営業部は,不採算品種 の生産中止
にたい して強硬 に反対 した。
そ こで, スタ ッフは,現在 の製 品品種 の構造を既成 の所与 の システムとして,
在庫管理 の最適化 モデルを設計 し, コンビュ-タ化を行な った。
しか し,在庫管理 の コ ンビュ-タ化を行 なったに もかかわ らず,平均在庫量
はほ とん ど減 らず, したが って,総在庫管理費用 の節約額 は微 々た るものであ
った。
そ こで, このスタ ッフは,既成 の製品品種 の構造 を革新す る計画を立 てた。
それは,販売員 の報酬形態が従来各人 の売上高業績にス ライ ドす る方式 であ っ
たのにたい して,新 しく各販売員 の利益業績にたい して業績給 を スライ ドさせ
る方式を提案 した内容の ものであった。 このスタ ッフの提案はただ ちに実行 さ
れた。 その結果,半年 の うちには,多品種小量生産の不採算品種 の売上高は今
までの約半分 の水準に低減 し, その分だけ採算品種 の売上高が増 えたのであ る。
そのために,発注費用が大幅に低下 したのである。
4 J
b
t
d・
,pl1
8.
最適化意思決定論 の限界
5
3
か くて, この よ うな システムの革新 に よっては じめて, コンビュ-タ化 され
た在庫管理 システムは,総在庫管理費用 の大 きな節減を もた らした のである。
最適化論者 は,既成 の システ ムの構造を所与 とみな して,最適化 モデルを構
築す る ことに専念 し, システ ムの革新 を行 な う革新的決定 を怠 ることが多いの
であ る。 そのために, コンビュ-タ化 された最適決定 ル ールは,企業全体に と
ってかな らず Lも最適解を導 き出さないのである。
⑥
つ ぎに,最適化 モデルを コ ンピュータ化す る場合, 目的 は所与であ り,
また 目的を最適に達成す るため の代替案はすべ て所与 の もの とみな して,最適
化 モデルが構 築 され る。 よ り創造的な代替案 の探求が十分 に行 なわれないため
に,革新的な代替案が兄 のが され るとい う危険があ ることである。
⑦
つ ぎに, コンピュータ ・システムが バ ッチ処理方式 を とる場合には,動
態的な環境変化に よって生ず る新 しい問題 の意思決定にたい して, コンピュー
タ ・プログラムが時間的に間に合わ ない とい う問題がある。
今 日の動態的環境 の もとでは, マ-ケ ッ トの変化 もはげ しく,競争環境や技
術環境 の変化ははげ しい。環境が動態的に変化す るたびに,新 しい決定問題 を
生 じて くる。 ところが, バ ッチ処理方式が一般に行なわれ てい る今 日の現状 で
は,新 しい問題がお こるたびに,新 しくコ ンビュ-タ ・プ ログラムを作成 した
り, あ るいは旧 プログラムの修正を行なわな くてはな らない.新 しい プログラ
ムの作成 または修正が行なわれ, コンピュータか ら意思決定が ア ウ トプ ッ トさ
れて くるには, 多大 の時間を必要 とす るo Lたが って,最適化 モデルに よる意
思決定 の 自動化 の システムだけでは,環境 の ダイナ ミックな変化にたい して タ
イ ム リ-に適応す るため の意思決定 の適応性が十分に確保 されないのであ る。
⑧
最後 に, モテ ィベ ーションの問題がある。 も し,最適化 モデルに よって,
重要 な意思決定がすべ て コ ンピュータに よって 自動 化 された場合は ど うな るで
あろ うか。無人倉庫 の場合 の よ うに,意思決定 の実行者が物であ り,人間を含
まない場合には, モテ ィベ -シ ョソの問題 はお こらない。 これにたい して,予
罪,販売計画や生産計画に して も,意思決定 の実行者 は人間である。実行 の責
54
第 127 巻
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任を もつ人間 ?判断を全 く排す るマシ ン ・システ ムを この種 の意思決定領域に
適用す るときは,実行者で あ る人間のモテ ィべ -ションのいち じる しい低下 を
5
引 きお こす懸念がある。 か くて,意思決定 の実行者 のモーテ ィべ -シ ョンを考
慮 に入れた場合, アシ ソ ・システムとしてではな くて,人間 とコソピュークと
の間の相互作用 を可能にす るマ ン ・コンピュータ ・システムと して設計す る必
要が生 じて くるのである。
以上に述べた最適化 モデルの限界は,決 して,最適化 モデルに よる意思決定
の コンピュータ化 の努 力を否定 した り, これを過少評価す るものではない。む
しろ, そ うではな くて,
「
管理科学」 の発達 に よって, この分野 の研究 と実験 が
すすむ ことに よって,
「
構造化 され ない決定 」問題 も構造化 され,最適化 モデル
を適用す る範 囲は徐 々に拡大 され てい くであろ う。 と くに, ヒュー リステ ィッ
ク ・プT
jグラ ミングの研究 の急速 な発達に よって, よく構造化 されない複雑 な
6
経営問題にたい して も,意思決定 の コンピュータ化が行なわれ る範囲は拡大 さ
れ てい くであろ う。
しか し,最 適化 モデルの コ ンピュータ化を行 な ってい く場合に も,企業に と
って価値 のあ るものは,現実 の システムに即 した其 の最適解 であ り, さらに,
システムの革新 を導 く革新的決定 であることを留意 しな くてほな らない。そ し
て,意思決定 の創造性 と環境適応性 とが,企業に とって もっ とも重要 な意義 を
もつ とい うことである。
この よ うな観点か らは,最適化 モデルの コンビュ←タ化は,在庫管理,設備
設計や輸送問題 な どの部分的問題 に適用 され るものであって,企業全体 の経営
情報一 決定 システムは,経営者や スタ ッフの判断的要素 と, コンピュータ ・モ
デル とのあいだ の相互作用に よるマ ン ・コンピュータ ・システムの性格を もつ
もの といわ な くてはな らない。
よく構造化 された部分的問題 にたい して最適化 モデルを適用 し, これを コソ
5 Zb
l
'
d
.
,p.1
4.
6 占部都美編著 「
現代経営とコンピュータ」現代経営学全集 (白桃善房刊)1
8巻
昭和47
年
最適化意思決定論の限界
5
5
ピュ-タ化す ることに よって,全体 としての情報- 決定 システ ムは, データ ・
ベ ース (
dat
a bas
e
) ばか りでな く,各種 の決定 モデルを コンピュータ化 した モ
mode
lba
s
e
) を もつ ことにな る。
デル ・ベ ース (
企業全体 の情報- 決定 システ ムは,複雑であ り,包括的な システ ムであ り,
この全体 の システ ムにたい して最適化 モデルを適用 して,その コンピュータ化
を図ろ うとす る ト-タル ・システ ム (
t
ot
als
ys
t
e
m) のアブ p-チは, 明らかに
7
誤 ま りであ る。 あ るいは,戦略的計画 の決定にたい して,最適化 モデルを適用
して,その全体 の過程を コンビュ-タ化す ることを考 えるのは,誤 ま りである
といえる。 しか し,戦略的決定-情報 システ ムの場合に も, 内部 お よび外部 の
環境情報 にたい してデータ ・べ -スを もつばか りでな く, モデル ・べ -ス とし
て,需要予測 モデルを利用 し, また長期実行計画 のシュ ミレーシ ョン ・モデル
を利用で きるな らば,経営者や スタ ッフに よって行 なわれ る戦略 の探求や戦略
の最終的選択 は,効率化 され るばか りではない。 モデル ・べ -スの利用に よっ
て,戦略的決定 の創造性や適応性 も高め られ て くるのである。
7
占部都美編著 「
経営情報決定 システム」(
中央経済社 刊 )昭和47年。
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