...

万葉集と八代集における「夕暮の歌」 : その認定の基準及び分布を中心に

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万葉集と八代集における「夕暮の歌」 : その認定の基準及び分布を中心に
東京外 国語 大学 『日本研 究教 育年 報 1
6』 (
2
01
2.
3)
(研究 ノー ト)
万葉集 と八代集 における 「夕暮の歌 」
- その認定の基準及び分布 を中心に一
金
中
1
.は じめに
夕碁 は、昼か ら夜-移行す る時間帯 として、詩興 を呼び起 こ しやす い特性 を持 ってい る。
日本文学 においては、夕碁 が万葉時代 か ら多 く詠 まれ 、中世以降、
題 しらず
新古今 。361・寂蓮)
さび しさはその色 としもなか りけ り真木 たっ 山の秋 の 夕暮 (
題 しらず
こころなき身 に も哀 は しられ け りしぎたつ沢 の秋 の夕暮 (
新古今 ・362・西行)
西行法師す ゝめて百首歌 よませ侍 りけるに
新古今 。363・藤原 定家)
見わたせ ば花 も紅葉 もなか りけ り浦 の とまや の秋 の夕暮 (
秋 の夕暮」が 日本 人 の美意識 の一
とい う高名 な 「
三 夕 」の歌に代表 され るよ うに、特 に 「
つ と して定着 してい るO
本稿 は、平安 書中世和歌文学の典型 が集約 され る古今集 ・後撰集 ・拾遺集 ・後 拾遺集 ・
金葉集 ・詞花集 ・千載集 ・新古今集、す なわち 「
八代集」 と呼 ばれ る八部 の勅撰 和歌集 を
夕幕 の歌」の概要 を述べ る ものである。 なお、
対象 に、万葉集 も含 め、そ こに登場す る 「
本稿 で引用す る万葉集 と八代集 の歌は 『新 日本 古典 文学大系』 (
岩波書店) に よる。
2
. 夕暮 に関連 す る歌 表現
まず 、 「
夕碁 の歌」 と して認 定す る基準 を明確 に示す必要 が ある。 これ は 夕幕 の こ とが
和歌 においていかなる言葉 に示 され るか、 とい う問題 に も絡 んでい るO
「
夕暮」 と 「
夕べ 」 とい う名詞 は、それぞれ 夕碁 の ことを昼 と夜 の視点で捉 える表現 で
夕 さらば」 といった成句 とともに、夕碁 を時間的 に明示す るものであ
あ り、 「
夕 され ば」 「
る。
また、一 日にお ける時間の推移 は、太 陽の運行 に よって発 生す るもので あ る以上、 「
夕
夕霧 」な ど、 「
夕」
日」の風景 を歌 う作 品 も、夕碁 を明示す るもの と考 え られ るO 「
夕風 」 「
が 自然風物 に複合 され た名詞 表現が、夕春 の ことを間接 的 に示 してい るO
なお、 「
募 る」 とい う動詞 は、 「日が没 して暗 くな る」 ことが基本義 であ り、
津 の国へ まか りける道 にて
後拾遺 ・507・
能困)
鹿の屋 の昆陽のわた りに 鋸 ま暮れ ぬいづ ち行 く ら ん駒 にまかせ て(
とい う歌の よ うに、「
募 る」の主体が 「日」であ る場 合 は、一首が 夕幕に関連す る と考 え ら
れ る。 更 に、
- 59-
天平勝
宝
二 年
三 月 一
日 の 養
弘 に、春苑 の桃李 の花 を眺曝 して作 りし二首 仲 の一
首)
万葉 ・4139・大伴 家持 )
春の園紅 にはふ桃 の花下照 る道 に出で立っ を とめ (
とい う歌の よ うに、夕幕 の表現が歌本文ではな く、詞書 に現れ る場合 は、 夕碁 が一 首 の時
間的 な背景 として潜在的 に働 いてい る。
以上挙げた諸 ケ- スは、いずれ も 「
夕幕の歌」 として扱 うことにす るO
天皇の内野 に遊猟 したまひ し時に、 中豊命 の、間人達老 を して献 らしめ し歌
やすみ しし わが大君の 戯長堤 胤
吏 寄 り立た しふ
らしの 梓 の弓の
なか粥の
音す な り 朝狩 に
立と
梓 の弓の
なか餌の
み とらしの
みと
今 立たす らし 夕狩 に 今 立たす
音す な り
(
万葉 ・3・問人達老)
の よ うな、「
覇-夕-」の形で類似す る事象 を羅列す る表現 が万葉集 の長歌 に多い。いずれ
も文飾 的な繰 り返 し、あるいは 「
一 日中」の意味 を表す るものであ り、夕春 の現実性 はか
な り稀薄である。本稿 は この よ うな長歌 を、 「
夕碁 の歌」 として扱 わない ことにす る。
24首、八代集 か ら計 383首 を
これ らの基準 によ り、 「
夕碁 の歌」 として万葉集 か ら計 1
選 別 した。「
夕碁 の歌」の本文 に登場す る、夕幕 の関連表現 を統計 した ものが表 1である。
夕碁の歌」の本文 に登場す る夕碁
<表 1> 「
a
の
関
連
集
万葉
餐
古今
集
後撰
隻
拾遺
後隻
拾遺
夕 され ば
16
4
3
1
夕 さらば
3
0
0
2
夕 さらず
3
0
0
夕暮
3
7
秋 の夕暮
0
表現
集
金薬
集
詞花
集
千載
新隻
古今
合計
一
5
4
37
0
0
0
0
3
0
0
0
1
0
0
0
0
3
9
1
15
4
5
9
57
1
10
0
0
0
7
1
1
2
16
27
24
2
0
0
2
0
0
7
17
52
夕
5
0
0
0
0
1
2
3
3
14
夕方
2
0
0
0
0
0
0
0
0
2
夕ま ぐれ
0
0
0
0
0
0
1
3
1
5
夕つ け
0
0
1
0
0
0
0
0
0
1
たそかれ
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
たそがれ時
0
0
1
1
0
0
0
I
1
4
暮れ
1
0
1
2
6
1
3
13
9
36
暮れ方
0
0
0
0
0
0
0
I
1
2
入 り日
4
0
2
0
0
2
0
i
5
14
夕べ (
夕-)
0
-6
0-
万葉集と八代集における 「
夕馨の歌 」
夕附 日
I
0
0
0
0
i
0
0
1
3
入る日
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
日くたつ
1
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
1
0
0
日の入 る
0
0
0
0
I
日
影のなご蟻(
0
0
0
0
0
0
0
1
1
夕月夜
8
3
1
0
0
0
4
0
3
1
20
夕占
10
0
0
2
1
0
0
0
0
13
夕霧
5
0
0
0
1
1
2
2
1
12
夕露
2
0
0
0
1
1
0
2
4
10
夕立
2
0
0
0
0
1
1
ー
5
10
夕風
1
0
0
0
1
0
I
6
9
夕影
5
i
0
1
0
0
0
0
1
0
8
夕闇
3
0
1
0
0
0
0
0
2
6
夕煙
0
0
0
0
0
0
0
0
5
5
夕凪
2
0
0
0
0
0
0
1
3
夕潮
2
0
0
0
0
0
0
夕除 草
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
2
2
夕波千鳥
1
0
0
0
0
1
0
0
0
2
夕千鳥
0
0
0
1
0
0
0
0
0
i
夕星
1
0
0
0
0
0
0
0
0
1
夕凝 り
1
0
0
0
0
0
0
0
0
ー
夕月
1
0
0
0
0
0
0
0
0
一
夕霜
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
夕顔
0
0
0
0
0
0
0
1
I
夕時雨
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
i
夕とどろき
0
0
0
0
0
0
0
1
0
i
看る
ll
6
9
10
14
3
3
8
9
73
0
0
0
1
0
0
0
0
3
4
数詞 連 稚
十
暮る
成句 の表現 として、 「
夕 され ば」は万葉集 にお ける夕碁 を示す 主 な形 の一つ であ り、平
安以降かな り減少 し、「
夕 さらば」と 「
夕 さらず 」は万葉集 に止 まってい る。夕碁 を時 間的
に示す もの として、 「
夕暮」は八代集 にお ける最 も多い表現 であるO 万乗集 には少 ないが、
秋 の夕暮 」 とい
平安以降にわかに増 え、新古今集 では 57例 に も上 ってい る。 その うち、 「
/
2が最 も高 く、次 は新 古今集 の 1
/
3弱である。 「
夕
う成句の 占める割合 は、後拾遺集 の約 1
ー 61-
べ」 (
夕-)は、万葉集 にお ける最 も多い表現であ り、平安以降激減 し、千載集 か ら再び多
くなってい る。 夕 日を巡 る表現 として、 「
入 り日」が最 も多 く、次 は 「
夕勘
の語である。
「
夕幕の歌」 において、夕 日に関連す るものが全体に 占め る割合 は小 さいO
夕-」 とい う形 の複合名詞 として、 「
夕月夜 」(
2
0例)が最 も多 く、 「夕 占」(
1
3例)
「
は主 に万葉集 に集 中 してい るO「
募 る」とい う動詞 は、すべての歌集 に一貫 して夕碁 に関連
す る基本的な表現である。
「
夕碁 の歌」の詞書 に登場す る、夕碁 の関連表現 を統計 した ものが表 2であ る。
<
表
2
>
a
「
夕 幕 の歌」の詞書 に登場 す
隻葉
万
夕暮
0
秋 の夕暮
0
夕べ
0
夕さり
0
夕 き りつ方
0
夕方
0
暮れ
4
暮れ方
0
夕立
0
0
0
0
0
0
夕顔
0
夕涼み
0
夕恋
0
暮る
0
入相
0
晩涼如秋
0
山家秋晩
0
晩見脚燭
0
日暮れ
日の入 る
夕月夜
夕闇
夕占
水風晩涼
0
隻
古今
集
後撰
00
い
00
る
夕
幕
集遺
拾
の
関 連
後隻
拾遺
表
現
集薬
隻
詞花
集
千載
新隻
古今
合計
1
一
4
00
000
り
0
0
0
い0
0
0
り
0
0
い
0
0
00
00
0
0
0
00
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
一
0
2
0
0
2
0
0
0
金
0
0
0
0
0
0
0
2
0
3
1
0
0
0
0
0
一
0
0
i
0
1
0
0
一
I
1
Ⅰ
0
2
0
0
3
1
1
0
1
0
0
り
0
I
0
1
0
0
0
I
0
0
1
0
0
0
1
0
0
0
一
0
0
0
0
1
2
2
12
1
0
i
0
0
0
0
0
0
1
1
0
0
1
1
0
0
1
0
0
0
0
0
0
i
0
i
0
0
0
2
2
0
0
1
1
9
0
一
0
0
1
0
一
2
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
1
0
1
0
0
0
1
1
4
0
-
62 -
1
万葉集 と八代集 における 「
夕碁の歌」
暮恋 故人
00
い
0
00
0
晩霞
0
晩 閣鹿
0
暮望行 客
0
零 中晩嵐
0
* *%
0
希 や夕
0
書 見 卯花
暮 天郭公
野径秋 夕
審 尋
山
草花
寺 秋
0
0
0
0
0
0
0
0い0
00000
00
0
0
0
い
0
0
0
0
0
0
0
0
暮
晩風催 恋
0
0
0
0
0
0
0
い
ー
0
I
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
一
一
0
I
1
0
一
一
0
千
1
0
1
一
0
0
0
0
一
1
1
1
1
0
I
1
0
I
1
0
0
4
4
0
0
1
1
「
夕 さ り」 「
夕 さ りつ 方 」 「
暮 つ方 」 「日暮れ 」 は歌 の本 文 には見 えない散 文的 な表 現 で
あ る。 後 拾遺集 か ら、夕碁 の こ とが題詠 に多 く登場す る よ うにな り、 夕碁 に対す る時代 共
通 の関心 が高い こ とを示 してい る0
3
.
「夕碁 の歌 」 の 分 布
作者別 を見 る と、 「
夕者 の歌」 が 5 首以上登場 した もの と して、 大伴 家持 の歌が 万葉集
3首見 えて最 も多 く、以下、紀貫之 11首、源俊頼 10首 、慈 円 10首 、藤 原 定家 9首 、
に1
藤原 良経 8首 、式子 内親 王 8首、和泉式部 7首、後鳥 羽 院 7首 、柿本 人麻 呂 6首、西行 6
首、藤原 秀能 6首 、寂連 5首、藤原清輔 5首、藤原俊成 5首、藤 原 家 隆 5首 で ある。 夕碁
はそれ ぞれ の時代 の著名 歌人 に歌われ てい るが、その 中で も特 に新古今集 時代 にお い て多
く詠 まれ てい るO
八代集 の 「
夕幕 の歌」 を、集別 ・巻別 ご とに統計 した ものが表 3で あ る。
夕幕 の歌」 の分布
<表 3>八代集 に お け る 「
撒 集
秦 I
夏 0
古今
\
隻
後撰
隻
拾遺
5
1
後隻
拾遺
集
金薬
隻
詞花
隻
千載
新隻
古今
合計
5
0
5
9
28
1
0
2
2
3
3
9
21
39
7
6
23
29
94
4
10
18
秩
4
8
2
15
冬
2
1
1
0
- 63-
00
離別
1
0
轟旅
2
0
1
0
1
0
9
ll
哀傷
2
3
2
2
雑
1
4
3
1
4
恋
1
-
0
0
2
4
3
一
5
4
0
2
5
2
1
6
22
1
4
28
91
0
8
17
5
1
8
52
釈教
-
-
-
-
-
-
3
5
8
神祇
-
-
-
-
-
-
0
2
2
その他
2
-
合計
25
32
総数数
夕
占める割合
碁 の歌 の
3
1
-
-
65
1
49
6
1
9
1
11
1 1
425 1351 1
218
717
41
5
1
288 1
978 9503
2.
2%
3.
2%
4.
6%
5.
0%
1,
6%
48
-
23
2.
2%
22
-
3.
9%
7.
5%
383
4.
0%
金薬集 と詞花集 の歌集 自体 が小規模 であるこ とを考慮すれ ば、 「
夕幕 の歌」 は後拾遺集
か ら増加 してい ることが言 えるO新古今集 では大いに盛行 し、総歌数 の 7.
5% に も達 して
い る。すべての巻において新古今集 の所収歌数 はそれ以前の歌集 よ り多 くな り、 千載集 に
比べ て 「
春」 「
夏」 「
冬」 「
恋」の巻 はほぼその 2倍 にな るのに対 し、 「
麟旅」巻 は 7倍 と、
飛躍 的な増加 が見える。
恋」巻 の所収歌数 は断然多い。 また、 「
秋 」巻以外 の歌にも季
巻別 に見 る と、 「
秋」 と 「
節的 に秋 と判断 され るものが相 当あ るこ とは言 うまで もないo
「
夕暮」 と 「
秋」の関連 については、川本浩嗣が 「もともと秋 の夕べ には、人 を寂 しい
思い に誘 う性質があるよ うに思われ るのは否定で きない ことであって、夏か ら冬- 、す な
わち成長 か ら澗渇- 、あるいは光 か ら闇-の移行 の季節 としての秋 と、や は り同様 に昼か
ら夜 -の移行 の時刻 としての夕碁 には、共通 の要素 と して、衰微-の予感 と、それ に伴 う
年 の終末 に近い部分
悲哀感 が含 まれてい る」と指摘 した 1よ うに、両者 はそれぞれ 一日と 一
として、その結び付 きが内在 的な適性 を持 ってい る と言 えよ う。なお、奥 山修 が 「
『秋』そ
の ものは 『実 りの秋』であ り 『収穫 の秋』であって喜びの季節 であるO『夕暮』その ものは
心の安 らぎを得 る- 卜時であ り西方極楽浄土の世界 を夢見 る- 卜時で もあ る。『秋』も 『夕
暮』 も決 して 『滅 亡』の意識 を与 えるものではない。 しか し、『秋 の夕暮』が特 に中世 にお
いて 『幽玄美』の世界 として捉 え られ たのは、『秋』 も 『夕暮』 も現実社会 (
中世) と同様
にあ る変遷 の一過程 にす ぎない と理解せ られたため と考 える。秋 は春 か ら冬- と移 る中間
であ り、その先 には 『冬』が待 ってい る。夕碁 は昼 と夜 との中間に位 置 し、その先には 「
夜」
が待 ってい る。そ うい う意識 が現実社会 (
中世)の動乱期及び末法思想 と結びつ き、『幽玄
美』の世界の象徴 と して 『
秋 の夕暮』が存在す るO『秋』 も 『夕暮』 も時間の経過 の時点
1
「
秋の夕暮」8ページ、傍点は筆者による、以下同じ。
-6
4-
万葉集と八代集における 「
夕幕の歌
」
であ る と捉 えてお り、時間の経過 を無視 した 『秋 』及 び 『夕暮』 で はない。 そ こに 中世人
の心 が凝縮 され てい る と考 えな けれ ばな らない」と述 べ た 2のは適切 で は あ る まい。正確 に
- 勘 にお け る 「中間」 で はな く、 「
終
言 うと、 「
秋」 と 「
夕暮」 はそれ ぞれ 「
一年 」 と 「
末 に近い部 分」 で あ り、 「
時間の経過 の一 時点」 とい うよ り、 「
時間 の経過 の終末部分 に近
し
工。時点」 と した ほ うが相応 しい。 単に 「
時 間の経過 の一時 点」 を表す には、 「
秋 の夕暮 」
とは限 らず 、「
春 の夕暮 」や 「
秋 の曙」で もよい はず で あ るが、事 際 、これ らの歌数 は 「
秋
の夕暮 」に比べ て極端 に少 ない。「
をの こ ども詩 を作 りて歌 にあはせ侍 Lに、水郷春 望 とい
ふ こ とを/ 見 わたせ ば 山 も とかす む水無瀬 河 夕べ は秋 とな に思 ひ けん」 (
新 古今 ・春 上 ・
36・後鳥羽院)、 「
崇徳 院 に百首歌 たてまつ りけ る時/ うす霧 のまが きの花 の朝 じめ り秋 は
夕べ とたれ かいひ けん」 (
新古今 ・秋 上 ・3
40・藤原清輔 ) とい った 、一 見 「
春 の夕暮 」や
「
秋 の曙」を唱 え る款 も、川 本浩 嗣が指摘 した よ うに、「
発想 の土台 とな ってい るのは、や
は り 『秋 夕』 - の強 い関心で あ る
」
。 3
「
賀」巻 に収 め られ てい るの は、新 古今集 7
55番 歌 と 「
雑賀 」巻 の拾 遺集 1
1
97番 歌 の
み で あるの に対 し、「
哀 傷」巻 には一貫 して 「
夕碁 の歌」が見 えるO夕碁 に内在 す る衰微 の
象徴 が、哀傷題材 と結び付 きやす いので あろ うO
内容 か ら見 る と、八代集 の 「
夕碁 の
歌
」
は
主
に
秋 ・旅 ・恋 ・晦 日 ・無 常 とい う五つ の題
材 に集約 され る と考 え られ る。
越 しらず
05・よみ人 しらず)
ひ ぐら しの鳴 く山里 の旦 茎 は風 よ りほか に訪 ふ人 もな し (
古今 ・2
越 しらず
後 拾遺 ・3
33・良遅)
さび しさに宿 を立 ち出でて ながむれ ばいづ くも同 じ秋 の 乏墓 (
な ど、秋 の夕幕 の風 景や述懐 を歌 う 「
秋 の歌」 は、主 に 「
秋 」巻 に配 置 され て い る0
円位 法師 が よませ侍 け る百首歌 中に、旅 の歌 とて よめ る
44・寂 蓮)
岩根ふみ峰 の椎柴折 りしきて雲 に宿 か る乏塵 の空 (
千載 ・5
詩 を歌 に合 はせ侍 Lに、 山路秋行 とい- るこ とを
82・藤 原 定家 )
都 に も今 や衣 を うつ の山乏 霧 払ふっ たの した遺 (
新 古今 ・9
な ど、夕幕 に募 る旅愁や 望郷 の念 を歌 う 「
旅 の歌」は、主に 「
蒔旅」巻 に配 置 され てい る。
越 しらず
古今 ・484・よみ 入 しらず )
乏 墓 は雲 のはたてに物 ぞ思ふ天つ空 な る人 を恋ふ とて (
西行 法 師人 々に百首歌 よませ侍 け るに
新古今 ・1
1
96。藤 原
あぢきな くつ らきあ らしの声 も うしな ど乏畳 に待 ちな らひ けん (
定家)
な ど、夕幕 に募 る恋 U
)思 いや 夕碁 の逢瀬 に関連す る 「
恋 の歌」 は、主 に 「
恋」巻
れ てい る。
2 「
秋 の夕暮- そ の無 常 感 と幽 玄美 」1
3ペ ー ジ
0
3 「
秋 の夕 暮」40ペ ー ジ0
-6
5一
に 配 置
さ
題 しらず
旦茎にさ- な と‖こけるかな
惜 しめ ども春の限 りの今 日のまた
(
後撰 8141・よみ人 し
らず)
長月 の晦 日の 日、大井 にて、 よめる
古今 ・312・紀貫之)
望見塵 小倉 の山に鳴 く鹿 の声の うちにや秋 は募 る らむ (
晦 口の歌」は、主に四季の
な ど、 晦 日の 臼の夕碁 に募 る季節 の終鳶 を惜 しむ心情 を歌 う 「
巻 の終 末部分 に配置 され てい る。
紀友則 が、身 まか りに け る 時、 よめ る
838・紀貫之)
明 日しらぬわが身 と恩 へ ど暮れぬまの今 日は入 こそ悲 しか りけれ(
古今 ・
千五百番 歌合 に
新古今 ・1561・藤原俊成)
あれわた る秋の庭 こそ あはれ なれ ま して消 えなん露の乏登 (
な ど、夕碁 と老いや死 を関連付 ける 「
無常の歌」 は、主 に 「
哀 傷」巻 に配 置 され てい る。
4.おわ りに
古 典
和 歌 を対 象 とす る夕春 の先行研 究 は、 これ まで多 くの成 果が積み桑ね られ てい るo
秋 の夕暮」 といった特 定のテ-マに向け られ 、論述 の重点が表
Lか し、その 関 心は専 ら 「
現的 には 「
夕暮」 とい う言葉 を持 つ歌 に、題材的 には夕幕の 「
秋 の敦」に、時代的には新
夕
古今集 に置かれ てい る とい う偏 りが指摘 できるQ ほかの題材 に関 して は、往 々に して 「
夕幕が逢瀬 の時間」 といった断片的 な指摘 に止 ま り、それ らの
幕が旅愁の募 る時 間 」や 「
晦 日の歌」 について
内部 に視点 を当てた ものはあま りないo また、管見の限 り、夕碁 の 「
の言及 は、まだ ほ とん どない よ うであるO
「
秋 の夕暮」 は勿論極 めて重要 なテーマではあるが、 「
夕碁 の歌」の全貌 を把握す るた
めには、まず、夕碁 に関連す る歌 を網羅的に集 め、それぞれ の題材 に対 して系統的かつ深
い考察 を加 えることが、不可欠 である。 その上で こそ、 「
秋 の夕暮 」のテ-マ-の究明 も、
-層有効 になる と思われ る。
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を同機
「
秋 の夕暮- 新 古今集 」、『国文学解 釈 と教材 の研 究』 第 21巻 第 7号 、1976・6
《付記》
本 稿 は 、東 京外 国語 大学 大学院 地域 文化研 究科 に提 出 した筆者 の 2006年度 博士論 文 『古典和 歌 にお け
る夕碁 の詩 学- 八代集 を 中心 とす る比較文学 的研 究』 の一 部 を書 き改 めた もので あ る0
- 67一
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