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万葉集と八代集における「夕暮の歌」 : その認定の基準及び分布を中心に
東京外 国語 大学 『日本研 究教 育年 報 1 6』 ( 2 01 2. 3) (研究 ノー ト) 万葉集 と八代集 における 「夕暮の歌 」 - その認定の基準及び分布 を中心に一 金 中 1 .は じめに 夕碁 は、昼か ら夜-移行す る時間帯 として、詩興 を呼び起 こ しやす い特性 を持 ってい る。 日本文学 においては、夕碁 が万葉時代 か ら多 く詠 まれ 、中世以降、 題 しらず 新古今 。361・寂蓮) さび しさはその色 としもなか りけ り真木 たっ 山の秋 の 夕暮 ( 題 しらず こころなき身 に も哀 は しられ け りしぎたつ沢 の秋 の夕暮 ( 新古今 ・362・西行) 西行法師す ゝめて百首歌 よませ侍 りけるに 新古今 。363・藤原 定家) 見わたせ ば花 も紅葉 もなか りけ り浦 の とまや の秋 の夕暮 ( 秋 の夕暮」が 日本 人 の美意識 の一 とい う高名 な 「 三 夕 」の歌に代表 され るよ うに、特 に 「 つ と して定着 してい るO 本稿 は、平安 書中世和歌文学の典型 が集約 され る古今集 ・後撰集 ・拾遺集 ・後 拾遺集 ・ 金葉集 ・詞花集 ・千載集 ・新古今集、す なわち 「 八代集」 と呼 ばれ る八部 の勅撰 和歌集 を 夕幕 の歌」の概要 を述べ る ものである。 なお、 対象 に、万葉集 も含 め、そ こに登場す る 「 本稿 で引用す る万葉集 と八代集 の歌は 『新 日本 古典 文学大系』 ( 岩波書店) に よる。 2 . 夕暮 に関連 す る歌 表現 まず 、 「 夕碁 の歌」 と して認 定す る基準 を明確 に示す必要 が ある。 これ は 夕幕 の こ とが 和歌 においていかなる言葉 に示 され るか、 とい う問題 に も絡 んでい るO 「 夕暮」 と 「 夕べ 」 とい う名詞 は、それぞれ 夕碁 の ことを昼 と夜 の視点で捉 える表現 で 夕 さらば」 といった成句 とともに、夕碁 を時間的 に明示す るものであ あ り、 「 夕 され ば」 「 る。 また、一 日にお ける時間の推移 は、太 陽の運行 に よって発 生す るもので あ る以上、 「 夕 夕霧 」な ど、 「 夕」 日」の風景 を歌 う作 品 も、夕碁 を明示す るもの と考 え られ るO 「 夕風 」 「 が 自然風物 に複合 され た名詞 表現が、夕春 の ことを間接 的 に示 してい るO なお、 「 募 る」 とい う動詞 は、 「日が没 して暗 くな る」 ことが基本義 であ り、 津 の国へ まか りける道 にて 後拾遺 ・507・ 能困) 鹿の屋 の昆陽のわた りに 鋸 ま暮れ ぬいづ ち行 く ら ん駒 にまかせ て( とい う歌の よ うに、「 募 る」の主体が 「日」であ る場 合 は、一首が 夕幕に関連す る と考 え ら れ る。 更 に、 - 59- 天平勝 宝 二 年 三 月 一 日 の 養 弘 に、春苑 の桃李 の花 を眺曝 して作 りし二首 仲 の一 首) 万葉 ・4139・大伴 家持 ) 春の園紅 にはふ桃 の花下照 る道 に出で立っ を とめ ( とい う歌の よ うに、夕幕 の表現が歌本文ではな く、詞書 に現れ る場合 は、 夕碁 が一 首 の時 間的 な背景 として潜在的 に働 いてい る。 以上挙げた諸 ケ- スは、いずれ も 「 夕幕の歌」 として扱 うことにす るO 天皇の内野 に遊猟 したまひ し時に、 中豊命 の、間人達老 を して献 らしめ し歌 やすみ しし わが大君の 戯長堤 胤 吏 寄 り立た しふ らしの 梓 の弓の なか粥の 音す な り 朝狩 に 立と 梓 の弓の なか餌の み とらしの みと 今 立たす らし 夕狩 に 今 立たす 音す な り ( 万葉 ・3・問人達老) の よ うな、「 覇-夕-」の形で類似す る事象 を羅列す る表現 が万葉集 の長歌 に多い。いずれ も文飾 的な繰 り返 し、あるいは 「 一 日中」の意味 を表す るものであ り、夕春 の現実性 はか な り稀薄である。本稿 は この よ うな長歌 を、 「 夕碁 の歌」 として扱 わない ことにす る。 24首、八代集 か ら計 383首 を これ らの基準 によ り、 「 夕碁 の歌」 として万葉集 か ら計 1 選 別 した。「 夕碁 の歌」の本文 に登場す る、夕幕 の関連表現 を統計 した ものが表 1である。 夕碁の歌」の本文 に登場す る夕碁 <表 1> 「 a の 関 連 集 万葉 餐 古今 集 後撰 隻 拾遺 後隻 拾遺 夕 され ば 16 4 3 1 夕 さらば 3 0 0 2 夕 さらず 3 0 0 夕暮 3 7 秋 の夕暮 0 表現 集 金薬 集 詞花 集 千載 新隻 古今 合計 一 5 4 37 0 0 0 0 3 0 0 0 1 0 0 0 0 3 9 1 15 4 5 9 57 1 10 0 0 0 7 1 1 2 16 27 24 2 0 0 2 0 0 7 17 52 夕 5 0 0 0 0 1 2 3 3 14 夕方 2 0 0 0 0 0 0 0 0 2 夕ま ぐれ 0 0 0 0 0 0 1 3 1 5 夕つ け 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 たそかれ 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 たそがれ時 0 0 1 1 0 0 0 I 1 4 暮れ 1 0 1 2 6 1 3 13 9 36 暮れ方 0 0 0 0 0 0 0 I 1 2 入 り日 4 0 2 0 0 2 0 i 5 14 夕べ ( 夕-) 0 -6 0- 万葉集と八代集における 「 夕馨の歌 」 夕附 日 I 0 0 0 0 i 0 0 1 3 入る日 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 日くたつ 1 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 日の入 る 0 0 0 0 I 日 影のなご蟻( 0 0 0 0 0 0 0 1 1 夕月夜 8 3 1 0 0 0 4 0 3 1 20 夕占 10 0 0 2 1 0 0 0 0 13 夕霧 5 0 0 0 1 1 2 2 1 12 夕露 2 0 0 0 1 1 0 2 4 10 夕立 2 0 0 0 0 1 1 ー 5 10 夕風 1 0 0 0 1 0 I 6 9 夕影 5 i 0 1 0 0 0 0 1 0 8 夕闇 3 0 1 0 0 0 0 0 2 6 夕煙 0 0 0 0 0 0 0 0 5 5 夕凪 2 0 0 0 0 0 0 1 3 夕潮 2 0 0 0 0 0 0 夕除 草 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 2 2 夕波千鳥 1 0 0 0 0 1 0 0 0 2 夕千鳥 0 0 0 1 0 0 0 0 0 i 夕星 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 夕凝 り 1 0 0 0 0 0 0 0 0 ー 夕月 1 0 0 0 0 0 0 0 0 一 夕霜 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 夕顔 0 0 0 0 0 0 0 1 I 夕時雨 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 i 夕とどろき 0 0 0 0 0 0 0 1 0 i 看る ll 6 9 10 14 3 3 8 9 73 0 0 0 1 0 0 0 0 3 4 数詞 連 稚 十 暮る 成句 の表現 として、 「 夕 され ば」は万葉集 にお ける夕碁 を示す 主 な形 の一つ であ り、平 安以降かな り減少 し、「 夕 さらば」と 「 夕 さらず 」は万葉集 に止 まってい る。夕碁 を時 間的 に示す もの として、 「 夕暮」は八代集 にお ける最 も多い表現 であるO 万乗集 には少 ないが、 秋 の夕暮 」 とい 平安以降にわかに増 え、新古今集 では 57例 に も上 ってい る。 その うち、 「 / 2が最 も高 く、次 は新 古今集 の 1 / 3弱である。 「 夕 う成句の 占める割合 は、後拾遺集 の約 1 ー 61- べ」 ( 夕-)は、万葉集 にお ける最 も多い表現であ り、平安以降激減 し、千載集 か ら再び多 くなってい る。 夕 日を巡 る表現 として、 「 入 り日」が最 も多 く、次 は 「 夕勘 の語である。 「 夕幕の歌」 において、夕 日に関連す るものが全体に 占め る割合 は小 さいO 夕-」 とい う形 の複合名詞 として、 「 夕月夜 」( 2 0例)が最 も多 く、 「夕 占」( 1 3例) 「 は主 に万葉集 に集 中 してい るO「 募 る」とい う動詞 は、すべての歌集 に一貫 して夕碁 に関連 す る基本的な表現である。 「 夕碁 の歌」の詞書 に登場す る、夕碁 の関連表現 を統計 した ものが表 2であ る。 < 表 2 > a 「 夕 幕 の歌」の詞書 に登場 す 隻葉 万 夕暮 0 秋 の夕暮 0 夕べ 0 夕さり 0 夕 き りつ方 0 夕方 0 暮れ 4 暮れ方 0 夕立 0 0 0 0 0 0 夕顔 0 夕涼み 0 夕恋 0 暮る 0 入相 0 晩涼如秋 0 山家秋晩 0 晩見脚燭 0 日暮れ 日の入 る 夕月夜 夕闇 夕占 水風晩涼 0 隻 古今 集 後撰 00 い 00 る 夕 幕 集遺 拾 の 関 連 後隻 拾遺 表 現 集薬 隻 詞花 集 千載 新隻 古今 合計 1 一 4 00 000 り 0 0 0 い0 0 0 り 0 0 い 0 0 00 00 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 一 0 2 0 0 2 0 0 0 金 0 0 0 0 0 0 0 2 0 3 1 0 0 0 0 0 一 0 0 i 0 1 0 0 一 I 1 Ⅰ 0 2 0 0 3 1 1 0 1 0 0 り 0 I 0 1 0 0 0 I 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 一 0 0 0 0 1 2 2 12 1 0 i 0 0 0 0 0 0 1 1 0 0 1 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 i 0 i 0 0 0 2 2 0 0 1 1 9 0 一 0 0 1 0 一 2 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 0 1 0 0 0 1 1 4 0 - 62 - 1 万葉集 と八代集 における 「 夕碁の歌」 暮恋 故人 00 い 0 00 0 晩霞 0 晩 閣鹿 0 暮望行 客 0 零 中晩嵐 0 * *% 0 希 や夕 0 書 見 卯花 暮 天郭公 野径秋 夕 審 尋 山 草花 寺 秋 0 0 0 0 0 0 0 0い0 00000 00 0 0 0 い 0 0 0 0 0 0 0 0 暮 晩風催 恋 0 0 0 0 0 0 0 い ー 0 I 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 一 一 0 I 1 0 一 一 0 千 1 0 1 一 0 0 0 0 一 1 1 1 1 0 I 1 0 I 1 0 0 4 4 0 0 1 1 「 夕 さ り」 「 夕 さ りつ 方 」 「 暮 つ方 」 「日暮れ 」 は歌 の本 文 には見 えない散 文的 な表 現 で あ る。 後 拾遺集 か ら、夕碁 の こ とが題詠 に多 く登場す る よ うにな り、 夕碁 に対す る時代 共 通 の関心 が高い こ とを示 してい る0 3 . 「夕碁 の歌 」 の 分 布 作者別 を見 る と、 「 夕者 の歌」 が 5 首以上登場 した もの と して、 大伴 家持 の歌が 万葉集 3首見 えて最 も多 く、以下、紀貫之 11首、源俊頼 10首 、慈 円 10首 、藤 原 定家 9首 、 に1 藤原 良経 8首 、式子 内親 王 8首、和泉式部 7首、後鳥 羽 院 7首 、柿本 人麻 呂 6首、西行 6 首、藤原 秀能 6首 、寂連 5首、藤原清輔 5首、藤原俊成 5首、藤 原 家 隆 5首 で ある。 夕碁 はそれ ぞれ の時代 の著名 歌人 に歌われ てい るが、その 中で も特 に新古今集 時代 にお い て多 く詠 まれ てい るO 八代集 の 「 夕幕 の歌」 を、集別 ・巻別 ご とに統計 した ものが表 3で あ る。 夕幕 の歌」 の分布 <表 3>八代集 に お け る 「 撒 集 秦 I 夏 0 古今 \ 隻 後撰 隻 拾遺 5 1 後隻 拾遺 集 金薬 隻 詞花 隻 千載 新隻 古今 合計 5 0 5 9 28 1 0 2 2 3 3 9 21 39 7 6 23 29 94 4 10 18 秩 4 8 2 15 冬 2 1 1 0 - 63- 00 離別 1 0 轟旅 2 0 1 0 1 0 9 ll 哀傷 2 3 2 2 雑 1 4 3 1 4 恋 1 - 0 0 2 4 3 一 5 4 0 2 5 2 1 6 22 1 4 28 91 0 8 17 5 1 8 52 釈教 - - - - - - 3 5 8 神祇 - - - - - - 0 2 2 その他 2 - 合計 25 32 総数数 夕 占める割合 碁 の歌 の 3 1 - - 65 1 49 6 1 9 1 11 1 1 425 1351 1 218 717 41 5 1 288 1 978 9503 2. 2% 3. 2% 4. 6% 5. 0% 1, 6% 48 - 23 2. 2% 22 - 3. 9% 7. 5% 383 4. 0% 金薬集 と詞花集 の歌集 自体 が小規模 であるこ とを考慮すれ ば、 「 夕幕 の歌」 は後拾遺集 か ら増加 してい ることが言 えるO新古今集 では大いに盛行 し、総歌数 の 7. 5% に も達 して い る。すべての巻において新古今集 の所収歌数 はそれ以前の歌集 よ り多 くな り、 千載集 に 比べ て 「 春」 「 夏」 「 冬」 「 恋」の巻 はほぼその 2倍 にな るのに対 し、 「 麟旅」巻 は 7倍 と、 飛躍 的な増加 が見える。 恋」巻 の所収歌数 は断然多い。 また、 「 秋 」巻以外 の歌にも季 巻別 に見 る と、 「 秋」 と 「 節的 に秋 と判断 され るものが相 当あ るこ とは言 うまで もないo 「 夕暮」 と 「 秋」の関連 については、川本浩嗣が 「もともと秋 の夕べ には、人 を寂 しい 思い に誘 う性質があるよ うに思われ るのは否定で きない ことであって、夏か ら冬- 、す な わち成長 か ら澗渇- 、あるいは光 か ら闇-の移行 の季節 としての秋 と、や は り同様 に昼か ら夜 -の移行 の時刻 としての夕碁 には、共通 の要素 と して、衰微-の予感 と、それ に伴 う 年 の終末 に近い部分 悲哀感 が含 まれてい る」と指摘 した 1よ うに、両者 はそれぞれ 一日と 一 として、その結び付 きが内在 的な適性 を持 ってい る と言 えよ う。なお、奥 山修 が 「 『秋』そ の ものは 『実 りの秋』であ り 『収穫 の秋』であって喜びの季節 であるO『夕暮』その ものは 心の安 らぎを得 る- 卜時であ り西方極楽浄土の世界 を夢見 る- 卜時で もあ る。『秋』も 『夕 暮』 も決 して 『滅 亡』の意識 を与 えるものではない。 しか し、『秋 の夕暮』が特 に中世 にお いて 『幽玄美』の世界 として捉 え られ たのは、『秋』 も 『夕暮』 も現実社会 ( 中世) と同様 にあ る変遷 の一過程 にす ぎない と理解せ られたため と考 える。秋 は春 か ら冬- と移 る中間 であ り、その先 には 『冬』が待 ってい る。夕碁 は昼 と夜 との中間に位 置 し、その先には 「 夜」 が待 ってい る。そ うい う意識 が現実社会 ( 中世)の動乱期及び末法思想 と結びつ き、『幽玄 美』の世界の象徴 と して 『 秋 の夕暮』が存在す るO『秋』 も 『夕暮』 も時間の経過 の時点 1 「 秋の夕暮」8ページ、傍点は筆者による、以下同じ。 -6 4- 万葉集と八代集における 「 夕幕の歌 」 であ る と捉 えてお り、時間の経過 を無視 した 『秋 』及 び 『夕暮』 で はない。 そ こに 中世人 の心 が凝縮 され てい る と考 えな けれ ばな らない」と述 べ た 2のは適切 で は あ る まい。正確 に - 勘 にお け る 「中間」 で はな く、 「 終 言 うと、 「 秋」 と 「 夕暮」 はそれ ぞれ 「 一年 」 と 「 末 に近い部 分」 で あ り、 「 時間の経過 の一 時点」 とい うよ り、 「 時間 の経過 の終末部分 に近 し 工。時点」 と した ほ うが相応 しい。 単に 「 時 間の経過 の一時 点」 を表す には、 「 秋 の夕暮 」 とは限 らず 、「 春 の夕暮 」や 「 秋 の曙」で もよい はず で あ るが、事 際 、これ らの歌数 は 「 秋 の夕暮 」に比べ て極端 に少 ない。「 をの こ ども詩 を作 りて歌 にあはせ侍 Lに、水郷春 望 とい ふ こ とを/ 見 わたせ ば 山 も とかす む水無瀬 河 夕べ は秋 とな に思 ひ けん」 ( 新 古今 ・春 上 ・ 36・後鳥羽院)、 「 崇徳 院 に百首歌 たてまつ りけ る時/ うす霧 のまが きの花 の朝 じめ り秋 は 夕べ とたれ かいひ けん」 ( 新古今 ・秋 上 ・3 40・藤原清輔 ) とい った 、一 見 「 春 の夕暮 」や 「 秋 の曙」を唱 え る款 も、川 本浩 嗣が指摘 した よ うに、「 発想 の土台 とな ってい るのは、や は り 『秋 夕』 - の強 い関心で あ る 」 。 3 「 賀」巻 に収 め られ てい るの は、新 古今集 7 55番 歌 と 「 雑賀 」巻 の拾 遺集 1 1 97番 歌 の み で あるの に対 し、「 哀 傷」巻 には一貫 して 「 夕碁 の歌」が見 えるO夕碁 に内在 す る衰微 の 象徴 が、哀傷題材 と結び付 きやす いので あろ うO 内容 か ら見 る と、八代集 の 「 夕碁 の 歌 」 は 主 に 秋 ・旅 ・恋 ・晦 日 ・無 常 とい う五つ の題 材 に集約 され る と考 え られ る。 越 しらず 05・よみ人 しらず) ひ ぐら しの鳴 く山里 の旦 茎 は風 よ りほか に訪 ふ人 もな し ( 古今 ・2 越 しらず 後 拾遺 ・3 33・良遅) さび しさに宿 を立 ち出でて ながむれ ばいづ くも同 じ秋 の 乏墓 ( な ど、秋 の夕幕 の風 景や述懐 を歌 う 「 秋 の歌」 は、主 に 「 秋 」巻 に配 置 され て い る0 円位 法師 が よませ侍 け る百首歌 中に、旅 の歌 とて よめ る 44・寂 蓮) 岩根ふみ峰 の椎柴折 りしきて雲 に宿 か る乏塵 の空 ( 千載 ・5 詩 を歌 に合 はせ侍 Lに、 山路秋行 とい- るこ とを 82・藤 原 定家 ) 都 に も今 や衣 を うつ の山乏 霧 払ふっ たの した遺 ( 新 古今 ・9 な ど、夕幕 に募 る旅愁や 望郷 の念 を歌 う 「 旅 の歌」は、主に 「 蒔旅」巻 に配 置 され てい る。 越 しらず 古今 ・484・よみ 入 しらず ) 乏 墓 は雲 のはたてに物 ぞ思ふ天つ空 な る人 を恋ふ とて ( 西行 法 師人 々に百首歌 よませ侍 け るに 新古今 ・1 1 96。藤 原 あぢきな くつ らきあ らしの声 も うしな ど乏畳 に待 ちな らひ けん ( 定家) な ど、夕幕 に募 る恋 U )思 いや 夕碁 の逢瀬 に関連す る 「 恋 の歌」 は、主 に 「 恋」巻 れ てい る。 2 「 秋 の夕暮- そ の無 常 感 と幽 玄美 」1 3ペ ー ジ 0 3 「 秋 の夕 暮」40ペ ー ジ0 -6 5一 に 配 置 さ 題 しらず 旦茎にさ- な と‖こけるかな 惜 しめ ども春の限 りの今 日のまた ( 後撰 8141・よみ人 し らず) 長月 の晦 日の 日、大井 にて、 よめる 古今 ・312・紀貫之) 望見塵 小倉 の山に鳴 く鹿 の声の うちにや秋 は募 る らむ ( 晦 口の歌」は、主に四季の な ど、 晦 日の 臼の夕碁 に募 る季節 の終鳶 を惜 しむ心情 を歌 う 「 巻 の終 末部分 に配置 され てい る。 紀友則 が、身 まか りに け る 時、 よめ る 838・紀貫之) 明 日しらぬわが身 と恩 へ ど暮れぬまの今 日は入 こそ悲 しか りけれ( 古今 ・ 千五百番 歌合 に 新古今 ・1561・藤原俊成) あれわた る秋の庭 こそ あはれ なれ ま して消 えなん露の乏登 ( な ど、夕碁 と老いや死 を関連付 ける 「 無常の歌」 は、主 に 「 哀 傷」巻 に配 置 され てい る。 4.おわ りに 古 典 和 歌 を対 象 とす る夕春 の先行研 究 は、 これ まで多 くの成 果が積み桑ね られ てい るo 秋 の夕暮」 といった特 定のテ-マに向け られ 、論述 の重点が表 Lか し、その 関 心は専 ら 「 現的 には 「 夕暮」 とい う言葉 を持 つ歌 に、題材的 には夕幕の 「 秋 の敦」に、時代的には新 夕 古今集 に置かれ てい る とい う偏 りが指摘 できるQ ほかの題材 に関 して は、往 々に して 「 夕幕が逢瀬 の時間」 といった断片的 な指摘 に止 ま り、それ らの 幕が旅愁の募 る時 間 」や 「 晦 日の歌」 について 内部 に視点 を当てた ものはあま りないo また、管見の限 り、夕碁 の 「 の言及 は、まだ ほ とん どない よ うであるO 「 秋 の夕暮」 は勿論極 めて重要 なテーマではあるが、 「 夕碁 の歌」の全貌 を把握す るた めには、まず、夕碁 に関連す る歌 を網羅的に集 め、それぞれ の題材 に対 して系統的かつ深 い考察 を加 えることが、不可欠 である。 その上で こそ、 「 秋 の夕暮 」のテ-マ-の究明 も、 -層有効 になる と思われ る。 《参考文献》 秋本守英 「 『夕暮』 か ら 『秋 の夕暮』-」、『表現学論考』第 2号 、1 986・4 有吉保 「 秋 の夕暮- 三夕の 歌」 ( 『新古今和歌集 の研 究基盤 と構成』)、三省 堂 、1 968・4 石原明 「 新古今和歌集 の三 夕の歌 について」、『中世近世文学研 究』 第 12号 、1 979・1 奥 山修 「 秋 の夕暮- その無常感 と幽玄美 」、『同朋 同文』 第 11号 、1 978・3 川本略嗣 「 秋 の夕暮」 ( 『日本詩 歌の伝統一 七 と五の詩学』)、岩 波書店 、1 991・l l 薦 田純穂 「 『秋 の夕風』 考- 『秋 の夕暮』 との関連 にお いて」、『高知女子大国文』第 1 7号 、1 981・ 1 0 佐藤武義 「 上代語 『日暮』『夕暮』 考」、『桜 文論叢』第 51巻 、2000・8 - 66- 万葉集 と八代集 にお ける 「 夕番 の歌 」 秋 の ゆふ ぐれ- 新古今 歌 人 の-視座 」、『文学 史研 究 』20、1980・8 高橋 介 「 春 の あけぼの 田中幹 f - 「 秋 はなは 夕ま ぐれ こそ ただ な らね荻 の上風萩 の下露- 和漢 朗 詠集 の秋 の夕 ( 秋 興 ・秋晩) につ いて」、『京都 語文』 第 3号 、1998・1 0 田中幹子 「 『和漢 朗詠集 』『後 拾遺集』 にお け る秋 の 夕暮れ 」- 『夕 され ば野辺 の秋 風 身 に しみ て』」、 999・ll 『故 実語 文 』 第 20号 、1 中島 尚 「 夕音 の 歌 」、『冬 扇』 第 3号 、1979・3 中野方 子 「 暮れ ぬ間の今 日- 西村亨 「 末流 の歌- 夕首 の感 傷 」、『短 歌』 第 26巻 第 10号 、1979・10 『古今集 』 哀 傷部 にお け る仏 典受 容 」、 『国文』第 91号 、2001・8 平岡敏 夫 『 <夕暮れ>の文 学史』、お うふ う、2004・10 福 島行 - 「 万葉集 の 夕馨 の歌」、『防衛 大学校 紀 要 ・人 文社 会 科 掌 編』 第 12号 、1966・3 三方達- 「 手. I 典 和歌 にお け る 『秋 の 夕暮 』 『夕暮 』- 特 に 『新 古今集 』 の」、『筑 紫 女学 園短 期 大 学紀 要』 第 18号 、1983・3 村松佳 奈 子 り吊℃集 にお け る 『夕暮』 の歌 につ い て」、『学習 院 大学 国語 国文 学会誌 』第 40号 、1997・3 諸井康子 「日本 古代 文学 にお け る夕 日の心象- 夕 日詠 の成 立 を め ぐって」、『十 文字学 園女子短 期 大学 研 究紀 要』 第 9号、1977・7 第 7巻 11号 、1988・11 を同機 「 秋 の夕暮- 新 古今集 」、『国文学解 釈 と教材 の研 究』 第 21巻 第 7号 、1976・6 《付記》 本 稿 は 、東 京外 国語 大学 大学院 地域 文化研 究科 に提 出 した筆者 の 2006年度 博士論 文 『古典和 歌 にお け る夕碁 の詩 学- 八代集 を 中心 とす る比較文学 的研 究』 の一 部 を書 き改 めた もので あ る0 - 67一