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肺動脈性肺高血圧症患者さんの 予後改善のために

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肺動脈性肺高血圧症患者さんの 予後改善のために
肺動脈性肺高血圧症患者さんの
予後改善のために
監訳 佐藤 徹
杏林大学 医学部 循環器内科 教授
肺高血圧症協会(PHA)
白書執筆者一覧(アルファベット順)
Rino Aldrighetti
Anne Keogh, M.D.
President, Pulmonary Hypertension Association, USA
Professor in Medicine
Senior Heart Transplant Cardiologist, Joint Head Clinical
David B. Badesch, M.D.
Research Victor Chang Research Institute
Professor of Medicine
St Vincent's Hospital
Clinical Director, Pulmonary Hypertension Center
Sydney, Australia
Research Subject Advocate, CTSI
Chair, Pharmacy and Therapeutics Committee
Michael McGoon, M.D.
University of Colorado Denver
Professor of Medicine
Division of Cardiovascular Diseases
Karen A. Fagan, M.D.
Mayo Clinic College of Medicine
Chief, Division of Pulmonary and Critical Care Medicine
Rochester, Minnesota
University of South Alabama
Mobile, Alabama
Noriko Murakami(村上 紀子)
Founder and President(理事長)
Gerry Fischer
President, Pulmonary Hypertension Association, Europe
Pulmonary Hypertension Association, Japan
(NPO 法人 PAH の会(PHA Japan)
)
Sean Gaine, M.D., Ph.D.
Toru Satoh, M.D.(佐藤 徹)
Director, National Pulmonary Hypertension Unit
Professor of Medicine(教授)
Mater Misericordiae University Hospital
Division of Cardiology(循環器内科)
University College Dublin
Kyourin University School of Medicine (杏林大学医学部)
Dublin, Ireland
Tokyo, Japan
Marius M. Hoeper, M.D.
Rogerio Souza, M.D., Ph.D. Department of Pulmonary Medicine
Hannover Medical School
Hannover, Germany
Pulmonary Department
Heart Institute
University of São Paulo Medical School
São Paulo, Brazil
Prof. Zhi-Cheng Jing, M.D.
Department of Cardio-Pulmonary Circulation
Shanghai Pulmonary Hospital
Department of Pathophysiology
Tongji University School of Medicine
Shanghai, China
Adam Torbicki, M.D., Ph.D.
Department of Chest Medicine
Institute of Tuberculosis and Lung Diseases
Medical University of Warsaw
Warsaw, Poland
目次
概要(はじめに)
定義の難しい希少疾患
4
5
危険因子
5
除外診断
6
治療
8
臨床研究
9
患者団体の必要性
9
患者さんの改善を最大限に高めるには
11
PAH の早期診断への行動を起こすには
13
肺高血圧症協会(PHA)
13
患者さんおよび介護者
13
肺高血圧症(PH)非専門医
13
肺高血圧症(PH)専門医
14
関連する医療従事者
14
結論(おわりに)
14
概要(はじめに)
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、
うになります。早期の診断と治療
PH の予防と根治の道を探り、PH
肺動脈の狭窄および硬化を特徴
(WHO 機能分類クラス I または II
患者さんたちに希望を与えるた
とする稀な肺高血圧症(PH)の
のうちに診断)により、患者さん
め、PHA は 教 育、 支 援 活 動 お
1 つで、最終的には心不全を引
が治療期間中も仕事を続け、軽
よび啓蒙活動を通じて患者さんの
き起こします。PAHは年齢、民族、
い運動を行い、さらなる自立を維
組 織、 医 師、 看 護 師、 研 究 者、
地域を問わず発症します。PAH
持できるようになります。
介 護 者 および 製 薬 業 界 の 間 に
を根治する方法はありませんが、
真 の 協 力 の 精 神 を 生 み 出し 、
有効な治療法の登場や PH 専門
この 障 壁を 克 服 するためには、
きわめて大きな組織を構築しまし
治療施設での治療経験の増加によ
一般社会および医学界における
た。1990 年以来、PHA は 10,000
り、患者さんの予後は過去 20 年
PAH に関する認知を高め、臨床
名 を 超 える患 者さん、介 護 者、
間にわたり大幅に改善されてきま
的に PAH が疑われる場合には患
家 族、 医 療 の 専 門 家 からなる
した。治療のための手段は現在
者さんを PH 専門医に紹介するこ
組 織 へと発 展し、PH の 疾 患 に
も増えつつありますが、PAH 患者
とが必要となります。この難病の
関 わる 方 々 の 国 際 的 な 活 動 の
さんの診断および最適な治療は
治療は単純でないため、PAH 患
中心拠点となっています。治療
遅れがちで、PH 専門治療施設へ
者さんの継続的な治療は、主治
手段の利用が限られ、費用を賄
の紹介も著しく遅れています。生
医と PH 専門治療施設との協力
う能力がないために生存率が低
存率の改善や生活の質(QOL: ク
による共同治療となります。患者
下している発展途上国にも、PHA
オリティーオブライフ)の向上な
さん、医師、介護者、医療従事
は拡大しているため、世界中の
ど、患者さんの予後を最大限に
者などの関係者はそれぞれ、患
患者さんの生命を守るために重
高めるためには、こういった遅れ
者さんの予後を最大限に高める
要な役割を果たしています。
が最も大きな障壁として残されて
ために重要な役割を果たすこと
います。診断が確定する頃には、
ができ、肺高血圧症協会(PHA)
多くの PAH 患 者 さんが 仕 事を
の組織的な活動がこれを可能に
失い、家計を家族に依存するよ
します。
4 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
定義の難しい希少疾患
肺高血圧症(PH)は、肺血管系
に異常な高血圧を引き起こす状
態に対して使われる一般的な用
語です。PH は、その状態を引き
起こす原因に応じて、5 群に臨床
分類されています(付録 A:肺高
血圧症(PH)の臨床分類)
。1 群
ほとんどの人々は、肺動脈性肺高血圧症という希少疾患について
耳にしたことはなく、ましてや症状については何も知らず、
この疾患を抱えて生活する患者さんは階段をのぼるだけでも
日々大きな困難に直面していることなど理解していません。
ヨーロッパ肺高血圧症協会(PHA)会長 Gerry Fischer 氏
は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)
と呼ばれ、肺動脈を特異的に障
害する稀な PH の 1 つで、 肺動
脈に狭窄と硬化を引き起こしま
す。
肺動脈は全身から戻った血液を
肺に運び、そこで血液は新鮮な
酸素を受け取ります。動脈が狭窄
すると、右心系は動脈を介して血
液を肺に送り込むため酷使を強い
られますが(図 1、 図 2)
、この
狭窄はさまざまなメカニズムで引
き起こされる可能性があります 。
1
• 血管収縮
動脈壁内の平滑筋が収縮する
か、もしくは圧迫される
• リモデリング
動脈壁は血管内皮の過剰な
細胞増殖により肥厚することが
ある
• 炎症
• 血栓症 微小な血栓が動脈内で形成
されることがある
年齢とともに心臓は衰弱し、全身
への酸素供給を行うことが困難に
中国などの発展途上国では、現
なり、 息切れ、 疲労、 胸痛、め
在でも診断時の平均年齢は 36 歳
まい、失神などの PAH の症状が
のままです 7。また、女性は男性
引き起こされます 2。治療せずに
より 4 倍も罹患しやすくなってい
放置すると、心臓は最終的に機
ます。1980 年 代 中 頃、 特 発 性
能不全を起こし、動くことができ
PAH(IPAH)の女性と男性の比率
なくなったり、死亡の原因となり
は、NIH レジストリで は 1.7:1
ます 。PAH を根治する方法はあ
でしたが、現在、REVEAL レジス
りません。ただし、早期に患者さん
トリではその比率は 4.1:1 となっ
を治療することにより、長期間に
ています 8。ただし、これらの比率
わたってこの疾患を抑制すること
には地域差があります。例えば、
ができます。
フランスのレジストリでは 2002
3
~ 2003 年の男女比を 1 . 9 : 1
危険因子
と 報 告していますが、中国のレ
人口 100 万人当たりの PAH 患者
ジストリでは 2007 年 に 2.4:1
さんは 30 ~ 50 例ほどで、この
と報 告して います 9,10。このよう
疾患は年齢、人種、地域を問わ
な差異の理由は不 明のままです
ず 発 症します 。 過 去 30 年 間
が、NIH レ ジ ストリと REVEAL
にわたり、PAH の年齢および 性
レ ジ ストリと の 間 に 米 国 で は
別 の 分 布 は 変 化してきました。
ホルモン補充療法の利用が増加
1980 年代、 米 国の国立衛生研
していたため、PAH の発病機序
究所(NIH)が行った患者 登 録
においてホルモンの果たす役割が
研究(レジストリ)によると、診
検討の対象となっています 11。
4
断時の平均年齢は 36 歳でした 5。
現在、フランスと米 国 のレジス
トリでは、 診断時の 平均年齢は
50 歳となっ ています 6。ただし、
肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために 5
正常な心臓
肺動脈(肺へ)
肺高血圧症
肺動脈の狭窄
大動脈
20% にすぎないため、このような
患者さんに PAH が発症するには
他の因子も不可欠であると知って
おくことが重要です。遺伝子検査
肺静脈
(肺から)
右心房
を行うか否かは個人で決めるもの
で、IPAH 患者さんや遺伝性患者
さんで必ず実施しなければなら
左心房
右心室
左心室
ない検査ではありません。遺伝子
左心室肥大
検査を行う場 合 には、リスクと
肺
ベネフィットを十分に告知するため
図 1 – 正常な心臓と肺高血圧症(PH)患者さんの心臓の比較
に遺伝子カウンセリングが必要と
なります。
一部の食欲抑制剤(例えば、ア
ミノレックス、フェンフルラミン、
健康な肺動脈
軽度~中等度の PAH
重度の PAH
図 2 – 肺動脈性肺高血圧症(PAH)に伴う肺動脈の狭窄
PAH にはいくつかのタイプがあ
り、それぞれ既知の原因によって
分類されています(図 3)12。特
発性 PAH(IPAH)は、これまで
原 発 性 PH(PPH)と呼 ば れ て
いましたが、家族歴や特定の危
険因子を伴わない特発性の疾患
であり原因は不明です。遺伝性
PAH は、BMPR2(骨形成タンパ
ク質受容体 2 型)
、アクチビン受
容体様キナーゼ 1 型、 エンドグ
リンなど、TGF-βスーパーファミ
リーの構成要素をエンコードする
遺伝子の遺伝性突然変異によるも
のです。また、これらの遺伝子内
に特定の生殖細胞系突然変異を
持たない遺伝性症例もあります 13。
遺 伝 性 PAH 患 者 さん の 50 ~
70% には、BMPR2 遺 伝 子 の 突
然変異がありますが、BMPR2 は
肺の小動脈の血管壁で細胞増殖
の調整を補助することが知られて
い ます 。BMPR2 突 然 変 異 を
14
持っていて PAH を発症するのは
6 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
デクスフェンフルラミン)の使用、
毒性菜種油、メタンフェタミン、
コカインやアンフェタミン、セイ
ヨウオトギリソウ、化学療法の抗
がん剤、および妊娠時の一部の
選択的セロトニン再取り込み阻害
剤(SSRI; 新 生 児 遷 延 性 PH の
原因となる)など、PAH 発症の
危険を高める多数の薬物および
毒物が特定されています 15。ま
た、PAH は膠原病(例えば、強
皮症や全身性エリテマトーデス)
、
HIV 感染、心臓シャントを伴う先
天性心疾患など、他の疾患にも
合併します 16。
早期診断には、このような既知の
危険因子を有する患者さんのスク
リーニングが重要です 17。
除外診断
PAH を 根 治 する 方 法 は ありま
せんが、有効な治療法の登場によ
り PAH は急速に進行する致死性
の難病から、重篤ではあるものの
治療可能な疾患に変わってきまし
た。PAH と診断された患者さん
の 約 50% は 5 年以内に死亡し
ます。治療を受けていない PAH
患者さんの場合、平均生存期間
は約 3 年とわずかであるため、迅
速か つ 正 確 な確 定 診 断の必 要
性が重要事項とされています 18。
しかしながら、症状に疾患特有の
ものがないため、 診 断はかなり
難しいものとされています。 症
状の発生から右心カテーテル検
査(RHC) による確 定 診 断まで
の 期 間 は 平 均 2.8 年
19
で、 こ
の診断の遅れは過去 20 年間に
わたって改善されていません 20。
若年(36 歳未満)の患者さんお
よび、睡眠時無呼吸症候群や閉
塞性気道疾患などの呼吸器疾患
の既往がある患者さんは、 経 験
的に診断が遅れる可能性が最も
高いです 21。36 歳未満の患者さん
は、 活 動 的 な 生 活 を 送って い
るため、より早く症状に気付きま
すが、喘息と診断されることが多
いため、診断が大幅に遅れる結
果となると考えられています 22。
このような患者さんはまた、米国
人の中で最も多い無保険層に属
しています 。
23
肺を血液がうまく流れないと(結
果的に酸素をうまく取り込めず)
、
労 作 時 の 呼 吸 困 難、 疲 労、 前
I度
II 度
III 度
肺動脈性肺高血圧症
1.1 特発性 PAH
1.2 遺伝性
1.2.1 BMPR2
1.2.2 ALK1、エンドグリン
1.2.3 不明
1.3 薬物および毒物誘発性
1.4 各種疾患に伴う PAH
1.4.1 膠原病
1.4.2 HIV 感染症
1.4.3 門脈圧亢進症
1.4.4 先天性心疾患
1.4.5 住血吸虫症
1.4.6 慢性溶血性貧血
1.5 新生児遷延性 PH
図 3 – 第 I 群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)
か が み の 姿 勢 や 咳 によるめま
(COPD)、 慢 性 心 不 全、 肥 満
い、胸痛、失神、喀血、浮腫な
および運動不足などによるものと
どの PAH の症状を引き起こしま
考えてしまいます。その結果、多く
す 。時間とともに、これらの症
の患者さんは最終的に PAH と診
状は徐々に悪化し、 患者さんの
断されるまで、平均すると 3 年以
QOL に重大な影響を及ぼし、短
上にわたり 3 名の医師を受診す
い距離の歩行など日々の単純な
る結果となります。残念ながらこ
活動を困難にする可能性がありま
の時点までに、
ほとんどの患者さん
す(図 4) 。このような症状は
はすでに疾患がかなり進行した状
この疾患特有のものではなく、し
態にあり、診断時には患者さんの
かも PAH はきわめて稀な疾患で
約 61%が WHO 機能分類クラス
あるため、 一 般 的 にこのような
III、12%が WHO 機能分類クラ
症状を喘息、慢性閉塞性肺疾患
ス IV の状態にあります 26。
24
25
身体活動に制限のない肺高血圧症患者。普通の身体活動では呼吸困難や疲労、胸痛や失神
など生じない。
身体活動に軽度の制限のある肺高血圧症患者。安静時には自覚症状はない。普通の身体活動
で呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。
身体活動に著しい制限のある肺高血圧症患者。安静時には自覚症状がない。普通以下の軽度
の身体活動では呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。
どんな身体活動もすべて苦痛となる肺高血圧症患者。これらの患者は右心不全の症状を表し
IV 度
ている。安静時にも呼吸困難および/または疲労がみられる。どんな身体活動でも自覚症状
の増悪がある。
図 4 – 世界保健機関(WHO)機能分類クラス
肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために 7
医師、研究者、肺高血圧症協会(PHA)および患者さんが
長年にわたり培ってきた信頼関係により、
多施設共同臨床試験を実施することが可能になりました …
患者さんが進んで臨床研究に参加してくれるため、
この分野の知識の向上に貢献しています。
医師 David Badesch 氏
心エコーや胸部レントゲン撮影
段階)に、患者さんが診断され、
(X 線 ) などの 非 侵 襲 的 な 検 査
治療が開始される場合には、病気
は PAH の発見に有用ですが、カ
の進行を遅らせることが可能で、
テーテル検査が PAH 診断で最も
生存率および QOL に良い影響を
基準となる検査であり、診断の確
及ぼします 29。ただし、PAH 治療
定には欠かすことができません
(付
は PAH 以外の患者さんには有害
録 B:肺高血圧症(PH)のため
となる可能性があるため、治療の
27
の一般的検査) 。カテーテル検
開始に先立ってカテーテル検査に
査は、頸部または鼠径部から右心
よる PAH の確定診断が不可欠で
系および動脈に細いチューブ(カ
あると知っておくことが重要です。
テーテル)を挿入して肺動脈圧お
よび心拍出量を測定する侵襲的な
PAH の 治 療 には、 従 来 の 薬 物
手技です。PAH は、安静時にカ
療法(カルシウムチャネル拮抗
テーテル検査で評価した平均肺動
剤(CCB)
、 ジ ゴ キ シ ン、 利 尿
脈圧(mPAP)25mmHg 以上と定
剤、酸素、ワルファリン)に加え
義されています。PAH の確定診断
て、PH に対する特異的治療薬が
を行うためにカテーテル検査は世
あります。CCB が利用できるのは、
界中で利用されていますが、すべ
血管反応性試験で CCB により肺
ての国々で同じように利用されて
動脈が著明に拡張する PAH 患者
いるわけではありません。例えば
さんのごく一部にすぎません。さ
中国では、カテーテル検査の侵襲
らにこのような試験は、治療法決
性および手技の費用負担が理由と
定前のカテーテル検査中に実施
なり、重度の PAH 患者さんでもカ
し な け れ ば なりま せ ん。CCB
テーテル検査を受ける患者さんは
治療が適していない患者さん、あ
ほんのわずかしかいません 。
るいは治療を行っているにもかか
28
わらず臨床症状が悪化している
治療
患者さんに関しては、PAH 患者
近年治療の選択肢が増えたことに
さんの肺動脈平滑筋細胞の異常
より、PAH 患者さんの予後はかな
な増殖や収縮に関わる重要な経
り改善されています。可能な限り
路を標的にした以下の 3 つに分
早期(望ましいのは、まだ WHO
類される治療薬が現在利用可能
機能分類クラス I または II にある
です 30。
8 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
• エンドセリン受容体拮抗剤
の協力の精神を生み出しました。
arterial hypertension(肺動脈性
すなわち、PAH 患者さんの組織
肺高血圧症)
」を検索すると、世
血管を収縮させる物質であ
が、患者さんのために求めている
界中で進行中の臨床試験が 455
るエンドセリンの作用を阻害
変革を実現するための協力体制
件リストアップされます。10 年足
する
を構築したのです。この組織は、
らずの間に、PHAの研究プログラ
治療手段の利用が限られ、費用
ムは、米国国立心肺血液研究所
を賄う能力がないために生存率
(NHLBI)
、米国胸部学会(ATS)
血管の平滑筋細胞を弛緩さ
が低下している発展途上国にも
および米国心臓協会(AHA)と
せる、および抗増殖作用を
拡大しているため、PHA はこのよ
の協力関係を活用して、950 万ドル
促す
うな患者さんの生命を守るために
以 上を研 究 に 投じ、 また PHA
重要な役割を果たしています。
は独自に審査を行った 4 つの最
(ERA)
• ホスホジエステラーゼ 5 阻害剤
(PDE-5 阻害剤)
• プロスタサイクリン誘導体
血 管 の 拡 張 を 引 き 起 こす
細 胞 を 刺 激 する
先端研究プログラムを通じて、40
臨床研究
名を超える研究者を支援してきま
20 年前には PAHのための治療法
した。これらの研究者は PH の早
PH の重症度によっては、心臓ま
は存在しませんでした。 現在で
期発見や PH の発症を予防する新
たは肺の移植も選択肢となりま
は、臨床研究で実現した進歩の
しい治療法の研究を進め、最終
す。
おかげで、9 種類の治療法が利
的にはこの致死性の難病を根治す
用可能となっています。約7,000
る方法を探しています。
希少 疾 患 の た め 患 者さん の 数
種 類 ある既 知 の 希 少 疾 患 の 中
は少ないのですが、複雑な問題
で、FDA は 200 の 疾 患 に対して
研 究 へ の 資 金 提 供 に 加 えて、
点があるという点では他の頻度の
400 種 類 の 治 療 法 を 承 認して
PHA は臨床試験の啓発および被
高い病気と同様です。過去 20 年
いますが、PAH は血友病と同じ
験者募集にも積極的に関わって
間に PAH の診断と管理には特筆
くこの最優先リストの第 3 位(白
います。2 年おきに開 催される
すべき進展がありました。このよ
血 病と HIV/AIDS が そ れ ぞ れ 第
PHA の国際会議では、健康な人
うな進展の一端は、PHA によっ
1 位および第 2 位 )に 位 置 づ け
を含めすべての人々に対して臨
て実現されたものです。PHA は
られています。さらに多くの 開
床研究用の献血を促す催しを開
患者さん、医師、看護師、研究者、
発中の治療法もあります。www.
催しています。
介護者および製薬業界の間に真
clinicaltrials.gov で「pulmonary
患者団体の必要性
1985 年、米国内で PAH と判明
していた患者さんはわずか187 名
でした。Dorothy Olson は、全米
希少疾病患者団体(NORD)を
通じて、 同じ病気を抱える患者
さん Theresa Knazik、Shirley
希望がなければ、やめてしまうでしょう。
『Pulmonary Hypertension: A Patient's Survival Guide(肺高血圧症 患者の生活の手引き)』
著者および PAH 患者 Gail 氏
Brown、 Judy Simpson、 Pat
Paton と連絡を取り合いました。
立したのです。1990 年、フロリダ
を超える患者さん、 介護者、 家
彼らはともに、 最終的に PHA と
で食 卓 を 囲 んで 行 わ れ た 最 初
族、医療専門家の組織へと発展
なる最初の PH 支援グループを設
の 会合以来、PHA は 10,000 名
し、世界中の 50 を超える PH 協会
肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために 9
(付録 C : 世 界 の 肺 高 血 圧 症
間には長年にわたり築き上げて
オンライン大学、ニュースレター、
協会一覧)から成る組織の国際
きた信頼関係があり、それにより
医学雑誌、医師生涯教育、肺高血
的な中心拠点となっています。組
PHA との協力体制は、PAH の診
圧症 患者の生活の手引き(図 5)
織は成長しても、創設者の考え方
断と管理の進展に大きく貢献して
によって、PH 専門治療施設へ紹
を支持し続けています。
いるとも言えます。この信頼関係
介しています。
私たちは、肺高血圧症(PH)
患者さんが直面する孤立に
終止符を打ち、肺高血圧症
(PH)を根治する方法を見
出すため、日々活動を継続
します。
により、PAH が希少疾患であるにも
かかわらず、多施設共同試験を
成功に導くことが可能になってい
ます。事実、患者さんは PHA 内
で最も重要な役割を担っており、
さまざまな方法で単に組織をどの
ように動かすかではなく、組織化
によって明確で一貫性のある強い
メッセージを発することによって、
PHA の強みは、患者さんと医療
この分野で基礎や臨床をどのよう
専門家の間にある強い連帯感と
に進展させていくかについても方
自分達が活動しているという意識
向性を示します。開発されたこの
にあります。PHA 内のさまざまな
体制は、世界中の他の組織内で
利害関係者(患者さん、臨床医、
も根付き始めています。世界中
看護師、研究者および製薬業界)
の協会との協力は、国同士の文
PH 患者さんの組織は、根治方法が
の間には同等の役割があり、そ
化や組織の違いをある面克服す
発見されるまで、患者さんの予後
れぞれの関係者自身が独自に可
ることに役立っています。
を改善 するためにできることは
図 5 – 肺高血圧症 患者の生活
の手引き 第 4 版、2011 年夏
多いと実感しています。本疾患が
能な方法で参加します。患者さん
は非常に高いレベルで協会の専
PHA はまた、学ぶことをやめたら
希少疾患であることを考えると、
門的領域への協力を行っていま
患者さんの生命が止まることも理
生存率の上昇や QOL の改善など
す。この連帯感が患者さんに力を
解しています。そのため、医療専
の予後を最大限に高めるための
与え、自らの病気と闘い、疾患を
門家、患者さん、介護者、政治
最も大きな障壁の 1 つは、早期
積極的に管理することを可能にし
家および支援組織のリーダーに対
診断と患者さんへの最適な治療
ています。PHA に参加している
する教育に重点を置いています。
の遅れです。この障壁を克服す
医師と研究者も、自分たちに対し
多くの支援に基づいた多種多様な
るためには、人々の認知を高め、
て与えられるものを受動的に受け
PHA の教育プログラムは、PHA
臨床的に PAH が疑われる場合に
取るのではなく、積極的に困って
が医師と患者さんの組織に対して
は患者さんを PH 専門医に紹介す
いる人を助けていくことが重要で
手を差し伸べる最も重要な方法
ることが必要となります。PHA に
あることを理解しています。
の 1 つで、本疾患に対する認知、
よる組 織 的な取り組 み がこれを
早期診断の改善のための情報を、
可能にします。
医師、研究者および患者さんの
国際 会 議 や 地 域ミーティング、
10 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
患者さんの改善を最大限に高めるには
近年では診断および治療のガイド
ですが、患者さんの治療は協力
ている治療と同時に、新たな代替
ライン
の導入により、PAH 患
して行われることを認識して、こ
治 療 や 付 加 的な PAH 探 索 治 療
者さんの予後はかなり改善され
のようなことを起こさないようにす
を 提 供 する 臨 床 試 験 を 実 施し
ていますが、症状が疾患に特有
ることが重要です。この難病の治
て います。このような治療にはい
のものではないため、依然として
療は単純でないため、PAH 患者
ずれも PAH に関する専門知識が
PAH の診断はかなり難しい問題
さんの治療はまさに主治医と PH
必 要となるため、PH 専 門 治 療
となっています。PAH 患 者さん
専門治療施設との 協 力 によって
施設でのみ治療を開始すること
の診断と最適な治療がかなり遅
治療を行う必要があります
(図 6)
。
が 推 奨 され て い ま す。PAH が
31
れているのと同様に、PH 専門医
疑 わ れ る 患 者 さん は、PAH を
への紹介も大幅に遅れています 。
PH 専 門 医 は、PAH 患 者 さ ん
疑っている専門家に診断検査も
診断に要する時間は過去 20 年間
を診 察した経 験 が 最も豊 富で、
行ってもらうべきです。 患 者を
にわたって改善されていません 。
CCB、プロスタサイクリン、エンド
みた医師が心エコーまたは呼吸
カテーテル検査による診断が行
セリン受容体拮抗薬、ホスホジエ
機能検査によって PAH を疑う場
われるまでに、多くの患者さんの
ステラーゼ 5 阻害薬など、PAH
合や、カテーテル検査によって
状態は悪化してしまうため、仕事
特有の薬剤に関する専門知識も
PAH を 確 定した 場 合 でも、PH
を失い、 家族に頼らざるを得な
非常に豊富です。PAH チームは
専門医に患者さんを紹介すべき
くなり、経済状態もきわめて深刻
現在実施可能なすでに承認され
です。
32
33
な状態に陥ります。臨床上、早期
(WHO 機 能 分 類クラス I および
II)の診断は、患者さんが治療期
間中に仕事を継続できることを意
味します。
PH 専門治療施設との共同治療:
初期段階
紹介の遅れに加えて、PH 専門医
・鑑別診断
の手を離れ、一般医家によって中
途半端に治療が行われていること
を、多くの PH 専門医が認めてい
・診断カテーテル検査/ 地元医療機関
血管反応性試験
・複雑な合併症
PH専門治療施設
・薬物治療目標の達成
ます。この原因の一端は、PAH 用
・エポプロステノール開始の検討
の経口治療薬の数が増えているこ
・併用療法の検討
とにあり、その結果、PH 非専門
・臨床試験への加入
医による安易な治療を招いていま
す。医師が患者さんの治療を管
理する権限を維持し、他の医師
に患者さんを依頼することは気が
進まないと考えるのはよくあること
図 6– 肺高血圧症(PH)専門治療施設との共同治療モデル:
初期および継続治療
肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために 11
性があります。最終的に、 非専
PH 専門治療施設との共同治療:
継続治療
門医師では PH の鑑別が難しい
ため、他の分類の PH に罹患して
いる患者さんの中には、誤った分
・症状の評価
類の診断をされ、誤った治療を受
・利尿剤の漸増
ける可能性があります。例えば、
・処方薬のモニター
地元医療機関
・処方薬変更の必要性
・副作用の管理
PH専門治療施設
慢性血栓塞栓性 PH では外科治
療、肺静脈閉塞性疾患(PVOD)
・移植の検討
では肺移植のための早期登録な
・急性増悪の評価
どの貴重な機会を失うかもしれま
・急性増悪の入院加療
・精神的支援
せん。
PAH に特異的な治療を受けてい
図 6– 肺高血圧症(PH)専門治療施設との共同治療モデル:
初期および継続治療
る患者さんの治療には、近医で
ある主治医への受診と PH 専門医
を定期的に受診し、両者の協力
PH 専門治療施設を離れてからの
治療の手薄さが関係して有害な
結果を招いた例は多数あります。
PH 専門治療施設は臨床試験や
レジストリを通じて、PAH 治療
や適切な治療法を見出すことに関
して、きわめて重要な役割を担
います。患者さんが非専門家の
治療を受ける場合には、普通は
データベースや臨床試験の 情報
を利用することができず、有用な
臨床試験を受 けることはできま
せん。また同じ PAH 患者さんに
出会う機会はほとんどなく、PAH
についての貴重な支援を逃す可能
12 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
体制が必要です。受診頻度は患
者さんの臨床状態に応じて個別に
設定すべきで(3 ~ 6 ヵ月おきを
推奨)
、患者さんの治療にはご自
宅の周辺の心臓専門医または呼
吸器専門医にもかかるべきです。
PAH 早期診断への行動を起こすには
患者さんの予後を最大限に高め
門医を対象とした世界的な
医、産婦人科医、一般の心臓専門
るためには、臨床研究による根治
認知キャンペーンを実施す
医、呼吸器専門医またはリウマチ
治療の特定に加えて、確定診断
る
専門医)。したがって、PAH 非専
までの時間を短縮し、治療のため
に患者さんを PH 専門医に紹介す
ることが重要です。この目標を実
• 研究資金調達のための立
法議案を前進させる
• 教育プログラムの開発を目標
門医は PAH という病気について
知っていること、患者さんの治療
は PH 専門医だけが行うべきであ
現するためには、とりわけ一般の
として、患者さん、介護者、
ること、また臨床的に PAH が疑
人に加えて、主治医/一般開業
医師などのさまざまな組織
われる場合の患者さんの診療法
医、心臓専門医、リウマチ専門
との話し合いを開始する
について情 報を持っていること
医、免疫専門家、産婦人科医を
が重要です。
含む医師の間で、本疾患に対す
患者さんおよび介護者
る認知を高めることが重要になっ
しっかりした患者さんと介護者は、
挙げることおよび PAHの診断
ています。早期診断の最前線に
医師と医師の治療方針を先導す
検査(および結果の解釈)
立っているのが、このような重要
るものです。この致死性の難病の
を認識している
な関係者なのです。しかしながら、
管理は地域の医師と PH 専門医
• PAH を可能な限り早期診断
PAH の早期診断と治療には誰も
チームとの共同で行うべき治療で
することの 重 要 性を 理 解
が貢献できます。各関係者に勧
あることを、患者さんは気付いて
する
められている事柄の一覧を以下
いなければなりません。患者さん
• 患者さんを紹介できる最も
に示します。
はさまざまな方法で治療方法の発
近い PH 専門治療施設
(PHA
見と疾患に対する認知向上に貢
ウェブサイト(付録 C)上で
献することができます。
公開)を知っておく
肺高血圧症協会(PHA)
• 鑑別診断の 1 つに PAH を
PHA は私たちの PAH に対する理
• 臨床試験への参加
解を向上させる主な指導者で、教
• PHA ヘの加入、研究資金
線、ECG、心エコーや臨床
育、研究および認知のための努
調達のための支援グループ
検査(BNP 値の上昇)の
力は PAH の根治治療が発見され
および支援活動への参加
一般的な所見に基づいて、
るまで続けなければなりません。
• 症状、兆候、または胸部 X
• PAH に関する一般市民の
臨床的に PAH が疑われる
• PAH の認知、早期診断お
教 育を支 援し、PAH へ の
場合には、PH 専門医へ患
よび PH 専 門 治 療 施 設 へ
関心を高めるため、地域の
者さんを紹介する
の紹介を改善することを目
集まりを開催する
的として、多くの支援に基
• PAH 患者さんの管理では
PH 専門医と協力する
づく多種多様な教育プログ
肺高血圧症(PH)非専門医
ラムを継続して提供する
患者さんは自らの症状をまずは
• 一般の人々および PH 非専
PH 非専門医に訴えます(主治
• エビデンスに基づく最新の
ガイドラインに従う
肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために 13
重要性を強調する
肺高血圧症(PH)専門医
勧める
PH 専門医は、地域社会で PH 専門
• PAH 患者さんの管理では
• 疾 患 の 管 理を患 者さんと
治療施設の認知を高める役割を
PH 非専門医のパートナー
ともに行 い、 臨 床 試 験 の
果たし、患者さんの管理全般につ
となる
重要性を強調する
いて PH 非専門医と協力します。
• エビデンスに基づく最新の
• PH 非専門医との教育的な
ガイドラインの推進および
症例討論会/座談会を行
更新
い、患者さん紹介のための
• 医師生涯学習プログラムを
連携をとる
通じてこの分野の急速な進
• 非専門医の間で地域の PH
専門治療施設の認知を高
める
の集まりに時間を割く
• PAH 患者さんの管理では
PH 非専門医のパートナー
となる
歩に遅れないようにする
• 治 療の忍 容 性(継 続して
• 臨 床 研 究 やレジ ストリに
服用すること)を高める
積極的に関わり、この分野
• PHA が開催する患者さん
• PHA が開催する患者さん
の知識を高める
の集まり、非専門医の集ま
• 治療の副作用の可能性に
ついて患者さんを教育し、
観察する
り、看護師のトレーニング
関連する医療従事者
に時間を割く
PH の看護師は患者さんの治療に
通じてこの分野の急速な進
• PH 非専門医を対象とした
直接関わっており、患者さんの予
歩に遅れないようにする
医師生涯学習プログラムを
後を最大限に高めるための重要
• 臨 床 研 究 やレジ ストリに
作成する
な役割を果たすことができます。
積極的に関わり、この分野
• 疾 患 の 管 理を患 者さんと
• 患者さんに PHA への加入
ともに行 い、 臨 床 試 験 の
と支援グループへの参加を
• 医師生涯学習プログラムを
の知識を高める
結論(おわりに)
近 年、PH 専 門 治 療 施 設での治
つ正確な確定診断をする必要があ
ど、すべての関係者は、この課
療経験の増加や治療の選択肢の
り、患者さんと医師の双方にとっ
題を克服するための役割を担って
増加により、PAH 患者さんの予
て緊急性の高い課題となっていま
います。私たちは一丸となって、
後はかなり改善されています。早
す。PHA は私たちの PAH に対す
一般市民および医学界でこの疾
期の診断と治療(望ましいのは、
る理解を向上させる主な舵取り役
患に対する認知を高め、根治治
まだ WHO 機能分類クラス I また
で、教育、研究および認知のた
療を探る取り組みの中で臨床試
は II にある段階)により、病気の
めの努力は PAH の根治治療が発
験やレジストリを支援することに
進行を遅らせることが可能で、生
見されるまで続けなければなりま
より、患者さんの予後を改善する
存率および QOL に良い影響を与
せん。PH専門医、医師、患者さん、
ことができます。
えています。したがって、迅速か
介護者、関連する医療従事者な
14 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
付録 A:肺高血圧症(PH)の臨床分類
1 肺動脈性肺高血圧症(PAH)
1.1 特発性 PAH
1.2 遺伝性
1.2.1 BMPR2
1.2.2 ALK1、エンドグリン
1.2.3 不明
1.3 薬物および毒物誘発性
1.4 各種疾患に伴う PAH
1.4.1 膠原病
1.4.2 HIV 感染症
1.4.3 門脈圧亢進症
1.4.4 先天性心疾患
1.4.5 住血吸虫症
1.4.6 慢性溶血性貧血
1.5 新生児遷延性 PH
1' 肺静脈閉塞性疾患(PVOD)および/または肺毛細血管腫症(PCH)
2 左心疾患による PH
2.1 収縮不全
2.2 拡張不全
2.3 弁膜症
3 肺疾患および/または低酸素血症による PH
3.1 慢性閉塞性肺疾患
3.2 間質性肺疾患
3.3 その他の拘束型および閉塞型の混合パターンを伴う肺疾患
3.4 睡眠呼吸障害
3.5 肺胞低換気障害
3.6 高所における慢性曝露
3.7 成長障害
4 慢性血栓塞栓性 PH(CTEPH)
5 原因のはっきりしない多因子の機序による PH
5.1 血液疾患:骨髄増殖性疾患、脾摘出
5.2 全身性疾患:サルコイドーシス、
肺ランゲルハンス細胞ヒスチオサイトーシス:リンパ脈管筋腫症、神経線維腫症、血管炎
5.3 代謝疾患:糖原病、ゴーシェ病、甲状腺疾患
5.4 その他:腫瘍性閉塞、線維性縦隔炎、透析を要する慢性腎不全
肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために 15
付録 B:肺高血圧症(PH)のための一般的検査
画像(非侵襲性)検査
胸部 X 線
換気/血流(V/Q)スキャン
心臓および肺動脈が拡張してい
V/Q スキャンは、放射性物質を
る場合、また肺に胸水がある場
使用して肺血栓を同定する特別
合、肺炎または肺の瘢痕がある
な検査です。通常のスキャンで
かどうかを判断する際に X 線を
肺血栓を効果的に検出します。
使用します。
侵襲性検査
心臓カテーテル検査
右心カテーテル検査(RHC)は、PAH の確定診断のための「ゴール
ドスタンダードとなる」検査です。静脈内にカテーテルを挿入して
肺動脈まで進め、心臓および肺の血圧、ならびに心拍出量(心臓が
送り出す血液の量)を測定します。
臨床検査
血液検査:
HIV 検査
• 電解質
• 腎機能
• 肝機能
• 甲状腺機能
• ANA-抗核抗体 、膠原病(自
己免疫)が 疑われる場合の
スクリーニング検査
運動試験
6 分間歩行距離試験
トレッドミル試験
この試験は 6 分間に人がどこま
この試験は、速度と傾斜が次第
で歩くことができるかを測定す
に上がっていくトレッドミル
るもので、運動能力を評価する
の上を人がどこまで歩くこと
ために利用されています。
ができるかを測定するもので、
運動能力を決定する正式な方
法です。
16 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
CT(CAT)スキャン
心臓磁気共鳴画像
心エコー
CT スキャンは胸部 X (MRI)
心エコーは心臓の超音
線よりも詳細な画像
心臓 MRI は右心室の容
波 画 像 を 提 供 し ま す。
が得られる全身の特
積と機能を正確に計測
心筋、心臓弁の画像撮
別 な X 線 検 査 で す。 することが可能な画像
影、 お よ び 肺 動 脈 圧
肺および心臓をより
撮影技術です。
(PAP)の測定に利用さ
詳細に検査する際に
れます。
使 用 し、 ま た 肺 血 栓
を探す際にも使用す
ることができます。
肺血管造影
肺血管造影は、肺血栓を検出するための「最も基準となる」検査です。X 線画像撮影時に肺動脈に
造影剤が注入されます。
BNP
N-BNP
肺機能検査
心電図(EKG)
脳性ナトリウム利尿
N 末端脳性ナトリウム
これらは気道(肺)の
EKG は心臓の電気的活
ペプチド(BNP)は心臓
利尿ペプチドは BNP の
機能を測定する呼吸検
動を非侵襲的に測定す
によって作られる小さな
もととなるタンパク質
査です。
るもので、心臓の損傷
タンパク質で、濃度が
で、BNP よ り も 高 い 血
および/または異常な
上昇すると右室機能
中濃度で循環しており、
心拍を調べることがで
障害の進展または存在
濃度が上昇すると肺高
きます。
が示唆されます。
血圧症および右室障害
が存在する信号となり
ます。
心肺運動負荷試験
心機能および肺のガ
ス 交 換( 酸 素、 二 酸
化 炭 素 ) の 測 定 は、
トレッドミルまたは
自転車での運動中に
実施されます。
肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために 17
付録 C:世界の肺高血圧症協会一覧
北アメリカおよび中央アメリカ
団体名
略称
国
Pulmonary Hypertension Association
PHA
アメリカ
Puerto Rican PH Support Group
プエルトリコ
Sociedad Latina de PH
SLHP
アメリカ
Pulmonary Hypertension Association of Canada
PHA Canada
カナダ
British Columbia Pulmonary Hypertension Society
BCPHS
カナダ
Calgary Pulmonary Hypertension Support Group
カナダ
Edmonton Alberta Pulmonary Hypertension Support Group
カナダ
Edmonton Pulmonary Hypertension Support Group
カナダ
Manitoba Pulmonary Hypertension Support Group
カナダ
New Brunswick Pulmonary Hypertension Society
NBPHS
カナダ
PPH Quebec
カナダ
Pulmonary Hypertension Society of Ontario
カナダ
Toronto Chapter, PHA Canada
カナダ
University of British Columbia Pulmonary Hypertension Society
UBPHS
カナダ
Asociación Mexicana de Hipertensión Arterial Pulmonar
AMHAP
メキシコ
Fundación de Apoyo para la Hipertensión Pulmonar del Sureste, AC
FAHIP
メキシコ
18 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
ヨーロッパ
団体名
略称
国
Pulmonary Hypertension Association of Austria
PHA Austria
オーストリア
Pulmonale Hypertensie vzw Belgie
Belgium PH vzw
ベルギー
HTAP Belgique
HTAP Belgique
ベルギー
Pulmonary Hypertension Association of Bulgaria
PHA Bulgaria
ブルガリア
Sdružení Pacientů s Plicní Hypertenzí
SPPH
チェコ
Pulmonary Hypertension Association of Europe
PHA Europe
ヨーロッパ
Hypertension Arterielle Pulmonaire France
HTAP France
フランス
Pulmonare Hypertonie e.V
PHeV
ドイツ
Pulmonary Hypertension Association of Greece
PHA Greece
ギリシャ
Pulmonary Hypertension Association of Ireland
PHA Ireland
アイルランド
Associazione Ipertensione Polmonare Italiana
AIPI
イタリア
Associazione Malati Ipertensione Polmonare
AMIP
イタリア
Pulmonary Hypertension Association of Nederland
PHA Nederland
オランダ
Pulmonary Hypertension Association of Norway
PHA Norway
ノルウェー
Associação Portuguesa de Hipertensão Pulmonar
RESPIRARAPHP
ポルトガル
Asociaţia Hipertensiunea Arterială Pulmonară din România
PHA Romania
ルーマニア
Asociación Nacional de Hipertensión Pulmonar
ANHP
スペイン
Fundación contra la Hipertensión Pulmonar
FCHP
スペイン
Association Suisse Romande contre l’Hypertension Artérielle
Pulmonaire
HTAP Revivre
スイス
Schweizer PH-Verein
SPHV
スイス
Pulmonary Hypertension Association UK
PHA UK
イギリス
肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために 19
中東
団体名
略称
国
Saudi Advisory Group on Pulmonary Hypertension
SAPH
サウジアラビア
Israel Pulmonary Hypertension Association
PH Israel
イスラエル
Pulmoner Hipertansiyon Derneği
PHA Turkey
トルコ
団体名
略称
国
Pulmonary Hypertension Association of Australia
PHA Australia
オーストラリア
PH New South Wales
PHNSW
オーストラリア
NZ PAH Trust
NZ PAH Trust
ニュージーランド
団体名
略称
国
Pulmonary Hypertension Association of China
PHA China
中国
Pulmonary Hypertension Association of Japan(NPO 法人 PAH の会) PHA Japan
日本
Pulmonary Hypertension Association of Korea
韓国
オーストラリア
アジア
PHA Korea
Singapore PH Support Group
Taiwan Foundation for Rare Disorders
20 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
シンガポール
TFRD
台湾
南アメリカ
団体名
略称
国
Hipertensión Pulmonar Argentina
HIPUA
アルゼンチン
PHA Argentina
アルゼンチン
Associação Brasileira de Amigos e Familiares de Portadores de
Hipertensão Arterial Pulmonar
ABRAF
ブラジル
Associação Mineira de Hipertensão Arterial Pulmonar
AMiHAP
ブラジル
Associação Brasileira de Hipertensão Pulmonar
ABRAHP
ブラジル
Fundación Colombiana de Hipertensión Pulmonar
FCHP
コロンビア
Asociación Peruana de Hipertensión Pulmonar
APHP
ペルー
Fundación Venezolana de Hipertensión Pulmonar
FUNDAVHIP
ベネズエラ
団体名
略称
国
Pulmonary Hypertension Association of South Africa
PHA South
Africa
南アフリカ
アフリカ
肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために 21
参考文献
1 Humbert M, et al . Cellular and molecular pathobiology of pulmonary arterial hypertension. J Am Coll
Cardiol 2004; 43:S13-S24.19.
2 National Institutes of Health. National Heart, Lung and Blood Institute. Primary Pulmonary
Hypertension. Available at: http://www.medhelp.org/lib/pph.htm. Accessed November 1, 2010.
3 Ibid
4 Gibbs JS. Making a Diagnosis in PAH. Eur Respir Rev 2007; 16:8-12.
5 Rich S, Dantzker DR, Ayres SM, et al . Primary pulmonary hypertension. A national prospective study.
Ann Intern Med 1987; 107:216-223.
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from the REVEAL Registry. Chest 2010; 137:376-387.
7 Jing ZJ, Xu XQ, Han ZY, et al . Registry and Survival Study in Chinese Patients with Idiopathic and
Familial Pulmonary Arterial Hypertension. Chest 2007; 132:373-379.
8 Badesch DB, Raskob GE, Elliott CG, et al . Pulmonary arterial hypertension: baseline characteristics
from the REVEAL Registry. Chest 2010; 137:376-387.
9 Ibid
10 Jing ZJ, Xu XQ, Han ZY, et al . Registry and Survival Study in Chinese Patients with Idiopathic and
Familial Pulmonary Arterial Hypertension. Chest 2007; 132:373-379.
11 Badesch DB, Raskob GE, Elliott CG, et al . Pulmonary arterial hypertension: baseline characteristics
from the REVEAL Registry. Chest 2010; 137:376-387.
12 Simonneau G, Robbins IM, Beghetti M, et al . Updated Clinical Classification of Pulmonary
Hypertension. JACC 2009; 54:43-54.
13 Ibid
14 Ibid
15 Simonneau G, Robbins IM, Beghetti M, et al . Updated Clinical Classification of Pulmonary
Hypertension. JACC 2009; 54:43-54.
16 Ibid
17 McGoon M, Gutterman D, Steen V, et al . Screening, early detection, and diagnosis of pulmonary
arterial hypertension: ACCP evidence-based clinical practice guidelines. Chest 2004; 126:14S-34S.
18 American Lung Association. Understanding PAH. Available at: http://www.lungusa.org/lung-disease/
pulmonary-arterial-hypertension/understanding-pah.html. Last accessed July 29, 2011.
19 Badesch DB, Raskob GE, Elliott CG, et al . Pulmonary arterial hypertension: baseline characteristics
from the REVEAL Registry. Chest 2010; 137:376-387.
20 Brown LM, et al . Delay in Recognition of Pulmonary Arterial Hypertension: Factors Identified from
the REVEAL Registry. Chest 2011; 140:19-26.
21 Ibid
22 肺動脈性肺高血圧症患者さんの予後改善のために
22 Ibid
23 Ibid
24 Gibbs JS. Making a Diagnosis in PAH. Eur Respir Rev 2007; 16:8-12.
25 Galie N, Torbicki A, Barst R, et al . Guidelines on Diagnosis and Treatment of Pulmonary Arterial
Hypertension. Eur Heart J 2004; 25:2243-2278.
26 Badesch DB, Raskob GE, Elliott CG, et al . Pulmonary arterial hypertension: baseline characteristics
from the REVEAL Registry. Chest 2010; 137:376-387.
27 Pulmonary Hypertension Association Scientific Leadership Council. Summary and Explanation
of Common Tests for Pulmonary Hypertension. Available at: http://www.phassociation.org/page.
aspx?pid=1257. Last accessed July 29, 2011.
28 Jing ZJ, Xu XQ, Han ZY, et al . Registry and Survival Study in Chinese Patients with Idiopathic and
Familial Pulmonary Arterial Hypertension. Chest 2007; 132:373-379.
29 McLaughlin VV, Shillington A, Rich S. Survival in Primary Pulmonary Hypertension. Circulation
2002; 106:1477-1482.
30 Pulmonary Hypertension Association. Treatment. Available at: http://www.phassociation.org/page.
aspx?pid=977. Last accessed on July 29, 2011.
31 Galie N, Torbicki A, Barst R, et al . Guidelines on Diagnosis and Treatment of Pulmonary Arterial
Hypertension. Eur Heart J 2004; 25:2243-2278.
32 Badesch DB, Raskob GE, Elliott CG, et al . Pulmonary arterial hypertension: baseline characteristics
from the REVEAL Registry. Chest 2010; 137:376-387.
33 Brown LM, et al . Delay in Recognition of Pulmonary Arterial Hypertension: Factors Identified from
the REVEAL Registry. Chest 2011; 140:19-26.
For humanitarian reasons, the Pulmonary Hypertension Association, Inc., has allowed this author to use
material from PHA's White Paper, "PAH: Recommendations for Improving Patient Outcomes". PHA did
not compile this final project however, and cannot assume responsibility for its accuracy.
肺高血圧症協会(PHA)は、人道的見地から、本白書「PAH: Recommendations for Improving Patient
Outcomes」の資料の使用を本冊子の作成者に許可しました。PHA は本翻訳版の作成には関わっておらず、
翻訳の正確性に関する責任を負いません。
Pulmonary Hypertension Association(肺高血圧症協会)
801 Roeder Road, Suite 1000
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特定非営利活動法人 PAHの会
801 Roeder Road, Suite 1000
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2012年3月作成
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