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No.69

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No.69
ISSN 1342−632X
国際資料研究所報 Documenting Japan International Report 国際資料研究所報 Documenting Japan International Report国際資料研究所報 Documenting Japan International Report国際資料研究所報 Documenting Japan International Report
DJ I レポート
No.69
20070110
国際資料研究所報 Documenting Japan International Report 国際資料研究所報 Documenting Japan International Report国際資料研究所報 Documenting Japan International Report国際資料研究所報 Documenting Japan International Report
〒251-0045 神奈川県藤沢市辻堂東海岸3−8−24 fax+phone 0466−31−5061
Email:djiarchiv@ybb.ne.jp
11 月 20−24 日オランダ領アンチルのキュラソーで
第 39 回
ICA 円卓会議
グローバル化と記憶の共有をテーマに
1.
2.
3.
会期
催場所
2006 年 11 月 20 日(月)∼26 日(土)
オランダ領アンチル・キュラソー
ワールド・トレード・センター
会議テーマ:グローバル化時代の記憶共有化
キュラソーはカリブの島、南米ベネズエラのすぐ近く
昨年 11 月 20 日から 26 日までの日程で、オランダ領ア
ンチル諸島のキュラソー島で、第 39 回国際文書館評議会
円卓会議が開催された。オランダ領アンチル諸島は南アメ
リカ大陸ベネズエラに程近いカリブ海の島で、会議が開催
されたキュラソー島はベネズエラの首都カラカスから直
線距離で 80km、東京―小田原間とほぼ同じである。現地
で地図を見て気付いたことだが、このあたりは、アフリカ
西海岸からカリブ海を挟んで向かい側に位置する。アフリ
カはとても近い。また、緯度は北緯15度、連日30~3
5℃の高温多湿の気候であった。
↑キュラソー ワールド・トレード・センター
今回の円卓会議には、70 カ国から約 200 名が
参集した。カリブ、アフリカ各国からの参加者が
多い。毎回感じることだがアジアからの参加は非
常に少なく今回は中国、韓国、日本の3ヶ国。
会議のもち方には新たな工夫があった。これま
での円卓会議では、予め発表者と発表内容が周知
され、間に合えば発表内容の原稿が参加者に配布
された。参加者は、すでに入手した原稿を見なが
ら、発表を聞き、その後は質疑応答は活発に行わ
れるというのが常であった。しかし、今回の円卓
会議ではグループ討論という新しい議論方法が取
り入れられた。参加者はそれぞれ、そのとき予め
準備されたテーマごとのテーブルに別れ、そこで
はじめて会う人々と、そのテーブルに割り当てら
れたテーマにしたがって討論を行う。その後全体
会に戻ると、テーブルごとの報告者が壇上からそ
のグループの討論の内容を報告する、というもの
であった。
概略プログラム
月日 午前
午後
夜
11.19 SPA 専門家団体部会 SC 運営
11.20
11.21
11.22
11.23
11.24
11.25
委員会
フリー
円卓会議
円卓会議
全体会
グループ討論
円卓会議
円卓会議
基調 講演 +グ グ ルー プ討 論
ループ討論
報告+まとめ
円卓 会議 決議 ICA 年次総会
採択
ICA 年次総会 SPA 総会
+閉会式
エクスカーション
開会式
キュ ラソ ー 博
物館 での レ セ
プション
Hato Caves
懇親会
付記:この会議参加は、横断的アーカイブズ論研究会(平成 17∼
19 年度文科省科学研究費補助金基盤研究(B)「横断的アーカイ
ブズ論の総合化・国際化と社会情報資源基盤の研究開発」
(番号:17300081、代表:八重樫純樹))活動の一部として、同
研究会から研究費を支給されたので、記して謝意を表する。
DJI レポート
No.69 20070110
文献紹介………………………………………………………6
消息/国際資料研究所の活動/巻末随想…………………7
おもな内容
第 39 回 ICA 円卓会議開催……………………………………1
第 39 回 ICA 円卓会議決議・勧告……………………………3
1
DJI レポート
No.68
20061010
全史料協に追いついてきたといえようか。
会議テーマをめぐる考察
奴隷制度の記録が会議での中心的話題であった。
日本が鎖国をしていたちょうどその時期に、ヨー
ロッパではアフリカの黒人を奴隷として南北アメ
リカ大陸に売りさばくという貿易が行われていた。
この「奴隷貿易」が軸となり、主として西ヨーロ
ッパ、南北アメリカ、アフリカはひとつにまとま
ることが出来る。しかし、日本を含む東アジア地
域には、アフリカ系黒人の奴隷貿易の影響はほと
んど及んできていない。そのため、アフリカ系黒
人を対象とした奴隷制度とその記録というテーマ
は、東アジア人の我々にはなじみにくかった。普
段は中国からの発言が聞かれるのが、今回はなか
ったのがその表れかと思われる。しかし、世界の
大勢は奴隷貿易にかかわりがあったといえる。今
回の ICA 円卓会議参加者は 70 カ国 200 名、その
中でもアフリカ及びカリブ各国からの参加者が目
立って多かったのは、このテーマと記録の取扱い
についてのかかわりの深さを象徴していたといっ
てよい。
●奴隷貿易 アフリカと欧米はこの問題ではその
記録を核として一体である
●拉致(DISPLACED)は長い歴史がある。 (昭
和 40 年代の北朝鮮だけじゃない!)
●宗主国と植民地が共有する歴史とその記録の共
有化をめぐる調整
●武力紛争と記録の破壊 これはちょっと異質な
感じを受けたが、ブルーシールド国内委員会の創
設にむけ、日本国内でも関係団体が動くべき時期
と痛感
●抑圧的政権、政府部内の抑圧的機関の記録への
視点 南米では政府による政治犯抹殺問題を抱え
る国がある。その事実、抹殺された国民の記録な
どはどうやって残せるのか?また、各国とも警察
や秘密諜報部門を抱えるが、こうした役所に集積
される記録は公開されにくい。いわば政府の「影」
の記録の保存可能性に着目された。
●権力者による歴史 v.s.市民自身の歴史=>私文
書保存制度への視点が明確にされた。ICA 円卓会
議は従来、国立機関の集合としての色合いが強く、
政府の記録の確実な保存こそが共通の関心事であ
った。しかし、今回は私文書保存制度についての
視点が打ち出され、公文書だけでは一面的になり
がちな証拠情報を、
私文書により多面的・立体的に
残すことについての議論が行われた。日本では公
文書以上に古文書、私文書の保存が公文書館の中
での共通の関心事であることを思い出し、ICA も
-2-
決議にみえる諸課題、
一般決議
1.アーキビストの防護;
2.記憶の保存に関するアーキビストの役割;
3.武力紛争におけるアーカイブ遺産の保護;
4.ユネスコ奴隷貿易アーカイブプロジェクト;
5.植民地化に関するアーカイブ;
6.複数国に共通するアーカイブ遺産の共有化
7.裁判、投獄、諜報機関に関するアーカイブ;
8.口承伝統の 8 項目、
専門決議
1.国際アーカイブデーの創設;
2.アーカイブ資料のオンライン登載;
3.国際的情報資源;
4. 私文書アーカイブ;
5.視聴覚遺産
の 5 項目が掲げられた。
決議事項に対する日本の対応のあり方
ICA 倫理綱領と、各国の制度との整合性を取る
ため、倫理綱領の改訂の提案があった。全史料協
としては、まずは ICA 倫理綱領の浸透をはかると
ともに、この内容が各自治体等の公文書館業務と
の整合性に問題がないかどうかを議論していく必
要がある。
日本国内ブルーシールド委員会の設置を、関係
当局に広く働きかける必要がある。ブルーシール
ド委員会は、文化財の赤十字のような役割を持つ
ものであり、現在国内各地で稼働中の史料ネット
のような活動を支援したり促進するような機能が
期待される。ICA 会員である全史料協や企業資料
協議会はもとより、各地史料ネットなど、資料や
文化財の保存にかかわる団体は、図書館、博物館
等の関係団体とも連携して、この国内ブルーシー
ルド委員会の早期設置を関係方面に働きかけてい
く必要があろう。
奴隷貿易の記録と歴史
• アフリカ西海岸=奴隷海岸からカリブ海を経
て南北アメリカに運び込まれたアフリカ系の
人びと、運び込んだヨーロッパの人びと、運
び込まれたアフリカ系の人びとを奴隷として
受入れた南北アメリカの人びとは、一体とし
てこの問題に取り組む必要がある
• アジア、とりわけ東アジア地域はこの問題に
は歴史的にほとんど関与していないというこ
とを改めて認識した。
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No.68
20061010
◆M E M O◆
●オランダ領アンチル
オランダ領アンチルは 5 つの島からなるオランダの統治
領である。18世紀以来ヨーロッパ各国により植民地とさ
れ、1965 年にようやく独自の政府を持つようになった。
人口は 18 万人、大学進学率は 10%、川がないので真水は
海水の淡水化プラントに頼っている。
●キュラソーの土地柄
地理的条件はアフリカ奴隷海岸とカリブ海を挟んで向き
合う位置にあり、スペインやポルトガルによるアフリカ人
奴隷貿易の中継地点であったと思われる。気候は高温多湿。
黒人が多いが南アフリカと同じく混血している。インド系、
中国系も若干見られる多民族多人種地域で57種類の文
化が混在と聞いた。現実には、宿泊したホテルの従業員はす
べて黒人、宿泊客は、ほとんどが白人。現地ガイド(黒人)
は「ヨーロッパから来る人は 1 ヶ月 2 ヶ月という滞在期間
が普通、アメリカ人はせいぜい 1−2 週間しか滞在しない」
という。欧と米の違いはこんなところにあるらしい。
●ICA と同円卓会議
ICA(国際文書館評議会)は 1948 年ユネスコ総会で設
立が提起され、1950 年発足したアーカイブの国際 NGO。
4 年に一度、大会を開催する。次回 2008 年 7 月マレー
シアで開催予定。
ICA 円卓会議は、ICA 大会開催年以外は毎年開催される。
と各国アーカイブ団体の代表に限定される。05 年アブ
ダビ、07 年はケベックで開催予定。
●ICA と日本
1972 年 国立公文書館が加盟(A 会員)
、岩倉紀夫館長
は執行委員に選出(1976 年まで)
1985 年 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会が加盟
(B 会員)
1988 年 岩上二郎参議院議員、日本の公文書館法制定
の功労により ICA 名誉メダル授与
1989 年 ICA 会長、岩上氏にメダル手交のため来日
1991 年 ケシュケメティ前 ICA 事務総長、来日
1992 年 モントリオール大会閉会式で、安藤正人氏が
参加者を代表し謝辞を述べる
1993 年 ICA 東アジア地域支部設立
1995 年 ICA 会長夫妻、来日。
1997 年 東京で ICA 東アジア地域支部総会、開催。主
催は国立公文書館
2001 年 v.アルバダ現 ICA 事務総長、初来日
2004 年 ICA 史上初めての選挙が行われた。菊池国立
公文書館長、円卓会議担当副会長に選出。
2006 年 5 月 東京で ICA 執行委員会、開催
2006 年 10 月 東京で ICA 教育研修部会開催
大会と異なり参加者は各国国立のアーカイブ機関の長
第39回 ICA 円卓会議 決議勧告
2006 年 11 月、キュラソー
ICA メンバー、各国国立公文書館長、各国全国専
門家団体会長は、
第 39 回 ICA 円卓会議のためキュラソーに参集し、
一般決議
政治経済的圧力の下で、アーキビストの役割の促
進及びアーキビストの防護の両方に資する戦略
ツールの開発を模索し、
国際連合及び他の関係団体に対し、倫理綱領及び
新規戦略ツールの促進を要請する。
1.アーキビストの防護
アーキビストが歴史と共有すべき記録を証し、固
定化するエレメント(要素)の収集と配布を基本的
役割とする事にかんがみ、
2.記憶の保存に関するアーキビストの役割につい
ての決議
社会に記憶を作ることを可能にするエレメント
(要素)を保存するためのアーキビストが有する特
別の技能や専門知識にかんがみ、
歴史と共有記憶を構成するには、当然、十分に多
角的な情報資源を用いるものであることにかん
がみ、
アーカイブ専門職は時に倫理的原則の適用を妨
げる政治、経済的圧力にさらされることを認識し、
記録管理及びアーカイブの評価、収集、取得受け
入れ、保存、アクセスにおけるアーキビストの役
割を通じているので、アーキビストは資料の完全
性を保証するものであり、
ICA 倫理綱領が、個々のアーキビストの指針とな
るよう修正を求め、
アーカイブが、記憶保存及び昨今増加が著しい特
-3-
DJI レポート
No.69
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定の「記憶」テーマに的を絞った非アーカイブ機
関に分散していることにかんがみ、
保存するアーカイブへのアクセスを向上する
こと。
各国には本来の専門的アーカイブ部局の創設・維
持を求める。
6.複数国に共通するアーカイブ遺産の共有化につ
いての決議
旧仏領西アフリカ及びカリブ 9 カ国がアーカイブ
遺産共有化のために行った作業を認め、且つ世界
のほかのどこの国にもこのような共通遺産に関
する資料共有に関する類似の要求が見られない
ことを認識し、
3.武力紛争におけるアーカイブ遺産の保護に関す
る決議
最近の紛争に際し発生した略奪及び破壊に深く
懸念し、
次のことを勧告する:
・ 文化財保護に関する国際条約 1954 年及び
1999 年第 2 次条約を見採択の各政府は、可及
的速やかにこれを採択すること、
・ ICA メンバーにあっては、もし未創設である
なら各国ブルーシールド委員会を創設し、武
力紛争または自然災害から文化遺産を守るこ
と
4.ユネスコ奴隷貿易アーカイブプロジェクトへの決
議
ユネスコへの申し入れ事項
・ プロジェクトの第 1 フェーズに関わる各国へ
の支援を継続し、
・ 奴隷制度の全体を配慮しつつ、プロジェクト
を関係他国にも拡大し、
・ 既存のネットワークを調整し
・ 参加各国により着手されたデジタル化プロジ
ェクトを促進すること。
参加各国への奨励事項
・ 奴隷貿易に関するアーカイブ資料の記述のた
めのプログラムを開始し、
・ あらゆる地域での各国間の協力を促進し、
・ 当該プロジェクトを積極的に継続すること。
ICA への申し入れ事項
・ 参加各国がプロジェクトを持続するため、資
源流動化の方策を積極的に模索し、
・ 旧植民地勢力が植民地記録を保存する措置を
とるよう奨励し、
・ 各地域支部間で資源と経験の共有のためより
緊密な協力を促進すること。
5.植民地化に関するアーカイブについての決議
植民地化各国のアーカイブに関するコンセプト
とは、故意に移動された(≒奪われた)アーカイ
ブに関する考え方に近づけるべきであることに
かんがみ、
奪われたアーカイブ問題の疑問とその問題自体
の複雑性からこれについての国際的勧告の適用
が困難であることにかんがみ、
次を目指す多国間協力による計画を提案する:
・ 植民地化とその解放という事象を証する典拠
出所に関する情報の流れを開発すること
・ 必要な備品、研修、財源を提供すること
・ 関係地域外、特に詳細検索手段の供給やコピ
ー作成と配信による記録共有化対策により、
ユネスコ及び関係各機関並びに関係各国に対し、
共通の過去を有する各国の、共通する記憶に関す
る資料の目録作成並びにそのコピー作成と配信
を目指す、あらゆるプロジェクトを勝利絵師、財
政支援を行うことを求める。
7.裁判、投獄、諜報機関に関するアーカイブについ
ての決議
司法制度(裁判)、投獄、及び諜報機関に関する
アーカイブ資料に非常に大きな関心が集まり、
これらアーカイブが共有記憶の構成要素として、
和解と普遍的正義の促進のために責任の所在を
明らかにする証書として、並びに個人及び集団の
権利防衛手段として基本的な重要性を持つこと
にかんがみ、
ICA とユネスコに対し次を求める:
・ 1995年に行われた旧圧政政権における公
安のアーカイブの研究を更新すること
・ 司法制度、投獄、諜報関係のアーカイブに関
する所在確認目録作成、及び情報交換のプロ
グラムを国際レベルで調整すること。
8.口承伝統に関する決議
世界の記憶の保全のための口承伝統の重要性に
かんがみ、
またユネスコ無形文化財条約に言及し、
ユネスコが口承文化財の収集、保存、利用のため
のプログラムを支援するよう切望し、
ICA が他の関係国際機関と協働してこの分野を
戦略的に考え、且つ模範的実務の実施を促進する
よう求める。
専門的決議
1.国際アーカイブデーの創設に関する決議
国連システムにおいて新規国際アーカイブデー
創設は非常に見込みうすであることを踏まえ、
次を決議する:
・ ICA が独自に国際アーカイブデーを設け、こ
の日付は国際的カレンダーにより毎年異なる
ことも可とすること
・ ICA は加盟各国に対し、独自のアーカイブデ
ー(ズ)またはアーカイブウィークスを設け
るよう奨励すること。
・
−4−
DJI レポート
No.69
20070110
2.アーカイブ資料をオンラインに登載することにつ
いての決議
アーカイブを世界にアピールするためには、オン
ラインでアーカイブ資料を掲載するためのプロ
グラムが役立つことにかんがみ、
こうしたプログラムの実施により得た経験の共
有化は当面する問題解決と模範形(ベストプラク
ティス)の促進に役立つことを確信し、
ICA は次により現行、及び準備中のプロジェクト
の広汎な周知並びにアーカイブのオンラインア
クセスが容易となるようンは発表及び検索機能
のモデル開発の支援を行うよう提案する:
・ ICA 表彰制度を設け、オンライン上でのアー
カイブアクセスを行うプロジェクトについて
認識してもらうこと
・ 会員にこの賞の応募を広く周知すること
・ 専門的意見交換の場を提供して、アーカイ
ブ・オンラインの掲示に関連する法律ならび
に技術上の問題を検討すること。
5.視聴覚遺産に関する決議
途上各国が直面する視聴覚資料の保存問題及び
当該資料の喪失の加速への懸念にかんがみ、
ICA に対し、関係方面と共に世界の視聴覚資料の
保護に向け、持続的・包括的保存アプローチの着
手と実施を求める。
謝辞
シュリダート・ライファル卿、及びイアン・ウィ
ルソン氏の基調講演はじめ、発表者、参加者諸氏
によりもたらされた専門的討議に感謝する。
オランダ領アンチル当局、オランダ領アンチル国
立公文書館館長及び職員諸兄諸姉、ボランティア
の皆様の温かいもてなしとすばらしい会議運営
に心底からの謝意を表する。
【翻訳 小川千代子 2006.12.06】
3.国際的典拠に関する決議
国民国家と個別社会は相互に関連試合、このこと
はアーカイブ機関が他の社会の記録を所有する
ことに反映されていることにかんがみ
あらゆるアーカイブ機関に次を求める:
・ アーカイブに関する情報共有化及びアーカイ
ブ資料へのアクセスを妨げるような財源抑制
を克服し、その結果各機関は必要な財源を確
保すべく協働するのが、アーカイブ機関の道
義的責任であると認識すること
・ 特に次の記録のアクセスを手助けすること
○ ユネスコ/ICA 作成の国際機関アーカイ
ブガイドのような検索手段の作成
○ これら国際記録のアクセス提供
○ アーカイブ機関との協働によるこれら記
録のコピー提供
ユネスコにはこのイニシアチブを財政面で支援
してほしいと願う。
4. 私文書アーカイブに関する決議
私文書は公文書と共に社会の記憶を全体として
構成する必須要素であること、そうしたアーカイ
ブは保存されるべきであることに留意し、
アーキビストはバランスよく包括的な社会全体
の記憶を構築する目的で、私的団体の記録の作成、
取り込み、保存を積極的に支援するための戦略の
立案と実施という役割を負うことにかんがみ、
ICA に次を求める:
・これら全体アーカイブの重要性と価値への一般
認識の促進
・私文書セクション創設についてのフィージビリ
ティスタディの実施
−5−
アンチル国立公文書館前
DJI レポート
No.69
20070110
●◆▼やぶにらみ文献紹介【●図書◆論文▼逐次刊行物■その他】
■総務省「合併デジタルアーカイブ」HP
http://www.gappei-archive.org/howto.html
岡 本 真 氏 の メ ル マ ガ ACADEMIC RESOURCE
GUIDE(ARG)で 「合併デジタルアーカイブ発見!」
という記事を見つけた。総務省が提供する HP で、見
れば平成 18 年 4 月にスタートした模様。「ごあいさつ」
の頁では、「合併デジタルアーカイブ」を次のように紹
介している。
「市町村合併は、現在、「市町村の合併の特例等に関
する法律」に基づき全国的に推進されているところです。
一方、近年多くの合併協議会がホームページを開設し
て、議事録、関係資料等を幅広く公開するとともに、全
国的に多数の合併事例が蓄積されてきました。
これらの情報は、合併協議の記録としての史料的価値
はもちろん、今後合併協議を行う市町村のための参考
資料としても重要な内容を含んでいます。このような状
況から、総務省は、関係地方公共団体の協力のもと、こ
れらの情報を収集し、その保全を図るとともに、各種の
合併データを検索できるウェブページとして「合併デジ
タルアーカイブ」を開設しました。今後の合併推進や研
究等のために広くご利用いただければ幸いです。
収録しているデータは、総務省自治行政局合併推進
課が調査した、平成 11 年度以降の合併市町村に係る
合併協議会(任意協議会を含む)を対象としており、合
併に至らず解消した協議会や休止中の協議会につい
ては、データに含まれていないものもあります。また、協
議会によっては、一部の条件で検索ができないものもあ
ります。」
岡本氏はメルマガの中で「合併により消滅した自治
体のサイトは含まれておらず、合併合意に至らなかっ
た協議会のサイトは収録対象となっていない」「そもそ
も現状は単に合併協議会サイトの所在情報のデータ
ベースに過ぎず、過去の議論の状況を丸ごと保存す
るというアーカイブとは言いがたい。」と辛口の評価。
そして、「アーカイブは開始時期に方向性を誤ると、
取り返しがつかない。総務省にはいますぐにでも方
針を見直してほしい。」と結んでいる。
合併と記録保存については、全史料協が 2002 年
11 月に総務省に申し入れを行い、その後国立公文
書館が 2005 年、2006 年と継続して同じく総務省に善
処を申し入れている。だが、これまでは申し入れる側
自体が、資料保存は市町村の責務という考えにとら
わていたのではないだろうか。それに対し、総務省側
は、昨年 4 月からデジタルによる市町村合併のプロセ
ス記録の保存努力を始めた。このことは、高く評価す
べきだと思う。岡本氏の辛口評価は、この努力をさら
に向上させるためといえる。加えて、氏の辛口評価と
考察は記録管理とアーカイブを「記録の保存を何時
のどこから始めるのか」という問いかけに収斂されよう。
いわゆる「デジタルアーカイブ」のあり方、存在意義に
も関わる重要な指摘だとして注目したい。
★☆★(^-‘)やぶにらみメモ (ち)の足跡☆★☆
■学術エッセイ「アウシュビッツ・ポーランドの世界遺産」
2006 年 5 月、ポーランドの世界遺産、アウシュビッツ
を訪問したときのよしなしごとを記した。査読を経て当
初のドラフトに比べると格段に整ったというのが、偽ら
ざる感想だ。査読のありがたみが身にしみる。
昨年 5 月、ワルシャワで開催された欧州アーカイブ
会議で、ドイツ人アーキビストによるメタデータの考察
発表を見て、ちょうどその翌日にアウシュビッツに出
向き、そこで展示されていたドイツ側による収容者の
登録リストをみた。このとき、驚いた。前日目にしたド
イツ人アーキビストによるパワーポイントの説明で目
にしたメタデータの考え方を整理したエクセルの表と、
展示されていた収容者の登録リストの枠組みのありよ
うが、余りにもよく似て見えたのである。その経過と驚
きについて、この中にきちんと書ききれなかったのが
心残り。その後 06 年 9 月、米国に出張した折に見学
したニューヨークの移民博物館に今も残る欧州から
米国への移民の入国時登録簿との類似性は何とか
書いたのだけれども…。『レコードマネジメント』No.
52, 2006.12、pp.106-114 記録管理学会
■電子文書化と文書管理システム
これは 2005 年 11 月の全史料協全国大会で同タイ
トルの内容を、大会企画委員会からの依頼で発表し、
その後文章化したもの。発表から13 ヵ月を経て同会
会報に掲載された。2005 年度は内閣府の電子媒体
研究会に関わっていたこともあり、発表から執筆を終
えるまで、結局3ヶ月余りを費やし、自分でもそれなり
に熱心に取り組んだ発表内容の文章化であった。
昨今、電子記録の話題は「ホットイシュー」といわれ、
その内容も日進月歩である。ところが、会報の刊行は
遅れた。執筆者としては、このテーマで発表から 1 年
以上、原稿提出後 10 ヶ月以上を経過し、原稿が「腐
って」しまうのではないかと、不安になった。発行の遅
延は編集上掲載すべき原稿の提出を待つうちに時
間が経過したためと仄聞する。
原稿を書くのは厳しい仕事だ。他方、会報などの定
期刊行物は、定期的な発行こそが会員の信頼をつな
ぎとめ、会そのものの価値を高める。その定期発行に
は、原稿執筆とともに、編集、校正、印刷、発送など、
さまざまな側面を支える仲間の存在と努力がある。確
かに原稿は必須だが、こうしたチームワークあってこ
そ、原稿は掲載・出版のレールにのるのであって、執
筆者一人の力では出版物にはなりえない。であるか
らして、原稿が腐るんじゃないかなどと能天気なことを
いった自分の不見識を反省陳謝。原稿提出を待ち
続けた掲載誌の編集を担当する事務局の皆さんのご
苦労は推察するに余りある。『全国歴史資料保存利
用 機 関 連 絡 協 議 会 会 報 第 77 号 』 2006.12,
pp.10-17、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会
−6−
DJI レポート
No.69
20070110
◇◆◇アーキビストの消息
◇◆◇
●菅真城氏 10 月1日付 広島大学→大阪大学大学
文書館設置準備室
◆訃報◆
ハンス・ショルコーゲル博士 06 年 12 月 9 日、スリナム
で急逝。1953 年生まれ。ICA/SAE 会長、ICA 執行委員
会委員。オランダ国立アーカイブ教育研究所。2006 年
凡例■機関●ひと
5 月、10 月に来日、11 月にはキュラソーで開催された第
39回 ICA 円卓会議でも活躍した。
ビョルン・リンド氏 06 年 8 月逝去。1939 年スウェーデン
のマルメ生。元 ICA/PM 委員、スウェーデン国立公文書
館課長 アフリカを中心とした途上国援助に積極的に貢
献した。
★情報をお寄せくださった皆様、ありがとうございました
DJI国際資料研究所の主な活動 2006 年 10 月 1 日∼12 月 31 日
<執筆>
学術エッセイ「アウシュビッツ:ポーランドの世界遺産」
「レコードマネジメント』No.52, 2006.12 pp.106-114
「電子文書化と文書管理システム」『会報第 77 号』2006.12,
pp.10-17、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会
<企画制作・執筆>
『本当は生きたい!山口衛の足跡』 非売品,A5 判 32 頁
<発表>
12 月 16 日 ICA 円卓会議参加報告 横断的アーカイ
ブズ論研究会、近畿大学会館、大阪
<出講>
10 月 6,13 日、11 月 2,16,30 日,12 月 7,14,21 日 人間
文化情報基礎論Ⅳ『アーカイブの世界』、東京大学大
学院情報学環+国立公文書館見学
10 月 16, 23,30 日, 11 月 7,12,14,28 日,12 月 5,12,19
日 文書館学、東京学芸大学+松本市文書館見学
<発表>
12 月 16 日 「第 39 回 ICA 円卓会議参加報告」、横断
的アーカイブズ論研究会,近畿大学会館、大阪
<参加>
10 月 1,30 日,12 月4日 NASA 日本電子アーカイビング研
究会(仮)、東京
10 月 5,25,30 日、11 月 6,30 日 12 月 11,21,25 日 日本
規格協会 TC46SC11 会議、赤坂他、東京
10 月 6 日,12 月 25 日 記録管理学会理事会、東京
10 月 7 日 山口衛の足跡出版打合 八雲クラブ、東京
10 月 12 日 異業種交流研究会、東京工業大学
10 月 20 日、11 月18 日、12 月 1 日 共同公文書館検
討委員会、福岡県庁、福岡
10 月 27 日 日米アーカイブセミナー打合せ,東京
11 月1日 国際機関アーカイブ調査報告会,国立情報
学研究所
11 月 3-4 日横断的アーカイブズ論研究会,静岡大学,浜松
11 月 8-9 日 全史料協全国大会、岡山市、岡山県
11 月15 日 立正佼成会「開祖生誕 100 年」生誕会式典
他、東京
12 月6日 JHK オープンセミナー 馬場章氏「デジタル
アーカイブについて」 日本教育会館、東京
12 月 9 日 資料保存セミナー+全史料協資料保存委
員会、長岡市立中央図書館、新潟県
12 月 16-17 日 横断的アーカイブズ論研究会,近大会館,
大阪
12 月 21 日 ねこ会議、学習院女子大学、東京
12 月 22 日 全史料協総務委員会,京都
<調査>
10 月 21 日 福岡県立図書館、福岡
<見学>
11 月 12 日 松本市文書館、長野県
キュラソー出張
11 月 20 日 蘭領アンチル国立公文書館外観
11 月 22 日 キュラソー国立博物館
11 月 29 日 立正佼成会佼成文書館,開祖記念館,東京
11 月 30 日 国立公文書館、東京
12 月 2 日 佐賀県中津博物館、佐賀
12 月 3 日 茅ヶ崎市民交響楽団定期演奏会、茅ヶ崎
文化会館、神奈川
<巻末随想・アーカイブ 2 年回顧と展望>
2004 年日経新聞の記事、「アーカイブズ零(ゼロ)
年」で、日本の記録や文書の保存が未整備であると
紹介された。これを踏まえ、2005 年は記録や文書の
保存の基盤を整える「アーカイブ元年」となると期待さ
れ、実際そのとおりになった。特に、国立公文書館の
館長菊池光興氏が、ICA 国際文書館評議会初の役
員選挙で、副会長に選出されたことは大きな意味を
持つ。日本は国際的に大きな一歩を踏みだ。この選
挙にあたり、全史料協も、国立公文書館からの依頼
に応じ菊池氏に一票を投じた。このように 05 年は「ア
ーカイブ元年」にふさわしい動きが多く見られた。
昨年=「アーカイブ 2 年」の年頭、筆者は①文書基
本法の実現、②市区町村のアーカイブ整備、③電子
記録の長期保存必要性主張、④日本のアーカイブ
活動の国際的発信の4つの目標を掲げた。①につい
ては、06 年 7 月、雑誌『ジュリスト』(7 月 15 日号)に
「公文書管理のための法整備」という特集が掲載され、
文書館の専門家や歴史家ではなく、法律の専門家
による検討成果がまとめられた。②市区町村のアー
カイブ整備、国立公文書館では 06 年も合併時の公
文書保存への注意喚起を行った。11 月、神奈川県
寒川町に文書館が開館した。福岡県では県と市町村
の共同公文書館構想がある。④国際的発信という点
では、国立公文書館が 5 月に ICA 国際文書館評議
会執行委員会を開催した。これに付随して開催され
た講演会は、全国公文書館館長会議の参加者が多
かった。10 月には ICA 教育研修部会の会合が日本
で開催された。
残されたのは④電子記録の長期保存、アーカイブ
3 年の課題である。官民学の動向を見守りたい。(ち)
Documenting Japan International Report 国際資料研究所報
DJIレポート
ISSN 1342−632X
http://www.geocities.jp/kjnbh220/
No.69
20070110
発行所:国際資料研究所 Documenting Japan International 代表 小川 千代子
〒251-0045 神奈川県藤沢市辻堂東海岸3−8−24 fax+ phone 0466−31−5061
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