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貴重な塩生植物を守ろう ~塩生植物の保護活動と地域の環境~(PDF
貴重な塩生植物を守ろう ∼塩生植物の保護活動と地域の環境∼ 佐賀県立伊万里農林高等学校森林工学科 3 年 前田 将史 岡本 竣 橋口 寛史 黒川 亮 脇山 雄気 奈良崎圭則 1.はじめに 皆さんは、「塩生植物」って知っていますか?塩生植物とは、塩分の多い水に耐える植物 のことです。塩生植物は、他の種が侵入できない塩沼池のような悪環境下でも生命活動を 維持し、次世代を残すために繁殖しています。しかし、生育環境が開発などで破壊される と、塩生植物は生き延びるための場所を見つけられずに、地球上から消滅してしまうと予 想されるような、環境変化に弱い植物のことです。 2.研究の動機 私たちの先輩は、地元の公民館の館長さんから、 「私たちの故郷伊万里に、絶滅危惧種に指定されて いるような貴重な塩生植物が生育しており、その 場所に、伊万里第四工業用水事業により、海域を 締め切って工業用水用の貯水施設を建設するという 事が決定した。」という話を伺い、その植物を守っ て いる塩生植物保存会の方々と一緒に、塩生植物が生 育できる環境を保全する活動を一緒に行なってもら えないかという相談を受けられました。 3.塩生植物とは 塩生植物と言えば、「シチメンソウ」は有明海沿岸で有名ですが、私たちの地元伊万里湾 にも、環境省や佐賀県の絶滅危惧種Ⅱ類種として「日本産植物のレッドデーターブック」 に載っている植物もあります。それが「シバナ」や「チャボイ」という塩生植物です。そ の他にも、ここには、「ハママツナ」や「ハマボウ」などが生育しています。 シバナはホロムイソウ科で塩性の湿地に生育する多年 草の植物です。地下茎は太くはり、ヒゲ根を出し、葉 は緑色の線形をなし6月から10月頃に黄味をおびた 白色の花をつけます。適度に淡水がまざり満潮時には 水没し、干潮時には干潟となるような場所で生育しま す。分布域は北海道から九州まで幅広く生育していま すが絶滅のおそれがあるそうです。 ハママツナ、日本では、四国、九州、琉球列島の塩湿 地にはえる1年草、全体に無毛、高さ20∼60cm、 枝は横に広がります。皮針形肉質で長さ1∼4cm、 幅1∼2mm無柄で、下葉は花時に枯れます。茎や葉 は緑色で秋に紅葉します。花は秋に咲き淡緑色で花弁 はありません。 チャボイ、沿岸地の湿地にマット状に群生する、極め て小型の多年草。軟弱な水草で、高さは3∼5cm程 度。本州、四国、九州に分布するが、その数は少なく、 多くの自生地が干拓や開発で無くなってしまう危険性 があります。目立たない植物なので、自生地の保護に は特に注意が必要な植物といえます。 4.取り組みについて ○平成19年度の取り組み ①塩生植物とはどういった植物か理解する。インターネットや現地に行って学習しました。 ②「ハママツナ」「シバナ」の移植活動実施。生育環境が似ている、町内の穴岩地区への移 植をしました。ここは、県内でも伊万里市だけに残っているチャボイの群生地でしたか ら、注意して移植しました。 ③「ハマボウ」の移植。この時、完成後の浄水場の 緑化木にするため、挿し木を実施し、108本学 校で育苗することにしました。「ハマボウ」の活着 率24.1%。その他の場所での育成は成功しな かったようでした。 ④市役所や塩生植物保存会の皆さんと区域内の甲殻 類や貝類その他のカブトガニやシオマネキなどの 貴重な生物を町内に移動しました。 ⑤移植地の葦刈り作業を2回実施しました。 ⑥移植先の穴岩での生育調査を実施しました。 7月の穴岩移植地の第2回モニタリングの結果、「ハママツナ」が海水に浸かりすぎて、 24個体から2個体へ大幅に確認できる個体が減少していました。 ⑦環境保全取り組み検討会へ参加して、現状と今後の方針を知ることができ、大いに参考 になりました。 ○ 平成20年度 ①移植地の葦刈り作業を2回実施しました。 ②「ハマボウ」の鉢替えをしました。一回り大きい鉢に客土を入れ、根を傷めないように 注意して植え替え大きい鉢へ移植する事により、成長が促されることを期待して実施し ました。 ③町内の他の生育地の視察をおこないました。(浦の崎・佐代川・波瀬地区) ④生育調査を実施しました。 ⑤環境保全改善検討会へ参加しました。 ⑥穴岩地区の環境改善作業に取り組みました。これ は、10月の検討会の結果、穴岩地区の環境改善 の必要性が議論され、11月に環境改善のため、 キショウブの除去を行い「ハママツナ」の再移植 を実施しました。「ハママツナ」が水浸しになら ないように、重機によりキショウブを根ごと除去 し、客土(砂利・砂礫土壌)を導入し再移植しまし た。 ○ 平成21年度 ①移植地の葦刈り作業を1回実施しました。 ②14本の「ハマボウ」を浄化センターへ定植しました。 ③町内の他の生育地(浦の崎・佐代川・波瀬地区)の視察。 などを、保存会の方々と行ってきました。 ④その結果を、11月に熊本の九州森林管理局で森林の流域管理システム推進大 会で発表したところ、最高の九州森林管理局長賞をいただきました。 その活動の結果、 ①元々生育していた小島貯木場は工業用水池となったが、移植先の穴岩地区は塩生植物が 生育できる環境であることがわかった。 ②「ハマボウ」は挿し木後の管理が難しく、24.1%しか活着しなかった。また、その 後の生育もあまりよくなかったが、浄水場に移植した後は生育が著しく良くなった。 ③移植の結果、「シバナ」は新個体が発生してきている。 ④「ハママツナ」は水浸しにならない状態の方が、生育がよいことが分かったが、移植し た場所が、雨天時大量に流水が流れ込み、「ハママツナ」が流されて、場所の検討が必要 でした。 ⑤穴岩地区は県内で唯一の「チャボイ」の生息地であることがわりました。 伊万里湾に流れ込む有田川や伊万里川流域は、 「水源涵養保安林」や「土砂崩壊防備保安林」 「保 健保安林」などがあり、スギ・ヒノキをはじめと する針葉樹やアラカシ・クスノキなどの常緑高 木、モチノキ・サザンカなどの常緑低木、クヌギ・ ケヤキなどの落葉高木などの様々な樹木が生育し ている豊かな森林が残されています。その結果、 伊万里湾は、生きた化石と言われる「カブトガニ」 が生育していたり、伊万里川・有田川の河口には ハマグリが生育していたりしているのだと思いま す。 また、今後の課題として、 ①穴岩地区を「塩生植物の里」にするため、看 板を設置し、「塩生植物生育地」の周知活動を 実施する。 ②塩生植物保存会の活動サポートを実施する。 ③穴岩地区を地域の子ども達の環境教育の場とし て活かしてもらいたいことから、その方法を模 索したい。 ④広報活動による「塩生植物保護活動」協力者の 拡大を図り、市民活動として広げたい。 ⑤昨年失敗した、ハママツナの播種やバイオ技術 を使い、増殖技術の確立を図りたい。 など、まだまだ私たちの活動は始まったばかりで、今後も「塩生植物保存会」 の皆さんと協力して、この塩生植物保護の活動を継続したいと思っています。 終わり