高耐食性金属箔被覆による鉄筋コンクリート構造物の耐久性向上

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高耐食性金属箔被覆による鉄筋コンクリート構造物の耐久性向上
高耐食性金属箔被覆による鉄筋コンクリート構造物の耐久性向上に関する研究
沿岸地域における屋外ばくろ試験 12 年の結果
板谷 俊郎 *1
白山 和久 *2
概 要
鉄筋コンクリート(以下、RC)構造物の耐久性が疑問視され出して久しい。また最近では、主として海砂の使用によ
るコンクリートの剥落事故が相次いでいる。これらは高度成長をはじめとした時代背景によるところが大きい。一方、環
境問題からRC構造物の長寿命化が要求されるようになってきている。
そこで著者らは、RC構造物の劣化原因のひとつである外部からの有害物質の侵入を防ぐために、高耐食性を有する金
属箔等により構造物を被覆することによって、RC構造物の耐久性を向上させようと試みてきた。
本報は、その研究の一環として行った屋外ばくろ試験 12 年の結果について述べるものである。
実験の結果、沿岸地域においては耐食性のある金属をRC部材に被覆することによって、飛来する塩化物の侵入を防ぐ
ことが可能であることが分かった。しかしながら、温泉地帯等のさらに苛酷な環境において本工法を適用する場合には、
より高度な耐食性能が被覆金属として要求される。したがって、本工法は適用対象物の存在する環境に応じて、被覆金属
の耐食性のグレードを選定する必要がある。
STUDY ON METAL COVERING FOR IMPROVING DURABILITY OF
REINFORCED CONCRETE STRUCTURE
Results of outdoor exposure test in near seashores for 12 years
Toshiro ITATANI*1
Kazuhisa SHIRAYAMA*2
Some years have passed since the deterioration of reinforced concrete - RC, for short - structure was found in Japan, mainly owing
to the use of sand containing salt. On the other hand, elongating life of concrete structure has been required on account of the effect
on the environment.
Therefore, the authors have been attempting to improve the durability of RC structure by means of covering RC structure with noncorrosive metal, in order to prevent harmful matters such as chloride ion from intruding.
This paper describes the results of outdoor exposure test in the sites near seashore for 12 years, which had been executed in the
series of the study.
From the results of those, it was clarified that covering RC members with non-corrosive metal was able to prevent harmful matters
such as chloride ion from intruding into concrete, particularly, in case of applying this method to the structure located in the region
near seashore. However, more durable metal will be needed in order to apply the method to the structure in severer environment such
as hot spring regions. Consequently, in case that the metal covering method is applied, the metal for covering should be selected
according to the environment where the method is used.
*1 技術研究所 *2 筑波大学名誉教授
*1 Technical Research Institute *2 Prof. Emeritus, University of Tsukuba
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高耐食性金属箔被覆による鉄筋コンクリート構造物の耐久性向上に関する研究
沿岸地域における屋外ばくろ試験12年の結果
板谷 俊郎 *1
白山 和久 *2
1. はじめに
10 数年前に、海砂の使用ならびに海塩粒子の浸透等に
よる鉄筋の腐食、アルカリ骨材反応による膨張ひび割れ
等によって、鉄筋コンクリート(以下、RC)構造物が
著しい劣化を受けている例が取り上げられた。そして最
近、トンネル内におけるコンクリートの剥落事故が数件
報じられるなど、コンクリート構造物(ならびに鉄筋コ
ンクリート構造物)の耐久性が問題視されてきている。
Step 1
Step 2
一方、環境への影響負荷を押さえるという観点から、
長寿命、高耐久のコンクリート構造物(主として、住宅)
Step 3
特に構造物外部からの有害物質の侵入による劣化を対象
とした。そこで、著者らは高い気密性を有する「金属」を
Step 4
が国の施策をはじめとして取り上げられてきている。
本研究では、RC構造物のいくつかの劣化要因のうち、
遮蔽材として用いることによって、有害物質の侵入を抑
制し、RC構造物の耐久性を向上させようと試みた。
本研究の流れは、図 -1 に示すとおりである。Step 1 に
おいて、被覆材料として用いる金属を数種類選定し、Step
Step 5
2 において、使用環境として想定されるアルカリおよび
Cl-イオンに対する耐食性を調べた。Step 3 においては、金
属材料をコンクリート表面に取り付ける方法として、金
属材料のコンクリートに接する面に各種の細工を施すこ
とを考案し1)、それらの付着強度をStep 4 にて確認した。
次に、Step 3 にて取り上げた工法のうちのひとつを用い
て試験体を作製し、沿岸地域および温泉地帯において屋
外ばくろ試験を行って、金属被覆の性能を評価した。さ
らに Step 6 において、実際の建物の一部に金属材料を取
付けて、耐候性ならびに耐久性を観察している。
本報告では、これら一連の実験・研究のうち、沿岸地
域における屋外ばくろ試験 12 年の結果について述べる。
なお、本研究は筑波大学との共同研究として昭和 59 年
度から 62 年度まで行われたものであり、今回報告する実
験結果はその共同研究の一部として継続していたもので
ある。
*1 技術研究所 *2 筑波大学名誉教授
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Step 6
図 -1 研究の流れ
表 -1 使用金属
2. 屋外ばくろ試験
表 -2 ばくろ試験の実施場所
2.1 実験計画
今回の実験において被覆材料として用いた金属は、表1に示すとおりである。金属被覆材料は、加工およびコス
トの面からできるだけ薄い形状であることが望ましく、
ここに取り上げた材料はいずれもおおよそ 125 μ m 以下
であり、「箔」と呼ばれるものに属する。
本研究においては耐久性(あるいは耐食性)を目的に
しているため、高度な耐食性を有する材料として、ニッ
ケル系のアモルファス金属(あるいは、合金)を、常用
程度の耐食性材料として SUS304 のステンレスおよび亜
鉛メッキ鉄箔アクリル積層(以下、鉄箔アクリル)を用
いている。
ばくろ試験地としては、寒冷地から温暖地までの環境
表 -3 供試体種類の組合せ
を考え、表 -2 のとおりとした。供試体の設置場所は、比
較のために組み入れたつくばを除いて、いずれも海岸か
ら 400 m 以内の距離に位置する。
また、試験体は表 -3 に示すように、金属被覆を施した
もののほかに、比較のために被覆のないものを含めた。
2.2 試験体
試験体の形状を図 -2 に、また、使用したコンクリート
の調合を表 -4 に示す。コンクリートはごく一般に使用さ
れている程度のものを想定した。コンクリート試験体の
内部にはφ 9mm のみがき鉄筋を、かぶり厚さが 1、2、3、
表 -4 使用したコンクリート
5cm および 9.5cm(試験体の中心)となるように計 17 本
配置した。この鉄筋は高さ方向にも同様のかぶり厚さと
なるように、鉄筋下部のかぶり厚に相当する部分にあら
かじめエポキシ樹脂を塗布して防錆処理した。
表面の被覆については、エポキシ樹脂系接着剤を用い、
芳香族ポリアミドの不織布を張り付けた上に、同じ接着
剤を用いて 10 × 20cm の金属箔を各面に2枚ずつ張り付
けた。金属箔の突き合わせ部には、巾 1cm の同一材料を
接着剤により張ってシールした。これにより、金属箔ど
うしの継ぎ目部分の影響についても調べた。
供試体は、材齢2カ月からばくろを開始した。
測定は、所定の材齢になった時点で供試体を回収した
後、表 -5 に示す項目について行った。ここに、鉄筋腐食
量については、鉄筋表面の錆の状況を紙に写し取り、プ
ラニメータによって求めた面積を鉄筋の側面積で除して
百分率で表した「腐食面積率」によった。
2.3 結果および考察
(1) 外 観
供試体の外観の状況について、12 年間ばくろしたもの
と、ばくろ開始前のものとを併せて図 -3 に示す。
被覆をしていない供試体(以下、被覆なし供試体)に
関しては、直江津における劣化が著しく、2.5 年経過時に
表面のセメントペースト分の消失が見られ、12 年経過時
において同様の表面劣化が特に顕著になった。他の地域
においては、表面の劣化はわずかであった。
図 -2 試験体の形状
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鉄箔アクリルを被覆した供試体(以下、鉄箔アクリル
被覆供試体)に関しては、1年経過時において金属端部の
表 -5 測定項目
はがれおよび小口の錆が見られており、12 年経過時にお
いてそれ以上の変化はほとんど見られなかった。
ステンレスを被覆した供試体(以下、ステンレス被覆
供試体)に関しては、1年経過時に端部の浮きおよびはが
れが各地において見られた。2.5年経過時には表面に点錆
(糸満)ならびに下面に赤錆(直江津)がそれぞれ見られ
た。12 年経過時においてはそれ以上の劣化の進行はほと
んど見られなかった。
アモルファス金属を被覆した供試体(以下、アモル
ファス被覆供試体)に関しては、1年経過時において端部
の浮き、はがれおよび破れが各地において見られたが、
12 年経過時においてそれらの不具合の進行は見られな
かった。また、箔表面の腐食はほとんど見られなかった。
箔は、端部がはがれると風によってめくれやすくなる
可能性がある。そのときに働く力はピーリングとなるの
で小さな力によってはがれが生じやすくなる。したがっ
て、金属箔と下地との間にはより大きな付着力が必要と
なるとともに、端部は特に十分な処理をしておく必要が
試験前 試験後
被覆なし供試体 〔直江津〕
ある。また、下地の接着剤層に気泡が存在していると、表
面が熱せられたときにその気泡が膨張して金属箔の剥離
(浮き)を生じさせることとなりうる。このことは、金属
被覆になんらかの隙間が生じて水分が接着剤の空隙部分
に入り込んだ際により影響が大きく、より大きな膨張圧
となって働くことになる。したがって、金属箔の接合部
の処理が重要になるとともに、接着剤の塗布の際に空気
を巻き込まないように注意して施工する必要がある。
(2) コンクリートの中性化
試験前 試験後
アモルファス被覆供試体 〔糸満〕
ばくろ試験の期間とコンクリートの中性化深さとの関
係を、図 -4 に示す。
被覆なし供試体の中性化深さは地域によって多少の差
があるが、12 年経過時において 9 ∼ 13 mm であった。
一方、被覆をした供試体の中性化深さは金属の種類に
よらず約1mm 以下であり、ほとんど中性化していなかっ
た。
これは、被覆用の金属と、金属とコンクリートとの間
に設けた不織布および接着剤の下地層、の双方による効
果であると考えられる。すなわち、金属層に破れが生じ
たとしても、その下層にあたる不織布と接着剤の層が外
試験前 試験後
ステンレス被覆供試体 〔糸満〕
部からの有害物質の侵入を抑制する。ここで、表層に金
属が存在しない場合を考えると、不織布および接着剤の
層に直接紫外線が当たることになり、被覆材自身の耐久
性が望めない。したがって、本工法のように金属層と不
織布等および接着剤からなる複層構造が必要になる。
(3) コンクリート中の塩化物量
ばくろ試験の期間とコンクリート中の塩化物量との関
係を、図 -5 に示す。ここに、X軸に平行な破線は、細骨
試験前 試験後
材に対する塩化物量(NaCl 換算)が 0.04 %のライン(以
下、鉄筋腐食ライン)であり、いわゆる鉄筋が発錆する
鉄箔アクリル被覆供試体 〔糸満〕
といわれる危険ラインである。ここではその数値をコン
クリートに対する百分率に換算し直して示している。
図 -3 供試体の外観状況 (「試験後」は 12 年経過時)
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被覆なし供試体は、4年経過時において最大0.018 %の
塩化物量を示し、12 年経過時においては最大 0.049 %と
なり、各地の供試体とも鉄筋腐食ラインを超えた塩化物
量を示している。
一方、被覆をした供試体は、12 年経過時においてもほ
とんどが 0.008 %以下の塩化物量を示し、4 年経過時と大
きな変化が見られない。すなわち、塩化物の浸透がほと
んど進行していなかったといえる。
図 -5 の横軸を、コンクリート表面からの深さで表した
ものが図 -6 である。
被覆なし供試体に関しては、糸満において供試体の表
層から中心部までが鉄筋腐食ラインを超える塩化物量を
示しており、その他の地域においても 6 ∼ 7 cm の範囲の
深さまで鉄筋腐食ラインを超える塩化物量を示している。
図 -4 ばくろ期間と中性化深さとの関係
すなわち、塩化物が深層部まで浸透していることが分か
る。
図 -6 において、被覆をした供試体のうち、0 ∼ 1cm の
範囲で鉄筋腐食ラインを超える塩化物量を示したものが
ある。これは、金属箔の継ぎ目の位置から垂直に内部に
入ったところに当たり、金属の継ぎ目部が開いており、
かつ下層の接着剤等に空隙等の欠陥が存在していたため
に、塩化物が浸透したのではないかと推察される。
(4) 鉄筋の腐食
内部鉄筋の腐食状況を図 -7 に示す。
被覆なし供試体に関しては 12 年経過時において、かぶ
り厚さ 5cm の鉄筋まで錆が生じていた。また、かぶり厚
図 -5 ばくろ期間と塩化物量との関係
さ 1cm の鉄筋はほぼ全表面にわたって浮き錆が生じてい
た(グレードⅢ2))。
一方、被覆をした供試体に関しては、12 年経過時にお
いて直江津の供試体に若干の錆が発生した(グレードⅡ)
ことを除いて、錆は見られなかった。
つぎに、ばくろ試験の期間と鉄筋腐食面積率との関係
を、図 -8 に示す。
被覆なし供試体の鉄筋腐食面積率は、4年経過時におい
て最大 50.9 %であったものが、12 年経過時においては最
大 77.3 %を示し、腐食が進行していた。
また、被覆なし供試体について、コンクリート表面か
らの深さと鉄筋腐食面積率との関係を表したものが、図9である。コンクリート表面からの深さと鉄筋腐食面積率
との間には多次元曲線的な関係が見られる。
図 -6 コンクリート表面からの深さと塩化物量との関係
4年経過時においてかぶり厚さ2cmの鉄筋まで錆が生
じていたが、12年経過時においてはかぶり厚さ5cmの鉄
筋まで錆が生じており、鉄筋の腐食がより内部へと進ん
でいることが分かる。
さらに、被覆なし供試体について、塩化物量と鉄筋腐
食面積率との関係を表したものが、図 -10 である。
塩化物量と鉄筋腐食面積率との間には比例関係は見ら
れないが、地域ごと(あるいは、同一供試体ごと)にあ
る種の傾向が見られ、もっとも表層の鉄筋を除いて、塩
化物量の増加にともない腐食面積率が大きくなっている。
もっとも表層に近い部分(同一供試体の最上の点)にお
いては、供試体が雨によって洗われる等の影響により、
コンクリート中の塩化物量はそれより内部の値よりも下
エポキシ
被膜
1cm 2cm 3cm 5cm
被覆なし
1cm 2cm 3cm 5cm
1cm 2cm 3cm 5cm
アモルファス被覆 ステンレス被覆
図 -7 鉄筋の腐食状況 〔糸満〕
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がっているが、いずれも鉄筋腐食ラインを超えた塩化物
量を示している。
供試体の深層部においては、鉄筋腐食ラインを超えた
塩化物量を示しているにもかかわらず、腐食は生じてい
ない。以上のことから、鉄筋が発錆するためには、塩化
物量のほかに、酸素の供給、温度等いくつかの条件が相
互に関係してくるものと推察される。
3.まとめ
以上、金属被覆した鉄筋コンクリート供試体を沿岸地
域においてばくろすることにより、金属被覆の耐久性向
上に対する効果を調べた。実験の結果、耐食性のある金
属をRC部材に被覆することによって、塩化物等の有害
物質の侵入を防ぐことが可能であることが分かった。特
図 -8 ばくろ期間と腐食面積率との関係
に、沿岸地域において本工法を適用する場合には、ある
程度の耐食性を有する金属を被覆材として用いることで
十分な効果が得られる。
しかしながら、既報3)∼5) のように温泉地帯にて本工
法を適用する場合には、本報で使用した金属の耐食性で
は不十分であり、さらに高度な耐食性能が要求される。
したがって、本工法は適用対象物の存在する環境に応じ
て、被覆金属の耐食性のグレードを選定する必要がある。
また、金属被覆の施工に当たっては、金属どうしの接
合部が特に重要になり、金属材料の張り付けに用いる接
着剤の選定および使用方法に十分な注意が必要であると
考えられる。
最後に、本実験の実施にあたり、試験体のばくろ場所
をご提供いただきました各施設の方々、ならびに分析に
ご協力いただきました(株)宇部三菱セメント研究所大
宮センターの方々に対し、深く謝意を表します。
図 -9 コンクリート表面からの深さと腐食面積率
との関係 〔被覆なし供試体〕
【参考文献】
1) 板谷俊郎 , 平賀友晃 , 矢野瑞穂 , 白山和久:高耐食性
金属箔による鉄筋コンクリート部材の被覆方法に関
する研究 , 日本コンクリート工学協会コンクリート
工学年次論文報告集 , 1987.7.
2) 日本建築学会:鉄筋コンクリート造建築物の耐久性
調査・診断および補修指針(案)・同解説 , 1997.1
における「鉄筋腐食度評価基準」による.
3) 板谷俊郎 , 平賀友晃 , 白山和久:温泉水に浸漬した
高耐食性金属箔被覆コンクリート供試体の耐久性向
上に関する研究 , 日本コンクリート工学協会コンク
リート工学年次論文報告集 , 1988.6.
4) 板谷俊郎 , 平賀友晃 , 白山和久:高耐食性金属箔被覆
による鉄筋コンクリート構造物の耐久性向上 , 日本
建築学会大会学術講演梗概集 , 1993.9, pp.59-60.
5) 板谷俊郎 , 平賀友晃:高耐食性金属箔被覆による鉄
筋コンクリート構造物の耐久性向上に関する研究 ,
戸田建設技術研究報告第 20 号 , 1994.3, pp.45-56.
図 -10 塩化物量と腐食面積率との関係
〔被覆なし供試体〕
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