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第 2 章 我が国規制評価の現状と欧米との比較

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第 2 章 我が国規制評価の現状と欧米との比較
第2章
1.
我が国規制評価の現状と欧米との比較
我が国規制評価分析の現状
① 政策評価法に基づく規制評価分析の実施
(1)
導入の経緯
規制は社会秩序の維持、国民の生命・財産の安全確保、環境保全、消費者保護等
といった行政目的を達成するプラスの側面がある一方、国民の権利・活動を制限し
義務を課することにより、国民に制約を課したり、負担を生じさせたりする側面が
ある。
規制評価分析(規制影響分析:RIA: Regulatory Impact Assessment)は、
「規制の導入や
修正に際し、実施に当って想定されるコストや便益といった影響を客観的に分析し、
公表することにより、規制制定過程における客観性と透明性の向上を目指す手法」
1
であり、平成 13 年制定の「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(政策評価法)
で事前評価が義務付けられている当初の 3 分野(研究開発、公共事業、政府開発援
助)には位置付けられておらず、政策評価導入時からは実施が開始されなかった経
緯がある。しかしながら、米国や英国等において RIA は、既に 80 年代には取り組
みが開始されており、我が国で政策評価法を導入した平成 13 年(2001 年)時点では、
OECD のほとんどの加盟国で実施されている状況にあった。
このため、平成 16 年の規制改革・民間開放 3 カ年計画(平成 16 年 3 月 19 日閣議
決定)においても、
「RIA の手法は、規制導入時における客観性や透明性を高めるだ
けでなく」、
「既存規制をチェックするツールとしても有効であることから、すべて
の規制の新設・改正時に用いられるべき」と導入の推進が明記された。各府省は、
平成 16 年 10 月より、「規制影響分析(RIA)の試行的実施に関する実施要領」(平成
16 年 8 月 13 日内閣府規制改革・民間開放推進室)に基づき規制評価分析を試行開始
したが2、
「行政改革の重要方針」(平成 17 年 12 月 24 日閣議決定)及び「規制改革推
進 3 カ年計画(再改定)」(平成 18 年 3 月 31 日閣議決定)において、平成 18 年度中に
「評価法の枠組みの下で、規制について事前評価を義務付けるために必要な措置を
講ずる」こととされたことから、平成 19 年 3 月、
「行政機関が行う政策の評価に関
する法律施行令」の一部改正等を受け、平成 19 年 10 月からの規制の事前評価の義
務付けに至ったものである。
具体的には、当該改正において、法律又は法律の委任に基づく政令の制定又は改
1
規制改革・民間開放推進 3 カ年計画(平成 16 年 3 月 19 日閣議決定)による。
RIA の試行的実施についても各府省において平成 19 年 9 月末まで実施。なお、平成 19 年 10
月 26 日の総務省公表資料「RIA の対象とした法令別の試行実施状況」によれば、3 年間の合計
で 247 件の実施があった旨報告されている。
2
5
廃により、規制3を新設し、若しくは廃止し、又は規制の内容の変更をする際には、
事前評価を行うことが義務付けされた。
(2) 各府省の運用状況
各府省においては、上記改正施行令、及びこれを踏まえて改正された「政策評
価に関する基本方針」(平成 17 年 12 月閣議決定)、「規制の事前評価に関するガイ
ドライン」(平成 19 年 8 月 24 日政策評価各府省連絡会議了承)に基づき規制の事前
評価に取り組みを開始したが、平成 19 年 10 月 1 日から平成 21 年 12 月 31 日まで
に実施され、各府省のホームページ上で確認できた評価書は 12 機関、245 件(評価
書ベース)となっている4。平成 19 年は 2 ヵ月分であるため、取り組み数自体は少
ないものの、平成 20 年には 120 件を超え、平成 21 年は 90 件台となっている。平
成 21 年の減少は、政権交代を巡る動きを受け、法律改正等を通じた規制の新設・
改廃の動き自体が少なかったことが背景にあると考えられる。
140
125
120
91
100
80
60
40
29
20
0
平成19年
平成20年
平成21年
府省別にみると、金融庁の 53 件をトップに以下、厚生労働省の 47 件5、経済産
業省の 33 件6、環境省の 25 件、総務省 22 件7と続いている8。また、月別の評価書
3
国民の権利を制限し、又はこれに義務を課する作用(租税、裁判手続、補助金の交付の申請手
続その他総務省令で定めるものに係る作用を除く。)をいう。
4 本報告書では、総務省行政評価局において実施している「規制の事前評価の点検結果」とは評
価書の件数の数え方が異なっている。
5
厚生労働省の局別の内訳では、医薬食品局 15 件、社会・援護局 10 件、職業安定局 7 件、労働
基準局 6 件、雇用均等・児童家庭局 4 件、医政局 2 件、健康局 2 件、老健局 1 件となっている。
6
経済産業省の局別の内訳では、商務流通グループ 12 件、資源エネルギー庁 7 件、貿易経済協
力局 5 件、製造産業局 4 件、商務情報政策局 3 件、原子力安全・保安院及び産業技術環境局各 1
件となっている。
7
総務省の局別の内訳では、消防庁 12 件、総合通信基盤局 6 件、情報通信政策局 3 件、情報流
通行政局 1 件となっている。
8
ただし、警察庁や金融庁などでは、個々の規制項目に関して独立した評価書を作成しているの
6
数でみると、通常国会が開催され、各種法案審議が活発化する前段階であること
を受け、法律改正レベルの評価書が増加する結果、2、3 月の時期に件数が最も多
くなっている9。また、法案の審議が終了し、政令の整備が本格化する 10 月には、
上の時期に次いで公表件数が多い状況となっている(10 月の件数の約半数は政令
レベルの評価書となっている)。
2
4
25
内閣府
公正取引委員会
20
警察庁
18
金融庁
総務省
53
33
法務省
文部科学省
11
厚生労働省
22
農林水産省
9
47
経済産業省
1
国土交通省
60
51
50
49
45
40
30
20
10
16
16
8
7
7
11
14
16
5
0
1月 2月 3月 4月
5月 6月 7月 8月
9月 10月 11月 12月
に対し、国土交通省などでは、ひとつの法律改正で複数の規制項目が含まれていた場合でもまと
めて一つの評価書で処理をしているため、量的なスケールを見る場合には留意が必要ある。この
ため、一概に件数の水準が当該府省の規制評価分析への取り組み姿勢を表すものではなく、更に
は、調査対象となっている 3 年間においては、法律改正などの規制新設・改廃がたまたま多く生
じなかった、ということもあり得る。
9
規制の新設又は改廃が法律による場合には、評価書等の公表は遅くとも閣議決定まで、政令以
下の下位法令による場合には、遅くとも行政手続法に基づく意見公募手続まで(意見公募手続の
適用除外のものについては閣議決定又は制定まで)に公表することとされている。
7
② 実施状況の分析
取り組みが開始されて 2 年強を経、規制評価の取り組みは評価書が 200 件を超え
るなど量的規模の面では相当な蓄積が進んでいる。そこで、次に評価書の「質」的
な側面に焦点を当て、その内容につき検証を行ってみる。ここでは全体的な傾向を
見るため、各府省が評価に取り組む際の指針となっている「規制の事前評価に関す
るガイドライン」(平成 19 年 8 月 24 日 政策評価各府省連絡会議了承)に示された
項目にほぼ沿う形で見ていくこととする(以下、具体的数字等については、P36 以降
の集計表を参照ありたい)。
「規制の事前評価に関するガイドライン」(平成 19 年 8 月 24 日 政策評価各府省
連絡会議了承)に盛り込まれた主な分析、評価等の内容
〇評価の単位(ユニット)
〇規制の目的、内容及び必要性
〇費用及び便益の分析
・分析対象期間
・費用要素の区分(遵守費用、行政費用、その他社会的費用)
遵守費用
規制を受ける国民や事業者が規制を遵守するために負担する費用、行政への申請費用
(書類作成や提出等)、国民や事業者内部における費用(設備の導入や維持等)などが含ま
れる。
行政費用
規制主体において発生する費用で、当該規制の導入に要する費用(制度化のための研究
や必要な施設、設備等)や規制導入後に要する費用(検査、モニタリング、増員等)が含ま
れる。
その他社会的費用
広く社会経済全体や環境等に対する負の影響。規制の新設又は改廃が競争状況に影響
を及ぼすことが明らかな場合には、その影響を考慮する。
〇費用と便益の関係の分析(費用便益分析、費用効果分析、費用分析)
〇代替案との比較
〇レビューを行う時期又は条件
〇不確実性等への対応
(1) 法令のレベル
法令のレベルに関する特徴点としては、以下の点が挙げられる。
8
・
3 年間の評価書の約半分強(53.5%)が法律レベル、3 割強(36.3%)が政令レベ
ル、1 割強(10.2%)が省令レベルとなっている。なお、省令レベルの評価書
は、現行の政策評価法施行令では評価の義務付けの対象とはされていない
ので自発的な取り組みと解される。
・
時期別では、平成 19 年は政令レベルの比重が件数的に高いのに対し、平成
20 年及び平成 21 年は法律レベルの評価書の比重が高くなっている。
・
府省別では、金融庁及び総務省で省令レベルのものが比較的多い。
上記の特徴から以下のような点が推察される。
・ 法律レベルの評価書が約半分強を占めるのは、権利の制限や義務を具体的
に課する規定は法律レベルの段階で当然に整備されることから、評価書作
成の中心になることが多いためと推察される(ただし、政令レベルでより具
体的な規制の在り様が整備される場合もあり、この段階で評価書を作成・
公表すべきとの判断がなされる場合も当然あり得る)。
・
平成 19 年において法律レベルの評価書作成の件数が少ないのは、先に見た
ように通常国会前の最も法案閣議決定が活発な 2、3 月を含んでいないため
と思われる。
・ 府省別で金融庁、総務省において省令レベルで多いのは、金融庁では内閣
府令において企業会計関係の具体的規程が整備されたり、情報通信分野に
おいて総務省令で具体的に規制の中身を規定する整備がされたりすること
が多いためと推察される。
(2) 規制の目的、内容、必要性の説明
全ての評価書において目的、内容、必要性に関しては明記されている。
(3) 規制の新設又は改廃の区分
上記区分に関しての特徴点としては、以下が指摘できる。
・
「規制の新設等」が 7 割超(74.3%)でほとんどを占める。規制の改正と規制緩
和が組み合わさったもの(「規制の新設等・規制の緩和」)は 2~3 割の水準
(24.1%)である。純粋の規制緩和・廃止というのはほとんどない。
・
上記類型に関しては、府省別に見ると、バラつきがある。例えば、金融庁は
規制の新設等は 5 割を切っており、規制の新設等・規制の緩和、すなわち規
制の改正と規制緩和との組み合わせが 5 割を超えている(件数の絶対数を見
ても、27 件と他府省と比較して圧倒的に件数が多い)。次いで、規制の新設
等・規制緩和の比率の面で比較的高いのは、文部科学省、総務省となってい
9
るが、件数的にみると、総務省、厚生労働省、経済産業省がともに 8 件の水
準となっており量的には多い。
・
他方、規制の廃止に関しては、公正取引委員会と国土交通省がともに 1 件ず
つ存在する。
この特徴点からは以下が推察される。
・
規制については、当該期間においては強化の方向で整備されることが比較的
多く、緩和に関しても新たな緩和水準の規定を整備する必要があるため、こ
のような状況になっているものと考えられる。
・
ただし、金融分野においては金融のグローバル化が進む中、国際競争の観点
から規制緩和が我が国でも進んできているため、特に上記のような動向が見
られると考えられる。
・
また、総務省関係では、情報通信、消防の分野で規制緩和の動きが見られる
とともに、厚生労働省関係の医薬・雇用分野、経済産業省関係の輸出規制、
消費者分野で緩和の動きが多少見られる。
(4) 分析の対象期間の設定
特徴点としては、以下の通りである。
・
ほとんどの評価書では明記されていない。すなわち、評価書においては、当
該規制の新設・改廃に伴い発生する費用・便益について、各々が発生する期
間を例えば年次的に区切って想定し、時間的なスパンを明確にした上で、現
在価値化して集約化するなどの作業は実施されていないのが実状である。
・
なお、金銭価値化等を行っている場合には、少なくとも「年単位」などの時
間的スパンは想定されている。
・
上記の整理でいけば、実際に対象期間が明示されているのは経済産業省のみ。
ただし、時系列的には年々時間的スパンが明記される度合が低下してきてい
る(評価書全体で 7 件、平成 21 年はゼロ件)。
(5) 費用
費用に関しては、全ての評価書で何らかの形で記述されている。遵守費用、行政
費用、その他の社会費用の別で特徴点を見ると以下のとおり。
ア
遵守費用
・
ほとんどの評価書が定性的記述にとどまっている。金銭価値化を行っている
のは約 1 割(11.8%)に止まる。なお、遵守費用に関して金銭価値化以外の定量
10
化10を行っている評価書はない。
遵守費用
29
0
金銭価値化
定量化
定性的記述
216
・
年次別では金銭価値化がなされているのは平成 19 年に集中している(13 件)。
それ以降は 10 件未満で推移している。
・
府省別で金銭価値化に比較的力を入れているのは、経済産業省(11 件)、総務省
(8 件)、環境省(3 件)、厚生労働省(3 件)となっている。そのうち、経済産業省
では消費者分野で、総務省では消防分野で金銭価値化の取り組みがなされて
いる。また、環境省は自然環境分野(温泉関係)、厚生労働省では労働安全分野、
で金銭価値化の取り組みがそれぞれ見られる。
・ 遵守費用は「特に負担なし」、と整理しているものも 2 割弱存在している
(17.1%)。一番多いのは厚生労働省の 12 件となっており、典型的には新規承認
医薬品の広告制限対象への追加である(新規承認医薬品に関しては、事業者側
において特に対消費者の大規模広告を実施するインセンティブがもともとな
いため負担は生じないと解されている)。
イ
行政費用
・ 行政費用に関して金銭価値化しているのは、2.4%にとどまっている(全体で 6 件)。
ほとんどが定性的記述である。
10
ここでの「定量化」は、金銭価値以外の何らかの形で費用の数値化を図っているものを指す。
11
2 1
行政費用
6
金銭価値化
定量化
定性的記述
記述なし
236
・ 府省別では経済産業省(4 件)、総務省(1 件)、厚生労働省(1 件)が実施しているの
みとなっている。
・ なお、行政費用の金銭価値化が少ないのは、行政の事務手続に関して金銭価値
化することがもともと困難である、と見られるためと推察される。
・ 行政費用「負担なし」と捉えているのは 3 割程度(32.7%)。件数的には、厚生労
働省の 17 件が一番多い。
・ 金銭価値化に最も取り組んでいる経済産業省では、主として消費者分野が取り
上げられている。他方、総務省で取り上げられているのは消防分野、厚生労働
省では労働安全分野となっている。
ウ
・
その他社会的費用
金銭価値化している例はない。全て定性的記述なものに止まっている(社会的費
用に関してそもそも記述が見られないものもある)。
・
その他社会費用に関して「負担なし」としているのは 7 割程度(72.2%)となって
いる。
その他の社会
的費用
00
18
金銭価値化
定量化
定性的記述
記述なし
227
12
(6) 便益
・ 全ての評価書において何らかの形で言及・記述されている。
・ 金銭価値化しているのは全体のうちの 2.0%にとどまる。ほとんどが定性的記述
にとどまっている(94.7%)。
・ 平成 21 年については、便益は 1 件も金銭価値化されていない。金銭価値化に取
り組んでいるのは経済産業省(4 件)及び農林水産省(1 件)の 2 省のみである。
・ また、金銭価値化以外の定量化は数件(8 件)取り組まれている。ただし、実施主
体は経済産業省のみとなっている。
・ 金銭価値化に取り組んでいる例としては、経済産業省では主として消費者分野。
農林水産省では輸入原料分野となっている。また、定量化に関しても経済産業省
においては、消費者分野となっている。
便益
58
金銭価値化
定量化
定性的記述
232
(7) 分析手法
・ 定量化・金銭価値化がなされていないため、ほとんどが費用便益分析、費用効果
分析まで至っていない。全体としては、費用便益分析 2 件、費用効果分析 6 件と
なっている。その他の「費用分析等」については、ほとんどが定性的な記述がな
されているだけに止まっている。
13
237
250
200
150
100
50
0
2
6
費用便益分析
費用効果分析
費用分析等
・ なお、費用便益分析が実際になされているのは平成 20 年評価書のみであり、費用
効果分析は取り組み開始の平成 19 年に集中している。
・ 費用便益分析、費用効果分析を実施しているのは経済産業省のみである。分野的
には、費用便益分析では消費者分野及びエネルギー分野が対象となっている。費
用効果分析でもやはり消費者分野が対象となっている。
・ 遵守費用等各費用項目、便益に関して、各々個々に金銭価値化や定量化に取り組
んでいる例は散見されるものの、全体として費用便益、費用効果の形で一体的に
定量化に取り組んでいるものは極めて少ない。
(8)
代替案
・ 8 割(78.8%)の評価書は代替案を提示して分析している。経年的にも年々その比重
は増加してきている。また、代替案を「想定していない」としているのが 1 割弱
(9.0%)で、年々その比率は低下してきている。
・ 他方、代替案の記述がそもそもないものも 1 割強(12.7%)存在する。これは 3 年間
でほぼ同じような割合で推移している。
・ 金融庁、文部科学省、国土交通省は全ての評価書において代替案を想定している(法
務省も全ての評価書が代替案を想定しているが、省のトータルとして評価書は 1
件しかない)。他方、公正取引委員会及び総務省は代替案を提示している比率は低
い。
・ 代替案が「想定されない」、としている比率が高いのは、農林水産省、公正取引委
員会、経済産業省、警察庁となっている。
・ 代替案についてそもそも記述がない評価書の比重が高いのは、総務省、公正取引
委員会、内閣府となっている(ただし、内閣府は府としてのトータルで 2 件評価を
実施したのみ)。
14
・ 規制緩和の場合の代替案に関しては、当該規制の「廃止」を代替案と想定して分
析をしているのは 2.4%にとどまっている(府省としては、公正取引委員会、文部科
学省の比重が高い)。
・ 他方、廃止以外の代替案を提示しているは約 2 割弱(18.8%)となっており、比重が
高いのは、法務省、金融庁、文部科学省となっている(ただし、法務省の評価書は
省全体として 1 件のみ)。平成 20 年には廃止以外の代替案提示の比率は前年と比較
して高まったものの、平成 21 年には比率の水準は低下している。特に金融庁、文
部科学省、国土交通省は府省全体として評価書における代替案の設定、その分析
に取り組んでいる。ただし、規制緩和を視野に入れた法律改正等を行う場合、ま
だまだ「廃止」を比較対象として設定するところは少ない。
代替案を提示し
ているもの
31
22
「代替案が想定
されない」等と
しているもの
191
代替案について
の記述がないも
の
(9) レビューへの時期
・ 約 6 割(59.2%)の評価書が何らかの形で言及している。しかしながら、その割合は年々
低下してきている。レビューへの時期の言及をする評価書の比率高いのは、環境省、
文部科学省、公正取引委員会、農林水産省といった府省である。
・ なお、近年は、法案の附則等において法律改正等の検討段階において、法律そのも
のの見直しを検討する旨の規定を置いているものも多い。
(10) 不確実性の程度についての言及
・不確実性に関して明確に言及している評価書(感応分析を実施したものの、結果は特
に変わらなかった旨の記載)は、経済産業省の 1 件しか発見できなかった。
以上より、規制評価本格施行後の 2 年弱の実施状況の基本的な特徴をまとめると以下の
とおりとなる。
15
〇費用及び便益に関して、何らかの形で定量化、金銭価値化に取り組んでいる例は極めて
少数にとどまっている。また、その結果として、明示的な形で費用便益分析、費用効果分
析を行っているのは合計 8 件にとどまっている。
〇これらの評価書は全て経済産業省のものであることから、府省の中で定量・数量化への
取り組みが最も積極的なのは経済産業省と言える。
〇他方、複数の規制に関する代替オプションを比較検討するという観点から、何らかの代
替案の検討がなされている評価書の比率が高まっていることは一定の評価ができる。
16
2.
欧米の規制評価分析の枠組み及び分析の「質」の確保の取り組み
① 全般的な状況
規制評価分析(RIA)は 1966 年のデンマークを端緒に、70 年代には、米国、カナダ等
で、80 年代にはオーストラリア、英国、ドイツ等で採用されるなど拡大を見せていっ
た。1996 年の段階で OECD 諸国の約半数が導入し、特に EU 諸国では、欧州委員会
が策定した Better Regulation Agenda が契機となり 2002 年以降導入が加速した経緯が
ある。
2008 年現在、OECD 加盟国 30 カ国及び欧州委員会において全て RIA は実施済みで
あるが、その取り組みには濃淡がある。
OECD(2009) “Indicators of regulatory Management Systems 2009 Report”より
OECD による 2008 年の RIA に関する指標でみた場合、中央政府による RIA プロセ
スの要件の充足度、RIA プロセスの幅という観点11では、いずれにおいても英国、カ
ナダは取り組みが進んでおり、我が国も OECD 加盟国内で見た場合では、中位以上は
保持しているように見える。
RIA プロセス要件の充足度とは、新規の規制採用前に RIA が実施されているか、規制当局以
外の政府機関が RIA の質審査に責任を有しているか、新規規制案に関して RIA を実施する明確
な「閾値」が存在するか、などを得点化し、指標化している。
他方、RIA のプロセスの幅とは、RIA は予算や競争、市場開放度、中小企業等の特定の影響
への評価を含むか、RIA 実施に当ってリスク評価が必要とされるか、新規規制準備に当って規
制当局は明示的にコンプライアンス面や執行面に関する課題の検討を必要とされているか、など
を得点化し、指標化している。
11
17
OECD(2009) “Indicators of regulatory Management Systems 2009 Report”より
しかしながら、上記の指標は、OECD 事務局からの質問票に基づき各国政府の自己
申告をもとに集計しており、有効性につき事務局独自の検証を伴うものではないこと、
また、申告に基づき取り組みを概括的に判断しているのみであり、個々の評価書に遡
18
って判断しているわけではないことから、RIA 実施の際の形式的要件中心の調査とな
っており、評価書の分析内容に関する「質」的側面に関して十分な配慮がなされてい
るわけではない。
実際、各国の RIA の現状に関する包括的な調査を行った米国コンサルティング会社
の調査(Scott Jacobs(2006))によれば、90 年代に RIA に関して世界的に「質」の問題が
増大してきているように見える、との指摘がなされている。同調査においては、
「質」
を大きくプロセス面と分析手法面の 2 つの側面で捉えており、前者は具体的には、RIA
の関係機関内の協議プロセス、評価書のレビュー、分析の基礎となるデータ収集に着
目し、後者は金銭価値化、定量化を伴う費用便益分析、費用効果分析の分析手法がど
のようになっているのかを調査している。同調査では「質」低下の要因として、①欧
州委員会での RIA に関する取り組み活発化による欧州各国での RIA の基準の底上げ
がなされたこと、②先進国の場合、少数の RIA 専門家による取組開始の後、それ以外
の熟練度の低い者による RIA の取り組み参入が広がる結果、必然的に一時的に「質」
の低下がみられること(ただし、時間を経て、やがて熟練度が増し、
「質」は U 字型に
回復)、によるものと整理している。特に定量化に関しては、どの国も十分な分析を
行っておらず、代替案も活発に検討されていない、との指摘がなされている。
そこで、以下では具体的に「質」の側面に関して総じて着目されている費用・便益
の金銭価値化、定量化の状況や規制の代替案の検討等を中心に欧米主要国・地域の動
向を見てみることとする。
② 欧米主要国諸国の動向
(1) 米国
米国における RIA 推進機関は、行政管理局(OMB: Office
of Management and
12
Budget)であり、一定規模以上 の規制評価の内容についての事前審査を行っている。
同局では、毎年連邦議会に対して、財務及び一般政府歳出割当法に基づき審査を行
った連邦規制の便益と費用についての報告(OMB(2008)など)を行っているが、同報告
では同局で審査対象となった評価書の費用・便益の合計値を測定するだけの限定的
な分析に止まっており、評価書レベルの詳細な「質」はわからない状況となってい
る。 また、連邦各省庁の業績を監視的立場から評価を担当しているのは会計検査院
(GAO: Government Accountability Office)であるが、同機関は規制政策の企画立案過程
に関するケーススタディを足元において行っている(GAO(2009))ものの、規制評価の
分析内容に関するメタ評価を実施してはおらず、特段の検証を行ったレポートの公
12
審査の対象は、年間 1 億ドル以上の経済的な影響がある規制。
19
表は見られない。
しかしながら、規制研究に関する American Enterprise Institute 及び Brookings 研究
所の共同センターでは、メタ評価の蓄積が見受けられ、Hahn and Dudley(2007)におい
ては 82 年から 99 年と多少古いデータであるが、連邦環境保護庁(EPA)の 74 評価書
に焦点を当て、費用、便益の定量化、金銭換算化等に焦点を当てて分析を行ったも
のがある。これによれば、「総費用を(金銭価値化して)点推定したもの」は評価書全
体の 65%、「総便益を(金銭価値化して)点推定したもの」同 34%、「純便益の点推定」
12%となっている13。また、同研究では、レーガン大統領期、ブッシュ(シニア)大統
領期、クリントン大統領期の比率の変遷も見ているが、経年的な改善は特段見られ
ていないとしている。
(2) 英国
英国では RIA14の推進機関はビジネス・企業・規制改革省15(BERR: Department for
Business, Enterprise and Regulatory Reform)で主として評価書の事前審査を担当してい
る一方、評価書のメタ評価は会計検査院(NAO: National Audit Office)が担当している。
NAO においては、年次的に評価書を数件程度ピックアップしてケーススタディを報
告(NAO(2007)など)しているが、英国の評価書の全体的な定量化、金銭価値化の動向
は、取り上げている評価書が限定的であるため、NAO の累次の報告書からは傾向が
読み取りにくい。
しかしながら、2009 年に NAO は、これとは別途の分析を行い、2006 年と 2008 年
の公表評価書全体の傾向を調べた報告書を作成・公表した。これによれば、
・費用に関して何らかの定量化(金銭価値化含む) を実施した評価書の割合は、2006
年の 56%から、2008 年は 67%に増加16。
・便益に関して何らかの定量化(金銭価値化含む) を実施した評価書の割合は、2006
年 40%から 2008 年 60%に増加。
となっており、英国規制評価には「質」の改善がみられる点があるとしながらも17、
他方、代替案の検討に関しては、同調査では、2008 年は 2006 年と比較して代替案の
費用面では評価書での言及の割合が 42%から 19%に低下するとともに、代替案の便
13
実際にこの数値が掲載されているのは、Hahn and Tetlock(2006)である。
英国においては、Impact assessment(IA)と略称されている。参考資料 1 参照。
15
2009 年 6 月、同省はイノベーション・大学・技能省と統合し、新たにビジネス・技能・イノ
ベーション省(Department for Business, Skills and Innovation) となった。
16
2006 年の評価書は 171 件、2008 年の評価書は 309 件。
17
ただし、2008 年の評価書の約 60%が費用又は便益がゼロとしていることに留意(定量化には費
用か便益が「ゼロ」としているものも含む)。
14
20
益面でも 30%から 19%に低下し、悪化したと分析している。
また、これとは別に、英国商業会議所(Ambler and Chittenden(2009))において、民間
の立場から、評価書の悉皆調査を行っている。この報告書では、費用又は便益に関
して定量化(金銭価値化を含む)を行っている 18 、としている評価書の割合は、足元
2008 年19で評価書全体の 64%となっており、上記 NAO の報告書で指摘された点とほ
ぼ同傾向であり、整合的であると考えられる。
(3) スウェーデン
スウェーデンにおいては、各省庁の分権的な色彩が強かったため、統一的なレベ
ルでの RIA の推進機関はなかったが20、2008 年になり統一的なレベルでの推進機関
として独立した助言機関である「より良い規制委員会(Better Regulation Council)」が
企業・エネルギー・通信省の下に設置された。
これとは別に、スウェーデンにおいては 2002 年より、規制評価の「質」確保の取
り組みとして、事業者団体、労働組合から成る「より良い規制のためのスウェーデ
ン産業商業委員会(NNR: Board of Swedish Industry and Commerce for Better Regulation)」
が毎年定期的に評価書の検証を実施し、政府に対して勧告を行っている。
最新の報告である NNR(2009)においては、2008 年の規制の状況につきリポートし
ているが21、それによれば、全企業が影響を被る規制の総費用が報告されているのは、
評価書全体中の 16%であり、年々ほぼその比率は高まる傾向にあるとしている。ま
た、代替案が述べられている評価書は 46%となっており、2005 年に 53%まで高まっ
た水準が足元少し低迷している状況にある、としている。
(4) EU
欧州連合においては、当初、連合独自の評価は実施していなかったが、2003 年
から Impact Analysis として欧州委員会が発する規制(regulation)や指令(directive)等を
対象に影響評価を開始することとなった。同評価では、委員会立法作業プログラム
(CLWP: Commissions Legislative and Work Programme)に含まれる規制等の全てが評価
の対象となる。また、欧州の IA の場合、各分析の深さと範囲(depth and scope)は想
定されるインパクトの大きさによって決められている(「比例性の原則」)。加えて、
2006 年には、独立機関である影響評価委員会(Impact Assessment Board)を設立し、IA
18
定量化(金銭価値化を含む)は行っていないものの、当該項目は「特に意味がない」(実質ゼロ
の意と解される)と判断されているものを含む。
19
2007 年 7 月から 2008 年 6 月までの期間データ。
20 Radaelli(2010)による。
21
対象となる評価書は 70 件。
21
の質のコントロールと支援を行っている。
さらに、欧州委員会は、同年、影響評価のシステム全体に関する外部評価も英国
の調査会社に依頼して実施をしており、2003~2006 年の 155 評価書の分析を行って
いる22(The Evaluation Partnership(2007))。同報告書でも IA の定量化等に関して分析が
なされており、ここでは、全体の 33%の評価書が「広範囲の」定量化を影響インパ
クトに関して実施しているとともに、全体の 21%が「最低限」の定量化を実施して
いるとしている23。金銭価値化に限定すれば、IA 全体の 46%がインパクトに関して
実施しているとしている。他方、代替案の検討に関しては、ゼロ又は 1 つの代替案
というのは 9%で、4 分の 3 の評価書は 2~3 の選択肢を提示しているとされている。
22
同調査では、全体的な動向の他、20 の IA 評価書を取り上げ更に詳細な「質」の評価を行うと
ともに、6 つの評価書に関してケーススタディを行っている。
23
「広範囲の(Extensive)」定量化とは、適切かつ洗練された手法の利用を一般的に必要とし、よ
り詳細な計算・推定を行っているものを指す、としている。一方、
「最低限の(Minimal)」の定量
化とは、比較的簡単に利用できる明白な数値の提示のみに止まっているもの、としている。
22
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