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ベッド上での 排泄介助を見直す

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ベッド上での 排泄介助を見直す
特集
便秘ケアを極める−患者の安全・安楽を重視したアセスメントとケア
ベッド上での
排泄介助を見直す
佐居由美 SAKYO Yumi
聖路加看護大学
ベッド上での排泄で使われる物品
*患者・在宅療養者がベッド上で排便する場合,オムツまたは便器が用いられる.
*便器には,差込便器(和式,洋式〈ベッドパン〉
)やゴム製便器があり,患者の状況,体格や性別など
を考慮して選択される.
排泄時の姿勢∼解剖生理学からみたベッド上体位のとらせ方
*スムーズな排便には,腹圧が重要な役割を担っている.
*ベッド上での排泄では,上半身を挙上した排便姿勢をとると腹圧がかけやすくなり,排便が容易になる.
*排便時の姿勢がよい(座位では前かがみとなり口を閉じ,肘を膝の上に乗せている)と,直腸圧が上昇,
肛門圧は低下し,腹圧が加わりやすくなってスムーズな排便が可能となる.
通常の排泄環境とは異なる“ベッド上での排泄”についてのエビデンス
*ベッド上での排泄に関する研究には腹圧に関したものがみられるが,現在のところ,いずれもエビデン
スが得られているとは言いがたい.
*ベッド上での排泄は,解剖学的理由による排便困難感などによって便秘を生じさせやすい.看護師は
「通常の排泄環境とは異なる」環境を十分に配慮し,適切な便器の選択,腹圧のかけやすい体位などに
よって安楽に排便が行えるようケアすることが求められている.
ベッド上での排泄で使われる物品
知識
患者もしくは在宅療養者が,ベッド上で排便する場合,オムツまたは便器が用いられる.
オムツやパッドは,意識がない,便意がなく排便を調整できない,便意を感じてから排便ま
での時間が短い場合などに使用される.意識があり,便意を訴えることができれば,ベッド上
での排泄には,便器が使用される.
便器には,差込便器(和式,洋式〈ベッドパン〉
)やゴム製便器があり,それぞれ,患者の
状況(体動の可能な範囲・治療上の制限)
,患者の体格や性別などを考慮して選択し(笊 1))
,
●
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EBNURSING Vol.9 No.3 2009
選択基準
目安BMI
15%以下
種類
メリット
①和式便器
容器が小さいため,腰や臀部をもち上げ
(ホーロー*1,
るのが困難な患者に適している
プラスチック*2)
デメリットおよび工夫
①便器の素材が硬く冷たいため,便器にあたる仙骨部
は痛みを生じやすい
↓ 紙おむつ・タオル(2∼3重に折りたたむ)を敷く
②排泄物が多い場合は漏れる可能性がある
排尿
・
便
②ゴム便器
体型に
関係なく
対応
目安BMI
25%以上
③安楽便器
①和式便器と比較して容量が大きい
(プラスチック*2) ②便秘傾向・浣腸施行者に適している
④洋式便器
(ホーロー*1)
女性用尿器
(ガラス製*1,プラスチック*2)
排尿
空気の容量で患者の体格・状態に対応で
きる
①最初は空気を少し多めに入れて挿入後,
空気を抜いて調整する
②褥瘡や排泄に時間がかかる患者に適し
ている
男性用尿器
①動くと漏れやすい
排泄量が多いと周囲を汚染することがある
②長時間になると発汗で便器が皮膚に密着する
↓ 皮膚を損傷しないようにゆっくりはずす
和式便器より便器にあたる部位が大きいため,痛みと
寒さを生じやすい
臀部,腰部,股関節の安静が必要な患者
に適している
①尿漏れを起こしやすい
②床上排泄が初めての人には難しい
①セルフケアが可能
②体格のいい患者で仰臥位の場合は,尿
器を上下逆にあてると固定しやすい
意識障害や痴呆の患者には使用できない
【注意】素材別のメリット,デメリット
*1
ホーロー,ガラス:重量があるため安定感がある.冷たく硬いため,とくに冬場や高齢者,心・脳血管患者には適さない.また,重いので
操作しにくい.
*2
プラスチック:軽いため,固定が不安定だと取りこぼれがある.
笊 便・尿器の特徴と工夫
(平田知子,重松博子:床上排泄援助の方法と実際ができますか? 臨床看護 2 0 0 4 ; 3 0 (4 ): 5 0 2 . 1 )より)
患者の安楽性を保つ.
排泄時の姿勢∼解剖生理学からみたベッド上体位のとらせ方
腹圧をかけやすい排便姿勢 知識
通常,われわれは排便時,トイレで「排便姿勢をとり,これにさらに腹圧をかけて骨盤腔内
の圧を高め,
(約100mmHg)
,排便反射のスムーズな遂行を助け」ている.この骨盤腔の「内
圧上昇は,吸息位で横隔膜と腹筋群を同時収縮させて」起こり,
「腹圧をかける一連の動作は
いきみstraining」と呼ばれている 2).
「腹圧をより高める理想的な排便姿勢は,大腿部を腹部に密着させた“かがみ位(躑踞)
”
」3)
であるとされており,ベッド上での排泄においても,
「
(上半身の挙上は)横隔膜を下げ怒責が
容易となり,怒責によって腹直筋が収縮し腹腔内圧を高め腹圧をかけやすくなる」4)ことから,
上半身挙上が推奨される.また,
「直腸と肛門の角度の関係から,臥位よりも立位,さらに座
位のほうが解剖生理学的に排泄しやすい」5)といわれている(笆)
.
したがって,ベッド上での排泄時においても,腹圧をかけやすくするために上半身を挙上し,
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●
寝ている状態
座位または立位
腹圧がかけやすい
尿道
膀胱
膀胱
直腸∼肛門の角度
(118 ∼145°
)
直腸∼肛門の角度
(80 ∼100°
)
尿道
笆 体位が排泄に与える影響
(竹内修二:排泄ケアの根拠.プチナース 看護技術の根拠.臨時増刊号.2 0 0 8 ; 1 7 (8 ): 5 1 . 5 )より)
解剖生理学的に排便しやすい自然な体位とすることで,患者の緊張も緩和し排便が容易になる
と思われる.
排便姿勢の違いによる直腸と肛門の怒責圧 推奨
ケア
槌野ら 6)は,直腸性便秘のため排泄訓練を行った10 例に対し,ポータブルトイレでの排便
姿勢を評価するとともに,排便時の直腸と肛門の怒責圧測定を行っている.
その結果,排便時姿勢がよい例(前かがみで口を閉じ,肘を膝の上に乗せている)に比べ,
姿勢が不良な例(反り返って口を開け,手を膝の上に乗せている)では直腸圧が低く,肛門圧
が高い値を示しており,排泄が困難となっていた.排便姿勢不良例に対して姿勢指導を行うと,
直腸圧が上昇し肛門圧は低下していた.そして,排便姿勢の変化により骨盤機能が改善し,腹
圧が加わりやすくなってスムーズな排便が可能となり,骨盤後傾位となることで,直腸肛門角
がより鈍角化し,直線的になるほど排泄物を容易に肛門側へと送り出すことができるようにな
る,と結論づけている.
文献検討を通じた“ベッド上での排泄”と便秘に
ついてのエビデンスの現在
ベッド上での排泄は,下記の点で通常の排便環境とは異なる.
①プライバシーの確保されにくい環境:排便で生じるにおいや音に伴う羞恥心→便意を我慢
②排泄を目的とした場所でないこと:排泄した場所で,食事・睡眠を行うことへの嫌悪感
③排泄姿勢(かがみ位:躑踞)をとりにくいこと:腹圧がかけにくい,解剖学的に便の排出が
容易でない
これらの通常の排便環境とは異なる状況は,スムーズな排便を妨げ,便秘をもたらすと推察
●
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EBNURSING Vol.9 No.3 2009
便秘ケアを極める−患者の安全・安楽を重視したアセスメントとケア 特集
される.そのため,日米の看護のテキストにおいても,プライバシーの確保・適切な便器の選
択・上半身の挙上・排便音や臭気への配慮が,ベッド上での排泄時の看護とされている.
本稿の執筆に際し,
「便秘」と「ベッド上での排泄」について,文献検討を行ったところ,
便秘についての研究では,
「食事摂取の工夫」
「排便を促す方法の検証」
「特定の状況下にある
便秘患者への対応」などであった.
「通常の排泄環境とは異なる状況」と便秘の関連についての研究は,
「腹圧」に関連したもの
で,
・前述した体位と排便についての槌野らの研究
・伊瀬知ら 7)の,術後患者8 事例を対象とした床上排泄時の効果的な体位と腹圧のかけ方(仰
臥位+膝立て+柵もち+頭部挙上+呼吸法)についての研究
・川村ら 8)の,床上排泄中のパーキンソン症候群患者1 名を対象にした研究:ポータブルトイ
レを用いた排泄を12 日間行った結果,便秘の改善がみられた
などがあったが,いずれも対象数に限りがあり,エビデンスが得られているとは言いがたい.
また,深井 9 )が挙げているエビデンスのある便秘ケア(「食事摂取」「水分摂取」「運動」
「腰・腹部温罨法」
「腹部マッサージ」
「排泄教育」
)の中にも,
「ベッド上の排泄」に関連する
ものはなく,現時点では「通常の排泄環境とは異なる“ベッド上での排泄”が,便秘を引き起
こす」に関するエビデンスはないと思われる.
だが,治療・疾病上の理由により,通常の排泄環境とは異なる“ベッド上での排泄”を強い
られる患者が精神的苦痛,解剖学的理由による排便困難感によって,便秘に苦しんでいること
は想像に難くない.看護師は,プライバシーの確保が難しく食事や睡眠などの生活のすべてが
行われるベッド上で,慣れない便器で排便を行わなければならない患者の状況を踏まえて,適
切な便器を選択し,可能な範囲で腹圧のかけやすい体位をベッド上でとることで,少しでも安
楽に排便が行えるよう常に配慮する必要がある.ベッド上で排便しやすい環境を整えることは,
患者の便秘予防につながるものと考える.
本稿で取り上げた文献の検索方法
1.検索方法
蘆医学中央雑誌
キーワード:便器,便秘,腹圧,排泄,姿勢
蘆 CHINAHL,MEDLINE
キーワード: bed pan,constipation
文献
1) 平田知子,重松博子:床上排泄援助の方法と実際ができますか? 臨床看護 2004 ; 30(4)
: 502.
2) 深井喜代子:日常生活の自立を支える技術. Q & A でよくわかる! 看護技術の根拠本.メヂカルフレンド; 2004.
EBNURSING Vol.9 No.3 2009 (327)
55
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p.110.
3) 小板橋喜久代編著:カラーアトラス からだの構造と機能 第 3 版.残渣物・老廃物をより分け排出する.学習研究
社; 2003. p.205.
4) 藤田勝治:排泄援助技術. 村中陽子,玉木ミヨ子,川西千恵美:学ぶ・試す・調べる 看護ケアの根拠と技術.医歯薬出
版; 2005.p.44.
5) 竹内修二:排泄ケアの根拠.看護技術の根拠.プチナース 臨時増刊号 2008 ; 17(8)
: 51.
6) 槌野正裕:排泄機能と姿勢に関する研究. 日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会誌 2008 ; 24(2)
: 37.
7) 伊瀬知祥子,藤元靖子,堀静子ほか:術後患者の床上排泄の援助−筋電図を用いた効果的な腹圧の検討.医療 2000 ;
54 増刊: 211.
8) 川村育子,花谷加奈子,森朱美ほか:座るという姿勢をとることで排便を促す試み.広島県立病院医誌 2004 ; 36
(1)
: 53-59.
9) 前掲 2)
,p.116.
参考文献
三上れつ,小松万喜子:演習・実習に役立つ基礎看護技術.第 3 版.基礎看護技術の知識・技術・応用.ヌーヴェルヒロカ
ワ; 2008. p.57.
吉田みつ子:排泄援助 便器を用いる場合.看護技術スタンダードマニュアル.メヂカルフレンド社; 2007. p.144.
Potter P, Perry A : Basic Human Needs. Fundamentals of Nursing 7th Ed. MOSBY ELSEVIER ; 2008.
p.1177-1199.
Ruth FC : Elimination. Fundamentals of Nursing, 6th Ed. the Point ; 2008. p.1120.
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