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報告会 - 市町村アカデミー

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報告会 - 市町村アカデミー
平成23年度最優秀レポート「学長賞」
表彰式“報告会”が開かれました。
平成24年1月20日(金)午後1時30分から、市町村アカデミー特別会議室におい
て、平成23年度最優秀レポート「学長賞」の表彰式が開催されました。
市町村アカデミーでは、研修生が問題意識をもって研修に臨み、講義や演習等の効
果を一層高めるために、9日間及び11日間の研修にレポートの提出を義務づけてお
り、
「研修科目及び組」ごとに「優秀作」を選定し、アカデミアに全文を掲載してお
ります。
本年度の最優秀レポート「学長賞」は平成22年度及び21年度に「優秀作」とされ
たレポート53本の内から、「特に優秀と認められるレポート」として5人の方が受賞
されました。
表彰式では、研修当時の担当教授も出席いただき、鈴木学長から賞状と記念品を授
与し、その努力と功績を称えました。
また、今回は午後2時から、
「最優秀レポート受賞者が語るアカデミーの明日」と
いうテーマで、報告会が開かれました。受賞者には、研修を終えて地元に戻ってから
の研修効果やアカデミーの研修に望むことなどを熱く語っていただきました。
(報告
会の詳細は12頁に掲載)
前列左から、呉市・増本氏、井筒研修部長、鈴木学長、中橋副学長、前橋市・北原氏
後列左から、池田元教授、二上教授、秋田市・橋本氏、あさぎり町・山本氏、三田市・千原氏、大下元
教授
平成23年度最優秀レポート
「学長賞」受賞者報告会
∼最優秀レポート受賞者が語るアカデミーの明日∼
出席者
秋田県秋田市 橋本春樹
「財政健全化に向けての行政評価制度の役割と導入における課題」(100号掲載)
群馬県前橋市 北原絹代
「
『その人らしく生きる』ための在宅支援」(96号掲載)
兵庫県三田市 千原洋久
「行政事件から見る法令実務の必要性∼手続的裁量統制の視点から∼」(99号掲載)
広島県呉市 増本信宏
「大和ミュージアムを拠点とした観光まちづくり」(99号掲載)
熊本県あさぎり町 山本祐二
「そもそも健康づくりって∼町と住民と保健師と∼」(98号掲載)
受 賞は驚き! プレッシャーや恥ずかしさも!?
り組み、夜遅くまで議論などした他の自治体の職員の
方々からもメールをいただいたりして、実感が湧いてい
るところです。
̶おめでとうございます。まず受賞の感想をお聞
増本 実は私も受賞を知ったのは人事課からの連絡
かせください。
だったのですが、人事課のその担当者はかつての職場
橋本 自分の書いたレポートが受賞するとは全く思っ
の先輩でした。最初は冗談かと思ったくらいで、びっく
ていませんでしたので驚きました。職場の上司や同僚
りしました。その先輩は、呉市役所庁内のLANの掲示
から祝福されて、しだいに実感が湧いてきました。
板に、私の書いたまちづくりのレポート載せてくれたこ
私は財政運営における行政評価についてレポートを
ともあり、多くの方々から祝福され、なかには「ちょっ
書いたのですが、秋田市は事務・事業評価を中心とし
と教えてほしい」と言って声をかけてくれる職員もいま
た行政評価に力を入れ始めた段階にあり、レポートを
した。受賞した実感が湧き出しています。本当に栄誉
制作したあと、実際に行政評価を取り仕切る企画調整
ある賞をいただきまして、ありがとうございます。
課の担当に選ばれました。今回の受賞はたいへん励み
山本 研修の担当者が「たいへんな問題が起きた」
になります。また名誉ある賞をいただいて、ある意味、
と言うんです。そのとき、あさぎり町保健環境課からは
プレッシャーも感じているところです。
同僚の保健師がアカデミーに研修出張していたので、
北原 私は理学療法士という専門職に就いており、在
同僚が何かしでかしたのかと思ったくらいです(笑)
。
宅支援に関するレポートを書きました。受賞の連絡は
実は私は、学長賞というものがあることを知りませんで
職員課の研修係の方からの電話だったのですが、その
した。制作した健康づくりのレポートも自信がありませ
ときは実感がありませんでした。その後、学長賞受賞
んでした。本当にびっくりしました。後日、みなさんの
が評価され、前橋市から市長奨励賞もいただきました。
多くの方々から祝福していただき、じわじわと実感が
湧いてきています。
千原 人事課長から「とにかく来い」と連絡があり、
非常に緊張して訪ね、受賞を知ったのですが、本当に
驚きでした。
私は法令実務に関するレポートを書いたのですが、
上司や同僚はもちろん、アカデミーで一緒に課題に取
12
vol.101
熊本県
あさぎり町
山本祐二
平成23年度最優秀レポート「学長賞」受賞者報告会
すばらしいレポートを読ませていただき、ちょっと自分
のレポートが恥ずかしいなあと思ったのが素直な感想
です。
研 修が実務に直結し実を結ぶ
̶研修の成果などがあればお聞かせください。
秋田県秋田市
橋本春樹
橋本 さきほども申しましたが、受講修了後、秋田市
でも行政評価を導入することになり、その担当者に選
ばれました。アカデミーで研修を受け、それなりの知
ズにもっと応えられるようチャレンジしていきたいと
識もあるはずという意向があったようで、企画財政部
思っています。幸いにも同じ係の職員が2年続けて受
企画調整課で事務事業評価の実務を担当することに
講させていただいたので、より係内の機運が高まった
なりました。メンバーは私も含めて3人です。面食らっ
と思います。
た面もあるのですが、アカデミーで学んだ視点、勉強
千原 法令実務の研修を受けたのですが、当時の私
させていただいた資料、評価シートなどや、他の研修
は市議会事務局に籍を置いていました。受講生のほと
生の方々から教わったことなどを何度も思い出したりし
んどが行政や法制担当の方々で、議会事務局の職員
て、試行錯誤しながらも推し進めました。
は受講生約80人のうち4人しかいなくて、
「お互いにが
ただ単に評価を行うというだけではなくて、予算要
んばろう」と励まし合ったものです。
求の時期までに間に合うように短期間でスピード感を
三田市ではまちづくり基本条例を策定している最中
持って実施する必要がありましたが、今後、秋田市が
です。三田市では、市民、市、市議会議員の三者が、
継続していくためには避けて通れない道だということで、
それぞれの案を持ち寄って一つの案にしていきます。
多くの職員の協力も得られ、結果的に700近い事務事
受講当時私は議会の案作りのサポートをさせていただ
業に今後の方向付けができました。
いていました。議員の方々から多くの相談も受けてい
研修内容が、まさにその後の業務に直結したことも
たのですが、うまくサポートできていないと感じたこと
あり、大変感謝しております。
も、研修受講の動機でした。研修で得た法令実務の
北原 他の自治体でも介護予防に関して自分と共通し
知識や他の自治体の情報は、議員の方々への適切な
た悩みを抱えていることを知り、また共有し合えたこと
サポート、条例案づくりに活かされることになったと思
は大きな励みになりました。
います。
前橋市の場合、多くの専門職が所属する介護予防
その後、企画政策課に異動になり、企業立地促進
に特化した係があり、先進的な取り組みをしていると
条例の改正を担当することになりました。関係者ととも
マスコミなどにも取り上げていただいたことがあります。
に修正作業にあたりましたが、研修は非常に役立った
そのことで却って既存のやり方にこだわりすぎた面も
と感じています。
あったと思います。研修では、他の自治体のやり方を
研修で特に印象的だったのは、講師を務められた内
いろいろ教えていただき、
「もっと柔軟に考えたほうが
閣法制局の方の、
「地方自治体は、この地方分権化に
良い場合がある」
「住民に参加してもらえなければ何
どれほど切実感を持って取り組んでいますか」
「今後、
の意味もない」という思いを強くしました。前橋市では、
説明責任はすべてあなた方にあるのですよ」という言
「これまでやってこなかった取り組みもやろう」
「何が求
められているのかもう一度見直していこう」という視点
に変わってきたのです。
また研修のご縁もあって、今年度、アカデミーで事
例紹介の講師として話をさせていただいたのですが、
受講生からさまざまな反応をいただきました。前橋市
の取り組みを肯定していただいたことは自信に繋がり
ましたが私は今までのやり方も守りつつ、住民のニー
兵庫県三田市
千原洋久
vol.101
13
講師の方がいて、ぜひ役場の職員にも聞かせたいと思
い、地元に帰ってからさっそく予算を組んでもらい、講
演をしてもらったこともあります。
今回初めて研修に行っただけですが、やりたいこと
がどんどん出てきた。ほかの職員も、毎年、研修に
行ってほしいと思っています。
広島県呉市
増本信宏
葉でした。モチベーションを保つことができる、大きな
講義を踏まえた肉付けにあり!
原動力になっています。
̶レポートの制作で苦労したこと、戸惑ったこと
増本 所属する都市計画課では、まちづくり研修に4
などはありましたか。
回連続で受講者を出しており、講義やレポートの内容、
橋本 私はほとんど事前には準備をしてきませんでし
それに研修上の生活も含め、課内で話し合ったりする
た。ですから土日の休みもなく、レポート制作にあたる
ことがよくあります。
ことになりました。
研修で特に期待していたのが課題演習でした。南
山本 レポート制作上、必要になりそうな数字だけは
船橋駅周辺でのワークショップは、本当に楽しい思い
持ってきて、研修を踏まえ肉付けをしました。文章を
出です。パワーポイントなどを使った発表資料も凝っ
縮めるのは苦労しました。というのも、先生方の話を
たものをみんなで作り上げたことも実務の勉強になりま
聞いているうちに、いろんな見方があるということにど
した。
んどん気付かされたからです。聞くたびごとにすべて
私は今、民間の住宅・宅地開発などの審査業務に
新鮮だったのです。字数の制限は8,000字でしたが、
も携わっているのですが、地域資源の強み弱みを踏ま
当初、その倍ぐらいの分量になってしまったのです。
え、環境との調和を図ったまちづくりを考えています。
どうにか短くしたのですが、残ったのを見たら、満足
マニュアルに沿った公共施設のハード的な視点だけで
できるようなものではなかった。
なく、ソフト的なところを同僚らと議論していきたい。
増本 私は、港湾を活用したまちづくりと企業誘致の
もっとできることはあるはずだと思っています
2本の案を事前に用意していたのですが、成功してい
山本 参加する人をどんどん増やしたい̶私はそう
る港湾活用の事例を肉付けしていきました。
感じました。そう思わせるほど、アカデミーの研修はす
ばらしいものだったからです。
レポートには明記していなかったのですが、イメー
ジしたのはサンフランシスコのフィッシャーマンズワー
地元に帰ってから「アカデミー」と「民衆」をかけ
フでした。レポートの評価で先生から、
「フィッシャー
合わせた「アカデ民」という交流会を作り、これは私
マンズワーフを思い出しました」というコメントをいた
が勝手にそう呼んでいるのですが,研修経験のある人
だいたときは、うれしかったです。
やまだ研修に行っていない若手職員を集めて、飲み
千原 あらかじめ筋だけは用意してきたのですが、研
会・勉強会を開催しているほどです。研修で得た知識
修でいろんな先生の考えを聞いて、ああなるほどと思
や情報を共有することはもちろん、刺激されたモチ
うことが多く、図書室で調べてみたりもしました。どん
ベーションの熱が冷めないようにするのに有効だと思
どん書くことが多くなって、まとめるのに時間がかかり
います。
ました。土日の休みなしです。遊びに行っている人も
研修で学んだことの一つには、どんなにいい企画、
いるのに(笑)
。
考えを持っていても、それを言葉や文字にして、誰か
裁判所の判断の流れなどを踏まえ、法令実務の必
に伝えなければ意味がないということ。役場の上層部
要性を書いたのですが、そのへんのところを非常に評
や財政担当を納得させる企画書や予算の積算根拠を、
価していただいたようで、うれしく思いました。
具体的にわかりやすく作成することが重要だと感じま
北原 私はまったく準備もせず研修に参加し、最終日
した。
前日の打ち上げのあとでもレポート制作しているという
研修で「なるほどそうか」と気付かせていただいた
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レ ポート制作のポイントは、
vol.101
状況でした。しかし、みなさんの話にもありましたが、
平成23年度最優秀レポート「学長賞」受賞者報告会
と、仕事とは完全分離で学習にだけ集中できます。す
ごく勉強に専念させていただき、ありがたかったです。
加えて、アカデミーの研修では自分より上の立場の
人もいるし若手の人もいて、いろいろな立場からの意
見を聞けます。こういう機会はなかなかないのです。
ですから周囲の人にも受講を勧めているところです。
群馬県前橋市
北原絹代
準備していったとしてもほとんど全部ガラッと変わった
千原 市町村レベルの研修ではお会いできないような
著名な先生方から、タイムリーな裁判、行政事件の話
を聞くことができました。
のではないかという気がします。講義で、毎日、
「ああ
また、さまざまな自治体のいろいろな職階の方と一
そうだな」と思ったことを、レポートでもまとめていっ
つのテーブルを囲んで、意見をぶつけ合いながら一つ
たので、結果的にはそれが評価していただいたと思い
のものを作るという経験は有意義でした。
ます。もっとも、あまりお勧めできることではないこと
職員どうしの研修ではグループワークがメインになり
かもしれませんが‥‥。
ますが、実務的な研修の場合は、じっくり考える個人
山本 いや、それは正解ですよ。
演習の時間がもう少しあっていいと思います。
も っと情報発信をしてほしい!
それと各研修の様子がウェブ上で見ることができた
り、修了生がアカデミーのソーシャルネットワークでつな
̶充実した研修にするには何が必要でしょう。研
がり続けることができる体制があると便利だと思います。
修を振り返り、ご意見・ご要望などをお聞かせくだ
そうすれば、アカデミーに行きたいという職員の方は
さい。
まだまだ増えると思います。
橋本 地方にいる私にとって、アカデミーの研修は、
増本 グループワーク、発表資料の制作などかなりの
なかなかお会いできない講師の方とか、同じ仕事を
時間を費やしました。もう少し時間的余裕があればい
行っているほかの自治体の方々と知り合う好機でした。
いと思った反面、たいへん充実した研修期間となり、
知識の吸収のほか、刺激をいただくことができます。
感謝しています。
秋田市では、年間30人くらいの職員が研修に参加して
まちづくりの研修に限って言えば、ワークショップの
いるのですが、受講すれば仕事上、理解も深まります
対象地域を増やすなど、さらに充実したものにしてほ
し、戻ってからの顔つきも変わるようです。
しいですね。
望む事としては、同じテーマで学んだ受講生どうし
山本 私がアカデミーに参加する一つのきっかけと
のネットワークが全国的に広がるしくみがあればいいの
なった言葉は、過去に参加したことのある若手職員か
ではないでしょうか。例えば、情報交換できるような
らの「日ごろの生活から抜け出したい人はどうぞ行っ
ホームページ、掲示板の設置です。
てください」の一言でした。
職員にはどうしても異動がありますので、掲示板の
メニューは、例えば財政運営、人事評価などの分野ご
とに分け、悩み事相談などのコーナーがあると有効だ
と思います。
北原 最初、泊まり込みで金曜日の夜まで出られない
と聞いたときはびっくりしました。大人になってからそ
んな経験はないので、大丈夫かなと心配だったのです。
実際、参加してみるとすごい講師陣で、楽しくて、
発見がいっぱいありました。
同じ悩みを抱えた全国の仲間もでき、情報や物産の
やりとりも継続しています。
今後望むこととしては、保健師業務の実践シミュ
レーションなどの講座も組み入れてほしいです。
また、ほかの方からもご指摘があったように、ホーム
しかし、いざ入ってみると快適な環境を整えていただ
ページなどで研修や交流会の様子を発信していただき
いていました。すぐ慣れて、出たくない感覚を感じまし
たいです。おそらく小さな地方自治体では、アカデミー
た(笑)
。というのも、ほかの研修などでは時間が短か
の研修を知らない職員がまだまだいるように思います。
かったり、研修後に職場に戻り残務をこなすなど、負
より充実した情報発信が必要ではないでしょうか。
担が大きい一面があるのです。アカデミーの研修です
̶ありがとうございました。
vol.101
15
Academy
財政健全化に向けての
行政評価制度の役割と導入における課題
橋本 春樹
秋田県 秋田市/財政部財政課主事 1 はじめに
地方の多くの自治体は経済状況の悪化による税
収不足、少子高齢化による扶助費の増大、あるい
は市債残高の増加などにより財政状況が危機に直
2010年
2015年
2020年
2025年
100
99
97
95
20 ∼ 64歳指数
100
90
80
72
92
69
65歳以上指数
100
110
126
137
140
75歳以上指数
100
122
139
151
174
面している。自治体の経営危機や財政破綻は、直
(参考)秋田市の将来人口予想(国立社会保障・人口問題研究所の数
値を元に試算)
ちに市民生活・行政サービスの水準に重大な影響
このような条件の下、現状のままの行財政運営
をもたらすことに繋がるため、それを防止するた
を続けていくことが困難な時期が、間もなく訪れ
めの適切な行政運営が自治体職員に課せられてい
ることは明白であり、先送りは許されず、来るべ
る。自らの所属する秋田市の現状や研修を通じて
き時期に備え、健全で効率的・効果的な行財政運
得られた他市町村の状況、また財政の健全化に向
営を構築しておくことが求められている。
けた行政評価制度(本市は実施検討段階)の役割
本市の場合、予算編成に関しては部局別の「枠
と導入に向けた課題について考察したことを記述
配分形式」を実施しており、方式自体は事業費の
していく。
削減のために有効ではあるものの、財政担当及び
2 秋田市の現状と課題
事業課職員ともに 枠に収めることに注力 し、事
業の精査が不十分となっているのが現状である。
秋田市の歳入・歳出の状況を分析すると、歳入
必要なのは事業費の削減だけでなく、事業が真に
に占める地方税の割合が40%前後であり、中核市
住民サービスとして不可欠であるのか、必ず市で
平均の46.8%(H19普通会計ベース)と比較して低
行わなければならない事業であるのかまで踏み込
くなっていることから、基幹産業に乏しく税収基
んだ判断である。不要な事業は廃止されるべきだ
盤が脆弱であるといえる。また地方交付税の占め
が、本市の場合、事業の行政評価制度が確立され
る 割 合 は20 % 程 と な っ て お り、 中 核 市 平 均 の
ておらず、客観的かつ相対的な見地による成果や
9.4%と比較して2倍に達しているため、交付税
効果が測れないため、市民ニーズの変化に対応で
への依存度が高く国の政策による影響を受けやす
きない事業の削減が難しく、予算の効果的な配分
いという特徴を持っている。
を妨げている。枠配分方式に頼るのみであれば、
歳出においては人件費・扶助費・公債費等、経
ある程度の削減は可能であっても全庁規模での思
常的な経費の占める割合である経常収支比率が
い切った事業見直しには限界があるように思われ
90%(H19)を越えており、政策的な事業に配分
る。
できる予算が少なく財政の硬直化が進んでいる。
また、将来的な問題としては、市内人口の減少
16
2005年
将来総数人口
3 行政評価の活用について
に加え、少子高齢化により、20 ∼ 64歳の生産の中
行政評価を用いて、財政の健全化につなげよう
心となる人口の割合が著しく低下することが予測
とする動きが全国の多くの自治体で試みられてお
され、納税者数の減、扶助費の増大が見込まれて
り、今回の研修を通して他市町村の状況を伺うこ
いる。
とができた。本市においても、行政評価的な動き
vol.101
財政健全化に向けての行政評価制度の役割と導入における課題
平成23年度 研修レポート年間優秀作
として、企画部門における総合計画に基づく事業
られているため、事業課部門でも混乱し、行政評
評価、財政部門においては、平成21年度当初予算
価に対する不信不満が生まれてしまう。事務事業
要求の際に事業課に所管事業の優先順位を付けさ
の問題点や改善点を明らかにして、正しい政策判
せる試みを行っている。しかしながら実際には順
断や優先順位付けを行うためにも、各部門が密接
位付けを行ったにすぎないという側面もあり、予
な連携をとることで条件整備(事務事業単位の統
算編成に活用するというところまでは至らなかっ
一、総合計画体系に一本化するなど)を行ってい
た。行政評価に対する期待は、事務事業の評価結
く必要がある。財政部門の一人として、予算編成
果に基づき問題点や課題を明らかにし、改善・改
に活用するためにも率先して働きかけをしていく
革をもたらすこと、また、評価結果に基づき予算
べきと考える。
配分を行うなど、予算編成と連動させることで、
◆評価指標の設定を明確にする
限られた予算の効率的な配分に寄与するというこ
事務事業を評価する上で、指標を明確かつ具体
とである。今回の研修を通して他市町村の活用状
的に設定する必要がある。事業にかかる総コスト
況を伺うことができたが、他市町村も同様に行政
はもちろん、活動指標としての実施事業量やそれ
評価の有効活用については試行錯誤している様子
に応じて得られる具体的な成果や効果を、数値に
であった。他市町村職員との討論から、主に下記
基づいて評価することで、説得力がある行政評価
のような問題点が行政評価の有効な機能を妨げて
にすることができる。
いる要因として挙げられた。
(行政評価が機能しない要因)
企画部門、行革部門が行政評価の実施主体
であるため、財政部門との連携が取れてお
らず、評価結果自体が予算編成に反映させ
る内容になっていない
評価指標の設定が不明確であること
評価に要する時間と事務負担が膨大であり、
評価すること自体が目的となっている
職員の意識改革に
ながっていない
4 行政評価を有効なものにするための方
策
◆財政担当からの積極的な働きかけ
財政担当部門職員として行政評価に期待するこ
評価方法については、1∼3次評価の3段階に
分け、1次評価は事業課が自ら行い、2次評価は
評価担当部門が事業課にヒアリングやアドバイス
を行いながら共同で検討し、3次評価では部長級
からなる内部評価委員会で最終決断し、市長に報
告という形式が望ましい評価のあり方の一つと考
える。
また、実際の問題として、市の職員が既存の事
業を不要と評価して廃止する判断を下すことは限
界があり、特に事業課職員が自らの事業を評価を
する場合、評価内容が甘くなることは避けられな
いように思われる。そこで、住民への取り組みの
周知の観点からも、専門家や住民による外部評価
も加えることが必要と思われる。
◆対象事業の絞り込みと複数年度での評価
行政評価は多くの資料作成を要することから、
とは、第一に事業評価結果の予算編成への活用で
時間と事務負担がかかる作業である。本市の場合、
ある。活用がうまくいかないのは、企画、行革、
普通会計ベースだけでも事業数が900程度にのぼ
財政それぞれの部門が異なる事務事業単位で行政
るため、単年度で全ての事務事業評価を行うこと
評価を実施していることが大きな要因と思われる。
は非常に困難であり現実的ではない。仮に実施し
企画部門は総合計画に沿った評価基準でチェック
ても、評価すること自体が目的になり、本来の目
を行い、行革部門は事務事業評価のために新たな
的と乖離した内容に終わってしまう可能性が高い
単位や目的別の体系を作成して評価作業を行う場
ことから、本市が行政評価を実施する場合は、一
合が多い。財政部門も予算における款項目別に行
定の条件を設けて対象事業を絞り込むか、複数年
うなど、それぞれの思惑によって評価単位が定め
度に分けて段階的に実施することが適当であると
vol.101
17
Academy
研修レポート年間優秀作① 橋本 春樹
思われる。
◆職員の意識改革が不可欠
5 おわりに
役所の中の「行政評価は管理的部門の仕事であ
本格的な行政評価が行われていない本市にとっ
り、自らは無関係もしくはあまり関わりたくな
て、行政評価は予算縮減や財政健全化を達成する
い」と考える職員の意識を改革することが大切で
ためのツールとして、導入してみる価値はあると
ある。例えば、財政課が全庁の職員に対して、市
考えるが、先進市町村の状況からも、期待する効
の財政状況について直接説明する機会を設け、財
果を得るために現在も試行錯誤している様子が見
政健全化に向けた協力を依頼する。事業課も従来
受けられる。市町村の職員にとって、行政評価の
の「より予算を多く獲得する」という意識から行
ような取り組みはあまりなじみに無いものであり、
政評価に基づいた視点で予算要求をしてもらうな
従来意識の改革を必要とする荷の重い作業である。
ど、全庁が一丸となった協力体制が取られるよう
しかしながら、本市も他の市町村と同様に、将来
にする。
の行財政運営を見据えて、導入を前向きに考えて
いきたい。
18
vol.101
Academy
『その人らしく生きる』ための在宅支援
北原 絹代
群馬県 前橋市/福祉部介護高齢課主任理学療法士 1.はじめに
するケースはほとんどない。
(2)介護保険制度の問題点
私たちの住む日本は、世界に類を見ないスピー
介護保険の要介護認定申請のきっかけを窓口で
ドで高齢化が進み、現在すでに高齢化率が21%を
聞くと、「入院先のソーシャルワーカー(地域医療
超える超高齢社会に突入している。長寿社会は、
連携室)に、退院に備えて介護保険を申請してお
医学の発展と、国民の疾病予防・健康増進の取り
くよう勧められた」という答えが多い。申請を受
組みの成果であり、本来喜ぶべき状況であると言
ける窓口では、手続きの方法やスケジュールなど
える。にも関わらず、暗い話題として取り上げら
の説明を受け、ケアマネジャーからはサービスの
れることが圧倒的に多いのは、現在の日本が、長
説明を受ける。この流れは間違いではなく、ごく
生きをして幸せと実感できる社会、そしてそれを
当たり前の対応と思われる。しかし、これから介
支える若い世代にとっても安心して暮らせる社会
護保険のサービスを使おうとする本人・家族が、
になっていないからではないだろうか。
上記のような「介護保険の理念」を知る機会はい
高齢者が最後まで『その人らしく生きる』ため
つ、どこにあるのだろうか。マスコミなどでも、
に、行政に従事する者としてすべきことは何か、
このような理念を伝える場面はほとんど見かけな
また介護保険は高齢者を幸せにできる制度になり
い。要介護状態の悪化を望む人などいない。しか
うるのか、その意義について考察したい。
し、現状では、介護保険を知ったときは、緊急に
2.高齢者をとりまく社会の現状と課題
(1)介護保険の理念と現状
助けを必要としている場合が多く、「介護保険
サービス=自分でできないこと、大変なことを助
けてくれるもの」との認識から、サービスが対症
高齢化率の急激な上昇に伴う要介護者の増加が
療法的なものとなりやすい。たとえば生活習慣病
社会的問題となっているのは周知のとおりだが、
の人が、病気の根本的な原因である生活習慣を改
それを支える生産年齢人口の減少、核家族化・単
善することなく、症状を和らげるために薬だけを
身世帯の増加などによる家族・地域の介護力低下
飲み続けるのと一緒で、
「なぜできないのか、ど
および介護負担増といった問題に対応し、介護を
うしたらできるのか、この人の自立した生活とは
社会化することを目的に、平成12年度から介護保
何か」を考えずに、安易にサービス給付を行うこ
険制度が導入された。介護保険法第1章第2条4
とで、介護度が悪化するような結果につながる
項に『被保険者が要介護状態となった場合におい
ケースが多いのではないか。
ても、可能な限り、その居宅において、その有す
もうひとつ、この制度の難しい点は、介護保険
る能力に応じ自立した日常生活を営むことができ
のサービスを利用して楽な生活を覚えると、多く
るように配慮しなければならない。』とあるよう
の人が、大変な思いをしてまで敢えて自分で行う
に、介護保険は高齢者の自立支援を理念とした制
必要性を感じなくなってしまうところにある。病
度である。しかしながら、実際には、制度開始か
気の治癒は喜ぶのに対し、介護度の改善には落胆
ら今まで軽度の要介護者(要支援者)は増え続け、
したり憤慨したりする理由の多くはそこにある。
一度要介護認定を受けた高齢者の要介護度が改善
また、前述の「対症療法的サービス」にも繋がる
vol.101
19
Academy
研修レポート年間優秀作② 北原 絹代
のだが、生活が介護保険サービス中心に成り立っ
て、生活不活発による身体機能の低下(老年症候
ている利用者にとって、たとえば「外出=デイ
群)が挙げられるが、これには意欲や自己効力感
サービス」である人が、デイサービスに行けなく
の低下など、精神面が大きく影響していることは
なったと言われれば、介護度が下がった喜びより
言うまでもない。介護保険サービスで身体面のサ
も、不安が勝ってしまうことは無理もない。
ポートはできるが、同時に精神面へのサポートが
高齢者の生活を構築するもの、支えるものは介
護保険制度だけではない。家族であり、友人であ
内閣府が行った『高齢者の地域社会への参加に
り、仕事・趣味・人との交流などの生きがいでも
関する意識調査』(平成15年)によれば、多くの
ある。このことを忘れてすべて介護保険のサービ
高齢者が生きがいを感じていると答えているが、
スで解決しようと思い込んでしまっている傾向が
生きがいと関連する項目として、都市規模別では、
あるのではないか。
(3)
「高齢者」
「要介護者」に対する社会的意識
これまで、
「介護保険サービスを受ける高齢者」
『感じていない』は「大都市」(20.3%)で割合が
高く、「小都市」(13.9%)では低い。同居形態別
では、
『感じていない』は「単身世帯」で30.5%
という角度から論じてきたが、実際に介護保険
と割合が高くなっている。健康状態別にみると、
サービスを利用している65歳以上の高齢者は、高
『感じている』は健康状態が良いほど割合が高く、
齢者人口全体の7分の1と言われており、単純に
親しい友人・仲間の有無では、
『感じている』は
考えれば、残り7分の6は自立した高齢者である
友人・仲間が多いほど割合が高く、
「沢山もって
と言える。にも関わらず、
「高齢者」という言葉
いる」では92.7%、「友人・仲間はもっていない」
に対する社会的なイメージは、やはり「支えられ
では39.8%となっている。
る側」
「サービスを受ける側の立場」といったネ
以上のことから、高齢者がいつまでも生きがい
ガティブなものがまだまだ多いように思う。この
をもっていきいきと生活するためには、健康であ
既成概念が、経験や知識・技術を豊富に持つ貴重
ると同時に、孤独を感じない環境が重要であるこ
な人材である高齢者の活躍の場を奪っていると言
とがわかる。
えないだろうか。さらに言えば、介護保険法第1
この2つの要素に働きかける手段として、前橋
章第2条4項には『被保険者が要介護状態となっ
市では、平成17年度より、地域で介護予防を実践
た場合においても、可能な限り、その居宅におい
するボランティア『介護予防サポーター』を育成
て、その有する能力に応じ自立した日常生活を営
しており、現在市内全域で300名程度が登録し、
むことができるように配慮しなければならない。』
活動している。介護予防サポーターの対象年齢は
とある。ここで言っている能力とは、手足が動か
おおむね60歳以上であり、これは仕事をリタイア
せる、トイレに行ける、などの日常生活動作を遂
した世代に自分自身のために介護予防を実践して
行するといったレベルのことだけではないと考え
もらうことと同時に、介護予防活動を通じて、地
る。たとえ身体が動かなくなったとしても、その
域での新たな関係づくり、役割づくりにつながる
人がそれまでの人生で培ってきた「有する能力」
ことを目的としている。この活動の特徴は、生活
がたくさんあるはずであり、それを最大限に活か
圏域毎のサポーターのグループを作り、行政は介
したその人らしい生活を構築するための支援とい
護予防や地域づくりに関する情報提供を積極的に
う視点を持つことが大切なのではないだろうか。
行い、活動内容はサポーター自らに考えてもらう
3.これからの在宅支援のあり方
20
なければ、自立支援につなげることは困難である。
ことにある。自分の住んでいる地域に必要だと感
じたこと、やってみたいと思う気持ちを大切にす
高齢者への支援には、身体面、精神面、経済面
ることで、活動が自発的なものとなり、継続に繋
の3つの要素があり、それぞれが密接に関連して
がること、またその地域に適したソーシャルサ
いると考える。特に、要介護状態になる原因とし
ポートが形成できると考えたからである。
vol.101
『その人らしく生きる』ための在宅支援
平成23年度 研修レポート年間優秀作
ある地区では、介護予防サポーターが中心と
の14.4%から2.6%ポイントの低下と依然減少傾向
なって自主グループを立ち上げ、介護予防プログ
にあり、特に10代男女、70代女性で大きく減少し
ラムを地域住民と一緒に行っている。その中で、
ている。当事者である高齢者のみならず、10代と
参加者として来ている高齢者の特技を熟知したサ
いう若年層までも老後を不安に感じている中、世
ポーターが、号令をかける人、合唱のピアノを弾
代間交流の機会を多くつくり、高齢者が元気でい
く人、軽体操を教える人などの負担にならない程
きいきとしている姿を見せ、歳を重ねることは不
度の役割を与えており、役を依頼された高齢者は、
幸なことではないと教えることが重要なのではな
休むことなく嬉しそうにグループ活動に参加して
いだろうか。
いる。ただ単に『身体が弱っているから運動をす
る』ということではなく、元気でいたいと高齢者
4.まとめ
自身に思わせるきっかけづくりが大切であり、こ
在宅支援の課題は、まず介護保険サービスあり
のような高齢者の能力を生かした取り組みを広げ
きで、その足りない部分を補うという対症療法的
ていくことが求められていると考える。
なことではなく、もっと本質的な人との関わり、
また、今後はさらに、介護予防の活動にとどま
支え合いの重要性をいかに多くの人が意識し、実
らず、高齢者の持つスキルを地域に還元できるよ
践できるかというところにあると思う。どの世代
うな人材バンク等の事業を推進し、文化的な活動
も安心して、長くここに住みたいと思うような魅
を通じて地域づくりを進めていきたいと考えてい
力的な地域にしていくことが、結果的に介護や高
る。いつまでも「社会から必要とされる存在」で
齢者福祉の問題解決につながるのではないか。そ
いることが、結果的に一番の介護予防につながる
のためには、縦割り行政を見直し、高齢福祉関係
と思うからである。
部署のみならず、行政全体でまちづくりのビジョ
サポーターの活動を市民に周知するために開催
ンを統一し、推進していく必要がある。
した『介護予防まつり』に参加した方からいただ
目指すは、高齢者をはじめとした住民全体がい
いたメールの中に、『サポーターさんがいきいき
きいきと元気な地域。それは、たとえ要介護状態
と活躍しているのを見て、私も歳をとるのが楽し
になっても、自分らしく生きられる地域とイコー
みになりました』という一文があった。国民生活
ルであろう。介護保険サービスにすべてを頼るの
選好度調査の中で、自分の老後に明るい見通しを
ではなく、逆に地域でできない部分を介護保険が
持っているかについてたずねる項目では、『自分
補う形になったとき、介護保険という制度が本当
の老後に明るい見通しを持っている』(「全くそう
の意味で生かされ、高齢者の生活を支える柱の一
である」+「どちらかといえばそうである」)と
つとなり得ると考える。
回答した人の割合は11.8%となっており、2005年
vol.101
21
Academy
行政事件から見る法令実務の必要性
∼手続的裁量統制の視点から∼
千原 洋久
兵庫県 三田市/議会事務局議事総務課庶務係長 これらは下級審の判断ではあるが、技術的な要素
1 はじめに
や専門的な要素があれば自由な行政裁量を認める
従来、司法による行政事件に対する判断におい
のではなく、説明不足、代替案の検討なし、考慮
ては、処分性、原告適格、訴えの利益を厳格に解
すべき事項(以下「要考慮事項」という。)を考
釈する傾向がみられ、救済を求める国民の側から
慮していないなどといった行政裁量の内容(手続
すれば訴訟により目的を実現するのは必ずしも容
きやその客観性)に立ち入って判断している。
易でなかった。しかし、最近は、行政事件訴訟法
さらに、最高裁では、裁量権の逸脱はないとし
改正をはじめ一連の司法制度改革などの影響も
ながらも、都市計画の決定又は変更の内容の適否
あってか、司法が国民の権利利益の救済・保障の
を司法が審査する際、行政裁量の基礎となる重要
ためにそれらについて柔軟な解釈をするような事
な事実に誤認がある場合や判断の過程において考
例や行政裁量に対する手続的統制を行う事例が多
慮すべき事情を考慮しないこと等により、その内
くみられるようになっている。一方で、地方議会
容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠く場合
が制定する条例に基づく行政活動については、そ
は、裁量権の逸脱・濫用であり違法との見地に
の合憲性・合法性について地方議会の立法裁量を
立って行政裁量の過程を詳細に審査した例(3)、都
認めるなど行政事件に対する司法の考え方に変化
市計画の裁量判断の合理性欠如について判断する
がみられる。
に足りる具体的な事実が確定されていないとして
ここでは、こうした行政活動をとりまく司法判
原審に破棄・差戻しとした例(4)がある。これらの
断の状況の変化とその対策としての行政の手続整
最高裁判決は、行政の裁量に一定の司法統制を及
備の重要性について、さらには、地方分権下にお
ぼそうとする傾向を示している。つまり、行政の
いて議会が条例制定をする意義について考える。
計画など政策や事業における裁量の幅は、確実に
2 行政裁量に対する司法判断の変化
従前、司法は、行政の専門的技術的判断、政策
的判断に関する裁量について、その余地を大きく
3 条例に対する司法判断の変化
これまで、地方公共団体の条例の合憲性や合法
認め合法と判断していた。しかし近年、たとえば、
性を争う場合、いわゆる目的・効果論の視点や立
都市計画を変更決定する際に行政が行った土地利
法事実の適格性について争われてきた。しかし、
用、交通等の現状調査や将来の見通し、都市計画
東郷町ラブホテル規制条例名古屋高裁判決では、
に関する基礎調査の結果が客観性、実証性を欠き、
(1)
「民主的手続きによる地方議会の裁量的判断を尊
合理性を欠くとした事例 。土地収用法第20条各
重」するとして、風営法と当該条例の別目的化、
号の要件認定について、いわゆる判断過程の統制
立法事実の適格性に加え、地方議会の立法裁量を
が働くとし、具体的な認定として、行政の説明が
認めた(5)。また、神奈川県企業税判決においても
根拠を欠く、費用の算定が不明確、代替案の検討
「地方議会の政策的、技術的判断を裁判所は尊重
をしていないとして、判断過程の過誤があり、事
せざるを得ない」として地方議会の立法裁量を認
(2)
業認定及び収用裁決を違法とした例 などがある。
22
狭くなっているのである。
vol.101
めている(6)。これは、司法が従来から国の法律の
行政事件から見る法令実務の必要性∼手続的裁量統制の視点から∼
平成23年度 研修レポート年間優秀作
憲法適合性を判断する際、国会が唯一の立法機関
るなど法令実務面から協力・支援し、原課の実務
であることやその民主的正当性から国会の立法裁
運用における法解釈や手続を適法かつより適正に
量を大きく認めてきたことを地方議会に敷衍した
推進する。現在担当している事務にどのような処
(7)
ものと評価できる 。
4 訴訟リスクと組織体制の整備及び自治
基本条例の活用
分性があるのか、その処分決定に必要な判断材料
は十分か、住民の理解は十分かといった実質的判
断を原課の職員がさらに意識するようになれば、
訴訟リスクは低減するだろう。
これら事例に共通する司法の考えは何であろう
2点目として、手続法的条例の活用である。近
か。それは、「正当な手続」の重要性である。司
年、自治基本条例や住民参加条例など市民の行政
法の行政裁量統制からは、行政が政策・事業を執
への「参加・参画」の視点から手続法的政策論が
行するに当たっては、代替案を検討し、要考慮事
流行している。自治基本条例は、住民自治確立の
項を考慮し、住民理解を得るなどといった一連の
ため当該団体の自治のしくみや市民参加等の手続
手続の重要性が導きだせる。裁量処分にいたる行
が規定される。議会基本条例についても、議決に
政の判断形成過程の合理性について審査する手法
いたるまでの手続や住民意見聴取のための手続が
(判断過程審査)やより純粋に手続的な観点から
規定されるため、この範疇の条例に位置づけられ
審査する手法(手続的審査)など、最近の判例に
(8)
る。
進化がみられる 以上、行政は、より慎重に手続
ところで、市の施策及び事業等について訴訟リ
を積み上げ、実質的判断を行い、この過程を住民
スクを低くするには、前にみたように要考慮事項
に説明する(あるいは共に創り上げる)ことが求
の考慮と住民との合意形成などといった手続が絶
められる。
対に必要である。そこで、行政が住民合意を含め
以上の観点から行政の訴訟リスクを低減させる
には、次の2点の対策が考えられる。
政策形成・判断する際の手続を明らかにするため
のツール(行政の判断形成過程の手続指針)とし
まず一つに市役所全庁的な法務体制を構築する
て自治基本条例を活用することができるのではな
ことである。行政組織では、法令実務を担当する
いだろうか。多くの自治基本条例では、市民への
組織(職員)が置かれている。多くの場合、その
情報提供として「政策形成等に関する事項につい
役割は条例案を審査する「審査法務」と訴訟にお
て、情報の提供に努める(10)」といった規定を定
ける実務を行う「訴訟法務」が中心であろう。こ
めている。しかし、司法の手続的裁量統制に対抗
うした法令実務担当課と原課には条例の立案時や
するには、これだけでは足りないように思われる。
訴訟時にしか接点がなく、法令実務と政策や事業
自治基本条例の嚆矢とされるニセコ町まちづくり
との間のつながりが薄くなりがちである。しかし、
基本条例では、町長が政策を提案するとき、①政
司法の裁量統制は原課が政策や事業を行うときの
策等の発生源、②検討した他の政策案等の内容、
手続面から入ってくるため、法令実務担当課以外
③他の自治体の類似する政策との比較検討、④政
の課にも今以上の法律的な考え方、特に手続に関
策等の実施にかかわる財源措置、⑤将来にわたる
する知識が必要不可欠となる。そのため原課と法
政策等のコスト計算、などの情報を町民に提供し
令実務担当課との連携を強化する必要があるだろ
なければならないことを規定している(11)。これ
う。すでに先進的な地方公共団体ではいくつか導
らは、司法の手続的裁量統制の審査視点とほぼ同
(9)
入 されているが、各部ごとに法令実務の知識を
様の事項である。これら事項を条例で行政が検討
持つ職員を「法務担当」として配置し、法令実務
すること及びその内容を住民に説明することを義
担当課との連携のもとに組織的な法令実務(政策
務づけし、行政がこれら手続を踏むことを担保す
法務)を行うことが有効である。法令実務担当課
ることは、先にあげた1点目の組織体制整備の面
と原課が訴訟の傾向を分析し、対策を共に検討す
からも、統一した行政内部の手続基準の指針とし
vol.101
23
Academy
研修レポート年間優秀作③ 千原 洋久
て原課に統制が働く意味がある。
い判断がなされるよう議員に対して情報提供や政
確かに侵害留保の視点に立つと「政策のための
策形成面でのサポートは十分だったか。前例踏襲
手続」は条例事項ではない。しかし、司法の東郷
主義に陥っていないか。こういった視点で厳しく
町条例及び神奈川県条例の判断は、議会が定立す
反省しつつ二元代表制の一翼としての議会の機能
る条例という「民主的手続き」が入ることで政策
を取り戻すべく議会事務局職員として法令実務の
の合憲・合法性が推定されることを示した。自治
視点から事務改善を行っていきたい。
基本条例は、当該地方公共団体の条例を束ねる役
割をも持つ条例である。各分野に及ぶ政策、事業、
計画の判断形成過程の検討手続を民主的な「議会
(1)平成17年10月20日東京高等裁判所 平成16
の手続」によって条例で定め、重みづけを行うこ
(行コ)第14号 建築不許可処分取消請求事件
とは、行政の訴訟リスクを低減させる有効な手段
(伊東大仁線事件)
ではないだろうか。また、地方分権時代の地方公
(2)平成16年4月22日東京地方裁判所 平成16年
共団体のあり方を考えるとき、こうした重要事項
(行コ)第205号 事業認定取消請求事件(圏央
留保の考えに立つ条例の重要性は増すものと考え
る。
(3)平成18年11月20日最高裁判所第一小法廷 平
成16(行ヒ)第114号 小田急線連続立体交差事
5 まとめにかえて
業認可処分取消、事業認可処分取消請求事件
司法が条例の違憲・違法審査の過程において、
(4)平成18年9月4日最高裁判所第二小法廷 平成
地方議会が条例を制定する民主的正当性を認めた
15(行ヒ)第321号 事業認可処分取消請求事件
ことで、今後、地方公共団体において行政法の基
本原理である「法による行政」のみならず「条例
(林試の森事件)
(5)その後、平成19年3月1日最高裁判所第一小法
による行政」が大いに進展するものと期待したい。
廷 平成16年(行ウ)第44号・第47号 愛知県
しかし、三田市議会も含め多くの地方議会の現
東郷町ラブホテル建築工事中止命令無効確認等
状はどうであろうか。合議制の議会の最大の長所
請求事件において、上告棄却され、名古屋高裁
である議員相互の議論による争点の明確化、多様
判決が確定
な論点の提示、政策提言がなされず、単に執行機
(6)平成22年2月25日東京高等裁判所 平成17(行
関の追認機関であるとの疑問が投げかけられてい
ウ)第55号 神奈川県臨時特例企業税通知処分
る。このような状況では地方分権時代の自立した
取消等請求事件
地方公共団体の立法機関に値しない。条例の処分
(12)
性についても認める最高裁判決
が出ている現
(7)鈴木庸夫本研修科目「条例・判例に学ぶ政策
法務の基礎1」レジメ
在、議会が条例を審議する姿勢はより積極的かつ
(8)櫻井敬子・橋本博之 「行政法(第2版)」
慎重でなくてはならないのである。この意味で、
(9)岡山市、静岡市、千葉県など各部に政策法務
司法が行う手続的裁量統制に関する視点は、議会
担当を配置し、政策法務課を中心に庁内で一体
の審議能力の復活に際しても有用だ。立法事実の
となって戦略的法務を行う体制を敷いている。
適格性や考えうる代替制度との比較、要考慮事項
(10)大和市自治基本条例、杉並区自治基本条例
についての検討といった視点から議会が条例審議
など
を行うことで、地方公共団体の訴訟リスクを低減
(11)栗山町議会基本条例においては、これら事
させ、条例を含む地方公共団体の政策の厚みを増
項を町長が議会に提供するよう求めている。
すことにもつながる。
なお、先の議会への批判は、議会事務局に対し
ても向けられるべきである。議会としてのよりよ
24
道土地収用事件)
vol.101
(12)平成21年11月26日最高裁判所第一小法廷 平成21年(行ヒ)第75号 横浜市立保育園廃止
処分取消請求事件
Academy
大和ミュージアムを拠点とした
観光まちづくり
増本 信宏
広島県 呉市/都市部都市計画課技師 1 はじめに
ています。しかし反対の駅南側は、既存工場群に
囲まれて人の往来の少ない地域となっていました。
呉市は、瀬戸内海のほぼ中央部、広島県の南西
一方、呉中央桟橋は、四国松山と結ぶフェリー
部に位置し、政令指定都市である広島市から南東
航路や高速船航路等を有し、1日平均約3,000人
約20kmの距離にあります。市域は瀬戸内海に面
の利用があります。しかし、周辺は港湾ふ頭や海
する陸地部と、瀬戸内海に浮かぶ島しょ部で構成
上自衛隊施設等に囲まれた閉鎖的な空間となって
されており、面積約350k㎡、人口約24万人の都
いました。さらにJR呉駅とはわずか500mの距離
市です。市域の大半は山地であり、陸地部の背後
にあるにもかかわらず、工場等に分断されて近接
には、標高300 ∼ 800m前後の山々が連なってい
している優位性を十分に活かしきれていない状況
ます。このため臨海部のわずかな平坦地に人口、
でした。
産業、都市機能ともに集中しています。
呉市の発展は、明治22年の海軍呉鎮守府の開庁
と同36年の呉海軍工廠の設置に始まります。それ
まで半農半漁の一集落に過ぎなかった呉は、わず
か半世紀足らずで世紀の巨艦「戦艦大和」を建造
そこで本市では、宝町地区全体が呉市の表玄関
としてふさわしい一体性のある賑わいと交流の拠
点となるよう、次のような取り組みを進めました。
(1)呉中央桟橋周辺の整備
呉中央桟橋では、海面埋立事業を含む周辺地区
するまでに至り、東洋一の軍港として栄えました。
約5.5haにおいて、平成12年度までに老朽化した
戦後、旧呉工廠跡にはその技術力を活かした鉄鋼、
旅客上屋の建て替えや浮桟橋の改修等のターミナ
造船、パルプ等の基幹産業が展開され、今日に至
ル機能の強化を行いました。埋立地約3.5haには、
る臨海工業地帯が形成されました。
大型商業施設が進出し、賑わいの核となる大和
本稿では、そのような歴史的背景を踏まえて建
設された大和ミュージアムを拠点とした宝町地区
ミュージアム等の観光施設も立地しました。
(2)大和ミュージアム等の観光施設の整備
のまちづくりについて、これまでの取り組みと現
平成17年、呉市の旧海軍の歴史、明治以降の日
状・課題を整理しつつ、今後の展望等について考
本の近代化の礎となった造船や鉄鋼をはじめとし
察したいと思います。
た科学技術を紹介する呉市海事歴史科学館「大和
2 背景
呉市宝町地区は、陸の玄関口であるJR呉駅と、
ミュージアム」を建設しました。
また、隣接地には戦艦大和の甲板の一部を実物
大で再現した港湾緑地「大和波止場」、実物の潜
海の玄関口である呉中央桟橋の二つの交通結節点
水艦を陸上展示した海上自衛隊呉史料館「てつの
を有する、まさに呉の顔とも言うべき地区です。
くじら館」など魅力ある施設が並び、本市を代表
JR呉駅は、JR広島駅へ約30分でアクセス可能な
位置にあって、1日平均乗車人員数1万3,000人
する観光拠点となりました。
(3)回遊性強化の取り組み
と中国地方で第6位の利用者数を誇ります。中心
JR呉駅と呉中央桟橋、大和ミュージアムを高
市街地に近い北側の駅前広場を中心として商業・
架で連絡する自由通路(歩行者専用道路)を整備
業務施設やバスターミナル等の都市機能が集積し
しました。4mと十分な幅員を確保し、雨露がし
vol.101
25
Academy
研修レポート年間優秀作④ 増本 信宏
のげるよう屋根を設けたほか、民間の大型商業施
ルバスを運行させてはどうでしょうか。観光客に
設内の通路と連絡させる等の工夫によって地区内
はバス料金・駐車料金が減免されるほか、バス運
の回遊性を高めました。
行道路に戦艦大和をモチーフにしたモニュメント
3 プラス点・マイナス点
年間40万人を想定していた大和ミュージアムの
入場者数は、開館からわずか5年4ヶ月で600万人
土産物の映像紹介等をするなど、さまざまな工夫
によって来訪者の自動車を中心部に誘導すること
が可能だと考えます。
を突破するなど呉市を代表する賑わい拠点となりま
またミュージアム周辺においては、大和波止場
した。この大盛況は戦艦大和の1/10スケール模型
や港湾ふ頭等のみなと空間を活用した土産物店や
や実物のゼロ戦等の兵器紹介だけで終わらず、戦
飲食店の展開が考えられます。特に呉では中心部
時中の兵員や市民の心情、大和乗組員の生の声な
の蔵本通りにおける夜間の屋台が有名であること
どを深く掘り下げて紹介していることに、戦争を知
から、夜の蔵本通り、昼の大和波止場として、屋
らない多くの方の感動を呼んだ結果だと考えます。
台やオープンカフェの展開がおもしろいと思いま
一方で、ミュージアム周辺にはコンビニエンス
す。また老朽化したふ頭倉庫をレトロなれんがづ
ストア等のちょっとした買い物ができるお店がな
くりに改装して産直品等も取り扱う土産物屋とす
いほか、喫茶店や飲食店等の休憩場も少なく、土
れば、大和ミュージアムからの帰りの観光客の来
産売り場のスペースもわずかなため、ミュージア
場が期待できます。
ムの滞在時間は長くても、以降に続いていく場所
がないという問題を抱えています。
またJR呉駅と呉中央桟橋を結ぶ自由通路は、1
日約1万人に利用されるなど新たな人の流れを創出
しましたが、大和ミュージアムへの来訪者は、観光
バスやマイカー等の自動車による利用が大半を占め
帰りのシャトルバスで中心部に戻れば、れんが
通りや蔵本通りにある飲食店での食事もでき、夜
の屋台や市街地のホテル等と連携した宿泊滞在型
の観光プランの提案も可能になると思います。
5 終わりに
ており、周辺に観光バスの駐車スペースが整備さ
宝町地区は、大和ミュージアムを拠点として、
れたものの、依然として駐車場が不足している状
地区全体が本市の新しい顔として生まれ変わりま
況です。このため地区内道路において交通渋滞が
した。しかし一方で中心市街地との賑わいの二極
顕著となるなど新たな問題も発生しています。
化が顕著となるなど、宝町地区を訪れる観光客を
他方で、大和ミュージアムから北東約1kmに
中心地を含め市内に点在する歴史的、文化的な観
位置するれんが通り商店街などの中心市街地には
光資源へどのように誘導し、いかに市全体の活性
観光客の足が伸びず、賑わいの広がりが得られて
化に繋げていくかが、今後の大きな課題となって
いない状況にあります。
います。パークアンドライド型の観光まちづくり
4 解決策への方向性
は、それらを解決するための一つの方向性になり
得るのではないかと思います。
そこで、大和ミュージアムへの来訪者を対象と
この研修では、全国各地の自治体の方と情報交
して、呉市の魅力をより一層堪能できるパークア
換させていただき、いろいろな考え方やものの見
ンドライド型の観光まちづくりを提案します。
方があることを再認識しました。これからは、こ
宝町地区は利活用可能な土地が少なく、大規模
の研修で得た知見と自治体間のネットワークを活
な駐車場の整備が難しい面があります。しかしれ
用しながら、前述の課題も含めて、本市のまちづ
んが通りや蔵本通り等の市中心部には十分な駐車
くりに少しでも貢献できればと心を新たにしてい
場(既存ストック)があります。そこで中心部駐
ます。
車場と大和ミュージアムとを連絡する観光シャト
26
や道路標識を設置したり、バスの中で観光案内や
vol.101
Academy
そもそも健康づくりって ∼町と住民と保健師と∼
山本 祐二
熊本県 あさぎり町/保健環境課健康づくり主幹 1 はじめに
合うこととなり、本人にも町の財政にも多大な負
担が生じることとなります。
平成22年、冬。町長室からの電話で呼ばれた。
ではいったい町の一般財源にいくら負担をかけ
「あなたは、今の医療費の伸び率とか健康づくり
ているのでしょうか。町の平成21年度国民健康保
について、どう考えている?」財政や情報の業務
険の歳入歳出状況から、風邪をひいたAさんと糖
に携わっていた当時、国保の運営状況、合併町村
尿病で人工透析を行うことになったBさんを例に
で近隣町村より2∼3倍保健師がいるにもかかわ
挙げてみました。あさぎり町では夫婦子供4人世
らず、他町村と変わらぬ医療費の伸びなどについ
帯で200万円の年間所得のとき、国民保健税は
て話すと、
「じゃあ、あなたがそこの課に行って
402,700円であります。これは熊本県内でも上位
なんとかしてみてくれないか」……。ことわれな
に 位 置 し て い ま す。 こ れ ら 国 保 税 を 集 め て も
かった、まさかの申し出……、同年4月異動。
556,818,000円 で、 3 割 個 人 負 担 の 残 り 7 割、
前任者のいない、引き継ぎもない、課にとって
1,466,121,000円には足りないので国・県・町から
は1人増員だが、業務はフリーという一風変わっ
の税金が充てられます。町だけをみると約10%強
た異動でした。それから7ケ月、自分なりに見え
が負担されるので、Aさんは内科に1回行くだけ
てきた問題点、特に財政面について述べていきた
でも5700円の1割、570円町の持ち出し(個人負担
いと思います。
1,710円)があります。Bさんにいたっては、毎
2 あさぎり町の現状と問題点
∼町の事情なんて住民は知らない?∼
年約577千円が負担となることになります。こう
いったことは住民はもちろん、町の職員もよく知
あさぎり町の高齢化率は29.7%と高く、これに
らないのかもしれません。病気になったら病院に
伴う医療費の伸びは毎年3%以上と試算されてい
行って3割負担すればいい、それの何が悪い、と
ます。しかし医療費を占める多くは生活習慣病か
いう考えをなんとかしないといけないとは思うの
らくるものが多く、普段の生活に気をつけさえす
ですが、広報紙、回覧、チラシの効力がいかほど
れば重篤化しないといわれています。死亡者の割
か悩むところです。
合も30%ががん、30%が脳溢血や糖尿病に代表さ
また子供医療費助成について町では、平成20年
れる血管病、その他が自然死や事故死となってい
4月から小学6年生までは無料化となりました。
ます。つまり60%以上は健康診断による早期発見、
しかし無料化ゆえのデメリットなのか、同じ病気
早期治療で元気な高齢者となる可能性があるので
で何件も別の病院に行き、その度初診料を払う多
す。
重受診が増え財政を圧迫していることがあるよう
病気の重篤化を川の流れで例えることがありま
です。ただし無料のうちに歯医者で治療してしま
す。上流からレベル1、2、3、滝壺に落ちたら
うという考えの方が多く、その分の負担増もあり
レベル5とした場合、レベル3程度であれば、ま
ますが、歯科健診での成績は格段に向上している
だふだんの生活を見直すことでレベル2や1に戻
ようです。
れますが、滝つぼに落ちてしまったレベル5にな
また介護保険については、冒頭記述した高齢化
るともう這い上がれない。つまり重い病気と付き
率の上昇が原因というのは否めませんが、少しで
vol.101
27
Academy
研修レポート年間優秀作⑤ 山本 祐二
も元気な高齢者が多くなることにより介護保険を
員個人が問題意識、目的等を認識しないことには
適用しない方を増やすしか負担減の方法はないと
決して「健康づくり」というゴールにはたどり着
考えます。
けないと思います。ましてや地区組織を新たに作
3 対応策
(1)医療費の増加を抑制するためには
側が目的の共有をしていないと伝わらないのでは
ないかと思います。そのためにはしっかりとした
町の一般財源負担を抑制するためには、重篤患
目的意識を持って、職員間の連携を強化すること
者や要介護者数を減らすことが重要と考えました。
が重要と考えます。また今やっている業務の見直
それには健康診断の充実による早期発見・早期治
し、評価も重要です。本当にその方向に向かって
療、 つ ま り 受 診 率UP、 未 受 診 者 を 含 め た フ ォ
いるのか、その事業は取り組んで正解だったのか、
ローアップに力を注ぐことではないかと思います。
例年通りでいいのか。事務・事業の評価の仕方も、
しかし、これまで同様にお知らせは広報紙やチラ
何人来た、何回開催しただけでなく、ヘモグロビ
シでしておけば十分、健診の案内は個別に届くか
ンA1cの値0.0%以上の人が何人減った等、今町が
ら行政ではもう精一杯のことをやった……。本当
取り組むのはどの疾病のどの検査項目に重きを置
にそうだろうか。確かに行政側には制約があり、
くのか等、具体的な指標を明確にするべきと考え
それは予算であったり決まり事であったり様々で
ます。そういったことも含めて職員間で目的を共
す。ただどうしようもないことをできない、しょ
有していくと、町の姿勢は住民に伝わり、その反
うがないと片付けず、なぜ健康診断に来てくれな
応に呼応した職場体制の見直しも必要となると思
いのだろう? と住民目線から行政を見つめ直し
います。
たことがあっただろうか。
自分に置き換え健康診断に行った際に、
「あの
4 最後に
先生いやだな。あの保健指導、なんであんな言い
今回の研修参加者80名中女性9割、事務職率
方するの?」など、思ったことはないだろうか。
5%という環境の中で、冒頭述べたような形で現
今回の研修で人には様々なタイプがあり、同じよ
在の職にある私には、重苦しい8泊9日になるだ
うに笑顔で接してもだめな人は受け入れられない、
ろうと予想していました。しかし、7ケ月しかな
良かれと思って言ったことが嫌味に聞こえる。も
い経験の私にわからない単語、言い回しなどあっ
しかしたら、あの時の保健指導が、事後指導がも
たものの、非常に「楽しい」日々となりました。
う行きたくないと思わせたのかも知れない。「忙
現在の医療状況、健康づくりへの様々な手法、
しいのかな、来なくなったな」で終わらず、その
コーチング、ファシリテーション等等、どれを
原因は自分のせいではと考えてみてほしい。また、
とっても新鮮。そして何より、町の保健師の苦労
さらなる保健師のスキルアップを望みたい。毎日
を理解するのに十分すぎる全国の仲間たちの経験
の事業や事務をこなすと、勉強や講習会への参加
談(女性は色々あるのよ、という人間関係はわか
がままならない。しかしこのことは、直接住民に
らないが)。ぜひこのお土産を地元に持ち帰り、
跳ね返って行くことだと思います。ぜひコーチン
冷めないうちに保健師のみんなに食べさせてあげ
グやファシリテーション講座等に参加してもらい
たいと思いました。ある先生が「80人が名刺交換、
たいと思うので、そのための準備、予算要求など
このネットワークはものすごく大事なもの」、と
早速取り組みたいと考えています。
おっしゃいました。数十万人の都市からあさぎり
(2)職員間の共通認識
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ろうとか既存団体に何かお願いしようにも、行政
町より小さい数千人の町までの参加者。しかし抱
町は住民のために様々な業務を行っている。健
える問題は一緒で目指すところも一緒。みんな元
康づくりはその中の大きな柱であり、健康に関す
気にいきがいを持って暮らしてほしい。そのため
る部署はいくつもある。しかしそれらの部署、職
に保健師、栄養士は、住民目線で縁の下の力持ち
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そもそも健康づくりって ∼町と住民と保健師と∼
平成23年度 研修レポート年間優秀作
になる努力をすべきである。そして私はさらにそ
したいとがんばっていたみんな、本当にありがと
の土台を支えるべく努力をしていこうと思いまし
う。そしてすばらしい講師陣、アカデミースタッ
た。
フに感謝です。全国の保健師、栄養士のみなさん、
今回出会った仲間、ディスカッション、グルー
プ討議でいい意味でぶつかった方たち、笑って、
笑って、泣いて、大声を出して、変な顔をして、
舌打ちをして、それでも町の実情を訴えて何とか
絶対に参加すべきです。未来は自分で切り開くも
の。
最後にこの研修に、快く送り出してくれた職場
の皆さん、ありがとうございました。
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