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研究成果Vol.20(P1
芸術系領域のプログラミング教育における学習環境要因の 解析 武 村 泰 宏 教 授 教養課程 平成 25 年度 コンピュータの本質を理解し,芸術活動におい つとしてピアレビューを取り上げ,プログラム成 てコンピュータを活用できる技能を育成するた 果物のピアレビューを設定したプログラミング めには,プログラミング教育は芸術系領域にお 教育を試行し,学習環境要因とモチベーションの いても有用である。近年のプログラミング教育 関連を解析した。 においては e-Learning システムも利用されてい ソフトウェア開発におけるピアレビューは,成 るが,学習成果に基づいたフィードバックが主要 果物の品質向上 /保証を図る手法で,身近な同僚 機能になっているため,学習成果と学習環境要因 の知識 /技能による検証作業である。本研究にお の関連が把握されていない。Munoz-Organero ら けるピアレビューは,学習者の成果物を学習者間 は e-Learning 学習者間の相互作用における行動 で評価し合う学習形態を指す。プログラミング環 パターンを分析し,学習者のモチベーションを推 境として Processing[4]を使用し,学習者間のピ 測する研究を行っているが[1],モチベーション アレビューによって成果物を評価して投票できる を考慮した e-Learning 側からの学習者支援に着 仕組みを,e-Learning システム(以下,Moodle と 目していない。また EDX,Coursera,Udacity と 呼ぶ)に構築した。本プログラミング教育におけ いった MOOC(Massive Open Online Course) [2] るモチベーションを測定および評価するために, においては,モチベーションの維持・向上に学習 「科目の興味度調査」 (以下,CIS と呼ぶ)と「教材 コミュニティが施されているが,どの程度寄与し の学習意欲調査」 (以下,IMMS と呼ぶ),および ているかは不明である。清水らは,e-Learning の ARCS アンケートを実施した。CIS と IMMS は, 必須機能としてメンタリング機能を挙げているが Keller の ARCS 動機づけモデル[5]を基にした, [3],理解状態との関連や学習者支援の開始時期 科目に対する興味度,教材への学習意欲を測定で には言及していない。 きるアセスメント尺度である。前者の質問項目は 芸術系領域において効果的なプログラミング 34,後者が 36 の質問項目で構成されている。それ 教育を実践するには,学習環境要因を把握するこ ぞれの質問への回答は, 「1. まったくあてはまら とが重要で,そのための定量的で体系的な解析が ない」, 「2. わずかにあてはまる」, 「3. 半分くらい 必要である。本研究では,プログラミング教育の あてはまる」, 「4. かなりあてはまる」, 「5. とても モチベーションを持続させる学習環境要因の一 あてはまる」の 5 段階リッカートスケールである。 60 いずれのアセスメント尺度も,ARCS 動機づけモ の注意:Attention 因子においても,授業終了時 デルの 4 因子(注意:Attention,関連性 :Relevance, に同様の傾向を確認した。さらに ARCS アンケー 自信 :Confidence,満足感:Satisfaction)のレベル トによる時系列なモチベーションの遷移において を測定できる。なお質問の和文は,鈴木による翻 は,注意:Attention 因子が 1−13 回の授業で他の 訳を用いている[6]。また,ARCS アンケートは, 因子より高い値を示していた。これより,ピアレ 先行研究において ARCS 動機づけモデルの 4 因 ビューといった学習環境要因が,学習者自身の自 子を基に開発している。 由作品を他の学習者が閲覧するといった状況にあ プログラミング教育の対象は,情報技術を専門 ることで,学習者の注意:Attention 因子を高め としない領域の学生 30 人で,教育項目を次のよ たと考えられる。したがって,プログラミング教 うに設定した。 育におけるピアレビューは,効果的な学習環境要 Processing の概要,図形を描く,変数と計算, 因の一つであると考えられる。今後は e-Learning 繰返し,色,入力,条件分岐,クイズ・自由作品 1, システム上に,プログラミング環境を構築し,さ ランダム・画像,フォント,動き,配列,関数,ク らに詳細な学習環境要因とモチベーションとの関 イズ・自由作品 2, 連に関する解析を計画している。 本プログラミング教育では,プログラム出力 として描画された画像や動画の成果物を “自由 参考文献 作 品 ” と し て 扱 っ て い る。自 由 作 品 の 投 稿 は, [1]M. Munoz-Organero. etc.. “Student Behavior and Processing のプログラミング環境においてプロ Interacion Patterns With an LMS as Motivation グラムのソースコードを Java アプレットにエク P r e d i c t o r s i n E - L e a r n i n g S e t t i n g s” . I E E E スポートし,Moodle へアップロードする。そして 学習者は,“自由作品 1”,“自由作品 2” を,Moodle によって学習者間でピアレビューする。ピアレ ビューにおける評価基準は「美しい・楽しい」とし, 学習者自身以外 4 人の作品を選んで無記名で投票 する。その際,1−4 人へのそれぞれの評価の重み を同一にし,自由作品への評価結果を公開して全 ての学習者が閲覧できるようにした。 学習環境要因の解析のため,CIS および IMMS Transactions on Education.Vol.53 Issue3. pp.463470(2010) [2]Fred Martin. “Is There a MOOC in Your Future?.” Prooc. of FIE 2012. p. xv(2012) [3]清水康敬 他,NIME 研究報告,効果的な遠隔教育 / e-Learning 実施の視点,pp.13-14(2005) [4]Procesing. org: http://processing.org/ [5]J. M. Keller and K. Suzuki: “Use of the ARCS motivation model in courseware design” In D. H. Jonnasen(Ed.),Instructional designs for をプログラミング教育の開始時と終了時に,モチ microcomputer courseware,Lawrence Erlbaum ベーションの時系列な測定は毎回の授業終了時に Associates. Chapter 16, USA(1987) . ARCS アンケートを実施した。その結果,CIS では [6]John M.Keller(原著),鈴木克明(翻訳) :学習意欲 授業終了時に,4 因子における注意:Attention 因 をデザインするーARCS モデルによつインストラ 子が有意水準 5%で上昇が確認された。また IMMS クショナルデザイン,北大路書房(2010) 61