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第2節 立 木 補 償 - 国土交通省 九州地方整備局

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第2節 立 木 補 償 - 国土交通省 九州地方整備局
第2節
立
木
209
補
償
210
第38条関係(立木の移植補償)
項
目
立木補償金算定について
【質疑の概要】
立木の補償金算定で、留意する点は、どのようなことか。
【対
応】
支障となる立木は、公園事業等のように取得用地の立木を取得して、
そのまま利用する場合を除き、一般的には建物等と同様に起業者にとっ
ては必要としないものであるから、どこか別な場所に移転する補償を行
えばよい訳である。通常、庭木類は移植に要する費用を補償し、移植す
るよりも伐採したほうが合理的なもの、例えば、用材林などの立木は伐
採に要する費用等を補償することになり、どちらの補償方法によるかに
ついては補償対象となる立木の種別、利用方法、移植場所の有無等を総
合的に考慮して判断すべきと思われる。
(1) 移植補償について
移植に適する立木には、庭木や収穫樹があり、これらの立木を移
植する場合の補償金には掘起し、運搬、植付け等に通常要する費用
のほかに、枯損に係る損失補償や収穫樹の場合は移植後の一定期間
の減収補償等を含む。ただし、その補償金額は、通常、立木の取得
額を超えてはならず、その理由として、移植対象となる立木は、同
種同価値のものが市場に存すると考えられ、過大な費用をかけて移
植するよりも、新しい立木を取得して、移転先に植樹したほうが合
理的な場合があるからである。この場合、市場価格には、立木その
ものの店頭価格のほかに、植樹費用も含まれる。しかし、最終的な
移植か伐採かの判断は、補償額の比較により行うが、庭木類の場合
の伐採補償額は、樹価(市場価格)+伐採除却費−発生材価格となる。
ただし、天然記念物等については、特別な補償方法となる。
(2) 伐採補償について
山林に存する立木など、移植に適さない、あるいは必要としない
立木は、伐採補償を行うことになる。伐採補償を行う立木には、①
建築物等に利用する用材林、②炭などに利用する薪炭林及び野立の
雑木、③果樹等の収穫樹。④竹林の 4 種類がある。そのなかで、①
の用材林を伐採する場合を例として、補償方法を見てみる。
用材林は当該立木の育成期間により、次の 3 つに分けて補償して
いる。(a)伐期未到達で市場価格のない立木の補償、(b)伐期未到達
で市場価格のある立木、(c)伐期の到達した立木である。
( a)については、その立木を育てるのに要した費用と伐採除却に
要する費用から発生材としての処分価格を控除した額を補償する。
211
(b)については、その立木が伐期に到達した時に得られるであろ
う収益を現在価値に置き換えた額に間伐等による収益があれば、そ
の分を控除した額を補償する。
( c)については、現在でも立木を成木として通常価格で市場に出
すことができる訳で、実質的には何等損失はないのであるから、起
業者の工事施行の都合によって伐採時期を選定できないことによる
費用の増加と需給バランスの不均衡等が生じることによる買い叩か
れの損失を補償することになる。
一般的な算定方法は、用材林木は、1ヘクタール単位、収穫樹は
10アール単位で算定し、最終的に1本当たりに換算する方法をと
っている。庭木類については、一度に多量の立木を調査、算定しな
ければならないから、樹種、樹径などで区分し、それぞれの分類ご
とに樹価を決め、算定している。
しかし、このような場合でも特殊な立木がある場合、例えば、樹
齢が相当に経っており、現実に用材として利用できない立木等につ
いては、個々の事情に適合した補償を行うよう留意すべきであろう。
【その他参考】
「月刊用地」
1987年
1月
212
項
目
立木補償の税務について
【質疑の概要】
公共事業により土地を収用したが、その土地に「鑑賞用の立木」があ
り、次の事例のようにこの立木について移植補償を支払った。ところが
被収用者は、移植と、伐採と新規購入を併せて行った場合、すなわち補
償した内容と被収用者が行った内容が異なるときは、税法上どのように
取り扱うか。
(例) 立木補償
1 松 3 本移植補償額 イ 50,000 円 ロ 30,000 円 ハ 20,000 円
2 﨔 10 本移植補償額 100,000 円(1 本当たり 10,000 円× 10 本
=100,000 円)
3 梅 10 本移植補償額 1,000,000 円(1 本当たり 100,000 円× 10 本
=1,000,000 円)
合計 23 本 1,200,000 円
被収用者が実施した内訳
1 移植に要した費用 松イ 40,000 円 梅 5 本 400,000 円
2 伐採に要した費用 松ロハ、﨔 10 本、梅 5 本 10,000 円
3 新規購入植込費用 松 1 本 500,000 円、梅 1 本 100,000 円
庭石組一式 150,000 円
合計 1,200,000 円
【対
応】
植木など鑑賞用の立木(山林所得の対象となる立木を除く。)の移植補
償金は、被収用者が補償対象となった立木を移植するか、又は伐採する
かによって、その取り扱いは、次のようになる。
1
補償対象となった立木を移植する場合は、その交付を受けた移植
補償金は、原則として一時所得の収入金額となる。しかし、立木の
移植のために要した運搬費用、植付費など、交付の目的に充てられ
た金額は、一時所得の収入金額から除かれる。
2 補償対象となった立木の一部又は全部を伐採した場合は、被収用
者の選択により、伐採した部分の移植補償金を譲渡所得の収入金額
とすることができる。
(1) 交付を受けた移植補償金を一時所得とする場合は、移植補償金
の、合計額から、移植のために要した運搬費用、植付費用のほか、
伐採に要した費用を除いた残額を、一時所得の収入金額として計
算する。
(2) 伐採した部分を譲渡所得として選択する場合は、伐採した部分
の移植補償金の額を、譲渡所得の収入金額とし、伐採しなかった
213
部分の移植補償金は一時所得の対象として、前記 1 により取り扱
う。
なお、譲渡所得の収入金額とした部分については、収用等の場合の
譲渡所得の課税の特例の対象となる。
【その他参考】
名古屋国税局見解
214
項
目
立木取得補償における消費税額の補償の要否について
【質疑の概要】
個人(事業者ではない者)の立木が取得補償の対象となる場合、起業者
は「消費税等の税額の補償」をすべきか否か。
【対
応】
「公共事業の施行に伴う損失の補償等に関する消費税及び地方消費税の
取扱いについて 」(平成9年3月14日中央用地対策連絡協議会理事会決
定)において、事業者である土地等の権利者から課税資産の譲渡等を受け
る場合の対価たる補償金については、消費税及び地方消費税を含まない価
格等に、消費税及び地方消費税率を乗じた額を加算するものとされている。
事業者が課税資産を譲渡等した場合には消費税及び地方消費税が課さ
れ、公共事業のために事業者が国や地方公共団体に課税資産を譲渡した場
合でも例外ではない。そのため上記の取扱いは、公共事業による資産の譲
渡がなかったならば課されることのなかった消費税及び地方消費税の税額
について、これを対価補償金の一部として補償するとしたものである。
立木の取得に係る補償金は、権利者から資産の譲渡を受けることの対価
たる補償金に該当するが、質疑のように権利者が事業者でない個人の場合
は資産を譲渡しても消費税上の納税義務はなく、消費税及び地方消費税を
課されることはない。したがって、上記のように税額分を補償する必要は
ない。
なお、課税資産の譲渡等を受ける場合の対価たる補償金についての「消
費税等の税額の補償」の要否については 、「公共用地の取得に伴う消費税
等取扱いマニュアル」のP46フロー図1を参考に判定されたい。
【その他参考】公共用地の取得に伴う消費税等取扱いマニュアル
215
第39条関係(用材林の伐採補償)
項
目
立木の伐採補償について
【質疑の概要】
土地等の取得又は土地等の使用に係る土地に用材林等の立木がある場
合において、これを伐採することが相当であると認められるときは、用
材林の伐採補償基準等に基づき補償額を算定しているところである。
しかしながら少数の用材林等の立木がある場合は、伐採を請け合う業
者が見つからないなど補償金を支払うだけでは移転補償の契約ができな
い場合がでてくるが、こんな場合はどのように対応すべきか。
【対
応】
用材林の場合、通常の山林経営として一定規模を予定して市場価格、
経営費及び事業費等の各要因が積み上げ計算されているので、一定規模
以上の場合は問題ないが、規模が小さい場合及び支障部分が少量で伐採
等の事業内容が相違する場合は問題がある。
起業者が、事業の用に供する目的及び保安防災上の目的で立竹木を存置
させることが相当と認めた場合のほか、適正な立木の管理を行っていない
場合や、適正な立木の管理を行っていても被補償者の利得がマイナスの場
合においては、取得補償することができる。
216
217
第3節
営
業
218
補
償
219
第43条関係(営業廃止の補償)
項
目
営業廃止補償の要件について
【質疑の概要】
営業廃止補償の対象に、平成10年度の基準改正により、下記が追加
されましたが、具体的にどのような職種があるのかご教示願いたい。
・細則第26 1−五
生活共同体を営業基盤とする店舗等であって、当該生活共同体の外に
移転することにより顧客の確保が特に困難になると認められるもの。
【対
応】
平成10年度の基準改正により、営業廃止補償を行う対象に、生活共
同体の外に移転することにより顧客の確保が特に困難となる営業所等が
追加された。
地域の社会・生活と一体となっているような店舗等にあっては、その
移転先等によっては、店舗の再開が著しく困難と認められる場合がある
ので、このような営業所等については、営業廃止補償の対象に加えられ
たものである。
例えば、農村、山村又は漁村地域にあっては、ひとつの集落の住民が
色々な面においてお互いに助け合って、又は補完し合って、生活共同体
としてひとつの地域社会を形成している場合が多いと思われる。
このような地域社会の住民は、誰かが困ったときには互いに援助し合
うという一種の社会保険に入っていることと同様であると見ることもで
きる。このような地域社会・生活共同体にあって営業を行っていた営業
体の中には、当該地域社会・生活共同体を離れては、営業を継続するこ
とが著しく困難であると認められる場合がある。
例えば、山間地のダム事業予定地になっている集落で、地域住民のみ
を顧客として、食料品・日用雑貨品店を老夫婦が営業しているような店
舗にあって、移転により、当該地域社会・生活共同体を離れることとな
った場合で、移転先地が市街地となるようなときは、移転先地において
新たに顧客を開拓し、従前の営業を継続することは困難と考えられるの
で、営業廃止補償の対象となり得ると考えられる。
なお、集団移転地が計画され、当該地域社会・生活共同体が集団移転
地に移転するときで、当該店舗も集団移転地に移転するようなときは、
従前の生活共同体の構成員の多くが集団移転地に移転するから、顧客の
確保ができることになるので、このような場合にあっては、営業廃止補
償の対象とはなりません。
なお、営業廃止補償対象として掲げられている各号に該当するものは、
必ず、営業廃止となるものではなく、個別的な事業を調査し、社会通念
220
上、当該店舗等の妥当な移転先がないと認められるときに営業廃止の補
償となるものである。
【その他参考】
用地ジャーナル
1999年
11月号
221
補償Q&A
項
目
堤外民地における青空駐車場について
【質疑の概要】
河川法第 6 条第 1 項第 3 号の指定を受けている地域内の土地を未利用
のまま放置していた土地所有者の妻は、当該土地の付近地の職場に勤務
する民間会社等のサラリーマンの通勤用の駐車場が不足していることを
奇貨として、ここ数年当該土地(約 300m2)をなんら手を加えることなく
青空駐車場としてサラリーマン相手( 20 台分)に副業的に月極めの駐車
料を得ていたが、このたび河川改修により全面買収されることになった。
このような場所的限定による土地利用の形態を復元することは客観的状
況から判断して困難となるので、土地代のほか営業廃止補償が出来るか。
【対
応】
土地についての現実の使用方法は、必ずしもその土地の効用が最高度
に発揮される可能性に最も富む使用(最有効使用)に基づいているもので
はなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のため、当該土地が
十分な効用を発揮していない場合があるが、土地の価格は最有効を前提
として把握される価格を標準として形成される。取得する土地に対して
は正常な価格をもって補償することになるが、この正常な価格を求める
にあたって最有効使用の原則は前提条件となる。
河川区域における堤外の民地は、周囲の土地利用の動向とも関連があ
るが、土地利用の規制等の行政的要因が働くため、限定的な使用方法に
限られることが通例であると考えられる。周辺が農地地域であれば土地
評価上は農地であることが一般的であり、農地としての価格は災害等の
危険を考慮すれば減価要因の働くことは十分予想され、付近の、堤内民
地の農地より減価した価額が成立するのが一般的である。
一方、設例のごとく当該土地が付近地との関係からサラリーマンの通
勤用の車を駐車することとした利用が①良識と通常の使用能力をもつ人
が採用するであろうと考えられる使用方法であること②使用収益が、将
来相当の期間にわたって持続しうる使用方法であること③効用を十分に
発揮しうる時点が予測しえない将来でないことの諸点から判断して最有
効であれば駐車場を前提とした評価は可能であろうが、これとて市街地
にある設備等を具備した駐車場と同一視することは当該土地のもつ諸条
件からして困難であろう。
ところで、上記の駐車料(総収益)は、いかなる意味をもつかを分析す
ることが設例の解決のキーポイントとなる。一般に土地、資本、労働及
び経営(組織)の各要素の結合によって生ずる総収益は、これらの各要素
に配分される(収益配分の原則)といわれている。したがって、このよう
な総収益のうち、資本、労働、及び経営(組織)に配分される部分以外の
222
部分は、それぞれの配分が正しく行われる限り土地に帰属するものであ
り、これが地代に相当する部分であり、この地代等から算定される推定
の価格が不動産の鑑定評価でいう収益還元価格である。
また、基準でいう「営業」の概念は、収益配分の原則でいう経営(組
織)体に着目したものであり、経営体が実在しないものは営業として取
扱うことはできない。
経営体とは「一定の継続的施設を基礎として人による組織的協働によ
って生産活動が持続的に営まれる計画的な活動の組織をなすもの」と定
義される。すなわち、人的あるいは物的な各要素が結合した有機的な働
きを有する統一体と解することができる。それ故、当該設例において駐
車場として運用するにあたって、人と設備等の結合により有機的働きを
するもの(経営体)が実在すれば「営業」としてとらえることができる。
したがって、設例の場合においては経営体が実在するかどうかを精査し、
実在すれば損失の実態に着目して補償することになる。また、当該土地
に囲障とかコンクリートのたたき等の施設が実在している場合には、支
障物件の補償で対応すれば十分である。
おわりに、当該土地の単位当たりの駐車料>当該土地の単位当たりの
地代という関係が存し、かつ、経営体が実在しない場合は、買い急ぎ等
の理由で正常価格以上で入手した者に対しても正常価格で買い取るのと
同様、ただ、元本と果実との相違はあるが、同様な理由により賃借人に
おいて正常な賃料以上のものを支払っているのみにすぎず、賃貸人の過
剰な利益を補償の対象とすることはできない。
【その他参考】
「月刊用地」1980 年 4 月
223
第44条関係(営業休止等の補償)
項
目
平均賃金の算出について
【質疑の概要】
営業休止の補償のうち、休業補償(人件費の補償)の平均賃金の算出は、
決算書の数値によるのか、又は給与台帳の賃金によるのか。
【対
応】
補償額算定の時期は、用対連基準第 3 条により契約締結の時の価格に
よって算出するものとされているので、算定資料は至近のものでなけれ
ばならない。
営業補償における至近の資料としては前期決算書があり、収益の認定、
固定的経費の認定等これに基づいて算出する。
収益額認定の基本となる営業利益は、この期の売上げから原価計算(期
首たな卸し+当期仕入れ−期末たな卸し)による原価を差し引き、更に
販売費及び一般管理費を差し引くことにより算出されるが、この期の「売
上げ」と「原価」とは個別的な対応関係にあり、また、この期の「売上
げ」と「販売費及び一般管理費」は期間的な対応関係にあるということ
がいえる。
したがって 、「収益減の補償」をする場合の認定収益額の算出は決算
書の数値の中から導き出せるし、また、損金として処理された経費の中
から補償の対象となる固定的経費を認定することになるので、これら補
償の基礎となる客観的資料は、決算書以外にはないということになる。
しかし、休業補償(人件費の補償)の算出に必要な社員の給与について
みると、この科目は単独で(対応関係がなく)存在するといえるし、また、
前期決算時と契約時では社員数が異なることも多いので決算書でなく、
給与台帳により算定すべき日以前 3 ヵ月間に支払われた賃金(賞与を除
き、給料、手当その他通常賃金の一部として認められる家族手当等)を
調査し算出する。
【その他参考】
「月刊用地」1980 年 4 月
224
項
目
短期借入金の利子について
【質疑の概要】
営業休止補償の場合、固定的経費の内訳で長期借入金の金利は補償さ
れるが、短期の場合は対象外である。
中小企業あるいは零細企業にあっては長期の借入れがむずかしく「書
換えによる手形融資」の方法が通常である。銀行の申し合わせによれば、
この資金繰りを「短融」即ち「一時的な短期決済融資方」として 3 ∼ 6
ヵ月の期問内でこれを行っている。中小企業若しくは零細企業において
は、この「短融」を運転資金等に運用されているが、なぜこの支払利息
は対象外になるのか。
【対
応】
企業は、営業を休止しても一定の経費を固定して支出しなければなら
ない。これらの経費は、営業をしていれば売上利益の中から補填するこ
とができるが、営業休止期間中はそれができないので、これらの経費を
補償する必要がある。
借入金には、長期と短期の 2 通りがあり借入金の返済期日が決算書の
決算期日より、1 年以上のものを長期借入金といい、1 年未満のものを
短期借入金という。
長期借入金は貸借対照表の固定負債の項で表示され、短期借入金は流
動負債の項で表示されている。
このように短期借入金利子は、取引先や銀行等から短期的に融資を受
けた場合に生ずる利子であるので、これが休業期間中にかかるものであ
るのかどうかを借入期間や利子率等を調査して算定することは、実務的
に作業が繁雑になることと部分的に精度を高めることによる営業補償全
体への影響が微少であることにより長期借入金利子のみをもって固定的
経費とし、短期借入金利子は原則として固定的経費から除くこととされ
た。設問のように形式的には短期借入金であるが実質的に長期借入金そ
のものであり、休業期間中にかかる借入金利子であることが明確であれ
ば、短期借入金であっても固定的経費として補償の対象となる。
【その他参考】
「月刊会報」1984 年 7 月
225
項
目
サービス・ステーション・マネージャー契約に基づき営業し
ているガソリンスタンドの営業補償について
【質疑の概要】
道路事業の施行に伴い A 石油会社が所有するガソリンスタンドが支
障となり移転の必要が生じている。このガソリンスタンドの経営は B
氏が A 石油会社と「サービス・ステーション・マネージャー契約」を
締結し、A 石油会社の施設を貸借し委託販売を行っている。この場合に
販売委託者である A 石油会社に対して当該ガソリンスタンドの営業を
休止することに伴う営業補償を行うことができるか。
なお、サービス・ステーション・マネージャー契約に基づくガソリン
スタンドの営業形態は、次のとおりである。
1
土地については、委託販売者所有の場合と石油会社所有の場合の
両形態があるが、本件の場合は A 石油会社が所有している。
2
施設については、A 石油会社の所有でマネージャーがこれを賃借
して営業を行っている。
3
委託商品は、ガソリン類だけでその他の商品についてはマネージ
ャーが自己仕入れで販売している。
4
委託商品の販売価格は、A 石油会社が基準価格を設定しているが、
実際の販売価格はマネージャーの判断に委ねられている。
5
委託商品の所有権は、顧客に販売されるまでは A 石油会社に属
している。
6
委託商品の売上代金は一旦 A 石油会社に納入されるが、納入さ
れる代金は実際の販売価格ではなく A 石油会社が決定した「基準
価格×計量器の吐出量」である。
7
A 石油会社は、マネージャーに対して「 1 ㍑当たり単価(石油会
社が定めた価格)×計量器の吐出量」の販売手数料を支払う。
8
公租公課については、A 石油会社所有の施設不動産、動産及び委
託商品は A 石油会社の負担であり、営業に伴う事業税等の諸税は
マネージャーの負担となっている。
【対応】
A 石油会社が土地買収代金、物件移転料に加えて営業補償の請求をし
たのは、当該ガソリンスタンドは A 石油会社において直接経営してい
るものではないがサービス・ステーション・マネージャー契約により委
託販売しているとの認識に立っているためと考えられる。したがって、
問題となるのは販売委託者である A 石油会社を当該ガソリンスタンド
の営業主体として認定することができるかどうかについてである。サー
ビス・ステーション・マネージャー契約の内容及び当該ガソリンスタン
226
ドの営業内容に沿って分析してみると以下のようなことがいえる。
1 石油類の販売価格について
契約上の委託者である A 石油会社は、販売基準価格を設定してい
るが、それはあくまで A 石油会社が定めた販売基準価格であり、マ
ネージャーである B 氏が当該ガソリンスタンドを経営するにあたっ
ては、この販売基準価格に何ら拘束されるものでないことは契約上か
らも、経営実態からも明らかである。したがって、石油類の実際の販
売価格は、マネージャーである B 氏が自己の営業方針に基づいて決
定している。A 石油会社の定めている販売基準価格の内容は、A 石油
会社の卸価格に一定の手数料(マネージャーの得るべき標準的利益)を
加算した価格であり、マネージャーがガソリンスタンドの営業を行う
にあたっての販売価格の指針であり A 石油会社における収益の安定
的確保のためのものといえる。
2
売上代金を A 石油会社へ納入させていることについて
売上代金を一旦 A 石油会社へ納入させる形式をとっていることの
理由としては、① A 石油会社における販売実績確認のため② A 石
油会社における収益の安定的確保のため③納入することを契約内容
にしていることは当該ガソリンスタンドにおいて A 石油会社以外
の製品を取扱うことの防止のための手段といえ、これは両当事者間
の合意による特約契約の一形式にすぎないものといえる。
3
営業に関する危険負担について
A 石油会社は、販売基準価格を設定することにより、実際にマネ
ージャーの販売する価格にかかわらず一定の利益を得ている。また
施設に関しては、賃貸料をマネージャーから徴収していることによ
って施設の所有者としての収益を安定的に確保している。これに反
し、マネージャーは販売価格によっては、欠損を生じても A 石油
会社に販売基準価格に基づく販売量に対応する一定額を納入しなけ
ればならない。したがって、当該ガソリンスタンドの営業に関する
リスクはマネージャーが負担しているといえ、A 石油会社は、実質
的には卸元としての危険負担をおっているだけといえる。
4
施設について
前述したように、A 石油会社は施設(土地を含む。)の賃貸料を B
氏より徴収しており、A 石油会社と B 氏の間に家主(地主)と借家
人の関係が成立していることを認めることができる。
以上のようなことからして、サービス・ステーション・マネージャー
契約(A 石油会社のいう委託販売契約)は、委託販売方式というよりも一
種の特約店販売方式とみるのが妥当と考えられる。つまり両者の関係は
販売委託者と販売者というより特約契約を交わした卸元と小売業者の関
係にあると認定することが妥当であり、B 氏は、A 石油会社の 1 使用人
であるとは認定しがたい。
227
結論としては、このような場合に A 石油会社を当該ガソリンスタン
ドの営業主体として認定することはできない。A 石油会社の蒙る営業上
の損失は、特約店である B 氏のガソリンスタンドが休業することに伴
い、特約契約を結んでいる卸元が小売販売店を一時的に喪失したと考え
るべきものであり、現行基準においては、小売店が休止した場合その卸
元へ遡及する二次関連の補償までもを補償対象として措置することは認
めていない。したがって A 石油会社に対する補償としては、土地売買
代金、物件移転料、家賃減収補償等の補償を行えば足り、営業補償は二
次補償となるため補償することはできない。一方マネージャーである B
氏は、サービス・ステーション・マネージャー契約による石油類の販売
以外に、自己仕入れによる自動車用品の販売、洗車、オイル交換及び軽
微な点検整備等の営業も併せて行い、当該ガソリンスタンドを経営して
いるものであり、当該ガソリンスタンドの営業主体はマネージャーの B
氏といえる。したがって当該ガソリンスタンドが公共事業の施行のため
移転する場合には借家営業者として措置することとなる。
【その他参考】
「月刊用地」1978 年 12 月
228
項
目
アパートの家賃収入と営業補償について
【質疑の概要】
アパートの家賃収入は営業補償として補償することはできないか。
【対
応】
一般的に家賃収入に対する損失は家賃減収補償(用対連基準第 33 条)
によることとされており営業補償(同基準第 44 条)として補償すること
はできない。
営業補償というのは、本来、資本・労働及び収益に関する補償が主た
る内容となっており、そこには営業体が存在することが前提となってい
る。
そして、公共用地の取得等に伴って、これら営業体に損失が発生した
ら、起業者がその損失を補償する、即ち営業補償を行うということにな
る。
したがって、内職とか、青空駐車場とか、そこに営業体の存在が無い
場合には、営業補償はすることができない。そこで、設問のアパートに
ついて考えてみると、アパートとは小規模的概念で、不動産賃貸業とし
ての業登録はされていないのが一般的であり、家賃減収補償が適用され
る。
しかし、その規模が大きくなり、かつ、レヂデンス等と名称も変り営
業そのものとなると補償する場合の考え方が違ってくる。
例えば、多くの賃貸ビルを持っている経営者のビルの一つが公共事業
で移転することになったとしたら、これは用対連基準第 33 条による移
転期間中の家賃収入を補償するのではなく、その経営者に対して、用対
連基準第 44 条による営業休止等の補償を行うのだということになる。
以上、大別すると、個人所有の賃貸建物は家賃補償(所得補償)、業に
係る法人所有の賃貸建物は営業補償(収益補償)ということになる。
なお、家賃を補償するというのは売上だけの補償であるが、営業補償
は収益、人件費、得喪、固定的経費等と、それぞれの損失に対する補償
であるということが言える。
【その他参考】
「月刊会報」1984 年 9 月
229
項
目
倉庫業の補償について
【質疑の概要】
1
倉庫業においては、仮倉庫補償を行えばよいか。又この場合通常の
営業補償は不要と考えてよいか。
2
預け入れ荷主が 1 ∼ 2 社で大口である場合、荷主に営業上の支障が
出るとしたら二次的補償として荷主に対し営業補償を行うのか。
【対
応】
倉庫業の定義は「保管料を受けて、自己所有の倉庫に他人の寄託貨物
を保管して、寄託者に対し倉庫証券を発行し、倉庫を賃貸し、又保管物
の質入れ、代金取立て、売買の周旋などもする営業」である。
それで、倉庫業者所有の倉庫だけ(営業所等は別のところにある。)が
公共事業のため支障になった場合は、次のように考える。
1
倉庫を移転させるには、まず倉庫を空にしなければならないので
中にある貨物を①一時他所(仮倉庫)に移し、移転工事期間中仮保管
する②荷主との契約を解除させ空にする③新たな保管(預かり)をス
トップして倉庫が空になるのを待つ④②と③の方法を併用し空にす
るという方法が考えられる。
保管に係る貨物が簡易な仮倉庫になじむものであれば①の方法を
採用し仮倉庫の補償を行えばよいと思われるが、②③④の方法を採
用した場合の営業休止補償、再建工法との経済比較は当然必要であ
る。仮倉庫補償を行う場合は、営業上の損失は特に生じないので通
常の営業補償は不要である。
2
用対連基準第 4 条で「損失の補償は土地等の権利者に対してする
ものとする 。」と規定され、荷主に営業上の損失が発生したとして
も起業者は荷主に対して補償することはできない。
荷主はただ単に倉庫業者と関係があるだけで、もし、保管契約の
解除等に伴い損失が生じ、約款上も補填の規定があれば、荷主はそ
の損失を倉庫業者に負担させることになる。倉庫業者が荷主の損失
を負担することによって営業上の損失が生ずれば、起業者は倉庫業
者に対して補償を行うことになる。
【その他参考】
「月刊会報」1984 年 8 月
230
項
目
事業税は固定的経費の補償の対象になるか
【質疑の概要】
用対連細則第27の
(2)の固定的経費のうち、一の公租公課について「固定資産税、都
市計画税、自動車税等を対象として補償し、営業収益又は所得に応じ
て課税される法人税、所得税及び印紙税、登録税等は除外する」とな
っており従前補償の対象として例示されていた事業税の記載がないの
で事業税を補償対象から除外すると解してよいか。
【対
応】
事業税を固定的経費の対象とすることは下記理由によりできない。
1 事業税は道府県税の一つであり法人事業税と個人事業税に区分さ
れるが、個人及び法人に対して、個人にあっては所得、法人にあっ
ては所得又は収入金額を課税標準として課税する収益税である。
2 用対連細則第 27 −1−(2)においても補償の対象となる公租公課
は、営業収益又は所得に応じて課税される法人税、所得税及び印紙
税、登録免許税等を除外するとなっており、1において説明したと
おり事業税もこれら除外される税と同じ並びである。
3 固定的経費は収益額認定の過程で損金として処理された経費の中
から認定することになっているが、営業損益計算書の「販売費及び
一般管理費」の中で経費として処理されている公租公課のうち、収
益に応じて課税されるもの及び臨時・異常なものは、収益額認定の
過程で必要経費に算入しない。例えば、所得税、法人税、道府県民
税、事業税、延滞金及び罰金等である。
4 収益額の認定は至近の資料に基づいて、これを分析することによ
り、当該企業が営業を継続していたならば通常得られるであろう利
益を算出することにより行う。
したがって、当該営業のためには通常必ずしも必要な経費と認められ
ないもの、例えば、火災等による損失や罰金等については臨時・異常な
費用と考えられるので経費として認定せず、収益からの控除は行わない。
また、法人事業税は申告納付制度をとっており、納税義務者は各事業
年度終了の日から2カ月以内に確定した決算に基づき申告納付しなけれ
ばならないことになっているので、この期の収益に対する事業税の納付
は決算後の次の事業年度で支払うことになる。すなわち決算書で損金経
理される事業税は前期の収益に対するもので、当期の経費とすることに
すると問題がある。(個人事業税は3月 15 日までに申告書を提出するこ
とになっているが、法人の場合と同様に考えられる。)
以上述べた理由により、決算書において決算整理される事業税につい
231
ては、その期の収益と対応していないということができ、これを経費と
するときは収益判断に必要な「費用収益対応の原則」からはずれること
になる。
したがって、起業者が行う収益額の認定は損益計算書上の営業利益に
営業外収益のうち収益に加算できるものを加算し、営業外費用のうち費
用として収益から除外すべきものを控除し、それに販売費及び一般管理
費のうち必要経費に算入しなくてよいものが含まれている場合にはその
額を加算して認定する。即ち、事業税については経費として認定しない
(したがって固定的経費としない 。)で収益に含めて補償すれば、企業
はその中からその期の事業税の納付を行えばよいことになる。事業税を
固定的経費の対象とすることは上記理由によりできない。
232
用対連基準第44条関係
項
目
移転補償を受けるコンビニエンスストア加盟店とフランチャイ
ズ契約をしているコンビニエンス本部への営業補償について
【質疑の概要】
コンビニエンスストア加盟店(土地建物所有者)への移転補償(構外再
築工法)に関連して、コンビニエンスストア加盟店とフランチャイズ契約
をしているコンビニエンス本部より「加盟店と本部は共同経営者であるた
め、起業者は本部に営業補償を行うべき」との主張があった。
フランチャイズ契約を「共同経営」と見なして、本部に営業補償が出来
るか。
※本部はコンビニエンスストア加盟店に対し、経営指導、技術援助及び商
品仕入れ等のサービスを行うフランチャイズ契約を締結しているが、契約
内容を確認したうえで、基本的には両者は経営上独立の事業者と判断でき
る(加盟店基本契約書第2条「独立の事業者」についての記載がある)。
【対
応】
1)本部に対する営業補償について
営業補償の対象は事業用地に権利を有し、営業活動をおこなっている加
盟店である。本部は二次補償に当たるため、営業補償ができない。
2)コンビニエンスストア加盟店に対する通常の営業補償の他の補償につ
いて
休止期間中でも加盟店が本部に負担しなければならない固定的経費(商
標使用料やリース料、ロイヤリティ等)があれば、加盟店に対し営業補償
を行うことになるが、その場合には、手数料等が加盟店の売上げに応じた
変動費の可能性があるので、本部と加盟店との契約書の内容を含めて調査
確認が必要である。
例えば、変動費と認定される場合には、契約書上で本部への手数料はど
のように扱われているか、休止期間中は売上げがないので本部への手数料
を納めなくてよいのか等の契約書上の契約内容を踏まえた慎重な調査が必
要である。
なお、得意先損失補償は、売り上げ減で加盟店に補償する。
233
第45条関係(営業規模縮小の補償)
項
目
損益分岐点売上高について
【質疑の概要】
倉庫業者が所有している 3 棟の倉庫のうち 1 棟が、道路事業で支障と
なる。付近には適当な移転先地もなく、またどの倉庫も在庫(預り商品)
が半分程度しかなく、同倉庫業者の話ではここ 2 ∼ 3 年は不況で現状程
度の状態が続いているということなので、営業規模縮小の補償が適当と
考えられるが実務的にはどういう点に留意すべきか。
【対
応】
営業規模の縮小を考える場合、縮小後の規模で将来とも営業が成り立
つかどうかの問題が生じる。これが損益分岐点の問題であり、次により
検討することを要する。
損益分岐点は営業を維持するにはどの程度の売上高が最低限必要であ
るかを解明するためのもので、本件は残りの倉庫 2 棟がこの最低限売上
高に対応できる容量を有しているかどうかということになるので、次式
により算定する。それで縮少後の売上高が算出された損益分岐点売上高
の額を上回ると利益が発生し、反対に下回ると損失が発生する。したが
って、前者の場合のみ、規模縮小が可能といえる。
固定費(縮小後)
損益分岐点売上高=
変動費(縮小後)
1−
売上高(縮小後)
備
考
固定費−直接労務費、間接労務費、福利厚生費、賄費、減価償却
費、賃借料、保険料、修繕料、電力料、ガス料、水道料、
旅費、交通費、その他製造経費、通信費、支払運賃、荷
造費、消耗品、広告宣伝費、交際接待費、役員給料手当、
事務員、販売員給料手当、支払利息・割引料、租税公課、
その他販売・管理費
変動費−直接材料費、買入れ部品費、外注工賃、間接材料費、そ
の他直接経費、重油等燃料費
【その他参考】
「月刊補償コンサルタント」1985 年 4 月
234
第4節
農
業
235
補
償
236
第46条関係(農業廃止の補償)
項
目
農業廃止補償における転業に通常必要とする期間の考え方につ
いて
【質疑の概要】
農業と兼業で養鶏業を営んでいる者が、公共用地取得のため農地及び
養鶏場の大部分を取得され、養鶏業の継続が不可能となり廃止すること
となった場合、転業に必要とする期間はどのように考えるべきか。
また、養鶏業を専業としていた場合はどうか。
【対
応】
用対連基準によれば、営業廃止の場合の転業に必要とする期間は 2 年
以内、農業廃止の場合は 3 年以内となっているため、養鶏業を営業と認
定するか農業と認定するかによって、転業に必要とする期間が 2 年以内
と 3 年以内の相違が生じるが、農業と養鶏業の兼業の場合及び養鶏業専
業の場合とも、農業廃止の補償として 3 年以内で扱うべきであるとして、
以内の判断について種々の議論がなされてきた。
又、養豚業については、畜産に起因して発生する悪臭、水質汚濁、廃
棄物処理に関する法規制及び地区住民の反対等のため、客観的に移転先
を求めることが著しく困難である場合があり、収用裁決においても、移
転先の取得は困難であり、仮に、山間地に移転先を求めうるとしても、
養豚経営上最も大切な飼料(残飯の収集)が不可能となり、経営が成り立
たないのは明白であるとして農業廃止補償を認めた事例がある。しかし
ながら、設問のごとく養鶏業で兼業である場合は、収入の依存度、労働
の投下割合等からみて廃止よりむしろ規模縮少又は部門廃止として処理
するのが相当と考えられる場合もあるので、その部門が経営上占める大
きさによって廃止か、規模縮少かの判断を的確に行う必要がある。
次に、廃止せざるを得ない場合の転業に必要な期間 3 年間の取扱につ
いては、収益性の高い経営や大規模な資本投下により法人的経営を行っ
ている場合には、営業補償に準じて、所得も収益により、転業期間も 2
年以内を適用するのが妥当であると思われる。また、養鶏業は今日にお
いては、集中的及び半流れ作業的な管理のもとに経営の合理化が図られ
ており、純農業あるいは養豚業とは労働力の性格が異っていると考えら
れる。したがって、転業能力を有しているとみなされるものもあり、こ
のような事例においては、転業期間は営業補償に近い取扱いをするのが
妥当であると思われる。
なお、具体的な転業期間の決定にあたっては、地方公共団体等の協力
を得て、積極的な生活再建対策を実施するとともに、次の諸条件を考慮
して決定すべきである。
237
(1) 従前の農業経営状況による職業の転換能力(経済、社会への順応
能力)
(2) 年齢及び性別による職業の転換能力
(3) 従前の職業と類似した職業の有無(転業可能な職業)
(4) 地域的な雇用機会の有無又は多少
(5) 技能修得までの期間(職業訓練)
【その他参考】
「月刊用地」1980 年 6 月
238
項
目
堤外民地の取得に伴う農業補償について
【質疑の概要】
江戸時代から先祖代々、居住の基盤として生計をたてていた下記記載
の堤外民地の専業農家の宅地(建物)と農地を河川事業用地として全部買
収することとなった。
この堤外民地の買収価格は堤内地の 1/3 であり、堤外での代替地の取
得は困難である。
なお、この農家は、堤内地には土地を所有していない。
記
① 宅地面積 1,000 ㎡
② 建物面積 300 ㎡
③ 農地面積 20,000 ㎡(まとまっている)
④ 家族構成大人 4 人子供 3 人
以上のような場合、農業補償を行う必要があるか。
【対
応】
(問題点)
1
堤内地との土地価格差があるため、代替農地の取得が非常に困難で
ある。
2
代替農地を取得するとしても、一団のまとまりのある代替農地を取
得することは不可能で、点在することになれば、農作業の不効率化が
生じる。
(対応策)
本事例の場合、全農地面積(20,000 ㎡)が取得されることに伴い、専業
農家として農業を継続していくため、従前と同程度の面積の確保可能性
のある堤外の農地の取得が客観的にみて著しく困難と判断される場合に
は、農業廃止補償を行わざるを得ない。
また、代替農地が堤外に取得可能と判断される場合には、農業休止補
償で対処することになる。
なお、いずれの補償を行う場合にも、次式による条件を満たす必要が
ある。
H −(X − Y)>0
(H:用対連基準第 46 条から第 48 条までの規定により算定して得た
額、X:別記土地評価事務処理要領により算定した土地の正常な取引価
格に取得面積を乗じて得た額、 Y:収益還元法により算定した農地価格
に取得面積を乗じて得た額、0:農地の正常な取引価格)
239
【その他参考】
「月刊用地」1987 年 9 月
240
項
目
農業廃止補償の特例について
【質疑の概要】
農業補償の特例とは、どのようなものであるか。
【対
応】
農業補償の特例とは、取得又は使用しようとする土地の正常な取引価
格が、農地として利用して得られる平均純収益を資本還元して得た(収
益価格)額より上回るときには、農業補償に相当するもの全部又は一部
が当該土地価格に含まれていると考えられるので、このような場合、農
業補償額から土地価格に含まれていると考えられる農業補償相当額を控
除した額をもって補償しようとするものである。
宅地見込地のように農地地域から宅地地域へ移行しつつある地域内の
土地にあっては、近傍の取引事例から求めた当該土地の正常な取引価格
が農地として得られる純収益を資本還元して求めた収益価格を大きく上
回るのが通常であり、このような場合は、その土地価格に農業補償に相
当するものが含まれていると考えることもできるので、農業補償の全部
又は一部を行う必要はないと思われる。
なお、土地の正常な取引価格に相当するものの一部が含まれているか
の認定方法は、土地の正常な取引価格(X)から農地として利用して得ら
れる平均純収益を資本還元した収益価格(Y)を差し引いた額と用対連基
準第 46 条、第 47 条及び第 48 条によって算定された農業補償額(H)と
を比較して後者が前者より大きいかどうかによって判断することとある
が、純農地地帯といえる地域においても、農地の取引価格が収益価格を
大きく上回って取引される場合も多く見うけられるので、この方式には
疑問があるとする有力な見解もある。
241
第47条関係(農業休止の補償)
項
目
農業休止の補償について
【質疑の概要】
農業休止の補償とは、どのようなものであるか。
【対
応】
土地等の全部又は大部分を取得し、又は使用することにより、客観的
に農業を一時休止せざるを得なくなった場合は、農業休止の補償を行わ
なければならない。
従前の農業規模面積の全部又は大部分が取得され又は使用されても、
代替地の取得が可能な場合は、農業廃止補償によることなく、農業休止
補償を行うこととなる。農業休止期間中の損失の補償としては、休止期
間中の固定的経費の補償及び休止期間中の所得減の補償が必要となる
が、土地を使用する場合には、休止期間中の固定的経費については、土
地の使用料積算中に含まれている公租公課等と重複させてはいけない。
また、休止期間中の所得減については、休止期間中他の所得をあげる
ことも予想されるので、従前の所得相当額からこのような予想所得相当
額を控除した額を補償する必要がある。
なお、補償額の算定方法は、以下のとおりである。
補償額=休止期間中の固定的経費+休止期間中の所得減
(注) 1 休止期間中の固定的経費=年間固定的経費÷経営面積
×休止面積
2 固定的経費とは,次の各号に掲げるものをいう。
(1) 公租公課
(2) 施設の減価償却費
(3) 施設の維持管理費
(4) その他用対連細則第 27 の 1 の(2)に定めるところに準じて
必要と認められる経費
3 休止期間中の所得減
休止期間中の所得減 =年間農業所得÷経営面積×休止面積×使
用期間
年間農業所得=農業粗収益一農業経営費
242
第48条関係(農業の経営規模縮小の補償)
項
目
農業の経営規模縮小補償について
【質疑の概要】
農業の経営規模縮小補償とは、どのようなものであるか。
【対
応】
土地等を取得し又は使用することによって、従前の農業経営の規模を
縮少せざるを得ない場合には、農業の経営規模縮小の補償を行わなけれ
ばならない。
農業経営規模縮小による損失の補償としては、営業規模縮小補償と同
様、資本及び労働の過剰遊休化による損失の補償及び経営効率の低下に
よる損失補償が必要である。
用対連細則第 31 は、資本及び労働の過剰遊休化による損失の補償額
の算定方法について規定しているが、補償額の算定基礎をそれぞれの経
営規模別固定資本額、経営規模別流動資本額及び経営規模別家族労働費
においているので、これにより補償を行えば、経営効率低下による損失
はないものと考えられるので、経営効率低下による補償は必要としない。
なお、用対連細則第 31 の適用にあたっては、次の点に留意する必要
がある。
1
経営規模別固定資本額の差額すなわち、資本の遊休化に伴う損失
額の把握にあっては、農業の経営規模とそれに対応する資本装備の
実態に着目し、規模縮少に応ずる遊休資本額を求め、その売却損額
を算定する必要があり、また、経営規模別流動資本額の差額につい
ても、これと同様に扱うものとする。
2
経営規模別家族労働費の差額すなわち労働の遊休化に伴う損失額
の把握にあっては、農業の経営規模とそれに対応する労働時間に着
目し、遊休労働時間に相当する労働賃金を求め、これを他に転用す
るまでの期間(3 年以内)を考慮して算定する必要がある。
243
項
目
年次計画により農地を買収した場合の農業経営規模縮小補償に
ついて
【質疑の概要】
同一所有者に属する農地 1ha が、5 ケ年計画により、初年度に 0.3ha、
次年度に 0.2ha、3 年に 0.5ha と順次同一事業のために農地が買収される
場合、個々の年度においては、農業経営規模縮小の対象にはならず、最
終的に農業経営規模縮小を行わなければならないこととなるが、この場
合、初年度において、将来計画も考慮して、農業経営規模縮小補償を行
ってよいか。
【対
応】
同一所有者の土地を買収する必要がある場合には、同一年度において
すべての必要な土地を買収するのが妥当な方法であるが、予算の関係上
の理由等により、同一年度内に一括取得するのが困難な事例が生じてく
る場合がある。このように、複数の年度にまたがって農地が買収された
場合に、農業経営規模縮小補償をいかに認定すべきかが間題となる。
すなわち、農業経営規模縮小補償は、個々の年度において認定すべき
か、最終年度について認定すべきかの問題があるが、設例のように、本
来予算の関係等の問題がなければ、一括取得されるべきものであれば、
認定にあたっては、一括取得された場合にどのような補償をすべきかを
考えるのが合理的であり、最終年度において、農業経営規模縮小補償を
行わなければならないような損失が結果的に生じる場合には、個々の年
度の認定如何に拘わらず、農業経営規模縮小補償を行うという認定をし
て差し支えないものと思われる。
なお、補償にあたり、最終年度までの損失を予想して、初年度におい
て予め補償をして差し支えないかどうかの問題については、当該事業計
画の変更等により、農業経営規模縮少補償を行う必要がなかったという
事態が生じることも考えられるので、当該農地の取得に係る最終年度に
おいて、精算的に補償を行うのが妥当であると思われる。
【その他参考】
「月刊用地」1971 年 5 月
244
第5節
漁業権等の消滅又は制限により
通常生ずる損失の補償
245
246
第50条関係(漁業廃止の補償)
項
目
漁業廃止補償の適用について
【質疑の概要】
漁業廃止の補償はどういう場合に適用するのか、又その内容はどのよ
うなものであるか。
【対
応】
漁業権等の消滅補償及び制限補償が漁業権という権利(財産権)に対す
る補償であるのに対して、漁業廃止補償は、漁業権等の消滅或いは制限
の結果から、その経営体に生ずる損失を補償するものとして位置付けら
れる。
漁業廃止補償は、事業の施行による漁業権等の消滅又は制限に伴い、
当該権利に係る漁場の相当部分が失われ、かつ、代替漁場等を確保する
ことが著しく困難となり、漁業の継続が、客観的にみて不可能となった
場合の漁業経営上生ずる損失について補償するものである。これは、営
業補償における営業廃止補償、農業補償における農業廃止補償に類する
ものである。
漁業権等の一部のみが消滅した場合に、漁業廃止の補償を行うか、漁
業の経営規模縮少を行うかは、漁業経営体の専業・兼業の別、残存漁場
面積、漁業権等の種類、漁業の将来性、地域等によって個々に判断する
ことになるが、通常は 3 分の 2 以上が失われれば漁業を継続することが
不能と認めてもよいかと思われる。
漁業を廃止することに伴い漁業経営上生ずる損失については、次のよ
うに大別することができる。
・資本に関する損失補償……漁船、漁網、養殖施設等については、現
在価額(新品価格から償却分を控除)から
売却価格を控除して得た額、船小屋、集
魚施設等については、その施設の償却不
能分
・労働に関する損失補償……解雇予告手当相当額及び帰郷旅費相当
額、転業のため従業員を継続雇用する場
合は転業期間中の休業手当相当額
・所得に関する補償
……転業に通常必要とする期間中(4 年以内)
の従前の所得相当額
【その他参考】
「月刊用地」
1983 年 9 月
247
項
目
転業期間について
【質疑の概要】
転業に通常必要とする期間について。
【対応】
漁業権等の消滅又は制限に伴い通常漁業の継続が不能となると認めら
れる場合、転業に通常必要とする期間(4 年以内)中の従前の所得相当額
を補償するものとされている。
転業期間については、漁業経営の特性から営業又は農業の場合に比較
して長くかかるものと考えられるので、漁業廃止の場合は 4 年以内で決
定することとしている。その決定にあたっては、漁業の種類、漁業依存
度、専業兼業の別、兼業の種類、年齢等を考慮することになる。特に、
専業の場合と兼業の場合とでは、職業転換の難易度について差があるた
め十分な検討が必要となってくる。転業に通常必要とする期間の判定に
当たっては、一般的に漁業所得に対する生活依存度によりおおむね、下
表のとおり、区別することができる。
生活依存度
20 %以下
40
〃
60
〃
80
〃
年
数
1 年以内
2 年以内
3 年以内
4 年以内
248
項
目
漁具等の売却損の算定について
【質疑の概要】
資本に関する損失のうち漁具等の売却損の算定について
【対
応】
漁船等売却できるものにあっては、当該漁具等の現有価額(新品価額
−償却分)から売却価額を控除して得た額を損失として、網干場等売却
することができないものにあっては、漁業廃止となることにより当該施
設の償却が不可能となる費用(償却不能分)を損失として算定することに
なるが、現有価額及び売却価額は、行政の水産担当課、専門家の意見を
徴して認定することが必要である。この場合において、漁業権等の消滅
又は制限に係る補償(漁業権等の対価補償)の算定時に用いた数字と同一
の資料により認定することが必要である。
なお、漁具等の現有価額は、市場価格により算定するが、取引価格を
把握することが困難な場合は、簡便な方法としては当該漁具等の新品価
格(再建費・再投下経費)に当該漁具等の残価率を乗じて求めることがで
き、残価率は、当該漁具等の残存耐用年数を全耐用年数(効用持続年数)
で除して求めることになる。この場合、全耐用年数、再投下経費及び効
用持続年数は、県水産担当課や専門家の意見を徴して決定する必要があ
る。なお、この場合においても漁業権等の消滅又は制限に係る補償の場
合の漁業権等の対価補償算定時の数字と一致させる必要がある。
249
項
目
漁業補償の相手方について
【質疑の概要】
漁業補償契約の相手方は誰になるか。
【対
応】
漁業権等の権利に対する補償及び通損補償(漁業廃止の補償、漁業休
止の補償、漁業の経営規模縮少の補償)を行うにあたって、契約の相手
方は誰になるのかが問題となる。
まず、権利に対する補償であるが、漁業権の権利名義者(漁業権者)は、
法人たる組合であるから組合を契約の相手方とするのは当然である。た
だし、この場合、交渉並びに契約の前提手続きとして、漁業権の消滅又
は制限について、個々の組合員より委任状を徴し総会の決議を得ておく
場合がほとんどである。なお、対価補償を受ける者は契約当事者である、
法人たる組合であることは当然のことであるが、組合が漁業権総有の表
見名義者であるという実情から、最終的実質的に補償を受ける者は、所
属組合員全員である。しかし、補償金配分等の処理については、総会の
決議によるところになる。
次に、通損補償の相手方であるが、原則的にいえば、通損をこうむる
者(個々の経営体)を当事者として契約を締結すべきである。しかしなが
ら、補償実務上は、組合管理漁業の団体主義的、総有的な性格、及び組
合員の行う漁業実績をもとにして算出される漁業の対価補償と組合員個
人に帰属する通損補償とは、表裏一体の関係にあること、また、多数の
組合員と個別交渉することが事実上、不可能であること等に鑑み、対価
補償と一括して組合を補償交渉並びに契約の相手方としているのが通例
である。
250
項
目
漁業補償における被補償者等について
【質疑の概要】
公共事業の施行に伴う漁業補償において、補償金を支払う場合、どの
ような点に留意すればよいか。
【対
応】
公共事業等の施行に伴う漁業補償において、その損失補償額を誰に支
払えばよいのか、常に議論されることであり 、「公共用地の取得に伴う
損失補償基準要綱」の解説のなかでも、共同漁業権、特定区画漁業権の
ような漁業協同組合が漁業権者である場合でも、漁業権の権利主体は漁
業協同組合なのか、組合を構成する個々の組合員(漁民)であるのかにつ
いては問題があり、漁業法上の解釈が必ずしも明確でないとした上で、
漁業補償を支払う相手は、漁業被害の内容に応じて、
(1) 漁業協同組合には、権利に対する補償(権利対価補償)
(2) 組合を構成する個々の組合員には、通常損失の補償(通損補償)を
支払う 2 通りの補償があるとしている。
しかし、実務上は、(1)の権利対価補償にしても(2)の通損補償にして
も漁業協同組合に対して、一括補償契約を締結している事例が殆どであ
る。その前提として、漁業補償交渉を行う漁業協同組合は、組合を構成
する個々の組合員から委任状を提出させている。
これら漁業補償に関する委任状については、漁業法上からも、水産業
協同組合法上からも何ら規定されてはいない。ただ、水産庁の行政指導
として、漁業補償の契約締結にあたっては、漁業協同組合は関係する組
合員全員の同意をとって臨むようにしているが、その手法については何
ら述べていない。なお、補償金の配分については、漁業補償金に関する
委員会等を設置し、明確な配分の基準を作成して、公平かつ適正な配分
を行うよう行政指導を行っている。
漁業補償においてトラブルの生じるのは、殆どの場合漁業協同組合が
権利を所有する共同漁業権であり、その原因となるのが補償金の配分に
関する紛争である。そのとき間題となるのが漁業法第 8 条の「漁業協同
組合又は漁業協同組合を会員とする漁業協同組合連合会が有する漁業
権」と「組合員の漁業を営む権利」との関係である。
この問題について、平成元年度に内水面と海区の漁業権に関しての裁
判事例があり、いずれも権利者である漁業協同組合が勝訴している。特
に、これら 2 つの裁判では 、
「漁業権」と「漁業を営む権利」との関孫
を法的解釈において明確に示したものであり、漁業補償を担当する者に
とっては今後の補償対応時に参考になるものと思われるので紹介する。
○内水面の第 5 種共同漁業権に係わる事例
251
平成元年 6 月 29 日判決水資源開発公団の筑後大堰建設事業に伴う漁
業補償に関する損害補償請求事件。
○海面の共同漁業権に係わる事例
平成元年 7 月 13 日判決建設省の一般国道 10 号線拡幅工事に伴う漁業
補償に関する総会決議無効確認事件。
内水面漁業においては、組合員の漁業を営む権利と委任状とが主な争
点であり、海面漁業においては、同じく漁業を営む権利と補償金配分に
関する総会の特別決議について争われている。
内水面と海面の場合とでは、多少表現の違いはあるが両者とも、組合
員の「漁業を営む権利」は、漁業協同組合という団体の構成員としての
地位に基づき、組合の制定する漁業権行使規則の定めるところに従って
行使することのできる権利であると解するのが相当であるとしている。
即ち、組合員の漁業を営む権利は、漁業協同組合の有する共同漁業権
から派生的に生じている権利であって、内部的な社員的権利であるとし
ている。このため、漁業協同組合がその有する共同漁業権を適法に消滅
ないしは変更させ、その対価として漁業補償金を取得した以上は、個々
の組合員が組合と別個に独立して漁業補償交渉をして補償額を決定する
ことは出来ないとしている。
内水面の場合には委任状の件について、漁業補償交渉が組合の有する
共同漁業権を対象としているのであるから個別に組合員からの委任は必
要ないとしている。漁業権の消滅又は変更などに伴う損失について、組
合の臨時総会において交渉委員を選定して漁業補償交渉を行っているの
であるから、個々の組合員からの委任がなくともそれ自体違法とはいえ
ないとしている。
海面の場合、補償金の配分について、法律に明文の規定はないとしな
がらも、漁業権の放棄について総会の特別決議を要するとする水産業協
同組合法の規定に照らして、補償金の配分も総会の特別決議によって行
うと解するのが相当であるとしている。
前記の裁判事例において、漁業協同組合及び漁業協同組合連合会にの
み免許される共同漁業権や特定区画漁業権等を対象とした漁業補償の場
合、その権利主体が組合であるから、補償交渉の相手方は組合であるが、
その組合は水産業協同組合法に規定されている、組合の総会により組合
員の半数以上が出席して三分の二以上の議決による特別決議により、漁
業権の消滅又は制限に伴う補償協議を行うこと等の賛否を決定し、その
総会で選出された交渉委員が補償交渉を行い、補償額等について決定す
ることになんら違法性がないことが一層明確にされたことになる。この
交渉委員の選出については、総会の特別決議事項としての法的規定はな
いが、漁業補償交渉が漁業権の喪失又は変更となることを前提としてい
るものであるから、組合員の半数以上が出席し三分の二以上の多数によ
って決議されることが、水産業協同組合法の解釈と運用からみて妥当と
252
考えられる。
補償金の配分については、すでに前述しているように、水産庁漁政部
の行政指導としての通達が出されているが、この通達のなかでは、配分
委員会等の設置を特別決議事項としてではなく、単なる総会の決議事項
としているが、単なる決議事項の場合は出席者の過半数で議決されるこ
ととなるので、今回の裁判事例にあるように特別決議事項とするのが妥
当ではないかと考えられる。
内水面漁業の漁業補償は、殆ど第 5 種共同漁業権であるから漁具等の
売却損等の補償がなければ、適正な総会の特別決議の手続きを経て補償
交渉、補償金の妥結・契約を行えば、全組合員からの委任状を徴収する
必要はないものと考えられる。平成元年 6 月 29 日の判決では、組合員
からの委任状は必要がないとの判断ではあるが、比較的専業度の高い河
口付近の漁業補償は、知事許可漁業及び自由漁業が含まれていること等
により、また補償金の配分に関して後日トラブル等が生じることもある
ことから、念のため組合員から委任状を徴収して、交渉・妥結・契約の
手続きをとるのが安全な方法であると考える。
海区漁業の場合は、許可漁業や自由漁業等が行われているので、明確
に共同漁業権のみを対象とする以外は、組合を補償交渉、契約等の相手
方とした場合、個々の組合員からの委任状の提出が必要となる時も生じ
るのではないかと思われる。
いずれにせよ、 100%委任状が得られることは困難な場合が多いと思
われるが、適正な総会の手続きを経ていれば 100%委任状が得られなく
とも、裁判沙汰にまで発展することは稀なケースになると推察される。
なお、組合の総会の手続き等について、補償を行う起業者側で指導す
ることは種々の疑惑の生じる原因ともなるので、国又は県の水産行政機
関に組合の指導を依頼するのが最も妥当な方法と思われる。
【その他参考】
「月刊用地」1991 年 6 月
「用地ジャーナル」1993 年 10 月
253
第51条関係(漁業休止の補償)
項
目
漁業休止の補償の適用について
【質疑の概要】
漁業休止の補償は、どういう場合に適用するのか又、その内容はどの
ようなものであるか。
【対
応】
漁業権等の消滅補償及び制限補償が漁業権という権利(財産権)に対す
る補償であるのに対して、漁業休止補償は、漁業権等の消滅あるいは制
限の結果から、その経営体に生ずる損失を補償するものとして位置付け
られる。
漁業休止補償は、事業の施行により漁業権等が消滅し、漁場の全部が
失われたことに対し、代替漁場が提供されるまでの間あるいは工事期間
中漁業を休止しなければならない場合等、漁業を休止することにより経
営上生ずる損失について補償するものである。これは、営業補償におけ
る営業休止補償や農業補償における農業休止補償に類するものである。
なお、農業休止補償の場合と同様、休止期間が長期にわたる等のため
廃止の場合の補償額をこえるときには、廃止補償額をもって休止補償額
の限度とする。
漁業を休止することに伴い漁業経営上生ずる損失については、次のよ
うに大別することができる。
・資本に関する損失補償 …… 休止期間中の公租公課、借入資本利子、
経常維持費、施設の減価償却費、機械の
自然減耗額等
・労働に関する損失補償 …… 休業期間中の従業員に対する休業手当相
当額
・所得に関する補償 ………… 休止期間中に休止漁場を利用して得られ
る予想所得相当額
【その他参考】
「月刊用地」
1983年
9月
254
第52条関係(漁業の経営規模縮小の補償)
項
目
漁業の経営規模縮小の補償の適用について
【質疑の概要】
漁業の経営規模縮小の補償は、どういう場合に適用するのか、又その
内容はどのようなものであるか。
【対
応】
漁業権等の消滅補償及び制限補償が漁業権という権利(財産権)に対す
る補償であるのに対して、経営規模縮小の補償は漁業権等の消滅或いは
制限の結果から、その経営体に生ずる損失を補償するものとして位置付
けられる。
漁業の経営規模縮小の補償は、従来に比べ規模を縮小しても経営を継
続することが経済的に可能な場合に、漁業経営上生ずる損失について補
償するものである。これは、営業補償における営業の規模縮小補償や農
業補償における農業の経営規模縮小補償に類するものである。
漁業権等の一部が消滅又は制限された場合に代替の漁場又は制限が解
除され従前の漁場が回復できるときは、代替漁場等や制限解除後の従前
の漁場で漁業を継続することができ、一時的な縮小に過ぎないので、こ
の部分について用対連基準 51 条による休止補償をすれば足り、規模縮
小の補償は行われないことになる。
漁業の経営規模を縮小することに伴い漁業経営上生ずる損失について
は、次のように大別することができる。
・資本に関する損失補償 … 過剰漁具、施設等の売却損又は償却未済額
或は利用固定資産の過剰分減価償却費
・労働に関する損失補償 … 過剰従業員に対する解雇予告手当相当額及
び帰郷旅費相当額
・所得に関する補償
… 経営効率が低下すると認められる場合は所
得減小額(4 年以内)
255
補償型態毎に総括すると次のとおりである。
資 本 に
関 す る
損失補償
労 働 に
関 す る
損失補償
所得に
関する
補 償
【その他参考】
「月刊用地」
漁 業 廃 止
漁業規模縮小
漁 業 休 止
漁船、漁網、養
殖施設等の売却
損、あるいは船
小屋、集魚施設
等の売却損又は
償却未済額
過剰漁具、施設等
の売却損又は償却
未済額、あるいは
利用固定資産の過
剰分減価償却費
公租公課、借入
資本利子、経常
維持費、施設の
減価償却費、機
械の自然減耗額
等
解雇予告手当相
当額及び帰郷旅
費相当額
転業のため従業
員を継続雇用す
る場合は転業期
間中の休業手当
相当額
転業に通常必要
とする期間(4 年
以内)中の従前の
所得相当額
過剰従業員に対す 休 止 期 間 中 の 従
る解雇予告手当相 業 員 に 対 す る 休
当額及び帰郷旅費 業手当相当額
相当額
1983年
経営効率が低下す
ると認められる場
合は所得減小額(4
年以内)
9月
256
休止期間中に休
止漁場を利用し
て得られる予想
所得相当額(所得
減)
第6節
残地等に関する損失の補償
257
258
第53条関係(残地等に関する損失の補償)
項
目
残地補償の適用について
【質疑の概要】
残地等に関する損失の補償は、用対連基準第 53 条により、残地の形
状、面積等収用損失にかかるものに限定して補償することとし、事業の
施行により生ずる不利益又は損失については補償しないものとされてい
る。
残地の評価に当たり、収用損失以外に完成後の道路面との高底差によ
る不利益又は損失が受忍限度を越える場合があり、用地取得における隘
路の原因となっている。
高底差による不利益又は損失が受忍限度をこえると明らかに予見され
るときは、残地補償として収用損失と同時に補償ができないかお伺いし
たい。
【対
応】
高底差に係る損失は収用損失と異なり、事業施行による損失(事業損
失)として取扱われている。
土地収用法では残地の損失にいわゆる事業損失を含むか否かについて
は、明文の規定がないこともあって積極説と消極説に分かれているとこ
ろであるが、用対連基準第 53 条においては、事業損失は含まない旨明
記されている。
したがって、高底差に係る損失補償については用対連基準第 54 条で
対応すべきである。
しかしながら一方において、これらの事業損失が社会生活上受忍すべ
き範囲をこえるものである場合には事前賠償として処理することも認め
られているので、高底差による損失を全面的に否定するものではなく、
その不利益又は損失が著しく(例えば橋梁の嵩上げに伴う取付道路と残
地との高底差が著しく通路の設置が不可能な場合等)、別途損害賠償の
請求が認められることが明らかである場合には補償せざるを得ないケー
スもあると思われるので、十分な検討を必要とする。
259
項
目
道路が嵩上げされた場合の残地補償について
【質疑の概要】
道路が嵩上げされた場合において、残地に関する工事費の補償として、
通路の設置に要する工事費の補償をした場合、当該通路となる部分の土
地は、他の残地部分との間に高底差が生じ明らかに価格の低下、利用価
値の減少等の損失が生ずる場合には、残地に関する工事費の補償と合わ
せて、当該損失を補償することはできないか。
【対
応】
補償することには賛成であるが、すべての場合減価することには問題
がある。
一例であるが、当該通路部分の面積が残地面積の 10%以上の場合に
は、補償する(これは、がけ地補正率であるが)というように制限すべき
であると考える。又補償する場合でも当該通路部分だけでなく、残地全
体を一画地として減価に着目すべきであると考える。
【その他参考】
「用地展望」第 35 号
260
項
目
残地及び隣接地の嵩上げ補償について
【質疑の概要】
河川改修事業の施行に伴い(堤防の嵩上げ)現道の改築を併せて施行す
るもので、現在の幅員 10m を 18m に拡幅する計画である。工事完成後
は現在の路盤よりも最大値 H=2m、L=150m のスロープとなる。
当該地域は、全般的に小区画の商店・住宅が連たんし、都市計画法に
基づく用途指定は、近隣商業地域である(建ペイ率 80%、容積率 200%)
・残地に関する補償方針として用対連基準第 54 条(残地等に関する工事
費の補償)及び同第 60 条(隣接土地に関する工事費の補償)により対応す
るべく考慮しているが、河川工事と道路工事の合併施工であり、また用
地取得時期と工事施行時期との間に相当な時間的ずれが懸念されるとこ
ろから、次のような問題がある。
1
損失補償の考え方は、用地取得の時点で残地に関する問題(特に
残地工事費補償)も含めて一括して解決するのが基本であるが、用
地取得時期と道路工事の施工時期が相当なズレ(3 年)が予想され、
また高底差が著しいような場合には、用地取得と残地工事費の補償
を分離して補償時期をずらせて行うことが出来ないか。
2
仮に補償時期をずらせて行った場合に、借地人の自家自用のケー
スで借地人に残地工事費の補償として、盛土費用も含めて補償する
ことが可能か。
261
(別図)
川
0.5m
拡幅線
0.5m
1.4m
0.9m
現
1.7m
道
1.3m
0.6m
1.7m
【対応】
<設問 1 について>
(1) 河川工事と道路工事の施行時期が予算等の都合で一致しないとすれ
ば、協議によって委託施行等の方法で解決できる。
( 2) 用地買収と残地の工事費等の補償が関連して交渉期間が長期化す
る。又は交渉妥結したとしても、全関係人から引渡しを受ける時期が
一定でなくバラツキが出る。この場合は、金銭補償が原則であること
から、起業地の引渡しを受ければ工事の施行は可能であって、関係人
が残地の工事を施行するか否かは問わない。場合によって、土地収用
法の適用が必要である。
尚、土地の取得と一括して解決した場合、用地取得時期と道路施工
時期が相当ずれる事により、補償を受けた建物所有者は建物を除去し、
他に土地を求め当該残地は他の第三者に売却され、これに第三者が
建物を建て、道路工事着手後、隣接地補償の要求が出されても、これ
については、第三者が土地を購入する時点において、当該土地が、①
道路改築用地として提供された後の残地であること、②道路改築計画
と当該地との間に相当な高低差を生じる事等を、当然売主から聞くこ
とによって知り得た筈であり、第三者がこれらの事実を知らなかった
262
ことについては、過失があったものと言うべきであるから補償の必要
は生じない。然し乍ら、訴訟の提起も考慮されるので、できる限りの
周知措置(買収済地への立看板及び当該市町村へのパンフレット配布
等)を講じ、訴訟に対応しておく必要はある。
(3) 残地で嵩上げして揚家をした場合、現道との段差が大きい場合は出
入に不便を生じることとなるが、この場合は、引渡しを受けた一定区
間ごとに道路工事も併せて盛土等の工事を施行するか、出入にあまり
支障とならない方策を構じることが望ましいと考える。
<設問 2 について〉
本件の場合の残地等の工事費の補償は、従前の建物への出入が出来な
くなることを解消するための盛土、揚家等に必要な費用と考えられる。
工事を必要とする者は、通常は土地に関しては土地所有者、建物に関し
ては建物所有者と考えられるが、一体として借地権者に対して直接補償
することも考えられる。
ただし、金銭補償であることから、どちらか一方のみと契約をした場
合、不履行によって後日紛争が生じないためにも、関係人全員の承諾が
必要と思われる。
【その他参考】
「月刊用地」1987 年 4 月
263
項
目
みぞ、かき補償について
【質疑の概要】
隣接土地に関する工事費の補償は事業に係る工事の完了の日以前に行
うことができるか。
【対
応】
道路工事等によって道路とその面する土地との間に高低差が生ずるた
め、出入のための階段の設置、坂道の設置あるいは宅地の盛切土等の工
事を行わなければ当該土地の従来の用法に著しく支障をきたすことが実
施計画段階で確実に予見される場合、工事説明会等で工事着工前に補償
要求が出され、これに応じないとその後の用地取得、工事着工等事業の
円滑な施行が図れない場合がしばしば生ずる。
法第 93 条、道路法第 70 条、河川法第 21 条等において、「…これらの
工事を必要とする者の請求により… 」、「前項の規定による補償は、事
業に係る工事の完了の日から 1 年を経過した後においては、請求するこ
とができない 。」と規定されていることについて、事業施行者は請求を
受けると補償義務が発生すること及び補償請求権は工事の完了から 1 年
を経過すると消滅することは明確であるが、補償請求権がいつから発生
するのか文理上明らかでないことから標記の疑問が生じたものと思われ
る。
前記規定が、請求権の存続期間を定めたものとすれば工事の完了日よ
り前の請求は認められないことになり 、「工事の完了の日から」は請求
権を行使できる終期(期限)を定めるための起算日に過ぎないとすれば工
事の完了日より前の請求も認め得ることとなる。次の理由から後者の考
え方、つまり、補償を請求できる時期は現に損失が発生している場合だ
けではなく、損失を受けることが確実に予見できる場合も含むと解する
のが実情に適する。
1
そもそも土地収用法等においてこの補償の認定が設けられた理由
は、不法行為の理論で解決することも可能であるが、公共事業の施
行に伴いしばしば発生することが予想される事例について、工事の
円滑な施行と補償の迅速な実施を図るためである。
2
隣接地において必要となった工事についてその費用の金銭補償に
代えて、公共事業の施行者が自から行う工事と併せて施行すること
が合理的な場合もあることを予想して事業施行者からも施行を要求
することを認めている。このことは当然損失が現に発生する以前の
補償請求も認めることを前提としているものである。
3
残地におけるみぞ、かき補償については、事前の補償がなされて
いる。同じ事業損失であるみぞ、かき補償であるのに補償の実施時
264
期に関し異なった取扱いをする特別な理由がない。
以上のとおり、補償請求権は、工事完了日より前であっても損失の発
生が確実に予見できれば発生する。また、補償の実施時期についても同
様に解される。
しかしながら、補償の実施時期と工事完了日に相当長期間のずれがあ
り、かつ、金銭補償である場合には、補償を受けた者が補償に係る工事
を実施しないで第三者へ当該土地を売却する可能性があり、当該第三者
から補償請求を受けた場合、事業施行者は、既に土地所有者等に補償済
であることをもって対抗し得ないと解されるため、既に補償を受けた者
に対しては不当利得の返還請求の途が残されているものの、再度補償せ
ざるを得ない事態があり得る。また、設計変更により補償の前提とした
損失の程度と実際に生じた損失とが異なることもあり得るので補償の実
施時期については工事の完了日よりあまりに早過ぎるのは望ましくはな
い。
なお、補償を請求できる者は、通路、みぞ、かき等に関する「工事を
することを必要とする者」と規定されているところから、土地所有者に
限らず、借地権者、賃借権者、地役権者等当該土地を利用し得る権原を
有する者であれば認められると解されている。
【その他参考】
「月刊用地」1982 年 10 月
265
項
目
残地補償額の算定について
【質疑の概要】
A の所有する土地の半分が道路用地にかかり収用されたが、道路事業
の施行の結果、附近の地価が従来の 2 倍に値上がりした。このような場
合、A は土地の面積が半分になったとしても、従来より財産の価格は減
少していないから、残地補償は認められないと解してよいか。
【対
応】
同一の土地所有者に属する一団の土地の一部を収用又は使用すること
によって、残地の価格が減じ、その他残地に関して損失が生ずるときは、
その損失を補償しなければならない(法第 74 条第 1 項)。
公共事業を施行する場合、その計画はもっとも事業効果をあげられる
ように作成され、現実の所有者ごとの土地境界は、あまり考慮されない。
したがって、公共事業の施行地の境界が個々の土地所有者の各筆の土地
のすべてを包含するということは偶然の一致にすぎず、一般に個々の土
地所有者からみれば、その土地の何割かが事業用地にかかるという事態
が生ずる。
このような場合、残地部分のみをみると不整形又は狭少化し、従来の
一団の土地の場合と比べると利用価値の減少、管理費の増大を来たし損
失が生ずることが出てくる。このように一団の土地が分割されることに
伴い発生する経済的不利益を補填しようとするところに残地補償制度の
根拠がある。したがって、一団の土地を一体的にとらえた場合の経済的
対価から、事業地にかかる部分の経済的対価及び残地部分の経済的対価
を加えたものを差し引いた残額が残地補償の骨格を形成するものといえ
る。そして収用地に対する補償及び残地補償とも、事業認定時で価格固
定されるから(法第 71 条、法第 74 条第 2 項)、この補償額の算定作業は、
事業認定時の価格を基準として行われるべきである。
以上みたように、残地補償制度は、一団の土地の一部が収用等される
ことに起因する特有の損失に着目するものであるから、残地の所有者以
外の附近の土地所有者も受けるような損失は残地補償とは別個なものと
考えられるべきであろう。また事業認定時の価格が基準となるから収用
地の価格と離れた事業施行による影響価格を加味して残地補償額を算定
するということも誤りである。このことは、同一の土地所有者に属する
一団の土地の一部が収用等される場合に当該土地を収用等する事業の施
行によって残地の価格が増加し、その他残地に利益が生ずることがあっ
ても、その利益を収用等によって生ずる損失と相殺してはならない(法
第 90 条〉とされることからも明らかであろう。
266
【その他参考】
「月刊用地」1977 年 4 月
267
項
目
一部借地の場合における残地補償等について
【質疑の概要】
X 氏は Y 氏から Y 土地 60 ㎡を借り、X 氏所有の自己地 80 ㎡(X 地)
とともに住宅地として一体利用していた。
しかし、街路事業用地として下図のように買収されることとなり、残
地面積が X 地 60 ㎡、Y 地が 10 ㎡となった。
このような場合の補償はどうなるか。
なお、残地には移転出来ないものとする。
1 一画地評価をどうとらえるか。
2 Y 氏に対する補償はどうなるか。
3 X 氏に対する補償はどうなるか。
市
地
X
道
Y 地
買収線
【対
応】
1 借地権等の所有権以外の権利に係る一画地のとり方については、同
一の利用目的に供するため、同一の権利者が隣接する2以上の土地に
権利の設定を受けており、かつ、それらの権利の取引が一体的に行わ
れていることが通例であると認められるときは、それらの土地からな
る一の画地に権利が設定されているものとみなして算定するものとす
る。
2
X 氏及び Y 氏に対する残地補償等については、次のとおりである。
(1) Y 氏に対する補償
Y 地土地単価×形状悪化×残地面積×(1 −借地権割合)
(2) X 氏に対する補償
ア X 地土地単価×合理的な移転先地とならない率×残地面積
イ X地とY地を一画地として算定した土地単価
×借地権割合×Y地の残地面積
268
項
目
残地収用と残借地権の補償について
【質疑の概要】
土地所有者からの請求に基づき残地を収用する場合にも、その土地所
有権に係る補償は事業認定時で価格固定されるのか。そうだとすると残
地上の権利に対する補償が権利取得裁決時の価格とされるのとアンバラ
ンスになると思われるがどうか。
【対
応】
収用する土地に対する補償金の額は、事業認定時の相当な価格に権利
取得裁決の時までの物価変動に応ずる修正率を乗じて得た額とされるが
(法第 71 条)、この場合の「収用する土地」とは、本来的に事業に必要
なものとして起業者が収用する場合であると、土地所有者の請求により
拡張収用する場合とを問わない。
一方、残地収用の請求がされた土地に関する所有権以外の権利に対し
ては、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した権利取得裁決の時にお
ける相当な価格で補償することとされているから(法第 76 条第 3 項)、
ご指摘のように、残地の土地所有権と借地権等では補償の算定時点が異
なることになる。
これは、残地収用の請求権は残地の所有者にのみ認められており、残
地の借地権者などは土地所有者が残地収用を請求した後に、はじめてそ
の権利が収用されることとなる。もっともこの場合、従前の権利の存続
を請求することができるが、それは起業者の業務の執行に特別の支障が
なく、かつ他の関係人の権利を害しない限りにおいてであって、かなら
ず存続が認められるという保証もない。この点、土地所有者から土地の
使用に代わる収用の請求がなされたときに、関係人は無条件に従前の権
利の存続を請求することができる(法第 81 条第 2 項)のと異なっている。
このように残権利の収用を求めることも、その権利の存続を求めるこ
とも自主的に行うことはできず、その保証もないからこれに対する対価
補償は事業認定時で価格固定することが適当でないからである。
【その他参考】
「月刊用地」1977 年 5 月
269
項
目
和解と残地収用の請求等の方法について
【質疑の概要】
起業者と土地所有者及び関係人全員との間において、残地収用及び替
地による補償について実質的合意が形成された場合は、収用委員会は、
法第 87 条に定められた方法(意見書の提出)を経ることなく和解調書を
作成することができるか。
【対
応】
法第 87 条所定の方法による請求、要求がなされていなければ、収用
委員会は、当該事項について和解調書を作成することはできないと解す
る。
(理由)
法が、法第 87 条所定の請求、要求については、収用委員会に意見書
を提出することによってしなければならないとして厳格な方式によるべ
きこととしたのは、これらの請求、要求が重要な効果を発生させる手続
であることから当該請求等がなされたことに関する争いを防止するため
であると解される。
和解調書作成手続においても当事者の請求、要求によって裁決するこ
とができるとされている事項については、当該請求、要求を経なければ
和解調書を作成することはできないものと解すべきであり、その場合の
請求等の方式については、法の趣旨から法第 87 条が適用されると解す
るのが相当である。
なお、一旦有効に和解調書が作成されれば、関係当事者は、和解の成
立及び内容を争うことはできないこととなるが(法第 50 条第 5 項)、和
解調書作成手続の違法を理由にその効力を争うことはできると解されて
いる。
【その他参考】
「月刊用地」1987 年 2 月
270
項
目
残地補償について
【質疑の概要】
橋梁の架替に伴い、道路面の高さが橋台部において旧道路面より約
2.0m 高くなるため、副道を設置する工事に伴い沿道宅地所有者 A の土
地買収の必要が生じた。A は残地が副道に面することによる街路条件等
個別的要因の劣化に伴う価値減の補償を要求している。
この場合の補償の可否について御検討願いたい。
なお、沿道宅地所有者 B の土地は買収対象外である。
(当該地域は近隣商業地である。)
A
副道
新橋
本線車道
旧橋
副道
B
○副道
幅員 5.0m(一方通行)
○当該工事区間の現況
一般小売店舗
病院
レストラン
スーパーマーケット
買収線
A
残地
本線車道
副道
副道
旧官民境界
【意
A
B
官民境界
見】
起業損失は、用対連基準上は否定されているが、判例によれば肯
定されている(49.9 大阪高裁 55.4 最高裁)。設例の場合、標準的使用
271
からみて、残地価格の低下が認められるので、補償可能とするのが妥
当である。
実例としてはやっていないが、今後は補償の方向で考えていきたい。
起業利益と損失を相殺する方向でやれないかと考える。
B
沿道住民が受ける道路の使用便益は、単に反射的利益を享受して
いるに過ぎないので補償問題は生じない(残地及び隣接地に関する工
事費の補償は認められている。)。
受忍の限度を超えるか否かについては、設例の場合、土地に内在す
る制限の範疇と言わざるを得ない。
C 残地における起業損失は補償対象としていないが、街路条件が著し
く劣化することが明らかであり、判例(55.4 最高裁)からみて、起業損
失が起業利益を越え、かつ、受忍限度を越えると判断される場合は、
補償対応は可能と考えられる。
しかし、B との均衡も考慮する必要があり、設計の見直し、工事費
による補償も検討する必要があろう。
D
残地補償については、設例の状況は、隣接地、背後地にも生じる
ものであるから、用対連基準第 53 条ただし書きにより、なじまない。
事業損失補償については、沿道画地は、接面街路の反射的利益を受
けているに過ぎないので、道路の利用価値が減少することにより生じ
る損失は補償できないと思われる。
(まとめ)
用対連基準第 53 条ただし書を狭義に解釈し、残地補償の概念の中で
考えてはどうか、という段階である(55.4 最高裁判決もふまえて)。
272
項
目
残地補償について
【質疑の概要】
道路
買収地
A
拡幅→
残地B
土地C
(三者契
約により
取得予定)
上記図のように土地(A+B)がある。用地買収に伴い残地Bが残るが、
所有者が土地Cの取得を希望したため三者契約により取得する予定である。
建物の移転工法については、残地Bに三者契約を行う土地Cを含め移転工
法の認定をし、曳家工法を認定している。
この場合における残地補償については、残地Bのみを一画地として評価を
行い補償をすべきか、または、三者契約をする土地Cまで含んだ(B+C)
を一画地として評価を行い、その土地単価と従前地の土地単価との差異をも
って、残地Bに対する残地補償とすべきなのか。
なお、移転工法は曳家工法なので、残地の売却損の補償はない。
【対
応】
一般的に残地補償は、従前の同一画地としての土地価格と、当該土地の一
部が取得されることによって生じた残地の土地価格との間に差異がある場合
に行われる。
よって、残地として認定するのは、従前画地の一部が取得された後に残る
Bの部分にあたると解される。
建物の移転工法を検討する上では、三者契約により取得するCを含めて残
地と考慮する場合もあるが、必ずしも残地補償における残地と移転工法上の
残地が一致するとは限らない。
273
項
目
分離移転する場合の残地補償について
【質疑の概要】
起業地
残地
当該物件は、甲所有の貸家
で現在 A と B に貸している。
敷地の一部を買収することと
なり、移転工法を検討した結果、
貸家 A
貸家 B
貸家 A については構外再築工法
を認定し、貸家 B については移
20 ㎡
30 ㎡
50 ㎡
転対象としないこととした。
この場合の残地補償は、敷地のどの範囲まで対象となるのか、また、
貸家 A 部分の敷地については貸家 A が構外移転されることから損失補
償基準細則第 36 に規定する合理的な移転先とならない補正を残地(30
㎡)について行うことは可能か。
ちなみに、土地の評価は貸家 A と貸家 B を合わせた 100 ㎡を一画地
として評価している。
【対
1
応】
土地評価単位について
貸家 A と貸家 B の所有者が同一であることから貸家 A と貸家 B を合
わせた 100 ㎡を一画地として評価することに問題はないと思われる。
2
残地補償の及ぶ範囲について
残地補償は、従前の土地価格と土地の一部が取得されることによって
生じた残地の土地価格との間に、差異がある場合に行われるものであ
るので、貸家 A 部分の残地である 30 ㎡について残地補償するのでは
なく、一画地の残地である 80 ㎡について残地補償を考える。
次に、貸家 A 部分の残地に対する合理的移転先とならない補正に
ついてであるが、合理的移転先とならない補正とは、取得に係る画地
が建物等の敷地であり、残地が当該物件の合理的移転先とならず、起
業地部分の補償金に残地を売却した代金を合わせて構外に移転する当
該物件の敷地を購入する場合、残地部分を売り急ぐことによって生ず
る売却損を補償するものである。
この場合、甲が貸家 A を再築するためには、貸家 A 部分の残地(30
㎡)を売却し起業地部分(20 ㎡)の補償金と合わせて貸家 A の敷地を購
入することが必要であるとして、貸家 A 部分の残地(30 ㎡)について
合理的の移転先とならない補正を行うことが可能のように思われる。
しかし、前述のように残地補償は従前の一画地としての土地価格と
の差異に支払われるものであり、土地評価を一画地として評価するな
らば、残地補償も取得部分を除いた一画地として評価すべきで、補償
274
の内容によって画地区分を変更することは適当ではない。
したがって、この場合には、貸家 A 部分と貸家 B 部分を一画地(100
㎡)として評価しているので、貸家 A 部分(30 ㎡)についてのみ合理的
な移転先とならない補正を行うことはできない。
【その他参考】
「用地ジャーナル」1995 年 8 月
275
用対連基準第53条関係
項
目
分割・構外移転と残地の取扱いについて
【質疑の概要】
住宅(A棟)と店舗(B棟)が同一敷地内に別棟で存する。
下図のように住宅(A棟)のみが支障となる場合、住宅と店舗の両者に密
接不可分の関係が認められない限り、店舗と住宅を分割し、住宅のみを構
外再築工法で補償を認定することが考えられる。
しかし、起業地の土地買収の対象は住宅の建築面積の一部でしかないの
で、土地補償費を移転先地に同種同等の住宅を建てられる面積を取得する
費用に充当するにしては不足する可能性がある。
残地を売却し、従前地と同等の移転先地を確保し、移転することが構外
再築の補償理論であれば、上記の場合は住宅と店舗共に構外再築を認定す
るか、画地を分割して住宅の建築面積を別画地で評価すべきではないか。
また、残地補償がなく、残地売却ができなければ、移転先地の確保ができ
ないので、住宅のみの分割構外再築工法は認定できないのではないか。
買収線
店舗 (B棟)
住 宅
(A棟)
支障部分
現道
1画地にA,B棟が
ある
←拡幅
【対
応】
住宅と店舗との関係が密接不可分の関係とは認められない場合には、分
割構外再築工法を認定することができる。
損失補償基準細則第36に規定する残地補償は、起業地を除いた残地を一
画地として、従前の一画地の土地価格との差に支払われるものである。
土地評価を一画地として評価するならば、残地補償も取得部分を除いた
一画地として評価すべきである。
補償の内容を考慮して、意図的に画地認定を変更することはできない。
よって、住宅の建築面積を画地から分割し、二画地とし、住宅部分の残
地を評価した残地補償はできない。
276
第54条関係(残地等に関する工事費の補償)
項
目
残地補償と残地工事費の関係について
【質疑の概要】
盛土工法により道路を改築することに伴い、残地と道路との間に高低
差が生じたので、残地所有者と協議し、その了解を得て取付道路を築造
した。残地の所有者は会社員であり、全面積の 2 割を収用したが住宅の
移転は必要ではなく、従来の土地利用にそれほどの支障を与えていない。
このような場合、残地工事費用の補償をすれば残地補償は不要と考え
るがどうか。
【対
応】
同一の土地所有者に属する一団の土地の一部を収用し、又は使用する
ことによって、残地に通路、みぞ、かき、さくその他の工作物の新築、
増改築、修繕又は盛土、切土をする必要が生ずるときは、これに要する
費用を補償しなければならない(法第 75 条 )
。これが残地工事費の補償
といわれるものであり、本件のように、ある者の土地の一部を収用して
盛土による道路を築造した結果、公道への出入りが妨げられ、公道への
取付道路の設置が必要となるときは、当該工事に要する費用は補償しな
ければならない。
ところで、第 74 条に「残地の価格が減じ、その他残地に関して損失
が生ずるときは、その損失を補償しなければならない」と定められてい
る。そこで、この残地補償と残地工事費の補償との関係が問題となるが、
一般には、残地工事費の補償は残地補償の一形態であるといえる。しか
し、残地工事費の補償がなされた場合には、残地補償がいっさい否定さ
れるべきであり両者は択一的な関係にあると考えるべきではないであろ
う。
残地工事費の補償がなされても、なおかつ残地の価格が減じ、その他
残地に関して損失が生ずるという実態があれば、あわせて残地補償も行
われるべきものである。本件についていえば、一団の面積が減少し、残
地の形状が変化したこと、また残地の一部が取付道路に供されることに
よって土地利用が制約されることが想定されるが、これによって、残地
の経済的価値が減少するならば、その減少分は残地補償として補填され
るべきということになる。
【その他参考】
「月刊用地」1977 年 10 月
277
項
目
残地等に関する工事費の補償の適用について
【質疑の概要】
道路改良事業に伴い宅地の一部 80 平方メートルが事業用地として必
要になる。宅地は現道に接する南向きの画地でほぼ 1:2 の長方形で面
積は約 200 平方メートルである。宅地には建物があるが事業用地に直接
支障とはなっていないものの事業用地を買収すると建物は法令違反(建
ぺい率)の建物になってしまう。
当該地区は、公共団体施行による区画整理地区で建築協定が締結され
その一環として宅地に樹木も植えられており建物の改築等が必要と判断
される。
このような場合、建物を法令の規定に適合するよう改築する費用を用
対連基準第 28 条の規定により補償することができるのか。また、他に
補償の根拠となる条項があれば教示願いたい。
【対
1
応】
用対連基準第 28 条第 1 項本文は、取得しようとする土地(以下「事
業用地」という。)に起業者が必要としない建物等があるときに、当
該建物等を通常妥当と認められる移転先に通常妥当と認められる移転
方法により移転する費用を補償する規定である。
設問の事業用地には建物等はなく残地となる部分に建物等が建てら
れているので、用対連基準第 28 条第 1 項本文に規定する事業用地に
建物等があるときには該当しないので当該規定により建物等の改築に
要する費用を補償することはできない。
また、同条第 2 項は、建物等の移転に伴って建築基準法その他の法
令の規定によって必要とされる施設の改善に要する費用は補償できな
いことが定められた規定である。当該規定は事業用地を取得したこと
により結果的に法令違反となるような場合には適用されないと解され
ているが、建物等の移転が伴わない場合には、そもそも第 2 項は適用
できないので事業用地を取得することに伴い法令違反となる建物等を
用対連基準第 28 条の規定によって建物等の改築に要する費用を補償
することはできないものと思料される。
2
事業用地を取得したことにより、残地に存する建物等が従来の利用
方法により利用することが困難な場合には、従来の利用方法を維持す
るための工事費を補償することができる条項が用対連基準第 54 条(残
地等に関する工事費の補償)に規定されている。
同条で定める従来の利用方法により利用することが困難な場合と
は、例えば道路工事に伴って宅地と道路の高底差が生じ建物等の利用
が著しく妨げられる等物理的に利用が困難になる場合と、事業用地を
278
取得したことにより、結果的に建築基準法等の規定によって法令違反
の状態になる等機能的に利用が困難になる場合とが包含されている。
したがって、設問のように事業用地を取得することに伴い法令違反
となる建物を当該建物の法令違反の状態を解消する手段として当該建
物を改築する以外に適当な方法がないと判断される場合には、用対連
基準第 54 条により建物等の改築に要する費用を補償することは可能
であると思慮される。
なお、このように法令違反の状態を解消するために用対連基準第 54
条を適用する場合には、当該建物等の利用目的とそれに対応した改築
方法の妥当性、隣接土地の取得の可能性等を十分に検討のうえ他に合
理的な対応策が取り得ないと判断された場合のみ適用すべきであろう
と思料される。
【その他参考】
「補償コンサルタント」1987 年 3 月
279
項
目
残地工事補償の取扱いについて
【質疑の概要】
現在等高で道路に接面する宅地(更地)が下図のとおり国道の拡幅工事
のため買収されることとなった。拡幅工事が完成すれば道路は当該画地
より 2 ∼ 3m 高くなる。
この場合、現行補償基準の残地工事費の補償と面積に対する収用損失
補償のみでは、受忍の範囲をこえると考えられる。
これらの対応及び補償について他地建の補償事例並びに考え方を伺い
たい。
略図
残地工事費補償の取付坂路
計画路面
現在国道 7.5m
2 ∼ 3m
残地
【対
応】
A 工事により路盤が著しく高くなる場合の補償は、一般的に次のよう
な処理を行っている。
(1) 建付地…残地工事費(盛土)、建物の嵩上げ、構内再築等補償
( 2 ) 建付地の多い地域の更地…残地工事費(盛土)この場合の更地
は、概ね建付地間に混在するもので、建付地、更地を含めて盛土
工事を施行した方がより経済的な場合である。
(3) 更地の多い地域の更地…残地工事費(坂路)、坂路設置に伴う画
地の形状悪化の場合は残地補償(形状価値減)、この場合の更地に
対する補償の考え方は、道路に接面する土地は常に道路の反射的
利益を享受しており、当該土地の価値の増減は、道路の構造変更
に伴う流動的なものであることが宿命であり、これは反射的利益
享受に対する受忍の範囲と解釈している。
B 側路の設置により対応(一般的な場合)し、補償には積極説を採用す
べきと考える。
C
本件は「残地に関して生ずる損失」のうち収用損失たる残地補償
の外に広義の事業損失たる「残地のみぞかき補償」を補償するだけで
は不十分ではないか、即ち、事業損失の一種ではあるが道路が高くな
ることによって生ずる「残地の交換価値の低下分」についても何らか
の補償をすべきではないかとの問題提起と解される。
280
前述収用損失と事業損失のみを補償するとの考え方は、現行補償基
準等の解釈及び運用上従来から広く認められているところであり、収
用法例規(法第 74 条と同第 75 条の補償は併せて行うことができる)
(昭和 27 年 8 月 9 日建設計総発第 122 号計画局総務課長回答香川県土
木部監理課長あて)においても明確にされているところである。
一方、収用損失と事業損失の外に更に残地の交換価値の低下分も補
償すべしとする考え方は大阪高裁、昭和 49 年 9 月 13 日判決昭和 48
年(行コ) 19 号において明確に判示されたところではあるが、この判
決をもって上記収用損失と事業損失の伝統的な考え方を改めるところ
までには至っていない。
しかし、上記判決における考え方は妥当と考えられるので今後残地
の交換価値の低下分についても補償する方向で検討すべきではないか
と考える。その際具体的に前記低下分の損失をどのように算定するの
かについて基本方針を定めておく必要があろう。
収用損失―①面積・形状に対する補償
(用対連基準第 53 条、法第 74 条)
「残地に関して
生ずる損失」
②みぞかき補償(用対連基準第 54 条、
事業損失
法第 75 条)
③高低差による交換価値低下分
に対する補償
(用対連基準第 53 条、法第 74 条)
D
裁決等の考え方:法第 75 条の工事費の補償をしても、なおかつ残
地の価格に価値減が生じ、その価値減が通常受忍すべき範囲を越える
ことが認められるときは、法第 74 条の残地補償も併せ補償ができる。
例えば
(1) 坂路等設置工事費∼法第 75 条
(2) 坂路部分の土地の価値減
法第 74 条
(3) 一団の土地の面積が減少、
残地の形状の悪化等に伴う価値減
現在の取扱い:建付地及び近い将来建物等の敷地の用に供されるこ
とが明らかと認められる空地については、原則的に法第 75 条の残地
補償工事をした場合、法第 74 条の残地補償は行ってない。ただし、
坂路部分の土地について価値減の補償をした例はある。
E
当該宅地の嵩上げ工事費は、当該宅地の価値をこえてはならない
(用対連基準第 58 条第 3 項、土地の返還の補償と同趣旨)。
2
坂路設置工事費を補償した場合、その坂路敷地となる宅地の評価
額は従前と同等の価値ではなく、私道としての価値減が生じる。
3 土地評価の個別的要因配点表では、土地の接面道路の系統連続性、
1
281
幅員、構造によってその配点が変わることとなっている。したがっ
て、当該残地の接面道路は従前国道であったのが私道となって配点
が減点となり価値減が生じる。
以上のことから本件の場合 2、3 の価値減補償をする必要がある。
参考資料
残地工事費補償の取扱いについて(昭和 48 年 7 月 5 日大阪地裁・損失
補償事件判決要旨)
1
事件概要
被告大阪市長は大阪都市計画街路事業加島天下茶屋線建設工事の
ため、原告所有の土地につき、訴外大阪府収用委員会に対し、収用
裁決の申請をし、同収用委員会は、この裁決に基づく残地の補償は
残地の盛土費用を認めたにすぎなかった。
そこで、原告は、この残地はその面する道路に低くなるとともに
歩道が設置されるため、車輌の出入が困難となり、この営業環境が
劣悪となったとして、これを起業損失として補償を請求した。
なお、原告は、商品(自動扉)の展示場及び事務所兼居宅の建物を
建築すべく建築主事に対し、建築確認申請をなし、その確認を受け、
着工を待つ状態であった。
2 裁判要旨
残地補償には起業損失の補償が含まれ起業利益は斟酌できない。
・土地の被収用者は、収用の前後において、その財産額に増減がな
いように補償されるべきであるから当該収用の事業の施行による
土地価格の騰貴、すなわち、いわゆる起業利益も土地の補償価格
の算定にあたり考慮されるべきであり、また、一部収用において、
当該事業施行の結果、残地の価格が低落した場合、そのいわゆる
起業損失も間接ではあるが収用に起因する損失というべきである
から、補償されるべきである。
そして、法第 90 条に明定するとおり、事業の施行によって残地
の価格が増加し、その他残地に利益が生ずることがあってもその
利益を損失と相殺することは許されないから、残地の損失の判定
にあたっては、右のような起業利益を斟酌することはできないと
いわなければならない。
・本件残地は、専ら土留擁壁の設置によって利用価値が減少したも
のであり、右利用価値の減少はひいて交換価値の低下をもたらす
ものと解されるから、右は本件収用によって残地に生じた損失で
あって起業者である被告は右損失を補償しなければならない。
3
残地における起業損失の算定事例本件残地が前面に土留擁壁等が
なく直接歩道分離道路に面している場合に比べて土留擁壁が存する
ことにより、その交換価値が減少する場合を A 鑑定は 16%、B 鑑
定は 7.5%、C 鑑定は 40%とそれぞれ評価している。
282
以上の事実を総合判断すれば本件残地に生じた損失は、本件残地の土
留擁壁を考慮しない価格に対し、一平方メートル当り 12%の減価であ
るとみるのが相当である。
右計算の基礎となった本件残地の価格が、残地を歩道面と同じ高きま
で嵩上げする以前のものであるから、右損失は前記盛土費用とは別に補
償されなければならない。
283
284
第7節
その他通常生ずる損失の補償
285
286
第55条関係(立毛補償)
項
目
立毛補償について
【質疑の概要】
立毛補償の内容及び処理方法を教示されたい。
【対
応】
ここにいう立毛は果樹等の永年作物をいうのでなく、稲、麦、野菜等
の 1 年生農作物或は作期が両年度にわたる立毛を対象としている。した
がって、農地等を買収或は使用しようとするとき、その農地に農作物が
作付してあるとき又は立毛はないが作付のために既に費用が投下されて
いる場合に分かれる。
1
立毛が作付されている場合(現に作付されていても土地の引渡し日
までに収穫されるものは補償の対象としない。)
当該立毛の粗収入見込額から当該土地の引渡時以後に通常投下され
る農業経営費と立毛に市場価格がある場合はその現在の処分価格を控
除した額を補償する。
ア 粗収入見込額…当該立毛の評価時 3 年間の平均収穫量を当該作物
の生産者価格に乗じて得た額と副産物の価額
イ 農業経営費…肥料費、諸材料費、防除費、建物費、農具費、雇用
労働費、自家労働費、公租公課、借入資本利子及び
その他の経費
(なお、農業経営費については当該作物について県農務主管課又は農
業試験所等の意見を十分に聴取し参考とすること。)
2
立毛が作付されていないが費用が投下されている場合
ア 農作物を作付するためにすでに費用が投下されているときは投下
きれた費用を補償する。
イ 投下経費…種苗費、肥料費、耕うん・整地その他の労働費(自家
労働費を含む。)等
287
第59条関係(その他通常生ずる損失の補償)
項
目
宅地造成費用は損失として補償すべきか。
【質疑の概要】
宅地造成費を、通常受ける損失として、補償を請求されているが、補
償すべきか。
【対
応】
土地収用法は、現物補償の一形態として宅地造成を認めている(第 86
条)が、宅地造成費の額の限度並びに宅地造成費に充当すべき補償金の
項目については、土地等に対する補償金、残地補償金及び通常受ける損
失補償金を合した額の一部に相当する額の範囲内としている。したがっ
て、通常受ける損失補償の項目の決定に当たり、当該宅地造成費がその
対象となるか否かが問題になるものと思われる。
この問題については、建物等の合理的な移転先の有無によって判断す
べきであって、その運用上、次の(イ)及び(ロ)において述べるように、
当該宅地造成費の全部が通常受ける損失補償の対象とならない場合、又
はその一部若しくは全部が対象となる場合もあり、それぞれの具体的事
案に応じ、宅地造成費の額の限度並びに宅地造成費に充当すべき補償金
の項目が異なるものと思われる。
(イ) 相手方のなす移転先の特定が、従前の生活条件等を引き続き維
持すること等について、合理的理由に乏しい場合、すなわち、移
転先について代替性が存する場合においては、宅地造成費は通常
受ける損失補償の対象とはならない。
(ロ) (イ)の場合と異なり、移転先について代替性が存しない場合、
すなわち、相手方のなす移転先の特定が、従前の生活条件等を引
き続き維持すること等について合理的理由が存する場合であっ
て、かつ、宅地造成費の額と当該移転先地の取得に要する費用(当
該移転先地が自用地の場合は、当該土地の時価)とを合した額が、
土地等に対する補償金の額を超えるときは、その超える額が通常
受ける損失補償の対象となる。
以上を式示すれば
(イ)の場合 X < A + B + C
(ロ)の場合 X < A + B + C’
ただし、
X 宅地造成費
A 土地等に対する補償金の額
B 残地補償金
C 通常受ける損失補償額(通常受ける損失補償としての宅地
288
造成費を含まない。)
C’ 通常受ける損失補償額(通常受ける損失補償としての宅地
造成費を含む。)
【その他参考】
「月間用地」1971 年 6 月
289
項
目
決済金に対する補償の要否について
【質疑の概要】
土地改良事業費の賦課金を土地改良区に償還中の農用地を、公共用地
として売り渡す場合に組合員は、当該賦課金の決済をしなければならな
いこととなる(土地改良法第 42 条)が、起業者としては、農用地の買収
対価のほかに、当該決済に係る賦課金相当額をも補償しなければならな
いか、見解を問う。
【対
応】
土地改良区は、その事業に要する経費に充てるため、当該事業によっ
て当該農用地が受ける利益を勘案し、組合員に対して金銭等を賦課する
ことができる(土地改良法第 36 条)とされているが、この金銭等の賦課
の実態は、当該事業に要する経費に充てるため、土地改良区が、あらか
じめ、一括農林漁業金融公庫等から融資を受け、事業施行後に、組合員
に対し、一定期間内に償還させる方法によっているのが一般的である。
したがって、設問のように、当該償還期間中に農用地を公共用地とし
て売り渡す組合員は、土地改良法第 42 条第 2 項に規定する「組合員た
る資格に係る権利の目的たる土地の全部又は一部についてその資格を喪
失した場合」に該当し 、「土地改良区の事業に関する権利義務について
必要な決済をしなければならない」こととなるが、当該決済に係る賦課
金に対する補償の要否については、次のように解すべきである。
土地改良事業の目的は、農業生産の基盤の整備及び開発を図ることに
よって、農業の生産性の向上、農業総生産の増大等を確保しようとする
ところにあるのであるから、土地改良事業施行済みの農用地と土地改良
事業未施行の農用地とでは、農地地域及び農地としての地域要因及び個
別的要因が異なることとなり、前者の方が優れるとともに、これらの要
因を反映したその収益性も、前者の方が著しく高くなるのが通例である。
したがって、土地改良事業施行済みの農用地を公共用地として取得す
る場合の鑑定評価によって求める比準価格並びに収益価格は、土地改良
事業未施行の農用地のそれとは、相当の開差が生ずることは言うまでも
ない。
以上のことから、決済に係る賦課金については 、「土地改良事業施行
済みの農用地の評価額に包含されている」とみるのが妥当であり、農用
地の買収対価のほかとして別途補償する必要はない。
【その他参考】
「月刊用地」1972 年 2 月
290
項
目
バイパス等の設置による反射的利益の喪失補償について
【質疑の概要】
駅舎や学校が移転する場合及びバイパス道路を開設したために、旧道
を廃止した場合に旧施設附近の商店が営業不振を生じたり、また一般の
利用者は距離が遠くなるため通勤費と通勤時間等を多く要する等経済的
に損失をうけることがあるが、このような場合補償の対象となり得るか。
【対
応】
駅舎、学校等についていえば、これら商店は駅舎、学校に対して特定
の権利を有している関係でなく、特定の公共施設に近接していたため、
たまたま恩恵に浴していたにすぎず、反射的利益をうけていたにすぎな
いのである。
このような反射的利益の喪失にすぎない時は因果関係はあるが、公平
の見地から補償を相当とする因果関係にはない損失であるから補償の対
象とはならない。
又、道路についていえば、道路は本来一般公衆の使用に供することを
目的として設置されたものであるから、公衆はその道路を公道として自
由に使用することができる。だから、道路の利用関係はその公道の存在
を前提として認められている反射的利益であるから、その公道のバイパ
ス道路が設置され従来の道路が廃止されたり、変更されたために交通の
便が閉ざされ、不利益を蒙ることがあったとしても、それは反射的利益
の喪失に過ぎないのであるから上記と同様補償の対象とはならない。
又、東京高裁の判例(昭和 36 年 3 月 15 日)も「道路の存する公共団体
の住民ないし一般公衆が道路を通行する便益は道路が、公用に供せられ
たことの反射的利益であって、各人に個別的になんらかのこれを使用す
る特別の権利が設定せられたものとなすことはできない」としている。
291
項
目
ゴルフ会員権と補償の取り扱いについて
【質疑の概要】
預託金会員制ゴルフ場の補償にあたって通常受ける損失の補償として
会員又は会員権に対する補償を行うことの可否について
【対
応】
まずゴルフ場の経営及び利用形態等について、その概略を簡単に眺め
てみると、ゴルフ場のごく一部のものについては社団法人、財団法人、
学校法人等によって営まれているものがあるが、大部分のものは株式会
社(ゴルフ場会社)によって経営されており、その利用形態のほとんどは、
利用者を特定の者のみに限定し、あるいは特定の者が他の一般の利用者
よりも有利な条件(利用料金、手続等)で継続的に当該ゴルフ場施設を利
用できる、いわゆる会員制(メンバー制)をとっている。この会員制に対
して数は少ないがパブリック制のゴルフ場がある。このパブリック制の
ゴルフ場は、ゴルフ場施設について利用者を限定することなく利用料金、
手続等においても差別なく一般の利用者を対象とするもので、会員制の
ゴルフ場に比較して規模は小きく、施設等においても見劣りするのが多
い。
次に会員制(メンバー制)ゴルフ場にはどのような形態があるかについ
てみてみると、社団法人会員制、財団法人会員制等として社団法人等の
社員が、また株式会社の場合は当該株主が会員となる株主会員制(会員
が財産権、経営参加権を有している。)と、ゴルフ場会社がゴルフ場を
建設するに際して、その建設等の資金の調達をするため当該ゴルフ場の
会員となるための条件として、入会保証金と称して、一定の金額を一定
の据置期間経過後退会とともに返還するとの約束のもとに預託させると
いう、いわゆる預託金会員制との二つの形態に分類することができる。
古くは前者の株主会員制がほとんどであったが、現在においては後者の
預託金会員制が圧倒的に多い。
この会員の地位が預託金会員組織の会員権と称されるものであり、預
託金会員組織の会員権の性格としては、これまでの判例等からして、次
のようなほぼ一致した見解として、
イ ゴルフ場施設をクラブ規則に従い優先的に利用しうる権利∼優先
的利用ということは独占的ではなく非会員よりも有利な経済的な条
件あるいは簡単な手続等でゴルフ場施設を利用(物の利用を目的と
する債権)できるが、第三者に対する対抗力、排他性は有しない。
従って妨害排除については当該ゴルフ場会社に対する請求権は有す
るが第三者に対しては否定される。
ロ 年会費の納入義務を有するとともに、預託した入会保証金を一定
292
期間経過後の退会時に返還の請求をする権利を有しているとされて
いる。
一般的には会員権者はゴルフ場会社とは別個の集団であるゴルフ
クラブメンバーのように観念されている面があるが、その性格は、
会員権者の人的結合(集団、団体)であり、ゴルフ場会社を離れて、
それ自体独立して権利義務の主体となるべき社団としての実体を有
していないものが多く(権利能力なき社団性を認める最少限の要件
としては団体における代表者の選定方法が多数決原理によるべきこ
とを定めている規則の存在すること、独立の資産、会計を有するこ
とが必要とされている。)、ゴルフ場会社の所有するゴルフ場施設
の管理運営を会社から委ねられ、その業務を代行しているに過ぎな
いというのが一般的な解釈とされている。なお、会員のなかにはゴ
ルフブームに乗ってその主たる目的であるゴルフ場に対する投資等
により会員権の取得あるいは譲渡をするという例も非常に多く見受
けられる。
以上、ゴルフ会員権の性格等についてごく表面的な検討をしてみたわ
けであるが、この会員権の発生は昭和 35 年頃からといわれ、以来ブー
ムに乗ってゴルフ人口、ゴルフ場数は大幅に増加し、現在においても当
時程ではなくても、依然としてゆるぎないブームが続いており、一部特
権階級のみのスポーツではなくなり、一般大衆化されつつある。
このようなことから、これらにまつわる法律上の問題の提起、議論等
がなされており、なお詳細については、それらの結論等をふまえて後日
にゆずることとして、それでは、前記の預託金会員制のゴルフ場が起業
地として取得等をすることとなった場合においてゴルフ場会社、預託金
会員組織の会員権者の取扱いはどのようになるのかということになる
が、ゴルフ場会社に対しては当該ゴルフ場の規模、経営形態等及び支障
となる部分についての全施設に占める割合、機能面等を考慮して移転工
法等を決定し、それに伴う営業補償を行うことは他のゴルフ場以外の施
設等と何んら異なるものではない。
したがって、移転工法は、場合によっては再築工法或は改造工法とい
った工法が考えられる。
しかしながら設問のとおり、ゴルフ場が休業等をせざるを得ないとい
った場合において、会員組織であるゴルフクラブ会員権者は休業期間中、
当該ゴルフ場の利用が妨げられる(ビジターより優先利用、低料金等)こ
との損失(他のゴルフ場を利用するものとして利用料金の差額を補償す
る。)、あるいは改造規模の縮少等によって従前のコースより品等が低
下することにより会員権の価値(価額)の低下等による損失の補填の要求
という事態も考えられるわけであるが、前述のとおり、ゴルフクラブそ
のものの性格等からして、①優先利用権がゴルフ場会社そのものから独
立して権利義務の主体となる実体を有していないこと。②ゴルフ場の優
293
先利用といっても実態的には全会員が定期的にプレーを継続するわけで
はなく(会員の中には投資を目的として会員権を取得している場合もあ
る)、ごく一部の会員に限られているのが一般であること。③また会員
権の価値の低下といっても、その客観的判断が困難であること等、その
権利性が不明確であり、かかる二次的関係人を用対連基準第 4 条に定め
る土地等の権利者として被補償者の対象とすることについては、なお検
討の余地はあるとしても消極的に解せざるを得ない。
【その他参考】
「月刊用地」1982 年 8 月
294
項
目
改造工法による耐火構造の建築費用は法令上の改善費用にあ
たるか
【質疑の概要】
建物敷地の一部が買収され、従前木造二階建の店舗併用住宅の一部が
支障となるので、改造工法により残地に一部三階建の建物を建築し、従
前の床面積を確保したいが、そのためには建築基準法の規定により耐火
建築物としなければならない。この場合に、耐火建築物とする費用を補
償することができるか。
【対
応】
用対連基準第 28 条において「木造の建築物に代えて耐火建築物を建
築する等の建築基準法その他の法令の規定に基づき必要とされる施設の
改善に要する費用は、補償しない 。」としているので、設問のような場
合に耐火構造の建築物とすることは施設の改善に要する費用にあたるの
で補償することができないのではないかという疑問だと思う。そもそも、
同基準で法令上の改善費用を補償しないとしているのはいかなる理由か
らであろうか。それは、これら法令に基づく義務は特定の人に特定の義
務を課すものではなく社会生活を営む以上一定地域において誰しもが負
う義務であり、財産権に内在する負担として通常受忍すべきものだから
であり、これを補償することは妥当でないからである。類似のものとし
ては、危険物の規制に関する政令によりガソリン・スタンドの地下タン
クは原則としてタンク室に設置(コンクリートによる防護)し、当該タン
クが地下鉄等が水平距離 10 メートル以上離隔する必要があること、又
は火薬類取締法により火薬庫が道路その他の施設から一定の保安距離を
保たなければならないとすることなどがある。
そうして、これら法令上の義務を履行するために要する費用は、必要
に応じて別途、融資のあっ旋等、生活再建のための措置によって行うべ
きものとされている。
ところが、設問のように改造工法をとる場合の改善費用は財産権に内
在する負担として受忍すべき範囲にあたるかどうかについては、否とい
われなければならない。なぜなら改造工法をとるかどうかは建物所有者
が選択することができるものではなくて、建物移転料を算定する場合の
移転工法の認定の問題であり、建物の移転工法を認定するときに改造工
法をとることができるのは、それら法令の規定に合致した建物の規模構
造にすることによって始めて実現し得るからで、そのために要する費用
まで建物所有者の負担において行おうとすることは、特定人に特別の犠
牲を強いることとなり、建物所有の者に対し損失を完全に補てんしたこ
とにはならないからである。
295
用対連細則第 15 の三において 、
「建物の一部(残地内にあっても取得
(使用)地上の部分と構造又は機能上切り離せない部分があるときはこの
部分を含む。)を切り取り残地内で残存部分を一部改築し又は増築する
ことにより、従前の機能が維持できると認められるときは、改造工法に
よる」と規定されている。
しかし、支障となる建物が全体面積に比較し相当部分であり建物の主
要構造の大部分を変更して増改築が行われる場合、あるいは従前の間取
りに関係なく新たな間取りによる場合は構内再築工法を採用することと
なる。
構内再築工法も、改造工法も共に残地内工法ではあるが、改造工法は
実費用の補償であり、改造に伴う建物全体に対する価値の増加あるいは
耐用年数の延長をまねくものではない。
この改造工法と再築工法を営業補償を含めた補償総額において比較
し、より経済的合理性に富んだ移転工法(前者が後者をこえないとき改
造工法)をとるむね規定したものといえる。したがって、経済的合理性
を求める以上従前の建物の価値を増加させることとなる法令上の改善費
用については起業者の負担(補償する)とすることが妥当であると解する
ことができる。したがって、設問の場合には、一部三階建耐火構造にす
ることに要する費用を含めた総補償額が、従前の建物を構外再築する場
合の総補償額をこえない限り、一部三階建耐火構造にすることに要する
費用を補償してもさしつかえないと解される。
なお、この場合の「法令上の改善費用」はそれぞれの建物の用途、規
模、構造等によりケース・バイ・ケースで判断されなければならないが、
必要最少限度の費用に限るべきであると思われる。なぜなら、この場合
においても損失補償は土地等の取得等に伴い生じた相手方の損失を補て
んすることが目的であって、相手方に価値増をもたらすことを目的とし
ているからではないからである。
【その他参考】
「月刊用地」1972 年 7 月
296
項
目
開発許可制度による許可申請手数料の補償について
【質疑の概要】
開発許可制度による許可申請手数料の補償について伺いたい。
【対
応】
公共用地の取得に伴い関係人が移転先地を求める際に都市計画法第
29 条(開発行為の許可)の規定に基づく市街化区域及び市街化調整区域
の中で開発行為をしようとする場合、同法第 30 条の規定により都道府
県知事に許可申請の手続きをしなければならないが、これに基づく申請
書及び図面等の作成手数料ならびに各特定行政庁が独自に定める額の規
定による開発行為許可手数料の費用については、補償してもさしつかえ
ない。
開発行為が起る場合を図示すれば次のとおりである。
移転先
市 街 化
市街化区域
備
考
現在
調整区域
市街化区域
×
△
1,000 ㎡未満
○は補償可能
市街化区域
×は補償不能
○
△
1,000 ㎡以上
△は事業毎に慎重に検討
市街化調整区域
協議を必要とするもの
×
○
1,000 ㎡未満
市街化調整区域
△
○
1,000 ㎡以上
注1
補償対象者
(1) 原則として市街化区域・調整区域の土地にある建物の所有者
で、移転工法が構外移転として補償を受ける者
(2) (1)にかかわらず、法令等の規定により市街化区域内に再築す
ることができない建物の所有者その他特に必要と認められる敷地
の使用権者
注2 補償対象面積
従前の利用面積を限度とし、著しく従前が広い場合は実情に応じ認
定する。
注3 補償額の算定
開発行為許可申請手数料 + 開発行為許可申請書作成手数料
分譲宅地等で手数料が折込み済みの場合は補償しない。
297
手数料等については「損失補償基準標準書Ⅱ」Ⅵその他参考資料1
または各特定行政庁が独自に定める額を参照のこと。
【その他参考】
「用地展望」33号別冊
298
項
目
都市計画法の規定により開発許可申請を必要とする場合の作
成手数料について
【質疑の概要】
公共用地の取得により移転先が市街化調整区域の場合、都市計画法第
34 条第 10 号により開発許可申請をする必要があるが、当該申請書の作
成を業者に依頼する必要が予想されるとき当該申請書の作成手数料を補
償する必要があると考えるが、意見を伺いたい。
【対
応】
都市計画法は、無計画な都市開発をさけ秩序ある都市整備を図るため、
都市計画区域を定め、更に市街化区域及び市街化調整区域を定めるもの
としている。設問は、この都市計画区域のうち更に二分された区域の内
の市街化調整区域に関するものである。
市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域として定められている区
域であるから、極力開発行為を制限し、無計画な市街地の拡大化を防止
するため定められた区域である。
しかし、市街化調整区域だからといって一切開発行為が禁止されるも
のではなく、都道府県知事の許可を得れば、開発行為が行えることにな
っている(都市計画法第 34 条)。
又、開発許可を得なくても、開発行為を行うことの出来る除外規定も
ある(同法第 29 条)。
設問は市街化区域から市街化調整区域へ、又市街化調整区域から市街
化調整区域内にとそれぞれ移転を要するものが考えられるが、両者とも
当然開発許可を受けなければならない。しかし誰れでも開発許可を受け
られるかといえばそうではなく、同法第 34 条各号に該当する者でなけ
れば許可は受けられないことになっている。細部については、昭和 44
年 12 月 4 日建設省計宅開発第 117 号、建設省都計発第 156 号により各
都道府県知事あてに施行通達が出されている。
そこで、開発許可申請書だが、通常一般の人は不慣れのためと、申請
書作成にあたって専門的知識及び技術を要する書類等があるため代書及
び建築事務所等に依頼する例が多いので、開発許可申請書作成が、代理
人によって作成されるのが通常であるならば、移転者にとっては当然そ
の費用を出費しなければならないのでその補償の要求が出て来るものと
思われる。
損失の補償には、大きく分けて土地を取得されることにより受ける損
失(財産権の喪失に基づくもの)の補償と、土地を取得されたことにより
生じるその他の損失(その他付帯的損失)の補償がある。前者は土地代金
等の財産権の相当価格であり後者は建物の移転料、営業補償、動産移転
299
料、移転雑費等である。
後者のような損失は通常(私法関係においては)は、財産権者が負担す
るものだが、公共用地の取得においては、本人の意思に反して生じた不
利益であり、これを財産権者に負担させるのは、平等の原則に反するの
で、補償基準等において、通常受ける損失として補償することとされて
いる。
開発許可の申請は、土地を取得されることにより、その土地の上に存
する建物等を移転するにあたり必要となるものもあり通常代理人によっ
て申請書の作成がなされるものであれば、申請書作成手数料は、土地を
取得され、建物を移転することにより通常生ずる損失として補償しても
さしつかえないものと考えられる。
ただし、補償するに際しては、建築確認申請書作成手数料のように統
一されておれば、それによって補償額の決定は容易に出来るが、個々に
支払った手数料が異なっているようだから実態を良く調査し、適正な手
数料を補償するよう基準をもうけて運用することが望ましいものと思わ
れる。
【その他参考】
「月刊用地」1972 年 8 月
300
項
目
用対連で 2 年以内と決めた経費増補償の理由について
【質疑の概要】
工場等を分割移転することにより従前に比較して著しい経費増が生ず
る場合、中央用対連の運用申し合せでは 2 年以内で経費増を補償するこ
とができるものとされているが、2 年以内と決められた理由は何か。
【対
応】
工場等の敷地の一部を買収することにより、工場等の一部門等を別の
場所に分割移転せざるを得ない場合に、分割移転にともない電話の増設、
警備員等の増員等の必要が生じ、これに要する費用の補償がしばしば要
求されるが、従前に比較してこれらの経費が著しく増になる場合に、増
加する経費を用対連基準第 59 条に規定するその他の通常生ずる損失と
して 2 年以内で補償することができる旨中央用対連の運用申し合せが行
われている(昭和 45 年申し合せ)。
補償対象物件の移転完了後に生ずるこのような経費の増を損失補償基
準ではどのように考えられているかから見ることにしよう。公共補償基
準第 11 条においては補償対象物件の移転後に生ずる維持管理費の増の
補償について規定し、異種施設により補償する場合は一般的にこのよう
な経費増を補償するのは当然であるが、同種施設により補償する場合は
特にその経費増が著しくなる場合にのみ補償するものとしている。一般
補償基準においてはこのような規定が置かれていないので、一般補償基
準は、補償対象物件移転後に生ずる経費増は、原則的には、被補償者が
受忍すべきものと考えているものといえよう。しかし、移転工法等の関
連から移転完了後に経費増が生ずることが明らかであり、かつ、その増
が著しい場合までも被補償者が受忍すべきものとするのは妥当とはいえ
ないので、同公共補償基準の考えを参考にし、また既に収用委員会の裁
決においてもこのような経費増の補償が裁決された事例もあるので、こ
のような場合には収用、使用に伴い通常生ずる損失として補償すること
ができるものとして前記の運用申し合せが行われたものである。
ところで、将来にわたって半永久的に生ずることとなるこのような経
費増をどの程度まで補償するのが妥当であるかは疑問のあるところであ
るが、社会生活を営む者としては、情勢の変化に応じてそれぞれ適切な
対応策を講じてゆくと考えるのが常識的であり、移転完了後の経費増に
ついても、被補償者の経費節減の努力を期待してもあながち不当とはい
えないであろう。したがって、被補償者の将来の経費節減の努力を考え、
努力を図ったとしても解消することができない費用の現在価値を集積す
れば、現在価値のほぼ 2 年前後分に相当することとなるので、被補償者
の受忍限度をも考慮して、補償の限度を経費増の 2 年分とするという申
301
し合わせが行われたものと思われる。この考え方は、営業廃止補償、農
業廃止補償及び漁業廃止補償において転業に要する期間中の従前の収益
(所得)補償の限度が、それぞれ 2 年、3 年、4 年と定められているのが
他の職種へ転換する場合の非転換率の現在価値への集積として決定され
たのと同一の考えに基づくものといえよう。
【その他参考】
「月刊用地」1971 年 8 月
302
用対連基準第59条関係
項
目
建物及び土地に設定されている抵当権の抹消及び再設定に要す
る費用について
【質疑の概要】
買収する土地に抵当権が設定されており、その一部を抹消するためA銀
行に抹消承諾依頼を行ったところ、A銀行から承諾関係書類とともに、抵
当権抹消承諾書手数料5,250円/件、登記事項証明書料(実費)1,000円、
印鑑証明書(実費)500円を請求された。
本件は、公共事業による土地のみの買収(物件なし)に起因しており、
買収に係る「経費」を土地所有者に負担させることは適当ではないと考え
るがいかがか。
【対
応】
照会にあるような「経費」は、公共事業に係る土地の売買と因果関係が
あるからといって、補償基準第59条の「土地の取得等によって土地等の権
利者について通常生ずる損失」に解することはできない。
今回の「経費」の発生は、土地所有者の都合に起因するものではないが
そもそも抵当権等の抹消は、他者に土地を引渡す前に土地所有者の責任で
処理すべきものであり、銀行が「経費」を求めた場合、その経費は土地所
有者が負担すべきと考える。
303
第5章
土地等の取得又は土地等の
使用に伴うその他の措置
304
305
第60条関係(隣接土地に関する工事費の補償)
項
目
借地人に隣接地補償ができるか
【質疑の概要】
隣接地の占有者が借地人であるが、道路の工事によって、隣接地面が
低くなり隣接地補償を行う必要が生じた。しかし、土地所有者は隣接地
補償の要求をせず、借地人が要求を行ってきた、借地人に隣接地補償を
行ってよいか。
【対
応】
隣接地補償については 、「通路、みぞ…その他の工作物の新築、改築
…盛土…をする必要があると認められるときは、これらの工事を必要と
する者に対して、その者の請求により…補償するものとする 」(参照第 93
条道路法第 70 条、用対連基準第 60 条等)と規定しているが、「これらの
工事を必要とする者」とは一体だれかということについて、具体的な規
定をおいていない。普通の場合これらの工事の実施に当たっては、土地、
建物等の形質変更が伴うので、土地、建物等について処分権を持ってい
る者が請求できるということについては疑問の余地がない。しかし、設
問のように土地の形質変更の権限のない借地人が宅地の盛土を要求して
きた場合にどうするかという疑問が生じてくる。これは認めないとする
と現実に損失をこうむっている借地人に酷であるといわなければならな
い(土地所有者が請求しなければ泣寝入りというのはあまりにも不合理
である。)。そこで、借地人には土地所有者の債権者代位(民法第 423 条)
としての地位を認めることとし、借地人と補償交渉をし、土地所有者の
代理人として借地人に補償金を支払うことはさしつかえないものと思わ
れる。大方の学説もそのような解釈である。
なお、設問の内容では、借地人が営業を行っているか否かは不明であ
るが、隣接地補償については 、「工事に要する費用」と規定しているの
で文理上隣接地の工事期間中の営業収益減(期待収益は補償の対象とな
らないが、工事を行うために現実に出費する動産移転料、仮住居に要す
る費用(仮営業所)等については補償を行わなければならない場合もある
と思われる。
また、補償の方法としては、隣接補償の性格上着工払い又は工事の代
行とする方法が妥当であると思われる。
306
項
目
隣接工事補償の土地代について
【質疑の概要】
A さん所有に係る隣接地(建付地)について、隣接地補償として通路の
設置に要する費用を補償しようとする場合、通路を設置するためには B
さん所有(更地)の残地について工事をしなければならない。A さんに対
して隣接地補償として B さん所有の土地を買うための費用を補償する
ことができるか。
【対
応】
設問に対しては、隣接地補償に係る基準(要綱第 44 条、用対連基準第
60 条)の一般的な解釈について、若干のコメントを加えておく必要があ
ると思われる。
その 1 は、法第 93 条において「残地以外の土地について 」と規定し、
道路法(昭和 27 年法律第 180 号)第 70 条において「道路に面する土地に
ついて」と規定し、河川法(昭和 39 年法律第 167 号)第 21 条において「河
川に面する土地について」と規定する一方、要綱及び用対連基準におい
ては「残地等以外の土地に関して」と規定しているため、規定上内容が
異なるかという疑問である。条文上「について」と「に関して」と規定
の仕方が異なったとしても、その内容において、要綱又は用対連基準が
土地収用法等よりも広い意味を持つものではなく、等しく「残地以外の
土地について(「のために」という意味も含まれる。)通路等を設置する
必要がある」と認めるときは、と解釈するのが合理的であること。即ち、
通路等の工事が隣接地に直接行われなくともその工事が隣接地のための
ものであれば、隣接地補償の対象となり得ると考えてよい。
その 2 は、「工事に要する費用」に、通路等を設置する際に必要とな
る場合の土地の権原を取得するために要する費用も含むかという疑問で
ある。
一般に 、「工事に要する費用」という場合には、土地の「権原の取得
のために要する費用」を含めることについては、あながち疑問ではない。
現に、建設省設置法(昭和 23 年法律第 113 号)第 12 条第 1 号において
「建設工事」に 、「土地の権原の取得」を含めて解釈をしているし、道
路法第 12 条に規定する「工事」にも「土地の権原の取得」を含むと解
釈されている。
以上の前提のもとに、本問については A さんの土地について直接通
路等の工事を行わず、B さんの土地に通路等の工事を行う場合であって
も A さんに対する隣接地補償を行うことができることになる。
次に、土地の「買収費」が A さんに対する隣接地補償の対象となり
得るか、ということである。
307
さきに 、「工事に要する費用」には、土地の権原を取得するための費
用を含むとしたが、そのこと自体が「土地の買収費」を補償してよいと
いうことではない。
土地の買収費(所有権を与えることとなる。)を補償することにより、
隣接地の所有者に対し財産増をもたらすこととなるばかりでなく、A さ
んが B さんの土地を必らず取得するという法律上の担保もなく、A さ
んは B さんに対し「土地を売れ」という強制力も持たない。だとすれ
ば、A さんが B さんに対し、法律上主張しうるものをもって補償額の
最高限度とすべきであろう。即ち、本問においては、A さんは B さん
に対して囲繞地通行権(民法(明治 29 年法律第 89 号)第 210 条)を有する
こととなるので通行により B さんに支払わなければならない償金(民法
第 212 条)に相当する額を補償する必要がある。この場合において囲繞
地通行権は、その内容は地役権と大差がないので、償金に相当する額は、
地役権設定費用をもって補償するのが妥当であり、土地の取得費を補償
することは妥当でない。また、地役権の設定対価を補償することは、隣
接地の所有者(A さん)に財産増をもたらすものではなく、囲繞地の従前
の機能を維持するための費用であるからである。
なお、A さんは地役権の設定について B さんが応じない場合には、
相隣関係の一般的な義務履行を B さんが行っていないことになるので
A さんとしては、民法第 414 条第 1 項の規定により、裁判をもって履行
の強制を要求することも可能である。
【その他参考】
「月刊用地」1972 年 1 月
308
項
目
隣接土地に関する工事費の補償について
【質疑の概要】
隣接土地に関する工事費の補償について基本的な考え方は、どうなっ
ているか(用対連基準第 60 条)。
【対
応】
平成 10 年の用対連基準及び同細則の改正で残地工事費及び隣接地工
事費の補償対象や算定基準が明確化され、隣接土地に関する工事費の補
償については、建物の移転が生ずるときの通常生ずる損失項目を規定し、
また、高低差に係る工事費の補償額については損失補償基準細則第 36-2
による「別記4残地工事費補償実施要領(ただし、同要領第7条第2項
を除く。)」に準ずることとなった。なお、損失補償基準第 60 条には、
『建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準第 60 条の運用に
ついて(昭和 44 年 3 月 5 日地方建設局及び北海道開発局用地課長会議
申し合わせ)』が存することを考慮する必要がありここで解説する。
その申し合わせについては次のとおりである。
1 同条の補償は、同条に規定する工事をすることを必要とす
る者から、当該事業に係る工事の完了の日から 1 年以内に請
求があった場合に限り、行うことができるものとする。
同種の規定は、道路法第 70 条第 2 項、河川法第 21 条第 2 項、法第 93
条第 2 項に規定されているが、用対連基準第 60 条においては、特にこ
のような規定はない。しかし、従来の運用は、道路法、河川法、土地収
用法と同様に当該事業に係る工事を完了した日から 1 年以内に請求があ
ったものに限っていたので、これを明文化したものである。道路法、河
川法等の規定による請求権は、民法第 724 条(損害賠償請求権の消滅時
効)に規定する不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間より短期の
除斥期間を定めているが、これは損失を受けた者が道路工事や河川工事
の施行による損失の発生を認めることが容易であり、かつ、補償の範囲
及び方法等を明らかにして補償の迅速な実施を確保している以上、権利
関係をすみやかに確定することが適当であるという理由にあり、用対連
基準においても同様であると考えられる。
工事の完了の日はいつかという点については特に明文はないので、現
況主義によらざるを得ないが、通常の場合は隣接土地についての損失が
明らかになる程度に工事が完了することを要すると思われる。ただ、道
路の工事であって国土交通大臣の行うものについては、工事の全部又は
一部を完了したときには、工事の完了公告を行うこととなっているので
(道路法施行令第 2 条第 2 項)、その公告の日が通常起算日の参考になる
309
と思われる。
次に、工事をすることを必要とする者から請求のあることを要するが、
具体的に「工事をすることを必要とする者」とは誰かということについ
ては、道路法、河川法、土地収用法において同様であるけれども、例に
よってすこぶる抽象的であって、その判断に当たって苦慮することの一
つである。例えば土地所有者と建物所有者とが同一人である場合は良い
としても、借地人が建物を所有している場合や、さらに借家人がいるよ
うな場合に、借地人や借家人が、このような請求ができるかどうかとい
う問題がある。隣接地補償は、通常の場合には、土地の形質変更や、建
物の形質変更を伴うことが多いであろうから、土地や建物の処分権を持
っている者が請求することができる、というのが、建前になろうかと思
われるが、借地人が民法第 423 条の規定により、土地所有者の代位権者
として行使することも可能と考えられるし、借家人についても借家人の
保護という見地から、代位の代位をも認めても良いと思う。しかし、こ
のような場合であっても、具体的な事務処理に当たっては、後のトラブ
ルをなくすために、土地所有者、借地人等の連名で請求させることが望
ましい。
なお、この請求は、口頭でも文書でも良いことはもちろんであるが、
事務処理に当たっては文書により請求させることのほうが一般的である
と思われる。
2
土地等の取得又は土地等の使用に係る土地を道路の新設又
は改築の用に供することにより、当該土地、当該物件の存す
る土地、当該権利の目的となっている土地及び当該土石砂れ
きの属する土地並びに残地等以外の土地(以下「隣接土地」
という。)と道路との間に高低差が生ずるため、隣接土地又
は隣接土地の上にある建物等の従前の利用が著しく妨げられ
ると認められる場合においては、原則として、次により補償
するものとする。
隣接地補償は、本来事業損失としての性格を有するものを損失補償の
分野に取り入れたものであるが、なお不法行為の理論のはいる余地があ
り、したがって、その損失が受忍の範囲をこえているかどうかが隣接地
補償を行う場合の重要な認定の要素となる。以下にでてくる基準に該当
する場合であっても必ず補償を行うというものではなく、その損失を補
償しなければ隣接土地又は隣接土地の上にある建物等の従前の利用が著
しく妨げられると認められる場合であって、しかもその損失が受忍の範
囲をこえていると認められる場合においてのみ補償の必要があるという
ことを注意する必要がある。この意味を本項に規定したものであって、
隣接地補償においては特にこれらの判断を適確に行うとともに過当補償
とならないように認定する必要がある。
310
隣接地補償は、隣接土地の利用形態によって損失の内容も異なるし、
その損失の補償の方法も異なることはいうまでもないが、この申し合せ
では隣接土地の利用目的に着目して、( 1)隣接土地が店舗の敷地の用に
供されている場合(2)隣接土地が一般住家の敷地の用に供されている場
合(3)隣接土地が農家の敷地の用に供されている場合(4)隣接土地が特殊
な公共用の建物等の敷地の用に供されている場合(5)隣接土地が(1)から
(4)までに掲げる敷地以外の用に供されている場合に分類するとともに、
隣接地補償が行われるケースの多い道路事業についてしかも高低差が生
じた場合に、隣接土地の利用目的別に応じた補償の範囲について規定す
ることとしたものである。
( 1)
隣接土地が店舗の敷地の用に供されている場合
イ 別表に掲げるところにより測定した隣接土地と道路と
の高低差(以下「高低差」という。)を示す数値を同表に
掲げるところにより測定した隣接土地の上にある建物等
と道路との距離(以下「距離」という。)を示す数値で除
して得た数値が 0.5 以下であるとき通路又は階段の設置
に要する費用
隣接地補償は、隣接土地が建物その他の工作物の用に供されている場
合に損失が具体的に生じたときに行うものであり、したがって、農地、
山林、原野、更地等については、隣接地補償を行うための要件にとぼし
いといわなければならないばかりでなく、現に建物等の用に供されてい
ない更地のような土地について、地価の値下がりなどをきたす、という
ようなことであったとしても、一般に受忍の範囲にあるものと考えなけ
ればならない。
隣接土地のうち特に高低差が生じたために影響を受ける場合の典型的
なものはやはり店舗の用に供されている土地であると考えられるので、
この申し合せにおいては、まず隣接土地が店舗敷地の用に供されている
場合について、補償を行う際の判断基準を定めたものである。それによ
ると次の図によって求めた道路との高低差を示す数値を道路との距離を
示す数値で除して得た数値が 0.5 以下であるとき(〔高低差を示す数値〕
/〔距離を示す数値〕≦ 0.5)には通路又は階 段の設置に要する費用
を補償することとしている。例えば道路との距離が 2 メートル、高低差
が 1 メートルぐらいのところであるが、通常この程度の地形にある場合
には、隣接土地の盛土等の工事を行わなくとも通路又は階段の設置によ
って、隣接土地の従前の利用機能を回復することが可能の場合が多いか
らである。
通路の設置にするか、階段の設置にするかは隣接土地の営業の種類等
によって決定されてくるものである。
311
ロ
高低差が 25 センチメートル以下であるとき(イに該当す
るときを除く。)通路又は階段の設置に要する費用
高低差が 25 センチメートル以下のときは、通常階段の数だと 2 階段
ですむ程度の高低差であり、この程度のときは通路又は階段を設置する
ことによって、隣接土地の従前の機能を回復することができると思われ
るので、これに要する費用を補償することとしたものである。
ハ
高低差を示す数値を距離を示す数値で除して得た数値が
0.5 をこえ、かつ、距離が 3 メートルをこえるとき通路又
は階段の設置に要する費用
道路との距離が 3 メートルの距離をこえるときには、通常通路を設置
することによって隣接土地の機能回復が図られることが多いと思われる
ので、通路又は階段の設置に要する費用を補償することとしたものであ
る。階段にするか、通路にするかはイに述べたことと同様である。
ニ
イ、ロ又はハのいずれにも該当しないとき通路又は階段
の設置により支障を除去できると認められるときは通路又
は階段の設置に要する費用、それ以外のときは通路若しく
は階段の設置を必要としないような隣接土地の上にある建
物等の全部若しくは一部の切取り補修若しくは改造、曳家、
揚家、降家その他適切と認められる工法による移転(この
ために必要と認められる隣接土地の盛土若しくは切土を含
むものとし、以下「建物等の移転」という。)に要する費用
隣接地補償は、隣接土地の従前の利用機能を回復することにあり 、イ 、
ロ及びハのような状態のときには、通常通路又は階段の設置により、従
前の利用機能の回復ができるものであるが、イ、ロ及びハのいずれにも
該当しないような場合には、通常の場合通路又は階段の設置により支障
を除去できない場合が多いと思われるので、このような場合には、通路
又は階段の設置によって支障を除去できる場合は別としても、隣接土地
についての高低差等による支障を除去するまでの盛土等に要する費用を
補償することができることとしたものである。しかし、通路又は階段の
設置の場合との均衡上過当補償とならないように適切と認められる工法
によることが望まれる。
ここで、通路又は階段の設置に要する費用を補償する場合との均衡上、
隣接土地を盛土する場合には、全面的に盛土をするのではなく、イ、ロ
及びハに該当することとなる程度までの盛土に要する費用を補償するこ
ととし、あとは通路又は階段の設置に要する費用を補償すれば良いでは
ないか、つまり 1 メートルの高低差が生じたときには、75 センチメー
312
トルの盛土費用に、通路又は階段の設置に要する費用を補償することと
したら良いではないかという議論であるが、1 メートルを盛土する場合
と 75 センチメートルの盛土をする場合とで費用が比例的に増加するも
のでもなく、しかも、 75 センチメートルを盛土してあとは通路又は階
段とすることは工事の工程としては 2 工程となって実際的な処理として
は適当でないので、一定の限度をこえたときには全面盛土等に要する費
用を補償することとした方が妥当なものと考えられる。
(高低差、距離の測定図)
建物等
道
路
高低差
距
離
建物等
高低差
距
道
路
離
なお、この高低差、距離の測り方は、ごく一般的な状態を示したもの
であるから、傾斜地に建築されているような建物等と道路との関係を測
定する場合には、その都度隣接土地の支障の状態等を考慮にいれながら
適切な判断をくだす必要がある。
また、通路又は階段の設置に要する費用を補償する場合のイ、ロ、ハ
及び建物等の移転等に要する費用を補償する場合の二の関係を図で示す
と次図のような関係になる。
313
m
2.0
高低差
(ハ)
(
1.5
通路又は階段の設置
を必要としない
ような建物等の移転
)
1.0
0.5
(イ)
通路又は階段
0.5
0.25
0.25
(ロ)
0.5
1.0
1.5
2.0
(距
ホ
2.5
3.0
離)
イ、ロ又はハに該当する場合において、高低差、距離その
他の隣接土地又は隣接土地の上にある建物等の状況からみて
建物等の移転をしなければ通路又は階段を設置することが著
しく困難若しくは不適当であると認められるとき通路若しく
は階段の設置に伴う建物等の移転に要する費用及び通路若し
くは階段の設置に要する費用の合計又は通路若しくは階段の
設置を必要としないような建物等の移転に要する費用のいず
れか小なる費用
イ、ロ又はハに該当する場合、すなわち通路又は階段の設置に要する
費用を補償する場合であっても、隣接土地の地形、面積等の状態からそ
のままでは、通路又は階段の設置ができない場合がある。このようなと
きには最終的には建物等の移転あるいは全面盛土等に要する費用すなわ
ち通路又は階段の設置を必要としないような建物等の移転に要する費用
を補償することとなるのであるが、いきなり通路又は階段の設置を必要
としないような建物等の移転に要する費用を補償するのではなく、隣接
土地の地形、面積等の状態からそのままでは通路又は階段の設置はでき
ないが、建物等の一部を切取るとかあるいは建物等を曳家等をすれば、
通路又は階段を設置することができることもあるので、このような場合
314
には、
通路又は階段の設置に伴う建物等の移転に要する費用+
通路又は階段の設置に要する費用
と
通路又は階段の設置を必要としないような建物等の移転に
要する費用
とを比較して、いずれか費用の少ないほうで補償することとしたもので
あって、補償の原則にたったものである。
なお、隣接土地の地形、面積等の状態から隣接土地の上にある建物等
の曳家等がもともとできない場合には、費用比較がもともとできないの
で、そのような場合には費用比較することなく、通路又は階段の設置を
必要としないような建物等の移転に要する費用を補償することができる
ことはもちろんである。
高低差が生ずることによって影響を受ける典型的なものは、営業用店
舗の用に供されている敷地であることは、前にも述べたところであるが、
店舗併用住宅のような場合であるとか、デスクでの仕事の用なものであ
る場合等については、次に述べる一般住家の場合との均衡上適切な補償
を行う必要がある。
( 2)
隣接土地が一般住家の敷地の用に供されている場合
イ 隣接土地の占有者が自動車を有し、かつ、自動車を隣
接土地に出入りさせる必要があると認められるとき自動
車の出入りのために必要と認められる通路の設置に要す
る費用
隣接土地が一般住家の用に供されている場合には、通常家族が日常の
出入りに支障のないようにしてやれば良いが、隣接土地の占有者(必ら
ずしも所有者ではないことに注意すべきであるが、一時的な占有者は含
まれないことはもちろんである。)が自動車を有し、しかも隣接土地に
自動車を出入りさせる必要がある場合には、自動車の隣接土地への出入
りに支障とならないような状態にしてやる必要があるので、自動車の出
入りのために必要と認められる通路の設置に必要な費用を補償すること
ができるものとしたのである。
自動車を有している場合とは、現に有している必要があるか、それと
も現に有していないけれども近い将来購入計画があるというような場合
をも含めるかについては、問題のあるところであるが、私の考えでは、
物理的に自動車が存在していなくともすでに購入契約等を結んでいるよ
315
うな場合には、現に有しているとみても良いだろうし、ごく近い将来に
購入計画があることが立証され、客観的にみて現に有している状態とみ
ていいような場合も自動車を有している場合と認めても良い場合もある
と思うが、いずれにしてもこのような場合に補償を行うときには慎重に
取り扱う必要があることは言うまでもない。
この補償には、自動車を有しているという要件だけでなく、隣接土地
に自動車を出入りさせる必要があると認められる場合という要件、すな
わち隣接土地において継続して自動車を保管しているということがある
ので、例えば自動車を有してはいるけれども、自動車の保管場所が隣接
土地には関係のないところにある場合には家族の日常の出入りに支障が
あれば、階段の設置に要する費用が補償される場合はあっても、自動車
の出入りのために必要とするような通路の設置に要する費用は補償され
ないこととなる。
通路の構造等については、隣接土地の占有者の所持している車種の登
坂能力等によって異なってくるけれども、傾斜角度 15 度程度が標準的
であろうと思われる。しかし、いずれにしても車種の登坂能力等を考慮
しながら適切と思われる通路構造等にすべきである。
ロ
イに該当しないとき階段の設置に要する費用
一般住家の場合には、自動車を有し、かつ、自動車を隣接土地に出入
りさせる必要のないかぎり、家族の日常の出入りについて支障とならな
いような方法をとってやれば良いので、階段の設置に要する費用を補償
することとしたものである。
ハ
高低差、距離その他の隣接土地又は隣接土地の上にある
建物等の状況からみて、建物等の移転をしなければ通路若
しくは階段を設置することが著しく困難若しくは不適当で
あると認められるとき隣接土地又は隣接土地の上にある建
物等の状況に応じ、通路若しくは階段の設置に伴う建物等
の移転に要する費用及び通路若しくは階段の設置に要する
費用の合計又は通路若しくは階段の設置を必要としないよ
うな建物等の移転に要する費用のいずれか小なる費用
この考え方は、隣接土地が店舗の用に供されている場合のホと同趣旨
の規定である。一般住家の場合であっても隣接土地の地形、面積、道路
との距離等の関係から現状のままでは通路又は階段を設けることができ
ないような場合に、建物等の曳家等の余地があるときは、いきなり通路
又は階段の設置を必要としないような建物等の移転に要する費用を補償
するのではなく曳家等に要する費用に、通路又は階段の設置に要する費
用を加えたものと通路又は階段の設置を必要としないような建物等の移
転に要する費用とを比較し、いずれか少ないほうの費用を補償するとい
316
う考え方である。また、車を有している場合に敷地に車の出入路を設け
る余地がないようなときに、敷地の一部に盛土をして車庫の嵩上げを行
うような場合も考えられる。
( 3)
隣接土地が農家の敷地の用に供されている場合
イ 隣接土地の占有者が耕うん機、農業用荷車等を有し、
かつ、これらを隣接土地に出入りさせる必要があると認
められるとき耕うん機、農業用荷車等の出入りのために
必要と認められる通路の設置に要する費用
農業宅地の場合は、通常住家のほか、農業用建物又は農作業場等の用
に供されている場合が多く、したがって、店舗のように通路との関係が
直接的でないといえる。しかし、隣接土地の占有者が耕うん機、農業用
荷車等を有し、かつ、これらを隣接土地に出入りさせているような場合
には、これらのものを隣接土地内に出入りさせるための通路を確保して
やらなければ営農上、生活上直接の被害をこうむるので、通路の設置に
要する費用を補償することができるとしたものである。
耕うん機、荷車等を現に有している必要があるかどうかの考え方、こ
れらのものが隣接土地内に保管されているという要件を必要とすること
等については、一般住家の敷地の用に供されている場合のイの考え方と
同様である。
通路の構造等については、隣接土地の占有者の所持している耕うん機
等の登坂能力等によって異なってくるが、傾斜角度 10 度程度が標準的
であると思われる。しかしいずれにしても、耕うん機等の登坂能力等を
考慮しながら適切と思われる通路構造等にすべきである。
ロ
イに該当しないとき階段の設置に要する費用
隣接土地の占有者が耕うん機、荷車等を有していない場合には、家族
の日常の出入りについて支障とならないような方法をとってやれば良い
ので、階段の設置に要する費用を補償することとしたものである。
ハ
高低差、距離その他の隣接土地又は隣接土地の上にある
建物等の状況からみて、建物等の移転をしなければ通路若
しくは階段を設置することが著しく困難若しくは不適当で
あると認められるとき隣接土地又は隣接土地の上にある建
物等の状況に応じ、通路若しくは階段の設置に伴う建物等
の移転に要する費用及び通路若しくは階段の設置に要する
費用の合計又は通路若しくは階段の設置を必要としないよ
うな建物等の移転に要する費用のいずれか小なる費用
この規定の考え方は、店舗敷地の場合におけるホ及び一般住家の敷地
の場合におけるハと同趣旨の規定である。
317
( 4)
隣接土地が特殊な公共用の建物等の用に供されている場
合隣接土地が消防車庫、水防倉庫、救急車庫等特殊な公共
用の建物等の敷地であって、高低差が公共の利益のために
重大な支障となると認められるとき通路又は階段の設置を
必要としないような建物等の移転に要する費用
消防車庫、水防倉庫、救急車庫等特殊な公共用の建物等の敷地の場合
は、消防車、救急車等が緊急時にすみやかに出動できる態勢を確保して
おく必要があるものであって、高低差がついたままで通路によって支障
を除去しただけでは緊急時における出動が確保できないので、このよう
な敷地の場合には、通路又は階段の設置を必要としないような建物等の
移転に要する費用すなわち道路面とフラットになるような盛土あるいは
切土等に要する費用を補償することができることとしたものである。
ここで問題になるのは、ガソリンスタンドの敷地の用に供されている
場合、特にガソリンスタンドの敷地は、危険物の規制に関する政令(昭
和 34 年政令第 306 号)第 17 条第 1 項第 2 号(現行では第 5 号)の規定に
より、給油空地及び注油空地には、漏れた危険物及び可燃性の蒸気が滞
留せず、かつ、当該危険物その他の液体が当該給油空地及び注油空地以
外の部分に流出しないようすることとされていることも含めて、この項
の規定による補償を行うのか、それとも通常の店舗なみの補償をすれば
足りるのかということにある。
思うに、これらガソリンスタンドの敷地に課された規制は、本来的に
財産権に内存する負担であると考えられるし、一般の店舗等の均衡上か
らも、しかも「公共用」の建物等ではないからこの項の規定による補償
を行うのではなく(1)の店舗と同様の補償を行えば足りるものであって、
その際、危険物の規制に関する政令第 17 条第 1 項第 2 号の規定により、
空地を路面より高くするための費用もさきに述べたとおり財産権に内在
する負担であるという考え方から、このために要する費用も補償する必
要はない。ただ通路又は階段の設置に要する費用を補償する場合におい
ては、ガソリンスタンドの性格上階段の設置に要する費用を補償するの
ではなく、通路の設置に要する費用を補償する場合のほうが一般的であ
ろうと思われる。
なお、ガソリンスタンドの空地を路面より高くするための費用を補償
することの必要のないことを裏付ける例規があるので、以下に紹介する
こととする。
○道路の嵩上げに伴う補償について
318
昭和 43 年2月 5 日 42 建設省福道
政発第2号福島県土木部長あて
建設省道路局路政課長回答
昭和 42 年 10 月 5 日付け 42 道第 521 号をもって照会のあった標記に
ついて下記のとおり回答する。
記
危険物の規制に関する政令(昭和 34 年政令第 306 号)第 17 条第 1 項第
2号の規定により、給油取扱所の空地を路面より高くすることについて
は、道路法(昭和 27 年法律第 180 号)第 70 条第 1 項の規定の適用はない
ものと解する。
なお、一般の建築物として補償しなければならないような損失がある
ときは、その一般的基準により補償することは差支えない。
福島県土木部長照会
昭和 42 年 10 月5日
42 道 第 521 号
一般国道 49 号線、会津若松市七日町地内に設置してあるガソリンス
タンドの経営者山田八太郎より、道路の舗装補修工事(オーバレー)によ
り、路面が従来より 10 センチメートルから 12 センチメートル高くなっ
たため、消防署より別紙写し(省略)のとおりの改善勧告を受けたので、
原因者である土木事務所に対して改善に要する費用 100 万円を要求(見
積書提出)してきたものであるが、これに関し、下記事項について御意
見を伺いたく照会申し上げます。
記
1
別添図面のように 10 センチメートルから 12 センチメートル程度嵩
上げしたことにより、補償の義務が発生するかどうか。
(1) 通常の場合、10 センチメートルから 12 センチメートル程度では、
出入のための影響はないものと思われる。若し、あったとしても、
その通路の取付の部分の補償工事で良いと思われるがどうか。
(2) 舗装の嵩上げをしたことにより、ガソリンスタンドの在来舗装地
盤が低くなり、そのため別添のとおり消防署より勧告を受けたもの
であるが、道路管理者として、このように他の法令に基づく勧告に
より必要となった工事に対しても補償の義務があるかどうか。
2 なお、ガソリンスタンドと、道路の間の側溝蓋のコンクリート打設
は、道路法第 24 条の承認を受けないで施行したものであるので参考
319
まに申し添えます。
( 5)
隣接土地が(1)から(4)までに掲げる敷地以外の用に供さ
れている場合の利用状況に応じ、(1)から( 4)までに定めると
ころに準じて適正に算定した費用
隣接土地が(1)から(4)までに掲げる敷地以外の用に供されている場合
は、その隣接土地の利用目的、支障の実態等を調査した上で、(1)から(4)
までに掲げる補償に準じて適正に算定した費用を補償することとしたも
のである。
3
土地等の取得又は土地等の使用に係る土地を道路の新設又
は改築の用に供することにより、高低差が生じ、又は道路と
隣接土地の上にある建物等が接近したため、隣接土地又は隣
接土地の上にある建物等にかき、さく、へい、めかくしその
他これらに類する工作物の新築、改築又は修繕(以下この項
において「工作物の新築等」という。)をする必要があると
認められるときは、工作物の新築等に要する費用を補償する
ものとする。
2においては、隣接土地と道路との間に高低差が生じたため、隣接土
地の従前の機能を回復するために必要な通路又は階段の設置に要する費
用、建物等の移転に要する費用を補償することができる旨を規定したも
のであるが、本項においては隣接土地に高低差が生じあるいは道路が隣
近したために、例えば歩道橋をつくったことによって、家の中が見られ
るというような場合に、道路の工事として歩道橋にめかくし等を設置す
る場合は別として、めかくし、へい等を設置するために要する費用を補
償することができる旨を規定したものである。
なお、本項の規定による補償と 2 に規定した補償とを併せて行う必要
がある場合に、これらの補償を併せて行うことができることはもちろん
である。
4
土地等の取得又は土地等の使用に係る土地を道路の新設又
は改築の用に供することにより、隣接土地内の排水(雨水等
の自然水の排水に限る。ただし、既設の排水施設を付け替え
て側溝を設ける場合においては、当該排水施設に汚水を排水
する権利を有していた者の排水する当該汚水の排水を含む。)
が困難になると認められるときは、排水溝その他の排水施設
の設置に要する費用を補償するものとする。この場合におい
て高低差、距離その他の隣接土地又は隣接土地の上にある建
物等の状況からみて、建物等を移転しなければ排水溝その他
の排水施設を設置することが著しく困難若しくは不適当であ
320
ると認められるときは、排水溝その他の排水施設の設置に伴
う建物等の移転に要する費用及び排水溝その他の排水施設の
設置に要する費用の合計又は排水溝その他の排水施設の設置
を必要としないような建物等の移転に要する費用のいずれか
小なる費用を補償するものとする。
本項は、道路との高低差が生じたために、雨水等の自然水の排水が困
難となるときに、雨水等の自然水の排水施設の設置に要する費用を補償
することができる旨を規定したものである。したがって、ただ単に道路
にたれ流しをしていたような人工水としての汚水の排水が困難になった
ような場合の排水施設の設置に要する費用については、補償しない。し
かし、汚水であっても従前から排水施設を設け側溝に汚水を排水してい
て、しかもそのことがある程度権利性をおびているような場合もあり、
側溝を付け替えることによって、汚水の排水ができなくなることも考え
られそれが権利侵害になる可能性もあるので、このような場合における
汚水は、雨水等の自然水と同様に考えることとしたものである。
排水施設の種類等については、特に規定はないが、障害の状態等を適
確に把握し、適切と認められる施設によって補償する必要がある。
本項の後段の規定は、2 の(1)のホ、2 の(2)のハ、2 の(3)のハと同趣
旨の規定である。
5
前 3 項に定める補償を行う場合においては、隣接土地の周
辺の土地若しくは建物等の利用状況、又は道路の新設若しく
は改築前に隣接土地若しくは隣接土地の上にある建物等の利
用が妨げられている事情があったと認められるときは、その
事情に応じ、補償せず、又は適正に補正するものとする。
この項は、隣接地補償を行う際に、隣接土地の従前の状態等を考慮に
いれ、補正することとする規定である。例えば、高低差が生じたときの
補償を行う際にもともと道路との高低差があったような隣接土地を道路
面とフラットにまでしてやる盛土費用を出す必要はないのであって、従
前と同程度になるまでの補償をすれば良いという考え方である。また、
へい、めかくし等の補償を行う場合に、もともとその周辺の状態等から
みて高層建築物等がたちならんでいるために家の中まで見とおせるよう
な状況にあるようなとき等も本項により補正を行う必要があろう。
さらに、隣接する家屋との均衡上補正を必要とする場合もあると考え
られる。
6
土地等の取得又は土地等の使用に係る土地を河川、海岸、
砂防又は地すべり等防止の事業の用に供することにより、隣
接土地又は隣接土地の上にある建物等の従前の利用が著しく
妨げられると認められる場合においては、前 4 項に定めると
321
ころに準じて補償するものとする。
隣接地補償の多くは、道路との関係において隣接土地に支障が生じた
ときに行われる場合が多いので、道路との関係についての考え方を規定
してきたものであるが、国土交通省の所管事業である河川、海岸、地す
べり等防止の事業等についても、隣接地補償を行う場合があるので、こ
れらの事業についても道路の新設、改築等によって生ずる隣接地補償の
考え方を準用することとしたものである。
以上が隣接地補償についての運用申し合わせの全文であるが、ただこ
の申し合わせの内容となっていない問題で、補償金の支払方法はどうあ
るべきかということなどを問題にしなければならないと思うので、以下
これらの考え方を簡単に記しておこうと思う。
補償金の支払方法については、一般に見込払い、着工払い、完成払い
等が考えられるが、例えば、補償内容を実行せず高低差が生じたままで
は工事の施工に支障をきたすことが想定される場合などは、実行を確保
する意味でも着工払いにするほうが望ましいと思われる。
隣接地補償は、道路等の用に供される土地と直接関係のない者に対し、
本来ならば事業損失として不法行為の分野で議論されるべきものを、政
策的な意味から補償体系の中にとり入れたものであるから、損失はある
が、その損失が著しく支障となるかどうかを見きわめる必要がある。い
いかえればその損失が社会的に受忍の範囲をこえているかどうかの判断
を適確に行う必要があるので、適切な判断のもとに過当補償とならない
ように慎重に実施されることが望まれる。
また、この申し合せは、原則的な事柄を規定したものであり、損失の
態様をすべて網羅したものではないから、具体的な事例の処理に当たっ
ては、適切な判断のもとに、適切な補償を行うことが望まれる。
322
項
目
道路工事に伴う隣接者補償について
【質疑の概要】
道路工事に伴い、沿道家屋の一部(例えば壁等)が損傷し、標準約款に
いう甲、乙ともに手落ちがない場合、原形復旧に要する費用は補助対象
となり得るか。
【対
応】
杭打ち等が設計書又は特記仕様書等に定められた方法により行われ、
その結果、設問の損害が生じた場合においては、通常発注者側の責に帰
すべきものと考えられるので、損傷の程度に応じ発注者において補償す
ることとなり当該補償費は補助対象となる。
なお、工事が振動、騒音を伴うものである場合においては、沿道家屋
に与える影響を最少限に止めるよう事前の調査を十分に行い、工法の選
択を慎重に検討するほか、沿道関係者に対する説明を十分に行い、了解
を得ておくことが必要である。
323
項
目
支道の取付工事に関係する問題処理について
【質疑の概要】
道路の新設又は改築等に伴う各種支道の取付工事について所見をたま
わりたい。
1 各種支道の取付工事に関係する設計書の費目区分について。
2 取付工事に必要な用地はすべて買収か。又登記はどうするのか。
3 支道を道路敷地として買収する場合の私道評価は、画一的にする
か、それとも利用形態により評価するのが適切か。
【対
1
応】
支道の取付工事は、本工事によって必要を生じたことであり、全部
附帯工事としてするには、補助事務提要等から困難であり、市町村が
管理する市町村道、及び農道については、附帯工事で区分し、里道及
び私道は工事の施行によって損失を受ける者に対する補償として、用
地補償費(補償工事を含む。)で処理してもさしつかえない。
2
市町村の管理する市町村道及び農道については、支道取付に必要な
用地を用地費で買収し、里道及び私道は補償費ないし、補償工事とし
て処理されるべきである。
なお、市町村道及び農道の登記については、一応市有地等として登
記して、後日、市道敷等として所有権移転をしてさしつかえない。
3 用対連細則第 2 に基づく土地評価事務処理要領により処理された
い。
324
項
目
附帯工事について
【質疑の概要】
用地補償質疑応答集にある「支道の取付工事に関係する問題処理について」
について、対応の1の附帯工事として整理するものは、土地収用法の適用が
あるもの(よって、収用法第3条第1項第5号の農業用水路もこれに含む。)
との理解でよいか。
対応の2について、附帯工事費で対応するものに係る付替用地の買収費用
は用地費、それ以外の里道及び私道等の買収費用については補償費で対応と
いうことでよいか。
【対
応】
①附帯工事として整理されるものは、土地収用法の適用があるものと判断
して差し支えないと思われる。
②附帯工事費で対応するものに係る付替用地の買収費用は用地費に該当す
ると思われる。それ以外の里道及び私道等の付替方法については、次の
2通りが考えられる。
1.金銭補償による買収
2.補償工事による付替工事
325
項
目
隣接地に関する工事費の補償と営業補償について
【質疑の概要】
地盤変動に伴う建物損傷に係る事務処理要領では、営業の一時休止等
について費用負担ができる(第 9 条)としているが、この趣旨からすると
同じ事業損失補償である隣接地に関する工事費の補償(用対連基準第 60
条)にも、営業補償が含まれると解していいか。
【対
応】
隣接地に関する工事費の補償は、事業の施行に伴い隣接地に不利益が
生ずる場合、例えば、道路の改築により道路面と隣接地との間に高低差
が生ずる場合に問題となるものであるから、事業損失補償に属するもの
と言える。
この補償は、不法行為による損害賠償が認められる場合ばかりでなく、
不法行為が成立しないような場合でも、事業の施行により受忍限度を超
える不利益が生ずるならば、公平負担の見地から、通常妥当な範囲内で
その不利益を填補しようとするものである。
これに対し、地盤変動に伴う建物損傷に対する費用負担は、原則とし
ては不法行為が成立するような場合に行うものであり、損害賠償に近い
性格を有するものといえる。したがって、地盤変動と損害との間に相当
因果関係が存し、かつ、受忍の範囲を超える損害と認められる場合には、
その損害をてん補するために必要最小限の費用負担ができるとされてい
るのである。
以上のような相違から、隣接地に関する工事費の補償と地盤変動に伴
う建物損傷に対する費用負担とは、同じ事業損失補償ではあるがその補
償範囲に違いがあると解されている。
隣接地に関する工事費の補償範囲については「用対連基準及び同細則
の運用申し合せ」七に示されており、これが現在も一般的な解釈となっ
ている。
その中では 、「建物等の工事に伴って蒙る得べかりし利益の喪失に対
しては、法(第 93 条等)改正を必要とするので、現時点で補償すること
はできない。」とされている。
したがって、得べかりし利益の喪失つまり営業の一時休止等による損
失については、補償する必要はないと解せざるをえない。その理由とし
ては、①条文解釈上、工事費に営業補償まで含めて読むことは難しいこ
と(残地工事費の場合は、法第 88 条により「通常受ける損失」を補償で
きるとしている。)、②当該補償は、不法行為が成立しないような場合
でも政策的に補償しようとするものであり、補償の範囲について限界が
あること等が考えられる。
326
以上のことから、上記「運用申し合せ」では、工事費の中に、仮営業
所の設置に要する費用等の工事に伴って必要となる間接費用を通常妥当
と認められる額の範囲内で考慮すべきとあるが、その要否の判断及び算
定にあたっては、得べかりし利益の喪失に対する補償は必要ないとして
いることと均衡を失しないように配慮することが必要である。
なお、地盤変動に伴う建物損傷の場合、一般的には、営業休止に伴う
得意先喪失に係る損失等間接的な収益減については、費用負担の対象と
していないことを留意する必要がある。
【その他参考】
「月刊用地」1988 年 1 月
327
項
目
損失補償(みぞ・かき補償等)に関する判例について
【質疑の概要】
最近の損失補償に関係する判例についての評論を教示されたい。
【対
応】
昭和 58 年において損失補償に関係する判例として注目すべきものと
しては、最高裁判所が 2 月 18 日に判決を下した道路法第 70 条で定める
いわゆる「みぞ・かき補償」に対するもの及び名古屋高等裁判所が 4 月
27 日に判決を下した福原輪中堤に対する文化財的価値の損失に対する
ものがある。後者が、現在、最高裁判所において審議中であることから、
本稿においては前者について各論調を述べることとする。
本事案の概略は次のとおりである。すなわち原告 A は国道隣接地で
石油給油所を経営しており、同地地下に適法(消防法)に貯蔵タンクを設
置していた。ところが、国道の道路管理者が同地の隣傍に地下道を新設
したことに伴って、同貯蔵タンクは消防法上違反状態(保安物件との間
に離隔距離の条件を満たさなくなった。)となり、地下貯蔵タンクの移
転をなすことを余儀なくされた。このため、道路法第 70 条第 1 項に基
づきその費用を道路管理者に請求したものである。
第一審、第二審においては、石油給油所経営者 A の主張を認め、道
路管理者に対し本件貯蔵タンクの移設工事は、地下道の新設に起因する
ものであるので、道路法第 70 条第 1 項に基づき補償すべきであると判
断した。道路管理者はこれを不服として上告したが、最高裁判所は、道
路法第 70 条第 1 項での補償の対象が道路工事の施行による土地の形状
の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去
するを得ない必要があってした前記工作物の新築・増築・修繕若しくは
移転又は切土若しくは盛土の工事に起因する損失に限られるとして、本
事案のような損失は、道路法第 70 条第 1 項の定める補償の対象に属し
ないとの判断を示した。
本事案において問題・論点となったのは、主として①地下貯蔵タンク
に対する法規制上の障害に基づく損失も道路法第 70 条第 1 項の「みぞ
・かき補償」の対象となるか否か、及び②適法であった既置施設が、後
発的な事象によって警察法規に抵触することとなった場合の最終費用負
担者は、だれであるのかの二点であろう。
①の「みぞ・かき補償」の範囲については、我が国の損失補償制度が
公共事業等の実施のために、直接収用又は使用を課せられた財産につい
て、その対象とするという前提があり、これらの財産が収用又は使用さ
れることによる価値の減額について収用者又は使用者が補償することを
目的としている。しかしながら、公共事業の施行により、当該施行地の
328
従前の形状に応じて設置していた工作物の機能を損うことがしばしばあ
りうることである 。「みぞ・かき補償」はこれが不法行為によるものに
該当しないとしても、公共事業の施行者にその費用の全部又は一部負担
させることによって、公共事業の円滑な実施を図ろうとすることを目的
とした立法政策により設けられたものである(原田、宇賀)。したがって、
「みぞ・かき補償」は、危険物が存在することに対して課せられる警察
規制に基づく損失補償を対象としたものではない。
損失補償については、前述したように、公共事業等の実施がもたらす
不利益に対して、その救済をすることを目的としている。本件の「みぞ
・かき補償」は、いわゆる「第三者補償」として、現行法に明示的に承
認されているものである。この「みぞ・かき補償」は、道路法特有な制
度ではなく、法第 93 条のほか、河川法第 21 条第 1 項、海岸法第 19 条
第 1 項、地すべり等防止に関する法律第 17 条第 1 項、急傾斜地の崩壊
による災害の防止に関する法律第 18 条第 1 項に各々定められている。
現行法上、ほぼ一般的にみられる制度であるといえる(原田、鈴木)。
このように一般化した制度となった理由としては、公共事業が施行さ
れた結果土地の形状が変化し、既設の工作物(みぞ・かき・柵)を従来ど
おりに使用・利用することができなくなったために、それらの工作物の
改良・新設等の工事を行う必要が生じた場合、その「費用を通常の事業
損失の一環として不法行為理論で補償することには……大いに疑問があ
る」が、逆に無補償とすることは 、「著しく公平感に反する」(原田)こ
とから、このような損失に限って例外的に立法上補償項目に加えられた
ためであると解される。このような立法の趣旨からすると「土地等の形
状変更に対応するためでなく、公共事業により既存の施設が、法令上の
要件に合わなくなったために、これを法令上の要件に適合させるために
工事をしたような場合には、
「みぞ・かき補償」の対象となりえないし、
「みぞ・かき補償」が例外的制度であるから、その文意を拡大して運用
することは適当ではない」(原田)との意見が主流を占めている。
次に②の費用負担については、次のとおりである。
適法な状態にあった物件が、他人の行為によって後発的に警察違反の状
態になった場合において、その法規制上の障害に基づく損失について補
償を要すると考えるときは、当該警察法規の中に補償に関する規定を設
けるのが立法の大原則である(鈴木)(例えば、電気事業法第 50 条)。
本件の場合、消防法の第三章による規制をうけ、当局の行政指導によ
って移設したものであるが、消防法第三章には、上述したような補償に
関する規定はない。
しかし、このような規定がないからといって、後発的な事態の発生に
より移転を余儀なくされた場合、その所有者に移転費用の負担を強いる
ことができるであろうか。
最高裁判所の判断は、次のようである。本件での移転は「道路工事の
329
施行の結果、警察違反の状態を生じ、危険物保有者が、右技術上の基準
に適合するように工作物の移転等を余儀なくされ」たためだとし 、「道
路工事の施行によって警察規制に基づく損失がたまたま現実化するに至
ったものにすぎない」としている。同様な見解は、村上義弘教授が、今
村成和教授の説を引用しつつ、次のように述べている。「消防法第 5 条
により防火対象物の改修等の命令があった場合、警察違反の状態を除去
すべきことは、財産権の内在的制約に基づくものとして、命令による損
失にも補償の要がない、補償の要否は、財産権に対する侵害が、その内
在的制約に基づくものであるかによって決せられる」とし「危険物を取
扱い又は管理するものは、絶えずそれより発生する災害若しくは事故に
よって社会、公共に損害を及ぼさないよう細心の注意を払う義務をもと
もと負っているのであって、それゆえ、そのような趣旨から発せられる
行政庁の命令には、当然服さなければならないのみならず、その命令に
服することによって、たとえ損失が生じたとしても、そのような特殊、
危険な財産に付随する義務若しくは内在的制約として、それを受忍しな
ければならない」としている。と同時に、消防法で規制される保安物件
を取扱うことによって、その取扱い者は、何らかの利益を得ているので
あり、その安全を確保する上からの規制についての負担・費用を、公が
支出する理由はないとしている。
また、鈴木芳夫氏も次のように述べている 。「各種の警察法規は、他
の国民・公共の安全を害する危険を生じさせるおそれのある危険物の性
質ないし状態に応じて、一定の保安基準などの技術上の基準を定めた上、
その基準を維持すべき義務を負わせている。後発的な環境の変化によ
って生じた警察違反の状態を解消するための危険物保有者が支出した費
用は、保有者において負担すべきものとされている。」
なお、原田尚彦教授は、公共事業による施設改善費用の負担に関して
「収用等によって警察違反状態がたまたま顕在化した場合にまで、警察
責任の法理を根拠に補償を支払われないで、違反状態の是正措置をとら
せることができる」とまでいい切ってしまうことができるかにはかなり
疑問あると述べている。
〈参考文献>
村上義弘・判例評論 260 号
宇賀克也・法学教室 33 号
鈴木芳夫・昭和 54 年行政関係判例解説
原田尚彦・ジュリスト 815 号
田中二郎・「紹介」国家学会雑誌 72 巻 11 号
今村成和・損失補償制度の研究
【その他参考】
「月刊用地」1984 年 8 月
330
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