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総 説 - 京都女子大学学術情報リポジトリ

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総 説 - 京都女子大学学術情報リポジトリ
II
一21一
平 成20年12月(2008年)
総
説
生活 習慣 病 と して の骨 粗霧 症
岸本
正 実,栞
原
晶 子,福
Masami
田美 由紀,小
川
蓉 子,木
Osteoporosis
as a preventive
Kishimoto,
Akiko Kuwabara,
Yoko Ogawa,
戸
詔 子,田
中
清
disorder.
Miyuki Fukuda,
Shoko Kido and Kiyoshi Tanaka
Osteoporosis is diagnosed in the presence of increased risk of fracture, but not by the presence of fracture.
Osteoporotic fracture is associated with increased mortality and decreased quality of life (QOL) in the elderly.
Hip fracture has poor prognosis such that the mortality is high after the fracture and patients quite often need
long-term care. Vertebral fracture has high incidence. Although its significance is often overlooked, it is
associated with poor QOL, and decreased pulmonary and digestive function. Thus osteoporotic fracture is a
preventive disease. Unfortunately, the significance of osteoporosis is not fully acknowledged in the general
population. For the prevention of osteoporosis, the collaboration of those with diverse speciality is essential such
as the one with medical doctors and dietitians, nurses, and health policy makers.
(Received September 26, 2008)
microarchitectural deterioration of bone tissue leading to
1.は
じ め に
enhanced bone fragility and consequent increase in
骨 粗霧 症 とい う と,骨 の 病 気 とい う こ とで,整 形
fracture risk",す
外 科 の 病気 で あ る と考 え られ が ち であ る。 もち ろ ん
下 と,骨
整 形外 科 の関 与 が 重 要で あ る こ とは当 然 だ が,整 形
そ の た め に骨 折 の危 険 が 増 した状 態 で あ る」 と定義
外 科 だ け に任 せ て お け ば よい 病気 であ る とい う理 解
さ れ た が,こ
も誤 りで あ る。 骨粗 霧 症 は内 科 ・整 形 外 科 ・産 婦 人
を 持 つ 定 義 で あ るi)。 以 前 は,骨
科 な ど複 数 の 診 療科 の協 力 が 必 要 な だけ で は な く,
骨 粗 霧 症 と して い た が,こ
管 理 栄養 士 ・看 護 師 な ど多 用 な職 種 の 専 門 家 が 関与
存 在 は 骨 粗 霧 症 の 診 断 に 必 須 で は な く,現
す るべ き疾 患 で あ る。 しか し残 念 なが ら 日本 で は こ
存 在 し て い な くて も,骨
の よ うな考 え方 は,広
ば,そ
く普 及 した もの で は な い。 本
れ て い る。
つ ま り,骨
1994年
の 定 義 と生 活 習 慣 病
の 国 際 骨 粗 巻 症 シ ン ポ ジ ウ ム に お い て,骨
は"A disease characterized by low bone mass 粗鬆症
and
量 の低
れ は骨 粗 霧 症 臨床 にお い て大 き な意義
折 した もの の み を
の 定 義 に お い て,骨
折の
在骨折が
折 の 危 険1生 が 増 加 して い れ
れ は既 に骨 粗 霧 症 とい う病 気 で あ る と述 べ ら
を考 え て み たい 。
.骨粗鬆症
と は,骨
の 微 細 構 造 の 劣 化 を 特 徴 と す る 疾 患 で あ り,
稿 にお い て,生 活 習慣 病 と して の視 点 か ら骨粗 霧 症
な く,骨
な わ ち 「骨粗鬆症
粗霧 症 は骨折 したか ら治療 す るの で は
折 の 危 険 が 増 す か ら治 療 す る 必 要 が あ る 。
この考 え方 は生活 習 慣 病 の 治療 に対 す る考 え方 と同
じで あ る 。 高 血 圧 や 高 脂 血 症 を 放 置 す る と,脳
血管
障 害 や 心 筋 梗 塞 の 危 険 性 が 高 く な る か ら治 療 す る,
あ る い は 糖 尿 病 を コ ン ト ロ ー ル す る こ と に よ り慢 性
京都女子大学家政学部食物栄養学科
合 併症 を予 防 で きる の と同 じよ う に理解 され なけ れ
一22一
食 物 学会 誌 ・第63号
に関係 しなか っ たが,圧 迫骨 折 数 の増 加 とと もに,
ば な らない 。
QOLの
皿.な ぜ 骨 折 を予 防 す る必 要 が あ る の か
複 数 の 面 が 低 下 して い くの が わ か る 。 ま た,
圧 迫骨 折 に よ り逆 流 性 食 道 炎が 起 こ りやす くなる こ
椎 体 圧 迫 骨 折 ・大 腿 骨 近位 部 骨 折 ・橈 骨遠 位 端 骨
折 の3つ が,骨 粗鬆 症 に伴 っ て起 こ る骨 折 と して は,
と も証 明 され て い る7)。
また特 に椎 体圧 迫 骨 折 や 大腿 骨 近位 部 骨 折 は,受
最 も頻 度 が 高 い もの であ る2)。
傷 後 手術 したか ら と言 って,決
(1)大 腿 骨 近位 部骨 折
には戻 らない 。
大腿 骨 近 位 部 骨折 の発 生 率 は,50歳 以 下 で は男 女
(3)橈 骨 遠 位 端 骨 折
して 元 の生 活 レベ ル
と も人 口10万 人 当 り10以 下 で そ の 発 生 は ご く少 な
橈 骨 遠 位 端 骨 折 は,「 こ ろ び そ う に な っ て手 を つ
く,60歳 以 上 で徐 々 に増 加 し,70歳 以 降 に指 数 関数
い た ら,手 首 が 折 れ た」 とい う手 首 の 骨折 で あ る。
的 に上 昇 す る3)。2002年 の全 国調 査 で,年 間約12万
これ らいず れの 骨折 も,さ さい な き っか け で起 こ っ
件 発 生 してお り4),しか も2010年 に は約17万 人,2020
てお り,脆 弱 性 骨折 と呼 ば れ る 。
年 には 約22万 人,2030年
に は約26万 人,2043年
には
約27万 人 と,今 後 患者数 の急 増 が予 想 され て い る。
N.骨
粗 鬆 症 の 病 態 と診 断
大 腿 骨 近位 部 骨 折 患 者 の受 傷1年 以 内 の死 亡 率 は約
(1)骨 粗 鬆 症 の 病 態2)
10∼20%と 高 い 上 に,後 に も述 べ る よう に,寝 た き
骨 は古 くな った 部 分 を壊 し(骨 吸 収),新
りの 原 因 と して 重 要 な 疾患 で あ る5)。こ の よ う な大
を作 る(骨 形 成)を 繰 り返 して お り,こ れ に よ って
腿 骨 近 位部 骨 折 の 特 質 を考 え る と,骨 折 した後 で の
骨 強 度 が維 持 され て い る。 正 常 の状 態 で は 骨吸 収=
治 療 で は な く,骨 折 の予 防が 重 要 で あ る こ とは 明 ら
骨 形 成 で あ り,骨 量 は 一定 で あ るが,こ の 骨吸 収 と
かで あ る 。
骨 形 成 の バ ラ ンスが 崩 れ た状 態 が骨 粗 鬆 症 で あ る。
(2)椎 体圧 迫 骨 折
女 性 ホル モ ン(エ ス トロ ゲ ン)は 骨 吸 収 を抑 制 して
椎 体 圧 迫骨 折 は これ まで加 齢 現 象 の よう に考 え ら
お り,閉 経 に よる女性 ホ ルモ ンの 減少 に よっ て骨 吸
れ て きた 。例 え ば,高 齢 女 性 に多 い 「背 中 ・腰 が 曲
収 が亢進 す る た め,骨 吸収 と骨 形成 のバ ラ ンスが 崩
が っ た」 「身長 が 低 下 した」 とい う訴 え は こ れ に よ
れ,骨 粗 鬆 症 を生 じる。 こ の ため骨 粗 鬆 症 は 閉経 期
る もので あ る が,加 齢 現 象 で あ る と軽視 されが ちで
以 降 の女 性 に多 い。
あ っ た。 しか し,椎 体 圧 迫骨 折 に よ る身長 低 下 や 背
(2)骨 粗 鬆 症 の診 断8)
中 ・腰 の 湾 曲 は 確 実 に 内 臓 諸 機 能 の 低 下 ・QOL
骨 密 度 測 定 は,Dual Energy X-ray Absorptiometry
(Quality of Life)低 下 を きた す。 図1に 骨 粗 鬆 症 患
(DXA)法
者 にお け るQOL調
ネル ギ ー の 異 な る2種 のX線
査 結 果 を示 す6)。骨 密 度 はQOL
に よ る の が 標 準 で あ る。
DXA法
身 体 機 能 一一一PF
日 常 役 割 機 能(身 体)..
体 の 痛 み..
全 体 的 健 康 感 一一一GH
活 カ ー一一VT
社 会 生 活 機 能 一一一SF
日 常 役 割 機 能(精 神)一一一RE
図1骨
折 数 とSF-36下 位 尺 度
文 献6)よ
り引 用
は,エ
を照 射 し,吸 収 率 の
偏差得点
心 の 健 康 一一一MH
しい 骨
一23一
平 成20年12月(2008年)
違 い か ら骨 量 を求 め る もの で あ り,再 現性 良好 で 被
骨粗 鬆 症 と診 断 され るた め,非 常 に有 病 率 が 高 くな
曝 量 も少 ない 。 た だ し放 射 線 を用 い るた め,法 的規
る 。 しか しこれ は誤 った診 断で はな く,骨 粗 鬆症 が,
制 を受 け る。 また非 常 に大 きな機 器 で あ り,持 ち運
年齢 と とも に臓 器 の機 能 が低 下 す る,退 行 性 疾患 の
びは 困難 で あ る。 そ こで 健 診 な どで は超 音波 法 に よ
側面 も持 つ た め で あ る。
る測 定(Qualitative Ultrasound;QUS)が
よ く用 い ら
V.骨
れる。
骨 密度 測 定 結 果 は,T値
とZ値 とい う2つ の 表 示
が な され る(図2)。YAM(Young は,20∼40歳
を100%と
(1)骨 粗 鬆 症検 診 とそ の 間題 点
糖 尿 病 患 者 の血 糖 ・尿糖 測 定,高 血 圧 患 者 の血 圧
台 の骨 密 度 の 骨 密度 平 均 で あ り,こ れ
測 定 な ど と異 な り,骨 粗鬆 症 検 診 に は,専 用 の機 器
した値 に対 して現 在 の骨 密 度 が 何%で あ
を必 要 とす る。 こ の点 が,他 の生 活 習慣 病 検 診 との
るか を示 した も の がT値,同
を100%と
Adult Mean)と
粗 鬆 症 に対 す る生 活 習 慣 病 として の対 応
性 ・同 年 齢 の 平 均 値
した値 に対 して現 在 の骨 密 度 が 何%で あ
るか を示 した ものがZ値
で あ る。
大 きな違 い で あ り,問 題 点 で もあ る 。
前 に 述べ た よ うに,骨 粗 鬆 症 の 診 断 はDXA法
に
よる骨 密 度 測 定 を行 うの が基 本 で あ る。 測 定 部位 に
表1に 原 発 性 骨粗 鬆 症 の 診 断基 準 を示 す 。脆 弱 性
関 して は,日 本 で は腰 椎測 定 が 標 準 とさ れ,そ れが
骨 折 と は,骨 密 度 がYAMの80%未
で きな い場 合 に は他 の 部位 の測 定 を行 う こ と とな っ
満 ま た はX線
像 で骨 粗 鬆 症 化 が あ り,軽 微 な外 力 に よっ て骨 折 し
て い る8)。骨 は外 側 の皮 質 骨 と,内 側 の 海綿 骨 か ら
た場合,骨 粗 鬆 症 と診 断 され る。 脆 弱 性 骨折 の ない
成 り,海 綿 骨 は代 謝 回 転 が速 く,女 性 ホ ルモ ン欠乏
場 合 は,骨 密 度がYAMの80%以
にお い て,ま ず減 少 す るの は海 綿 骨量 で あ る。皮 質
は骨量 減 少,70%未
上 は正 常,70∼80%
満 は骨 粗 鬆症 とす る。 なお こ こ
骨 と海綿 骨 の 割合 は部 位 に よ って 異 な り,診 断 に用
で 脆弱 性 骨 折 の 有無 に よ って分 け てい るの は,既 存
い る腰 椎 は 海 綿 骨 の 割合 が 多 い(図3)。
骨 折 は骨 密 度 とは独 立 した,骨 折 の危 険 因子 で あ る
椎 は,閉 経 後 早期 か ら骨 密度 が 減 少 す る部 位 で あ る
つ ま り腰
ため で あ る。 また よ く,あ な た の骨 密 度 は何 歳 なみ
と同 時 に,実 際 に椎 体 圧 迫骨 折 とい う,臨 床 的 に重
とい う表 示 が な され るが,こ れ は正 しい 表示 方 法 で
要 な骨 折 を起 こす 部 位 で あ り,腰 椎 骨 密 度 測 定 の意
はな い 。
義 は大 きい 。
な お こ こで 注 意 してお きた い の は,骨 粗 鬆 症 の診
しか し腰椎 や大 腿 骨 の骨 密 度 を測定 で き る全 身用
断 は,骨 密 度 のZ値 で はな く,T値
DXA装
に基 づ い て行 わ
置 は,高 価 かつ 大 きな機 器 で あ り,ま たCT
れ る こ とで あ る。 つ ま り,年 齢 相 応 か ど うか で は な
の よう な汎 用 性 が ない こ とか ら,主 に大 病 院 や 骨粗
く,若 い頃 か ら どの程 度 減 少 して い るの か に よ って
鬆 症 を専 門 とす る医 療 機 関 に しか 設 置 され て い な
診 断 され,高 齢 者 で は骨 密 度 が年 齢 相 応 で あ っ て も,
い9)。橈 骨 の 測 定 に用 い られ るの は,末 梢 骨 専 用 の
表1 原発性骨粗鬆症 の診断基準
(2000年 度 改 訂 版)
1.脆 弱 性 骨 折 あ り
∬.脆 弱性 骨 折なし
骨密度値
正
常 YAMの80%以
脊椎X線 像での骨粗鬆化
上
骨 量 減 少 YAMの7096以
上 ∼80%未
骨粗鬆 症 YAMの70%未
満
なし
満
疑 いあり
あり
一24一
食物 学 会 誌 ・第63号
安 価 ・コ ンパ ク トなDXA装
置 で 設 置 率 は高 い が,
い。 放 射 線 を 用 い て 骨 密 度 を測 定 す るDXA法
橈滑 は主 に皮 質骨 割 合 が 高 い部 位 で あ る た め,閉 経
違 っ て,QUS法
後 早期 か ら減 少 す る部 位 で は な く,腰 椎 骨 密 度 との
さ とい う異 な っ た指 標 で評 価 す る こ とや,測 定 部 位
相 関 は あ ま りよ くな い とい う問題 点 を持 っ てい る。
が異 な る こ とな どが そ の要 因 と考 え られ る。 しか し
一 方 で,検 診 の場 や 短 い期 間 で の骨 密度 測 定 には
な が ら,QUSの
超 音波 法(Qualitative Ultrasound;Qus)機
役立 つ と思 わ れ る。
器が 広 く用
はSOSす
と
な わ ち超 音 波 の伝 わ る速
測 定 値 は,骨 折 リス クの 予 測 に は
い られ て い る9)。こ れ は骨 に超 音 波 を あ て て,そ の
図4に 示 す の は,骨 粗鬆 症 検 診 に おい て骨量 測 定
伝 わ る速 度(Speed of Sound;SOS)を
測 定す る もの
を行 っ てい る部 位 に関 して,市 町村 に ア ンケ ー トを
で,法 的規 制 を受 け ない こ と,機 器 自体 が比 較 的 小
行 っ た結 果 で あ り,や は り踵 骨 や橈 骨 で の 測 定 が用
さ く,移 動 が 容 易 で あ る な どの 長 所 を持 つ。QUS
い られ る例 が 多 い こ とが わ か る10)。骨 粗 鬆症 検 診 は,
法 に よる測 定 部 位 の踵 骨 は,末 梢 骨 で はあ るが,主
主 に保 健 所 ・保 健 セ ン ター な どで 実施 さ れて い る こ
に海 綿 骨 か ら成 る の が 特 徴 で あ る。 し か し,QUS
と,対 象 者 が 多数 であ る こ とな ど を考 慮 す る と,今
の測 定 値 とDXA法
後 と もQUSに
k
=
1.248
の測 定 値 は,必 ず しも一 致 しな
dO
=
125.6(1.000N)
4.966
よ る検 診 が 現 実 的 と考 え ら れ る が,
V8507991A
Name:
Comment:
I.D.:
Sex:
S.S.#:
ZIPCode:
Scan
Code:
BirthDate:
-
Ethnic:
Height:
154.00
Weight:
40.00
12/02/63
Age:
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Image
not
TOTAL
C.F.
Region
.May
7
Hologic
Array
for
BMD
A Lumbar
0
cm
kg
35
use
L1
8.978
Est.BMC
-
L4
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1.088
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(cm2)
(grams)
L2
L3
L4
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14.59
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8.944
0.979
8.951
TOTAL
45.29
43.41
8.958
HOLOGIL
Database
in 2
CV FOR
Est.Area
BMD(L2-L4)
Spine
diagnostic
8.994
16:26
1999
[113
x 133]
QDR-2000
(S/N
2583)
Spine
Medium
V4.66A:1
Reference
F
-
DXA 6)V1 (lfffi)
=
8.958
g/cm2
(gms/cm2)
一25一
平 成20年12月(2008年)
QUSの
特 徴 を理解 してお く こ とが 大 切 で あ る。
尿 中 の骨 吸 収 マ ー カー が増 加 して い る。 骨 密 度 は遺
なお骨 粗 鬆 症 診療 にお い て も,血 液 ・尿 検 査(骨
伝 的背 景 ・若 い 頃の 生 活 習慣 ・閉経 年 齢 そ の他,過
代 謝 マ ー カー)は 行 われ るが,あ
くまで これ らは診
去 か らの 多 くの 因子 の 蓄積 で 決 定 され る もの で あ る
断 の 補助 手 段 で あ る。 骨 粗 鬆症 の診 断 の基 本 は骨 密
の に対 し,骨 代 謝 マ ー カ ー は,現 在 の骨 代 謝 状態 以
度 で あ る ので,血 液 ・尿 検査 の みで 診 断 を下す こ と
上 の情 報 を与 え る こ とは で きない 。
はで きな い11)。血 液 ・尿検 査 に よ って,骨 吸 収 ・骨
(2)啓 発 活 動 の重 要 性
形 成 の状 態 を知 る こ とが で き,閉 経 後 骨 粗鬆 症 で は,
骨粗 鬆 症 の 意義 は,糖 尿 病 ほ どは社 会 に認 知 され
女 性 ホ ル モ ン欠 乏 の た め,骨 吸 収が亢進 して お り,
て い ない 。 海外 の総 説 にお い て,「 ヘ ル ス ケ ア に お
腰椎(主 に海綿 骨)
橈 骨遠位1/3(主
に 皮質 骨)
橈 骨 超遠 位(海 綿 骨 十皮質 骨)
大腿 骨近 位部(皮 質 骨+海 綿 骨)
踵 骨(主 に海 綿 骨)
図3 部位 に よる骨 の組 成 の 相違
図4 骨粗 鬆 症 検 診 で骨 量 測 定 を行 っ てい る部 位
文 献10)よ り引 用
一26一
食 物 学会 誌 ・第63号
け る重大 さ にお い て,骨 粗 鬆 症 は心 疾 患 に次 ぎ,患
に な っ た の は,近
者 の 活 動 性 の 低 下 に お い て,慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患
歩 し た か ら で あ り,WHOの
(COPD)・
情 を述 べ た もの で あ る。
脳 血 管 障 害 ・心 筋 梗 塞 ・乳 ガ ンに 匹 敵 す
年DXA装
置 な どの診 断手 段 が進
指 摘 は,こ
る」 と述 べ られ て い るが12),わ が 国 に お い て も,骨
従 っ て 骨 粗 鬆 症 に 関 し て は,学
粗 鬆 症 が個 人 レベ ル で も,社 会 に対 して も,き わめ
な く,啓
の よ う な事
問 的研 究 だ け で は
発 的 活動 も非 常 に重 要 で あ る。 糖 尿 病 に 関
て重大 な疾 患 で あ る こ と は,骨 粗 鬆 症 専 門家 の 間で
し て は,糖
は常識 で あ って も,専 門家 以外 に は,そ の重 要 性 が
て い る が,骨
真 に理解 され て い る と は言 い 難 い 。 またWHOの
啓 発 活 動 が 大 切 で あ る 。 こ の 点 に 関 して,先
出
尿 病 教 室 や 糖 尿 病 教 育 入 院 が 広 く行 わ れ
粗 鬆 症 に 関 し て も 患 者 ・市 民 に 対 す る
駆 的取 り
版 物 にお い て,「 骨 粗 鬆 症 は,他 の 慢 性 疾 患 と比 べ
組 み と して,ア
る と,疾 患 と して の定 義 ・概 念 が 確 立 され た のが ご
の 例 を 紹 介 す る(http:〃www.oregonosteoporosis.com)。
メ リ カ のOregon こ れ は 骨 粗 鬆 症 専 門 の 医 療 機 関 で あ る が,以
く最近 であ るた め,真 の 重 要性 が 社 会 にお い て十 分
認 識 さ れ て い ない 」 とい う 問題 点 が 指 摘 さ れ て い
Osteoporosis Support Groupと
る13)。骨 粗 鬆症 が 生 活 習慣 病 と して 考 え られ る よ う
サ ポ ー トす る 活 動 を 行 っ て お り,そ
表2 WHOに
Osteoporosis Center
い う,骨
の 目的 と し て 「骨
よ る骨 折 の危 険 因 子
・年齢
・性
・大腿 骨頸 部 骨密 度
・BMI(骨
密 度 が な い 場 合)
・ ス テ ロ イ ド使 用
・ 二 次 性 骨 粗 鬆 症(例:慢
性 関 節 リウ マ チ)
・ 大 腿 骨 頸 部 骨 折 の 家 族 歴(両 親)
・ 喫煙
・ ア ル コー ル1日2単
位 以上
文献17)より引用
欝算ツール
年 蝋内の鞭訴発 生 りスクをがある場禽菰無も、
場合につも、
て歎算する なめに 、次 の叢 同に園答 し℃くださも㌔
図5 骨 折 リス ク評価 ッ ー ル
前か ら
粗 鬆 症患 者 を
一27一
平 成20年12月(2008年)
粗 鬆症 とい う病気 に よ る生 活上 の制 限 が あ っ て も,
(図5)18>。
人 生 を楽 しむ こ とが で きる よ うに,サ ポ ー ト ・教 育 ・
現在 検 討 が 進 め られて い る。
こ れ が 日本 に も当 て は ま る の か ど う か,
励 ま しを行 う こ と」 と述 べ られ,具 体 的 内容 と して
は,情 報 提 供 に と どま らず,精 神 面 の サ ポ ー トを も
槻.骨
粗 鬆 症 に 対 す る介 入 の 意 義
含 ん で お り,こ の考 え方 は ま さに糖 尿 病教 室,糖 尿
(1)骨 粗 鬆 症 が社 会 に 及 ぼ す影 響
病 に対 す るチ ー ム 医療 で あ る 。 こ の よ うな活 動 は,
最 近 大 腿 骨 頸部 骨 折 の発 生 数 が 減 少 して きた とい
我 が 国 にお い て も徐 々 に進 め られ てい る。
う報 告 が,カ ナ ダ オ ン タ リオ州19),フ ィ ン ラ ン ド20)
な どか ら発 表 され てい る(図6)。
VI.要介護 と骨折
こ の こ と は,新
しい骨 粗 鬆 症 治療 薬 の 普 及 に よ って,実 際 に骨 折 を
「平 成19年 国民 生 活 基 礎 調 査 の 概 況 」 に よ る と,
抑 制 で きる こ とを示 す もの と考 え られ る 。 この こ と
「
要 介 護 度 別 にみ た 介 護 が 必 要 と な った 主 な原 因 の
は,患 者 本 人 に とっ て も ちろ ん重 要 な こ とで あ るが,
構 成 割合 」 は,全 体 と して は脳 血 管 疾 患23.3%,認
社 会 に 及 ぼす 影響 も極 め て 大 きい。 大腿 骨 近 位 部 骨
知 症14.0%,高
折 の 入 院 治 療 費 用 は,萩 野 は 平 均147万 円,林 は平
齢 に よ る衰 弱13.6%,関
骨 折 ・転倒9.4%,要
認 知 症3.2%,高
20.0%,骨
齢 に よ る 衰 弱16.5%,関
節疾患
介護 者 で は脳 血 管 疾
知 症18.7%,高
節 疾 愚9.2%,骨
ち,骨
支 援 者 で は 脳 血 管 疾 患14.8%,
折 ・転倒12.6%,要
患27.4%,認
節 疾患12.2%,
齢 に よ る衰 弱12.5%関
折 ・転 倒8.4%で
あ っ た14)。す な わ
・関節 疾 患 は,要 介 護 ・要支 援 の 重 要 な基 礎
均140万 円 と報 告 し,大 腿 骨 頚 部 骨 折 全 体 の費 用 を,
萩 野 は1,300億 円,林 は1,288億 円 と算 出 してお り,
今 後 患 者 数 が 増 加 す る と02025年
に は2,500億 円 に
達 す る と予 想 され て い る。 大腿 骨 近位 部骨 折 後 要 介
護 とな る例 が 少 な くない こ とか ら,医 療 費 のみ な ら
ず,そ の後 の 介護 に 関す る費用 を も考慮 す る と,要
疾 患 で あ り,特 に要支 援 者 の 基礎 疾 患 と して は,脳
す る費用 は さ らに莫 大 な もの に な る と思 わ れ,太 田
血 管 障 害 を上 回る もので あ った 。 お そ ら く大腿 骨 近
らは 大腿 骨 頚 部 骨折 に関 わ る年 間の 医 療 ・介 護 費 用
位 部 骨折 は,そ の 重 要 な原 因 とな っ てい る 。
を,5,318∼6,359億
日本 整形 外 科 学 会 が行 った 全 国調 査 に よれ ば,平
は,大 腿 骨 頚 部 骨折 と椎 体 骨折 をあ わ せ た総 医 療 費
円 と推 測 してい る。最 近 原 田 ら
成10年 か ら12年 ま で に発 生 した110,747例 の 大 腿0
は2,382∼3,218億
頸 部/転 子 部 骨 折 の 原 因 は,単 純 な転 倒 が最 も多 い 。
9,895億 円 と推 計 して い る21)。欧 米 で は,生 活 習慣
そ の う ち立 っ た高 さか らの 転 倒 が 原 因全 体 の3/4を
病 に関 して,社 会 に及 ぼす 影響 とい う視 点 の研 究 が
占め,90歳 以 上 の超 高 齢 者 で は82%を 占め て い た15)。
"不明"お よび"記 憶 無 し"を 除 け ば90%以 上 が 転
非 常 に 多 いが,今 後 わが 国 で も重 要 な観 点 とな る も
倒 に よっ て発 症 して お り,転 倒 を防止 す れ ば,骨 折
(2)骨 粗 鬆 症 に対 す る生 活 習慣 改 善 の意 義
を防 ぐ こ とが 可 能 とな る。
疾 患 の 予 防 的 介 入 に は,high risk approachと
0.骨
定 義 を 示 し た が,そ
(National lnstitute of正iealth)が
の と考 え られ る。
団 に対 す る介 入 で あ り,こ の場 合 は,費 用 のか か る
に 定 め られ た 骨 粗 鬆 症 の
の 後2001年
療 ・介 護 費 用 は7,974∼
population approachが あ る。前 者 は,高 リス クの 集
折 の リス ク と FRAX
本 稿 の は じ め に,1994年
円,医
に,ア
メ リ カ のMH
「骨 強 度 の 低 下 に よ っ
介 入 も正 当化 され るで あ ろ うが,問 題 は こ の よ うな
集 団 に だ け介 入 した ので は,社 会 全 体 と して予 防 で
き る疾患 の絶 対 数 は 限 られ る こ とで あ る 。骨 折 に関
強度 は
して シ ミュ レー シ ョン を行 っ て い る文献 が あ るの で
骨 密 度 と骨 質 の 両 方 が 反 映 す る 」 と い う 定 義 を 発 表
紹 介 して お くと,50歳 以 上 の全 女 性 を,骨 折 を半 減
て,骨
折 の リス ク が 高 く な る 骨 の 障 害 で,骨
し た16)。 骨 密 度 以 外 の 函 子,す
な わ ち骨 質 もま た重
させ る薬 剤 で 治 療 す る とす る 。骨 折 を1件 予 防す る
要 な 骨 強 度 ・骨 折 リ ス ク の 規 定 因 子 で あ る と い う の
の に要 す る 費 用 は,50∼59歳
が,骨
に高 額 な の に対 して,80歳 以 上 だ と$28,500に
粗 鬆 症 に 対 す る 新 しい 考 え 方 で あ る 。 当 然 低
骨 密 度 以 外 に,多
WHOで
は 表2に
く の 骨 折 危 険 因 子 が あ る わ け で,
挙 げ た8項
目 を,メ
タア ナ リ シ ス
で は$156,400と
非常
な る。
す なわ ち高 リス ク群 限定 で 治療 的介 入 を行 え ば,費
用 対 効 果 は優 れ て い る。 しか しこれ で 予 防 で き るの
に よ っ て 確 認 さ れ た 危 険 因 子 と し て い る17)。 さ ら に
は全 体 の28%の 骨折 のみ で あ り,残 りの72%は
WHOで
risk assessment tool)
低 リス ク群 か ら発 生す るの で,社 会 全 体 と して予 防
険 因子 につ い て入
で きる 骨折 の絶 対 数 は 限 られ る22)。す な わ ち社 会 全
間 の 骨 折 リス クが 算 出 され る
体 と して 骨 折 を減 らす た め に は,high risk approach
は 最 近, FRAX(fracture とい う ツ ー ル を 発 表 し て お り,危
力 す る と,今
後10年
より
一28一
食 物 学 会誌 ・第63号
とpopulation approachの 両 者 が必 要 で あ り,後 者 に
関 して は,対 象 者 が非 常 に多 い の で,高 額 な薬 剤 の
底.ま
とめ
使 用 は 困難 で あ り,対 策 と して は生 活 習慣 の改 善 し
骨粗 鬆 症 は 退行 性 疾 患 と考 え られ,軽 視 され が ち
か あ り得 ない 。 糖尿 病 患 者 教 育 に 関心 の あ る よう な
な疾患 で あ った が,今 後 患者 数 は増 加 の一 途 を辿 る
管 理 栄養 士 ・看 護 師 な どの 積 極 的 関与 が 望 ま れ る。
と予想 さ れて い る。 また,骨 粗 鬆 症 に よる転 倒 時 の
骨 折 は予 後 が 悪 く,QOLの
は,患 者 のQOLと
低 下 を招 く。 骨 粗 鬆 症
医 療 ・介護 費 の どち らの 点 か ら
考 え て も,生 活 習慣 病 と理解 して,予 防 に努 め るべ
き疾患 で あ る と考 え られ る 。
図6 フ ィ ンラ ン ドにお け る大 腿 骨 近位 部 骨 折発 生数 の減 少
文 献20)よ り引 用
一29一
平 成20年12月(2008年)
11)日
文
献
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骨 粗 鬆症 診 療 にお け る骨 代
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