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特別号 - 公益財団法人ちば県民保健予防財団

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特別号 - 公益財団法人ちば県民保健予防財団
2012年4月
特別号
─ 公益財団法人への移行について ─
公益財団法人
contents
ごあいさつ
公益財団法人の認定を受けて
理 事 長 藤澤 武彦
3
公益財団法人への移行の経緯について
事 務 局 長 櫻井 義人
4
公益財団法人の新たな取り組み
調査研究センターの活用について
6
特集 財団が取り組む新たながん検診
併用検診による子宮頸がん検診
─予防検診の時代へ─
常 務 理 事 河西十九三
8
乳がん検診を受けていますか?
─乳がんの早期発見について─
診 療 部 長 橋本 秀行
10
診療科部長 山口 和也
12
慢性閉塞性肺疾患について
─なぜCOPDに着目した肺がん検診が重要なのか─
人間ドック科部長 山地 治子
14
胃がん検診
─リスクと予防─
2
ごあいさつ
公益財団法人の
認定を受けて
公益財団法人 ちば県民保健予防財団 理 事 長 藤
澤 武彦
当財団は、 平成15年4月1日に旧結核予防会千葉県支部、旧千葉県対がん協会、
旧千葉県予防衛生協会、旧千葉県医療センターの保健予防関係4団体が統合して「財
団法人ちば県民保健予防財団」として設立され、千葉県全域を対象として、結核を
はじめとする感染症及びがんその他生活習慣病等の予防に関する支援並びに県民が
求める健康の保持増進へ向けた調査研究及び普及啓発を行い、公衆衛生と福祉の向
上に寄与してまいりました。
平成20年12月に公益法人制度改革が行われ、一般財団法人か公益財団法人への移
行の検討が求められましたが、当財団は従来から、公衆衛生の向上や県民の健康増
進をはかるための事業を行ってきたことから、昨年9月に千葉県知事に公益財団法
人移行認定申請書を提出し、本年3月に公益財団法人としての認定を受けることが
できました。
これもひとえに関係者の皆様方のご支援の賜物と感謝申し上げます。
これにより、平成24年4月1日から 「公益財団法人ちば県民保健予防財団」 とし
て新たな一歩を踏み出すことになりましたが、今後もすべての県民の健康づくりや
疾病予防のために最大限の努力をするとともに、健診で得られたデータを解析し、
地域や住民の方々の健康づくりに役立つ情報提供を積極的に行ってまいりたいと存
じます。
また、今回の公益法人制度改革では法人自らが責任を持って、自主的・自律的な
運営を行っていけるよう、ガバナンス(内部統治)に関する規定が明確に定められ
たことから、コンプライアンス(法令や社会規範等の遵守)体制の確立や運営体制
の充実強化を図るとともに、職員一同気持ちを新たにし、事業を推進してまいりま
すので、今後とも当財団の活動に対しましてのご理解と、一層のご指導ご支援をお
願い申し上げます。
3
公益財団法人への移行
◦理事会、評議員会が法定の機関となったこと。
1 公益法人改革の概要について
◦理事会・評議員会には、理事・評議員本人の出席
今回の移行の背景には国の公益法人制度改革があ
が必要となったこと。
ります。日本の公益法人制度は明治29年の民法制定
◦評議員を理事や理事会が選ぶことができなくなっ
とともに始まりました。
たこと。
などの改正がなされました。
従来の制度では、
◦主務官庁に公益性を認められたものだけが法人格
こうした改正を踏まえ、公益財団(社団)法人は「民
を得ることができる。
による公益の増進」に寄与する民間非営利部門の重
◦法人運営については、法律上詳細な規定がなく、
要な主体として、健全な社会活動の推進に貢献する
主務官庁が立入検査を含め監督権限を有してい
ことが期待されています。
る。
◦法人設立・運営のための要件は、各主務官庁が裁
2 公益財団法人移行認定までの経緯
量権を委ねられており、主務官庁ごとにばらつき
国の公益制度改革を受け、当財団では平成21年8
がある。
などの課題がありました。
月頃から公益財団法人への移行を目指し、制度や認
そのため、一部の公益法人で本来の目的から外れ
定基準など移行に当たっての情報収集、事前調査等
を開始しました。
た運営が行われるなどの不祥事が発生し、社会的に
その後、平成22年10月19日開催の理事会・評議員
も大きな問題となり、これらに対応すべく新たな制
会において、「公益財団法人への移行について機関
度改革が行われました。
決定」及び「最初の評議員選定委員会の設置及び選
定委員の選任について決議」を行いました。
新しい制度では、
平成23年4月28日に最初の評議員選定委員会を開
◦法人法の要件を満たせば、登記のみで一般社団・
催し、最初の評議員を選任。
財団法人を設立することが可能である。
◦一般社団・財団法人のうち、認定法に定められた
平成23年5月24日開催の理事会・評議員会におい
基準を満たしていると認められる法人は、公益認
て、「定款変更(案)について決議」及び「移行後
定を受けて公益社団・財団法人となれる。
の理事・監事の選任及び代表理事・業務執行理事の
選定」を行いました。
◦基準を満たしているかどうかの判断は、民間有識
平成23年5月以降、千葉県との事前協議を行い、
者から構成される、国の公益認定等委員会・都道
府県の合議制機関が行う。
平成23年9月22日付けで、千葉県知事へ公益財団法
などの改正がなされました。
人移行認定申請書を提出(電子申請)しました。
その後、千葉県公益認定等審議会において、平成
さらに、新制度においては、主務官庁制を廃止し
24年2月24日及び3月16日の二度の審議を経て、3
て準則主義を採用するとともに、法人自らが責任を
月16日に正式に認定の答申が出されるとともに、3
持って自主的・自律的な運営を行っていけるよう、
月28日に千葉県知事より認定書を受理しました。
これにより、平成24年4月1日付けで、公益財団
法律でガバナンスに関する様々な事項が明確に定め
法人としての設立登記を行い、新たな法人としての
られ、
4
の経緯について
事務局長 櫻井 義人
また、公益財団法人移行後は、税制面での優遇措
スタートをきることができました。
置もあることから、これらを活用し、更なる事業活
動の充実を図り、県民の願いである健康寿命の延伸
3 法人が行う公益目的事業の概要
や医療費の縮減など社会貢献にもつなげていきたい
と考えています。
当法人は、県民の健康の保持増進を図るための調
査研究、普及啓発、各種の検診、診療、検査事業及
び助成事業を一体的に行うことで、すべての県民に
特に、普及啓発・調査研究を充実するため調査研
予防医学の普及を図り、さらに県民の健康づくりを
究センターを平成24年2月に新設しました。調査研
支援することで社会に貢献します。
究センターの詳細は後述のとおりですが、検診デー
タを様々な視点に基づいて分析し、その結果を県民
公益目的事業の1としては、全ての県民が健康で
暮らせる社会を実現するため、疾病予防、疾病の早
のみならず、県、市町村、関係機関等にも提供する、
期発見に関する調査研究をはじめ、健康づくりに関
医療関係者、大学などの有識者、行政等の外部委員
する普及啓発、情報発信を行うほか、特に受診困難
による審議会で示された県民の健康課題の解決方針
者へのきめ細かな対応に配慮した検診や検査等を提
に基づく調査研究等の事業を企画・展開するなどの
供して県民の健康に対するセイフティネットとして
活動を積極的に進めてまいります。
の役割を果たすことにより、県民の健康づくりを支
さらに、財団が総力を挙げて取り組んでいる「検診
える事業を行います。
具体的には、健康保持増進活動として、受診促進
を活用した健康づくりモデル事業」では、集団検診
へ向けた普及・啓発、健康意識向上のためのイベン
において新規性・先進性が高く、また効果的・効率
トへの協力、医療従事者等への教育・研修、検診デー
的かつ受診者に満足いただけるがん検診を提供して
タを活用した調査研究を行います。また、生活習慣
いく共同モデル事業を市町村等とともに実施してい
病等の予防と疾病の早期発見活動として、各種がん
きます。また、県民のみなさまを対象とした公開講
検診、精密検査のフォローアップ体制、生活習慣病
座の積極的な開催など、県民のみなさまと接するあ
検診、感染症予防、受診困難者へのきめ細かな対応
らゆる場面において、健康に関する情報提供・県民
に積極的に取り組みます。
のみなさまの健康意識の向上に努めてまいります。
また、公益目的事業の2としては、疾病の予防と
健康の保持増進を図るため、健康づくり・普及啓発
活動、予防医学に関連する研究活動、保健予防に関
する会議開催等の活動に対して助成金を交付する
「ちば県民保健予防基金助成事業」を行います。
4 県内における先駆的な役割
今後も、行政の補完的役割を果たすとともに、当
財団独自の創意工夫により、行政施策に先駆け実施
するものも含め、普及啓発、調査研究、検診等の活
動を総合的に実施することとしています。
5
公益財団法人の新たな取り組み
調査研究センターの活動について
Ⅰ.情報発信
A.統計情報
1)統計情報発信の位置づけ
◦事業年報では、事業実績の概要がわかる統計を作成する。
◦受診者の検診結果に基づく統計及び全国、千葉県全体、県内市町村に関する既存の
統計から県民の健康実態がわかるようにする。
2)発信する統計の分野
⑴ 結核
⑵ がん
⑶ 生活習慣病
⑷ 学校保健
⑸ 先天性代謝異常等検査 その他
B.健康情報の提供・県民公開講座
県民に向けた健康に関する情報提供(公開講座・講演会・ホームページ等)
C.事業年報・広報誌
ホームページへの掲載
Ⅱ.調査研究
A.「検診を活用した健康づくり」モデル事業
1)がん検診の効果的な手法・先進医療等に関する調査研究
⑴ 東金市…平成22年度~26年度(24年度までモデル検診、26年度まで追跡)
⑵ 他の市町村への展開(平成24年度より、東庄町・長生村で開始)
*モデル事業の結果等は、「検診分析調査委員会」で検討(年2回開催)
B.審議会答申に基づく事業展開
1)課題抽出検討委員会における課題の検討
県や市町村や大学などへ、抱えている健康課題等について意見聴取し、必要性、実
行可能性、必要経費、期間等を整理
2)課題のとりまとめと審議会への諮問 → 課題に対する方向について答申を受ける
3)推進委員会において答申への対応を検討
⑴ 寄附・委託研究事業
⑵ 共同研究事業
⑶ 先進医療に関する研究事業
⑷ 財団単独事業
4)評価委員会における研究成果の評価 → 結果の公表
Ⅲ.人材育成
A.研修会開催
1)「ウインターセミナー」:働く人の健康について考える
対象:県内市町村および事業所の保健師、看護師、健康診断担当者
2)「サマーセミナー」:子どもたちの健やかな成長について考える
6
対象:県内養護教諭等
3)市町村等保健職を対象とした研修会
①地区診断(地域の健康状況) ②保健統計 ③特定健診結果解析 等
B.講師派遣
Ⅳ.コンサルタント
1)受託先(市町村・事業所等)へのサービス
統計・保健事業等への相談対応、委託先別のがん検診や特定健診結果への付加価値の付
与、統計資料の提供、研修会開催(保健所管内を単位としたブロック別研修等、出張も対応)
2)県等への提言
受託事業結果や研究結果等を踏まえた施策提言
3)研究支援
財団職員が行う調査研究への支援
Ⅴ.研究助成
「ちば県民保健予防基金」による研究助成(年間11件程度)
Ⅵ.委託事業・共同事業 1)県や市町村からの委託事業
2)各組織からの依頼統計、報告書作成
予防医学推進に関する調査研究事業の進め方
第三者機関
②諮問
学識経験者、行政、医療界、経済界、
法曹界、マスコミ、県民代表
調査研究
センター
中立の立場から、事業の公益性を審議
行政
行政資料・統計
大学・
関係機関
アンケート・各種意見
市民・県民
⑦
調
査
研
究
結
果
(
財
団
へ
提
出
)
産学官を含む組織
④協議
⑤推進委員会との協議を経て、
さまざまな形で事業展開
委託(寄付)
⑧結果
報告
検討委員会
事業の具体的な推進方法の協議
共同方式
検診・診療、
環境測定
データ等
(仮)課題抽出
(仮)推進委員会
外部委員
総合健診
センター
⑦財団
よ
り
検討依頼
行政委員会・会議等
発表データ、レポー
ト等
財団
(理事長)
③答申
①課題の明確化
(提案)
(仮)審議会
(仮)評価委員会
財団単独事業
先進医療
外部委員
調査研究結果を中立・公平に評価
公表方法等の協議
(治験・臨床研究)
7
特集
財団が取り組む
新たな
がん検診
併用検診による子宮頸がん検診
─予防検診の時代へ─
河西十九三
細胞診を用いた子宮頸がん検診は、我が国では半
はじめに
世紀以上前から導入され、千葉県でも1972年(昭和47
子宮頸がんは、容易に診断できる部位に発生するこ
年)よりバスによる本格的な集団検診が開始されまし
とから、以前より早期診断法、治療法が確立されてい
た。この約40年の間、県内各地で種々の方式による頸
ました。近年になって、発生原因としてヒトパピロー
がん検診が施行されてきましたが、その死亡数が着実
マウィルス(以下HPV)感染が関与していることが
に「0」の方向に向かっているとはいえません(図2)。
判明したことにより、正常→異形成(前がん性病変)
私どもの行っている集団検診データ3 から、その原
→がんと移行する自然史もより一層明らかとなってい
因は 1 低い検診受診率(約20数%) 2 繰り返
ます(図1)。
し受診者の増加 3 若年(20~30歳代)受診者の低
率固定化の3点であることは明らかです。この事を踏
まえて、以前より各地で効果的な頸がん検診を目指し
た啓蒙、啓発を行ってきましたが、一向に改善の方向
が見えない状況です。
このことは従来の細胞診だけによる検診方式では、
頸がん撲滅の夢に到達することは無理であり、新しい
検診方式の開発導入が急がれています。そこで検査法
の進歩を取り入れた細胞診とHPV-DNA検査(以
下併用検診)を同時に行う併用検診方式 1 2 が、欧米
はもとより我が国でも始められつつあります。この新
図1 HPV感染と子宮頸がんの自然史
しい検診方式を紹介することが、本稿の目的です。
また、数年前よりHPVの感染を防止するワクチン
併用検診とは
が開発、実用化され、人類の「がん」のうち発生原因、
診断法、治療法、予防法の全てが明らかにされている
岩成等は 4 従来型の頸がん検診に限界を感じ、モデ
唯一の「がん」となりました。このように理論上、死
ル事業として島根県出雲市と斐川町(2007年より3年
亡数を「0」に出来る「がん」でありながら、未だに
間)で細胞診とHPV-DNA検査を同時に行う併用
世界で約27万人、日本で約3500人、千葉県で約200人
検診を我が国で初めて行いました。
の命が奪われています
12
。
その結果①車、施設検診共に受診者数が1.5倍に増
加 ②施設検診ではCIN2以上(中等度異形成以上)
の発見率が2.2倍に増加 ③細胞診とHPV検査の両
表1 細胞診・HPV検査併用のCⅠN+検出感度2
HPV検査単独では細胞診よりも感度が10%以上高く、特異度は
やや低い。細胞診との併用で感度および陰性適中率はほぼ100%。
図2 子宮頸がん集団検診年次推移(車検診方式)
8
者が共に陰性の場合、次回受診を3年後に出来ること
頸がん予防検診の時代へ
により、公費負担が30%削減できたと述べています。
併用検診は検診精度を飛躍的に高め(表1)検診間
現在、頸がんの約70%はワクチンで予防できること
隔の延長(表2)を可能とするため、ほぼ現状の検診
は周知のことでありますが、残りの30%は検診で予防
数維持で検診率50%以上を達成出来るものと期待され
するしかありません。精度の高い頸がん検診の実施で
ています。また、検診間隔が3~5年と延長可能なた
「がん」になる前の病変である「異形成」で見つける
め、20~30歳代にクーポン券等を使用することで若年
ことは十分可能です。この「異形成」の集団をきめ細
者の受診率向上に大いに役立つものと思われます。
かく経過観察することによって、「がん」に移行する
危険の高い群を拾いあげ治療を行えば、頸がんは発生
表2 子宮頸がんスクリーニングの海外における勧告
1
しないものと考えられます。その暁には頸がん検診は
「がん」検診ではなく「がん」予防検診となることで
細胞診・HPV併用 5か国と日本の比較
国
勧告内容
しょう(図4,5)。
受診率
開始年齢 スクリーニング間隔 終了年齢 (%)
アメリカ(細胞診・HPV併用)
21
29歳まで毎年
30歳から₂~₃年
70
63
フィンランド(細胞診・HPV併用)
30
₅年
60
74
20歳以上には細胞診・HPVテスト併用検診
イタリア(細胞診・HPV併用)
25
₃年
65
61
受診率100%が目標(対象者)
オランダ(細胞診・HPV併用)
30
₅年
60
60
イギリス(細胞診・HPV併用)
25
₃年または₅年
64
64
5年間隔(節目検診、クーポン)で受診
日本(細胞診のみ)
20
₂年
上限なし
23
65~70歳で子宮頸がん検診終了(細胞診・HPV陰性者)
15歳までにHPVワクチン接種
Internationale agency for research on cancer:IRAC press Lyon France 2005
図4 子宮頸がん検診の将来
財団のモデル事業
財団では2012年度(平成24年度)より東庄町と長生
村の協力を得て、モデル事業として併用検診を実施す
る予定です(図3)。この検診結果を分析することに
よって、次世代の検診方式である併用検診による頸が
図5 将来の頸がん検診の目的
ん集団検診新方式の確立を目指しています。
参考文献
1 林 由梨、今野 良、他 :子宮頸がんスクリーニングシステムの国
際比較、産婦の実際57:1341~1349,2008
2 International agency for research on cancer : IARC handbooks of
cancer Prevention , IARC press. Lyon. France. 2005
3 ㈶ちば県民保健予防財団:事業年報2011
4 岩成 治 :細胞診、HPV-DNA検査 併用検診の効果、
産婦治
療102:937~946、2011
常務理事 河西 十九三(婦人科専門医)
昭和47年 千葉大学医学部卒業
昭和55年 千葉大学講師
昭和59年 千葉市立海浜病院産婦人科部長
平成16年より当財団診療部長、副センター長を経て、が
ん検診センター診療部長に補する
平成22年より現職
【所属学会等】
日本産婦人科学会(専門医)
日本臨床細胞学会(細胞診専門医)
日本産婦人科医会(理事)
産業医その他
千葉大学医学部非常勤講師(産婦人科学)
図3 検診の流れ(モデル事業)
9
特集
財団が取り組む
新たな
がん検診
乳がん検診を受けていますか?
─乳がんの早期発見について─
はじめに
橋本 秀行
マンモグラフィ検診
乳がんの患者さんは、年々増え続け、我が国では、
マンモグラフィ
1年間に4万5千人を越える方が罹患しています。こ
は、 乳 房 を 圧 迫 し
れは女性の15から20人に1人が一生のうちに乳がんに
て(はさんで)撮影
なる確率であると計算されています。そして、残念な
するレントゲン検査
ことに乳がんの死亡率も増加を続けています。しかし、
です。これにより手
乳がんは早期発見すれば9割以上が治る病気です。
に触れる腫瘤(しこ
今回は、乳がんの早期発見、乳がん検診の大切さに
り)はもちろんのこ
ついて述べたいと思います。
と、 手 に は 触 れ な
い 小 さ な 腫 瘤 や 0.5
㎜以下の微細石灰
乳がんの現状
図2a マンモグラフィ腫瘤
スピキュラを伴う腫瘤に多形性の微細石灰
化を認めます。カテゴリー5と診断しました。
化(カルシウムの沈
日本の乳がんは、罹患率も死亡率も増加しています
着)まで発見するこ
が、他の国ではどうでしょうか?図1に日本、米国、
と が 可 能 で す( 図
英国における死亡率の年次変化を示します。欧米諸国
2)。日本では以前、
は、日本に比べ高い数字になっていますが、1980年代
視触診の検診をして
後半から1990年前半にかけて徐々に減少し始めていま
きました。これは手
す。日本では増え続けていますので、このままの状況
に触るような大きさ
が続きますと、日本が世界で一番死亡率の高い国に
にならないと発見で
なってしまうかも知れません。この違いはなぜ起きて
きないことを意味し
いるのでしょうか?
ます。これに比べマ
こ の 理 由 が 検 診 の 効 果 な の で す。 欧 米 諸 国 で は、
ンモグラフィではミ
1960から70年代にかけて乳がん検診にマンモグラフィ
リ単位の大きさで発
図2b マンモグラフィ(石灰化)
集簇した多形性と微小円形の微細石灰化
を認めます。カテゴリー4と診断しました。
最終病理診断は、非浸潤性乳管癌で非常に
早期の乳がんでした。
(乳房X線撮影)を導入しました。その効果が約20年
見される可能性がありますので、明らかに有用である
を経て現れたのです。日本ではいつからマンモグラ
ことが分かると思います。しかし、全ての乳がんがこ
フィ検診が開始されたかご存知ですか?それは、欧米
の状態で見つかるわけではありません。さらにマンモ
から遅れること…2000年(平成12年)からでした。
グラフィも万能ではありません。マンモグラフィに全
く写らない乳がんもあります。マンモグラフィ検診で
異常を指摘されなくても、数ヶ月後に手に触れる乳が
んが発見されることもあるのです。このようなことが
起こる原因として、受診者の年齢や閉経状態、授乳経
験に大きく関係しています。一般に閉経前の乳房には
たくさんの乳腺があるため、マンモグラフィを撮影す
ると全体が白くなります。乳がんのしこりも白く写る
ため、乳腺と重なってしまい判定できないことが多々
あります。すなわち、閉経前後のマンモグラフィは乳
がんの早期発見に向かない方が多くいることになりま
図1 乳癌死亡率の推移~日欧米の比較~
欧米諸国では1980年代後半より乳癌の死亡率が減少しています。この要
す。そして日本ではその年代の乳がんが一番多いので
因としてマンモグラフィを導入した乳癌検診の成果と考えられます。一
す(図3)。 欧米は閉経後の乳がんが圧倒的に多く、
方、日本では増加し続けており、検診の効果に期待がよせられます。
10
マンモグラフィを撮影しても大きな問題にはなりませ
千葉県の乳がん検診ガイドライン
ん。マンモグラフィ検診を導入すれば、欧米と同じよ
うに我が国も死亡率が下がるか?…答えは誰も分かり
平成16年7月に千葉県独自の『千葉県乳がん検診ガ
ませんが、専門家の間では難しいと予想されていま
イドライン』を作成しました。この内容は、全国に先
す。そのため日本では超音波検査(エコー)を使った
駆け、乳がん罹患率の最も高い年代をターゲットにし
検診が必要なのです。
たマンモグラフィと超音波検査を行う検診方法を推奨
しています。検診間隔も原則として毎年実施するもの
とし(厚労省からの指針は2年に1度)、30歳代には、
超音波(エコー)検診、40歳代は、マンモグラフィ(2
方向)と超音波を毎年交互に行う検診としました。30
歳代の乳がんは、他の年齢と比べると少ないですが、
決して無視できるものではないと考えています。
まとめ
図 3 日 本 と 欧 米 に お け る 年 齢 別 の 乳 癌 罹 患 率( 全 国 が ん 罹 患 率 Japanese Journal of Clinical Oncology お よ びCancer Incidence in Five
乳がん検診について述べてきましたが、一番大切な
Countries, vol.VIII. IARC Scientific Publications No.155,I.A. R.C, Lyon, 2002よ
り引用)
ことは、いくら良い検診が行われていても、受ける人
日本時の乳癌罹患のピークは40歳代後半にありますが、アメリカ白人では
が少なくては意味がありません。欧米では検診受診率
閉経後にピークがあります。罹患の多い年代に効果の高い検診が求めら
が70%を越えています。日本では約20%と言われてい
れ、この年代に弱点のあるマンモグラフィでは十分でない可能性があります。
ます。『乳がん』は誰もが罹るかも知れない病気です。
『私は知らない』『私は乳がんにならない』『興味がな
超音波検診
い』『関係ない・他人事』では済まないのです。
閉経前、特に50歳未満の検診にはマンモグラフィだ
乳がんは、早期に発見されれば9割以上が治りま
けでは限界があります。そのため乳腺外来では通常に
す。そのため、自覚症状の全くない状態で、乳がんを
行う超音波検査を検診の現場に導入しました。超音波
画像診断(マンモグラフィや超音波検査)によって発
検査は、音波を使いますので、マンモグラフィのよう
見する必要があります。現在行われている検診方法と
に被曝もなく、妊娠や授乳をしていても検査が可能で
して、視触診、マンモグラフィ、超音波検査がありま
す。超音波検査も100%の乳がんを探せるわけではあ
すが、単独では100%の検出はできません。理想を言
りませんが、マンモグラフィと併用することでほぼ全
えば、全てを同時に行うことが良いのですが、検診に
ての乳がんを見つけることができると言われています。
は、効率、費用という要因も大きく関係し、行政や自
この超音波検査ですが、千葉県では平成14年度より
治体と十分に議論する必要があります。乳がん検診の
県内の自治体(市町村の住民)を対象に、検診車によ
受診率の向上を含め行政・医療スタッフが力を合わせ
る移動式の乳がん検診を開始しました。この検診車に
ることにより、良い検診が生まれると考えています。
は、2台の超音波診断装置を搭載し、検査室や更衣室
をプライバシーが守られるように配慮しました。現在、
3台の検診
平成2年 滋賀医科大学医学部医学科卒業、千葉大学医
車 が、『 女
学部第一外科入局
性のための
平成11年 財団法人千葉県対がん協会検診センター診療
部長
女性による
平成17年 財団法人ちば県民保健予防財団 乳腺・甲状
検診』をス
腺科部長
ローガンに
平成20年より現職
千葉県内を
廻っていま
す(図4)。
診療部長 橋本 秀行(乳腺科担当)
【所属学会等】
日本乳癌学会(認定乳腺専門医)/日本超音波医学会(認定
図4 超音波検診車『すずらん1号』
検診車には2台の超音波診断装置が搭載され、検査室
超音波指導医・専門医)/日本乳癌学会(評議員)/日本外
や更衣室は女性が安心して受けられるようプライバ
科学会(専門医)/検診マンモグラフィ読影認定医師/千
シーに配慮した設計になっています。検診車の「すず
葉大学医学部臨床准教授 その他
らん」の絵は、筆者が描きました。
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特集
財団が取り組む
新たな
がん検診
胃がん検診
─リスクと予防─
山口 和也
らは8.8%の方から胃がんが再発したのに対し、ピロリ
胃がんのリスクと画像診断
菌除菌を行った群からは3.3%の方から胃がんが再発し
胃がんのリスクには以前より知られているものとし
たのみであったと報告しています。ピロリ菌の除菌が、
て、65才以上であること、初めて検診を受けること、
胃がんの発生率を低下させる事を明らかにした報告です。
男性であること、胃潰瘍の既往があることが知られて
ピロリ菌の除菌は内服薬治療が可能ですが、胃がん
います。近年ペプシノーゲン陽性であること、ピロリ
予防としての投薬は現在健康保健適応外です。若年者
菌に感染していることがリスクであることが明らかと
のピロリ菌の保菌率は約1割程度と見込まれています。
なってきました。従来、胃がん検診には、胃レントゲ
今後、若年者のピロリ菌対策が胃がん予防の中心とな
ン検査や胃内視鏡検査といった画像診断が行われてき
ります。このためには、行政、各教育機関の協力が必
ました。リスクと画像診断とは別物であり、区別して
要です。
考える必要があります(図1)。多数あるリスクの中、
「ピロリ菌感染」は対策可能なリスクです。
H.pyiori菌感染(幼小児期)
なし
炎症なし 萎縮なし
あり
B群
胃粘膜炎症
十二指腸潰瘍
胃潰瘍
胃マルトリンパ腫
未分化型胃がん
A群
逆流性食道炎
機能性胃腸症
C,D群
胃粘膜萎縮
(腸上皮化生を含む)
過形成性ポリープ
胃線腫
未分化型胃がん
図2 ピロリ菌感染と胃粘膜萎縮の関係
図1 胃がんのリスクと画像診断
ペプシノーゲン検査
ヘリコバクターピロリ
幼少期にピロリ菌感染が起こり、胃炎が発生し、長
人間の体の中には腸内細菌をはじめとして、多くの
期間持続することで慢性萎縮性胃炎が発症します(図
細菌が存在します。ピロリ菌感染により、胃炎を起こ
2)。萎縮の進み方は個人差があります(図3)。
すことが確認され、胃・十二指腸潰瘍、胃がんとの関
連性が明らかとなってきました。Uemuraら
1)
胃粘膜萎縮の程度は、胃粘膜から分泌されるたんぱ
は、ピ
く質分解酵素ペプシンの前駆物質で、血清中に含まれ
ロリ菌に感染している人と感染していない人に対して、
るペプシノーゲンの量により評価することができま
10年間、詳しく胃の定期検査を行ったところ、感染し
す。ペプシノーゲンは、胃のどの辺りで分泌されるか
ている人では2.9%に胃がんが発生したのに対して、感
によりペプシノーゲンⅠとペプシノーゲンⅡに分類さ
染していない人では胃がんが発生しなかったと報告し
れます。ペプシノーゲンⅠは胃底腺の主細胞から分泌
ています。胃がんの発生にピロリ菌が大きく関係して
され、胃の萎縮が進むとペプシノーゲンⅠが減少し
いる事を裏付ける報告です。
ます。ペプシノーゲンⅡは胃底腺、噴門腺、幽門腺、
2)
は、 早 期 胃 が ん で、 内 視 鏡 治 療 を 受 け
十二指腸腺より分泌されます。胃の萎縮の程度は、ペ
た544名のうち、ピロリ菌の除菌を行わなかった群か
プシノーゲンⅠとペプシノーゲンⅡの比(Ⅰ/Ⅱ)と
Fukaseら
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ペプシノーゲンⅠの量で評価します。
の早期発見のためには、年に一度の胃レントゲン検査
ピロリ菌の感染と胃粘膜の萎縮の組み合わせは、胃
あるいは胃内視鏡検査といった画像診断をお勧めしま
がんの高危険度群の設定に有効です。
3)
す。胃がん予防のためには、ピロリ菌除菌をおすすめ
は、6983名を対象に5年間での胃がん
します。画像診断検査を受診することにどうしても抵
の発生率を調査し、ピロリ陰性、ペプシノーゲン陰性
抗がある方は、リスク検査だけでも受診することをお
群からの胃がん発生は0.2%、ピロリ陽性、ペプシノー
勧めします(図5)。胃がんは誰の胃にも発生する可
ゲン陰性群からの胃がん発生は0.3%、ピロリ陽性、ペ
能性がありますが、早期発見できれば十分救命可能
プシノーゲン陽性群からの胃がん発生は1.7%、ピロリ
で、胃がん死を無くすことができると考えます。
Watabeら
陰性、ペプシノーゲン陽性群からの胃がん発生は2.7%
と報告しています。高危険度群からの胃がん発生率が
高いことを確認する結果です。同時に、低危険度群か
らも低率ですが胃がんが発生することも明らかにな
り、低危険度群の方も、全く胃がん検診を受けなくて
良いとは言い切れないことを裏付ける結果です(図4)。
図5 胃がんの早期発見、予防のために
1)Uemura N, Okamoto S, Yamamoto S et al. Helicobacter pylori infection
and the development of gastric cancer. N Engl J Med. 2001; 345: 784-9.
2) Fukase K, Kato M, Kikuchi S et al. Effect of eradication of Helicobacter
pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic
resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled
trial. Lancet 2008; 372: 392-7.
3) Watabe H, Mitsushima T, Yamaji Y et al. Predicting the development
図3 胃粘膜の萎縮
of gastric cancer from combining Helicobacter pylori antibodies and
serum pepsinogen status: a prospective endoscopic cohort study. Gut
2005; 54: 764-8.
胃粘膜の萎縮(ペプシノーゲン)
萎縮なし
萎縮あり
ピロリ菌
陽性
リスク低い(B群) リスク高い(C群)
(0.3%)
(1.7%)
陰性
リスク低い(A群) リスク高い(D群)
(0.2%)
(2.7%)
( )の数値はWatabeらの研究3)による6938名の追跡における
5年間の胃がん発生率
診療科部長 山口 和也(消化器担当)
図4 ピロリ菌と胃粘膜萎縮の組み合わせによる
胃がんのリスク
平成7年 千葉大学医学部卒業、千葉大学第一内科入局
平成8年 船橋中央病院内科
平成11年 千葉大学大学院医学研究科入学
リスクの考え方
平成14年 放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院
平成17年より現職
以前の日本人は、大半の方が高いリスクのグループ
【所属学会等】
であったと推測されます。リスクが高いと判明したと
日本消化器がん検診学会(認定医)
しても、急にがんが発生するわけではありません。胃
日本消化器内視鏡学会(専門医)
日本内科学会(認定医)/日本消化器病学会(専門医)
レントゲン検査の結果が、「異常所見を認めない。」と
日本肝臓学会/日本超音波医学会(専門医)
の結果であれば、ひとまず安心して良いです。胃がん
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新たな
がん検診
慢性閉塞性肺疾患について
─なぜCOPDに着目した肺がん検診が重要なのか─ 山地 治子
みなさん、COPDという病気をご存知でしょうか。
COPDとタバコ
最近メディアを通してよく聞かれるようになった疾患
名で、慢性閉塞性肺疾患とも言います。慢性的な気道
日本でのCOPD発症の原因は主にタバコといわれて
の炎症によって咳や痰が出続ける・息切れがひどくな
います。タバコの煙は気道粘膜や肺胞の炎症を起こし
る・風邪を引くと長引くなどの症状が出て、年々進行
ます(図2)。喫煙を続けることでこの炎症は慢性的
していくというものです。
になり、気道粘膜の肥厚・気流の制限をもたらし、肺
本邦におけるCOPDの死亡数は、1996年から2010年
胞構造を破壊します(図3)。炎症により、分泌物で
の間に4000人以上の増加が見られています。中でも男
ある痰も出やすくなります。また、タバコにはダイオ
性の占める割合が多くなっています(図1)。年齢別
キシン・ベンツピレン・砒素・シアン化水素など、40
でのCOPD罹患率は年代があがるごとに上昇傾向にあ
種類もの発
り、全体で529万人もの方がCOPDに罹患していると
がん性物質
いわれています(2001年 NICE study)。COPDと診
が含まれて
断された方のうち、過去に診断されていた方は10%し
おり、喫煙
かおらず、潜在的なCOPD患者さんおよび予備軍とさ
によってさ
れる方は多数いると思われます。
まざまな悪
性腫瘍の発
生率が上が
るといわれ
ています。
図2 タバコによる気道の炎症
COPDの診断・治療
COPDは、肺活量検査によって診断され(表1・2)、
重症度によって最適な治療法が選択されます。禁煙や
吸入薬による治療、加えて在宅酸素療法や肺容量減少
術・肺移植・気管支バルブ留置などが必要になる場合
図1 本邦におけるCOPD死亡者数の推移(厚生労働省・人口動態統計より)
50歳 男性
43歳 男性
56歳 男性
非喫煙者
25本×20年
30本×36年
図3 喫煙により気腫化した肺のCT画像
喫煙によって肺胞構造が壊され、気腫化します(中央・右の画像の黒い部分)。
喫煙を続けることで、有効に機能する肺の部分は徐々に狭くなり、息切れや咳・痰などの症状が進行していきます。
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もあります。また、呼吸筋を鍛える呼吸法の練習や運
動、いわゆる呼吸リハビリテーションも有効でしょ
う。COPDは早期に発見すれば治療により症状を緩和
し、進行を抑えることができる病気ですし、重症の方
に対しても新しい治療法が開発されています。
表1 COPDの診断基準
COPDの診断基準
図4 COPDの有無による肺癌発生率の違い
1秒率(FEV1%)<70%
COPDでない人に比べCOPDの人では肺がん発生率は約5倍も高くなります。
1秒量(FEV1%)
:1秒量(FEV1)÷努力性肺活量(FVC)×100%
1秒量(FEV1)
:最初の1秒間で吐き出せる息の量
努力性肺活量(FVC)
:思い切り息を吸ってから強く吐き出したときの息の量
(Skillrud DM et al. Ann Int Med 105:503 , 1986)
表2 COPDの重症度分類
病 期
%1秒量
Ⅰ期:軽 症
80%以上
Ⅱ期:中等症
50~80%
Ⅲ期:重 症
30~50%
Ⅳ期:最重症
30%未満
%1秒量:1秒量÷1秒量予測値×100(%)
図5 COPDの有無による肺がん関連死亡率の違い
COPDでない人に比べCOPDの人では肺がん死亡率は約7倍も高くなります。
COPD患者の肺がんリスク
(Kuller LH et al. Am J Epidemiol 132: 265, 1990 )
COPDにおける肺がん発生リスクは、COPDのない
を加えています。この結果、平成22年度には89100名
人に比べCOPD患者においては5倍の確率で(図4)、
の胸部X線検査受診者のうち、135名がCOPDと診断
約1%の方が毎年肺がんに罹患しています。また、同
されました。
程度の喫煙者で比較しますと、COPDがない人に比べ
平成23年度からは東金市でも、集団検診でCOPDの
COPDの 人 で は 肺 癌 で 亡 く な る 危 険 が 7 倍 も 高 ま る
ハイリスク者を喫煙歴や精査歴の有無、咳や痰の自覚
(図5)と言われています。
症状、生活習慣病の有無などから問診で選別し、肺活
量検査と喀痰検査を追加で行うという新しい肺がん検
診を行っています。
COPDと肺がんの発生過程
タバコの煙によって継続的に気道の炎症が起きて肺
今後も肺がんだけでなく、COPDにも着目した検診
胞構造が壊されると、その修復過程で肺がんを発生さ
が推進されていくでしょう。皆様には、毎年の検診受
せやすくする因子が出されます。がん細胞が発生して
診をお勧めします。
も、それを殺す免疫機能が正常であればがん化を防ぐ
ことが出来るのですが、慢性炎症で弱った肺では免疫
力が低下しているので、がんが発生しやすくなりま
人間ドック科部長 山地 治子(人間ドック担当)
す。つまり肺気腫と肺がんの発生には、免疫力の低下
平成8年 千葉大学医学部卒業 肺癌研究施設外科(現・呼
吸器外科)入局
という共通した要因があると考えられています。
平成11年 千葉大学呼吸器外科医員
平成12年 旧国立佐倉病院外科・千葉大学大学院医学研究院
入学
新しい肺がん検診
平成16年 同修了・医学博士号取得
以後、非常勤医師として総合診療や検診・産業医・学校医な
厚生労働省は2011年4月から集団健康教育にCOPD
どの業務に携わり、平成23年より現職
を 追 加 し、 ま ず はCOPDの 普 及 啓 発 を 国 民 に 対 し て
【所属学会等】
行っていくことになりました。それに先がけ、当財団
日本外科学会(認定医)/日本呼吸器内視鏡学会(専門医)
日本医師会認定産業医/日本人間ドック学会/日本肺癌学会
では千葉市において、平成22年度から従来の肺がん・
日本呼吸器外科学会/日本胸部外科学会/日本総合検診学会
結核個別検診に、問診によるCOPDのスクリーニング
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2012年4月 特別号
(平成24年4月1日発行)
発行 公益財団法人 ちば県民保健予防財団
〒261-0002 千葉市美浜区新港32番地14
TEL. 043-246-0350(代表)
URL
http://www.kenko-chiba.or.jp/
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