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男脳・女脳による文字広告と絵広告の影響の違いについて

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男脳・女脳による文字広告と絵広告の影響の違いについて
男脳・女脳による文字広告と絵広告の影響の違いについて
∼脳タイプによる広告効果の影響について∼
Difference of letter advertisement effect and a picture advertisement effect influenced by
“man-brain” or “woman-brain”.∼advertisement effect by a brain type∼
中井 咲絵
NAKAI, Sakie
Keyword
:
man-brain,
woman-brain,
letter-advertisements,
picture-advertisements,
advertisement effects
1.問題
アラン・ピーズらによって男脳・女脳の存在
が示唆されている(2000)
。
枢とも強く結びついている。相手の表情を読ん
だり、記憶をたどって自分の行動に生かしたり
することが得意である。
男脳とは、主に右脳を使うタイプのことであ
しかし、男性であるから男脳、女性であるか
る。脳梁が女脳より細いため、右脳と左脳のつ
ら女脳というわけではないことがさまざまな研
ながりが悪く、そのため脳の一部だけの機能に
究によって示唆されている(渡辺・三田(2001)
)
。
特化した偏った脳になりがちであり、特定の分
そこで本研究では、男性・女性という性の枠で
野に際立った能力を示すことが多い。情動をつ
はなく、男脳・女脳といった脳のタイプが広告
かさどる部位と知的領域とのつながりが悪く、
の認知と関係しているのかどうか検証する。
「情」を経由せずに「知」だけが活性化する傾
広告効果
向がある。相手の感情を察することが苦手で、
広告効果を心理学の見方で整理すると、広告刺
感情的になりにくい。右脳は、空間認知やイメ
激(情報内容)と受け手の反応(心理的変化)
ージ能力をつかさどる部分であり、視覚情報の
の関係として表現することができる
大半を頭頂葉で処理をする。頭頂葉には、空間
的な情報処理を行う中枢があり、ものの動きや
仮説:
位置に関する情報処理を行っている。空間能力
1:女脳タイプの者は文字広告からの影響を受
とは、
対象物の形や大きさ、
空間に占める割合、
動き、配置などを思い浮かべることであり、さ
らには対象物を回転させたあり障害を回避しな
けやすく、広告効果が高くなるであろう
2:男脳タイプの者は文字広告からの影響を受
けにくく、広告効果が低くなるであろう
がら進んだり、立体的にものを眺めるといった
ことも加わる。
女脳とは主に左脳を使うタイプであるが、右
脳と左脳をつなぐ神経線維の束(脳梁)が男脳
よりも太いため、右脳と左脳の連絡がよく、両
方の脳を効率よく使い分けられるのでバランス
2.方法
質問紙
・フェース項目:
性別、年齢、普段の広告関心度
・脳タイプ測定:
の取れた能力を示すタイプである。左脳は言語
ビーズ夫妻著の「話を聞かない男、地図が読
能力や分析能力をつかさどる部分であり、情動
めない女」に掲載されている判定テスト30
や好き嫌いの価値判断をつかさどる部位と言語
項目を大学生のなじみのある用語に変換し
処理をつかさどる部位との連絡がよい。感情が
たもの
こまやかでそれを言語化することが得意であり、
・広告効果測定:
さらに感情的になりやすい。視覚情報の大半を
AIDMA・AISAS を元に作成したSD法にて
側頭葉で処理。側頭葉にはものの形や色に反応
5 段階で評価。
する神経細胞が集まっており、記憶や情動の中
刺激広告
ひとつの広告から文字認知と絵認知に必要
な文字の部分と絵の部分を抽出して文字広告と
表 1 関西大学学生の男脳・女脳テストの結果
性別
回答数
男脳
中間型
女脳
37
23
6
8
(37.3%)
62
(53.5%)
20
(40%)
9
(19.5%)
33
(62.6%)
(46.5%)
(60%)
(80.5%)
99
43
15
41
絵広告の刺激広告を作成。本実験では日本コ
カ・コーラ社の協力を得て、日本コカ・コーラ
男性
社製品「コカ・コーラ ゼロ」の広告を使用。
女性
実験方法
期間:2007 年 10 月 16 日から 10 月 24 日
被験者:関西大学の学生 99 名
(男子学生 37 名、女子学生 62 名)
調査方法:
実験室実験にて行った。被験者に実験室に
(2)広告効果指標の算出
各刺激広告別に因子分析を行った。文字広告
集合してもらい、実験者からの教示に従って
の印象評定 27 項目の形容詞対を因子分析した
一斉に実験を開始してもらった。
ところ、
4因子構造が妥当であると考えられた。
刺激である文字広告、絵広告の表示はパソ
そこで再度4因子を仮定して主因子法・
コンの画面上で行った。最初に広告 1 を見て
Promax 回転による因子分析を行った。その結
もらい、広告効果を測定する質問紙に回答、
果,十分な因子負荷量を示さなかった項目を分
回答後次の広告 2 を見てもらい、広告効果を
析から除外し,再度主因子法・Promax 回転に
測定する質問紙に回答し、最後に脳タイプを
よる因子分析を行った。
測定する質問紙に回答するという手順で進
因子分析を繰り返し行った結果、各広告とも
めていった。広告の提示は一人一台用意した
4 因子にわけられ、さらに構成されている下位
パソコンで行った。各広告表示後 15 秒経つ
尺度も同じものになった。
と自動で画面が切り替わり、その後再び表示
第一因子は7項目の形容詞対から成り立っ
されないようにした。なお、広告は順序効果
ており、人の興味の対象に関係する形容詞対に
を相殺するために文字広告を見てから絵広
高い負荷量がかかっていることから「興味」と
告を見る郡と、絵広告を見てから文字広告を
命名した。第二因子は 5 項目の形容詞対から成
見る郡の2パターンにわけた。
り立っており、注意を喚起する形容詞対に高い
負荷量を示していることから「注意」と命名し
3.結果と考察
た。第三因子は 4 項目の形容詞対から成り立っ
(1)脳タイプ測定
ており、
「∼したい」という欲望を表す語をすべ
関西大学の学生 99 名に行った男脳・女脳テ
ての項目に含んでいることから「want」と命名
ストの調査結果の割合を表 1 にまとめた。最高
した。第四因子は 4 項目から成り立っており、
得点は、280 点で、最低得点は 50 点であった。
そのものが含んでいる情報量についての形容詞
被験者 99 名のうち、男脳 44 名、中間型 15 名、
対に高い負荷量を示していることから「情報
女脳 41 名であり、
男女脳の割合は、
男脳 44%、
性」と命名した。
女脳 41%とほぼ半数であった。
以上から、広告効果の測定を注意、興味、want、
情報性の4つの視点から見ていくことになった。
(3)仮説の検証
で有意であった(F(1,83)=53.028,p<.01)。
各因子別に因子得点を算出し、因子と脳タイ
さらに、形容詞対と脳タイプにおいて交互
プについて反復測定の分散分析をした。
作用に 5%水準で有意差が認められた(F
①興味×脳タイプの反復測定の分散分析
(1,83)=4.168,p<0.05)
。
被験者内効果:興味の主効果は1%水準で有
意であった(F(1,83)=13.37,p>.01)。さら
に、興味と脳タイプにおいての交互作用に
被験者間効果:脳タイプの主効果は認められ
なかった(F(1,83)=.192,n.s.)
。
⑥広告効果×性別の分散分析
有意差は認められなかった(F(1,83)
広告効果の測定尺度をひとつの広告効果と
=.83,n.s.)
。
して脳タイプのかわりに性別との効果の測
被験者間効果:脳タイプによる主効果は認め
定をおこなった。
られなかった(F(1,83)=.002,n.s.)
。
被験者内効果:主効果は1%水準で有意であ
②注意×脳タイプの反復測定の分散分析
った(F(1,97)=1021.7,p<.01)
。しかし、広
被験者内効果:注意の主効果は1%水準で有
告効果と性別において交互作用に有意差
意であった(F(1,83)=21.927,p<.001)。さ
は 認 め ら れ な か っ た ( F ( 1,97 )
らに、注意と脳タイプにおいての交互作用
=179.085,n.s.)
。
に有意差は認められなかった(F(1,83)
=.71,n.s.)
。
被験者間効果:性別の主効果は認められなか
った(F(1,97)=.139,n.s.)
。
被験者間効果:脳タイプによる主効果は認め
られなかった(F(1,83)=2.234,n.s.)
。
③want×脳タイプの反復測定の分散分析
今回の実験では以上の結果から、女脳タイプ
の者は文字広告からの影響を受けやすく、広告
被験者内効果: want の主効果は5%水準で
効果が高くなるであろうという仮説は証明され
有意であった(F(1,83)=.439,p<.005)
。し
なかった。男脳・女脳による文字と絵の広告認
かし、want と脳タイプにおいて交互作用
知には差がないことが明らかにされたが、女脳
に有意差は認められなかった(F(1,83)
タイプは男脳タイプよりも、絵広告よりも文字
=.439,n.s.)
。
広告の方が情報的であると感じている。
これは、
被験者間効果: want の主効果は認められな
かった(F(1,83)=.089,n.s.)
。
女脳タイプのよく使用している左脳が言語領域
をつかさどる部位であるため、絵よりも文字の
④情報性×脳タイプの反復測定の分散分析
方が理解されやすかったのではないかと推測さ
被験者内効果:情報性の主効果は1%水準で
れる。制作する広告の趣旨によっては、文字広
有意であった(F(1,83)=8.971,p<.01)
。し
告の方が情報内容が伝わりやすい。広告を制作
かし、情報性と脳タイプにおいて交互作用
する際には、何に重点をおくのか、目的別に制
に有意差は認められなかった(F(1,83)
作内容を決定することが重要となるだろう。
=2.303,n.s.)
。
被験者間効果:脳タイプの主効果は認められ
4.引用・参考文献
飽戸 弘 1978 広告の受け手 in 渋谷重光
なかった(F(1,83)=.051,n.s.)
。
⑤下位尺度項目×脳タイプの反復測定の分散
分析
編著
「広告の社会心理学」
ブレーン社
pp.185-234
各項目と脳タイプで反復測定の分散分析を
Allan Pease and Barbara Pease 1998 why
行ったところ、情報的である−非情報的で
Men Don’t Listen and Women Can’t Red
Maps
あるという形容詞対についてのみ、有意差
が認められた。
被験者内効果:形容詞対の主効果は1%水準
アラン ピーズ、バーバラ ピーズ 著、藤井 留
美翻訳 2000 「話を聞かない男、地図が
読めない女―男脳・女脳が「謎」を解く」 主
ぜジェンダーフリーは叩かれたのか?」 双
婦の友社
風舎
Birdwhistell,
R.L.
(1970)
Kinesics
and
渡辺 久子・三田 雅敏
2001
当世短大生気
Context, University of Pennsylvania Press.
質:男脳・女脳の分析 帝京短期大学紀要
Gina Geffen , J .L.Bradshaw,and G . Wallace
12,pp.27-31
(1971) INTERHEMISPHERIC EFFECTS
――――――――――――――――――――――
ON REACTION TIME TO VERBAL AND
転載・引用をご希望の場合は必ず事前に下記までご連絡
VISUAL
Journal
STIMULI
of
Experimental Psychology 87,pp.415-422
井上 正明、小林 利宜 1985
ください。
]
著作責任者: 土田昭司連絡先:
日本における
[email protected]
SD 法による研究分野とその形容詞対尺度構
最終更新日: 2008 年 4 月 4 日
成の概念
33(3)
教育心理学研究
pp.253-260
桐谷 佳恵 陳郁佳 2005 言語情報の利用制
限状態での広告における視野比ゆの理解の
され方について
52,9,
デザイン学研究
pp.63-68
桐谷 佳恵 陳 郁佳 2002
広告における視
覚シンボル認知の心理学的検討
デザイン
学研究 49,3, pp.103-110
河合 優年 1980 言語負荷視野課題が視空間
認知の左右非対称性に及ぼす効果
日本心
理学研究 50,6, pp.310-317
Mehrabian,
A.
(1968)
Communication
without Words, Psychology Today, pp.2-4.
仁科 貞文 1978 広告表現の心理 in 渋谷
重光編著 「広告の社会心理学」 ブレーン
社 pp.81-95.
仁科 貞文著 2001「広告効果論―情報処理パ
ラダイムからのアプローチ―」 電通
大石 準一 1979 「広告の社会心理」 世界
思想社
大槻 博 2004 しぐさ利き脳理論を応用した
販売促進に関わる調査経営・情報研究 No.8
研究ノート pp.73-81
李 津娥 1996 広告交換に及ぼす知覚された
ユーモアの影響―消費者の広告評価および
製品関与の影響を中心として―
社会心理
学研究 12(2),pp135-145
辻大 介 2001 「日本語学」20,2(2) 明治書
院 pp.52-61
上野 千鶴子他 2006 「バックラッシュ! な
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