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兵器システム支出の資本化に係る2008SNA勧告への対応に向けて
「季刊国民経済計算」No.158 兵器システム支出の資本化に係る2008SNA勧告への対応に向けて 内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部 国民生産課研究専門職 田原 慎二1 いた。 次回基準改定において、現行 JSNA の扱いを変更し、 1.はじめに 2008SNA の勧告に対応するためには、コスト積み上げ 我が国の国民経済計算(以下、 「JSNA」という。)では、 により計測される一般政府の産出額推計にあたり、兵器 平成 28 年度中を目途とする次回基準改定において、国 システム及び弾薬類への支出を中間投入から除外すると 民経済計算(以下、 「SNA」という。 )の新たな国際基準 ともに、新たに固定資産として扱われる兵器システムか である 2008SNA への対応を予定している。このため、 ら生じる固定資本減耗分を産出額及び付加価値に加算す 内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部では、平成 る必要がある。また、現行では一般政府による中間消費 24 年度から平成 26 年度にかけて開催された「次回基準 に計上され、一般政府の産出額を通じて政府最終消費支 改定に関する研究会」や、 平成 26 年度に開催された「統 出に反映されていた兵器システム及び弾薬類分を、それ 計委員会国民経済計算部会」における議論を踏まえつつ、 ぞれ公的固定資本形成と公的在庫品増加に計上する必要 検討を行っている。 がある。 新 た な 国 際 基 準 で あ る 2008SNA で は、 従 前 の 本稿では、我が国における基礎統計や各種資料の整備 1993SNA と比較して多くの変更事項が見られるが、内 状況を考慮しつつ、JSNA の生産・支出側両面での対応 閣府(2014a)では、大別して①非金融(実物)資産の について、どのような推計方法が考えられるか検討を行 範囲の拡張等、②金融セクターのより精緻な記録、③グ う。 ローバル化への対応、④一般政府や公的企業に係る取扱 本稿の構成は以下の通りである。第2節では「【D04】 いの精緻化、という 4 つの分野に集約されると整理して 兵器システム支出の資本化」に係る 2008SNA 勧告の概 いる。本稿は、 上記①に含まれる勧告事項のうち「【D04】 要や現行 JSNA での扱いを整理する。第3節では、具体 兵器システム支出の資本化」について検討したものであ 的な推計方法について、生産側と支出側の両面から検討 2 る 。 を行う。第4節は結びとする。 2008SNA マニュアルによれば、戦車、軍艦等の軍事 兵器システムについて、平和時における役割が抑止力の 提供であったとしても、継続して防衛サービスを提供し 2.2008SNA勧告の概要と旧基準SNAからの変 更点 ているものとみなし、固定資産に分類することとされて いる。また、一回限り使用されるミサイル、ロケット、 2. 1 2008SNA 勧告の概要 爆弾等のアイテムは、軍事在庫として扱うとしている。 2008SNA における兵器システムに関する記述は、マ これに対して、現行 JSNA が準拠している 1993SNA ニュアルではパラ 10.87 及びパラ 10.144 にみることがで では、兵器システムへの支出は、民間転用可能なものだ きる 3。 パラ 10.87 では、まず「兵器システムは、軍艦、潜水艦、 けを一般政府による総固定資本形成として計上し、それ 以外は一般政府による中間消費として扱うこととされて 軍用機、戦車、ミサイル輸送車及び発射台等のような車 1 本稿作成に当たっては、内閣府経済社会総合研究所の酒巻哲朗前国民経済計算部長(現総括政策研究官)、多田洋介企画調査課長、今 井玲子国民生産課長、葛城麻紀国民生産課課長補佐をはじめとする国民経済計算部の職員から有益なコメントをいただいた。本稿の内 容は、筆者らが属する組織の公式の見解を示すものではなく、内容に関しての全ての責任は筆者にある。 2 「D04」は、2008SNA の Annex 3: Changes from the 1993 System of National Accounts での分類。D 区分には資産、資本形成、固定資本減耗 に関する事項が含まれている。 3 本文中での 2008SNA マニュアルの引用には、内閣府ウェブサイトで公開されている 2008SNA の邦訳(仮訳)を用いた。 - 17 - 両やその他の設備を含む。 」として、兵器システムの範 10 章の記述を引用しながら説明を行うこととする 4。 まず、パラ 10.65 において「ミサイル、ロケット、爆 囲に関する記述が行われる。 続いて、 「それが射出する弾薬、ミサイル、ロケット、 弾等の破壊兵器は、実際に生産において繰り返しないし 弾薬等の一回限り使用可能な兵器のほとんどは、軍事在 継続的に使われないので、固定資産として取り扱うこと 庫として扱われる。」として、弾薬類に関しては在庫と はできない。」とされており、2008SNA と同様に弾薬類 して扱うことが記載されている。 は固定資産に含まれない旨記載されている。ただし、 ただし、例外として弾道ミサイル等については、 「し かしながら、高い破壊能力を持つ、特定の種類の弾道ミ 2008SNA では弾薬類は軍事在庫に計上するとされてい るが、1993SNA ではそういった記載はみられない。 サイル等、一回限り使用可能な品目の中には侵略者に対 2008SNA との大きな相違点は、 「軍艦、潜水艦、軍用機、 する持続的な抑止サービスを提供するものもあり、そう 戦車、ミサイル運搬車や発射装置等の輸送手段や設備も、 した品目は、固定資産として分類されるための一般的な その機能がそのような兵器を搭載し、発射することにあ 基準を満たしている。」として、在庫ではなく固定資産 るから、固定資産として取り扱われるべきではないこと として分類することとしている。 になる。」との論理で、2008SNA でいう兵器システムに パラ 10.144 は軍事在庫に関する記述であり、基本的 にはパラ 10.87 と同様の趣旨となっている。まず、 「軍 あたる財貨を固定資産から明示的に除外していることで ある。 事在庫品は、兵器または兵器システムによって射出され このように、1993SNA においては兵器システムを固 る弾薬、ミサイル、ロケット、爆弾等の一回限り使用可 定資産の範囲に含めていないが、他方で、民間転用可能 能な品目からなる。 」とされ、 軍事在庫の範囲が示される。 な構築物については固定資産に含めることとしている。 続いて、「固定資本としての兵器システムに関するこれ 具体的には、パラ 10.66 において「一方、飛行場、ドック、 までの考察の中で述べたように、ほとんどの一回限り使 道路、病院のような軍隊によって使用される構築物のほ 用可能な品目は、在庫品として扱うが、ある種の破壊能 とんどは、生産において継続的にかつ繰り返し使用され 力の高いミサイルの中には、侵略者に対する持続的な抑 るばかりでなく、民間(civilian,非軍事)の生産者によ 止サービスを提供する能力があるものがあり、その場合、 って利用されている類似の構築物とほぼ同じように使用 固定資本として扱うことができる。 」と記載されている。 される。」として、構築物は基本的に民間転用可能であ 上記パラ 10.87 及びパラ 10.144 の記述から、兵器シス ることがまず示される。続いて、パラ 10.67 において「こ テム及び軍事在庫の範囲が概ね規定される。すなわち、 のように、軍用病院のような構築物およびそこに含まれ 戦車、軍艦、潜水艦、軍用機等の兵器システムに該当す る設備は固定資産であるのに、兵器およびその支援シス る財貨は、固定資産に分類し、一回限り使用可能な弾薬 テムは固定資産でない」と整理される 5。 類は軍事在庫として扱う。ただし、一部の弾道ミサイル 以上から、1993SNA における兵器システムの扱いは、 のように高い破壊能力を持ち、抑止サービスを提供する ①弾薬類とその輸送手段・発射装置は固定資産としては と考えられる財貨については固定資産として扱うという 扱わない、②軍用設備のうち民間転用可能なものは固定 ものである。 資産として扱う、という区分であるといえる 6。 なお、1968SNA での固定資産の範囲は 1993SNA より 2. 2 1993SNA 以前における扱い もさらに狭く、家族住宅及び改築に係る支出(軍用兵舎 1993SNA では、パラ 6.167 ~ 6.172 及び 10.65 ~ 10.68 は除く)を対象としていた。家族住宅と軍用兵舎の区別 において「軍用設備」というタイトルで記述がなされて は住宅の形態に基づいて行われる。また、学校・病院・ いる。1993SNA マニュアルでは、第6章は生産勘定、 飛行場・道路等のそれ以外の設備は、たとえ民間転用可 第 10 章は資本勘定に関する章となっており、記載され 能であっても中間消費に分類するとされていた。 ている内容の趣旨は概ね同一であるため、ここでは第 以上を踏まえると、各基準 SNA での兵器システム等 4 本文中に記載している 1993SNA の邦訳は、経済企画庁国民所得部(1995)より引用。 また、構築物以外に存在する非軍事用途の設備についても固定資産に含めると記載されているが、兵器との区分が不可能なことが想定 されるため、その場合には全額中間消費として扱うこととされている。 6 なお、本稿の検討対象からはやや外れるが、警察や保安サービス提供企業によって使用される場合には、中間消費ではなく総固定資本 形成に計上するとされている(パラ 10.68)。 5 - 18 - 表1 各基準 SNA における兵器システム支出等の扱い 区分 品目例 1993SNA 2008SNA 弾薬類 ミサイル、 ロケット、爆弾等 中間消費 在庫品増加 (軍事在庫) 兵器システム 軍艦、潜水艦、軍用機、戦車、ミサイル 運搬車両、 発射装置等 中間消費 総固定 資本形成 民間転用可能な構築物 飛行場、 ドック、道路、病院、その他等 総固定 資本形成 総固定 資本形成 の扱いは、表1のように整理される。現行 JSNA では、 定資本形成への計上を行うことで、固定資産の蓄積が記 1993SNA に依拠して、民間転用可能な施設の整備費を 録されるようになることから、新たに固定資本減耗が計 総固定資本形成へ計上している(内閣府(2013) ) 。 上される。このため、産出額としては「固定資本減耗(兵 器分)-兵器システム及び弾薬類への支出」分だけ変動 2. 3 2008SNA への対応で必要となる事項 することとなる。 続いて、2008SNA の勧告に対応するために、具体的 GDP への影響を支出側からみると、これまで政府の に必要となる事項について整理する。兵器システム及び 中間投入・産出額を通じて政府最終消費支出となってい 弾薬類への支出は、現行では一般政府の中間投入として た兵器システム分が公的固定資本形成へ振り替えられる 扱われているため、これを資本化するためには、当該額 一方で、兵器システムに係る固定資本減耗額が一般政府 を把握した上で中間投入から除外し、公的固定資本形成 の産出額に含まれて政府最終消費支出として計上される へと計上する必要がある。 ため、トータルとしては兵器システムに係る固定資本減 この場合、コスト積み上げによって計測される一般政 耗分だけ GDP が増加することとなる(図1)。 府の産出額は、中間投入から兵器システム及び弾薬類分 このように、一般政府の産出額と政府最終消費支出へ を除外した分だけ減少することとなるが、他方で公的固 の影響というミクロの観点では図1のとおり整理される 図1 兵器システム支出の資本化による GDP への影響 現行基準 次回基準 ・政府の中間投入に含まれる (政府最終消費支出に計上) ・「総固定資本形成」に振り替え 【生産面】・【分配面】 防衛装備品の固定資本減耗分 総付加価値が増加 固定資本減耗 (B’) 政府最終消費 支出(A) (A-B+B’) 雇用者報酬等 ( 固定資本減耗 (防衛装備品以外 の資産分) 固定資本減耗 (防衛装備品以外 の資産分) 雇用者報酬等 (A) 中間投入 政府最終消費 支出 (A-B+B’) 中間投入 ) 防衛装備品への 支出B 防衛装備品へ の支出相当分B 防衛装備品への 支出B 防衛装備品の 総固定資本形成 B 生産、分配側 支出側 生産、分配側 支出側 ※:支出側の図において、商品・非商品販売は捨象 資料:内閣府(2014b)より引用 - 19 - が、もう一つの課題として、SNA はサブシステムとし いた防衛装備品への支出 115 のうち、105 を総固定資本 て産業連関表(以下、 「IO」という。 )を取り込んでい 形成へ、10 を在庫品増加へ計上することとなるが、そ るため、IO の体系としても整合的であるように計数を れにあたって「通信機器」 「航空機」 「自衛艦」 「戦車」 「弾 作成する必要がある。具体的には、我が国において兵器 薬類」等といった財貨・サービス別の金額が必要とな システムに相当する防衛装備品への支出を一般政府の中 る 8。JSNA では基準改定にあたり、商品×商品(アク 間投入から公的固定資本形成へ振替えるにあたり、内訳 ティビティ)で構成される基準年の X 表(取引基本表)と、 を JSNA の商品(財貨・サービス)別に把握して行う必 産業×商品で構成される V 表から、U 表を導出する方 7 要がある 。JSNA では、コモディティ・フロー法(以下、 法をとっている 9。次回基準改定では IO の平成 23 年表 「コモ法」という。)のコモ 8 桁分類(約 2,000 品目)別 を取り込むこととなるが、2008SNA の「兵器システム に各需要項目の推計を行い、これをもとに SNA におけ 支出の資本化」については特段の対応が行われていない る IO 体系を構成する「財貨・サービスの供給と需要」 (現 ため、図2の処理を行った上で JSNA に取り込む必要が 行 JSNA 年報における付表1) 、 「経済活動別財貨・サー ある。 ビス投入表(U 表) 」 、 「経済活動別財貨・サービス産出 次節では、こうした実装にあたっての課題について詳 表(V 表) 」を作成するとともに、固定資本減耗やデフ 細な検討を行う。 レータの推計にも利用しているため、防衛装備品につい 3.JSNAフロー編における具体的な対応方針の 検討 ても同様にコモ 8 桁レベルに細分化して推計を行うこと が求められる。 図2は、IO 体系上で必要となる処理を簡略的に示し たものである。図1に示されている一般政府の産出額及 3. 1 防衛装備品の基礎資料及び範囲 び政府最終消費支出の推計においては、防衛装備品への 前節で述べたとおり、2008SNA の兵器システムに係 支出額は合計値として把握されていれば差支えなかった る勧告に対応するためには、我が国の防衛装備品への支 が、IO 体系に落とし込んだ場合、行部門別に把握され 出額を財貨・サービス別に把握することが必要となる。 る必要がある。図2の例では、これまで公務が投入して 防衛装備品への支出額は、 「武器購入費」 「艦艇購入費」 図2 IO 体系上で必要となる処理(イメージ) 内 生 部 門 公務 最終需要部門 総固定 在庫品 資本形成 増加 国内 生産 額 ・・・ 内 生 部 門 通信機器 航空機 自衛艦 戦車 弾薬類 5 50 30 20 10 5 50 30 20 10 ・・・ 粗 付 部 加 門 価 値 国内生産額 公務の投入する防衛装備品及び弾薬 類の金額を把握し、防衛装備品分は 総固定資本形成に、弾薬類純増分は 在庫品増加に計上する。 7 1968SNA の「商品(Commodity)」という呼称から、1993SNA では「生産物(product)」へと変更されているが、本稿では JSNA の慣行 に従い「商品」と呼ぶこととする。また、「コモディティ・フロー法(Commodity flow method)」についても同様に、1993SNA や 2008SNA における「プロダクト・フロー法(Product flow method)」ではなく、従前からの「コモディティ・フロー法」の呼称を用いる。 8 ここで挙げている財貨・サービスの名称は、例示として記載しているものであり、実際のコモ法品目の名称・分類とは異なる。 9 現行平成 17 年基準における詳細は、内閣府(2012)の 24-28 頁に記載されている付加価値法の基準年処理についての記述を参照。 - 20 - 等といった決算費目別であれば、国の決算書情報から把 こうして費目別支出額は品目別に分解され、コモ 8 桁 握することが可能であるが、財貨・サービス別の詳細な 分 類 に 対 応 付 け ら れ る。 し か し、 そ れ ら の 全 て が 区分とはなっていない。このため、各費目別の支出額に 2008SNA における兵器システムの対象となる財貨では ついて防衛省からのヒアリング情報等により財貨・サー なく、一部には対象外となる財貨も含まれている。具体 ビス別に分解することが考えられる 10 的には、資本財には該当しない備品類であるが、これら 具体的には、各費目の支出額のうち上位 30 品目分の 情報を用いて、トータル額となる費目別支出額を按分す については、後述するコモ品目の設定において「防衛装 備品」には分類しないこととする。 る作業を行う。全件ではなく上位 30 品目分とするのは、 表2は防衛装備品の区分について整理したものである。 支出件数が膨大であり全件を対応させることが困難であ 区分1の財貨は 2008SNA マニュアルに直接言及されて ることと、上位 30 品目分で合計額の大宗(概ね 90% 以 いるため、当然ながら兵器システムに含まれる。区分2 上)を占めるため、推計精度面での問題は限られると考 の財貨はマニュアルに直接的な記述がないが、支援等を えられるためである。また、後述するようにコモ法では、 目途として使用される財貨であり、兵器システムの「シ 財貨・サービス別に出荷額、輸出、輸入を推計した上で、 ステム」部分を構成するものと考えられるため、本稿で 国内供給額(JSNA では「国内総供給」という。)を各 は兵器システムに含まれるものとして扱った。2008SNA 需要項目へ配分する方法をとっているため、兵器関連に マニュアルの記述ではないが、1993SNA マニュアルで ついては、国内生産分と輸入分が必要となるが、これに は 2.2 に引用したように「兵器およびその支援システム」 ついてもヒアリング情報から推計することが考えられる。 との表現が用いられていることから、区分2までが兵器 このようにして、決算費目別の支出額を品目別に分解 システムとして想定されているものと思われる 11。 し、さらにコモ 8 桁分類との対応付けを行うが、そのイ メージについては図3のとおりである。 上記の方針を用いて、防衛装備品をコモ 8 桁別に対応 させた結果は、表3のように整理される。コモ法の商品 図3 コモ 8 桁分類への対応付けのイメージ 費目別 支出額 5,000 コモ8桁分類 に対応付け 上位30品目分の 情報で分解 300 ヘリコプタA型 500 輸送機 800 戦闘機 200 練習機 400 ヘリコプタB型 300 ヘリコプタA型 800 戦闘機 800 戦闘機 400 ヘリコプタB型 500 輸送機 航空機 3,400 ヘリコプタ 1,400 その他の航空機 200 (注)あくまで筆者作成のイメージであり、実際の品目名や支出額等を表すものではない。 表2 防衛装備品の区分 区分 内容 例 軍艦、潜水艦、軍用機、戦車、ミサイル輸送 車及び発射台等 1 2008SNAで明確に例示されている財貨 2 2008SNAに明確な例示はないが、もっぱら防衛用 掃海艇、測量船、機動車、戦車橋、レーダー、 途で使用されるもの ソーナー等 10 11 例えば平成 20 年度について防衛省(2007)等がある。 兵器システムとそれ以外の耐久財との境界については、2008SNA マニュアルにも明確に定義されていないため、SNA の基準作成にあ たっての今後の課題の一つであると思われる。 - 21 - 表3 防衛装備品が含まれる IO 6 桁部門 IO 6桁 名称 内容 322101 電子応用装置 ソーナー等 332103 無線電気通信機器 (除携帯電話機) レーダー、通信機器 361101 鋼船 自衛艦 361103 舶用内燃機関 自衛艦用エンジン 362201 航空機 戦闘機、エンジン、部品類 391906 武器 戦車、装甲車、銃砲等 (注)筆者作成。IO の部門コード・名称は、現行 17 年基準が依拠している平成 17 年表の分類を使用。 分類は IO の分類をベースとしており、コモ 6 桁分類は 庫品増加へ計上するにあたり在庫品評価調整をどのよう 概ね IO の基本分類(6 桁、列部門)と同一であるため、 に行うかという問題がある。この点については 3.2.2 に 表3では IO 6 桁部門別に掲載した。 おいて述べる。 以上をもって、コモ品目別の防衛装備品支出額が得ら れるが、決算書の情報はあくまでも支出ベースとなるた 3. 2 コモディティ・フロー法における対応 め、航空機や船舶のような生産期間が長い財貨について は、SNA で推奨されている発生時点での記録(発生主義) 3.2.1 防衛装備品に係る総固定資本形成額の推計 と比べて計上のタイミングが相違している可能性があ 財貨・サービスの供給と需要の状況について、商品別 る 12。このため、次項のコモ法推計における対応の検討 かつ供給・需要項目別に推計を行うコモ法では、これま においては、他の資料から発生ベースの金額が得られる で中間消費として扱っていた防衛装備品への支出を総固 財貨について、決算書に基づく計数は使用せず他の基礎 定資本形成へ計上し、また弾薬類への支出を在庫品増加 統計を用いた推計を検討する。 へ計上する必要がある。 また、弾薬類については、防衛省の決算書等から得ら 図4は作間編(2002)に記載されている図を元に、コ れるのは購入額のみであるため、在庫品のフロー(期中 モ法の推計について簡略的に示したものである。コモ法 増加額)を把握するためには用いることができない。そ では、産出額、輸出、輸入を品目別に各種基礎統計から こで、別資料として「省庁別財務書類」を用いて推計を 推計し、 「産出額+輸入-輸出」として求めた国内総供 行うことが考えられる。我が国の中央省庁においては、 給を、基準年 IO の配分比率に基づき各需要項目へ配分 「省庁別財務書類」が各省庁共通の作成基準によって作 することにより、品目別の推計を行っている 15。 成されているが、このうち防衛省の財務書類では棚卸資 防衛装備品への支出の資本化にあたって、基本的な考 産の明細として「弾薬」の前年度末残高、年度中増加額、 え方としては、図5のように中間消費から総固定資本形 年度中減少額、年度末残高が掲載されている 13。弾薬類 成へ計上先の振替を行えばよい。防衛装備品や弾薬類へ の在庫品増加への計上にあたっては、本資料に記載され の支出額を、何らかの方法で把握し、中間消費から総固 ている期首と期末の残高の差を求めることにより、期中 定資本形成へと計上先を変更すれば、需要項目内での金 14 額の調整であるため、 「総供給=総需要」のバランスを 増加額である在庫品増加の金額を求めることができる 。 なお、弾薬類については、もう一つの課題として、在 崩すことなく処理することが可能である。 12 生産期間がそれほど長くない財貨については、支出額と生産額が概ね相違しないと考えられるが、本文中に述べたように生産期間が長 い場合や、延べ払いが行われる傾向のある単価の高い財貨については、発生時点と支出時点が異なる可能性がある。 13 例えば平成 24 年分については防衛省(2013)を参照。 14 前節で述べたように、2008SNA の勧告では弾道ミサイル等を固定資産として扱うとしており、基礎資料に現れる弾薬類の数字をそのま ま在庫に位置づけてよいかという論点もあるが、我が国の場合 2008SNA マニュアルで想定されているような高い破壊能力を持つ弾道 ミサイル(大陸間弾道ミサイル等)は保持していないことから、財務書類に記載されている弾薬の数字をそのまま使用しても差し支え ないと考えられる。 15 なお、在庫品増加については各流通段階を経由する金額に在庫変動率をかけることにより推計を行っているため、基準年 IO から作成 された配分比率には依拠せず算出される(図6)。また、図4及び図5に記載されている産出額は、実際の推計では図6のとおり出荷 額に在庫変動率をかけることにより推計されている。このため、コモ法の推計作業上での国内総供給は「出荷額+輸入-輸出」となっ ており、以降の説明ではそのように記載している。 - 22 - 図4 コモ法推計のイメージ 運賃・商業 輸入 マージン 産出額 (生産者価格) 例:機械 140 5 総供給 販売経路 (購入者価格) マージン率/ 配分比率の設定 1 5 160 総需要(購 入 者 価 格) 中間消費 民間 総固定 在庫品 輸出 消費支出 資本形成 増加 25 65 5 4 10 15 (資料)作間編 (2002) の「図 5-2 コモディティ・フロー法概略図」(p.198-199) を元に作成。 (注)図中の記載事項、数値等は元資料から一部省略ないし変更している。 図5 コモ法における「兵器システム支出の資本化」対応のイメージ 運賃・商業 マージン 産出額 輸入 (生産者価格) 例:防衛装備品品目 140 15 総供給 販売経路 (購入者価格) マージン率/ 配分比率の設定 5 160 総需要(購 入 者 価 格) 中間消費 0 民間 消費支出 65 総固定 資本形成 在庫品 増加 70 10 輸出 15 中間消費から総固定資本形成へ計上先を変更。 ただ、実際のコモ法推計においては、図6のように流 場合、コモ 8 桁分類が防衛装備品にそのまま対応するか、 通段階毎の運賃・商業マージン額の推計と在庫変動率を あるいはそれ以外(民需分)も含んでいるかによって、 用いた在庫増加額の推計を行っているため、防衛装備品 異なる対応が必要となる。 及び弾薬類への支出についても、それらを考慮してコモ まず、防衛装備品の対象となる財貨がそのままコモ 8 法の推計フレームワークに適合するよう計上方法を検討 桁分類となっており、かつ現行推計において需要先が一 する必要がある。 般政府(中央政府)からの中間消費しかない財貨につい 図6に従ってコモ法の推計フローを述べると、まず財 ては、配分比率を中間消費から総固定資本形成へ振り替 貨・サービス別に出荷額(3) 、輸出額(14~15) 、輸入 えることによって対応が可能である。具体的には図6の 額(10~13) 、各種在庫変動率を毎年推計し、国内総供給 中間消費向け配分比率(18, 23, 27)を0%として、固定 を求め、これを基準年の IO から作成された運賃・マー 資本向け配分比率(20, 25, 29)に振り向ける。現行(平 ジン率、各流通経路や各需要項目への配分比率に基づい 成 17 年基準)のコモ法推計において、国内需要の全額 16 て配分している 。防衛装備品や弾薬類が含まれる製造 が一般政府による中央政府であると思われる品目として 業品目については、出荷額及び在庫変動率には工業統計 は、工業統計の「313117 軍艦の新造」に対応するコモ 8 調査(以下、 「工業統計」という。 )や経済産業省生産動 桁品目があり、防衛装備品への支出のうち自衛艦分につ 態統計(以下、 「生産動態統計」という。 )等を用い、輸 いては上記の方法で対応が可能となる。 出入には財務省貿易統計(以下、 「貿易統計」という。 ) を用いることにより推計を行っている。 しかし、これまでのコモ法推計においては、中間消費 が産業からの需要であるか一般政府からの需要であるか こうした事情を考慮しつつ、コモ法の推計フローと整 区別する必要が無かったため、上記のように中間消費の 合的に「兵器システム支出の資本化」に対応するとした 全額が一般政府からものであると仮定できる品目はむし 16 コモ法の推計フローについては、経済企画庁経済研究所 (1978) や経済企画庁経済研究所国民所得部編 (1978) に詳しい。 - 23 - 図6 コモディティ・フロー法の推計フロー (10) 通 関 輸 入 額 (12) (11,13) (42) 特 関 輸 殊 入 輸 商 税 入 社 額 マ 額 ・ 輸 ジ 入 ン 品 率 商 品 税 額 (15) 特 殊 輸 出 額 (36) 輸 出 向 け 運 賃 率 (41) 輸 出 商 社 マ (14) 通 関 輸 出 額 建設向けについては、 さらに次のように分割する。 ジ ン 率 建 設 業 木 造 建 設 向 け 配 分 率 (31) 向 け 配 分 率 産 出 額 (5) 仕 掛 在 庫 変 動 率 (4) 製 品 在 庫 変 動 率 (3) 出 国 内 総 供 給 額 荷 額 (17) 卸 売 向 け 配 分 率 (37) 卸 売 仕 入 運 賃 率 (43) 卸 売 仕 入 マ ジ ン 率 (6) 卸 売 在 庫 変 動 率 (44) 卸 売 販 売 マ ジ ン 率 (38) 卸 売 販 売 運 賃 率 (22) 小 売 向 け 配 分 率 (39) 小 売 仕 入 運 賃 率 (45) 小 売 仕 入 マ ジ ン 率 (7) 小 売 在 庫 変 動 率 (46) 小 売 販 売 マ ジ ン 率 (40) 小 売 販 売 運 賃 率 非 木 造 建 設 向 け 配 分 率 (32) 建 設 補 修 向 け 配 分 率 (33) 土 木 建 設 向 け 配 分 率 (34) (35) 生産者販売運賃率 (18) (注) 輸出額、産出額の推計 手順は矢印とは逆の方向 になっている。 (19) 中 間 消 費 向 け 配 分 率 (9) そ の 他 産 業 原 材 料 在 庫 変 動 率 (20) 建 設 業 向 け 配 分 率 (8) 建 設 業 原 材 料 在 庫 変 動 率 (21) 固 定 資 本 向 け 配 分 率 (23) (24) 中 間 消 費 向 け 配 分 率 家 計 向 け 配 分 率 (9) そ の 他 産 業 原 材 料 在 庫 変 動 率 (25) 建 設 業 向 け 配 分 率 (8) 建 設 業 原 材 料 在 庫 変 動 率 (26) 固 定 資 本 向 け 配 分 率 (27) 家 計 向 け 配 分 率 (28) 中 間 消 費 向 け 配 分 率 (9) そ の 他 産 業 原 材 料 在 庫 変 動 率 (29) 建 設 業 向 け 配 分 率 (8) 建 設 業 原 材 料 在 庫 変 動 率 (30) 固 定 資 本 向 け 配 分 率 家 計 向 け 配 分 率 (資料)内閣府経済社会総合研究所 (2012) より引用。 表4 コモ 8 桁及びコモ 6 桁分類の分割 IO 6桁 名称 コモ8桁品目の分割 コモ6桁の設定 322101 電子応用装置 332103 無線電気通信機器 (除携 有り 帯電話機) 361101 鋼船 無し (従前の分類のままで防衛 装備品分が把握できるため) 〃 361103 舶用内燃機関 有り 〃 362201 航空機 有り 〃 391906 武器 無し (大宗が防衛省向けである 分割は行わない ため) 有り 防衛装備品分とそれ以外に分割 〃 (注)IO の部門コード・名称は、現行 17 年基準が依拠している平成 17 年表の分類を使用。 ろ少なく、ほとんどの品目では民需分と防衛装備品分が 目を設定することとなる。この場合、民需分については 混在して計上されている。2008SNA の勧告に合わせて、 従前の配分比率、マージン率を用いて推計を行い、防衛 デフレータや固定資本減耗の推計をより精緻に行うとい 装備品分については、配分比率を変更した上で推計を行 う観点に立てば、コモ 8 桁のレベルにおいて防衛装備品 うことが想定される。本稿の試算では、表3のうち「鋼 分とそれ以外(民需分)が分かれていることが望ましい。 船」と「武器」以外の部門においてコモ 8 桁の分割を行 そこで、現行のコモ 8 桁分類で民需分と防衛装備品分 っている 17。さらに「武器」以外の部門では、IO の 6 を区別していない品目については、分割して独立した品 桁部門の設定をそのまま用いるのではなく、防衛装備品 17 「鋼船」については、本文中で述べているように工業統計の分類で自衛艦に対応する「軍艦の新造」があるため、分割の必要はなかった。 また「武器」については、その大宗が自衛隊向けであるため、品目の分割は行わず配分比率による対応を行った。 - 24 - 分と民需分とに分けてコモ 6 桁を設定した(表4)。 生産期間がそれほど長くなく、前項で防衛省の決算書 民需分と防衛装備品分とに品目の分割を行う場合には、 情報等から求めた支出額をそのまま用いても差し支えな 出荷額、輸入、輸出といった国内総供給を算出するため いと考えられる品目については、防衛装備品分の出荷額 に必要な情報を、民需分と防衛装備品分に分けて推計す に国内からの調達分を、輸入には海外からの調達分をそ ることが必要となる。具体的には、出荷額(3)、通関 れぞれ計上する。輸出については、「武器輸出三原則」 輸入額(10)、通関輸出額(14)について、防衛装備品 により原則禁止となっていた期間についてはゼロとする。 分を把握して、当該品目に計上しなければならない。 基礎統計から発生ベースの情報が得られる場合には、 そこで、本稿の試算では、民需分と防衛装備品分のト そちらを利用する。生産動態統計の「航空機」品目では、 ータル額は従来通り各種基礎統計から推計したうえで、 防衛省とそれ以外向けの数字が得られるため、この割合 別途推計した防衛装備品分をそこから控除することによ を用いて、 従来のコモ 8 桁出荷額を分割する。 また、 「武器」 り、民需分と防衛装備品分の切り分けを行っている。具 品目では、品目分割は行わないものの、配分比率の修正 体的な方法は以下のとおりである。 にあたって、防衛省とそれ以外向けの比率を用いた 18。 図7 民需分と防衛装備品分との分割方法のイメージ 合計 防衛装備品分 民需分 出荷額 輸入 輸出 国内総供給 1000 200 300 900 - - - - 300 50 0 350 = = = = 700 150 300 550 図8 防衛装備品に係る総固定資本形成(試算値) 単位:10億円 1200 1000 800 600 400 200 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 試算値 決算費目合計額 (注)筆者試算であり、平成 23 年基準改定において必ずしもそのまま反映されるわけではない。 18 武器については、防衛装備品分を総固定資本形成へ計上したとしても、中間消費に自部門投入(「武器(列)」が中間投入として「武器(行)」 を投入する)や警察等による使用分が残るため、それを反映するために生産動態統計から得られる割合を用いた。 - 25 - 図7は上記の処理をごく簡単なイメージとして示した ることが適切と考えられる 20。 ものである。民需分と防衛装備品合計の出荷額 1,000 か 推計上の留意点としては、コモ法における在庫品増加 ら防衛装備品分の 300 を控除することにより、民需分の は出荷額や各流通段階の経由額に在庫変動率(図6の(4, 700 が求められる。同様に、輸入についても、合計額の 5, 6, 7, 8, 9))をかけることにより推計されているため、 200 が防衛装備品分 50 と民需分 150 に分割される。輸 防衛省の財務書類から実額ベースで得られる弾薬類の純 出は、上述のとおりここでは防衛装備品分はゼロとして 増額は、そのままでは推計値に反映させることができな いるため、全額が民需分となる。以上をもって、コモ法 い点が挙げられる 21。この問題については、(基礎資料 の国内総供給の推計に必要な出荷額、輸入、輸出の情報 から推計した)求めたい在庫品増加額と該当品目の国内 が揃うので、民需分については従前の配分比率を用いて、 総供給から在庫変動率を逆算することによって、コモ法 防衛装備品分については全額を総固定資本形成として、 の推計フローに落とし込むことが可能である。 また、JSNA では在庫品評価調整 22 と呼ばれる、期中 需要項目への配分を行えばよい。 このようにして、推計フレームワーク上で整合的な処 に生じた価格評価の変化による影響を除外するための調 理が可能であると考えられる。図8はこれまで述べてき 整を行っている。現行の推計フローでは在庫変動率の算 た方法によって試算を行った結果を示したものである。 出の際にこれを行い、図9のように在庫品評価調整後の 実線で示されている系列が本試算における防衛装備品分 在庫変動率を用いて、在庫品増加額を推計している(内 の総固定資本形成額であるが、2000 ~ 2011 年までの平 閣府経済社会総合研究所(2012))。このため、基礎統計 均で 0.6 兆円程度となった。これに対して、点線の系列 における在庫純増額と、推計値として得られる在庫品増 は決算書の関連する費目を合計したものであるが、こち 加額は、基本的には一致しない。基礎統計の在庫の情報 らは平均で 0.7 兆円程度となっている。この差は、上記 を在庫変動率に変換して用いている理由としては、各種 3.1 でみたように、決算費目のうち防衛装備品の対象外 統計で把握される在庫額はカバー率の問題等から全事業 と考えられる財貨を除いたことによる。 所分をカバーしている訳ではないので一国計に対して過 少となってしまう点と、把握される在庫の分類がコモ品 目ほど詳細ではない点が挙げられる 23。これらの理由か 3. 2. 2 弾薬類の在庫品増加の推計 2008SNA おいて軍事在庫に分類するとされている弾 ら、基礎統計から得られる在庫純増額をそのまま使用す 薬類への支出については、現行 JSNA のコモ法推計では ることはできない。そこで、基礎統計の在庫の情報は在 中間消費に計上されている。2008SNA への対応にあた 庫変動率の形で用いることとし、これを一国レベルで推 っては、期首と期末の在庫残高の変動分を在庫品増加に 計された出荷額や各流通段階の経由額に対してかけるこ 計上することが必要となる。JSNA の在庫形態は、製品 とにより、一国レベルの在庫品増加を推計している。 在庫、半製品・仕掛品在庫、流通在庫、原材料在庫の 4 19 しかし、弾薬類の在庫純増額については、やや事情が 形態となっている 。このうちの一つに対応させ、推計 異なり、一国内で期末にストックされる額を財務書類か フレームワークに落とし込むとすれば、防衛サービスを ら把握することが可能である。こうした品目については 提供するための原材料と解釈して、原材料在庫に計上す 実額ベースの金額をそのまま用いても過少となる恐れは 19 主要系列表1に表章されている在庫品増加には、他に公的在庫として「公的企業」と「一般政府」があるが、これは一国計の在庫品増 加をコモ法により推計した後に別途内数として公的在庫を推計し、表章時に分割しているものである。現行 JSNA の年報では、付表1 と付表 15 に政府・産業分を合計した在庫品増加が表章されており、合計額でみると主要系列表1の在庫品増加と一致している。 20 2008SNA マニュアルでは、弾薬類は「軍事在庫」として 4 形態と並列の分類とすることが推奨されているが、諸外国においてもそのよ うな取扱いはとられていないとみられることから、次回基準改定後の JSNA でも独立表章は行わない予定となっている(内閣府 2014a、 2014b)。なお、弾薬類は演習等で消費される分があるため、純増分を在庫品増加に計上する一方で、当期に消費した分は中間消費とす る必要がある。 21 なお、期中に演習等で使用された分については、一般政府の中間投入として、従来通り中間消費に計上すべきものと考えられる。 22 在庫品評価調整については内閣府経済社会総合研究所(2012)にも記載されているが、経済企画庁経済研究所国民所得部編(1978)や 経済企画庁国民所得部編(1979)により詳しい説明があるので、そちらも参照されたい。 23 在庫の分類については、基礎統計の一つである工業統計では、期首と期末の在庫額が事業所単位で把握されているため、その事業所が 格付けされている産業別(工業統計 4 桁分類)までの情報しか得られず、商品別(工業統計 6 桁分類)の在庫純増額を把握することは できない。他方で、生産動態統計では個別に在庫額が調査されている品目があるため、こうした品目については生産動態統計を用いて 在庫変動率を算出して使用している。 - 26 - 図9 在庫品評価調整推計フローチャート コモ6桁 ベースの 価格指数 工業統 計表 産業編 在庫回転率、棚卸方法別 ウェイトを考慮した 推定評価価格指数 期首・期末の名目在庫残高 (評価調整前) 在庫残高デフレータ 期首・期末の実質在庫残高 実質在庫純増 年平均価格指数 名目在庫純増(評価調整後) 工業統計表 産業とコモ 品目対応 在庫変動率の推計 コモ品目別の在庫変動率 (資料)内閣府経済社会総合研究所 (2012) より引用。 ない。このため、弾薬類の在庫品評価調整においては、 図9における「名目在庫純増(評価調整後) 」までを求 なお、在庫品評価調整にあたっては、棚卸評価方法や 在庫の回転率を考慮して価格指数を設定する必要がある めて、その額が算出されるよう在庫変動率を逆算して、 (表5)。弾薬類の在庫品評価調整においてもこれは同様 コモ法の推計を行えばよい。 であるが、防衛省(2013)によれば棚卸資産の評価方法 表5 棚卸評価方法、回転率と価格指数との関係 評 価 方 法 売 価 還 元 法 最終仕入原価法 時 価 法 先入れ先出し法 移 動 平 均 法 低 回転率を問わない 9以上 4から8まで 3以下 法 回転率を問わない 単 純 平 均 法 回転率を問わない 個 法 回転率を問わない 法 回転率を問わない 後入れ先出し法 回転率を問わない 総 価 在庫回転率 別 平 均 (資料)経済企画庁国民所得部 (1979) より引用。 (注)回転率は年間のもので示している。 - 27 - 棚卸価格指数 当期末月の価格指数 期中平均価格指数 前期及び当期の期中平均価 格指数の平均値 当期期中平均価格指数 前期及び当期の期中平均価格 指数の1対2の加重平均値 前期及び当期の期中平均価格 指数の平均値 前期及び当期の期中平均価格 指数の2対1の加重平均値 基準期の価格指数 (=100) について「政策目的で保有しているため、主に取得価格 準年の IO を使用して、配分比率や中間投入比率の算出 により平均原価法で計上している」と記載されている。 に用いているが、両者において防衛装備品に係る一般政 平均原価法には、移動平均法、単純平均法、総平均法が 府の投入額の変化が考慮されていなければならない。図 含まれるが、「取得価格により」との文言から単純平均 2において基準年 IO に必要な処理を記載したが、この 法ないし総平均法で評価していると推察することができ 図では投入側に特段の処理がなされていないので、中間 る。この場合、回転数を考慮する必要はなく、価格指数 投入比率の推計にあたって防衛装備品及び弾薬類の中間 のみを用いて在庫品評価調整を行うことが可能である。 投入からの控除と、固定資本減耗の増加分は考慮されな 具体的な方法としては、まず期首及び期末の在庫残高を い。実際の推計では、一般政府の産出額推計にあたり それぞれ実質化し、その差額として得られた実質在庫品 IO の計数をそのまま用いることはなく、別途コスト積 増加額に期中平均価格を乗じることにより、在庫品評価 み上げにより産出額推計を行うため、中間投入合計でみ 調整後の在庫品増加額を算出する。 れば過大推計は生じない。しかし、U 表の作成にあたり 以上を踏まえると、弾薬類の在庫品増加への計上にあ 中間投入額を決算費目の分類から財貨・サービス別に分 たっては、①求めたい在庫品増加額が算出されるよう在 割する比率は IO から算出しているため、基準年の IO 庫変動率を逆算する、②在庫品評価調整を行う、という をそのまま用いた場合には、中間投入に占める品目間の 2 つの処理を行うことにより、2008SNA の勧告に対応す バランスが崩れるおそれがある。そこで、基準年の IO ることが可能であると考えられる。 をコモ法側と付加価値法側でそれぞれ使用するにあたり、 共通の処理として投入側と産出側のいずれにおいても整 3. 3 付加価値法での対応と IO の組替え 合的となるよう調整を行い、その上で基準年以降の推計 前項では、SNA における IO 体系の産出側を構成する を行うことが必要となる。 コモ法での対応について述べたが、投入側の推計方法で 図 10 は、IO の二面等価が確保されるよう図2の調整 ある付加価値法についても同様に整合的に処理されなけ に対して粗付加価値部門での調整も追加したものである。 ればならない。 防衛装備品及び弾薬類の金額を公務 24 の中間投入から 付加価値法は、コモ法で推計された産出額に対して中 財貨・サービス別に控除するとともに、同額を最終需要 間投入比率を乗じることによって、生産側 GDP を推計 部門の総固定資本形成及び在庫品増加に計上し、粗付加 する方法である。コモ法と付加価値法では、それぞれ基 価値部門側では固定資本減耗に計上している。この処理 図 10 基準年 IO の調整 内 生 部 門 公務 最終需要部門 総固定 在庫品 資本形成 増加 国内 生産 額 ・・・ 内 生 部 門 通信機器 航空機 自衛艦 戦車 弾薬類 5 50 30 20 10 5 50 30 20 10 ・・・ 粗 付 部 固定資本 加 門 減耗 価 値 115 国内生産額 24 IO の基本分類としては「公務(中央)★★」が該当。 - 28 - 公務の投入する防衛装備品及び弾薬 類の金額を、便宜的に固定資本減耗 に計上することにより、二面等価を確 保する。 を行った上で、中間投入を財貨・サービス別に分割する 3.4 一般政府の産出額及び政府最終消費支出の推計 比率を作成すれば、先に述べたような品目間のバランス における対応 が崩れる事態は生じない。なお、調整額を固定資本減耗 現行 JSNA では、 「産業」 (市場生産者分) 、 「政府サー に計上したのは、IO 体系上の二面等価を確保するため ビス生産者」「対家計民間非営利サービス生産者」(非市 の便宜的な処理であって、別途 JSNA で独自に推計され 場生産者分)を分けて推計を行っている 28。このため、 た固定資本減耗の計数に更新される。つまり、あくまで 防衛装備品の対応に関連する一般政府の産出額及び政府 も U 表の中間投入に占める品目間のバランスを確保す 最終消費支出の推計は、 「産業」を対象とするコモ法や ることを目途とした処理である。 付加価値法とは別の区分において行われている。 なお、JSNA ではコモ法及び付加価値法の基準改定に 一般政府の産出額及び政府最終消費支出の推計におけ あたり、IO と JSNA との間での概念相違を解消するた る変更点については、前節で概略を述べたが、本項では めに「X 表組替」と呼ばれる処理を行っている 25。具体 具体的な推計方法について検討する。 的には、IO では仮設部門であるが JSNA では部門設定 一般政府の産出額推計においては、歳入歳出決算書や がない事務用品、自家輸送といった商品について、該当 財務諸表の情報をもとに、費用を積み上げることにより 金額を他の投入部門に割り振る処理 (いわゆる 「バラし」) 推計が行われる。平成 17 年基準以前の JSNA の産出額 や、IO では外生部門である家計外消費支出(いわゆる 推計においては、3.1 において取り上げた防衛装備品へ 企業消費)について、JSNA では内生部門(中間消費) の費目別支出額を全額計上していた。防衛装備品及び弾 に振り替える処理等が含まれる。2008SNA への対応に 薬類を一般政府の中間投入から除外するにあたっては、 当たっては、こうした一連の処理に、上記の防衛装備品 これらの防衛装備品への支出額をコスト積み上げ対象か に係る処理を加えることにより整合的な処理が可能とな ら除外することとなるが、単純に費目全額を除外してし る。 まうと過小推計となってしまう。これは、3.1 でみたよ ここで、平成 23 年基準改定における X 表組替に必要 うに関連する決算費目支出額の一部には、従来どおり中 な調整額(一般政府が投入する財貨・サービス別の防衛 間消費として計上すべき財貨も含まれているためである。 装備品及び弾薬類の金額)については、前項のコモ法の そこで、一旦従来の方法(防衛装備品及び弾薬類を中 文脈で検討したような試算値を用いることが考えられる。 間投入に含む)により決算費目を集計し、そこからコモ これは、厳密には、平成 17 年基準ベースで作成される 法により推計された防衛装備品及び弾薬類分を控除する 試算値を 23 年基準改定の推計に用いることを意味する。 ことにより、中間投入の金額を適正化することが考えら これは、基準改定に係る作業工程上やむを得ない措置で れる。図8でいえば、決算費目分は破線の系列に該当し、 26 あり 、異なる基準の計数を組み合わせることになると 防衛装備品分は実線部分に該当する。破線と実線の差額 いう点に留意が必要ではあるが、調整額のうち防衛省か が、防衛装備品の対象外となる中間投入分として、一般 らのヒアリング情報に基づく部分は JSNA の基準如何に 政府の産出額(そして政府最終消費支出)に含まれるこ 影響されないこと、生産動態統計や工業統計を用いて推 ととなる 29。 計した部分については IO と JSNA とで同じ情報を用い 次に、防衛装備品分の支出額は別途推計を行う公的固 て推計していることから推計値の乖離は限定的とみられ、 定資本形成に加算する。JSNA では、コモ法により一国 特段の問題はないものと思われる 27。 計の総固定資本形成を推計し、そこから別途推計した公 的資本形成を控除することにより、民間分の総固定資本 形成を求めている。このため、上記の方法をとることに 25 内閣府経済社会総合研究所(2012)の 24 頁において、「産業分類、商品分類の統廃合」として記載されている内容がこれにあたる。 平成 23 年基準改定のベンチマークとなる平成 23 年 IO において「兵器システム支出の資本化」への対応が仮に行われていた場合には、 同 IO をベースに推計が行われるため、こうした処理は必要ない。 27 コモ法は基準年の IO の推計方法を可能な限り再現しており、特に製造業については工業統計(平成 23 暦年については「平成 24 年経 済センサス‐活動調査」)及び生産動態統計を共に使用しているため整合性が高い。 28 平成 23 年基準改定においては、経済活動別分類(や財貨・サービス別分類)について、国際的な分類との整合性をできる限り図る観 点から、「産業」「政府サービス生産者」「対家計民間非営利サービス生産者」という区分は取り止める予定であるが(内閣府 2014b)、 推計上は引き続き独立して行われる。 29 なお、図8の試算値には弾薬類分が含まれていないため、実際の推計にあたり控除する額は変化することが見込まれる。 26 - 29 - より、総固定資本形成の公的分と民間分のいずれも適正 ーチャート形式で示したものである。コモ法で推計され 化される。公的在庫についても、同様にコモ法で推計さ た防衛装備品及び弾薬類の金額を出発点として、それに 30 れた弾薬類の在庫品増加を計上することで対応する 。 続く各セクションの推計が行われ、最終的に経済活動別 さらにコモ法で推計された防衛装備品分の総固定資本 国内総生産と政府消費支出という形で GDP に反映され 形成額(中間投入からの控除に用いたものと同一)を用 る。 いて、固定資本減耗の推計を行い、これを産出額に加算 ここで一点留意しなければならないのは、3.3 の最後 31 に述べたように、基準年 IO を調整するための数字を作 する 。 なお、政府最終消費支出には、上記の方法によって求 成する必要から、②の推計を一旦現行基準で行い、これ を用いて③の X 表組替を行い、さらに再度②の推計を めた一般政府の産出額がそのまま反映される(図1) 新基準で行わなければならない点である。このため、実 3. 5 推計フローの整理 際の推計では「①→②→③→②’→④→⑤→⑥及び⑦」 図 11 は、本節で述べた各段階での推計についてフロ という順序を辿ることとなる。これは次回基準のベンチ 図 11 防衛装備品及び弾薬類の推計フロー 支出先 内訳 情報 防衛省 決算書 情報 組替IO表を用いて、次回 基準値(平成23年基準) として改めて推計を行う。 (ほぼ同額が算出される) ①コモ8桁別防衛装備品支出額 他資料 (生産動態 統計等) ②コモ法推計値として以下を算出 ・防衛装備品の総固定資本形成額 ・弾薬類の原材料在庫純増額 基準年 IO表 ④防衛装備品分の 固定資本減耗額 歳入歳出 決算書、 財務諸表 等 ③組替済みIO表 ⑤一般政府の産出額 及び中間投入額 ⑥U表、経済活動別 国内総生産 ⑦政府最終消費支出 30 現行 JSNA における在庫品増加の民間分と公的分の区分けは、総固定資本形成の推計と同様に、まずコモ法で一国計の在庫品増加額を 推計し、ここから別途推計した公的分を控除することによって民間分を求めている。 31 固定資本減耗の推計にあたっては、コモ法の品目を防衛装備品分とそれ以外に分けることにより、異なる平均使用年数を適用して推計 することが可能となる。 - 30 - マークとなる平成 23 年 IO において 2008SNA 対応が行 われなかったことによる、やむを得ない処理であるとい える。次回の平成 27 年 IO に向けては、JSNA との整合 性の一層の改善という観点から、2008SNA への対応に 向けた検討が想定されるところであり、兵器システムに 係る勧告への体系的な対応が期待される。 〈参考文献〉 経済企画庁経済研究所(1978) 『新しい国民経済計算の展開 ―国民経済計算調査会議報告―』 経済企画庁経済研究所国民所得部編(1978) 『新 SNA の特徴』 季刊国民経済計算別冊。 経済企画庁国民所得部編(1979)『新 SNA 入門―経済を測る 新しい物さし』東洋経済新報社。 経済企画庁国民所得部(1995)『1993 年改定 国民経済計算の 4.おわりに 体系 上巻』 作間逸雄(2003) 『SNA がわかる経済統計学』有斐閣アルマ。 本稿では、2008SNA の勧告事項の一つである「 【D04】 内閣府(2013) 「 【D04】兵器システムの資本化等について」 『国 民経済計算次回基準改定に関する研究会(第 1 回) 』 、資 兵器システム支出の資本化」については、SNA マニュ 料1 アルにおける記述や概念・範囲の整理を行うとともに、 〈http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/seibi/kenkyu/pdf/ JSNA の推計における対応方針の検討、試算等を行った。 shiryo1_20130426.pdf〉 その結果、新たに GDP の範囲に含まれる防衛装備品の 内閣府(2014a) 「我が国国民経済計算の次回基準改定に向け 総固定資本形成額について、2000 ~ 2011 年の平均で約 て」 『国民経済計算次回基準改定に関する研究会(第 10 回』 、資料3-1 0.6 兆円との試算結果が得られた。また、本稿で述べた 〈http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/seibi/kenkyu/pdf/ 推計手順をとることにより、コモ法、付加価値法、一般 政府及び政府最終消費支出といった各推計区分において shiryo3_1_20140704.pdf〉 内閣府(2014b) 「国民経済計算次回基準改定に向けた対応に 整合的な対応が可能になると思われる。 ついて② - 生産に貢献する非金融資産の範囲の拡充」 『国 他方で、今後の推計に向けて課題となる事項もいくつ か存在する。まず、基礎資料の一部を決算書等の支出ベ 民経済計算部会(第 14 回) 』 、資料1 内閣府経済社会総合研究所(2012) 「SNA 推計手法解説書(平 成 24 年改訂版) 」 ースの情報に依拠しており、防衛装備品の品目によって は SNA で推奨されている発生ベースの記録とは計上の タイミングが必ずしも一致しない可能性がある点が挙げ られる。また、本稿の試算では一部の品目について生産 防衛省(2007) 「平成 19 年度における主な支出先とその内訳」 〈http://www.mod.go.jp/j/yosan/2007/uchiwake.pdf〉 防衛省(2013) 「平成 24 年度 防衛省 省庁別財務書類」 〈http://www.mod.go.jp/j/yosan/2014/zaimu/h24_zaimu.pdf〉 動態統計の情報を用いたが、同調査では平成 26 年の改 正で「武器」の調査が取り止められたことにより、防衛 省向けの生産額が今後は入手できなくなる等の統計的な 制約も生じている 32。さらに、平成 26 年 4 月に「防衛 装備品移転三原則」が策定されたことにより、将来的に は防衛装備品の輸出が発生する可能性が想定され、それ らをどのように把握するのかといった課題も出てくるで あろう 33。このような状況下で推計精度の維持・向上を 図っていくためには、JSNA と一次統計や各種基礎資料 との間の連携を一層図っていくことも重要な課題である と考えられる。 内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部では現在、 平成 27 年 6 月の平成 23 年 IO(確報)の公表を受けて、 次回基準改定(平成 23 年基準改定)に向けた推計作業 を行っているところであるが、本稿を踏まえ、さらなる 進展が図られることを期待したい。 32 33 ただし、工業統計の品目には変更が無いため、防衛省分とそれ以外を含めた合計額の情報は今後も利用可能。 通関する財貨については貿易統計によって把握することが可能であるが、そうでない場合には別途把握する必要がある。 - 31 -