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化石燃料有効利用のための電気自動車用高効率電源

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化石燃料有効利用のための電気自動車用高効率電源
化石燃料有効利用のための電気自動車用高効率電源
“DH-Q-SOFC”
DH-Q-SOFC” その概念と試作
研究代表者
水崎純一郎(東北大学
水崎純一郎(東北大学:日本)
(東北大学:日本)
共同研究者
Kevin Kendall(バーミンガム大学
Kendall(バーミンガム大学 : 英国)
Nigel Sammes(アキュメントリックス
Sammes(アキュメントリックス Co. : 米国)
Jan Van herle(ローザンヌ
herle(ローザンヌ スイス連邦工科大学,:
スイス連邦工科大学,: スイス)
スイス)
山田興一 (信州大学
(信州大学:
信州大学:日本)
日本)
酒井夏子 (物質工学工業技術研究所
(物質工学工業技術研究所:日本
物質工学工業技術研究所:日本)
:日本)
1. 緒言
1.1 SOFC を自動車に使う理由
固体高分子型燃料電池 (PEMFC) の技術はここ数年で急速な進歩を遂げ,自動車のエンジ
ンを置き換える有力な発電技術として認知されるようになった。しかし,これは燃料として
水素が利用できることが前提である。水素はその貯蔵・輸送・あるいは給油方法などの点で
多くの問題を解決せねばならない。近年,自動車メーカは燃料としてガソリンを利用する方
法を検討している。この場合,自動車は燃料電池本体の他にガソリン改質プラントを積んで
走ることになる。もしも燃料電池本体で燃料改質ができるならば,システム構成はずっと簡
単なものになるに違いない。このためには高温で作動する燃料電池が必要であり,必然的に
SOFC に期待が関心が集まることになる。
1.2
1.2 マイクロチューブ形 SOFC
固体酸化物形燃料電池はセラミックスの隔膜を電解質として用いる。セルの主要部分はセ
ラミックスと金属のみで構成する。これまで,SOFC は主に定置型電源として開発が進めら
れており,自動車用途としてはあまり注目されていなかった。これは,セラミックを用いる
ため,自動車のように急速起動/停止を頻繁に繰り返す用途には不向きであると考えられて
いたためである。たしかに,従来型の SOFC では起動/停止に数時間をかける必要があり,
このような用途には使用できない。しかし,この問題を解決する新しい SOFC が,本プロジ
ェクトの共同研究者である Kendall らによって提案された。これは,マイクロチューブ型セ
ルとよばれる,薄く,小さな円筒型のセルを基本とするものであり,ほんの数分で起動し,
何度も熱サイクルを与えても壊れない。この研究に刺激されて,小形,可搬型 SOFC の開発
が活気を帯び始めている。近年,いくつかのメーカが,自動車の補器用電源に SOFC を利用
する研究を始めている。これは SOFC の自動車への参入の入り口としてちょうどよいアプリ
ケーションであろう。本研究では,エンジン代替用としての SOFC をターゲットとした。開
発にはさらに研究が必要になるであろうが,環境や経済に与える影響もより大きい。
1.3 “DH-Q-SOFC”
DH-Q-SOFC”の概念
本研究プロジェクトの目的は,高効率自動車用電源としての新しい固体酸化物燃料電池で
ある,“DH-Q-SOFC” の概念と,必要な技術を開発することにある。“DH-Q-”とは,
(DH-) Directly Hydrocarbon fueling, :炭化水素燃料を直接導入して動作する,
(Q-) Quick startup/shut down . :急速起動/停止の可能な
SOFC を意味する。このシステムは,LPG やガソリンなどの液体炭化水素燃料を使って動作
し,高い総合効率(「井戸からタイヤまで」の効率 = 総合的な CO2 排出量の削減)を実現し,
現在のガソリンエンジンと同等以上の航続距離を持ち,インフラストラクチャの開発も低コ
ストで済むものでなくてはならない。このプロジェクトは,このようなコンセプトの可能性
を示し,実験室スケールでのデモンストレーションを行うことを目標とした。
この新しい SOFC で用いられる電解質のサイズは,通常,直径 2mm 程度,厚さが 200µm
程度の円筒を想定する。電解質の材質には YSZ を用い,カソード側の表面には,電極・電解
質間の固相反応をさけるためにセリアによる保護層を形成する(図 2 参照)。このような
DH-Q-SOFC の可能性を検討するために,まず(i)機械的強度(Sammes)(ii) 電極反応機構
(水崎) (iii) 熱力学安定性(酒井,水崎)に関する基礎研究を行うと同時に,(iv) 新規材料
の開発(Van herle,山田)と(v) 製造技術の最適化(Kendall)にも力を注いだ。さらに,(vi)
システムのデザインと動作モードの最適化(山田,Van herle)を行い,(vii)デモンストレー
ション用のセルスタックを試作した。(Sammes, Kendall, 水崎)
図 1 DH-Q-SOFC スタックデザインのイメ
ージ図。この絵では図 2 に示す基本セル構
造とは異なり,燃料極を電解質チューブの
外側に配置したものとなっている。
図 2 DH-Q-SOFC 単セルの概念図。イットリア安定
化ジルコニアを電解質として用い,これを NiYSZ サーメットサポート上に保持する構造とな
っている。カソード側には,セリア層をコーティ
ングし,(La,Sr)CoO3 系電極との反応を防いでい
る。
2. 機械的性質
急速な起動/停止にシステムが耐えられることを明らかにするために,熱機械特性に関す
る解析を行った。また,自動車に用いるためにはどのような材料/構造が適当であるかを検
討した。
2.1 有限要素法によるストレスの解析
マイクロチューブ型 SOFC 単セルの,急速起動/停止サイクルに対する耐性を調べるため
に,有限要素法によるコンピュータモデリングを行った。チューブの一部を切り出した形の
モデルを用い,その半分を急速加熱する状況を考えた。これは,セルのガスシール部分は直
接加熱されない構造を想定している。図 3 にこのときのストレスの大きさを時間の関数とし
て示した。ストレスは起動開始後約 60 秒でピークを迎える。このときの最大ストレスは約
25MPa(グラフ中の単位は kPa)であった。電解質材料の MOR(Modulus of Rapture)が
220MPa 程度であることを考えると,このような急速な昇温においても,セルを破壊する程
のストレスは生じない構造であることが明らかとなった。
Stress and Temperature Developments during Heating
2500
2000
1500
1000
500
0
0
30
60
90
Time (s)
Max Temp (K)
Min Temp (K)
Max Stress (kPa)
図 3 一端を 60 秒で 800℃まで加熱した際のマイクロチューブセルのストレス分布のシミュレーション。
Y 軸は温度(K)およびストレス(kPa)を示している。最大ストレスは 2.5 MPa であり,電解
質材料の MOR に比べて十分に小さいことがわかる。
2.2 材料強度試験
作製したジルコニアチューブについて,ラバーバースト試験を行ったところ,その強度は
通常の4点曲げ試験で得られたよりも小さな値となった。押し出し成形によって作製したマ
イクロチューブ試験片は,その製造バッチによってはマイクロポアを含むものが多く見つか
った。このような場合にはチューブに多くの欠陥があったことが想定される。信頼性を向上
させるためには,製造工程における品質の向上が必要である。
3. 電極反応機構
3.1 混合導電性カソード
ストロンチウム置換ランタンコバルタイト, (La,Sr)CoO3-δ, は,SOFC のカソードとして優
れた特性を示すことが知られている。この材料は電子と酸化物イオンの混合導電性を示すた
め,粒子中が酸素の拡散パスとなり,電極粒子の全表面で反応が進行することが,高い電極
反応速度の理由の一つである。表面過程は,(a) 酸素の表面への解離吸着,(b) 電荷移動を
伴う電極中へ酸素の取り込み の2つの過程がある。本研究では,これらを分離して測定し,
それぞれの反応モデルを構築した。773 K 以下の温度では,過程 (b)に伴う分極が重要になる。
したがって,低温作動化のためには表面改質などによって過程(b)の分極低減に着目すること
が有効である。
3.2 Ni/YSZ アノード上での H2 の反応機構
Ni/YSZ サーメット電極を用いて H2 中での分極測定を行った。 反応次数解析により,電極
反応モデルを提案した。以下の平衡を仮定する。
H 2 + 2Vad
KH
H 2O + Vad
KH2O
O(YSZ) + Vad
(a)
2Had
KO
H 2 Oad
(b)
Oad
(c)
競争吸着を仮定すると,反応速度式として
i = ia − ic
= ka ⋅
K H ⋅ PH2 ⋅ Ko ⋅ ao
(1 + KH ⋅ PH 2 + KH 2 O ⋅ PH 2 O + Ko ⋅ ao )
3
− kc ⋅
[1]
KH 2 O ⋅ PH2 O
(1 + KH ⋅ PH2 + KH 2 O ⋅ PH2 O + K o ⋅ ao )
3
が得られる。式[1]中の吸着平衡定数は,結晶方位によって異なると考えられる。これは,ア
ノードの微細構造が間接的に分極に影響することを意味する。
3.3 炭化水素の内部改質
炭化水素燃料が SOFC に導入された場合,化学反応と電気化学反応がアノード上で同時に
進行する。このような複雑な系における反応速度を見積もるための実験手法を提案した。こ
こでは,導入ガスと排出ガスを解放電位(セルに通電しない状態) で測定した後,セルに通
電し,それぞれの量の変化を定量する。この変化量を数学的に解析することによって,いく
つかの化学反応と各電気化学反応の素反応速度を算出した。この手法を用い,YSZ 上の Pt
電極について,CH4-H2O 混合ガス中での反応について調べた。この結果,主な電気化学反応
は水素の酸化であるが,比較的低温(973 K<1073 K)においては CO の電気化学的酸化反応
も副反応として進行していることが分かった。
4. 材料の熱力学安定性
4.1 Ce-Y-Zr-O 系の熱力学
カソードとして LaCoO3 系の材料を用いる場合,YSZ 電解質のカソード側には CeO2 によ
る保護層を設ける。そこで,Ce-Y-Zr-O 系での電気的特性および熱力学安定性について検討
を行った。Ce-Y-O および Zr-Y-O の固溶体の形成は,イオン導電性を減少させる一方で電子
導電性を増大させることがわかった。熱力学データベースを用いた計算から,電子導電率の
増大は ZrO2 と CeO2 との間に正の(排他的な)相互作用が働くこと,および ZrO2 と CeO1.5
との間に強い負の相互作用が働くことによって説明できることがわかった。言い換えれば,
これは Zr4+イオンが Ce3+イオンの近傍にある時により安定化することを意味する。
4.2 (La,M)CrO
(La,M)CrO3 インターコネクトの安定性
DH-Q-SOFC におけるインタコネクトの形態については,まだ最適化されていないが,セ
ラミックを用いる場合,その材料としては La1-xMxCrO3-δ (M=Ca or Sr), が有力な候補であ
る。しかし,この材料は低温作動時に,CaCrO4 または SrCrO4 が熱力学的に安定となるこ
とから,これらが第二相として析出するおそれがある。そこで,La1-xMxCrO3-δ 中での M の
固溶限界を温度と酸素分圧の関数として決定する実験を行った。主な第二相としては CaCrO
または SrCrO4 が確認された。Ca の場合,固溶限界は 900°C 空気中で x=0.1 までであり,
4
Sr の場合にはこれ以下であることがわかった。熱力学的安定性の見地から考えると,LaCrO
への添加物としては, Ca が Sr よりも適していると言える。
5. 新材料の探索
5.1 アノードサポートによる薄膜電解質
薄いジルコニア電解質をアノードサポートとともに共押し出し(co-extrusion)によって作
製することを想定し,そのモデルとして,平板型の Ni-YSZ サポート上に 5µm の電解質膜を
2
current density (mA/cm )
作製した。電極面積は 100 cm2 という比較的広いものであったが,問題なく発電試験を行う
1.0
1.0
2
cell voltage (V)
0.8
0.8
LSC cathode, 700°C
0.6
0.6
0.4
0.4
0.2
0.2
LSM cathode, 800°C
0.0
2
power density ( W/cm )
0.82 W/cm
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2
current density ( A/cm )
2.0
図 4 Ni-YSZ アノードサポート YSZ 電解質薄膜 (6 µm) の発
電特性。 多孔質 LSM と LSC 緻密薄膜との比較。
700°C
800°C
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
overpotential
図 5 Ni-YSZ サーメットの i-η カーブ。Ru を 1%添
加したもの。
ことができ,800℃において 25 W を得た。この際の燃料利用率は 85%であり,発電効率は
36%であった。さらに水蒸気改質に有効な触媒である Ru を 1%程度加えることで性能が向上
した。
5.2 酸化物アノード
ランタンクロマイト系酸化物および Nb 添加 Ce02 (CeNb) について,CH4 (3% H20)中での
分極特性を測定した。最適化した組成のアノードでは,通常のカソード (La0.85Sr0.15MnO3)を
2
用いた単セル試験で,875℃,H2 燃料の場合に 450 mW/cm ,また,3%加湿メタンを燃料と
2
した場合には 250 mW/cm の出力を得ることができた。加湿メタンを用いた場合の耐久性も
高く,875℃ and 765℃の間で温度を変化させながら 250 時間連続発電試験を行ったが常に
安定した出力が得られた。このセルの温度依存性は比較的大きく,電流密度 0.3 Acm2 の条
件でのアノード過電圧は,温度 810℃,840℃ ,875℃ の場合にそれぞれ,0.54 V,0.26 V,
0.2 V であった。
5.3
5.3 ZrO2 上への CeO2 保護層コーティング
コーティング層であるセリアとジルコニア電解質との反応は,前述のように性能を劣化さ
せる可能性がある。このため,ジルコニア上でセリア薄膜を低温(1200℃)で焼結させる方法
について検討を行った。焼結助剤として Co を 2% ドープしたイットリア添加セリアを,ジ
ルコニア薄膜(アノードサポート基板上に製膜したもの)の上に,テープキャスティングし
た後,1200°C で焼結させたところ,3µm の薄膜を形成することに成功した。この複合電解
質に La0.6Sr0.4Fe0.8Co0.2O3 カソードを設置して発電試験を行ったところ,750°C,0.7 V
の出力電圧の条件で 0.51 W/cm2 を得ることができた。(最高出力は 0.5 V のときに 0.7
W/cm2 。) しかし,この出力は,1000 時間の運転で 50% 低下した。
5.4
5.4 熱膨張率を最適化したコバルト系ペロブスカイトカソード
カソード材料としてはコバルト系ペロブスカイト, (La,Sr)CoO3 (LSC) が最も高い性能を
示した。一方,熱膨張率の点での電解質との両立性を考慮すると,(La,Sr)(Co,Fe)O3 (LSCF)
が最適である。そこで,発電性能を犠牲にすることなく熱膨張率を最適化する目的で YlSrxCo0.7Fe0.3O3 (YSCF) (x=0.2-0.8) 系の酸化物について検討した。図 6 に示すように,
x
図6
Yl-xSrxCo0.7Fe0.3O3 (YSCF) (x=0.2-0.8) カソードの 800°C での分極と熱膨張特性
これらの組成範囲では YSCF4673 が最も高い性能を示し,その過電圧は,800℃,電流密度
400mA/cm2 において 20mV 以下であった。これは,LSC に比べるとやや大きいものの,LSCF
よりも小さく,SOFC のカソードとしては申し分ない性能を示しているといえる。一方図 7
に示すように,熱膨張率は YSC5573 がもっとも小さく,約 10x10-6 K-1 であった。この系は,
熱膨張率に対する組成の影響が大きく,組成制御による材料設計が行いやすい系であると言
える。
6. 製造技術
6.1 標準マイクロチューブセル
ジルコニアチューブは,押し出し成形によって作製した。まず,最適なジルコニア粉末を,
平均粒径が 1µm のコロイドスラリーとする。ジルコニア粉末をアセトン/KDI(Avecia)中ま
たは水/821A (Vanderbilt)中に分散させ,震盪ミルを用いて 3 時間混合した。この際エチルセ
ルロースポリマー溶液を thickening agent として用いた。凝集粒子が混入するのを避けるた
めに,この分散液を 1µm のフィルターを通し,成形に適当な組成になるまで乾燥させた。こ
のスラリーをテープ状に成形し,標準のチューブ用ダイス中に高速に押し出して成形した。
これを変型しないように多孔質サポート上に保持して,乾燥,1500℃で焼結した。出来上が
ったチューブは,ガスリークのないものであることを確認した。
6.2 薄膜電解質/共押し出し
単セル性能を向上させるために,2通りの方法を試みた。ひとつ目は,電解質チューブの厚
さを通常の 200 µm から 100 µm へと薄くする方法,もう一つは,ジルコニア電解質を,ニ
ッケルサーメットと共押し出しによって成形する方法である。 前者は,押し出し成型機のた
めの新しいダイスを作製することで実現できた。出来上がったチューブは十分な強度を持ち,
取り扱いも容易で,スタック作製時に割れることもなかった。後者の方法は,より困難であ
ったが,異なる2つの材料を押し出す,より複雑な押し出し成型機を作製することによって
可能となった。アノード材料と電解質材料を共押し出しし,アノード/電解質複合膜をもつ
セルを作製した。
6.3 アノード
電極は,原料粉末を用いてインク状に調整したものをジルコニアの表面に塗って作製した。
アノードの第一層は,9.5%イットリア安定化ジルコニア(MEL) を等重量の酸化ニッケルと
(Sigma) 混合して作製した。得られたインクは微細なニッケル粒子が比較的大きなジルコニ
ア粒子の周りに分散したものとなっていた。このインクを,ジルコニアチューブ内部に流し
込んだ後,余分な部分を排出,乾燥し,アノード内層とした。続いて,同様の方法でアノー
ド第二層のインクを調製した。ただしこの場合,アノード外層に高い導電率を持たせるため
に,ニッケル/ジルコニア比を 90/10 とした。これを 1300℃焼成し, アノード集電体とし
てニッケル線を接触させた。この層にはメタン等を燃料とした際の炭素の析出を押さえる目
的で,種々の添加物を加えた(5% 酸化セリウムなど)
。
6.4 カソード
カソード層もほぼ同様の方法で作製した。カソード内層用インクは,微細なジルコニア粒
子(MEL8Y)とストロンチウム添加ランタンマンガナイト (SSC. 20% Sr doped)を等量混合
して調製した。1時間,震盪ミルで処理するとサブミクロンの粒径をもつスラリーができた。
これを 20µm の厚さなるように電解質チューブの外側に塗布した。カソード外層用インクは
より大きな粒径をもつストロンチウム添加ランタンマンガナイト(Merck)のみを用い,ペース
ト状に混練した後,カソード内層の上に塗布した。これを乾燥し,1300℃で焼結した。
6.5 Performance tests
作製したセルの発電試験を行うと,およそ 0.3 W/cm2 程度の出力が得られた。 この値は
セルによる個体差が大きく,最高 0.5 W/cm2,最低 0.1W/cm2 の間でばらついた。このばらつ
きの原因ははっきりとはしていないが,電極用インクの状態と集電線の接続状態に大きく影
響されているようである。 電解質のジルコニアを薄膜化したセルの出力は 900℃で約 30%
増大した。共押し出しによって作製したセルは特に低温での運転時に優れた特性を示した。
しかし,いくつかの共押し出しセルでは燃料の流量を低減した際に出力が低下する現象が見
られた。これは,焼結時の収縮率の違いにより,チューブに細かな割れが生じ,ガスリーク
が発生したことが原因と考えられる。
6.6 代替電解質
ガドリニア添加セリアを電解質に用いたセルを作製し, 550°C で試験を行ったところ,良
好な結果が得られた。しかし,600℃以上の温度ではセリア電解質は燃料によって還元され,
サイクル試験を行うと強度が劣化した。第一回目のサイクルでは,セリアチューブは 600℃
でジルコニアチューブの 5 倍の性能を示したが,二回目のサイクルでは性能が劣化し,ジル
コニアよりも低い出力しか得られなくなった。したがって,急速起動型の SOFC の電解質と
しては,ジルコニアチューブが最も適していると結論した。
6.7 炭化水素燃料供給時の特性
メタンを供給した場合の発電特性を,セル電圧を変化させながら測定した(図 7)
。高電圧
での運転中に性能が劣化するが,これは電位を再び 0.8V に戻すことによって回復した。こ
れは,電解質からの酸素イオン
電流の供給が十分にある場合に
は,高電圧運転(または解放電
圧)時に析出した炭素が燃焼す
ることを示唆している。TPD
(温度プログラム脱離測定)に
よって,炭素は水素を含む CHx
の形で析出していることがわかった。
7. システムデザインとモデリング
7. システムデザインとモデリング
7.1
.1 システムの概要
電気自動車に 50kW の SOFC システムを搭載することを想定するとシステムの概要は以
下のようになる。燃料としてはメタンまたはガソリンを用いる。単セルのサイズは外径 2.4
mm 内径 2.0 mm で,長さは 500 mm であるとした。発電部は 4830 本のチューブからな
る。 これらの重量は 20kg であり,体積は 1.1 X l0-2 m3 程度となる。チューブ状の熱交換
器を用いるとすると,熱交換用チューブの全数は 5000 本となり,その重量は 20kg ,体積
は 1.9 X l0-2 m3 である。したがって,50kW の DH-Q-SOFC スタックの総重量はおよそ 50 kg,
総体積は約 50 L となる。これは電気自動車搭載用のシステムとして十分なものであるとい
える。
7.2 運転条件
DH-Q-SOFC の作動条件を決定するために作動温度 1073 K および 1273 K,S/C(燃料中
の炭素量に対する水蒸気のモル比)を 0.01, 1.2, 3.0 とした場合についてシミュレーションを
行った。開発した SOFC のデータを用いて計算したところ,50%の発電効率を達成し得るこ
とがわかった。また,効率は作動温度が下がる程高くなった。作動温度の低下は,材料コス
トの低減につながり,また,SOFC の耐久性も向上すると考えられる。一方 S/C 値を減少さ
せることは,理論的には高い効率をもたらすが,現状では,アノード上への炭素の析出を抑
えるためには,S/C を 3.0 以上にする必要がある。
8. デモンストレーション
8.1 単セルの急速起動
ブタン/酸素混合気を燃料とする小さなハンディトーチのノズルに単セルを取り付け,急
速起動による発電試験を試みた。セルの周囲には他に4本のノズルを設け,ここにも同じ混
合気を供給し,これに着火することでセルを加熱した。燃料に着火した後,酸素を供給して
いくと,起電力が上昇しはじめ,12-17 秒後には定常運転状態に達した。
図 8 単セルの急速起動実験の模様
発光の具合から判断するとセルの中央部分のみが加熱されている状態であったが,最終的に
660 mV,25 mA の出力が得られた。数回運転を繰り返したがセルはダメージを受けた様子
はなく,急速起動/停止に十分適応できることが示された。しかし,運転を続けると内部に
炭素が析出し,出力が低下した。
8.2 スタック試験
図 9 に示す小型のスタックを試作し,プロパンまたはブタンを燃料として発電試験を行っ
た。燃料は火花によって着火し,約 20 秒で 800℃まで温度が上昇した。電解質チューブの損
傷はなかった。数回のサイクル試験によっても割れたり劣化したりすることなく運転できた。
この装置では,プロパンガスをベンチュリーを通して空気と混合し,部分酸化触媒上を通し
ている。加熱,改質された燃料は SOFC チューブに供給される。最後に Pt を担持したコー
ディライトハニカムに排ガスを通し,完全に燃焼させた。SOFC チューブの温度は約 800℃
で,ガスに冷却される入り口以外の場所はほぼ均一の温度であった。このデザインによるプ
ロトタイプセルを数種類試作した。
8.3 54 セルスタック
54 個のセルをスタックしたデモンストレーション用モジュールを試作し,特性を評価した。
セルはガスバーナーシステムにより加熱している。850℃の運転で出力 36W が得られた。図
10 に示す写真はこの SOFC からの出力によって小形のテレビを作動させている様子である。
図 9 DH-Q-SOFC スタックの急速起動実験。部
分酸化触媒を蓋部分に担持している。
9
図 10 54 セルモジュールのデモ風景
まとめ
9.まとめ
9.まとめ
本研究では“DH-Q-SOFC”の概念を提唱し,その可能性を検証した。基本的なセル構造を提案
し,必要な材料について,機械強度,電気化学特性,熱力学安定性の見地から検討を行った。
また高性能電極材料の開発,作製手法の改良を行った。作製したセルが急速起動/停止に耐
えるものであることを,単セルおよび小規模セルスタックで実証した。これらは着火から約
10~20 秒程度で起動できた。また,54 本のセルからなるスタックを試作し,36W の出力を
得ることに成功した。
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