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新規参入の課題の整理(PDF:1378KB)
平成 24 年度営農推進講演会 1/5 「新規参入の定着に向けた課題と対応」講演録 講演者:独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター 農業経営研究領域 澤田 守 氏 日 時:平成 24 年 12 月 20 日 今回はテーマとして、 「新規参入の定着に向けた課題と対応」ということで報告させていただきた いと思う。 最初に、新規参入者の課題の整理を行い、次に新規参入者についてどのような類型化が考えられ るか、そしてネットワーク型組織の特徴と課題、最後に、経営定着に向けた課題と対応ということ で話をさせていただければと思う。 これまでの新規参入の研究、アンケート結果の考察などから、まず経営定着の課題を整理したい。 次に、就農経路の類型化分けを行う。3 番目にネットワーク型組織への新規参入者の事例分析を 1 行う。このネットワーク型組織への新規参入者の分析に関しては、新規参入者の経営定着の成功事 例を把握して、定着のあり方を見ていきたいと思う。4 番目に、就農ルート別の経営定着の課題の 定義を見ていきたいと思う。 新規参入者における経営定着とは、 「同年代の他産業従事者の給与水準と同等の農業所得を得るこ とが可能な農業経営」と考えている。これは今でも「半農半 X」や兼業などの就農もあるが、やは り新規参入者の経営定着は「他産業従事者の給与水準を得ることが可能な農業経営」をどう育成す るかということに本筋をおかなければならないと思う。 前提条件として、課題を限定している。ひとつは「農業所得の確保に重点を置く」こと。さらに 「都府県における新規参入の動きに焦点を当てる」こと。3 つ目は「農外企業などの新規参入につ いては分析の対象外とする」と記載しているが、事例のひとつは農外企業に近いかたちである。最 後は「青年就農者を対象にする」ことである。 「青年就農者を対象とする」が、やはり高齢で就農する人数は非常に多いことは承知しているし、 この人たちに期待するところも大きい。ただ、この表を見ていただければわかるが、50 歳未満の新 規参入者と、50 歳以上の定年帰農に近いかたちでの新規参入者では、問題の場面が違うところがあ る。50 歳以上の新規参入者は自己資金を多く持っていて、資金を借りた割合も 30%を下回るアンケ ート結果が出ている。売上高も少なく、基本的に年金プラス農産物の収入である。自己資金を貯め 2 てから就農するという、非常に安定しているのが定年帰農のやり方であると思う。反対に、若い人 たちは自己資金が少なくて、その割には営農費用を多く投資して農業に参入しようとする。そのた め、 50 歳以上の新規就農者と若い新規就農者では、 同じ就農支援では対応できないだろうと考えて、 今回は若い新規就農者を対象とした。 2.新規参入の課題の整理 新規参入者の参入障壁について、京都大学の稲本先生が、1992 年に農家後継者との比較を行うこ とで参入課題を摘出している。5 つ挙げており、ひとつが農地取得の制度上の制約、2 つ目が技術の 習得期間の長さ、やはり技術を習得するまでに時間がかかるであろうということ。3 つ目が一定の 農業所得を得るまでに長期間必要であるということ。4 つ目が資金調達の難しさ。5 つ目が農村社会 への参入と信用基盤の形成、やはり基盤がない、支援がないので参入に長期間を要するということ である。 こういった参入障壁に対して、これまでの支援政策は、経営を開始するまでの参入障壁の解消で あった。 「技術の習得」 、 「資金の確保」 、 「農地・住宅の確保」 、この 3 つが参入障壁として主に挙が ってきたものであり、これをいかに解決するかについてこれまでの新規参入者の支援政策として主 に行われていた。新規就農準備校等の整備または農業法人での研修環境の整備などによって技術を 習得してもらおうということである。資金面に関しては、就農支援資金等の無利子融資制度を準備 し、保証人の問題等についても対応してきたところである。 これらのポイントとしては、参入希望者にとっては経営開始までの参入障壁は減少傾向にあるだ ろうということ。しかし、もう一方で、参入後の経営定着までを視野に入れると、対策としてはま だ不十分である。 3 参入後の国内の支援施策は、平成 19 年度食料・農業・農村白書に、定着段階における支援は「技 術・知識の習得度に応じたきめ細かな技術・営農指導にかかる普及活動を実施した」という記載が ある程度である。もちろん普及活動は大事であるが、経営定着(確立)に向けた特別な支援施策は、 今回青年就農給付金が出されるまではなかったのだろうと思う。 経営定着に向けた課題を考える視点とは、新規参入を起業経営の一形態と捉えて、起業経営問題 と農業独自の問題を分けて考えることが必要になってくると考えている。 具体的に、私は以下の3つの問題に整理している。ひとつは起業経営に付随する課題、起業経営 問題である。2 つ目が農業生産に付随する課題ということで農業経営問題、3 つ目が家族経営に付随 する課題ということで家族経営問題、で見ていくのがいいのではと思う。 4 高橋先生によると、起業活動というのは事業機会の認識、供給システムをどう構築するか、どう 利益を上げるか、利益の源泉をどこに求めるかというビジネスモデルをどのように確立するかとい うところにある。そして、経営資源をどう調達するかというところがひとつの問題である。資金の 確保、人材の確保、販売先の確保ということになる。起業経営の代表的な課題は、創業初期のマー ケティング、人材の確保、資金調達などである。こういったことは、どの農業の新規参入者もほぼ 同様の課題を抱えている。農協に出すか、自分で売っていくか、消費者に何と言って売るか、マー ケティングの他にも、人材の確保や資金調達について同様の課題となっている。 特に、参入費用、資金調達に関しては、農業では最低 400 万円、できれば 1,000 万円以上が必要 というのが常識的な範囲だと思う。他産業の開業費用というのは、500 万円未満が 38%、1,000 万 円未満が 66%であり、他産業でもこれだけの開業費用が必要であるということである。このような 開業費用の大きさから見ても、他産業の起業経営とほぼ同等の水準が農業にもかかるということか ら、起業経営の問題として考える必要がある。 さらに、農業生産に付随する課題である。やはり起業経営だけでは捉えられないものがあり、例 えば優良な農地を貸してもらうには、やはり地域の信頼関係や、普及センター、農業委員会など関 係機関の役割、協力などが必要である。ここは長期間の信用基盤の形成が必要であると思う。今の 農外参入が失敗しているのも、この優良農地の確保に失敗しているところに要因がある。農業生産 に付随する課題では、農地の確保に大きな課題がある。 次に、地域条件、気象条件に合った農業技術、知識の獲得がある。この地域の気象条件、夏はど のくらいの暑さになるのか、どのくらいの雨が降るのかなどは地域によって違うので、それらにつ いてどのように知識を得るかは、普通の一般起業とはまた違った農業生産の課題になってくるだろ うと思われる。 3 つめが、集落社会への適応、対応である。集落の行事に参加する、いろいろな自治会に参加す るなど、農村生活問題と密接に関連している。農業生産課題には集落社会への適応、対応をどうす るか、生活と仕事が密接している農業であるからこそ発生する問題がある。 5 3 つめは家族経営に基づく課題である。家族経営は農業に適合的だと言われている。農作業がピ ークの時には夜遅くまで行い、また、朝早くても手伝ってくれるのはやはり家族労働者である。家 族経営は労働、供給、調達の柔軟性等で多くのメリットがあると言われている。ただ、新規参入者 の場合、なかなか家族の協力が得られないという方が多い。新規参入者は単身、核家族世帯での参 入という、ほぼ夫婦 2 人、小さい子ども、あるいは独身がほとんどである。親族の協力がまったく 得られない場合が非常に多い。夫婦二人だけの家族経営は、非常にライフサイクルに影響を受けや すい。特に、新規参入者で問題になるのは若年層の場合である。30 代、40 代の場合、配偶者が出産・ 育児の期間に入ることがよくある。そうすると労働供給ができなくなり、旦那さんひとりで農業を 始めることになる。農業をひとりで行うのは基本的に無理なので、雇用を入れることになる。雇用 を入れると毎月の経費がかかり、まったく家族経営の利点が生かされないことが問題となってくる。 また、家族と経営の未分離、経営の長期的視点の欠如もある。特に、家族経営と農業生産に付随す る課題は、非常に親和性があり、対応が容易なのだが、家族経営と起業経営の間では非常にギャッ プがある。それを家族経営でどう対応するかというところに大きな問題がある。 経営定着の課題は、この 3 つの非常に難しい問題をはらんでいる。 6 全国新規就農相談センターが行った「新規参入者の年齢別自己資金額、家族農業従事者数、農産 物販売金額」のアンケート結果を見ると、新規参入者の自己資金は 800 万程度必要で、50∼59 歳層 では 1000 万円を超えている。自己資金額も起業経営と同じ程度必要となるところに農業に対する参 入障壁がある。 さらに注目していただきたいのは家族従事者数である。30 代で就農した方、40 代で就農した方、 50 代で就農した方、60 代で就農した方、すべて平均 1.4 人である。例えば農家子弟である新規学卒 者の家族農業従事者数は 3.3 人である。新規参入者にとって労働力確保の面では非常に柔軟性が低 く、ネックとなっている。家族経営は、そのあたりに難しい問題をはらんでいる。 このデータは、参入者の年齢別の農産物販売金額である。農業所得で生計が成り立った年次の農 産物販売額は平均 1,100 万円前後、30∼40 歳代は 1,200 万円近い金額が必要となってくる。農業所 得で成り立っている割合は全体で 28%であるが、若い人は高い。反対に、中高年者になるほど農業 所得で生計が成り立っている割合は低く、兼業や年金で成り立っていることが多い。青年就農者を 含めて農業でいかに経営定着させるかに大きな課題がある。 7