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「地理院地図」の 3 つのオープン施策
Three Open Policies of GSI Maps
地理空間情報部 出口智恵・伊藤裕之
Geospatial Information Department Chie DEGUCHI and Hiroyuki ITO
要 旨
国土地理院では,国の基盤となる地理空間情報を
整備し,それらをウェブ地図「地理院地図」を通じ
て発信している.本稿では,
「地理院地図」のこれま
での変遷を振り返るとともに,地理院地図から提供
しているウェブ地図のデータ「地理院タイル」の活
用推進を目的とした 3 つのオープン施策(オープン
データ施策,オープンソース施策,オープンイノベ
ーション施策)について,最近の取組事例を織り交
ぜながら紹介する.
1. 国土地理院のウェブ地図の変遷
近年,インターネットによる地図配信技術の進歩
やスマートフォンなどのモバイル端末の登場により,
地図をより身近に感じられるようになってきた.地
図を購入して利用する時代から,ウェブ配信される
地図を様々なサービスを通して利用する時代に移っ
ている.国土地理院は平成 15 年からウェブ地図を通
じて地理空間情報の発信を行っており,そのベース
の技術も世の中のウェブ地図に関する技術動向を踏
まえながら進化してきた(表-1).
表-1 国土地理院のウェブ地図の変遷
ウェブ地図
の名称
ベース技術
(システム)
ベース技術
(データ)
平成15年
7月
国土地理院の
独自開発
(専用プラグイン)
国土地理院の
独自仕様
(バイナリ形式の
タイルデータ)
平成17年
7月
国土地理院の
独自開発
(JavaScript)
年月
電子国土Web
システム
平成23年
12月
国土地理院の
独自仕様
(画像形式の
長方形タイルデータ)
図-1 地理院地図
オープンソース
ソフトウェア
OpenLayers
(JavaScript)
平成24年
7月
平成25年
10月
地理院地図
平成27年
1月
平成 15 年当時はウェブ地図に関する技術の黎明
期であり,世の中にこの技術が確立していなかった
ことから,専用プラグインをウェブブラウザに追加
インストールして動作するシステムを国土地理院で
一から独自開発し,運用を開始した.
しかし,専用プラグインは,ユーザの作業環境に
よってインストール困難なケースがあったため,平
成 17 年 7 月にはウェブブラウザに実装されているプ
ログラム言語 JavaScript をベースとしたシステムを
独自開発した.これにより,ウェブブラウザへの特
別なプラグインの追加インストールが不要になった.
その後,いくつかのウェブ地図用のオープンソー
スソフトウェアが世の中に登場し,平成 23 年 12 月
にそれらの中から JavaScript ベースのウェブ地図用
の オ ー プ ン ソ ー ス ソ フ ト ウ ェ ア 「 OpenLayers 」
(http://openlayers.org/)を採用し,新たなウェブ地
図を公開した.
平成 27 年 1 月には,表示がより軽快な JavaScript
ベースのウェブ地図用のオープンソースソフトウェ
ア「Leaflet」
(http://leafletjs.com/)を採用するととも
に,デスクトップ PC とスマートフォンなどのモバ
イル端末の双方での利用を視野に入れたインタフェ
ースに改良し,現在に至っている(図-1).
オープンソース
ソフトウェア
Leaflet
(JavaScript)
国土地理院の
独自仕様
(画像形式の
正方形タイルデータ)
XYZ方式
(画像形式のタイル
データ)
(http://maps.gsi.go.jp/)
国土地理院のウェブ地図のデータは,
平成 15 年よ
り現在に至るまで,ウェブ配信用にタイル状に分割
されたデータ「タイルデータ」であるが,分割規則
やデータの命名規則などの仕様は,継続的に検討を
重ね,見直してきた.
平成 15 年 7 月に独自開発した専用プラグイン用の
バイナリ形式のタイルデータ(独自仕様)からスタ
ートし,平成 17 年 7 月からは,特別なプラグインの
追加インストールの無いウェブブラウザで扱えるよ
う,画像形式のタイルデータ(ファイル命名規則や
ファイル区画は独自仕様)を採用した.その後,一
般的で多くのウェブ地図 API が対応しているいわゆ
る XYZ 方式を平成 25 年 10 月に採用し,
「地理院タ
イル」として配信しているところである(図-2)
.
る試み「ベクトルタイル提供実験」を平成 26 年 8
月から実施している.現在提供している地理院タイ
ルは画像形式のタイルデータであるため,利用者が
道路の線を太くしたり,鉄道の色を変えることはで
きない.しかし,機械判読可能な形式であるベクト
ル形式のタイルデータ「ベクトルタイル」で提供す
ることにより,利用者側で自由な地図表現や立体地
図作成などへの応用が可能になり,地理空間情報を
高度に活用した多様なサービスの創出が期待される
(図-4).
従来(画像形式の提供)
画像形式なので、地図として
利用は容易だが
内容の機械判読は不可能
ベクトルタイルの提供
図-2 地理院タイルのデータ形式
2. ウェブ地図のデータの活用推進
2.1 オープンデータ施策
地理院タイルは国土地理院コンテンツ利用規約
( http://www.gsi.go.jp/kikakuchousei/kikakuchousei401
82.html)に基づき,誰でも利用可能であり,国の機
関,地方自治体,民間のシステム・サービスなど,
様々な場面で利用が広がっているところである(図
-3).
地形図
写真
標高
地形分類
災害情報
地理院タイルを
他のシステムやサービス
などで利用いただけるよう
ウェブ配信
国の機関、地方自治体、民間のシステム・サービスで利用
図-3 地理院タイルの提供
また,国土地理院研究開発基本計画(平成 26 年 4
月策定)に基づき,国土地理院の地理空間情報を高
度活用可能(機械判読可能)な形式でウェブ配信す
多様なサービス創出を支援
・機械判読可能な形式
・例えば、道路データに
道路の種別(国道、都道府県道等)、
道路の幅員などの情報を持たせる
ことができる。
・表現方法をユーザ側が設定する
ことも可能
(例)自由な地図表現
(例)立体地図作成
図-4 ベクトルタイルの提供
現在,地図の注記,道路中心線,河川中心線,鉄
道中心線,地形分類など様々な地理空間情報を,従
来の地理院タイルと同じ XYZ 方式によるベクトル
タイル(GeoJSON ファイル形式のタイルデータ)で
提供している.GeoJSON ファイル形式は,シェープ
ファイル形式といった複数のファイルで構成される
ベクトルデータや,GML ファイル形式,KML ファ
イル形式といった XML 形式のベクトルデータに比
べ,仕様がシンプルな JSON 形式(JavaScript Object
Notation)のため,JavaScript を用いたウェブアプリ
ケーションで扱いやすいという特徴がある.ベクト
ルタイルの仕様やベクトルタイルをウェブ地図で利
用するためのサンプルコードなどをオープンにして,
多様なサービスの創出を支援している.
ベクトルタイルの活用事例を提示するものとして,
国土地理院では,平成 27 年 9 月関東・東北豪雨や平
成 28 年(2016 年)熊本地震において,被災状況の
情報提供のため,被災前後の写真を比較できるサイ
トを作成・公開した.その際に写真上に地図の注記
のベクトルタイルを載せることで場所をわかりやす
く伝える,といった工夫を行った(図-5,オン/オフ
機能により,注記を消すことも可能)
.また,地形分
類のベクトルタイルを利用し,地理院地図で身の回
りの土地の成り立ちと自然災害リスクをワンクリッ
クで表示できるようにした(図-6).
例えば,
地理院地図の実装方法は,
「システム本体」
と地理院地図に収録するレイヤを JSON 形式で記述
した「レイヤメタデータ」
(図-8)で構成される.シ
ステム本体は既述のとおり「Leaflet」をベースに採
用し,ユーザインタフェースや各種機能などの拡張
を実施している.
図-5 被災前後の写真を比較できるサイト
(写真上に地図の注記ベクトルタイルを載せる
ことで場所をわかりやすく表示)
凹地 ・浅い谷
出典等
土地 の成り立ち 台地・段丘などに細水流や地下水の働き
によってできた低いところ。
こ の 地形の自然災害リスク 一般に地盤は安定しているが、
豪雨の際に集水域となるため浸水するリスクもある。
図-8 地理院地図のレイヤメタデータ
上記はこの地形分類自体の一般的な潜在的自然災害リスクを示し
たものであり、個別の場所のリスクを示しているものではありません。
また,地理院地図に収録している各種レイヤを箱
庭的に 3D 表示にする機能(図-9)は,JavaScript ベ
ー ス の オ ー プ ン ソ ー ス ソ フ ト ウ ェ ア 「 three.js 」
(http://threejs.org/)をベースに採用している.
クリック
図-6 地形分類のベクトルタイル
(身の回りの土地の成り立ちと自然災害リスクを
ワンクリックで表示)
2.2 オープンソース施策
地理院地図は,オープンソースを用いて開発する
とともに,地理院地図のソースプログラム自体も,
オープンソースとして提供している(図-7)
.
地理院地図
地理院タイル
地形図
写真
標高
地形分類
災害情報
システム本体
レイヤメタデータ
図-9 地理院地図の 3D 機能
配信
オープンソース
として提供
図-7 地理院地図のオープンソース施策
平成 28 年 3 月に試験公開を開始した「地理院地図
Globe」は,シームレスに 3D 表示ができる(図-10)
.
JavaScript ベースのウェブ地図用のオープンソース
ソフトウェア「Cesium」(https://cesiumjs.org/)をベ
ースに採用している.
の利用」などの技術的試行を報告いただいている(図
-12).
受託
開発者
ツール
提供者
情報共有・意見交換のため
会議を実施(年2回)
国土地理院
具体的な活用を
カタログ化した
「地理院地図
パートナーリスト」
発注者
・
エンド
ユーザ
図-11 地理院地図パートナーネットワーク
図-10 地理院地図 Globe(試験公開)
CIMでの利用(土木設計プロセスでの利用)
地理院地図に関するこれらのソース及び実装方法
は,技術者向けの SNS である GitHub のサービスを
利用し,国土地理院情報普及課 GitHub アカウントの
ページ(https://github.com/gsi-cyberjapan/)から入手
できるようにしており,様々な技術者が,地理院地
図の実装方法を参考にして,地理院タイルを活用で
きるようにしている.
2.3 オープンイノベーション施策
さらに,様々な分野におけるイノベーティブな成
果創出を支援するための施策「オープンイノベーシ
ョン施策」として,平成 26 年度より「地理院地図パ
ートナーネットワーク」に取り組んでいる.
これは,地理院タイルの活用力を持つ外部技術者
(受託開発者,ツール提供者)をパートナーとし,
地理空間情報活用のオープンイノベーションを目指
す情報共有・意見交換の場であり,平成 28 年 5 月末
時点で,93 の受託開発者と 65 のツール提供者がパ
ー ト ナ ー と し て 登 録 さ れ て い る
(http://maps.gsi.go.jp/pn/).パートナーの地理院地図
/地理院タイルに関連する取組をとりまとめてカタ
ログ化した「地理院地図パートナーリスト」を公開
したり,年 2 回会議を開催し,国土地理院からの地
理院地図に関する情報提供のほか,パートナーから
地理院タイルの利用事例を紹介いただくなど,情報
共有・意見交換を図っているところである(図-11)
.
例えば,既述の「ベクトルタイル提供実験」に関
し , パ ー ト ナ ー で あ る 外 部 技 術 者 か ら は 「 CIM
(Construction Information Modeling)での利用(土木
設計プロセスでの利用)」や「経路探索や建物検出で
経路探索や建物検出での利用
図-12 パートナーによる利用事例紹介
(第 4 回地理院地図パートナーネットワーク
会議資料 http://maps.gsi.go.jp/pn/ より)
3. まとめ
国土地理院は,
「地理院地図」の運用と「地理院タ
イル」の提供を通じて, 3 つのオープン施策に取り
組んでいるところである.目指すものは,地理空間
情報活用のオープンイノベーションであり,様々な
分野におけるイノベーティブな成果の創出を引き続
き支援していきたい.
(公開日:平成 28 年 7 月 21 日)
参 考 文 献
北村京子,小島脩平,打上真一,神田洋史,藤村英範(2014):地理院地図の公開,国土地理院時報,125,
53-57.
髙桑紀之,大木章一,藤村英範,岡安里津,佐藤壮紀(2014)
:地理院地図 3D の公開,国土地理院時報,125,
99-103.
志田忠広,西城祐輝,村岡清隆,安藤暁史,伊藤裕之(2008)
:電子国土 Web システム API リファレンス
(Ver1.0)
,国土地理院時報,115,93-122.
大野裕幸(2007)
:非 ActiveX 型電子国土 Web システムの構築,国土地理院時報,112,89-96.
大野裕幸, 明野和彦, 久松文男, 石関隆幸(2004):電子国土 Web システム,国土地理院時報,104,25-33.
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