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第 3 期(発症後数年以降)
その他の脈管疾患/ 1.閉塞性動脈硬化症 173 その他の脈管疾患 other vascular disease 1.閉塞性動脈硬化症 arteriosclerosis obliterans;ASO 概念 じゅくじょう 四肢の主幹動脈などに粥状硬化を生じ,慢性的に動脈硬化性 の狭窄や閉塞をきたす疾患である.本書では下肢 ASO につい て取り上げる.下肢の虚血を呈して皮膚蒼白や感覚異常,疼痛, 壊疽などをきたす.基礎疾患として糖尿病や高血圧,脂質異常 症,肥満などを有することが多い. 11 症状 60 歳以上の男性に好発する.下肢動脈の虚血による各種症 フォンテイン 状が出現する.日本では Fontaine 分類が用いられる. ① Fontaine 1 度:四肢末端の一過性の冷感,しびれ.チアノ ーゼや皮膚蒼白,Raynaud 現象もみられる. ② Fontaine 2 度:間欠性跛行(p.166 参照) . ③ Fontaine 3 度:安静時疼痛.足趾に激痛を伴う潰瘍を形成 しやすくなる. ④ Fontaine 4 度:潰瘍,壊死.下肢切断を余儀なくされるこ ともある. 診断・鑑別診断 足関節と上腕の収縮期血圧比(ankle brachial pressure index; ABPI)が最も簡便で有用な検査である.0.9 以下で本症を疑う. 鑑別診断としては Buerger 病(表 11.3)や,間欠性跛行をきた す腰部脊柱管狭窄症があげられる. 治療 軽症(Fontaine 1,2 度)では,抗血小板薬や血管拡張薬,運 動療法などが主体となる.重症下肢虚血例では血管内治療(ス テントなど)や外科的再建が行われる. 2.糖尿病性壊疽 diabetic gangrene 微小血管障害や動脈硬化症を背景として足趾や足底,手指に 疼痛の強い潰瘍を生じる.17 章 p.311 を参照. 174 11 章 血管炎・紫斑・その他の脈管疾患 レイノー 3.Raynaud 現象,Raynaud 病 Raynaud’ s phenomenon,Raynaud’ s disease 定義 突然指趾が蒼白化し,数分後に紫藍色(チアノーゼ)となり, びまん性潮紅を経て正常皮膚色に戻るという一連の現象をい う.全経過は数分から数十分である.基礎疾患なく発症するこ ともあるが,膠原病などの基礎疾患に伴って出現するものが多 い. 前 者 を 一 次 性 Raynaud 現 象(primary Raynaud’ s phenomenon)ないし Raynaud 病,後者を二次性 Raynaud 現象(secondary Raynaud’ s phenomenon)ないし Raynaud 症候群と呼ぶ. 症状 11 一次性 Raynaud 現象は若年女性にみられ,一般的に軽症で ある.全身が冷却されるような状況(冬季や冷所作業など)や 精神的緊張を契機に生じやすい.冷感,疼痛,しびれ感,浮腫 感などの症状を伴い,指趾が蒼白となる(図 11.20) .チアノ ーゼを経て,回復期にはびまん性潮紅と灼熱感がある.チアノ ーゼや潮紅を欠き 2 相性や 1 相性になる場合もある.二次性 Raynaud 現象では症状が強く,指端の潰瘍を形成することもあ 図 11.20 Raynaud 現象(Raynaud’s phenomenon) る. 病因 二次性 Raynaud 現象を生じうるものを表 11.6 に示す.Raynaud 現象は種々の原因による血流障害とそれに対する反応性 変化である.蒼白化は,動脈の攣縮による虚血状態を示し,チ アノーゼはうっ血状態を反映する.びまん性潮紅は反応性の充 血状態を示す. 表 11.6 Raynaud 現象の原因 その他の脈管疾患/ 4.慢性静脈不全 175 検査・診断 基礎疾患の有無を検査する.サーモグラフィーで通常時の皮 膚温の低下や,寒冷刺激からの回復の遅延を観察する.寒冷刺 激試験 (4℃の水に 1 分間手をつける) で誘発されることもある. 若年女性で基礎疾患が見つからず,2 年間経過すれば一次性 Raynaud 現象とみなして差し支えない. 治療 発作の原因となる要素を除去し保温する.プロスタグランジ ン製剤などの投与を行う.禁煙が効果的である. 4.慢性静脈不全 chronic venous insufficiency;CVI 同義語:静脈不全症(venous insufficiency) ,うっ滞性症候群 11 (venous stasis syndrome) 定義・症状 下肢静脈瘤(varicose veins,図 11.21)を基礎として,さま ざまな症状を呈するものをいう. 中年女性や高齢男性に好発し, 肥満や立ち仕事の多い者に生じやすい.下肢浅在静脈がホース 状,結節状に拡張して蛇行する.側副血行路により網目状の静 脈拡張をみることもある.進行すると下肢倦怠感,腫脹,疼痛, 色素沈着,うっ滞性皮膚炎(7 章 p.117 参照) ,皮膚硬化〔硬化 図 11.21 下腿静脈瘤(varicose veins) 静脈弁不全により下肢浅在静脈がホース状,結節状, 囊状に拡張して蛇行する. 性脂肪織炎(sclerosing panniculitis) 〕を経て,難治性潰瘍を形 成する(図 11.22). 病因 下肢静脈瘤は,長期立位などで浅在静脈や穿通枝に弁不全を 生じた一次性,深部静脈血栓に伴う圧上昇や,血栓性静脈炎後 の弁破壊,妊娠時の循環量増加などによる二次性,および クリッペル トレノニー ウェーバー Klippel-Trenaunay-Weber 症候群(20 章 p.379 参照)などによる 先天性に分類される.これらの機序により大伏在静脈や小伏在 静脈の内圧上昇や還流障害を生じる. 治療 長時間の歩行や起立を避け,下肢の挙上や弾性ストッキング 着用を行う.静脈不全症の皮膚症状に対しては対症的に抗ヒス タミン薬やステロイド外用薬などを用いる.レーザーやラジオ 波を用いた血管内治療,硬化療法,静脈抜去術,静脈高位結紮 術も考慮する. 図 11.22 慢性静脈不全(chronic venous insufficiency) 176 11 章 血管炎・紫斑・その他の脈管疾患 5.リベド,皮斑 livedo 真皮および皮下脂肪組織境界部において,静脈網の緊張低下 と動脈網の緊張亢進状態が生じることで生じる赤紫色〜暗赤色 の網状斑を認める状態を総称してリベドという.リベドを生じ る状態はさまざまである(図 11.23).大きく以下の 3 種に分 類される. ①大理石様皮膚(cutis marmorata) :基礎疾患のない小児や若 年女性の下腿に,淡紅色で環の閉じた網目状の紅斑としてみら れる.一過性で自覚症状なく出現し,寒冷時に増強し,温める ことによって消失する.交感神経の関与が考えられている. ②分枝状皮斑(livedo racemosa) :四肢に樹枝状で,環の閉 じていない紫紅色持続性紅斑として出現することが多い.血管 腔の閉塞や血流障害,血管壁の障害などをきたすさまざまな原 11 因が考えられる(表 11.7) . ③先天性血管拡張性大理石様皮斑(cutis marmorata telangiectatica congenita) :20 章 p.383 参照. 図 11.23 リベド(livedo) 6.リベド血管症 livedo vasculopathy 同義語:リベド血管炎(livedo vasculitis) ,livedo reticularis with summer/winter ulcerations, livedoid vasculopathy 下肢を中心に疼痛を伴うリベドや紫斑を生じ,潰瘍を伴う原 因不明の疾患である(図 11.24).潰瘍の治癒後には白色の萎 縮性瘢痕〔白色萎縮(atrophie blanche)〕を生じる.全身症状 を認めない.季節により増悪軽快をみることもある.病理組織 a b a c b d c e d f e g f j j l n m o n p o k k m l h g i h i 学的に血管炎はなく,真皮血管の血栓形成をみる.抗リン脂質 表 11.7 リベドを生じる状態 b c d e f g h i 図 11.24 リベド血管症(livedo vasculopathy) a:足背のリベド.b:下腿にリベドを伴う潰瘍を認 める.c:下腿に深い潰瘍を生じている.白色萎縮 (atrophie blanche)を伴う(矢印). j k l m n o p p その他の脈管疾患/ 9.リンパ浮腫 177 抗体症候群やクリオグロブリン血症などと鑑別する.末梢血管 拡張薬やステロイド内服・外用などが行われるが治療抵抗性で 火だこ,温熱性紅斑 (erythema ab igne) ある. 7.肢端紅痛症 erythromelalgia 同義語:皮膚紅痛症,先端紅痛症 四肢末端とくに両足底に生じ,発作性の灼熱感,潮紅,皮膚 温上昇を 3 徴とする,原因不明の疾患である.運動や入浴によ って発作を生じやすい.常に冷却するため二次的に潰瘍を形成 することもある.真性多血症や本態性血小板血症,膠原病など を背景に生じることがある.有効な治療法は確立されていない が,血小板増多が背景にある症例ではアスピリンが有効なこと がある. 8.リンパ管炎 lymphangitis リンパ管に炎症をきたしたものである.レンサ球菌によるも のが多い.その原因としては蜂窩織炎,足白癬や悪性腫瘍浸潤 (乳癌など),寄生虫(リンパ系フィラリア症など.28 章 p.543 参照)があげられる.初発の病変部位から中枢側に向かって疼 痛を伴う線状の発赤を認め,圧痛を伴う軟らかい索状物を触れ る.所属リンパ節の腫大を認める.高熱,悪寒戦慄,食欲不振 などの全身症状を伴う.速やかな抗菌薬の全身投与が必要であ る. 9.リンパ浮腫 lymphedema リンパ管の機能不全により局所的に組織液の貯留をきたした もの.先天性(リンパ管形成不全など)と後天性(悪性腫瘍, リンパ節郭清術後,リンパ系フィラリア症など)がある.主に 下肢に,常色で自覚症状のない軟らかい浮腫を生じる.慢性化 すると線維化や硬化をきたし,表皮の乳頭状肥厚を認めること もある〔象皮症(elephantiasis nostras verrucosa) ,図 11.25〕 .脈 スチュワート トレーヴス 管肉腫を生じることもある(Stewart-Treves 症候群,22 章 p.440 参照) . 11 178 11 章 血管炎・紫斑・その他の脈管疾患 10.毛細血管拡張性(小脳)失調症 ataxia-telangiectasia;AT ルイ・バール 同義語:Louis Bar 症候群 ● 常染色体劣性遺伝疾患で DNA 修復機構の異常が関与. ● 小脳性運動失調,毛細血管拡張,易感染性の 3 主徴. ● 原発性免疫不全症候群の一型. 症状 眼球結膜の毛細血管拡張が 3 〜 6 歳頃から認められ,引き続 いて皮膚に毛細血管拡張が出現する.耳や頬部から始まり,次 11 a b c d e f g p j l m n o k h i 第に四肢へ拡大する.思春期以降では多形皮膚萎縮や硬化をき たし早老症様になる.運動失調は歩行開始時頃には明らかとな る.免疫不全により,とくに呼吸器,副鼻腔感染を繰り返す. 成長に伴い皮膚を含めた種々の悪性腫瘍を生じる. 病因 常染色体劣性遺伝.11 番染色体の ATM (ataxia-telangiectasia mutated)遺伝子の変異による.DNA 修復や細胞周期の制御に a b c d e f g h 関与し,変異により T 細胞や B 細胞の遺伝子再構成が阻害さ i j k l m n れ免疫不全となり,易発癌性を生じる. o p 図 11.25 リンパ浮腫(lymphedema) a:続発性に生じた下肢の著明な腫脹.b:皮膚表面 に疣状の変化が起こり,象皮のようである. 検査所見 末梢血リンパ球(とくに T 細胞)の減少,血清 IgA,IgE, IgG2,IgG4 の低下,血清 a フェトプロテイン値の上昇がみら れる.頭部 CT および MRI では小脳虫部の萎縮をみる. 診断・治療 臨床症状と検査所見によって行う.ATM 遺伝子の解析によ る診断も可能である.治療は対症療法が中心となる.