Comments
Description
Transcript
小林・益川 理論
小林・益川 理論 1 小林先生、益川先生、ノーベル物理学賞ご受賞 おめでとうございます。 2 小林・益川 論文 タイトル: くりこみ可能な弱い相互作用の理論における CP 対称性の破れ 要旨: くりこみ可能な弱い相互作用の理論の枠組みで、CP 対称性の破れの問題を 研究する。クォークを4つしか含まないスキームでは、何らかの新粒子を導 入しないかぎり、CP 対称性の破れを説明する現実的な模型が存在しないこ とが結論される。いくつかの可能な CP 対称性の破れの模型を議論する。 3 くりこみ可能な電弱統一模型+ CP 対称性の破れ ⇓ 第3世代のクォーク (トップクォークとボトムクォーク) を予言!! 4 1. クォーク・レプトンとは? クォーク: 強い相互作用をする「色 荷」をもち、束縛状態となって、中 性子や陽子、さらには原子核を構 成する素粒子。(社交的でいつも何 人かで群れたがる素粒子) レプトン: 強い相互作用をする 「色荷」をもたず、単独で存在す る素粒子。電子やニュートリノな ど。(孤独ずきで一匹狼な素粒子) 5 南部先生の解説書のタイトルにもなっている。この本は必読! ! 6 クォークとレプトンに関する現在の知識 3 世代のクォークとレプトン: μ, τ , c, s, t, b は崩壊する不安定粒子 7 小林・益川論文時 (1972 年) の多くの素粒子研究者の理解 1.5 世代分のクォークと 2 世代分のレプトン。チャームクォークの存 在は理論的に予言されていたが、多くの研究者は信用していなかっ た。クォークについても信用しない研究者が多数だった。 8 一方、1972 年当時、小林先生と益川先生の目には、 2 世代分のクォークと 2 世代分のレプトンが見えていた。 9 小林・益川論文の結論: くりこみ可能なワインバーグ・サラムの電弱統一模型で CP 対称性の 破れを説明するには、クォーク 4 つ(2世代)では不十分。 小林・益川論文の予言: 6つのクォーク(3 世代分)が存在するはず 10 小林・益川論文 (1972 年) 以降に発見された素粒子 1974 年: チャーム (c) クォークの発見 (Richter, Ting) 1976 年ノーベル賞受賞 1976 年: タウ (τ ) レプトンの発見 (Perl) 1995 年ノーベル賞受賞 1977 年: ボトム (b) クォークの発見 (Lederman, 山内泰二ら) 1995 年: トップ (t) クォークの発見 (Fermilab CDF 実験、D0 実験) 2001 年: τ ニュートリノの観測 (丹羽(名大)ら) 11 クォークとレプトンに関する現在の知識 小林・益川の予言どおり、3世代のクォークとレプトンが確立 12 2. 小林・益川論文 (1972 年) ごろまでの素粒子研究の流れ 1956 年: 坂田模型(名大): クォーク模型につながる模型 1961 年: 対称性の自発的破れの概念の導入(南部、2008 年ノーベル賞) 1962 年: ニュートリノ混合の理論(牧、中川、坂田) 1964 年: ゲルマンとツヴァイクによる「クォーク」の導入 アップ (u)、ダウン (d)、ストレンジ (s) クォーク 1964 年: クォーク・レプトン対応に基づいてチャームクォーク存在の可能 性が示唆される(牧(名大)ら) 1964 年: ヒッグス機構の発見(Higgs, Englert, Brout) 1964 年: K 中間子崩壊での CP 対称性の破れの発見(Cronin, Fitch, 1980 年ノーベル賞) 1967 年: 南部らによる色荷の概念の導入 1967 年: ワインバーグとサラムによる電弱相互作用の統一理論(1979 年 ノーベル賞) 13 1969 年: 電子・陽子 深非弾性散乱実験で、陽子のなかに「つぶつぶ」 (クォーク)が存在することが検証される(フリードマン、ケン ドール、テイラー、1990 年ノーベル賞) 1970 年: ワインバーグ・サラムの電弱統一模型の枠組みでのチャーム (c) クォークの理論的必要性が、グラショウ、イリオポウロス、マイ アニによって示される。 1971 年: 宇宙線中にチャームクォークを含むと思われる新粒子を発見(丹 生(名大)ら) 1972 年: ワインバーグ・サラムの電弱統一模型のくりこみ可能性の証明 (トフーフト、ヴェルトマン、1999 年ノーベル賞) 1972 年: クォーク間の強い相互作用を記述する量子色力学 (QCD) の初期 の提案(フリッチ、ゲルマン) 14 • 1972 年までに、素粒子標準模型 (ワインバーグ・サラム模型+量 子色力学)の骨格は出来上がりつつあった。これを信じれば チャーム (c) クォークの存在は必然。 • ただし、この時点では、小林先生、益川先生を除く、圧倒的多数 の研究者はまだ標準模型を信用していない。 • 標準模型を信じたとき、未解明の謎は、CP 対称性の破れに絞ら れる(小林・益川理論による第3世代クォークの導入によって 解決) 小林先生と益川先生は、状況を正しく認識し、正しい問題を解こうと していた! 15 キーワード:くりこみ可能な理論とは? 有限個の入力パラメータがあれば、必要に応じて必要な精度であらゆ る物理量を計算することができるような理論。 電弱統一理論のくり こ み( ト フ ー フ ト ら ) 量 子 電 磁 気 学 の く り こ み( 朝 永 ら ) 16 キーワード: CP 対称性の破れとは? CP 対称性: 粒子と反粒子は電荷の符号を除いて同じ性質を持つ。 電子 (e− ): 電荷 −1 質量 me− = 0.511MeV 陽電子 (e+ ): 電荷 +1 質量 me+ = 0.511MeV 陽子 (p): 電荷 +1 質量 mp = 938.27MeV 反陽子 (p̄): 電荷 −1 質量 mp̄ = 938.27MeV じつは、場の量子論では me− = me+ , mp = mp̄ , は、いつでも厳密に成り立っていることが知られている。 CP 対称性が破れることができるのはもう少し複雑な場合。 17 (1) CP 対称性の破れの例: • K 中間子崩壊での CP の破れ – CP 対称性で禁止された崩壊過程: KL → ππ が Cronin らにより発見される (1964 年)。 – KL のセミレプトニック崩壊 Γ(KL → + νπ − ) > Γ(KL → − ν̄π + ) • B 中間子崩壊での CP の破れ (飯嶋さんのお話) 18 • CP 対称性が厳密であれば、宇宙の粒子の数と反粒子の数は同じ はず。でも、我々の宇宙はほぼ粒子だけでできている。反粒子は どこにいったのか? 19 3. 小林・益川論文 主要な結論: ヒッグス粒子(素粒子質量の起源を説明する粒子)を ひとつしか含まない、2世代クォーク模型(4クォーク模型)では、 K 中間子崩壊で測定された CP 対称性の破れを説明することができ ない。 CP 対称性の破れを説明する上で必要な模型の拡張の可能性: • ヒッグス粒子の数を増やす • クォークの世代の数を増やす (小林・益川理論) 小林・益川論文では二つの可能性を両方とも議論している! ! 20 CP 対称性を場の理論(素粒子論の基礎言語) の言葉で表すと: 大胆におおざっぱに言うと、CP 対称性は i ↔ −i としても理論が不変ということ。 虚数単位 i ; i2 = −1 虚数単位の −i も; (−i)2 = −1 数学的には i も −i も同じ性質。 21 CP の破れのエッセンスは複素位相の存在 • 2世代模型での弱い相互作用 ⎛ µ ⎝ Vud (ūL , c̄L )γ Vcd ⎞⎛ Vus ⎠⎝ Vcs ⎞ dL sL ⎠ Wµ+ 2x2ユニタリー行列に含まれる3つの複素位相は、クォーク場 uL , cL , dL , sL の位相を再定義することでなくすことができる。 CP 対称性は破れない。 • 3世代模型での弱い相互作用 ⎛ Vud Vus ⎜ µ⎜ (ūL , c̄L , t̄L )γ ⎝ Vcd Vcs Vtd Vts Vub Vcb Vtb ⎞⎛ dL ⎞ ⎟⎜ ⎟ ⎟ ⎜ sL ⎟ Wµ+ ⎠⎝ ⎠ bL 3x3ユニタリー行列には6つの複素位相が含まれる。クォーク 場 uL , cL , tL , dL , sL , bL の位相をどう再定義してもひとつだけ 複素位相が残ってしまう。 CP 対称性が破れる。 22 小林・益川行列 (KM 行列) の複素位相 23 その後の発展 1976 年: K 中間子で測定された CP 対称性の破れが、実際に小林・益川の 3世代クォーク模型で説明可能であることの理解 (菅原ら) 1981 年: B 中間子崩壊での大きな CP の破れを予言 (三田名大名誉教 授ら) 2002 年 B ファクトリーでの小林・益川理論の精密検証 (飯嶋さん) 24 現在の小林・益川行列 1.5 lud exc excluded area has CL > 0.95 ed φ 1 L> at C 3 Δms & Δmd 0.9 sin2φ 5 1 0.5 φ εK η φ 2 2 φ φ 3 0 Δmd 1 V ub -0.5 φ 2 εK -1 φ CKM fitter Summer 2007 -1.5 -1 -0.5 sol. w/ cos2φ < 0 1 (excl. at CL > 0.95) 3 0 0.5 ρ 25 1 1.5 2 4. どのくらい小林・益川論文は先駆的な業績だったのか? 1972 年、小林・益川理論が発表される。 1975 年以前に小林・益川論文を引用した論文の数:2 1976 年、最初の第3世代素粒子である τ レプトンが発見される。 1976 年に小林・益川論文を引用した論文の数:21 現在の小林・益川論文の総被引用数: 5480 素粒子物理の業界でこれまでに2番目に多く引用されている論文。1番多く 引用されているのは ワインバーグの電弱統一理論 (総被引用数 6659)。3番 目がマルダセーナの AdS/CFT 対応 (総被引用数 4540)。 26 5. 未解明のなぞ: 小林・益川を超える • 小林・益川理論は、宇宙の粒子・反粒子非対称性を説明すること に成功していない。⇒ 小林・益川以外にも CP の破れが存在 する! ! • なぜ、3世代なのか?(世代の数は3つしかないことが確定して いる。LEP 実験) • 調節可能なパラメータが多すぎる! !⇒ 標準模型の背後には、小 林・益川行列を決定する原理が隠れているはず! ! • .. . 未解明のなぞがいっぱい! !理論屋はあらゆる可能性(超対称性、大 統一理論、フレーバー対称性、余剰次元 · · ·) を模索中。これらの実験 的検証については、次の飯嶋さん・戸本さんのトークで。 27 もっとわかりやすい説明は ホームカミングディ(10 月 18 日) 豊田講堂2階 小林・益川 展 示で! ! 28