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薬剤の母乳中への移行−3

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薬剤の母乳中への移行−3
あ じ さ い Vol. 7,No1 .1998
Jan.1998 Vol.7 No.1
☆特集
『薬剤の母乳中への移行−3』
要旨: 今回第3回目として、母乳中へ移行する薬剤(抗悪性腫瘍薬、放射性医薬品、アレル
ギー用薬、漢方、抗生物質、化学療法薬、生物学的製剤、診断用薬、麻薬、嗜好品)について調
べた結果、文献で投与禁忌となっていた薬剤は、抗悪性腫瘍薬のシクロホスファミド、メトトレ
キサート、塩酸ドキソルビシン、テクネチウム製剤、ヨード剤、放射性医薬品のクエン酸
Ga、金コロイド、放射性スズ製剤、抗ヒスタミン剤のフマル酸クレマスチン、抗リウマチ剤の
金チオリンゴ酸Na、抗菌剤のアミノ配糖体・テトラサイクリン・クロラムフェニコール、抗結核
剤のイソニアジド、サルファ剤、抗原虫剤のメトロニダゾールでした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
◎はじめに
ことが望ましい」、「○○をさけること」、
「慎重に投与すること」等のようにかなり
曖昧な表現で記載されています。又多くの文
献が出されていますが評価も様々で一概に投
与の可否について判断し難いという問題点が
あります。今回のあじさいでは今までの症例
報告、又動物実験や臨床試験でのデータ、そ
の他文献情報を横並びでみれるよう「薬剤の
母乳への移行データベース」を作成しました。
3回シリーズで特集してきました「薬剤の
母乳中への移行」も、今回で最終回となりま
した。
今回は最後に総まとめとして、添付文書の
問題点、安全な薬剤の選択基準、乳汁分泌抑
制作用を示す薬剤、授乳禁忌薬一覧表、服薬
中の授乳の方法、授乳できないときの乳汁分
泌抑制法についてまとめてみました。
又、3回分をコンピュータデータベースと
しても先生方にご提供できるように、巻末に
申し込み要項も記載しております。
1)「授乳注意」の分類方法
添付文書情報は、「妊婦・授乳婦への薬物
投与時の注意第3版」2)(以後「授乳注意」)
より抜粋しました。分類方法と記号は表1の
ようになっています。
◎母乳中へ移行する薬剤
薬剤の母乳への移行性について、添付文書
情報では使用上の注意の中に「授乳婦」とい
う項目が設けられていますが、(表1)のよ
うに12通りの表現方法で、しかも「○○する
- 8 -
あ じ さ い Vol .7 ,No 1. 1998
表1
「授乳注意」の分類方法と記号2)
添付文書における 記載(表現例 )
絶対に投与しないこと。
投与しない。投与しないこと。投与を避けること。
使用しないこと。使用を避けること。
投与しないことが望ましい。投与を避けることが望ましい。
使用しないことが望ましい。使用を避けることが望ましい。
授乳を避けること。授乳を避けさせること。
授乳を中止させること。
授乳を避けることが望ましい。
授乳を避けさせることが望ましい。
授乳を中止させることが望ましい。
治療上の有用性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与す
ること。
診断上の有益性が被曝による不利益を上まわると判断される場合に
だけ投与する。
検査の有益性が危険性を上まわると判断される場合にだけ投与する。
慎重に投与すること。慎重に投与する必要がある。
慎重に使用すること。
大量投与を避けること。
長期・頻回の使用を避けること。
大量または長期間投与しないこと。
大量または長期の使用を避けること。
長期にわたる広範囲の使用を避けること。
大量または長期にわたる広範囲の使用を避けること。
大量または広範囲にわたる長期間の投与を避けること。
長期連用を避けること。長期の使用を避けること。
略称
絶対禁
投与禁
投与禁希望
B
授乳禁
C
授乳禁希望
D
有益性投与
E
慎重投与
F
大量禁
長期・頻回禁
大量・長期禁
G
H
I
大量・長期広範囲禁
K
長期禁
L
2)記載方法
データベースの記載方法は、表2にまとめました。
表2
記載方法
1.薬効分類
2.薬品名:母乳への移行性の情報のある薬品名
一般名
代表的商品名
3.剤型
内:内服
注:注射
外:外用
4.M/P比:母乳中濃度/母体血中濃度
5.データ:文献より抜粋
hr:時間
Tmax:最高濃度到達時間
Cmax:最高濃度
T1/2:半減期
6.授乳注意:添付文書情報(記号は表1参照)
7.AAP:米国小児科学会評価
8.文献評価:文献による評価を抜粋
9.乳児に起こる症状:文献より抜粋
- 9 -
記号
AA
A
あ じ さ い Vol. 7,No1 .1998
3)目次
〈第1回目〉あじさい Vol.6,NO6.1997
中枢神経作用薬
末梢神経作用薬
感覚器用薬
P53∼58
P58∼59
P59
〈第2回目〉あじさい Vol.6,NO7.1997
循環器系作用薬
呼吸器系作用薬
消化器系作用薬
内分泌系作用薬
泌尿生殖器系作用薬
外皮用薬
ビタミン剤
無機質製剤
血液作用薬
代謝性医薬品
P65∼69
P69∼70
P70∼71
P71∼73
P73
P73∼74
P74∼75
P75
P75
P75∼76
〈第3回目〉あじさい Vol7,NO1.1998
抗悪性腫瘍薬
放射性医薬品
テクネチウム製剤
ヨード剤
放射性医薬品
アレルギー用薬
抗ヒスタミン剤
抗リウマチ剤
抗アレルギー剤
漢方製剤
抗菌剤
ペニシリン系
アミノ配糖体
セフェム系
マクロライド系
テトラサイクリン系
その他の抗生物質
抗結核剤
抗真菌剤
サルファ剤
合成抗菌剤
抗ウイルス剤
生物学的製剤
ワクチン
その他の生物学的製剤
抗原虫剤
駆虫剤
診断用薬
造影剤
診断薬
その他の診断用薬
麻薬
嗜好品
P4
P5
P6
P6
P7
P7
P7
P7
P7
P8
P8
P9
P9
P9
P10
P10
P10
P11
P11
P12
P12
P12
P12
- 10 -
P13
P13
P13
P13
P14
あ じ さ い Vol .7 ,No 1. 1998
♪♪♪♪♪
まとめ ♪♪♪♪♪
1)抗癌剤29)
母親が悪性腫瘍である場合は授乳禁忌です。
授乳により母体自身が損なわれるし、また母
乳中に移行した抗癌剤シクロホスファミド、
メトトレキサートなどはたとえ微量であって
も乳児に細胞毒として作用する危険性があり
ます。
シクロホスファミドは有害作用として免疫
抑制、成長阻害、発癌性が関与する可能性が
あるため、AAPでは授乳禁忌としています。
2)放射性医薬品 29)
診断目的に使用されますが、授乳中は原則
として投与しません。やむを得ず使用する場
合は母乳中の放射活性の消失まで授乳を中止
125
します。その期間は、69Gaが2週間、
Iが
12日間、131Iが2∼14日間、Radioactive so
diumが96時間、99mTcO 4、および99mTc-MAAが
15時間∼3日間となっています。
放射性ヨウ素は被曝による甲状腺癌の危険
増加を含め授乳児の甲状腺に障害を起こす可
能性があるため、授乳禁忌となっています。
3)抗ヒスタミン薬
フマル酸クレマスチンにより哺乳児にうと
うと状態、易刺激性、哺乳障害、かん高い啼
泣、頸部硬直などが起こった例があるので
AAPは、授乳中の本剤の使用を禁忌としていま
す。
4)抗リウマチ剤
金は母乳中に移行し少量が乳児に吸収され
ます。授乳児に発疹、腎炎、肝炎、血液の異
常といった多くの有害作用が示唆されました
が、金が原因かどうかは、立証されていませ
ん。しかし、金投与後の母体からの排泄が長
期間にわたることと、授乳児に対し重篤な毒
性を示す可能性があることから授乳を避ける
べきです。AAPも、授乳中の金塩の使用は禁忌
としています。
5)抗アレルギー剤
オキサトミドは、動物実験において母乳移
行があります。授乳のデータはありませんが、
小児に投与した場合、眠気、下痢、食欲不振、
頭痛、肝機能障害、錘体外路症状の報告があ
るため、注意する必要があります。
6)抗菌剤5)
抗菌剤は、薬剤の特徴上授乳児の腸内細菌
叢の変化、授乳への直接作用(アレルギー反
応、感作など)発熱時の細菌培養試験での判
定妨害などに影響を与える可能性があります。
7)ペニシリン系、セフェム系
ペニシリン系、セフェム系薬剤は母乳中に
わずかに移行するにすぎず、危険性がほとん
どない薬剤とされており、文献評価で可とさ
れている薬剤も多くあります。乳児症例とし
ては、アンピシリンにおいてカンジダ症と下
痢の報告があります。
8)アミノ配糖体29)
理論上は第8脳神経障害を発症する恐れが
あります。胃腸からほとんど吸収されないの
で、母乳から乳児への影響は少ないと思われ
ます。しかし、乳児が下痢や胃腸障害を起こ
した時には吸収が増加するおそれがあるため、
禁忌とされている文献が多いようです。ゲン
タマイシンとクリンダマイシンを投与した患
者に血便の報告があります。
9)テトラサイクリン系1)5)
テトラサイクリン系薬剤は乳児に吸収され
ると歯に斑点が生ずる可能性があると思われ
ますが、母乳中ではカルシウムと結合してお
り、乳児への吸収はほとんど阻害されます。
母乳を介してテトラサイクリンを摂取した乳
児の血清中にテトラサイクリンが検出されな
かったことから(0.05μg/ml以下)、AAPは授
乳中のテトラサイクリンの使用を可としてい
ます。しかし、授乳婦に投与しない方がよい
とする説もあります。
10)その他の抗生剤29)
クリンダマイシンとゲンタマイシンの併用
により血便の報告があります。
クロラムフェニコールは生体内では大部分
がグルクロン酸抱合されて、解毒、排泄され
ますが、乳児ではこの機能が十分に発達して
おらず、体内蓄積の結果、gray症候群あるい
は骨髄抑制が発症する危険性があります。母
乳を介してクロラムフェニコールを摂取した
乳児50例では、授乳の拒否、授乳中の傾眠、
腸内のガス滞留、授乳後の激しい嘔吐が観察
されました。
AAPは授乳中の使用を可としていますが、他
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あ じ さ い Vol. 7,No1 .1998
の報告ではクロラムフェニコールは授乳婦に
は用いるべきではないとしています。
11)抗結核剤29)
開放性あるいは活動性結核は乳児に感染す
る危険性があるので、授乳禁忌です。非活動
性結核においても、イソニアジドの授乳児へ
の影響に関する報告はありませんが、イソニ
アジドの使用は母乳移行が良いので、乳児に
肝障害、造血障害、末梢神経炎などの副作用
と、動物実験において腫瘍の誘発作用が示唆
されているので注意が必要です。
12)サルファ剤29)
サルファ剤は血漿蛋白質と結合しやすく、
新生児に連用すると蛋白結合型ビリルビンか
らビリルビンを置換して遊離されます。遊離
したビリルビンは脳の蛋白質または神経核内
や髄液中に侵入して核黄疸を起こすことがあ
ります。サルファ剤は、一般にアセチル抱合
体となって代謝されますが、胎児や新生児に
はこの能力がまだ未熟です。また胎児や新生
児は遊離ビリルビンをグルクロン酸抱合体に
できないので、新生児黄疸を起こしやすく、
さらにサルファ剤はスルホヘモグロビン血症
の原因となったり、グルコース-6-リン酸脱水
素酵素(G-6-PD)欠損症の乳児に溶血性貧血
を起こすこともあります。それゆえ、サルフ
ァ剤の授乳婦への投与は避けるべきです。今
日サルファ剤の単独使用は少なくなったよう
ですが、ST合剤を使用するときも同様の注意
が必要です。
スルファピリジンで、下痢と皮疹の報告が
あります。
13)合成抗菌剤1)
ナリジクス酸では、G-6-PD欠損症の乳児で
溶血性貧血と黄疸が起こった例があり、授乳
婦への投与は注意が必要です。
ニューキノロン系抗菌剤の母乳中への移行
量は少ないですが、乳児への安全性は確立さ
れていません。又、幼若動物では関節炎を起
こすことが知られており、新生児の関節軟骨
に回復不能な障害を起こす疑いがもたれてい
るため授乳婦には注意が必要です。
14)ワクチン5)
ヒトの母乳はポリオウイルスの抗体を含ん
でいます。初乳中で最も高い力価を示すこれ
らの抗体は、野生のポリオウイルスによる感
染を予防します。またウイルスに対する免疫
性も得られます。経口ポリオウイルスワクチ
ンが新生児期の授乳児に投与された場合、こ
れらの抗体がワクチンの作用を阻害しするた
め、AAPでは生後6週間未満の新生児にはワク
チン接種を行わないことを薦めています。生
後6週間以上では経口ワクチンの効果は授乳に
よって阻害されないとされています。
弱毒性菌風疹ワクチンで免疫された授乳婦
の母乳中にウイルスが分泌され、哺乳児に移
行したことが報告されています。乳児は血清
学的に風疹感染が証明されましたが、重篤な
疾患は現れていません。しかし、軽度の風疹
が認められた例もあり、授乳婦に投与する場
合は注意すべきです。
15)抗原虫剤5)
メトロニダゾールは母乳中に移行します。
母親がメトロニダゾールを使用した授乳児に
下痢と二次的乳糖不耐性があらわれたとの報
告があります。この1例を除いて、メトロニ
ダゾールによる授乳児への有害作用の報告は
ありません。薬物との関係は不明ですが、
メトロニダゾールには種により変異原性およ
び発癌性があるため、メトロニダゾールの不
必要な使用は避けるべきです。薬剤への不必
要な被曝を避けるため、授乳婦へのトリコモ
ナス症を治療するためには、2g単回投与が薦
められます。AAPは、この量を投与したときは、
12∼24時間授乳を中止することを薦めていま
す。
16)麻薬1)5)
塩酸モルヒネは母乳中へ移行します。モル
ヒネ中毒の患者から授乳を受けていた乳児が
離乳の際、禁断症状が現れたとの報告がある
ので、中毒患者では十分注意が必要です。
リン酸コデインは、30mg使用後に徐脈を来
した報告があり、理論上は長期使用は児に便
秘・鎮静を来す可能性があります。
17)エタノール 1)
アルコール中毒の母親の場合、低プロトロ
ンビン血症、出血の促進、偽クッシング症候
群、大量飲用による乳児の傾眠、発汗、発育
障害、体重減少が報告されています。又、乳
児が深い眠りに陥り、呼吸はゆっくりでいび
きをかき、瞳孔はわずかに光に反射するのみ
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あ じ さ い Vol .7 ,No 1. 1998
で、脈拍は速く弱くなる等の、アルコール中
毒の症状を示した例も報告されています。
普通量のアルコールを時々飲んでいる母親
は授乳しても問題ないと思われますが、慢性
的にアルコールを飲んでいる母親またはアル
コール中毒患者は授乳を避けるべきです。
18)ニコチン1)
1日20本以上の喫煙癖をもつ母親が授乳し
たところ、不眠、下痢、嘔吐、頻脈、循環障
害などの症状が児に顕性化されたという報告
や、アトピー性の両親から生まれた子供が喘
鳴を経験し、家族が喫煙する子供では62%が、
喫煙しない子供では37%が喘鳴を起こしていた
という報告がある一方、乳児に直接的な影響
を与えないと言う成績も多くあります。たば
こは母乳を介して直接的に乳児へ影響を及ぼ
す可能性は低いものの、主に受動喫煙による
弊害から妊娠∼授乳期間を通じて避けること
が望ましいとされています。しかし禁煙が実
行されない産褥婦に対しては、児と同室での
喫煙を禁ずる他、母乳中ニコチン濃度が、授
乳前の喫煙本数、次回授乳と喫煙との間隔に
相関するという報告を参考にして十分な指導
を行うべきです。
◎考察
母乳を与えることによるメリットが見直さ
れて来ています。しかし、母親も薬物投与が
避けられない状態も多く、薬物を服用しなが
ら授乳したいという場合もみられます。その
ような場合の参考資料にと、今回薬物の母乳
への移行をデータベースとしてまとめました。
その過程で、日本の添付文書はほとんど参考
にならないことを痛感しました。以下に、そ
の問題点と授乳婦における薬物投与の注意点
をまとめてみました。
に少ないようです。
③薬物の授乳婦に対する投与における公的
評価の必要性を痛感しました。今回米国
小児学会の評価をAAPとして掲載しており
ますが、このような客観的な評価が日本
ではされていません。今後の添付文書に
は、公的な評価が必要だと思います。
2)授乳婦への薬物療法の必要性の再認識
実際に授乳を希望する授乳婦に投薬する場
合にはどのようなことに注意するべきかをま
とめてみました。
①授乳婦の薬物投与の必要性を再チェック
する;不必要な投薬は避ける。
②授乳婦が急性疾患の場合;注意すべき薬
剤を投与する時は、一時的に授乳を中止
し、搾乳で乳汁分泌を保持。
③授乳婦が慢性疾患の場合;長期に服用す
るので、なるべく乳児に安全な薬剤を選
択しかつ、乳児への影響を監視ながら授
乳を続ける。乳児への悪影響がある薬剤
の場合は、授乳を断念する。
④乳児が代謝異常をもつ場合;G-6PD欠損症
などの場合、薬剤を熟慮する。
3)安全な薬剤の選択基準
今までのデータベースを基に薬剤の選択に
必要な基準をまとめてみました。
①薬物動態に問題の少ないもの;
・母乳移行の少ないもの(M/P比が小さい
もの)あじさい6:6.50,1997の表1(乳汁中へ移
1)添付文書の問題点
①添付文書には授乳婦の項目がもうけられ、
以前よりは見やすくなったものの、表現
が表1(P-2参照)のようにあいまいで、
どうして授乳禁忌となったかの根拠に乏
しく、判断材料としては非常に不十分で
す。
②母乳移行における薬剤の薬物動態のデー
タが不十分です。M/P比や、母乳中濃度な
どのデータが記載されている薬剤は非常
- 13 -
行しやすい条件参照)
イオン型
分子量大(200以上)
弱酸性薬物
水溶性薬物
蛋白結合率が高いもの
・半減期の短いもの
・胎児の代謝や排泄能力により蓄積の可
能性がないもの
あじさい6:6.51,1997の表2(薬剤の半減期の成人
と新生児の比較)参照
②新薬は乳児への影響が不明の場合が多い
ので避ける;安全性が確認されたもの
(データベースの評価で「可」)を選
択。
あ じ さ い Vol. 7,No1 .1998
表3
③乳汁分泌に影響を与える薬剤は
避ける;乳汁分泌に影響を与
える
薬剤を表3にまとめまし
た。
④乳児へ悪影響のある薬剤を避け
る;抗癌剤、免疫抑制剤など
毒性
の強いもの、授乳による悪
影響の
あった症例(データベー
スの
乳児におこる症状)を参考にし
て
下さい。
4)授乳禁忌の薬剤
今回調べた結果、母乳中へ移行す
る薬剤は約800品目ほどあり、文献情
報で授乳禁忌とした薬剤は表4の34
品目で、そのうちAAPが授乳禁忌とし
たものは6品目のみでした。
表4
分類
ベンゾジアゼピン系化合物
催眠鎮静剤
抗てんかん 剤
鎮痛剤
抗パーキンソン 剤
躁病治療剤
自律神経系用剤
鎮痙剤
抗不整脈薬
H2ブロッカー
抗甲状腺剤
子宮収縮剤
殺菌消毒剤
乳汁分泌に影響を与える薬剤
分類
抗パーキンソン剤
抗精神病薬
自律神経系作用剤
鎮痙剤
一般名
分泌量
ブロモクリプチン
↓
スルピリド
↑
オキシフェンサイクリミン
↓
アトロピン
↓
ロートエキス
↓
ロート根
↓
チアジド系利尿剤
ヒドロクロロチアジド
↓
クロロチアジド
↓
レセルピン系降圧剤
レセルピン
↓
消化管運動機能調節剤 メトクロプラミド
↑
女性ホルモン
エチニルエストラジドール
↓
ノルエチステロンメストラノール
↓
メストラノール
↓
経口避妊薬
↓
結合エストロゲン
↓
代謝用剤
エルカトニン*
↓
カルシトニン*
↓
サケカルシトニン*
↓
嗜好品
ニコチン
↓
*動物実験
文献による授乳禁忌薬剤
一般名
ジアゼパム
ブロム剤
フェニトイン
フェノバルビタール
プリミドン
エルゴタミン含有製剤
アマンタジン
ブロモクリプチン*
炭酸リチウム
ベタネコール
アトロピン
アミオダロン
シメチジン *
チアマゾール
チオウラシル
マレイン酸メチルエルゴメトリン
ポピドンヨード (膣ゲル)
分類
免疫抑制剤
抗癌剤
放射性医薬品
抗ヒスタミン剤
抗リウマチ剤
抗生物質
抗結核剤
抗真菌剤
一般名
シクロスポリン
メトトレキサート*
シクロホスファミド*
ドキソルビシン
クリプトン ・ジェネレータ
金コロイド
放射性スズ
テクネチウム製剤
ヨード剤
フマル酸クレマスチン *
金チオリンゴ酸Na*
アミノ配糖体
テトラサイクリン
クロラムフェニコール
イソニアジド
サルファ剤
メトロニダゾール
*:AAPにより授乳禁忌 となっている薬剤
5)服薬中の授乳の方法
服薬中の授乳の注意をまとめてみます。
①乳児への影響を最小限にするために、授
乳は服薬の直前に行う。
②乳児への影響がないか状態を観察する。
薬物によっては、乳児の血中濃度を測定
し監視する。
6)授乳できないときの乳汁分泌抑制法28)
母親に授乳禁忌の薬剤を投与しなければな
らないときは授乳できません。その時の乳汁
分泌を抑制する方法を、参考までにまとめて
おきます。
①乳房の緊縛
②乳房触処置の除外
③緩鎮痛剤や氷療法
④水分制限と利尿剤・塩類下剤の投与
⑤乳汁分泌抑制剤の投与(表3を参考に)
謝辞:今回の薬剤の母乳中への移行の特集を
- 14 -
あ じ さ い Vol .7 ,No 1. 1998
するにあたり、問題提起、資料提供等
をして頂きました、田上病院薬局長、
野見山美季先生に厚く感謝致します。
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あ じ さ い Vol. 7,No1 .1998
<参考文献>
1)西口ら.服薬と母乳;周産期医学19:4.
479,1989
2)吉岡.母親の服用薬と母乳;小児内科19
:12.109,1987
3)望月ら.嗜好品と母乳;周産期医学19:4.
487,1989
4)妊婦・授乳婦への薬物投与時の注意改訂
3版:医薬ジャーナル社,1996
5)医薬品の安全度判読事典:西村書店,1992
6)諏訪ら.TE-031の体内動態(第5報)ラ
ットにおける14C-TE-031の胎盤通過性、
乳汁中移行および反復投与時の体内動態
;CHEMOTHERAPY投稿中
7)松田ら.Ticarcilinにかんする基礎的・
臨床的研究;CHEMOTHERAPY25:9.2924,
1977
8)東ら.ラットにおけるイオトロランの生
体内動態;日獨医報31:2.189,1986
9)川口ら.制癌剤Tgafur-Uracil(1:4)配合
剤(UFT)の生体内動態(第2報)ラットに
おける14C、3H標識UFTの体内分布および
排泄;応用薬理21:3.389,1981
10)東ら.Iopamidaolのラット胎仔および乳
仔への移行;日獨医報29:2.484,1984
11)インタビューフォーム
12)廣瀬ら.産婦人科感染症に対する
Cefpiromeの基礎的、臨床的検討;
CHEMOTHERAPY39:S-1.474,1991
13)永田ら.NY-198の体内動態Ⅳ;
CHEMOTHERAPY36:S-2.151,1988
14)バイエル.授乳中の婦人における乳汁お
よび血漿中Praziquantelの定量
15)江角ら.CS-807のラットにおける体内動
態蓄積性、胎盤通過性および乳汁移行に
ついて;CHEMOTHERAPY36:S-1.241,1988
16)高瀬ら.産婦人科領域における
Cefuroxineの基礎的および臨床的検討;
CHEMOTHERAPY27:S-6.600,1979
17)中村ら.Chemotherapy36:S-90.710,1988
18)高瀬ら.Chemotherapy28:S-6.825,1980
19)高瀬ら.Chemotherapy30:S-3.904,1982
20)伊藤ら.Chemotherapy34:S-2.882,1986
21)松田ら.Chemotherapy25:5.1429,1977
22)多賀.授乳婦人に対する薬剤投与の乳児
への影響;日本医事新報3482:1.19.135,
1992
23)厚生省.医薬品服薬指導情報集Ⅰ∼Ⅸ;
日本薬剤師研修センター,1993∼1997
24)多賀.授乳中の母親に投与された薬剤の
乳児への影響;日本医事新報3795:1.18,
115,1997
25)抗結核薬の母乳への移行;厚生省副作用
情報71
26)佐藤ら.乳汁うっ滞乳腺炎に対する葛根
湯の投与効果と母乳移行について;産婦
人科漢方研究のあゆみⅠp77
27)松田ら.Jpn.J.Antibiot39:8.2199,1986
織内分布、胎盤通過性及び乳汁中移行性
について;医薬品研究20:5.1037,1989
28)D.Pecorari.経乳管通過と授乳期の薬物
療法;妊婦と臨床薬理.医薬ジャーナル
社P356∼366:1992
29)守田.母乳への薬物排泄;小児薬物療法
26:12.1443,1985
今回の「薬剤の母乳中への移行」はコンピュ
ータデータベースとして、フロッピーでご提
供致します。作成したソフトは、
Microsoft AccessVer.2 for Windows、
Microsoft Access for Windows95、
Microsoft Excel Ver.5 for Windows
Microsoft Excel Windows95
テキスト形式(スペース区分、タブ区分、
CSV)です。申し込み御希望の方は、申し込み
要項を当社の担当者にお知らせ下さい。
<申し込み要項>
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<付録>
薬剤の母乳中 への移行データベース
フロッピー申し込み要項
以下のことをお知らせ下さい。
1;申込者氏名
2;医療機関名
3;お持ちのパソコンのメーカー、機種
4;CUP(動作周波数)
[ex.pentium(
75MHZ)
]
5;記憶容量(
メモリ) [ex.16MB]
6;ハードディスク用量 [ex.850MB]
7;ご使用のOS
[ex.MS-DOS Ver6.2v]
8;希望のデータフォーマット形式
Access(Ver2、Windows95)
Excel(Ver5、Windows95)
テキスト(
スペース区分、タブ区分)
CSV(
カンマ区切) etc
あ じ さ い Vol .7 ,No 1. 1998
お詫びと訂正
前回のあじさいVol.6,No6.P50、Vol.6,No7.
P72で誤りがありましたので、ここに訂正し、
お詫び申し上げます。
Vol.6,No6.P50の4)の例)
誤
正
分子量200以下の水溶性薬物→分子量200以下
の薬物
Vol.6,No7.P72
メチルプレドニゾロンのプレドニゾロンの
項目に入っている「-60-」はミスプリントで
す。
<編集後記>
3回に渡って特集してきました薬剤の母乳
中への移行も最後となりました。データベ
ースを作成してみて、薬物動態のデータや
症例報告が大変重要であることを痛感いた
しました。添付文書にも症例報告を記載し
臨床現場で即利用できる情報を作成すべき
だと感じました。
先生方の判断材料の一つとして使用して
頂ければ幸いです。
発行者:富田薬品(株)
営業学術
池川登紀子
力富 明子
イラスト
金子裕里子
問い合わせに関しては当社の社員又は、下記
までご連絡下さい。
TEL
(096)373-1137
FAX
(096)373-1132
担当
池川
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あ じ さ い Vol. 7,No1 .1998
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あ じ さ い Vol .7 ,No 1. 1998
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