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日本語Pdfファイル - 石油エネルギー技術センター
③水素ステーション ~水素供給ケーススタディーと経済性評価~ ㈱コスモ総合研究所 技術調査部 伊藤孝司 1.調査の背景及び目的 地球温暖化問題及び大気汚染問題が深刻化しており、その同時解決のため、エネルギー効率 が高くまた走行時に有害排気ガスを発生しない燃料電池車の実用化が期待されている。燃料電 池車には、水素を直接搭載する方法と、車上に搭載した改質器によりガソリンやメタノールな どから水素を得る車上改質型の燃料電池車があるが、究極的には水素を直接搭載する方法が最 善であるといわれている。現在、車上改質は起動性や燃料電池への水素純度などの課題を抱え ている。一方、直接水素を搭載する燃料電池車はバスや乗用車を用いて、実用化テストが行わ れている。このような状況から、本調査は早期実現の可能性の高い水素直接搭載型燃料電池車 に限定し、水素ステーションへの水素供給ルート及び供給コスト等について調査を行った。 外部集中製造型(オフサイト型) 2.調査の内容・結果 製油所 製鉄所 ソーダ工場 2.1.水素供給ルート 燃料電池車に水素を供給する方法は、水素の 水素 水素 水素ステーション 輸送 供給 オンサイト型 製造、貯蔵形態、充填方式の組み合わせにより 水素製造 燃料 種々の形式がある。大別すると、外部集中製造 水素 水素ステーション 輸送 供給 型(以後、オフサイト型と記す)とオンサイト 型に分類される(図 1) 。 図1 水素ステーションの形態 オフサイト型 (1)オフサイト型 製造 輸送 オフサイト型とは、水素ステーシ ョン以外の場所で水素を大規模生 液体水素 貯蔵 工場生産 産し、これを水素ステーションに輸 液 化 化 LH 2 送して、ステーションで水素を貯蔵 し、車に供給(充填)する方法である。 外部集中製造としては、図 2 に示 水素ステーション GH 2 副生水素 すようにコークス炉やソーダ電解 パイプライン パイプライン の副生水素の利用、製油所での水素 液体水素 貯蔵 ディス ペンサー ペンサー 圧縮 水素 貯蔵 貯蔵 ディス ペンサー コンプレッサー 圧縮 水素 貯蔵 液体水素 貯蔵 コンプレッサー LH 2 圧縮 水素 貯蔵 貯蔵 ディス ペンサー GH 2 ディス ペンサー 製造が考えられる。 輸送方式には液体水素(LH 2 )、 CH工場 圧縮水素(GH2)の他に、パイプラ CH チラー チラー ディス ペンサー ディス ペンサー ペンサー インでの輸送あるいは炭化水素へ 図 2 オフサイト型水素ステーションの形態 1 MH CH 添加(ケミカルハイドライド)し、水素ステーションへ運搬する方法がある。 ただし、パイプラインについてはアメリカでは水素の輸送方法として将来有力視されている が、日本では敷設コストや都市部における安全性等の課題が残されている。ケミカルハイドラ イドについては、理論的には重量比で 7~10%程度まで水素貯蔵が期待され将来有望な技術の ひとつと考えられるが、現段階で実証試験を行うまでに至っておらず、またコスト等も明らか にされていない。液体水素(-253℃)を用いる水素輸送は、液化に大量のエネルギーを要す る点やボイルオフの問題を有するものの、1 回の輸送容量が圧縮水素に比べ格段に多いため、 長距離輸送時には有利と考えられる。 水素の貯蔵には、液体水素、圧縮水素、水素吸蔵合金(Metal Hydride) 、ケミカルハイドラ イドなどの方法があるが、ケミカルハイドライドは現在実証段階であり、また水素吸蔵合金は 冷却ユニットが必要でコストが嵩む。 以上の総合的考察から、現段階で外部集中製造型によるオフサイト型水素ステーションへの 水素供給が確実視されるのは、工場生産あるいは副生水素を、液体あるいは圧縮水素の形態で 輸送し、水素ステーションで圧縮水素として燃料電池電池に供給する方法である。 (2)オンサイト型 オンサイト型水素ステーションは、ステーション内で水素を製造・貯蔵し、燃料電池車に供 給(充填)する方法である。水素供給は、図 3 に示すように炭化水素改質による水素供給と水の 電気分解による水素供給が考えられる。 改質型のオンサイト型水素ステーションへの炭化水素供給方法は、都市ガスは既存の供給ラ インを利用し、液体燃料はローリーで輸送する。水素ステーション上で各種炭化水素の改質を 行い、水素製造後、PSA(Pressure Swing Adsorption)装置を用いて精製し、常圧あるいは圧縮 水素として貯蔵する。 水電解型水素供給ステーションは、商用電力利用による電気分解や太陽熱による電気分解等 により水素製造後、水分を除いて、常圧あるいは圧縮水素として貯蔵する。水電解法は改質装 置よりも装置の小型化が可能なた め水素ステーションには向いてい オンサイト型 水素ステーション る。 以上の総合的考察から現段階で 輸送 製造 脱硫器、改質器、 CO変成器、蒸気 発生器、純水装置、 精製装置 オンサイト型水素ステーションで の水素供給が確実視されるのは、炭 液体 燃料 化水素改質法及び水電解法により 改質 改質 供給 コンプレッサー 圧縮 水素 貯蔵 ディス ペンサー GH 2 水素を生産し、圧縮水素として供給 する方法である。 パイプライン 都市ガス 都市ガス チラー チラー 電力 太陽光 ディス ペンサー 水分解 図 3 オンサイト型水素ステーションの形態 2 MH 2.2.水素ステーションの経済性 水素供給コストは多数報告されているが、多くは目標価格で試算され、安価に算出されてい る。さらに、報告により供給コストの序列が異なる。そこで、本調査では、日本における燃料 電池車への最適な水素供給ルートを現状の技術水準及び実際に建設された最新の水素ステー ション等の実積値をベースに水素供給コストを試算した。 2.2.1.水素供給方法と経済性比較の前提 (1)供給ルート 車両への水素供給は、水素直接搭載型に限定し、水素ステーションへの水素供給ルートを設 定した。 オフサイト型 外部集中生産(高純度水素製造) 水素製造装置 or 副生水素 液化 or 圧縮 PSA 水素ステーション 貯蔵 供給 輸送 圧縮水素 or 液体水素 圧縮水素 or 液体水素 5日分 圧縮水素 燃料電池 自動車 圧縮水素 搭載 オンサイト型 炭化水素 炭化水素改質 水素ステーション 水素製造 PSA 圧縮 電気 水電解 貯蔵 供給 圧縮水素 1日分 圧縮水素 燃料電池 自動車 圧縮水素 搭載 TSA 図 4 水素供給ルート オフサイト型は、供給可能性から製油所の水素製造装置、コークス炉副生水素、ソーダ電解 副生水素に限定する。またオンサイト型は、実証試験や技術開発から、都市ガス、ナフサ、ガ ソリン及び灯油の改質による水素製造と、アルカリ電解及び PEM 電解の水分解による水素製 造に限定する。 水素精製は、水電解のみ温度スイング吸着方式(TSA)で行い、その他は Pressure Swing Adsorption (PSA)で行う。その他経済性比較における前提は、表 1,2 のように設定した。 表 1 主な前提条件 水素製造所 (1サイト) オフサイト型 水素輸送 水素ステーション オンサイト型 水素ステーション 稼働日/時間 供給量 水素貯蔵量 距離 圧縮水素 液体水素 営業時間 営業日数 能力 水素貯蔵量 営業時間 営業日数 能力 水素貯蔵量 3 330日 7,920時間 1.2t/d or 25t/d 5日 30km or 100km 0.27トン 1.34トン 10時間/日 or 24時間/日 365日 300Nm3/h 5日 10時間/日 or 24時間/日 365日 300Nm3/h 1日 表 2 設定条件 オフサイト型 水素製造装置 コークス炉 未精製水素価格 典型例試算 既存設備利用 文献,ヒアリング値 既存設備利用 導入時 水素製造設備費 高純度 水素製造 PSA及び その他設備費 用益費 普及時 導入時 普及時 触媒 その他 人件費 圧縮/液化設備費 水素輸送 導入時 普及時 設備費 用益費 人件費 設備費 水素 ステーション 用益費 人件費 導入時 普及時 新設は実績換算値の10% 既存設備利用 低減価格/既存設備利用 高純度水素価格: 文献,ヒアリング値 実績換算値の10%低減価格 (既存設備利用) 実績換算値の10%低減価格 実績及び推定価格 - 実績値 1人 実績換算値の10%低減価格 実績換算値の10%低減価格 実績値(平均車両価格、等) 実績値(平均燃費) 車両1台に1人(30km輸送:2往復/日、100km輸送:1往復/日) 実績換算値 実績換算値の20%低減価格+実績工事費 実績値 1人(10時間営業)、2人(24時間営業) オンサイト型 燃料/電気 水素 ステーション 設備費 用益費 燃料改質(都市ガス) 価格 ソーダ電解 燃料改質(石油系燃料) 東京ガス輸送向け圧縮都 2002年CIF + 市ガスB契約 国内平均輸送費 性状 導入時 普及時 触媒 その他 人件費 水電解 東京電力高圧季節別時 間帯別電力B 平均性状 実績換算値 実績換算値の20%低減価格+実績工事費 実績価格 実績及び推定価格 実績値 1人(10時間営業)、2人(24時間営業) - - (2)水素需要量 供給コストの試算に必要な水素ステーション数や水素需要量等は以下のように想定した。 燃料電池車の台数は、燃料電池実用化戦略研究会により 2010 年に累積約 5 万台、2020 年に 累積約 5 百万台と予測され、(財)日本エネルギー経済研究所は燃料電池車のコスト低下速度及 び導入速度が早い場合、2010 年に 1.7 万台、2020 年に 434 万台と予測している。また、(財) 日本電動車両協会はインフラに制約がない場合という限定条件ではあるが、2010 年において 約 5 万台となっている。他にも、多くの研究機関やシンクタンクなどによる燃料電池車の普及 台数予測が行われているが、概ね、2010 年で自動車保有台数の 1%以下、2020 年においても 5~6%程度と予測されている。これらから、本試算において設定台数の普及年次は明らかにし ないが、燃料電池車の普及台数が 5 万台及び 500 万台の場合を試算することにした。 この時の年間水素需要量 1は、5 万台普及時は 0.5 億 Nm3 、500 万台普及時は約 53 億 Nm 3 となる。水素ステーションの営業時間を 1 日 10 時間、営業日数 365 日で設定し、1ステーシ ョンで 1 日 100 台が給油する場合、水素ステーションの生産規模としては 300Nm3/hが必要 となる。また、水素ステーション数は、5 万台普及時で約 50 ステーション、500 万台普及時で 約 4,900 ステーション必要になる。 1 H14 年度ガソリン乗用車保有台数 38,813 千台,年間消費量 42,296 千 kl よりガソリン乗用車 1 台あたりの年間消費量は 1,090L/台・年。車両効率:ガソリンエンジン 16%,燃料電池 45%;ガソリン総発熱量:8,400kcal/l, 水素総発熱量:3,050kcal/Nm3 より燃料電池自動車 4 オフサイト型の外部集中水素製造所は生産量が増加するほどスケールメリットにより供給 コストが有利になるが、導入時では、全日本での需要量も 1 日当たり 12 トンと少なく、一地 域での水素需要量はさらに少ない。本報では、外部集中水素製造所のスケールメリットによる 低減と輸送距離に伴うコスト増のトレードオフを鑑み、一箇所で製造する最低量を水素ステー ション 4~5 ヵ所分と仮定し、 導入時の外部集中生産量を 1 日当たり 1.2 トンと設定する (表 3)。 普及時も、生産量が増加するほどスケールメリットにより供給コストが有利となるが、既存装 置を利用する限り製造能力に限界があるうえ、自家消費や他部門への外販があるため水素ステ ーションへの供給量には限界がある。これらのことから既存設備の最大水素製造能力の 10% を利用可能と仮定し、普及時の外部集中水素生産量を 1 日当たり 25 トンに設定した。 表 3 外部集中水素製造所供給量 導入時 普及時 5万台 500万台 0.5億Nm3/年 53億Nm3/年 12ton/日 1,300ton/日 普及台数 水素需要量 3 外部集中水素製造所 供給量 上記設定事由 440万Nm /年 9,200万Nm3/年 1.2ton/日 25ton/日 集中生産の最低ライン 最大副生水素製造所(コークス炉)の10% (3)経済性試算ケース 水素供給コストは表 4 に示すように水素ステーションの営業時間、水素ステーションの設置 形態(併設又は新設) 、燃料電池車普及台数(導入時 5 万台、普及時 500 万) 、さらにオフサイ ト型の外部集中製造所から水素ステーションまでの輸送距離別に試算した。 表 4 経済性評価のケース設定 ケース 1 2 3 4 水素ステーション 営業時間(hr/日) 設置形態 10 GSに併設 10 新設 24 GSに併設 24 新設 × ケース 時期 ① ② ③ ④ 導入時 導入時 普及時 普及時 外部集中製造所 からの輸送距離 30km 100km 30km 100km 2.2.2.供給コスト (1)普及時、導入時の主要ケース 各種水素供給ルートによる燃料電池車への水素供給コストの試算結果を表 5 に示す。供給ル ートにより供給コストは異なるが、燃料電池車登録台数 5 万台の導入期は 53~178 円/Nm3、 登録台数 500 万台の普及期は 49~114 円/Nm3 で供給される。 図 5 は普及時で水素ステーション 10 時間営業における(ケース 2④)水素供給コストの内訳 を示したものであるが、設備費が大半を占めていることが分かる。また、24 時間営業におい ても、水素供給コストの約半分から 1/3 を設備費が占めている。 1 台当りの水素消費量 1,067Nm3/台・年 5 〔\/Nm3-H2〕 表 5 普及時における水素供給コスト(カッコ内は導入時) 普及期 1-③ 1-④ 2-③ 2-④ 3-③ 3-④ 4-③ 4-④ (導入期) (1-①) (1-②) (2-①) (2-②) (3-①) (3-②) (4-①) (4-②) 営業時間 10時間 24時間 ケース 併設/新設 併設 輸送距離 30km 製造法 併設 新設 30km 100km 30km 100km 30km 100km 84.3 79.6 88.6 54.5 63.5 57.4 66.4 (97.6) (106.8) (105.9) (115.1) (68.7) 100.3 102.5 104.6 106.8 73.6 (77.9) 75.8 (72.3) 76.2 (81.5) 78.5 貯蔵/輸送法 75.3 圧縮水素 水素製造装置 液体水素 圧縮水素 オフサイト型 コークス炉 液体水素 圧縮水素 ソーダ電解 液体水素 (164.8) (165.0) (172.8) (173.0) (128.0) (128.2) (131.3) (131.5) 79.4 88.5 83.7 92.7 58.6 67.6 61.5 70.5 (102.4) (111.6) (110.8) (120.0) (73.6) (82.7) (77.1) (86.3) 104.4 77.8 80.0 80.4 82.6 106.6 108.7 110.9 (169.6) (169.9) (177.6) (177.9) (132.8) (133.0) (136.1) (136.3) 81.2 90.2 85.5 94.5 (98.3) (107.4) (106.6) (115.8) 106.2 108.4 110.5 112.7 60.4 69.4 63.3 72.3 (69.4) (78.6) (73.0) (82.2) 79.6 81.8 82.2 84.4 (165.5) (165.7) (173.5) (173.7) (128.7) (128.9) (131.9) (132.2) 都市ガス 86.3 (96.2) 96.8 (109.0) 53.3 (57.6) 57.8 (62.9) ナフサ 81.5 (91.8) 92.1 (104.6) 48.6 (53.0) 53.1 (58.3) ガソリン 83.1 (93.4) 93.6 (106.2) 50.0 (54.4) 54.5 (59.7) 灯油 83.6 (93.9) 94.1 (106.7) 50.3 (54.7) 54.8 (60.0) 103.3 (110.6) 114.2 (123.8) 69.9 (73.1) 74.6 (78.6) 95.4 (102.2) 106.5 (115.5) 64.5 (67.4) 69.2 (73.0) アルカリ電解 PEM電解 試算結果から、導入期はほぼ全ケ 120 ースにおいてオンサイト型水素ス 24 時間営業の場合はオンサイト型 40 液化/貯蔵/ 払出コスト 20 圧縮/貯蔵/ 払出コスト 水素コスト 水素ステーションにおける燃料改 サイト型の水素供給は普及期で 10 時間営業時かつ外部集中製造所か 電 解 解 油 電 PE M 灯 リ ア ル 都 カ 蔵 市 ガ ス ナ フ サ ガ ソ リ ン 蔵 液 水 貯 貯 貯 蔵 水 圧 水 40 20 水素 製造 コ ー ク ス 装置 ソー ダ 電解 P E M 解 電 油 灯 0 解 電リ カ ル ア コストが拮抗する。すなわち、オフ 設備費等 60 ン リ ソ ガ ションで燃料改質による水素供給 人件費 オンサイト型 サ フ ナ ストとオンサイト型の水素ステー ソーダ電解 ス ガ 市 都 なれば、オフサイト型の水素供給コ コークス 蔵貯 水 液 試算において、輸送距離が長距離に 水素製造装置 80 蔵貯 水 圧 ステーションへの輸送費が嵩む。本 用益費等 原料費等 蔵貯 水 液 の水素は外部集中製造所から水素 100 蔵貯 水 圧 安価となる。ただし、オフサイト型 液 水 圧 水素ステーションの水素供給が最 水素供給コスト(円/Nm 3‐H 2) 10 時間営業の場合はオフサイト型 貯 蔵 貯 蔵 120 質による水素供給が最安価となり、 貯 蔵 0 水 る。普及期は、水素ステーションが 60 圧 ーションもほぼ同一供給価格とな ステーション コスト 輸送コスト 計 80 蔵貯 水 液 mの場合はオフサイト型水素ステ 固定費 水 新設、10 時間営業、輸送距離 30k 100 液 る水素供給が最安価になる。ただし、 水素供給コスト(円/Nm3‐H 2) テーションにおける燃料改質によ 変動費 蔵貯 水 圧 オンサイト型 新設 100km オンサ イト 型 図5 各種方法による水素供給コスト比較(ケース2-④) (普及時;100km輸送;水素ステーション新設;10時間営業) 6 ら近距離の場合のみ経済的に有利となり、普及期で 10 時間営業時においても、夜間に車両走 行が少ない郊外など多くの僻地(図 6 のサークル圏外)においては、オンサイト型水素ステーシ ョンにおける燃料改質による水素供給が有利となる。 全般的にみればオンサイト型水素ステーションでの 燃料改質水素が最安価に供給できる。次に安価に供給 できる方法は、オフサイトで製造し圧縮水素でステー ションへ供給する水素であり、オンサイト型での水電 解水素、オフサイトで製造し液体でステーションへ供 給する水素という順になる。ただし、液体で供給する ケース以外の供給コスト差は僅差である。 また、オンサイト型水素ステーションでの改質によ る水素供給コストは、ナフサ 油 ≦ ≦ ガソリン ≦ 灯 都市ガスの順に安価である。各燃料間での水 素供給コスト差は 5 円/Nm3 以内で、主な格差要因は、 図 6 オフサイト型水素の供給圏 改質燃料の価格差、油種に由来する含有硫黄量や硫黄化 合物の違いによる触媒費や装置費の差である。ただし、一番大きな価格差があるナフサと都市 ガスは、都市ガスの既存供給ライン利用によるタンク費や低硫黄による設備費の低減要素を上 回る現在の都市ガス価格が影響しており、今後の都市ガス価格(低価格化)より順位が変わる可 能性も充分ありえる。 (2)水素製造装置の新・増設 前ケースはオフサイト型の水素製造装置は既設装置の余剰設備を使用し水素を製造すると 仮定したが、今後、軽油などの低硫黄化あるいは硫黄のフリー化のための水素需要が飛躍的に 増大し、現装置の余剰能力がなくなる製油所も予想される。そのため、水素製造装置の新・増 設における水素供給コストを試算した。 既存の水素製造装置を使用したとき、オンサイト型燃料改質水素の供給コストに比べオフサ イト型水素の供給コストに、一番競争力(価格差) 100 のあった普及時、30km 輸送、水素ステーション新 オフサイト型の水素製造装置を新・増設した場合、 水素製造装置の新・増設コストが加算されるが、オフ サイト型の水素製造装置からの水素供給コストの方 がまだ若干オンサイト型ナフサ改質水素より安価に 供給できる(図 7) 。 ただし、他のケースにおいては、オンサイト型燃 料改質水素とオフサイト型水素の供給コスト差がこ のケースより小さいため新・増設コストが加算され、 オフサイト型水素製造装置を使用した方が水素供給 コスト上有利であった場合も含めて、オンサイト型 燃料改質水素の方が安価に供給できる。 7 水素供給コスト(円/Nm3‐H2) 設で 10 時間営業におけるケースで比較する。 変動費 80 固定費 60 ステーション コスト 輸送コスト 計 40 圧縮/貯蔵/ 払出コスト 20 水素コスト 0 既設 新・増設 水素製造装置 ナフサ改質 オンサイト型 図7 水素製造装置による水素供給コスト比較 (普及時;30km輸送;10時間営業) (3)ガソリン税の影響 水素製造に使用する改質原料の価格は、今後、環境税あるいは炭素税の創設や税制の変更が 考えられるため、本試算は、各種改質原料を公平に比較するため全て税抜き価格を前提に試算 した。現行制度はオフサイト型水素ステーションで使用するナフサとガソリンに関しガソリン 税が課せられている。そこで、改質原料のナフサとガソリンにガソリン税(53.8 円/kl)を課し、 各製造法の水素供給価格の比較したところ、オフサイト型水素供給コストとオンサイト型水素 供給コストの供給価格差が一番開いていたケースでさえも、ガソリン税を課すことにより原料 140 サイト水素供給コス 120 人件費 60 設備費等 40 20 り供給される水素供 給コストより高い供 解 電 M 解 ル ア PE ン 油 カ リ電 灯 サ ソ リ ス ナ フ ガ 市 ガ 液 圧 都 蔵 水 貯 蔵 水 貯 蔵 水 貯 液 貯 蔵 水 圧 は、オフサイト型よ 貯 蔵 0 イト型燃料改質水素 蔵 ンを使用したオンサ 80 水 合、ナフサとガソリ 原料費等 貯 原料価格に課した場 100 水 ースでガソリン税を 用益費等 圧 る。すなわち、全ケ ガソリン税 液 素供給コストを上回 3 トがオンサイト型水 水素供給コスト(円/Nm ‐H2) 価格が高まり、オフ 水素製造装置 コークス ソーダ電解 オンサイト型 図8 水素供給コスト比較(導入時;100km輸送;水素ステーション併設;24時間営業) 給価格となる。 2.2.3.既存燃料との比較と課題 現行内燃機関に使用する現行燃料との価格競争力を 1Nm3 の水素で走行できる純水素搭載型 燃料電池車の走行距離と同一距離を走行するために必要なガソリン費用を既存のガソリンエ ンジン小型自動車で求めると、ガソリン費用は 44.4 円となる 2。普及時(燃料電池車 500 万台) で 24 時間営業時における水素供給コストは 48.6 円/Nm3 とほぼ同一供給コストで供給が可能 である。ただし、全ケースにおいて水素供給コストは、ガソリン費用を上回っている。 ガソリン費用を下回る要素として、本試算では技術の実証性や建設コストの妥当性が低いた め除いた新型の改質装置をオンサイト型水素ステーションの燃料改質に用いることにより、水 素供給コストの大半を占める設備費が約1/3削減される。これにより、普及時の10時間営業時 の水素供給コストは、約15円の低減となり、約70円/Nm3で供給が可能となる。普及時の24時 間営業時においては、約6円の低減となり、約43~47円/Nm3で水素の供給が可能となり、ガソ リン費用と競合する価格に至る。 2 ガソリンエンジンの車両効率 16%、燃料電池を 45%と仮定して、税抜きガソリン価格 を 40 円/l と設定し、ガソリン総発熱量(8,400kcal/l=33.66MJ/l)、水素総発熱量 (3,050kcal/Nm3=12.8MJ/Nm3)を使用 8 水素ステーション普及のための課題は、水素ステーションや燃料電池車に課せられている現 行規制の緩和はもちろんであるが、社会的受容性の向上のための普及/啓蒙活動も必要である。 ただし、最大のポイントは、やはり、既存内燃機関で使用する燃料との価格競争力である。 上記のように今後、燃料電池車の車両効率改善や水素製造技術等の開発により既存燃料と同 等の価格になる可能性はあるが、現状では、水素に何らかの補助金や税制優遇措置を設け、既 存燃料と同等の価格設定にする必要があると思われる。 2.3.石油産業の水素供給可能性 石油産業の水素供給ポテンシャルを将来の水素消費増加と既存装置の余剰能力から推定し た(表 6) 。将来の水素消費の増加は、燃料油の生産量が増えないと予想されていることから、 軽油の硫黄分規制強化による脱硫のための水素消費量増大を考慮する。硫黄分 350ppm から 50ppm への低減に必要な水素量を水素消費原単位(Nm3/kl)から求め、5.7 億 Nm3/年の増加 とした。また、硫黄分 350ppm から 10ppm への低減に必要な水素増加量を 9.5 億 Nm3/年とし た。一方、水素発生余力は、既存の水素製造装置の余力能力により、現状よりも 41.7 億 Nm3/ 年の生産が可能となる。以上の増減量から、石油産業は 2003 年度から実施する軽油 50ppm 規 制後において約 36 億 Nm3/年の水素を、2008 年頃実施が見込まれている軽油 10ppm 規制後に おいても約 32 億万 Nm3/年の水素供給ポテンシャルを保有しているものと想定される。 表 6 石油産業からの水素利用可能量 2020 年の普及時において、年間約 53 億万 Nm3(燃料電池車;500 万台)の水素が必要とな る。これらに対して、石油産業は既存の装置を利用して 2020 年以降年間 32 億万 Nm3 程度供 給可能であるから、我が国の燃料電池車普及に対して大きな水素供給ポテンシャルを保有して いると考えられる。しかし、同じように、鉄鋼業界及びソーダ業界も大きな水素供給ポテンシ ャル(表7)を持っていることから、将来、水素ステーション参入に関してこれら産業間で大 きく競合することが予想される。 9 表 7 燃料電池車普及見通しと水素需要 2010 年(導入時) 燃料電池車 約 5 万台 必要水素量 0.5 億万 Nm3/年 水素供給可能量 コークス炉水素(回収率 60%) 塩電解水素(外販水素を除く) 石油系水素 2020 年(普及時) 約 500 万台 53 億 Nm3/年 53 億万 Nm3/年 12 億万 Nm3/年 32 億万 Nm3/年 2.4.まとめ 燃料電池車への水素供給コストは、供給ルートにより異なるが、燃料電池車登録台数 5 万台 の導入期は 53~178 円/Nm3、登録台数 500 万台の普及期は 49~114 円/Nm3 で供給される。 全般的にみればオンサイト型水素ステーションでの燃料改質水素が最安価であり、次に安価 に供給できる方法は、オフサイトで製造し圧縮水素でステーションへ供給する水素であり、オ ンサイト型での水電解水素、オフサイトで製造し液体でステーションへ供給する水素という順 になる。ただし、液体で供給するケース以外の供給コスト差は僅差である。 また、オンサイト型水素ステーションでの改質による水素供給コストは、ナフサ リン ≦ 灯油 ≦ ≦ ガソ 都市ガスの順に安価である。 主な格差要因は、改質燃料の価格差、油種に由来する含有硫黄量や硫黄化合物の違いによる触 媒費や装置費の差である。 現行内燃機関に使用する現行燃料との価格競争力を 1Nm3 の水素で走行できる純水素搭載型 燃料電池車の走行距離と同一距離を走行するために必要なガソリン費用を既存のガソリンエ ンジン小型自動車で求めると、ガソリン費用は 44.4 円となる。普及時(燃料電池車 500 万台) で 24 時間営業時における水素供給コストは 48.6 円/Nm3 とほぼ同一供給コストで供給が可能 である。ただし、全ケースにおいて水素供給コストは、ガソリン費用を上回っている。 今後、燃料電池車の車両効率改善や水素製造技術等の開発により既存燃料と同等の価格にな る可能性はあるが、現状では、水素に何らかの補助金や税制優遇措置を設け、既存燃料と同等 の価格に設定する必要があると思われる。 一方、石油産業と他産業という観点から水素ステーション参入の競合性を検討すると、オフ サイト型は、水素製造時には石油産業に有利であるが、水素ステーションでの供給コストから 比較すると僅差となり、副生水素間(石油精製、COG、ソーダ電解)で際立った差は見られない。 同じく、オンサイト型の改質燃料間(都市ガス、ナフサ、ガソリン、灯油)でも現時点では水素 供給コスト面で際立った差は見られない。ただし、今後の改質燃料価格によっては大きな価格 差が生じる可能性がある。 10