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主 論 文 の 要 旨 論 文 内 容 の 要 旨
報告番号 ※ 主 第 号 論 文 の 要 旨 論文題目 穀物アレルギー原因候補タンパク質の探索・評価研究 氏 平野 名 可奈 論 文 内 容 の 要 旨 食物アレルギーは、抗原を経口的に摂取することにより誘発されるアレルギーであ る。その症状は粘膜や皮膚、呼吸器、消化管、神経など全身のあらゆる組織、器官に おいて、またアナフィラキシーに見られるように全身性の症状として現れる。食物ア レルギーを誘発する抗原のほとんどは、食物に含まれるタンパク質である。通常、食 物を摂取した際には消化や経口免疫寛容といった生体の防御機構により、過剰な免疫 応答は起こらないように制御されている。しかし、抗原となるタンパク質(アレルゲ ン)が未分解のまま体内に取り込まれ免疫系によって異物として認識・排除する機構 がはたらくと、アレルギー反応を発症することとなる。アレルギーの原因となる食物 としては、古くからよく知られる卵、牛乳に加えて、最近では植物性食物である穀物 や 果 物 な ど に 対 す る ア レ ル ギ ー が 増 加 し て い る 。卵 や 牛 乳 に よ る ア レ ル ギ ー の 発 症 は 、 消化管機能の未発達な幼児に高い頻度でみられるが、成長に伴い寛解していく傾向が ある。一方で穀物によるアレルギーは寛解しにくく、幼少期以降に発症がみられるこ とから、感作・誘発において卵や牛乳とは異なる過程をとる可能性が考えられるが、 このように異なる食物により多様な症状が誘発される機構の詳細は不明である。また 穀物アレルギーでは、イネ科の雑草や牧草の花粉によるアレルギーとの関連も考えら れる。国や地域によっても原因食物や発症の頻度が異なり、食生活および生活環境、 さらに人種や民族などの遺伝的背景が複雑に関与していると考えられる。 本研究では、まず主要穀物であるイネを用いてアレルギー発症の抗原となる候補タ ンパク質ついて、既知のアレルゲンとの構造(アミノ酸配列)の相同性をもとに探索 した。そこで得られたイネアレルゲン候補の組換えタンパク質を調製し、アレルギー 患者血清抗体との反応性による潜在的アレルゲン性を評価した。また、既知アレルゲ ンとイネアレルゲン候補との免疫交差性については、立体構造上の類似性も含めて考 察した。さらにマウスモデルを用いて、コムギの不溶性タンパク質であるグリアジン における主要なアレルゲン候補の探索と即時型アレルギー誘発能を解析した。 米のアレルギーについては成人における難治性の皮膚炎が報告されており、アナフ ィラキシーなどの即時型症状の誘発も希にではあるが報告されている。本研究では、 米 の 主 要 ア レ ル ゲ ン で あ る ア ミ ラ ー ゼ / ト リ プ シ ン イ ン ヒ ビ タ ー 、26kDa グ ロ ブ リ ン 、 お よ び グ リ オ キ サ ラ ー ゼ I の 発 現 を 抑 制 し た 組 換 え イ ネ の 種 子 を 用 い 、 患 者 血 清 IgE との反応性を指標とすることで、これら3種のアレルゲン候補の米アレルギーへの寄 与度を解析した。その結果、アレルゲンの低減化により米タンパク質に対する患者血 清 IgE の 反 応 性 は 低 下 し た が 、 そ の 反 応 性 に は い く つ か の パ タ ー ン が み ら れ た 。 そ の 感作抗原の種類と数に依存して血清サンプルがいくつかのグループに分類できること が明らかとなった。さらにいくつか検体については、3種の主要アレルゲンを低減化 し た 米 に 対 し て も 、 一 部 の 患 者 血 清 サ ン プ ル で は IgE 反 応 性 が 残 存 し た 。 こ の こ と よ り、米には主要アレルゲン以外に未知の潜在的アレルゲンが存在することが示唆され た。 米に含まれる主要アレルゲン以外で、感作抗原となる未同定アレルゲン候補タンパ ク質を明らかにするために、プロテオームとアレルゲンのデーターベースを活用した イネ種子の潜在的アレルゲンを探索した。イネ種子におけるタンパク質のアレルギー 潜在性を、相同性に基づくアレルゲンデータベースからのスクリーニングと、組換え タ ン パ ク 質 を 用 い た IgE 反 応 性 を 解 析 す る こ と に よ り 評 価 し た 。 質 量 分 析 法 に 基 づ く プ ロ テ オ ミ ク ス に よ っ て 同 定 さ れ た 131 の イ ネ の 胚 乳 タ ン パ ク 質 の 中 か ら 、BLAST 検 索により9種のタンパク質が既知のアレルゲンと配列相同性を示した。それらは、ト ウ モ ロ コ シ の zein (Zea m 50K)、 コ ム ギ の LMW-glutelin (Tri a 36)、 kinase-like pollen allergen of Russian thistle (Sal k 1)、 Hsp70-like hazel tree pollen allergen (Cor a 10)、 コ ム ギ の chitinase-like xylanase inhibitor (Tri a XI)、 オ オ ム ギ の α-amylase (Hor v 16) そ し て レ モ ン の germin-like protein (Cit l 1)で あ り 、そ れ ぞ れ 短 い 連 続 し た ア ミ ノ 酸 配 列 が一致した。さらに配列が一致した領域の中には、3 次元構造において表面、あるい は突出した領域に集中して存在し、そこでは米タンパク質と既知アレルゲンとで類似 の 立 体 構 造 を 持 つ こ と が 示 唆 さ れ た 。こ れ ら の イ ネ の ホ モ ロ グ の 組 換 え タ ン パ ク 質 は 、 少 な く と も い く つ か の ア レ ル ギ ー 患 者 の 血 清 検 体 と 実 際 に 反 応 を 示 す こ と を 、 IgE 免 疫ブロット解析により明らかにした。反応性が見られたタンパク質については、抗原 タンパク質のドメインやモチーフなどの部分的な構造類似性による免疫交差反応性 や、タンパク質としての性質や機能などの類似性、共通性に基づいてアレルゲン性を 発 揮 す る 可 能 性 が あ る と 考 察 し た 。こ の よ う に 新 し く 同 定 さ れ た 潜 在 的 ア レ ル ゲ ン は 、 分子育種あるいは遺伝子操作によって作出された新種のイネの安全性の評価において も ,追 加 す べ き 標 的 と な る と 考 え ら れ た 。 穀物アレルギーの原因タンパク質は、食物として種子の他に、吸入性抗原として花 粉にも含まれる可能性がある。雑草・牧草などのイネ科植物による花粉症は特にヨー ロッパにおいて広く知られており、いくつかのイネ科植物の花粉タンパク質はイネ科 花粉症のアレルゲンとして同定され、特性が明らかにされている。対照的に、同じイ ネ科に属するイネについては、イネ花粉による季節性鼻炎の症例報告があるのみで、 その詳細な明らかにされていない。このような背景から、イネ花粉タンパク質の潜在 的アレルゲン性を評価するために、雑草/牧草花粉の主要アレルゲンである β-expansin (EXP)、Ca 2 + -binding protein (CBP)/polcalcin、extensin (EXT)、profilin (PRF), polygalacturonase (PGA)の イ ネ ホ モ ロ グ 遺 伝 子 を 探 索 し 、そ の cDNA を 用 い て 組 換 え タ ンパク質を調製した。これらに対する特異的抗体を調製し、免疫ブロットと免疫組織 学 的 解 析 に よ り 、 EXP、 EXT、 PGA と 推 定 さ れ る タ ン パ ク 質 が 、 葯 組 織 と 花 粉 中 に 発 現していること、さらにそれらはチモシー花粉のタンパク質と免疫交差反応性を示す こ と を 明 ら か に し た 。 ア レ ル ギ ー 患 者 の 血 清 を 用 い た ELISA と 免 疫 ブ ロ ッ ト 解 析 で は 、 EXP と EXT に 対 し て IgE の 陽 性 反 応 が 多 く の 検 体 で 見 ら れ 、 PGA と PRF に 対 し て は ほ と ん ど 反 応 性 が 見 ら れ な か っ た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、EXP と EXT は 他 の イ ネ 科 花粉症と同様に、イネによる花粉症を誘発する可能性が考えられた。 穀物の中でもアナフィラキシー性の食物アレルギーを誘発する頻度が高いコムギに ついて、マウスを用いたコムギ食物アレルギーモデルを用いて、グリアジン経口摂取 時のアナフィラキシー誘発における抗原成分を探索し、潜在的アレルゲン性を評価し た 。遺 伝 的 要 因 も 含 め て 解 析 す る た め に 、異 な る H-2 ハ プ ロ タ イ プ を 持 つ A/J、AKR/N、 Balb/c、 C3H/HeJ の 4 系 統 の マ ウ ス を 用 い て 、 グ リ ア ジ ン 感 作 お よ び 経 口 摂 取 に よ る ア ナ フ ィ ラ キ シ ー 様 症 状 の 誘 発 を 解 析 し た 。 4 系 統 の マ ウ ス の な か で 、 A/J が グ リ ア ジ ン に 対 し て 最 も 高 い IgE 応 答 性 を 示 し 、 さ ら に グ リ ア ジ ン の 胃 内 投 与 に よ っ て 、 重 篤なアナフィラキシー様症状(直腸温の急激な低下と血管透過性の亢進)を示した。 グ リ ア ジ ン に 対 す る 血 清 IgE に つ い て 、 ELISA 結 果 で は 、 A/J マ ウ ス と Balb/c マ ウ ス の2系統間で大きな違いは見られなかったが、アナフィラキシー様症状に明らかな差 異 が 観 察 さ れ た 。グ リ ア ジ ン 胃 内 投 与 に よ っ て 、A/J マ ウ ス で は 30 分 後 に 最 大 4 度 の 直 腸 温 の 低 下 が 見 ら れ 、 そ の 後 少 な く と も 70 分 に わ た っ て 3 度 程 度 の 低 下 が 続 い た 。 一 方 Balb/c マ ウ ス で は 、 経 口 投 与 後 に 最 大 で 2 度 程 度 の 低 下 が 見 ら れ た が 、 30〜 40 分後には平常の温度まで回復した。また、このグリアジン胃内投与後の急激な直腸温 の 低 下 は 、 血 小 板 活 性 化 因 子( PAF)受 容 体 拮 抗 薬 に よ り 顕 著 に 抑 制 さ れ た こ と か ら 、 アナフィラキシー誘発には粘膜マスト細胞に加え血流中の好塩基球も関与することが 示唆された。次に、多様なグリアジン分子種の中のアレルゲン候補分子を探索するた め に 、 A/J マ ウ ス の 血 清 IgE と グ リ ア ジ ン の 主 要 成 分 と の 反 応 性 を ELISA と 免 疫 ブ ロ ッ ト に よ り 解 析 し た 。 IgE は 、 β-グ リ ア ジ ン と γ-グ リ ア ジ ン 、 さ ら に ω-グ リ ア ジ ン と も反応したことから、マウスにおいて主要グリアジンはいずれもアレルギー感作能を 持つことが示唆された。どのグリアジン成分が腸管から吸収され粘膜固有層さらに血 中に移行してマスト細胞や好塩基球を活性化しているかを明らかにすることが今後の 研究課題である。