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温泉井戸の補償(公共補償)について

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温泉井戸の補償(公共補償)について
温泉井戸の補償(公共補償)について
関川
用地部
用地企画課
(〒950-8801
拓也
新潟県新潟市中央区美咲町1-1-1).
通常、一企業が所有する物件は「私人の財産」であるため、「国土交通省の公共用地の取得
に伴う損失補償基準」に基づき、「財産権」に対する補償を行う。
しかし、Bバイパス事業予定地内に存したC社所有の温泉井戸について、当方の聞き取り、
資料調査を実施した結果、「国土交通省の直轄の公共事業の施行に伴う公共補償基準」第3条
第3項に規定する「公共施設等」と判断された。
本事例は、同基準に基づき、温泉井戸の代替施設を建設する費用を補償することにより、温
泉井戸としての機能回復を図った事例である。
公共施設等、機能回復
ろ、C社が所有する温泉井戸が支障となることが確認さ
れた。この温泉井戸の概要について、C社からの聞き取
り調査及び資料調査により、a)~d)の事項が確認できた。
Bバイパスは、D市市街地の慢性的な交通渋滞を解消
a) 温泉井戸の泉源
するために計画されたものである。D市は、高速自動車
本件温泉井戸は、C社がA温泉源を汲み上げるために
道や新幹線などの高速交通によるアクセスが便利なため、 6地点に設置した温泉井戸の一つであった。なお、A温
交通及び物流の中継地としての役割を果たしている。
泉源の全体概要は図-1のとおりである。
その一方、豊かな自然景観と自然環境にも恵まれ、こ
れら観光資源を生かした多彩な交流の拡大により、一層
の発展・飛躍が期待されている市勢である。
これらを背景に、D市には、年間50万人の観光客が
訪れ、中でも温泉を目的として訪れる観光客数は約20
万人に及ぶ。
本事例は、D市の観光資源として重要なウエイトを占
めている温泉の供給施設の一部が、Bバイパス事業予定
地内に存していたため、補償対象となったものである。
補償にあたり、当方で聞き取り、資料調査を実施した
結果、「国土交通省の直轄の公共事業の施行に伴う公共
図-1 A温泉源の全体概要
補償基準」(以下「公共補償基準」という。)第3条第
3項に規定する「公共施設等」であると判断し、代替施
b) 泉質及び温泉井戸の概要
設を建設する費用の補償を行った事例である。
県温泉台帳を確認したところ、その泉質及び支障とな
る温泉井戸の深さは表-1 のとおり確認された。
1. はじめに
表-1 泉質及び温泉井戸の概要
2. 支障物件の概要
(1) 概況調査(C社からの聞き取り調査)
Bバイパス事業予定地内に存する物件を調査したとこ
泉
湧
温
井
出
戸
質
量
度
深
低張性弱アルカリ性
468ℓ /min
64.3℃
500m
c) 温泉の配湯状況
C社は、本件温泉井戸を含む6基の温泉井戸から、近
隣の温泉旅館等の他、周辺集落の住家大半に温泉を配湯
しているとのことであった。
このうち、住家での利用状況は、入浴用として利用す
るのはもちろんのこと、冬期間の融雪用としても利用し
ているとのことであり、C社の温泉井戸は周辺集落の住
家にとって欠かせないものとなっている。
さらには医療機関にも配湯し、D市の中核機関である
県立E病院では、1)リハビリテーション診療科にて温泉
を利用したリハビリが実施されているとのことであった。
d) その他
温泉の配湯状況から、C社は、「旅館のみならず、病
院などの公的施設にも配湯しており、現状の湯量を確保
する必要がある。」と述べ、更に、「現地点以外で現状
の湯量を確保するため、自社調査によって選定した移転
先においては、約800mの深さの温泉井戸が必要であ
る。」と述べた。
共補償は、「国土交通省の直轄の公共事業の施行に伴う
公共補償基準」に基づき、「既存公共施設等」の機能回
復を目的として補償を行うものである。
このように、補償対象の性質によって補償方法が異な
ることから、本件温泉井戸についても適正な補償を行う
ため、本件温泉井戸が、①一般補償基準が適用される物
件か、②公共補償基準が適用される施設か、について検
討することとした。
(3) 公共補償の適用範囲
「公共補償」は、公共補償基準第2条により公共施設
等に対する補償と規定されている。
そして「公共施設等」は、公共補償基準第3条第3項
により、①公共施設、②村落共同体その他の地縁的性格
を有するものが設置し、又は管理する施設で公共施設に
類するもの、とされている。(表-2 のとおり)
表-2 公共補償基準
(公共補償)
第2条 公共補償は、事業の施行によりその機能を廃
止し、若しくは休止することが必要となる起業地内
3. 検討
の公共施設等に対する補償・・・(省略)・・・と
する。
(1) 補償基準概要
C社からの聞き取り調査及び資料調査から、本件温泉
井戸は、C社所有の財産ではあるものの、地縁的性格を
有している施設であると考えることができた。
ところで、国土交通省の補償基準は、図-2 に示すと
おり、一般私人の「財産権」に関する補償を目的とする
一般補償と、公共施設等に対する機能回復を目的とした
公共補償に分けられている。
(定義)
第3条 この訓令において「公共事業」とは、土地収
用法その他の法律により、土地等を収用し、又は使
用することができる事業をいう。
2 この訓令において「公共施設」とは、公共事業の
用に供されている施設をいう。
3 この訓令において「公共施設等」とは、公共施設
及び村落共同体その他の地縁的性格を有するものが
設置し、又は管理する施設で公共施設に類するもの
をいう。
図-2 補償基準の概要
(2) 適用基準検討
一般補償は、「国土交通省の公共用地の取得に伴う損
失補償基準」(以下「一般補償基準」という。)に基づ
き「財産権」に関する補償を行うものである。一方、公
a) 公共施設
公共施設は、公共事業の用に供されている施設であり、
2)
公共事業は、土地収用法その他の法律により土地等を
収用又は使用することができる事業であるとされている。
2)
したがって、本件温泉井戸が収用することができる
事業に供されているか否かであるが、土地収用法によれ
ば、温泉事業は収用適格事業とはされておらず、また、
温泉法などの法律によっても収用できるとの規定はない。
よって、本件温泉井戸を公共施設とすることはできな
いと判断した。
b) 公共施設等
公共施設等のうち、公共施設については、前記 a)で否
定されている。
次に、「村落共同体その他の地縁的性格を有するも
の」に該当するかであるが、これについては、「特定の
地域に密着した地域関連性を有し、かつ、当該地域住民
一般又は共同体の構成員一般が自由に参加できる機能上
の協業性を有するもの」とされている。
具体的には、集落、町内会、農業協同組合、森林組合、
水害予防組合等が該当するとされている。
また、「公共施設に類する施設」とは、このような地
縁的性格を有するものが設置し、又は管理する施設で公
共施設に類するものである。
具体的には、公民館、水防又は消防の用に供する施設、
道路、用排水路、ため池、簡易水道、有線放送等の放送
設備、防犯灯等が該当するとされている。
よって、地縁的な性格を有するものが設置・管理する
施設の全てが「公共施設等」に該当するのではなく、そ
れらのうち、さらに公共施設に類する施設という条件を
満たす必要がある。
(4) 本件温泉井戸の公共性の検討
a) C社についての検討
3)
昭和29年、当時の町長が駅周辺で可燃性天然ガス
が自噴していたことに着目、町営ガス供給事業構想を打
ち出した。昭和31年、32年に国の採鉱補助金を得て
試掘したものの、天然ガスは噴出せず、代わりに良質の
温泉が湧出した。
このことから、町当局は天然ガス採鉱を諦め、温泉井
戸として仕上げることとし、温泉の有効活用を計画、町
長みずから社長となり、町、地元有志、町出身の資本家
で株主構成し、C社を設立した。
現在、町は株を手放しているものの、今でも地元有志
等で株主構成されていることから、C社は地縁的性格が
非常に強い会社であると言える。
b) 温泉の配湯状況
2,(1),c)でも述べたとおり、C社の温泉井戸は近隣の
温泉旅館の他、周辺集落の住家大半にも配湯されてお
り、入浴用として利用する以外に、冬期間の融雪用とし
ても利用しており、周辺集落の住家にとって欠かせない
ものとなっている。
また、C社は医療機関にも配湯しており、中でも県立
E病院においてはリハビリテーション診療科にて温泉を
利用したリハビリが実施されているとのことである。
このことから、C社の温泉井戸はかなりの公共的な役
割を果たしており、当該地域の共有財産であると言える。
c) 施設の検討
C社の温泉井戸から集落へ配湯される温泉は、周辺集
落の住家にとって、日常生活において欠くことのできな
い施設である。このことから、C社の温泉井戸は、集落
に配水する簡易水道と同様、公共施設に類する施設であ
ると言える。
d) 補足
4)
A温泉がD市の経済に与える影響は約91億円にも
上り、全観光経済効果推計額のうち17%を占めている。
D市は温泉施設及び温泉関連産業により栄えてきた観
光産業地域であることから、A温泉は地域の観光ブラン
ドそのものであり、D市の観光資源の重要な役割を担っ
ている。
4. 検討結果
前述のとおり、①C社は地縁的性格が非常に強い会社
であり、②C社の温泉井戸から配湯されるA温泉は地域
共有財産であり、③C社の温泉井戸は、D市の中枢機関
である県立E病院にも配湯し、リハビリ成果をあげてい
る。
このことから、特定の地域に密着した機能上の協業性
を有する公共施設に類する施設である。
よって、C社の温泉井戸を、公共補償基準第3条第3
項に規定する「公共施設等」であると判断したものであ
る。
5. 補償方法(機能回復)について
(1) 機能回復とは
機能回復とは公共補償基準第3条第4項に定められて
おり、表-3 のとおりである。
既存公共施設等の機能を中断することなく、技術的・
経済的に可能な範囲で、合理的な形で従前と同程度に、
現実に回復させることである。
表-3 公共補償基準第3条第4項
4 この訓令において「機能回復」とは、事業の
施行により廃止し、又は休止することが必要と
なる企業地内の公共施設等の機能を、当該機能
を構成している諸要素を、総合的にみて、技術
的、経済的に可能な範囲で、合理的な形で再現
し、又は復元することをいう。(以下省略)
(2) 温泉井戸の「機能」とは
本件温泉井戸の泉質及び概要は、表-1 で示したとお
りであるが、温泉井戸としての「機能」は井戸深ではな
く、湧出量や温度と考えられる。
現況の井戸深と同じ深さまで掘削したとしても、湧出
量や温度が確保出来なければ、配湯に支障が出る。
よって、温泉井戸としての機能とは、「井戸深」では
なく、「湧出量」や「温度」であると考えられる。
(3) 補償の程度
C社は「自社調査によって選定した移転先においては、
では、約800mの深さの温泉井戸が必要である。」と
述べている。
代替井戸の建設費を補償するにあたって、C社の調査
結果を当方へ報告してもらい、C社調査の妥当性を業務
委託にて外部発注し、検証を行った。
その結果、C社が選定した移転先及び掘削深について
妥当であるとの結果が得られた。
よって、800mの井戸を掘削するための費用等を補
償し、機能回復を図ったものである。
6. 考察
地域的性格を有しているものが設置・管理する施設の
全てが「公共施設等」に該当するわけではない。
地域的性格を有しているものが設置・管理する施設で
あり、かつ、「公共施設に類する施設」である必要があ
る。よって、「公共施設等」と判断するには十分な検討、
情報収集が必要である。
7. あとがき
公共補償においては、機能の回復が必要とされるもの
とはいえ、既存公共施設等の財産的価値を著しく超える
ような補償は適当ではない。よって、実際に本事例の補
償方法を検討した際は、既存井戸5基の「規模拡大」、
「改良」、「ポンプの強化」を行うことも検討している。
結果、代替井戸を建設する費用を補償することが、総
合的にみて、技術的、経済的に妥当な補償であると結論
に至ったことを申し添える。
参考文献
1)「E病院ご案内」
2)監修 国土交通省総合政策局国土環境・調整課
編著 公共用地補償研究会 「新版 公共補償基準要
綱の解説」
3)C社著「A温泉の記録」
4)D市作成『平成17年度「A温泉」観光客の経済・波
及効果の推計』
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