...

実践研究リーダー養成研修報告書~支部で事例

by user

on
Category: Documents
15

views

Report

Comments

Transcript

実践研究リーダー養成研修報告書~支部で事例
2005年
2005年3月
社団法人 日本社会福祉士会
学会運営委員会
基礎・
基礎・共通研修課程整備委員会
――
実践研究リーダー養成研修 報告書(目次)
~支部で事例検討会を行うために~
発刊に寄せて
・・・1
はじめに
・・・3
本報告書の使い方
・・・5
第1章
支部での事例検討会の実施状況
・・・7
第2章
実践研究の意義について
・・・15
第3章 支部で事例検討会を進めるために
第1節 事例検討会を始める前に
~参加者が共通に理解しておくこと~
第2節 事例検討会
~実際の進め方~
第3節 事例検討会が終わってから
~次回に向けて確認すべきこと~
第4節 事例検討会のための記録
~事例提供者が心得ておくこと~
・・・39
・・・43
・・・52
・・・57
第4章 支部からの事例検討会実施報告
第1節 茨城県支部からの報告
第2節 富山県支部からの報告
・・・63
・・・67
おわりに
・・・73
~支部で開催する上での心得~
巻末資料 1
・・・75
(1)事例提供者へ依頼する際の資料
(2)事例検討会の全体の流れ
(3)会場設定
(4)司会者の参考資料
(5)参加者の参考資料
巻末資料 2
(1)2004年度実践研究リーダー養成研修プログラム
(2)過去3年間の実践研究リーダー養成研修参加支部一覧
(3)委員会名簿
――
・・・87
ႆБƴ݃ƤƯ
ǽȸǷȣȫȯȸǫȸƱƠƯŴLJƨᅈ˟ᅦᅍٟƱƠƯƲƷǑƏƴܱោщǛ᭗NJǔ
ƔŵƦƠƯŴƦƷᨥŴǽȸǷȣȫȯȸǯƷž̖͌ſƴؕƮƍƯჷᜤƱ২ᘐǛƲƷ
ǑƏƴᔛᆢƠƯƍƘƔŵƜƷƜƱƸŴǽȸǷȣȫȯȸǯƷ‫׍‬ஊࣱƷଢᄩ҄Ʊǽȸ
ǷȣȫȯȸǫȸƷǢǤȇȳȆǣȆǣƴขƘ᧙̞Ƣǔŵžʙ̊ᄂᆮſƸŴƦƷƨNJ
Ʒ૾ඥƱƠƯƖǘNJƯஊॖ፯Ƴ૾ඥưƋǔŵ
࠰ࡇƴ᧏͵ƞǕƨᇹᲫ‫ׅ‬ႸƷܱោᄂᆮȪȸȀȸ᫱঺ᄂ̲ƷᜒࠖǛਃ࢘ƞ
ƤƯƍƨƩƍƨŵžʙ̊ᄂᆮƷ૾ඥſƴ໰ໜǛ࢘ƯƨƜƷᄂ̲˟ưƸŴμ‫׎‬ƷӲ
ૅᢿǛˊᘙƢǔȪȸȀȸƷLjƳƞǜƴǑǔᆢಊႎƳӋьNjƋƬƯŴ᩼ࠝƴɶ៲Ʒ
ຜƍᄂ̲ƕNjƯƨƜƱǛʻưNjᮗଢƴᙾƑƯƍǔŵƜƷᄂ̲ƴӋьƞǕƨ૾ƷƳ
ƔƴƸŴƦƷࢸNjˁʙƴƭƍƯƷᡈඞǍૅᢿǍᎰ‫ئ‬ƴƓƚǔʙ̊ᄂᆮƷӕǓኵLj
ཞඞƴƭƍƯ‫إ‬ԓǛƍƨƩƘƳƲŴʻưNjƭƳƕǓƷƋǔ૾Nj‫ٶ‬ƍŵ
ƜƷИ‫ׅ‬Ʒᄂ̲˟ƷϋܾǛࡽƖዒƙ࢟ưŴƦƷࢸNjૅᢿƷȪȸȀȸǛ‫ݣ‬ᝋƱƠ
ƯᲬ࠰᧓ƴǘƨƬƯ᧏͵ƞǕƨŵʻࢸƸŴӲૅᢿƝƱƴžʙ̊ᄂᆮƷܱោſƷ‫ܭ‬
ბƴӼƚƯ࠼ƛƯƍƔƳƚǕƹƳǒƳƍŵ
ǽȸǷȣȫȯȸǯǛӕǓࠇƘཞඞƸ̔໱ƱƠƯӈƠƍŵǽȸǷȣȫȯȸǯƷᄂ
ᆮȷ૙ᏋȷܱោƴǘƨƬƯᛢ᫆Ƹ‫ޛ‬ᆢƠƯƍǔŵƚǕƲNjŴǘǕǘǕƕLJƣƢǂ
ƖƜƱŴưƖǔƜƱƸŴႸƷЭƷɟƭƻƱƭƷʙ̊ƴჇઋƴӼƖӳƍŴஜʴƨƪ
ƷǨȳȑȯȡȳȈǛƏƳƕƠƳƕǒஜʴƨƪƕբ᫆Ǎᛢ᫆ƷᚐൿƴӼƔƑǔǑƏ
ƴ‫ᧉݦ‬ႎƳੲяǛ੩̓ƠƯƍƘƜƱưƋǔŵƦƷƨNJƴƸஊॖ፯Ƴʙ̊ᄂᆮƕɧ
ӧഎưƋǔƠŴƦƷᔛᆢƴǑǔඬӏјௐƕǽȸǷȣȫȯȸǯƕৼƑǔᛢ᫆Ǜ৙᧏
ƢǔƜƱƴNjƭƳƕǔƸƣưƋǔŵ
Ჭ‫ׅ‬ƴǘƨǔܱោᄂᆮȪȸȀȸ᫱঺ᄂ̲Ʒஜ࢘Ʒᚸ̖ƸŴഏƴૅᢿ෇ѣƱƠƯ
ბܱƴ‫᧏ޒ‬ưƖǔƔƴƔƔƬƯƍǔŵʻࢸƴNj஖ࢳƠƨƍŵ
࠰Ჭஉ
‫˦᧓ޥ‬ʂᲢ‫ࠊ᧵ٻ‬ᇌ‫ܖٻ‬Უ
― ―
㧙
㧙
――
はじめに
社会福祉実践の担い手である社会福祉士が日々の実践を客観的に検証し、自らの
実践に学び、問題を明らかにし、課題解決に臨むための「実践研究」は、社会福祉
士の力量形成において不可欠な領域であるにもかかわらず、職場や支部活動の中で
十分な取り組みができていたとはいえない状況にあります。
基礎・共通研修課程整備委員会と学会運営委員会では、支部単位での実践研究が
より活発に取り組まれることを目的に2002年度から3年間、社会福祉振興・試
験センターの「社会福祉士リーダー研修事業」の助成を受け、実践研究リーダー養
成研修を共同で企画し実施してきました。
本研修は、テキスト『社会福祉援助の共通基盤』の執筆者のひとりである大阪市
立大学岩間伸之氏の「事例研究の方法」を参考に取組んできました。
参加された会員には、事前課題としての事例の提出をはじめ、社会福祉士として
の実践研究の意義や事例検討をメンバーの内と外で追体験をしながら事例研究につ
いて学んでいただきました。
今回、本研修の終了に際し、研修参加者へのフォローアップとして2004年度
に実施した研修内容をテキスト化し、各支部及び本研修の参加者に配布することと
しました。
今後は、このテキストを参考に本研修で学んだ各支部3名の会員が協力し、それ
ぞれの支部においてあらたな実践研究に取り組んでいただけるものと信じます。も
ちろんその成果として、各支部における会員の実践研究が大きく花開き、本会にお
ける学会発表や研究誌『社会福祉士』への投稿へと結実することもおおいに期待す
るものでもあります。
最後にこの3年間、両委員会の関係者の努力と連携があって、実践研究リーダー
養成研修を実施することができたことに深く感謝いたします。
2005年3月
学会運営委員会
委員長
塚本鋭裕
基礎・共通研修課程整備委員会
委員長
土谷長子
――
――
ஜ‫إ‬ԓ୿Ʒ̅ƍ૾
᳸ǑǓǑƍʙ̊౨᚛˟ǛܱྵƢǔƨNJƴ᳸
ஜ‫إ‬ԓ୿Ƹ࠰ࡇƔǒᲭ࠰ࡇƴǘƨƬƯ᧏͵ƠƯƖƨܱោᄂᆮȪȸȀȸ᫱঺ᄂ̲Ʒ
‫إ‬ԓ୿ưƢƕŴܱោᄂᆮǍʙ̊౨᚛˟Ʒॖ፯ǛྸᚐƠŴӲૅᢿǍƞLJƟLJƳǰȫȸȗƕǑ
ǓǑƍʙ̊౨᚛˟ǛܱྵƢǔƨNJƷяƚƱƳǔϋܾƱƳƬƯƍLJƢŵ
ஜ‫إ‬ԓ୿Ʒμ˳Ǜᛠǜưʙ̊౨᚛ǁƷྸᚐǛขNJƯƍƨƩƖƨƍƱ࣬ƬƯƍLJƢƕŴ᧙
࣎ƷƋǔϋܾƔǒᛠLjᡶNJƯƍƘƜƱNjưƖǔǑƏƴ߻‫پ‬ƠƯLjLJƠƨŵ
଱᩼Ŵஜ୿Ǜஊј෇ဇƠŴǑǓǑƍʙ̊౨᚛˟ǛܱྵƠƯƘƩƞƍŵ
ʙ̊౨᚛˟ƴƭƍƯྸᚐǛขNJƨƍ
ĬƲƏƠƯʙ̊౨᚛˟ƕ࣏ᙲƳƷưƠǐƏᲹ
ʙ̊౨᚛Ƹᅈ˟ᅦᅍٟƷܱោщǛ᭗NJǔƱƍǘǕLJƢŵƦƷॖ፯ǛƞLJƟLJƳ᩿ͨƔ
ǒᄩᛐƠƯLjLJƠǐƏŵ
ăžᇹᲭᇘ
ᇹᲫራ
Ჭ ᲨᲢᲫᲣ᳸ᲢᲮ ᲣſᲢᳪᲮᲪ᳸ᳪᲮᲫᲣ
ĭʙ̊౨᚛˟ƸƲƷǑƏƴᡶNJƨǒǑƍƷưƠǐƏᲹ
ʙ̊౨᚛˟ǛᡶNJǔƨNJƴƸφ˳ႎƳ૾ඥǛྸᚐƠƯƓƘƜƱƕ࣏ᙲưƢŵʙ̊౨᚛
˟Ǜ‫ڼ‬NJǔЭƴƦƷ৖᪯Ŵ࣏ᙲƳแͳሁƴƭƍƯᄩᛐƠƯLjLJƠǐƏŵ
ăžᇹᲭᇘ
ᇹᲬራ
ᲬᲨ᳸Ჲ ᲨſᲢᳪᲮᲮ᳸ᳪᲯᲫᲣ
Įʙ̊੩̓ᎍƸƲƷǑƏƴᚡ᥵ǛLJƱNJƨǒǑƍƷưƠǐƏᲹ
ʙ̊౨᚛˟ƴƓƍƯŴʙ̊੩̓ᎍƷ‫נ܍‬ƸɧӧഎưƢŵʙ̊੩̓ƷƨNJƷᚡ᥵ƸƲƷ
ǑƏƴLJƱNJƨǒǑƍƷƔŴᚡ᥵ˌЭƷȗȭǻǹƔǒᄩᛐƠƯLjLJƠǐƏŵ
ăžᇹᲭᇘ
ᇹᲮራ
ᲫᲨ᳸Ხ ᲨſᲢᳪᲯᲱ᳸ᳪᲰᲪᲣ
įʙ̊౨᚛˟ƴƸƲƷǑƏƳ‫ۋ‬ѬưӋьƠƨǒǑƍƷưƠǐƏᲹ
ǑǓǑƍʙ̊౨᚛˟ǛܱྵƢǔƨNJƴƸŴӋьᎍμՃƕσᡫྸᚐǛNjƬƯʙ̊౨᚛˟
ƴӋьƢǔƜƱƕ᣻ᙲưƢ ŵӋьᎍƕσᡫƴྸᚐƠƯƓƘƜƱǛᄩᛐƠƯLjLJƠǐƏ ŵ
ăžᇹᲭᇘ
žࠇ஛᝻૰
ᇹᲫራ
ᲫᲨ᳸Ჭ ᲨſᲢᳪᲭᲳ᳸ᳪᲮᲫᲣ
ӋьᎍƷ࣎ࢽ ſᲢᳪᲲᲯᲣ
İɧᢘЏƳʙ̊౨᚛˟ƱƸƲƷǑƏƳȑǿȸȳƳƷưƠǐƏᲹ
ʙ̊౨᚛˟Ǜ᧏͵ƠƯNj৖᪯Ǎ૾ඥƕɧᢘЏƩƱӋьᎍƕɧࣛƳ࣬ƍǛƠŴјௐǛဃ
LjЈƢƜƱƕưƖLJƤǜŵɧᢘЏƳʙ̊౨᚛˟ƷȑǿȸȳNjჷƬƯƓƖLJƠǐƏŵ
ăžᇹᲭᇘ
ᇹᲬራ
Ძ ᲨᲢᲫᲣ᳸ᲢᲮ ᲣſᲢᳪᲮᲭ᳸ᳪᲮᲮᲣ
――
ıʙ̊౨᚛˟ƴӋьƠƨ૾ŷƸƲƷǑƏƳज़ेǛNjƬƯƍǔƷưƠǐƏƔᲹ
ʙ̊౨᚛˟ƴӋьƠƨ૾ŷƔǒƸʙ̊౨᚛˟ƷјௐǍʙ̊౨᚛˟ǛᡶNJǔɥưƷȒȳ
ȈƕᡓǂǒǕƯƍLJƢŵܱᨥƴӋьƞǕƨ૾ŷƷ٣ǛᎥƍƯLjLJƠǐƏŵ
ăžᇹᲭᇘ
ᇹᲭራ
Ძ ᲨᲢᲫᲣ᳸ᲢᲬ ᲣſᲢᳪᲯᲬ᳸ᳪᲯᲯᲣ
ૅᢿƷʙ̊౨᚛˟ǁƷӕǓኵLj૾ǛჷǓƨƍ
ĬૅᢿưƸʙ̊౨᚛˟ƴƲƷǑƏƴӕǓኵǜưƍǔƷưƠǐƏᲹ
˂ૅᢿƴƓƚǔʙ̊౨᚛˟Ʒᛢ᫆ƱྵཞƸŴૼƨƴʙ̊౨᚛˟Ǜ᧏ƍƨǓŴોծƠƯ
ƍƘᨥƴࢫᇌƭưƠǐƏŵφ˳̊ǛԃNJƯૅᢿưƷܱ଀ཞඞǛᄩᛐƠƯLjLJƠǐƏŵ
ăžᇹᲫᇘ ſᲢᳪᲱ᳸ᳪᲫᲮᲣ
žᇹᲮᇘ ſᲢᳪᲰᲫ᳸ᳪᲱᲬᲣ
ĭૅᢿƕʙ̊౨᚛ǛᡶNJƯƍƘƴƸ˴ƴൢǛƭƚƨǒǑƍƷưƠǐƏᲹ
ʙ̊౨᚛˟ƷƨNJƷแͳǍ৖᪯Ǜɠ‫ݗ‬ƴᄩᛐƢǔƜƱƕ‫ٻ‬ЏưƢŵƦƷɥưŴ‫ٻ‬ЏƳ
ȝǤȳȈǛƋǒƨNJƯᄩᛐƠƯLjLJƠǐƏŵ
ăžƓǘǓƴ ſᲢᳪᲱᲭᲣ
ܱោᄂᆮƴƭƍƯྸᚐƠƨƍ
Ĭʙ̊౨᚛ǛᡶNJǔƏƑưŴƳƥܱោᄂᆮƷॖ፯ǛྸᚐƢǔ࣏ᙲƕƋǔƷưƠǐƏᲹ
ʙ̊౨᚛ƸܱោᄂᆮƷɟ૾ඥưƢŵᅈ˟ᅦᅍٟƴƱƬƯ᣻ᙲƳܱោᄂᆮƱƦƷᏑ୎Ʊ
ƳƬƯƍǔဃ෨ᄂ̲СࡇሁƴƭƍƯᄩᛐƠŴʙ̊౨᚛ǁƷྸᚐǛขNJƯLjLJƠǐƏŵ
ăžᇹᲬᇘ ſᲢᳪᲫᲯ᳸ᳪᲭᲰᲣ
ĭᅈ˟ᅦᅍٟƕܱោᄂᆮሁưʙ̊ǛӕǓৢƏ‫ئ‬ӳŴ˴ƴသॖƢǕƹǑƍƷưƠǐƏᲹ
ܱោᄂᆮƴƓƍƯʙ̊౨᚛ሁǛᘍƏƜƱƸᅈ˟ᅦᅍٟƷщ᣽࢟঺ƴƓƍƯ࣏ᙲưƢ
ƕŴȗȩǤȐǷȸǁƷᣐॾƕɧӧഎưƢŵƦƷသॖໜǛᄩᛐƠƯƓƖLJƠǐƏŵ
ăžᇹᲭᇘ
ᇹᲭራ
Ჭ ᲨſᲢ ᳪ Ჯ Ჯ ᳸ ᳪ Ჯ Ჰ Უ
žࠇ஛᝻૰
ᅈ‫ׇ‬ඥʴଐஜᅈ˟ᅦ
ᅍٟ˟˟ՃƕܱោᄂᆮሁƴƓƍƯʙ̊ǛӕǓৢƏᨥƷǬǤȉȩǤȳ ſᲢᳪᲱᲲ᳸
ᳪᲱᲳᲣ
――
第1章 支部での
支部での事例検討
での事例検討会の実施状況
事例検討会を支部で推進することを目的に、実践研究リーダー養成研修は
2002年度から2004年度にかけて3回、開催されました。この研修会で
は、まずプログラムの最初に、支部で行う事例検討会の現状と課題を認識する
ことから始めました。1回目の研修会では、ほとんどの支部が事例検討会を行
っていない状況でしたが、3回目となる今回の研修では、いろいろ工夫して行
っている支部もありました。
この章では、2004年度の研修会でおこなったグループ討議「事例検討会
の現状と課題について」から、発表された内容を報告します。
――
――
2004年度の研修会でおこなったグループ討議「事例検討会の現状と課題
について」では、主に次のような事項が報告されました。
(1)支部で事例検討会が行いにくい理由
・事例検討会に対する意識が会員によってばらつきが大きい
・広い支部では、時間や交通費の点で集まるのが難しい
・適切な助言ができるスーパーバイザーがいない
・事例検討会を開催する核となるリーダーがいない
・事例提供者が萎縮し、事例提供者自体が見つかりにくい
(2)事例検討会を行いやすくするための提案
・参加しやすいネーミングにする
・社会福祉士会としての独自性が示せる事例検討会にする
・支部内ブロックで開催する
・事例検討会の意義やルールをわかっているリーダーを育てる
(3)事例検討会を支部で行っている例
・対象者を限定しないで行う事例検討会(参加費を取る支部と取らない
支部がある)
・成年後見に関する事例検討会
・支部における委員会が主催する事例検討会
・事例提供者をほめるグループと批判するグループに分けて行う事例検
討会
各プループからは、具体的に次のような内容が発表されました。報告順に掲
載します。
――
グループⅠ
グループⅠからの発表
からの発表
支部として実際に事例検討会を行っているところは少なかったです。それは、事例がな
かなか提供されないということ、会員それぞれによって事例検討会に対する価値観が違う
のではないかということです。
具体的には、事例検討会に対する意識です。事例検討会の意義について、会員によって
温度差があるのではないか。会員になられてすぐの方や1年目から3年目の方は積極的、
中堅の方もちょっと温度は下がるけれどもまだやりたい。でも年配の方になるとどうか、
また逆に先輩方のほうが「頑張ろう!」と引っ張っていただいているのだけれども、若手
のほうがついてこないというところもあるようです。
また、広い県になると、交通費がかかる、仕事が5時から6時に終わってから集まると
なれば7時に会場まで集まれない、そういった物理的な面での問題も現状を難しくしてい
るのではないかという意見もありました。
我々がこれから事例検討会を担っていかなければいけないと思うのですが、参加者の力
を十分支部で活用できていない。また、スーパーバイザーによって参加意欲に差があるの
ではないか、あるグループはスーパーバイザーがうまくまとめてくださって「参加してよ
かったな」と思えるけれども、別のグループのほうはちょっともめてしまった、というケ
ースも実際にあるようです。
また、事例検討会という、「会」という言い方がすごく構えてしまって参加意欲をそいで
いるのではないか、もっとやわらかいイメージをつくれないかということが現状として挙
げられました。
課題としては、事例検討会が継続して実施できる仕組みをつくろう、ということを挙げ
ました。
ルールをわかっている方、さきほど事例検討会は批判する場ではないことが話されまし
たが、それを十二分にわかっている人を育てるということから始めていかなければいけな
いのではないか。その方がまず支部内の各ブロックで実施していけるような仕組みをつく
っていかないと、この事例検討会というのはなかなか広まっていかないのではないかとい
うこと。肩の凝らない、おみやげを持って帰っていただける事例検討会として、何かいい
名前をそれぞれの地区で考えてやっていけたら、参加率が高まっていくのではないかと話
されました。
グループⅡ
グループⅡからの発表
からの発表
我々のグループは、支部としての事例検討会は行えていないというところが多くありま
した。しかし、支部として行っていないのだけれども、各部会や地区集会、もっと小さな
単位での事例検討会というものは行われているところが多かったと思います。
事例を進めていく中で、どのような形で事例を進めていくのかは大体決まっているので
すが、やはり、それを手法として確立して行っていけるリーダーがいない。リーダーがい
― 10 ―
ないので、なかなか助言者がうまく機能していかないというようなところも現状として挙
げられました。
課題ですが、事例検討会ではなくてどちらかと言うと単なる報告会になってしまってい
るところがあるのではないか。また、なかなか質問が出てこないのでケースが深まってい
かない。
地理的な問題として、やはり地域が広いものですからいつも来る方が固定されてきてし
まっている。そういったような点も挙げられました。
それと、この点はよく話し合ったのですが、いろいろな職能団体が事例検討会を行って
いるため、ほかの職能団体の事例検討会との違いというものを社会福祉士会で出していか
ないと、なかなか参加者がふえていかないのではないだろうか、ということが挙げられま
した。社会福祉士会としての良さといいますか、そういった部分がもう少し会員の皆さん
に伝えていけるような事例検討会のあり方、そういったことが認知されていかないと、な
かなか参加者も集まってこないのではないかという意見がありました。
グループⅢ
グループⅢからの発表
からの発表
私たちは、「事例検討会を勘違いしていたのではないのか」というのがメンバーの共通の
意見でした。
現状としては、先ほどのグループの方々もご発表されてましたが、地域が広くて集まり
にくいということがありました。職場での事例検討会であるとか、もう少し小さな単位で
の事例検討会などはされていますが、支部単位では事例検討会がなかなかできていないと
いう現状でした。
また、自分たちは事例検討会を問題解決をしなければならない場であるという考えを持
っていたのではないか、また高齢者とか障害者とか精神障害者といった分野別にこだわっ
ていたのではないか、という点が挙げられていました。
あと、パワーバランスという点では、ルールがきちんとわかった上で事例検討会をされ
ていなかったために、年長者の方が若い方に対して「それは違うのではないか」というよ
うな意見を言ってしまい、せっかく事例提供者が発表したのに萎縮してしまって何もおみ
やげを持って帰れずに帰ってしまった、そういうことがなかなか事例検討会がうまくでき
ていかなかった理由の一つではないかということが挙がりました。
また、適切な助言者がなかなか見つからない。事例によって助言者の方も変わってくる
と思うのですが、適当な助言者というものをこれから見つけていく力も必要ではないかと
いうことが、現状として挙がっていました。
課題としては、事例検討会をやるに当たっては、やはりルールというものをきっちりと
理解した上でやっていかないといけないのではないか、また、集まりやすい人数とか場所
を考えてやっていかなければならないのではないかという意見がありました。
また、事例検討会の中で、自分たちは新人を育てるということがなかなかできていなか
― 11 ―
ったのではないか。ある県の方が、これから支部の活性化に向けて、5年未満の社会福祉
士の方に声をかけて経験豊富な社会福祉士がスーパーバイズや研修を行えば、そういった
社会福祉士の方が力量を持ってくるのではないか、支部とのかかわりも持てるのではない
かという意見もありました。若い方も年配の方も一緒なのですが、社会福祉士としての専
門性の確立を一緒にしていかなければならないのではないかということでした。
最後に、我々の不幸を後世に残してはいけない、きちんと事例検討をしてお互いにスキ
ルアップをしておみやげを持って、皆さん幸せに仕事ができれば良いということで発表を
終わりたいと思います。
グループⅣ
グループⅣからの発表
からの発表
まず現状について、事例検討の実施状況を大きく3つに分けました。1つ目は、きょう
の研修で行うような対象者を特に限定せずにいろいろな内容の事例検討をやっているとこ
ろです。愛知県支部では2~3ヵ月に1回、会費を会員から 1,000 円取って半日使って行
っています。茨城県支部では年1回、参加費は取らずに行っていました。
2つ目は、ぱあとなあ関係です。成年後見人に関する事例検討を行っており、支部独自
でやっているものもあれば、ほかの団体、弁護士会とか司法書士会とか社協などと一緒に
行っていたり、成年後見に関心のある方と一緒に行っているものもあります。
3つ目が、委員会レベルでの事例検討会で、兵庫県支部ではケアマネ委員会で事例検討
をして支部独自のケアプランシートを作成したというところまで行ったというような現状
を聞きました。
課題ですが、もうほとんど前のグループが言われたようなことですが、まず、集まる場
所とか時間等、勤務の都合でなかなか集まれないということと、スーパーバイザーの有無、
及びその質とか、その場に合った適切なスーパーバイザーの確保が課題という意見が出ま
した。
一番大事なのは、やはりだれもが意見できるような雰囲気づくりをしていくことではな
いかと思います。私も若いですが、やはり会に行って年齢が上の方がおられると、どうし
てもそちらで話がまとまってしまい新人のほうにはなかなか意見を聞いてもらえなかった
りとか、意見が通らなかったりということを経験しています。雰囲気づくりがこれから大
事になってくると思います。
それから、固定メンバーでないと一から説明するため進行が遅れるということ、それと
逆になりますが、固定メンバーであると新人がなかなか入ってこられない、新しい発想の
転換も生まれないし広げていくことができないというのもまた課題であるということがあ
りました。
それから、事例検討後の成果の検証ということで、その場の検討会で終わってしまい、
継続性がないという課題が挙がりました。事例検討をしたら、その後、その事例がどうな
ったのか、話し合ったら成果や評価がどうなったのかというところまで、検証する必要が
― 12 ―
あるのではないか、まだまだ詰めが甘いのではないかということが挙がりました。
また、参加費を取って事例検討会を開いているところもあれば無料でやっているところ
もあるのですが、その参加費というものをどう受け止めて運営していくか、開催していく
か、ということも大事なテーマではないかということです。というのも、お金を取れば質
が上がるのか、あるいは安ければ、無料ならば人が集まるかというのは必ずしも比例しな
いこと。
次に、仕掛け人はだれかということです。恐らく、キーパーソンとなる方がいて、手配
なり事務なり声かけなりをして事例検討会に至りますから、この方の存在が非常に大きく
なってくるのではないか。恐らく、この研修の3日目に「皆さんがコアになりますよ」と
言われると思うのですが、これが大事なテーマの1つだと思います。
次に、事例検討会が仮に継続的に円滑的に進んでいっても、今度はマンネリ化が出てく
るのではないか。いつも決まったようなメンバー、いつも同じようなテーマ、何となく決
まったような展開では、我々のこの事例検討の目的や意義が薄れてしまうから、それを今
から防ぐための考えが大事になってくるのではないか、というような意見、共通認識に至
りました。
補足ですが、事例検討会を開いたら、参加者が、次の検討会に1人でもいいから新しい
方をお招きしようと、そういうふうなルールや心がけがより事例検討会を円滑に、そして
拡大化していくのではないかという意見が出ました。
グループⅤ
グループⅤからの発表
からの発表
私たちのグループは、事例検討会を明るく賢く元気よくイメージアップを図ろうではな
いかということで、まとまった感じでした。怖くない事例検討会を行い、何回もやってい
くと、癖になり、病みつきになり、楽しくなるというイメージです。
社会福祉士の人たちはいろいろな分野の人がいる。共通の項目での事例検討は難しいの
で参加者が少ない。他分野のテーマには興味がない。しかし、広島県支部でやっている事
例検討会は視点を変えて、共通基盤であるもの、利用者のことだけではなくて、同僚・上
司・後輩との関係性に着目する。
「言いたいんだけど言えないんだよね」とか、「どういう
ふうにしたらいいの?」とかいう相談が出てきますので、そういう部分は他分野の人も十
分興味があるのではないかというような話がされました。
「怖くない」がキーワードで出ましたが、まず、助言者、スーパーバイザーに強く言わ
れたら嫌になるからサポーティブに。それから、
「書くのが嫌だ」という場合は、スーパー
バイザーになる人がまとめるところでちょっとサポートしていく。例えば、どこに焦点を
当てていいかわからないとか、その表現がまずい場合もサポートすることで当日うまくい
きます。事例検討会が事例にとどまらず、いろいろなことを相談できるところになれば、
みんな来やすくなる。怖くないんじゃない、という話も出てきました。
― 13 ―
グループⅥ
グループⅥからの発表
からの発表
現状は事例検討会はあまりできていません。理由はスーパーバイザーがいない。難しい
ケースに対して意見を出してもらえない。
「分野が違うから」と言われて出てこない。場所
や時間の調整が難しい。
それから、同じメンバーが集まり広がらない。単なる事例報告になりやすい。事例提供
者の負担が大きいということで、現状はあまり行われていません。
でも話し合いの中で、
「こういう場面でやっているよ」というものの1つが、成年後見委
員会での事例検討会でした。だいたい定期的に行われていて、そこには他職種も参加して
いる。
それと三重県では、その中の小さなブロックが 10 年ぐらい前から、回数にしたらひょっ
として 100 回ぐらいやっているかもしれないということで、
地域で集まっているのですが、
いつの間にか飲み会になってしまっていた。でも、そういったノウハウは少しもっている。
福井県支部では、まず、事例提供者が報告をします。質問を受けます。その後、みんな
集まった人を2つのグループに分けます。1つは、よいところだけ述べるグループ。事例
提供者はこちらにいます。事例提供者の人はひたすら周りから、
「あなたすごいね。こんな
ことをやったの?」
「これいいよね、すごいね」と言われ続けます。もう1つのグループ、
よいところ以外を述べるグループです。ここにスーパーバイザーが入ります。要は、悪口
ですね。「あれはちょっとよくなかったよね。
」
「こうするといいよね。こういう方法もある
んじゃない?」ということを言い続けるグループ。これが終わりましたら記録者が発表し
ます。まず初めに、よいところ以外を述べるグループが、悪口ではなく、
「ここをこうする
とよかったかな。こういう方法もあるんじゃないかな。これはこうだともっといいんじゃ
いないかな」と柔らかく言います。そうすると、提供者の方は、
「ここは、こういうことで
こうやったんですよ」とちょっと反論します。その後で、よいところだけ述べるグループ
の代表者が発表します。
「この方はこれだけ頑張ったんですよ。すごいですよね。」という
ふうに褒めます。1番のメリット。提供者がとても心地よい。そして、いっぱい褒められ
ているから、
「またあしたから頑張るぞ」という気になれるという工夫をやっています。
事例検討会をやることで、いままで経験していないケースを追体験することで援助の幅
が広がる、また事例提供者も追体験を通して自分自身を再覚知する、そのようなことを目
指してやっていければ、という話になりました。支援者も人の子です。まずは自分自身が
元気にならないといけない、そういう感じの事例検討会ができたら良いなということにな
りました。
― 14 ―
第2章 実践研究の意義について
意義について
第1章では、事例検討会の現状と課題について確認してきました。
第2章では、その課題を解決するために、まず実践研究の意義について確認
します。これは、事例検討会を開催するうえで、その前提となるものです。
2004年度の実践研究リーダー養成研修会では、グループに別れ、講師か
ら提示された課題について回答を探しながら講義が進められました。
講義の内容と講師から提示された課題について、報告します。
ぜひ、各支部で事例検討会を主催するかたには理解をしていただきたい内容
です。
― 15 ―
― 16 ―
この章では、2004年度実践研究リーダー養成研修における、基礎・共通研修課程整
備委員会の高山委員による講義の記録を掲載します。
社会福祉士が目指すべき
目指すべき実践
すべき実践研究とは何
とは何か
日本社会福祉士会の歴史と
歴史と生涯研修制度
きょうのテーマは「社会福祉士が目指すべき実践研究とは何か」ですが、日本社会福祉
士会の歴史を辿ることにも時間を割いてみたいと思っています。そのことが、きょう私た
ちが共に学ぶ実践研究は何かということにつながってくるのだということを、ぜひ皆さん
と共有したいと考えているからです。
※※※
グループ課題
※※※
「社会福祉士と日本社会福祉士会の歴史~生涯研修制度ができるまで~」という穴埋め
問題をしてみてください。
(別紙1)
※※※※※※※※※※※※※※※※
それでは、順番に確認をしていきます。社会福祉士及び介護福祉士法のおかげで私たち
はここに社会福祉士として存在しています。この法律が制定されたのは 1987 年です。
日本社会福祉士会はまず任意団体として設立されます。1993 年、鉄道弘済会に机を 1
つ置いてこの団体を立ち上げることに始まりました。東京・八王子で設立総会がありまし
た。
同じ年に社会福祉士の実態調査を実施しています。ここでは、日本社会福祉士会設立に
あたって、会員は会に対してどのようなことを求めているのか、ということを含めて調査
しました。その 1 番目が「会からタイムリーな情報提供が欲しい」
、2番目が「継続した研
修ができる体制をつくってほしい」ということが調査から明らかになりました。
これを受けて、日本社会福祉士会は 1994 年に、まず、社会福祉士が継続して学べる仕
組みをつくろうということで、生涯研修に関する委員会を立ち上げました。日本社会福祉
士会に初めてできた委員会でした。まず自分たち自身がスキルアップしていく体制をつく
ろうということで、生涯研修特別委員会としてスタートしました。委員長は仲村優一先生
でした。仲村優一先生は、長く日本ソーシャルワーカー協会の会長をされていますが、新
しくできた社会福祉士の資格が国家資格を持つソーシャルワーカーということで、この社
会福祉士の成長に大きな期待を込めてくださっていました。そして、この特別委員会の委
員長になってくださって、生涯研修についての議論が始まりました。
そして 1995 年、2 回目の社会福祉士の実態調査を実施しました。この調査は、特に生
涯研修に関するアンケート項目を中心に実施しましたが、このとき 97.1%の会員が継続的
― 17 ―
な現任研修の必要性を認識していることがわかり、いよいよ社会福祉士にとって生涯研修
が重要であるということがはっきりしてきました。
1995 年には阪神・淡路大震災が発生しました。このとき日本社会福祉士会は救援活動
に組織的に携わることになりました。震災の 1 週間後ぐらいに長野で大会が開催されて、
いかに救援活動を行うかということなどについても話がされたと伺っています。ここでの
社会福祉士の関わりはあとでお話をしようと思います。
そして、日本社会福祉士会が社団法人化したのが 1996 年です。そして、事務局職員の
方が胸につけています CSW のマークもこの社団法人化のときにできました。ちなみに、こ
のデザインをされたのが秋山智久先生です。
いよいよ日本社会福祉士会の生涯研修制度のスタートが 1999 年です。皆さんの多くも
共通研修課程の申請をされていらっしゃると思いますので、これは身近なことだと思いま
す。
まず皆さんと共有したいことは、生涯研修を軸に日本社会福祉士会が成長を遂げてきた
ということです。
1995 年の阪神淡路大震災のことですが、このなかにも救援活動に参加された方がこの
なかにもいらっしゃると思います。この救援活動は会として組織的に取り組んだ活動でし
た。全国から社会福祉士が現地に集まったわけですが、特に社会福祉士として活動された
ことのなかの 1 つとして、独り暮らしの方の安否確認をされたと伺っています。その活動
は「社会福祉士」という肩書きでされたのです。救援活動に参加された皆さんはそれぞれ
に所属があり、それぞれに職名を持っていたのだと思います。多くの方がそれまでに「社
会福祉士」と名乗って働きをするということがなかったわけです。しかし、救援活動にお
いては社会福祉士という国家資格を持ち、法律において守秘義務が課せられている専門職
であるということで、安否確認が公的に委託をされ、その働きがなされたわけです。
そこで活動されていた皆さんは、「自分の専門分野は高齢者である」とか、
「自分はずっ
と障害の分野で仕事をしてきたから、障害のことしかわからない」とか、
「児童が専門だか
ら」というようなことを言える状況ではないことを実感されたとのことです。そこでは同
じソーシャルワーカーである社会福祉士としての働きが求められていたのであって、どの
分野に所属しているか、どの分野が自分の専門であるかということを越えなければいけな
いということを実感したと伺いました。この社会福祉士の体験は引き続き生涯研修制度を
構想していくうえでも、大きく生かされたと実感をしています。ではどのように生涯研修
制度に反映されたのかについて、確認していきたいと思います。
※※※
グループ課題
※※※
生涯研修制度には 3 つの課程があるわけですが、この 3 つについて書いてください。
(別
紙2)
※※※※※※※※※※※※※※※※
― 18 ―
生涯研修制度は、共通研修課程、基礎研修課程、専門分野別研修課程の 3 課程から構成
されています。これが社会福祉士の生涯研修制度の枠組みです。中核にあるのは共通研修
課程で、3 年を 1 期として申請し、これを更新していくという仕組みです。これは、阪神・
淡路大震災での救援活動のことも大きく影響しています。先ほど話しましたように、社会
福祉士は分野や領域を越えて、ジェネリックな力量を有するソーシャルワーカーであり、
ソーシャルワーカーとしてジェネリックな共通部分については、どのような分野に所属し
ていても理解していることが重要だということで、共通研修課程が中核に置かれました。
基礎研修では、日本社会福祉士会に入会した際に必ず全員が参加する課程です。ソーシ
ャルワーカーとしてどのようなキャリアがあったとしても、各都道府県社会福祉士会が開
催する基礎研修に参加することにより、自分が属する日本社会福祉士会のことを知り、そ
こに所属することをあらためて確認をし、研修をスタートするという仕組みになっていま
す。
そして専門分野別研修課程ですが、現在では成年後見人の養成研修、障害者の地域生活
支援、現場での実習指導分野の研修、保健医療分野のソーシャルワーカーの専門研修など、
いくつかのプログラムができています。これらの研修はあくまでもジェネリックな力量を
共通に継続して高めていきながら、自分にとってさらに必要な分野について学びを深めて
いくという仕組みになっています。ジェネリックな力量を継続して高めていくことが前提
ですので、3 年を 1 期とした申請する共通研修課程を一定程度修了しているということな
どが、専門分野別研修の受講条件になります。専門のことだけをわかっていればいいとい
うことではないということが、このように生涯研修制度に反映されています。
先ほど、1995 年の出来事として、阪神・淡路大震災とともに長野県・諏訪での第 3 回
大会のことを書きました。この大会を取り上げたのには意味があります。長野大会は 3 回
目でしたが、それまでの過去 2 回の大会においてもあせて日本社会福祉士会社会福祉学会
が、総会と同時に開催されていました。過去 2 回の学会は、他の社会福祉関係の学会のよ
うなスタイルを踏襲していました。つまり、高齢者部会、障害者部会、児童部会というよ
うに、まさに分野別、縦割りの分科会を設けていました。しかし、第 3 回目の長野大会を
開催するにあたって、当時の学会運営委員会と長野大会実行委員会では、社会福祉士とし
て集まる大会において、またわざわざそれぞれの分野に分かれる必要があるのか、分野で
の学びはそれぞれ職場を通して、あるいはその職域を通して行っているのではないか、あ
えて社会福祉士が学会をつくって、そこで相互に学んでいこうとするならば共通の基盤を
持つ必要があるのではないかという意見が交わされたそうです。
そして 3 回目の大会では、分野の縦割りではなく課題別の分科会の設定をしました。例
えば、社会福祉士のネットワークについて、在宅福祉サービスの展開について、参加型福
祉社会を創造するために、さまざまな利用者の権利を考える等です。企画段階では反対意
見もあったようですが、結果的にこのような分科会を設定することによって、いままで自
― 19 ―
分が出会うことのなかった領域の社会福祉士の方たちとの交流ができたということで、大
変好評であったという評価がされています。
第 3 回の長野大会以降、日本社会福祉士会の学会テーマは、いわゆるサービスの対象者
別の企画は一切やっていません。生涯研修制度でジェネリックな部分である共通研修課程
を重要視するということとは、このような学会の企画にもつながっています。そして現在
の学会企画は、後ほど確認していく生涯研修制度の6領域によって設定されています。社
会福祉士としてのアイデンティティをいかにつくりあげていくのかということが、日本社
会福祉士会の活動にも具体的に表れてきたと考えることができます。
ここまで、生涯研修制度のスタートまでを振り返ってきました。後半で共通研修課程の
内容について確認し、最後に私たちにとっての実践研究とは何か、ということについて、
皆さんと共有していきたいと思います。
生涯研修制度における
制度における共通研修課程6領域と
領域と社会福祉士
前半では、皆さんと一緒に 1999 年に生涯研修制度が立ち上がるところまでの歴史を簡
単に振り返ってきました。このあとは生涯研修制度における共通研修課程の 6 領域と社会
福祉士について、過去の出来事を辿りながら確認していきたいと思います。
1999 年に生涯研修制度がスタートしたわけですが、これは会が発足したときからの会
員自身のニーズであり、社会福祉士自身の責務であったわけですから、これに大変力を入
れてきました。一方で同時期の政策的な背景を振り返ってみたいと思います。
1997 年後半から社会福祉基礎構造改革の議論が始まりました。結果的には社会福祉法
の成立という形を見るわけですが、この社会福祉基礎構造改革では、
「個人が尊厳を持って、
その人らしい自立した生活を送れるように支えていく」ということがその理念として掲げ
られました。具体的な方向性としては、地域での自立生活支援や、地方分権や規制緩和の
流れがありました。一人ひとりの自立生活を支えるという意味では、利用者主体の社会福
祉サービスのあり方への構造転換があり、さらに福祉文化の創造についてもうたわれまし
た。なかでも利用者とサービス提供者との対等な関係の確立が強調されてきたわけです。
社会福祉基礎構造改革で、このことをことさら強調しなければいけなかったことの背景に
は、それまでの利用者とサービス提供者とは対等な関係にはなかったということを示して
いたと言えます。
また、これまでは主に地方自治体もしくは社会福祉法人が社会福祉サービスの担い手と
しての責任を果たしていたわけですが、介護保険制度の導入を機に、サービスの提供側が
多様化していくということがありました。そういう意味では、社会福祉の分 野に関わる一
人ひとりに大きな意識改革を求められる時期でもありました。
この改革をキーワード 1 つで表すと、
「措置から契約へ」
というふうに言われがちですが、
この「措置から契約へ」という仕組みの転換そのものが構造改革なのではないと思ってい
ます。仕組みそのものは大きく変わりましたが、仕組みを変えるだけで利用者が急に契約
― 20 ―
の主体として自立的に選択できるようになるわけではないです。つまり、仕組みが大きく
変わる中で、利用者をどのように支え、どのようにサービスを提供していくかという
そ
こに関わる一人ひとりの専門職の意識を問い直していくことが必要だったわけです。これ
がなければ、改革の理念は実現できないということだと思います。そういう意味では、社
会福祉士にも意識改革は求められましたが、単なる意識改革だけではなくて、さらには力
量形成が求められているのだというのが、この社会福祉基礎構造改革を迎えるときの日本
社会福祉士会の共通認識であったと思います。
新しい時代の社会福祉を担っていく社会福祉士が持つべき力量は何かということをあら
ためて、よりはっきりさせていく必要に迫られたわけです。もちろん、生涯研修制度その
ものをつくったということはこれに対応するための 1 つの形ではありましたが、具体的に
はどのように取り組んでいくことができるのか、ということが問われたわけです。日本社
会福祉士会の生涯研修制度は、一人ひとりの社会福祉士が主体的に、自律的に、何をどう
学んでいくのかを自分で決めていくという仕組みです。しかし、日本社会福祉士会として
この制度をスタートさせたということは、私たちが学ぶべきこと、持つべき力量を、より
具体的に表していく必要があるということは会の責任でもありました。
1999 年の生涯研修制度のスタートと同時に、社会福祉士全国統一研修がスタートしま
した。1 年目は現任研修という名称でしたが、現在では社会福祉士全国統一研修という名称
で、全国8か所で開催されています。これは、先ほど皆さんに書いていただいた 3 つの研
修課程のうち、共通研修課程の中核的な研修と位置づけ、全国共通のプログラムとして社
会福祉士の皆さんに提供していくものです。1 年目から全国で同じプログラムでスタートし
ましたが、共通研修課程の中核的な研修ですから、何がその核になるのかをさらにはっき
りさせていく必要があることを当時の生涯研修センター運営委員会は認識しました。
そこで、2000 年に共通研修課程に 6 領域を設定するという動きが起こりました。つま
り、共通に学んでいくということが大事だということが認識されたわけですが、その共通
の核として会員が共有できるものとして、6 領域を設定したわけです。
※※※
グループ課題
※※※
この 6 領域の構成をあげてください。全国統一研修に参加されている方はわかるのでは
ないかと思います。
(別紙3)
※※※※※※※※※※※※※※※※
福祉権利、生活構造、福祉経営、対人援助、地域支援、実践研究、これが共通研修課程
の 6 領域として設定されました。いま皆さんには特に順序は関係なく書いていただきまし
たが、この 6 領域を設定していくプロセスにおいては、このなかの「実践研究」は、他の
5 つと並列ではなく、むしろ「実践研究」という枠組みで他の 5 つの領域全体を括ってい
くというようなイメージを持ちました。つまり、実践研究とは、私たち自身の実践を 1 つ
― 21 ―
の学びの題材としていくということでしたので、福祉権利や生活構造、福祉経営、対人援
助、地域支援など、それぞれのテーマを実践研究という切り口からもう一度問い直してみ
ることができると考えています。ですから、実践研究は他の領域と決して並列ではなく、
むしろ全体の枠組みであるという前提で設定をしました。
このように、6領域の設定によって学ぶことの枠組みをはっきりさせてきました。ここ
で見ていただいてもわかるように、やはり、これまでの議論のなかにあった分野別ではな
く、ジェネリックな力量を高めるということにこだわりました。そういう意味では、私た
ちが社会福祉士の国家試験を受けたときの 13 科目を一旦バラバラにして、
再構成したとい
うこともできます。13 科目においても、例えば老人福祉論と障害者福祉論とで共通のこと
が出てきたりします。それは、利用者が誰であれ、ソーシャルワークとして必要なことと
して共通の部分があるのだということをここではっきりとさせたかったということでもあ
ります。ですからこの 13 科目を一旦バラして再構成をした、というかもっと言うならば当
時の生涯研修センター運営委員会としては、分野別の 13 科目を否定したいという思いがあ
りました。つまりソーシャルワーカーは分野や科目の縦割りで動いているわけではないの
だということを社会福祉士ははっきりと自覚していきたいし、そのことを形にしていきた
いという思いがあったのです。
いずれ社会福祉士は 13 科目という分類ではない学び方がさ
れていく方向性への思いです。
しかし、6 領域をはっきりさせたとはいっても、各領域の中身はいったい何かというのが
次の課題として出てきたわけです。会員の一人ひとりがその内容を目で見て確認し、共有
できるものが必要なのではないかという課題への取り組みとしてこれをテキストにすると
いう動きに繋がりました。
※※※
グループ課題
※※※
共通研修課程 6 領域に基づくテキストに関する問いです。これは、まず 2001 年に最初
のバージョンが発行されたわけですが、上から順番に埋めていただきたいと思います。(別
紙4)
※※※※※※※※※※※※※※※※
6 領域を形にするということで、これがテキストとして発行されることになりました。繰
り返しお話していますが、私たちは、まず自分がどういう分野に所属しているのか、どう
いう組織に所属しているのかということで、自分たちの仕事をとらえてきたことへの反省
に立って、新しい枠組みとしての 6 領域を設定し、これを形にしたテキストをつくること
になったわけです。現在ではさらに改訂された新しいテキストになっていますが、実は発
行時から 3 年後には改訂することを決めていました。なぜかというと、2001 年にテキス
トを発行したときには、もう既に社会福祉基礎構造改革の議論が盛んにされていましたし、
テキストが出ても介護保険制度の見直しや社会福祉法の完全施行は 2003 年であるとか、
― 22 ―
さらに動きのある時期だということもありましたので、3 年後を目処に改訂するという前提
で発行しました。予定どおり、3 年後にあたる 2004 年に『新社会福祉援助の共通基盤』
としてリニューアルされました。中身が大きく変わっている領域のものもありますし、全
体のボリュームも多くなりました。
また、はじめのテキストは会からの発行でしたが、新たなテキストは一般の出版社(中
央法規出版)からの発行としました。これは社会福祉士会の中だけで「これが自分たちの
テキストだよ」と言っているのではなく、一般に対して社会福祉士の共通基盤を言語化し
たものを示していくことが大事だろうと考えたからです。私たちが大切にしている共通基
盤はこういう内容であることを示し、そのことに対するいろいろな意見、あるいは批判が
あるとすれば、それをきちんと受け止めて、社会的な使命を果たしていくという意味で、
必要なことだと考えました。新たなテキストは 2004 年度の社会福祉士全国統一研修から
活用されています。
社会福祉士にとっての「
にとっての「実践研究」とは
それではいよいよ本題である「社会福祉士にとっての実践研究とは」というテーマにつ
いて考えていきたいと思います。最初にもお話したように、日本社会福祉士会としては、
具体的には生涯研修制度に関わってきた委員、学会運営活動に関わってきた委員ですが、
その思いとして、実践研究に至るプロセスが大事であると考えてきました。実践研究は、
単にソーシャルワーカーだから必要だということではありません。私たち社会福祉士とし
ての、あるいは会としての歴史と政策的な動向を背景として、私たちに必要な力量形成の
の領域として6領域を設定してきました。そのなかの 1 つとして実践研究は不可欠である
という強い認識がありました。
学会の活動というのは、先ほどもお話しましたように、第 1 回目の総会のときから開催
されて、毎年大会とあわせて開催されてきました。その実践に関わる活動を形にするもの
の取組としては、例えば、1994 年に発行した社会福祉士としての初めての事例集『社会
福祉士実践事例集』
(中央法規出版)があります。2001 年にはさらに新しい事例集が必要
ではないかということで、
『社会福祉士実践事例集Ⅱ』(中央法規出版)を発行しました。
私たちの実践の展開過程を示していくことが必要だということで、この新しい事例集はま
とめられました。また、事例集ではありませんが、
『社会福祉士の権利擁護実践』(中央法
規出版)もまとめています。これは事例集のように展開過程にそって実践のプロセスを示
したものではありませんが、社会福祉士として「権利擁護」ということに焦点を当てて、
いかに利用者に寄り添う支援がなされてきたのかということを言語化した書籍を出版して
います。
私たちは、それぞれの場において、毎日毎日実践の積み重ねをしていることは事実です。
しかし、積み重ねていると言っても、何か作品のように形になって誰かに見せることがで
きたり、その作品を作る度に誰かに評価をしていただくということができるものではあり
― 23 ―
ません。ですからその実践が自分の中にも積み上げていったという実感が持てないという
ことがあるのではないでしょうか。そういう意味で、実践研究において最も大切なことは、
「言語化する」ということだと考えています。言語化するということは、文字にするとい
うことももちろんありますが、文字にする前にまず話をしてみる。自分の言葉で語ってみ
ること、これも言語化として大変意味のある重要な方法だと考えています。
私たちが実践研究をどういう枠組みで考えているかということですが、実践研究のテキ
ストの目次を見てください。
※※※
別紙5参照
※※※
これは、
『新社会福祉援助の共通基盤』の実践研究の中扉のところにある目次です。実践研
究の枠組みはどういうものか、これが現段階での構成です。第1節は総論として「実践研
究の意義と方法」がありますが、第 2 節から第 7 節までは具体的な方法について書かれて
います。
「社会福祉援助活動の記録」、
「社会福祉調査の方法」、
「実践評価の方法」
、
「事例研
究の方法」、「スーパービジョンの方法」、「実践研究発表の方法」です。すべてが具体的な
方法について書かれているものです。そして、すべてに共通することは、何らかの形で言
語化しなければ共有することができないということです。
今回の研修では、このなかの「事例研究の方法」が中心になるわけですが、この事例研
究の方法に取り組む前提として、皆さんにはまず事例を書いていただくということをしま
した。もちろん、事例をまとめていただく前段階には、皆さんそれぞれの実践の記録があ
ったと思います。それを共有するための資料として、もう一度言語化をし直していただく
という作業をしていただきました。ですから、援助活動の記録ということについても今回
の研修での学びになるのではないかと思っています。
もう 1 枚、「実践研究 本科目のねらい」を見てください。
※※※
別紙6
別紙6参照
※※※
これは実践研究の扉の次のページに書かれています。では、どうして私たちはこれらの
活動の記録や調査の方法、実践評価の方法、スーパービジョンの方法などを学ぶのかとい
うことが書かれています。前段のところだけご一緒に確認してみたいと思います。
「近年の社会福祉を取り巻く状況は大きく変化し、うねりとなって、社会福祉士に迫って
いる。現場における長年の経験のみでこの大きな変化に対応することが困難であることは、
現場に働く社会福祉士自身の実感であろう。専門職である社会福祉士として有している知
識や技術とはどのようなものか。これらをどのように活用することができるのか。そして、
その成果は何か。さらに、それらをどのように評価し、検証すべきかということを、自ら
の試行と実践、そして、社会福祉士相互の研鑽を繰り返し、蓄積していくことを通して明
― 24 ―
らかにしていくことが問われている。これは、専門職としての責務でもある。
」
これが、私たちが実践研究をしていくことの目的であると考えています。実践研究とい
うのは、外部の先生に来ていただいて、話をしていただくことで解決するものではないと
思います。もちろん、そういう方法も有効なことがありますし、それが必要な場面もあり
ます。しかし、実践研究の材料は一人ひとりの社会福祉士がその内側に持っているという
ことを確信するところから始まるのだと考えています。だからこそ、今回皆さんに事例を
出していただいて、これを研修の題材にすることができるのです。ですから、自分自身が
やってきたことを言語化することによって初めて共有することができ、共に学ぶ土壌がで
きると考えています。
最後の資料になりますが、
「実践研究の意義と方法」を見てください。
※※※
別紙7
別紙7参照
※※※
テキストを既にお持ちの方は読まれていらっしゃる方もいるかもしれませんが、これは
テキストの実践研究の項目の第1節にある「実践研究の意義と方法」について書いたもの
です。ポイントだけ確認をしていきたいと思います。165 ページになりますが、文章の最
初に中村雄二郎さんが書かれている『臨床の知』から引用しています。
『臨床の知』にはチ
ェーホフの『手帖』を引かれている文章があります。そこを読んでみたいと思います。
「《ある控えめな男のためにお祝いの会が開かれた。集まった人々は、ちょうどいい機会と
ばかり、てんでに自慢するやら、褒め合いをするやらで時間の経つのを忘れた。食事も終
わろうとしている頃になって人々は気がついてみると――当の主人公を招くのを忘れてい
た。》(中略)主人公をそっちのけにしてにぎわった祝賀会の奇妙さ、理不尽さを描いたも
のだ。大きな転換期を迎えて、近年いよいよ明らかになってきている既成のさまざまな理
論や学問と現実とのズレを見ていると、この話を思い出してしまう。集まった人々に当た
るのは、常連のさまざまな華々しい理論や学問であり、主人公に当たるのは<現実>であ
る。」
これが「臨床の知」に書かれている引用の部分です。
「社会福祉にとって、ここでの主人公<現実>に当たるのは、実践の場であり、そこにお
いて出会う利用者の一人ひとりであろう。これまでの社会福祉の歴史は、真に一つひとつ
の実践の場や一人ひとりの利用者である主人公と向き合い、その制度・政策を論じ、理論
を展開してきた歴史であったと言えるであろうか。また、主人公の最も近くにいる専門職
が、制度・政策を論じ、理論を展開する場に、主人公を招くことを忘れていなかったとい
えるであろうか。
中村の視点に沿うならば、社会福祉の理論そのものの存在が不要なのではなく、主人公
を抜きにした理論が奇妙であり理不尽なのだということになろう。
『実践研究』への取り組みは、この「奇妙さ」「理不尽さ」をいかに乗り越えることがで
― 25 ―
きるか、そのことへの一つの試みである。
」
実践研究というのは、実践がまさにその舞台になるわけです。そういう意味では、なに
も実践の場を持っているのは社会福祉だけではありません。保健、医療の領域、あるいは
教育の場なども、サービスを利用する立場にある患者や学生など、利用者である方と向き
合っていく実践の場があると思います。そういう意味では、医療や教育の領域がこれまで
辿ってきた歴史や、それぞれの反省点を振り返っていることを、私たちが再度学んでいく
ことも大変重要になるのではないかと考えています。
ここでは、社会福祉士にとっての実践研究とは何かということを定義づけてみるという
ことを大胆に試みてみました。実践研究のテキストの 169 ページです。「理論の具現化と
しての社会福祉実践の担い手である社会福祉専門職が、自らの実践に学ぶことを前提とし
て、言語化することを通して実践課題を明らかにし、日々その実践を客観的に検証し、課
題解決に臨み、知見を積み上げるなかで、専門的知識と実践方法の統合と具現化を目指す
一連の、または循環する取組」というふうに定義づけました。
繰り返しになりますが、ここでも「言語化することを通して」と書いています。この言
語化は、実践研究にはどうしても避けて通ることができないことだと考えています。言語
化することの意味というのはいくつかあると思いますが、1 つは、書くことにより、自分だ
けではなく誰かと共有することができるということがあります。そして、自分の実践を書
いてみること、つまり自分の内側から一旦外に出すことによって、それを対象化して見る
ことができます。ある面では客観的に捉えることもできるでしょうし、もう一度主観的に
そのことに向き合ってみるということもできると思います。そして、先ほどもお話したよ
うに、言語化とは文字にすることだけではなくて、言葉にして発してみるということも大
事な言語化だと思います。確かに話したことというのは、録音をすれば別ですが、どんど
ん消えていってしまいます。しかし、話すことは誰かに伝えるためでもありますが、実は
自分自身でもう一度聞くことにもなるのです。自分で話したことを自分でもう一度聞く。
皆さんも話しながら、「ああ、自分はそういうふうに思っていたのだな」とか、「そんなふ
うに考えていたかもしれない」という気づきをされた体験があるのではないでしょうか。
自分で話しながら気づいていくということは、とても重要な体験であると思います。
今回の研修では一度言語化していただいた事例について、さらに言葉のやり取りを通し
て検討をしていくことになります。言語化した事例についてコミュニケーションをとおし
て共有していくというプロセスです。誰かが発した言葉を受け止めて、そしてまた自分が
言葉にしてみるということを繰り返していくことになります。そのことによって、自分は
何に気づいていなかったのかということに気づく、あるいは、自分の気づいていたことに
確信を持てる、そのような体験ができるのではないかと思っています。
実践研究のテキストの 176 ページに、実践研究の枠組みという図を示しています。
※※※
別紙8
別紙8参照
― 26 ―
※※※
ここではテキストで取り上げた項目を挙げています。先ほど目次で確認した項目です。も
ちろん、これ以外の実践研究の方法もあるかもしれません。実践研究の方法がすべてこれ
だということではありません。しかしここで挙げた項目は、ある面で理論化されているも
のでもあり、実践のなかで試されていることでもあります。それは、理論だけではないし、
実践だけではないものだということです。これらの方法を実際に実践の場面で試してみて、
もう一度その事柄についての理論化をし直してみる。あるいは、私だけのやり方ではなく
て、誰かと共有できる方法としてその質を向上させていく。そういうことの繰り返し、こ
こでは螺旋状に書いていますが、そのことによってそれぞれの実践研究の 1 つ 1 つの方法
がブラッシュアップされていくというようなイメージを持っています。ここには実践研究
の具体的な方法が書かれていますが、実際に活用することをとおして、書かれていること
が検証されていくのだと思います。
おわりに
私が大学で学んで社会に出てから 20 年が経過します。そのとき現場にいる方たちから
「大学で教えてくれたことで、役に立つことはあまりないから」と言われることがありま
した。どんなに社会福祉を専門的に学んできても、大学の先生が言っていることは実際の
現場では当てはまることがあまりないという言葉も聞いていました。大学を卒業して間も
なかったので、自分が否定されているような感じもしたのですが、このような表現は今も
聞かれることがあります。
やはり、社会福祉士が理論と実践は別物だという考え方をいかに越えていくことができ
るのか、そのことを示していく、その役割が社会福祉士にあるのだと思います。
「現場は勉
強していない」と言う研究者の方はたくさんいます。「これまでの経験だけで仕事をしてい
る」という批判もあります。それもある面では間違っていないかもしれません。しかし、
これに呼応するように、現場の人たちが大学の批判をして、
「専門教育は意味がない」と言
い、相互に批判し合うことを続けていったらどうなるのでしょうか。これはあまりにも意
味のない相互批判だと思うのです。ですから、理論と実践の狭間にある相互の批判や諦め
を超えたところに実践研究を構築していく意味があるのだと日本社会福祉士会では考えて
きたわけです。そして、そのことを形にするということが生涯研修制度の構築であり、6
領域の設定であり、そのなかに実践研究という枠組みを置いたということであり、実践研
究の具体的な方法を提示し、試す場としてこのような研修の場を用意したということに繋
がるのだと思っています。
今回の研修での事例検討というのは、実践研究の 1 つの方法を試す場面です。3 日間集
中してそのことに向き合うという機会はなかなかありません。私たちの実践研究は概念で
はなく形があるものなのだということを実感しながらこの 3 日間を過ごしていきたいと思
っています。
― 27 ―
(別紙1)
社会福祉士と
社会福祉士と日本社会福祉士会の
日本社会福祉士会の歴史
~生涯研修制度ができるまで
生涯研修制度ができるまで~
ができるまで~
年
社会福祉士及び介護福祉士法成立
年
日本社会福祉士会設立(任意団体)
1993
年
第1回社会福祉士実態調査の実施
→会への期待は情報提供と継続研修
1994
年
生涯研修特別委員会設置
委員長=
氏
1995
年
第2回社会福祉士実態調査の実施
→97.1%の会員が継続・現任研修の必要
性をうったえる
1995
年
阪神・淡路大震災
第3回大会(長野県・諏訪)
年
日本社会福祉士会社団法人化
年
日本社会福祉士会生涯研修制度スタート
― 28 ―
(別紙2)
日本社会福祉士生涯研修制度
日本社会福祉士生涯研修制度3
生涯研修制度3つの課程
つの課程
― 29 ―
課
程
課
程
課
程
(別紙3)
生涯研修制度共通研修課程の
生涯研修制度共通研修課程の6領域
2 0 0 0 年
生涯研修制度共通研修課程に6領域を設定
― 30 ―
(別紙4)
共通研修課程6
共通研修課程6領域に
領域に基づくテキスト
づくテキスト
2 0 0 1 年
毎年全国
か所で開催される「社会福祉士
全国統一研修」のサブテキストとして
『
』
が編集・発行される
2 0 0 4 年
改訂版発行
現在のタイトルは
『
』
*お
ま
け*
発行所:
定
価:
売れ行き:
― 31 ―
― 32 ―
― 33 ―
― 34 ―
― 35 ―
― 36 ―
第3章 支部で
支部で事例検討会を進めるために
第3章では、支部で実際に事例検討会を行うためのポイントを説 明します。
2004年度の実践研究リーダー養成研修では、事例検討会の構 成メンバー
である、司会者、事例提供者、助言者、参加メンバーがそれぞれの役割を理解
し、決められたルールのもとで事例検討会を行いました。最初は、事例検討会
を行うメンバーとそれを周囲で観察するメンバーに別れて行いました(別名:
金魚鉢方式)
。その後、3グループに別れ、参加者全員が事例検討会を2回、実
際に体験しました。ルールを意識した事例検討会を体験することで、参加者は
多くの気づきが得られています。
この章では、研修で行われたプログラム内容をもとに説明します。第1節で
は、事例検討会の意義について再確認します。第2節では、実際に事例検討会
を行う際の方法や注意点等を整理しています。第3節では、事例検討会が終わ
った後の振り返りの重要性を、実際に事例検討会を体験した参加者の声を含め
て報告します。また、事例検討会は事例を記録することから始まりますので、
第4節では、記録に焦点をあて、その重要性や方法を説明します。
― 37 ―
― 38 ―
第1節 事例検討会を始める前
める前に ~参加者が
参加者が共通して理解
して理解しておくこと
理解しておくこと~
しておくこと~
1.既存の
既存の方法論と社会福祉実践
私たち、社会福祉士は、それぞれの現場で日々「社会福祉実践」に取り組んでいる。そ
こではさまざまな社会福祉援助の「方法論」(理論)を意識的に適用したり、アセスメント
にもとづき多用なアプローチを試みたりしている。そこでは数え切れないほどの試行錯誤
が繰り返されているであろうし、社会福祉援助の仕事はそうでなければならない。
そこにおいて、既存の社会福祉援助の「方法論」が相当程度の水準で一般性・普遍性を
持っているとすれば、社会福祉士は必要な「方法論」を学び、その理論及び手順を状況に
応じて意識的に適用すれば良い。ただし、この場合は、「社会福祉実践」というよりも、む
しろ、方法論の「実際」と呼ぶにふさわしい。
しかし、現場において既存の「方法論」は、クライエントの生活習慣、意思、志向、ク
ライエントを取り巻く環境、社会関係、援助関係の違い等によりそのままでは適用できず、
一部または全部において加工、修正、応用する必要が生じる。同様に、法律等に規定され
た社会福祉の制度を私たち社会福祉士が適切に運用しさえすれば、クライエントのニーズ
が充足され、利益が守られるかといえば決してそうではない。社会福祉制度の有益性・有
効性のみならず、制度上の制約や限界、あるいは矛盾を視野に入れつつ、私たち社会福祉
士がさまざまな工夫や配慮を重ねた結果、クライエントのニーズが充足されていることは
自明である。
ここにおいて社会福祉士は、知識としての方法論の他、観察力、洞察力、経験、勘等と
いういわゆる「暗黙知」や援助者としての技能、価値観、熱意、感性等という個人が具有
している能力を総動員して援助にあたっている。社会福祉援助におけるこのような営みが
専門職の「実践」と呼ぶにふさわしい。
2.実践力
実践力を高めるための事例検討
めるための事例検討
では、私たち社会福祉士がより実践力高め、現場で質の高い援助活動を行うためには、
どのような努力をするべきであろうか。また、どのようなシステムを活用すべきであろう
か。
当然に、時には文献にあたるなどして、適宜、既存の方法論について勉強すること。職
場内外のいわゆるOJT、OFF―JTの機会を有効に活用すること等は不可欠である。
また、スーパービジョンシステムを整備、活用したり、シングル・システム・デザイン等
の用いた効果測定にチャレンジしたりすることも有益である。
その一方で、私たち社会福祉士は豊富な実践事例を持っていることを忘れてはならない。
その具体的な検討を通じて、援助の視点や組み立て方を学び直し、方法論の選択や適用の
是非を検討することができる。また、援助過程におけるクライエントの変化から自らの関
わり方を総括し、援助者としての自分自身の葛藤・気づき・変化、援助者チームの葛藤・
― 39 ―
気づき・変化等を真摯に振り返り、教訓化することができる。
このような、いわば事例にもとづいた帰納的な手法によって自らの実践力を高め、それ
ぞれの職場または支部における社会福祉実践の質を高めることができるはずである。
ここでは、そうした認識に立って、まず私たち社会福祉士が所属する職場や支部におい
て、事例検討会を実施する意義を述べる。
3.事例検討会の意義
事例検討会の意義については、社会福祉関係の著作に限らず、古くから様々な文献にお
いて多面的に論じられている。
しかし、ここでは本会が主催する「実践研究リーダー養成研修会」においてテキストと
してきた岩間伸之氏(大阪市立大学)の著作『援助を深める事例研究の方法』
(ミネルヴァ
書房)を踏まえて事例検討会の意義を整理しておきたい。
(1)対人援助の「評価」方法としての意義
一般に対人援助の評価(質的評価)方法としては、評価者の主観性を排除した統計的
な処理によるものが実証的で科学性があるとされる。しかし、援助者が用いた方法論の
是非、クライエントへの働きかけ、援助関係、援助過程、クライエントの変化、援助者
の変化等を丁寧に振り返り、追体験するなかでようやく見えてくる援助の質の分析、実
践の評価を行うには、統計的:計量的な手法では限界がある。
一つ一つの実践を評価し、次の実践を生み出す(または実践を教訓化する)ためには、
事例検討会において、1)クライエント本人の側からの理解を深める、2)クライエン
トの変化を客観的に捉える、3)クライエントの変化に伴う援助者の働きかけの内容を
吟味することが必要であり有効である。
(2)援助にまつわる「発見」や「気づき」が得られる
事例検討会において提供された事例を真摯に検討することを通じて、事例提供者、検
討メンバー双方にさまざまな発見や気づきが生まれる。
発見や気づきの範囲は、その気になればアセスメントの方法や内容、具体的な援助ア
プローチ、クライエントへの関わり方から援助者の先入観や偏見、価値観等にまで及ぶ。
参加者が何らかの発見や気づきを得ることと、それをメンバー間で共有すること通じて
援助能力の向上に資することができる。
(3)クライエントの利益につながる
事例検討会においてクライエントの理解が深められたり、援助の原則が導き出された
りすれば、事例提供者がそれを実際に援助に役立てることを通じてクライエントの利益
を高めることができる。
― 40 ―
検討メンバーにおいても、自身が担当する類似のケースに適用したり、検討を通じて
養った方法論や援助観を現場で援用したりすることによって結果的にクライエントの利
益を高めることができる。
(4)組織や職場を育てる
事例検討会は、発見や気づき等を通じて個々の事例への関わり方を学び、援助者の能
力を高めるだけでなく、組織(援助機関等)を育てるためにも役立つ。
その事例に組織(援助機関)としてどう取り組むのか。職員間の意思疎通のあり方、
援助目標の共有化、役割分担、連携等にまつわる組織上の課題等について、事例検討会
の場で真摯に検討することは、組織を改善したり、強化したりするきっかけになる。長
じて、そこから社会資源開発の課題が見えてきたり、ソーシャルアクションの課題が浮
び上がったりすることもある。
また、事例検討会が常時サポーティブな関係のなかで行われれば、職場の風通しを良
くし、チームワークの向上にも結びつく。
4.事例研究の定義
岩間氏は、事例研究について次のように定義している。
「対人援助の事例研究とは、ケースカンファレンス
ケースカンファレンスによって、当事者
当事者本人の理解を深
ケースカンファレンス
め、そこを起点として対
対 人援助の
援助の視座から今後の援助方針 を導 き出す力動的過
力動的過程
力動的過程をい
う」(『援助を深める事例研究の方法』ミネルヴァ書房)
つまり、対人援助の質を高めるための事例研究において、
「ケースカンファレンス」(=
事例検討会)は欠くことのできない装置(システム)であり、そこでは事例提供者と検討
メンバーによるライブ感覚のグループダイナミクスが展開される必要があるということで
ある。
そして、「ケースカンファレンス」の展開は、1)事務局、2)検討事例と事例提供者、
3)参加者、4)助言者、5)展開過程という5つの構成要素から成り立っており、事前
にこれらに関する準備を怠らないことが強調されている。
(図1参照)
参照)
その上で、「ケースカンファレンス」において起点となる「当事者本人の理解」には、1)
クライエントがおかれている現状についての客観的理解、2)クライエントの生活歴の理
解、3)クライエント本人が語る世界からの理解という3つの視点が不可欠であること。
「対人援助の視座」とは、1)援助関係、2)当事者主体、3)「目的」と「手段」の関係、
4)プロセス志向、5)クライエント本人のストーリーへの接近というソーシャルワーク
が本来重要視してきた視座そのものであること。「力動的過程」とは、メンバーどうしの真
摯でサポ-ティブな話合いを通してお互いが新たな気づきを得て、学ぶことのできるとい
う、いわばグループワークにおけるグループ効果を生み出すことが大切である点が示唆さ
れている。
― 41 ―
― 42 ―
第2節 事例検討会
事例検討会 ~実際の
実際の進め方~
1.不適切な
不適切な事例検討会のパターン
事例検討会あるいはケース会議等の名称で広く行なわれている具体的な事例をもとにし
た諸会議は、現場では定期的にまたは必要に応じて開催されていると思われる。しかし、
一口に事例検討会と言っても、その開催スタイルは様々であり、なかには次のような不適
切な事例検討会もみられる。
(1)すぐに答(解決策)を求めようとするもの
取り 上げられた事例に 対 する援助方針 を短時 間のう ちに導き出そう とする際に陥 り
やすいパターンの一つ。提供された事例の付帯状況(事実)が不明確だったり、検討メ
ンバーが充分に事例を共有できていないうちに、無理やりに答(解決策)を求めようと
することにより、強引な援助方針や具体性のない一般的な援助方針を導いてしまう検討
会のパターン。話し合いのルールが未確立だったり、設定時間の短い事例検討会に多く
みられる。
(2)事例提供者が攻撃されたり、評価されたりするもの
仕事の合間に苦労して担当事例をまとめ記録し、発表してくれた事例提供者が、結果
的に攻撃や評価の対象になり、打ちひしがれたりする検討会のパターン。このパターン
では専ら事例提供者(援助者)の事例に対する関わり方に焦点があたるため、クライエ
ントに対する理解が深まらず、一面的な検討しかできないばかりか、事例提供者に後味
の悪い体験だけが残ってしまう。同時に「事例提供者になると大変だ」との印象が参加
者に強く残り、事例検討会はできれば忌避したいイベントの一つになってしまう。
(3)クライエント(利用者)が非難・攻撃の対象になるもの
上記の(2)のパターンとは異なり、事例提供者が傷つくことはないが、援助の困難
性がすべてクライエント自身に起因する問題であると見なされ、援助者の関わり方やク
ライエントをとりまく環境、社会資源の問題等を冷静に検討することが不充分となる検
討会のパターン。これでは、クライエントのストーリーに接近すること等は到底できな
い。
(4)上司や発言力のある人、声(存在感)の大きい人の意見に左右されるもの
検討メンバーのなかで地位が高かったり、経験が豊富だったり、自己主張が上手だっ
たりという、様々な意味でパワーのある人が検討会を取り仕切るパターン。
若い人が自由に発言できなかったり、すぐに意見を否定されたりと、サポ-ティブな
関係が形成できない状態ですすめられる事例検討会のパターン。検討会で大切なことの
― 43 ―
一つである少数意見の尊重や意見交換を通じた気づき(自己覚知)を生み出すことがで
きない。
以上のようなパタ-ンに陥らないようにするには、事例検討会において、いくつかのル
ールを確立し、参加者がそれを遵守して検討会に臨むことが必要となる。
次にそのルールを例示的に紹介する。
2.事務局による
事務局による事前
による事前の
事前の準備等
事例検討会の事務局は、事例検討会の開催に向けて、どのような領域やテーマの事例を
検討対象にするか。その事例の提供を職場または支部内の誰に依頼するか。司会者及び助
言者を誰に依頼するか等を決め、当日までに必要な準備を担う。また、事例提供者等が決
まってから検討会当日までに、事務局、司会者、事例提供者、助言者の間で、ある程度事
前打ち合わせをしておくことが必要である。
そこで打ち合わせすべき内容は、事例のまとめ方についての調整、発表時間の調整、論
点の整理等である。後に述べるように、事例検討会では「思いつき」や「ひらめき」を大
事にしながら進めるという、いわば「ライブ感」を活用する必要があるため、打ち合わせ
のやり過ぎによって当日のシナリオがすべて決まってしまうようではいけない。しかし、
打ち合わせの時点で事例のまとめ方に不備があるようであれば、事例提供者に加筆・修正
を依頼すべきであるし、資料の量が多すぎたり、発表時間が30分を大きく超えるような
場合には、予定時間の範囲で進行できるようあらかじめ必要な調整をすべきである。それ
らを通じて、司会者や助言者が、事例提供者にある程度「波長合わせ」をしておいた方が、
当日の進行を円滑にすすめることができる。
3.会場の設営・座る位置等(
位置等(図2参照)
参照)
当日、開会前までに行うべきこととして、会場の設営がある。具体的には、会場はロの
字型に設営し、事例検討会をつかさどる司会者から会場への出入り口が見えるようにする
のが望ましい。これは、進行管理上、遅れてくる参加者等の様子が把握しやすいようにす
るためである。
また、司会者、事例発表者、助言者(スーパーバイザー)は並んで座ることが望ましい。
これは途中で必要に応じた三者間の打ち合わせをスムーズに行えるようにするためと、時
間管理をきちんと行うためである。
4.所要時間・参加人数等
事例検討会に要する時間は、通常2時間~2時間半くらいが適当である。職場や支部の
状況にもよるが、この後、紹介するように事例の発表から質疑応答、事例の共有化を経て、
論点の提示、論点の検討、振り返り等を丁寧に行おうとすればそれくらいの時間が必要と
なる。
― 44 ―
― 45 ―
― 46 ―
にする。終了予定時間が不明確であると、検討メンバーが発言の機会を逸したり、途中
で退室するメンバーが出たりして、後半に集中力が維持できなくなるおそれがある。そ
うした事態を回避するため、時間内で終了できるようメンバーにあらかじめ協力を求て
おくことが大切である。
また、参加者の認知とサポ-ティブな雰囲気づくりために、参加者の自己紹介や簡単
なゲームによるアイスブレークを取り入れても良い。ただし、ここで時間を費やしすぎ
ると進行上、支障が出てくることが多いので注意を要する。
(2)事例の発表
事例発表者には時間の制限を設けずに、自由に発表してもらう。また、配布した資料
(事例及びレジメ)等にまとめてあることは、すべて口にしてもらうと良い。
時間の制限を設けないことのねらいは、事例の状況、事例に対する提供者の関わり、
援助者としての思い等をできるだけリアルに検討メンバーに伝えるためである。機械的
に発表時間を15分、20分に制限する検討会もみられるが、制限されることによって
大事な情報が漏れたり、クライエント像が充分に伝えきれなかったりするおそれもある。
しかし、一方で30分を大きく超える発表を黙って聞き続けることはメンバーにとって
は辛いものとなり、集中力を欠く可能性が生じる。
したがって、実際にはその事例を理解してもらうに必要な時間がどれくらいなのかを、
先に述べたように、あらかじめ事務局、司会者、事例提供者、助言者の間で打ち合わせ
て決めておくことが必要となる。
配布資料に記載されていることを原則として事例提供者にすべて口にしてもらうのは、
漏れなく情報を伝える目的と事例への集中力を高めるためである。書いてあるのだから
あとで読んでもらえば良いというのではなく、記載された事実やクライエントの状況を
事例提供者がどのように捉えたのかを読み取るには、事例提供者の説明の仕方や口調(言
い方)を参考にすることも有効なのである。
なお、事例等の資料は事前配布ではなく当日配布した方が良い。事前配布しても参加
者全員が読んでくるわけではないため、その時点で足並みが揃わないことがしばしばあ
る。むしろ、当日配布によりスタートラインを揃えることによって参加者の集中力を高
め、ライブ感を出すことが可能となる。
なお、事例提供者にはあらかじめ発表事例に「タイトル」をつけてもらうと良い。ま
た、発表の際には必ず「この事例を取り上げた理由」を述べてもらうと良い。これらを
通じて、事例提供者の思いや事例の捉え方が見えてくることが多いからである。
(3)質疑応答を通じた事例の共有化
事例の発表が終わったら、司会者は事例提供者に対してきちんと謝意をあらわす。そ
して、参加者のなかに他にその事例に関わっている人がいれば、補足説明をしてもらう。
― 47 ―
その後は、質問応答を通じて事例を共有していく段階に移る。この際、質疑応答は出
来るだけ「一問一答」のパターンですすめると良い。それは、事例提供者及び検討メン
バーが自己洞察しながら検討会に参加することを助けるためである。自己洞察とは、た
とえ ば、「自分の事例のまとめ方は どう だったのか」「検討メンバーに客観的事実が伝
えられたのだろうか」
「なぜそのような質問が多く出されるのか」とか、「どういう質問
が状況を確認するのに有効なのだろうか」「今の質問の仕方は事例提供者にどのような
気づきを与えたのだろうか」「自分だったらどうしただろうか」等を考えながらやりと
りするという意味である。一回の質問が長くなったり、答えが長くなったりすると、お
互いに自己洞察ができなくなってしまうため注意が必要である。
質疑応答に充分な時間をかける目的は、客観的事実の確認と事例に対する多面的な理
解を図るためである。ここでは、クライエント像、クライエントの変化、事例提供者を
はじめとする援助者側 のアプロー チ や 思 い等 を 個 々の検討メンバーが共感的に理解す
ることが大切であるが、同時に事例提供者は質問を受けながら自らの事例への関わり方
やアセスメントの仕方を真摯に振り返ることが大切である。
また、検討メンバーは質問を聞くことによって事例を整理していくための着眼点を学
び、質問に沿って明らかにされる新たな事実から事例への理解をさらに深めることがで
きる。「一問一答」の原則が崩れると、事例提供者も出された質問に答えることに精一
杯になってしまい、お互いに自己洞察をする余裕がなくなってしまう。
大まかな質問の順序としては「事実確認」に関する質問を優先し、
「事実確認」をある
程度終えてから、事例提供者等の「関わり方」に関する質問に移ると良い。はじめから
「関わり方」に関する質問が多くなると、どうしても事例提供者を評価するような雰囲
気になりがちであるが、この段階での事例提供者に対する「評価」
「批判」「攻撃」等は
厳に慎むべきである。
なお、最初の質問者から数えて3人目くらいまでには、質疑の際に必ず「事例提供者
へのねぎらいの言葉」をかけてから質問するよう司会者が促すことが望ましい。事例提
供者にねぎらいや謝意を表すことを通じて、 全体にサポ-テ ィブな雰囲気が形成され、
事例検討会自体の進行を円滑にすることができる。
(4)論点の明確化
事例の共有化という段階を経て、この日(回)の事例検討会で「何を検討するか」を
決める。何を論点とするかは、基本的に事例提供者が事例をまとめる過程で、メンバー
に検討して欲しいこととして整理してくるのであるが、できるだけ事例提供者が「検討
したい事柄」と検討メンバーが「検討したい事柄」を一致させることが望ましい。また、
提供された事例にふさわしい論点があれば、それを取り上げても良い。
したがって、ある程度は事前打ち合わせの際に、事務局、司会者、事例提供者、助言
者の三者で絞っておく必要があるが、事例の共有化の状況や検討メンバーの特徴を踏ま
― 48 ―
えて、その場で協議し、最終的に1~2つ程度に焦点化していくと良い。そのため、質
疑応答による事例の共有化を終えた時点で、いったん休憩を取り、その間に三者で調整
するのが無難である。
(5)論点の検討
論点が絞られれば、司会者はその論点に沿って検討メンバー全員が自由に発言するよ
う促す。その際、検討メンバーは「このような考え方もある」「このような方法はどう
だろうか」
「自分だったらこうする」というアイデアを具体的に提起するよう心がける。
現在進行形の事例を取り上げた場合に、一般的、抽象的なアイデアでは当該事例の援助
に 適用できないのでできるだけ事例の内容に即 して具 体性 のある意見 を出すことが求
められる。
ここで司会者は、できるだけ多くのメンバーが発言できるように配慮すべきであるし、
必要に応じて対峙する意見を引き出し討論する等の工夫を凝らすと良い。事例提供者は
メンバーの意見の一つ一つに逐一応える必要はなく、一通り意見が出されたところで事
例提供者としての見解や気づきを話してもらえば良い。この段階までにサポ-ティブな
雰囲気が形成されていれば、ここで多少事例提供者に対する評価的な意見が出ても充分
に受容できることが多い。
(6)まとめ・閉会
助言者が配置されている場合は、論点の検討を終えた段階でコメントを求める。また、
助言者がいてもいなくても、今日(今回)の事例検討会を通じて学んだこと、気づいた
こと等を中心にメンバーが一言ずつ感想を述べ合う。それを受けて、事例提供者が提供
者としての所感を述べる。この際、学んだこと、気づいたことをきちんと口にすること
を通じて、自らの認識を整理することができる。
最後に司会者は、改めて事例提供者をねぎらいの言葉をかけ、参加者の拍手によって
事例検討会を終了する。
6.事例提供者の
事例提供者の発表態度、
発表態度、検討メンバー
検討メンバーの
メンバーの聴く態度
(1)発表するなかでの「気づき」
事例提供者は、声に出して発表するなかで、記録のあいまいな部分、事実確認が不十
分な部分、自分の「思い」や「感情」などに「気づく」ように努める。
(2)発表を聴くなかでのメンバーの「気づき」
検討メンバーは事例提供者の発表内容を、身を入れて真摯に聴きながら、
「事実」「状
況」「クライエント像」「発表者の思い」などを理解し、事例を共有するように努める。
「事実」や「状況」にあいまいな点があれば、発表を聴きながらチェックしておく。
― 49 ―
チェックした内容は、その場のサポーティブな関係や雰囲気に配慮しながら、事例提供
者に質問し、さらに共通理解を深める。
7.助言者の
助言者の役割
助言者を配置する場合、その役割は概ね次の通りである。
(1)事前相談を含め、事務局と司会者を適切にサポートする役割
事例検討会では当日までの準備が成否を分けることになることもあるため、助言者は
メンバー構成、事例のまとめ方、発表時間、論点の整理などに関して事前に事務局の相
談に乗り、円滑な運営をサポートする役割がある。
事例検討会当日も、司会者が適切に質疑や意見を引き出し、時間内で検討会を終えら
れるように側面的に援助する。
(2)論点を整理する役割
事例提供者、司会者とともにあらかじめある程度絞った論点を、事例検討会当日の質
疑応答、共有化の状況等に合わせて修正したり、変更したりする役割を担う。
論点整理は、柔軟に行うことも必要であるが、一方で事例提供者の意向を優先し、事
例提供者が、いわば「お土産」を持ち帰れるような内容で設定することも大切である。
(3)事例提供者をサポートする役割
事例提供者が検討メンバーによって攻撃されたり、一方的に評価されたりすることを
防ぐ役割がある。そのためには司会者を通じて介入したり、直接介入したりしながら常
にサポ-ティブな雰囲気が維持できるように努める。
(4)客観的かつ専門的な立場から助言(コメント)する役割
事例検討会のまとめの段階でスーパーバイザーとしての立場から適切にコメントする
役割がある。この際、できるだけ一般論にならないよう注意し、当日検討メンバーから
出された意見、議論された内容、検討会の流れ等を踏まえて具体的なコメントをする能
力が求められる。
助言者を配置する場合は、概ね以上のような役割が期待されるが、助言者の存在が大
きすぎると参加者が真摯に事例を検討することなく、助言者のコメントに依存する傾向
が生まれることがある。したがって、支部で開催する場合は、キャリアのある会員が輪
番制で助言者役を務め、スーパーバイザーとしての能力を養う研修事業の一環として位
置づける方法もある。
また、助言者を配置しない場合は、主に自己洞察を得ることを主目的にしたピア・ス
ーパービジョン的要素を重視した事例検討会として実施することも可能である。
― 50 ―
8.ピア・スーパービジョン
ピア・スーパービジョンとは、一般に、スーパーバイザーを配置せず、仲間(ピア)ど
うしで一つの事例を真摯に検討するなかで、仲間の発言や検討結果を通じて、各々が新し
い知見を得たり、自己覚知を含めた内省的な気づきを得たりすることを目的とするスーパ
ービジョンの一類型である。これをスーパービジョンの一類型とすることに対しては異論
もあるようだが、必ずしも助言者を配置しなくても、参加者のモチベーションを高め、本
書で提案しているルールを踏まえて事例検討会を開催することにより、参加者が新しい発
見や気づきを得ることは充分に可能である。
そのためには、事例提供者、検討メンバー双方が、事例から学ぶという姿勢、クライエ
ントのストーリーに近づくという姿勢を謙虚に持ち続けることが必要となる。
― 51 ―
第3節 事例検討会が終わってから ~次回に
次回に向けて確認
けて確認すべきこと
確認すべきこと~
すべきこと~
1.事例検討会に参加した
参加した感想
した感想を
感想を述べ合う
事例検討会が終わった時点で、一旦、事例を離れて検討会に参加した感想を皆に述べて
もらうと良い。なお、ここで述べてもらう感想は、事例そのものに関してではなく、検討
会の運営や進行に関することに限定すると良い。事例提供者、検討メンバー、司会者それ
ぞれが運営等に関して感じたことを総括し、次の事例検討会に生かすためである。
ちなみに、「2004年度実践研究リーダー養成研修会」では、参加者から次のような感
想が出された。
(1)司会者からの感想
司会者A)今回、司会をさせていただき非常に勉強になることが多かったです。事例の
内容について、いろいろな方々から意見や質問を出していただき、共有化を図るよう
に、また論点がズレないように進めていきました。また、助言などがいろいろな形で
事例発表者に対して出されるのですが、いかにサポーティブに出して頂くかという点
で、もう少し私なりにうまくできればよかったのですが、なかなかうまくできなかっ
たのが非常に申し訳なかったです。あとは、やはり自分で実際にやってみて、いまま
で自分がやってきたのは自我流であったと思いました。今回、こういう形でやるとう
まくやっていけるということがわかりました。
司会者B)初めてこういう形で司会をさせていただきました。最初は指名されてドキド
キしていたのですが、今は、やったことですごく得るものが大きかったというのが素
直な実感です。今まで、事例検討会というのは職場でもやってきましたが、ルールに
基づいてやっていなかったですから、ルールに基づいてステージ別にやっていくなか
で、本当に気づいたことがすごく多かったと思います。そのなかで、事例発表者の方
が安心して発表していただけるように注意をしながら、一方で、発表されている事例
も頭に入れながらやるのに、ものすごく司会というのは大変な仕事なんだと改めて思
いました。事例を共有していく事実確認のところは何とか自分でもできたのですが、
その後の論点を絞るというところで、自分が経験していることについてはある程度わ
かるのですが、経験したことのない事例が出てきた時に、自分の能力では論点を絞れ
ないところがありました。やはり場数を踏んでいかないと良い司会はできないのだな
と思いました。
司会者C)午前中の模擬事例検討会を見てすごく緊張しましたけれども、サポーティブ
な感じを司会者の私の方が感じたというか、参加してくれた皆さんの意見や話に随分
救われたところがあったと実感しています。やはり、終わった後にすごく助けられた
という、そういう気持ちがすごく残っているのと、その反面、せっかく良い意見がた
くさん出ていたので、進め方によってはもう少し深まりや繋がりができたのではない
― 52 ―
か。少し努力が足りなかったかなというのを感じました。また自分がやっていく時に、
こういう「良かったな」という体験や感じを、複数の人に持ってもらえたら、事例検
討というのが少しずつでも広まっていくのかなと感じました。
司会者D)一番思ったことの一つは、助言者の方や事例提供者の方との事前の打ち合わ
せが必要ということです。どうしてかというと、司会をするなかでいろいろなメンバ
ーの方々からの質問を伺うため、自分自身で収拾がつかなくなってくるのです。場が
見えなくなり、どうまとめていいのかというのが全然わからなくなってしまうという
ことがありました。前もってある程度打ち合わせを行い、どういう状況になりそうな
のかとか、ある程度の予測、そういったことを踏まえた上で進めた方がうまく進行が
できるのではないかと思いました。
これから支部に 戻 って会員の 皆 さんに事例検討会の方法について説 明していく機
会を持つことになるかと思いますが、今日いろいろなプレッシャーを感じながら進め
ていきました。一番プレッシャーになったのが隣に座られた助言者の方です。別にそ
の方が悪いとかそういうことではなくて、助言者の方はどちらかというと私にとって
は先生です。先生という立場がすぐ隣にいて見つめられているという、そういう状況
が私にとっては大きなプレッシャーになってしまった。
どうしても自分なりの方向を、
こう持っていこうとか、ああ持っていこうと思っていても、先生が隣にいるからその
枠にはめていかないといけないのかなと思い、自分自身を全部出し切れなかった。こ
れは助言者の方が悪いとかいうのではなくて、私自身がそう思ってしまったというこ
とです。そういった意味では、もしこれから私が皆さん方に伝える立場になった時に
は、そのあたりのことも踏まえて考えていかないといけないと思いました。
司会者E)司会をして、やはり場数を踏まなければならないなと思いました。これは、
司会者養成講座、ファシリテータ養成講座、もしくは、スーパーバイザー養成講座等、
専門分野別に組織的に養成していく必要もあるのではないかと考えました。
司会者F)一言で言って、すごく楽しかったです。実は昨日緊張してちょっと眠れなか
ったのですが、本当に全体が良い雰囲気で皆さんやっていただきました。先程のグル
ープでは、助言者の方がプレッシャーだということでしたが、たぶん外部から呼んだ
らそうなのだろうなと思いますが、私のグループの助言者の方は私のフォローという
格好で最後のまとめをしていただきました。居て頂いて心強い、悩んでいても、「ち
ょっとどう?」みたいな場面で、何か言っていただけるかもしれないというところで
の安心感がすごくありました。昨日、今日と、このグループで一番思ったのが、事例
提供者の方がとても前向きで柔軟でした。メンバーからの意見等も含めて、とても良
い感じで受け止めてくださったのですが、多分、サポーティブな雰囲気をつくるのに
も大きい要素だったと感じました。
(2)事例提供者からの感想
― 53 ―
事例提供者G)始める前はとてもドキドキしましたが、話しているうちにどんどんリラ
ックスをしてきて、最後は皆さんの話のなかから自分が気づいていけた。最後に残っ
た印象は、一緒に考えてくださったなということです。私が援助することなのですが、
私一人で援助しているのではないのだと。一緒に仲間がいて、やってくれたような印
象が持てて、気持ちが緩やかになりました。今まで自分の中で思っていた事例検討会
とはちょっと違うという気がしました。事実の共有という時間、とてもストレートに
いろいろ聞いてくださる時間、自分の話の輪郭のボヤケがだんだん少なくなってきて、
自分のなかの整理になりました。気づかなかった点や、自分でもちょっと思っていた
のだけどなというところを言ってくださると、
「ああ、そこにも目を向けていいよね」
とか、そんな思いがいっぱいありました。やっぱり結論は自分が出すものだったのか
なというのが最後の印象です。それを導き出してくださったなという印象を持ちまし
た。
事例提供者H)私も事例提供をして良かったと終わったあとはすがすがしさでいっぱい
でした。ちょっと涙ぐみそうになるのを堪えていたのですが、自分だけではなくて、
ほかの方も同じような体験をされて揺れ動いていらっしゃるというのを感じました。
すごく温かい皆さんの言葉で締め括っていただいてよかったです。事前準備で、フェ
イスシートや経過の記録が、私は抜け抜け状態で出してしまったので、やはり言葉に
することと文字にすること。私にとっては文字にすることの方が難しかったので、準
備の段階で文章にするというのをもう少し頑張らなくてはと思いました。
事例提供者I)うまいサポーティブな司会の方と助言者の方と参加者の方に恵まれまし
て、皆さんにご協力いただいて、終わった時はすごく心地良く、気持ち良く終わるこ
とができました。発表してみると、本当に自分の準備の足りなさというのに気がつき
ました。まさかこんなことになると思っていないので、すごく大雑把に書いていたの
が、読むときに慌ててしまって、「こんなことも書いていなかったんだ」と思うぐら
い、準備が足りていないと思いました。自分の思っていることを文章にすることの難
しさをすごく感じています。事例検討のなかでは、本当に皆さんにいろいろな視点か
らご意見をいただいたものですから、これから自分がどういう形でこの事例に向かっ
ていったらいいのかということが、少し開けた感じがして、本当に有り難かったです。
ありがとうございました。
事例提供者J)今お話があったようにすごくサポーティブにやって頂いて、すごく安心
して何でもお話できるというような雰囲気がありました。特に、昨日お酒を飲んだ方
も一緒にいるので、やはりサポーティブな雰囲気づくりにはお酒が必要かなと感じま
した。今、とても本当に心地よい感じです。ありがとうございました。
事例提供者K)私の場合は、現在進行形の事例という形で報告、「俎板の上の鯉」をさ
せていただいたという感じです。やらせていただいて、本当に自分で気がついていな
かったことをいろいろアドバイスいただいて、これから本当に今日帰って明日からま
― 54 ―
たやっていかなければいけないのだというような気持ちが生まれました。ちょっと逃
げていたというか、どうしようかなというところもあった事例ですが、ただ、一つだ
けすごく違うなと思ったのは、参加者の方から「お疲れ様でした」というねぎらいの
言葉をいただいてうれしいのですけれども、私にとっては本当に闘いの場は明日から
です。だから、もう一回このメンバーで、例えば、一年経った段階で、「じゃ、どう
だったのか」というような検討をお願いしたいなというような気分にもなりました。
本当にありがとうございました。
事例提供者L)自分が事例を発表しているなかで、本当に今まで見えてこなかったこと
が見えてきました。それは、自分がその事例のなかでどう利用者さんと接していたか。
また、その利用者さんにどういう思いを持っていたのかというところをもう一回確認
できたということがすごく良かったです。検討会をしていく中で、本当に前向きなと
いうか建設的な話し合いができて、自分にとってすごく力やエネルギーが湧いてきま
した。ともすると、やってきたことに対して批判的であったり、失敗したらどうする
のかみたいなことを言われがちな事例でしたが、それを失敗しても良いので、そこを
次にどう支援していったら良いのだろうかというようなところを、いろいろな意見を
いただいて、自分自身が支援者でありながら、検討会の中ではすごく支援してもらっ
たような感じを受けました。
以上、研修会当日に司会者役を務めた6人と事例提供者役を務めた 6 人の感想を列記し
た。参加者間でこのような感想を述べ合うことにより、グループの凝集性がいっそう高ま
り、次回の事例検討会につなげることができる。参加者が抱いた感想を胸のなかに仕舞い
込むのではなく、口に出して表すこと(言語化)によって新たなステップに踏み出すこと
ができるのである。
2.事例提供者の
事例提供者のサポート
事例検討会が終わってから事務局が行うべきことの一つに事例提供者に対するサポート
がある。事例提供者に対して事務局としてもねぎらいの言葉をかけ、心理的にサポートす
るのである。その際、もしも、事例提供者が検討会の内容に不満やわだかまりを持ってい
る場合は、必要に応じて時間を確保し、事例提供者の思いを受けとめる等のフォローが必
要となる。
3.プライバシーへの
プライバシーへの配慮
への配慮
事例検討会終了後、
提供された事例のプライバシーを保護することは、
事務局をはじめ、
事例提供者、検討メンバー、助言者等全ての参加者の責務である。
本会では 2003 年に「会員が実践研究等において事例を取り扱う際の留意点」
(巻末資
料参照)
料参照)を定め、その周知を図っている。そこでは、①事例の特定を避けるための配慮、
― 55 ―
②情報収集及び掲載情報の制限、③所属機関の承諾、④使用後の処理、⑤出版等に際して
の配慮など、現時点で会員の共通認識とすべき事項と実務上徹底すべき手続きを整理して
いる。
事例検討会に提出される事例の作成過程において、この「留意点」が踏まえられること
は当然であるが、検討会終了後は、全ての事例を回収し、適切に処分することが事務局の
役割となる。また、司会者または事務局は、守秘義務の遵守に関して参加者に念を押すこ
とを忘れてはならない。
④検討内容の具体化(再実践)
事例検討会において討議された内容や合意された援助方針等は、当然に翌日からの実践
に反映されなければならない。職場における事例検討会の後には、合意された援助方針に
沿って業務を遂行するため、
必要に応じて関係部署との調整が行われる必要がある。また、
事務局が検討内容を機関(上司)等に報告する場合もある。
支部における事例検討会では、検討結果を事例提供者である会員の職場に持ち込んで直
接的に実践することができないため、事例提供者が討議内容等を十分に咀嚼して職場に持
ち帰ることが必要となる。その場合は、その後の取り組み状況を検討メンバーが確認する
ことができないため、改めて事例検討会を開催するか、適宜何らかの形で情報を還元する
ことが求められる。
いずれの場合でも、討議内容や援助方針をその場限りのものとせず、きちんと実践に移
すことが大切であり、検討内容をできるだけ記録に残すことが必要となる。こうした記録
化、文書化の作業は、助言者の力も借りながら事務局が担うことになる。
― 56 ―
第4節 事例検討会のための記録
のための記録 ~事例提供者が
事例提供者が心得ておくこと
心得ておくこと~
ておくこと~
1.記録を
記録を書く(実践を
実践を綴る)ということ
私たち社会福祉士には、社会福祉実践に対する主体的な努力のあり方を、クライエント
や社会等に対して分かるように説明すべき社会的責任がある。社会福祉士に限らず、いか
なる職能団体であっても、自らの実践領域(テリトリー)をベースにした具体的事例を題
材に情報交換、経験交流、相互批判、議論を重ねながら職能を鍛えていくものであり、こ
れを避けていては、職能が向上することはあり得ない。この職能開発のための題材の一つ
が「実践事例」
「実践記録」である。
一方で、多忙な現場に身を置きながら「実践記録」を書くことは大変な負担になること
から、一部に「私たちの仕事は、体を動かすことであって、研究することではない」とい
う意見もある。しかし、「体を動かし体験したこと」は、表現し、記録しないと消滅してい
く。書かなければ「体の動かし方」の重要性や「貴重な体験」から得られた教訓やデータ
は蓄積されない。結果的に私たちは、社会的責任を果たせないことになる。
2.書くまでのプロセス
くまでのプロセス
それでも「書くのは大変だ」という人は決して少なくない。そこで、次に書くまでのプ
ロセスを示す。
(1)職場や支部で自分なりに「実践を語る」ように努力する
真摯に「語る」ことによって、クライエントの生活とそれに直接・間接にかかわる自
分(達)の仕事の意味が再認識され、それを「聴く」相手と共有できるものが多くなっ
ていく。これによって「実践」の見通しが広がっていく。
(2)同時に相手の「実践を聴く」
この時、語られた「実践」に込められた相手の思いを真摯に受け止める。こうしたか
たちで他者の実践体験を自らのなかに再現する(取り込む)ことができる。
(3)つまり「実践」を「語り合う」
「実践を聴く」ことによって自らの体験が思い浮かべられ、見直され、そのことにつ
いて話したくなる。「話す」「聴く」という共感的な相互交流によって、新たな発見、見
直し、確認などが可能となる。これを、言語化の効用ということもできる。
(4)語り合いの限界と書く作業への移行
語り合いによる発見、見直しなどをより客観化し「実践」の方法や過程をロジカルに
整理するにはどうしても文字で再現する作業が必要になる。
書くという行為はイコール思考することであるため、書く行為によって必然的に日常
の仕事が対象化(客観化)されて、初めて文字になる。対象化される過程で、改めて冷
静に自らの実践を振り返るという機会が確保される。
― 57 ―
3.話しことばと書
しことばと書きことば
教育学者である小川太郎氏は、かつて次のように述べた。
「『話しことばは、表現の抵抗が少ないので、反省の余地がなく、因襲の枠への抵抗が行
われにくい』のに対して、『書くときは表現の抵抗が強いために、かえって反省のゆとりを
生じ、そこに真実にふれ、事実にせまる認識』が成立しやすいのであり、『自分が主体的に
見つめ考える自由をはるかに多く与える』ことになる。」(小川太郎「生活綴方的教育方法」
『教育』1954 年7月号)
つまり、話すことは大事だけれども、そこには限界がある。しかし書くという行為は、
話す時以上にいろいろ考えないといけない。例えば、どう表現するか、どういう言葉がこ
の思いを表現するのに適切か等と。この際、非常にじっくり考えることにより反省するゆ
とりが生じ、その結果、真実に触れ、事実に迫る認識が成立しやすいということである。
これは、当時の作文教育、生活綴方教育の意義について述べた文章であるが、社会福祉実
践における記録、つまり書くという行為の重要性を語る上でも十分示唆に富む認識である。
4.事例検討会に用いる実践事例
いる実践事例のまとめ
実践事例のまとめ方
のまとめ方 ~事前課題シートをもとに
シートをもとに~
をもとに~
さて、事例検討会に用いる実践事例のまとめ方は様々あるが、ここでは岩間氏の指導の
もとで本会の「実践研究リーダー養成研修会」において用いてきた事前課題シートの様式
に沿って必要な解説を加えることとする。(表2参照)
参照)
(1)構成要素
1)フェイスシート
一般に事例の全体像を把握するに必要な項目を網羅したフォームに沿って内容(情報)
を記載する。よくできたフォームは、必要な情報を要領よく、短時間に整理するために
有効である。
しかし、フォームに沿って機械的に情報を埋めるだけで良いか。他に必要な項目がな
いか。この事例の理解に必要のない項目はないか等は事例提供者(記録者)が自ら判断
するべきである。この判断をするための考察・検討の過程もまた事例検討のプロセスな
のである。なお、記載労力に関わる経済的観点からの書くべき分量を判断することも必
要となる。つまり、どこまで書くか。何を書くかを判断しながら書くのである。
2)経過記録
◎援助対象(者)の客観的変化をまとめる
この部分は、援助者の働きかけを軸にまとめるのではなく、援助対象(者)の変化
を軸にする。その際、単に時系列に変化を記載するのではなく、事例の「流れ」に沿
って「濃淡」をつけたり、援助経過の「起伏」を踏まえたりして書く。「流れ」のな
かでどの期間、どの場面を取り上げると援助経過を理解してもらうのに有効であるか
等も自らが検討しつつまとめる。
― 58 ―
表2 事例の
事例の経過記録
(岩間伸之著『
岩間伸之著『援助を
援助を深める事例
める事例研究の方法』1999,
1999,ミネルバ書房
ミネルバ書房より
書房より引用)
引用)
事例の
事例の経過記録
対人援助事例の場合は、本人の状況・変化を記載してください。地域への働きかけ事例の場
合は、地域(住民)の状況・変化を記載してください。
日時[担当者]
本人もしくは地域(住民)の状況・変化
― 59 ―
援助者の働きかけ
分析・考察・所感
なお、援助対象にはクライエント本人だけでなく、本人を取り巻く環境も含まれる。
つまり、そして、クライエント本人とその環境との相互作用関係、力動的な関係にも
着目するように心がけるのである(=システムとしての対象把握)。
記載上の留意点としては、「事実」と「意見」を明確に区分することが極めて重要
である。
◎援助者の働きかけの内容をまとめる
上記の援助対象(者)の客観的変化を基軸としながら、援助者の働きかけの内容を
明らかにする。働きかけには援助者の具体的な言動等が含まれるので、必要に 応じて
「逐語」で記載してあると事例にリアリティが出てくる。
◎援助者の分析・考察・所感をまとめる
働きかけの背景にある援助者側のねらい(意図)等を記載する。または、その局面
で援助者が自分の関わり方やクライエントの状況について分析したり、考察したりし
たことを明らかにすると良い。
3)所感・論点・展望の記載
苦労してまとめた事例全体を振り返っての所感を書く。その事例に関わった立場から
みた論点を書く。事例に関する今後の展望等についてまとめる。また、事例をまとめる
過程で気づいたこと、今後の援助方針、この検討会で特に焦点を当てて欲しいこと等を
提示する。
このような内容が盛り込まれることによって、事例検討会の参加メンバーが事例提供
者の「思い」を感じる取ることができる。この「思い」を感じることによって検討メン
バーが事例提供者に「波長合わせ」がしやすくなる。
(2)タイトル等
事例提供者は発表する事例に「タイトル」をつけると良い。そう することによって、提供
者がその事例をどのように捉えているか。提供者の問題意識等が明確になる。
また、「取り上げた 理由 」を事例発表の前か、発表の後に紹介すると、検討会のメンバー
に提供者の「思い」が伝わる。こうした点も、事例を共有化するのに役立つ。
(3)記録や観察したものを大事にする。記録化のなかでの「気づき」
これらのもとになるのは日常のケース記録である。ケース記録をもとにしながら、事
例を再度まとめていく作業過程で、自分の実践を振り返り、新たな気づきを得る場合が
少なくないので事例検討会のために改めて記録する行為自体に大きな意味がある。
― 60 ―
第4章 支部からの
支部からの事例検討
からの事例検討会実施報告
第4章では、2002年度及び2003年度の実践研究リーダー養成研修参
加者が、支部に帰り実際に行った事例検討会の報告を掲載します。研修参加者
からは事例検討会の現状と課題において、事例提供者や助言者の確保の難しさ
や、日程の調整、開催場所をどこにするか等の課題が挙げられていました。そ
のような課題や問題点を、具体的に支部ではどのように取り組んだか、また、
実際に行ったことで明らかになった課題などもあわせて報告されています。今
後の支部での実施の際の参考となるものでしょう。
第1節は2002年度に研修に参加した茨城県支部、第2節は2003年度
に研修に参加した富山県支部からの報告です。富山県支部からの報告は、20
04年度の実践研究リーダー養成研修で報告された記録です。
― 61 ―
― 62 ―
第1節
茨城県支部からの
茨城県支部からの報告
からの報告
1. 支部での
支部での「
での「事例研究会」実施の
実施の背景
(1)何が実施のモチベーションとなったか-支部での問題意識と重なる部分-
2002 年度第 1 回の実践研究リーダー研修に茨城県支部として参加した。それは、茨城
県支部での問題意識として、利用者と日々対する実践のなかで、専門職としての振り返り
や「よい」とされる実践の積み重ねやその構築のための研修会ができないかということが
何年も話がされてきたことと関連していた。実際に、事例報告会としてブロック単位や専
門分野での実施ができないかどうかを模索していた時期と重なっていた。
そこで、すぐに支部に持ち帰り実施できるように、2 名での参加となったのである。
(2)実施をするならまだ気持ちがあたたかいうちに!
実際に受講して、特に、金魚鉢方式での模擬事例検討の経験が、支部に持ち帰ってすぐ
に実施をしようという思いを強めた。特に、「すぐに」実施をすることにこだわったのは、
自分自身が体験し「よい」研修だったと感じた、その臨場感を伝えるためには「すぐ」に
実施しなければ伝わらないし、伝えられなくなることを危惧したためである。そこで、参
加したもう一人のメンバーと研修終了後すぐに実施日を 5 月の定時総会後の研修と決め、
具体的な準備にとりかかることにした。そこでは、「まだ気持ちがあたたかいうちに!」
を合言葉に準備を進めていった。
そして、事例検討会を開催するにあたり重要と考えたことは、①原因追求型の事例検討
にはない「気づかされる」より自らが「気づく」ことを中心とすること、②本人のストー
リーに近づくことと体験の共有化がはかれること、③若い会員へのアプローチとして「守
られる」事例研究で専門性が高まること、④参加した会員の意識改革がはかれる、⑤ブロ
ック単位での身近な地域での検討会の開催につながることであった。
2. 事例研究会の実施の
実施の目的と
目的と内容
(1)実施の目的
まず、会員に提示した目的は、「おみやげを皆が持ち帰ろう!」ということであった。
そしてさらに、①事例研究のできることが社会福祉士を規定する条件であること、②事例
研究を支部単位で実施すること、③社会福祉援助技術の向上と社会福祉士としての質の確
保のため、④ソーシャルワークの専門性のため、⑤具体的に実践のなかでいかし、何を裏
付けとして援助を展開するか(福祉の価値を中心に据えた事例研究の実施により、社会福
祉士としての専門性の向上につながる)ということを念頭に実施をすすめた。
(2)実施の内容
具体的な実施の内容を以下に示す。はじめに「事例研究の意義と方法」として事例研究
をする意義やどのようなすすめ方で事例研究を実施するかなど方法を簡単に講義した。そ
こでは、研修のなかで教示されたように事例研究の具体的な進行方法として7つの段階と
40 の内容(岩間伸之著『援助を深める事例研究の方法』ミネルヴァ書房,1999 年より)
を示し、事例提供者、司会者、助言者の役割も含め提示した。ここでは、事例研究を進め
るに際してのルール(いわゆる今までの原因追求型の事例研究ではなく、あくまで本人の
ストーリーに近づいていきながらあたかも自分自身が支援者として相対しているかのよう
― 63 ―
に事例検討を進めていくためには必要)を理解してもらい、その上で建設的な事例検討、
おみやげが持ち帰れるような事例検討を実施していくために実践研究リーダー養成研修の
受講内容をメンバーに伝達する形ではあるが講義を行った。
次に、模擬事例検討会として本部の研修で実施してきた金魚鉢方式の演習を行った。事
例提供者、司会者(研修受講者)、助言者(研修受講者)と 12 名の参加者を真ん中に、
それ以外のメンバーはそれを囲む形で模擬事例検討会に参加した。そこでも、ルールとし
て確認してきたことやポイントがあれば逐次止めて、確認の作業を行いながら研究会をす
すめていった。
そして、実際に本部の研修を受講するなかでも重要だと感じていた全体での意見交換を
最後に行った。参加者や金魚鉢の外で参加したメンバーにもそれぞれ意見をうかがい、振
り返りの作業を全体で行った。さらに、継続的に研修をしていくための情報収集として、
終了時アンケートを実施した。
3. 当日までの準
までの準備と、開催までの
開催までの困難要因
までの困難要因
実施に際しての準備としては、模擬事例検討の事例提供者と参加者の確認、事例提供者
・司会者・助言者による打ち合わせ、レジュメや事例資料の印刷、アンケートの作成が具
体的な作業となった。
特に、困難要因となったのが、事例提供者の募集であった。いくら、「よい」事例検討
会ができるとこちらから話をしても、原因追求型の事例検討に慣れているメンバーにはそ
の「よい」の意味が伝わりにくい。事例をまとめることの大変さとそれに見合う形でよい
思いをするよりはいやな思いが先行するのではないかというメンバーは多く、会報やホー
ムページなどで協力者を募ったが、結局その方法では提供者は現れなかった。そこで、ブ
ロックの代表に情報提供をしてもらい、それをもとにメールや電話で個別にお願いしてや
っと事例提供者を得ることができた。さらに、どのように事例をまとめていくかを本部の
研修で頂いた資料のコピーとともに伝え、事例の作成に取りかかってもらった。何度か、
やりとりをしながらすすめていったが、事例提供者と司会者、助言者との打ち合わせは日
程的に難しく、当日の直前になってしまった。しかし、事例提供者との事前の電話やメー
ルでのやりとりで全体像はつかめていたので、実際には問題なくすすめることができた。
もうひとつ、開催困難要因となったのが、参加者の募集であった。事例提供者と同じよ
うに、会報やホームページでの広報を行ったが応募がなく、積極的に参加しようとするメ
ンバーがいなかった。ここでも、ブロック代表にお願いし、各ブロックから 4 名ずつ参加
者を確保するように協力してもらった。各ブロックからの参加者の選定については、研修
会終了後、各ブロックでの事例検討会の開催につながるようにという思いもあってのこと
だった。ただ、その後の参加者の思いを聴くと、参加してよかったのだが事前の情報がな
にもなく参加してほしいという要請だけで当日はとまどいが強かったとのことだった。ど
のように人数を集めるかだけに気持ちが傾いていたため、参加者への配慮が不足していた
のだと反省した部分である。
4.実施の
実施の評価と
評価と課題-参加者の
参加者のアンケートから
アンケートから抽出
から抽出された
抽出された事柄
された事柄
(1)受講者の声として-おみやげを持って帰れた!
― 64 ―
研修終了後の受講者のアンケートによる代表的な意見を以下に挙げる。
・事例を通して、制度提供の前にまず、クライエントへの理解、そしてどう生活し、生き
ていこうと思っているのか等、かかわる上での心構えを学べたと思います。
・職場での事例検討とは、また違う雰囲気やり方で新鮮な感じでした。こうしたらどうか?
こうだったらどうだったのかという検証ではなく、その時の感情・考え・方策を振り返
ることで、新たな気づきができるんだと言うことを感じられた。今後、職場でのカンフ
ァレンスなどにもいかしていきたいと思います。
・難しく感じました。でも、参加者のなかで「どうしてこの時~しなかったんですか?」
等という人はいませんでしたね。日頃、対人援助のプロとして活躍している証しだと実
感!
・とても有意義な時間でした。事例検討後にいやな感じが残らなかったのがよかったです。
利用者を一番に考えつつ、その生活をよくしていくために、家族の持つ影響力の大きさ
を痛感しました。ご本人を支援しつつ、ご家族をフォローする、周囲の調整をはかって
いくことも重要なのではないかと思いました。この部分は、ソーシャルワーカーだから
こそできる支援なのではないかと思います。
・事例検討会では問題解決に中心が行きがちであるが、やはり本人・家族・援助者の思い
というものをさらにふくらませたり、深めたりする必要性を感じた。ソーシャルワーカ
ーがケースワークすると言うことは、問題当事者を大事にするだけではなく、ソーシャ
ルワーカー自身をお互いに育てあうことが必要なのだと思いました。
このように、受講した大半のメンバーが、事例検討会に参加することでそれぞれが新たな
気づきを体験していた。また、ソーシャルワーカーの専門性とは何か、日々の実践におけ
る自分を振り返る機会となっていたことなどがわかった。
(2)今後の課題として-継続的に、実践に生かせる、エンパワメントされる-
最後に、今後の課題をいくつか示したい。まず、一つに事例研究を継続的に実施できる
体制を支部のなかにいかにつくっていくかということである。本部研修修了者だけでなく、
司会者や事務局の役割、助言者、事例提供者を、会員の積極的な参加によりまかなえるよ
うな体制をつくらなければ継続的に実施することは難しい。また、本県の地理的な条件を
考えると、中央での研修だけではメンバーのニーズに応えることは難しい。その意味では、
ブロックを単位にした研修の企画も必要となろう。今回、参加者として各ブロックから数
名を募ったが、そのメンバーが中心となって研究会を進めていけるようなバックアップを
本部研修修了者で担っていけるようにしたい。
また、アンケートの意見からも自分の実践にいかせることが検討会の重要な柱にもなる。
事例研究は、自ら気づき学ぶソーシャルワーカーとしての姿勢をつくる、また、自分だけ
でなくお互いの育ちあい(専門性を高めあう)にもつながる。そのためには、支部メンバ
ーのニーズや関心にあわせた企画をし、一人でも多くのメンバーに参加を呼びかけていく
ための工夫が必要となる。今回は、事例提供者や参加者が集まらないということが問題と
もなったが、魅力ある検討会をどうつくっていくかにかかっていくだろう。
そして、なによりも「おみやげ」をもって帰れると言うことは、自らも参加することに
― 65 ―
よりエンパワメントされることである。そのことは日々の実践のなかで悩みを抱えて立ち
往生していたり、さまざまな軋轢のなかでバーンアウトしそうになったりする自分を見つ
め直し、利用者主体のサービス展開のできる社会福祉士としての力量を磨くことにもつな
がる。今後も、継続的に、「実践に生かせる」、「エンパワメントされる」をキーワード
に支部の取り組みを進めていきたい。
― 66 ―
第2節
富山県支部からの
富山県支部からの報告
からの報告
この節では、2004年度実践研究リーダー養成研修における富山県支部の柿本尚子氏
による報告の記録を掲載します。
皆さん、初めまして、富山県支部の柿本と申します。私も去年、この実践研究リーダー
養成研修に参加させていただき、たくさんの方々とのすばらしい出会いがありました。新
しいたくさんの良い仲間と出会い、とても心地よい貴重な体験をさせていただいた3日間
でした。今回も皆さん方は、たくさんの方と出会われることと思います。
私自身、研修に参加しましたが、社会福祉士になってまだ1年もたっておりませんでし
た。私は社会福祉士になって、まず社会福祉士会に入って、例えば自分の事例について、
それこそ職場での事例研究というものはありますがそういう職場の人間関係のない、同じ
仲間として本当に語り合える場の中で、いろいろな話ができたらいいなということを常に
思っておりました。
それで、先輩の社会福祉士の方にいろいろ相談をしましたが、その時点で富山県支部に
はそういう場はあまり多くありませんでした。定期的な研修会はやっていましたが、先生
の講義を一方的に聞く研修会が中心でした。
「じゃあ、そういう場はつくればいいじゃない?」、「どうやってつくっていこうか」
というようなことが、その先輩との話の中で出てきました。そのような時期に「実践研究
リーダー養成研修」に参加する機会を得ることができました。参加して、「ああ、これは
使える」というふうに思ったのです。「こういう方法でやればいいんじゃないか」という
ふうに思って富山に帰りました。
支部に戻り、研修でやってきたことをほかの方々に伝えて、「それは良いんじゃない」
ということになり、「やろうか」というふうになったのですが、堅苦しい研修はとても無
理だと思いましたので、「じゃあ、気楽にお茶を飲みながらでもできるようなところから
始めませんか」ということで、ワーカーズ・カフェというものを去年の4月から始めまし
た。
毎月最終金曜日の7時から、社会福祉士のみんなが集まってだれかの事例を研究すると
か、たまには愚痴をこぼし合ってもいいのではないかということで始めました。おいしい
コーヒーを入れてくださる社会福祉士の方もいらっしゃり、今も行っています。
第1回目が、私がここで勉強してきたことを皆さんにお伝えする場になりました。それ
で、何をしてきたのかを言葉でいろいろ説明するのですが、なかなかうまく伝えられない
ことも現実でした。そのため、「だれかの事例を使ってとにかくやってみよう」というこ
とになり、2回目、1ヵ月後ですが、ワーカーズ・カフェで事例検討を行うことになりま
した。
ある知的障害者の更生施設に勤めている会員さんが事例を提供をされることになりまし
― 67 ―
た。そのときの会員への案内文書では、「検討する側と傍観する側に分かれて展開する新
しいやり方でディスカッションをします」というふうに案内をしました。どのくらいの人
数が集まるかよく分からなかったので、ここの場で去年私が体験したことなのですが、10
名から 15 名ぐらいで事例検討会を行い、それ以外の人たちは見る側に回ってやろうと思っ
たのです。結局集まった人数が 15 名ぐらいでしたので、みんなが参加者ということになっ
て行いました。コーヒーを飲みながらとてもざっくばらんな雰囲気で始めました。
事例は40代後半の知的障害者の方のものでした。私が司会をさせていただいて、『援
助を深める事例研究の方法』という岩間先生の本を片手に進めました。この本には、「ど
ういうふうな流れでやっていけばいいですよ」ということや、「司会者はどういうふうな
ことを言えばいい」ということをきちんと細かく書かれています。
この実践研究リーダー養成研修は3か年事業ということで、私の1年前にもこの研修に
参加していらっしゃった方がいましたので、その方にもサポートをしてもらいながら行い
ました。助言者には富山県支部の副会長であり、短大で講師をしていらっしゃる方になっ
ていただいて、事例検討会を行いました。
きょう、これから皆さんも学ばれると思うのですが、事例検討の場は、みんなでその事
例について、「何でそうなったの?」と原因を追究する場ではなく、みんなでその事例を
追体験して社会福祉士としての質を上げていく場なのだということを学びました。そこで、
「なぜそうなったのですか」という原因追究するような質問ではなくて、事例提供者と一
緒に事例を共有できるような質問をしましょう、ということで進めました。メンバーの感
想に「ねぎらいの言葉が少なかった」ということが出されましたが、「ねぎらいの言葉を
言いましょう」と言ったわけではありません。「一言、この事例に対する自分の思いなど
を加えてから質問をしましょうね」というふうに進めたところ、「『こういうふうなとこ
ろは大変でしたね』というねぎらいの言葉を言われる方も多かったので、もっとそういう
ことを自分は言うべきだった」というような感想を持っていらっしゃる方がおられました。
事例検討会は2時間ぐらいでと思っていたのですが、司会も上手ではないものですから、
話もあっちへいったりこっちへいったりで、結局、2時間半から3時間ぐらい時間を費や
していたかと思います。やはりどうしても、知的障害者のことでしたので、知的障害者の
福祉の制度についての質問が多くなったということもありました。
また、全員が意見を出し合いましょうというふうにこの研修でも習っていましたので、
気軽に意見を出してもらおうということで、別に当てるわけではないのですが全員から一
言ずつ発言していただきました。人数も少ないですし、同じ富山の中で少しは知った顔な
ので話はしやすかったのかと思うのですが、中にはやはりちょっと堅苦しい感じを受けた
という方もいらっしゃいました。今日も先ほど皆さんの中で笑いが出ていましたが、最初
にアイスブレイクみたいに、ああいうような楽しい、打ち解けるようなアイスブレイクが
あってから始めればよかったのではないかというご意見もありました。
事例検討の場は、事例を提供してくれた方を責める場ではありません。みんなでその人
― 68 ―
の事例を一緒に体験して、社会福祉士としてソーシャルワークの質を上げようという思い
で行いましたので、みんながおみやげを持って帰れるような内容にしよう、時間にしよう
ということを思っていました。
おみやげを持って帰れるというのは、その場に来て何かよかった、来てよかったと思え
る研修、そこに行って自分が高められたのではないかと思える研修と言えると思います。
よく、「エンパワメントを高められる」というような言葉を使いますが、やはり援助する
側である社会福祉士がエンパワメントを高められていなかったら、利用者の方もエンパワ
メントがなかなか高められないのではないか。職場の中とか日々の活動の中、仕事の中で
は、どうしてもうまくいかなかったと思って悩むことも多いと思うのですが、同じ社会福
祉士の中でそういう話をすると、「そうだよね」というふうに共感できたり、「こういう
ときはこういうふうにすればいいんじゃない?」ということも素直に聞けるような気がし
ます。そういう意味でも、社会福祉士会として実践研究をする意味があるのではないかと
思っています。
1回目の事例検討会は何となく終わったという感じでした。ことで、じゃあ、2回目は
どうしようかということで、今度は違う事例で行いました。そのときは1回目に参加され
た方が、「次は私が事例を出すから私のことを一緒に考えて」みたいな話になりました。
この方に事例を提供していただいたのですが、模造紙に自分で絵を描いてきてくださり、
私たちがよりその事例に近づけられるようにすごく工夫をしてくださいました。ある意味
楽しくその時間は過ごしていったのではないかと思っています。
だからこそ、これでいいのかなというところもたくさんあります。楽しければいいのか
というとそうではないと思います。ワーカーズ・カフェというのは本当に、コーヒーを飲
みながら気軽にというところからスタートしていますので、とても出入りも激しく、時間
の途中から来たりとか途中で帰ったりということもあります。ちょっと話が途切れたりと
か、新しい方が突然入ってくると話がわからなかったりという問題点もあるので、果たし
て、このワーカーズ・カフェの中でやっていくのはいいのかどうなのかというところは、
実は、いま悩んでいるところではあります。そうではなくて、少し、「きょうは事例研究
をしますから」ということできちんと時間を決めて、あまりラフになり過ぎないような場
面をつくってやっていく必要があるのではないかというふうにも思っています。
ぜひ私は、こういう形での事例検討を職場の中でもできればいいと思っているのですが、
どうしても職場の中だと、さきほど話したような利害関係とかいろいろ問題があると思い
ます。でも、別に事例検討は社会福祉士だけの問題ではないと思うのです。事例検討を通
じて援助の質を高めるというのは、それぞれの職場においてもとても重要なことだと思い
ますので、皆それぞれの職員がエンパワメントを高められるような事例検討の場を職場の
中でつくっていくのも、社会福祉士として必要なことなのではないかと考えております。
ただ、実際にどういうふうにやっていくのかはまだこれからです。ぜひこういう、心地
よい時間を過ごしたという体験をみんなに持っていただけるような研修を、職場の社会福
― 69 ―
祉士とも頑張りたいと思っていますが、そういう人数が少ない。だからこそ、支部でみん
なでやれる意味もあるのかと思っています。
具体的な内容はあまり説明していませんが、きっとこの3日間で皆さんも事例検討の方
法を体験されて、それは何かすごく心地のいいものだというふうに感じてもらえるのでは
ないかと思っています。そうやって心地のいい時間、自分が「ああ、よかった」と思える
ような時間を過ごすことがエンパワメントを高められる場だと思っていますので、こうい
うことを継続していく必要性もあると感じております。
継続していくと言いながらもなかなか実際難しくて、いまワーカーズ・カフェは毎月必
ず1回やっておりまして8回やっているのですが、中には、参加者が少なくなってきたり
する現状もあり、もっとみんなが参加してよかったと思えるような内容にしていかなけれ
ばいけないと思っています。きょう富山県支部からも参加していらっしゃいますが、この
研修に参加し ている 人 はそれぞれの各支部に3 人いらっし ゃ ることになると 思 いますの
で、多分、1人の力ではできなくても、3人寄れば何かまた違う形が見えてくるのではな
いかと思って今後に期待をしております。
社会福祉士になって私は本当に間もないのでこのような場で話をできるような立場では
ないのですが、実戦を積み重ねていって、それぞれの方が自分が体験していない事例も追
体験できることによって本当に質も高められていくのではないかと思っていますので、こ
ういう事例検討の場は大切にしていきたいと思っております。
【司会者】ありがとうございました。ここから質問に入らせて頂きます。
【研修スタッフ】昨年の研修の成果を1年後にここで報告をしていただけたこと、とても
うれしく思っています。すごく喜びを持っていまの報告を聞かせていただきました。いま
のご報告の中で、柿本さんの言葉の中で「心地よかった」というのが何回か出てきたので
す。去年の研修で何が柿本さんにとって心地よかったのか。これからぜひ皆さんにもその
心地よさを体験してもらいたいと思っているので、どこが柿本さんを心地よくさせたのか
をぜひ聞かせていただければと思います。
【柿本】さきほども話しましたが、「何でこんなことが起こったの?」ということを追究
していくのではなくて、その利用者にいかに近づいていくかみたいな、「その利用者はこ
ういうふうに思っていたんだよね」というところにいかに近づいていくか、という体験が
できたことが心地よかったのではないかと思っています。どうしても事例検討会は、「何
で?
何で?」みたいなことが多いのですが、研修では否定される場面ではない、という
のをすごくよく感じたのです。だから、心地がよかったのかなと思っています。
【参加者A】ちょっと教えていただきたいのですが、このワーカーズ・カフェの案内方法
と、場所はいつも同じ場所でされているのでしょうか。それとも、場所は変えてされてい
らっしゃるのでしょうか。
【柿本】同じ場所です。一応、支部の事務局のある場所でやっております。案内方法は支
部の広報誌、通信とか、あとはインターネットの掲示板には出します。そういうような方
― 70 ―
法で、別に、その都度はがきで連絡しているということはありません。
【参加者B】広報誌やインターネットに載せるときの呼びかけのキャッチフレーズや言葉
というのは、どのように興味を引きつけるように載せていらっしゃるのか、ということが
1つと、ワーカーズ・カフェに集まっている方は、皆さんソーシャルワーカーをされてい
る社会福祉士なのか、それともいろいろな職種の人たちがお集まりになり事例を出してい
らっしゃるのかをお聞かせください。
【柿本】キャッチフレーズは「ワーカーズ・カフェ」という、FMラジオだったと思いま
すが、そこからとったものです。あとは、「きょうはこういう事例です」という内容を出
してありますので、それに興味を引かれた方が自由に参加していただくことになっていま
す。
参加される人たちですが、児童や高齢、障害と分野も違いますし、職種も、学校の先生
やソーシャルワーカー、施設の指導員というような本当に多種多様で、「こういう系です」
とはちょっと言えないと思っています。
【参加者C】事例ですが、毎回新しい事例が出てくるのでしょうか。
【柿本】はい。一応、毎回新しい事例を出しています。
【参加者C】それは、柿本さんがだれかに出してというのではなくて、もう自然に、「私、
今回出したいわ」というような人がいらっしゃるのでしょうか。
【柿本】そうですね。「次、どうする?」という話が必ず最後にありまして、「じゃあ、
次は私、出すわ」とか、「そういう話をちょっと聞いてみたいな」というような思いのあ
る方、例えば、障害者の話題を聞いてみたいと思う方が「だれか障害者のほうから出して
もらえない?」ということになるときもあります。
【参加者D】いまのお話を伺っていて参加者が毎回変わるということで、検討会を進める
に当たって不都合みたいなことがありますか?
やり方に慣れているメンバーだとスムー
ズにいくのに、同じことを毎回説明しなければいけないみたいなご苦労はありませんか。
そこを教えていただければと思います。
【柿本】そうですね。確かにルールとして、「原因追究ではないんです」ということは、
初めに確認をして進めていくので、特にその都度何か細かい説明が必要だということはな
いです。また、きっとみんなもそういうことをわかってきていると思います。
【参加者D】私もよく事例検討を行っているのですが、限られた時間の中で進めるのに、
メンバーの中にどうもこだわりを捨てられない人がいると止まってしまうのです。そうい
うものをどうさばいているのかを聞きたいのですけれども。何回も慣れている人だと、「こ
ういうものではないから、それでいくよ」といくけれども、初めて来た人がこだわってし
まうと、そこで止まることがありますよね。そういうことを聞きたかったのです。
【柿本】そうですね。その辺は、助言者にお願いする場合もあります。
【参加者D】助言者は固定ですか。
【柿本】いえ、それも変わります。でも大体、福祉短大の先生が2人おられてそのどちら
― 71 ―
かになることが多いです。
【参加者D】助言者がきちんといれば、パッと止めるのも簡単なのかしらと思うのですけ
れども。事例検討会も、きちんと司会がいてスーパーバイザーがいるときはうまくいくけ
れども、そこを決めていないとうまくいかないことがありますよね。
【柿本】多分、「それもいいかな」と言って、そんなにまだ経験や回数を積み重ねてませ
んので、多分、そうなって終わっていっている場面もあるのかなと、そう感じている人も
いるのかなと思います。正直、私もそう感じるときもあります。だから、すべてパーフェ
クトにうまくいっているわけではないので、「そういう日もあったね」というぐらいです。
だから、「ワーカーズ・カフェ」でちょうどいいのかなと思ったりもします。これが本当
に「事例検討会」とやってしまうと、それではちょっと逃げられなくなってしまうところ
もあるのかなと思っています。
【研修スタッフ】きょう来られている方は支部で役割を担わなければいけないということ
で、先ほど事務局的な役割をどうするかということで、広報の話なども出てきました。そ
のあたりはどのようにされていますか。
【柿本】一応、広報は固定で広報担当がおりますので、ホームページにアップしたりする
ことはその方が中心になってやっておられます。また、例えば、事例を印刷するとか、そ
れこそいろいろな用意ですけれども、それもその場で集まったところでコピーをしていま
す。そんなに大変な事前の用意というものはないです。
その辺がルーズな分だけ、先ほど言いましたが、「検討会」ではないので、割とみんな
で集まってきて「じゃあ、その事例をみんなで語り合おう」というような雰囲気になって
いるのかと思っています。
【司会】ありがとうございました。
富山県支部の柿本さんのお話、いろいろと参考になったことと思います。支部のすごく
いい雰囲気、あっさりと「みんなでつくっていこう」という雰囲気が伝わってきて、私な
ども、「ああ、こういうやり方もあるのだな」と思いました。私は大阪支部ですが、どう
しても大きな組織になってくると組織論でものが走ってしまうのです。何かこういうホッ
とした感じで進めていくというのも1つのやり方なのかなと思いました。改めて、こんな
空間はいいなと、この「カフェ」という名のよさみたいなものを感じさせてもらいました。
本当に今日は遠くから、発表のためにわざわざ東京まで来ていただきました。柿本さん、
どうもありがとうございました。
― 72 ―
おわりに ~支部で
支部で開催する
開催する上
する上での心得
での心得~
心得~
この 3 年間の実践研究リーダー養成研修を終えて、われわれ学会運営委員、
基礎・共通研修課程整備委員も 1 年ごとに学びを深めていくことができたよう
に感じています。最後に、実践研究リーダー養成研修およびこの報告書をふま
えて、支部で事例検討会を行う際の留意点について触れておきたいと思います。
実践研究リーダー養成研修に参加された多くの方が、ここで行った事例検討
会をぜひ支部でも実施したいとおっしゃって下さいました。この研修の事例検
討会で「心地よさ」や「明日の実践につながる何か」を感じて下さったからで
あろうと思います。この事例検討会における「心地よさ」を支えるのは、
「共感」
と「気づき」でしょう。事例提供者は「思い」を込めて自身の事例を検討会へ
提供して下さいます。この検討会はこうした事例提供者の「思い」に共感しつ
つ、今まで気づかなかったことに「気づく」ことができることが意義の一つで
す。サポーティブな雰囲気の中で検討会の参加者が、発表された事例に対して
それぞれの立場や経験から質問やアイデアを出していく作業が大切なのです。
しかし共感するということは参加者が事例提供者と同一化するということでは
ありません。検討会を進めていく中で、最初から事例提供者が論点をしぼって、
それに関する情報だけを提供して欲しいという意見が出たこともありました。
しかし、それでは事例提供者の主観の中に閉ざされた検討会となってしまわな
いでしょうか。
「気づき」を得るためには、さまざまな人格がそこに主体的に参
加して、さまざまな観点からの検討を行うことが必要だと考えます。時間や手
間がかかると思われがちですが、不適切な事例検討会のパターンの例にもある
ような「すぐに解決を求めようと」しないためにも、その事例を真摯に受け止
め、ていねいに読み込んでいく作業は欠かせないものであると思います。
こうした実践を支部で取り組むということは、それぞれの支部の状況によっ
てさまざまでしょう。しかし参加者が参加したいと思う雰囲気、参加してよか
ったと思えるような事例検討会にしていくことをめざしてこの研修会を開催し
てきました。この報告書でも茨城県支部、富山県支部の実践事例を報告してい
ます。その他の支部の取り組みについても、養成研修参加者たちで互いに情報
交換が行われていることと思います。それぞれを参考にしながら独自の事例検
討会を模索し、実践していただくことを願っています。
岩間先生のご指導のもと企画した養成研修を、このような形で報告書として
まとめることができたことに感謝いたします。またこの報告書が支部における
事例検討会の参考資料として役立つことを望んでやみません。
2005年3月
学会運営委員会 委員長 塚本鋭裕
基礎・共通研修課程整備委員会 委員長 土谷長子
― 73 ―
― 74 ―
巻末資料 1
支部で事例検討会を行うために参考となる資料を巻末資料1としてまとめま
す。ぜひ、有効に活用をしていただければと思います。
(1)事例提供者へ依頼する際の資料
①事例の経過記録書式
②会員が実践研究等において事例を取り扱う際のガイドライン
(2)事例検討会の全体の流れ
③ケースカンファレンスの40のポイント
④事例検討会の展開過程(例)
(3)会場設定
⑤会場レイアウト
(4)司会者の参考資料
⑥司会進行の手順(例)
(5)参加者の参考資料
⑦参加者の心得
― 75 ―
― 76 ―
① 事例の
事例の経過記録書式
(岩間伸之著『
岩間伸之著『援助を
援助を深める事例
める事例研究の方法』1999,
1999,ミネルバ書房
ミネルバ書房より
書房より引用
より引用)
引用)
事例の
事例の経過記録
対人援助事例の場合は、本人の状況・変化を記載してください。地域への働きかけ事例
の場合は、地域(住民)の状況・変化を記載してください。
日時[担当者]
本人もしくは地域(住民)の状況・変化
― 77 ―
援助者の働きかけ
分析・考察・所感
② 社団法人日本社会福祉士会
のガイドライン
会員が実践研究等において
究等において事例
において事例を
事例を取り扱う際
ガイドライン第 3 号
2003 年 4 月 19 日制定
社会福祉士は「社会福祉士及び介護福祉士法」第46条において、利用者等の個人情報
に対する秘密保持義務が課されている。したがって、支援の過程において知りえた個人情
報を正当な理由が無く他者に開示することは許されない。しかし、事例を記録しそれをも
とに専門職間で検討することは、多くの学びを得ることができ、社会福祉士が利用者等を
支援する力量を高める最も有効な手段のひとつである。
ソーシャルワーカーの倫理綱領をふまえて、社会福祉士が自らの力量を高めることは、
利用者等の利益につながる。このことを目的にする限りにおいて、事例を検討することが
できる。
以上のことから、事例を扱う際には、できる限り個人情報に対する秘密保持への配慮が
必要である。当「会員が実践研究等において事例を取り扱う際のガイドライン」は、配慮
すべき留意点をまとめたものである。
1.事例作成上の注意
① 事例は会員自身の社会福祉実践を客観視しつつ、実践研究等の目的に応じ適宜作成す
る。
② 事例における利用者等の氏名、住所地、利用施設(機関)、援助者等の氏名、所属先
名称等の固有名詞は、原則として無作為のアルファベットで表記し、個人、地域、施
設等が特定されることがないようにする。
③ 援助者等の所属する施設名(機関名)及び職名、援助者が提供するサービス名称等は、
原則として法律上の名称とする。
④ 利用者等の生年月日を記載する必要がある場合には、生年までとする。
⑤ 利用者等の年齢は、特に必要な場合を除き、○○代前半(半ば・後半)とする。
2.事例作成のための情報収集上の注意
① 事例作成のために利用者の個人情報を収集する場合は、目的に合わせて必要最小限の
収集にとどめ、直接的に必要のない情報を収集しないようにする。
② 利用者以外から収集した情報については、その事実関係や客観性を確認した上で活用
する。
3.事例を研究会等で使用する際の注意
① 事例提供者は研究会の実施あたり主催者等に事例を提出する際には、提出過程におい
― 78 ―
て事例の内容が外部に漏れないように注意する。
(例えば、Eメール、FAX等によ
るやりとりは避ける。
)
② 事例提供者は、事例を提供することについて、原則として所属施設(機関)の上司等
に承諾を得ておくこととする。
③ 事例提供者及び研究会主催者は、研究会等の参加者に対して、提供された事例にまつ
わる内容を外部に漏らさないように注意を喚起する。
④ 事例を研究会等で使用(配布)する場合は、終了時に事例提供者及び研究会主催者の
責任においてすべて回収する。
⑤ 事例提供者及び研究会主催者は、回収した事例を速やかに裁断処理するなどして廃棄
する。
4.事例にもとづく実践論文や『事例集』等を作成する際の注意
① 論文や『事例集』等を作成する際には、援助経過や援助内容のリアリティを損なうこ
とがない程度に事例を加工して用いる。
② 論文や『事例集』において所属施設(機関)のケース記録等を事例としてそのまま用
いることは避ける。
③ 係争中のものや利用者と援助者の間に利害関係が生じる可能性のあるものは、論文や
『事例集』としての適性を欠く恐れがあることから題材として取り扱うことは極力避
ける。
④ 『事例集』を作成する際は、執筆者名の記載は極力避ける。
附
則
1.このガイドラインは、2003年4月19日から施行する。
2.2004年6月4日改正
― 79 ―
― 80 ―
④ 事例検討
事例検討会
検討会の展開過程(例)
Stage1
Stage1(開会)
◆会場の配置に配慮する。
(司会者から出入り口が見えるように(遅れてくる参加者が見
えるように)するのが望ましい。)
◆司会者と事例発表者・助言者(スーパーバイザー(役))が並んで座る。
◆定刻の開始と終了を厳守する。
◆参加者(メンバー)の認知(確認)は、自己紹介か簡単なゲームによる。
(アイスブレ
ーク)
Stage2(事例の
事例の発表)
発表)
◆事例発表者には時間の制限をつけずに、自由に発表してもらう。
◆発表原稿にまとめてあることは、すべて口にしてもらう。
◆最後に「援助者としての関わり」について感想を述べてもらう。
Stage3(事例の
事例の共有化)
有化)
◆他に関わっている機関があれば発表された事例についての補足説明をしてもらう。
◆「質問」を通じて事例を共有していく。この場合、出来るだけ「一問一答」のパター
ンですすめる。なお、最初の2~3人は必ず「事例発表者へのねぎらいの言葉」をか
けてから質問する。
◆質問内容は、はじめから核心に触れるものを避け、「外堀」から埋めていく。
◆「事実確認」をある程度終えてから → 「かかわり方」に関する質問に移ると良い。
◆この段階での「評価」
「批判」「攻撃」等は厳に慎む。
Stage4
Stage4(論点の
論点の明確化)
明確化)
◆事例の共有化という段階を経て、
「何を検討したいか」を再確認する。
◆事例発表者が「検討したい事柄(テーマ)
」と、事例を共有化したメンバーが検討した
い事柄を一致させる。
◆論点は事例発表者が提示しても良いし、助言者が提示しても良い。準備段階であらか
た整理しておくと良い。
論点の検討)
検討)
Stage5(論点の
◆全員が自由に発言できるよう促す。
◆議論のなかで必要に応じて「逐語場面」を再現してみても良い。
◆メンバーは「自分だったら」という意見を多く出せるようにする。
Stage6
Stage6(まとめ)
まとめ)
◆助言者がいればコメントを求める。
◆助言者がいてもいなくても、メンバーが一言ずつ感想を述べる。
◆事例発表者をねぎらう。
Stage7
Stage7(閉会)
― 81 ―
― 82 ―
⑥ 司会進行の
進行の手順(
手順(例)
Stage1
Stage1(開会)
◆「お揃いになりましたので本日の事例検討会を始めます。」(又は、時間になりました
ので本日の事例検討会を始めます。
)
「全体の終了時間は○○時を予定していますのでメンバーの皆様にもご協力頂ければ
幸いです。
」
◆「私は本日の司会役を務めます○○(所属と名前を言う)と申します。どうぞよろしく
お願い致します。」
◆「今日発表していただく事例はお手元にありますように○○さん(発表者の所属と名前
を言う)からご提供いただいた○○(タイトル名を言う)というタイトルの事例です。
」
◆「早速始めたいところですが、先ずは本日のメンバーを確認したいと思いますので、○
○さんから順番に自己紹介をお願い致します。○○さんがお済みになりましたら、右隣
の方に移ってください。
」→*所属と名前等は、司会者がその都度復唱すると良い。
Stage2(事例の
事例の発表)
発表)
◆「ありがとうございました。では、早速ですが、事例発表者の○○さんからご提供い
ただいた事例を配布資料に沿って発表していただきます。特に時間の制限を設けませ
んので、十分に発表していただきますようお願いします。
」
→*発表者には、「事例に付けたタイトル名」と「この事例を取り上げた理由」を紹介
してもらうようお願いしておくと良い。
Stage3(事例の
事例の共有化)
有化)
◆「ありがとうございました。
」→*きちんと謝意を表す。司会者としての「感想」等が
あれば一言くらい(あくまでも手短に)添えても良い。
◆「では今発表していただきました事例に対して、メンバーから「質問」をしていただ
き事例を共有化していきたいと思います。」
「まずは「事実確認」のための質問をお受けしたいと思いますのでご発言ください。
その際、ご質問は出来るだけ「一問一答」のパターンでお願いします。
なお、最初のお三方は、必ず一言「事例発表者へのねぎらいの言葉」をかけてから質問
していただきますようお願い致します。
」
↓
(「事実確認」に関する質問をある程度終えたら、発表者(又は発表者を含む援助チーム)
の「かかわり方」に関する質問に移る。なお、途中で「評価」
「批判」
「攻撃」的な「質
問」が出た場合、司会者は適宜「介入」する。
)
↓
◆(「質問」が一通り終了したら、発表者に「質問に答えながら気づいたこと、自己洞察
できたこと」
「感想」等を述べてもらっても良い。
)
― 83 ―
例:「ありがとうございました。大分、質問が出ましたが、○○さん(発表者のこと)、
質疑応答を通じてお感じになられたこと、気づかれたことなどがありましたら少しご発
言ください。
」
*(事例の共有化がある程度出来た時点で、休憩(10分程度)を設けても良い。
)
Stage4
Stage4(論点の
論点の明確化・焦点化)
焦点化)
◆「それでは再開致します。大分、事例の共有化が出来てきたと思いますので「検討」
に移りたいと思います。」○○さん(発表者)は、今日ご提供いただいた事例に関して
「何を検討したいか」と思われますか、
「メンバーにこの点を検討して欲しい。
」とか「こ
の部分についての意見やアイデアが欲しい」ということがありましたらおっしゃってく
ださい。
」
◆○○さんから「○○○○○○」という依頼がありましたので、メンバーの皆さんの異
議がなければこの点について検討したいと思いますがよろしいでしょうか?
*(ここで論点や検討課題にあいまいな部分があればメンバーからの質問・確認を受け、
焦点を絞り込んでいく。
)
*論点は発表者が決めても良いし、発表者とメンバーの間で調整しても良い。休憩時
間に司会者、発表者・助言者で打ち合わせしても良い。また、事前に発表者と事務
局又は助言者で調整しておいても良い。調整した論点は、当日の流れの中で変更し
ても良い。
Stage5(論点の
論点の検討)
検討)
◆「それでは、どうぞどなたからでもご発言ください。」
*(意見・アイデアを自由に出してもらう。この段階では多少評価的な意見が出ても
良いが、司会者はあくまでもサポーティブにすすむように舵取りをする。
)
Stage6
Stage6(まとめ)
まとめ)
◆「それでは、お約束の時間になりましたのでここらで助言者のコメントをいただきた
いと思います。
」*(助言者がいる場合はコメントをもらう。
)
◆「続いて今日事例をご提供くださった○○さん。今の検討内容や本日の事例検討全体
に関して感じたことなどをお話いただけませんか?」
◆「最後に一緒にご検討いただいたメンバーの方、○○さんから順番に一言ずつ感想や
気づいたことなどお話願えませんでしょうか。」
Stage7
Stage7(閉会)
◆「ありがとうございました。本日の検討会はこれで終了いたします。○○さん(発表
者)にもう一度拍手をお願い致します。メンバーの皆さんもお疲れ様でした。」
「なお、配布した事例は回収させて頂きますのでお名前を書いてその場に残していっ
てくださるようお願い致します。
」
― 84 ―
⑦ 参加者の
参加者の心得
1.事例提供者の発表内容を真摯に聴く
2.事例を共有するように努める
3.サポーティブな関係や雰囲気に配慮し質問をする
4.質疑応答は一問一答を原則とする
5.最初の質問では、事例提供者へねぎらいの言葉をかけてから質問する
6.最初は「事実確認」に関する質問をする
7.事実確認を終えてから「関わり方」に関する質問に移る
8.「論点」に沿って具体的な意見等を述べる
9.終始、自己洞察を心がける
10.振り返りの時間を大切にする
― 85 ―
― 86 ―
巻末資料 2
(1)2004年度実践研究リーダー養成研修プログラム
(2)過去3年間の実践研究リーダー養成研修参加支部一覧
(3)委員会名簿
― 87 ―
― 88 ―
2004
2004年度「実践研究リーダー養成
リーダー養成研修」プログラム
(敬称略)
日付
時 間
12:00 受 付
オリエンテーション
13:00
13:05
1日目
(2/11)
13:15
内
事務局
開会の挨拶
基礎・共通研修課程整備委員会委員長
「社会福祉士が目指すべき実践研究とは何か」
基礎・共通研修課程整備委員会委員
15:15 休 憩
支部からの実践報告
15:30
16:00
容
富山県支部
土谷長子
髙山由美子
柿本尚子
グループ討議「事例検討会の現状と課題について」
基礎・共通研修課程整備委員会委員
前川敦
18:00 解 散
18:30 懇親会(ルートイン五反田)
9:00
講義「事例検討会の意義について」
学会運営委員会委員
10:00 休 憩、移 動
演習「事例検討会を体験する」①
10:10
2日目
(2/12)
12:30 昼 食
演習「事例検討会を体験する」②
13:30
15:50 休
16:10
学会運営委員会
基礎・共通研修課程整備委員会
学会運営委員会
基礎・共通研修課程整備委員会
憩、移 動
事例検討会を通しての振り返り
学会運営委員会委員
長岩嘉文
学会運営委員会委員
長岩嘉文
16:50 講義「社会福祉援助活動の記録」
17:50 終
9:00
3日目
(2/13)
了
演習「事例検討会を体験する」③
11:20 休 憩、移 動
全体の振り返り
11:25
11:55
長岩嘉文
学会運営委員会
基礎・共通研修課程整備委員会
学会運営委員会委員
長岩嘉文
学会運営委員会委員長
塚本鋭裕
閉会の挨拶
12:00 解 散
― 89 ―
実践研究リーダー養成
リーダー養成研修参加支部一覧
支部名
北海道
青森県
岩手県
宮城県
秋田県
山形県
福島県
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
新潟県
富山県
石川県
福井県
山梨県
長野県
岐阜県
静岡県
愛知県
三重県
滋賀県
京都府
大阪府
兵庫県
奈良県
和歌山県
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
徳島県
香川県
愛媛県
高知県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
2002年度
○
○
○
2003年度
○
○
○
2004年度
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○(2名)
○
○
○
○
○
○
○
○(2名)
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○(2名)
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○(2名)
○
○
○
○(2名)
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○(2名)
○
○
○
○
○
○
○
○
○(2名)
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○(2名)
○(2名)
○
○
○
○
○
○
○
― 90 ―
○
○
○
○
○
○
○
○
○
2004
2004年度 学会運営委員会 委員名簿
職
名
氏
名
所属支部
委員長
塚本
鋭裕
愛知県支部
委
員
鎌倉
妙子
香川県支部
委
員
栗林
昇司
愛媛県支部
委
員
東海林正謙
新潟県支部
委
員
竹之内章代
茨城県支部
委
員
土居
正志
京都府支部
委
員
長岩 嘉文
愛知県支部
委
員
山本
埼玉県支部
進
2004
2004年度 基礎・
基礎・共通研修課程整備委員会 委員名簿
職
名
氏
名
所属支部
委員長
土谷
長子
兵庫県支部
委
員
高山由美子
東京都支部
委
員
西川ハンナ
埼玉県支部
委
員
前川
敦
大阪府支部
委
員
前嶋
弘
兵庫県支部
― 91 ―
この事業は、社会福祉振興・試験センターの助成金の交付により
行っているものです。
お問い合わせ先
〒102-8482 東京都千代田区麹町4-5 桜井ビル3階
社団法人 日本社会福祉士会
Tel:03-5275-3580 Fax:03-5275-0139
― 92 ―
Fly UP