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第 1 章 Orexin および PACAP が関わる幅広い脳機能 §1−1.従来の

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第 1 章 Orexin および PACAP が関わる幅広い脳機能 §1−1.従来の
第1章
Orexin および PACAP が関わる幅広い脳機能
§1−1.従来の研究
a) 視床下部の機能
視床下部は自律神経機能や内分泌機能の制御を通して生命機能の
維持に関わる中枢である。具体的には、摂食、飲水、生殖、血圧、
血流、体温、体液、消化、吸収、排泄、代謝、日内リズムの制御な
ど、その機能は多岐にわたる。視床下部は海馬や扁桃体などの大脳
辺縁系と密接な線維連絡を持ち、その機能は、情動(怒り、恐れ、
快・不快、攻撃、逃走)や本能(性、摂食、群居本能)の身体的な
反応となって表現される。この視床下部の多彩な機能を反映して視
床下部の構成する神経核も多様であり、産生される神経内分泌ホル
モンや下垂体前葉ホルモン放出および抑制因子も多彩である。
b) 視床下部における摂食調節因子の神経回路網
摂食やエネルギー代謝の調節には皮質から脳幹に至るいろいろな
脳部位が関与しているが、最も重要な部位は視床下部である。摂食
行動を支配する中枢が視床下部に存在することが明らかにされ、外
側視床下部 lateral hypothalamic area (LHA) が摂食中枢、視床下
部腹内側核 ventromedial hypothalamic nucleus (VMH) が満腹中
枢として同定されたのは、30 年以上前の種々の電気生理学的研究に
さかのぼる(Oomura et al., 1969; Oomura et al., 1974)。その後、
neuropeptide Y (NPY) および proopiomelanocortin (POMC)など
の摂食調節物質を産生するニューロンが視床下部弓状核 arcuate
1
nucleus (ARC) に見出されたことから、ARC も摂食をコントロール
する重要な中枢であると考えられるようになっている(Huszar et al.,
1997; Jhanwar-Uniyal et al., 1993)。最近、摂食行動を制御する非
常に重要な新規物質が相次いで発見され、脳内における摂食調節機
構の研究が急速に進みつつある。
c) orexin の発見
orexin-A、orexin-B は 1998 年に桜井、柳沢らのグループにより
外側視床下部(LHA)に局在し、摂食亢進作用を持つ物質として報
告された(Sakurai et al., 1998)。Orexin は摂食中枢として知られて
いる視床下部外側野(LHA)とその周辺のニューロンに特異的に発
現していたため、まず、摂食行動に対する作用に注目が集まり、ラ
ットやマウスに脳室内投与することにより、持続的に摂食行動を亢
進させる作用が報告された(Date et al., 1999; Sakurai et al., 1998)。
Orexin-A と orexin-B は共通の前駆体 preproorexin から生成され
る。哺乳類の orexin-A は 33 アミノ酸残基分子内に 2 対のジスルフ
ィド結合を有する。一方、orexin-B は 28 残基の直線状のペプチドで
C 末側は orexin-A との相同性が高い(図1−1)。摂食促進効果に
ついては orexin-B よりも orexin-A の方が高いことが報告されてい
る(Sakurai et al., 1998)。Orexin の受容体には2つのサブタイプが
存在し、ともに G タンパク質共役型で OX1 受容体(OX1-R)は
orexin-A に対する親和性のほうが orexin-B に対する親和性より 100
倍ほど高い。OX2 受容体(OX2-R)は orexin-A と orexin-B に対す
2
る親和性がほぼ同じである。
Orexin 免疫陽性ニューロンの神経線維の分布をしらべると、図1
−2に示すように、orexin ニューロンは脳内に広く投射しているこ
とが明らかになった(Nambu et al., 1999)。このことは orexin 受容
体のmRNA が脳内に広範に分布すること(Nambu et al., 1999)と一
致する。Orexin ニューロンの神経線維は、視床下部においては、腹
内側核(VMH)、弓状核(ARC)、室傍核に高密度に投射していた
(Nambu et al., 1999) 。 弓 状 核 ( ARC ) に は 、 摂 食 促 進 物 質
neuropeptide Y (NPY)および gananin-like peptide (GALP)、そして
摂食抑制物質 proopiomelanocortin (POMC) などを産生するニュー
ロンが存在する。このことは、orexin がこれらの摂食調節ニューロ
ンと協調して摂食行動を制御していることを示唆する。しかしなが
ら、これまでは orexin 受容体に対する特異抗体を用いた研究がなさ
れていないこともあり、orexin と他の摂食調節ニューロンの神経相
関については未知の部分が多かった。
本研究において申請者は orexin 受容体(OX1-R)特異抗体などを
用い、弓状核における orexin ニューロンや、その他の摂食調節ニュ
ーロンの神経相関を調べた。さらに、視床下部以外の脳の領域にお
ける orexin 受容体(OX1-R)の分布を調べ、orexin が摂食調節以外
の脳機能に関わる可能性を検証した。
3
図1−1.哺乳類の orexin 構造(桜井武
原図)
<E はピログルタミン酸残基を示す。ジスルフィド結合をするシステイン(C)
は実線で結び、相同なアミノ酸残基は網がけで示した。
4
図1−2.ラット脳における orexin ニューロンの神経線維投射領域
(桜井武
5
原図)
d) PACAP の発見
下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP: pituitary
adenylate cyclase-activating polypeptide)は 1989 年に宮田らによ
ってラット下垂体細胞のサイクリック AMP 産生刺激活性を指標と
してヒツジ視床下部抽出物より単離、構造決定された神経ペプチド
である。Vasoactive intestinal peptide (VIP)に 68%の相同性を示し、
セクレチン・グルカゴンファミリーに属する(図1−3)。VIP は腸
管から発見され、当初は血管拡張作用を示す物質として知られたが、
その後の研究でそれ以外にもさまざまな生理活性を示すことがわか
った(Delgado, 2003; Ganea and Delgado, 2002; Piggins and Cutler,
2003)。一方、PACAP は視床下部より単離精製されたことから、当
初は新規の向下垂体性視床下部ホルモンとして注目された。その後、
摂食調節機構に関わることがわかり(Tachibana et al., 2003)、その他
にも様々な脳機能に関わることがわかってきた。最近は、神経細胞
死を抑制する神経栄養因子としての機能が特に注目されるようにな
っており、本研究においても脳損傷後の神経細胞死を PACAP が抑
制する機構について解析した(第5章)。
6
図1−3.ラットの PACAP38、PACAP27、VIP、セクレチンの構造。
PACAP27 のアミノ酸配列は、PACAP38 の N 末端側のアミノ酸 27 残基と同
一である。2つ以上のポリペプチドに共通のアミノ酸は太字で示した。
7
§1−2.材料と方法
a) 免疫組織染色
オスの成体の Spraugue-Dawley ラット(250−300g;埼玉実験
動物供給所)を用いた。ペントバルビタールナトリウム麻酔下でコ
ルヒチン(200μg)を側脳室に投与した。投与 48 時間後にラットを
2%paraformaldehyde (PFA)/0.1 M phosphate buffer (PB; pH7.4)
で 20 分間灌流固定した。
続いて脳組織を摘出し、トリミングした後、
4℃で 12 時間、同液で浸漬固定した。続いて 20% スクロース/0.1 M
PB に4℃で2晩浸漬した。その後、脳組織を Optimal Cutting
Temperature (OCT) compound (Sakura Finetechnical)を用いて
凍結包埋した。クライオスタット(MICROM HM 500; MICROM 社)
を用いて、7μm の切片を作成した。
免疫組織染色には以下の抗体を用いた。
一次抗体
・rabbit polyclonal anti-OX1-R (Chemicon):50000 倍希釈
・sheep polyclonal anti-NPY antiserum (Chemicon):20000 倍希
釈
・sheep polyclonal anti-POMC (α-MSH; Chemicon):20000 倍希釈
・ mouse monoclonal anti-GALP (Matsumoto et al., 2001):2000
倍希釈
二次抗体
8
・Alexa 546-labeled goat anti-rabbit IgG (Molecular Probe):400
倍希釈
・ Alexa 546-labeled goat anti-mouse IgG (Molecular Probe):400
倍希釈
・ Alexa 488-labeled goat anti-sheep IgG (Molecular Probe):400
倍希釈
・biotynilated anti-rabbit IgG (Vector Laboratories):200 倍希釈
明 視 野 の 免 疫 組 織 染 色 は ABC 法 で 行 い 、 HRP-conjugated
avidin-biotin complex (ABC) kit (Vectastain)を用い、その後、
diaminobenzidine (DAB)で発色した。明視野、暗視野ともに観察に
は蛍光顕微鏡(AX-70;Olympus)を用いた。
b) 細胞生理学実験
オスの成体の Spraugue-Dawley ラット(5−7週令;埼玉実験動物
供給所)を用いた。弓状核を Neuropanch (室町機械)を用いて単離し、
10 mM グ ル コ ー ス を 含 ん だ HEPES-buffered Krebs-Ringer
bicarbonate (KRB)buffer を用い、4℃で組織を洗浄した。続いて、
20 units/ml Papain (Sigma #P4762)、0.015 mg/ml DNAaseⅡ-Type
Ⅳ (Sigma #D-4138)、0.75 mg/ml BSA (Sigma)、1 mM Cysteine
を含む KRB buffer 中で 36℃、15 分インキュベート後、ピペッティ
ングにより、組織片を細胞単位に解離した。カバーガラス上に細胞
を 撒 き 、 そ こ に 20 mM fura-2/AM and 2.5 % BSA
9
(Final:
fura-2/AM 2µM, BSA 0.5%)を添加した。細胞内の Ca2+ の濃度を
fura-2 の輝度として検出した。蛍光強度を測定した後に、sheep
polyclonal anti-NPY antiserum (Chemicon):20000 倍希釈、およ
び sheep polyclonal anti-POMC (α-MSH; Chemicon):20000 倍希
釈を用い、ABC 法(上記と同じ方法)にて NPY ニューロン、およ
び POMC ニューロンの細胞同定を行った。
10
§1−3.結果
a) Orexin ニューロンと NPY ニューロンおよび POMC ニューロン
の神経相関
ラットの脳組織を用いたウエスタンブロット解析では、OX1-R 抗
体は OX1-R の分子量に相当する 50 kDa のバンドを検出した(図1
−4)
。視床下部のサンプル(レーン4)に最も強いシグナルが現れ
たが、嗅球、海馬、大脳新皮質のサンプル(レーン1、2、3)に
もシグナルが得られた。
弓状核を含む 13 枚の切片を二重蛍光免疫法で用いた。NPY 免疫
陽性細胞 106 個中、49 個の細胞(46%)が OX1-R 免疫陽性を示した
(図1−5A−C)
。次に、単一の NPY ニューロンの orexin への応
答 を 調 べ る 細 胞 生 理 学 実 験 を 行 っ た と こ ろ 、 orexin-A お よ び
orexin-B に応答して、細胞活動の活性が上昇することがわかった(図
1−6)。
一方、免疫陽性に強弱の差はあるものの、POMC 免疫陽性細胞の
ほぼ全てが OX1-R 免疫陽性を示した(図1−5D−F)。次に、単
一の POMC ニューロンの orexin への応答を調べる実験を行ったと
ころ、orexin-A および orexin-B に応答して、細胞活動の活性が抑制
されることがわかった(図1−7)。
11
図1−4.OX1-R 抗体を用いた Western blot 解析
嗅球(1)、海馬(2)、大脳新皮質(3)、視床下部(4)、全脳(5)から
抽出したタンパク質 20 μg を 10%ポリアクリルアミドゲルで泳動した。矢印は
50 kDa を示す。
12
図1-5. orexin ニューロンと NPY ニューロンあるいは POMC ニューロン
の神経相関
OX1-R と NPY(A-C)あるいは POMC(D-F)に対する抗体を用いた二重蛍
光染色の結果。OX1-R の免疫反応(赤:A,D)は視床下部弓状核に局在し、NPY
13
の免疫反応(緑:B)、あるいは POMC の免疫反応(緑:E)も同じ領域に局在
する。A と B、D と E を重ね合わせた写真(C、F)における黄色、オレンジ色
は NPY あるいは POMC と OX-1R の共存を示す。共存が示された細胞(矢印)
を高倍率で示した(C、F の右上挿入図)。Scale bars = 50 μm(A-C)、100μ
m(D-F)。V:第 3 脳質。
14
図1−6.単一の NPY ニューロンの orexin への応答。
横軸は時間(min)、縦軸はカルシウムイオン濃度(μM)、すなわち、細胞の
活性を表す。Orexin-A および orexin-B の添加をグラフ中に示した。
15
図1−7.単一の POMC ニューロンの orexin への応答
横軸は時間(min)、縦軸はカルシウムイオン濃度(μM)、すなわち、細胞の
活性を表す。Orexin-A および orexin-B の添加をグラフ中に示した。
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b) GALP ニューロンと NPY ニューロンおよび POMC ニューロンの
神経相関
GALP と NPY の二重蛍光免疫染色により、弓状核において、NPY
免疫陽性の神経線維が GALP 免疫陽性の細胞体に投射していること
がわかった(図1−8C)。さらに、GALP 免疫陽性細胞体の中に
POMC 免疫陽性を示すものがあることもわかった(図1−8F)。
GALP 免疫陽性細胞体のうち、POMC 免疫陽性を示したものは全体
の7%であった。
17
図1−8.GALP ニューロンと NPY ニューロンあるいは POMC ニューロンの
神経相関
GALP と NPY(A-C)あるいは POMC(D-F)に対する抗体を用いた二重蛍
光染色の結果。GALP の免疫反応(赤:A,D)は視床下部弓状核に局在し、NPY
の免疫反応(緑:B)、あるいは POMC の免疫反応(緑:E)も同じ領域に局在
する。A と B、D と E を重ね合わせた写真(C、F)における黄色、オレンジ色
は GALP と POMC の共存を示す。A、B の左上挿入図で四角に囲まれた部分が
18
撮影された領域を示す。Scale bars = 10 μm。3V:第 3 脳質。
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c) 視床下部弓状核以外の脳領域における OX1-R の分布
視床下部弓状核以外の脳領域にも OX1-R 免疫陽性は観察された。
それは、視床下部腹内側核(図1−9)
、大脳新皮質(図1−10)
、
海馬の錐体細胞層 CA1、CA2、CA3(図 1−11)、中脳の腹側被蓋
野(図1−12)および Me5(図 1−13)など、脳に広範に分布し
ていることがわかった。
20
図1−9.視床下部腹内側核(VMH)における OX1-R の分布
免疫陽性細胞体の一部を矢印で示す。Scale bar = 100μm
21
図1−10.大脳新皮質における OX1-R の分布
免疫陽性細胞体の一部を矢印で示す。Scale bar = 100μm。
22
図1−11.海馬における OX1-R の分布
免疫陽性反応を矢印で示す。Scale bar = 500μm。
23
VTA
図1−12.腹側被蓋野(VTA)における OX1-R の分布
VTA のうち免疫陽性細胞体が特に多く観察される領域を四角で示した。Scale
bar = 200μm。
24
Me5
図1−13.mesencephalic trigeminal nucleus (Me5)における
OX1-R の分布
Me5 に強い免疫陽性反応が観察された。Scale bar = 200μm
25
§1−4.考察
a) 視床下部における摂食調節ニューロンのネットワーク
本研究成果から考察される視床下部における摂食調節ニューロン
のネットワークを図1−14に模式図で示した。
orexin の受容体(OX1-R)が腹内側核(VMH)の細胞(図1−9)、
弓状核の NPY ニューロンおよび POMC ニューロン(図1−5)に
局在することは、これらの細胞に対して orexin が何らかの作用を及
ぼしていることを強く示唆する。さらに、細胞生理学的実験により、
orexin は NPY ニューロンの細胞活動を活性化すること(図1−6)、
そして反対に POMC ニューロンの細胞活動を抑制すること(図1−
7)がわかった。NPY が摂食促進作用を持つことは古くから知られ
ており(Clark et al., 1985; Clark et al., 1987; Morley et al., 1987;
Stanley et al., 1985; Stanley and Leibowitz, 1984; Stanley and
Leibowitz, 1985)、本研究により、orexin の摂食促進作用は NPY ニ
ューロンを活性化し、NPY の合成・分泌を促進することにより生じ
て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 POMC を 前 駆 物 質 と す る
α-melanocyte-stimulating hormone (α-MSH)は摂食活動を抑制す
ることが知られており(Poggioli et al., 1986)、orexin は POMC ニュ
ーロンの細胞活動を抑制し、摂食抑制物質であるα-MSH の合成・分
泌を抑制することで、摂食行動を促進しているという可能性も示唆
される。
一方、 GALP と NPY の二重蛍光免疫染色により、弓状核におい
て、NPY 免疫陽性の神経線維が GALP 免疫陽性の細胞体に投射して
26
いることがわかった(図1−8C)。GALP は摂食促進作用を持つこ
とが報告されており(Matsumoto et al., 2002)、NPY の摂食促進作用
が GALP を介している可能性も考えられる。しかしながら、これを
証明するためには、NPY ニューロンが GALP ニューロンに対してシ
ナプスを形成していることを示す電子顕微鏡レベルの所見や、GALP
ニューロンが NPY に応答することを示す細胞生理学実験のデータ
が必要である。
さらに、GALP 免疫陽性細胞体の7%が POMC 免疫陽性を示すこ
とがわかった(図1−8F)が、これは GALP が摂食促進作用を持
ち、一方 POMC が摂食抑制に関係していることを考えると非常に興
味深いといえる。摂食促進物質と摂食抑制物質の合成・分泌が単一
のニューロンレベルで制御される可能性を示唆するものである。
27
図1−14.視床下部における摂食関連ニューロンのネットワーク
ⅢV:第 3 脳質、LHA:視床下部外側野、VMH:腹内側核、
ARC:弓状核
+:摂食促進物質、−:摂食抑制物質
28
b) 摂食調節以外の脳機能における orexin の役割
視床下部以外の脳領域にも OX1-R 免疫陽性は観察された。それは、
大脳新皮質(図1−10)、海馬の錐体細胞層 CA1、CA2、CA3(図
1−11)、中脳の腹側被蓋野(図1−12)および Me5(図 1−1
3)などである。大脳新皮質は感覚、運動、認知、思考、意識、言
語、海馬は学習・記憶などの高次機能に関わっており、orexin がこ
のような機能に関わっている可能性が考えられる。中脳の腹側被蓋
野は快感、Me5 は咀嚼に関わっており、食欲を満たすことが快感で
あること、咀嚼が摂食行動の一部であることを考えると、orexin が
これらの機能に関わっている可能性は高いと考えられる。一方、
orexin が睡眠の調節をしているという報告が多数あり(Chemelli et
al., 1999; George and Singh, 2000; Kilduff and Peyron, 2000; Lin
et al., 1999; Piper et al., 2000; Sakurai, 1999; Siegel, 1999; Taheri
et al., 2000)、orexin が摂食調節のみならず、睡眠の調節をしている
ことは間違いないといってよい。摂食、そして睡眠という生命の維
持にとって非常に重要な機能を2つも制御している orexin の新たな
機能を探ることは非常に興味深い研究課題であり、本研究で OX1-R
が脳内に幅広く分布することを証明したことは、今後の研究の発展
を後押しする非常に重要な成果であると考えられる。
c) 視床下部の神経ペプチドが関わる幅広い脳機能
orexin が摂食と睡眠を制御しているほかにも、視床下部の神経ペ
プチドが複数の脳機能に関わっていることを報告した例は多い。
29
GALP は摂食促進作用が最初に報告されたが、後に、生殖への関与
も報告された(Cunningham, 2004; Gottsch et al., 2004; Krasnow et
al., 2003)。
PACAP は摂食調節(Tachibana et al., 2003)、生殖(McArdle, 1994)
を始め、その他にも様々な脳機能に関わることがわかり、非常に興
味深い研究対象であるといえる。神経栄養因子としての機能が知ら
れたことから(Vaudry et al., 2002)、最近は、神経細胞死抑制作用に
着目した研究が盛んになってきたが、そのほとんどは細胞株を用い
た in vitro の研究、あるいは脳虚血に伴う障害(Reglodi et al., 2000a;
Reglodi et al., 2000b)に関するもので、脳の物理的な損傷に伴う神経
細胞死の抑制に PACAP が関与していることを報告した例はない。
そこで申請者は、PACAP が関わる機能のうち、特に神経細胞死抑
制作用に着目し、脳損傷後に PACAP がどのような機能を果たして
いるか研究することにした。
30
第2章
アストロサイト特異的に緑色蛍光タンパク質(EGFP)を
発現するトランスジェニックマウスの作成
§2−1.序
a) アストロサイトの関わる脳機能
脳を構成する細胞は神経細胞とグリア細胞に大別される。グリア
細胞はさらにアストロサイト、オリゴデンドロサイト、マイクログ
リアの3つに大別される。グリア細胞全体で神経細胞の 10 倍以上の
数があるが、グリア細胞の中でもアストロサイトは数が最も多い細
胞である。アストロサイトはこれまでに以下のような非常に重要な
機能を持つことが知られている。
・ 脳血管関門の形成
・ 神経細胞へのエネルギー供給
・ 神経興奮伝導により放出されるイオン(カリウムイオン等)の除
去
・ シナプス間隙に放出された神経伝達物質の除去
・ シナプス機能やその可塑性の調節
・ 各種サイトカインや神経調節因子の放出による脳機能の維持
この代表的な役割のほかに、アストロサイトは神経細胞の維持、
保護に関わっていること(Takuma et al., 2004)が知られており、本研
究で、脳損傷後の神経細胞死を PACAP が抑制する機構の研究を行
うに当たって、アストロサイトに着目することは非常に重要である
31
といえる。
b) GFP の発見とトランスジェニックマウスへの応用
緑色蛍光タンパク質 Green Fluorescent Protein(GFP)は、
Aequorea victoria という学名を持つオワンクラゲの、青色の光(極
大 470nm)を緑色の光(極大 508nm)にシフトするタンパク質として
1962 年に下村脩博士らによって発見された(Shimomura et al.,
1962)。GFP および、哺乳類細胞での発現に最適化された改変 GFP:
Enhanced Green Fluorescent Protein (EGFP)の大きな特徴は、熱、
pH 変化(7∼12)、界面活性剤、カオトロピック試薬に対して安
定で、さらに蛍光観察に他の cofactor を必要としないため、どのよ
うな生物種にも適用できるという点である。細胞や組織を非侵襲的
に生きたまま観察することができるという長所を活かし、GFP およ
び EGFP は in vivo、 in situ、 in real time に遺伝子の発現やタン
パク質の局在をモニタリングするための画期的なツールとして利用
されている(Cody et al., 1993; Heim et al., 1994; Inouye and Tsuji,
1994; Yang et al., 1996)。
本研究において申請者らはアストロサイトを可視化するため、ア
ストロサイト特異的に EGFP を発現するトランスジェニックマウス
の作成を目指した。GFP 技術を用いたトランスジェニックマウスの
先駆けとなったのは全身に EGFP を発現する「グリーンマウス」
(Okabe et al., 1997)であった。これ以後、EGFP を発現するトラン
スジェニックマウスの報告が数多く出たが、その多くは、本研究と
32
同様に細胞種特異的プロモーターの制御下に EGFP を発現させ、特
定の細胞のみの可視化を目指したものである。
33
§2−2.材料と方法
a) 発現ベクターの構築
本研究で用いたアストロサイトのマーカーであるグリア線維酸性
タンパク質(GFAP:glial fibrillary acidic protein)のプロモーター
配列は GF2.5/pIP300+ (Morita et al., 1997)というプラスミドベク
ターに入ったものを、大学共同利用機関法人
生理学研究所
分子生理研究系
自然科学研究機構
分子神経生理研究部門
池中一裕
教授より分与された。このプロモーター配列の性質については既に
報 告 さ れ て い る (Miura et al., 1990) 。 EGFP cDNA 配 列 は
CLONTECH 社より購入した。
発現ベクターの構築には TaKaRa 社製の制限酵素、GIBCOBRL
社の T4 DNA Ligase、Concert Rapid Plasmid Miniprep System 及
び、Concert High Purity Plasmid Maxiprep System を使用し、キ
ットに添付されたプロトコルに従った。
GFAP を発現する細胞株である TtT/GF (Inoue et al., 1992)は埼玉
大学
井上金治教授より分与された。この細胞へのトランスフェク
ション実験には LIPOFECTAMINE PLUS Reagent(GIBCOBRL
社)を用い、添付されているプロトコルに従った。
b) 受精卵雄性前核への DNA 微量注入
制限酵素による消化、アガロース電気泳動後、導入 DNA 断片(図
2−1)をゲルから切り出した。次に、Gene Clean II Kit (BIO101
社)を用い、添付されたプロトコルに従って DNA 断片を精製した。
34
エタノール沈殿の後、DNA 断片をインジェクション用 DNA 溶解液
に溶解した。分光光度計で OD を測定して DNA 濃度を計算し、500
DNA 分子/pl になるように DNA 液を調製した。
交尾確認をした採卵用雌マウス(C57BL/6)の腹腔を開き、卵管を取
り出した。BWW-Hepes 培地で洗った後、300 µg/ml のヒアルロニ
ダーゼを含む BWW-Hepes 培地に入れた。実体顕微鏡下で卵管膨大
部を時計用ピンセットで引き裂き、受精卵を培地中に取り出した。
数分間して卵丘細胞をとった後、受精卵をガラスピペットで拾い上
げ、BWW-Hepes 培地で数回洗った。受精卵をミネラルオイルで覆
われたBWW培地のドロップの中に入れ、37 ℃、5% CO2 で培養し
た。
直径 6 cm のシャーレに BWW-Hepes 培地と DNA 溶液のドロップ
を作り、その上をミネラルオイルで覆った。インジェクションピペ
ットとホールディングピペットをそれぞれのインジェクターに取り
付け、BWW-Hepes 培地の上のドロップに受精卵を入れた。インジ
ェクションピペットに DNA 溶液を吸引し、ごくわずかに陽性になる
ようにインキュベーターを調節し、先端から持続的に DNA 溶液を流
出させておいた。次に、インジェクションピペット側に雄性前核が
くるようにホールディングピペットで卵を吸引した。対物レンズの
倍率を 40 倍にして前核に焦点を合わせた後、インジェクションピペ
ット端が前核と同じ平面にくるように調節した。続いて、インジェ
クションピペットの先端を前核の中に突き刺し、DNA 溶液を注入し
た。核が膨れるのを確認した後、ピペットをすばやく抜き去った。
35
この時、インジェクションした卵を下のドロップに移動させ、未処
理の卵と混ざらないようにした。インジェクションし終わった卵を
BWW-Hepes 培地のドロップに移して、37 ℃、5% CO2 で培養した。
36
図2−1.GFAP-EGFP transgene
マウス GFAP 遺伝子の転写開始点を+1として-2567 から+12 までのフラグ
メントを GFAP promoter として用いた。R. b-Glo. polyA は rabbit β-globin 遺
伝子の polyadenylation シグナルの略。
37
c) 受精卵の卵管への移植
ペントバルビタールナトリウム注射液を希釈液で 10 倍に希釈し、
5 mg/ml にした。同液を体重1 g あたり 0.01 ml 腹腔内に投与して
偽妊娠マウス(ICR)に麻酔をかけた。マウスの後背部の腎臓付近に
小さな切り口を作り、脂肪塊をピンセットでつまんで引き、卵巣、
卵管、子宮とクレンメで固定した。次に、トランスファーピペット
に 20∼30 個の卵をできるだけ少量の培地とともに吸い上げておい
た。実体顕微鏡下で卵管開口部を探し、その部分の卵巣嚢を時計用
ピンセットで引き裂いた。トランスファーピペットの先端を卵管開
口部に挿入し、泡が先端にくるまで吹き出して卵を注入した。最後
に、卵巣と卵管を体内に戻して、切り口を縫合した。
d) トランスジェニックマウスのスクリーニング
マウスの尾を 5 mm ほど切り、チューブに入れた。Proteinase
K/STE buffer をそこに 500 µl ずつ入れ、55 ℃で1晩 振とうした。
15000 rpm、室温で 5 分間遠心分離機にかけ、毛を沈降させた。
次に、
上清を 200 µl ずつ取り、Tris-EDTA (TE) を 300 µl ずつ加え、
核酸自動分離装置(KURABO
NA-2000)を用いて、DNA を抽出
した。
EGFP cDNA に対する特異プライマー(図2−1参照)を用いて
PCR 法を行い、430 bp のバンドの有無により、トランスジェニック
マウスをスクリーニングした。
38
1 atggtgagca agggcgagga gctgttcacc ggggtggtgc ccatcctggt cgagctggac
61 ggcgacgtaa acggccacaa gttcagcgtg tccggcgagg gcgagggcga tgccacctac
121 ggcaagctga ccctgaagtt catctgcacc accggcaagc tgcccgtgcc ctggcccacc
181 ctcgtgacca ccctgaccta cggcgtgcag tgcttcagcc gctaccccga ccacatgaag
241 cagcacgact tcttcaagtc cgccatgccc gaaggctacg tccaggagcg caccatcttc
301 ttcaaggacg acggcaacta caagacccgc gccgaggtga agttcgaggg cgacaccctg
361 gtgaaccgca tcgagctgaa gggcatcgac ttcaaggagg acggcaacat cctggggcac
421 aagctggagt acaactacaa cagccacaac gtctatatca tggccgacaa gcagaagaac
481 ggcatcaagg tgaacttcaa gatccgccac aacatcgagg acggcagcgt gcagctcgcc
541 gaccactacc agcagaacac ccccatcggc gacggccccg tgctgctgcc cgacaaccac
601 tacctgagca cccagtccgc cctgagcaaa gaccccaacg agaagcgcga tcacatggtc
661 ctgctggagt tcgtgaccgc cgccgggatc actctcggca tggacgagct gtacaagtcc
721 ggagctgcgg ccgctgccgc tgcggcagcg gccgaattcc ccgggctcga gaagcttgga
781 tccaccggat ctagataa
図 2−1.
EGFP cDNA の配列とプライマー認識部位
EGFP cDNA 配列のうちプライマーが認識する配列を・・・で示した。2つ
の・・・とそれに挟まれた配列の長さは 430bp である。
39
§2−3.結果
発現ベクター構築の可否を確かめるために、TtT/GF という、GFAP
を発現する細胞株を使用した。この細胞に、構築した発現ベクター
をリポフェクトアミン法によりトランスフェクションしたところ、
緑色の蛍光を確認できた。
4 匹の偽妊娠マウス(仮親)より、合計 14 匹のマウス(F0 世代)を
得た。このうち、PCR によりトランスジーンを確認したのは 2 匹(#
7、#9)だった。これら 2 系統のマウスを継代したところ、2 系統
とも、F1 世代にトランスジーンが伝わることがわかった。
§2−4.考察
作成した発現ベクターを、TtT/GF という GFAP を発現する細胞
株にトランスフェクションしたところ、緑色の蛍光を発した。この
ことは、GFAP プロモーター制御下に EGFP を発現するベクターの
構築に成功したことを表す。これを確認したことにより、この発現
ベクターを使ったトランスジェニックマウス作成というステップに
移ることができた。
一般に、マイクロインジェクション時に、稀に、2 細胞期以降にト
ランスジーンの組込みが起こる場合がある。この場合には、モザイ
クとなり、子孫にトランスジーンが伝わらないこともある。しかし
ながら、#7、#9ともに、F1 世代にトランスジーンが受け継がれ
ることを確認できており、この点については問題ない。
40
第3章
トランスジェニックマウスの形態学的観察
§3−1.序
本研究で用いている GFAP プロモーター配列については、アスト
ロサイト特異的な遺伝子発現を導くことが既に報告されている
(Miura et al., 1990)。また、本研究においても、TtT/GF という GFAP
を発現する細胞株にトランスジェニックマウス作成に用いた発現ベ
クターをトランスフェクションし、EGFP が発現することを確認し
ている。しかしながら、この発現ベクターを用いてトランスジェニ
ックマウスを作成しても、EGFP がアストロサイトに特異的に発現
していることは改めて確認しなければならない。これはたとえば、
次のような危険性が考えられるからである。
1) トランスジーンがゲノムに挿入されるときに EGFP cDNA が
(部分的に)欠損してしまい、EGFP が発現しない。
2) ゲノム上に挿入されたトランスジーンの周囲に抑制性の要素
(DNA 配列)が存在し、EGFP が発現しない。
3) GFAP プロモーターのうち細胞種特異性を決定する配列が欠
損してしまい、アストロサイト以外の細胞で EGFP が発現し
てしまう。
これらの可能性を排除するために、本研究では、二重蛍光免疫染
色法により、EGFP を発現している細胞の同定を行った。
41
§3−2.材料と方法
a) 脳スライスの作成
トランスジェニックマウス成体の脳をペントバルビタールナトリ
ウ ム 麻 酔 下 で 摘 出 し た 。 10 mM グ ル コ ー ス を 含 ん だ
HEPES-buffered Krebs-Ringer bicarbonate buffer (Kohno et al.,
2003) 中でビブラトームを用いて 200 µm のスライスを作成した。
観 察 は 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 ( Leica TCS SP-2; Leica
Microsystems)を用いて行った。
b) 動物の固定および切片の作成
ペントバルビタールナトリウム麻酔下でトランスジェニックマウ
スを4% PFA /0.1 M PBS (pH 7.4)で灌流固定した。続いて脳組織
を摘出し、4℃で6時間、同液で浸漬固定した。その後、ビブラト
ームを用いて 30 µm の切片を作成した。
c) 二重蛍光免疫染色法
切片を 0.3% Triton X-100/PBS 中で4℃、2晩インキュベートし
た。そして次に 10% 正常ヤギ血清(NGS)中でブロッキングをし
た。続いて 10% NGS で希釈した以下の一次抗体と4℃で2晩反応
させた。
1) Rabbit polyclonal anti-EGFP 抗体(Tamamaki et al., 2000):
500 倍希釈。
2) Mouse monoclonal anti-GFAP 抗体(G3893; Sigma):1000
42
倍希釈。
3) Mouse monoclonal
anti-neuronal nuclei (NeuN) 抗 体
(Chemicon):400 倍希釈。
その後、一次抗体の動物種に合わせ、Alexa 488-conjugated goat
anti-rabbit IgG (Molecular Probe)、Alexa 546-conjugated goat
anti-mouse IgG (Molecular Probe)を 10% NGS で 400 倍希釈した
ものと常温で 80 分インキュベートした。観察は共焦点レーザー顕微
鏡(Leica TCS SP-2; Leica Microsystems)を用いて行った。
43
§3−3.結果
脳スライスにおいて、EGFP 発現細胞は脳全体に広く観察された
が、最も強い蛍光は海馬に見られた(図3−1)。EGFP 発現細胞の
大半は放射状に広がる微細な突起を持っていた。
EGFP 免疫陽性細胞も同様に脳全体に広く観察されたが、特に海
馬では観察される細胞の数が多く、輝度も高かった(図3−2)。海
馬などの灰白質においては、EGFP 免疫陽性細胞は後光のように見
える突起を持っていた(図3−3A)
。一方、脳梁などの白質では一
定の方向性のある突起を持つ EGFP 免疫陽性細胞が観察された(図
3−3D)。また、脳損傷を施した動物の脳では、著しく太い突起を
持つ EGFP 免疫陽性細胞が観察された(図3−3E)。EGFP 免疫
陽性細胞では微細な突起を含む細胞全体が観察することができる
(図3−3A)のに対して、GFAP の免疫染色では、核を除く細胞
体と比較的太い突起しか可視化されず(図3−3B)
、EGFP と GFAP
の細胞内の局在が異なることがわかった(図3−3C)
。さらに、二
重蛍光免疫染色法により、EGFP 免疫陽性のアストロサイトが NeuN
免疫陽性の神経細胞を微細な突起で包み込んでいる像が観察された
(図3−3F)。
44
図3−1.海馬スライスにおける EGFP 発現細胞
アストロサイト様の形態を持つ緑色の細胞が海馬に観察された。GCL;果粒
細胞層。Scale bars = 50μm。
45
図3−2.海馬の EGFP 免疫染色像
アストロサイト様の形態を持つ緑色の細胞が海馬に観察された。Scale bar =
50μm。
46
図3−3.EGFP 発現細胞の形態学的特性
海馬(A)、脳梁(cc;D)、傷害を受けた大脳新皮質(E)における EGFP 発
現細胞。B は A と同視野で GFAP 免疫染色像。EGFP と GFAP の共存は重ね合
わせた像で示されている(黄色;C)。F は海馬果粒細胞層(GCL)における EGFP
免疫染色(緑)と NeuN 免疫染色(赤)を重ね合わせた像。
47
§3−4.考察
脳スライスの観察(図3−1)および EGFP 免疫染色後の観察(図
3−2)により、EGFP 発現細胞が脳全体に広く分布していること
がわかった。EGFP 発現細胞は無数の微細な突起を持っており、ア
ストロサイト特有の形態学的特長を備えていた(図3−3A)。
EGFP 発現細胞の細胞種を同定するため、二重蛍光免疫染色法に
よりアストロサイトのマーカーである GFAP の免疫染色像と重ね合
わせたところ、EGFP 免疫陽性細胞のほぼ全てが GFAP 免疫陽性で
あることがわかり(図3−3C)、EGFP を発現している細胞はアス
トロサイトであることが証明された。EGFP 免疫陽性細胞では微細
な突起を含む細胞全体が観察することができる(図3−3A)のに
対して、GFAP の免疫染色では、核を除く細胞体と比較的太い突起
しか可視化されない(図3−3B)ことがわかり、アストロサイト
の全形を可視化する手段として本研究で用いているトランスジェニ
ックマウスが非常に優れた tool であることがわかる。このトランス
ジェニックマウスを用いれば、GFAP 免疫染色像では可視化するこ
とができないアストロサイトの微細な突起を可視化することができ
るため、アストロサイトが神経細胞を微細な突起で包み込んでいる
像(図3−3F)を観察することもできる。
特記すべき点としては、EGFP を発現するアストロサイトは脳全
体に広く観察されたが、大脳新皮質に限ってはまったく観察されな
かった。しかしながら、第 5 章に述べるように、脳損傷を施すと、
著しく太い突起を持つアストロサイトが観察された(図3−3E)。
48
これはアストロサイトの中でも特に、反応性アストロサイトと呼ば
れる細胞の特徴を備えている。したがって、本トランスジェニック
マウスは大脳新皮質においては、反応性アストロサイトのみを特異
的に可視化する tool として利用できることが強く示唆される。
49
第4章
PAC1-R 抗体の作成
§4−1.序
PACAP には大きく分けて 3 種類の受容体が存在する。それらは全
て、膜を 7 回貫通する G タンパク質共役型の受容体である。PAC1-R
は PACAP に選択的に結合するが、VPAC1-R、VPAC2-R は PACAP
と相同性の高い VIP にも等価に結合する(Arimura and Shioda,
1995; Fahrenkrug, 1993)。したがって、PAC1-R のみが PACAP 特
異的受容体であるといえる。PAC1-R の模式図を図4−1に示した。
図4−1に示されているように、PAC1-R には現在までに、少なく
とも 10 個の subtype が知られている(Daniel et al., 2001; Shioda,
2000)。
50
1
449
図4−1.PAC1-R の模式図
51
§4−2.材料と方法
a) 抗体の作成
マウス PAC1-R(図4−1)の N 末端から 34 番目の Cysteine か
ら 47 番目の Leusin までのペプチドを認識する抗体の作成を目指し
た。これは N 末側の細胞外ドメインに位置し、全ての splice variant
に共通である(Chatterjee et al., 1996; Dautzenberg et al., 1999;
Harmar
et
al.,
1998) 。 こ の 合 成 ペ プ チ ド 断 片
(CLERIQRANDLMGL)を keyhole limpet hemocyanin (KLH) と
コンジュゲートしたもの(ペプチド研究所(大阪)により作成)を
用いた。抗原を Freun’d complete adjuvant および incomplete
adjuvant (和光純薬)とエマルジョンにして 90 日令のウサギ(雌
Japan White)に免疫し、抗血清を作成した。合成ペプチド抗原を
コンジュゲートした Affi-Gel 10 column (Pierce Chemical Co.)を使
って抗血清をアフィニティー精製した。
b) ウエスタンブロッティング法
野生型の C57BL/6 マウスからペントバルビタール麻酔下で脳組織
を摘出した。10 mM Tris-HCl (pH 7.4), 1% Triton X-100, 0.14 M
NaCl, 1 mM EDTA, 5 mM EGTA, 50 mM NaF, 10 mM
Na-pyrophosphate, 2 mM Na-orthovanadate, 5 μg/ml aprotinin,
5 μg/ml leupeptin, 5 μg/ml pepstatin A, 5 μg/ml antipain, 0.5
mM phenylmethylsulfonyl fluoride を含む lysis buffer 中で脳組織
52
をホモジェナイズした。続いて、13000g
4℃で 30 分間サンプルを
遠心し、上清を回収した。1% SDS を含む sample buffer 中で 3 分
間ボイルした後、0.1% SDS を含む 10% polyacrylamide gel で電気
泳動した。次に PVDF membrane(Bio-Rad Laboratories)に、100
mM 、1 時間、4℃で転写した。5% スキムミルクを含む 0.1% Tween
20-Tris buffered saline (TBS-T) でブロッキングをした後、0.1 μ
g/ml の抗体と 4℃で一晩反応させた。続いてメンブレンを 5000 倍
希 釈 し た horseradish peroxidase-conjugated anti-rabbit IgG
(Amersham Bioscience Corp.)と室温で 1 時間反応させた。最後に、
Enhanced
Chemiluminescence
System
(ECL;
Amersham
Biosciences Corp.)を用いて発色させた。
§4−3.結果
全脳のサンプルを用いたウエスタンブロット解析の結果、55 kDa
付近に強いシグナルを検出した
(図4−2、
レーン 1)。
これは PAC1-R
の分子量と一致する(SWISS-PROT database P70205)。一方、正
常ウサギ血清(NRS)の IgG 分画(同濃度)を用いたコントロール
にはバンドは検出されなかった(図4−2、レーン2)。
53
図4−2.PAC1-R 抗体を用いた Western blot 解析
マウスの全脳から抽出したタンパク質 30μg を泳動後、ブロッティングし、
。レーン2は同濃度の IgG を用いた
PAC1-R 抗体で抗原を検出した(レーン 1)
コントロール。矢印は PAC1-R の分子量に相当する 55 kDa を示す。
54
§4−4.考察
マウス PAC1-R の全ての splice variant の N 末端、細胞外ドメイ
ンを認識する Rabbit ポリクローナル抗体を作成した。全脳の lysate
を用いたウエスタンブロッティング解析で抗体の特異性を評価した。
抗体はおよそ 55 kDa のメジャーバンドを検出したが、正常ウサギ血
清由来の IgG ではバンドは検出されなかった(図4−2)
。ラットお
よびマウスにおいて PAC1-R が脳に分布することはすでに報告され
ている(Otto et al., 1999; Shioda et al., 1997)。したがって、このウ
エスタンブロッティング解析の結果により、本研究で用いた PAC1-R
抗体が特異的に PAC1-R を認識していることが強く示唆された。
55
第5章
反応性アストロサイトにおける PAC1-R の発現
§5−1.序
中枢神経系は神経細胞とグリア細胞から構成される。グリア細胞
はアストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびマイクログリアか
らなるが、アストロサイトはグリア細胞のうちで最も主要な細胞で、
非常に多様な脳機能にかかわっている。そのうちの一つが、脳傷害
後の脳組織の保護であり、これは反応性アストロサイトと呼ばれる
活性化型アストロサイトによる機能である(Ridet et al., 1997)。反応
性アストロサイトの一般的な特徴は突起を含む細胞全体の肥大化と
分裂活性の上昇である(Norton, 1999)。反応性アストロサイトを同定
するための最も主要な特徴は GFAP 遺伝子の発現上昇である。反応
性アストロサイトの特異マーカーは vimentin を含め、いくつか報告
されているものの(Ridet et al., 1997)、GFAP の発現上昇が反応性ア
ストロサイトの同定方法として最も普及している。
反応性アストロサイトの出現は Reactive gliosis の一環として生じ
ることが知られている。Reactive gliosis はあらゆる種類の脳傷害に
応答して起きるイベントで、反応性アストロサイトの出現および増
殖を伴う。Reactive gliosis は傷ついた神経細胞の軸索の再伸長を物
理的に阻害するものという認識がされてきたが、グリア細胞による
バリアが傷害の波及による二次的な被害を食い止めるという利点が
あるということもわかってきた。
脳損傷後の神経細胞死を PACAP が抑制する機構について研究す
56
るに当たって、アストロサイトの中でも特に反応性アストロサイト
に注目することは的を射ているといえる。
§5−2.材料と方法
a) 反応性アストロサイトの誘導
トランスジェニックマウス成体にペントバルビタール麻酔(50
mg/kg)を施し、脳右半球の背側から腹側にかけて 26 ゲージの針を
刺し、引き抜いた。手術後、マウスを 37℃に保ち、2 時間以内に覚
醒させた。手術後、0 時間後、48 時間後、5 日後にマウスを sacrifice
した。
b) 蛍光免疫染色
ペントバルビタールナトリウム麻酔下(100 mg/kg)でトランスジ
ェニックマウスを4% PFA /0.1 M PBS (pH 7.4)で灌流固定した。
続いて脳組織を摘出し、4℃で 16 時間、同液で浸漬固定した。PBS
で 2 回洗浄後、30% sucrose を含む PBS 中に 36 時間浸漬した。そ
の後、OCT compound (Sakura Finetechnical)を用いて凍結包埋し
た。クライオスタット(MICROM HM500)を用いて 6 µm の大脳
新皮質の凍結切片を作成した。
10% NGS (vimentin は normal horse serum;NHS)で常温で一時
間、切片をブロッキングした。続いて、同ブロッキング液で希釈し
た以下の一次抗体と4℃で2晩反応させた。
1) Mouse monoclonal anti-GFAP 抗体(G3893; Sigma)
:1000 倍希
57
釈。
2)
Mouse
monoclonal
anti-neuronal
nuclei
(NeuN) 抗 体
(Chemicon):400 倍希釈。
3)Rat monoclonal anti-CD11b 抗体(Serotec):500 倍希釈。
4 ) Goat polyclonal anti-vimentin 抗 体 ( S-20 ; Santa Cruz
Biotechnology):400 倍希釈。
5)PAC1-R 抗体:2μg/ml
その後、一次抗体の動物種に合わせ、400 倍希釈した Alexa
546-conjugated goat anti-mouse IgG (Molecular Probe)、200 倍希
釈した biotinylated anti-rat IgG (Molecular Probe)、400 倍希釈し
た Alexa 546-conjugated donkey anti-goat IgG (Molecular Probe)、
400 倍 希 釈 し た Alexa 546-conjugated goat anti-rabbit IgG
(Molecular Probe) と 80 分 間 常 温 で イ ン キ ュ ベ ー ト し た 。
biotinylated anti-rat IgG (Molecular Probe)の反応の後には、さら
に、400 倍希釈した Alexa 546-conjugated streptavidin (Molecular
Probe)と常温で 30 分間反応させた。
観 察 に は 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 ( Leica TCS SP2; Leica
Microsystems)を用いた。
58
§5−3.結果
a) 脳損傷に応答した反応性アストロサイトの増殖
申請者らは、トランスジェニックマウスの大脳新皮質に針を刺し、
EGFP 発現の動向を調べた。脳損傷後 0 時間では大脳新皮質に EGFP
発現細胞は全く観察されなかった(図5−1A)。しかし、脳損傷後
48 時間(図5−1B)、および 5 日後(図5−1C)には針穴を取り
囲むように分布する EGFP 発現細胞が観察された。EGFP 発現細胞
の分布は針穴の周囲に限局しており、脳左半球(反対側)の相当す
る位置に EGFP 発現細胞はまったく観察されなかった。脳損傷後 5
日後(図5−1C)には 48 時間後(図5−1B)に比べて広い領域
に EGFP 発現細胞は分布し、その細胞の数および EGFP 蛍光の輝度
が増大していることが観察された。
脳損傷後 48 時間後の EGFP 発現細胞は無数の細い突起を持って
いたが(図5−2A、図5−4A)、5 日後の EGFP 発現細胞は顕著
に太い突起を持っていることが観察された(図5−3A)。次に、申
請者らはこれらの EGFP 発現細胞の細胞同定を行った。蛍光免疫染
色により、脳損傷後、48 時間および 5 日後のほぼ全ての EGFP 発現
細胞がアストロサイトのマーカーである GFAP を発現していること
がわかった(図5−2)
。また、神経細胞のマーカーである NeuN あ
るいはマイクログリアのマーカーである CD11bと蛍光免疫染色法
で重ね合わせた結果では、両マーカーを発現している EGFP 発現細
胞は観察されなかった(図5−3、図5−4)。さらに、反応性アス
59
トロサイトのマーカーである vimentin と重ね合わせたところ、脳損
傷後 48 時間後、5 日後ともに、EGFP 発現細胞の一部が vimentin
免疫陽性を示すことがわかった(図5−5)。
60
図5−1.脳損傷に対するトランスジーンの応答。
大脳新皮質の水平断像。脳に針を刺した後、0 時間後(A)、48 時間後(B)、
5 日後(C)の EGFP 発現細胞の分布が示されている。矢印は針穴を示す。Scale
bars = 100 μm。
61
図5−2.EGFP と GFAP の共存
脳損傷後 48 時間後の大脳新皮質における EGFP 発現細胞(A)と GFAP 免疫
染色像(B)。A-C は同視野を示す。EGFP と GFAP の共存は黄色によって示さ
62
れている(C)。Scale bar = 20 μm。
図5−3.EGFP は NeuN と共存しない。
脳損傷後 5 日後の EGFP 発現細胞(A)と NeuN 免疫染色像(B)。A-C は同
視野を示し、C は A と B を重ね合わせた像。EGFP と NeuN 免疫染色の重なり
は観察されない。Scale bar = 20 μm。
63
図5−4.EGFP は CD11bと共存しない。
脳損傷後 48 時間後の EGFP 発現細胞(A)と CD11b免疫染色像(B)。A-C は
同視野を示し、C は A と B を重ね合わせた像。EGFP と CD11b免疫染色の重
なりは観察されない。Scale bar = 20 μm。
64
図5−5.Vimentin を発現する EGFP 細胞
脳損傷 48 時間後の EGFP 発現細胞(A)と vimentin 免疫染色像(B)。A-C
は同視野を示し、C は A と B を重ね合わせた像。EGFP と vimentin の共存は
黄色によって示されている(C)
。Scale bar = 20 μm。
65
b) 反応性アストロサイトにおける PAC1-R の発現
脳損傷 48 時間後に PAC1-R 免疫陽性を示した EGFP 発現細胞は
観察されなかったが、脳損傷後 5 日目には針穴のごく周囲に PAC1-R
免疫陽性を示す EGFP 発現細胞が観察された(図5−6)
。針穴に隣
接して EGFP 発現細胞の太い突起が PAC1-R 免疫陽性を示している
(図5−6C)。PAC1-R 免疫陽性反応は細胞体及び太い突起に観察
されたが、微細突起には観察されなかった(図5−6E)。抗原吸収実
験、及び一次抗体の代わりに NRS 由来の IgG 分画を用いたコント
ロールからは陽性のシグナルは得られなかった。
66
図5−6.反応性アストロサイトにおける PAC1-R の局在
脳損傷後 5 日後の大脳新皮質の水平断像。A:B:C と D:E:F はそれぞれ同じ視
野を示す。EGFP(緑;A, D)と PAC1-R 免疫陽性(赤;B, E)がそれぞれ同一
視野で示されている(A:B:C、D:E:F)。C と F に EGFP と PAC1-R の共存が黄
色で示されている。矢印は針穴を示す。Scale bars = 20μm。
67
§5−4.考察
脳損傷に関連したものではないが、PAC1-R がアストロサイトで発
現することを報告した例は多い(Ashur-Fabian et al., 1997; Figiel
and Engele, 2000; Grimaldi and Cavallaro, 1999; Jaworski, 2000;
Masmoudi et al., 2003; Shivers et al., 1991; Tatsuno et al., 1991;
Tatsuno et al., 1990)。また、アストロサイトの存在下では PACAP
の神経細胞保護作用は、PACAP の濃度が pM∼fM レベルで有効で
あるが、アストロサイトの非存在下ではnM もの濃度が必要という
ことが培養細胞を用いた研究でわかっている(Arimura et al., 1994;
Deutsch et al., 1993; Deutsch and Sun, 1992)。さらに、脳虚血に関
する in vivo の研究で PACAP が神経細胞死抑制作用を持つことが示
されている(Reglodi et al., 2000a; Reglodi et al., 2000b; Uchida et
al., 1996)が、この PACAP の作用はアストロサイトを介しているこ
とが考えられる。なぜなら、これらの研究で投与した PACAP が組
織内でnM という高濃度に達する可能性は非常に低いと考えられる
からである。
これらのことを考え合わせると、本研究において PACAP 受容体
である PAC1-R が脳損傷後 5 日目の反応性アストロサイトに発現し
たことは、脳損傷後の神経細胞死もやはり PACAP によって抑制さ
れていることを示唆するデータであるといえる。脳虚血後における
PAC1-R の 発 現 は 非 常 に 緩 や か に 上 昇 す る と い う 報 告 も あ り
(Gillardon et al., 1998; Uchida et al., 1996)、これは本研究において、
脳損傷 5 日後になってようやく反応性アストロサイトに PAC1-R 免
68
疫陽性が観察されたことと一致する。したがって、脳損傷後の脳に
おける PAC1-R の発現のシステムは、脳虚血後のものと類似してい
ることが考えられる。
69
第6章
まとめ
§6−1.本論文の要旨と結論
本論文は視床下部で産生されるいくつかの神経ペプチドの脳機能
に及ぼす影響を解析したものである。
まず、申請者らは視床下部における摂食調節ニューロンのネット
ワークを、orexin、NPY、POMC、GALP という4つの摂食調節物
質に着目して調べた。その結果は図1−12にまとめられている。
orexin は弓状核の NPY ニューロンの細胞活動を活性化すること(図
1−5)、そして POMC ニューロンの細胞活動を抑制すること(図
1−6)がわかった。さらに、弓状核の GALP 免疫陽性細胞体の7%
が POMC 免疫陽性を示すことがわかった(図1−7F)。弓状核以外
では、orexin の受容体(OX1-R)が腹内側核(VMH)の細胞に発現
していることもわかった(図1−8)。
摂食促進物質としてよく知られている orexin であるが、視床下部
以外の脳領域にもその受容体 OX1-R の免疫陽性反応が観察された。
それは、大脳新皮質(図1−9)、海馬の錐体細胞層 CA1、CA2、
CA3(図 1−10)
、中脳の腹側被蓋野(図1−11)および Me5(図
1−12)などである。これは、orexin がこれらの脳領域がつかさど
る脳機能にかかわることを示唆するものである。
続いて申請者らは多機能神経ペプチド PACAP の神経細胞死抑制
作用についての研究を行った。まず、大脳新皮質の反応性アストロ
サイトが特異的に蛍光タンパク質 EGFP で可視化されるトランスジ
ェニックマウスを作成した。このトランスジェニックマウスの大脳
70
新皮質に針を刺し、誘導された反応性アストロサイトにおける
PAC1-R の発現を調べた。脳損傷 48 時間後に PAC1-R 免疫陽性を示
した EGFP 発現細胞は観察されなかったが、脳損傷後 5 日目には針
穴のごく周囲に PAC1-R 免疫陽性を示す EGFP 発現細胞が観察され
た(図5−6)。
§6−2.研究成果の持つ意義と展望
a) 摂食調節機構の解明と肥満の治療
欧米を中心に肥満が深刻な問題として認識されてきたが、最近の
研究から、肥満が単に生活習慣に起因するものではなく、疾患の一
種であることがわかってきた(Flier, 2004)。これを背景に、抗肥満薬
という究極の目標を掲げ、摂食調節機構の研究が盛んに行われてき
た。本論文の研究成果(図1−14)は視床下部における摂食調節
ニューロンのネットワークの一部を解明したものである。本研究で
は、orexin、NPY、POMC、GALP という4つの摂食調節物質を産
生するニューロンの神経相関を調べたが、今後、他の摂食調節ニュ
ーロンの神経相関を解明することが必要であると考えられる。
腹内側核(VMH)は満腹中枢として知られ(Oomura, 1988)、摂食
調節機構において重要な領域である。本研究において orexin の受容
体 OX1-R が腹内側核に分布することが示され(図1−9)、orexin
が腹内側核に存在するニューロンに作用を及ぼしている証拠が得ら
れた。興味深いことに、現在までに、腹内側核で特異的に産生され
る神経ペプチドは発見されていない。したがって、orexin が腹内側
71
核のどのような細胞に作用しているのか、そしてその細胞が産生し
ているとしたらどのような神経ペプチドを産生しているのかを研究
することは、今後興味深い研究課題であると考えられる。
b) orexin が関わる新たな脳機能
摂食行動を制御している視床下部以外への OX1-R の分布を確認し
たことは、今後、orexin が関わる新たな脳機能を探るのに意義深い
成果であるといえる。orexin が睡眠の調節をしているという報告が
多数ある(Chemelli et al., 1999; George and Singh, 2000; Kilduff
and Peyron, 2000; Lin et al., 1999; Piper et al., 2000; Sakurai,
1999; Siegel, 1999; Taheri et al., 2000)が、これらを総合すると、
orexin は覚醒状態の維持に関わっているようである。
「空腹で眠れな
い」という表現があるが、これが orexin というひとつの分子の働き
によるとすれば、orexin はこの上なく興味深い研究対象であるとい
える。したがって、今後、orexin が他にどのような脳機能に関わっ
ているかを研究することは、十分に意義のあることである。
c) 脳損傷の治療と PACAP
脳虚血に関する in vivo の研究で PACAP が神経細胞死抑制作用を
持つことが示されており(Reglodi et al., 2000a; Reglodi et al.,
2000b; Uchida et al., 1996)、実際に、PACAP を脳虚血後の脳梗塞
の治療に応用は現実味を帯びている。PACAP を用いる利点は、
PACAP の効果が低濃度で発揮され、また、もともと生体内にある物
72
質であるため、副作用の恐れが低いことが挙げられる。脳損傷によ
って引き起こされる神経細胞死が脳虚血によるものと同じメカニズ
ムで生じるものか、いまだわかっていないが、本研究の結果、PACAP
が脳損傷後に神経細胞死抑制作用を発揮していることが強く示唆さ
れた。今後、脳損傷後の反応性アストロサイトを介した PACAP の
シグナル伝達機構を探ることなどにより、将来的には PACAP が脳
損傷の治療に臨床応用されることが強く期待される。
73
謝辞
ご指導くださった早稲田大学教育学部
大学医学部
菊山榮教授ならびに昭和
塩田清二教授に心より感謝いたします。また、組織学
の技術指導をいただいた昭和大学医学部
舟橋久幸助教授、トラン
スジェニックマウス作成のご指導をいただいた昭和大学共同研究施
設
荒田悟講師に深く感謝いたします。最後に、種々の面でサポー
トをしていただいた蓮沼至氏を始めとする菊山研究室の皆様に心よ
り感謝いたします。
74
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