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景気の落ち込みを背景に取引先の破綻が懸念される場面も見受けられ

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景気の落ち込みを背景に取引先の破綻が懸念される場面も見受けられ
景気の落ち込みを背景に取引先の破綻が懸念される場面も見受けられます。そこで今回
は,取引先の破綻についてよくあるご相談をまとめてみました。
1.破産手続
社長(以下,社):最近,大型倒産が見られますね。「倒産」と「破産」は違うのですか。
弁護士(以下,弁)
:
「倒産」というのは事業が停止した状態を一般的に表現する言葉です。
何の手続もとらずそのまま夜逃げしたケースも含まれます。法的な倒産手続としては,
破産・民事再生・会社更生といった手続があります。
社:それぞれの内容は違うのですか。
弁:民事再生と会社更生はどちらも会社の再建を目指す手続ですが,破産は会社を消滅さ
せる手続です。会社の財産を全て金銭に換えて,債権者に配当し,会社は消滅します。
これに対して,再建型の手続では,再建計画が立てられてこれに債権者が同意するこ
とが必要となります。
社:万一,売掛先が破産したらどのように対処すればよいでしょうか。
弁:取引先から事前に相談などがない場合は,弁護士からの「受任通知」あるいは「破産
申立通知」が届くのが一般的です。
「債権調査票」が届けば,必要事項を記入して返送
しておいてください。この金額が,後に破産管財人の資料となります。
社:過去の事例だと,その後しばらく何の知らせもないことがありますが。
弁:破産を申し立てるための準備手続に1カ月から半年程度かかっているケースもありま
すが,申立から破産手続が始まるまでの間も数週間を要することがあります。この間
に破産管財人である弁護士が選任され,裁判所から「破産手続開始決定」の通知が届
きます。
社:それを見れば今後の手続が分かるのでしょうか。
弁:第1回の債権調査・財産報告集会の期日が分かります。また,配当が実施できるかど
うかなど,今後の見通しについて,破産管財人からの連絡文書が入っていることもあ
ります。
社:破産管財人とはどんな仕事をする人ですか。
弁:会社の財産をお金に換えて,債権者への配当を行うのが仕事です。破産会社の代理人
弁護士とは違う人物です。
社:全く配当がないケースもあるのですか。
弁:破産管財人は,破産開始時点での会社に残っている不動産や在庫,売掛金などを回収
して配当できるよう努力するわけですが,そもそも,破産申立まで必死に資金繰りを
していた会社には,財産がほとんど残っていないことが多いのです。ですので,配当
が全くできないケースもありますし,配当ができる事案でも配当率が一桁のことも少
なくありません。
社:そうすると,債権額によっては,配当額が数百円なんてこともあり得るのですよね。
弁:配当が実施される事案では,先に送付した債権調査票とは別に,改めて「債権届」を
裁判所に提出するよう求められます。その場合,会社の全部事項証明書(登記簿謄本)
や債権の内容を裏付ける書類などの添付が必要ですが,全部事項証明書を取るにも費
用がかかりますので,配当額がこれに見合わないような「費用倒れ」のケースでは届
出をしない債権者もいます。債権届をしないと配当に加われませんが,配当率は財産
の換価が終了した後に判明するので債権額が少額の場合は,債権届出をするかどうか
悩みどころになる場合もありますね。
社:逆に,当社の買掛先が倒産した場合はどうなりますか。
弁:買掛先が倒産しても買掛金の支払義務はなくなりません。破産申立を準備する旨の通
知と共に,会社側から「破産管財人が選ばれるまで弁済をしないよう」依頼がある場
合もあり,破産手続が始まった後は,破産管財人から支払を求められます。破産管財
人から支払を求められたときは,仮に,反対債権があって相殺すべき場合は,そのよ
うに回答してください。差し引くべきものがない場合は,破産管財人の指定する口座
に振り込む方法により全額支払うことになるでしょう。
2.民事再生手続
社:取引先から,民事再生手続の債権者説明会の通知が来ました。民事再生と破産は違う
のでしたね。
弁:破産は会社が消滅しますが,民事再生の場合,少なくとも申立の時点では,会社の再
建を目指しています。
社:今後,民事再生手続はどのように進むのでしょうか。
弁:民事再生手続では,不採算事業を切り捨て,採算のとれる事業に特化することもあり
ます。もっとも,全く新しい事業をすぐに開始することはできないので,それまでの
事業を継続することになり,そのためには取引先の協力が必要となります。そこで債
権者の理解を得るため,なぜ経営破綻に至ったのか,再建計画がどのようなものかな
どを説明する「債権者説明会」が開催されるのが一般的です。ただし,これは法律上
要求されているのではなく,債務者が任意に開くものです。
社:絶対に参加しなければならないというわけではないのですね。
弁:そうです。
社:そもそも,破綻寸前まで行った会社が再建できるのでしょうか。
弁:完全な自力再建を目指すのではなく,スポンサー企業を見つけて,そこに事業譲渡し
て元の会社は清算するパターンも多いですね。このような再建計画の場合,その事業
譲渡代金から,債権者に弁済がなされることになります。
社:結局,再建ができない場合もありますよね。
弁:スポンサーを探したが見つからなかった場合,再建計画に債権者が同意せず認可され
なかった場合,自力再建を目指し,債権カットをしてもらったのに経営が好転せず2
回目の破綻をした場合など,再建ができない場合にもいろいろなパターンがあります。
結局,破産手続に移行することも少なくありません。
社:経営者は変わらないのですか。
弁:経営破綻を機に経営陣が入れ替わることもありますが,そのまま交代しないことも多
いです。
社:破産管財人のような第三者はつかないのですか。
弁:会社側代理人が携わるほか,管理処分などの同意権限を有する監督委員や調査権限を
有する調査委員が必要に応じて選任されますし,例外的に,債務者に代わって業務の
遂行や財産の管理を行う管財人が選任されることもあります。
社:債権者説明会の後はどのような手続となりますか。
弁:裁判所から「債権届出書」が届きます。これに記入して提出しなければなりません。
社:民事再生手続の申立がされた後は,配当を待つしかないのですか。
弁:一般的に,民事再生申立の際には,「弁済禁止の保全処分」が出されることが多く,こ
れにより,申立日以前の原因に基づく債権については,原則として弁済を受けること
ができなくなります。
民事再生の場合,事業を継続しますから,そのための仕入も必要なのですが,その場
合の代金債権は,法律上は優先的に全額弁済されるべき債権となります。
社:債権届出をした後は,再生計画案を待つのですか。
弁:そうです。再建計画案の認可のためには,議決権者の過半数,かつ議決権者の議決権
の総額の半額以上の賛成が必要となります。
社:債権額が影響するとなると,結局,融資をしている金融機関が賛成しているかどうか
が大きなポイントになりそうですね。
3.私的整理手続
社:取引先から「私的整理」をすると通知が来たのですが,「私的整理」とはどのようなも
のですか。
弁:破産,民事再生,会社更生の各手続は,裁判所が関与して行われる「法的整理」です。
これに対して,裁判所の関与なしに行われる債務整理を私的整理と呼んでいます。
債権カット(一部債務免除)を申し出て負債を軽くし,再生を目指すために行われる
のが一般的ですが,法的整理とは異なり,債務者と債権者の個別の合意に基づいて行
われます。つまり,多数決などで決まっていくわけではありません。
社:例えば,債権カットの幅について交渉の余地があるということでしょうか。
弁:それはあり得ますが,債権者間の公平を大きく失するような内容の交渉は難しいで
しょうね。私的整理の場合も,債権者に対して,「一律○%カット」を申し出て,「全
債権者の同意が得られなければ,法的整理に移行します」等と画一的な処理を行う場
合も多いです。
社:そう言われると賛成せざるを得ないように思いますが,法的整理と比べて,債権者に
メリットはあるのですか。
弁:私的整理の両者共通のメリットは,費用が安価で済むことです。民事再生手続の場合
は,裁判所から選任される監督委員等に対する報酬もかなり必要となりますが,私的
整理の場合はそれが不要なので,その分を弁済に充てることができるというわけです。
債権者から見ると,支払ってもらえる額が多くなる可能性があるということです。
社:整理案に同意するかどうかは,どのように判断すればよいのでしょうか。
弁:債権カットされた場合でも弁済が分割払いになることが多いのです。そうすると,分
割弁済が適正に履行されるか,債権者間の公平が保たれているかなども重要です。そ
れに,なぜ破綻したのかという点も説明してほしいですよね。通常は,「破綻の経緯」
「資産と負債の状況」「再建計画」「スポンサーの有無」などが書面で通知されたり,
債権者集会が開催されることが多いです。そこでの説明を踏まえて判断することにな
るでしょう。
社:簡単に再建なんてできるのでしょうか。債権カットしたって,結局払ってもらえない
のでは。
弁:私的整理になると,ほとんどの場合銀行の融資はストップしますから,スポンサーが
運転資金を支援するとしても,基本的には日々の売上というキャッシュベースで事業
を継続していくことになります。私的整理にもかかわらず,売上が維持できずに再度
破綻することも少なくありません。
社:私的整理をした後も取引を継続してほしいと言われたら,応じてもいいのですか。
弁:検討の余地はあると思います。ただし,当面は「現金取引」が条件となるでしょうね。
社:よく分かりました。ありがとうございました。
弁:いいえどういたしまして。また,いつでもご相談ください。
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