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長周期・長継続時間地震動の 道路構造物への影響評価
関西道路研究会・道路橋調査研究委員会報告会 平成27年2月23日 研究成果報告② 長周期・長継続時間地震動の 道路構造物への影響評価 長周期・長継続時間地震動の道路構造物への 影響評価に関する研究小委員会 1章:はじめに 背景 関西圏が憂慮しなければならない,来るべき南海・東南海地 震が道路構造物に与える影響を,2011年の東北地方太平洋沖地 震と同じと見てよいのか,あるいは断層の破壊メカニズムや当 該地盤構造の違いによって,どのような揺れが発生する可能性 があるのか,それによって道路構造物はどのような挙動を取る のか、まずその部分から検証を始める必要があった. 目的 関西圏で今後特に注意を払わなければならない南海トラフの 巨大地震にスポットを当て,長周期・長継続時間地震動の特徴 と,その地震動が橋梁等の道路構造物にどのような影響を与え るのかの検討を行うことを目的とした. 小委員会メンバー構成 清野 純史(京都大学:委員長) 酒井 久和(法政大学:副委員長) 古川 愛子(京都大学:副委員長) 佐伯 琢磨(防災科学技術研究所:幹事長) 緒方 辰男(西日本高速道路㈱) 奥 兼治(大阪市) 奥村与志弘(京都大学) 佐藤 知明(JIPテクノサイエンス㈱) 清水 晋作(日立造船㈱) 田坂 康介(川田工業㈱) 田畑 晃(㈱横河ブリッジ) 中川 二郎(川田工業㈱大阪支社) 西川 啓二(㈱オリエンタルコンサルタンツ) 長谷川哲也(㈱駒井ハルテック) 林 健二(㈱フォレストエンジニアリング) 平石 敏明(㈱川金コアテック) 古越 武彦(長野県) 松本 崇志(㈱建設技術研究所) 八ツ元 仁(阪神高速道路㈱) 渡邊 裕規(㈱綜合技術コンサルタント) (委員数:20名,50音順・敬称略) ワーキンググループ(WG)の構成 本小委員会では,以下の2つの課題を設定し, それぞれワーキンググループを構成して作業を分 担しつつ,両者一体となった小委員会活動を進め てきた. WG1:長周期・長継続時間地震動の検証 (報告書の2章,3章に対応) WG2:長周期・長継続時間地震動による 道路構造物の応答とその安全性評価 (報告書の4章に対応) 2章 2.1 関西圏に影響を及ぼす 南海トラフ巨大地震の概要 南海トラフの巨大地震について は,内閣府が平成23年8月に設 置した「南海トラフの巨大地震 モデル検討会」(座長:阿部勝 征東京大学名誉教授)におい て,科学的知見に基づき,南海 トラフの巨大地震対策を検討す る際に想定すべき最大クラスの 地震・津波の検討を進めている. 検討会は,平成23年12 月27 日 に,南海トラフの巨大地震モデ ルに係る想定震源断層域の設 定の考え方などについて中間と りまとめを行った.中間とりまと めを受けて,検討会は,震度分 布・津波高の推計などについて 検討を進めてきたが,平成24 年3月31 日に開催された第15 回 会合において,震度分布・津波 高の推計結果が第一次報告と してとりまとめられた.これらに ついて,2.1に示す. 2章 2.2 南海トラフ巨大地震の道路 (高速道路,一般道路)被害の様相 中央防災会議の「南海トラフ巨大地震の被害想定について (第二次報告)」に示されている道路(高速道路,一般道路) についての被害の様相を2.2に示す. 地震直後 の状況 ○直轄国道等 ・震度6 弱以上となる東海地方一帯・紀伊半島・四国・瀬戸内海沿岸・九州南東部では,概ね6km につき1 箇所程度の割合で被害 が発生する. ・都市部の4車線道路など幅員の大きい道路は,車線減少が見を込まれるものの交通機能を果たす. ・震度6 強以上の揺れを受けた幅員5.5m 未満の道路の5 割以上が通行困難となる. ・中山間部においては,震度6 強以上となったほとんどの区間で亀裂や陥没が発生するほか,橋梁の取り付け部・横断ボックスの 境界部などの段差や,車道部のすべり,トンネルのコンクリート擁壁の剥離等が発生し,多くの箇所で通行不能となる.また, 土砂崩れや法面崩壊の発生が顕著になる.震度6 弱エリアにおいても多くの箇所で亀裂や陥没等,同様の被災が発生する. ・沿岸部の津波浸水深が1m~3m のエリアでは,3km につき1 箇所程度の被害が発生する.津波により被災した場合,ほぼ全ての 浸水した道路が通行困難となる. ・三重県南部,和歌山県南部,徳島県南部,高知県南部,宮崎県北部・南部等,高規格道路が未整備でアクセスが限定される地域 があり,当該地域が揺れ・津波により大きな被害を受けた際には迅速な災害応急対策が困難となる. ・その他,点検のための交通規制,道路への建物の倒壊,液状化による段差やマンホール等の飛び出し等により通行困難となる. ○高速道路 ・震度6 強以上エリアを通過する東西幹線交通(東名高速道路及び新東名高速道路)は,被災と点検のため,通行止めとなる.中 央自動車道は点検の後,通行可能となる.東名の迂回ルートとして,愛知県付近まで機能を果たすが愛知県内の震度6 強以上エ リアに進入できない. ・本州と四国を連絡する道路のうち,震度6 強以上の揺れが想定される神戸淡路鳴門自動車道,瀬戸中央自動車道が被災と点検の ため通行止めとなる. ・中国地方は瀬戸内海沿岸を除き震度6 強以上となる地域が限定的であり,高速道路の機能は概ね維持される. ・その他,点検のための交通規制,跨道橋の落下,高速道路の出入口と市街地等とを結ぶ一般道路の施設被害等により通行困難と なる. 2章 2.3 大阪府内における道路被害 の想定結果 大阪府南海 トラフ巨大地 震対策等検 討部会による 「大阪府域の 被害想定に ついて」から, 道路被害に ついて2.3に 示す. 2章まとめ 内閣府が平成23年8月に設置した「南海トラフの巨大地震モデル検討会」において,南海トラフの巨大地 震対策を検討する際に想定すべき最大クラスの地震・津波の検討を進めてきた.平成24年3月31 日に, 震度分布・津波高の推計結果が第一次報告としてとりまとめられた.これらについて,2.1に示した. 続いて,平成25年3月18日に第二次報告として,様々な対象の被害の様相を示したが,その中から道路 (高速道路,一般道路)についての被害の様相を2.2に示した. また,大阪府は南海トラフ巨大地震対策等検討部会による「大阪府域の被害想定について」においてか ら,道路被害について2.3に示した. 道路被害の様相について,直轄国道等については震度6 弱以上となる東海地方一帯・紀伊半島・四国・ 瀬戸内海沿岸・九州南東部では,概ね6km につき1 箇所程度の割合で被害が発生するなど,大きな被 害が予想されている.高速道路については,震度6 強以上エリアを通過する東西幹線交通(東名高速道 路及び新東名高速道路)は,被災と点検のため,通行止めとなる.大阪府内では,揺れ及び津波により 1,883箇所で道路被害が発生すると想定される. <教訓> 被害の様相の部分から、教訓に通じると思われるものをまとめた。 都市部の幅員の大きい道路は車線減少が見込まれるものの交通機能を果たす一方で、 高規格道路が未整備の地方の山間部・沿岸部では、揺れ・津波で被害を受けた場合は 迅速な災害応急対応が困難となるので、事前対策が必要。 災害が長期化する恐れがある。例えば、地盤変位による大変形や津波による流出が生じた 橋梁の一部は、通行不能が3ヶ月以上継続すると予測されるので、事前対策が必要。 3章:長周期・長継続時間地震動の検証 3.1 既往の類似研究 過去の南海トラフ地震では長 周期かつ長継続時間地震動 が観測されている 1944年の東南海地震では 地震動が10分も継続した * 古村孝志,中村操:1944年東南海地震記録の復元と関東の長周期地震動 3章:長周期・長継続時間地震動の検証 3.1 既往の類似研究 2004年 紀伊半島沖地震(Mw:7.4) 加速度応答スペクトルに示 すように,5秒を超えるよう な長周期成分の波を含ん でいる 海溝型地震である南海 トラフ地震 ・長周期 ・長継続時間 * 古村孝志,中村操:1944年東南海地震記録の復元と関東の長周期地震動 3章:長周期・長継続時間地震動の検証 3.1 既往の類似研究 巨大地震に関する検討は重要 地震の想定(地震動予測等) ①基礎的研究 大学、官民の研究組織 ②中央防災会議 内閣総理大臣が議長 防災基本計画、地域防災計画の作成と実施 ③地震調査研究推進本部 文部科学大臣が本部長 地震調査研究の推進につき、地震観測、測量の調査研究に ついて総合的・基本的な施策を策定 3章:長周期・長継続時間地震動の検証 3.1 既往の類似研究(研究機関) 地震動作成手法の検証 : 東日本大震災の地震動の再現解析 佐藤他:長周期地震動の経験式の改良と2011年東北地方太平洋沖地震の長周期地震動シミュレーション 3章:長周期・長継続時間地震動の検証 3.1 既往の類似研究(中央防災会議) 南海トラフの巨大地震モデル検討会 →予測地震動の作成 5kmメッシュ単位での工学基盤面 での計算ノード地点における予測 地震動の計算結果を配布 本委員会の検討では、上記工学基盤面の 地震動を引き上げ計算を行い、南海トラフ 地震動の作成を実施 3章:長周期・長継続時間地震動の検証 3.1 既往の類似研究(地震調査研究推進本部) 強震度予測のレシピ 地震動の予測手法について公開 深い地盤構造の検討 → 浅い地盤構造 → 設計地震動・・・・・・・ 順を追ってわかりやすく説明 3.2 関西圏の地盤特性 地形・地質の概要 基盤の地質構造と地 形上の特徴によって, 3つの大地形区に分 けられる . 丹波-但馬区 近畿三角地帯 紀伊区 凡 色 近畿地方土木地質図編纂委員会(1981) 関西圏の微地形区分(J-SHIS) 例 微地形名 山地 山麓地 丘陵 火山地 火山山麓地 火山性丘陵 岩石台地 砂礫質台地 ローム台地 谷底低地 扇状地 自然堤防 後背湿地 旧河道 三角州・海岸低地 砂州・砂礫州 砂丘 砂州・砂丘間低地 干拓地 埋立地 磯・環礁 河原 河道 湖沼 3.2 関西圏の地盤特性 地形・地質の概要(2) 丹波-但馬区: 複雑な構造をもつ山地 近畿三角地帯: 盆地および平地が発達した複雑な地形 紀伊区 : 平坦な山地が形成 3.2 関西圏の地盤特性 近畿地方中部(近畿三角地帯) 南北方向の細長い山地と,その間のやや幅が広い盆地が順に配列 している. 盆地には厚い堆積層が存在.東西方向の圧縮による基盤褶曲にとも なう断層地塊とみなされている. ⇒厚い堆積層は、地震動の増幅作用がある(特に長周期) 大阪層群・古琵琶湖層群の上部<更新世前期> 大阪層群・古琵琶湖層群の下部,東海層群<鮮新世-更新世初頭> 神戸層群,二上層群,鮎河層群,一志・鈴鹿層群など<中新世> 基盤岩類 六 生 屋 島 小 豆 島 播 磨 灘 甲 山 脈 甲 山 大 阪 駒 山 脈 3=鮮新世~更新世の火山岩類 2=中新世最後~鮮新世初頭の酸性火山岩類 1=中新世中期~後期の火山岩類<瀬戸内系火山岩類> 奈 良 都 祁 江 和 高 原 近畿地方中部の地質断面図(市原,1966) 琵 琶 湖 鈴 鹿 山 脈 伊 勢 湾 3.2 関西圏の地盤特性 大阪平野の地質縦断 上町台地(図中央)を除く平野部全域に厚い堆積層が分布する. 土木構造物の支持層とされる地層は,一般にTMc層(Ma12層)以 深の砂礫層であり,支持層深さは上町台地より沿岸部では50m~ 60m程度,内陸部で20~30m程度になると考えられる. 上町台地の西側にある地層の不連続部が上町断層である. 上 町 台 地 ↑ 上町断層 大阪平野の地質縦断図 (国土交通省 国土政策局 国土情報課) 3.2 関西圏の地盤特性 表層地盤の特性(1) 30m平均S波速度(AVS30) 大阪平野は上町台地を除 くほぼ全域が小さい.沿岸 部より東大阪~茨木付近 の内陸部の方が小さい. 姫路,神戸,和歌山,御 坊の都市部近郊も小さい. 表層地盤の特性;AVS30(J-SHIS) 3.2 関西圏の地盤特性 表層地盤の特性(2) 表層の地盤増幅率AFPGV 最大速度の地盤増幅率 AFPGVは,AVS30から導出さ れるためAVS30と同様の 分布傾向となる. 表層地盤の特性;地盤増幅率(J-SHIS) 3.2 関西圏の地盤特性 深層地盤の特性 関西圏の深層地盤が深い地域: 大阪湾と大阪平野,中央構造線 付近,奈良盆地,琵琶湖周辺. 大阪湾のS波速度(Vs) 2.9km層(地震基盤相当)の最深部の深度は, 約2,800mに達する. 深度 (km) (a) S波速度0.6km/s層 上面 (b) S波速度2.9km/s層 上面 代表的な堆積層・地震基盤の上面深度 (J-SHISをもとに作成) 3.2 関西圏の地盤特性 地盤特性のまとめ: 関西圏(近畿地方)は,基盤の地質構造と地形上の特徴によっ て,3つの大地形区に分けられ,ぞれぞれに特徴がある . 関西圏中央部(近畿三角地帯)は、南北方向の細長い山地と, その間のやや幅が広い盆地が順に配列し,盆地には厚い堆積 層が存在する(特に大阪湾~大阪平野の地域). ⇒厚い堆積層には、地震動の増幅作用がある(特に長周期) 厚い堆積層の存在する範囲は、表層地盤の地盤増幅率も大 きい傾向にある. 大阪湾のS波速度 2.9km層(地震基盤相当)の最深部の深度 は約2,800mに達する. 3.3 南海トラフ巨大地震における 代表地点の波形 全国地震動予測地図(地震ハザードステーショ ン) 震源断層ごと 地盤増幅率(最大速度増幅率) を考慮した震度分布が提供されている 大阪湾岸の代表地点に対して,南海トラフ地震時の 基盤面波形をもとに地表面での引き上げ波を計算 予測地図との比較を実施 3.3.1 代表地点の選定 ボーリングデータが入 手可能な 4地点 地点名 微地形区分 ポートアイランド 埋立地 大阪港駅前 干拓地 りんくうタウン 埋立地 和歌山市福島 後背湿地 3.3 .2 工学的基盤面地震波の抽出 2003年 工学的基盤面における加速度波形の 生成には内閣府により提供されている データを使用 二種類の地震波について抽出する 中央防災会議(2003年) 「東海+東南海+南海地震」 南海トラフの巨大地震モデル検討会 (2012年) 「南海トラフ地震(基本ケース)」 2012年 強震動生成域 基盤面における加速度波形 絶対加速度(gal) ポートアイランド りんくうタウン 大阪港 和歌山市 2003 2012 ポートア イランド 141.7 170.5 大阪港 96.2 156.5 りんくう タウン 181.6 296.0 和歌山市 福島 200.8 488.3 3.3.3 地表地震動の計算 ボーリングデータ ↓ 地盤モデル作成 ↓ 地震動の応答計算 ↓ 地表面における 応答加速度・速度の算出 ↓ 工学的基盤波形との比較 検討の流れ ・重複反射理論に基づく 等価線形解析法 ・地盤のひずみ依存曲線 : 運輸省港湾局式を採用 ・N値に基づくせん断波速度 :今井式を採用 地震動の応答計算 解析結果 入力波 2003 ポートア イランド 2012 2003 大阪港 2012 2003 りんくう タウン 2012 2003 和歌山市 福島 2012 着目 絶対加速度 絶対速度 位置 gal cm/sec 地表 283.0 40.1 基盤 141.7 26.0 地表 397.9 58.0 基盤 170.5 39.4 地表 306.7 49.3 基盤 96.2 19.6 地表 440.1 77.5 基盤 156.5 45.0 地表 333.2 57.0 基盤 181.6 33.9 地表 849.3 98.3 基盤 296.0 41.0 地表 632.8 40.7 基盤 200.8 12.7 地表 745.8 74.9 基盤 488.3 39.0 表層地盤 増幅率 相対変位 1.54 6.6 1.47 10.8 2.52 13.0 1.72 13.6 1.68 5.4 2.40 18.1 3.22 3.6 1.92 8.0 cm 表層地盤増幅率の比較 2003年度波と2012年度波の比較 速度応答スペクトル (h=0.02) ポートアイランド 大阪港 りんくうタウン 和歌山市 3.3節のまとめ 大阪湾岸の代表地点に対して,ボーリング情報 をもとに表層地盤モデルを再現し,南海トラフ 地震時の基盤面波形から地表面での引き上げ 波を計算した. 地点により差異は見られたが,計算された 表層地盤の増幅率は,全国地震動予測地図 に示される地盤増幅率(最大速度増幅率)に 近い値を示した. 3.4 内陸活断層波形との比較 大阪には有馬高槻断層帯や生 駒断層などの平野と山地を境 とする活断層が通っている. また,南の和泉山地には中央 構造線が,平野のほぼ中央に は上町断層が南北に通り,断 層の東側に上町台地という台 地を形成している. 内陸活断層と想定南海トラフ地震の波形 上町断層:大阪市住之江区 想定南海トラフ:大阪港駅 道路橋示方書との比較 内陸活断層と道示タイプ2 南海トラフと道示タイプ1 想定南海トラフ地震と内陸活断層地震の スペクトルの比較 大阪市(上町断層と南海トラフ) 和歌山市(中央構造線と南海トラフ) 4章 長周期・長継続時間地震動による道路構造物 の応答とその安全性評価 4.1 はじめに 平成23年東北地方太平洋沖地震は,道路橋の流出や法面崩壊 等,道路施設にも甚大な被害をもたらした.道路の被害は,初 動・応急対応を極めて困難にし,人命救助や救援物資の搬送に とどまらず,被害の実態把握さえままならない事態をもたらした. 同災害を受け,政府は南海トラフ沿いの巨大地震の想定を見直 し,道路施設を含む各種インフラ施設の被害推定を行っている. しかし,政府の推定では,巨大地震に特有ともいえる地震動の長 周期性や長継続性の影響は考慮されていない. 以上を踏まえ,4章では,南海トラフ巨大地震に伴う長周期・長継 続時間地震動が道路施設,とりわけ道路橋の安全性に及ぼす影 響を明らかにする. 4.2 検討対象橋梁の概要 検討に先立つ前提条件 本検討の結果が社会的に影響を与えることがな いよう,実在する橋梁を参考に想定した橋梁を 対象に検討 橋梁形式による影響が少なくなるよう、一般的な 橋梁形式である3径間連続鈑桁橋を対象に検討 大阪市内の一般的な渡河橋梁における地質 データを使用して検討 4.2 検討対象橋梁の概要 橋梁概要 A1(M) RC橋台(杭基礎) P1(F) RC壁式橋脚(杭基礎) P2(M) RC壁式橋脚(杭基礎) A2(M) RC橋台(杭基礎) 2主桁 3径間連続合成鈑桁 ※適用示方書:昭和47年道路橋示方書 4.2 検討対象橋梁の概要 地質・土質概要 各下部工位置でボーリングデータによる地質条 件を設定 沖積層はほとんどの地点にみられず,No.2地点 の現河床堆積物と思われるレキ混り砂をみる程 度と想定 河川堤防に位置するNo.1およびNo.4地点は5m 内外の盛土層が存在すると想定 OP-10~-20m付近には細粒砂層が存在し,この 層を含めて以深を大阪層群の最上部と想定 4.2 検討対象橋梁の概要 地質・土質概要 4.3 解析の概要 一般的な耐震照査では,橋梁全長に亘って一様な地 震動が入力すると仮定し,橋台・橋脚基部毎の異なる 地盤変位は考慮されていない. また,橋梁に入力する地動加速度は,工学的基盤面よ り上を水平成層地盤とモデル化し,1次元重複反射理 論に基づく地震応答解析によって算出されるのが一般 的であり,地盤の不整形性や液状化等の非線形性を 考慮した解析は行われていないのが現状である. 4.3 解析の概要 しかし,南海トラフの巨大地震のように,長周期で継続時間の長 い地震動に対する橋梁の安全性を考えるとき,橋脚・橋台を支持 する表層地盤では,液状化等の非線形性の強い挙動の発生が予 想されるため,有効応力解析等によって箇所毎に異なる表層地 盤の応答を評価することが望ましい.また,これを考慮に入れた 橋梁の解析が必要になってくると考えられる. 以上を鑑み,4章では,2段階の解析を実施することとした. 4.4節 2次元有効応力解析による表層地盤の地震応答解析 4.5節 橋台・橋脚毎の地盤変位を入力した橋梁の地震応答解析 4.4 地盤の解析 解析対象構造物 4.4 地盤の解析 解析モデル 解析手法: 2次元FEM動的応答解析(FLIP) 解析ケース: Case 1 地盤のみのモデル Case 2 地盤および杭・フーチングを含むモデル 4.4 地盤の解析 入力地震動 400 ACC(gal) 200 0 -200 -400 0 25 50 75 100 125 150 175 time(sec) 200 南海トラフの巨大地震モデル検討会(内閣府,2012年) 陸側ケース、NS成分、最大326gal 225 250 275 300 4.4 地盤の解析 解析結果(残留変位) 4.4 地盤の解析 0.6 0.06 水平変位(m) 水平変位(m) 0.5 0.04 水平変位(m) 水平変位(m) 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0.02 0.00 -0.02 -0.1 -0.2 0 20 40 60 80 100 120 140 -0.04 160 0 時間(秒) 20 40 60 80 100 A1橋台 140 160 140 160 P1橋脚 0.2 0.04 水平変位(m) 水平変位(m) 0.02 水平変位(m) 0.1 水平変位(m) 120 時間(秒) 0.0 -0.1 0.00 -0.02 -0.2 -0.04 0 20 40 60 80 100 時間(秒) A2橋台 120 140 160 0 20 40 60 80 時間(秒) P2橋脚 解析結果(変位時刻歴:水平変位:Case 1) 100 120 4.4 地盤の解析 0.1 0.03 鉛直変位(m) 鉛直変位(m) 0.02 -0.1 鉛直変位(m) 鉛直変位(m) 0.0 -0.2 -0.3 -0.4 -0.5 0.01 0.00 -0.01 -0.02 -0.6 0 20 40 60 80 100 120 140 -0.03 160 0 時間(秒) 20 40 60 80 100 A1橋台 140 160 140 160 P1橋脚 0.04 0.03 鉛直変位(m) 鉛直変位(m) 0.02 0.02 0.00 0.01 鉛直変位(m) 鉛直変位(m) 120 時間(秒) -0.02 -0.04 -0.06 0.00 -0.01 -0.02 -0.08 -0.03 0 20 40 60 80 100 時間(秒) A2橋台 120 140 160 0 20 40 60 80 時間(秒) P2橋脚 解析結果(変位時刻歴:鉛直変位:Case 1) 100 120 4.4 地盤の解析 0.3 0.06 水平変位(m) 水平変位(m) 0.04 0.1 水平変位(m) 水平変位(m) 0.2 0.0 -0.1 0.02 0.00 -0.02 -0.2 -0.3 -0.04 0 20 40 60 80 100 120 140 160 0 20 40 60 時間(秒) 80 100 120 140 160 140 160 時間(秒) A1橋台 P1橋脚 0.2 0.04 水平変位(m) 水平変位(m) 0.1 水平変位(m) 水平変位(m) 0.02 0.0 0.00 -0.02 -0.1 -0.04 0 20 40 60 80 100 時間(秒) A2橋台 120 140 160 0 20 40 60 80 時間(秒) P2橋脚 解析結果(変位時刻歴:水平変位:Case 2) 100 120 4.4 地盤の解析 0.0 0.03 鉛直変位(m) 0.02 -0.1 鉛直変位(m) 鉛直変位(m) 鉛直変位(m) -0.2 0.01 0.00 -0.01 -0.02 -0.3 -0.03 0 20 40 60 80 100 120 140 160 0 20 40 60 時間(秒) 80 100 A1橋台 140 160 140 160 P1橋脚 0.04 0.03 鉛直変位(m) 鉛直変位(m) 0.02 0.02 0.00 0.01 鉛直変位(m) 鉛直変位(m) 120 時間(秒) -0.02 -0.04 -0.06 0.00 -0.01 -0.02 -0.08 -0.03 0 20 40 60 80 100 時間(秒) A2橋台 120 140 160 0 20 40 60 80 時間(秒) P2橋脚 解析結果(変位時刻歴:鉛直変位:Case 2) 100 120 4.4 地盤の解析 Case 1 Case 2 解析結果(最大過剰間隙水圧比分布図) 4.4 地盤の解析 Case 1 Case 2 解析結果(最大せん断ひずみ分布図) 4.4 地盤の解析 0 最大値 最小値 降伏耐力My -15 -10000 -5000 0 5000 10000 モーメント M(kN・m) A1橋台 -5 -10 最大値 最小値 降伏耐力My -15 -10000 -5000 0 5000 10000 モーメント M(kN・m) P1橋脚 0 -5 -10 最大値 最小値 降伏耐力My -15 -10000 -5000 0 5000 10000 モーメント M(kN・m) フーチング下面からの深さ(m) -10 0 フーチング下面からの深さ(m) -5 フーチング下面からの深さ(m) フーチング下面からの深さ(m) 0 -5 -10 -15 最大値 最小値 降伏耐力My -20 -10000 -5000 0 5000 10000 モーメント M(kN・m) P2橋脚 解析結果(基礎杭の発生モーメント:Case 2) A2橋台 4.5 橋梁の解析 解析モデル 橋軸方向 A1 P1 59600 22@2500=55000 5 5 6 6 7 7 8 8 9 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 (20040) 3200 (20030) 3200 (20020) 20027 3000 30028 1001(20011) 1000 20037 500 750 1301(20041) 750 500 1113 1114 1115 1210 1214 1215 1216 1117 1117 1118 1119 区間1 1217 1218 3650 1116 [email protected]=3650 1116 1119 1219 1220 1221 1120 1120 1222 1392 1121 1108 10102 2000 10101 10102 1303 1304 3100 1302 1303 1500 3000 6@500=3000 1302 1304 1305 1207 1208 1209 1210 1211 1212 区間2 1213 1214 1215 入力地震動 1216 1217 1218 1219 1220 1221 区間1 1222 1223 10201 2500 10101 1212 1213 1115 1118 1211 1301 4650 区間2 1209 1206 [email protected]=4650 1112 1208 区間3 1205 3450 1110 1204 [email protected]=3450 1109 1111 1207 1203 1085 1114 区間3 1202 10201 10202 10202 2000 1113 1206 1201(20031) 915 1112 1205 11100 11100 (非線形部材) 剛性低下型トリリニアモデル 1108 1111 1204 1107 1108 1110 1203 1106 1107 1109 区間4 1105 3000 1104 1202 (非線形部材) 剛性低下型トリリニアモデル 1106 1103 6@500=3000 1105 1201 1102 1100 1104 2500 820 1005 1103 1500 1004 680 1003 1101(20021) 2@550 =1100 1102 3350 1101 1003 [email protected]=3350 1300 1002 1002 20047 2500 500 1300 500 1000 2600 1001 1004 2300 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 (20010) 20017 Mov 1550 4 4 23002300 1550 3 3 Mov 5000 2 2 23002300 4900 1 1 FIX A2 59600 22@2500=55000 829 2300 74600 28@2500=70000 671 Mov P2 193800 4.5 橋梁の解析 各部材のモデル化 構造部材 解析モデル 上部構造 支承 下部構造 下部構造 線形梁要素 構造部材 上部構造 固定可動支承 RC 橋脚 解析モデル 線形ばね 線形梁要素 弾性 線形ばね 非線形梁要素(M-φ) 弾性 武田型(α=0.4) 弾性 弾性 RC 橋脚 非線形梁要素 (M-φ) 武田型 (α=0.4) RC 橋台 線形梁要素 剛体 RC 橋台 線形梁要素 剛体 4.5 橋梁の解析 固有値解析結果 1次は1.3sec程度 レイリー型減衰 1次モード図 4.5 橋梁の解析 南海トラフ地震波 (地盤解析Case2) 上記の地震動を 変位で入力 加速度応答スペクトル(m/s2) 検討に用いた入力地震動 道示波Type I-II-2 100 水平加速度のスペクトル 道示波 I-II-2 南海トラフ(Case2) P1 南海トラフ(Case2) A2 南海トラフ(Case2) A1 南海トラフ(Case2) P2 10 1 0.1 0.1 1 1.3sec 固有周期(sec) 10 4.5 橋梁の解析 道示波Type I-II-2 南海トラフ地震波 時間(s) 時間(s) 4.5 橋梁の解析 解析ケース 解 析 ケース Case3 入力 方法 入力 地震動 備 考 仙台河川国道事務所構内地盤 道示波 加速度を変位に積分した水平変 Type I-II-2 位波形を用いる。 各下部工位置で抽出された水平 基礎ばね 変位波形 Case2a に 強 制 変 南海トラフ 位入力 地震波 各下部工位置で抽出された水平 変位・鉛直変位・回転角波形 Case2b 4.5 橋梁の解析 着目点①:長周期・超継続地震動による応答の違い 南海トラフ地震波の特徴は継続時間が長いことから、最 大応答変位や残留変位が現行示方書の海溝型地震波 形(レベル2地震動タイプⅠ)に比較して大きく発生するこ とが考えられる。 そこで、 Case3およびCase2aについて比較する Case3 :道示波 Case2a:南海トラフ 4.5 橋梁の解析 着目点①:長周期・超継続地震動による応答の違い 南海トラフ波(Case2a)の応答の最大値および最小値 は道示波(Case3)に比較して小さい しかし、残留変位に着目すると、道示波では1.5cmに 対して南海トラフ波は3.8cmと大きい値を示す 道示波(Case3) 0.4 南海トラフ波(Case2a) 応答変位(m) 0.2 0 -0.2 -0.4 0 50 100 時間(s) 150 200 250 0 20 40 60 80 時間(s) 100 120 140 160 4.5 橋梁の解析 着目点①:長周期・超継続地震動による応答の違い A1橋台位置で抽出された南海トラフ地震波形が他位 置での抽出波形に比較して大きいことから、全ての 下部工にA1橋台位置で抽出された南海トラフ地震波 形を入力した ⇒応答は大きく、塑性化や残留変位が大きい 250000 0.8 200000 0.6 150000 曲げモーメント(kNm) 応答変位(m) 0.4 0.2 0 -0.2 -0.4 100000 50000 0 -50000 -100000 -150000 -0.6 -200000 -0.8 -250000 -1.00E-02 0 20 40 60 80 時間(s) 100 120 140 160 道示波 南海トラフ波(A1入力) -5.00E-03 0.00E+00 曲率(1/m) 5.00E-03 1.00E-02 4.5 橋梁の解析 着目点②:解析手法の違いによる応答比較 橋梁の耐震設計は、各下部工下端に同じ地震波を 入れることとなっている。 各下部工位置では地層構成が異なることに起因して 地震波形の増幅特性が異なる。 そこで、鉛直成分および回転成分を考慮することでど のように応答が異なるか比較 Case2a :南海トラフ(入力は水平成分のみ) Case2b:南海トラフ(入力は水平、鉛直、回転) 4.5 橋梁の解析 着目点②:解析手法の違いによる応答比較 上部工の鉛直反力は、支点位置によって異なる 0 鉛直変位(m) -0.05 Case2a Case2b -0.1 -0.15 -0.2 P1橋脚 A1橋台 -0.25 0 20 40 60 P2橋脚 80 100 上部構造の位置(m) 120 A2橋台 140 160 180 4.5 橋梁の解析 着目点②:解析手法の違いによる応答比較 不同の沈下が発生し上部工では+15%程度の曲げ A1橋台 15000 P1橋脚 A2橋台 P2橋脚 せん断力(kN) 10000 5000 0 -5000 Case2a min -10000 Case2b min -15000 100000 A1橋台 P1橋脚 A2橋台 P2橋脚 曲げモーメント(kNm) 50000 0 -50000 -100000 Case2a min -150000 Case2b min -200000 0 20 40 60 80 100 上部構造の位置(m) 120 140 160 180 4.5 橋梁の解析 着目点②:解析手法の違いによる応答比較 A1支承の鉛直反力が大きく発生 1000 Case2a Case2b 120 140 支承鉛直反力(kN) 500 圧縮 0 引張 -500 -1000 -1500 0 20 40 60 80 時間(s) 100 4.6 4章まとめ 本章では従来の道路橋示方書による設計手法と異なる 視点からのアプローチにより,今後来るべく長周期・長継 続地震動に対する設計時の着目点について検討し,下 記の成果が得られた。 ・構造物,地盤の固有周期が長い構造物については長周 期・長継続地震動により基礎下端地盤の大変形により橋 梁への影響は必ずしも無視できるものではない。よって今 後の設計手法として下部工下端位置で同位相の地震波 形が適用できないケースについては,各下部工下端での 入力波形を区別するような案も検討する必要がある。 4.6 4章まとめ ・地震波形の鉛直成分,回転成分による実橋梁への影響 は不明確な状況であるが,今回の検討結果から,各下部 工位置での鉛直変位が大きく異なる場合においては,こ の影響を無視できない場合があると考えられる。 ・堤防付近等の軟弱地盤では長継続地震動による液状 化の発生が懸念される。また、地形傾斜や複雑な土層構 成を有する架橋位置では地盤の側方流動により構造物 の大変形を引き起こす可能性がある。よって,これらに対 して基礎モデルと上部工モデルとの相関をより精度良く 考慮できる解析手法の立案が必要と考えられる。 5章:まとめ 本小委員会活動で得られた成果を以下に示す. (1)内閣府が平成23年に設置した『南海トラフの巨大地震モデル検 討会』において,南海トラフの巨大地震対策を検討する際に想定す べき最大クラスの地震・津波の検討が進められてきた.平成24年に は,震度分布・津波高の推計結果が第一次報告としてとりまとめられ, また平成25年には第二次報告として,様々な推定被害の中から道路 (高速道路,一般道路)についての被害の様相が提示されており,今 後の道路構造物の地震対策の参考として有用な資料になり得る. (2)大阪府の南海トラフ巨大地震対策等検討部会による「大阪府域 の被害想定について」より,推定される道路被害は,直轄国道等につ いては震度6 弱以上となる東海地方一帯・紀伊半島・四国・瀬戸内 海沿岸・九州南東部では,概ね6kmにつき1箇所程度の割合で被害 が発生するなどと予想されている.また,高速道路のうち,震度6強以 上のエリアを通過する東西幹線交通(東名高速道路及び新東名高 速道路)は,被災と点検のため通行止めとなるとともに,大阪府内で は,揺れ及び津波により1,883箇所で道路被害が発生すると想定され る. (3)地震動の予測技術については,既往の研究において蓄積された 知見を基に様々な研究者が検討を行ってきており,技術的に大きな 発展を遂げてきた.近年においては,地震調査研究推進本部が強 震度予測のレシピに従った地震動の予測が主流となっている.今後 もこのようなシミュレーションによる地震動予測がさらに進展していくも のと考えられる. (4)関西圏の地形・地質,浅層地盤,および深層地盤の特性を整理 した.本州弧の中央部を占める関西圏は,北部ではリアス式海岸の 若狭湾が湾入し,南部では紀伊半島が太平洋に張り出しており,複 雑な基盤の地質構造と地形上の特徴を有している.関西圏の表層 地盤の特徴は,特に大都市近郊では多くの地盤調査がなされている ため,広域的な地盤特性の分布もある程度の精度で推定できるよう になってきてはいるが,今後は統一的な整理が望まれる. (5)厚い軟弱地盤の堆積層は,地震動の増幅,レンズのように地震 波が集中するフォーカシングや長周期表面波による地震動の長継続 化など深刻な問題を発生させることから,大都市の都市機能の地震 リスクを評価する上で,盆地構造を把握することが重要となる.特に 長周期地震動に対しては,深層地盤構造の影響が大きい. (6)大阪湾岸の4地点を対象として,表層地盤を考慮した地震応答解析 を実施した.2003年度または2012年度波形を用いた解析結果から得ら れた表層地盤増幅率は,J-SHIS 地震ハザードステーションに示される地 盤増幅率に対して,地点1では0.86,地点2では1.25,地点3では1.31,地 点4では1.48倍であった.地点ごとに若干のばらつきは見受けられたが, J-SHIS 地震ハザードステーションに示される地盤増幅率は,地震応答時 の予測に有用であるものと考えられる. (7)内陸活断層による地震動と南海トラフ巨大地震動の比較では,最大 加速度レベルでは内陸活断層による地震の振幅が大きくなるが,卓越 する周波数成分は南海トラフ巨大地震の方が長周期側まで延びる傾向 がある.南海トラフ巨大地震の継続時間は,内陸活断層地震の数倍に も及ぶ. (8)中央構造線や生駒断層等の内陸活断層による地震が発生した際に は,極く短周期側で現在の道路橋示方書の設計基準より大きなスペクト ルを持つ地震波が観測される可能性があるものの,海溝型の南海トラフ 地震を含め,概してそれを包絡する形に収まる.しかし,和歌山県のよう な直下に想定南海トラフ地震の震源域を有する地域では,短周期が卓 越する内陸活断層への備えとは異なる,周期1秒から数秒までの周期帯 域への対応も必要となる. (9)従来の道路橋示方書による橋梁耐震設計手法と異なる視点からの アプローチにより,今後来るべく長周期・長継続地震動に対する設計時 の着目点について検討した結果,構造物および地盤の固有周期が長い 構造物については,長周期・長継続地震動により基礎下端地盤位置の 大変形により橋梁への影響は必ずしも無視できるものではないことが分 かった.したがって,今後の設計手法として下部工下端位置で同位相の 地震波形が適用できないケースについては,各下部工下端での入力波 形を区別するなども案も検討する必要がある. 地震波形の鉛直成分および回転成分による実橋梁への影響は不明確 な状況であるが,今回の検討結果から,各下部工位置での鉛直変位が 大きくことなる場合においては,この影響を無視できない場合があると 考えられる. (10)堤防付近等の軟弱地盤では長継続地震動により,広範囲で液状 化の発生が懸念される.また,地形傾斜や複雑な土層構成を有する架 橋位置では地盤の側方流動により構造物の大変形を引き起こす可能性 がある.したがって,これらに対して基礎モデルと上部工モデルとの相 関をより精度よく考慮できる解析手法の立案が今後必要となるものと考 えられる.