...

PDF版 241KB

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

PDF版 241KB
第3章
調査対象国における消費者市民教育の現状
Ⅰ.北欧諸国における消費者教育
1.北欧諸国における消費者教育について
北欧諸国は 1960 年代から消費者教育における協力を開始し、北欧諸国共通の消費者教育
の概念、目的、学習領域などを定めている。北欧諸国間の長年に渡る協力の歴史及びその
内容を把握することは、本調査の対象北欧諸国の消費者教育を理解するにあたって必要不
可欠である。
以下では、北欧諸国における消費者教育に関する教育の歴史、共通の消費者教育の理念、
目標、目的等について見ていく。
2.北欧諸国における消費者教育の取組みの歴史
(1)1960 年代∼1970 年代
北欧諸国における消費者教育に関する協力の歴史は長く、1960 年代に各国の消費者教育
関連の政府機関、消費者機関が協力を開始した。
1965 年に北欧消費者問題委員会2が、北欧各国の教育経験者、消費者問題の専門家から構
成される北欧作業部会を設置。1971 年から 1977 年にかけて北欧各国の教育経験者、消費者
教育機関の協力により、消費者教育のカリキュラム、教材開発等を行うマルメ・プロジェ
クトをスウェーデン、マルメ市の教員養成大学「ルァーレルフォグスコーラン」
(Lærerhøgskolan)で実施された3。
マルメ・プロジェクトの長期的目的は「生徒が自主的な考えを持ち、批判的な価値判断
のできる消費者に育ち、自ら計画し行動するための可能性を増すようになることを目的と
して、年齢と科目に適した消費者教育についての勧告を行うこと」4である。
マルメ・プロジェクトでは、各国の教師・生徒を対象としたアンケート調査を実施。そ
の結果等に基づいて、消費者教育の仮テキストを作成し、各国での研究授業等を通して検
証を行った後、検証を踏まえて本テキストを作成した。マルメ・プロジェクトでは合計9
つの教材が開発され、教師、生徒により検証を受けた後に、教材として配布された5。
(2)1980 年代∼1990 年代
①ヨーロッパ消費者ネットワークの設立
北欧諸国の協力関係は 1980 年代には教員研修、養成における協力へと発展した。続く、
1990 年代は北欧の消費者教育関係機関における情報交換が活発となった時代であった。
1993 年9月にストックホルムで「消費者教育に関するヨーロッパ会議」(European
2
3
4
5
北欧評議会の勧告に基づいて任命された政府機関の一つ
元ノルウェー消費者委員会情報部部長、マルメ・プロジェクト ノルウェー代表
カリン・ホルタン・ノデネス氏へのインタビュー
大原明美(2005)「消費者教育第3フェーズにおけるパイロット・ロールとしての「北欧型」消
費者教育に関する研究:学校における消費者教育を対象として」
元ノルウェー消費者委員会情報部部長、マルメ・プロジェクト ノルウェー代表
カリン・ホルタン・ノデネス氏へのインタビュー
9
Conference on Consumer Education in Schools)がヨーロッパ 18 カ国からの参加者によっ
て開催された。会議では、「消費者問題への学校での対処方法」「消費者教育に関する教員
研修・養成の問題」などが議論され、消費者教育に関する継続的な情報交換の必要性が確
認された。それに基づき 1994 年に北欧閣僚評議会6の財政支援によって「ヨーロッパ消費者
ネットワーク」(European Network of Consumer Educators)が設立された。同ネットワー
クの活動の一つとして、G・ヘルマン(Grada Hellman)を編集長とした消費者教育の情報誌
Nice-Mail(News and Information about Consumer Education)が年2回発行され、同誌を
通じた情報交換、連携によって、北欧各国における協力関係はより促進されることとなっ
た 7。
②消費者教育の共通目標、ガイドラインの策定
1990 年代は、消費者教育関係機関における協力関係が深まる一方、北欧諸国共通の消費
者教育の概念定義、目標、ガイドラインの策定等が行われた。
1992 年には北欧閣僚評議会が報告書 NSA1992:599 を公表。この中で、
「学校における消費
者教育に関する北欧共通の目標と内容についての定義」を提示した。1995 年に北欧閣僚評
議会は、1992 年発表の「目標と内容についての概念定義」に基づき、
「北欧諸国における消
費 者 教 育 : 学 校 で の 消 費 者 教 育 の 目 標 」 (Consumer Education in the Nordic
Countries-Objectives for Consumer Education in Schools)を完成、公表した。ガイドラ
インは北欧諸国で共通して取組むべき消費者教育の目標と内容、学習方法等が記載されて
いる8。
(3)2000 年以降
①コンシューマー・シティズンシップ・ネットワークの設立
2002 年4月にはノルウェーで、消費者教育、環境教育、市民教育を融合した消費者市民
教育(コンシューマー・シティズンシップ教育:Consumer Citizenship Education)の発展
をテーマとした最初の国際会議「消費者教育と教員養成:消費者市民教育の発展」
(Consumer
education and teacher training: developing consumer citizenship)9が開催された。
同プロジェクトは欧州委員会の支援を受けたもので、シティズンシップの発展という観
点からヨーロッパ諸国間における教員養成の協力を深めることを目的としていた。参加国
は英国、ポルトガル、リトアニア、エストニア、アイスランド、スウェーデン、ノルウェ
6
7
8
9
1971 年創設。北欧5カ国(デンマーク、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィン
ランド)政府の共同提案を北欧評議会(5カ国の各国政府と議会との間の協力促進を目的とし
て 1952 年に創設)に提出し、対象領域の作業を指導するとともに、評議会の勧告や成果報告
書の提供などを行う機関
大原明美(2005)「消費者教育第3フェーズにおけるパイロット・ロールとしての「北欧型」消
費者教育に関する研究:学校における消費者教育を対象として」
同上
コンシューマー・シティズンシップ(Consumer Citizenship)とは、もともと 1980 年代にカナ
ダでつくられた概念で、オーストラリア、米国、ヨーロッパにおいて過去数十年間において発
展した(Victoria Thoresen(2005), “The Consumer: A Fellow Human Beiing”より)。
10
ーであった10。2003 年5月には2回目の国際会議が、ポルトガルのリスボンで開催された。
こうした国際会議を経て、2003 年 10 月にはノルウェーのヘッドマーク大学(Hedmark
University College)を拠点とした、消費者市民教育の新たなネットワーク組織コンシュ
ーマー・シティズンシップ・ネットワーク(CCN: Consumer Citizenship Network)が設立
された。
コンシューマー・シティズンシップ・ネットワークは、欧州委員会のエラスムス・テー
マネットワークプロジェクト(Erasmus 3.thematic network project)、ノルウェー政府教
育・研究省(Ministry of Education and Research)、子供・家族問題省(Ministry of Children
and Family Affairs)の支援を受けた、消費者教育に関する学際的なネットワーク組織で
ある。北欧に留まらず、世界 37 カ国にわたる 123 機関がメンバーであり、UNESCO、UNEP、
国際的なシティズンシップ教育、消費者教育団体も含まれている(パートナーの所在地は
図 表 6 参 照 )。 コ ー デ ィ ネ ー タ ー は ヘ ッ ド マ ー ク 大 学 の ビ ク ト リ ア ・ ト ー ル セ ン
(Prof.Victoria Thoresen)准教授が務めている。
コンシューマー・シティズンシップ・ネットワークは、消費者教育、環境教育、市民教
育を融合した消費者市民教育(Consumer Citizenship Education)の調査研究、推進、ネッ
トワークを行うことを目的とした組織であり、消費者市民教育の調査研究の実施、消費者
市民としての共通能力の特定、消費者市民教育のカリキュラムについての調査、消費者市
民教育の実践事例の調査等を行っている。
これまでにコンシューマー・シティズンシップ・ネットワークは、消費者市民教育機関
におけるネットワークの構築、消費者市民教育のガイドライン「Consumer citizenship
education Guidelines Vol.1 Higher Education」の策定、国際会議の開催、教員養成セミ
ナーの開催、消費者市民教育の教材開発等を行っている11。コンシューマー・シティズンシ
ップ・ネットワークは消費者市民を次のように定義している12。
図表 5
コンシューマー・シティズンシップ・ネットワークにおける消費者市民の定義
消費者市民とは、倫理、社会、経済、環境面を考慮して選択を行う個人である。消費者市
民は家族、国家、地球規模で思いやりと責任を持って行動を通じて、公正で持続可能な発展
の維持に積極的に貢献する
資料)The Consumer Citizenship Network(2005), “Consumer citizenship education
Guidelines, Vol. 1 Higher Education”
10
11
12
Victoria Thoresen (ed.)(2002),“Developing Consumer Citizenship: Conference Report,
Hamar, 20-23 April 2002 and Project Progress Report”
コンシューマー・シティズンシップ・ネットワーク ホームページ
http://www.hihm.no/Prosjektsider/CCN
The Consumer Citizenship Network(2005), “Consumer citizenship education Guidelines,
Vol. 1 Higher Education”
11
図表 6
コンシューマー・シティズンシップ・ネットワーク
パートナーの所在地
注)2007 年8月時点
資料)コンシューマー・シティズンシップ・ネットワーク ホームページ
②北欧消費者教育ガイドラインの改定、バルト海諸国との協力
2000 年には北欧閣僚評議会は北欧諸国共通の消費者教育ガイドラインの改訂版13、及びガ
イドラインに基づいて策定された教員向け資料「The Objectives and Contents of and the
Working Methods in Consumer Education for Teacher Training」14を公表した。
後者の教材は、当初、バルト海諸国のラトビアの教員養成および学校での消費者教育の
計画に利用する目的で編集された。しかし、その他の国々でも消費者教育の計画に利用で
きるため、編集し直されたものである。このように、北欧閣僚評議会はバルト海諸国(エ
ストニア、ラトビア、リトアニア)との協力を進めていた。2000 年にラトビアの首都リガ
で行われた消費者教育に係る国際会議を契機に、消費者教育、カリキュラムの発展に係る
北 欧 − バ ル ト 海 諸 国 プ ロ ジ ェ ク ト ( Nordic-Baltic Project dealing with consumer
education and curriculum development)が始められ、2002 年にはバルト海諸国における
13
14
Nordic Council of Ministers(2000),“Consumer Education in the Nordic Countries: Proposal
of objectives for and content of consumer education in the compulsory school and at upper
secondary school level in the Nordic countries”
Nordic Council of Ministers(2000),“The Objectives and Contents of and the Working
Methods in Consumer Education for Teacher Training” 日本語訳は大原明美(2003)『北欧
の消費者教育:「共生」の思想を育む学校でのアプローチ』参照
12
消費者教育ガイドライン(Guidelines for consumer education in the Baltic: Life Skills
for sustainable consumption)が公表された15。
3.消費者教育の定義、目的、目標、学習領域、学習方法
ここでは、北欧閣僚評議会の消費者教育ガイドライン(1995 年、2000 年改訂版)に沿っ
て、消費者教育の定義、目的、学習領域等を示す。
北欧の各国では、北欧閣僚評議会による共通ガイドラインを用いた上で、各国の実情に
合わせたうえで、消費者教育を実践している16。
(1)消費者教育の定義、目的
北欧閣僚評議会の報告書 NSA1992:599 は、消費者教育の概念定義及び目的を、次のよう
に定めている。
図表 7
北欧閣僚評議会による消費者教育の定義及び目的
学校における消費者教育の目的は、自立した、識別力のある、知識のある消費者を育てる
ことである。それは、消費者法、家計、経済、広告と影響力、消費と環境、地球上の資源、
住まい、衣類、価格と品質、食と健康のような領域に関する基礎的な知識を提供することに
よって、複雑で多面的な社会において消費者として存在するために必要な知識と洞察力を身
に付けさせることである。学校は、ライフスタイル、消費習慣、価値と態度について、生徒
がさらされている影響力に気づかせるよう貢献すべきである
資料)The Nordic Council of Ministers(1992),
“Konsumentundervisning i skolenforprosjekt”(Consumer education in schoolspreliminary project)
日本語訳は大原明美(2005)「消費者教育第3フェーズにおける
パイロット・ロールとしての「北欧型」消費者教育に関する研究:学校における消費者教
育を対象として」
(2)消費者教育の目標、学習領域
消費者教育は6歳∼18 歳の生徒を対象として、生徒の自主的な判断、批判的意識および
消費者の役割という点で積極的にアプローチするための能力を促進することにある。この
目的に基づき、ガイドラインは消費者教育の学習領域として1.家計、2.消費者の権利
と責任、3.広告と影響力、4.消費と環境、倫理、5.食育、6.製品の安全性と生活
上の安全の6領域を設定し、各領域における全体目標、具体目標、キーワードを示してい
る。各学習領域の全体目標と具体目標は次に示す通りである。
15
16
Nordic Council of Ministers(2003), “Guidelines for consumer education in the Baltic
Life skills for sustainable consumption”
ノルウェー政府 子供・平等省消費者部門、上級アドバイザー オーレ・エーリック・イル
ヴィン氏へのインタビュー
13
図表 8
分野
家計
消 費者
の 権利
と責任
広 告と
影響力
北欧消費者教育ガイドラインにおける学習領域と各領域の全体目標、具体目標
全体目標
生徒たちは、家計に関す
る基礎的な知識とスキル
を身に着ける必要があ
る。さらに、自分自身と
将来の家族の財政に責任
をもって対処し、個人の
消費と経済全体とのつな
がりを理解する必要があ
る
具体目標
個人の予算を立てることの重要性を理解する
予算を立て、金銭出納帳をつけることができるように
なる
個人の財政状況に責任をもち、家庭の収入・支出の計
画に参加できるようになる
家庭の様々な支出に関する経済的・環境的自覚のある
見方を発達させる
借り手と貸し手との間の関係について理解できるよ
うになる
国民経済と個々の家計との関係について理解できる
ようになる
家計の状況を再建するために、どこでどのような支援
が受けられるかを理解する
価格を比較し、価格と品質を評価することができるよ
うになる
コンピューターによる情報システム、銀行や図書館サ
ービスなどの最新技術の利用を可能にする
クレジット情報などのために、データの記録を照会す
る個人情報の保護に関する規定について知っている
生徒は自らの権利を知
り、それを利用すること
ができるようになり、消
費者としての自らの責任
に気付く必要がある
消費者の権利や責任に関する重要な法律や法的規定
について理解する
拡大する自由貿易が、消費者としての権利にどのよう
に影響するかについて理解する
同意や契約に関する一般的ルールに精通する
他人の保証人となることに関する責任について理解
する
家計費の支払い方法や融資に関する規定について理
解する
製品の表示に関する規定について知る
生徒は広告の目的を洞察
し、広告映像やコマーシ
ャルメッセージを解釈、
分析し、批判的に吟味す
ることができるようにな
る必要がある
社会におけるマスメディアの役割についてよく知っ
ている
広告について学び、情報と広告の違いを見分けられる
ようにする
広告を規制する法律や規定について十分な知識をも
つ
コマーシャル映像、報道の内容、その言葉の効用など
を分析および解釈し、批判的に吟味することができる
TV、ビデオ、コンピューター、モデム、CD-ROM、その
他情報・娯楽通信のためのツールの利用について知識
をもつ
商業的・社会的観点から広告の重要性を理解する
消費者として、批判的な識別力をもって電子情報サー
ビスを利用することができる
特定のジェンダー・ロールや身体的観念に反映される
ライフスタイルを、どのようにしてメディアが生み出
すかについて理解するように学ぶ
14
分野
全体目標
消 費と
環 境、
倫理
生徒は、自らの消費の環
境への影響について自覚
する必要がある。また、
環境的な観点から様々な
ライフスタイルや消費パ
ターンを批判的に吟味で
きるようになり、どのよ
うな消費形態がわれわれ
の環境に影響を与えるか
ということを理解する必
要がある
食育
生徒達は栄養のある健康
によい食品を用意し、調
理できるようになる必要
がある。また、いかに食
習慣が健康や働く能力、
金銭状況に影響するかを
理解する必要がある
製 品の
安 全性
と 生活
上 の安
全
生徒達は、家庭とその他
の環境での両方の危険に
ついて熟知する必要があ
り、自分自身の安全のた
めの責任意識を発達させ
ることのみならず、製品
の安全性について評価が
できるようになる必要が
ある
具体目標
消費の環境への影響について理解する
環境に適応的な生産と、なぜそれが必要なのかについ
てよく知っている
環境に適応的な消費態度を発達させる
消費者としての人類の役割、自然界の一員としての役
割について知っている
エコラベルの意味を理解し、それを利用して家庭のゴ
ミを分別できるようにする
なぜ、資源の浪費を少なくすべきかについて明確な考
えをもつ
資源の利用と配分について考える能力を開発する
工業、農業、輸送、家庭生活から環境に対する脅威が
存在することについて知っている
健康や生活の質のため、食事の重要性を理解する
健康、幸福、環境を考慮に入れたバランスのよい食事
を選択することができる
簡素な料理を調理できる
食品を選択する時、価格をどのように比較し、それを
どのように利用するかを理解する
自分自身や他人の食習慣や調理法に関心および積極
的な態度を養う
衛生的な方法で食品を貯蔵し、利用することができる
レシピを用いて、その指示のように実践できる
目的にかなった食品の選択や、台所の衛生状況につい
ての重要性を理解する
食品消費の環境への影響について理解する
製品の安全情報や表示について理解する
例えば、一般的家庭薬や可燃物といった危険な物に安
全に対処する方法について理解する
家庭、地域(学校、レジャー活動、労働の場所など)
において、どうしたら事故を防ぐことができるかを理
解する
家庭や学校で使用される機器についての安全規定を
よく理解する
家庭や学校での一般的な技術に対処でき、安全に作業
できる方法について理解する
生徒達にとって安全な設備として適合し、それを維持
する方法について理解する
資料)Nordic Council of Ministers(2000),“The Objectives and Contents of and the Working
Methods in Consumer Education for Teacher Training” 日本語訳は大原明美(2003)
『北欧の消費者教育:「共生」の思想を育む学校でのアプローチ』大原明美(2005)「消費
者教育第3フェーズにおけるパイロット・ロールとしての「北欧型」消費者教育に関する
研究:学校における消費者教育を対象として」を参照
学校教育において、消費者教育は独立した科目としてではなく、関連する様々な科目の
中で指導される統合教科として実施される。
15
(3)消費者教育の学習方法
消費者教育の学習方法としては、
「様々な事柄に関する生徒自身の経験や学習が重要な役
割を果たす生徒主体のアプローチ、そして様々な学習方法と個人による自立的な学習との
組み合わせといった多くの協働的な方法」が重視されている17。ここでは、学習方法として
紹介されている「協働的な学習方法」「生徒主体の学習方法」
「ゲーム学習」のうち、「協働
的な学習方法」
「生徒主体の学習方法」の内容を示す18。
図表 9
協働的な学習方法の例
学習方法の分類
学習方法の内容
テーマ学習
定められたテーマに沿って、3−4人の生徒のグループが新
聞、雑誌、研究報告書、訪問調査等を通じて可能な限りあら
ゆる資料を集める
生徒達は、収集した資料を、教師の指導の下、分析・評価、
精査し、そのテーマを更に追求する
学習グループは、日誌に活動経過を書き留め、ドラマやディ
ベートなどによる口頭発表、写真を含めたレポート、グルー
プからの問題提起によるディスカッション、壁新聞、展示等
の方法により学習成果を発表する
課題研究
生徒はテーマ学習と同様に、テーマに基づいて、課題に関す
る一般的情報、収集資料、自分自身の考えや意見、最終的に
自分自身の活動や学習に対する評価などを含む経過を記述
した日誌をつける
最終的には、学習成果が1冊の冊子として編集され、行動計
画の発表、意見発表、手引書・日誌の展示などによって発表
され、クラス、学年、学校全体で学習成果が共有される
レポート、小規模調査、
チームワーク
他の人々への研究成果の
伝達
学校外の専門家へのインタビュー、商店、営業所などへの訪
問によって、生徒は消費者、そして社会の一員としての能力
や知識を身につける
成功したと言える課題研究や他の学習経験の成果を、メディ
ア(雑誌、ラジオ、TVなど)を利用して社会に伝える。
社会に対して成果を伝えることで、生徒の学習に対する動機
や喜びが増大する
資料)Nordic Council of Ministers(2000),“The Objectives and Contents of and the Working
Methods in Consumer Education for Teacher Training” 日本語訳は大原明美(2003)
『北欧の消費者教育:
「共生」の思想を育む学校でのアプローチ』、大原明美(2005)「消費
者教育第3フェーズにおけるパイロット・ロールとしての「北欧型」消費者教育に関する
研究:学校における消費者教育を対象として」を参照
17
18
Nordic Council of Ministers(2000)” 日本語訳は大原明美(2003)参照
同上。学習方法の詳細は大原明美(2003)『北欧の消費者教育:
「共生」の思想を育む学校での
アプローチ』に掲載されている。
16
図表 10 生徒主体の学習方法の例
学習方法の分類
学習方法の内容
個人的な課題研究
生徒が、グループ研究の成果のみではなく、個人の学習成果
についても紹介をする。レポート、ワークブック、または日
誌を共同展示等で発表する
スーパーバイズ学習
事前に教師がいくつかの課題を選定し、パンフレット、レポ
ート、写真等の課題に関連する資料を収集・整理する
その後、教師が教室に、課題を提示する何箇所かのストップ
(学習席)と、教師用の席を用意する。生徒は教室内の各ス
トップに用意された課題を解きながら、各ストップを回る。
各ストップでは、基礎的課題から発展的課題まで用意されて
おり、生徒は時間と能力がある場合には、より深い知識を必
要路する発展的な課題に挑戦することもできる
この学習方法のメリットは、その生徒にも行動的に学習させ
ることができる点である
ワークブック、レポート、
日誌
マインド・マップ
生徒は教員の指導の下、自分自身の考えに基づいてテーマに
沿った資料を集め、自分自身の意見も含めて、ワークブック、
レポート、日誌を作成する
マインド・マップ(ある概念に結び付けられる事柄(構成要
素)を論理的に結び付けた図)を用いた学習方法
マインド・マップにより、新しい学習を行う場合には、生徒
がその事柄についどのように理解しているか知ることがで
き、学習後には、同様のマップを作成し、学習前のマップと
比較することで、生徒自らが学習成果の自己評価を行うこと
ができる
注)他には「新聞や雑誌」
「要約」
「クロスワードパズルとワークブックへの記入」が挙げられて
いる(省略)
資料)Nordic Council of Ministers(2000),“The Objectives and Contents of and the Working
Methods in Consumer Education for Teacher Training” 日本語訳は大原明美(2003)
『北欧の消費者教育:「共生」の思想を育む学校でのアプローチ』大原明美(2005)「消費
者教育第3フェーズにおけるパイロット・ロールとしての「北欧型」消費者教育に関する
研究:学校における消費者教育を対象として」を参照
17
4.消費者教育ガイドラインの改定
2009 年3月時点において、北欧諸国−エストニアグループが中心となって北欧諸国共通
の消費者教育ガイドラインの2回目の改定「消費者の能力と消費者教育のテーマ」(The
Consumer Abilities and the Themes of the Consumer Education)を行っている最中であ
る。改定プロジェクトはノルウェー、フィンランドから資金面で支援を受け、エストニア、
スウェーデン、デンマークの専門家から助言を得て行われている。ガイドラインは 2009 年
中に完成予定である。
改定されるガイドラインでは、学習テーマが再編され、
「メディアとテクノロジーに関す
る能力」「持続可能な消費に関する能力」の2つを共通テーマと捉えた上で、
「家計」「消費
者としての権利と義務」「マーケティングとコマーシャルメディア」「家庭の管理と参加」
の4テーマを加えた合計6の学習テーマに構成されている。
消費者としての最も中心となる能力を、個人が様々な消費環境、状況においてアクティ
ブな市民として振舞うことのできる能力と捉え、特に、メディアとテクノロジーを活用す
る能力、持続可能な消費を行う能力を中心としている点が特徴である19。
図表 11 新たな消費者教育ガイドラインにおいて目標とされる消費者教育のテーマと能力
テーマ
メディアとテクノロジーに
関する能力
能力の内容
個人の選択、テクノロジーとメディアの利用のみならず、
新たなイノベーションにあふれる現代社会で十分な批判
能力と責任をもって行動する能力
持続可能な消費に関する能力
個人の消費と日々の選択が持続可能な発展に与える短期、
長期の影響を評価する能力
家計
経済生活に関する情報を得て、利用する能力、資源を経済
的に利用し、家計を管理できる能力
消費者としての権利と義務
消費者としての自分自身の権利と責任を意識すること
異なる種類の商品の安全性と質を評価することを学ぶ能
力と、商品に対する警告などの便利な情報を使うことがで
きる能力
マーケティングとコマーシャル
メディア
批判的で責任ある消費者としてメディアを見て、広告によ
る説得に向かい合える能力
家庭の管理と参加
家庭を管理し、日常生活を倫理的で合理的に過ごす能力
注)現在、ガイドラインは改定中であるため、一部の表現等については変更される可能性がある
資料)Eija Kuoppa-cho, Malin Lindquist Skogar(2009) “ The Consumer Abilities and the Themes of
Consumer Education 2009”Consumer Citizenship Network (2009) 『THE CCN SIXTH ANNUAL
CONFERENCE,THE TECHNICAL UNIVERSITY OF BERLIN,GERMANY 23 - 24 MARCH 2009, Papers and Posters』
19
Eija Kuoppa-cho, Malin Lindquist Skogar(2009) “ The Consumer Abilities and the Themes
of Consumer Education 2009”Consumer Citizenship Network (2009) 『THE CCN SIXTH ANNUAL
CONFERENCE
THE TECHNICAL UNIVERSITY OF BERLIN,GERMANY 23 - 24 MARCH 2009, Papers and Posters』
18
図表 12 新ガイドラインにおける消費者教育の学習テーマ
教育環境
ソーシャル・スタディー
芸術
家計
消費者としての権利と義務
共通テーマ
数学
科学
語学
・メディアとテクノロジー
に関する能力
・持続可能な消費に関する能力
マーケティングと
コマーシャルメディア
衛生教育
家庭の管理と参加
ライフスキル
家庭科
資料)北欧諸国−エストニアグループ(Nordic-Estonian consumer education group)提供資料
19
Fly UP