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第4編 勘定科目
第4編 勘定科目 71 第4編 勘定科目 第8章 1 勘 定 科 目 表 表示科目と勘定科目 複式簿記の目的は、企業の経済活動を貸借対照表と損益計算書で明らかにし 報告することにある。そのために、貸借対照表と損益計算書は、企業の活動を 貨幣的に表し、それを幾つかのグループに集約する形態をとったのである。こ の集約報告されるグループが表示科目であった。 このように表示科目は、報告のために貸借対照表と損益計算書に表示される グループの名称であるが、この表示に先立って経済活動の表示科目へのグルー プ化への作業が行われ、これが仕訳や元帳の記帳といわれるものである。 この作業過程において使用されるグループの単位が勘定であり、それに付さ れた名称が勘定科目であった。35 頁では「勘定科目とは、貸借対照表や損益 計算書という報告書に表示される金額を計算するための資産、負債、資本、収 益、費用を細分化した区分単位(勘定)に付された名称である」とされたとこ ろである。 2 勘定科目の分類 勘定科目は、貸借対照表や損益計算書での報告のための経済活動の集約単位 であった。したがって、この勘定科目をどのようなものにするかは、複式簿記 72 の最終生産物である貸借対照表や損益計算書がどのようなものとして求められ ているかに依存することになる。しかしながら、このことは、貸借対照表や損 益計算書での表示とこの勘定科目が同一となるということではない。 貸借対照表や損益計算書での表示は、業種によっておおよその標準とされた ものが定められているが、企業の活動そのものは、同じ業種であっても企業規 模等によって異なるのが通常であり、ために、企業活動を集約する勘定科目は その企業ごとに異なることがある。要は、勘定科目によって集約された経済活 動が、報告の際のおおよその標準とされている貸借対照表や損益計算書の表示 科目に集約替えできるものであればよいのであって、勘定科目の設定にこれと いった定めがあるわけではない。 勘定科目 表示科目 a1 a2 A A=a 1 +a 2 +a 3 a3 勘定科目は、業種すなわち商業、工業、水産業、金融業等によって異なる。 これは、業種によって活動の内容が異なるからであって、当然のこととして、 報告の視点が異なるものといえよう。 以下は、商業を中心としての説明である。 勘定は、先ず、貸借対照表勘定と損益計算書勘定に分類される。 損益計算書は利益の内容を明らかにする報告書であるから、損益計算書勘定 は、利益を直接的に算出するための収益勘定と費用勘定で構成される。 損益計算書勘定 収益勘定 費用勘定 費 損益計算書 用 収 益 第4編 勘定科目 73 したがって、この損益計算書勘定に属さない、すなわち、利益を直接的に算 出しない勘定が貸借対照表勘定である。 貸借対照表勘定は、これを資産勘定、負債勘定、資本勘定に区分される。 貸借対照表勘定 (1) 資産勘定 負債勘定 資本勘定 貸借対照表 資 産 負 債 資 本 資産勘定とは、 企業の今後の活動にあたっての基盤となるもの、すなわち、プラスの財産の 集りであり、流動資産勘定、固定資産勘定、繰延資産勘定から構成されている。 資産勘定は、企業の利益の算出に直接的に係わらない勘定である。そして、 貸 借 対 照 表 流動資産と固定資産との区分は、これらが 利益計算に直接的に係わるまでの期間の長 さ等に委ねられている。 すなわち、これらの資産が利益の直接的 計算において費用として捉らえられるまで 資 産 流動資産 固定資産 繰延資産 の期間の長さ又はこれらの資産が資金化す るまでの期間の長さが、営業循環期間内(※ 2)又は決算の日の翌日から1年以 内(※ 3)と考えられる資産を流動資産とし、それ以外の資産を固定資産とする。 流動資産勘定としては、現金、預金、受取手形、売掛金、有価証券、商品、 貯蔵品、前渡金、前払費用、未収収益、短期貸付金、未収入金などが、それぞ れ経済活動の状態を捉らえるための集約グループの単位として上げられる。 このうち、商品、貯蔵品などは、販売に利用される資産であり、一括して棚 卸資産とよばれ、 74 現金、預金、受取手形、売掛金、有価証券、短期貸付金、未収入金などは、当 座の資金あるいは当座の資金に早晩替る資産であるので、当座資産とよばれる ことがある。 固定資産勘定は、有形固定資産勘定、無形固定資産勘定、そして、投資その 他の資産勘定から構成され、 このうち、有形固定資産勘定は、有形の資産すなわち建物、構築物、備品、土 地などがグループ単位である。 無形固定資産勘定は、有形固定資産に対応しての呼び名であり、すなわち、 無形の資産-営業権、借地権、鉱業権などがグループの単位である。 投資その他の資産勘定は、投資有価証券、関係会社株式、関係会社社債、出 資金、関係会社出資金、長期貸付金、長期前払費用など資金の投資活動に供し ている資産である。 繰延資産勘定は、創立費、開業費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、 開発費、試験研究費、建設利息である。 ※ 勘定は、英語で account であり、したがって、略号で a/c と 示されることがある。 ※ 2 営業循環基準といわれ、営業のサイクルを流動資産と固定資産 との、あるいは、流動負債と固定負債の区分の基準とするもので あって、営業のサイクル内に回収又は支払するものを流動、それ 以外のものを固定とするものである。 例えば、商業では、商品の仕入から販売を経て、代金回収まで の期間を営業サイクルとするものである。 ※ 3 1年基準(ワン・イヤー・ルール)といわれ、営業循環基準とともに資産・ 負債を流動、固定に区分する基準であって、決算日の翌日から1 年以内に資金化されるものを流動、それ以外のものを固定とする ものである。 営業循環基準によって、流動、固定の区分がされないものに対 して採られる基準である。 第4編 勘定科目 75 (2) 負債勘定とは、企業の今後の活動にあたって負担となるもの、すなわち、 マイナスの財産の集りであり、流動負債、固定負債から構成されている。 負債勘定は、資産勘定と同様に企業の損益計算に直接的に係わらない勘定で ある。 流動負債と固定負債の区分の考え方は資産と同様であって、営業循環基準又 は1年基準(ワン・イヤー・ルール)である。 買掛金や支払手形は、営業上発生する負債であるので、通常の営業のサイク ル内にあるものは流動負債、それ以外は固定負債である。 また、借入金は、営業上発生するものでないので、決算日の翌日から1年以 内に返済するものは流動負債、それ以外は固定負債である。 流動負債勘定としては、支払手形、買掛金、短期借入金、未払金、未払費用、 前受金、預り金、前受収益、引当金などが、集計グループの単位である。 また、固定負債勘定としては、長期借入金、長期未払金、退職給与引当金な どが、集計グループの単位である。 (3) 資本勘定は、資本金、資本剰余金、利益剰余金が、その集計グループの 単位である。 (4) 損益計算書勘定は、収益勘定と費用勘定で構成されている。 収益勘定は、売上、営業外収益、特別利益で構成されており、 そのうち営業外収益には、受取利息及び割引料、有価証券利息、受取配当金、 仕入割引、投資不動産賃貸料などが集計グループの単位である。 特別利益としては、前期損益修正益、固定資産売却益などがあげられる。 費用勘定は、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失で構 成されている。 76 売上原価は、期首繰越商品、仕入、期末繰越商品が、集計グループの単位で ある。 販売費及び一般管理費勘定は、収益を獲得するための営業を行うに当って費 やされる犠牲であって、 その集計グループの単位は、販売手数料、荷造費、運搬費、広告宣伝費、見本 費、保管費、給料、賞与、福利厚生費、交際費、旅費、交通費、通信費、光熱 費、消耗品費、租税公課、減価償却費、修繕費、保険料、不動産賃借料などで ある。 営業外費用の集計グループの単位は、支払利息及び割引料、社債利息、社債 発行差金償却、社債発行費償却などがあり、一般的に金融上の費用である。 特別損失勘定としては、前期損益修正損、固定資産売却損などがあげられる。 (5) 勘定科目表 前項までのような勘定を一覧に纏めたものを勘定科目表といい、各企業の会 計担当者は、企業活動を当該勘定科目表の中で最も適合した勘定にグループ化 し、集計計算するのである。 したがって、この勘定科目表の作成が、簿記実務の上では最重要事であり、 かつ、工夫が強く求められるところである。 次の勘定科目表の各勘定科目に付された番号は、勘定科目を符号化したもの である。今日のように会計がコンピュータ化した時代においては、この符号化 にも工夫を凝らすべきである。 勘定科目を符号化するには文字記号法と数字記号法があるが、現在では数字 記号法が広く用いられている。文字記号と数字記号を混在させる方法も一法で ある。 第4編 勘定科目 77 数字記号法では、勘定を大科目、中科目、小科目に区分して、大科目は「0 ~ 9」 中科目は「00 ~ 99」、小科目は「000 ~ 999」とする方法がよく用いられる。 貸借対照表勘定(1) 勘定科目名 資産勘定 流動資産 当座資産 現金 当座預金 普通預金 振替貯金 通知預金 定期預金 定期積金 別段預金 受取手形 売掛金 有価証券 棚卸資産 商品 製品 半製品 原材料 仕掛品 貯蔵品 残高 コード 借 借 借 借 借 借 借 借 借 借 借 + + + + + + + + + + + 100 110 120 130 131 132 133 134 140 141 150 借 借 借 借 借 借 + + + + + + 160 161 162 163 164 165 借 + 借 + 借 + 借+ 170 171 172 174 その他の流動資産 前渡金 前払費用 未収収益 短期貸付金 勘定科目名 未収入金 立替金 仮払金 その他 貸倒引当金 固定資産 有形固定資産 建物 構築物 車両運搬具 工具器具備品 土地 建設仮勘定 減価償却累計額 無形固定資産 営業権 借地権 電話加入権 残高 コード 借 + 175 借 + 176 借 + 177 借 + 189 借+ 199 借 借 借 借 借 借 借 + + + + + + - 200 202 204 205 210 211 219 借 + 借 + 借+ 220 221 231 借 + 借 + 借 + 借 + 借 + 借 + 借+ 240 241 242 245 249 250 251 投資その他の資産 投資有価証券 関係会社株式 関係会社社債 長期貸付金 長期前払費用 敷金 保証金 78 貸借対照表勘定(2) 勘定科目名 繰延資産 創立費 開業費 新株発行費 社債発行費 社債発行差金 開発費 試験研究費 建設利息 負債勘定 流動負債 支払手形 買掛金 短期借入金 未払金 未払配当金 未払税金 未払費用 前受金 預り金 前受収益 仮受金 割引手形 賞与引当金 残高 コード 借 借 借 借 借 借 借 借 + + + + + + + + 貸 + 貸 + 貸 + 貸 + 貸 + 貸 + 貸 + 貸 + 貸 + 貸 + 貸 + 貸 + 貸+ 260 261 262 263 264 265 266 267 400 401 410 420 421 423 424 425 426 428 429 430 450 勘定科目名 固定負債 長期設備手形 長期借入金 長期未払金 退職給与引当金+ 資本勘定 資本金 新株式払込金 資本剰余金 資本準備金 その他 利益剰余金 利益準備金 任意積立金 残高 コード 貸 貸 貸 貸 + + + + 460 470 475 490 貸 + 貸 + 550 555 貸 + 貸 + 560 561 貸 + 貸 + 当期未処分利益 貸 + 土地再評価差額金 貸 + 株式再評価差額金 貸 + 自己株式払込金 貸 + 自己株式 貸+ 565 566 590 591 592 593 594 第4編 勘定科目 79 損益計算書勘定 勘定科目名 収益勘定 営業収益 売上 残高 コード 貸 貸 貸 貸 + + 700 708 709 710 貸 + 有価証券利息 貸 + 受取配当金 貸 + 有価証券売却益 貸 + 仕入割引 貸 + 投資不動産賃貸料 貸 + 雑益 貸 + 特別利益 前期損益修正益 貸 + 固定資産売却益 貸 + 費用勘定 売上原価 期首繰越商品 借 + 仕入 借 + 期末繰越商品 借 + 販売費一般管理費 役員報酬 借 + 給料手当 借 + 退職金 借 + 雑給 借 + 法定福利費 借 + 福利厚生費 借 + 賞与引当金繰入 借 + 退給引当金繰入 借 + 外注加工費 借 + 販売手数料 借 + 荷造発送費 借+ 800 801 . 802 803 804 805 816 売上値引戻り高 売上割戻 役務収益 営業外収益 受取利息割引料 900 901 720 725 735 740 741 742 743 744 745 746 747 750 751 752 勘定科目名 広告宣伝費 旅費交通費 通信費 消耗品費 事務用品 水道光熱費 減価償却費 賃借料 保険料 修繕費 租税公課 寄付金 交際費 貸倒損失 残高 コード 借 + 755 借 + 756 借 + 757 借 + 758 借 + 759 借 + 760 借 + 765 借 + 766 借 + 767 借 + 768 借 + 780 借 + 781 借 + 782 借 + 785 貸倒引当金繰入 借 + 786 雑費 借 + 789 営業外費用 支払利息割引料 借 + 830 社債利息 借 + 831 社債発行差金償却 借 + 832 社債発行費償却 借 + 833 売上割引 借 + 835 有価証券売却損 借 + 840 有価証券評価損 借 + 841 雑損 借 + 846 特別損失 前期損益修正 借 + 920 固定資産売却損 借+ 921 利益増減項目 980 981 991 992 80 第9章 1 商品売買益と商品・売上・仕入 商品売買益の算定 商品の売買益は、売上げた商品の売上額からその商品の仕入額を控除するこ とによって算定され、したがって、その算定には売上額と仕入額の両者を把握 することが必要である。 そして、この売買益を算定する方法には次に説明するように三つの方法があ り、企業はどの方法を採用してもよいといえるが、実務上は、(その3)の方法 が採られるのが一般的である。 2 売買益算定の三つの方法 (1) 商品勘定による商品売買益の算定(その1) 商品売買益を算定する第1の方法は、商品の販売額に対してその原価を直接 的に捉らえる方法であり、商品売買益の把握としては最も基本的な方法である。 (借) 現 金 120,000 (貸) 商 品 100,000 商品売買益 20,000 商品販売の都度、販売額を原価と売買益(または売買損)に分けて記入する ところから別記法といわれ、商品の管理が個別にされている企業において利用 できる方法である。しかし、理論的にはともかく現在の商品売買を主たる業と する企業では一般的には採用が困難である。 商品勘定の借方記入は商品の増加、貸方記入は商品の減少を示すので、その 差額は借方にあらわれ商品の現在額を表わすこととなる。 第4編 勘定科目 81 商 品 期首在庫 仕 入 額 売上に伴う 仕入価額による 減少額 売上原価の金額 = 売上商品の原価を 直接的に把握 在 庫 額 [例 1] 商品 100,000 円を仕入れ、即日、そのうちの6割を 70,000 円で販売した。 いずれも代金決済は現金で行った。(別記法で処理すること) イ (借) 商 品 100,000 (貸) 現 金 100,000 ロ (借) 現 金 70,000 (貸) 商 品 60,000 商品売買益 10,000 , (2) 商品勘定による商品売買益の算定(その2) 商品売買益を算定する第2の方法は、商品の仕入額は商品勘定の借方に記入 し、以後、商品を販売したときには商品勘定の貸方に商品の販売額をもって記 入する方法である。 (借) 現 金 120,000 (貸) 商 品 120,000 この仕訳は、商品の減少が販売額で示されており、したがって、商品の減少 額を仕入価額で示している(その1)の仕訳に対してあくまでも仮仕訳である。 仮仕訳を本来の仕訳にただすには商品の正しい減少額を調査して、その調査額 100,000 をこの仕訳の「(貸)商品 120,000」に代えるとともに、商品売買益 20,000 の認識をしなければならない。 したがって、この場合の商品勘定は、商品という資産を整理する資産勘定と 商品売買益という利益を整理する損益勘定の二つの性質をもつことから混合勘 82 定といわれ、また、これによる売買益の算定方法を混合勘定法という。 商 品 期首在庫 仕 入 額 売上に伴う 販売価額による 減少額 ▼ 商品売買益 在庫額の把握 [例 2] 商品 100,000 円を仕入れ、即日、そのうちの6割を 70,000 円で販売した。 いずれも代金決済は現金で行った。(混合勘定法で処理すること) イ (借) 商 品 100,000 (貸) 現 金 100,000 ロ (借) 現 金 70,000 (貸) 商 品 70,000 [例 3] 上記の商品販売に係る商品売買益を算出するため、商品の在庫を調査 したところ 40,000 円であった。 (借) (3) 商 品 10,000 (貸) 商品売買益 10,000 三分法による商品売買益の算定 商品売買益を算定する第3の方法は、商品勘定を「繰越商品」「仕入」「売上」の 三つに分ける方法(これを三分法という)である。 (借) 現 金 120000 (貸) 売 上 120000 ここにおける(貸)売上 120000 の仕訳は、(その1)の(貸)商品 100000 と(貸) 商品売買益 20000 の仕訳に代えられたものであるので、その総額 120000 が商 品の仕入額のみでも商品売買益のみでもないことは言うまでもなく明らかであ り、(その2)と同様である。したがって、この方法でも商品売買益を算定する ために今一つの工夫を要することになる。ただ、(その2)の方法と異なるのは、 第4編 勘定科目 83 商品勘定を売上勘定に代えるのみではなく、さらにこの勘定を分割する。すな わち、商品を仕入れた際には「仕入勘定」を使い、在庫額を把握した際には「繰 越商品勘定」を使い、ここでの売上勘定を加えて3つの勘定で商品の売買取引 を処理するのである。 <期中の取引> <決算時の取引> 繰越商品 期首在庫 繰越商品 期首在庫 仕 入 仕 入 額 仕 仕 入 額 入 在庫の把握 売上げられた 商品の仕入原価 期首在庫 売 上 売上原価 売 上 損 益 売 上 額 84 [例 4] 商品 100,000 円を仕入れ、即日 、そのうちの6割を 70,000 円で販売し た。いずれも代金決済は現金で行った。(三分法で処理すること) イ (借) 仕 入 100,000 (貸) 現 金 100,000 ロ (借) 現 金 70,000 (貸) 売 上 70,000 [例 5] 上記の商品販売に係る商品売買益を算出するため、商品の在庫を調査 したところ 40,000 円であった。 (借) ※ 1 繰越商品 40,000 (貸) 仕 入 40,000 なお、通常は、前期よりの繰越在庫があるので、その仕訳は次のように なる。期首の繰越商品は 30,000 円、期末の繰越商品は 70,000 円とする。 (借) 仕 入 繰越商品 ※2 30,000 70,000 (貸) 繰越商品 仕 入 30,000 70,000 さらに※1の例で売上原価勘定を使用する場合(通常は売上原価勘定は使 用しないので、この仕訳は利用されない。)の仕訳は、次のようになる。当 期の仕入総額は 100,000 とする。 (借) 売上原価 30,000 売上原価 100,000 繰越商品 70,000 3 (貸) 繰越商品 30,000 仕 入 100,000 売上原価 70,000 商品有高帳 (1) 商品単価と商品有高帳 三分法によると、商品売買益は在庫商品額を把握することによって算定でき た。そして、この在庫商品額は、在庫商品の単価×在庫数量で算出され、在庫 数量は倉庫のなかの商品を調査する(棚卸をするという)ことによって把握で きるが、在庫商品の単価は商品仕入の頻度が高いとそれほど単純ではない。 よって、商品単価の算定のために、商品有高帳という帳簿を記入する。また、 この帳簿では商品の受入・払出を記帳するのであるから、実際に在庫調べをし なくても在庫数量を把握できることになる。 商品有高帳は取扱商品ごとに設けられ、商品の仕入は仕入の都度、仕入原価 第4編 勘定科目 85 で記入される。その様式は、おおむね次のとおりである。また、装丁式、ルー ズリーフ式、カード式等があるが、いずれを採用しても差し支えない。 商 品 有 高 帳 商品名 ××× 日付 摘 受 入 払 出 残 高 要 数量 単価 金 額 数量 単価 金 額 数量 単価 金 額 なお、商品単価の算出方法としては、個別法、先入先出法、後入先出法、移 動平均法、総平均法、最終仕入原価法、売価還元法等があるが、企業はいずれ を採用しても差し支えない。しかしながら、一度採用した方法は、次年度以降 も継続して採用することが求められている。 (2) 個別法 [例] 次は、平成商店におけるカラーディスプレー CR700 の入庫・出庫の状況であ る。 3/ 1 入庫 10 台を単価 30,000 円で東京商会より仕入れた。 /5 出庫 5 台を単価 40,000 円でA株式会社に売却した。 /10 入庫 10 台を単価 33,000 円で東京商会より仕入れた。 /15 出庫 5 台を単価 40,000 円でB株式会社に売却した。 /20 出庫 5 台を単価 40,000 円でC株式会社に売却した。 /25 入庫 10 台を単価 34,000 円で東京商会より仕入れた。 /26 出庫 5 台を単価 40,000 円でD株式会社に売却した。 個別法は、商品の販売の際に、どの商品が販売されたかを特定するので、その 結果在庫商品の価額は実際の原価を示すことになる。よって、それをもって期 末の在庫額を算定する方法である。 事例によると、3/5 の売却は 3/1 の仕入からの出庫であるので売上原価は 30,000 円であるが、3/15 の売却は 3/1 の仕入のうちの在庫 5 台と 3/10 の仕入 10 86 台からの販売であり、したがって、それらのうち何れが出庫されたかによって 売上原価になる単価及び在庫品になる単価は異なることになる。3/1 仕入の在 庫 5 台がすべて出庫されたのであれば、売上原価になる商品単価は 3/5 の売却 と同じで 30,000 円であるが、3/10 の仕入からその全てが出庫されたのであれ ば 33,000 円、3/1 と 3/10 の仕入と混在して出庫されていれば 31,200 円(3/1 の 仕入から 3 台、3/10 の仕入から 2 台の場合、(30,000 × 3 + 33,000 × 2)÷ 5) となる。以下、実際にどの仕入分が出庫されたかによって、仕入・売上を紐付 きでみていき、そして、最終的に残った商品が在庫商品となるのである。 (3) 先入先出法 先入先出法は、最も古く取得されたものから順次払出が行われ、期末の在庫 は、最も新しく取得されたものからなるものとみなして、期末在庫額を算定す る方法である。 先の事例で商品有高帳を記入したものが次である。 商 品 有 高 帳 商品名 カラーディスプレー CR700 受 入 払 日付 摘 要 数量 単 価 金 額 数量 単 価 3 1 東京商会 10 30000 300000 5 A社 10 東京商会 出 金額 10 30000 300000 5 30000 150000 10 33000 先入先出法 残 高 数量 単 価 金 額 330000 5 30000 150000 5 30000 10 33000 480000 15 B 社 5 30000 150000 10 33000 330000 20 C 社 5 33000 165000 5 33000 165000 25 東京商会 10 34000 340000 5 33000 10 34000 505000 26 D 社 30 970000 5 33000 165000 20 630000 10 34000 340000 第4編 勘定科目 87 (4) 後入先出法 後入先出法は、最も新しく取得されたものから順次払出が行われ、期末の在 庫は、最も古く取得されたものからなるものとみなして、期末在庫額を算定す る方法である。 この方法によると、仕入単価が変動しているときは、払出単価は最近の仕入 単価で算出されるので売上原価は最近の価額を反映するが、在庫価額は最近の 価額を反映しない。また、先入先出法については、この逆で払出単価が古い単 価で算出されるので売上原価は最近の価額を反映しないが、在庫価額は最近の 価額を反映することになる。 先の事例で商品有高帳を記入したものが次である。 商 品 有 高 帳 商品名 カラーディスプレー CR700 受 入 払 日付 摘 要 数量 単 価 金 額 数量 単 価 3 1 東京商会 10 30000 300000 5 A社 10 東京商会 出 金額 10 30000 300000 5 30000 150000 10 33000 後入先出法 残 高 数量 単 価 金 額 330000 5 30000 150000 5 30000 10 33000 480000 15 B 社 5 33000 165000 5 30000 5 33000 315000 20 C 社 25 東京商会 10 34000 5 30000 150000 5 34000 170000 10 34000 490000 5 30000 5 34000 320000 340000 26 D 社 30 5 33000 165000 970000 5 30000 20 650000 88 (5) 移動平均法 移動平均法は、商品を受入れるたびに商品単価を算定するもので、具体的に は、受入金額に受入前の在庫金額を加えた金額を受入数量に受入前の在庫数量 を加えた数量で除したものを払出単価及び在庫単価とするものである。 先の事例で商品有高帳を記入したものが次である。 商 品 有 高 帳 商品名 カラーディスプレー CR700 受 入 払 日付 摘 要 数量 単 価 金 額 数量 単 価 1 東京商会 3 10 30000 300000 5 A社 後入先出法 残 高 数量 単 価 金 額 10 30000 300000 5 30000 150000 5 30000 150000 15 B 社 5 32000 160000 10 32000 320000 20 C 社 5 32000 160000 5 32000 160000 5 33333 166670 20 636670 10 33333 333330 10 東京商会 25 東京商会 10 33000 10 34000 330000 30 15 32000 480000 340000 26 D 社 (6) 出 金額 970000 15 33333 500000 総平均法 総平均法は、月とか年とかの一定期間中における商品の総受入金額を総受入 数量で除したものを払出単価とするものである。 先の事例で払出単価を算定して、払出金額及び在庫金額を計算すると次のと おりである。 総平均単価 在庫金額 払出金額 970,000 ÷ 30 = 32,333.33 32,333 × 10 = 323,330 970,000 - 323,330 = 646,670 第4編 勘定科目 89 (7) 最終仕入原価法 最終仕入原価法は、一定期間中における商品の最終の仕入単価を在庫単価と するものである。最終の仕入単価に大きく影響されるので余り望ましい方法で はないが、法人税法で認めているため、この方法を採用している企業も多い。 先の事例で在庫単価を算定して、払出金額及び在庫金額を計算すると次のとお りである。 最終仕入単価 在庫金額 払出金額 (8) 34,000 34,000 × 10 = 340,000 970,000 - 340,000 = 630,000 売価還元法 売価還元法は、商品を売価で棚卸して売価での在庫金額をだし、それに原価 率(1 -利益率)を乗じて在庫金額を算定する方法である。 この方法は、取扱品種の極めて多い小売業及び卸売業における商品の評価に 利用される。 4 商品の棚卸と評価 前項で期末の商品在庫額を商品有高帳で把握した。在庫額は、商品有高帳に おける在庫数量に各種の方法で算定した商品単価を乗じたものであったが、こ こでの在庫額は、帳簿による在庫額の算定であるから、これによる在庫額の算 定方法を帳簿記録法といい、継続記録法又は永久棚卸法ともいう。しかしなが ら、この方法で算出する在庫数量はあくまでも帳簿計算における在庫であるの で、実際の倉庫のなかの在庫量との差異がでることは当然のことに予想される。 90 したがって、企業は倉庫の中の在庫量を実際に調査して、帳簿在庫額を実際の 在庫額に訂正することが求められる。このように実際に在庫量を調査して在庫 額を算定する方法を、棚卸計算法という。 また、商品単価の算定もやはり前項でみたように様々の方法があり、したが って、一つの商品についての単価は、その算定方法によってかなり異なること があり、さらに、この異なる単価が決算日における商品の時価とも大きな差異 をもっていることも現実にみられるところである。 前項での商品単価の算出は、取得価額を基としての計算であり、これを原価 法(原価主義)という。これに対して、決算日における時価が原価法により算出 された帳簿在庫額に比して低いときには、時価で在庫を評価すべきであるとい う考え方があリ、これを低価法(低価主義)という。この考え方は、商品のよう な棚卸資産のみではなく、有価証券の決算日評価に対しても適用される。 低価法により在庫額の評価を切下げたときのその切下額は、評価損として損 益計算書の売上原価の内訳科目又は営業外費用に表示しなければならない。 (借) 棚卸評価損 ××× (貸) 繰越商品 ××× なお、原価法と低価法のいずれの方法で期末在庫の評価をするかは、企業の 選択に委ねられているが、決算日における時価が著しく下落し、その価額が原 価まで回復する見込があると認められない場合には、時価まで評価を切下げる ことが求められており、これを強制低価法といい、その切下額は、評価損とし て損益計算書の営業外費用又は特別損失に表示することとされている。 第4編 勘定科目 91 5 仕入・売上 (1) 仕入帳・売上帳 商品を仕入れたときは仕入帳及び買掛金元帳(仕入先元帳)が、商品を売り上 げたときは売上帳及び売掛金元帳(得意先元帳)が記入される。いずれも総勘定 元帳に対する補助元帳である。 主要簿 補助簿 仕訳帳 買掛金元帳 売掛金元帳 総勘定元帳 仕 入 帳 売 上 帳 後で述べるように買掛金元帳や売掛金元帳は、仕入先や得意先ごとの買掛金 や売掛金を管理するために記入されるのであるが、仕入帳や売上帳は単に仕入 や売上の明細を明瞭にしておくためのものであるから、仕入先からの送り状や 得意先への送り状の控を日付順に綴りあわせたものをこれらの帳簿の記入に代 えることができる。したがって通常の場合は、これを帳簿に代用する方法で充 分である。 仕 日付 送状 NO 仕入先 金 入 帳 額 品名 数量 単 価 引取費用 支払条件 摘 要 92 売 日付 送状 NO 売上先 金 上 額 品 帳 名 数量 単 価 支払条件 摘 要 (2) 仕入 商品の取得価額は、仕入代価に商品を引 き取るために要した費用(引取費用)を加え た額であり、総勘定元帳に仕入勘定をもう 仕 入 仕入代価 仕入返品 引取費用 仕入値引 け、その借方に整理する。 引取費用としては、仕入手数料、引取運 仕入値引戻り高 賃、運送保険料、関税、荷役費等があげら 仕入返品 れる。 仕入値引 しかし、仕入後に要する検収、整理、選 別などの費用は、通常は引取費用とはされず、仕入商品の取得価額とはしない で、期間の費用として処理される。 商品の仕入後、その商品に瑕疵がある等の理由で、商品を返品したり、仕入 代価の減額を受けることがある。仕入返品または仕入値引として、仕入勘定の 貸方に整理する。 なお、仕入返品又は仕入値引については、仕入勘定の控除科目として、仕入 値引戻り高勘定をもうけ、その貸方に整理することがある。仕入勘定を分解し たものに過ぎず、損益計算書では仕入の控除額として表示される。 また、これらは、買掛金元帳や仕入帳又は商品有高帳の記入においては、赤 字で記入し、仕入代価等の減額をする。 第4編 勘定科目 93 [例 6] 商品 100,000 円を昭和商店より掛で仕入れた。引取運賃 2,000 円は現金 で支払った。 (借) 仕 入 102,000 (貸) 買 掛 金 現 , 金 100,000 2,000 [例 7] 上記商品のうち 10,000 円が不良品であったので返品した。また、一部 商品に規格はずれがあったので、5,000 円の値引を受けた。 (借) 買 掛 金 10,000 (貸) 仕 入 10,000 (借) 買 掛 金 5,000 (貸) 仕 入 5,000 (借) 買 掛 金 10,000 (貸) 仕入値引戻り高 10,000 (借) 買 掛 金 5,000 (貸) 仕入値引戻り高 5,000 又は 商品の仕入勘定への処理は、商品の受け渡しによりなされるが、商品の受け 渡しの認識が実際の商品の受け渡しによらない場合がある。商品が証券(船荷 証券、倉荷証券等)化されている場合である。 例えば、輸入商品等は、商品引取の権利を船荷証券とし、したがって、船荷 証券を受けたときに商品の受取を認識することになる。しかしながら、実際の 商品を受入れていないので商品の実際の受入れまでは未着品勘定をもうけ、そ の借方に整理することが行われる。 (3) 売上 売上勘定に処理する金額は、送り状又は売上伝票に記載される金額すなわち 売上代価であり、総勘定元帳の貸方に整理される。 商品を販売するときに要する費用は、仕入に要する費用と異なり販売費とし て費用勘定で処理される。 94 また、仕入と同様に売上後、商品の瑕 売 疵等の理由で商品の返品を受けたり、売 上 売上返品 上代価の減額をすることがあり、売上返 売上代価 売上値引 品又は売上値引として、売上勘定の借方 に整理する。 売上値引戻り高 なお、売上返品又は売上値引について 売上返品 は、売上勘定の控除科目として、売上値 売上値引 引戻り高勘定をもうけ、その借方に整理 することがある。売上勘定を分解したものに過ぎず、損益計算書では売上の控 除額として表示される。 また、これらは、売掛金元帳や売上帳又は商品有高帳の記入においては、赤 字で記入し、売上代価の減額をする。 [例 8] 商品 100,000 円を昭和商店へ掛で売上げた。発送運賃 2,000 円は現金で 支払った。 (借) 売 掛 金 100,000 荷造発送費 (貸) 2,000 売 上 100,000 現 金 2,000 [例 9] 上記商品のうち 10,000 円が不良品であったので返品を受けた。また、 一部商品に規格はずれがあったので、これについては 5,000 円の値引 を認めた。 (借) 売 上 10,000 (貸) 売 掛 金 10,000 (借) 売 上 5,000 (貸) 売 掛 金 5,000 (借) 売上値引戻り高 10,000 (貸) 売 掛 金 10,000 (借) 売上値引戻り高 5,000 (貸) 売 掛 金 5,000 又は