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農薬の安全使用について - (社)長野県植物防疫協会のホームページ

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農薬の安全使用について - (社)長野県植物防疫協会のホームページ
平成 26 年7月 5 日発行
ながの植物防疫
(第 321 号)
一般社団法人
長野県植物防疫協会
〒380-0837
長 野 市 大 字 南 長 野 字 幅 下 667-6
長野県土木センター内
電 話 026-235-3510
F A X 026-235-3583
目 次
農薬の安全使用について
◇農薬の安全使用について ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1
農政部 農業技術課 山城政利
◇果樹共済について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3
◇最近 10 年の病害虫発生を振り返って ‥ ‥‥‥‥‥‥‥5
6月1日から8月31日までの3ヶ月間、全国一斉
◇シリーズ 性フェロモンを利用した害虫の発生予察‥‥7
に「農薬危害防止運動」が実施されています。本県
◇話題の病害虫‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9
では、農政部、健康福祉部、環境部が連携し、関係
◇話題の農薬‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥10
団体からの後援も受けて、農薬の安全かつ適正な使
用について呼びかけを行っています。農薬の適正な
◇植防短信‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥11
使用は、農作物の安全性の確保だけではなく、「農
◇地域情報‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12
薬を使用する者」の安全と周辺環境等への危害防止
◇協会だより‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥13
の観点からも重要です。
また、この運動に合わせ、(一社)長野県植物防
環境への配慮」を求める内容となっています。具体
疫協会及びJA長野県営農センターとの共催により
的には、農地のみならず、公園や公共施設、街路樹
「農薬安全使用推進大会」を開催しており、本年は
の管理や家庭菜園等あらゆる場面で農薬が使用され
6月10日から13日にかけて、県下4会場で開催しま
ている中で、周辺環境に配慮した農薬の適切な使用
した。
の一層の推進が必要です。
当日は、農家や防除業者、ゴルフ場関係者などの
農薬使用者をはじめ、農産物直売所関係者、農薬販
【住宅地等における農薬使用】
売者、農業指導者、公共施設管理担当者等、416名
「住宅地等における農薬使用について」通知では、
の方々にご参加いただきました。
公共施設や住宅地付近で農薬を使用する場合、特に
今年の大会は、農薬適正使用に係る研修と位置づ
次の6つの項目について注意することとされていま
け、主要なテーマとして、国から平成25年4月26日
す。(以下、抜粋)
付けで通知された「住宅地等における農薬使用につ
(1)農薬使用者は、病害虫およびその被害発生の早
いて」の内容について説明するとともに、本通知の
期発見に努め、被害の有無に関わらず定期的に農
趣旨の徹底について御協力をお願いしました。また、
薬を散布するのではなく、病害虫の発生動向に応
毒物及び劇物の取扱いに係る基本的な事項を健康福
じた適切な防除を行うこと。
祉部 薬事管理課から説明しました。
(2)
農薬使用者は、
病害虫に強い作物や品種の選定、
引き続き講演として「農薬の種類とその特性に応
適切な土づくりや施肥の実施、防虫網等の物理的
じた使用~殺虫剤を中心として~」と題して、殺虫
防除等の活用により、
農薬の使用量を抑えること。
剤の成分別の作用機構や平成26年農作物病害虫・雑
草防除基準から掲載したIRAC及びFRACの考
え方を踏まえた農薬の適正使用のポイントについて
農業技術課の専門技術員より説明しました。
最後は大会宣言を読み上げ、参加者全員の賛同を
いただき、
今後の農薬適正使用の徹底を確認しました。
【農薬使用時の周辺環境への配慮の必要性】
近年は、住宅地と農地の混在化等により、住宅地
等への農薬の飛散等によるトラブルも増加しており
ます。このため、「農薬危害防止運動」では、平成
25年4月26日付けで改正された「住宅地等における
農薬使用について」通知の趣旨に重点を置き「周辺
― 1 ―
(第 321 号)
ながの植物防疫
(3)農薬取締法に基づいて登録された、防除対象に
適用のある農薬を、ラベルに記載されている使用
方法及び使用上の注意事項を守り、使用すること。
(4)農薬散布は、無風又は風が弱いときに行うなど、
近隣に影響が少ない天候の日や時間帯を選び、風
向き、ノズルの向き等に注意するとともに、飛散
を抑制するノズルを使用したり、粒剤等の飛散が
少ない形状の農薬を使用する等、農薬の飛散防止
に最大限配慮すること。
(5)農薬を散布する場合は、事前に周辺住民に対
して、農薬の使用目的、散布日時、使用農薬の種
類について十分な周知に努めること。特に散布区
域の近隣に学校や通学路がある場合は、該当する
学校や保護者等への周知を図り、時間等に最大限
配慮すること。
(6)農薬使用者は、農薬を使用した年月日、農薬
の種類又は名称、並びに使用した農薬の単位面積
あたりの使用量又は希釈倍数等について記帳し、
一定期間保存すること。
また、これ以外にも、普段から周辺住民とのコミ
ュニケーションを図り、農薬使用者と周辺住民とが
良好な関係を築いていくことも重要となります。
【覚えましょう、適正使用「まちがえなし」!】
例年本誌でもご紹介しております、『農薬適正使
用の「まちがえなし!」』を掲載させて頂きます。
これは、農薬を適正に使用する上で基本となる事
項の頭文字6文字を並べ、使用場面において『間違
い』が発生しないよう注意していただきたい点をま
とめたものです。
自ら農薬を使用する時や、農薬使用者へ指導され
る際には、ぜひ思い出していただければ幸いです。
『農薬適正使用「まちがえなし!」』
ま:守りましょう。
農薬のラベル等に表示されている対象作物、使用
量、時期、回数等を守りましょう。
ち:注意しましょう。
周辺環境(通学路、住宅等)に注意し散布しまし
ょう。また散布者自身も、防護衣やマスクを着用
し、吸い込み等に注意しましょう。
が:確認しましょう。
魚や蚕に対し特に毒性の強いもので、本県では使
用できない薬剤や使用地域が限られている薬剤が
あるので事前に確認しましょう。
え:液剤(農薬)を適正に処理しましょう。
残液や防除機具等の洗浄水は河川等へ絶対に流出
させてはいけません。必要量だけを調剤し、不用
農薬等は専門業者へ依頼し適正に処理しましょう。
な:無くさない、見落とさない、移し替えない。
無くさないよう必ず鍵をかけ保管。ラベル記載の、
保管時の注意事項を見落とさない。他の容器への
移し替えは絶対してはいけません。
し:しっかり記帳。
防除作業の確認のため、生産した農産物の安全性
を証明するためにも、防除日誌を記帳する習慣を
身につけましょう。
【長野県内での農薬に関わる事故の発生例】
平成25年度に農業技術課へ報告があった、農薬に
関わる主な事故は、河川汚濁事故が4件、交通事故
による農薬の流出が1件、また他人の畑に除草剤を
散布する事案や農薬保管庫からの盗難といった事案
も発生しました。
いずれのケースもちょっとした不注意から発生し
た事故ですが、農薬が環境へ放出された際のリスク
を十分に認識できていなかったことも原因のひとつ
と思われます。
このほか、農薬が周辺の住民へ飛散しトラブルと
なった事例も報告がありました。
使用者自身には問題なくても、高齢者や子どもな
ど、人によっては、健康被害の発生にまで及ぶこと
も考えられます。
農薬の使用にあたっては、農作物への飛散や、周
辺住民の健康、また有用生物や水質への影響など、
周辺環境全体へ配慮した散布を心掛けていただくよ
うお願いします。
農薬にまつわる事故は、いずれも不注意や配慮不
足等により発生しております。一瞬の気のゆるみ、
不注意等が、大きな問題に発展しかねないことを、
改めて認識して頂き、本年も農薬による危被害の防
止に向け、皆様の御協力をよろしくお願いします。
― 2 ―
(イラスト提供:滋賀県、農薬工業会)
ながの植物防疫
平成 26 年7月 5 日発行
(第 321 号)
果樹共済について
長野県農業共済組合連合会
事業第一課 堀込政樹
近年、日本各地では、猛暑による干ばつや、集中豪雨、台風の大型化など異常気象を要因とした災害が発
生し、各地の農作物に大きな被害をもたらしています。
作年、県内では4月13日~23日の降霜・低温により、開花期と重なった「なし」
「もも」、開花期前の「りんご」
の花芽等に大きな被害が発生し、長野県農政部発表の凍霜害の被害額は、農作物全体で、約35億6千万円、
果樹関係では、約33億4千万円(全体の94%)となっています。
果樹共済では、りんご・ぶどう・なし・もも4樹種合計で、7億8千6百万円の支払いとなりました。
本 年 は、 県 内 各 地 で 降 雹 の 被 害 が 発 生 し、 果 樹 関 係 で、 長 野 県 農 政 部 発 表( 6 月 4 日 現 在 ) で 約
3億3千万円の被害額となっています。
果樹は永年作物でもあり、気候変動に対する適応性の幅が狭く脆弱であるため、今後は更に深刻な影響が
みられるのではないかと考えられています。
このように、異常気象が続く中、果樹共済については、新たな「果樹農業振興基本方針」の中で、「農業
者の経営安定を図る観点から、セーフティーネット措置」として、位置づけられ、その必要性も高まってい
ます。
NOSAI団体では市町村・関係機関の協力を得ながら、果樹農業情勢に対応した推進を実施し、本年産
の引受は、新たに平成26年産から「すもも」が追加となったこともあり前年産に比べ96ha増加しております
が、県内の果樹共済の引受率は5樹種(りんご・ぶどう・なし・もも・すもも)合計で、22.5%(統計結果
樹対比)と低位となっています。
1 制度の概要
果樹共済は、昭和34年の伊勢湾台風により果樹産地が激甚な災害に見舞われたことから、被災農家及び果
実生産団体から国に対して強い要望があったことにより、果樹農業振興政策の災害対策の柱として農業災害
補償法の中で制度化されました。
果樹農家の経営安定のために、農家が掛金を出し合って共同準備財産をつくり、災害が発生したときに農
業経営を守るという、農家の相互扶助を基本とし、加入するにあたっては、政策保険として掛金の半分を国
が負担しています。また、長野県の多くの市町村が掛金の一部(約20%~50%)を加入者に助成する措置を
しています。
平成26年度 市町村の果樹共済助成措置の実施状況一覧表
組合
市 町 村 名
助 成 内 容
小諸市・佐久市
農家掛金の 20% 補助
上田市・千曲市・長和町・坂城町・青木村
農家掛金の 25% 補助
東御市
農家掛金+賦課金総額の 25% 補助
17市町村中 8市町村が補助
岡谷市・諏訪市・茅野市・伊那市・駒ヶ根
市・飯田市・下諏訪町・辰野町・箕輪町・
飯島町・高森町・阿南町・南箕輪村・中川 農家負担掛金の 20% 補助
村・宮田村・阿智村・下條村・売木村・泰阜
村・喬木村
松川町・豊丘村
農家負担掛金の 30% 補助
28市町村中 22市町村が補助
麻績村・生坂村・筑北村
農家掛金+賦課金総額の 20% 補助
― 3 ―
ながの植物防疫
(第 321 号)
松本市・大町市・池田町・山形村・松川村 農家掛金+賦課金総額の 30% 補助
安曇野市
農家掛金+賦課金総額の 33.3% 補助
山形村
農家掛金+賦課金総額の 平均36.3% 補助
塩尻市
農家掛金+賦課金総額の 50% 補助
19市町村中 11市町村が補助
長野市・須坂市・中野市・小布施町・飯綱町・
農家掛金の 20% 補助
小川村
農家掛金の 20% 補助
高山村
(認定農業者には+10%補助)
山ノ内町
農家掛金+賦課金総額の 15% 補助
13市町村中 8市町村が補助
県計
77市町村中
49市町村が補助
2 制度の仕組み
(1)対象となる果樹 りんご、ぶどう、なし、もも(平成26年産から「すもも」が追加)
(2)対象となる災害 凍霜害、ひょう害、暴風雨、病害虫鳥獣害、風水害、雪害 他
(3)主な共済の種類
種
類
半相殺
減収総合
短縮方式
半相殺
特定危険減収
暴風雨方式
半相殺
特定危険減収
3セット方式
樹園地単位
特定危険減収
3セット方式
内
損害認定の
対象割合
容
農家単位で、被害樹園地の減収分のみにより損害を把握する。
病害虫害を含む全ての災害による減収量による損害を対象。
対象期間は、発芽期から収穫期まで、前年の花芽形成期~冬期を含まない。
農家単位で、被害樹園地の減収分のみにより損害を把握する。
暴風雨による果実の減収量による損害のみを対象とする。
3割以上
2割以上
農家単位で、被害樹園地の減収分のみにより損害を把握する。
暴風雨、降ひょう、凍霜害による果実の減収量による損害のみを共済の対象と
する。
樹園地単位で、被害樹園地ごとに損害を把握する。
暴風雨、降ひょう、凍霜害による果実の減収量による損害のみを共済の対象と
する。
2割以上
3割以上
※①損害認定の対象割合:共済金の支払いの対象となる被害(これ以下の損害は「足切」される。)
②りんごについては、品質低下で加工向けに出荷されたものは、出荷量の80%を減収量とみなす。
(4)掛金に対する支援 公的な保険制度であり、国は、共済掛金の1/2を負担しています。
また、多くの市町村が農家負担掛金に対して一部を助成頂いています。
(5)加入に当たっての要件 農家単位で、樹種の対象品種の全栽培(作付)面積を対象に加入することが必要
です。
(単位:戸、a、%)
3 長野県の加入状況
品目
りんご
ぶどう
な し
も も
すもも
合計
H22センサス
販売農家数①
13,697
5,465
3,340
4,232
996
27,730
H26年産
H24年産結果樹面積②
引受戸数③
771,000
222,500
96,800
109,000
32,700
1,232,000
4,018
734
814
401
87
6,054
引受面積④
212,874
27,052
24,624
10,358
2,467
277,375
加入率
戸数
面積
③/①
④/②
29.3
27.6
13.4
12.2
24.4
25.4
9.5
9.5
8.7
7.5
21.8
22.5
※H24年産結果樹面積②については、品目を共済対象にしていない組合分の結果樹面積は除いている。
― 4 ―
ながの植物防疫
平成 26 年7月 5 日発行
最近10年の病害虫発生を
振り返って
普通作物
農業試験場 山下 亨
単年度の病害虫発生については各年度で検討がな
され、それぞれ対策が講じられてきている。しかし、
長期にわたった病害虫発生の動向について検討する
機会は少ない。今後の病害虫防除の対策を検討する
上で、長期にわたった病害虫発生のトレンドを把握す
ることは重要である。そこで、ここでは過去10年間の
普通作物の病害虫の発生概要を振り返ってみる。
病害虫の発生動向は気象条件や栽培環境と密接に
関係しているため、短期間の気象変動、長期的な気
候変動により病害虫の発生様相が変化しつつあるも
の、または栽培環境—特に使用農薬種、使用量の変
遷等が影響しているものなどが見られる。
【水 稲】
(1)育苗期の病害
1980年代後半にベノミル耐性イネばか苗病菌が広
範囲に拡大し、県内全域でばか苗病の多発が見られ
たが、その後、開発・普及されたDMI剤による種子
消毒により、発生は激減した。現在も少発生状態は
維持されている。2000年以降、急速に普及している
温湯処理および生物農薬は、現在、種子消毒のおよ
そ5割に達している。これらの防除手段の変更に伴う
病害発生の変化は、今のところ顕在化していないが、
東北の複数県ではばか苗病の多発傾向が問題となっ
ていることもあり、今後の種子伝染性病害の発生動
向については注視していく必要がある。
また、低農薬志向の高まりにより、近年、ピシウム
属菌に起因する苗立枯病対象の防除面積の減少傾向
が継続している(図1)
。一部はプール育苗の導入に
より被害を回避しているが、無防除のため、重篤な
被害が発生している場面も見受けられている。
140
れるが、梅雨時期のトレンドを見ると、その振れ幅が
過去より大きくなっており、特に梅雨明け期でその傾
向が強いことがわかる(図2)
。
このため、
いもち病は年
による変動がこれまで以上に大きくなることが予想さ
れ、梅雨明けが遅れる年には葉いもちの後期進展か
ら穂いもち被害に結びつく可能性が高い。
12
10
標 8
準
6
偏
差 4
100
0
92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
年 次
図2 梅雨入り・明け時期の平年差
梅雨入り・明け時期(平年差)の標準偏差
(当該年含めた過去10年間)の推移
1997年に上市された長期残効性いもち病苗箱施薬
剤は、省力性と高い効果から着実に普及拡大されて
きたが、主力剤の一つであったMBI-D剤に対する
薬剤耐性菌が2005年に県内広域で確認されたため、
代替剤への切り替えが一斉に進められた。その後、
いもち病や紋枯病に対して高い効果が期待できるQ
oI剤が上市され、いもち病防除剤あるいはポジティ
ブリスト対策として現地への導入が図られているが、
2012年、山口県をはじめとする西日本で耐性菌の出現
が確認されたことから、今後、QoI剤の耐性菌出現
を回避する薬剤体系の構築が強く求められている。
(3)紋枯病
本病は高温性病害の代表であるが、これまで県内
では発生面積率は高いものの、多くは病斑が株元に
とどまり、直接的な被害は少なかった。
しかし、
近年、
夏季高温年が続いていることもあり、
病斑の上位進展が目立つほ場が見られている
(図3)
。
今後も夏季高温傾向が継続するとされていることか
ら、本病が防除対象病害化することが予想される。
100
90
80
80
%
梅雨入り
梅雨明け
2
出荷量
作付面積
120
(第 321 号)
70
60
60
% 50
40
発病株率
40
20
発生圃場率
30
20
0
93
95
97
99
01
03
05
07
09
10
10
年
0
01
図1 タチガレエース剤の出荷量の推移
‘93年の出荷量、水稲作付面積を100とした場合
の各年次の比率(農薬要覧より算出)
02
03
04
05
06
07 08
年次
09
10
11
12
13
図3 紋枯病の発生推移
病害虫防除所巡回調査より
(2)いもち病
いもち病が本田における最重要病害であることは
変わらず、過去10年間の内、8年で発生予察注意報が
発表されている。この間、葉いもちが多発しても、8月
に入ると猛暑、多照、少雨傾向により、葉いもちの発
生の割に穂いもちの被害が回避される年が多かった
ものの、2007年には県北部で、2011年には県中北部で
穂いもちが多発し、該当地域では大きな被害が生じた
事例も見られている。
いもち病の発生は梅雨時期の降雨に大きく影響さ
(4)その他の病害
もみ枯細菌病の穂枯症は1990年代に発生調査を実
施した際には確認されなかったが、近年、発生程度
は軽いものの、
発生が散見されている。主要品種の
「コ
シヒカリ」でみると出穂期が1990年代と比較して、お
よそ5日程度早まっており、出穂期以降の高温遭遇機
会の増加が要因の一つに挙げられる。
(5)初・中期害虫
水稲の主要害虫には、
イネミズゾウムシ、
イネドロオ
イムシ、ツマグロヨコバイ、コバネイナゴ、イネツト
― 5 ―
ながの植物防疫
(第 321 号)
ムシ、フタオビコヤガ、セジロウンカ、斑点米の原因
となるカメムシ類がある。このうち、カメムシ類以外
は苗箱施薬による防除が可能であり、地域毎の害虫
発生様相を考慮した薬剤が用いられている。
20,000
16,000
12,000
h
a
4,000
(
使
用
面
積
①
②
③
④
⑤
8,000
確立されており、現在、予察に基づいた防除法につ
いて検討されている。
【麦 類】
(1)赤かび病
2002年に赤かび病菌の産生するデオキシニバレノ
ール(DON)に関する暫定基準が設定されたことに
より、本病の重要性が改めて認識された。近年では
1998年の多発以降、2003年、2004年、2011年と多発年
が見られた(図6)
。今後、気象の変動が大きくなる
と思われ、これまで以上に多発年の頻度が高まるこ
とが予想がされる。
)
25
0
2006
2009
年 次
2012
20
図4 苗箱施薬剤(殺虫成分)の推移
全農長野のJA出荷数量を基に算出
凡例
①:フェルテラ ②:アドマイヤー・スピノ、ダント
ツ・ディアナ ③:アドマイヤー、ダントツ、アクタ
ラ他 ④:プリンス ⑤:オンコル、パダン他
発
生
15
面
積
率
10
%
5
最近の特徴として生育初・中期のイネミズゾウム
シ、イネドロオイムシ、ツマグロヨコバイに加えてチ
ョウ目のイネツトムシやフタオビコヤガにも高い効果
があるフェルテラ粒剤やアドマイヤー・スピノ粒剤、
ダントツ・ディアナ粒剤等が相次いで開発され、県内
で急速に普及していることが挙げられる。今後、これ
らの薬剤が苗箱施薬剤の中で大きな比重を占めるこ
とが予想される。一方、広域で特定の薬剤に偏重し
てしまった場合に懸念される点がある。一つは抑制
されていた害虫の復活である。これまでウンカ類やコ
バネイナゴ等は特に防除対象としなくとも主要害虫
と共に防除されることが多かったが、これらに対して
効果が低い薬剤もあるので注意を要する。また、薬
剤感受性低下の問題が考えられる。県内では2006年
にプリンス粒剤を連続して用いた地域でイネドロオイ
ムシの薬剤感受性低下が発生した事例がある。新た
な有効成分の薬剤についても、安定した防除効果を
持続させるためには、他系統の薬剤とのローテーショ
ン使用等の対策を推進する必要がある。
(6)斑点米カメムシ類
後期害虫の斑点米カメムシ類に関しては1999年
以 降、 多 発 傾 向 に あり、2000、2001、2004、2011、
2012、2013年と発生予察注意報が発表されている。
また、2002年にはアカスジカスミカメ、2003年にはク
モヘリカメムシがいずれも県内で初確認され、発生予
察特殊報が発表された。
防除所の巡回調査による発生推移を見ると、年に
より大きく変動するが、
近年は多発年が続いている
(図
5)
。この間、新たに開発されたアカヒゲホソミドリカ
スミカメの合成性フェロモンを用いた発生予察技術が
30
(
25
発
生 20
ほ
場 15
率
10
%
5
)
0
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
年 次
図5 斑点米カメムシ類の発生推移
病害虫防除所巡回調査(8月上旬、
すくい取り、県平均値)より
0
97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
年
図6 麦類赤かび病の発生推移
病害虫防除所巡回調査より
(2)麦類土壌伝染性ウイルス病害
県内ではこれまで麦類の土壌伝染性ウイルス病害
の発生は未確認であった。しかし、コムギ縞萎縮病
(WYMV)が2008年に、麦類萎縮病(SbWMV)
が2009年に、オオムギ縞萎縮病(BaYMV)が2012
年に相次いで初確認され、それぞれ特殊報が発表さ
れた。コムギ縞萎縮病については、本県の小麦の主
力品種「シラネコムギ」が罹病性であったことから、
大きな問題となった。抵抗性品種の導入、耕種的対
策等を引き続き検討しなければならない。
WYMV
2008 年
2009 年
2010 年
SbWMV
図7 コムギの土壌伝染性ウイルス病の感染地域
【大 豆】
大豆の主要病害であるダイズ紫斑病は子実肥大期
に多雨の場合、発生しやすい。2006年に中信農業試
験場(現野菜花き試験場畑作部)で基幹薬剤として
用いているチオファネートメチル(トップジンM)に
対する耐性菌を調査した結果、県内の大豆産地に広
く存在することが明らかにされた。このため、他系統
薬剤への切り替えが必要となり、他系統薬剤が普及
に移されている。
近年、各産地から大豆の収量が低下しているとの
指摘が寄せられており、大豆の低収要因の解明と対
策は重要な課題になりつつある。病害関係では、大
豆の土壌伝染性病害(茎疫病、黒根腐病)
、地上部病
害の発生実態等が調査されている。また、虫害関係
ではジャガイモヒゲナガアブラムシの吸汁害の影響等
について検討されている。
― 6 ―
平成 26 年7月 5 日発行
ながの植物防疫
(第 321 号)
シリーズ
フェロモントラップを利用した発生予察
普通作物
農業試験場 野口忠久
第2回普及技術(試行技術)を参照のこと)。
1.はじめに
害虫の発生時期や発生量等の情報は、防除適期や
2)防除への利用
防除要否を判断する上で有用な指標となる。そのた
北海道では、追加防除の要防除水準が、粘着網円
め、省力的で精度の高い発生予察技術は効率的な防
筒トラップ捕獲虫数に基づいて設定されている。本
除対策を実施するうえで重要になる。フェロモント
県の「あきたこまち」等においては現在、被害と捕
ラップは比較的調査労力を要さずに、害虫の発生状
獲虫数の関係を調査しており、防除要否の判断指標
況を把握することができる発生予察手法で、いくつ
となるか検討しているところである。
かの普通作物主要害虫においても実用化されてい
る。ここでは、水稲のアカヒゲホソミドリカスミカ
メ、大豆のマメシンクイガについての事例を紹介す
る。
2.アカヒゲホソミドリカスミカメ
1)トラップの開発経過
アカヒゲホソミドリカスミカメ(図1)は斑点米
の原因となるカメムシで、県内では「あきたこまち」
等の早生品種を主体に被害が発生している。平成19
図1 アカヒゲホソミドリカスミカメ
年に信越化学工業製の発生予察用合成性フェロモン
が市販され、これを用いた垂直粘着トラップ(サン
ケイ化学製SEトラップ用粘着板2枚を背中合わせ
にしたものを捕獲器とし、地面と垂直に設置する方
法)が開発された。垂直粘着トラップは、すくい取
り調査よりも省力的かつ効率的にアカヒゲホソミド
リカスミカメの発生状況が把握できたが、防除要否
の判断指標に用いるには捕獲虫数がやや少ない傾向
であった。
平成25年にはアースバイオケミカル製の誘引製剤
図2 粘着網円筒トラップ
及びトラップ(粘着網円筒トラップ、図2)が市販
された。粘着網円筒トラップは垂直粘着トラップよ
3.マメシンクイガ
りも捕獲効率が高い(図3)。7~8月に7日間隔
1)発生生態
で捕獲虫数を調査すると、被害要因として重要な出
大豆の莢実害虫であるマメシンクイガ(図4)は、
穂期以降の発生状況が的確に把握できる(粘着編み
幼虫が土中で越冬し、8月中旬~9月中旬頃に羽化
円筒トラップの設置及び調査方法等は、平成25年度
した成虫が大豆莢表面に産卵する。孵化幼虫が莢に
― 7 ―
(第 321 号)
ながの植物防疫
量や発生時期を把握することにより、追加防除実施
や、作期が早い作型などでの防除の判断がより効率
的に行えると考える。
図3 捕獲性能の比較(平成25年 白馬村)
調査期間は7月18日~8月8日
食入する前に防除することが重要である。
2)フェロモントラップ調査の事例
平成22年に、上伊那郡飯島町、安曇野市三郷、塩
尻市宗賀、信濃町石橋、木島平村の5カ所でフェロ
図4 マメシンクイガ幼虫
モントラップを用いたマメシンクイガの発生調査を
行った。
捕獲器は白色SEトラップ(屋根付き粘着トラッ
プ)を使用した。8~9月に7日間隔で捕獲虫数を
表1 防除時期と莢実害虫に対する効果
(平成22年 飯島町)
防除時期
調査した結果、いずれの地点においても8月下旬か
被害粒率(%)
調査粒数 カメムシ マメシン
計
類
クイガ
14.8
23.7
38.5
793
(38)
(60)
(49)
ら9月上旬に1回の成虫誘殺ピークが認められた。
開花終期
(8/20)
誘殺ピークは県南部の飯島町が9月11日で最も遅
子実肥大初期
(9/3)
565
6.2
(16)
17.2
(43)
23.4
(30)
く、比較的冷涼な塩尻市や信濃町ではやや早い傾向
子実肥大中期
(9/15)
456
41.9
(107)
18.4
(47)
59.7
(76)
無処理
404
39.1
39.6
78.7
がみられた。また、誘殺数が比較的多かった飯島町
や信濃町ではマメシンクイガの被害粒率が高かった。
3)防除への利用
飯島町では薬剤防除時期の検討を行った。また、
品種:「ナカセンナリ」、6月20日播種。
各時期にダイアジノン粒剤5(6kg/10a)を散布。
収穫期(10月25日)に各試験区中央の5株を採取、被害粒数を
種別に計数。
( )の値は対無処理比を示す。
無防除区の莢を解体し、幼虫の発生状況を調査した。
その結果、マメシンクイガに対する防除効果は子実
肥大初期(9月3日)が最も高かった(表1)。こ
れはフェロモントラップ誘殺消長(図5)と比較す
ると、誘殺始期の14日後にあたる。雌の産卵前期間
及び卵期間を合わせると10~14日程度になる。また、
莢内に食入した幼虫は9月15日から確認されている
(図5)。これらのことから、誘殺始期に交尾が始
まり、防除効果が高かった時期は、幼虫孵化期であ
ったと推察された。
大豆莢実害虫の防除は通常、大豆の生育で判断し、
子実肥大初期が適期となる。一方、フェロモントラ
ップ調査を実施することで、マメシンクイガの発生
― 8 ―
フェロモントラップ
500
成
虫
数 250
9/11
0
8/10
8/30
5
株
あ
た
り
幼
虫
数
80
60
40
9/19
10/9
老齢
中齢
若齢
20
0
9/3
9/15
9/29
10/13
図5 成虫誘殺消長と幼虫発生(平成22年 飯島町)
調査は表1の無処理区で実施。
ながの植物防疫
平成 26 年7月 5 日発行
(第 321 号)
ため、本病は主に台風や豪雨等で作物が冠水すると
大発生すると考えられる。
話題の病害虫
スイカ果実軟腐病
野菜花き試験場 石山佳幸
はじめに
昨年は、4月下旬の季節はずれの降雪の影響で、苗
が凍霜害を受けて、現地では苗の植え替えを余儀な
くされた。本年は6月上旬にすいか産地の一部地域
で雹害が発生した。7月には、着果した果実の肥大
期にあたるであろうが、すいか果実での重要病害で
ある「炭そ病」や「疫病」、「つる割病」などの防除
対策を励行していただきたい。またこれらとともに、
近年発生した「スイカ果実軟腐病」についても注意
していただきたい。
病原菌について
2011年にすいか産地で、収穫時健全であった果実
が出荷後数日のうちに外果皮を残して、赤い果肉が
腐敗する病害が発生した。本病の特徴として、被害
果は発泡せず、また外皮組織の肥大、汚斑は見られ
ず、外皮が赤褐色に変色することがあり、さらに多
量の腐敗汁が発生する。本病の原因菌を調査した
結 果、Pectobacterium carotovorum ( 以 前 はErwinia
carotovora と呼ばれていた)という細菌によって引
き起こされることが明らかとなった。本病原菌はア
ブラナ科野菜などの軟腐病菌と同一で特に珍しい菌
ではない。すいかだけでなく、100種類以上の野菜
類に対して病原性をもち、感染すると、腐敗臭をと
もない組織を崩壊させる。本病原菌は寄生植物の根
圏土壌中や雑草中で生存し、土壌中で生存している
病原菌は降雨などで土粒とともに葉に跳ね上がり、
そこで増殖した後、傷口や気孔などの自然開口部か
ら組織内に侵入する。病原菌は6~37℃で生育し、
23~30℃が適温であり、高温多湿条件下で発病が助
長される。
スイカ果実軟腐病の病徴
果実には前記のように果肉部位が軟化腐敗し、多
量の腐敗汁を発生する。また、病原菌を人工的に蔓
に穿刺接種すると、原病徴と同様の軟化腐敗を引き
起こし、進行すると組織の乾枯裂開が観察される。
一方、葉には病徴を示さない。
この他に果実が腐敗する病気では、腸内細菌が原
因となり、白い泡をだして、果実が腐敗する発泡性
腐敗や乳酸菌が原因となり、果肉が水に浸したよう
に腐敗する水浸状腐敗が報告されている。詳細は山
口県農林水産情報システムで閲覧参照できる。
感染経路について
これまで本病原菌の果実への感染経路について試
験した結果、蔓や収穫ハサミを介して病原菌が感染
している可能性は低く、果実が病原菌を含む菌液に
一定時間浸漬することで感染し、発病に至ることが
明らかとなった。なお、病原菌液が高濃度ほど、短
時間の浸漬で発病率が高くなる傾向であった。この
果実の病徴
蔓の病徴
防除対策
防除対策として、上記したように野菜類の軟腐病
菌と同じ菌であるため、基本的な対策はそれらと同
様である。すなわち、耕種的な防除対策として、排
水性や風通しを良くして圃場が多湿条件にならない
ように管理する。過剰施肥は発病を助長するため、
施肥は適正に行う。また発生する腐敗汁には多量の
病原菌が含まれており、発病果の台座(フルーツマ
ット)には病原菌が付着している可能性があるため、
収穫後は資材の洗浄、殺菌を行う。さらに、病原菌
は果実に生じた傷から主に感染するため、管理作業
や収穫時には、可能な限り果実を丁寧に扱う。断続
的な降雨が予想される場合は生育期間を通して、ほ
場内での感染リスクを低減するため、銅水和剤散布
等の一般的な細菌性病害対策を講じる。
表1:浸漬時間による発病果率の変化
参考文献
山口県農林水産情報システム(http://www.nrs.
pref.yamaguchi.lg.jp/hp_open/a17201/00000007/
H22-14.pdf#search)
― 9 ―
(第 321 号)
ながの植物防疫
話題の農薬
ジャストフィットフロアブル
*** 優れた防除特性をブドウべと病を例にして ***
バイエルクロップサイエンス(株)
東京営業所 沢田勝鏡
はじめに
ジャストフィットフロアブル(フルオピコリド・
ベンチアバリカルブイソプロピル水和剤)は、ぶど
う、きゅうり、はくさい、たまねぎのベと病、トマ
ト/ミニトマトの疫病に切れのある効果を発揮する
混合殺菌剤です。
・「フルオピコリド」はバイエル社が新たに開発
した新しい作用点を有し、予防と治療の効果および
浸達性と浸透移行性を兼ねそなえた有効成分です。
・「ベンチアバリカルブイソプロピル」はクミア
イ化学工業(株)が、開発した予防と治療効果およ
び浸達性を有する有効成分です。
特徴
— 本剤は浸達性、浸透移行性がある。
— 初期感染に対する治療効果、高い二次
伝染抑制効果がある
— 耐雨性や残効があるので安定した防除
効果が期待できる。
— 既存の耐性菌に効果がある。
— 作用機構の異なる2種類の有効成分は
耐性菌発達を抑制する。
— 総使用回数は3回で新たな輪番剤のひ
とつとして使用できる。
— 高希釈倍率で施薬するので、薬液によ
る汚れの心配が少ない薬剤である。
多様な作用特性
ジャストフィットフロアブルはべと病菌や疫病菌
のライフサイクル(生活環)の多くのステージに作
用し、感染から発病に至る全ての過程を阻害するた
め、高い予防効果と治療効果(初期感染)および病
勢拡大阻止(胞子形成阻害)が期待できます。また、
浸達性、浸透移行性を有することから残効と耐雨性
に優れます。以下にブドウべと病を例にとって紹介
します。
防除特性
ブドウべと病菌は地表面にある被害葉で越冬し、
5月中~下旬に病原菌が降雨や水滴によって葉や幼
果、新梢に伝搬し、ぶどうの各器官の気孔から侵入・
感染します。発病は6月初め頃から見られ、伝染は
梅雨の頃が最も盛んで、4~7日の潜伏期間で発病
し、さらに風雨によって二次伝染が繰り返されます。
このような発病と蔓延の過程においてジャストフィ
ットフロアブルは次のような防除特性を示します。
・ 展葉期 ⇒ 茎葉部の伸長、
果房の伸長が旺盛なた
め、
予防と治療効果、
そして残効が特に求められます。
有効成分は浸達と浸透移行の作用によって茎葉や果
房の内部へ速やかにいきわたるため、
一次感染と病勢
拡大を効率的に防除することができます。
ブドウべと
病の重要な防除時期である展葉期の防除薬剤として
是非、
お奨めします。
生育期 ⇒ 開花~落花期以降は、新梢が伸び茎葉
部の生育は盛んで、あわせて降雨量も増え、感染好
適条件が揃うので病勢が旺盛となる時期です。降雨
による薬剤散布の「穴」、すなわち散布遅れや散布
間隔の開け過ぎがどうしても生じることで、病勢の
拡大が止まらなくなることがあります。ジャストフ
ィットフロアブルは病斑上での胞子形成を強く阻害
する作用がありますので、二次伝染を効果的に防止
し、園地全体への病勢拡大を抑える特性を示します。
べと病の病勢拡大の抑止のために本剤の使用をお奨
めします。
おわりに
適用表のとおり、はくさい、きゅうり、トマト(ミ
ニトマト)のべと病や疫病の防除場面でもジャスト
フィットフロアブルのご愛顧をどうぞよろしくお願
い致します。
適用表
平成25年3月13日現在
作物名
適用病害名 希釈倍数
使用液量
使用時期
本剤の使用回数
ぶどう
べと病
200~700L /10a 収穫30日前まで
トマト
疫病
ミニトマト
5000倍
収穫前日まで
3回以内
きゅうり
100~300L /10a
はくさい
べと病
収穫7日前まで
たまねぎ
3000倍
注)総使用回数(1)・・・フルオピコリドを含む農薬の総使用回数
総使用回数(2)・・・ベンチアバリカルブイソプロピルを含む農薬の総使用回数
― 10 ―
使用方法
散布
総使用回数
(1)総使用回数
(2)
3回以内
3回以内
平成 26 年7月 5 日発行
ながの植物防疫
(第 321 号)
急展開事業」の課題として、今年度から2年間の予
植
植防
防短
短信
信
定で実施しています。野菜の栽培環境改善や品質検
査の機械化などにより実需者・消費者ニーズに対応
キウイフルーツかいよう病の新系統発生
した革新的な生産システムの構築を目指していま
4444
これまでキウイフルーツかいよう病はPsa1系統の
す。当場では紫外線照射装置を利用してパセリなど
発生が確認されており、本県でも平成2年に初めて
の病害の発生を抑制し、減農薬を可能にする栽培技
確認され、病害虫防除所から特殊報を発表していま
術の開発を担当しています。
4444
したが、本年5月、他県において新たなPsa3系統の
2 「コナガの分布拡大とジアミド系殺虫剤抵抗性
発生が初めて確認されました。
発達過程の解析および殺虫剤抵抗性予測技術の検
本病は各系統共通した特徴として、以下の点が報
証と管理技術の策定」
告されています。
農林水産省の委託プロジェクト課題として、今年
①生育に好適な温度は10~20℃程度で、32℃以上の
高温で多くの菌が死滅。
度から5年間の予定で始まりました。近年、長野県
も含め全国的にジアミド系等殺虫剤に対して薬剤抵
②剪定作業や風雨などにより葉や枝の傷口等から細
抗性を持ったコナガが確認され、多発傾向にありま
菌が浸出し、葉の褐色斑点、新梢の萎れ、枝幹部
す。コナガの薬剤抵抗性発達状況および抵抗性発達
の細菌液の漏出などの被害が生じる。
過程を明らかにするとともに、代替え薬剤など対応
③風雨や作業器具、接ぎ木等で伝染する。
策の構築を目指します。また、コナガは長距離移動
④果実を食べても人への影響はない。
性が知られており、熊本県、北海道などと共同し、
また、Psa3系統については、病原性が強い系統と
され、緑色果実品種より黄色果実品種に被害が大き
コナガの越冬・移動実態を解明して抵抗性管理技術
の補強に繋げます。
く、適切な防除を講じないと樹木が枯死する場合が
あると報告されています。
(野菜花き試験場 吉沢栄治)
“マイマイガ”注意報 発表する
キウイフルーツかいよう病の新系統発生について
は、平成26年5月13日付け農林水産省消費・安全局
今年の5月13日、防除所は『マイマイガ』の注意
長通知が発出されており、従来系統と異なる症状が
報を初めて発表しました。19日にはお隣の岐阜県で
確認された場合には報告を行うこと、また苗や穂木
も注意報が発表されました。全国でも記録が検索で
等を新たに導入する場合には、無病健全なものを確
きる1998年以降では、初めてでした。
保することなどが求められています。
マイマイガは、防除所の定期調査害虫ではありま
疑わしい症状が見つかった場合には、長野県病害
せん。したがって、過去の調査データと比較して“確
虫防除所もしくは最寄りの農業改良普及センターま
かに多い”と判断したのでは有りません。病害虫防
でご連絡をお願いします。
除所が設置されている目的は、『農作物の病害虫に
(農業技術課環境農業係 百瀬文貴)
野菜花き試験場で取り組んでいる新規課題
野菜花き試験場環境部で今年度から新たに取り組
よる被害を未然に防ぐ』ことにあります。
今回の注意報は、定期調査の際にベテラン職員が
“今年はマイマイガがヤケに目立つな?”と気づい
たことがきっかけです。6月中旬になって、マスコミ
んでいる外部資金研究課題を紹介します。
でも大きく取り上げられるようになりましたが、防
1 「農業産業化ジャパンクオリティ・システム形
除所が注意報を出した時に対処していれば、こんな
に大ごとにならずに済んだかもしれません。
・・・・・
成に向けた革新的生産技術体系の確立」
「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊
― 11 ―
(病害虫防除所 南島 誠)
ながの植物防疫
(第 321 号)
地域情報
雑草イネ根絶へ向けて
上小農業改良普及センターでは、重点課題に雑草
イネの根絶に向けた取り組みを掲げ、平成24年度に
は対策協議会を設立して関係機関一体となって取り
組んでいます。
これまで各地区で特徴ある取り組みがされていま
す。東御市では、農業技術者連絡協議会作物部会が
中心となり、昨年、JAの地域貢献活動として、雑
草イネの抜き取り隊が実施されました。
東御市産米の品質を守るために、雑草イネの根絶
を周辺農家や地域へ周知を図ったものです。
平成25年7月13日、早朝に東部ライスセンターに
集合し、JAを中心に市役所、農業改良普及センタ
ー等90名近い参加者でした。
各班に分かれ雑草イネの見分け方を確認し、「畝
間、株間に発生している、どうみても植えたもので
ない稲」を雑草イネとしてみなし抜き取りました。
抜き取ったイネは水で泥を落とし、圃場ごとに数を
確認しました。
作業の参加者は、雑草イネの実際を理解し、品質
のよい米づくりへの意識が深まりました。周辺の栽
培農家も雑草イネに対する理解や関心が高まり、今
後の減少、根絶につながると期待されます。
培に切り替えていく予定でした。富士見町では、有
機質肥料Aを用いた栽培で、地域ブランド化を図る
計画があり、JAと協議を進めていました。
そこで、平成25年度に環境にやさしい農業技術現
地実証事業を活用し、諏訪農業改良普及センターで
は、各関係機関と協力して環境にやさしい農業技術
の実証圃場を設置し、有機質肥料Aの効果を確認す
ると共に普及展示を図ることにしました。
実証試験の成績は、生育・収量ともに実証区と慣
行区で同等でした。また、食味計による米品質は、
慣行を上回る結果となりました。
有機質肥料Aによる栽培は、環境にやさしい農業
技術でかつ地域ブランドの確立を図る資材として、
期待が持てると考えられました。
本試験は、栽培2年目の単年度結果で、栽培1年
時の状況や、継続使用時の地力窒素の動向を把握す
る必要があり、今年度以降も確認していきます。
(上小農業改良普及センター 日台修好)
(諏訪農業改良普及センター 増田 達)
昨年7月4日の実証圃検討会の様子
新規就農実践塾で
農薬適正使用の講習会を開催
上伊那農業改良普及センターでは、新規就農者や
里親研修生、JAインターン研修生などを対象に、
毎年、幅広い農業の基本知識を学んでもらう新規就
農実践塾を開催しています。本年度も、4月から3
月まで10回の開催を予定しています。
実践塾の2回目にあたる5月20日には、「農薬の
正しい使い方と安全確保」をテーマに講習を行いま
した。
普及センターからは、「最近の農薬情勢と危害防
止対策例」と題して、主に農薬の特徴や適正使用、
農薬取締法、食品衛生法などの法律関係、飛散防止
対策など環境保全についての話をしました。また、
JA上伊那からは、「農業経営を行う上での農薬の
メリットとリスク」と題して、農作物を販売する上
での農薬使用についての話をしてもらいました。
聴講者からは、農薬の使用方法や残留農薬の問題
などについて多くの質問が寄せられ、農薬に対する
関心の高さが覗えた講習会となりました。
雑草イネを事前に確認して目あわせ
(上伊那農業改良普及センター 高野正美)
抜き取り隊の作業の様子
信州の環境にやさしい
農業技術水稲実証試験(諏訪)
富士見町立沢たんぼの会では、信州の環境にやさ
しい農産物認証制度で農薬、化学肥料の削減に取り
組んできましたが、今後牛糞堆肥の入手が困難にな
ることが予想されたため、平成24年度から米ぬか由
来の有機質肥料Aを用いた試作を行い、逐次その栽
― 12 ―
新規就農実践塾の様子
(5月20日)
ながの植物防疫
平成 26 年7月 5 日発行
(第 321 号)
① 開催日、場所 平成26年6月6日(金) 協会だより
犀北館ホテル(長野市)
② 内容
ア 記念式典
当協会創立60周年記念式典開催される
イ 功労者への感謝状贈呈
長野県知事感謝状 東信農業共済組合様
当協会は昭和29年の設立以来、60年の節目を迎え
一般社団法人日本植物防疫協会理事長感謝状
ました。この間、関係の皆様のご指導、ご支援によ
岡沢洋文様等4名
り植物防疫事業を通じ本県の農業生産向上に取り組
公益財団法人日本植物調節剤研究協会理事長感
んでまいりました。
謝状
今般、創立60周年にあたり、記念式典を下記のと
中澤伸夫様等3名
一般社団法人農林水産航空協会会長感謝状
おり開催いたしました。121人という大勢の皆様に
ご参加いただき開催できましたことに感謝申し上げ
木曽郡農作物等病害虫防除組合様
ます。また、記念式典を契機に、より一層適正な業
一般社団法人長野県植物防疫協会会長感謝状 務運営に、そして植物防疫の推進に努めることに役
赤沼礼一様等31個人・団体
職員一同決意を新たにしたところです。60年の間に
ウ 記念講演会
ご支援いただいた皆様に厚く御礼申し上げますとと
「農業・農政を取り巻く情勢と展望」
もに、今後とも引き続きご協力をお願いする次第で
小林芳雄先生 (株)農林中金総合研究所顧問
元農林水産事務次官
す。
エ 「長野県植物防疫史 第五集」の発行 A4版 151頁
記念式典
感謝状贈呈
協会の沿革
昭和54年 須坂研究所開設(同61年南信研究所、
昭和29年4月24日 創立
同63年松代研究所)
昭和33年 県農作物病害虫防除基準 発刊
昭和42年 長野県植物防疫協会報(現ながの植物
平成3年 農林航空部会、農薬安全使用推進部会
を本協会内に発足
防疫) 創刊
昭和47年 長野県植物防疫史 発刊
平成23年 HP開設
(以降10年ごとに発刊)
平成23年 GLP基準試験開始
昭和52年 社団法人となる
平成25年 一般社団法人に移行
― 13 ―
ながの植物防疫
(第 321 号)
●第60回総会を開催しました
役員体制が決まりました。
開催日時 平成26年6月6日(金)
役員(理事・監事)
会 長 植田稔昌
副会長
北原富裕
副会長
松田正隆
理 事
牛越達夫
〃
浦野邦衛
〃
小林文彦
〃
廣田光彦
〃
高沼重義
常務〃
太田恒善
監 事
北林和彦
〃
小川郁男
〃
宮島克夫
場所 長野市 犀北館ホテル
内容
議案
第1号議案 平成25年度収支決算に関する件
第2号議案 役員の補欠選任に関する件
第3号議案 平成26年度会費及び負担金に関す
る件
第4号議案 平成26年度役員報酬額に関する件
報告事項 平成25年度事業報告
平成25年度公益目的支出計画実施報告
いずれも提案どおり可決承認されました。
顧問
中村倫一
室賀弥三郎 参与
鈴木秀行
久保田純司
宮崎正彦
牛山智彦
平成25年度収支決算 第60回総会において、平成25年度収支決算が承認されました。
正味財産増減計算書内訳表(平成25年4月1日から平成26年3月31日まで)
科 目
実施事業特別会計
事業会計
法人会計
(単位:円)
合計
Ⅰ 一般正味財産の部
1.経常増減の部
経常収益計
8,593,937
77,988,816
1,663,486
88,246,239
経常費用計
14,585,600
65,192,177
5,678,989
85,456,766
△ 5,991,663
12,796,639
△ 4,015,503
2,789,473
0
3,429,834
102,959
3,532,793
△ 5,991,663
16,226,473
△ 3,912,544
6,322,266
経常外収益計
0
0
0
0
経常外費用計
0
2,903,872
90,509
2,994,381
当期経常外増減額
0
△ 2,903,872
△ 90,509
△ 2,994,381
5,991,663
△ 9,994,716
4,003,053
0
当期一般正味財産増減額
0
3,327,885
0
3,327,885
一般正味財産期首残高
0
61,679,244
32,399,697
94,078,941
一般正味財産期末残高
0
65,007,129
32,399,697
97,406,826
Ⅱ 指定正味財産増減の部
0
0
0
0
Ⅲ 正味財産期末残高
0
65,007,129
32,399,697
97,406,826
評価損益等調整前当期経常増減額
評価損益等計
当期経常増減額
2.経常外増減の部
他会計振替額
注)実施事業特別会計:病害虫等防除技術普及向上事業、農薬安全使用推進事業、農林航空防除推進事業 事業会計:研究開発事業(新規開発未登録農薬等の実用化業務、農薬等新普及技術の現地普及業務)
ながの植物防疫はホームページでもご覧になれます。
http://www5.ocn.ne.jp/~nppa
(注:~はチルダー)
6~8月は「農薬安全使用月間」です。
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