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財団法人 リバーフロント整備センター編『川からの都市再生―世界の先進
評者はこの書評をまとめるにあたって,幾つか の公園を実際に巡った。読者も是非,本書を参考 文 献 東京都造園建設業協同組合編(1979) 『緑の東京 に公園を巡り,著者の意味する原地形や公園とし 史』思考社. て残されてきた深い歴史に思いを巡らせて欲し い。 (瀬戸寿一:立命館大学文学部地理学教室) 財団法人 リバーフロント整備センター編『川からの都市再生―世界の先進事例から―』 技報堂出版 2005年 139p. 「日本橋を魅力的な場所にしてほしい」。2005年 交通省)河川局・都市局の指導を受け,1987年に 12月26日の小泉首相・政府都市再生本部長の発言 発足した研究機関である。発足以来,水辺空間の である。日本橋は東京都中央区にあり,江戸時代 あり方,水辺空間の保全と利用,水辺空間の整備 から五街道(東海道・中仙道・日光道中・奥州道 等を調査研究しており,近年では,河川を活かし 中・甲州道中)の起点として知られている。1963 たまちづくりや都市河川の再生等に取り組んでい 年に日本橋の上に高架の首都高速道路が架けら る。 れ,かつて舟運によって利用された河川や運河の 本書の執筆者のうち, 4 名はソウル市清渓川再 一部も埋め立てられた。以来,日本橋の上には首 生プロジェクトに携わったメンバーで,それに第 都高速道路が覆っている。 3 回世界水フォーラム「水と交通」で実行委員長 しかし,約40年の歳月が過ぎ,首都高速道路の を務めた三浦裕二(日本大学名誉教授)が加わ 移設構想が浮かび,再び日本橋の上に空を取り戻 り,リバーフロント整備センター技術普及部長の そうとする動きが高まっている。ではどうすれば 吉川勝秀(現日本大学教授)が全体をまとめてい 「日本橋を魅力的な場所」にすることができるの る。構成は 3 章 8 節からなり,清渓川再生プロ だろうか。本書は,この問題を解決すべき数多く ジェクトの当事者による報告を中心に,日本と世 のヒントを与えてくれるだろう。 界の「川からの都市再生」の先進的事例も紹介さ 本書は,韓国ソウル市の中心を流れる清渓川 れている。以下,本書の内容を紹介していく。 (チョンゲチョン)を覆っていた平面道路とその 第Ⅰ章「川から都市を再生する―韓国ソウル 上の高架の高速道路を撤去し,清渓川を再生する 市・清渓川再生の実践―」では,清渓川再生プロ という,世界的に注目される都市再生プロジェク ジェクトに政策を立案し,現に実施しているソウ トを紹介した新著である。このプロジェクトは ル特別市のヤン・ユンジェ副市長とイ・ヨンテ同 2002年 7 月 1 日に開始され,「蓋をかけられ,そ 市清渓川復元推進本部・工事 3 担当官が報告して の上を平面道路と高架の高速道路に占有されてい いる。両者の報告は2004年 7 月15日に開催された た河川の復元により,歴史と文化を復元して環境 「水辺からの都市再生」シンポジウムにて講演さ にやさしい都市とし,周辺を再開発し,そして東 れたもので,本書の核心をなすものである。 まず第 1 節は,ヤン・ユンジェ副市長の「ソウ アジアを代表する国際都市にする」(p.137)とい うものである。 ルの川―清渓川の変遷―」である。ソウルと清渓 本書は,財団法人リバーフロント整備センター 川の歴史に触れてから,清渓川の覆蓋工事,復元 が編集を担当し,計 6 名により執筆されている。 による効果,復元事業の課題,都市開発の新しい リバーフロント整備センターは,建設省(現国土 パラダイムについて報告している。その中で,ソ ― 42 ― ウルと東京を比較し,日本橋川や渋谷川の再開発 と水辺との関わりについて述べている。事例とし にも言及しており,東京の取組みが遅れているこ て,ドナウ川河畔のブダペストやライン川河畔の とが指摘され,興味深い内容となっている。 ケルン・デュッセルドルフ,アメリカのボスト 第 2 節は,イ・ヨンテ担当官の「清渓川再生プ ン,スイスのチューリッヒ等を紹介し,都市再生 ロジェクト」である。ここでは,復元プロジェク の概要を踏まえながら考察を行っている。この考 トの目的,事業範囲,市民参加,復元計画の詳 察をもとに,日本橋川・渋谷川について比較検討 細,推進状況について報告している。本節は,発 を行っている点が興味深い。 表資料の図版が豊富で(図31枚・写真11枚),か 第 4 節「水辺からの都市再生の事例―日本と世 つ事業内容が簡潔にまとめられているため,川か 界の先進的あるいは萌芽的事例―」では,日本の らの都市再生の手引きとなりうる。 事例を10例,アジアの事例を 3 例,西欧の事例を 第Ⅱ章「水辺からの都市再生を考える」では, 3 例,計16例紹介している。日本は都市再生で注 ソウルの清渓川再生プロジェクトの補足的な説明 目される事例を 7 例と,既に形になってきている とともに,日本や海外における川を生かした都市 事例を 3 例紹介しており,これらをまとめた形で 再生の事例が報告されている。 一覧表を掲載している。アジアはソウルの清渓 第 1 節は,三浦裕二の「取り戻そう水辺の環境 川・上海の蘇州河・シンガポール川の 3 例,西欧 と賑わい―ソウルの清渓川と日本橋川からの都市 はイギリスのマージ川・アメリカのボストン・ 再生―」である。東京の川について明治・大正期 チェサピーク湾の 3 例である。これらは事例紹介 の文人・詩人・歌人らが「美しかった」と表現し のみで比較検討はなく,参考資料としての役割が ている点を引き合いに出し,第二次世界大戦後 強い。 「汚染された」川へと変貌した過程を解説してい 第Ⅲ章「清渓川再生に関連した講演記録から」 る。そして,清渓川都市再生プロジェクトの核心 では,キム・ハンテ韓国水資源持続的確保技術開 部分を解説した上で,神田川・日本橋川のそれを 発事業団・首席研究員とキム・カンイルアジア土 推進する活動を紹介している。最後の「できるこ 木学協会連合協議会長によるソウル市清渓川再生 とから始めよう」では,神田川・日本橋川一周観 プロジェクトに関連した報告がなされている。 光クルーズの定常運行やカヌー・水上タクシーの 第 1 節は,キム・ハンテ首席研究員の「清渓川 水面利用の促進など,水上からまち並みを眺める 復元工事のモニタリングについて」である。ここ 提案がなされており,今後河川を活かした取組み では,乾期には水量がきわめて少ない清渓川の水 を行う際,参考となりえよう。 循環について,水文モニタリングおよび水循環解 次の第 2・3・4 節は吉川勝秀の手によるもので 析を行ったプロセスについて報告されている。 ある。まず第 2 節「世界の先進事例―韓国・清渓 第 2 節は,キム・カンイル会長の「日本と韓国 川再生への取組み」では,河川と都市の風景に視 の交流について」である。ここでは,これまでの 点を置き,シンガポール川や隅田川・日本橋川・ 韓日の交流の歴史を踏まえ,今後の交流について 北九州市の紫川を紹介し,その後に清渓川再生プ の報告がされている。本節は,本書の中でも展望 ロジェクトの概要について報告をしている。前者 的な意味合いを持っており,今後「川からの都市 の内容は,リバーフロント整備センター(2001; 再生」をキーワードに韓日の交流が一層深まるこ 2002)で既に紹介されているものに近いため,目 とを期待しているといえる。 新しさに欠けるが,後者との比較においても不可 欠である。 本書は,以上で述べたように,世界的にも注目 される韓国の大都市・ソウルの清渓川再生プロ 次に第 3 節「海外事例に見る水辺の復権―都市 ジェクトについて,それを推進する当事者からの の河川と道路―」では,世界の都市における道路 報告を中心に,川からの都市再生について報告し ― 43 ― たものである。本書が出版されたのは2005年 3 月 評者は,この清渓川の大規模プロジェクトが計 であったため,このプロジェクトの第一段階の事 画され,実行されたことが未だに信じられない。 業(道路の撤去,河川の復元)は完成しておらず, 上記で述べた荒川を始めとする日本の川でも,今 本書の中では「2005年 9 月までに完了する予定で 後さらに「川からの都市再生」が行われることを ある。完成のセレモニーは同年10月初めに予定」 望み,筆を置くことにする。 (p.137)となっている。そして,プロジェクトの 開始から約 3 年,当初の予定通り2005年10月 1 日 文 献 に完成セレモニーが行われた。これは,都市河川 リ バ ー フ ロ ン ト 整 備 セ ン タ ー 編(2001) 『 川・ の再生プロジェクトとして,世界で最も驚異的な 人・街 川を活かしたまちづくり』山海堂. 早さであり,世界最大規模である。なお同日,日 リバーフロント整備センター編(2002) 『河川を 本でも東京の荒川ロックゲート(閘門)の完成セレ 活かしたまちづくり事例集』技報堂出版. モニーが行われた。舟運による川や運河を活かし た取組みが,少しずつ始まっている。 (飯塚隆藤:立命館大学文学部地理学教室) ― 44 ―