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支部入選 支部入選
2010年度版‐設計競技‐̲2010年度版‐設計競技 10/10/20 13:10 ページ 92
支部入選
52
藤岡奈菜 木下恵理
井谷隼 島崎和也
久米貴大 藤川裕子
支部入選
53
菊池達哉
福元裕太
伊賀達朗*
大塚純*
立命館大学大学院 立命館大学*
立命館大学大学院
C O N C E P T
C O N C E P T
過密化する都市の中で、失った
大阪市住之江区平林貯木場の原
大地を再び元に戻すことは困難
風景である、木と水と人の親し
である。しかし、地球環境保護が
い関係性を再構築し、自然と人
叫ばれ、ガソリンに頼らない電
の調和のきっかけとなる集合住
気自動車の登場によって車社会
宅・親水空間を計画する。各住
の構造変化が始まり、都市構造
居は 2 つの木造のボリュームとそ
をも変化させ始めた。電気自動
の間のオープンスペースからな
車が普及するにつれて、エネル
り、ボリュームを更新しながら生
ギーは家庭で供給されるように
活を営む。水面には生活がにじ
なり、都市のガソリンスタンドは
みだし新しいコミュニティの表情
その役目を失う。機能から開放
が生まれる。人々の生活は更新を
されたガソリンスタンドは都市に
通して自然の大きな時間の流れ
の中に含有され、大きな自然と
還元されていく。
呼応する生活を形づくる。
支 部 講 評
支 部 講 評
五山の送り火は京のまち全体を
ひととき庭園化する企てであると
貯木場を対象とした水辺の再利
いう。大きな庭園から小さな花
用計画である。私有水面のある
器の中にまで、京の人々は、さ
敷地は、その水位が一定の管理
まざまなスケールで自然をとらえ
下に置かれていることも含め、
る感性を育んできたのである。
活用すべききわめて貴重な産業
この提案は、その社会的な役割
遺産の一つである。長方形の水
を終えつつあるガソリンスタンド
面を取り囲んで、様々な高さの
をとりあげ、今日的なプログラム
デッキや箱状居住空間が並ぶ風
を与えつつ、京都固有の色彩豊
景は爽快である。潮の満ち干に
かな土によってデザインすること
よって、公私の領域が変化すると
によって、京の人々と大地の新た
いう提案も面白い。設計案として
なかかわりを提案するものであ
の次なる課題は、こうした特殊環
る。はたしてガソリンスタンドの
境を前提としたうえでの集合住宅
上屋は、京のまちに残されるべ
としての一般的諸問題であろう。
きなのだろうか、そのために夜露
例えば、広場のような共有水面
を受けない土は生きた土として
はどのように扱われるのか。集
永らえるだろうか、といった疑問
合住宅計画に立ち向かう時の思
が呈されたが、提案者たちは、
考の緻密さをやや失っているよ
感じることが自然と呼応する第
うに見えるのは、おそらく
「水面」
一歩であると主張している。
の魔力のなせる技だ。
(児玉謙)
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(長坂大)
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支部入選
54
山上裕之
勝田裕子
辻本知夏
麥谷隆之
支部入選
55
大阪工業大学大学院 大阪工業大学*
大阪大学大学院
C O N C E P T
勝本祐太
堀俊之
土屋栄子
松瀬秀隆*
C O N C E P T
人は大地に根をおろし、陸は荒
本提案では「大きな自然」を、人
れ果て飽和状態となった。
の力ではコントロールできない
今、人間に残された道は、海へ
自然の力と捉え、自然の力に抗
の進出あるいは回帰である。
うのではなく受け入れることを
しかし、海では根をおろしては
「呼応」とする。
いけない。
本計画地の夢洲(人工島)は、地
海に浮かび自然に身を委ねなが
盤沈下や液状化現象といった問
ら、人は必死に生きようとする
題に直面している。人工の大地を
だろう。
沈まないようにするために、あ
時に自然を恐れ、振り回されな
らゆる技術を駆使するのではな
がらも、人は自然に感動するだ
く、沈むことを受け入れ、その過
ろう。
程で時と共に変化する建築や、
これこそ人間の本来あるべき姿
それをとりまく環境のなかで生き
であり、自然と人間が調和した
ていくことを提案する。
関係である。
このように自然に身を委ねなが
ら積極的に関われる建築を提案
する。
支 部 講 評
まるでレゴブロックのようなカラ
フルで迫力満点のプレゼンテー
支 部 講 評
ションである。海面上昇と埋立地
スリット窓をもつ大小さまざまな
の水没した部分は放置して廃棄
の地盤沈下に任せて、コンテナ
球体が浮かぶ、スターウォーズ
し、次々に上に積み増していく。
の世界のような幻想的で素晴ら
内部機能、水没部分の劣化、不
しいプレゼンテーション。鉄腕ア
同沈下、船でアプローチするし
トムの解剖図のような断面図。ど
かないのでは、などの疑問に関
こかなつかしく感じるのは、母
してはあえて何も説明していない。
なる海への郷愁か、近未来的既
提案者は、コンテナを文明の象
視感か。浮遊し回転し漂流する
徴とし、コンテナを水面上に維
球体群で自然との調和をユーモ
持するためにコンテナで埋め立
ラスに表現している。しかし、球
てるという過激な手法により海
体での日常生活はどうするのか、
面上昇に対して警鐘を鳴らしてい
インフラはどうなっているのか、
る。また、コンテナを積めば積
メンテナンスは、海が荒れたと
むほど自らを沈めることになる
きはどうなるのか、など数々の
という図式で文明のジレンマを
疑問に対する解答はない。提案
見事に表現している。コンテナに
者はそういう現実を切り捨てて、
よる象徴的なメッセージが高く
自由に発想を羽ばたかせ、伸び
評価された。
伸びとした作品にまとめ上げてい
(浅野博光)
る。見て い ると様 々 な 連 想 が
次々にわきおこる、たいへん魅
力的な作品である。
(浅野博光)
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支部入選
56
支部入選
岩田友紀
57
神戸大学大学院
神戸大学大学院
C O N C E P T
C O N C E P T
大阪の川に昔からあるカミソリ
かつて人間は自然の一部であっ
堤防をメッシュ状の堤防へとつく
た。しかし今人間は自然とはぐれ
り替えていくことを提案する。
てしまいそうだ。人々の永久進歩
敷地である大阪府木津川は舟運
の幻想は不可逆な都市をつくり
時代の倉庫が存在し、今後空洞
出した。人口減少、空家率増加
化していくことが予想される。
が進むなか、今なお止まないビ
そこで川沿いのスペースへと堤
ル建設。大きな自然の循環には
防をセットバックし、その間を幅
成長もあれば衰退もある。抗う
のある堤防スペース「都市の浜
必要はなく、ただその循環のな
辺」として利用する。
かに身を任せればいい。都市が
水位変化により表情をかえる堤
人が、もう一度大きな自然の循
防スペースは川の変化を感じ、
環に戻れるように、都市に塑像
共に住むための場所として新たな
を置いてゆく。都市が衰退しなが
風景をつくり出す。
らも持続してゆくために。
支 部 講 評
支 部 講 評
水都大阪で水辺の再生は必須の
都市の、今後余儀なくされる衰
都市課題であり、コンクリートの
退を自然ととらえ、その持続性を
カミソリ堤防は川とまちを分断
確保する作法が提案されている。
する。この作品は、水辺の土地
社会的機能を失った都市建築が
利用や敷地形状という木津川特
撤去されるとき、廃棄物として市
有の文脈を読解し、一ヶ所の大
外に移動するのではなく、塑像
きな堤防で水を止めるのではな
として再生される。そこでは、保
く、複数の小さな堤防でひだの
水・透水による生態ネットワーク
あるゆるやかな浜辺をつくり出し
の再生、微気候の創出といった
ている。さらに、干満の差を活か
機能が加えられ、全体としては
し、水のたまり方で湿地や親水
よりポーラスな都市へと向かう。
空間など多様な環境がつくられ
この都市は、この先いかなる均
ていく。そうすると、周辺におい
衡を望ましい姿としているのだ
て建て替えられていく建築のあ
ろうか。または一方的な変化しか
り方にも変化が生じるのである。
起こさなかったとされる都市が、
自然と呼応する建築というのは、
可逆のプロセスをもつ都市へと
自然を制御する手法をかえるこ
進化したとき、どのようなプロセ
とであり、それによって生まれる
スを経て都市として再び反転、
新しい敷地環境や条件こそが新
再生へと向かうのだろうか。昨今
しい建築を生み出すということを
さらに大規模化しながら均衡を
教えられた。
保とうとする大都市の再開発に
(木下光)
芳木達彦
村上由梨子
おいても、その手がかりとなるよ
うな提案が期待される。
(児玉謙)
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支部入選
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支部入選
坂本大輔
60
広島工業大学大学院
秋山洋大
西浦勇毅
広島大学
C O N C E P T
C O N C E P T
干満差のある川を一つのデバイ
雨は様々なポテンシャルをもって
スとして、都市環境をコントロー
いる。
ルする。
地下に隠された雨を人間の目に
都市の建築群を地面から切り離
見える場所にひき戻すことに
し、ピロティ化し解放することで、
よって、そのポテンシャルを引き
満潮時に水が街の足元を覆い、
出す。
そこには、気流が発生し、それ
ガラスで出来たその水道橋は雨
がビルの隙間から抜けていくこ
の降る量によって表情を変え、
とで隙間に必然性をもたせる。
道路には水の波紋が映る。
水が引くと、市民が集う場や遊
雨がやんだ次の日には、太陽の
び場が出現し、その場に新たな
光がビルに反射し、水道橋に出
価値を生み出す。
来た水溜りには人々が集まる。
川の潮汐という自然の営みによ
雨が水道橋の表情を変え、水道
り出現・消失する街の風景や人々
橋が都市の表情を変える。
の行為は、大きな自然に呼応す
水道橋が雨=自然と都市との“架
る。
け橋”になる。
支 部 講 評
支 部 講 評
都市は本来川とともに生活した
広島市のヒートアイランド現象や、
人間の住まいの集合の形態の一
浸水被害の発生している中心市
つであった。だからそれぞれの都
街地に、それらを解消する手段
市にはそこにしかない川の空間
として水道橋を提案したものであ
があった。
る。広島の市街地は南北に流れ
しかし近代の都市づくりは川と生
る川の中州に位置し、その川沿
活を土木工事によって切り離すこ
いにはヒートアイランドが発生し
とで、都市を水害から安全な空
ていないことをもとに、東西に
間にすると同時に生活から川を
流れる水道橋を相生通りと平和
排除してきた。しかも単一で普遍
大通りにつくり、大雨の時の一時
的な方法として制度化された川
的な貯水池として使用するだけ
の管理空間しか生み出せなかっ
でなく、5 月にはじまるフラワー
た。
フェスティバル、平和記念式典
この案は、河口のまちである広
様々なイベントに対応できるよう
島独特の川の干満の差を建築的
提案している。周辺ビルの排水の
な空間と生活の問題としてとりあ
一部もこの水道橋へ流せるよう
げている。
「自然と呼応する」とい
にするなどもう少しきめ細かい
う課題に対して、この案の場所に
配慮と、構造など技術的な問題
固有の自然との関係としての空
が解決されていれば、もっと優れ
間の提案は、広島という都市と
た作品になると思われる。夢の
川のこの場所にしか成立しない
ある作品であり、今後に期待し
新しい生活空間の可能性を提示
たい。
(松本静夫)
している。
(岡河貢)
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支部入選
63
西丸亮太
小田真太郎
小山知弘
支部入選
64
広島大学
増田晋
山口和紀
石井健太
近畿大学大学院
C O N C E P T
C O N C E P T
近年、私たち人間と水との距離
単体としてではなく複数の連鎖
は急速に広がってきている。
的思考で住宅群を計画する。
昔は人々にとって川は欠かせない
一区画分の各ヴォリュームを想
存在であり、川と共に生活して
定し、外的要因(周辺環境、都
きた。
市の自然、隙間空間、対面関
しかし現在、川の周りはコンク
係)
、社会的要因(建ぺい率、容
リートで固められ、川の上には橋
積率、斜線制限など)に準じ、
が架かり、人と川との距離は広
ヴォリュームを削り、外部を挿
がってしまった。
入する。挿入された外部は敷地
川のもつ力や魅力は人々の心の
がもつ環境を呼び込み、生活の
底で未だに存在し続け、今も昔
中でフィジカルコンタクトを生む。
も人々を癒してくれる。
インテリア化された外部は人と
現代の疲れた心を癒すのは自然
自然との回路である。
であり、人々が気軽に川へ近寄
住宅が自然を呼び込み、自然が
れるきっかけが必要なのではな
住宅群を繋げる。
いだろうか。
支 部 講 評
支 部 講 評
都市の建築の様相は多様な価値
もともと広島市は三角州の大地
観の多様な生活様式にある。都
を整備し、川の水を利用するこ
市の自然を享受し固有の環境特
とで発展してきた川との関係が
性の啓示的建築の提案である。
深い都市であるが、現在ではコ
平野部の都市の地層はシルトと
ンクリート製の堤防等により川と
砂と石の堆積した微地形にある。
人との関係を希薄なものにして
個の建築でなく複数の連鎖的な
いる。本計画はこの堤防沿いに
思考で住宅群を計画し生活の集
浮かぶ廃船をリノベーションする
積を図る。個々の連鎖、相乗は
ことによって、新たな活用方法を
生活シーンに直接、間接的に接
生み出し、人々が川と触れ合え
触し生まれる。住宅が自然を味
ることを目指した提案である。廃
方に取り組み、自然が個々の住
船に数々の機能を計画し挿入す
宅・インテリアをつなぐ。この大
ることで、それを利用する人々が
地はかって、美しい海であった瀬
自に川と触れ合えるよう計画さ
戸の内海という。海上の都・イン
れている。廃船の新たな再生方
テリアに風を流し住戸間に関係
法を提案し、さらには川という従
性を計る提案である。ゲニウス・
来人々が最も触れ合ってきた自
ロキに想いを馳せて、自然と人
然とのかかわりを、再構築する
間の美しい都市居住の型である。
提案として評価できる。
(垂井俊郎)
(小川晋一)
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支部入選
65
野津宏明
中村遼太
藤原彰子
支部入選
66
近畿大学
桂龍喜
村長沙希
山田文子
広島工業大学
C O N C E P T
C O N C E P T
現在の都市は、ヒートアイランド
コンセプトは都市に溶け込む“新
現象により外は暑く、建物の内
たな農業”である。ただそこに自
部だけが涼しく、快適な環境に
然があるのではなく、本来都市
なっている。これは周りの自然を、
の中という農業にはふさわしくな
建築でシャットアウトしている。
い場所を選定し、ここでのコミュ
自然の力を利用し、内外が快適
ニティーを通じて自然を感じると
になることで、自然環境を都市レ
いう提案である。この場所は人々
ベルで改善し、なおかつ人間が
にとって建築が混在する都市で
もつアクティビティを外へと向け
のオアシスのような場所となり、
ていく。
現在ボックスだらけの均質化さ
私たちは、都市に透明の膜を包
れた都市の表情を少しずつ変え
むことで、今ある自然と呼応する、
ていくことを期待する。
快適で新しい都市空間を提案す
る。
支 部 講 評
広島市街を流れる河川の余剰ス
支 部 講 評
ペースを有効利用して、農業ス
都市の抱える、ヒートアイランド
ペースを確保することによって、
やビル風問題に対処するために、
新しい都市風景をつくり出すとと
都市をスキンで覆い、快適な都
もに、そこで営まれる生活を通
市空間を回復しようとする試みで
じて新しい都市のコミュニケー
ある。場所は広島の中心市街地
ション空間と生み出そうとする提
でガラス繊維布を使用し、そこに
案である。この計画では農業を
人工の皮膚性、光の透過性、熱
通じて、河川の水の浄化を行う
交換などの機能を与えることに
だけでなく、子供達のための親
よって、自然の脅威から都市を保
水空間を計画することにより、
護しようとしている。フラードーム
大人も子供も楽しめる空間をつ
のように、構造と一体化した完
くり出し、そこで農業体験をする
全な人工環境をつくることも可
だけでなく、とれた農産物を料
能であるが、あえて、ガラス繊
理したり、販売したりすることで、
維布に様々な機能をもたせて、
その地域のコミュニケーションの
半人工環境をつくることも一つの
活性化をもくろんでいる。現在は、
方法であろう。台風や大雨などの
市の管理化にある河川公園を市
場合にどのような対処法をとる
民に開放してこのような空間をつ
かをきちんと考えていけば、今
くることは失われつつある都市
後の都市環境を考える上での一
内での人間関係を正常化するこ
つの方向性を与えるものであり、
とに役立つと思われる。
技術的な基盤をもとにさらに展
(松本静夫)
開してもらいたい。
(松本静夫)
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支部入選
67
豊後亜梨紗
森山晴香
中平祐子
支部入選
68
近畿大学大学院
小谷至己
青木史晃
近畿大学大学院
C O N C E P T
C O N C E P T
大きな木の森の中に、小さなガ
□□□□□□□□□□□□□□
ラスのイエが点在している。
□□□□□□□□□□□□□□
その下の土の中にある人びとの
□□□□□□□□□□□□□□
棲家。
□□□□□□□□□□□□□□
自然は季節、時間で変わってゆ
□□□□□□□□□□□□□□
く。
□□□□□□□□□□□□□□
自然が変わることでガラスのイエ
□□□□□□□□□□□□□□
の外観が変わる。
□□□□□□□□□□□□□□
外観が変わることでガラス内の
□□□□□□□□□□□□□□
人びとの生活も変わる。
□□□□□□□□□□□□□□
でも、土の中の生活は変わらず
□□□□□□□□□□□□□□
続いてゆく。
□□□□□□□□□□□□□□
森の中で移ろいゆく家と土の中
□□□□□□□□□□□□□□
の変わらない家。
□□□□□□□□□□□□□□
この二つの家が自然に呼応する
□□□□
建築である。
これが増えることで、大きな自
然に呼応する建築となってゆく。
支 部 講 評
この住宅は樹木と住まいの関係
を平面的な関係としてだけでな
支 部 講 評
く、立体的な関係として空間化す
森の中に想定された複数の住居
る提案である。自然としての樹木
群の提案である。地上には透明
は住宅の各室と立体的な組み合
な空間、地下には土の空間の組
わせによる 3 次元空間的な様々
み合わせであるこの提案は日本
な関係として、これまでの中庭に
の住宅の本質的な伝統である、
樹木がある中庭形式を進展させ
移ろいゆく自然のなかでの生活
ることで、樹木の上、横、斜め、
と、土着的な土とともにある生
下といった新たな立体的中庭住
活を新しい形式として成立させて
居形式とでもいった住宅の提案
いる。透明な地上階では現代的
となっている。立体中庭は視覚的
な感覚で日本家屋が過去にもっ
にも新鮮な自然としての樹木と
ていた住宅の周囲に広がる季節
の生活を可能とするであろう。幹、
による樹木や空の移り変わりの
枝、葉といった樹の部分とのか
中での生活が展開され、地下階
かわりをそれぞれの部屋の場所
では原始の住まいである縦穴式
でつくりあげるこのような空間性
の住居の中での生活を感じさせ
を住宅として提案することで、生
るような土とふれあう生活を可
活の中での樹木の自然との新た
能としている。日本人の生活の 2
な出会いともいえる提案となっ
つの原点である無常感と土着の
ていることを評価した。
静けさと不変性を、現代的な感
原稿後送
(岡河貢)
覚で提案したという点を評価した。
(岡河貢)
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支部入選
69
岡本幸大
延廣美由紀
上原諒也
支部入選
71
近畿大学
広島大学大学院
C O N C E P T
C O N C E P T
自然は常に、人が気づかなくて
本計画は地方都市における建物
もすぐそばに存在している。ビル
の余剰/余床空間の問題に対する
風や道路にできる雨による川な
提案である。対象敷地の愛媛県
どあるが、そんな自然現象は山
松山市は、空き店舗、空地の駐
や谷といった場所でも同じように
車場化など多くの問題を抱えて
ある。ならば、都市も山や谷と
いる。私たちはこの状況の解決
同じような自然でないかと考え
策として、適切な規模への縮小
た。ビルの高低差は山の起伏、
化と同時に、快適な環境を得て
道路は谷であり、2 つの境は崖
価値を高めることを目的とした
で あ る。人 が 古 来 より地 形 に
「建築的デフラグ」という考え方
沿って自然と共に生きていたよ
を提案する。これを基に対象敷
うに、ビルの屋上を新たな土地
地に存在する余剰/余床空間を把
として住まうことができるのでは
握し、都市環境に開かれた建物
ないか。
群として再構成する。
支 部 講 評
支 部 講 評
地形の上に都市がつくられ、自
大都市が過密化する一方、地方
然が失われてしまった。それなら、
都市の中心市街地空洞化は深刻
新たに生まれた屋上を大地と見
な局面に達している。従来のスク
たてて集落をつくろうという提案。
ラップアンドビルドを前提とする、
屋上を暮らしの場とすることで生
再開発制度に代わる「都市のデ
じる様々な可能性が探られてお
フラグ」…減築、コンバージョン
り、もし本当にそうなったら、ど
に基づく都市の再構築という発
んなに素晴らしい可能性が展開
想は社会経済面、環境面におい
するのかと思い描く、熱い心が
て地方都市を救う普遍的なテー
伝わってくる。しかし、具体的な
ゼとなりうるのではないだろうか。
提案が語られていないため、新
先人らが当時の価値感のもと、
しい制度の提案なのか、単なる
営々と築き上げた都市の様相を
屋上緑化の提案や、SF的な地中
「自然」ととらえれば、現代の価
都市や水中都市の物語りとどう
値感のもと、それに呼応する建
違うのか、よくわからなくなって
築を実現する手法として意義深
くる。部分的であっても、オリジ
い。
ナルな構想を語った方が、その
ただし、内外のデザインコント
延長上にある「夢」を皆が共有で
ロール、および既成概念上の「自
きるのではないかと思った。
(宮森洋一郎)
信楽佳孝
日野晃太朗
然」を意識し過ぎた、スケールア
ウトで過度の植栽計画には疑問
が残る。
(平山昌信)
106
107
2010年度版‐設計競技‐̲2010年度版‐設計競技 10/10/20 13:11 ページ 108
支部入選
72
入口佳勝
佐伯徹
蔵本恭之
支部入選
73
広島工業大学大学院
C O N C E P T
手島優
日本大学
C O N C E P T
「大きな自然」とは海や山といっ
女木島は、香川県高松市の中心
たものだけでなく、都市を含め
市街地からフェリーで 15 分ほど
た、そこでの環境ではないか。
のところに浮かぶ瀬戸内海の島。
私たちは、今治市という敷地に
特異な気象現象として「オトシ」と
おいて、その場所の海・山・川・
呼ばれる冬季の局地的強風を受
都市骨格がつくり出す「風」環境
ける。これを防ぐために民家のほ
を要素に、大きな自然と呼応す
とんどは、屋根の高さほどの
「オーテ」と呼ぶ石垣を築いた。
る街を提案する。
風は、そこに住む人々や観光客が
かつて、島民を悩ませた「オトシ」
五感で感じられるような小さな
また、生活をまもってきた「オオ
スケールへと具現化していき、そ
テ」
して、街中に小さな日常の風景
風土に対し、攻めのデザインを
が溢れ出し、少しずつこの場所
することで、住環境の向上が人を
を輝かせはじめます。
集め、自然と共に生きる暮らし
を体現する。
支 部 講 評
支 部 講 評
その場所に行かなければわから
ないが、今治の商店街には本当
高松市の沖合に浮かぶ女木島は
に気持ちのよい風が吹く。
鬼ヶ島伝説で知られる。冬には
そんな目に見えないチョットした
「オトシ」と呼ばれる北西の強い季
気持ちよさに着目し、その気持
節風が吹き、人々は「オトシ」への
ちよい浜風を手がかりに、シャッ
備えとして「オーテ」と呼ばれる高
ター商店街の空スペースの有効
さ 3~5m の石垣を築いてきた。
利用や活性化につなげている。
この作品は島の大きな自然であ
この地域特有の浜風の流れを、
人の流れに重ねるアイデアによっ
る「オトシ」と「オーテ」を活用し、
「オーテ栽培」や「オトシ落とし込
て、空洞化した商店街が抱える
み」などの新しいシステムを導入
全国共通の問題点を、明確な視
することで、過疎化・高齢化が進
点で解決しているところに好感が
む島に新しい暮らしの仕組み提
もてる。
案し、その姿を 2022 年春の 3
小さな自然が集まって、やがて大
日間のエコツアーという形で紹
きな自然が生まれることに期待
介している。
「オトシ落とし込み」の
したい。
実現性に首をかしげる部分が見
(三好鉄己)
られるが、着眼点の良さと構想
力、そして島への深い愛情がそれ
を補って余りある。女木島の未来
に希望を感じさせてくれる作品で
ある。
(喜多順三)
108
109
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支部入選
74
川島卓
深田佳樹
支部入選
75
高知工科大学大学院
C O N C E P T
西村智恵里
平野奈々子
慶応義塾大学
C O N C E P T
高知県の南西の海上に位置する
「浮く」
沖の島は、海で隔てられている
それは、人が生命を受けたとき
が故に急激な開発がなされてこ
の状態である。
なかった。そのため人の生活の営
人が初めて体験する空間は母体
みが自然と呼応した昔ながらの
で、そこでは自らの足で立つので
暮らしを現在も見ることができ
はなく、自然に身を任せた状態
る。計画の舞台となる母島集落
で浮かんでいる。
は急峻な斜面を造成し、寄り集
“浮わ浮わ”は、そのような状態を
まった住処としての魅力がある。
体感できる図書館だ。
しかし、少子高齢化や過疎化が
また、ここでは「水と空の境界」
深刻で、集落の存続に関わる厳
を感じることができる。
しい現実の直中にたたされてい
水だけ、空だけでは気づくこと
る。
ができない自然の相違を、水面
母島集落を魅力たらしめている
という境界面に自分を置くことに
要素に、山間に刻まれた谷川、
よって感じることができるように
幾重にも連なる段差、そして、寄
なっている。
り添いながら地形に呼応する住
戸群がある。これらの島のポテン
シャルを生かし活用していくこと
で、集落の未来への可能性を模
索する。
支 部 講 評
浮かぶ球体のアイデアとプレゼン
テーションの評価が高かった作
品である。胎内と球体のアナロ
ジーは特に珍しいものではない
支 部 講 評
かもしれないが、建築として具
日本各地に点在する集落の原風
体的な提案にもちこんだところ
景は、今では退廃化し、高齢者
が評価できると考える。さまざま
は乳母車を押しながら生活する
なサイズの球体が浮かんでいる
様を想像できる。
デザインがよくできている。しか
この提案は、同じ環境で深刻な
し、全体としては海の中である
少子高齢化と過疎化による人口
にもかかわらず、矩形の外観に
減少により、集落の中で使用し
なっている点が疑問視された。矩
なくなった家屋・空き地・畑など
形である根拠を明確に提示する
が時間の経過とともに朽ち果て
か、他の形態が検討されてもよ
ていく場に焦点を当て、余剰空
かったのではないかと考える。
間を再活用する場へと変貌させ、
(赤川貴雄)
人々のコミュニケーションのス
ペースを提案している。
高齢化社会に配慮したユニバー
サルな提案が無いのが残念であ
るが、過疎化から発生する余剰
空間の再活性化は重要な課題で、
集落が元気になる取り組みをす
る姿勢に共感した。
(佐藤昌平)
110
111
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支部入選
77
津田晃平
川口彩希
福永将之*
支部入選
78
熊本大学大学院 熊本大学*
田中恭子
吉岡慶太
峰沙由梨*
佐賀大学大学院 佐賀大学*
C O N C E P T
C O N C E P T
□□□□□□□□□□□□□□
自然の成長にも時間が必要なよ
□□□□□□□□□□□□□□
うに、人間にも順応する時間が
□□□□□□□□□□□□□□
必要なのではないか。
□□□□□□□□□□□□□□
そこで、木が育つ時間とプロセ
□□□□□□□□□□□□□□
スにより、人と建築が自然と共
□□□□□□□□□□□□□□
生する術を取り戻していく。自然
□□□□□□□□□□□□□□
を個人単位で感じ、考え、適応
□□□□□□□□□□□□□□
する。また自然が発する恵みを
□□□□□□□□□□□□□□
受けるだけでなく、人間が自然
□□□□□□□□□□□□□□
にできることをする。そうしてつ
□□□□□□□□□□□□□□
くられ続ける建築は「自然に呼応
□□□□□□□□□□□□□□
する」ものとなっていく。
□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□
□□□□
支 部 講 評
植林にあわせて、建築、やがて
支 部 講 評
描かれたイメージが美しくとても
魅力的に見える。まち中のアー
ケ−ド の 風 景 で あ る。通 常 は 、
原稿後送
はまちをつくっていく。単純な発
想であるが、地球温暖化で森林
伐採に警鐘がならされている現
代社会において、スローな生活
の提案で好感はもてる。ただ、
アーケードがあるところと、ない
突き詰めて考えると、植林して森
ところを比較的差がないような
になるまでにはとてつもない時
状態でつくろうとしていると思う
間を要するわけで、それが人間
が、ここでの提案は、全く別の
の一生と重ねあわせると、あま
内部空間にすることで、光など
りにも気の長い話なので、その
を印象的にみせている。ただ、
ルール付けというか明確な目標、
光がささない時のアーケードのイ
ポリシーがないと持続可能には
メージが陰鬱とした暗いトンネル
ならないだろう。これからはその
になってしまわないのか、懸念
ような長いタームでの提案が必要
される。そういえば、アーケード
なことも事実である。それだから
は大体、熱環境のことや、風の
こそ、そのあたりが見えていない
強い日などを想定に入れて、屋
ことが問題である。少し自然発
根が開くのだが、そこまで言及し
生的に、流れるままのような、
た仕掛けやアイデアがあると、リ
自然に頼りすぎてはいないか。
アリティがでるのだが、あるポイ
(末廣宣子)
ントの提案で終わっているのが
惜しい。
(末廣宣子)
112
113
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支部入選
80
菊地晃平
池末聡
渡邉弘崇
支部入選
82
大阪工業大学大学院 大阪工業大学*
山口大学大学院
C O N C E P T
C O N C E P T
原生的な自然の断片として、古く
盆地で発生する「盆地霧」
。盆地
から生き続ける巨木。現在、巨
に形成された街では、
「霧」とい
木は「保存樹」として保護の指定
う自然現象をネガティブと捉えが
を受けている。しかし、その一方
ちである。そこで、
「霧」という自
でみられる、道路拡張や建物建
然現象をポジティブに捉え、建築
設のための巨木の伐採や過度の
に生かすことで、
「盆地霧」が発生
剪定。巨木を守るのは本当に法
する場所ならではの建築のあり
律なのだろうか。樹の魅力を感じ、
かたを考えられるのではないか。
樹の存在を意識する、そんな空
そうすることで、霧と呼応した建
間を樹と共に生み出す建築を提
築が、新たな魅力を生み出すと
案する。空間の魅力は法律より
考える。本案では、大分県湯布
もなによりも、私たちの心に樹
院町の温泉街に「霧」が発生する
の存在を訴えかける。守りたい存
場所の特性を生かした建築を提
在として。
案する。
支 部 講 評
支 部 講 評
神社や社寺の敷地内の林に存在
霧をポジティブに最大限美しく、
する大きな樹木。都市の中にも
特性を活かそうという提案であ
たくさんある。それらを中心にラ
る。霧という少し幻想的なファン
ンドスケープを再構成させるとい
タジー色が強いものを扱い、う
う提案だ。樹木の周りの地面か
まくその世界の中で話をまとめて
ら続いて隆起したような壁のよ
いる。変に建築自体に人の生活
うなもの、その樹木のそばに明
感をもたせず、リアリティを追求
らかに樹木と対峙した空間をつ
していない、しかし、ただの夢
くっている。それだけではなく、
物語で終わらないように、敷地
それらが連続していくことで、都
の設定、風景のスタディ、建築の
市の中に樹木が主役になったよ
アイデアなどがもりこまれている。
うな新たなランドスケープが現れ
そのバランスがよいと思う。プレ
る。単体ではポケットパークのよ
ゼンテーションも含めて統一感が
うであり、連続して大きな都市
ある。設計趣旨概要の文章がそ
公園のようにも見える。ほんの
のファンタジーから大きくはずれ
小さな操作が何か大きなものを
てしまったうえ、何をしたかった
構成できる、ようなそんな可能
のかが何もいえていないのが、
性を感じる。
大きなマイナスである。
(末廣宣子)
114
市橋克明
榑林大輝*
(末廣宣子)
115
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支部入選
83
東佑二郎
若松俊輝
王子田千明
支部入選
84
鹿児島大学大学院
Lobjoy Baptiste
九州大学 留学生
C O N C E P T
C O N C E P T
便利なもので囲まれることによ
□□□□□□□□□□□□□□
り自然の振る舞いを遮断しフラッ
□□□□□□□□□□□□□□
トな生活を送る現代人が、かつ
□□□□□□□□□□□□□□
ての時間感覚を呼び覚ますため
□□□□□□□□□□□□□□
に、ガソリン/給電スタンドを光
□□□□□□□□□□□□□□
や風・音などの自然のリズムを感
□□□□□□□□□□□□□□
じられる装置とすることで、人々
□□□□□□□□□□□□□□
は時々、給電待ちの時間に時間
未入校
□□□□□□□□□□□□□□
感覚をリセットする。個人の小さ
□□□□□□□□□□□□□□
な「リセット」が増殖し、その時間
□□□□□□□□□□□□□□
感覚が日本全体の常識[stan‑
□□□□□□□□□□□□□□
に変わること、それが私た
dard]
□□□□□□□□□□□□□□
ちの考える「大きな自然」である。
□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□
□□□□
支 部 講 評
ガソリンスタンドという現代的な
支 部 講 評
機能的空間を、近代的時間感覚
をリセットする装置へと置換する
アイスランドの火山噴火をテーマ
という主題には共感できる。また、
にした提案である。時事ネタをう
来るべき次世代エネルギー時代
まく脚色していくプロセスとプレ
への警鐘というメッセージ性も感
ゼンテーションは達者である。火
じとれる。ガソリンスタンドとい
山灰の堆積でカタコンベのよう
う日常の風景が反転することは
な地下都市をつくるというよりも、
おおいに予測されるが、一方で
むしろ建材としての仕様可能性と
命題である自然との関係(ある
いったもっと建築的なサステイナ
いは対峙)の構築が希薄である。
(田上健一)
ビリティに踏み込めば、さらに魅
力的な作品となったであろう。
(田上健一)
116
117
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支部入選
85
野見山周作
野崎尊
和田大典
花原裕美子
支部入選
88
鹿児島大学大学院
C O N C E P T
大木啓義
足立真一
長谷川尚人
九州大学大学院
C O N C E P T
大きな自然に呼応する建築:F=
「天気」は、テクノロジーが発達し
(
f x)
=ax(t)a:建築物、x:太
た現代においても制御すること
陽、t:時間、F:影
ができない「自然」である。その
定数である建築物を介して、解
天気の痕跡を、都市景観の中に
である影でつくられる空間を提
写し取っていく。既存のオフィス
案する。その空間は、太陽高度
ビルの外壁に透明なスクリーン
や時間で形や位置が変化する。
を配し、その隙間にビルに降っ
影を考慮することで、夏に多くの
た雨水を貯めていく。無機質だっ
影空間を生み出し、冬に光あふ
たビルの外観は水にゆらめき、
れる道をつくり出す。
内部空間にもその変化が映し出
そこでは、多くの人々が思い思い
される。このシステムによって、
の行動をとり、場所を共有する。
都市はその時間~その場所~そ
一日一時姿を変える影でつくら
の季節だけの、建築・都市環境
れた空間は、人の行動や人と人
をつくり出していく。
との距離をも変化させる。
支 部 講 評
支 部 講 評
天候(雨水量)によって、建築の
熱帯・亜熱帯地域では、光より
エンベロープを変化させようとす
も影が欲しい。そんな身体・皮膚
る提案。水瓶あるいは水槽のよ
感覚から建築の形態そのものを
うなファサードに雨水が貯留し、
操作し、屋外空間を再構築しよ
その水位を直接的に可視化し都
うとする戦略は妥当だったので
市の環境や人々の感性に訴えよう
はないか。しかし、そのためには
とした戦略は詩的で美しい。しか
さらに綿密なシミュレーションが
しながら、水位や断熱効果(提
必要なはずである。日影の仕組
案図面に記載あり)などの観点か
みやその仕組みがユニバーサル
らは、冗長すぎるといわざるを
に展開できうるようなものにな
得ない。中層ビル群を想定して
ると、さらに説得力を増す可能
いるようだが、プレゼンテーショ
性がある。感覚的な操作に留
ンととも に、場 所 性 にもか か
まった印象が少々残念である。
わって欲しかった。
(田上健一)
118
(田上健一)
119
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支部入選
89
播磨信二朗 酒見浩平
石神絵里奈 李雨軒
上野秀之
支部入選
90
九州大学大学院
C O N C E P T
大川厚志
中原千尋
野畑拓臣
長谷川伸
九州大学大学院
C O N C E P T
我々は都市化が招いた「都市気
諫早湾では、干拓事業により日
候」を新たな「自然」と捉え、そ
本最大の干潟が消滅した。その
の新たな自然を受け入れ、楽し
後有明海全体で漁業不振が発生
む建築を提案する。
し、近年堤防開門への動きが本
まず、都市に計画的に配置され
格化している。しかし干潟の生物
た都市公園を地表から剥がし、
による浄化作用を失った有明海
浮かせる。浮いた公園と地中の
の再生には、何らかの支援が必
間の大きなすき間は、突発的で
要である。そこで有明海の伝統漁
短時間のゲリラ豪雨から市民を
法に用いられていた「すくい」と
守る雨宿りの場となり、時に都
呼ばれる馬蹄形の石積み漁場を
市を飲み込む集中豪雨から都市
利用しようと考えた。すくい内部
を守る貯水池となる。
に人工干潟を造成して、開門後
浮いた公園から大きなすき間に
の 自 然 環 境 の 再 生 を 促 進し、
もれ出る雨と光は多様な空間を
人々の憩いの場となる建築を提
つくる。
案する。
晴れの日には光のヴォリューム、
雨の日には雨のヴォリューム、雨
が止んだ後には雨のカーテンが
降り注ぐ。浮いた公園は、都市
が生み出した新たな自然に呼応
し、天気、雨量、時間によって
変化する新たな空間と風景をも
たらす。
支 部 講 評
Drop Park と称する都市の小公
園に大木を移植する提案。建築
的な提案ではないが、小公園の
分布や立地の分析は興味深い。
畏敬・畏怖・あるいは精神的な
よりどころとして、あるいは都市
景観形成の観点からも意義深い
支 部 講 評
であろう。ただし、大木(ご神
都市化によって生まれた都市公
木?)は地域や信仰により培われ
園を、地表面から切り離して空
たものであり、木をどう育てるか
中庭園化することにより、都市気
という説明も含めて、唐突な印
候と都市住民との新たな関係を
象を与えるのが残念であった。
つくる場として再構築しようとう
(田上健一)
する提案。地層はもっと複雑で、
生命体をも涵養するべきもので
あろう。水と光はその根源なが
ら、場も本質ももっと多様なも
のであるということに言及できれ
ば、文明批評も含めたメッセー
ジ性の強い作品となるであろう。
(田上 健一)
120
121
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支部入選
91
森豊
永瀬秀格
森稔
森田翔
支部入選
92
九州大学大学院
C O N C E P T
武智大祐
熊本大学大学院
C O N C E P T
木、土、水、砂、緑など私たち
の身の回りには自然があふれて
「100m 上昇すると 1℃下がる」
という法則。地球上を覆う大気は、
いる。しかし、日常生活でそれを
世界中の人々が共有している。こ
実感する場面はほとんどない。
れを利用し現代の農業と都市構
そこで、自然環境の恩恵をより享
造を再編成する。
受できる新たなライフスタイルと
現代はより良い「環境」を建造物
して『ハダシ生活』を提案する。
で作ろうとしている。
「環境を作
人々はハダシで生活することによ
る」のではなく、
「環境を得る」た
り、足の裏で直接自然に触れ、
めに造られる建築。山地の標高
その大きさを実感する。
を利用して地を這って延び、また、
さあ、靴を脱ぎ捨ててハダシ生
超超高層建築のように上へ上へ
活をはじめよう!!
伸びていく。高さに応じた生態
系が地球上のあらゆるところに
広がっていく。
支 部 講 評
「ハダシ生活」という新しいライフ
支 部 講 評
スタイルの提案には、日常生活
の中で自然の大切さを肌で感じ
超超高層建築の技術を用いて新
る機会を増やして、まちやオフィ
たな農業の「環境を得る」という
スなどの人工環境を変えていこ
提案。田園風景のイメージを一部
うとする意図が込められている。
に漂わせつつ、山地の標高を利
足で触れる自然素材が設備を代
用して地を這って延びる建築とを
替しそして人が健康になるという
合わせて提案していることが作
プロセスが具体的に示されてい
品の印象を高めている。
「生産・
たら、もっと説得力を強くしてい
収穫・加工・販売・流通のシステ
たと思われる。ハダシの効果や
ムを内包するハイブリッド農業」
ファッションの提案に紙面を割く
は、近い将来の実現を社会が望
よりも、まちや建築環境への具
んでいるテーマである。ただし農
体的提案に重点を置いてほし
業は自然との関係が深いことか
かった。特に、示された床材の
ら、その関係をとりもつ環境につ
それぞれが大名地区の特性とど
いて生態系を含めて創出するプ
のように関係するのか、建築空
ログラムが周到に用意される必
間にはどのような変化をもたら
要があるだろう。
「温度環境、光
すのか、などについてデザイン検
環境の設備は不要」と言い切れる
討されるとよかった。冬はどうな
説得力を強めるとともに、立地
のかなど忘れさせそうな、ほの
する地域の気候風土とどのよう
ぼのとしたユニークな作品であ
に調和できるのか、超超高層自
る。
体の環境負荷についても言及で
(徳永哲)
きると、提案がより充実する。
(徳永哲)
122
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支部入選
94
竹井大将
池邉悟
黒川昭治郎
支部入選
95
熊本大学大学院
北九州市立大学大学院
C O N C E P T
C O N C E P T
熊本の地下水は、阿蘇の自然と
間伐材により徐々に肥大化する
農耕の営みが絶妙に組み合わさ
無国籍の島を東アジアの海に浮
り生成されている。しかし、涵養
かべる提案である。ブロック経済
地の減少など地下水位は年々減
化が進行する中で、東アジア共
少しており、人と自然とのバラン
同体の構想は極めて消極的であ
スが崩れつつある。そこで、地層
る。
を地上に隆起させ、涵養・居住
要因は東アジアが民族、宗教、
という機能をもたせ、立体的に
文化等が多様な地域であり、価
派生していく都市部の居住と植
値観の相違によるものである。
生の在り方を提案する。自然に
そこで、渡航する船舶の為の給
対する応答が生成する建築は、
油システムを浮かべ、間伐材の
大きな自然のシステムの中で役
伐採周期に合わせて徐々に足場
割を果たし、人が生活するため
を拡張させていく。肥大化した島
の活動を演出する。
山田健太朗
永尾彩
梅野芳
濱本拓磨
は大海を浮遊することで多様な
民族、宗教、文化を巻き込む。
支 部 講 評
支 部 講 評
通常私たちの足元にある地層を、
立体的に隆起させることで大地
間伐材を集めて無国籍の島をつ
との新しい関係性が生まれる提
くり出そうという提案であり、大
案である。非常にシンプルなアイ
変美しいプレゼンテーションで
デアではあるが、人びとが自然
ある。東アジア共同体の拠点とし
を手入れするというアクティビ
ての「多様な価値観をも包括する
ティが建築とのインタラクティブ
大きな器のような場所」を提案し
な関係性を生み出すという新し
ており、そのためにはどこの場
い関係性の提案もさることなが
所でもない海に浮遊させるとい
ら、それが見たことの無い新た
うストーリーも納得できる。間伐
な塊感の都市のランドマークとし
材を積層させて空間をつくり出し
て存在している姿は眺めてみた
ていくというイメージは美しいが、
いと思わせる説得力があった。そ
既存の都市と切り離された地と
うした新しい地層にはスパイラル
いうこともあってややインスタ
状の階段が立体的に絡まること
レーション的な印象をもった。さ
で様々な眺望のある場が生まれ
らにこのような場がどのように
ているが、そうした場と都市の関
都市と接続し、広がりをもってい
係はどうなるのだろうか、あるい
くのか、都市的広がりの中での
はこの建築群がどのような関係
さらなる展開が期待される。
をもって都市に屹立するのか、さ
(平瀬有人)
らに提案を進めるとより魅力的
な都市建築像を描くことができ
たのではないだろうか。
(平瀬有人)
124
125
2010年度版‐設計競技‐̲2010年度版‐設計競技 10/10/20 13:12 ページ 126
支部入選
96
渕上貴代
江崎舞
長郷まどか
九州大学大学院
2010年度 支部共通事業 日本建築学会設計競技
応募要項
大きな自然に
呼応する建築
[課題]
〈主催〉日本建築学会
C O N C E P T
一定の周期で地震を発生させる
活断層。
福岡では、警固断層による地震
が危惧されている。
しかし活断層上には、それを無
視するかのように都市が広がって
いる。
そこで、被害が大きいとされる
エリアに水路をつくり建物をフ
ロートさせ、“フローティングシ
ティ”をつくる。
水の浮力により免震が可能とな
る。
水路は人々に近い親水空間とな
り、福岡に新しい風景を創出す
る。
活断層というネガティブな土地は
新たな都市の資源となる。
支 部 講 評
地震時に断層のズレによる被害
が大きいと予想されるエリアに
水路をつくり、その上に建物を浮
遊させた「フローティングシティ」
の提案である。活断層という通
常ならマイナスに感じられる空間
を水路に変換することで免震の
効果をもつ親水空間を生み出す
とともに貯水槽や緊急時の水源
になるなど新しい価値を生み出
しており、興味深い試みである。
大変美しいドローイングによる
全体の光景と住居・公共施設・
オフィス・農地を提案しており、
行ってみたいと思わせる説得力
があった。また、提案の背後に
は活断層という土地固有の性格
と関係なく経済論理によって広が
る都市に対する批判があり、秀
逸な提案だと感じられた。
(平瀬有人)
〈後援〉日本建築家協会
日本建築士会連合会
日本建築士事務所協会連合会
建築業協会
A.課題
大きな自然に呼応する建築
B.条件
実在の場所(計画対象)を設定してくださ
い。
例えば、関東支部所属の応募者が、東北支
部所轄地域内に場所を設定した場合は東北
支部へ提出してください。ただし、海外に
場所を設定した場合は、応募者が所属する
支部へ提出してください。
(5)各支部事務局 所在地一覧
〈主旨〉
北海道支部
(北海道)
C.要求図面
古来、我が国では自然を大切にし、自然と
〒060‑0004 札幌市中央区北 4 条西 3 丁目 1
共生する生活が継承されてきた。衣服、食物、 (1)現状や計画条件を図や写真等を用いてわ
北海道建設会館 6 階
TEL.O11‑219‑0702
住まいのすべてにおいて私達は自然の力の偉大
かるようにしてください。
さを認識し、自然を崇め、感謝しつつ、自然物
東北支部
(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)
や自然現象を巧みにコントロールし、デザイン (2)設計主旨、配置図、平面図、断面図、立
〒980‑0011 仙台市青葉区上杉 1 丁目 5 番地 15 号
面図、透視図、模型写真等を自由に組み合
して文化にまで高めてきた。例えば、農業のよ
日本生命仙台匂当台南ビル 4 階
わせ、わかりやすく表現してください(縮
TEL.022‑265‑3404
うな人間の最も基本的な営みに、人間と自然
尺明記のこと)
。
との美しくかつ総括的な関係を見ることができ
関東支部
なお、設計主旨の概要を 600 字以内の文章
(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨)
る。
〒108‑8414 港区芝 5 丁目 26 番 20 号
でまとめ、10
ポイント以上の文字で図面中
しかし近代以降、人口の急激な都市集中に
TEL.03‑3456‑2050
に記入してください。また別途、A4 判用
伴って、大農の建築が生産され、自然は破壊さ
東海支部
紙 1 枚(縦使い)で提出してください。
れ続け、人々は自然との調和のとれた関係を
(静岡、岐阜、愛知、三重)
ただし、模型、ビデオ等は受け付けません。
〒460‑0008 名古屋市中区栄 4 丁目 3 番 26 号
失ってしまった。人々は高層化された建築のな
昭和ビル 5 階
かで、極度にコントロールされた人工環境での (3)用紙は A1 サイズ 2 枚(594×841mm、
TEL.052‑243‑6244
均質な生活を余儀なくされている。人々は終日
サイズ厳守、変形不可、2 枚つなぎ合わせ
北陸支部
モニターやモバイルフォンと向かい合い、自ら
(新潟、富山、石川、福井、長野)
ることは不可)とし、裏面に図面番号を付
〒920‑0863 金沢市玉川町 15 丁目 1 番地
の表情まで均質化しつつある。
けてください。仕上げは自由としますが、
パークサイドビル 3 階
また、都市の過密化がもたらした地球規模で
図面に写真等貼り付ける場合は剥落しない
TEL.076‑220‑5566
の環境汚染にいかに対処するのかが、21 世紀
ように注意してください。なお、パネル、 近畿支部
の重要なテーマとなった。C02 削減や、エコロ
(滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)
ボード類は使用しないでください。
〒550‑0004 大阪市西区靭本町 1 丁目 8 番 4 号
ジカルな、あるいはサステイナブルな環境を求
大阪科学技術センター内
D.その他注意事項
めるアピールが日々新聞や TV で大きく報道さ
TEL.06‑6443‑0538
れている。
(1)図面および設計主旨の概要文用紙には、 中国支部
だがいまのところこの問題に応える提案のほ
(鳥取、島根、岡山、広島、山口)
応募者の氏名・所属などがわかるようなも
〒730‑0052 広島市中区千田町 3‑7‑47 とんどは、技術的なものに限られている。屋上
のを記入してはいけません。
広島県情報プラザ 5 階広島県建築士会内
緑化や壁面緑化の試みも進化しつつあるし、
TEL.082‑243‑6605
(2)
応募作品は、ほかの設計競技等と二重応
ソーラーバッテリーの性能の向上も著しい。し
四国支部
募になる作品、あるいはすでに発表された
かしこのような技術をいかに現在の建築に採用
(徳島、香川、愛媛、高知)
作品は応募できません。
〒782‑8502 高知県香美市土佐山田町宮ノロ 185
しても、単体としての建築の性能アップに止
高知工科大学連携研究センター 201 号室
まっている。
(3)応募作品は、本人の作品でオリジナルな
TEL.0887‑53‑4858
いま私達に求められるのは、もう一度自然を
作品であることを要求します。
九州支部
感じ、自然に呼応する建築のあり方を根底から
(福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、大分、鹿児島、沖縄)
E.
応募資格
〒812‑0013 福岡市博多区博多駅東3丁目l4番18号
再考することである。かつてのように身体全体
福岡建設会館 6 階
本会個人会員とします。
で自然を受けとめ、自然と接し、自然との関係
TEL.O92‑418‑1611
をつくり上げることの可能な建築を発見するこ
F.提出方法
G.審査方法
とである。
・主旨概要
しかしこれは、決してかつての生活への逆戻 (1)所定の応募申込書(コピー可)
文用紙(A4 サイズ)を入れた封筒と図面 (1)支部審査
りを意味するものではない。現在の人口密度を
各支部に集まった応募作品を支部ごとに審査
を一括して提出してください。
保ちつつ、現在の経済活動を維持しつつ、すな
し、応募数が 15 点以下は応募数の 1/3 程
なお、受領通知が必要な方は、受領通知返
わち現実の社会を前提にしたうえで、自然との
度、16~20 点は 5 点を支部入選とします。
信ハガキ(官製ハガキに代表者の住所・氏
関係を再構成しうる建築の提案を求めることで
また、応募数が
20 点を超える分は、5 点
名記入のこと)を同封してください。
ある。
の支部入選作品に支部審査委員の判断によ
大きな自然とは決して大自然のことではない。 (2)応募作品は 1 案ごとに別々に提出してくだ
り、応募数 5 点ごと(端数は切り上げ)に
いかに人口の密集した大都市の個々の生活か
さい。
対し 1 点を加えた点数を上限として支部入選
らの提案であったとしても、それが地球全体に
とします。
(3)締切期日:2010 年 7 月 9 日(金)
まで拡張可能な普遍性を持ち得るならば、その
必着(17:00 まで)
(2)全国審査(公開)
提案は「大きな自然に呼応する」と言えるのでは
ないだろうか。
(審査委員長:伊東豊雄)
126
〈応募規程〉
(4)提出先:計画対象の所在地を所轄する本
会各支部の事務局とします。
支部入選作品をさらに本部に集め全国審査
を行い、H 項の全国入選作品を選出します。
127
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